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石油の値段

 アスキー新書「ガソリン」本当の値段 岩間剛一著を読んで、原油価格の決定の仕組みを知った。もしかして、かなりの人には自明なことなのかもしれないが、私にはとても驚きなので、自分のメモとして、ここに書いてみる。
 石油の値段は、アラブの石油産出国でOPECが設立されたとき、OPEC主導で決定されることとなった。もともと、欧米の石油メジャーが勝手に安く決定したことに反発して、自国ナショナリズムに基づき創設されたのが、OPECなのであった。
 しかし、石油はアラブだけで産出されるのではない。OPECだけで値段を決めようと思っても、他の国での産出状況、値段、需給関係のバランスで、世界的に石油余りの状況となり、石油は値崩れを起こした。こうして、すっかりOPECは、価格決定の主導権を失った。
 いまや、石油の価格決定の主導権を握るのは、下記の3つの取引所である。
- ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で取引されているWTI(ウェスト・テキサス・インターメディエイト)原油
- ロンドンのICEで取引されている北海ブレンド原油
- 東京工業品取引所で取引されているドバイ原油
 この中でも、WTIが、世界のマーカーオイル(指標原油)として、世界の原油先物価格のベンチマークとなっている。従って、ICEと東京工業品取引所では、独立に価格を決めてよいのだけれども、どうしても、WTIの影響を受ける。また、日本は例えば、サウジアラビアと長期直接契約を結んでいるのだけれども、その値段は、契約上、ドバイ原油の値段の変動の影響を受けるので、結局は、WTIの影響を間接的に受けてしまう。
 それでは、そのように強い影響力をもつWTIとは何か、というと、まずWTIの一日の原油生産量は、30万バレルで、世界全体の一日の原油生産量である8500万バレルの0.4%を占めるに過ぎない。しかも、WTIの石油は、アメリカ国内でローカルに流通しているにすぎない。それが価格決定に大きい決定を与える理由は、世界中の投資家が投資するNYMEXという舞台で運用されているからである。それで、一日の原油生産量は、30万バレルだとしても、先物取引の仕組みによって、見かけ上、600倍の原油が取引されていることになる。そこでとてもおかしいことが起きる。すなわち、2007年2月に、WTIを生産している、米国内のバレロ・エナジーという会社のマッキー製油所で火災が起こり、操業不能となった。すると、精製されない原油が余剰在庫となり、それを処分したい投機筋による売りが入り、WTI価格が下がる。そういう全くローカルな事情で決まったWTI価格が世界に大きな影響を与えるのである。
 こういう背景で、たとえ供給過剰でも、石油価格が下がらない理由は、次のようにして説明される。すなわち、大手投資銀行のゴールドマン・サックスが、原油価格は今度も上がり続ける、というレポートを出す。すると、投資家は、先物で、原油を買いあさり、そのことが原油価格の高騰をもたらす、という仕組みである。ゴールドマン・サックスは、ロックフェラー系の会社であるから、ロックフェラーが原油価格を操作している、というのは、こういう事情を言うのであろう。
 また、サブプライム・ローン問題が、住宅市場が金融市場化して起こったように、金融化の波は、石油市場にも押し寄せ、これにより投資家に蹂躙されている、という面もあるようだ。
 これ以外に資源大国ロシアの台頭、新たな資源消費大国中国の経済発展、など問題は、あまりにも入り組んでいる。

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2007年12月 2日 15:06に投稿されたエントリーのページです。

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