8日の柏レイソル対オークランド・シティ戦で幕を開けた2011年FIFAクラブワールドカップジャパン(FCWC)。2009、2010年はUAEで開催されたため、日本開催は3年ぶりとなる。2008年大会までは東京の国立競技場、横浜の日産スタジアム、豊田スタジアムの3ヶ所が使われており、南米王者と欧州王者が参加する準決勝は国立と日産、決勝は日産が会場となる形だった。が、今回は豊田と日産の2スタジアムだけになったうえ、全8試合のうち5試合が豊田スタジアムで行われるという「豊田重視」の運営となっている。

日本サッカー協会の小倉純二会長は「豊田スタジアムがオープン10周年ということで、豊田で大半の試合を行うことにした」と説明するが、もちろん大会のメインスポンサーであるトヨタ自動車のお膝元ということも大きいだろう。

サッカー専用の豊田スタジアムは観戦者にとって悪くない施設である。ピッチとの距離が近く、スタンドも比較的急傾斜であるため、かなり臨場感がある。屋根も開閉式で、悪天候時も問題ない。ピッチコンディションもまずまずで「外国のスタジアムみたいで好きですね」と酒井宏樹(柏)もコメントするほど、選手たちにも好印象といえる。

その反面、マイナス面があることも否定できない。その最たるものがアクセスだ。最寄の名鉄豊田市駅からは徒歩で15〜20分かかるうえ、豊田から名古屋市内の移動時間が相当かかる。19時45分キックオフのゲームだと名古屋市内へ戻るのはひと苦労だろう。豊田市内に泊まりたくても、宿泊施設が十分ではない。我々も日本代表戦の時は車で東京に戻るか、20〜30分離れた安城か岡崎に泊まるのがつね。FCWC期間中もマッチデーはかなりホテルが取りにくい状況だ。こうしたデメリットが災いし、名古屋グランパスがホームゲームを豊田で開催しても、なかなかスタンドを満員にできないという。

小倉会長は「8日のJリーグ王者対オセアニア王者の試合が2万人、11日の準々決勝2試合と14日の準決勝・5位決定戦がそれぞれ2万5000人で合計7万人。そして15日と18日の日産の試合で合計13万人(各6万5000人)。トータルで20万人の観客動員を目指しています」と語っていたが、8日の柏レイソル対オークランド・シティ戦は1万8000人強。目標より2000人近く下回ってしまった。「この分はどこかで取り戻さなければいけない」と小倉会長は苦笑するものの、11日も14日も予想通りの観客動員を確保できるとは限らない。明日を含む2日間で豊田重視の会場設定の是非が問われることになる。

3日のJリーグ最終節で柏ではなく、名古屋が逆転優勝していれば、もちろん状況は違っていた。名古屋が8、11、14日と大会に参加すれば、地元のファンのモチベーションももっと高まっただろう。FCWC主催者にとっては柏の出場は大きな誤算だったかもしれない。しかしながら、もともと名古屋が出場する前提で会場設定をしていたわけではなかったはず。今回のFCWCは欧州王者・バルセロナ、南米王者・サントスを筆頭に、普段見られないモンテレイやアフリカ王者・エスペランサ、カタールのアル・サッドなど好チームが続々と参戦するいい大会。その魅力を地道に告知し、観客動員増の努力をすることがまずは先決ではないだろうか。

メッシ、シャビ、イニエスタ、セスク・ファブレガスらバルサの華麗な競演は日産スタジアムでしか見られないが、豊田でも興味深い選手を目の当たりにできる。柏と対戦することになったモンテレイにはチリ人FWスアソ、メッシとともに2005年ワールドユース(オランダ)優勝戦士となったMFカルドソらテクニカルなタレントが揃う。サントスも2014年ブラジルワールドカップの母国代表を担うであろうネイマールを筆頭に、2006年にベガルタ仙台でJ2得点王に輝いたFWボルジェスもいる。今季のアジアチャンピオンズリーグ(ACL)で初タイトルを獲得したアル・サッドが柏や名古屋らJ上位チームとどのような違いがあるのかをチェックするのかも興味深い。そういう面白さをもっと伝えていかなければ、名古屋や他の地域から豊田までわざわざ大会を見に行こうという機運は起きにくい。今大会に関しては、告知不足という印象はぬぐえない。

明日11日の柏対モンテレイ戦には果たしてどれくらいの観衆が集まるのか…。3日のJ1優勝決定後、まともに練習期間を確保できていない柏にとって、この大一番を勝ちきるのは相当難しい。右サイド・酒井の負傷離脱もハンディキャップになりそうだ。ベストコンディションからはほど遠い柏だが、彼らが勝ち進まなければ、FCWCが現時点以上に盛り上がなくなる可能性が高い。満身創痍のチームをネルシーニョ監督がどうやりくりするのか。名将の采配力やチームマネージメントも改めて注目してみたい。

元川 悦子

もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。