福島第一原子力発電所の事故後の対応について、1号機で唯一稼働できる非常用の冷却装置を津波に襲われて1時間以内に動かした場合、メルトダウンに至らなかった可能性があることが、原子力安全・保安院の依頼を受けた専門機関の解析で分かりました。
福島第一原発で最も早く水素爆発を起こした1号機では、3月11日の地震直後、電源が失われても蒸気を利用して原子炉を冷却できる「非常用復水器」という装置が弁が閉まるなどして何度も停止し、冷却機能を十分に果たせず、燃料が水面から露出し、メルトダウンに至ったとみられています。この装置について、独立行政法人・原子力安全基盤機構が行った解析結果が、原子力安全・保安院が専門家から意見を聞く会合で9日に公表されました。それによりますと、津波に襲われておよそ45分後の午後4時15分に装置を動かした場合、燃料が水面から露出する前に冷却が始まるため、原子炉の水位が維持され、メルトダウンに至らないとしています。ただ、この場合、装置の冷却機能を維持するための水の補給が必要だとしています。一方、津波に襲われておよそ2時間45分後の午後6時15分に装置を動かした場合は、すでに燃料が水面から露出しているため原子炉の水位は回復せず、燃料が露出した状態が続くとしています。これについて出席した北海道大学の奈良林直教授は「冷却装置を使い続けていれば事態は深刻にならなかったが、結果として1号機の水素爆発を許したことが、2号機や3号機に影響した。初動対応の甘さが大きな反省事項だ。冷却装置の役割をどれだけ念頭に入れて事故時の対応が準備されていたか、解明が必要だ」と指摘しています。この装置については、事故直後、何度も停止したにも関わらず、所長らは津波のあと、深夜まで動いていると認識していたことが分かっていますが、操作しだいでは事故の拡大を防げた可能性もあることから、詳しい解明が求められます。福島第一原発1号機の非常用の冷却装置を津波に襲われてから1時間以内に動かした場合、メルトダウンに至らなかったとする解析結果が公表されたことについて、東京電力の松本純一本部長代理は「電源が失われ、中央制御室や原子炉建屋の照明がなくなり、懐中電灯で現場を手探りの状況で行かなければならないうえ、手動で開けられるのは格納容器の外側にある一部の弁だけで、この時間に冷却装置の機能を回復させることは難しかった」と話しています。また「この冷却装置は、バッテリーが失われると弁が自動的に閉まる構造で、操作ができない状態になった。仮に解析で示した時間までに、冷却機能を回復できれば、水位が維持されることもあるかも知れないが、装置の構造からも現実的には難しかったのではないかと思う」と話しています。