スタジオパーク 「どうなる 年金引き下げ」2011年12月06日 (火)

藤野 優子  解説委員

厚生労働省の社会保障改革案がきのう公表されたのを受けて、社会保障と税の一体改革を巡る政府・与党内の調整が今週から本格化します。この中の柱の一つが、本来の水準より高くなっている年金の支給額の引き下げです。年金額はどうなるのか。藤野解説委員に聞きます。

Q 社会保障改革の厚生労働省案がきのう公表されましたね。

A そもそも、高齢者が受け取る毎年の年金額は、前の年の物価の上下に応じて、決まることになっている。

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ところがこちらの図を見てほしい。この図は簡略化したものだが、2000年度から2002年度、物価の下落に合わせて、本来、年金額も下げなくてはいけなかったのに、厳しい経済情勢に配慮して、特例の措置で、年金額の引き下げを行わなかった。当時の政権与党が年金額の引き下げに強く反対したことが背景にあった。
このため、今の年金額は、本来の水準よりも2.5%も高くなっている。
 
Q 金額にして、いくらぐらいの払いすぎになっているのか。

A これまでに払いすぎた年金の総額は7兆円。このまま、本来の水準に戻さないと、毎年さらに1兆円ずつ払いすぎの状態が続くことになってしまう。
 年金をめぐっては、今の高齢者と若い世代の世代間格差が大きすぎることが課題となっていて、若い世代には「払った保険料に見合う年金はもらえない」と制度に不信を持っている人が多い。しかも、今も現役世代の保険料負担は、毎年引き上げられていて、早く、今の高齢者への年金の払いすぎの状態を解消しないと、現役世代の不公平感が増してしまうと懸念されている。
 それで、来年度から、本来の水準の年金額に戻そうと、政府・与党内で検討が進んでいる。
 
Q 具体的にはどのくらいの減額になるのか?

A 具体的にはこれからだが、政府・民主党内では、3年から5年かけて減額していこうという案が検討されている。

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まず国民年金。国民年金のみを受け取っている人の平均の受給額はひと月49000円だが、この場合、来年度から3年で引き下げるとすると、毎年0.8~0.9%程度減り、(計算してみると)毎月、390~440円程度の減額。
5年で引き下げるとなると図のようになる。
 一方、厚生年金の方は、標準的な世帯モデル(現役時代に平均的な収入だったサラリーマンの夫と専業主婦の世帯)では、現在、ひと月の年金額がおよそ23万円。3年で下げた場合と、5年で下げた場合はこのような減額になる。
これに、毎年の物価の下落分も差し引かれる。今年の物価は、0.2%~0.3%程度下がる見通しで、来年度は、これ以上に減額になる見込み。
 
Q 年金生活者にとっては、なかなか厳しい数字。

A 確かに厳しいが、今回の年金制度の見直し項目は給付増が多い。

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例えば、
▼少ない年金しかもらえずに、低所得となっている高齢者に、一定額の年金を加算して渡す案や、▼今の年金制度は、加入期間が25年ないと年金が受け取れないが、これを10年に短縮する案など。
この他、医療・介護についても見直しが検討されているが、給付カット、つまり負担増のメニューの多くは先送りの公算が高い。
今年6月にまとめられた社会保障と税の一体改革では、給付カットと消費税増税分を合わせて、給付増の分の財源を確保することになっていた。
ところが、これでは、給付を増やす財源はどこから持ってくるかという問題が残る。
このことは、政府の審議会でも指摘されていて、「給付を増やすメニューと、給付カットするメニューをセットで議論すべきだ」という意見が出された。
このため、政府や民主党では、せめて、年金を元の水準に戻すことだけは、金額も大きいだけに、来年度から着手せざるを得ない。着手しないと現役世代からの理解は得られないという判断があるものと思われる。
 
Q 今後の見通しは?

A この年金額の引き下げは、今のところ、やむを得ないという声が多いが、高齢者の団体からは「消費税の引き上げに年金引き下げと負担増が重なると生活が苦しくなる」という意見が出ているし、足元の民主党内でさえ、新たな負担増に対する根強い反対の声があって、このまま実現するかどうかまだわからない。
 でも、限られた財源の中で、年金制度を維持していくためには、現役世代も高齢者も痛みを分かち合っていくしかないわけで、政府・与党、とりわけ民主党には、今の厳しい現実を国民に丁寧に説明し、負担増への理解を得る努力をしてほしい。