全国で好条件の皆既月食 2011年12月10日
2011年は皆既月食の当たり年です。6月16日に続いて12月10日には、2011年で2度目の皆既月食が起こります。食の最大は23時半頃ですから、日本全国で月食の全経過を最高の条件で観測することができます。
前回は梅雨時ということもあって全国的に天気が悪く、観測できずに涙を飲んだ方も多かったのではないでしょうか。それだけに今回の皆既月食には期待が高まります。さらに今回は子供さんでも楽しめる時間帯に起こる上、当日は土曜日。皆既月食ということもあって、普段見ることのできない月の変化を楽しんでみられてはいかがでしょうか。
下の星図は最大食となった頃の夜空を、つるちゃんのプラネタリウム シェア版に含まれる「つるちゃんの日食ソフト」プラグイン機能を使って描いたものです。最大食となる頃、月の高度は77度に達し、見上げていると首が痛くなるような高さです。背景にはおうし座をはじめとした冬の星座が輝きます。
最大食分は1.110ということで、皆既月食としては浅い方です。月が地球本影の奥深くまで入り込むことはありませんから、大規模な火山活動でもなければ、オレンジ色か赤銅色に光る月の姿を堪能することができるでしょう。
東京で見る皆既中の月
1.皆既月食とは
赤くなる月
皆既月食が起こる仕組み
皆既月食とは、月が地球の影の中に完全に入り込む現象です。皆既月食になると太陽の光が当たらなくなり、月が全く見えなくなるのかというと、そういうわけではありません。月全体がほんのりと赤っぽく染まり、非常に美しい姿が浮かび上がります。
皆既月食中の月の色や明るさは毎回異なります。明るい時はオレンジ色や赤銅色に見えますが、暗い時はレンガ色、赤黒い色、時によっては灰色に見えることもあります。前々回2010年の皆既月食ではアイスランドで起こった大規模な火山爆発によって大気中の細かいチリが多くなり、赤黒く見える暗い目の皆既月食となりました。さて今回はどのような色に見えるでしょうか?
皆既月食中の月が見える理由
皆既月食の月が赤くなる理由
月が地球のまわりをを公転するうちに、地球の影の中へ入ってしまうことがあります。この時、地球の影に入った部分は太陽の光が当たらなくなって欠けて見えます。このような天文現象を月食といいます。冒頭で書きましたように、月が影の中にすっぽり入ってしまった場合は、特に皆既月食といいます。
下の模式図をご覧ください。月が地球の影の中に入るということは、右から太陽、地球、月がこの順番で一直線に並ぶ必要があります。地球から見た月は真正面から光が当たっていますから、満月ということになります。このことから、月食は満月の時にしか起こりません。
月食とは
2..地球の影を通る月の経路
下の図は2011年12月10日に起こる皆既月食の際、月が地球の影を通る移動経路を示したものです。普通の地図とは違って、東西が逆になっていますから注意してください。
薄い黄色の領域は地球の半影で、太陽の光が一部届いています。この中に入っても肉眼で月が欠けていることは、ほとんどわかりません。
一方、赤い丸は地球の本影で、太陽の光が届かない領域です。この丸の中に入ると月食が見られます。最大食の頃には月が本影にスッポリおさまっていますので、皆既月食であることがわかります。しかし本影の中心をかすめることなく、どちらかというと端の方を通過していきます。このことから今回の月食では、皆既中の月はそれほど暗くならないのではないかと予想されます。
月が通る経路と地球の影
3.月食の経過
前々回の月食は、月が欠けた状態のまま昇ってくる月出帯食でした。また前回は、月が欠けたままの状態で沈んでいく月没帯食でした。しかし今回は、月食の始まりから終わりまで全経過を観察することができます。今回の皆既月食がどのように進行していくのか、経過の概略をたどりましょう。
2011年12月10日の月食図
半影食の始まり 10日 20時31.8分 部分食の始まり 21時45.4分 皆既の始まり 23時05.7分 食の最大 23時31.8分 皆既の終わり 23時58.0分 部分食の終わり 11日 01時18.3分 半影食の終わり 02時31.7分 最大食分 1.110
半影食
半影食の始まりは12月10日の20時32分です。半影食は月から見ると、地球によって部分日食が起こったような状態ですから、月の表面には太陽の光が当たっています。このため月は明るくて、肉眼で見ても月食が起こっていることに気づかないでしょう。上手に写真撮影すると月食が起こっていることがわかりますが、肉眼でハッキリわかるためには、本影食を待たなければなりません。
月食の始まり
月食の始まりは日本全国どこから見ても同じ21時45分です。このとき月に地球の本影がかかって、月が欠け始めます。といっても本影の端はぼやけていすまから、始まりの時刻は目安程度に考えておいてください。東京での月の高度は68度もあって、見上げるのに首が痛くなりそうな高さです。
前半
月は左端のやや下側から欠け始めます。時間の経過とともにそのまま左側がドンドンと欠けていき、22時22分に直径の半分が欠けた状態になります。この頃になると月の輝きがいつもとは少し異なり、やや黒ずんでくるように感じます。
22時37分には月の7割が地球の影に入ります。この頃から月がほんのりと赤っぽく見え始めます。また次第に月の光る方向が右下側に傾き始めますから、この点も注意して見ておいてください。
22時55分になると、欠けた割合が9割を超えてきます。ここまでくれば赤銅色に染まった部分と光っている部分の対比がとても美しく、ため息が出るほどです。皆既まであと10分しかありませんから、この美しさを十分に味わっておきましょう。
月食の開始前から皆既が始まるまで 12分間隔
皆既月食
23時6分に皆既が始まります。といっても地球に大気があるため、地球の影は境界がはっきりしません。皆既が始まった頃は、皆既といえば皆既だけど、まだ始まっていないといえば始まっていないようにも見えます。また、月全体を見ても、本影の外側ほど月の表面は明るく見えます。時間の経過とともに明るさの分布状態が変化しますから、この点にも注目しましょう。食の最大は23時2分ですが、今回は食分が1.10ということで、本影の奥深くまで入り込むことはありません。皆既中の月の明るさは月食のたびに毎回異なりますが、今回の場合は比較的明るいのではないかと思われます。最大食頃、東京での月の高度は77度もあって、上を向いて観察するのは大変です。そんなときは寝転んで観察すると、疲れ方が全然違います。
皆既月食は52分間にわたって続きます。皆既が終わる時刻は日付が変わる直前の23時58分です。
後半
復帰は月の左下方向から始まります。月が光り始めたかなあと思ってしばらく見ていると、時間の経過とともにドンドンと光る部分が大きくなっていきます。これを見ていると、皆既月食は終わったんだなあと思わされます。赤銅色をした美しさは次第に失われていき、通常の満月の姿を取り戻していきます。日付が変わった11日の0時27分には7割、0時43分には月の半分が欠けた状態に戻ります。これとともに、月が光る方向は左下から次第に上側へ移っていきます。
皆既の終了から月食が終わる頃まで 12分間隔
月食の終わり
月食の終わりは1時18分です。地球の影は月の右端からやや下側へ抜けていき、月食が終了します。この時東京での月の高度は64度で、まだまだ高い位置にあります。
半影月食の終わり
月食が終わっても半影月食はまだまだ続いています。しかし肉眼で見ても月が欠けていることにほとんど気づかないでしょう。半影月食が終了するのは2時32分です。
4.場所による見え方の違い
月食の場合は日食と違って、日本全国どこから見ても同じ見え方をします。言い換えると開始や終了といった時刻や欠ける割合(食分)は、全国どこで見ても全て同じです。といっても観測場所が変わることによって違ってくる点もあります。
月が見える位置
観測場所が変わることによって一番違ってくる点は、月が見える位置です。見える方角や高度が少しだけ異なるのです。といっても北海道と九州で比較しても、それほど大きく違うものではありません。月出帯食や月没帯食の場合は観測場所が影響してきますが、今回のように空の高い位置で起こる場合は、大した影響はありません。詳しくは次のリンクをご覧ください。
場所による月の位置の違い
欠ける方向
場所が変わると月が欠ける方向も少しだけ違います。下に示した札幌と福岡の違いを例にしましょう。欠け始めの頃、札幌では左側の真横が欠けて見えますが、福岡では真横よりもやや下方向が欠けていることがわかります。といっても大した違いではないことがおわかりいただけるでしょう。
欠ける方向が違う例(開始から5分後、札幌と福岡)
南が開けた場所
今回は月の位置が高い所で月食になりますから、観察する場所にそれほどこだわる必要がありません。南の方角によほど高い建物や障害物がない限り、月食を楽しむことができます。
明るさと色
皆既中の月の色は毎回異なります。昨年2010年12月の皆既月食では、同年4月に起きたアイスランドでの火山爆発によって大気中に撒き散らされたチリの影響を受けて、暗い目の月食となりました。今回の皆既月食ではどうのような色や明るさに見えるのかが注目されます。
皆既中の月をよく見ると本影の中心に近い側は暗くなり、反対側は明るくなります。また、時間の経過とともに刻々と変化していきます。今回は月が地球の影の奥深くまで入ることはありませんから、比較的明るい皆既月食が見られそうです。色はオレンジ色か赤銅色といっておきましょう。
双眼鏡や天体望遠鏡を準備
美しい皆既月食をじっくり観測しようと思うと、やはり天体望遠鏡に勝るものはありません。といっても天体望遠鏡は大掛かりになってしまいますから、双眼鏡をお持ちの方はそれでもよいでしょう。肉眼で見た場合よりも大きく詳細に見えますから、感動の度合いが違います。肉眼よりも双眼鏡。双眼鏡よりも天体望遠鏡がよいでしょう。
欠け際に注目
日食と違って月の欠け際は少しぼやけていてはっきりしません。これは地球の大気によって地球の影の境界がはっきりしないためです。肉眼でもわかりますから、一度確認してみてください。地球の影が月に映し出されていることが実感できて、何か言い知れない感動があります。
クレーター
普段のように月の欠け際付近のクレーターを観測しようと思っても、ハッキリ見ることができず、思ったように観測することはできません。これには理由があります。普段なら太陽光が斜めから当たるので影ができ、クレーターが立体的に見えます。ところが月食中の月はあくまでも満月です。太陽光が月の正面から当たっているためクレーターの影ができず、立体的に見えないのです。クレーターを観測するなら通常の月の方が良いでしょう。
星座も見える
満月の頃には強烈な月明かりで暗い星はよく見えません。しかし月食になると月の光が和らぎ、星座がよく見えるようになります。最大食の頃にはオリオン座が南中しており、冬の星座が勢ぞろいしています。皆既は1時間弱ほど続きますから、この間に星座探しをしてみられてはいかがでしょうか。
6.写真撮影しよう
皆既月食中の月の姿を写真におさめておきたい方も多いでしょう。専門的な撮影方法は他サイトにおまかせすることにして、ここではコンパクトデジカメによる簡単な撮影方法を紹介しましょう。
三脚に固定
昼間の風景写真と違って暗い皆既月食を撮影するわけですから、どうしても露出時間が長くなってしまいます。最近は手振れ防止機能が付いた機種も増えていますが、そんな程度では追いつきません。普通に手持ちで撮影すると間違いなく手ブレしますから、カメラを固定して撮影する必要があります。
基本的にはコンパクトデジカメは重さが軽いので、千円程度で販売されているような簡易的な三脚でもOKです。ただ今回は真上に近い方向へカメラを向ける必要がありますから、バランスが悪くなります。新たに購入される場合は少しガッチリしたものを購入されたた方が良いでしょう。ピント
被写体の主人公となる月は非常に遠い所にありますから、ピント位置は無限遠になります。数字の「8」を横倒しにしたような形「∞」が無限遠のマークです。もし設定が可能な場合はこれに固定してください。ピント位置を固定できない場合は、月そのものや、できるだけ遠くの景色にピントが合うようにカメラを調整します。うまくいかずにピンボケする場合は、撮影モードを「星景モード」、「遠景モード」や「風景モード」に切り替えてみましょう。露出時間
月食撮影で最大のポイントは露出時間です。特に皆既中は影の中心側と外側で明るさが違っていたり、進行具合によって月全体の明るさが変化したりして、適正露出を得るのは結構難しいものです。よくわからない方はとりあえずフルオートで撮ってみてください。
それからたいていの機種で、露出補正機能がついています。これを使ってEVの値を変えながら、何枚か撮影してみるのがよいでしょう。また、シャッターを押した際にカメラがブレないよう、セルフタイマーを使うのも忘れないでください。
7.次回の月食
次に見られる月食は、2012年6月4日に起こる部分月食です。このときは視直径の3分の1くらいが欠けて見えます。次回の皆既月食となると、3年後の2014年10月8日まで待たなければなりません。このときは20時前ごろに皆既となりますから、子供さんでも見やすいでしょう。
月食一覧表
前回の皆既月食 2011年6月16日 月没帯食となる皆既月食
次回の皆既月食 2012年6月4日 3分の1が欠ける部分月食
※このページに出てくる画像は主に「天文ソフトつるちゃんのプラネタリウム シェア版」の「つるちゃんの日食ソフト プラグイン機能」を使用しています。