「河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学」

なでしこ報道で露呈した“ニッポン”の未熟な女性観

男性社会の自覚なき“刃”が女性を働きにくくする

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2011年7月28日(木)

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 「結婚したいですか?」
 「彼氏はいますか?」
 「将来、子供は欲しいですか?」

 会社で聞いたら、即問題視されそうな質問を、戸惑うことなく口にするテレビ番組のリポーターやキャスターたち。

 「金メダル取って、もてるようになりましたか?」という質問を、柔道家の塚田真希さんやレスリングの吉田沙保里選手にしたVTRを流し、スタジオで笑う人々。

 いったい何なのだろうか。不愉快な気分になった。そう、女子サッカーのワールドカップで初優勝を果たし日本中に勇気と元気をくれた、なでしこジャパンのメンバーが帰国後、テレビ出演した時のことである。

 「女性だけのチームをまとめるのって、大変でしょ?」
 「オヤジギャグは、女性の心をつかむため?」
 「全国の女性部下を持つ上司たちが、監督のノウハウを知りたがってるでしょ」

 佐々木則夫監督にも、ん? という質問ばかりが繰り返された。 
 え〜っと、つまり、女性部下は扱いにくいってことなのか? いやいや、そんなことは言ってないか? ううむ。でも、サムライブルーが凱旋した時には、岡田武史監督にこんな質問しましたっけ?

 「男性のだけのチームをまとめるのって、大変でしょ?」なんて、ね。
 「結婚したいですか?」、「彼女はいますか?」なんて質問が、サムライブルーのメンバーに投げかけられた記憶もない。

 同じサッカー、同じ凱旋、同じように日本中に勇気をくれた、一流アスリートだというのに、あまりに違いすぎやしないだろうか。

なでしこジャパンへの質問に見え隠れした価値観

 「人となりが分かっていいじゃないですか。彼女たちも若い女性なんですから、みんなも知りたいじゃないっすか〜」

 こんな反論が聞こえてきそうである。実際に、多くのメディアが、街の人や子供たちに、「なでしこジャパンに聞いてみたいことありませんか?」と聞き、そこから出てきた質問をスタジオで展開していた。あたかもすべての人たちが、そのこと“だけ”を知りたがっているかのように、だ。

 いかなるインタビュー素材も、VTRを編集した時点で、作り手の価値観のフィルターに通される。すなわち、視聴者の実際の声であっても、それは“作られた事実”だ。

 もちろんサッカー選手だからといって、サッカーのことばかり聞くよりかは、雑談を交えて、人間的な部分が垣間見えた方が視聴者との距離も縮まることもあるだろう。

 だが、明らかに雑談のレベルを超えていた。出演時間のほとんどが、「結婚」「彼氏」「女性だけの……」といった、質問に費やされたのだ。

 そんな低レベルの質問が繰り返される背景には、「サッカーは男性のスポーツ」、「女性のゴールは結婚」、「女性ばかりは大変」といった価値観が見え隠れする。だが、質問を容赦なく浴びせる人たちは、そのことに微塵も気がついていない。

 社会に長年存在した価値観や、外部から刷り込まれた価値観は、時に自覚なきものとなる。何気ない一言や、何気ない行動には、自分が自覚していない価値観が反映される。そして、その自覚なき価値観が、時に、“刃”となって、他人を傷つける。

 先日、厚生労働省が発表した都道府県雇用均等相談室への相談件数は2万3000件超。うち5割以上が、セクハラだった。結婚、妊娠、出産などに伴う不当な扱いが、それに続いた。

 この数字にも、無自覚の価値観が反映されている、とは考えられないだろうか?

 そこで、今回は、「価値観」について考えてみる。

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著者プロフィール

河合 薫(かわい・かおる)

河合 薫博士(Ph.D.、保健学)・東京大学非常勤講師・気象予報士。千葉県生まれ。1988年、千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。2004年、東京大学大学院医学系研究科修士課程修了、2007年博士課程修了。長岡技術科学大学非常勤講師、東京大学非常勤講師、早稲田大学エクステンションセンター講師などを務める。医療・健康に関する様々な学会に所属。主な著書に『「なりたい自分」に変わる9:1の法則』(東洋経済新報社)、『上司の前で泣く女』『私が絶望しない理由』(ともにプレジデント社)、『<他人力>を使えない上司はいらない!』(PHP新書604)



このコラムについて

河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学

上司と部下が、職場でいい人間関係を築けるかどうか。それは、日常のコミュニケーションにかかっている。このコラムでは、上司の立場、部下の立場をふまえて、真のリーダーとは何かについて考えてみたい。

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