安易な手法を選ぶニューロ・エコノミクス

ニューロ・エコノミクス(神経経済学)とは、脳科学の手法を用いて、人間の経済的な意思決定のメカニズムを科学的に分析する新しい学問です。同じ人間が合理的な経済的判断をする一方で、非合理な行動をすることはよく知られています。例えば、冷静に考えれば受け取った方が得なプレゼントであっても、感情を害するような事を言われたら拒絶してしまいます。ダイエットしようと決めることは合理的な決断なのに、おやつが目の前にあると食べてしまいます。こうしたごくありふれた人間行動の矛盾は、それぞれの判断で脳が活動する領域が異なっているために引き起こされている可能性が高いことが、最近のニューロ・エコノミクスの研究で明らかにされてきました。

テレビの番組で納豆が体重を減らすのに効果があると言う番組でデータがねつ造されていたことが分かり大きな問題となりました。しかし、これはねつ造した当事者の話では数値をねつ造して減量効果あることを数値で示せば視聴率が上がるから熱心さのあまりやり過ぎたと告白しました。しかし、科学的に考えれば人間のエネルギー源摂取を減らすか、エネルギー消費を増やすかをしないで体重を減らす方法を信じたいと言う視聴者が多くいる事にも問題があるでしょう。科学的に考えれば人間の摂取したり、消費したりするエネルギー量を変えないで体重を減らす事は大変不自然な話です。納豆で体重が減ると言う事が馬鹿げた事だと皆が判断できれば本来なら視聴率が下がるはずです。しかし、そのような安易な方法を望む人がいる限り、ねつ造番組やねつ造記事を根絶することは不可能だと思います。

人を含む動物は、食べ物やお金などの「報酬」に基づいて、ある行動を選択したり学習したりします。脳内神経修飾物質であるドーパミンが、「報酬」に深く関わることがこれまでの研究から明らかになっています。特に1990年代からfMRIの技術が発展し、私たちの脳のどの場所が、どのように報酬を捉え、そしてどのように行動選択に用いているかという仕組みを調べる研究が始まりました。

このような人を対象とした実験で「経済的意思決定」における脳内メカニズムを調べることができます。ニューロ・エコノミクスの代表的なものは時間割引率があります。報酬の「価値」は時間とともに減衰する、というのが「異時点間選択」の基本的な考えです。つまり選択の時点において、遠い将来にある報酬ほど、目の前にある報酬よりもその価値は小さくなります。したがって異なる時間的な遅れをもつ、異なる値の報酬の選択行動は、この理論モデルによって説明されます。将来の報酬の価値は時間の経過と共に減衰していきます。この場合に時間が掛かる程将来の報酬の価値が減衰しますので、その結果目先の楽な方法を選ぶという「衝動的」選択になります。

英語学習の場合にはどのような方法を選んでも大変な時間と努力が掛かります。英語を話せるとか、英語をモノにするとかを言えるレベルに達するにはかなりの努力、言い換えれば年月が掛かります。このように非常に長い先の報酬を獲得する場合には「衝動的」選択をする傾向にありますので、どのような学習方法を選ぶかは慎重にする必要があります。事実、次から次に新しくでてくる英語本は衝動的な選択を望んでいる学習者の弱みを巧みに掴んでいるのかも知れません。

例えば明日の1万円と、1ヶ月後に1万1千円の報酬がある場合、たいていの人は少なくてもすぐに得られる明日の1万円を選びます。しかし、明日11万円と、1年後に15万円がある場合、ほぼ全員が1年後の大きい報酬を選びます。このように、人間はしばしば理論モデルに反した選択を行います。もし人間が常により得する事を選んでいるのであれば常に1ヶ月後に1万1千円の報酬を選ぶはずです。脳には理論的な選択を行うシステムと、理論的でない選択を行うシステムが存在していると考えられるのです。

McClure氏の仮説は、脳には異なる割合で時間割引を計算している場所があるというものです。具体的には、情動的な機能に関わる辺縁系がより非理論的である衝動的な選択を行い、認知的な機能に関わるとされる前頭前野がより理論的である自制心のある選択をしているというものです。

この仮説に従うと、衝動的な選択に関わる場所は、「今日または近い将来」を選択肢に含む選択において、「今日または近い将来」を含まない選択よりも強く活動すると予測されます。それに対して、自制心のある選択に関わる場所は、遠い将来に得られる報酬の価値が減衰しないため、すべての選択においてほぼ等しく活動することが予測されます。

この仮説を証明するために、今日、2週間後、1ヵ月後という異なる時間遅れで得られる、異なる値の報酬2つを被験者に選択させ、そのときの脳活動を調べました。その結果、すぐに得られる選択肢を含む選択では、腹側線条体、内側前頭葉眼窩面皮質、内側前頭前野、帯状回後部などの、辺縁系が活動しました。つまりこれらは、非論理的な衝動的選択に関わる場所であるといえます。また、すべての選択では、背外側前頭前野や背側前頭葉眼窩面皮質などの認知的機能に関わる部位が活動しました。つまりこれらは、自制心のある論理的な選択に関わる場所であるといえます。

このように考えると、英語教材や英語学校の宣伝文句には「30音で発音ができる」とか、「発音できれば聞き取れる」とか、「5の文型で話せる」とか、「中学校教科書で話せる」とか、「聞いているだけで話せるようになる」とか、「3ヶ月で話せる」とか非常に短い時間で、簡単に英語がモノになるような文言が並びますが、ニューロ・エコノミクスの「異時点間選択」の原理を使った巧みな売り込み文句だと言えるかもしれません。

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