一息ついてから夕呼による説明が再開された。
「ふー。……説明を続けるわ。
◆小型種
小型種は3種が確認されている。特徴として対人探知能力は極めて高く動きが俊敏。攻撃力も防御力も高くはないが、大群で攻めてくる。
こいつらは数が武器で、攻撃力も防御力も高くはないと言っても、一番弱い奴でさえ人を喰いちぎって殺せる力があるし、腕力も人間の数倍よ。
◇
戦車級
全長:4.4m
全幅:1.9m
全高:2.8m
学術名:
Manderium:噛みつくもの
Ungulam crus:蹄がある足
俗名:
Equus pedis
エクウス ペディス
戦車級は軍用トラックと同じくらいの大きさで対人探知能力は極めて高く、機動力も高い。最高時速は約80km/h。
単体なら歩兵の重機関銃でも対処可能だが、とにかく圧倒的な物量で侵攻してくる。
36mm砲が有効。
小型種の主力とも言える存在。強力な顎を持ち、戦術機装甲すら噛み砕く。集団で戦術機に取り付かれると一巻の終わりね。ハイヴ坑内では多く出現するわ。
因みに、もっとも多くの衛士を戦術機ごと喰らっているのがこのBETA種。
硫黄に似た独特の臭気を持ち、また、その体液は金属臭がする。纏わり付かれると巨大な兵器だろうと容易く噛み砕かれてしまうわ。
◇
闘士級
全長:1.7m
全幅:1.5m
全高:2.5m
学術名:
Agitisis:俊敏なもの
Naris protix:長い鼻
俗名:
Barrus naris
バルルス ナリス
闘士級の対人探知能力は極めて高い。俊敏だが戦術機にとって驚異ではなく、戦術機相手には敵わない。歩兵の小銃や拳銃も十分に有効だが、その俊敏さ故、命中させるのは容易ではないわね。
また、象の鼻の様な腕が特徴で、人間の頭をもぎ取る力を持っている。
◇
兵士級
全長:1.2m
全幅:1.4m
全高:2.3m
学術名:
Venarius:狩りをするもの
Caput grande:大きな頭
俗名:
Venator
ヴェナトル
兵士級は1995年に初めて確認された新種。
既知の最小の種。対人探知能力は全BETA中で最も高い。
俊敏で腕力も人間の数倍もある。しかし、全BETA中で一番弱いため、戦術機や機械化強化歩兵の相手ではない。
兵士級のみ人類を原料として再利用をしていると思われる。戦闘中に捕獲もしくは捕食した人類を再利用して作られた新種のBETAである。
特徴として“つぶらな瞳”をしている。因みに、人類を直接研究しているのもこの兵士級みたいね」
兵士級の画像を見た瞬間、巧も真那も少し表情が険しくなった。
「……」
「何?」
「あー……こいつに殺されそうになったんですよねー、オレ」
「ふーん。……暁、武器は持ってたの?」
「無いですよ、そんな物」
「素手で逃げ回ったの?」
「ま、一応。……途中から瓦礫をぶつける陰険な攻撃で嬲られてましたね。しかも、月詠中尉が現れた途端にオレを殺そうとするから始末に終えなかったですよ」
それを聞いて夕呼も表情を歪めて、忌々し気に呟く。
「最低だわ……屑ね」
(「各個体で知識を有していた。ということ……?」)
「ははっ、同感です」
夕呼は気を取り直して話し続ける。
「──他にも、未確認大型種ってのがいるよう何だけど……。音紋解析によると、BETAが大深度地下を侵攻してくる際にはこのBETAが動いているらしいことが判明している。ま、未確認種なんて、まだまだいるんでしょうけどね。
次にBETAの習性。
奴らは地球に到達して以来、特に高性能コンピューターを搭載した兵器及び機械を優先して攻撃する習性がある。
具体的には、
・歩兵<(大なり)高機動車
・装甲車<戦車
・砲弾<ミサイル
BETAにとっての脅威度ね。
また、偵察や拠点防衛用の無人兵器についても、搭載コンピューターの能力が高ければ高いほど優先的に攻撃する。
特に有人兵器で且つ高性能電子機器である戦術機は、脅威度がほぼ最上位にランクインしているらしく、最優先で攻撃してくる。
それと、戦術機って戦術歩行戦闘機の略称よ」
「……んと、ムダ知識?」
「無駄とは何よ、無駄とは」
「戦術歩行戦闘機なんて言いませんよ、戦術機でいいでしょ? みんなわかってんだし……」
「はい、はい。気分転換の為に言ってあげてるのに……」
「むくれるなよ!子供かっ! つーか、夕呼さんの説明わかりやすいし聞きやすいしっ! あー、つまり……」
「つまり?」
「……ええ、っと上手く言えませんけど、オレの配慮が足りなかったかな〜って思いますし……と、とにかく、ありがとうございます」
「励ましてんの?」
「いや、そのー……」
「冗談よ? ばかね」
「いいよ、夕呼さんが傷ついてないのなら」
「しかもお人好しなのね」
「ほっといてください」
「あと、不器用」
「もうえぇって!」
「〈ぼそっ〉ありがと」
「え? ちょっ…! 夕呼さん、もう一回お願いします」
「ふふっ。やーょ。
で、ハイヴというのは、『始めんのかい!』──五月蠅い。BETAの着陸ユニットが落下」
「言い直す気無しや……」
「一度しか言わないって言わなかった?」
「うば〜」
「変な鳴き声出さないの。
その後20時間以内に
門が作られ、反応炉…BETAへのエネルギー供給体兼、情報通信機って感じの物を地下の最奥の
大広間に設置。蟻の巣のように広がる
地下茎構造。大広間を繋ぐ
主縦坑、それから伸びる横穴・
横坑と横坑同士を繋ぐ
広間。広間を縦に繋ぐ
縦坑を張り巡らせている為、ハイヴ攻略の際に門を通り大広間に行き着くのは困難で、未だ未到達である。
地上に突出した
地表構造物は、シャトルの発射台みたいな物、主縦坑は打ち上げの際の射出口の役割を持っているとも考えられている。
たまに宇宙へ向けて何かを飛ばしてるみたいだから、収集した情報を報告しているんじゃないかしら?」
「BETAが?」
「BETAのことなんて未だ何も解らないのよ? してないとは言えない。常に最悪のシナリオを考えて行動しないと後悔するわよ?」
「……」
「次、フェイズについて。
経過フェイズ、地表構造物の大きさ、水平到達半径、最大深度、主縦坑の最大直径、横坑の最大直径の順で言うわ。
・フェイズ1、ユニットが着陸した状態。
・フェイズ2、50m以上、約2km、約350m、約100m
・フェイズ3、100m以上、約4km、約700m
・フェイズ4、300m以上、約10km、約1200m、200m、100m
・フェイズ5、600m以上、約30km、2000m以上
・フェイズ6、1000m以上、約100km、4000m以上
フェイズ7以降は地球には存在しないわ」
「フェイズ4だけどうして詳しい情報なのだ?」
「……。……そこまで話すんですか?」
「あら、あなたは知ってるのね」
「計画について知っているくらいですから」
「なら、彼女にも知る権利はあるわ」
「──月詠中尉に失礼やけど、香月副司令がそこまで信用した理由がわからないんですけど」
「あなたがいるからね」
「オレ?」
「ま、深い意味合いはないわ。気にしないで頂戴」
「はあ」
巧は何だか解らないけど、納得することにした。
「フェイズ4だけ詳しい理由、だったわね」
「……ああ」
「此処がフェイズ4だからよ」
「……は? 此処?」
「そ。フェイズ2の大きさでフェイズ4の深さをもったハイヴを元にして造られた基地……それが、国連太平洋方面第11軍・横浜基地……」
「何だと!?」
真那はその事実に驚きを隠せないでいた。
その状態の真那に、夕呼は釘を刺しておく。
「計画の事を知りたいなら、余計なことはしないでくださります? 月詠中尉」
「何?どういうことだ」
「他では一切口にしないで頂きたい……殿下にも。ということです。──こんなご時世に他国と戦争何て…馬鹿らしいでしょう?」
「っぐ、しかし!」
「未だに人類という共通の仲間になりきれてないから、BETAなんかにいいようにされる……何処の国も腐ってるの、ね〜?」
「真那。納得出来ないようなら、全てを忘れてオレ達に二度と接触しないこと」
「え? ……巧はそれで」
「ま、それは最後まで聞いてから決めて? な?」
「……わかり、ました……香月副司令、続きをお願いします」
「解ったわ。
・1975年
ソ連、共産党政府がハバロフスクに首都機能を移設。BETAの侵攻に圧迫される形で共産党政府はハバロフスクに首都機能を移設。
国内主要産業や軍需産業の疎開が始まる。
米国、HI-MAERF計画開始。
人類未発見元素・グレイ11(グレイ・イレブン)を応用したハイヴ攻略兵器『XG-70』と専任護衛戦術機『XF-108』の開発が始まる。
ロックウィード、ノースアメリカーナ、マクダエル・ドグラムが三社合同プロジェクトとして受注。
日本、空軍を解散し、陸、海、航空宇宙の各軍に再編」
「人類未発見元素? ハイヴ攻略兵器?」
「えぇ。BETA由来の人類未発見元素。カナダに落ちたBETAユニットを独占調査しているロスアラモス研究所のウィリアム・グレイ博士が発見したため、イニシャルを取ってG元素と呼ばれている。
そして、グレイ11。11番目に発見されたG元素。重力制御を行う
ML機関に必須の物質。
G弾の材料でもある。
で、G弾ってのが、今年の8月5日にあった明星作戦で使われた物。
G弾の正式名称は、
Fifth-dimensional effect bomb
(五次元効果爆弾)
ML機関の開発からスピンオフした技術の産物。グレイ11の反応を制御せずに暴走させる構造の爆弾。いわば安全装置のない簡易ML機関である。
臨界制御解放後グレイ11の反応消失まで、多重乱数指向重力効果域。その爆発域は拡大を続け、それに伴いML即発超臨界反応境界面。次元境界面も広がり、接触した全ての質量物はナノレベルで壊裂・分解される。
ML機関よりも安価で、省資源、しかも運用も容易ということで開発元である米国がオルタネイティヴ5計画を推進する理由ともなっている。
しかし放射能物質こそださないものの、被爆跡地では半永久的に重力異常を引き起こし、植生も回復しないという深刻な欠点もある。
適切な量の減速材を搭載することでG弾は完全なML機関と化し、超臨界前までラザフォ−ド
場を展開・制御する事が可能となり、光線級によるレーザー照射や人類による質量弾迎撃も、ラザフォード場の潮汐変形・重力偏差効果により無効となる。結果的に、ラザフォード場突破には同じML臨界反応圏が必要であり、それはG弾だけであるという事……。
米国が血眼になってG弾確保を精としているのは、G弾攻撃をより確実の物とする裏打ちでもある」
巧が手を上げて発言する。
「夕呼さん……頭痛い」
「あー。水爆より強い新型の核だと思いなさい」
「短ッ! つーか、結局核かよ」
「そういうこと」
「それで、オルタネイティブ計画というのは?」
「説明していくわ。
・1977年
北進中のBETA勢力がウラル山脈に到達。ウラル山脈の南端に達したBETA群は続々とソ連領に侵入。ソ連北西部を蹂躙。
世界各国でオルタネイティヴ計画誘致の動きがあり、他国に対BETA戦略のイニシアチヴを持たれることを嫌った国々が、次期オルタネイティヴ計画を見越した基礎研究分野に大規模な予算配分を開始する。
オルタネイティヴ3による対BETA陽動効果の実証実験開始。
オルタネイティヴ3で確認されたBETAに対する陽動実験の追試がユーラシアの各戦線で本格的に行われ始める──
・1978年
東欧州大反攻作戦・パレオロゴス作戦。
NATO・ワルシャワ条約機構連合軍によるミンスクハイヴ(H5:甲5号目標)攻略作戦。
2ヶ月の激戦後、全欧州連合軍を陽動に、ソビエト陸軍第43戦術機甲師団・ヴォールク連隊がミンスクハイヴ地下茎構造への突入に成功するも数時間後に全滅。
後に『ヴォールクデータ』と呼ばれる貴重なハイヴ内の観測情報を人類にもたらす。
ユーラシア北西部、BETAの完全支配地域にパレオロゴス作戦の報復であるかのようなBETAの一大攻勢によりソ連は東西に分断され、前作戦で消耗しきった欧州戦線が全面瓦解。ユーラシア北西部から人類は完全に駆逐される。
ソ連、オルタネイティヴ3本拠地を疎開。
BETAの侵攻を受けて、ノボシビルスクのオルタネイティヴ3本部がハバロフスクへ移設される。
・1979年
米国、ムアコック・レヒテ機関の臨界実験成功。
カールス・ムアコック博士とリストマッティ・レヒテ博士の共同実験が成功。
抗重力機関技術が確立される。
米国、サンタフェ計画発動。抗重力機関の完成を受け、ムアコック・レヒテ理論を応用した新型爆弾の研究、実験が始まる。後のG弾よ。
日本、教育基本法改正。──優秀な対BETA主力兵器の衛士を育成するため、英才教育環境と適性者抽出システムの構築が開始される。
・1980年
ソ連、米国に対しアラスカ売却を打診。売却は拒否されるが、租借という方向で協議が進む。
・1982年
米国、ソ連のアラスカ租借を議会承認 期限は50年間。
当該地域住民の移送が始まる。また、ソ連でも各方面で移設準備が開始される。同時に米国は軍事的な保険措置として、米ソの国境を跨ぐ形で存在するユーコン基地とその周囲の地域を、国連に50年間無償貸与した。
・1983年
帝国国防省、極秘裏に第三世代主力戦術機の独自開発を決定。
米陸軍よりATSF──先進戦術歩行戦闘機計画が提案。BETA大戦後の世界を見越した次世代戦術機の開発が米国で開始される。
・1984年
日本、非炭素系疑似生命の基礎研究開始。BETAに認識される生命体を作ろうとした訳ね。
欧州各国の敗走に危機感を募らせた日本政府は、国連軍を防衛戦力として国内駐留させるために、次期オルタネイティヴ計画の本格的な誘致に乗り出す。
・1985年
ソ連、国家基幹機能のアラスカ移転が完了。
オルタネイティヴ3本拠地、ハバロフスクからアラスカ州タルキートナへ。
政府機能や軍事施設に続き、基幹産業、各種生産基盤そして多くのロシア人の疎開が完了。以降ソ連軍は、ベーリング海を挟んだ極東ロシアを絶対防衛線として位置付け、国土奪還の戦いを続ける。
EU、BETA侵攻により、西独、仏が相次いで陥落。
・1987年
7月:米国、五次元効果弾。通称G弾の爆発実験に成功
11月:米国、HI-MAERF計画の中止を決定
計画の遅延に加え、より安価で実用的なG弾の実用化に目処が立ったため、国防省が中止を決定。
・1988年
米国、国連に次期オルタネイティヴ計画案を提示。
オルタネイティヴ3に見切りを付けた米国が次期予備計画の招集を待たず、新型爆弾G弾によってハイヴを一掃する対BETA戦略を計画案として提示。
G弾を限定的に使用し外縁部のハイヴを攻略。
G元素の獲得→G弾の量産というサイクルを繰り返し、最終的に大量のG弾による飽和攻撃でオリジナルハイヴを含むユーラシア中心部のハイヴを一掃するというもの。
あたしが14歳の時、因果律量子理論の検証を始めた」
「すげーな……」
「ま、あたしって天才だから」
「───さらりと自慢するとこ。あと、天災違いじゃないですか?」
「何よそれ」
「BETAにとって天敵でしょ? 夕呼さんって」
「確かにそうね……。上手いこと言ったと褒めるべきかしら?」
「ははっ」
「──続けるわよ。
・1989年
国連、米国が提案した次期オルタネイティヴ計画案の不採用を決定。オルタネイティヴ3の成果に対する評価の違いと、ユーラシア各国が影響を予測できない新型兵器の使用に反対したことが主な不採用の理由。これによって米国は国連に深く失望し、独自の対BETA戦略を強行する方針を固める。米国の国連内部に対するあからさまなロビー活動が開始される。
不採用案はより尖鋭化し、最終的にオルタネイティヴ5へと繋がった。
・1991年
G弾実用化。
あたしが説いた独自理論『因果律量子論』の論文がオルタネイティヴ計画招致委員会の目に止り、次期計画案の基礎研究を進める帝国大学・応用量子物理研究室への編入が認められた。
・1992年
宇宙戦力が初めて投入され、軌道爆撃や軌道降下部隊など、その後のハイヴ攻略戦術のセオリーが確立した。
オルタネイティヴ3直轄の特殊戦術情報部隊が地下茎構造に突入、リーディング・ESP能力によって心を読み取る事による情報収集を試みるも成果はなく、ほぼ全滅した。
・1994年
国連、オルタネイティヴ4予備計画招集。
日本、カナダ、オーストラリアがオルタネイティヴ第四計画本部招致に立候補。予備計画の招集を受け、本部招致レースが国連常任理事国間の政治問題に発展する。
あたしが国連に招聘され因果律量子論の検証を進める。
・1995年
国連、オルタネイティヴ4に日本案の採用を決定 オルタネイティヴ3を接収へ。
オルタネイティヴ第四計画は、あたしの案が採用され、即時本計画に格上げされる。急な決定に本部施設の建設が間に合わず、仮説本部を帝国大学・応用量子物理研究等に設置。
あたしはオルタネイティヴ4の総責任者に就任。
異例の早期格上げが実現した裏には、尖鋭化した自国案、オルタネイティブ5の復活を目論む米国の強引なロビー活動に対する国連側の反発が存在した。
オルタネイティブ4、00ユニットの開発に着手。
選定候補者の受け皿として、接収を予定していた帝国陸軍白陵基地に計画直属の衛士訓練学校を設立。
日本、オルタネイティヴ4の招致決定に伴い、更に多くの帝国軍施設を国連軍に開放。
日本、18歳以上の未婚女性を徴兵対象とする修正法案可決。
国連、世界人口がBETA大戦前の約50%まで減少したと国連統計局が発表。
・1996年
国連、オルタネイティヴ5予備計画招集。
国連の強引な格上げに対する不安と、日本案のあまりに荒唐無稽な内容に対する保険的措置として第五予備計画の招集をアメリカが提案。それを南アメリカ及びアフリカ諸国が後押しする形で可決された。
国連、プロミネンス計画発動。
オルタネイティヴ5予備計画の招集は「米国が焼き直したG弾集中運用案を通すための呼び水に過ぎない」とするユーラシア諸国が提唱した先進戦術機技術開発計画が開始され、アラスカの国連軍ユーコン基地が本拠地に決定。基地の拡張工事が開始。
日本、帝国議会が男性徴兵対象年齢の更なる引下げを含む修正法案可決。事実上の学徒全面動員へ。
・1997年
欧米、ダイダロス計画成功。
NASAがイカロスⅠの信号を受信。蛇遣い座バーナード星系に適合度AAの地球型系外惑星を発見。
これを受けて米国はユーラシア各国の主張に配慮し、系外惑星への避難を加えた次期オルタネイティヴ計画修正案を提出」
「“系外惑星探査計画は、大型探査機イカロスⅠの通信途絶によりダイダロス計画は失敗した”──のではなかったのか?」
「あまりのタイミングの良さに、自国案を通すためのでっち上げだという指摘もあるわね」
「何々だそれは」
「あの国だもの、お国柄かしら?」
「国連軍基地副司令とは思えない台詞だな」
「自分達だけ逃げようとする国を好きになる方が難しいんじゃない? 全員ではないでしょうけどね。
次いくわ。
──国連、オルタネイティヴ5予備計画が米国案に確定。
オルタネイティブ5、ラグランジュ点での巨大宇宙船計画がスタートする。事実上オルタネイティヴ計画が並立するという異常事態に。この件が切っ掛けとなり、カナダを含むオセアニア、ユーラシア諸国と、アメリカを中心とするアフリカ、南アメリカ諸国の対BETA戦略の差が明確になる。
オルタネイティブ4、A-01連隊発足。
オルタネイティヴ第四計画直属の特殊任務部隊。
・1998年
オルタネイティヴ4本拠地の移設を開始。
共に仙台への移設を開始。白陵基地の衛士訓練学校も同様の措置が採られた。
BETA、東進再開、首都圏まで侵攻し、西関東が制圧下に。帝国軍白陵基地壊滅。
BETA群は帝都直前で謎の転進。伊豆半島を南下した後に進撃が停滞、以降は多摩川を挟んでの膠着状態となり、24時間体制の間引き作戦が続く。
BETA、横浜にハイヴを建設開始
偵察衛星の情報により横浜ハイヴ(H22:甲22号目標)確認される。
あたしが、国連に横浜ハイヴ攻略作戦を提案。
国連司令部は即時承認。大東亜連合に参戦を打診。
日本、帝国議会が女性の徴兵対象年齢を16歳まで引き下げる修正法案を可決。
国連、アラスカ州ユーコン基地の拡張工事が完成する。
・1999年、現在……。
国連、本州奪還作戦・明星作戦。国連軍と大東亜連合による、アジア方面では最大、BETA大戦においてはパレオロゴス作戦に次ぐ大規模反攻作戦。横浜ハイヴの殲滅と本州島奪還が優先戦略目的。
8月5日
米軍が数発のG弾を使用。人類史上初ハイヴの奪還に成功。……だが、各国でG弾脅威論が噴出する。
明星作戦で目の当たりにしたG弾のあまりの威力に、ユーラシア各国ばかりではなくアフリカ諸国の一部でも脅威論が噴出し始める。
それとは逆に、米国案を元々支持していた国々は、威力の実証によってより強硬にG弾の使用を主張し始める。
国連に横浜基地の建設を要請。
オルタネイティヴ4の本拠地として、横浜ハイヴ跡地上に国連軍基地の建設を要請。国連は即時承認。横浜基地建設着工と同時に国連軍司令部は米軍に即時撤退命令を下す。
即時承認の主な理由は、米国が強引に推進する第五予備計画に対するG弾脅威派の牽制。
米・ボーニング社、フェニックス構想始動。F-15強化策の実証実験がユーコン基地で始まる。
ボーニング社の戦術機開発部門が提唱した、パーツ換装や軽易な改修でF-15を安価に第三世代機相当性能に強化する構想。
・2000年
来年1月予定、国連横浜基地、オルタネイティヴ4占有区画稼働開始。
1月の段階でオルタネイティヴ計画占有区画が完成し、研究機関が帝大より移設されることになってる。それに伴い、帝国軍練馬駐屯地に仮移設されていた衛士訓練学校も移設。
仙台のものは、もう移してあるけどね」
「オルタネイティブ4、5とは、結局何をするのですか?」
「そうねー。簡単に言うとオルタネイティブ4は、BETAの心を読み取るだけじゃなく、こっちの言葉を伝えて交渉──あわよくば、ハイヴのデータや、あいつらの弱点を聞き出して殲滅してしまおう! って感じ。
つまり情報収集。
オルタネイティブ5は、ラグランジュ点で製造されている巨大宇宙船で、選ばれた十数万人だけを宇宙へ逃がして、残った人達は、G弾の雨を降らすからBETAの駆逐頑張ってね〜。ってとこかしら」
「身も蓋も無い……」
「だって本当の事だもん」
「たった十数万人?……。G弾を使ったところでBETAを全て倒せる訳がない。……それに、残った人達の住む場所はどうなる! 食料や資源まで破壊するつもりか!? …それだけじゃない。ダイダロス計画の成功も怪しいのに何処へ逃げる!?」
知った事の事実に驚愕している真那に、夕呼が更に追い討ちをかけるように言葉を放つ。
「更に付け加えれば、行き着いた先にBETAがいないなんて誰が言い切れるのかしら?」
「!!!」
「向かっている途中で襲われる可能性だってある訳だし……そんな事になったら、宇宙の塵も同然よね?」
「何だそれは! そんな
杜撰な計画、失敗する可能性の方が大きいではないか!」
「それが解らない馬鹿が、第五計画推進派の奴ら。この
地球を見限って早く逃げたいってだけの阿呆よ。…あたしにとってBETAと変わらない存在ね」
次に知った事は、月詠真那にとってもっと辛い事だった。
知らなければ良かったと思う程……
一つは、友となった霞の事……
一つは、掛け替えのない大切な……冥夜の事……
そして、もう一つは……
……笑顔をくれる…あたたかな存在……巧の事……