脳とニューラル・ネットワーク

近年の情報技術の発達に伴い、コンピュータを利用した知識情報処理が注目されています。知識情報処理とは、人間の知識をコンピュータ上に実現し、コンピュータの有効性を向上させる技術です。知識情報処理は、最近注目を集めている知的ロボットや、家電製品やエレベータなどの制御、言葉の構文解析などの様々な分野で利用されています。しかし、知識情報処理には、遺伝的アルゴリズム以外にも多数の手法が存在します。その中でも、パターン認識や様々な予測、制御などに利用されているニューラルネットワークが最近注目されています。

ニーラルネットワークとは、人間の脳の神経細胞をプログラム上でモデル化した手法です。具体的には、他の計算手法のように 1 つづつ順番に処理するのではなく、人間のように多数の神経細胞の集団を組織します。そのため、入力された情報を分散化して記憶し、複数の情報を並列処理します。また、ニューラルネットワークには、学習という概念があるため、様々な環境に適応させることができます。今日、ニューラルネットワークは、株価予測や天気予測などの予測、音声や画像などのパターン認識、家電製品やロボットなどの制御といった様々な用途で利用されています。

ニューロンとは
ニューロンとは、神経細胞のことです。人間の脳には、約 100 億のニューロンが存在します。また、それぞれのニューロンが約 1 万のニューロンに繋がっています。ニューラルネットワークでは、この繋がりをネットワークモデルで表現します。また、ニューロンは、複数の入力端子がありますが、出力端子は 1 つしかありません。

ユニットの状態の決定には、入力の結合荷重を用いてパラメータを算出する必要があります。ニューラルネットワークでは、このパラメータが閾値以上になることを発火と言います。

1.パターン情報処理
ニューラルネットワークには、様々な特徴があります。ニューラルネットワークは、雑音を含んだ入力情報から有意なパターン情報を抽出、認識、分類することに優れています。例えば、ニューラルネットワークを用いて文字 "A" をパターン認識する場合は、様々な形状の "A" を学習させます。この場合、様々な形状の "A" というデータから共通の特徴を抽出、認識、分類することで、新しい入力に対して "A" かどうかを判断します。

2.適応性

ニューラルネットワークの特徴の一つに、学習を行うことが挙げられます。それに伴い、遭遇した事例を学習し、様々な環境に適応していきます。そのため、ニューラルネットワークは、遺伝的アルゴリズムと同様に、様々な環境に絶え間なく連続的に適応させていくことにより、精度を向上させることができます。

3.並列分散的
ニューラルネットワークは、一般的な計算手法とは異なり、並列的に情報を連続して処理する手法です。例えば、複数のコンピュータを接続すれば並列な手法に改良できますが、膨大なコストと処理時間が必要になります。しかし、ニューラルネットワークは、多数のニューロンが並列に繋がっているため、人間の脳のように並列分散的に処理できます。

4. 故障許容性 (ロバスト性)
ニューラルネットワークは、あるニューロンが壊れても処理を継続して行うことができます。なぜならば、情報が 1 つの場所だけに格納されるのではなく、ネットワーク全体に分散的に分配されているためです。そのため、ニューラルネットワークの故障許容性は、原子力発電所や誘導システムなどの失敗が致命的な災害を起こす場合に有効です。

5.ニューラルネットワークの欠点
ニューラルネットワークは、上記のような様々な長所を持っていますが、苦手な課題もあります。その課題を次に示します。

大規模な対象に対する精密な計画・設計や制御
深い再帰を必要とする記号処理

これらの課題に対しては、線形理論を中心に展開されてきた数理計画法や制御理論などが有効です。あらゆる課題に適応できる万能な手法は存在しないため、それぞれの手法の長所を組み合わせることが重要になってきます。

ネットワークモデル
ニューラルネットワークでは、ニューロンの繋がりのことをネットワークと言います。このネットワークには、大きく分けると階層結合型ニューラルネットワークと相互結合型ニューラルネットワークの二種類があります。

1. 階層結合型ニューラルネットワーク
階層結合型ニューラルネットワークとは、入力から出力までのニューロンがすべて順方向のみに結合されており、フィードバック結合などの相互結合の形態を持たないようなモデルのことです。代表的なものには、パーセプトロンやバックプロパケーション法などが挙げられます。

2. 相互結合型ニューラルネットワーク
相互結合型ニューラルネットワークとは、入力から出力までのニューロンの結合が順方向とは限らないモデルのことです。代表的なものには、ホップフィールドネットワークやボルツマンマシンなどが挙げられます。人間の脳はこの相互結合型に似ております。

学習法
ニューラルネットワークでは、学習することにより、様々な環境に適応していきます。学習とは、シナプスの結合荷重を環境に応じて変化させることです。その学習方法には、教師あり学習と教師なし学習があります。

1.教師あり学習
教師あり学習とは、ニューラルネットワークからの出力と理想的な出力 (教師信号) を比較することによってその差をできるだけ小さくするようシナプスの結合荷重の値を変更する学習手法です。代表的なものには、パーセプトロンやバックプロパケーション法などが挙げられます。教師あり学習は、正しい出力だけでなく、間違った出力を教師データとして与えることができるため、パターン認識などによく利用されています。

2.教師なし学習
教師なし学習とは、外部から与えられる教師信号がなく、入力と出力の値のみで結合荷重の値を変更する学習手法です。教師なし学習は、間違ったデータを必要としない組み合わせ最適化問題などに利用されています。

3.強化学習
強化学習とは、お手本となる教師信号の存在しない状況下で最適政策を求めるアルゴリズムです。元々工学的な利用のために開発されたアルゴリズムなのですが、近年の研究において実際の生物の脳内(特に大脳基底核)で行われていることが示唆されました。その影響をうけて脳内における強化学習のモデルも数多く発表されています。しかし、戦略等のパラメータが実際に存在に対するのかといった疑問や、強化学習で使われているモデルがmodel freeである等の問題が依然として残っています。
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