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出た!特別養護老人ホームの内部留保は「2兆円」!

2011年12月08日 16:54

鈴木亘

1年分の支出を超える内部留保


 かねてより黒字を貯め込みすぎているとの批判のあった特別養護老人ホームを経営する「社会福祉法人」であるが、12/5に行われた厚労省の審議会(社会保障審議会・介護給付費分科会)において、その驚くべき実態が正式に報告された。


 厚労省・老健局が明らかにしたところによると、社会福祉法人立の特別養護老人ホームの内部留保は、一施設当たり平均 3億782万円で、施設の1年分の収入・支出を超えるものである。


 公益法人として適正な内部留保とされるのは収入・支出の30%以下であるから、それをはるかに超える「黒字ため込み」の実態である。


 今回のデータは、社会福祉法人が経営する特別養護老人ホームの約6分の1にあたる1087施設の平均値であるとのことなので、この金額を施設数分掛け合わせると、20,076億円、つまりざっと「2兆円」と言うことになる。


 以前、私はこの呆れた社会福祉法人の内部留保について、その問題点も含めて詳しく記事を書いたことがある。

 「税と社会保障の一体改革:社会福祉法人の1兆円の濡れ雑巾を絞れ!」
  http://webronza.asahi.com/synodos/2011021600001.html

 その際には、「社会福祉による社会への貢献を目的とする法人が、そのような露骨な黒字ため込みをするはずがない」「社会福祉法人に余裕がないからこそ、介護職員は低賃金にあえいでいる」等と、ずいぶん各方面からおしかりを受けた。


 しかし、今回、厚労省が明らかにした実態は、私の想像をはるかに超える水準の「2兆円」という規模である。各方面の方々も、さぞ、びっくりされていることだろう。


内部留保に対する苦しい言い訳


 つまり、特別養護老人ホームの経営者は、過酷な労働にあえぐ介護職員に十分な賃金の分配を行わなわず、老人ホームに入れない40万人の待機老人がいても施設を増やさず、ひたすらに黒字を貯め込んでいるのである。社会福祉の公益性を謳っている法人としては、まさに「社会に対する背信行為」というべきである。


 結果の発表に際して、厚労省は、「内部留保には修繕のための積立金なども含まれている」と説明したという。これは、完全に間違いではないけれども、バイアスのある情報操作である。


 施設の修繕などに充てる部分は、3億782万円の中の1/5程度を占めるにすぎない「その他積立金」の6581万円のうち、そのまた一部に過ぎない。内部留保の大半(4/5)は、毎年発生している黒字の累積額である「次期繰越活動収支差額」の2億4202万円なのである。


 この膨大な内部留保について、特別養護老人ホームの経営者たちの業界団体は、「何十年後、施設を建て直す際に必要だから、今貯めているのだ」と説明することがある。これも、完全に間違いとは言えないが、大きな嘘が含まれる説明である。


 実は、特別養護老人ホームには、施設を建てる際、施設整備費という補助金があり、建物の建設費の約半分の費用を自治体が公費(税金)で補助する制度となっている(2005年以前には、建設費の3/4が補助されていた)。残りの建設費も、厚労省の独立行政法人である医療福祉機構が、きわめて低利で貸付をしてくれる。


 つまり、将来の建て替えには、何の心配も用意もいらないのである。加えて、社会福祉法人には、消費税や固定資産税、不動産取得税を含め、全ての税金が無税となっているという大盤振る舞いの優遇税制も付いている。


介護報酬引き上げを要求する前に、介護労働者に分配せよ


 実際、株式会社やNPOが作る「有料老人ホーム」には、そのような補助金や優遇税制は全くなく、相対的に不利な経営を行っている。彼らは、銀行などから融資を受けて借金を背負い、土地建物をまずはじめに建設し、その投資資金を、介護報酬や入居費等の形で、何十年もかけて回収してゆくのが当たり前なのである。


 そして、実は重要なことであるが、こういう普通の経営をするために、介護のサービス費用である「介護報酬」には、法律上、施設の整備代が上乗せされて含まれているのである。つまり、介護保険制度は、「建物の建設費は、介護報酬から回収しなさい」という制度に、そもそもなっているのである。


 この介護報酬の状況は、特別養護老人ホームの場合も全く同じである。つまり、特別養護老人ホームを経営する社会福祉法人は、将来の建設費のために、内部留保を貯める理由など、ほとんど存在しないのである。


 さらに、社会福祉法人の業界団体は、今回の介護報酬の改定で、介護報酬引き上げを要求しているが、これはまったく理解不能というべきである。彼らは、まず貯め込みすぎた内部留保を吐き出し、従業員にきちんと分配することから初め、公益法人としての襟を正すべきであろう。介護報酬引き上げに、我々の税金や保険料をつぎ込むのは、それからである。


 また、待機老人を解消するために投資(拡張、新施設建設)を行わない社会福祉法人の内部留保には、大きく課税をするようにしてはどうか。もちろん、世襲する場合(社会福祉法人は、特定郵便局のように、事実上、世襲制の制度となっている)の相続税も徴収する。腰の重い社会福祉法人の2代目も、こうすれば新規投資をせざるを得なくなるだろう。


 実は、今回、厚労省が公開したデータは、先日の行政刷新会議・提案型政策仕分けにおいて、仕分け人となった私が厚労省を問い詰め、その場で公開を要求したものである。私が厳しく問い詰める中で、さすがに、特養の肩は持てないと判断したのか、老健局長が公開を約束した。最後は、老健局長は笑い出しておられた。


 介護報酬改定に間に合うように、作業を急いでくれた老健局長とその部下の老健局の方々には感謝したいが、まだ全体の1/6であるから、完全な公開を今後求めたい。


 ―ところで、マスコミから無意味だとさんざん批判された政策仕分けであるが、このように少しは役に立っている部分もあるのである。そのほかにも、重要なことがいくつも明らかになったり、決まったりしたが、マスコミはせいぜい財務省のブリーフィング通りの情報を流したり、厚労省の言い訳取材の情報を流したに過ぎない。年末で時間がなかなか作れないが、政策仕分けのことも、きちんと書いたり、話したりしたいと思っている。

学習院大学経済学部教授。社会保障論、福祉経済学などが専門

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