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[19683] 【ML編終了】僕と兄貴と銀河天使と (現実→ギャラクシーエンジェル)
Name: HIGU◆bf3e553d ID:4f1e9adc
Date: 2011/12/07 19:12
この物語は常に全力な主人公が空回りながら頑張るお話です。
序盤の主人公のキャラ付けは意図的に行っているものです。
エンジェル隊と同じくらいには強いです。
主人公の機体があります。
主人公はムーンエンジェル隊とはくっ付きません、少なくとも本筋では。
彼女たちは全部タクトの嫁だと思います。
それどころか、ヒロインとくっつくのでしょうか?
作者が一番わかってません(プロットはあるのですが)

なろうのほうは初期プロットを少しだけいじったやつで
そちらは完結してます。(最後以外あんま変わりません)

長くなりましたが どうぞ



[19683] 第一話 『第1章日常世界』から『第7章現代ファンタジー』の構成でした。
Name: HIGU◆bf3e553d ID:4f1e9adc
Date: 2011/11/15 19:46
第一話 『第1章日常世界』から『第7章現代ファンタジー』の構成でした。

やあ!俺は 蒼龍 刹那
日本人みたいな名前だけど 母親はイギリス人で
髪の毛は金色 目の色は青。身長は188cmの18歳
あんまり大きな声じゃ言えないけど、俺実はトリッパーってやつなのだ。
死んだ時に神様に会って、ちょっと力を貰って転生した俺は、いろんな世界を回って平和を維持している。
具体的には自分のことしか考えない、自己中心な厨二的オリ主を倒すのが俺の役目さ!
どんなやつでも俺の闘気を圧縮して打ち出す技 「神破断滅弾」で一撃だぜ!
まあ、昔俺が未熟だった頃は、たくさん失敗したけどな。そのせいであいつも………。
おっと、今話すことじゃなかったな。忘れてくれ。
でも最近悩みがあるんだ、妹分の幼馴染と、近所のお姉さんがどーも仲が悪そーなんだ。
朝起こしにくる時とか、昼の弁当の時とかいつも争っている。 昔は仲良かったのにどうしたのだろうか?
他にも、クラスメイトとかに俺がお礼を言ったりする時、笑って「ありがとな」っていうと急に皆よそよそしくなるのだ。
本当にどうしたのだろうな?
おおっと!出動の連絡だ! やっぱり俺は今日も闘わないとな!戦場がオレを呼んでるぜ!!
TTOJ(Trippers Team Of Justice)の切り込み隊長 SETUNA SORYU として!!



























14歳の時の「僕の来世帳」 第4章最強系 候補7 より(通称黒歴史ノート)抜粋 






「ああああああ~~~~!!!!!!!!!!誰か僕を殺してくれ!!!!!!!!!!!」


えーと、始めまして、絶賛絶叫中の僕は大田達也 19歳
どこにでもあるような名前と、何所にでもいそうな外見の持ち主だ
身長170cm 体重75kg 黒髪に茶色の目、若干猫背ぎみ。
体格はいいけど特にスポーツをやっていたわけではないので、べつに喧嘩とかに強いわけでもない。
彼女いない暦14年。これだけはゆずれない、人生=じゃないのだ。

さて僕のことを長々と語ってもつまらないし、現状を説明すると………


「えーと、今度は人外とのハーフ系か………なになに………「やめろ~~!!!!!!!!」


えーと、引越しを友達に手伝ってもらったのが運の尽き、仕舞ってあったブツを発見されて僕の目の前で読まれている。
何とか阻止しようとしているのだが、さすがに3人で押さえつけられたら身動きなんて取れない。
四対一とか卑怯だろう、常識的に考えて。


「悪魔と天使のハーフの父親と、世界一の魔法使いである母親を持つ俺の名前は『闇の番人』ラザフォード=N=カイザー………英語とドイツ語のごっちゃにかよ………うわー。しかもラザフォードって苗字だぞ」


もう止めてくれえええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!












「ああ………酷い目にあった。」


あいつらが帰って2時間後。あいつらが一通りからかって引越しの手伝いも終わらせて帰ったあと。
僕は4畳半の和室で仰向けに倒れていた。きっと今鏡を見たら、ハイライトの消えた目が見えると思う。

経験のある人はわかるかもしれないけど黒歴史ノートは暴露されると本当にきついね。
親にベッドの下に隠してあるアレなものを机に出されるのより精神的に来るものがあるよ。


「畜生………僕が何をしたって言うのだ。」


あんなやつらもう、友達と呼ぶものか!!………あれ?僕ってそうするともう友達がいないよーな………。
ええーい!そんなことどうでもいい!今は荒んだこの心を癒すべくゲームをするぞ。


「さて………昨日インストを終えたばかりの奴でもやるかね。」


さっきは言わなかったが、僕はいわゆるオタクと呼ばれる人種だ。
人種ってなにさ。みたいな方もいるかもしれないが、僕はそう思うから割合する。
僕は、アニメとかラノベより、ギャルゲーのほうが好きで、ほとんどコレにお金をつぎ込んでいる。

生まれて始めてやったギャルゲーはギャラクシーエンジェルシリーズだ。
僕の一番のお気に入りで、今でもついついやってしまう作品だ。
何よりも好きだ!!みたいなヒロインはいないけど、一部の例外を除いてはどのキャラクターも嫌いじゃない。

シグルト・ジーダマイアとかぐらいだね、嫌いなの。あとその参謀。
エオニアだって、彼なりの考えがあったのだと思うし、レゾムだってどこか憎みきれない馬鹿さがある。

ついつい語ってしまったが、実を言うと僕はこんなにもGAが好きなのに『Ⅱ』をやってないのだ。
なんというか、ストーリーは知っているけど、手をつけていないのだ。
理由は笑っちゃうような物だけど、自分で攻撃できるモードがあるのがどうも気に入らない。
やっぱり、タクトの指揮下で指示によって動く戦闘にあこがれるのだ。

とまあ建前はそういう事にしている。本当のところは、
「エンジェルと肩を並べて戦える主人公に嫉妬して感情移入できない気がする。だよね………やっぱり。」
そう、やっぱり僕も男の子である、年齢=彼女いない暦ではない(ココ重要)が、それでもやっぱりそういう感情はあるのだ。

え?ゲームのキャラクター相手に何言っちゃっているの?だって?
ふっ………貴様は今世界中の人間の数割を敵に回したようだな………。
え?多すぎだと?いやいやきっとそんな事ないよ。コレぐらいが妥当な割合だよ。
まあいいや、ともかく僕はいわゆるオリ主みたいな存在になるのにすごく憧れていたのだ。
だからこそのあのノートだしね………。

さて、こんな話おいといて………ってあれ?
ゲームを起動しようとしたPCの画面を見ると、ディスプレイいっぱいに黒い背景に白地でメッセージが書かれていた。


「何だ、これ? 『おめでとうございます。あなたは別に選ばれたわけではないけど、こちらの一身上の都合により、転生してもらいます。』だ~?」


おいおいおいおい、テンプレだよ。この後画面に吸い込まれるか意識が真っ暗になるのだろ?きっと。
やべーよ!オリ主だよ!オリ異世界か?それともどっかの作者が書く二次創作か? うおー!テンション上がってきた!!


「お!続きが出た!『能力を差し上げます。なにかはおのずと解るでしょう。では5秒後に開始します。5・4・3・2』おおー!!」


そのとき僕はその能力にすごく期待していた………。でもまさかあんな能力を貰うなんて思いもしなかったのだ………。




みたいなこと言うと最強形じゃなくなるから決して言わないぜ!さあ、カウントが0になるぞ!


『1・0 いってらっしゃい もう戻って来られないけどね。』
その文字を僕が読みきった瞬間。昔のコントみたいに床がぱっかり割れて僕は落ちていった。
















やあ!僕は太田達也だったものさ、今の僕の名前はタクト・マイヤーズ そう、ギャラクシーエンジェルの主人公さ!!

彼みたいな柔軟な発想が出来るかわからないけど、今の僕は原作知識を持っているからね………子供のうちから勉強すればなんとか代役くらいは出来るだろ。レスターもいるし。

さーて、早くエオニアクーデター始めないかなー。エンジェル隊は皆僕のものだぜ!!



















なんて展開にはなるわけもなく
普通に僕は転生した。まあ憑依じゃなくて転生って言っていたものね。
現在の僕の名前は………


「ラクレット、お父さんが呼んでいるから来なさーい。」

「はーい。」


今呼ばれた通り僕『太田達也』の名前は ラクレット ラクレット・ヴァルターって名前になった。
確かスイスか、フランスだかのチーズの名前だった気がするのだけどまあ気にしてもしょうがないのでいいや。
髪の色と目の色は限りなく黒に近い青です。普通に黒に見えるけど、よく見るとダークブルーってやつ。本当に濃い色だけど。
ちなみに家族ではこの色は母さん似だ。父さんや兄さん達は、薄いブルーだ。そして、家族みな美形だ。僕は前世の顔ほぼまんまだ。理不尽である。



僕の住む星は辺境であるクリオム星系にある星で、
特に名前はないというえらい田舎な星だ。便宜上、クリオム星系第11星というらしい。エリアならぬ、プラネット11ですね。
星の大きさも結構小さい、と言っても前の世界の月と同じくらいだけど。
重力とかそういうのは、ゲームだからなのか知らないけど、皇国内では共通だそうだ。
まあ重力発生装置があるのだしその辺を使っているのだとは思うけど。


さて、ここでちょっとこの世界について説明しておこうと思う。
まず、トランスバール皇国には3種類の星がある。皇国の直轄星(通称直轄星)と、皇国貴族領星(貴族星)、そして、現地政府の自治権の認められている星(自治星)の3つだ。
直轄星は、その名の通り皇国の直轄領で、トランスバール本星を中心に、全体の4割ほどだ、辺境に行けば行くほど少ない。
貴族星は貴族の領地でおおよそ全体の3割ほど。だいたいが直轄星を囲むように存在している。
最後の自治星も3割ほどで、コレは基本的に辺境の星となる。
まあ自治と言っても、軍の規模とか、中央への上納金の額とか決まっているから、属国みたいなものだね。
僕の住む第11星は、当然自治星となっている。


ともかく、これから僕はどうしようかと悩んでいたら母さんに呼ばれたのだ、いや、父さんか。
何で悩んでいるかというとこれからの介入予定についてだ。
そもそもこの世界には先ほど軽く述べたとおり貴族制というものがある。
こんな辺境にすんでいる人物はよほどの努力をしない限り、中央で何かを成すなんてことは出来ないのだ。
まあ、軍の士官学校に通うくらいならそこそこのお金さえあればいけるんだけどね………基本的に慢性的人材不足だし。

問題なのはどのような兵科に行くかだ。普通に考えて、原作介入には指揮官とかになるのが一番なのだろうけど。
自分レスターみたいに優秀な人物でもないのだ。
かといって、既存の紋章機の………例えば『カンフーファイター』のパイロットになったら、ヒロイン達の誰かとは会えないし、原作から離れすぎるし、何より自分に適正があるかどうかもわからないのだ。
何気にこの世界って、市民Aからの原作介入が難しいのである。まあ、前例というか二次創作が少ないのも原因なのだろうけど。
リリカルな世界とか少年魔法先生の世界みたいに、前例が山ほど確立されているわけじゃないからね。



「で、何か用事?父さん?」
「ああ、今日でラクレットも5歳になるからね。ちょっと見せたいものがあるんだ。ちょっとついてきてくれないか?」
そういえば、今日は僕の5歳の誕生日だった。
そう言って歩き出す我が父の背を僕は歩いて追いかける。


さて、歩いている間暇だからこんどは僕の生活について少し説明しておこうか。
この星の生活水準だけど、結構高い、イメージして欲しいのは、地球の現代でヨーロッパのほうの田舎暮らしだ。
水は湧き水だけど、電気はあるし、ガスもある。普通に地球と同じだ。
まあ、惑星間移動とかが出来るからね………田舎でも大して差はないのかね。

家族構成は両親と兄二人だ。もっとも兄さん達は今学校のため別の星に行っていて、年末くらいにしか帰ってこないけど。
上のエメンタール兄さんは、クリオム星系の本星にある学校に通っている。僕の9歳年上で、いま14歳のはず。やっていることは普通の勉強らしい。将来は家を継ぐから、いずれは農業関連の勉強をしたいといっていた。まあ、普通の人だ。

下のカマンベール兄さんは、7歳上。12歳ですでに、トランスバール本星の大学院で研究をしている。何かロストテクノロジーの研究をしているらしいが、詳しくは解らない。「ロストテクノロジー研究の若き天才」とか呼ばれていた。いずれはどこかの研究所で働きたいらしい(ロストテクノロジー研究の総本山の白き月の巫女は、まだ男性ではなれないらしい) 結構な変わり者で、よく独り言をつぶやいていたりしている。

両親の職業だけど、父さんはなんとこの星の総督だ。と言っても名前だけでやっていることはたいしたことはなく、会社でいうと、日本の企業の海外支店長みたいな役目らしい。何でそんなことやってるかというと、昔々ご先祖様がなんかこの星の開拓をしたんだと。
クリオム星系は星系でひとつのまとまりなっていて、エメンタール兄さんが行っている星に国会があり、そこで決めた内容に従うというのがそれぞれの惑星の役目みたいな感じである。
イメージ的には、農業用プラントの代表者(名前だけで権力は無い)みたいな感じかな?
第11星は、住民のほとんどが農業に携わっているから。まあ祭りの時とか何かあるとき以外は普通に、執務室でなんかやっているだけだけどさ。ちなみに家の畑は別の人が管理してくれている。

母さんはいわゆる専業主婦に近い。たまに父さんの仕事を手伝ってはいるけど基本的にはそうだ。使用人とかいても、家事が好きな母は自分でやるのだ。

ちなみに、アニメとかエロゲとかによくいる年齢不詳の母親じゃあない。でもなぜか父親は無駄に外見が若い。14の子供がいるくせに、20台くらいにしか見えない。どうよ、それ?

家はまあ、田舎ならこんなもんだろうってぐらいには広い。100m四方くらいの土地に家が建っている。回りは皆畑で、最寄りの町まで車で30分。
なんでも昔からの名家らしく、代々総督なのだそうだ。まあ、名前だけで基本的に権力持たないのだけど。貴族じゃないからね。

しかも上の兄さんが後継ぐから、僕は好きなものになっていいそうだ。この辺は感謝だね。


「父さん、見せたいものって何?」

「ああ、ヴァルターの家が代々受け継いできたもので、裏山の洞穴の奥にあるものさ。」

「代々受け継いできたもの?」


おいおい、なんか面白そうなものじゃないか。コレはオリ主パワー覚醒アイテム入手イベントか!
魔王…失礼、魔砲少女のところのデバイス見たいな感じの。


「ああ、なんでも、ご先祖様が使っていたものらしく、『意志ではなく、その友により、この翼は動かされん』っていわれていてね。」


その時僕はピン!と来たね、オリ紋章機きた!!!!って。コレで僕が乗れて覚醒イベントですね解ります。


「へー、どんなのなの?」

「それは見てからのお楽しみさ。」











(おいおいおいおい、なんだよこれ………)
裏山の洞窟についた僕は、父さんの案内で奥に進んだ。
中はひんやりしていて、そんなに奥まで深くも無く、懐中電灯があれば余裕で見渡せるくらいだった。
1分ほど歩いたら少し開けた場所に出た。

そこにあったのは、青色の装甲を持つ、僕の主観からすれば巨大な戦闘機のような形のモノだった。


「驚いたか、これはな、我が家に伝わる、ロストテクノロジーかも知れないものだ。」


というか、すごくマイナーだと思うが、これはプリズムアークに出てくる攻速天使ラディェルに少し似てる。
アレは装甲が赤いが、それを丸々黒色っぽい青に変えたものだ。僕の髪と同じ色だ。
うん、ぶっちゃけ紋章機っぽいもんねあれ。翼あるし。
両手は、装甲とくっ付いたジャベリンではなく、剣のようなものを握っている。


「これに乗れるものが生まれた場合、そのものに授けよ。と代々言われていてな、俺も5歳の時にやったがうんともすんといわなくてな。もちろんエメンタール達も試してみたけど、動かせなかったんだ。二人ともたいして気にしなかったけどな。」

「つまり、僕が動かせたら、あれ、僕のになるの?」

「そうだ、100年以上前に来た調査団も、この洞窟から出すことが出来なくてな、動かせたらあげるといわれてしまったよ。このはしごを上って中に入ってみろ。そして座席に座って両手でレバーを握る。それで動いたらお前のものだ。」


この洞窟は、入り口は狭いけど、紋章機がおいてあるところはホールみたいな吹き抜けになっている。
この上のから吊り上げようとしても、紋章機自体が固定されていて起動しないと動かないそうだ。

にしても、うんともすんともいわないとかいうのから考えて、オリ紋章機か………いや、それとも漫画版かな?確か2つくらい別のもの正式名称不明みたいのがあったし。
まあいいや、今わかることでもないし。


「じゃあ、乗ってみるね。」
僕はそう言って、設置されている梯子を上りコックピットに入った。






















そして僕は、紋章機 を起動させることに成功した。




自分で書いていてあれですが・・オリ主うざいですね。だんだん改善していきたいとは思うのですが、こういうキャラなので。



[19683] 第二話 しかしながらピーマンは好物です
Name: HIGU◆bf3e553d ID:4f1e9adc
Date: 2011/01/15 14:53





第二話 しかしながらピーマンは好物です

はいはい、どうも主人公のラクレットです。
紋章機をあっさり動かせるようになった僕は、現在7歳です。
アレからすでに、2年たっているのだよねー。
最近では、紋章機を実家の上空で飛ばしたり、許可とって近くの小惑星帯で訓練したりしています。
しかも、僕の紋章機は変形するのだ!!戦闘形態と移動形態のふたつに!!
戦闘形態でも速度はカンフーファイター並で、装甲はハッピートリガーより少し弱い程度、さらに燃費は物凄く良い。
移動形態は攻撃がほとんど出来ないけど、カンフーファイターより少し速く飛べる。というチート性能!!
すごく順調な、僕のオリ主ライフ!!
このまま原作まで突っ走るぜ!!





































今回は別に嘘は言っていません。

僕は、紋章機を動かせることがわかった後に、とりあえず白き月に報告しようと思って、ちょっとしたコネクションを持っている兄に頼んだ。
ぶっちゃけると、シャトヤーン様が見たかったって言うのもあったのだけれど。


今まで説明してなかったから言うけど、僕が生まれたのは、398年 解りやすく言うと、ヴァニラの一個上になる。
だから、僕が5歳になったのは原作開始9年前、だいたいシャトヤーン様がシヴァ皇子を出産したくらいになるのかな。占領と同時に妃になっていたからね。

それはともかく、そういう理由で、謁見は難しいかなと思っていたのだけど、案外半年後にあっさり謁見することになった。やっぱ、紋章機っていうのは大きいね。



「ここが、白き月か………外から見た以上にでかいな………とても人工の天体だとは思えない。」

今僕は白き月の謁見の間に向かって案内されている。家から、トランスバール本星にある白き月までいろいろ経由しなければいけないから4日かかる。子供が一人で行くのには少し長い旅程だと思ったのだけど、両親は別に僕一人で行くことを許可してくれた。まあ、カマンベール兄さんみたいにもっとしっかりしている人もいるしね………。

それで、白き月の港についてから、移動用の乗り物(名称がわからない、エレベーターみたいになっているから暫定的にそう呼ぶことにする。) に乗って移動して。さらにその後今20分ほど歩いている。


「ええ、とても驚いたでしょう?ここにはたくさんのロストテクノロジーがあってね、私や貴方のお兄さんはそれを研究しているの。」


僕を案内してくれているのは、兄さんの知り合いというか、大学時代同じカリキュラムをとっていたらしい、タルトさん(25歳)だ。

僕の口調が若干大人びすぎているのにも特に気にしない良い人だ。大抵の人は驚くものなのだけど。
まあ、直接聞いてみたら「君のお兄さんで慣れているよ。だって、6歳で私と同じ大学に入ったんだよ?」 だそうだ。 なるほど、確かにそうだね。


「さて、この扉の先に、白き月の聖母シャトヤーン様がいらっしゃるから。決して粗相の無い様にね。」

「はい。ありがとうございます。」

僕が、扉に近づくとブゥゥゥンという音とともに緑色の光があふれて、扉は開いた。 無駄に凝った自動ドアだと思う。
そのまま中に入ると、そこには

「貴方が、ラクレット・ヴァルター君ですね。私が白き月の聖母シャトヤーンです。」


僕が始めて見る原作キャラがいた。正直見惚れてしばらく声が出なかった。皇帝が戦争をしてまで妃にしたのも解った気がした。









まあ、どんなことを話したかは詳しくは省くけど、

許可はするから、緊急時になったら力を貸して欲しい。

てことを言われただけ。 僕も元からそのつもりだったし、僕の紋章機についていた、『クレジットカード大の発信機』を渡した。(どーせ、使わないからね………、この後、市販の民間用つけたし)

コレで、9年後に白き月からエルシオールが出る時、シャトヤーン様がルフト准将に渡してくれれば良い。

一応将来何かあって脱出しなければいけないときが来たら、それがある場所へ駆けつけます。みたいなことを言っておいた。さすがに黒き月の事は言わなかったけど軽くほのめかしておいた。

無理でも僕の紋章機所持の許可のために契約書を書いてもらったからそれでいいし。

あと、「将来は白き月の近衛隊に入ってくれるとありがたいのですが」て言われたけど、まあそれは、僕が大きくなってからということでお茶を濁した。

だって、これからかなり体制が変わるからね。

さて、一応僕の紋章機は、分類的に金持ちの持つ小型の宇宙船扱いになった。
速度は戦闘機を余裕で越えるのにね。

何でそんなことになったかというと、シャトヤーン様の許可が出たからもあるけど、何よりの理由は。


この紋章機  「武装がない」  のだ。


腕みたいな部分が剣を握っているだけで、レールガンも、レーザーも、ミサイルも、フライヤーも、アンカークローも、ナノマシンもない。

剣にしたって、僕が乗って『クロノストリングエンジン』を動かして初めて使える。(剣の周りに、エネルギーが展開されて青白く輝く)

要するに燃費がいいのは、剣しか武器がついてないからなのだ。

そして、戦闘機が持つ剣は、皇国の法では、兵器ではなく装飾品になるのだ、実際に切れるにもかかわらずに。

つまりは、所持はシャトヤーン様に、使用は皇国に認められたのである。
だから、一応税金を払っとけばそれでいいのである。














「よし!!行くぞ!!」

そう言って僕は、左右のレバーを握る。頭上に天使の輪の様な『天使環(エンジェルリング)』が展開する。

『Human-brain and Artificial-brain Linking Organization System』 通称 『H.A.L.Oシステム』が起動し、僕の精神と紋章機のシステムがリンクする。

『クロノストリングエンジン』から、エネルギーが全身と紋章機にめぐるのが解る。

戦闘形態から離陸して移動形態に切り替える。
今僕がいるのは、スペースデブリの集積場の入り口だ。と言ってもただの小惑星帯だけど。

ここはよく僕が訓練に使う。さっきも言ったが僕の紋章機は、弾薬が全く搭載できない。
だから訓練中の武器代でお金がかかることもないし、燃料も『クロノストリングエンジン』から発生するエネルギーなので、問題ない。

パーツの劣化とかは当初心配していたが、ナノマシンによる修理をしてくれる会社があるのでそこに頼んでいる。
そのお金は親が出してくれている。
と言ってもこの訓練自体二ヶ月に一回くらいだし、たいした事はしないから、半年に一回で済んでいる。
出力も、自分のテンションで引き出せる3割くらいでしか動かさないことにしているし。

上下左右、直角に曲がったり、回転したり。時には機体を90度傾け縦にして。
とにかく進む、このゴミの山の中。さっき軽く言ったけど僕がやっているのは訓練だ。

『クロノストリングエンジン』を使っての高速移動で、障害物のすれすれを通ったり。それを慣性飛行でやったり。戦闘形態に切り替えて、自分より大きなデブリに近づいて切りつけたり。要は近接戦の練習だ。

この訓練は、もう1年以上続けているけれども、正直あんまり上達した感じはしない。紋章機の操縦自体はかなり簡単だった。まあ、乗れるか、乗れないかの問題がメインだったと言うのもあるし、ミルフィ-ルートですらミルフィーはエースだけど紋章機の腕はそこまでじゃない、見たいなことを言われてたんだから。

もちろん上達した部分もある。僕は最初からどうやって動かすのが理想的なのかがなんとなく解った。けれど、どうやって攻撃すればいいのかよくわからなかったのだ。とりあえず両手についている剣で、いろいろ切りつけていると、なんとなく最適な使い方が解ったのだ。他にも、慣性飛行やら、そういう普通に動かす以上のやつは、何度かやってみてコツを掴む必要があるのだ。


あと、一回だけ全力で動かしたけど、別に普通に小惑星のなかを潜り抜けることが出来た。
なんかよくわからないけど、周囲の状況が頭に伝わってくるのだ。そういえば、紋章機というより、『H.A.L.Oシステム』には予知能力があったからそれか、または僕のオリ主補正のどっちかだろうと思う。


そんな感じで、この小惑星帯の9割くらい進んだところで、自分の集中力が最大になったのを感じた。
目の前にあるのは、直径80メートルくらいの星だ。
僕は自分の集中力を解き放ち叫んだ。


「今だ!! コネクティドゥ……ウィル!!」


僕のその言葉に反応して既に戦闘形態になっている僕の機体の両手の剣がよりいっそう輝く。

両手に持つ剣を合わせてより一つの大きな剣へと変える。
そのまま星の中心よりやや上部に突っ込むと剣が流れるような動きで、何度も星を切りつける。その剣の太刀筋は剣術のとある型の模倣に過ぎないが、それでもこの程度の物を砕くのには十分だ。
その勢いのまま、星の上半分を貫通して、僕は小惑星帯を抜けたのであった。


僕の紋章機につけられていた名前は 『エタニティーソード』 だったのだ。

特殊兵装は この、紋章機自体にプログラムされてある剣術の型どおりに高速で剣を振る『コネクティドウィル』


なんというか…すごく、ソゥユートとを思い出す名前だ(破壊神?誰それ?)。特に特殊兵装が。

名前にしたって、あれは The Spirit of Eternity Swordだったし。
まあ、名付けた人が同じく転生者だったとか、偶然だとかそんな理由だろうけど、気にしてもしょうがないので、深く考えないことにする。

























そんなこんなで、たまに訓練とかしているけど、原作に対しては布石を打っといただけで介入はしなかった。

あ、一応言っておくと、僕は6歳から普通に学校に通っている。そのうち飛び級でもしようと思っているけど、忙しくなるのである程度操縦の訓練をしてからにしようと思っているからね。


そんな生活がしばらく続き、僕が9歳になってしばらくした頃、エオニア皇子がクーデターを起こした。
もっとも、2週間ほどで、ジーダマイヤが裏切ったことで早々に決着はついたけど。


そんなことより問題だったのは、国外追放になったエオニア皇子の映像を見たときだ。
彼の後ろには、もちろんシェリーだと思われる人がいた、だけどそれだけじゃなくてその横に


僕の兄 カマンベール・ヴァルターがいたのだ。





[19683] 第三話 恋愛原子核?何だ、それは?  byカマンベール
Name: HIGU◆36fc980e ID:731bb480
Date: 2010/06/26 16:49





第三話 ハーレム野郎?誰だ、それは?  byカマンベール









いきなりだが、俺には前世というものが二つある。
一つ目は、ただただ過ごしていた平和な人生。
もう一つは、自分の出来ることを最大限にした、戦いの日々。
おっと、自己紹介が遅れたな。俺の名前は カマンベール。 
カマンベール・ヴァルター だ。

3回目の人生を送っている、しがない技術者志望の人間さ。












俺がまだ、転生というものを信じていなかった頃の話だ。俺は朝起きたらいつも通り会社に行った。

その途中のフリ-ウェイで起こしてしまった交通事故であっさり死んだ。

俺は留学して医学部に入るために渡米した。でもいろいろあって、コンピューターにはまって、必死に勉強しなおしてマイクロソフトに入った。

こっちは日本と違って、比較的簡単に学部を変えられたから楽だった。

まあそんなこんなで、就職してから自分の好きな仕事が出来るという、人生でも有数の幸せな時間を過ごしていた俺だが。

さっきも言ったようにあっさり死んでしまった。

まあ、短いけど充実した人生だったな って思って目を閉じて気がついたら。



もう一回生まれた。
名前も姿も生まれた場所も時代も全然違ったけど、前の『俺』の記憶があったのだ。

その世界の歴史はどうやら俺の知っているものとは全然違くて、宇宙人?と戦争をしているらしい。

しかも人類は圧倒的に劣勢だそうだ。

俺が生まれたのは武家で、両親は二人とも軍人だった。

だったというのは、俺が15になる時に、死んでしまったからだ。

俺は思った、こんな前世の記憶を持つなんて変なガキでも育ててくれた両親。

そんな両親が命をかけた守った国を守りたいと。

他の人から見れば、たいした物でもないことかもしれないし、何より世間的には民のために戦う家に生まれたのだ。

そんなの当たり前だといわれるかもしれなかったけど、俺は確かにそう思ったのだ。

だから俺は、技術廠に入った。

先ほども言ったが、俺はとある武家の次男に生まれたから、特に何かはいわれなかった。

そこで俺は、現在主力として使われている、二足歩行のロボットを、どうにかして強くする研究を始めた。

無人操縦の時の効率運用のためのAIを組んだり、無人操縦の時に後方から同時にかつ迅速に指揮を送ることの出来るシステムも作った。

他にも、普通にOSの改善をしてみたりとかもかした。

結果的にそれがどれだけの人の役に立ったかはわからない。でも俺は精一杯やれたはずだ。

人類の運命をかけたある大きな作戦が終わってしばらくした後に、俺の作ったシステムが正式に国の軍で使われるように決まったのを俺が聞いた時にはすでに俺は、持病で余命わずかだったから。

俺は二回目も人生を送れたことに感謝して、そのまま死んでいった。
なのに!!























「だからき~ぷおんすま~いる、てんしのしんふぉ~に~」

「うっせーぞ、ラクレット!! 通信つないでいきなり歌いだすな!!!!」


さらにもう一度転生してしまったのである。

今度生まれたのは、物凄く文明の進んだ世界だ。

皇国自体は400年くらいしか歴史は無いけど、地球なんてのはもう地図にすら載ってない(元々無かった可能性もあるが)

人類が宇宙に出てからすでに何万年もたっているそうだ。

俺は、なんか金持ちの家の次男に生まれた。両親は普通に優しいし、兄貴はすごく普通な人だし、弟は普通におかしい。

そんな極平凡な家に生まれたが、俺が5歳の時に我が家の伝統ということで、戦闘機を見せられた。

この世界は、結構技術が発展しているけど、旧暦という時代はもっと発展していて、クロノクエイクという災害が起こって、文明が衰退したそうだ。

その戦闘機は、どうやらその時代の産物らしい。うんともすんとも動かないから、我が家の所有物になっているけど。

それを見たとき俺は強く思った、「素晴しいと」 こんなにも優れた機械があるなら自分も見てみたい!!どういうシステムで動かしているのか気になる!!

俺はその時それを強く願った、それ以来俺は、ロストテクノロジーを解析して理解する能力を貰った。

頭の中で声がしたのだから、そういうことなのだと思う。

実際に乗ってみたら戦闘機は動かなかったが、当たり前だ。
俺は技術者で研究者だ。

その後俺は両親に頼んで、本星の博物館に連れて行ってもらったときに、学者先生に頼み込んで本星の大学に進むことが出来た。

この辺は運の要素も強かったが、もし出来なかったら、自分で論文を書いて送るつもりだったから結局変わらなかっただろうけど。

まあ、ともかく今12歳の俺は、去年占領された白き月のことで今一層盛んな、ロストテクノロジーの研究に力を入れていた。

そんな中、確か5歳になった弟から連絡があったのだ。
弟はなんか変だ。なんというか、俺と似ている感じがするからすごく変なのだと思う。

まあともかく、連絡してきて、いきなり歌い始めるとは、よほどいいことでもあったのか?


「で、どうしたんだ?いきなり歌いだしてご機嫌じゃねーか。」


「うん、実は僕、紋章機のパイロットになったんだ!やべーよ、オリ主的覚醒だよ!!」

「オリ主ってなんだよ………。にしても紋章機って………ああ!あれか、あの戦闘機動かせたのか?」


そっか、あれ紋章機っていうのか、知らなかったぜ。ラクレットは時々良くわからないけど名前を知っていたりするからな………。

何でかと聞くと「原作知識によるチートだ!」って訳解らないことを言うからスルーしてるけど。でも基本的に後で調べるとあっているから侮れないというか。

「おう、それでだけどさ、一応はうちのものになっているわけだけど、ロストテクノロジーだし一度くらいは白き月に報告とかすべきかなーと思ってさ。ロストテクノロジーなら兄さん詳しいでしょ?」


「なるほど、それで俺にか。うーん、一応白き月にいる知り合いに聞いてみるから、明日のこの時間に連絡しろ。」


「了解したぜ!」


そう言って、ラクレットは通信を切った。いいねーすごく人生楽しそうだ。
まあ、そういう俺も結構楽しんではいるのだけど………。


「もう、50年以上生きているのだがな………。彼女が欲しいぜ。」

俺が、仕事というか、好きなものにのめりこみすぎる傾向のためか、今まで彼女が出来たことがない。

最初の人生では、魔法使い一歩手前だったし。前の人生でも、兄貴にはいた婚約者も、俺は体が弱くていなかったし。

もっとも、俺は付き合っても仕事にのめり込むのは変わらないだろうから、仕事についてこられるくらい頭の良い女が理想だな。

欲を言うなら、さらに可愛い感じがいいな。

まあ、そんなの早々いないだろうけど。


「さてと………………………あ、こちらカマンベール・ヴァルターですが研究員のタルトさんは………。」
















あれからしばらくたったが、どうやらラクレットは白き月の聖母シャトヤーン様に謁見することになったそうだ。

まあ、そんなことも関係なく、研究に没頭していた俺は、彼の接近に気付けなかったのは当然といえるだろう。



「えーと、この前発見された自身の体を構成する物質を一時的の他のものに変換することができる機械だけど………。」

その日俺は、いつものように、自分のやりたいように研究をしていた。


俺は、ロストテクノロジーがどのように使われていたのかを推測したり、それをどのような形で発展させるかみたいな研究をしている。

前世の影響で軍事転用の方向に発想が行きがちになっているから、今の主流とは違うこともありやや日陰者な俺は、一応自分の研究室もあるので、そこにずっと篭っているようなものだ。


だから、少し前から周りが慌しかったり、上司が自分のデスクや、研究室の清掃に余念がない様子に気付けなかったのである。

そういうわけで後から知ったのだが、その日はある人物が査察に来る日だったそうだ。

「うーん、運用するためには、実際にコレを使用したであろう物を見てみないと使い方が解らないな。」


「お前が、カマンベール・ヴァルターか?」

俺は、名前が呼ばれたので顔を上げると、軽く180cmを超えている物凄くかっこいい男が立っていた。


着ている服はいかにも高貴なものが着そうなものだった。

しかも後ろに付き人のような女の人と黒服のSPまでいる。

「はい、そうですが………。えーと、どちらさまで?」


「余は、エオニア・トランスバールだ。お前は、ロストテクノロジーの軍事運用について研究しているようだな。しかもなかなか優秀だといわれている」


エオニア・トランスバール

確か、現皇王の甥っ子で、王位継承権は存在しない人物だった気がする。

にしても何で俺なんかのことを知っているのだ?



「もったいないお言葉です。皇子」
「謙遜せずとも良い。お前の作った、『レーザー銃に対する防弾シールド発生装置の小型化』はコストはかかるが、大変素晴しいものだと思う。」


ああそれか、最近発掘された、エネルギーを歪曲させる装置を使ってみたやつだ。


「さて、いきなりの本題だが、我の下に来ないか?お前のような男こそ、余が理想とする皇国にふさわしい男だ。」


「はぁ?………失礼。私がですか?」


いきなりの言葉に少々無礼な物言いになってしまった。反省反省。


「そうだ、カマンベール、余はロストテクノロジーを使えば、皇国の領土拡大などはたやすいと常々思っておる。それは、研究をしているお前が一番わかるであろう?」


「ええ、正直規格外なものや良くわからない物も多いですが、概ねその通りかと。」


そうだ、ロストテクノロジーは正直 最初の人生で見た青い狸の秘密道具と同じレベルだ、ほとんど覚えていないけど。

もう、40年以上前だからな。仕方ないけど少し寂しいな。


「しかしながら、白き月を占領しても直轄領にしただけで何も変えないとは。全くもって理解不能だ。(それどころかシャトヤーンの為とは……呆れて物も言えぬ)」


そう言うとエオニア皇子は俺の前まで来て俺の顔を見る。座っている俺とは(立っても155cmしかないが)物凄い身長差だ。

なんだよ、今まだ13になってないのだ。別にそこまで低いわけでもないだろう。
にしても本当に綺麗な人だな、髪も長いし女の人みたいだ。


「白き月は、現在女性の研究者しか受け入れていない。その理不尽に思うところがないわけでもないであろう?(もっとも数年すれば、そこそこの数の男性研究者がいけるように成るとは思うがな。今は、少しでも臣民の人気を取らないと、占領が理由でただでさえ低い支持率はがた落ちだからな。叔父上。)」


そうだ、俺だって最高の環境に行きたい、なによりこんな研究所に俺がいるのは年齢のこともあるが、きっと俺が男だからだ。(研究の内容も、あまり受け入れられてはいないが)

研究者を性別で差別するなと何度思ったことか。


「もう一度言う、余と共に来い。正しい形に皇国を戻すのだ。」


その言葉に俺は、また自分の中で何かが変わったのを感じた。

よくある、この人のために、何かをしたいとか、カリスマに飲まれたとか。
そういうのじゃなくて、もっと単純にただ










こいつについていけば、面白いことが出来そうだ。







というように思えたのだ。我ながら打算的すぎるが。



だから俺は


「この非才なる身にかけて。」






と返し、彼の前に跪いたのであった。
忠誠とかそんなの全くなくただ自分の欲望のために。



















またまた、最低要素、複数の転生者です。
すいません、最初こんなのばかりで。
閑話含めて、原作に突入するまで4話くらいあると思いますが、どうかご勘弁を



[19683] 第四話 前世のバーゲンセール
Name: HIGU◆36fc980e ID:731bb480
Date: 2011/01/15 15:41





第四話 前世のバーゲンセール


それは、久しぶりにエメンタール兄さんが、家に帰ってきた時だった。

僕はその時9歳、エメンタール兄さんは18歳で、ハイスクールの休暇を利用した帰省の時だった。

直接来たわけじゃなく、首都星でやってたアイドルのコンサートに参加してきたらしい。

遠回りなのに……よほどのファンなのであろうね、興味ないけどね。

兄さんが家に帰ってきたあたりでクーデターが始まったらしい、2週間くらいで鎮圧されてたけど。

何気なくテレビを二人で見ていた時、エオニア廃皇子国外追放 というテロップを見て ようやくエオニアが出て行ったなーと 考えていた時だった。

画面が切り替わり、写真の右後ろ、エオニアの背後にいるシェリーの、横にいる家の兄貴に気がついたのは!!!!!



「「な!!なんで兄さん(カマンベール)がシェリーの横に!!!」」

奇しくも、エメンタール兄さんとタイミングと台詞がかぶってしまった。

その後は、執務室にいる父さんのところに兄さんが走っていって、僕は画面を保存して、録画を始めて急いで母さんのところに行った。

僕と兄さんはほとんど同時に母さん達を連れて戻ってきた。兄さんが父さん達に説明しながら動画を見せている間、僕は兄さんの研究室に連絡を入れてみた。

すると、クーデターが始まる頃から、自分で休暇を入れていたらしい。よって全く知らなかったそうで、今ニュース見て研究所でも騒ぎになっているそうだ。


無論兄さん個人に繋いでみても反応は無かった。父さんと母さん達のほうを見ると、ショックで茫然自失としていた。

































それからしばらくのことはあまり思い出したくない。(疲労的な意味で)

母さんはショックで気絶してそのまま寝込んでしまった。父さんは確認の為だ。と言ってトランスバール本星に行った。

兄さんは、僕に母さんを任せると父さんについていった。


別に、僕は転生していたから精神年齢が高いからよかったけど、普通の子供ならどう考えてもトラウマものだろ。



だからそれを受け取ったのは僕が一番初めだった


「母さん!!兄さんから手紙が来ている!!」


いつもの太陽がちょうど真上に昇ったときくらいに来る郵便配達のおじさんから受け取ったのは、カマンベール兄さんからの手紙だったのだ。


後から知ったことだけど、クーデターが始まってすぐに別の星を経由して送っていたらしい。この時代は、手紙は小包みたいなのがメインで郵便はそこまで送られない。通信が便利すぎるからね………。












兄さんからの手紙にかいてあったのは、


5年位前からエオニアと会っていて、たまに使えそうなロストテクノロジーの軍事転用が出来れば報告したりしていたらしい。

自分は、今のままじゃ、満足に自分のやりたいように研究が出来ない。

だからエオニアに付いて行けば、自分の好きなことが出来そうだから自分は付いたのだと。

それと、自分の名前を出さないことを条件にしてもらっているから、家族には迷惑をかけるつもりは無いとも書いてあった。

後は両親と兄に対する謝罪が書かれていた。(僕には書いてなかった。)


ただ最後に『自分は前世の記憶がある。しかも一つだけじゃなくて二つも。』と書かれていて、そんな俺でも育ててくれてありがとうという言葉で締められていた。

















コレを読んだ母さんは、僕の予想を裏切り泣いたり取り乱したりしなかった。というか、「だからあの子あんなに頭良かったのねー。」とかいってニコニコしていた。


正直今まで寝込んでいたのはなんだったのかと思ったが、本人曰く、「自分のやりたいことが出来ないのなら仕方ないわ。」とのこと。


なんでも母さん実はとある貴族の次女に生まれたけど、父さんと会って半場駆け落ちのごとく結婚したのだそうだ。最終的には認めてくれたらしいけど、物凄く苦労したのだそうだ。

だから、本当に自分がやりたいことならそれはしょうがないとのこと。



「じゃあ、あの時寝込んだのは何でさ?」

「いきなり、息子がクーデターに加担していて、首謀者とともに国外追放だったら驚くでしょ?」


いや、まあ確かにそうですが………。お母様切り替え早すぎでは?












さて、母さんの問題は思ったよりずっとあっさり片付いたけど問題なのは、カマンベール兄さんがトリッパーだったことだ。


正直、理解できないほど高度なことをやっていたって言う点から、気付こうと思えば気付けたはずだ。

だって、そんな六歳から大学に通う様な人だぜ?

しかもその後の研究成果に『重力制御を利用した頭につけると飛べる竹トンボ型の飛行機械製作に関しての論文』とか書いているんだぜ? 

青狸のアレだろ………。何で気付け無かったのだと自分に言いたい。
父さんや兄さんは手紙が届いた三日後に戻ってきた。一応手紙内容はメールで送っておいたけど。


そして、二人曰くカマンベール兄さんは、行方不明者扱いに成るそうだ。皇王自らが投資している研究所の職員が、エオニアと一緒について行った事は皇国的には秘匿したいそうで、ニュースを流していたテレビ局に圧力が掛けられたそうだ。


まあ、顔が一度出てしまっているのでそれがどれだけ効果があるかはわからないけど、それでもやらないよりはマシだっていうことだね。結果的に家族に迷惑はかからなかったのだし。

というより原作の時には、5年たつわけで、16歳の兄さんが(タクトと同い年)21になればそれなりに顔も変わってるから問題ないか。



「にしても、カマンベールには前世があったのか。どうりで頭が良かった訳だな。」


「夫婦そろって同じ台詞かよ。」


「ハハハ、俺と母さんの愛は最強だからな。」


うぜーよ親父、外見はともかく。実年齢考えろよ。もう50手前だろが。

母さんも笑って「もー、アナタったら。」じゃねーよ。



そういえば気になったので祖父のことも聞いてみたが、父さんに家任せたあとどっかにふらりと旅に出てそれっきりらしい。


「カマンベールは、自分のやりたいことをするためにエオニアに協力した。その結果国外追放になった。それはもう変えられない。だろ?父さん」


兄さんが、年齢を考えない馬鹿夫婦によって、この微妙になってしまった空気を元に戻してくれた。

この役目はいつもエメンタール兄さんの仕事だ。いつもご苦労様です。



「それで、エメンタールが母さんとお前に言いたいことがあるそうだ。」


「僕と母さんに?なにさ、兄さん?」

せっかく思ったよりずっとあっさり片付いたんだから蒸し返すようなことは言って欲しくないのだが。
今僕はエオニアが5年後攻めてくるという歴史が変わったらどうしようかとか、実際に戦う時にどうしようか?悩むことは多いのだから。


「ああ、母さん、ラクレット。俺も実は前世が有るんだ。自分が覚えている限り3つ。」



………………エ゛?。イマナント?


「驚くのも無理はないと思うのだが………それと、多分ラクレット。お前もだろ?」


ちょ!!何いきなりカミングアウトした後に暴露していますかこの人は!!にしてもなぜ解った?

自慢げに原作知識で物の名前とかをカマンベール兄さんに教えている時か?それとも、よく歌っていた時か?前の世界の曲を。

あーもう、別にもうなんか言ってもいいけど、このタイミングでかよ………。息子が国外追放されたすぐ後に、息子達が全員前世持ちでしたとか。

普通の親ならショックで気絶するぞ?


「………そうだけど………別に今言わなくたっていいだろ?」


「今言わなかったら何時言うんだよ?むしろタイミング的は最高だろ?」


「確かにそうかもしれないけどさ………母さん達的にはどうなのそれ?」


そういって僕は母さんのほうを見る。するといつもどおりニコニコ笑っていた。父さんのほうも別に驚いた様子も無く………………まあ兄さんから聞いていたのだろうけど。その表情は何時も通りのそれだった。


「別にお前達の前世がなんだろうと、何か変わるわけでもないだろ?」


「そうよ、エメンタールも、カマンベールも、ラクレットも皆私達の可愛い息子でしょ?」


いや、まあそうだけど。ここはもっと、

オリ主的に、こんな元々生まれたかもしれない人格を塗りつぶしているかもしれないのに、自分を本当の子供として扱ってくれてありがとう。

的なイベントにシーンだろ?もっとこう感動的というか、BGMが流れているとかCG一枚手に入ったりする様なイベントだろ?涙を誘うシーンだろ?


「なんとなくお前が何を期待しているかわかるけど、案外そんな物だろ?両親共々すんごい緩いから特に。」


前もそうだったしなー。とエメンタール兄さんは言うと。「喉が渇いた」と言って、台所に向かうためにリビングから廊下に出て行った。

父さんも「仕事が滞っているから。」残して兄さんに続いた。


「こんなにあっさりでいいのかよ………。」


そうつぶやいて、残された僕は二人の出て行った扉のほうを呆然と見つめていその場に立ち尽くしていた。

そんな僕に母さんは一言

「さて、この部屋も掃除しちゃうから、部屋に戻って宿題でもしてなさい。」


といって。



なんかもうどうでも良くなった僕は部屋に戻るのであった。





[19683] 閑話1
Name: HIGU◆36fc980e ID:f00f2e36
Date: 2011/01/15 15:44
閑話 


オレは、多分銀河最強の存在だ。
自惚れでは無くそう思う。
そもそも、これから起こり得る未来をある程度まで把握しているし、
チートな能力も持っているのだ。



エメンタール・ヴァルターそれがオレの名前。
全く、エメンタールと言えば、チーズの王様ではないか、俺にふさわしい。
オレは、何回も生まれ変わりと言うものを体験している。


神に会った事は無い。なぜ生まれ変わり続けているのかは知らない。

最初は、主人公の双子の兄して生まれ、幼少時に故郷が悪魔の襲撃にあった。
その時に弟は父親の杖を、オレは魔法の呪文が書いてある紙を貰った。
そのまま、最強オリ主としてのテンプレのような生活を続けて、封印されていた吸血鬼を救い。
何もかもハッピーENDとして生を終えた。



二度目は、全く知らない世界だった。だが、生まれながらにして最強だった。
その前の世界の、能力がそのまま使えたのだ。
だが、オレは調子に乗りすぎて、全世界に狙われるようになってしまった。
結局、死ぬ直前オレが思ったのは、自重するべきだったと言う後悔だった。


そして、今、ギャラクシーエンジェルという、また知っている世界に生まれた。
前と違い、魔法と呼ばれる力は一切使うことが出来なかった。
オレなりの考察だが、コレは、EDENと呼ばれる銀河に魔法と言う概念が存在しないからではないかと思う。

つまり、NEUEに行けば使えるかもしれないという事だ。
しかし、前回で学んだ俺はそんなに勢いよく介入しようと思わない。
オレは、介入して原作が崩れたら・・などと気にすることは無い。
オレ以外がやるなら勝手にやれ、責任は自分で。仮に世界が滅びても、まあこれだけ生きているならばもういいかとも思えるからか?
だけど、何もしないと言うのは面白くないから、安全そうなイベントには参加してみようと思う。


と言うか、戦闘以外ならいくらでもだ。
また、コレは5歳になったときに気付いたことだが、俺の能力の本質と言うのは、

一度手に入れたものを、もう一度手に入れる

という、なんともまあ、中二臭漂う、転生者向けの能力だった。
とりあえず、自分の最初の世界で使っていたノートPCを何も無いところから取り出してみたり、いろいろ試してみたら、無機物なら何でもいけるみたいだ。
きっと、自分の能力である、魔法もすでに身についてはいるのだが、世界の法則ゆえに発動できないのであろう。


そして、今10歳のオレは、ひたすら普通に生きるフリをしつつ、良く二次創作で見る、現代日本のサブカルチャーで金儲けと言うのをやっている。
最初は、自分のホームページに、冗談半分でとあるアニメに字幕をつけてアップしてみたところ、物凄い量のアクセスがあったのだ。


人の数が多いから、広告料が入ること入ること。一日に300万人も来るのだ、正直阿保かと、馬鹿かと思うような勢いで僕の講座にお金が入ってきた。

なんでも、アニメーションという文化はあるものの、ここまで娯楽に特化したものはロストテクノロジーであり。
しかも、全く知らない言語で話している辺りが、歴史的価値すら有ると言われたのだ。

殺到する「誰が作った」と言うメールには、無回答のまま3ヶ月ほどそのようなペースで回してたある日。


俺は、いろいろよからぬ事を思いついたのだ。
どうせ親の仕事をついでも暇になるのだから、自分で商会でも作ってみようと。
そうして、アニメ、漫画、ゲーム、小説、音楽、他エンターテインメントなど。
娯楽を与えることに特化したグループ 「チーズ」を立ち上げたのであった。


弟が、原作に介入したいと言っている。オレが転生者だとわかってから、その手の話題をよく振ってくるようになった。
こいつは、自分の紋章機を手に入れてから、どんどん自分に酔って来ている。
学校の通信簿に、奇怪な言動が目立つと書かれるくらいだ。
どーやら、こいつの原作知識は1のほぼ全てと、2のおおまかなストーリーくらいしかないみたいで、エルシオールについていきたいと言っている。

まあ、それは問題ないので、頑張れと言ってやった。
オレは、原作ヒロインとかあまり興味ないし。
一目見れればそれでいいくらいかな?弟が、接点持ってくれるなら、むしろありがたいくらいだ。


と言うより、大学で彼女で来たし。
彼女もいるし、将来も安定しているし、副業(こっちのほうが収入がすごい)もかなりの成果を挙げている。
適当に引き出したアニメなどを字幕つけて渡せば、勝手に声を当てたりなどしてくれるのだ。


オレが、実質の最高責任者だと知っているやつはほとんどいないので、気楽なもんだ。
いろいろ、ノウハウをつませたり模しているので、オリジナルの作品もそろそろ評価を受けてきている。


そして、一つの作品ごとに、それの関連商品まで売れるのだ。製造はこちらでやって、販売はブラマンシュに任せている。
あとオレの指示で、とある艦を作らせている。コレは原作介入をするために使おうと思うっている。


まあとにかく、銀河有数の金持ちで、恋人もいるオレは。


「保険も作らずに命を懸けて原作介入なんて、割にあわねーよ。」


コレに尽きるわけである。





こいつは、消極的介入程度しかしないというポリシーです。
まあ、あんまり出てくるキャラじゃないのですが。
もう1話あげます



[19683] 閑話2
Name: HIGU◆36fc980e ID:f00f2e36
Date: 2011/01/15 15:53



閑話 白き月



その日トランスバール星系に無数の無人艦隊が迫っていた。
後にエオニア戦役と呼ばれる戦いの始まりであった。




「謎の艦隊がトランスバール星系から少し離れた宙域にドライブアウトした。」との報告があったとき、トランスバール本星周辺軍の対応は正直見られたものではなかった。


最初はまだ良かった、伝令に懐疑的な上層部が偵察機を送り確認したのである。
しかしながら、なかなか鮮明な絵がとれずに意見がまとまらなかった。
その間に進行ルート上の軍基地が敵の圧倒的な数によっていくつも壊滅状態にされていく。
さらにその事実の報告を目の前にしてもまともに取り合うのは一部の者のみ。大半の幹部達は「我らが無敵のトランスバール軍の艦隊がそのような目にあうわけがない。」といって、まともに考えなかったのである。
後にこの発言は「確かにこの時の皇国は ”無敵”だったのであろう。」といわれるのだが。
閑話休題、彼等が信じることが出来なかったのも無理も無いのかもしれない。
なぜなら先にも述べたように、届いた映像は不鮮明で、通信の状況も悪かったのである。
そのため恒星から発せられた電磁波か何かかもしれないなどとの意見が出たのである。しかしながら結果として黄金よりも貴重であろう時間を溝に捨てるようにして費やしたのである。




第一方面軍の艦隊のうち2割が沈んでようやく状況が動いた。
いや、動いたというより、変化したであろう。
今度は責任の擦り付け合いを始めたのだ。
やれ、あの基地の司令は何をやっている!!など、どれそれの艦隊の艦長がこの沈んだ船の責任を取るべきだ。
結局、本星ならびにその衛星に駐留する軍隊が防衛線を張り終えたのは、正体不明の艦隊の到着予定時刻まで3時間になってからだった。




敵艦隊がトランスバール皇国本星に来るまでに8つの軍基地を壊滅させていた。
しかも対峙した艦隊の4割が沈み、3割は大破、無傷と言ってもいい艦は1割程度しかなかったのである。
この時点で、戦闘を行っていた第四方面軍が首都星近辺に撤退。
その後急遽第一方面軍に組み込まれ、本星近衛軍とともに防衛線の構築を開始したのである。
その防衛線に動員された戦艦の数は、皇国の全戦力の55パーセントという膨大な数であった。
しかしながらエオニアの無人艦は、その倍の数であった。














本星に防衛線が張られた頃、白き月では、急ピッチでエルシオールの発信準備が行われていた。
コレはすべてシャトヤーンの指示によるものであった。彼女はここまで強大な戦力を作り出せるものを1つしか知らない。
もう何度も代替わりをしたために記憶は劣化しているのだが、一つ覚えていることがある。
そのものが来るのならば十中八九本星は堕ちる。そのため彼女はやや無理やりだが脱出の準備を始めていたのである。




白き月防衛軍司令であるルフト・ヴァイツェンもエルシオールの発信準備のために、動いていた。
彼はあくまで司令であるので研究員が主である白き月において出来ることはあまり多くなかった。
しかしながら彼はエルシオールを動かすためのスタッフとして、近隣の防衛衛星の人員を彼の権限を使ってエルシオールに配備させようとしていた。
そんな中、彼は白き月の聖母シャトヤーンに呼び出されたのである。彼は、彼女が脱出するための段取りかと思いすぐに向かうのであった。




「すみませんね、ルフト司令。このような状況でお呼びいたして。」

「いえ、私はここの司令官ですからな。指示さえ出してしまえばほとんどすることがないのですよ。」


確かにそれは事実であったが、まじめなルフトがそれだけで自分の仕事を切り上げるわけもなく、逃走ルートの検討やら、補給する場合の算段やらと考えなければいけないこともあるのであるが。
シャトヤーンもそれが解っているが、あえて口に出さずに本題を切り出す。



「エルシオールですが、最優先でしていただきたいことがあります。」
「最優先でですか?」

シャトヤーンの表情が真剣なものになったために、その神秘的で神々しい雰囲気に少々押されるルフト。

ルフトのそんな様子を気にせずシャトヤーンは続けた。

「はい、ある人物をのせて、白き月から脱出して欲しいのです。」

「はあ、その人物とは? 」

「シヴァ皇子です。彼をここから逃がしてあげてください。」

「シヴァ皇子ですとな!? 」

ルフトはシャトヤーンの言葉に驚きを隠せなかった。
シヴァ皇子は白き月が皇国の直轄地になってから生まれたもっとも若い皇子である。

しかし彼は噂だと「地位の低い母親の子供のために、どこかの養護施設に預けられている」といわれていた。
実際は白き月で生活していたのだが。


「はい。エルシオールにある皇族専用の部屋の準備の指示は出しておきました。ですから、後は本人の説得です。そちらも私がいたしますので。ルフト司令には移動中の皇子の警護を頼みたいのです。」

「了解しました。全身全霊を持って勤めさせていただきます。」

自分の知らないところですでに準備が終わっていたことに少々面食らいつつも、彼はシャトヤーンの要請を承諾した。

「護衛のために、エンジェル隊の指揮権を差し上げますので。どうかよろしくお願いします。」

「エンジェル隊をですか。それは心強い。」

エンジェル隊とは、白き月で発見されたロストテクノロジーである紋章機を繰る5人の天使達である。
紋章機は一機で戦艦を打倒しゆると言われていて、皇国では最強の存在である。
しかしながらパイロットになるためには特別な適性がなければなれず、さらに性能がパイロットのテンションによって変動するという、軍においてはかなり使いづらい性質を持った機体であった。 
白き月の最高戦力ではあったが、白き月には強力な防御フィールドが展開できるので、戦闘機が何機あろうが関係ないのでエンジェル隊もエルシオールとともに逃げるようにシャトヤーンは言っているのだ。
ルフトは、防衛線での迎撃に成功するのならばこの動きはすべて無駄に終わるのだが……と思いつつもそこまで楽観出来る訳でもないので、気合を入れなおした。

シャトヤーンはルフトのその返事に満足したのか少し微笑むと、彼女の横の机に置いてあったカード大の大きさのものを手に取りルフトに渡す。

「それと、これを受け取っていただきたいのです、」

「これは………発信機?」

シャトヤーンから受け取ったそれは、大変小型ながら、皇国で現在使われている戦闘機の発信機と同じ規格の物であった。
受け取ったルフトはどうしてこのようなものを?と思いシャトヤーンのほうを見る。


「それは、エンジェル隊以外の人物の発信機です。もう10年近くも前になりますが、長い間保管されていたそれを動かせるものがいたのです。ですが、紋章機自体は個人の所有物扱いでしたので、エンジェル隊には入りませんでした。年齢もまだ若かったのですが。」

「そのような人物が……するとコレは?」

「それは、彼が『万が一白き月から逃げるような事態に成った時に、駆けつけるからその目印に』と私に渡してくださったものです。」

ルフトはそのような事態を予想した人物に少々驚きながらも、一部シャトヤーンの言葉に気になったことがあったので質問をした。

「彼ということは………その人物とは男性ですかな?」

「ええ、当時5歳になったばかりの少年でした。」

「5歳ですか!?それは………」

ルフトはその異常なまでに若い年齢に驚くが、最年少のエンジェル隊員であるヴァニラ・Hは10歳から乗っていること考えれば年齢は関係ないのかもしれないと思った。
もっとも5歳はさすがに若すぎ、いや幼すぎだとも思ったが。


「その家のしきたりだそうです。それで、もし彼が来た場合に彼が自分の意思で力になってくれた場合は、受け入れてあげてください。」

「了解しました。では、私は撤退準備に戻ります。」

「はい、このような忙しい事態に呼びつけて申し訳ありませんでした。」

「いえ、お気になさらずに。」

ルフトはそう言って、謁見の間から退室し、自分の執務室に心なし早歩きで戻ったのである。



「あの兄弟は、一体皇国にどういった風をもたらすのでしょうか……。」

閉まった扉を見つめつつ、彼女はそう呟くのであった。


この5時間後、防衛線は突破され、エルシオールはクロノドライブにて逃走を開始することになった。





[19683] 第五話 オリ主らしい……?
Name: HIGU◆36fc980e ID:f00f2e36
Date: 2011/01/15 16:26



第五話 オリ主らしい……?






僕はラクレット。フリーの傭兵さ!
いや、別に今まで戦闘経験があるわけじゃないのだけどね。
まだ僕は14歳になったばっかりなのだし。


ああ、学校は今、クリオム星系の第4星ハイスクールに通っている。エレメンタリーから直接入学した。ミドルスクール分を丸々飛ばしたことになる。

ちなみに飛び級です。トランスパール皇国では結構一般的に行われているからね……。

僕が学校を選んだ理由は、学校の制服が黒のどっかで見たことある学ランだからというただ一択。

制服の上に白い陣羽織(ブラマンシュ社製)を着て、準備完了。最近伸ばし始めたツンツンとはねた髪と一緒で、まんまソゥユートです。本当にありがとうございました。

まあ、あくまで格好だけで、転生しても顔は良くも悪くも無く(自己評価)だから、似てないけどね。目つきとかむしろたれ目だし、僕。

いや、僕がやりたくてコスプレ……もといリスペクトしているのだけどね……。
エメンタール兄さんはコレを見せた瞬間に、牛乳吹いていた。アナタもこっち側の人でしたか…。


あ、兄さんにその後、『求め』のレプリカ貰った。作ってもらったらしい。

そのお金は何所から……と突っこみたかったし、何でこんなに精巧なデザインなのか聞きたかったけどとりあえずスルー。

結構重いし、何故か実際に切れる。
毎日素振りをしてる。まあ、筋トレ見たいな物だね。どーせつかわないろーし。趣味みたいなものかな?


































さて、いきなりだけど今は、皇歴412年━━━━━つまりクーデターの起こる年。というか











現在進行形で起こっています!!!!!!
しかも、原作より若干規模が大きいです!!

おそらく、兄さんのせいです。きっと何か発明しているでしょうあの人が!!
と言っても、エオニアが制圧した本星とその周辺の宙域の範囲が広くなっているだけです。

だからそこまで原作に関係ないよね………とか思っていたのだけど。

よく考えるとそれって、エルシオールの本星宙域離脱が難しくなることだよね?

原作でも確かしばらくエルシオールが動かなくなるくらいだったのだし。

ヤバイ………エルシオールが沈んだら……ヴァル・ファスクに勝てないじゃん……。


いまさらどうすることが出来るわけじゃないけど………。

それに今のところは大丈夫みたいだ。だって、シャトヤーン様に渡した『エタニティーソード』も発信機が動き続けている。

まあ、発信機の信号が受信できる位置に来るまで不安で胃が痛かったけどね………。









ともかく今は、タクト達の船が、エルシオールにミルフィー達の先導で向かったから、それを追いかけることにする。近づくと気付かれるからすごく離れてだけど………。


さて………ここからが本番だね………楽しみだよ。













































ルフト・ヴァイツェンは、ブリッジで歯がゆい思いをして戦況を見ていた。


このクリオム星系の端まで逃げてくる為に幾度となく戦闘を行ってきた。
そろそろ限界が見えた頃にようやく、自分の教え子であるタクト・マイヤーズとレスター・クールダラスと合流できたのだ。

しかしながら、その後修理の終わる前にエオニア軍の士官に見つかってしまい戦闘に移行したのだ。

通常時であるのならば、紋章機で難なく撃退できるであろう敵だ。
しかし今では連戦によりエルシオールの移動ならびに攻撃もできないという悪条件のもと戦っている。

頼みの紋章機のほうは、かろうじてきちんと整備された状態ではあるが、連戦によりパイロット達の疲労の色が濃い。
当然だ、ここまで一日24時間警戒態勢でなおかつ、数の減らない得体も知れない敵と戦ってきたのである。むしろよくがんばってくれているほうだ。


こうも過酷な状況で、自分の半分も生きていない少女達にすべてを任せて、自分はせいぜいダメージコントロールしか出来ないこの現状に対して彼は歯がゆく思っているのである。








「『カンフーファイター』は一度下がれ!!『ハーベスター』はナノマシンで『カンフーファイター』の修理を。二機の抜けた穴は『トリックマスター』がカバーしてくれ!!」


タクト・マイヤーズが『高速式リンクシステム』により動き続ける戦況の中、必死に指示を出している。

流れるように動く状況の中、こうも的確な指示を出し続けている彼は優秀な指揮官なのであろう。
戦略家としては優秀だが、普段はサボってばかりの彼だが、この状況下では誰よりも思考して勝利を目指す。


この作戦の目的はあくまで、指揮をしているであろうイノシシの乗る敵旗艦の撃退だ。そのため無人機をすべて無視して突っこませるのが有効だ。
しかし複数の方向からこの動けないエルシオールを狙われているので、そうもいかない。
タクトが乗ってきた艦隊だけではとても守りきれないのである。



「こちら『ラッキースター』エネルギーが10パーセント切りました!!」

「こちら『ハッピートリガー』エネルギーがもうない!!補給を要求するよ!!」


そんな中でも、どんどん状況は動く。今まで、攻撃の要であったミルフィーユ・桜葉の操縦する機体のエネルギー残量は警告域に達したのだ。

彼女の機体は総合的に高い性能を持っているが、そこまで燃費が良い機体でもない。
高速で戦場をカンフーファイターと共に駆け回るが、カンフーファイターよりも燃費が悪いため先に燃料が切れてしまうのである。

最高攻撃力を持つハッピートリガーはもっと燃費が悪い。
二機とも早いうちに補給が必要だ。

しかし今は戦闘中。無理やり補給しようものならかなりの時間を要してしまう。この刻々とせまる状況では、一秒の時間が黄金のように貴重なのである。
補給したために戦闘に負けましたでは、お話にならない。


このエルシオールには、シヴァ皇子が乗っているのだ。今彼を失えばトランスバール皇国はおしまいだ。
エオニアが完全に支配することになってしまうであろう。
それだけは避けなければいけない。




(クソッ………せめてあと一手あれば………このままじゃジリ貧だ!!)

表面上は真剣な顔をしていても、内面では彼の心境かなり揺れていた。このままじゃどうしても手詰まりなのだ。
燃料は減っていくが、希望はある。


敵の旗艦は馬鹿なのかこっちに突っ込んできているのだ。
この周辺の敵戦艦を2,3沈めればその勢いで相手を撃てる。


しかしそれまでエネルギーが持つかといわれれば本当にぎりぎりで持つかどうかなのだ。



「タクト!エルシオールのシールドも低下しているぞ!!」


彼の副官のレスター・クールダラスがタクトに報告する。
いつも冷静沈着な彼らしくなく顔にはやや焦りの表情が見える。



あたりまえだ、優秀な彼にはわかるのだ。この状況がいかに不利であるかが。













そんな時だった、レーダー担当のココ・ナッツミルクが一機の戦闘機が戦域に接近しているのに気がついたのは。
















正統トランスバール皇国軍 レゾム少佐の最大の不幸は、彼の率いていた戦艦が無人機で、それを率いるためのシステムが 正史よりも発展していた ことであろう。


『高速遠隔同時指揮システム』ならびに 『高性能AI』 エオニアの配下の科学者が作った無人艦隊用の指揮システムだ。

通常のそれより、状況の伝達速度や、指揮の精度を上げるシステムと無人艦自体のAIの向上によりより高いレベルでの自動戦闘が可能となった。

そのため、一つの艦隊に指揮官1名のオペレーターだけで回るようになったのだ。

(もっとも、彼らの生活レベルはかなり低いのだが)つまりは、戦闘になると、オペレーターが読み上げる戦況と自分で判断する状況を元に指揮をするので精一杯になってしまうのだ。

コレは、人員の絶対的不足は解決しているものの、戦艦の戦闘力が人員の質に左右されてしまうという問題が出てきたのである。

故に、レゾムは自身の左後方から超高速で接近する機体になかなか気付かなかったのである。もっとも



「少佐!左後方距離8000から、戦闘機らしきものが高速で接近してきます。」

「フン!戦闘機一機に何が出来る、多勢に無勢だ。一応手の空いている艦隊を回しておけ。」



早期に気付いたことで対応できたかどうかは甚だ疑問であるが。










「戦闘機、なおも本艦に接近………!!!距離4000………距離3000!!このままだとまもなく衝突します!!!」


「なーに!? えーい!何をやっている迎撃だ!!」


「それが敵戦闘機が速過ぎて、敵の回避動作に、追いつけません!!!」









「よっと!! 実弾とか思ったよりたいしたことないな! まあ、当たっても幾分かは耐えられるからそこまで怖くないからだろーけど!」


ラクレットは、彼の『エタニティーソード』を移動形態にしてレゾム艦に高速接近していた。
彼がこの宙域に来たときすでに戦闘が始まっていたのである。
彼は護衛を置いて飛び出しているレゾム艦を見つけて一直線で突っこんでいるのだ。




「よし!!攻撃形態に移行!!そのままぶった切ってやるぜ!!」


ある程度接近すると、彼は機体の形態を攻撃用に変えた。
そのまますべるように旗艦に接触する。
彼の狙いは砲門だ、相手の火力をそぐのは戦術の基本である。

旗艦の左後方下部に接近し、そのまま追い越しざまに右の剣を突き立てる。溶けかけのバターにナイフを入れるようにあっさり剣は艦隊を切る。


そのまま敵艦の前方で高速旋回し今度は正面上部に接近し、剣を下に向けて砲門を潰した。

いくつかの砲門を破壊し、テンションが上がってきた彼は、レゾムを挑発しようと思い通信のチャンネルのサウンドのみを入れた。




「どーだ、戦闘機一機だからと侮って貰っちゃ困るぜ!!」

「誰だ、貴様!!」


「へん!!お前みたいな小物に名乗る名はない!!通りすがりの一般市民だ!!」


「一般市民が戦闘機に乗って戦闘に介入するわけがあるか!!」



レゾムからのもっともな指摘を受けるが、中二全開モードの彼は、直前に言った台詞に酔っていてほとんどアタマに入らない。
さらにテンションの上がってきた彼は、そのまま特殊兵装を使うためにさらに、自分に酔う言葉を吐く。この数年間でわかったことだが、彼は素の自分でいるよりも、何かのキャラクターの科白を吐いたほうがテンションがあがるのだ。


「いくぜ!! 『マナよ、我が求めに応じよ。オーラとなりて、刃の力となれ。インスパイィィィィッアッ!!!』(結構必死に声を作って成りきっています。)」


彼がそう叫ぶと、『クロノストリングエンジン』から『H.A.L.O.システム』によってエネルギーが引き出される。手に持つ剣が強烈に青白く輝く。両手を合わせ一つと成る。

ラクレットは機体を敵の旗艦の前方に接近させる。


そして、彼は再び叫ぶ

「今だ!!コネクティドゥ……ウィル!!」(やっぱり聖賢者な発音で)


その言葉がスイッチとなったのか、『エタニティーソード』は加速し、一つになった大剣を振る。

その動きには洗練された美はないが、ただ長い歴史を感じる鋭い動きである。
その剣が敵の旗艦の前方の何割を削り取った。
彼の機体はそのまま敵を通り過ぎ、ある程度進むと旋回し停止する。




「き…旗艦大破!!戦闘続行不能!少佐!!直ちに撤退を!!」


「うぬぬぬ……ここは引いてやる!!小僧!!それにエルシオール、覚えていろよ~~!!」


「っへ、見かけ通り小物の台詞だな!!いや、やられ役か、(アレで沈まないのかよ……ご都合主義な話だなおい。それとも 『コレが歴史の修正力か!?』って驚くべきなのか?)」


レゾム艦はそのまま撤退する。
ラクレット的にはそのまま追いかけて行っても良かったのだが。
ここで沈ませると歴史が変わりすぎてしまうし。


何より、エルシオールがいまだにピンチである。(数隻の無人艦は戦闘を中止して逃げた場合に受ける被害が大きいであろうことを計算して、戦闘を続行していた。)

彼はエルシオールの応援に向かうために機体を移動形態に変更した。そしてラクレットはエルシオールに通信をつなぐ。

特に意識したわけではないが先ほどから設定を変えていないので、サウンドオンリーである。

「こちら、個人所有紋章機とそのパイロットです。航行中に攻撃を仕掛けられたために、自衛権の行使で敵旗艦を撃退しました。」













時は少し遡ってエルシオール。

ラクレットの機体『エタニティーソード』が接近してきているのは、エルシオールの優秀なレーダーがキャッチしていた。

最初に見たときは、どこかの方面軍の生き残りか?などと思った一同であったが。圧倒的な速度で接近するその機体には、民間機であるという識別番号しか出てこなかった。

アルモは民間機に戦場へ入ってくるのを止めるように通信を試みた。しかし突然民間機が紋章機のような形に変形したのである。



「あれは!紋章機!!」

「いや、それにしては少し小さいぞ!」

「内部にクロノストリング反応!紋章機で間違いありません!そもそもあの速度が出せるのは紋章機だけです!」

「そんな……エンジェル隊以外の紋章機だなんて………。」

タクト達が驚いている間に、その機体は敵の攻撃をかわし接近する。
そのまま接触するくらいの近さまで来るとそのまますれ違った。すると、レゾムの乗っている戦艦の砲門が爆発した。


「馬鹿な!!すれ違いざまに、剣で切っただと!!どんな操縦技術だ!」

「速い……カンフーファイター並の速さが出ています。」

その機体が二度ほどレゾム艦とすれ違ったあと、両手の剣を一つに合わせて今までより一段上の速さで接近する。
そのまま振り下ろし巨大になった剣でレゾム艦の先端部を削り取った。その規格外の動きにブリッジは沈黙した。


「うーむ、あの機体はもしや……。」

今まで黙って眺めていたルフトの言葉に振り向く一同。
しかし、ルフトの表情はやや気難しめであった。

なぜならば彼は、もしあの機体を操縦している人物が、シャトヤーンの言っていた『彼』であるのならば、その年齢は14,5歳なのである。
しかしながら今の動きはいくら高性能な紋章機といえども、そう簡単に再現できるものではなかった。
きちんとした教育を受けたパイロットが何年も自身を磨いてようやくできるような、いわば超一流の動きであった。


「知っているのですか?先「あの機体より通信が入りました!どうします?マイヤーズ司令?」」


タクトが問いかけようとすると、その機体から通信が入ったのである。

「モニターに出してくれ。」

「いえ、それが、サウンドオンリーです。」


その言葉に、クルーメンバーの顔が曇る。
一般的にこの時代ではどのような通信も動画付きである。

サウンドオンリーなんてそれこそ本当に一部の数世代前の船か、宇宙海賊のみである。

あの戦闘機はどう見てもそんな数世代遅れのものではない。むしろ数世代先のものであろう。ということならば………などという考えであろうか。



「わかった、つないでくれ。」



タクトは、アルモにそう言うと、まだ宙域では戦闘は続行されていたが、エルシオールから離れていたし、何よりもあらかたが撤退していたので、大した事ではなくタクトは高速式リンクシステムによる指揮を一端切り止めて通信に集中した。


「こちら、個人所有紋章機とそのパイロットです。航行中に攻撃を仕掛けられたために、自衛権の行使で敵旗艦を撃退しました。」


その声は、少々タクトの想定していたものより子供の声であった。

「こちら、エルシオール。艦長のタクト・マイヤーズだ。とりあえず君には悪いけれど確認が取れるまで、本艦の距離3000以内に近づかないでくれるかなあ?もちろん火器によるロックオンもね。俺達は、君が誰だか分からないからね。」


とりあえず害意はなさそうなので、アンノーンに対するマニュアル的な対応をするタクト。

その間にも、ココとアルモは戦闘機の持っている発信機の登録番号を皇国の膨大なデータバンクから検索していた。

「了解しました。一応許可証のデータを送りますね。」



その言葉とともに送られてきた、データには、ラクレット・ヴァルター という名前とともにこの機体の所有を許可するとの旨が書かれており、最後に月の聖母シャトヤーンのサインもあった。

そのことに、ココ・ナッツミルクは驚きつつも、紋章機であるから当然かもしれないと思い直し、そのサインが本物であるか鑑定を行った。

その間にエンジェル隊の紋章機が残存艦の砲門を沈黙させたと、アルモから報告が入ったために、タクトは一回全機を帰還させ後は味方艦隊に任せることにした。


「ラクレット・ヴァルターか……それで君はどうしてここに?」

「はい、そちらに自分の紋章機の発信機の反応を確認したので……。」

「うむ、コレのことじゃな。シャトヤーン様より預かっているぞ。」


今まで横で通信を聞いていたルフトは、その言葉に自分の胸ポケットしまってあった、シャトヤーンから渡されたカード大の大きさの物を見せた。
タクトはルフトのその行動にやや驚いたものの、ラクレットに確認をとる。


「なるほど、じゃあ少なくとも敵ではないのだね?」

「はい、クーデターと聞いて、この機体の整備を行っていた所に、シャトヤーン様にお渡ししたその発信機の反応が動いたのを発見しましたので、契約の元に参上しました。」

「そうか……じゃあ、エルシオールに来てもらえるかな?直接話を聞くよ。」

「解りました。一応シャトルの収容スペースがあれば搭載できるので、お願いします。」

「わかったよ。」


そう言ってタクトは通信を切ると、格納庫に向かうのであった。
そのあまりに自然な流れに、レスターはツッコミを入れることが出来なかった。
数秒して気付いたレスターは何事もなかったようにタクトの後を継ぎ、味方艦隊に指示を出すのであった。









わー、おりしゅつよーい。
みんながくせんしててもこれでだいじょーぶね
な、話です。

多分、無印でこいつが一番に活躍する場所です。


エンジェル隊が苦戦してますが、敵の数が多かったからです。
別に彼女達が弱いとか、ラクレットが強いとかそういうわけではなく、そういうわけです。

あの戦闘の布陣で手前にいた艦隊の数が倍と考えていただければ………。

鬼畜ですねそれってやっぱり。




[19683] 第六話 エンジェルに成りたいのですが……男ですけど。
Name: HIGU◆36fc980e ID:f00f2e36
Date: 2011/11/21 10:54




第六話 エンジェルに成りたいのですが……男ですけど。










ついに……ついに来た!!
この時を待ち続けて苦節14年!!

雨の日は家の中で読書をして、風の日はちょっと厚着で出かけて、ダイゴの爺ちゃんの駄菓子屋に駄菓子を買いに行った。
あの楽しかった日々ともおさらばだ!

そういえば、爺ちゃん元気かな?僕が子供の頃から外見全く変わってないから、いまだに元気かな?

そして、ESP能力者に頼んで表層心理を読んでもらおうとしたけど、失敗に終わった。思考の展開が独特でで良くわからないらしい。


フフフ、なんと言うご都合主義!!これで、懸念されていたミントへの対策もばっちりだ!!

さあ、始めようか!ギャラクシーエンジェルを。























ラクレットはようやく自分が原作ヒロイン達と合間見えることに感動で打ちひしがれていた。
彼にとって、ラクレットに成ってからの人生は、とにかく自分の好きなことをするということだけを追求してきたのである。

彼は元々自身を投影した物語を妄想することを趣味としていた。いわゆる一種の中二病疾患者である。
転生(厳密には死んでいないのだが)してからは、完全に自重を辞めて痛い台詞や、格好をしている事からみても自覚はあるようだ。
包帯やら眼帯やら俺に近づくなやら沈まれやらは普通にやっていた。

ともかく、自分に酔っている典型的な主人公願望を持つ少年だったのである。


そのために彼が、オリ主にふさわしい能力を持ちさらに原作に介入できるというのは、自分の夢をそのまま形にしたようなものであり、しかもその対象が自分が二次元ひいては美少女ゲームにはまった原因である作品のギャラクシーエンジェルだというのも、彼の願望の深い部分を再現していたのである。












とまあ、いろいろな言葉で言ってみたが結局は











(僕は、登場人物達と仲良くなる!!)





こういうことであった。

しかしながらラクレット・ヴァルター 前世を含めれば、NEUE世界出身でもないのに立派な魔法使いである。

前世で5歳の時から、彼女はおろか、異性と手をつないだことなどない。経験ゼロのチキンハートの持ち主であった。
















そもそも、格好もキングオブヘタレリスペクトであるし。




























時は少し遡る。
ラクレットが、エルシオールのシャトル置き場に着艦準備を行なっている時。



エンジェル隊のメンバーは、一度エルシオールに戻った後、ブリッジに報告に行こうとしたら新しく配属された司令官タクト・マイヤーズがこちらに向かっているとの報告を受けてその場で待機していた。


全員の顔には、一応作戦が成功したという形で終わったものの、自分達の力ではない手段で片がついたという事実があり、少々暗い。
彼女達は、ここまで一日の大半を警戒態勢で過ごすか実際に戦闘をしていたのだ。
正直あまりテンションが高かったわけではなく、全力の力が出せたというわけでもない。
しかしながら現実として、敗北という未来が一時的とはいえ見えてしまったのである。


エンジェル隊の隊長フォルテ・シュトーレンは、自分の部下四人の複雑そうな顔を見て、どうにか変えようと話を振る事にした。
こういう所で、最年長でもある彼女は気を回す。

それが彼女達の円滑なコミュニケーションを助けるので結果的に戦力の上昇に繋がるのである。





「それにしても、この数時間でいろいろ起き過ぎだね。新司令官を迎えにいくわ、その司令官が就任して、その直後に戦闘。さらには、別の紋章機が戦闘に介入してくると来た。今までも大概密度は高かったけど、今日はすごいね。」


フォルテのその言葉に、一同の注目が集まる。
その中で、心を読むことの出来るのが原因で隊員の中では下から二番目に若いが、精神的にはかなり大人のミント・ブラマンシュがフォルテの心境を読んだのかそれに賛同するように続く。



「本当ですわ。特に先ほどの紋章機を操縦してたのは誰なんでしょうね?ランファさんは何かご存知で?」


ミントのその問に、メンバーの中でもっとも優れた運動神経と近接戦闘能力を持つチャイナドレスの美少女、蘭花(ランファ)・フランボワーズが答える。


「私は全然知らないわよ。そもそも通信だってエルシオールとしかしてないんでしょ?それに私よりヴァニラのほうが戦闘を良く見てたはずでしょ?何か知ってる?」


「いえ……私もセンサーで捕らえただけで、実際に映像を見てません。大きめの小惑星で死角になっていましたので。」


メンバー中最年少で、ナノマシンによる治療や、修理が得意であるヴァニラ・Hはランファの問いに対して、あまり表情を変えずしかしながら親しい彼女達から見たらやや申し訳なさそうな顔をして答えた。

そんなヴァニラに大輪のような笑顔を浮かべて、ミルフィーユ・桜葉が話しかける。


「私も補給に戻ってたけど、何も見てないよランファ。」


彼女達5人が白き月の聖母シャトヤーンの近衛隊 ムーンエンジェル隊である。

彼女達は軍人ではあるので階級は持っているものの、態度や完全に改造している制服などからとても軍人には思えないような少女(二十歳越えをそう呼べるのなら)達である。

そんな彼女達の会話の渦中にいるのは、先ほど戦場に介入してきた一機の中型戦闘機、しかも紋章機と同じで『クロノストリングエンジン』を搭載している方だ。

彼女達の繰る紋章機の性能が、他の兵器より優れているが、性能がパイロットのテンションによって変動するのは『クロノストリングエンジン』と『H.A.L.Oシステム』を搭載しているからだ。

もともと『クロノストリングエンジン』は戦闘機に詰めるようなものではない、なぜなら全く持って出力が安定せず、さっきまでは全開だったが次の瞬間から供給エネルギーが0に成るなどざらにあるのだ。

故に戦艦などに大量の『クロノストリングエンジン』を搭載することで擬似的に安定した出力を出しているのだ。そのために『H.A.L.Oシステム』が紋章機に搭載されているのだ。

『H.A.L.Oシステム』は『クロノストリングエンジン』の放出確率に干渉できるのだ。
つまりは戦艦クラスのエネルギーを使える戦闘機という化け物じみたものになるのである。





閑話休題、つまりは戦場に介入してきた戦闘機のパイロットは『H.A.L.Oシステム』を動かすことが出来る適正のある数少ない人物の一人になるのだ。

「それにしてもパイロットはどんな人なんでしょうね?フォルテさんはどう思います?」


「そうだね、通信の声すら聞いてないからわからないけど、他の方面軍の軍人か誰かだと思う。敵の旗艦を沈めたんだ、それなりに腕利きなんだろうね。そういうミルフィーはどう思うのさ?」


「私ですか?う~ん……。」


ミルフィーユは、フォルテに話を振った後に自分で考え込んでしまった。
その様子を横目に見つつ、フォルテはランファに自分の意見を言うように態度で示す。
それに気付いたランファは一瞬考える素振りをすると自分の意見を答える。


「やっぱり、女の人じゃないんですか?私達の紋章機だって、男の人は全体的に『H.A.L.Oシステム』の適正値も低かったんですし。」


「確率で言えばそうでしょうけど、決め付けるのは早計ですわよランファさん。ちなみに私はむしろ男性だと思います。」


ミントは30cm以上背の高いランファを見上げながらそう呟く。

もっともランファが以上に高いのではなく、ミントが120cm台という小柄な身長の持ち主であるのが原因なのであるが。

ミントが続いたことにより3人の視線はヴァニラへと向く。ちなみにミルフィーユは未だに考え中である。


「私は………若い人だと思います。根拠はありませんが。」

「あ!私もそう思います。もしかしたら私よりも年下かも。」


ヴァニラが答えたタイミングでミルフィーユは自分の考えが纏まったのか、彼女に続いた。


「まあ、手がかりもないんだがら、実際に会うまでは解らないけどね。」

フォルテはそう締めくくると、全員の顔をみる。彼女達は先程までの微妙な表情から一転して何時も通りの表情に戻っていた。


「あ、それにしてもさっきのタクトさんの指揮すごかったねーランファ。」


「そーね、悪くはなかったんじゃない?」

いつもどおりのテンションに戻ったミルフィーは、仕官学校時代から同期で隊の中でも最も付き合いの長いランファに話を振る。

話題は先ほどの戦闘を指揮していたタクトのことで、内容としては彼の指揮にやや感心しているといったところか。


「ええ、私達への指示のタイミングも内容も的確で、特に不自然な機動をしなくても戦闘を円滑に実行できました。」


「まあ、最初はこんなもんかね。」


「はい。私の修理の要請する間隔も過不足なく行われてました。」


先ほどの戦闘が正史よりも激しいものになったからなのかは知らないが、エンジェル隊のタクトに対する評価は少し高かった。
正史だと正直頼りないといわれていたような時期ではあったが、今現在の評価は悪くはないといったところか。


「やあ、皆お疲れさま。さっきの戦闘機のパイロットがこの船に来るから会いに行こうと思って、君達も来るかい?」


彼女達がそのように雑談をしていると格納庫に、タクトが現れた。

彼は一言で彼女達をねぎらうと、そのままシャトル置き場へ向かう。エンジェル隊のメンバーはそんなタクトの後に続くのであった。


「クレータ班長、どう、その戦闘機の様子は?」

「あ、司令!!」

タクトはエルシオールの整備班長である、クレータ・ビスキュイの姿を認めて話しかけた。

彼女はちょうど着艦作業が終わって入ってきた、『エタニティーソード』の様子を確認していたのだが、タクトの声に気付き彼に歩み寄る。
その様子は新しいおもちゃを与えられた子供のように目が輝いていた。

彼女は自身の紋章機の整備に対して誇りを持っているのだ。
そんな彼女の前に自分の知らない新たな紋章機が現れたのならばメカニックとしては興味が出ない訳が無いのであろうが。


「司令!この機体は何なんですか!?さっきの戦闘では映像を見てる余裕は無かったんです!!音声は聞いてましたけど。」


「ああ、落ち着いて、俺も詳しくは解らない。それを含めてパイロットに今から聞こうと思ってる。幸い敵意は無いみたいだしね。っと出てくるよ。」


タクトがそう言って皆を促すと、コックピットに当たる部分が開き、黒いロープがたれてきた。
そのロープを伝って、一人の少年が降りてきた。


ちなみに、『エタニティーソード』の全高は12mほどで、これは、紋章機の5分の3程度しかない。
これは、一般的な中型戦闘機と同程度の大きさである『エタニティーソード』と、大型戦闘機に分類される紋章機の差である。














「はじめまして、僕の名前はラクレット・ヴァルターです。先ほどは失礼しました。」


「エルシオール艦長のタクト・マイヤーズだ。さっきは助かったよ。」


「いえ、アレはあくまで自己防衛ですよ?」


「そういうことになるね。それじゃあ、早速で悪いけど君の事を聞かせてもらおうか。艦長オフィスまで来てもらうよ。」



「わかりました。あ、壊さなければ別に見ていただいて結構ですから。」


降りてきたラクレットの外見は、黒っぽい青のツンツンはねた髪、学生服の上から白い羽織を羽織っている様相と、170cmというトランスバール皇国の14歳の少年の平均より少々高い身長で、彼を見たエンジェル隊やタクト、整備班は彼をやや実際の年齢よりも少し年上に思った。


それでも、戦場に介入してきて旗艦を落とすなどということをする技量を持っているパイロット、という観点で見れば十分に若いのだが。
ただ、彼にとって残念ながら、彼に見ほれた者はいなかった。


タクトと簡単に挨拶程度の言葉を交わし、そのまま艦長オフィスに移動することになったラクレットは、そわそわしているクレータに向かって、自分の紋章機を調べることを許可した。

少しカマンベールに見てもらっているが、別に特別な改造をしているわけではないのだ。彼自身の目的はここに留まる事なので、いくら見られても問題はないのである。

「あ、はい、それじゃあお言葉に甘えて。」


その言葉を聞いたクレータは、急ぎ足で『エタニティーソード』に向かう。
整備班の面々も、自身の担当する機体がすでに終わっているものなどがそれに続いた。


「エンジェル隊の皆、お疲れさま。とりあえずは解散にするから、しばらく休んでくれ。」


「「「「「了解。」」」」」



エンジェル隊は、ラクレットの姿を確認できただけでとりあえずいいのかその言葉を聞くと、そのまま格納庫をあとにした。


「それじゃあ、付いて来てくれるかな?」


「わかりました。………えと……了解です!!」


タクトのその言葉にラクレットは若干テンションがハイになりつつも、返事をし後に続くのであった。
そんな彼の心の中は希望と喜びで溢れていたのであった。



(フフハハハ、エンジェル隊はゲームどおり皆美人ぞろいだったぜ………ククク、ああ、楽しみだ。)


それと、自己陶酔と欲望に。





















「なるほど、君がどのような経緯でアレを入手して、ココに来たのかはよくわかった。じゃがどうしてわざわざ通信をいれずに、戦闘に介入したのか?」


ラクレットは現在エルシオール艦長オフィスで、ルフト、レスター、タクトというエルシオール首脳陣に囲まれている。

彼が、タクトに付いて行くとそこにレスターとルフトがいたのだ。
彼は心の中でレスターの左目の眼帯って何のためだったっけ?と考えている間に、二人の簡単な自己紹介が終わったので、そのまま自分も名乗り、ココに来た経緯と、自分がどうして紋章機を所持しているかを説明した。

その間にトラブルもなく、彼が先ほど出していた、シャトヤーンの許可証もあってか比較的スムーズに行われた。

そして、現在ルフトがこのような質問を投げかけてきたのである。


「はい、えと、とりあえず敵を見かけたんで……それと、言い訳がましいですが、通信を入れるという事をすっかり忘れていたというか。何分今まで一人ででしか、動かしてなかったので通信機能を使ったのも先ほどが初めてで………。」


若干しどろもどろになりながらもラクレットは当たり障りなさそうな理由を答えた。

彼の本当の理由は、その方が、格好のよい登場になるであろうから。

なのだが。



「なるほど。それじゃあ、コレが本題なのじゃが、正直この艦エルシオールの現状はあまりよくない。最高の性能を誇る紋章機が5機もあるが、敵の数も膨大での。」


「ルフト准将、まさか!!」


「そうじゃ、レスター、ラクレット君、君は皇国のために戦ってくれないかのう?」


ルフトは、現状が如何に厳しいかをよく理解していた。
先ほどの戦闘も目の前にいる少年がいなければ正直危なかったのだ。
しかも、その少年はこちらに協力的で、将来的には、エンジェル隊とまでは行かなくとも白き月の近衛軍に入ることを考えている。
身元もしっかりとしているみたいだし、シャトヤーン様のお墨付きでもある。

そのため彼を一時的に戦闘機乗り扱いでエルシオールに欲しいと感じたのである。
対して、レスターはその意見に反対であった。

なぜなら彼は民間人で、自分は軍人だ。

軍人は、力を持つ代わりに、戦う職業であり、市民階級出身である彼は、その辺をきちんと理解している。
一般市民を戦わせることに抵抗があるのだ。


「レスター、ここは本人の意思次第だと思うよ。俺的には賛成だ。だってこいつは悪い奴じゃなさそうだって俺の勘が言ってるんだ。」


「おい、タクト、だが彼は民間人であってだな!!」


「いいですよ、僕は。臨時階級を貰って一時的に軍属にしてくれるなら。」


タクトはこの時点で、目の前の少年に対して、特に何か思うことはなかった。
14歳だというのに、アレだけすごい技術を持ってるのならば、味方になれば心強いなあ程度にしか。

彼のよく当たるという定評のある直感も、害意がある風には思えなかったからだ。







そして、この展開にラクレットは思った。












(なんというオリ主補正!!最高だぜ神様!!)と



「落ち着けレスター、この艦の司令はタクトで、司令と本人が了承しているのじゃ。」


「っ!!そうですね。失礼しました。」


「うむ、タクト、わしの権限で臨時少尉にするから、エルシオール戦闘機部隊を新設し、そこの所属にでもするがよい。」


「了解。それじゃあ、俺はエンジェル隊の皆に会ってくるから、レスター後よろしく。」


ルフトのとりなしによりレスターは納得はしてないものの表面上は、受け入れた。
その様子に満足したのか、タクトはルフトから言われたことをそのままに、エンジェル隊に会いに向かうのであった。
すでに彼女達と親睦を深めることで精神的な支えとなり、テンションをあげるという事を知らされていて、大義名分のある彼は、喜び勇んで部屋から出て行ったのだ。


そんなタクトの事を、いつものことだと諦めながら、レスターはラクレットに手続きを促すのであった。それをルフトは少々にやけながら見つめていた。





そしてラクレットは








(エンジェル隊じゃないのかよ!!!)









と心の中で叫ぶのであった。











[19683] 第七話 ミルフィーって、ローラーコースター乗る時も髪飾り外さなかったよね………
Name: HIGU◆36fc980e ID:f00f2e36
Date: 2011/08/08 17:48







第七話 ミルフィーって、ローラーコースター乗る時も髪飾り外さなかったよね………



















まさか、新設の戦闘機部隊に配属されるとは思わなかったぜ………。

まあ確かにエンジェル隊は国の象徴の近衛隊だから、臨時階級で入れるわけないか………。

うん、だからココまでは納得するよ。


だけど、何でこんなに書かなきゃいけない書類が多いんだ!!
1つ書き上げると、横にいるレスターに頼まれた人(事務担当の人らしい)が、次の書類を送ってくる。

そんな感じのくりかえしです。
あ、一応、なんか個人用の携帯端末でやってます。支給されたので。


「軍に入ったら書類はお友達。お友達を待たせては失礼だろう?」

とか、いわれて、ルフト准将の囮イベントも見れなかったし、まだエンジェル隊にも合えてない!!

やばい、急がないとヤバイ。僕が今いるのはブリッジの隣にあるミーティングルーム。

すでにクロノドライヴに入ってしばらくたつ。
つまり、タクトがティーラウンジに行ってから30分後にクルーのほぼ全員でピクニックなのだ。それにはぜひ参加したい。

エンジェル隊全員との親睦を深めるためにも。
くそ、急げ僕!!今急がずに何時急ぐ!!





















タクトはミルフィーによって一通りエルシオールの中を案内された。
その間にエンジェル隊の面々が思い思いに方法で各々の時間をすごしているのが解った。
一通り終わったので一度ブリッジに戻ったがお前が居てもすることが無いと副官であるレスターに言われ、ティーラウンジに向かっていたのである。


「あ、あそこにいるのは、ミルフィー達だ。お「それにしても、フォルテさん、新しい司令官のことどう思います?」」


そんな彼がちょうどティーラウンジに続く廊下を歩いていた時に、エンジェル隊の彼女達が談笑している場面に遭遇した。
彼は声をかけようと、口を開きかけたが、彼女らの話し声が聞こえてきたので、思いとどまった。


「そうだねー、さっきの指揮も悪くはないみたいだし、まだ意見を出せるほどじゃないね。」


「まー、そうですけど。私的には外見と違って、指揮はなよなよしてなかったから悪くないとは思ったので。」


「あら、ランファさんもなかなか高評価じゃありませんこと。」


「そうだね。ランファが初対面の男をルックス以外で褒めるなんて珍しいじゃないか。」


「そんな事ないですよ。ただ悪くないだけで。別に褒めてるわけじゃあ。」


「まあこれから先の戦い命を預けてもとりあえずは安心できそうですわ。」


「へー、そういうミントだって、高評価じゃないか。」


「あら、私は最初に申し上げましたわ。『ランファさんも』と。」


「そうですよ、フォルテさん、タクトさんはいい人ですよ。」


「ミルフィーにかかれば、どんな人もいい人でしょ。」


「ランファー、それどう言う意味よー。」


「そのままよ。」


「ヴァニラさんは、どうですか?」


「……別に、ただ悪くは無いと。」


(よかったー。とりあえず嫌われてるとかそういうのはなさそうだ)


タクトは、彼女達の思わぬ自分の高評価に驚きや喜びよりも先にまず安堵を感じていた。
彼としては、先ほどの戦闘で全力を出したつもりだったので、ここで頼りないとか言われた場合、いろいろと自分的にショックなのである。
特に彼は、戦闘時に働くタイプの軍人なので、実戦は彼の貴重な点数稼ぎの場なのである。
最も彼自身は、日々の地道なコミニュケーションを大事にしたいと思っていたが。
コレは彼女達のような美少女とお近づきになりたいという、マイヤーズ家男子の血が出てくる欲望でもあったが。



タクトは彼女達の評価を聞いて安堵したために若干周囲への警戒がおろそかになっていた。
レスターに見られた場合、軽く小言を言われるようなミスである。


そのためにミルフィーが接近してきたことに気付けなかったのである。



「あれ?タクトさん?どうしたんですか?こんなところで。」


「え!……あ!ミルフィー。えーと、いや、そのね……。」


「………あのーもしかして聞いてました?」


「えーと、………そのごめん。わざとじゃなかったんだ。」


タクトは、目の前にいるミルフィーユに素直に頭を下げた。
彼は、貴族のお坊ちゃまという立場だが、きちんと相手に対して謝り頭を下げることが出来る。
特に女性に対しては。

ミルフィーユは、頭を下げたタクトをしばらく見つめると、ふと笑顔を浮かべてタクトに話しかけた。



「いいですよ。私タクトさんのこと信じます。」


「ミルフィー……。」


「だって、タクトさんは盗み聞きするような人じゃないもの。」


「……ありがとう。ミルフィー…。」


ミルフィーのその言葉にタクトは、これだけ信じてくれる彼女を決して裏切らないようにしないとと思ったのである。
後にタクトは、この時から、オレとミルフィーの運命は始まっていたとのろけるのだが、それは置いておこう。

つまり、タクトは彼女のその人の良さに、心底感謝したのであった。



「いえ、そんな。……あ!そうだあの、これからピクニックしませんか!?私お弁当作りますから。」


「え?ピクニック?」


「はい。ほら、タクトさんとエンジェル隊の皆。後出来れば、さっきのパイロットさんで。」


「うーん、いいんじゃないかな?ちょうど顔合わせにもなるし。」


「それじゃあ、私はお料理作りますので、タクトさんは皆に知らせてきてください。」


「うん、わかった。」



ミルフィーが、タクトにピクニックを提案し。
そのやや突飛な発想にタクトは少し面食らったものの、提案自体は悪くないのでそれを了承した。
そのまま二人は分かれてそれぞれの行動を始めるのであった。













「ラクレット、ちょっといいかい?」


「なんですか、マイヤーズ司令?」


「そんなに硬くなくてもいいよ、タクトでいいさ。」


「それでは、タクトさん。僕に何か御用ですか?」


ラクレットが四苦八苦しながら何とか書類に必要事項を書き込んでいる時に、艦内を歩き回って、エンジェル隊に連絡しているであろうタクトがやって来た。

ラクレットは恐らくタクトの用件はピクニックの話しだなと思い、にやける顔をどうにか抑えつつタクトに返答した。


「うん、実はね、この船の主力であるエンジェル隊の皆がピクニックをするから、君との顔合わせにもちょうどいいから、来て欲しくてね。」


「僕が行ってもご迷惑になりませんか?エンジェル隊の方々とはお会いしたいとは思っていましたけど。」


「もちろんさ。それじゃあ30分後に、展望公園に来てくれよ。」


「はい、わかりました。」

タクトの30分後という科白に自分が一番最初に誘われたのか?などと考えつつ、ラクレットは了解した。


「それでなんだけど、ちょっといいかい? 」


タクトは、ラクレットが書いている書類(さすがに全部電子化されてはいない)を一瞥し、軽くラクレットにピクニックの時の指示をして部屋から出て行った。


「あのー。ジン中尉、30分で終わりますかね?」


「君次第であろう、臨時少尉。」


「ですよねー。」


この後彼は自身の実力を出し切って28分17秒というタイムで書き終えるのであった。


もっとも、彼が費やした時間の合計は、数時間単位なのだが。
































「はいみんな注目ー。」


エンジェル隊の5人とタクトは、銀河展望公園でピクニックをしていた。
彼らはミルフィーユの作った弁当を食べながらレジャーシートに座り談笑している。

まだ、他のクルーが"偶然”来る前で、周囲にはのどかな雰囲気が漂っている。
空調システムによって再現されている人工の風が、周囲の植物と土の香りを運んでくる。
タクトはあたかも本当に地上の公園に居る様な錯覚を感じたのであった。


「いきなりなんですか?タクトさん。」


「うん、実は、皆も気になってると思うのだけど、さっきの戦闘機のパイロットが、正式にエルシオール所属になってね。ミルフィーにはもう伝えたけど。ここに呼んでるんだ。」


「あら、何時の間に呼びましたの?」


「えへへ、実はタクトさんに頼んで皆を呼んでもらうときにはもう頼んでたんだ。」


「へー、あんたにしては積極的じゃないの。」


「うん、さっきのお礼も言いたかったし。」


「はいはい、一回こっち見てね。それじゃあ、とりあえず本人に来てもらうか。ラクレット入ってきて。」


途切れる事無く会話を繋げる彼女達の間にやや強引に入ったタクトは、手元の端末からラクレットに通信を入れる。

すると公園の入り口のほうから、ラクレットが歩いてきた。


「それじゃあ、自己紹介をどうぞー。」


「はい、このエルシオールの新設戦闘機部隊に配属しました。ラクレット・ヴァルター臨時少尉です。エンジェル隊の皆さんには、前から憧れていたのでお会いできて光栄です。」

ラクレットはこの転校生状態に疑問を持ちつつも、別に悪印象与えないからいいかなと考え、純度50パーセントの作り笑いで自己紹介を終えた。


「よーしそれじゃあ、エンジェル隊の皆も自己紹介をお願いするよー。」


「アンタは何処の先生よ。」


「まあ、いいじゃありませんこと。こういう所でもユーモアを忘れてはいけませんわ。」


ランファが、タクトの謎のテンションに突っこみを入れるものの、それを制したのは、意外にもミントであった。
もっとも彼女は彼の心がうまく読めないということで興味を持ったからであったのだが。
それを全く表に出さないあたり、彼女の性格が窺える。


「はーい!私はミルフィーユ・桜葉、ラッキスターのパイロットです。さっきはありがとうございました。」


「蘭花・フランボワーズ。カンフーファイターのパイロットよ。」


「トリックマスターのパイロット、ミント・ブラマンシュですわ。」


「フォルテ・シュトーレンだ。エンジェル隊のリーダーをやってる。ミルフィーも言ってたが、さっきは助かったよ。」


「……ヴァニラ・Hです。ハーベスターのパイロットです。」


「はいどーも、オレはさっき自己紹介したからいいか。よーしそれじゃあ今度は、質問タイムだ!」


異様にテンションの高いタクトにラクレットは微妙に引いたが、とりあえず今自己紹介をしてくれたエンジェル隊のメンバーを見る。

先ほども思ったが、画面の外から見てるのよりずっと綺麗だと改めてそう感じた。

ミルフィーの笑顔は本当にタクトの言ってたとおり大輪の花のようだし、蘭花はさらさらと流れるような金髪に、バランスの取れたプロポーションを持ってる。
ミントは小さいけど(すごく失礼である)本物のお嬢様のような雰囲気が伝わってくるし、フォルテの胸には視線が行かないようにするのに一苦労だ。
そしてヴァニラは完成された彫刻のような相貌で佇んでいて、それがまた絵みたいだと思った。


「質問タイムですか…?」


「そうそう、俺とラクレットがエンジェル隊に、エンジェル隊の皆が俺とラクレットに質問をするんだ。」


「はあ……。」


「よーし、それじゃあまず俺から、君達のスr「あのあの、タクトさん僕から先に質問させてもらいますね!! えーと、皆さん! 年はお幾つですか!! 」


ラクレットはタクトがいきなり聞こうとした事を、知識からすばやく判断してそれを遮った。
彼の記憶では、なぜかこのタイミングでスリーサイズの質問があったことを覚えていたのである。

原作では、クルーのメンバーに遮られて最後まで聞けなかったが、今はまだ周りにそのような気配はない。

とっさにさえぎるには最悪の質問だなと思いつつも彼はタクトの質問をさせなかった。
このまま質問をさせてしまった場合、確実にとは言えないものの結構な確立でタクトの信頼度か好感度が落ちてしまう。
そうラクレットは考えたのである。



タクトがヒロインの誰かとくっついて貰わないと高確率で、この世界は滅びる。


エオニアはちとせルートならかろうじて何とか成るかもしれないが、その後に控えている敵は、正直強大でそう簡単に勝てる相手ではないのだ。
こんな些細なことでどうにかなるとも思わないが、なったので死にました では笑えない。



もっとも、チキンな彼は選んでないから知らないが、原作でスリーサイズの質問は、冗談だと思われて流されるだけなのであったが…。



またもうひとつの理由はカップリングの嗜好の問題であった。

ラクレットは、タクト×ミルフィーと、レスター×ちとせが好きなのであった。
アルモに謝るべきである。


「いきなり、ずいぶんな質問だね。」
ピロン フォルテの好感度が下がった。


「女性に年齢を聞くのはデリカシーに欠けましてよ。」
ピロン ミントの好感度が下がった。

ラクレットの頭の中にはそのような効果音が聞こえてきてしまった。実際にはそのようなことはないのだが。


「え!!あ!!いえ、そのえーと、いや、僕はただその、皆さんが皇国でも最強の戦闘気乗りの部隊なのにずいぶん若いなと思ってですね!!」


かなり苦しいフォローであったが、彼にしてみてはコレが精一杯であった。
なぜなら彼はヤラハタの上位ジョブ魔法使いであるのだ。
前世というアドバンテージで得たことの一つがこの高位ジョブである。


ちなみに彼女もいない。
学校でも3歳下の少年でしかも時々変なことを呟いたり、奇妙な行動をとるのだ。あまり近寄られないのである。
格好も一般的な目で見れば、なかなかに(ユニークな)格好良いものであるし。


「そう言うアンタはいくつなのよ。」


「あ、そうそう私も気になってました!」


「え?僕ですか?えーと……先月14になりました。」


ラクレットは、先月誕生日を迎えていた。
もっとも、本人も忘れていて、両親も収穫祭の仕事で忙しくてすっかり忘れてしまったのだが。

ちなみに誕生日プレゼントは宇宙イルカの絵画のジグゾーパズルであった。
5000ピースのそれは、本人が始める前に渡した両親の手によって完成された。
糊付けもきちんとされていて、現在彼の部屋に飾られている。


「へぇ」


「あら」


「ええ!!何!あんた、そんな外見してヴァニラと一つしか変わらないじゃないの!てっきり私か、ミルフィーと同じくらいだと思ってたのに!!」


「すごーい、ラクレット君って、私より年下なのに紋章機に乗れるんだ!!」


「……ミルフィーさん。私も紋章機に乗れます。」


フォルテとミントは単純に驚き、蘭花は、外見から予想していた年齢との差に大声をあげた。

ラクレットの身長は現時点でタクトより少しだけ大きいのだ。(ほとんど解らないが)ミルフィーユはまた微妙にずれた発言をして、ヴァニラは微妙に拗ねた様なな目でミルフィーユを見上げていた。

つい咄嗟でしてしまった、初対面の女性に対するしてはいけない質問のベスト3入りするであろうものを繰り出してから、この程度で済んだのはなかなか幸運であろう。

これもミルフィーに会ったからなのかととくだらないことを考えつつ、安堵するラクレットである。


「うん、俺も最初に聞いた時は驚いたよ。よーしそれじゃあ今度はエンジェル隊からの質問だね!さあ、どーんとこい!」


「では私が、さきほどの戦闘、かなりの腕をお持ちみたいですが、紋章機はどうやって入手されたんですの?」


「あ、それはうちが元々管理していたものに僕が適正があっただけです。五歳になったら、とりあえず動かせるかどうかのテストをするので。上にいる兄二人も父も駄目だったみたいだったのですが、なぜか僕は動かせたので……その後はまあ、結構な頻度で乗っていたので、搭乗時間は500時間は越えてます。」


「ラクレットは、白き月の聖母様の許可証を貰っているから、法的には何も問題ないみたいだよ、ミント。」


ラクレットは、その質問には慣れているのか、すらすらと答えた。最も最後に少しだけ軽く自慢を入れてみたのだが。
それをタクトは先ほど自分が確認した事で補足した。

ミントは二人を(主にラクレットを)少しだけ見つめた後に、「そうでしたか。ありがとうございました。」と言って一歩下がった。


「よーし今度こそオレの番だ!みんなの「あれ?マイヤーズ司令もピクニックですか?」


タクトが質問をしようとしたらまたしても、邪魔が入った。
タクトは話しかけられた方向を見るとそこに立っていたのは、整備主任のクレータだった。


彼女の右手にはれじゃシートを抱えており、後ろには他の整備班の面々もいる。
台詞からも考えるに、展望公園へ来た目的はピクニックであろう。


「あ、もしかして、クレータさん達もピクニックですか?」


「ええ、そうよ、ミルフィーさん。あ、君は!」


「今日からエルシオールの新設戦闘機部隊に配属しました。ラクレット・ヴァルター臨時少尉です。」


ミルフィーユの問いかけに笑顔で返した、クレータは、その会話に加わっている、ラクレットを見つけて少々驚いた。
まだ彼がいるのは知っていたが、まさか公園にいるとは思わなかったのである。


「あら、そうだったの。私は整備主任のクレータ・ビスキュイよ。これからあなたの機体を見ることになるから、よろしくね。」


「こちらこそよろしくお願いします。」


「ああそうそう、あなたの機体の事で少し聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」


「ええ、もちろん。申し訳ありませんが少しはずしますね、タクトさん、僕の機体ちょっと特別なもので。」


「ああ。わかったよ。」


ラクレットは、クレータ率いる整備班の面々に付いて行ったが、タクトはエンジェル隊の面々とのピクニックを続けるのであった。


「あ、そーだフォルテ、ラクレットは一応君の部下って事になるから、エンジェル隊の下につく形で配属だからね。」


「了解したよ司令官殿。」


フォルテはタクトの言葉にうなずいた。

他の隊員もそれを見ていたため唯一ミントだけが、ラクレットの背中を見つめていたのには誰も気付くことが出来なかった。













[19683] 第八話 ラッキースターの性能はミッションによる差が激しすぎる
Name: HIGU◆36fc980e ID:f00f2e36
Date: 2011/02/15 11:27

第八話 ラッキースターの性能はミッションによる差が激しすぎる









どうもどうも、なんだかんだで原作イベントに介入しているラクレットです。
現在ボクの紋章機『エタニティーソード』についてがんがん聞かれてます。
まあ、エンジェル隊の物以外の紋章機なんて、技術屋にしてみれば物凄い興味の対象なんだろーね。
ふふふ、アレでリミッターかけてるって知ったらどう思うのかね。
後、年齢のことを言ったらやっぱり驚かれた。うーん、そんなに老けてるかな?




さて、もうすぐ雨か。









「もし、少々よろしいでしょうか?」


僕がクレータ班長との会話を終え、一通り回った後、人が増え盛り上がってきた展望公園から出ようと歩いてたら、いきなりミントが話しかけてきた。
そうそう、エンジェル隊の所へは少し顔を出してミルフィーの弁当を食べさせてもらった。
その後、挨拶回りをするからと抜けてきて、とりあえず片っ端から話しかけていたのである。
すでに、名前が出ていたエルシオールスタッフは、梅さん以外あっているということになってるのだ。



「はい、何でしょうか?ブラマンシュ少尉?」



「あら、もう覚えてくださったんですの?」



「はい、上官ですから。」



とりあえず僕は、対外的には敬語で、苗字+階級で行こうと思う。
確かちとせが最初そうやって読んでいて直されたから、僕も向こうが許可するまで苗字で呼ぶつもりである。

そうすればなんかこう、呼び名変更イベントが起きるじゃないか!! 僕は好きなんだよ呼び名交換イベント!!
ん? H少尉って……アッシュ少尉にしよう。



「それで、僕に何か御用ですか?」


「ええ……少々お聞ききしたいことがありまして。貴方はなにかしらのESP能力をお持ちですか?」


「え?ESPですか?……確か、極々弱いレベルのプレコグニッションがあるって、検査では出ましたけど?」



そう、なんか僕自身が、予知能力持ちという結果がでたのだ。
と言っても強度は物凄く集中している時に1、2秒先が見える……といいな。
というくらいで、『H.A.L.Oシステム』の補助があって何とか1割くらいで発動するようなもの。



物凄く弱い能力で実質無いのと同じである。



実は皇国の人工の1割ほどがESP能力者ではあるが、ほとんどは僕みたいなものらしい。
マッチ大の火を2,3時間集中して出せるとか、スプーンを毎日念じ続けて1ヶ月で視認できるくらい曲げれるみたいなレベル。
というか、検査を受けない場合一生気付かない人だっているのだ。






ブラマンシュ家の人みたいに心が読めるって言うのは最強クラスの中でも上位の能力になるのだ。
あと、たまにフラッシュバックみたいに何かが見えるかもって言われた。こっちのほうは原作知識の言い訳に使えそうだから保険としてうれしい能力だ。



「ESPジャミングはお持ちで?」


「いえ…そう言った物は携帯してませんが。」



ESPジャミングはさっきも言った、微弱な能力程度しか持たないヒトが、自分の意思と関係なく能力を発動しないように安全のために持つものだ。
どんなに強力なものでも、ミントというより、そこまで強力なテレパスを妨害できるほどじゃないのだが。

なるほど、どうやらミントは僕の思考が読めないことに興味を持ったみたいだね。それで怪しい奴とか思ってるのかね?これってもしかした、魔法先生のテンプレ展開で剣術使いの少女が切りかかってくるみたいなイベントみたいなものかな。


「はあ、そうでしたか。実は私テレパシストでして。アナタの思考が読めなくて少々驚いてしまいました。」


「ああ、そういうことですか。前にテレパシストの人が同じ事を言ってましたよ。」





あっさりとテレパシストであることは明かしてくれた。ふむ、コレは思ったより好感度が高いのかな?いや、そんなわけないな。疑われてるとかより疑問に思った感じだったのだろう。ミントは結構計算高い策略家みたいなタイプだからねー。



その後ミントはいくつか僕に質問したら、「それでは私はこれで。」と言ってどこかへ行ってしまった。
質問の内容は、きちんとクルーの名前を覚えているのか?見たいなもので。

モブキャラ以外はわかる僕は、医務室やクジラルーム、格納庫ヤブリッジスタッフなどの主要な人物の名前は覚えてます。
と答えて、実際に名前も言ってみたが、それがどうしたと言うのだろうか?


うーむ、結局警戒されてるのか?


とりあえず考えてもわからないので、僕はスプリンクラーが作動する前に展望公園から出て、機体の調整に向かうことにした。









































「あ、タクトさん。僕の機体の特徴について説明しましょうか?」

現在、クロノドライブアウト先で敵と遭遇し、一本道のために迎撃に出ようとしているところだ。
まあ、この戦闘ではミルフィーはシステムトラブルで参加できない代わりに敵の後続を足止め(と言う名の殲滅)するんだよね。
あの強さには最初驚いたなー、で次の戦闘でもそうだと思って一人別方向に突っ込ませて沈んだんだよね。懐かしいな。



「うーん、そうだな…。 よろしく頼むよ。」


選択肢があったみたいな間だけど、頼まれたからにはやらないと。


「僕の機体『エタニティーソード』の特徴はなんと言っても変形機構でしょう。」


「変形機構?」


「はい、高速移動に優れた移動形態と、戦闘用の攻撃形態の二つへ状況により機体の形態を変形させることが出来ます。」


「へー、まあその辺の細かい判断は、何かない限り君に任せるよ。」


うむ、やっぱりそうなるよね。まあ僕も普通に使い分けてるから問題ないか。


「了解です。次に機体の性能を説明しますね。大まかに言うと、速度 加速 旋回 燃費 射程 攻撃 装甲 回避 のうち速度、加速、旋回はかなり自信がありますね。(S-)」


「ふむふむ。」


「それに加えて、燃費、装甲、回避もそれなりに高いので、長時間の戦闘が望める機体です。(A前後)」


「へー、なんだ、万能じゃないか。」


やっぱそう聞こえるよね。僕も最初は驚いたからね。



「いえ、それでですね、攻撃はそこそこってとこですね。(B-)」


「そうなのか……武装は何かい?」


「搭載武装は、エネルギー伝導式の双剣一組 以上です。 よって射程は物凄く短いです。(E-)」

「え?」


そういう反応になるよねやっぱ。
この時代の人からして、剣は飾りだもんね。
あ、短いって言っても、先っぽにエネルギーで出来たビームサーベル的なものが出てくるからそこまでじゃない。マップ単位で1無いけどね!



「燃費がいいのも実は武装がないからというだけですね。」


「えーとそれはつまり………攻撃は出来ないということかい?」


「いえ、先の戦闘でも僕がやっていたように、接近して斬りつけます。その習得のために五歳の頃から乗ってきましたから。」


「へー、となると機体運用は、囮や切り込み用ってところかな?」



おう、さすが主人公良くわかってるじゃないか。


「はい、それに加えて時間稼ぎなどは得意ですが、対戦闘機戦は効率が悪いかと思われます。またレーダーの能力はそこまで高くないので、斥候としてはトリックマスターには劣るかと。」


「わかった、大体は把握したから戦闘では指示どうりに頼むよ。」


「了解です。」


まあ、この辺の戦闘じゃ苦戦すらしないだろうけどね。
















































「いくぜ!!コネクティッドゥ……ウィル!」


僕は今、エルシオールから遠めに配置されていた敵の巡洋艦を切りつけた。
やっぱりこの辺はまだ敵が弱いと思う。
まあ、無印はそこまで難しくなかったし、MLではちょっとこっちの戦力が強くなりすぎてる感があった。
だからELの発戦闘で敵の船の硬さにマジで驚いた。
全員で殴っても半分までしか減らないとか……。


まあとにかく何がいいたいのかというと、



「弱えーな、弱すぎるぜ!まとめてかかってきやがれ!」


この宙域内において僕が警戒すべきことは何もない、敵の相性、補給、エルシオールに回す護衛戦力、すべてが考える必要ない程度のものだ。
タクトからの指示は、

先行してに切り込んで、小惑星のせいで狭くなっている場所に誘導してそこで時間を稼いでおいてくれ。


との事で僕にはうってつけの任務だ。
だって特に意識しないでもかわせる程度の攻撃しかしてこないのだ。
砲門もすでにほとんどつぶしてあるから、適当にテンションをあげてきりつけてれば沈む程度の敵だ。



「タクトさん━━時間を稼ぐのはいいが― 別に、アレを倒してしまっても構わないのでしょう?」


「あ、ああもちろん。無茶はするなよ。」


「了解、いくぞボロ船━━━武器の貯蔵は十分か?」


そういった後に僕は、期待を一回転させて敵に突っこんだ。
敵から散発的な砲撃が来るものの、レーザー兵器でもない限り絣もしないし、シールドがある限りダメージも受けない。
敵の機関部に回り込んでそこに左の剣から延びる光を突き刺す。
そのまま勢いを殺さずに離脱して次の船に向かう。



「『エタニティーソード』、敵機撃墜!次の目標に向かいます!」



その作業を繰り返してるうちに、他のメンバーがエルシオールの近くの敵を一掃したのか、加勢に入り、あっという間に戦闘は終わるのであった。
もっともこの後に起こるであろう、レゾムの奇襲を知っている僕は、その場で待機だけどね…。


「よーし、みんなご苦労様。あっという間だったね。」


「当然よ、こんな敵に私達が苦戦するわけないじゃない。」


「なめてもらっては困るよ司令官殿。」


「じゃあ、今からそっちに向か「司令!!エルシオールの背後にドライブアウトした船五隻!同様に前方にも敵艦が!!」うーん、どうやら挟み撃ちみたいだな。」




っと、どうやら敵さんが来たらしい。
うーむ、記憶があやふやだから断言は出来ないけどおそらく、数は増えてない。
さっきのが多かっただけっぽいな。


にしてもいつもおもうのだが、どうしてこの作戦でタクトはエルシオールを前に進めとかなかったんだろう?
戦闘行動中いくら前に行っても、なんか初期位置に戻ってるし。
そこは微妙に謎だ。もう10回以上やってるから特にそう思う。



「あ、1番機ラッキスター出れまーす。」


「なにー!ぬぬぬ、一機残していただと!生意気なー!!」



いやーすごいねーミルフィー。3秒で一隻沈めてるよ。
あれ作るのにかかった時間の何分の一だろうね……あ、ハイパーキャノンでレゾム沈めた。

何で生きてるのか本当に疑問だよね。




「よし、後ろは何とかなるから、皆は前の敵を一掃してくれ!」


タクトさんから指示が来たので、とりあえず僕は突っこむ。いいよねー切り込み隊長って。殿も好きだけど、一番前で戦うのはとても憧れるよ。


「了解だよ、司令官殿!」


「ヴァニラさん、一応修理をお願いしてもよろしいですか?」


「了解しました。」


「任せときなさい!あっという間に沈めちゃうから。」


「二つも三つも攻撃手段を持つ必要は無い ただ一つを、鍛え上げてこそ必殺となる!! これが、かわせるか!!!」



何時ものように、砲門をつぶしてから、機関部に一刺し。
このパターンでコレから行くか。
ぶるぁの声で一番印象に残ってるのはとっつあんだけど、タキオスと聖賢も声とキャラの相性が半端無かったよな。
まあ、一番記憶に残っているのはギンガマンだけどさ。


おっと。僕が一隻落とす間に、他のは全部落とされたらしい。うーむ、微妙に原作より強いな。経験値の差かな?



「敵旗艦、後退して行きます!」


「よーし、皆ご苦労様。帰還してくれ。」



よしコレで僕の初陣は終わりか。
この前のは正当防衛だからね、戦闘じゃないんだよ。





エンジェル隊の面々と一緒に戦ったはじめての戦闘だったわけだけど…なんか思ったより感慨がわかなかったな。




なんでだろう?






















Interlude


時刻は深夜、艦内の通路も一部を除き非常灯のみが薄く照らしている時間帯。
先ほどの戦闘が終わって1時間ほどたった時間帯である。


タクトがミルフィーの運をコインの裏表みたいだと評して、彼女の好感度を上げた後、ラクレットは地味に疲れたので早めに寝てしまった。

彼の場合はクリスマスなどの行事で無駄にテンションが上がってしまい疲れて寝る子供のようなものだが、結果として寝てしまったために、彼はまたしてもエンジェル隊とかかわる機会が減ってしまったのだ。

彼女達とタクトは、寝る前のひと時をティーラウンジで過ごしていたのだ。

もっとも、タクトとは違って(本人曰く若干)ヘタレなラクレットは女性5人でお茶を飲んでいるところに参加できたかは甚だ疑問であるが。



「みんな、改めてお疲れ様。皆ががんばってくれたおかげで突破できたよ、特にミルフィーは大活躍だったね。」


「そんな、タクトさんの指揮がよかったから私は動けたんですよ。」



タクトはそう言ってミルフィーユを見たあとに、自分のティーカップに口をつけた。
ミルフィーのほうは、照れくさそうにしているが、褒められて悪い気はしていないようだ。

彼女はエンジェル隊の中では謙虚なほうなのでこういうときには良く否定をするのだ。



「あら、ミルフィーさんがいなければエルシオールは、5隻もの敵艦に追われていたのですから、謙遜なさらなくても。」


「そうよ、あんたにしては頑張ったんだから、お礼くらい素直に受け取っておきなさいよ。」


「ちょっと位ずうずうしいほうが得するものだよ。」


そんな彼女に対して、このように言うのもエンジェル隊ではいつものことであって、それはタクトがこの場にいても変わらないことなのだ。


「敵艦は……。」


「え?」


「いえ、敵艦はどうしてあそこまでの数を配備できたのでしょうか?私達は一応ルフト准将に囮になっていただいたうえで逃走しているわけです。」


「確かにそうですわね。あの男は単純に追いかけてみただけみたいですが、かなりの数で警戒線を引かれているのは間違いないですわね。」


ヴァニラが、ポツリと言葉を漏らした後に、彼女にしては珍しくそれなりに長く彼女の意見を述べた。後半部分はミントが補足したが。


「うん、正直今回の戦いも、アレだけの数を捌けたのはみんなの頑張りのおかげだと思うんだ。実際戦艦2隻ぶんの戦力以上だったじゃないか。」


「やけに褒めるね、司令官殿。」


タクトが、エンジェル隊に対してここまで褒めるのは決しておかしくないが、何か含むものを感じ取ったフォルテは、タクトに問いかける。
タクトの表情は、いつものへらへら表情とは違い、コレを言っていいのかどうか若干悩んでいるような顔だった。


「いや、その…………みんなは、ラクレットのことをどう思う?」


「どうってなによ。」


「いや、確かに彼の紋章機はみんなの機体と比べても、同等かそれ以上の性能が出せるみたいなんだ。」


タクトは先ほどの戦闘の後に、格納庫でもう一度詳しくラクレットを交えてクレータ班長に機体スペックを聞いていた。
その際に、機動という点においてはかなりの性能を持つことを確認していたのである。


「でも、彼の動きは異常だ。正直あんなの、パイロット育成学校の主席が10年訓練しても出来るとは思わない。移動している戦艦のすれすれを飛びながら、火器をつぶす。言葉にしてみれば簡単だけど。パイロットじゃないオレでもあの難易度が解る。」


「それに、戦闘でのあの人の変わりようも異常だと思う。第一印象とぜんぜん別人だよあれだと。」


ここで、タクトは一回言葉を切ると、エンジェル隊の面々の顔を見渡した。



「コレを踏まえて、彼をどう思う?」



タクトのその言葉にエンジェル隊の一同は沈黙するしかなかった。
彼女達も少し思うことがあったのだ。

確かに紋章機は、圧倒的性能ではあるが、『H.A.L.Oシステム』による補助もあるので、そこまでの訓練が必要ない、基本的に適正がものを言うのだ。
しかしながら、それでも彼のあの機動は異常であった。
まるで手足のように紋章機を扱っていたのである。


そして、そのような彼が加わったタイミングはまさに、自分達がピンチに陥った時。
お話の主人公かというタイミングで入ったのだ。




「……司令官殿、こういう時はたとえどんなにタイミングが良くても、上官のアンタがそれを怪しいだなんていってはだめさ。言いたいことは、そういうことだろ?」


「……うん。」


「でも、あんたが決めたんだからきちんと責任は持たなくちゃ、むしろアレだけ出来たのを見て「オレの目は正しかった。」くらい言わないと。」


「……そうかもしれないな。悪いね、みんな、変な空気にしちゃった、今日はもうオレ寝るよ。」


そうい言い残すと、タクトは席を立ちティーラウンジを後にした。
その姿を、少々呆然としていたフォルテ以外のメンバーが見送る。

フォルテは普通に、自分のティーカップに口をつけていた。



「さて、今言った私が言うのなんだけど、正直ミントはどう思う?」


「彼には、ESPが効きませんでした。それがどういう理由なのかはわかりませんが。また、なぜかすでに重要なポジションについているクルーの名前を知っていました。特にタクトさんにいたっては、個人的な特徴でさえも把握していた可能性すらありえるかもしれません。単純に記憶力が言いだけでしたらいいのですが。」


「まあ、あやしいのは否定できないよね。さっきはタクトに言ったけど。私の直感が、何か隠しているって言ってる。無条件で信用というのは出来ないね。」


フォルテとしては、上官であるタクトのために気の利いたことを言ったが、彼女の歴戦の直感が何かあやしいと告げていたのである。
個人的には疑わしいといったところか。
対してミントは、言葉は丸いが、彼女なりに彼は怪しいといっているようなものである。


「まぁ、私は何か言えるほどじゃないけど、ただ、アイツの近接機動は、完全に才能がないとできないわ。私もやれといわれなきゃやりたくないわよ。」


カンフーファイターが壊れちゃいそうだし、とランファは呟いた。


「でも、悪い人じゃないとは思います!」


「はい、私も何か確証がない限りは問題がない人だとは思います。」


ミルフィーとヴァニラは元々誰かに対して疑念の感情を向けるが少ない、というか皆無に近いために今のところは問題がないという意見であった。
エンジェル隊全員としてみれば、隊長と参謀が疑ってそのほかが保留といったところか。


「まあなんにせよ、私達に害がない限りは、静観しますか。」


「そうですわね。それが妥当かと。」





ラクレットの知らないところで彼の扱いは決まっていく、彼が予想しない方向へ。




















入れたはいいけど、思ったより強くて戸惑っているタクトでした。






[19683] 第九話  因果応報で毎日がアドベンチャー
Name: HIGU◆bf3e553d ID:f00f2e36
Date: 2010/12/26 08:03











第九話 「因果応報で毎日がアドベンチャー」








そろそろ登場のネタに困ってきたラクレットです。こんにちは。

現在エルシオールはレゾムを倒した後のクロノドライブだ。
多分そろそろ終わると思う。
あれから二日経っているので今日はタクト登場から4日目?なんか微妙に僕がいることでこの辺のスケジュールが変わってきている。


あ、今クロノドライブが終わったので、30分ほど通常空間を航行したら、あいつらが来るかな。
それと、この章は結構楽しみなイベントがあったからね、それもぜひ体験してみたい。



さて、とりあえず、ティーラウンジにでも行きますかね。























「えー、そんなー!!」


「みなさん、何を読んでいらっしゃるのですか?」


「あ、ラクレット。」


タクトがこちらに気づいたみたいだ。
僕が、ティーラウンジに入った時、エンジェル隊の面々とタクトは蘭花がもってる雑誌に掲載されている、マダムキャプレーの占いコーナーで盛り上がっていた。

おそらく、ミルフィーにあのナルシストに付け回されるであろうとの結果が出たところだろう。




「こんにちは、それは占いですか?」


「ええ、この雑誌の占いをしているマダムキャプレーは、なんと的中率99パーセントなのよ!……その分嫌な結果が出たミルフィーが可哀想だけどね。」


「なんでも、好きでもない男に付き纏わられる。って結果が出たみたいでね。」


「そうなんですか。」


視線を向けると、机に突っ伏している、ミルフィーの姿があった。
おおーこれが良くアニメとかで見る光景か。
背後がほんとに青くなってる。



「それじゃあ、持ち主のランファの結果はどうなんだ? 」


「えーと……なによこれ~~!! 」



蘭花はしばらく視線を雑誌に向けて小声で趣味などを照らし合わせた後、急に立ち上がり叫びだした。
どうやら気に入らない結果が出たみたいだね。
確か、思いもよらない身近な異性と急接近だっけ?
で、
タクトを連想してしまいみんなにからかわれて、そのまま逃げるように立ち去る。
見たいな流れだったね。



と、そんなことを考えながら、なかなか来ない店員のために(エンジェル隊が騒がしいので近寄るに近寄れない)僕はカウンターに注文をしに行った。
コーヒーとチョコレートケーキを頼んで戻ってくると、予想通り蘭花がかけていくところだった。








そういえば、身近な異性って僕も入るんじゃないのかなーと、どうでもいいことを考えつつエンジェル隊が座っている隣のテーブルに僕は座り、注文を待つのであった。
























もうすぐクロノドライブに移行できるポイントという所で、ミサイルが突然エルシオールに打ち込まれた。

ちょうど日課の戦闘機の整備を行っていた僕は、その衝撃で頭をぶつけてしまった。
畜生、わかっていたことなのにどうしてこうなった。



ともかく、小惑星がたくさん存在する、アステロイド帯の中をたった2機の戦闘機で接近してミサイルを撃ち込んだのは、十中八九ヘルハンズ隊の二人であろう。

となると今の衝撃で、出撃できる紋章機はミルフィーの『ラッキースター』に、蘭花の『カンフーファイター』の二機のはずだ。

僕の紋章機は、シャトル搭載をする別のブロックに積んでいるために一応の出撃はできるが……って!!
今僕が頭ぶつけたから、照準システムの設定が変わってる!!照準システムがないと敵との距離感がうまくつかめないんだよ……。

幸い2,30分で再調整はできるだろうけど…。

畜生、今回は僕出撃できないな。








「こちらブリッジ、エンジェル隊、発進できるか?」


「1番機行けまーす。」


「2番機も平気よ。」


「3番機、紋章機を支えるアームが稼動しません。」


「4番機もだよ。これじゃあ出撃は無理だ。」


「5番機も同じく出撃できません。」


「くそ!敵ながら見事な狙いだ。」


やはり原作どおりの展開になり、悪態をつくレスター。

まあ、主力の6割をつぶす攻撃ってのもすごいよね確かに。



「そうだね、ラクレット、そっちは?」


「それが、今の衝撃で少々システムにトラブルが出てしまいまして、復旧にしばらくかかると思います。」


「……そうか。」



そういって、少し考え込むタクト。
ここは、どっちにしてもとりあえず2機は出さないといけないと思うんだけどね。

まあ、もう敵としては目的を果たしてるから、無理に攻めてくるわけじゃない。
いくらでも考える時間はある。もっともそれを知ってるのはこの船では僕だけだけどね。



「よし!ミルフィーと、蘭花の二人で出撃してくれ。敵は、戦闘機二機だ。性能ではおそらく紋章機のほうが上だと思うけど、油断するなよ。」



「わかってるわよ。」















以下ダイジェストで




「ああ、マイハニー君を思うだけでボクの胸は燃えるように熱く高鳴ってるよ。わかるかいこのベリーホットな気持ち」


「ボクのことが知りたいだろう、マイハニー?そうだろう、そうだろうなぁ。」


「つれない事を言わないでおくれよマイハニー、ボクは君の事なら何でも知ってるんだ」


「だから君にも僕のことを知る権利と義務があるんだ、さあ聞いておくれマイハニー。」


「僕の名前は カミュ・O・ラフロイグ。どうだい、この美しい名前。まるで宇宙を駆けるさわやかな風のようだ。」


以上、ナルシスト(石田彰voice)の台詞です。
いやー、通信音声だけ回してもらったけど、正直聞いているだけで変になりそうな台詞だね。

まあ、僕も出てないし原作と全く差が無いまま、会話が続き、地味に重要だと思われる、ミルフィーの将来の夢の作文を、カミュが読んでいた。

コレはつまり、エオニアが、皇国の情報データバンクを完全に掌握したということになる。



どうでもいいけど


「宇宙船になって、いろんな星に行きたいです。」



は、子供でもそこまで純粋に書ける人がいるかどうか解らないと思う。




「うおぉぉぉぉぉっ!!!!蘭花・フランボワーズ!!!オレと勝負しろ!!」


「何よアンタ!!いきなりそんな事!!それに暑苦しいのよ!!」


そして次は、勇者王の声で叫ぶ馬鹿。
いつも思ってたんだけど、ヘル・ハウンズ隊って声こだわってるよね?

後の3人は、ライダーに、ウザクに、えーと・・頬こけ男?

まあ、カミュはナルでギネスは馬鹿だけど二人とも強いのは事実な訳だ。
ミルフィー達が負けるとは思わないけど。気をつけてもらわないと。



っと、通信が終わって戦闘に入るみたいだ。僕も調整しておかないと。















さて、何とか二人を撃退したわけだけど。

この後さっきのミサイルが実は偵察用光学迷彩型プローブだったという話で。
タクトに変装したそれがいろいろ騒ぎを起こすって話だったはず。まあ、僕にはあんまり関係ない。

あれは、大佐以上の階級に反応するものだから、仮に出会っても僕のまねはされないのだし。
そして今、僕はとても見たいイベントがあるので、その準備のためにロッカールームから少し離れた位置にいる。

この章、というか、地味にGAシリーズの中でもインパクトがあったシーンなので記憶に詳しく残っている。
初プレイは前世で12歳のときだから、もう20年以上前なのに。

最も何度もやり直しているから、そのままの時間というわけではないのだけど。お、角の向こうから、タクトが歩いてきた、つまりはもうすぐだね。


「あ、タクトさん。どうしたんですか?」


「いや、たいしたことじゃないんだけど、どうも変な感じがしてね。」


「そうなんですか。」


「うん、そういうラクレットはどうして「ッキャァァァ~~~!!!!!!」」


軽く話していると、ロッカールームのほうから、悲鳴が聞こえた。一応怪しまれないように僕も驚いたような顔を作る。


「今のは!?」


「ロッカールームのほうからです!!」


そう言って僕はロッカールームに向かって走り出す。
後ろから少し送れてタクトがついてくる。


15秒ほどでロッカールーの前についた。僕は急いで中に入る。って!!!


「キャー!!」


僕がドアを開けた瞬間にシャンプーのボトルが飛んできた。
僕は咄嗟のことでそれを避けることができずに、そのまま頭にヒットした。


薄れ行く視界の中僕が最後に見たのは、蘭花のバスタオル一枚で辛うじて隠されている見事な体だった。

「ラクレット!!、って、ランファ!?」



ああ、畜生なぜこんなところで原作と差が出たんだ。


























「…ここはど……知らない天井だ。」





地味にこのネタもよっぽど意識していないと言えないと思う。

寝起きでいきなりそこまで考えられる人は少ないのだから。

僕はそのまま体を起こす。周りは薄暗く、艦内はすでに夜みたいだ。

周りを見回すと、カーテンで仕切られていたが、消毒液の匂いからここが医務室であることに気づいた。
……ほんのわずかにコーヒーの匂いもするしね。

消毒液の匂いを臭いにしない理由は、僕は消毒液などの病院の匂いが結構好きだからである。本当にどうでもいいことだけどね。


自分の格好は、さっきのままだ。
どうやら、不可抗力の覗きの後にここに運ばれたみたいだ。

ベットの右側に靴が置いてあったので、それを履いてベットから降りる。カーテンをめくって外の様子を確認してみたいからだ。

時計を見るとすでに消灯時間は過ぎているみたいだ。
ケーラ先生も自室に戻っているみたいで、ホワイトボードに『起きて大丈夫そうなら自分の部屋に戻りなさい』と書いてある。

まあ、単純に新品で重いシャンプーの容器がぶつかってきただけだからね。脳震盪起こして倒れたのかな?少しふらふらするけれども、歩いて問題なさそうだ。


「じゃあ、戻るか。……一応ブリッジに顔を出してからにするか。」
 


そう決めたので、まずはブリッジに向かうことにした。

ブリッジにはレスターがいた。

「起きて大丈夫なのか?」と言われたので、大丈夫だと答え、あれからどうなったかを聞いてみる。


おおむね原作と差はないみたいだ。

光学迷彩型プローブがタクトに化けてて、いろいろ問題を起こした後に、ランファが破壊。

その後戦闘で敵を退けて今に至るか。


エンジェル隊の隊員達は、すでに就寝前のお茶会を終わらせて自室で休んでいるみたいだ。

まあ、原作どおりなら問題ないか。


僕はそう思い、礼を言った後にブリッジを後にした。



実はこの時僕が起こした行動のせいで、地味に小さくない差が出てしまったのだが、まあそれは別の話だ。





















interlude


エオニア旗艦ゼル。

そのブリッジに大柄ながら線は細く彫刻のような美丈夫がいた。その名は、エオニア・トランスバール━━━今回のクーデターの首謀者である。



「ふむ、シェリーよ。かの船にシヴァが居るかどうかの証拠はつかめなかったか。」



「申し訳ありません。エオニア様。」


そんな彼の横に、これまた背の高く、いわゆるできる女のような雰囲気を醸し出している女性が答えた。

名は、シェリー・ブリストル。彼女はエオニア派一の忠臣で、実質的にエオニア軍、ひいては正統トランスバール皇国のNo.2であった。



「よい、余が欲しかったのは証拠。すでに状況的に9割9分であの船にいることはわかっていたのだ。」



エオニアはそう答えると、通信のウィンドウの先にいるシェリーに対して薄く笑いかける。



「しかしながらいくつか報告があります。ヴァルターの弟があの船にいるとプローブから送られたデータにありました。」



プローブは、ランファによって破壊されていたが、じつは、自動でプローブからの情報を、保存しておくための超小型のレシーバーがもう片方のミサイルに積んでいたのだ。

バッテリーの関係で、12時間も持たないが、それでも破壊される直前までの情報は送られていたのである。



「ほう、それで奴はなんと言っていた?」


「いえ、相も変わらず黒き月のどこかにいるそうで、連絡はつきませんでした。ですが、おそらくあまり気にしないでしょう。」


「それもそうだな。」



ラクレットの兄であるカマンベールは、黒き月を初めて見た時からずっとそれに執心していた。

エオニア達が入れないような区画にもなぜか彼は入れたのである。
その禁止区画のことをカマンベールはあまり報告しなかったが。


それでも兵器工場である区画は使えたので特に気にしなかった。それに加えて、


「ねえ、お兄様、どうしてそんなに嬉しそうなの?」


「やあ、ノアか。なに私が嬉しいのはエルシオールが、私の張った網に少しずつかかっていくからだよ。」


「ふーん、そうなの。」



この少女ノアがいるからだ。

彼女は辺境を放浪していたエオニアを導き、黒き月という無人兵器工場を与えた。
外見は10歳ほどではあるが、なんとこの黒き月の管理者であるそうだ。

彼女がいれば、自分のやりたいことはほぼできるので、カマンベールとは時たま挙げてくる報告書位などでしか関係がないのだ。

もっともその報告書(間にどうでもいい話が含まれていることもあるが)がかなりの有用性のある発明なので、特に問題があるわけでもないのだが。


「そうだよ。ノア。……シェリー、すまないが引き続きエルシオールを追ってくれ。危険だと判断したら迷わず撤退してくれて構わない。」


「了解しました、それでは。」


その言葉で、シェリーの映っていたウィンドウは消えた。エオニアは、そのまま、ブリッジを後にした。



「私の野望は残すところ白き月のみ……か。」






















[19683] 閑話   ラクレットの一日
Name: HIGU◆36fc980e ID:f00f2e36
Date: 2010/12/26 08:05


閑話 ラクレットの一日



ラクレットの一日の始まりは早い。


「朝……眠い。」



エルシオールの時間で午前5時には起床するのだ。
その後15分で着替えと洗顔などを済まして、展望公園に走りこみに行く。
朝の走りこみは彼が小さいころから続けている習慣だ。
クリオム星形にいたころから家の周りから、近所の駄菓子など、町中を縦横無尽で走り回っていたのだ。


2,3kmほど軽く流した後に、愛剣である求め(の形をしたレプリカ、刃はつぶしてあるが、重い(使用者の体重の10パーセントになる仕組み)ので全力で殴れば鈍器になる。)の素振りを始める。
特に決まった型はなく、というより、彼に剣の知識などはないので、本当に振っているだけである。
彼はこのように剣の素振りをすることを単純に筋トレ程度にしか考えていないのだ。
もはや、人間が軽々と片手で振り回せるような重さではないのだが……彼は気付いていない。

「む、ラクレットか、今日も無茶苦茶に振り回しているのか。」

「おはようございます、副指令。」

早朝の公園では稀に夜勤明けのレスターと遭遇することがある。
レスターは、夜勤明けにクロノドライブ時はフェンシングの型の稽古や、ランニングなどを行っている。

彼は仕官であり、体を鍛える必要はそこまで無いのだが、軍人であり生真面目なレスターは日々欠かさずトレーニングを重ねている。
余談だが、彼がいくら誘っても参加しない彼の上司は、この時間睡眠をとっている。


「身体能力は高いみたいだが、使い方がなっていなければ意味が無い。一度本格的に鍛えてみたらどうだ?」


「そうですね。力があろうと、その使い方を間違えれば傷つけてしまう。」


「? ともかく、もしオレが時間があったら、少しくらい格闘術の手ほどきは教えることができるぞ。」


「ええ、きっと僕が覚えるのは名も無き戦闘法、敵を倒すのにたいそうな技などいらないのですから。」


微妙に食い合っていないのだが、徹夜明けのレスターはどうでも良いような細かいことには反応せずにラクレットを誘った。

タクトの分の面倒な仕事も変わりにやっていていて、多忙を極める彼だが、最近は一部をラクレットが手伝っているので少しだけ緩和されたのである。
そのため時間が無いこともなかったのである。



その後自室に戻り、シャワーを浴びた後に、部屋の前で朝の点呼があるのでそれを済まし(彼の部屋は、エンジェル達と同じ階層にあるが、少し離れている。)朝食に向かう。

朝食はまだ空いている内に食べるのが彼の日課で、点呼が終わり次第すぐに向かう。注文した日替わりの定食を食べると、歯を磨きに部屋に戻る、彼は、起きた直後と、朝食を食べてからと二回歯を磨くのだ。


「正直、世の中に虫歯ほど恐ろしい生活病は無いと思う。」


エンジェル隊や、彼の所属する戦闘機部隊は基本的に、通常の業務は無い。常に万全のコンディションでいるのが仕事のようなものだ。

そのためにエンジェル対の面々は思い思いの方法で暇をつぶす。彼はまず自身の戦闘機の整備に向かう。
基本的に整備班の者達が行っているが、彼自身が、整備の後に一度システムの調整をするのだ。


それが終わると今度はシミュレータールームに向かう。

そこで彼は自身の戦闘機の設定で、いろいろな状況に対応できるように訓練を行う。

基本的にこれは現在クロノドライブ中で、敵襲の心配がないからできることで、通常空間を航行中のときはオミットされる。


一通りシミュレーターを動かした彼は、一度自室に戻りシャワーを浴びる。
昼食までに時間がある場合は、彼の持ち込んだ私物ではなく、ここで購入したギターの練習をする。彼は、オリ主たるものギターは基本という考えの下に8歳から練習を始めたのである。
しかしながら、壊滅的なまでに才能は無かった。
最近ようやく指をつらないで弦を押さえられるようになったくらいだ。

一度音楽の教師に見てもらったところ、1世紀に一人の天才だといわれたくらいである。負の方向でだが。

昼食を食べた後は、レスターからもらった書類仕事である。
彼は、基本的に暇であることが嫌いな人物だったので、何かすることはないかと聞いてみたところ、備品などの整理や、艦内のクルーの苦情などをまとめるなど、事務的な仕事を頼まれたのである。

早く終わると、その日は彼の趣味である料理や、ジグソーパズル(最近無地の500ピースをタイムトライアルでやっている。)をするのだ。
料理のほうは、家庭科でAを取れるくらいであるが、ミルフィーユがいる以上、彼の料理を誰かに振舞うことは無いであろう。
おそらく食べても評価は「普通、可もなく不可もなく」といった評価であろうから。この料理も転生してから始めた趣味であり、オリ主はヒロインを餌付けできなければだめだという思考の元に始まったのである。


今のところ食べさせたい相手はいない彼であるが。まれに時間が合えば、ミルフィーに料理を教わりに行ったりするが、彼女の腕には遠く及ばないラクレットである。


「ラクレット君は、お母さんの手伝いしてたのかな?」


「ええ、ですが母が大層な家事好きでしてあまり手伝うと泣いてしまいまして。」


「そうなんだー。私はお母さんと一緒にお菓子作りとかをしてたの。それを妹がおいしいって言ってくれて。それがうれしくて何度も作ってたら何時の間にかお料理とかが好きになって。」


「妹さんですか?」


「うん、私と違ってしっかり者のいい子なの。7つも下なんだけどね。」


「そうですか。きっと、かわいらしい娘なんでしょうね?」


その後は、宇宙クジラに会いに行く。
彼が順番に仲の良いクルーの名前を挙げよといわれたら、間違いなく最初にクロミエと答えるであろう。(次に梅さん、レスターと続く。)
だいぶ肉体に精神を引っ張られている彼は(おそらく後数年したら、またやってしまった~~!!と後悔することになるであろうが、主に中二的な意味で)年齢がひとつしか変わらない上に、同姓?(両性具有である可能性もあり確証は持てない)であるクロミエとは仲がいい。

体を鍛えるのは好きだが、基本趣味がインドア派のラクレットと、誰がどう見ても草食系かつ、おとなしいクロミエは地味に話が合うのだ。
彼らは宇宙クジラの世話をしたり、動物達の世話をしながら、軽く雑談をするのだ。その後、一通り終えたら、動物達を眺めるヴァニラを二人で眺めながらまた雑談を続ける。

話題は主にクロミエが動物について話せば、ラクレットが古代の動物(地球にいたもの)を図鑑を読んで知ったということで話す。
稀にヴァニラが二人の話をそばで聞いてることもある。
かなり平和なひと時であり。ヴァニラちゃん親衛隊の人々(構成員の半数近い)はそれを遠くから見つめてただ和むのだ。


「そういえば、クロミエ。」


「なんですか?」


「宇宙クジラって、オスなのか?メスなのか?というか、そもそも生殖機能を持っているのか?」


「さあ……わかりません、聞いてみますか?」


「いや、別にいいぞ。お前が知らないなら僕が知るべきじゃないだろう。昔のクジラは、普通に子供生んで育ててたからな。」


「そうなんですか。まあ宇宙クジラは特別ですから。」


「クジラとイルカの差って、タカとワシみたいに大きさでしかないらしいよ。」


「なぜそんなにアバウトなんでしょうね?」


「さあ?」


(……大きく育ったイルカはどうなるんでしょうか?)


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「悩んでるヴァニラちゃん……可愛すぎる」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


夕食を食べた後はその日の気分ですることが変わる。
艦内を散歩したり、トレーニングルームで筋トレをしたり、ジグソーパズルをしたり、おおむね普通である。
家にいたころは、ゲーム(RPGなどを、とことんやりこむ)などをしていたが、ここに持ち込んだのは、求めと、最低限の生活用品、加えてジグソーパズルだけなのだ。
ゲームを持ち込んでおけばよかったと心の底から公開している彼である。

最近はまっている『トランスバールの森の中』という学園育成ゲームの続きがやりたくてたまらないのである。



その後またシャワーを浴び(これで3回目)就寝する。遅くても11時には寝るのが彼である。






全く持って、エンジェル隊のメンバーと仲良くなると豪語していた人物の行動では無い事に、全く疑問を持たないのである。
彼は、原作イベント以外にはほとんど関与しないのであった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

刻の最初で、宇宙クジラはどこに行ったのかとすごく突っこんでしまったのは僕だけじゃないはず



























[19683] 第十話  体が勝手に……
Name: HIGU◆36fc980e ID:f00f2e36
Date: 2011/11/21 10:55
第十話 体が勝手に……



前回覗きに失敗したラクレットです。


あの後蘭花は僕に謝りに来ました。「いきなり物を投げて悪かった。でも、だからといって女子更衣室にいきなり飛び込むのはありえない。」だそうです。


罰として僕は、ボランティアで艦内の掃除です。
エンジェル隊の隊員達の部屋の前を重点的に掃除だそうです。
ここは、何かおごれとかのほうが一緒に食事とかできたり、デートイベントフラグになってよかったのですが、まあ僕は狙ってやったので、これくらいは甘んじて受けなければいけないと思います。

タクトはなにもお咎めなしみたいです。

これが、主人公とその他の差なのだと僕は思いました。







クロノドライブに入っているので、シミュレーターで訓練をしてシャワーを浴びた僕は、現在食堂にいる。最近クルーの人達から物資が不足気味だとの不満が来てる。

実際結構危ないものもあるので、早めに補給して欲しいところだ。



「梅さん、定食ありますか?」


「ごめんね。今日はもう売り切れちゃっててね。食べ物で残ってるのはこのゼリーしかないのよ。」


「ああ、やっぱりそうですか。」


「さっき、司令さん達もここに来ててね。ちょっとぎすぎすした雰囲気になってたみたいだけど、司令さん自ら物資の確認に行くそうだよ。」


「そうなんですか。」


あ~、確かにそんなイベントがあった気がする。

タクトが、ミントにゼリーを手ずからに食べさせられて、(ゼリーの)甘さにもだえたり、ミルフィーがランチの最後の一皿を食べてしまって蘭花と喧嘩になる。
みたいな感じのイベントだ。
その後、コンビニ行ったりして、食べ物探すけど無くて、最終的にミントの駄菓子を食べるみたいな感じだった。


「じゃあ、ゼリーお願いします。」


「はいよ。ラクレット君は甘いの大丈夫だっけ?」


「ありがとうございます。ええ、それなりには。」


ゼリーを受け取って席に着く。
今頃タクトは、女の子4人と一緒駄菓子を食べてる頃だ。

その後艦内を練り歩いて各部署で必要なものの確認をするはずだ。
一応僕のところできているのも送っておくか。
小型端末を取り出して、タクトにファイルを添付して送る。

……よし、これで送信完了。この深刻さに気づいたタクトと、ミントでブラマンシュ商会に連絡を取るはずだ。



一仕事終えた僕は、ゼリーを口に運ぶ。
……うん甘い、だけど食べれないことも無い。
リリカルな世界にトリップしてもいいように、リンディ茶対策をしといた結果だ。
おいしくは無いけどね。

































「ドライブアウトしました。」


「よし、直ちに周辺をスキャンしろ。」


結局、正史の通りにミントの実家であるブラマンシュ商会に連絡をして、現在ランデブーポイントについたところだ。

エンジェル隊と僕は、自分の機体に乗って待機している。

今僕が懸念しているのは、正史よりも分厚い警戒網のせいで、ブラマンシュ商会の商船団が壊滅している可能性だ。

結構な頻度でちまちま戦闘をしているし、原作にあった戦闘よりも敵の船の数は多かったのだ。

ここのところは、完全に運任せだ。

僕のせいじゃないから、反省の仕様も無いしね。



「!!船団を確認しましたが、無人艦隊との戦闘中のもよう。救援要請が出てます!!」


「エンジェル隊および戦闘機部隊出撃しろ!直ちに商船団の援護に入れ!!


「「「「「了解!! 」」」」」


「了解!! 」

どうやら、大丈夫みたいだね。
まだ一隻も沈んではいない。でも急がないと。
そう思い僕は自分のスイッチを切り替える。頭の中が戦闘用の思考になる。戦闘用のBGMがかかるみたいな感じだ。



「ラクレットと蘭花は先行して敵の前衛を撹乱してくれ。ミルフィーはそれに追随して、中距離から砲撃。ミント、フォルテはこちらに向かってきた敵の殲滅を。ヴァニラは敵が少なくなるまで、ミント達の近くにいてくれ。」


「司令!敵艦隊前方の一部が、このままのペースで攻撃したのならば、商船団が沈むほうがわずかに速いと計算でました!」


ふぅ、アルモ、それは今のままのペースでだろうに、そんなことを聞けばエンジェル隊の面々が今のままのペースというわけ無いであろうに。


「ふざけんじゃないわよ!!私の化粧品!!」


おお、速い速い、負けてられないね。


「足りない!!足りないぞ!!無人戦艦ども、お前らに足りない物、それは!情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ!そして何よりもー!速さが足りない!!」


「に、二機の速度が急速に上がりました!!」


「さすが、紋章機。」


「もう何も言わん……。」


よし、ついた。僕は前方の船に狙いを定める。そしていつもどおり特攻する。
ふふ、おそいおそい。

僕が張り付いても全く反応できてない。火気管制システムが自動照準で僕をロックする前に、左右に動く。
それだけで雑魚になるし。火気管制にCPUを割いてるのか、動きは散漫だ、もっとも、紋章機に比べればもともと遅いがな。

「おいおい、しっかり操縦しろよ CPU。堕ちちまうぞ、それじゃあ。」

鼻で笑いながら僕はそう言った。っと、これが機関室かなっと!?



「ぐあぁぁぁ!!」

閃光、そして衝撃と轟音。
どうやら僕が切りつけようとした瞬間、敵の船が爆発したのだ。


「っく!!機械風情がぁ!!」


幸い、若干シールドが削れただけで、問題は無いみたいだ。 
どうやら、機関室を切る前に切った場所が、出火してそれが引火したらしい。

確率としては……0,2パーセントで起こり得るか。とりあえずこのデータはエルシオールに送信して。


「ラクレット、大丈夫か!?」


「大丈夫です。シールドが削れましたがまだいけます!!━━限界だと……?まだ……まだいけるだろう!エタニティソード! 」



そう、限界なんかあるはずが無い!!この後の温泉イベントのためにも



「負けられない!!負けられないんだよ!!」



エンジェル隊全員の水着姿を見る!!絶対に!!



「意地があるんだよ!!男の子には!!!」




その後、僕は敵の船2隻を沈め、戦闘は終了した。


それなりの戦果だったが、相手の数をこちらの数で割ると3,5で撃墜数最下位だ。



物が絡むと、女は怖いね。



「補給船団から、通信が入った。みんなご苦労様、帰還してくれ。」


「「「「「了解!! 」」」」」


「了解!! 」


























「すごい、混み具合だ。まるで、夏と年末の……いやなんでもない。」


補給部隊の代表(ヴィンセントというらしい)がエルシオールに来てしばらくした後、艦内はかなりのお祭り状態だった。
ティーラウンジではカラオケ大会が開催され(蘭花とミルフィーの歌は聴いてきた。)エレベーターホールでは品物の直売会が行われている。

そのためこのホールはものすごい人数に押しかけられているのだ。


「おい、お前。」


「はい、何か御用ですか?」


商品の棚を適当に見て回っていると、後ろから子供の声で偉そうな文句で話しかけられた。
しかしここでの僕は猫かぶり中。
クロミエ以外には敬語で話す僕は純度百パーセントの笑顔で振り向く。
するとそこに居たのは、金のかかってそうな衣装に包まれた10歳程度のお子様だった。

しかも後ろにはフォルテと、タクトが居る。おお……ということはこのガキは。


「お前はチェスができるのか?」


「まあ、嗜む程度には。」


シヴァ・トランスバールか。この艦の最重要人物で皇族のエオニアを除く唯一の生き残り。


「そうか、ならマイヤーズの都合が合わない時にやるのならばお前が相手になれ。」


「皇子、失礼ながら、司令官殿が忙しいときなど、戦闘中しかありませんよ。」


「ははは、皇子の為にきちんと時間をとる模範的な司令ですから。」

ああ、シヴァ皇子が護衛であるフォルテを伴って買い物に来たところに、タクトがチェスを勧めたのか。
にしても初めて見るが、小さいな皇子。10歳児だもんな。


まあ厳密には皇子じゃなくて皇女か。顔つきも女の子っぽいし。


「マイヤーズよ、あまりクールダラスに迷惑をかけてやるな。」


「皇子、そろそろ。」


「うむ、ではまた今度。」


それだけ言うと皇子は去っていった。
あ、僕名乗ってないじゃん。まあいいか。
タクトもすでにここを後にしている。さて、商品を見る作業に戻るか。













「この辺は、音楽関連か……ん?」


僕はCDの棚(この時代DLが基本なのに、CDも売れてる。というより、まずCDで出して、それがある程度売れたらDLできるようになるというのがスタンダードなのだ。)に並んでいる商品を見ていたら少し気になる商品を見つけた。

レコード会社はここ10年ほどで急激に勢力を増したグループの傘下のものだ、特に感じるものもない。だが曲のタイトルがどこかで見たことがあるようなものばかりなのだ。


「いや、なんで……これ全部もとの世界の曲だぞ……歌ってる人は全部違うけど、メロディと歌詞が全く同じだ。」


作詞・作曲者の部分にはそれぞれ別の名前が書かれているが、これはどう見ても元の世界の関係者しか作れないだろう。
特にエターナルラブとか、そのへんまであるのだ。


「僕ら兄弟以外に誰かいたのか?」


僕は小型端末を取り出して全皇国星間ネットにつなぐ……ことはできなかった。

そういえば戦時だったっけ。とりあえず、ブラマンシュ社経由で一部のページには繋げたので、そこからレコード会社について調べてみた。


「えーと、……え?」

このレコード会社はチーズグループの参加の企業だったので、チーズグループについて調べてみた。


するとそのグループは、いくつかの出版社と、レコード会社、果てはアニメやゲーム会社などを傘下においていた。そこから出されているものの多くは、どこかで見たことがあるようなものだった。


前世のものを使って商売するのは、数々の二次創作では良くあることだが、あらゆる方向に手を出すというのはどうかと思った。せめてジャンルを絞れよ。


「すごい規模だな……。えーと、グループの会長は……知らないオッサンだな。」


公表されている人員を見ると、会長はどこにでも居る様なオッサンだった。経歴も普通で、ある日突然このグループを作ったらしい。
読み勧めても特に変なところは見つからない。とりあえず一つページを戻す。すると、一人見覚えのある名前があるのを見つけた。


「……ああ、なるほど。」


そこにあった名前は、エメンタール・ヴァルター。うちの兄の名前だった。

どうやら心配は杞憂に終わったらしい。これはおそらく兄貴が自分で全部やると大変だから、他人に任せて自分は適当にアイデアだけ出しているのであろう。


おおー、このグループ、ブラマンシュ商会などの超一流企業とため張ってるよ。
総収益額が皇国3位とか……。


「まあ、深く考えないでおこう。アニメは今売ってないみたいだし。お、このゲームはもしかいして……」


僕はそう呟くと、CDを1ダースとゲームを一本ほど、既に半分くらいいろいろ入っている自分のかごに入れて、レジに向かった。


「あ、ラクレット君。」


「桜葉少尉、お鍋ですか?その手にあるのは。」


「うん、安かったから買おうと思って。」


「そうですか、あ、レジがあいたの行きますね。」


レジに並んでいると僕のすぐ後ろにミルフィーが並んだ。どうやら料理に使う鍋を買うつもりらしい。


「おめでとうございます!!」


「「へ?」」


「そこの君は、ただいま500人目のお客様となりました。」


僕がレジに近づき商品を置くと突然、店員が叫びだした。
後ろに居たミルフィーも驚いたみたいだ。僕も結構驚いた。


「お客様には景品として、このブラパンシュ君人形を差し上げます。」


「「「「「おめでとうございまーす」」」」」


すると今度は、1.5mほどあるぬいぐるみらしきものが僕に渡された。
ついそれを受け取ってしまうと、周りの店員もこちらに向かって拍手し始めた。
正直こんなものいらない。でも返せるような雰囲気ではない。


「……えーと、いります?桜葉少尉?」


「……うーん、いらないかな~。」


「そうは言わずに、ほら、妹さんにでも。」


「リコは、ぬいぐるみより私に抱きついてくるから。」


「……そうですか。」



今思い出したけど、確かこのイベントはミルフィーがこれを手に入れてタクトに促されて、欲しそうに見ていたミントにあげる。


見たいな感じだった。…………もしかして僕が並んだから順番がずれたのか?


周りを見るとタクトの姿は発見できない。このイベントを放棄したらしい、今頃別の所にでも居るのであろう。

もしかしたら、蘭花と事故でキスしているイベントなのかもしれない。ついでにミントは居た。ホールの入り口あたりで、何か絶望したような目でこちらを見ている。

……あ、ふらふらとした足取りで立ち去った。


「そうですか。じゃあ僕はこれをおいてきますので、また。」


「うん、今度また一緒にお料理作ろうね。」


そういって僕はミントの立ち去ったほうに向かうのであった。


途中、顔を真っ赤にした蘭花が走っていった。


蘭花がタクトとキスしたのは、ミルフィーが入ってきて、いきなり重力制御をきったからなのに、すでに起っているとかは、気にしないことにする。

ミルフィーの移動速度とかをね。





























「ブラマンシュ少尉。」


「…ああ、なんであのような胡乱な人にブラパンシュ君が……。」


おおう、これは重症のようだ。とりあえずもう一回呼びかけてみる。


「ブラマンシュ少尉!」


「はい!?……ああ、何か御用ですか?」


僕が話しかけたのにようやく気づいたのか、ミントはこっちに振り向き微笑んだ。僕達の身長差は50cm前後というところだ。

そのため、2m離れているのにミントは正直こちらを見上げる形になってる。
上目使いは正直反則だと思う。

もし彼女がメガネをかけていて、そのメガネの隙間から覗くそれだったらこちらは遭遇15秒で沈んでいただろう。


「あの、これなんですけど。」


「あら、それは……・随分大きいぬいぐるみですね。」


「はい、正直男の自分がこれを持っていてもあまり意味ありませんよね?」


僕はとりあえず小脇に抱えた巨大なぬいぐるみをミントに見せた。
正直ミントより大きい。まあ着ぐるみになるのだからそれくらい普通なのであろう。ミントはどうやらしらばっくれる様だ。

フフフ、そちらの趣味思考はすでに把握しているのですよ。


「まあ、確かにそうですわね。」


「ええ。ですからどうかこれ、引き取ってもらえませんかね?」


僕のその言葉に一瞬だけミントの表情に動揺がはしった。本当に一瞬だったけどね。顔と耳がピクッてなったのだ。


「……はあ、別にかまいませんが。」


「そうですか。ありがとうございます。」


良かった、これでミントの夜徘徊イベントが起こる。
これはミントのテンションが大きく上がるからね。まあ、あまりあがりすぎると、ミルフィーが攻略されなくなってしまうから気をつけないといけないけどね。


「ところで、何で私に?」


「ああ、いえなんか、似合いそうでしたから。」


僕がその問いに本当のことを言うわけに行かないので適当に答えると、また一瞬表情がピクッとなった。


「……それはどうしてですか?」


「いえ、アッシュ少尉は実際の動物のほうが好きそうでしたから。これは子供っぽいものですしね。」


あ、またビクッとなった。しかも今度は耳がずっとぴくぴくしてる。うーん、なんか痙攣しているみたいだね。


「それでは、僕はこれで。」


「……ええ、御機嫌よう。」


僕はそう言い残してこの場を後にした。




いい事した後は気分がいい。








さて、この後は温泉イベントだ。


































僕は今公園に居る。とりあえずさっき買ったCDを外で聴きながらのんびりしている……という設定だ。前回の蘭花を覗いたのは功を焦って失敗してしまった。


なので今回は慎重に行きたいと思う。まず作戦はこうだ。タクトが公園に入ると、温泉のほうへ歩き出すから、それを偶然見かけたので付いて行くことにした。

という設定で行く。そうすれば、タクトの思考パターンを読んだミントに呼ばれるあたりで接触すれば、違和感なく混ざれるのだ。エンジェル隊の入浴に。これで完璧だね。


「あれ?ラクレット?何やってるのさここで。」



「いきなり崩れた!!!」


マジか!!いきなりタクトに会うとかどれだけ運無いのだ僕は。

ってあれ、タクトが温泉があるであろう場所に向かってふらふら歩いていく。


「あれ、体が勝手に……。」


おいおいおい、なんだよそれ。どこの隊長さんだよ。あれか?NIUEとEDENを股にかけ12股したり、エンジェル隊を私物化してマイヤーズエンジェル隊という名前に変えたり、ミルフィーが勝利のポーズきめとか言ったり、新作では実は甥の和也君が主人公になったりするのか? なんだよそれ、まあ、付いて行くからいいけど。


「タクトさん、どうしたんですか?」(棒読み)


「いや、何故か体がこっちに吸い寄せられるというか「フォルテさんはどうしてそんなに胸が大きいんですか?あ、ランファも大きいよね!!」」


きた!!まだ音だけで、視界は湯気でよく見えないけれど、温泉では良くあるセリフが聞こえてきたじゃないか!!


「大きいと言っても、射撃には邪魔になるんだよ?」


「ちょっと、じろじろ見ないでよ。親父じゃないんだから」


「あのー……タクトさん。」


「しっ!!静かにしろ。」


この人、真剣なのだけど……。まあいいか、なんかみなぎってきてるのは事実だし。

大きいのは正義です。小さいのは希望です。ちょうどいいのは理想です。


「え~、でもこんな格好してるとやっぱり気になるし……。」


(こんな格好って、どんな格好だ!?)

と思ってるであろうタクトを尻目に、僕はこの瞬間もじりじりと前に進む。

「ミルフィーさん、いいですか、大きければ良いという訳ではありませんよ?大事なのはバランスです。」


おお、ミントがいい事を言った。胸に貴賎なし。つまりはそういうことだ。


「例えばフォルテさんの胸がヴァニラさんに付いていたら、不自然でしょう?」


「……むしろ体格的にありえないと思いますが。」


いや、ロリ巨乳はありだろ常識的に考えて。あのアンバランスさにそそられない男は居ないはずだ。幼子のようなあどけない表情や仕草が生む保護欲、しかしながらその体は暴れん坊で、わがままで言う事を聞かない大胆ボディ。無自覚に抱きついてきたときに感じるその圧倒的存在感はギャップという太古の昔から我等が同胞を沈めて来た最終兵器を生むのである。


そう思いタクトの方を見ると、向こうもこちらを見てうなずいている。


「……あら?この思考パターンはタクトさん?それにこの不気味な違和感は……。」


「あれ、タクトさんが居るんですか?」


「え、いや、決して俺は覗きに来たわけじゃ「タクトさんも来ませんか~?」何、いいの!?」」


「はい、いいですよ。」


「別にかまわないわ。」


「そんな所に居ないでこっちに来なよ、司令官殿。」


「別に問題ありません。」


「皆さんがこうおっしゃってますし、どうぞこちらに。」


「じゃあお言葉に甘えて。」


エンジェル隊のメンバーが、許可を出したのでタクトは近づいていく。
迷う時間が全く無かった。なぜだか知らないけど、原作タクトよりスケベなようだ。


「あ、タクトさん!?」


僕はあわててタクトの後を追いかけた、今を逃すとタイミングがなくなってしまう。


「あれ、ラクレット君?」


「なによ、あんたも居たの?」


「やはりあなたでしたか。」


「おや、こんなところに何のようだい?」


「……こんにちは。」



おおー!!タクトは全裸を予想したが水着だったためにその落差で打ちひしがれている。

ふ、馬鹿な人だな。むしろ水着の方が貴重であろうに。僕は、最初から水着だとわかっていたので、落差は全く無い。しかも今回は水着目当てでここまで来たのだ。ミッションをコンプリートしたのでむしろ満足気味だ。


うお、ミルフィーは思ったより着やせするんだね。ピンク色の水着が白い肌とよくマッチしている。彼女のパーソナルカラーでもあり、髪の色でもあるのだ。ヴァニラはミントよりあるだと……。いいじゃないかそれ。フォルテと、蘭花は正直反則だ。レッドカード2枚くらいで永久追放しなければならないくらいだ。蘭花は何よりも体つきが全体的やばい。すらっとして最低限の肉しか付いてない足、きゅっと引き絞られた腰に、聳え立つ様な存在感を与える胸。全パラメータが最低Aランクみたいなチートだ。フォルテは、胸の時点でやばい。あれは、女の武器どころの話ではない。殺戮兵器だ。圧倒的戦力差があるのにさらにダメ押しで投入されるであろう敵にとっての恐怖の象徴足りえるそれだ。そして、ミント、彼女もまたすごい。あの二十歳になっても身長が六歳児並というもはやチートを超えたそれになるであろう現在の10代の体は、手足につく肉すべてが無地のシルクのようで、素晴らしいであろう触り心地を想像してやまない。ともかく、全員チートだ。



「いえ、タクトさんがこちらにいらしたので。何かと思って付いてきただけです。」


「そうなんだー。あ、タクトさん。どうしたんですかそんな遠い目をして?」


「いや、ミルフィー何でも無いんだ。そう、なんでも。」


そういうとタクトはふふふと笑いながら立ち去っていった。何しに来たんだろうね?

仕方が無いので僕も立ち去ることにした。次の水着イベントは半年後かね……。ちとせって何着てたんだっけ?









「やぁ、マイハニー久しぶりだねぇ、元気にしてたかい?」


「いやぁああ~~~~、また出た~~~!!」


「うおぉぉぉ!!また会ったな!!友よ!!」


「嫌ぁぁぁ~~~!!!暑苦しいのが居る!!」


現在、ヘルハウンズの五人と交戦中。

といっても、こいつらクラスの戦闘機乗りだと、正直倒すのはきつい。ひたすら逃げて逃げて、攻撃が鈍ったらなぶり殺しとか?
相手が、撤退も考えているなら、1対1で無い限り、絶対に倒すのはムリだろう。

薔薇を加えた、ロン毛のナルシストのカミュ・O・ラフロイグに、脳筋の熱血野郎ギネス・スタウト

この二人はそれぞれ、ミルフィーとランファに付きまとってる。


「ふふ、成り上がりの君とは、初めて会うね、ミント・ブラマンシュ。僕の名前はリセルヴァ・キアンティ。」


「私を成り上がりと仰るのは、伝統しかない古い貴族か、その伝統すら失ってしまった、没落貴族だけですわよ。貴方はどちらですかね?」


「…………レッド・アイ。」


「おやおや、ずいぶん無口じゃないか?」


「ヘヘ……ヴァニラ・H、このベルモット・マティンが補給も修理も出来ない内に叩き潰してやるぜ」


「……うるさい。」

中性的で、高いプライドと野心を持つ自称名門貴族のリゼルヴァ・キアンスティはミントに

無口で語らない合理主義者のレッド・アイはフォルテに

チビでぐるぐる眼鏡のメカニックベルモット・マティンはヴァニラに

それぞれ付きまとう。基本的にこの戦闘は、チームワークで勝るエンジェル隊が、各個撃破していくのが、有効で、事実彼女達ならそうすると思う。


「エンジェル隊の皆、ここは一機ずつ落としていけばいい。ラクレット、君はエルシオールの護衛を頼む。」


「「「「「了解!! 」」」」」」

「了解! 」

まあ、僕はまだチームワークをくんで動くことが出来ないからコレは仕方ないかな。


戦闘はわずか8分ほどで終わり、ヘル・ハウンズ隊は撤退して行った。

エンジェル隊が勝利を分かち合うのを僕は、黙って通信越しに見ていた。
























戦闘宙域から少し離れた宙域に、一隻の戦艦があった。その艦━━━バレル級戦艦バージン・オーク━━━は、エオニア軍……正統トランスバール皇国軍のものであり、ブリッジには一人の美しい女性が搭乗していた。

彼女の頬には傷があるが、その傷でさえも彼女の美しさに入るように見える。そんな彼女の名はシェリー。 シェリー・ブリストル。エオニアが最も信頼している人物であり。名実ともにエオニアの一番の部下である。

彼女は現在、エオニアと通信をしていた。


「エオニア様、ヘルハンズ隊が撃破され帰還してきました。」


「ふむ、そうか。所詮は傭兵集団、エンジェル隊と戦闘行動が出来るところは評価すべきだが、それだけだ。気にしなくとも良い。それよりも手筈通りに動けるか?」


シェリーは、自分の一応は部下である、ヘルハウンズ隊の失敗を報告したが、エオニアは特に気にした様子がない。なぜなら彼には、この後にある作戦を計画しており、それこそが本命であるからだ。最もその本命すらも、計画の一部であるのだが。


「はい、こちらの準備は抜かりなく整えております。ヘルハウンズ隊の出撃は出来ませんが、それでも十分以上の戦力を所持しています。」


「そうか。」


「はい。」


ここで二人の会話は途切れた。しかしながら、エオニアは少し観察するようにシェリーを見つめていた。シェリーは自分の主である、彼の行動に少しの疑問を感じつつも、何かあるのかもしれないと思い、エオニアの顔を通信越しに見る。その二人の様子を、エオニアの艦に乗っている、通信士はこう語った。
「あの二人、無言で30秒も見詰め合われると、ブリッジの空気が微妙になるのを理解して欲しいですね。」と。


「シェリー……。」


「はい。なんでしょうか?」


「……きちんと睡眠をとっているのか?少々顔色が悪いぞ?」


「……エ、エオニア様?突然いかがなされましたが?」


エオニアがしばらくシェリーを見詰めた後に口にした言葉は、少なくともシェリーの冷静な表情を崩すのには十分な内容であった。
まさか、主君が自分の顔を見て隊長の心配をしていたなどとは、彼女には全く予想もつかないものであったのだ。

そして、先ほどまでの真剣な表情で自分を見つめていたのは、自分を観察するためだったのだとわかると、急になぜだか解らないが、恥ずかしさがこみ上げてきたのである。


「いや、ヴァルターがお前は無理する時にはとことんするからたまに気を使ってやらぬと、倒れそうだといっていたのでな。」


「……そうでしたか。」


「ああ、それに余としてもお前に倒れられると困るのでな。…それではシェリー、健闘を祈るぞ。」


それだけ言ってエオニアは通信を切った。ブリッジに一人佇むシェリーは言い逃げはずるいと心中で思いつつ、カマンベールに対して、感謝すべきなのか、怒るきなのかを考えるのであった。

彼女の胸の中にあるもやもやについては特に考えようともせずに。










[19683] 第十一話 これが僕らの全力全開 前半
Name: HIGU◆36fc980e ID:f00f2e36
Date: 2010/12/26 08:05




第十一話 これが僕らの全力全開 前半









……さて来ましたよ。最難関の戦闘といわれているミッションがある章に。
僕ラクレットは現在精神統一中です。


今回の戦闘ばかりは本当にかなりきつくなると思う。
初回プレイの時には4回以上やり直したから。


ただ今回は、一回のミスも許されないんだ。やるしかない。


























その日、エルシオールは久しぶりの吉報に沸いていた。味方からの連絡が入ったのだ。
合流ポイントが明記されていたそれは、エルシオールスタッフの顔を綻ばせるに値するそれであった。
しかし、艦長であり司令でもあるタクトは、自分の直感が何かあると告げていたため手放しに喜べないでいた。

同じく彼の副官のレスターも相棒の直感が良く当たるのを今までの経験で知っていたので、同じく警戒をしていた。









現在はクロノドライブで、指定された合流ポイントに向かっているところだ。

もうすぐクロノドライブが終了するというところであり、30分ほど前に警戒態勢をしいてエンジェル隊の面々とラクレットに待機命令を出したところである。


「で、だ。タクト実際のところ襲撃はあると思うのか?」


「ああ、俺の勘だと十中八九あるって言ってる。」


「そうか……。アルモ、ドライブアウトまで後どれくらいだ?」


「…150秒です。」


レスターはタクトに最終確認をした後に、いつもよりも険しい顔付きでアルモに尋ねた。

アルモはその問いに対して一瞬だけウィンドウに目線を送った後に飽く迄事務的に答えた。


「…レスター。」


「……なんだ?」


「……なんでもない。」


「…そうか。」


「ドライブアウトまであと10秒」


アルモのカウントダウンを聞いて二人は、さらに体を身構える。

カウントが読み上げられていく中、二人は前方のスクリーンに意識を集中した。


「1、0。ドライブアウト。周辺の宙域をスキャンします。」


「……スキャン完了!周辺にガスを確認しました!戦闘が行われていた形跡があります!」



「なっ!!……いや、ココは良く皇国軍の訓練に使われる場所だ。まだ決まったわけではない。」


「……アルモ、正面前方のポイントをサーチしてくれないか?」


「了解しました。」


タクトと、レスターはひとまず、出た瞬間に狙われることがないと安堵し、溜息をついた。
しかしいまだに警戒を緩めてよい状況ではないことは二人とも重々承知していた。
古来より、味方と合流するなどによって気が緩んでいる時が一番危険であるからだ。


しかしながら、彼らの緊張は一本の通信によって、壊されることになる。

それも、味方からのものによって。
















ラクレットですが、通信内の空気が最悪です。

要約すると、エンジェル隊が、襲撃来ないなら早く解散にして欲しい、それぞれに用事があるから。


と、文句をつけたからだ。
にしても、眠いとか、パンが発酵しちゃうなどの理由で、上官に戦闘態勢を解除しろというのはどうなんだろう?

ココだけ疑問なんだよね。特にミルフィーなんて、士官学校の主席なのに。


「しっかりしてくれよ、みんな」

ああ、タクトそんな言い方したら……皆が反発するよ。

一応この後すぐに襲撃があってやっぱり彼が正しかった、みたいになるからいいけど。
さすがに好感度が下がるようなイベントをそのままにしとくのはとも思う。

だから……


「そうですよ、みなさんは職業軍人なんですから、きちんと即応体制をとるべきでしょう。それにヴァニラさんを除いては僕より年上なのですから、模範となるような行動をしていただきたいものです。十中八九敵の襲撃はあるとみて間違いないのですから。」


タクトに加勢しておこう。


「えー、私はちゃんとやってるもん。」


「そうよ、私だって、この通り待機しているじゃない!」


「模範となる行動と仰りましたが、それは私達の普段の行動が模範ではないと?」


「なんだいなんだい、二人ともこちとら真面目にやってるのに、その言い方はないだろう」


「……。」


あれ?なんか余計怒った?うーん、まあ、いいか、アルモのサーチももう終わるみたいだし。


「司令!!前方より敵艦隊が!」


「っく!エンジェル隊!!出動してくれ!!」


ほら、予想通り、確か乗ってるのはシェリーだっけ?ここでの戦闘は飽く迄ブラフみたいなもので、ココからいける、クロノドライブ先に敵の本陣が待ち構えているとかそういう話だったはずだ。



「「「「「了解!! 」」」」」


「了解!! 」









「司令、敵艦からの通信です。」


「スクリーンに出してくれ。」


タクトがそう言うと、スクリーンに出てきたのは、シェリーであった。
5年前にエオニアと兄さんと一緒に写っていた時の顔とほとんど変わりがない。

そういえばこの人って、シャトヤーンと同じで年齢がわからない数少ない女性キャラの一人だった気がする。


「こちら、正統トランスバール皇国、シェリー・ブリストル。エルシオールクルーの皆さん、御機嫌よう。」


「艦長、タクト・マイヤーズだ。いやいや、エオニア軍にも貴方の様な美しい女性がいたとは。」


「あら、ありがとう。それで、こちらの用件はわかってるわね?シヴァ皇子を渡しなさい。」


「だってさ、レスター」


「俺に、振るな!!そして断れ!!」


「だそうです。残念ながら、いくら美人のお願いとはいえ、聞けません。」


おお、ナチュラルに漫才をやってるよ。
タクトはこういう通信で、相手を挑発する心理戦に強いんだよね。
にしても、この一連のやり取りの間ずっと表情を変えないシェリースゲー、立絵がないとか、そういう理由じゃないわけだから、本当にタクトに対して全く興味がないのかな?


「それじゃあ、力ずくでお願いするしかないわね。」

              

「オレとしては、宇宙空間での戦闘デートよりもむしろ、豪華なディナーを綺麗な夜景を見ながら食べるほうがいいんだけどね」


「そんな余裕も、ここで終わりよ。それじゃあ、次の通信は降伏宣言かしらね?」


その言葉を最後に、通信が切られた。うーん、こっちには全く興味はなさそうだね。

なんというか、エオニア一筋?


「通信切れました。」


「よし、コレより作戦を説明する。タクトいいな。」


「ああ、皆!頼んだぞ!」


「「「「「了解。」」」」」


「了解。」


さて、頑張りますか。



























「何とかしのぎきったか……。アルモ損害報告を頼む。」


「了解しました。」



何とか、シェリーの率いる敵戦艦を退けつつ、クロノドライブのポイントまでついたのはいいけど。

この後、ドライブアウトした時に挟み撃ちで、今迄で最多の戦艦を相手にしなければいけない。

タクトはそれが十中八九来るという考えで行動をしているはずだ。

僕もさっきの戦闘で疲れているから、なるべく休む感じで行動しよう。










そう思って、ティーラウンジに行ってホットチョコレートを飲んでいたんだが。

エンジェル隊が……来ない。

うーん、なんか、前々から思ってたんだけど、僕エンジェル隊との接点薄い気がする。

戦闘の時と、ミルフィーに料理を教わる時。主にその二つでしか会わない。

なんか食事は時間が違うみたいだし。たまにティーラウンジに、行くと居るけど。近づいても挨拶して終わりだし。


まあ、気にしてもしょうがないか。

とか、考えてると、ランファが来た。なにやらキョロキョロしている。

そして、こっちに気付くと、近寄ってきた。


「ねえ、タクト知らない?」


「いえ、見てませんが……。タクトさんに何か用ですか?フランボワーズ少尉」


「あ、いや、知らないならいいのよ。それじゃあ。」


そして、去っていった。

あまりの自然な身のこなしに、全く反応できなかった。

僕は、少し冷めてしまった、ホットチョコレートを一気に飲んで、そろそろあると思う、イベントを見にクジラルームに向かうのであった。










しかし、クジラルームが閉まっていて、ショックを受けたのは余談だ。

そういえば、誰もいないから平気だって、言っていたね。


















Interlude


「わかったよ、フォルテ。ありがとう。」


タクトは、フォルテにそう言って、クジラルームを後にした。

彼の心の中は、まだ完全に不安が消えたわけでは無い、しかしながら、先ほどまでフォルテと背中合わせに座って、語り合っていたタクトは、クジラルームに入る前のような、思いつめた顔はしていなかった。


「敵の策略とか、奇襲とか色々あるけれど、司令官のオレがきちんとしないと。皆も支えてくれてるんだから。」


彼は、基本的には、かなり前向きな人間だ。

しかしながら、想定している以上の困難な状況に陥るといきなりネガティブになってしまう傾向がある。

あと数年すればそのようなことも無くなり、海千山千と呼ぶに相応しい司令官になるのだが。閑話休題。

そして、その、やや後ろ向きになってしまってる彼は、毎回仲間に支えられて再び前を向いて進みだしてきたのだ。

そして、きっと今回のは、その始まりなのであろう。


「あ…………タクト。」


「あれ?ランファ?」


そんな、フォルテによって、幾分が気分が軽くなったタクトが早速後のことを皆に伝える為にブリッジに向かう途中、ランファに出会った。

彼女の様子は、どこか、何かにたしてためらってる感じであり、何時もの彼女らしさというものがみえない。


「あのね……タクト。」


「なんだい?」


「…………ううん、なんでもない。」


ランファは何かを言いかけたかが、タクトの顔を見て、言葉を濁した。

二人の間に微妙な沈黙が流れる。周囲に人もいないし、時計も無いので、ほぼ無音だ。

そんな中、タクトは、ふとなにかに気付いたような表情をする。


「もしかして、励ましに来てくれたのかい?」


「っな!!」


「ハハ、まさかね、でもありがとうランファ、オレはもう大丈夫だから。」


タクトは、ランファの顔を見ながら何時ものように笑ってそう言った。


「これから、通信で言うつもりだったけど先に言うと、これから皆に待機してもらう。何がきても大丈夫な用にね。」


「つまり、敵がいると、タクトは考えているのね?」


「うん、だけど、ランファ達を信じてるから。」


「な……当たり前じゃないの!私に任せておけば大丈夫よ!」


「はは、本当に頼りにしてるよ。それじゃあ。」




それだけ言うと、タクトは右手を肩越しに上げて去っていった。

その場に残されたランファは、タクトの後姿をやや呆然と見送っていたのであった。






「…………ウチの司令官も困った女たらしだね。」

そう、呟きながらフォルテは、ランファを通路の影から見つめていたのであった。














[19683] 第十一話 これが僕らの全力全開 後編
Name: HIGU◆36fc980e ID:f00f2e36
Date: 2010/12/26 08:06





後編






「余の名はエオニア・トランスバール」


「おや、総大将さんのお出ましかな?」


ドライブアウトした後、いきなりエオニアからの通信が入った。

ブリッジの人達は騒然としている、まあ当然かな、いきなり敵のトップが出てきたんだ。
僕は適当にそれを『エタニティーソード』から眺めていた。


にしても、兄貴どうしてるかな?喧嘩ばっかしてた様な気もするけど、なんだかんだで僕の『エタニティーソード』弄ってくれてたしな。




そんなくだらない思考を続けているうちに通信はどんどんヒートアップしていた。
さらに、後ろから追ってきた艦隊も到着したみたいだ。
なんか、シヴァを渡せとか、断るとか。そんな感じの。


いきなり、こっちの警護対象を渡せとか言われても断るのは当たり前だよね。
まあ、向こうも断られて当然見たいな感じな反応だけど。余裕たっぷり。みたいな?


「まあ、今断ろうと結局のところ変わるのは死ぬ人数だけだ。それもこの逆賊を打つ戦争では誤差でしかないがな。」


「たいした自信をお持ちですね、皇子。」


「貴様もな。……ふむ、その少年か?…確かに面影があるな。」


あれ、なんかいきなり僕のほうに視線を向けてきたぞこの人は。
いきなりそんなこと言わないで欲しいのだが。


「ではな、タクト・マイヤーズ。次に会うときにも同じ口が利けると良いがな。」


「通信切れました。旗艦、撤退していきます。」


アルモが通信が切れたことを報告している。レスターはとりあえずこの宙域の情報処理をさせるために忙しそうに指示を出していたが、タクトはこっちを見ている。疑っているのかな?ここは一応言っておくか。


「エオニア……あれが僕達の敵ですか。」


「……そうだね。」


「まあ、敵がわかろうと僕にできることなんてせいぜい敵の船を沈めることぐらいですがね。」


「そうか。」





















「それじゃあ、作戦を説明するよ。」


そう言って、タクトはウィンドウを投影する。

そこにはこの辺の宙域の、詳細な地図が書かれていて、1秒後に敵艦の配置が表示される。すごい数だ、紋章機を戦艦2隻分の戦力としても戦力比が……これはひどい。



「とりあえず、今回の戦闘で、敵の全滅をさせるのは、難しい。そこで、最速でクロノドライブ可能なポイントまで移動する。アルモ、航路のデータを出してくれ。」


「了解。……あれ?」


「どうした?」


「いえ、変な重力反応があるみたいなんですが……。」


「規模は?」


「すごく微弱なものです。」






重力反応?そんなのあったっけ?
僕が、原作知識を思い出そうとしている間に、レスターが急かしたみたいで、話が先に進んでいた。


にしても、原作知識ノートとか作っておくべきだったかな?なぜか、作る気がしなかったから作らなかったけど。
細かい話は案外忘れてるかもしれない。


「このポイントに行く事を作戦目標とする。」


「上下からはさまれているが、エルシオール後方の艦隊の方が若干弱いために、そちらから回り込む。」




現在のエルシオールは、タクトの言うとおり、前後を敵艦隊に、左右を小惑星帯に挟まれている。


目標の地点は、エルシオールの右前方だけど、右の小惑星体に沿って目指すみたいだ。





「紋章機の部隊は二つに分けて、片方が、進行ルートを作るために後方に、もう片方が、時間稼ぎのために前方のやや狭くなっている部分で戦ってもらう。」


「前方の部隊は、フォルテと、ラクレットに、後方の殲滅は、ミルフィー、ランファ、ミント、ヴァニラに頼む。」


「敵を倒すことを優先するな!エルシオールの被害を最小限にするように心がけてくれ。」


「「「「「了解。」」」」」


「了解。」




僕の『エタニティーソード』はこういう時の時間稼ぎにはちょうどいい。
それにフォルテの『ハッピートリガー』は攻撃力防御力ともに高い。

少数で攻めるならば、この二機の編成は最適だと思う。


そして、ミントの『トリックマスター』、ミルフィーの『ラッキースター』、ランファの『カンフーファイター』、ヴァニラの『ハーベスター』はそれぞれ
遠距離、中距離、近距離、回復と、バランスが取れていて、進行方向の敵を倒すのには向いているであろう。

きっと、ドライブアウト先の地図を見ながら、いろいろなケースを想定した上で、レスターとタクトが二人で考えたのであろう。隙がなく、この状況ではベストな作戦だと思う。



そして、僕は頭を戦闘用に切り替える。





さあ、ショータイムの始まりだ。






「作戦通りに行くよ、私達は時間稼ぎだ。後から追いかけるから、先に行ってぶった切ってやりな!」



「了解!!移動形態に変更……『エタニティーソード』行きます!!」


僕のその言葉に、いきなり最高速度まで加速する。Gキャンセラーがあるからこそ、出来ることだ。

敵の、高速突撃艦の中でも、戦闘にいる奴に狙いを定める。この戦闘では、敵戦闘機がいないために、僕も全力で戦える。
敵との距離が、ぐんぐんと縮まっていく。
まだ、移動形態のままだ。今戦闘形態にしたら、敵のレーザーに捕捉されてしまうからだ。


直線に飛んでる今はそうするしかないのだ。


「今だ!!戦闘形態に移行!!」


僕がそう言うと、両翼が左右にスライドして、腕の形になる。
その過程で速度が落ちるが、気にせずにレバーを握り敵の右下に回り込む。
そのまま勢いを殺さずに、真後ろに回りこんで急旋回。
敵の後方から、敵上部を切りつけつつ、もう一度前方に向かう。


攻撃が当たったことを確認しつつ、再び急旋回、今度は右にいるミサイル艦だ。比較的小さくて狙いがっつけにくいが、それでも……



「一太刀浴びせる分には、問題ないんだよ!!」



エタニティーソードに、敵のシールドが今の攻撃で30パーセントほど削れたことが表示されるが、それよりも重要なのは、敵の狙いの優先度を僕に向ける事だ。

一撃浴びせて、次の敵へを繰り返さなければ。



「それが……僕の……役割だからぁ!!!」



そのまま、敵巡洋艦の密集しているやや後方に、向かう、途中後ろから、ミサイルによる攻撃を受けるが、今は気にしたいられない。
まだ、シールドは8割以上ある。敵しか攻撃できない距離が長いから、一々気を使ってたら、ずっと補給に行き続けなければ行けなくなる。
敵の駆逐艦5隻が綺麗に陣形を組んだままこちらに向かってくる。


僕はいきなり『エタニティーソード』を急上昇させると、ミサイルと、レーザーが機体下方を通過する。
ミサイルがそのまま進まず、後ろで反転するのをレーダーで捕らえた。
敵との距離が1500を切ったので、急降下して、上から強襲を仕掛ける。
左右の剣に供給するエネルギーを最大にして、そのまま、敵に叩き付けるようにぶつける。


「こちら、『ハッピートリガー』。コレより攻撃に移る。行くよ!!」


フォルテが、交戦可能域に到達したみたいだ。
ちょうど僕のほうを向いてるミサイル艦と、突撃艦を後方より攻撃する。大量の重火器による攻撃で、ミサイル艦は、沈んだが、突撃艦はかろうじて耐え切ったみたいだ。


内部のエアーに引火して爆発する、ということが無人艦故に無いからか?


「シュトーレン中尉!!敵の巡洋艦が近寄ってきましたので、そこに向かいます。」


「わかった、タクト!!」


「ああ!!フォルテは、そこのちょうど狭くなっている宙域で足止めを続けてくれ、それ以外は基本的にそちらに任せるよ。」


「ずいぶん、信頼してるじゃないか?」


「当たり前だろ?エンジェル隊のリーダーは、銀河最強の部隊のリーダーなんだぜ?」


「解ってるじゃないか!!」


巡洋艦の攻撃を、出来るだけ回避しながら近寄っていると、『H.A.L.Oシステム』とのシンクロ率が、MAXに成った。僕の飛んだ軌跡に羽が流れる。

そのまま、並んでいる巡洋艦にめがけて僕は突撃する。

両手の剣を一つに合わせる。そんな音はしないけど、カチリという音がしたのを感じた。そして、エネルギー部分の大きさが、先ほどとは比較にならないほど大きくなる。

片手だけの状態で、10メートルほどの実剣の先に40メートルほどのエネルギー剣があったけど、あわせると、100メートル近くまで伸びる。

実は、この特殊兵装は、何回も発動してるわけじゃない、でもすごく……



「馴染むんだよ!!……行くぞ……コレが僕の全力全壊!!コネクッテドゥ……ウィル!!」

僕の剣がそのまま、敵を一刀両断にし、そのまま、次の艦に突撃して、真横に切りつける。
すると、剣に供給されるエネルギー減少して元の大きさに戻った。
僕はすかさず剣を二つに戻して、回避行動を取りつつその場から移動する。


「くそ!空が狭い!」


「焦るんじゃないよ!!私達はただ、敵をここに引き付ければ良いだけさ。足の速い艦を優先的につぶしな!」


「了解!!」


フォルテからの指示を受けて、今度は、ミサイル艦の残りを破壊しに行く。


「もっと速く!!僕より速いものは存在しないんだから!!」


飛来するミサイルなど、完全に無視してそのまま僕は飛び続ける。

レーザーは常に僕の後ろ通過しいている。
あっという間に、攻撃可能範囲に到達。


「機械風情には、もったいない墓場だろ!!」


そのまま、再びすれ違いざまに一閃する。
今度は、一撃で沈めることに成功したみたいだ。

だけど、『エタニティーソード』のシールドが残り38%に、エネルギーが47%になってしまった。
タクトからの指示はまだ無い、


「ここは、踏ん張り所だな……いいだろう、我が漆黒の剣 エタニティーソードの力を見るがいい、そして、恐れ戦くのだ!!」


「…………敵に眼は無いよ。ラクレット。」


その後僕は、戦闘宙域を飛び回り、エルシオールが後方の敵をある程度振り切るまで、時間稼ぎを続けたのであった。

『ハッピートリガー』の方が、足が遅いために先に離脱していたので、結構な集中砲火を受けてしまい、シールドギリギリになって、ようやくたどり着いたのであった。


「補給お願いします。あと、修理も!!」


















現在、戦闘は激化し、エンジェル隊の紋章機と『エタニティーソード』は『エルシオール』を護衛しつつ、移動中……逃走中だ。

この状況だと、射程に優れる『トリックマスター』を中心に、ひたすら、補給と回復をしつつ、進んでいる。
ゲームみたいに一瞬で、補給が出来る訳ではないのだが、さすがに6人で固まっていれば、それなりにもつ・・。

と思っていたけど。


「クソ!敵が減らない・・どうするタクト、このままじゃまずいぞ。」


状況はそんなによくない。戦闘中の応急処置では直せないような、ダメージが増えてきているのだ。

現に、『トリックマスター』のフライヤーは、微妙に連動して動くタイミングがずれてきている。
『ハーベスター』のナノマシンも今ある分を使い切ってしまえば、次の補給までの時間まで、回復無しでもたせなければいけなくなる。






でも


「信じるんだ、レスター。」



タクトはまだ諦めていない。
僕みたいに、この後味方の艦隊が増援に来る可能性が高いということを知っている訳でもないのに、
笑いながら指揮を続けている。


「どうしてそんなことが言えるんだ!?」


「だって、この艦はシヴァ皇子を乗せているんだぜ? 味方の艦隊がいるのならば、きっと俺達を探している。さっきから、アルモに指示して救難信号を出力全開にさせたのはレスターだろ?」


「それはそうだ、現状エルシオールは完全に敵に補足されてしまっている、この状況では隠密行動を優先するよりも味方の増援にかけた方が良い。」


「そう、士官学校主席のレスターがそう考えている。オレはその味方が合流するまで指揮をすればいい。そして、俺が指揮しているのはエンジェル隊だ。」


そういう会話をしながらも、タクトは指揮をしているみたいだ。僕は指示されたポイントの敵に特殊兵装を使うために進路を変更する。


目標は敵の母艦。シェリーが乗っているのとは別の見たいだけど。



「これで、無理なら皇国は滅んでしまうかもしれない。でも俺は皆を信じている。エンジェル隊にブリッジクルーはもちろん。このエルシオールに乗るすべての人を。」



よし、正面に補足、特殊兵装を発動、両手の剣を一つに……ってくそ!!加速しやがった。


「だから、きっと大丈夫さ。そうだろミルフィー?」


「はい!タクトさんがいうなら、きっと。」


「ちょっとタクト!!アタシは信じてないわけ!?」


「そうですわ。私達だって、必死に動いてますわ」


「そうそう、敵を落とした数なら、アタシのほうが多いはずさ。」


「私もナノマシンで治療してます。」


「捕らえた!!くたばれっ!!コネクティドゥウィル!!」


「「「「「「………。」」」」」」」


ふう、沈んだ。いやーなかなかに強敵だったぜ。
ってあれ?


「あのー……皆さんどうかしましたか?」


なんんか、皆が微妙な目でこっちを見てる。


「いや、なんでもないよ……。ともかく、皆もう一頑張りだ。頼んだぞ!!」


「「「「「了解!! 」」」」」


「了解!! 」


僕が、そう返事して、再び敵に意識を集中させようとしたら、突然敵の一部が爆発した。


「司令!!敵艦隊の一部に致命的なダメージ、今の攻撃で敵の2割が戦闘不能に!!」


「決意を新たにしているところ悪いが……援軍の到着じゃ。どうやら間に合ったようじゃな。」


「「ルフト先生(将軍)!!」」


どうやら、味方の援軍が間に合ってくれたらしい。よかった。一安心だぜ。


「エンジェル隊の皆、お疲れ様、帰艦してくれ。」


「ラクレットももう戻ってかまわないぞ。今日は書類の整理はいいから、ゆっくり休んでくれ。」


「「「「「了解!! 」」」」」


「了解……ありがとうございます。レスターさん。」


ああ、今日は、ぐっすり寝よう。疲れたよ。




























タクトは戦闘が終了し、後の細かい作業や、合流艦隊との調整をレスターに任せて、エンジェル隊とラクレットをねぎらった後、自室である司令官室にいた。
レスターには、仮眠をとると言ってきたが、彼は今珍しく自分のデスクについていた。



「う~ん、いままで疑ってきたけど、今日の通信を含めると……。」

彼の目の前に表示されているウィンドウには、この前ブラマンシュ商会が補給に来たときに、調べた情報でラクレットについてのことが書いてあった。


「個人の情報はさすがになかったけど、モッツァレラ・ヴァルター……彼の話どおりクリオム星系の第11惑星の総督の名前だ。」


と言っても、どちらかと言えばそれは表面的なものばかりであった。
クリオム星系の本星データベースか、皇国本星のデータベースに繋げるのならばそれなりにそろったであろうが。


「彼が、仮にエオニアのスパイならば、絶対にあの場面で話しかけられるということは無かったはず。」


「加えて、彼の言動は正直工作員のそれじゃない。今日の戦闘だって、集中しすぎて会話を聞いてなかったくらいだ。」


「でも、オレの勘は彼が何かを隠している、って言ってる。しかもすごく重要なことのような気がする……。」


一人でぶつぶつ呟きながら、タクトは思考を深める。顔は何時もよりやや真面目な相貌であり、普段のにやけた面影は見受けられない。

しばらくそれを続けた後、彼の中で結論が出たのか立ち上がり、一枚のドアで隔てられた、私室に向けて歩を進めた。


「いいさ、オレが見極めればいいだけだ。エンジェル隊を信じるって決めたんだ、彼だって、信じて見せるさ、何にも無いのなら。」


彼の表情は、先ほどフォルテと会話した時のそれよりもさらに清々しいものであった。
決意を固めた彼は、レスターに任せて限界まで何時間寝れるかを計算しつつ仮眠を取るのであった。






















[19683] 第十二話 Dr.ケーラに聞いてみて 前編
Name: HIGU◆36fc980e ID:f00f2e36
Date: 2010/12/26 08:07







第十二話 Dr.ケーラに聞いてみて 前編















花見……なんて素晴しいイベントであろう。
皆で仲良く騒ぎながら、おいしい食事を食べる。


そして、酒を飲む。
まだ酒を飲んだことのない僕にはわからないけれど。


まあ、大人は集まって酒が飲めれば何でも楽しいような気がするけども。
だけどまあ、花粉症は嫌だな。

















「敵艦隊に先制攻撃ですか?」


「うん、どうにもこの第3方面軍のお偉いさんが、敵がナドラ星系にいるから、戦力が集まっている今の内に潰しちゃおう。だって。」


タクトがそう話すのをエンジェル隊と一緒にティーラウンジで聞く。
現在は午後3時、お茶の時間だ。

ついさっきまで、ミルフィーに料理というかお菓子作りを習っていた僕はなし崩し的にこのお茶会に参加することになった。
ミルフィーが作ったお菓子と、僕の作ったお菓子を食べ比べと言えば聞こえは良いが、要は僕が晒されている訳だ。

もっとも、ミルフィーがお菓子を持ってきて、注文した紅茶が来たところでタクトが来たから、まだ食べ始めていないけどね。
ちなみに作ったのはシュークリームだ。一応、失敗はしなかったけどね。自分で食べる分には文句無い出来だ。


話がそれた。タクトがここに来たのは、恐らくつい先ほど決まったであろう次の戦闘についてだ。
ジグルト・ジーダマイヤ━━━僕がギャラクシーエンジェルで唯一嫌いなキャラであり、なんというか、ステレオタイプの無能な軍人という雰囲気を持つキャラだった。

今回の戦闘を決めたキャラでもある。
今回の先制攻撃の作戦が成功したから、調子に乗って勝った気でその後の対応をおざなりにしたのだ。

そのせいで、いやそれが直接の原因ではないけれど、衛星都市ファーゴをエオニアに攻撃されて、数億人の人間が死んでしまったのだ。


「まあ、何時もどおりやってくれれば良いさ。君達は今まで頑張ってきてくれた。お偉いさんもきっとそれを理解しているだろうしね。」


「そうですわね。私達はせいぜい何時ものように戦うだけですわ。」


「そういうことさ。任せなタクト。」


そういえば、いつの間にかフォルテが、タクトの事を司令官殿ではなくタクトと呼ぶようになっていた。
戦闘の後の通信でそんな会話をしてたはずらしいけど。満身創痍だった僕は聞く余裕が持てなかった。

一応それなりに体力をつけるように訓練をしているつもりなんだけどね。


「よーし、それじゃあ難しい話は終了だ。皆でミルフィーの作ったお菓子でも食べながらお茶でもしようじゃないか。」


「あ……タクトさんそれは私じゃなくて……。」


ミルフィーが何かを言う前に、タクトは僕が作ったシュークリームを口にしてしまった。
いや、別に何か危険性があるわけでもないから良いのだけどね。


「…………あれ?なんというか……うーん。」


そして、黙り込むとか……結構失礼だねタクトは。
他の面々も、タクトが手を伸ばしたタイミングで、僕が作ったのを先に食べようとする。


ふむふむ、つまりはミルフィーので口直しをするつもりだね。


「……まずくは無いけど。どうしたの、これ?」


「いつものミルフィーさんらしくありませんよ?」


「うん、どうしたんだいミルフィー、調子が悪いのかい?」


「体調が優れないようでしたら、ケーラ先生の所へ行った方が良いと思います。」








もう、なんだろうコレは、きっとミルフィーのお菓子の腕を知っている皆が純粋に心配しただけなんだろう。

ミルフィーのお菓子はおいしいのか、作る途中で大失敗するかのどちらかだからね。






うん、わかるんだ、理屈では。まずいって言った人はいないんだし、むしろ喜ぶべきであろう何だ。
普段からミルフィーも言ってくれてるじゃないか、下ごしらえとかの手際のよさはすごいって。




「あはは……あのねみんな、それは私が作ったやつじゃないの、その右にあるのが私が作ったやつで、皆が食べたのはラクレット君が作ったやつだよ。」


「「「「「……。」」」」」



「すいません皆さん。お口に合わないようなものを作ってしまって、本当に申し訳ございませんでした。それでは、僕はこれから、紋章機の調整がありますのでどうぞごゆっくりと、お口直しに、大変美味しい桜葉少尉のシュークリームでも食べて御寛ぎください。」













だからね、泣いてなんかない、だって、男の子だもの。
僕はそのまま、振り返らずに、駆け足でティーラウンジを後にした。















「全くもう、みんなひどいよ。ラクレット君頑張って作ってたのに。」


「いや、うん、ごめんよ、ミルフィー。悪気は無かったんだ。ただ何時ものに比べたらあんまり美味しくなかったなと思って。」


「私じゃなくて、ラクレット君に謝ってください。あ!ランファ私の作ったの勝手に食べちゃだめだよ。」


「えー、だって、あいつだって言ってたじゃない、お口直しをしてくださいって。」


「ま、まああいつのも悪くは無かったけど、やっぱり私達にはミルフィーのがあってるんだよ。」


「ええ、ミルフィーさんの作ったお菓子は、一流のパティシエに匹敵……いえ凌駕しますもの。」


「本当!? ありがとう、ミント」


(皆さん、結局スルーしてます。…………でもミルフィーさんのシュークリームの方が、美味しい。)
























そのまま、駆け足で格納に到着。
とりあえず、軽く他の人の紋章機を眺めつつ、奥のほうのシャトル乗り場のほうに向かう。

直接繋がっているわけではないので、少し距離がある。


自分の愛機のもとへたどり着いて、ハッチを開いて乗り込む。

僕の機体は、シャトル置き場に止めてあるのだ。

シャトルとかよりずっと小さいけどね。

というか、紋章機よりも小さいし。



「この後は、ミルフィーがカフカフの木が咲いていることを見つけて、お花見をするだったな。」


このお花見で、タクトとミルフィー以外のクルー全員が花粉症にかかってしまい。


ナノマシンに治療を受けるために、医務室は長蛇の列で、ヴァニラは休み無しで働き、倒れてしまう。

なぜなら、ヴァニラが一生懸命エルシオールの修理をした後に、ケーラ先生の手伝いに行ったりして忙しそうにしてたのはつい先日のことで

つまり今のヴァニラは、疲労がたまっている状態である。

そんな中で上のような無理をしたからだ。







ここまでが大まかな流れだった気がする。

そのあと、ヴァニラに何か気の休まることをさせようと、宇宙ウサギであるウギウギを飼わせることにして、敵を倒して終了。

多分一番平和な章と思う。


「まあ、僕ができることは特にないな。」


そう呟き、紋章機の調整用のウィンドウをだす。
最近わかったことだけど、この紋章機は元々別の武装を持つことも出来たみたいだ。


僕の家に埋まってた時は、予備の剣が何組かあっただけだったけれど。
両腕で、さまざまな武器を持つことが出来たそうだ。

もしかしたら、どこかにこの紋章機用の武器があるのかもしれない。



「この前の戦闘でも感じたけど、僕の剣はまだまだ強くなる。」


乗り始めた頃は、通常で30m強で、特殊兵装使用時で80mほどだった。

それに、剣のエネルギーももっと弱くて、ある程度硬いものを切ると、一瞬エネルギーが消えてしまった。


だけど、今はそれより大きくて丈夫な剣を構成できるようになった。



「紋章機の全力、というか、僕に合わせたチューニングだっけ?それさえできればいんだけどね。」


実は、僕は一度光の翼を出すことには成功している。
といっても出したのは兄さんで、色々いじってたら、なんか出たという感じだ。


兄さんは乗れないけど、解析することなら出来るのだ。
まだ僕が何度も乗っていたわけじゃないから、僕の癖とかは反映されなかったけど。

リミッターをかけて、僕の許可が出ればそれを解除できるようにしてもらった。
あと、偽造工作もね。ばれないようにしないと。



「よし、調整終わり。シミュレーターに反映させてこないとね。」

僕は、タラップを使い、紋章機から降りた。
家においてあった頃は、小屋を建ててもらって、ロープを使ってたけどね。
近くの空港においておくという案もあったけど、家におけるのだから、家においておいたのだ。


そして再び駆け足で、シミュレータールームを目指した。





















「お花見しましょうよ。タクトさん。」


「お花見?」


「はい、私の故郷の星でよくやるんですけど、お花の下で皆でおいしいご飯を食べたり、大人の人はお酒を飲んだりするんです。」


「へぇ、そいつは楽しそうじゃないか。」


「そうですわね、ミルフィーさんのお弁当が食べられるだけでも価値がありますわ。」


「ミント、まだミルフィーが作るとは言ってないでしょ。」


「せっかく100年ぶりに咲いたのですから、お花見しましょう。」


「よーし、それじゃあ、皆で準備を始めようか。」


「「「「「了解!!」」」」」









「いや、訓練の後に浴びるシャワーと、上がって飲むフルーツ牛乳はおいしいね。」

シミュレーターにデータを反映した後、つい訓練をしてしまった。
データを反映しただけで、僕が止められるわけが無かったのだ。


だって、シミュレーターだぞ?前の世界じゃ、次世代ゲームでも、ココまで精密なのはなかっただろうし。
タクトがエルシオールに来て20日、原作知識と多少のずれはあるけど、おおむねその通りに動いてるはずだ。

次の戦闘までおそらく4日、ヘロヘロになるまで訓練してしまったが、問題ないだろう。




さて、さっき最低限のクルーを除いて、展望公園でお花見をしよう。ということが、艦内放送で言われてたことだし。


「時間までコンビニで暇を潰しますかね。」


とりあえずは、料理関連の本の立ち読みでもしますか。
最近だんだん自分で料理をするのが楽しくなってきたのだ。


まあ、食べさせる相手もいないから、何か得るものでもないのだけどね。
というより、今日のでわかったけど、人を幸せにしない料理もあるみたいだし……フフフ。


趣味が、訓練とパズルとゲーム以外に出来そうだ。



僕は店員に挨拶して、雑誌コーナーに向かった。









「えー、それじゃあ、皆さんついに我らエルシオールは、味方と無事合流することができました。コレも皆さんの頑張りのおかげだと思います。」





「司令らしくないこと言ってないで、早く始めましょうよー。」



「そうですよ、司令。どうせ皆司令がそんなの似合わないって知っているんですから。」



「きみ達ねぇ……。まぁいいか。とにかく、乾杯!!」




さすがに、読むふけって忘れるなどと言うことはせずに問題なく、展望公園についた。
少々遅れてしまったけどね、もうタクトが乾杯の音頭をとっているし。




僕の髪の毛に桜色の花びらが舞い落ちた。
上を見上げて見ると、カフカフの木が桃色の花を咲かせていた。






外見はほとんどサクラと同じだと思う。

前世ではよく花見に行ったなと思いつつ、ただ黙って見上げ続ける。
空調管理システムで人工的に作られた風が展望公園の中を吹き抜ける。それにあわせ、カフカフの木の花びらが散る。


花びらの軌跡を眼で追っているとどんどん眼が痒くなってきた。






どうやら、僕の体は前世と同じでかなり花粉に弱いらしい。まだ10分も立っていないのに。
もしかしたら、精神的に花粉症の原因となる木の近くにいるのがだめなのかもしれない。逆プラシーボ効果的な?



残念だけど、ココは一回帰ろう。
戦闘要員だから、優先してナノマシンで治療させてもらえるから、数時間の辛抱だ。

花粉症についての資料は、もうまとめてあるから、今から戻って調べたら気になる言葉が出てきた、とかでいいかな言い訳は。
僕はその足で医務室に向かった。














side out






鼻を刺激する、消毒液の匂いと、ここの主であるケーラが好む、コーヒーの香りがまじり独特の、されど不快ではない空気が漂う。中では、リクライゼーション効果を期待してか、小さくではあるが、クラシックが流されている。部屋は白を基調とし、明るい照明により清潔感を醸し出しており、この場所に相応しい印象を与える


ここはエルシオールの医務室、通常時はあまり人が寄り付かないところだ。

「タクトさん、何か用事ですか?」


そんな中でも、ナノマシンの使い手という稀有な存在でもあるヴァニラは、その役割からかよく自主的に手伝いをしているのだ。

加えてここ数日ワクチンにより撲滅されたと思われていた、花粉症がカフカフの実により、艦内の大多数が感染してしまったのだ。故にここ数日彼女は大変多忙
な生活を余儀なくされていたのだ。

エルシオールで花粉症を治療する為には現状彼女の力を借りるしかないのだから。

タクトはそんなヴァニラの様子を見に来たのであったのだ。


「やあ、ヴァニラ、調子はどうだい?」


「現在、クルーの9割の治療が終了しています。」

責任感の強い彼女は、お花見に参加したぼほすべての人にたいして治療を施したうえで、経過観察のために何度か治療後も検診をしている。


「ねぇ、ヴァニラ」


「なんでしょうか?」


そんなヴァニラの事を気にかけるタクトはやはり司令官に相応しいのであろう。



「そんなに色々仕事して、大変じゃないかい?」


「いえ、私はただ私にできる事をお手伝いしているだけですから。」


すでに何人にも、聞かれたのか、すらすらと答えるヴァニラ。そんな彼女の態度に何か思うところがあるのか、タクトはなおもヴァニラを見つめ続けた。


「でも、やっぱりなにか息抜きでもしたほうが良いと思う。」


「息抜きですか?」


「そう、自分の好きなこととかさ。ヴァニラは何が好きなんだい?」


タクトの問いかけに首を傾げる。これと言ってなにかが好きというものがすぐに思い付かなかったのだ。



「好きなこと……ですか。」


「うん、いつも仕事ばかりしてるのは、やっぱり大変だからね。」


果たしてそれは必要なものであろうか?とヴァニラは悩む。


今まで敬虔な教徒であった彼女は、自分のことを第一に考えるというつまりはプライベートを持つという行為自体にあまり縁があるわけではないのである。
彼女は、その小さな右手を顎の下で軽く握り、首をかしげる。


タクトはそんな彼女の様子を見て、苦笑しつつ続けた。


「まあ、ゆっくり考えてみてよ。それじゃあ、オレはこれで戻るから。」


「はい、ではまた。」


ヴァニラが軽く会釈するのを、背中で感じつつ、タクトは医務室を後にするのであった。


















「ヴァニラさんの好きなことですか?」


「うん、今クルーのみんなに聞いて回ってるんだけど、クロミエは何か知らないかな?」


タクトが今いるのは、『クジラルーム』
巨大な宇宙クジラという、長寿で人の心を読むことができるクジラの住処だ。

クロミエはその部屋の管理人であるため、現在タクトに応対している。

タクトはここに来るまでにいくつもの場所を訪れた。



格納庫では、いかにヴァニラが整備や修理などの面で活躍しているかを説かれ、
コンビニでは、ヴァニラが普段一人で買い物に来ることはほとんどないといわれ、
廊下では、ヴァニラちゃん親衛隊が、偶然通り掛ったヴァニラに、公式親衛隊になったりと。




たった三行で語るにはあまりにも多くの濃いイベントを消化してきたのである。長くなるのでカットさせてもらうが。
閑話休題、ともかく、このクジラルームで、タクトの目的が達せられなかった場合、八方塞になるのだが。


「タクトさんは、どうしてそのようなことを?」


クロミエが、そう思うのは当然であろう。確かに彼はヴァニラが興味を持っていそうなことを知ってはいるし、それをタクトになら教えてもいいとも思える。
別に隠すようなものでもないのだから。しかし、それでも、今このタイミングで、なぜタクトが来たのかがわからなかったのである。


「いや、ヴァニラがそろそろ何か息抜きを見つけないと、何かまいってしまいそうな気がして。」


すると、タクトはその問いに、ややはにかみながらもそう続けた。


「よく見ていらっしゃるんですね。」


クロミエは、やはりこの人はエンジェル隊の司令官、いや、エルシオールの艦長に相応しいと再認識した。
ここまで注意深く彼女達を見ているのだから。


「それで、そうだい?」


「そうですね……彼女はよく、動物達を見ていますよ。」


「動物?」


「ええ、特に宇宙ウサギがお気に入りみたいでよく遠くから眺めてますよ。」


「見るだけなのかい?」


タクトは、クロミエのその言葉に対して問い返す。


「ええ、いつも遠くから眺めてるばかりですよ。」


「そうなのか。」


タクトは何か納得したかのように、一人頷く。
その様子をクロミエは眺めつつひとつのことを考え付いた。


「宇宙ウサギといえば最近数が増えすぎてしまって、世話が大変なんですよね。誰か、大事にしてくれる人が育ててくれるなら大歓迎なんですけど。」


誰言うでもなくそう言うクロミエ、しかしその言葉を聴いて、タクトは表情を変えた。


「ねえ、クロミエ、ちょっとここで待っててくれないかな、世話してくれそうな人に心当たりがあるからつれてこようと思うんだ。」


「いいですよ。」


その10分後にタクトは、ヴァニラをつれてきたが、クロミエに驚いた様子は全くなかったのであった。














「431、432、434、435……。」


ラクレットは自室で日課の片手腕立てをしていた。
背中に愛剣である『求め』をのせて、それを落とさないようになるべく早くやるというものだ。

もし背中から落としたら、20回追加というルールことで始めて、最初の目標数250はとうに過ぎている。
何か補正でもあるのか、彼の身体能力に関する才能は規格外であった。


彼は転生する前の知識があったおかげで、高卒程度の学力はあったが、新しい体になって、子供の学習力というものをあまり感じたことがなかったのである。
それはひとえに自分の脳があまりいい出来ではないからであった。また、ほかにも芸術や音楽などのセンスも全くなかったのだ。

しかしながら、彼はこと運動に関しては無駄に才能があった。
本人もそれなりに努力を重ねてきたために、今の彼があるのだ。



「468、469、470……ふう、終わった。」


両手分をようやく終えた彼は自室に備え付けられたシャワーを浴びる。
その描写はやはり割合させてもらうが、彼は、こと肉体に関しては軍人と比べても謙遜はなかった。



ペラリとページを捲る音が、部屋に響く。
シャワーから上がった彼は、先ほどコンビニで購入した料理関連の雑誌を読みふけていた。


彼は一人で過ごす時間はそれなりに嫌いではないが、誰かがかまってくれないと寂しくなるという、いちいちうざい人物だ。
彼にその自覚はないのが問題であるが。


ともかく、一人で好きに時間をつぶしていると、珍しく、本当に珍しく来客を知らせるチャイムが鳴った。
使用されるのが3回目の聞きなれないチャイムの音に反応して、本を閉じて部屋のドアを特に確認もせずに開いた。


普通はインターホンを見るものなのだが、彼はそこまで慣れていないのだ。


「どちらですか~?」

そういいながらドアの開閉ボタンをおす。
すると彼の目の前には誰もいなかった。


「れ、おかしいな?誰かいたと思ったんだけど。」


「います。」



右下から声が聞こえたのでそちらを向く。
するとそこには、ラクレットにはわからないが、やや不満そうな顔をした、ヴァニラがいた。


「ああ、すいません、小さくて見えませんでした。」


「……いえ。」



不満げな表情がやや怒気を孕む表情になったが、
ヴァニラは大人になりそれを耐えた。

彼女はきっと将来いい女性になるであろう。
それはもう可憐で清楚で献身的で思いやりのあるすばらしい女性に。



「それで、僕に何か御用ですか?」


ラクレットはいつものプライベートではない時用の口調でヴァニラに話しかける。
ヴァニラは、エルシオールの中で素の彼を知っている、数少ない人物の一人であったが、特に気にせず自分の用件を述べた。



「クロミエさんに、宇宙ウサギの世話を任されました。」


「そうですか、世話の仕方はクロミエに聞いたからわかりますよね?」


ラクレットは、今まさにヴァニラの聞こうとしたことをつぶしてしまった。
彼女は、なぜか異常に古代の動物について詳しい彼に、ウサギという種族の基本的な育て方を聞こうと思ったのである。

もちろんクロミエから色々と教わってはいるが、そのクロミエ自身が説明の最後に

「ラクレットさんも詳しいですよ。」

と言った為に、とりあえず聞いてみようと思ったのであった。

クロミエは、戦闘要員の中では微妙に孤立している節のあるラクレットに対して気を使ったつもりでもあるのだが。


「はい、クロミエさんが詳しく説明してくださいました。」


「そうかい、ウサギといえばだけど、昔の有名なウサギの父親はキャベツを食べて眠くなってしまい食べられてしまったという話があってね。」


ラクレットは、そのような、クロミエの心遣いや、ヴァニラの望みなどをあまり考えずに自分の知識をひけらかしていた。

しかも、微妙に口調が戻っているあたり、彼も油断しているのであろう。
彼が口調を使い分ける理由は長くなるので省くが。
女性に対しては下手に出るのが常なのであるから


しかしながら、偶然にもそれは、ヴァニラにとっても興味深い話であり、ヴァニラはやや夢中になりラクレットの聞き手になったのであった。
どんどん脱線していく彼の話をいつもの表情ながらも楽しげに耳を傾けるヴァニラはやはり可憐であった。








[19683] 第十二話 Dr.ケーラに聞いてみて 後編
Name: HIGU◆36fc980e ID:f00f2e36
Date: 2011/03/07 18:01
第十二話 Dr.ケーラに聞いてみて 後編





「あ、ヴァニラじゃない、何やってるのよ~? 」


ここはティーラウンジ、エンジェル隊が集まって、よくお茶を飲みつつケーキをつまんでいる場所だ。
今日も今日とで例に漏れず、エンジェル隊のヴァニラを除く4人は、3時のティーブレイクを楽しんでいたのだ。

ちなみに4人とは先日のお花見の後に発生した大量の花粉症患者の治療を行ったのが呼び水となり、疲労で倒れてしまったヴァニラを除く全員である。
そんな所に通りかかったのがどこかうれしそうな表情のヴァニラであった。




しかし、その当のヴァニラが珍しく少々浮かれた様子で歩いていたのだ。
気になったランファは、彼女を呼び止めたのである。


「皆さん、こんにちは」


「ああ、こんにちは。体はもう平気かい?」


「はい、もう大丈夫です。」


フォルテは、しっかりしているが、まだまだ幼い面も多々あるヴァニラの事を気遣っての言葉で聞いたのだが、ヴァニラの力強い返事に安心したかのように安堵の笑みを浮かべた。


「それで、どうしてそんなに嬉しそうなのですか?」


「実は……。」



ヴァニラはミントの、ストレートな問いに、やや動揺したものの、それを表情には出さずに、いつものように今までの経緯をなるべく客観的に話した。


とりあえず彼女が、タクトが趣味を紹介してくれて、クロミエの代わりに一匹のウサギを飼うことにして、その名前はウギウギでありとてもかわいいということを話した。

そこで彼女は、自分の話がいつもより多く自分の感情を含んでいることに気づかなかったのだが、ほかのエンジェル対は彼女の様子に頬を緩めた。



ヴァニラは全エンジェル隊からも妹のように可愛いがられているのである。




そして、ヴァニラが実はいろいろと昔の動物の生態に詳しいラクレットに、ウサギにまつわる童話の話を聞いたり、豆知識的なものを教わったりしたことまで話し終えたところでようやく彼女は一息つき、自分の紅茶のカップに手を伸ばした。



「へー、ラクレット君動物にも詳しいんだ。結構物知りなんだね。」


「はい、よくクロミエさんとお話なさっているのを見かけます。その時にクロミエさんが質問することもあるくらいで。」



ミルフィーはヴァニラの話を聞いて素直に関心していた。
まあ、彼女の性格から考えて、すごいと思うことは素直にすごいと言えるからであろうが。



しかし、ほかの三人は微妙にヴァニラの心配をしていた。

ランファは純粋にヴァニラに仲の良い男ができたことに、フォルテとミントはそれがラクレットであることに。



「ねえ、ヴァニラちょっと聞きたいんだけど。」


「なんでしょうか?」


「あいつとはそうやって、よく話すの?」


ランファは特にためらいもなくヴァニラにたずねた。

ヴァニラはランファの問いの意味を少しばかり考えた後に、ランファの瞳をその紅い瞳で見つめながら答えた。


「ラクレットさんは、クロミエさんととても仲良しです。私はクロミエさんとはよくお話しますが、長くお話したのは先ほどが初めてです。」


「なんだ、そうだったの。」


「でも、もっとお話したいと思いました。数万年前に特定の特殊な空間の中に生息したでんきねずみを代表とする生物達のお話や、あらゆる道具を使いこなし、複雑な計算をとくことさえ可能で、それらすべてを駆使して追いかけっこをしている鼠と猫の話は、とても面白かったので。」


ランファはヴァニラの興味がラクレットと言うか、彼の話にむいていることに気づいたのだが、特に問題もなかろうとも思い放置することにした。

彼女的にはラクレットは興味の対象ではなった、ヴァニラも恋心やら乙女チック名ものを少なくとも現時点では持っているわけではないようだし。

それに現在ランファの心はある人物にその比重の多くを傾けているのだから。




一方でミントは、微妙に複雑に考えていた。


最初から疑わしく、ひそかに監視をしていたりなどもしていたのだが、わかったことは。

彼が頭のよさそうな馬鹿であり、一歩間違えれば脳筋であることぐらいだ。


行動には無駄なところはないが、筋トレか回りの手伝い程度しかしていない。

どこからかのスパイであるのならば、私達にもっと積極的にコミュニケーションをとろうとするはずだと彼女は考えたからだ。

最初はレスター、クロミエに近づいたことも警戒したのだが。

単純に年頃の男の子が異性を避ける程度の行動でしかないと彼女は判断したのだ。
なぜなら、一般クルーの女性に話しかけられたときの彼の狼狽具合がひどいものだったからであるのがそれはおいておこう。



ともかく、第一印象はかなり疑わしい正体不明の男だったのが
現在では 胡散臭い馬鹿な男の子である。


しかし、疑うのをやめたわけではなく、どういった意図でヴァニラに近づいたのかを考え始めていたのだ。


彼女にとって、考えすぎる自分は玉に瑕では会ったが、基本的には好ましく思っていた。

なぜならば、自分はエンジェル隊の参謀であるという自負を持っているからで、自分が頭脳労働担当である自認しているのだ。



自分にブラパンシュ君をくれたことには感謝するが、総合的に見て、まったく意図が見えないのだ。
せめて


「自分が来たのは、シヴァ皇子を守ったならば、周りに自慢できそうだからだ。」




「就職に有利そうだから」



のような、どうみても、後先考えていないような理由でも明かしてくれたのならば、彼の普段の言動を顧みるに、納得したであろうと彼女は自分の思考をいったん締めくくった。




「どう思いまして? フォルテさん。」


「いや、単純にクロミエと仲がいいのならば変な所は無いんじゃないのかい?」





そもそもフォルテがラクレットを疑っているのは、自身の直観に基づくものでしかなく、

ミントと同じで、彼の奇行というほどのものではないが、紋章機操縦の腕から考えられた人物像とはあまりにも違う行動を見てきて微妙に考えを新ためていた。

彼は、刃物を持った馬鹿だと。

これだけだと、とても危ないやつににも聞こえるのが、彼女は彼がいかにもこの言葉が似合うであると考えているのだ。


彼はどこからどう見ても、最近の若者の例に漏れず、ただ平和ボケした若者であろう。


しかし、自身が戦闘することが可能な能力を持っていたために、それを磨いてきた。

結果今の平和ボケした軍人(仮)と言う状況が生まれるのではないかと推測している。



こんな予測を立てるとは、まるで自分が若者では無いみたいだとも考えたが、まあ、自分は平和ボケしているわけでもなく、むしろその対極だと結論付けた。



まだ何か隠しているようであるが、たいしたことでないような気がするのである。





「まあ、特に意図があったわけじゃないだろうさ。」


「そうですわね。」


「そもそも普段のあいつを見て、何か陰謀ができるようなやつに見えるかい?」


「そのような器があるヒトには思えませんわね。」


「だろう?」




おそらく本人が聞いてたら相当なダメージを受けるであろう会話を二人は続けていた。


ラクレットは、自分を万能系オリ主だと思っているのだ。
まあ、実態は 逆勘違い系で さらにオリ主(笑)であろう。



「仮に、あれすべてが演技なら、正直私達が手におえるような奴じゃないだろう。そのときはもうお手上げさ。」



「ですわね。あれを演技でできるものがエオニアの下、または別の勢力にいたのならば、もう手遅れですわ」




二人は地味に最悪な場合の話をしているが、その顔の笑っており、いかにありえないかを理解しているのであろう。




何だかんだ言ってって、彼が、妙な方向性ではあるものの微妙な信頼をえているのだ。























緊迫した空気の漂う部屋、天井は一般的なそれよりもやや高めだが、内装自体に別段特別なものは無い。

せいぜい様々な道具が置かれているスペースがあるくらいか。
人影は二つ、彼らは部屋の中のやや開けた空間で5メートルほどの間合いを持って対峙していた。



「どこからでもかかって来い。」


「はい!! 」


ラクレットは少しだけやわらかいマットを右足で思いっきり踏み込んだ。姿勢を低くし、右腕を放てるようにためをつくりながら突進する。


彼の下半身の筋肉は、瞬発力よりもむしろ持久力に優れているが、中々の速度ではあった。5メートルの距離など1秒足らずでつめられるほどには。


対する男━━━レスターは自然体というわけでもないが、あまり気負った風も無く構えていたその腕を動かしつつ重心を右足に移す。


ラクレットは最後の一歩を大きく踏み込み右腕を撓らせながら、まさにぶん殴るという描写が相応しいようにフックを下から上に向かって放つ。狙いはレスターの顔だ。

低い姿勢なのだから、いきなり体の最上部を狙われるとは思っていないであろうという、彼的には考えた上での選択なのだが、走り出す時点で右腕で殴ることが見え見えのテレフォンパンチではレスターには通用しなかった。


流れるような動作で軽くラクレットの右を左手でいなした後は、そのまま右足を軸に膝をラクレットの腹に入れた。

軸足が入った見事な左ひざでの強襲にラクレットの奇策(笑)は一撃で敗れたのだ。






「まず、動きが直線的過ぎる。猪突猛進な動きなど人間がすべきものではない。そのような動きは、獣のほうが向いているからだ。」


「はい」




先ほどの交差から、5分ほどでラクレットは痛みから復活した。
現在レスターのアドバイスを受けているところだ。



そもそも、彼らがトレーニングルームで戦っているのにはたいしたことが無い理由がある。

なんてことは無い、レスターに時間ができたからだ。


現在明後日に迫った、エオニア軍の駐留地域への襲撃に備えればならないのだが、今回のエルシオールは戦闘の中核を担うわけではない上に、タクトより上の別の方面軍所属の軍人が多くいるのだ。


指揮を取るのも彼らであり、割り当てられた戦闘宙域のデータ収集程度しか仕事が無い、日常業務など優秀すぎるレスターにかかれば片手間に終わってしまうのである。


「次に、予備動作が大きすぎる事だ、相手も素人ならばいいが、単純に場数をふんでいる奴や、軍人相手では当ててくださいといっているようなものだ。」


「はい」


その後も、いきなり間合いをつめすぎるなやら、敵の目の前で硬直するような技を打つな。など
どんどん訂正されていくラクレット。


体はオリ主ゆえに鍛えたものの、前世含めて喧嘩の経験など無い。
そもそも彼は人に暴力を向けるという行為を数える程度しかしていないのだが。



彼の肉体は、全体的に持久力が重視された鍛え方だ、トレーニングメニューなどは自分の知識を元に星間ネットで調べて鍛え上げたのである。


だが、それを使ったことなどあまり無い、小学校のころは体育の授業では人気者であったが、それだけで飛び級で入った高校では格闘技系の授業は免除されていたりする。

もっとも、最近では彼の体格的にそれはどうなんだという話が出てきてはいるのだが。


つまりは、格ゲーで最強キャラを使っても、プレイヤーが初心者なら、普通に負けるのである。



「とりあえず、まずは間合いの取り方からだ、いくぞ。」

「はい!! 」





出撃二日前、エルシオールの数少ない要職につく男性二人はトレーニングルームで汗を流すのであった。





その様子を楽しげに扉から見つめる(覗きとも言う)めがねの女性が、


「まさか、浮気!? 親友の司令だけじゃなく年下の優秀な少年に、三角関係!?」


などと騒いだので、はたまた、違った意図で見つめていた(覗きだと思う)女性に連れ行かれることになったのは、完全な余談である。





























「皆、今回の作戦は、第三方面軍が中心だ。オレ達に割り当てられた区域は、決して広くは無い。しかし、旗艦もいるので、要注意だ。」


「今回の作戦目標は、敵の旗艦を破壊した上で、戦闘中域内の敵艦を可能な限り減らすことだ。細かい作戦はタクトから説明を受けろ。」


「そういうこと。それじゃあ、皆頼んだよ。エンジェル隊、独立戦闘機部隊、出撃!!」


「「「「「了解!! 」」」」」


「了解!! 」










「ラクレットとランファは先行してしてくれ、敵旗艦に近づくのが目標だけど、攻撃を集めるだけで十分だ。」


「他の四人は、ラッキースターを先頭に、ハーベスターを守るようにしつつ、前進してくれ。くれぐれも無茶はするなよ。」




































エルシオールと同じ戦闘宙域に割り当てられた船の数は、他の宙域の半分ほどでしかなかった。
これは、エルシオール並びに、それに付随する戦力を考慮したからである。


割り当てられた戦艦のクルーの意見は主に二つ、

この配備は妥当であり、エンジェル隊やエルシオールの戦力への期待感を持っているものと
彼らを過信しすぎて、戦力を省きすぎではないかの懐疑論

だった。





戦艦チヒロの艦長チョ・エロスン(32歳独身)はどちらかといえば懐疑論に近いものであった。

だが、彼のもともとの配備は、第一方面軍。
何度か、エンジェル隊が、遺跡などの探索のために出撃しているのを見かけたことがあるのだ。

その時の速度を見るだけでも、十分驚くべきものであったし、公開されているスペックだと、単体でクロノドライブすら可能であるというのだ。


しかし、それが本当に戦闘で役に立つのか、ここまで単体で抜けてきたとはいえ、実際に戦闘をこの目で見るまでは過信はしない、それがエロスン(趣味は読書)の考え方だった。





「エルシオールから、紋章機の発進を確認しました。続いて中型戦闘機一機の発進も確認しました。」


彼が軽く思考をまとめていると、オペレーターからの報告が入った。
エロスン(特技は家事全般)はひとまず、クルーに対して指示を出すことにした。


「よし、戦艦チヒロは、他の戦艦を引き連れつつ前進、エルシオールが孤立しないように適度な距離をとれ。」


「了解。」



操舵手の返事を聞きつつ、彼は視線を宙域の戦略マップに落としたのであった。













「さすが、紋章機圧倒的速度ですね。」


「ああ、そうだな、われわれが戦闘可能な距離になるまで時間がある、この2機の映像、モニターに出せるか?」


副官の言葉に同意しつつ、まだ余裕があるので指示を出した。
先行している2機はすでに、戦闘可能な距離だ、現にモニターを見ると片方はすでに射撃を開始しているようだ。

しかし敵旗艦の攻撃が激しいのか、一端射線上から外れるべく大きく回りこみ始めた。


「やはり、敵旗艦の攻撃力は侮れないな。」


自分の頭の仲で、所詮は無人戦艦だと侮っていた、上層部の馬鹿共顔のを思い出してしまい、若干表情が強張りるが、そろそろ戦闘可能宙域かと思いマップに視線を戻した。

しかし、彼の目線は副官の声で再びモニターに戻ることになる。


「そうですね、おや……艦長!! 」


「どうした?」


「先行していた一機が、そのまま敵旗艦に突っ込みました!! 」


「馬鹿な!! 」


モニターを見ると、敵旗艦の砲門が爆発している。
マップの敵旗艦周辺に視線を戻すと、旗艦の位置と戦闘機の位置が完全に重なっている。

何事だと思ったエロスン(座右の銘は平常心)は、モニターを拡大させる。

するとそこに写っていたのは、敵の旗艦の懐に入り込み、右の剣で砲門を切り付けているところだった。


「ありえない……。」


副官の声が右耳から入ってくる。その言葉にエロスン(階級は大佐)は激しく同意するものの、ひとつの考えが頭によぎった。


「いや、むしろ理にかなっているのかもしれん、旗艦の攻撃力は強大だが、懐にさえ入り込んでしまえば攻撃はされにくい、さらにあの剣は狙いを定める必要なく、触れてやるだけで砲門は潰すことができる。」


「まさか!! そんなこと……。」


エロスン(初恋の相手は月の聖母)は副官の驚きように、微妙に満足しつつ、言葉を続ける。


「そして、他の紋章機より、小さい機体、回避に優れていて、なおかつ、懐に入り込みやすい。まさに旗艦を倒すのに適した機体だったのだよ。」


「そうだったのか……。」


「あのー艦長、戦闘開始の指示を出していただきたいのですが……。」












その後、エンジェル隊と、ラクレットは順調に敵を倒し戦闘を終了させた。


しかし、ラクレットは知らない。

エロスン(実はタクト達の先輩)がこの戦闘のあと、エタニティーソードのことを 

旗艦殺しフラグブレイカー 

と名づけ、船乗り仲間に言い伝え
戦後その名が定着し、



彼の呼び名がそうなることを、

そして、兄にまさにその通りだとからかわれることを。
何も知らない人から、尊敬の眼差しでそう呼ばれることを。












フラグブレイカー ラクレットの誕生秘話

タイトルのケーラ先生は出てこないという罠。


いろいろいってきましたが、来週からちょっと更新が難しくなりそうです。



[19683] 第十三話 ダンシングクレイジーズ 1
Name: HIGU◆36fc980e ID:f00f2e36
Date: 2010/12/26 08:08





第十三話 ダンシングクレイジーズ 1






ナドラ星系での作戦を終えたエルシオール一行はローム星系の衛星都市ファーゴに向かった。
そこで、今後のエオニアの反乱軍対策会議が行われるという名目だ。

当然のことながら、対エオニア部隊の様相を得て来たエルシオールは、その中心的存在になるであろう。
クルー達も今までの功績から来る褒賞や、優遇を期待している節があるくらいだ。

しかし、皇国軍の残存勢力部隊の多くが招かれているために、エルシオールは丸一日待たされることになった。


「ちょっとー、タクトまだなのー?」


「後ちょっとだよ。」


ランファは口を尖らせて、タクトを責めるような目で見る。
別にタクトに責任があるわけではないのだが、その辺は、偉いから責められているだけなのであろう。


「えー、また、あとちょっとですかー?」


「そうそう、後ちょっと、後ちょっとってもう何回言ったんだい?」


ミルフィー、フォルテもランファに便乗する。
あれだけ活躍したのにこの扱いには不満が生まれても仕方が無いであろう。
尤も、捨てる神あれば拾う神ありだ。


「まあまあ皆さん落ち着いてくださいませ。ファーゴの港の許容量を超えているのですから、時間がかかっても仕方ないですわよ。」


「おそらく後、数十分ほどでしょう。」


「ヴァニラ言う通り、向こうの管制が指示した時間から考えるに後20分程度だろう。」


まあ、彼らは単純に事実を言っているだけなのだが。
こう考えると、タクトの周りは感性重視と、理論重視が丁度良い塩梅で分かれているのである。



ちなみにラクレットは転寝をしていた。
訓練のしすぎで疲れていたのである。












「それじゃあ、オレは行って来る。後は頼んだぞレスター。」


「ああ、まかせろ。……おまえも、会議中に寝るなよ。」


「わかっているって。」




衛星都市ファーゴに到着したエルシオール一行。
さっそくタクトはエオニア軍対策会議に出席するために、都市の中心部へ向かった。


「これからの皇国を左右するような会議だ。気合を入れていかないとな。」







「タクト・マイヤーズ、ただ今到着しました。」


「おお、マイヤーズ君か、入りたまえ。」


「失礼します。」


タクトが荘厳な雰囲気のドアを開け入室した会議室は、特にこれといっておかしな造りのものではなかった。
飾り付けは適度に豪華で、特に派手すぎるということも無い。
ファーゴは皇国の直轄領なので、この建物を建てた、当時の皇王のセンスが良かったのか。

そんなことを考えながら、卓についている者を確認する。
向かって一番奥にこの前の作戦の責任者で、この宙域の中では階級トップのジクルト・ジーダマイヤ大将。
その左右は側近で固められており、向かって右側の手前のほうにルフト准将が座っていて、その隣の空席がおそらく自分のものなのだろう。

自分の知っている物はそのくらいで、後はおそらく将官なのだろうか、傲慢な雰囲気を感じるような輩であった。
タクトはそのような雰囲気を持つ者があまり好きではない。
滅多に出席しなかったが、貴族同士のパーティーにあのような目をした貴族がよくいるのだ。

それでも、会議だから仕方が無いと割り切り、一礼して、自分の席に着く。




「さて、全員揃ったところで、早速始めるとするか。」


ジーダマイヤのその言葉に、会議室の空気が変わる。今まで自分に集まっていた視線が元に戻るのをタクトは感じた。


「まずは、先日の作戦ではご苦労だった。シヴァ皇子もきっと評価してくださるであろう。」


「いえいえ、閣下私共は皇国軍人として、当然の職務を行っただけです。」


ジーダマイヤの賛辞の言葉に、周りの軍人の一人が代表して答える。
タクトはその雰囲気に、やはり、周りの者は貴族だということを感じ取った。
トランスバール皇国では貴族縁の者のほうが圧倒的な速度で出世できるのだ。
現に自分はどう考えても優秀なレスターよりも出世が早いのであるのだから。



「ハハハ、そうか…………さて、今回はあのエオニアの包囲網を果敢にも一隻で抜けてきたエルシオールの艦長 タクト・マイヤーズに来てもらっている。」


「タクト・マイヤーズ大佐です。」


「マイヤーズ君、今回は本当に大儀であった。おそらく、戦後に褒賞があるであろうから期待すると良い。」


「……ありがとうございます。」


まるで予定調和の見世物だ。
タクトは内心でそう思った。
そもそも、この会議だって……


「それにしても、エオニア軍もたった一隻に突破されるような包囲網程度しか張れないなど、たいしたことも無い。」


「然り、先日の作戦でもたいした被害を被る事は無かった。こういっては何だが、第一方面軍は腰抜けばかりだったのだな。」


「おや、皇国軍の英霊を愚弄する発言は控えたほうがよろしいのでは?」


「これは、失敬。」


自分達は後方にいたので、全くエオニア軍の真の実力を知らないような貴族軍人のその言葉にさすがのタクト黙っていられなかった。


「皆さん!!エオニア軍の力を侮ってはいけません!!私は実際に戦闘してきて、今までの宇宙海賊程度との経験が、ほぼ役に立たないほどの力の差でした。」


そう、正直ここまで来れたこと自体が奇跡だ。
今の記憶を持っていても、時を巻き戻してもう一度やれと言われれば、きっと実行するのは難しい。


「おや?エオニア軍の一番の仇敵であろう貴殿が勝てないと申しますか?」


「これは、だめですね。皇国軍人としてそのような臆病者にシヴァ皇子を任せて置けませんな。」


「こらこら、お前達。マイヤーズ君は現場の指揮官として意見を言っているだけだ、我々はそれを重く受け止めて作戦を作るべきであろう。」


「さすが、閣下すばらしいご意見であります。」


「さあ、三日後に控えた舞踏会で英気を養い、その後エオニアを倒し本星へと凱旋しようではないか。」


「そうですな。」「ええ、そうですとも。」「いやいや、これで戦後の褒賞は決まりましたな。」


「それでは解散。」




タクトはここに来てもう何も言えなかった。この部屋に居る者は全員現実をきちんと認識していない。
無人艦隊など恐れるに足らずということなのであろう。
それが、この前の勝利で促進された。

それがおそらく全て、エオニアの策略なのだ。
なんという恐ろしい敵なのであろう。







「タクト……。」


「いえ、ルフト准将、仕方が無いことなのでしょうね。」



誰もいなくなった━━━━というのには語弊があるが、ルフトとタクト以外が退出した会議室で二人は会話していた。


「彼らは、完全にエオニアの策に嵌っている。俺達が包囲網を突破できた? 少なくとも皇国軍として配備された戦力だけでは無理だったじゃないか!!」


タクトの中でのラクレットの評価は決して低いものではない。
というか、彼がいなかったら、今自分はここにいないというレベルだ。
もちろんエンジェル隊のメンバーどころか、エルシオールスタッフ全員にこのような評価でもあるのだが。


「それらすべてエオニアの策……そう考えるか。」


「はい。」


ルフトはタクトの言葉を聞き、口であごの部分に触れた。
そしてしばらく考え込むような仕草をした。


「ワシの方でも、なるべく注意を払うように言っておく。もっとも、ジーダマイヤがあの調子だ、どれだけ効果があるかわからんがの。」


「お願いします。」


そこでルフトは話を一端切った。
そしてしばらく考え込むような仕草をした後に、何かを決意したような表情でタクトに向き直った。


「それではタクト・マイヤーズ。次の指令を言い渡す。」


「はっ!」


タクトはルフトにフルネームを呼ばれ、居住まいを正す。
ルフトの真剣な表情に、感じ取るものがあったのだ。
そう、彼の鋭すぎることに定評のある直感が、いやな予感を告げていたのだ。


「三日後の舞踏会にエンジェル隊のメンバーと共に参加せよ。」


「はっ!…………はぁ?」


あまりの予想外な命令に間抜けな声が出る。
まあ、それは仕方が無い事であろう。


しかし、次のルフトの言葉に、今度は完全に思考停止をせざるを得なかった。




「そしてそれがお前の、エルシオールの指令として最後の任務となる。」

































「「「「「タクト(さん)がやめる(のですか)!?」」」」」


エルシオールに戻ったタクトは、ブリッジにエンジェル隊メンバーを集め(レスター、ココ、アルモ、ラクレットはすでにいた。)


「うん、三日後の舞踏会を最後に、別の艦隊の指揮をすることになってるんだ。」


「そんな…………もうどうにもならないのですか?」


タクトの衝撃発言にエンジェル隊の面々は、まあタクトの予想通りの反応をした。
そんな彼女達のリアクションを見て苦笑しつつ、ミルフィーの質問に答える。


「うん、すでに決まったことだからね。」


「そんな……寂しくなりますね。」


「ああ、せっかく、いい感じだったのに。」


別れる事が決まったからか、心中を吐露する彼女らを見て、自分が今までやってきたことが無駄でないと改めて認識しつつ、どこか寂しい気持ちになりながらもタクトは答える。
いつもどおりの笑顔を浮かべて。


「ありがとう。」


感謝の言葉を。








「さて皆、三日後の舞踏会では存分に楽しんでくれよ。経費は全て軍から下りるみたいだから。」


場の空気を換えるように、大袈裟な動作と共にそう言った。
エンジェル隊もそのタクトの雰囲気を感じ取ったのかそれに合わせるように、喜んだ。


「本当!?じゃあ、早速ドレスから靴まで新調しなきゃ!」


「新調って、ランファ、持って来てたの?ドレス。」


「当然じゃない?」


「ヴァニラさんのドレスは私が選んで差し上げますわ。」


「ありがとうございます。」


「まあ、タダというのは、ありがたいね。」



いつものような和やか雰囲気に戻ったブリッジ、しかし先ほどから沈黙を守っている男がいた。


ラクレットである。

彼は、タクトの持ってきた招待状の文面を食い入るように見ていたのである。
その必死さは、微妙に一歩引いて見ていた、ココとアルモが若干引くぐらいであった。


「あの、タクトさん」


「……なんだい、ラクレット。」


タクトもラクレットの言いたいことを、なんとなく察しているのか、微妙な表情で返す。


「招待されているのは、エルシオール司令、並びにエンジェル隊……だけですか?」


「…………そうだね。」



「……僕は?」


「…………。」



そう、招待されているのは
タクト、ミルフィー、ランファ、ミント、フォルテ、ヴァニラだけなのである。

舞踏会はオリ主的イベントの筆頭だよね。
とか考えていたラクレットは、すでに脳内で、エンジェル隊どころか、エルシオールの全ての女性クルー(原作に登場する)と行く場合のシミュレーションは済ませていた。

ラクレットの段々悲壮感溢れていくその表情を見て何を思ったのか、レスターが一歩ラクレットに歩み寄る。



「おそらく、向こう側がエルシオールとその搭載している紋章機並びに『エタニティーソード』のパイロットを評価して招待したのだろう。」


「それならなぜ!?」

ただでさえ、近かった距離を詰め寄るラクレット、興奮している彼は周りが見えなくなっているらしい。
お互いの吐息がかかりそうな距離に反応した女性がいたのはスルーしておこう。

ラクレットの当然な疑問にレスターはいとも簡単に答えた。

「向こう側の勘違いであろう。そもそもあのレベルができる戦闘機のパイロットが、エンジェル隊外にいること自体想定してないのであろう。」


「そんな……。」


愕然とするラクレット、そんな彼に追い討ちをかけるレスター。


「その証拠に、買い物用のクレジットカードが7枚届いている。」



「畜生!!ぐれてやる!!」



あまにもあんまりな言葉に、普段作っているキャラが崩れるラクレット。
その言葉に地味にミントが反応した。


「ぐれるとどうなりますの? 」


「ゴミの分別をしません !!」


瞬間的にそういいきった。彼のぐれるイメージはそんなものである。


「ごみの分別は、宇宙空間においては重要です。」


「そうだよ。ちゃんとしなきゃだめだよ!」


「……うわあぁぁぁぁん!!!」


ヴァニラと、ミルフィーの止めに固まったラクレットは、そのままブリッジを走り去った。
半分泣きながら。


その姿につい、同情してしまった者がいたそうな。










[19683] 第十三話 ダンシングクレイジーズ 2
Name: HIGU◆36fc980e ID:f00f2e36
Date: 2010/12/26 08:08








第十三話 ダンシングクレイジーズ 2












ラクレットは激怒した
必ずかの邪智暴虐の大将を八つ裂きにすると決意した(脳内で)




まあともかく、みんなが外に舞踏会の準備に行っていて暇なのだ。
タクトは、微妙に一悶着あった後、ミルフィーをパートナーに選んだみたいだし、安心だ。

などと考えながら、エルシオールの格納庫でランニングしていた。
名目は緊急時に、迅速に出撃するための訓練ということだ。


整備など、ファーゴに入るまでにとうに終わっているので格納庫はラクレットを除いて無人だ。


往復ハーフマイルくらいはあるであろう、格納庫を20往復したくらいで、ラクレットはラッキースターの近くに人がいるのを発見した。

気になって近寄ってみると、そこにいたのはエルシオールのクルーではなく、10歳程度の外見の金髪少女であった。

その少女はラクレットにとっては、画面越しに何度も見た外見と瓜二つで、彼にとっては久々に興奮する材料だったのだ。

ラクレットは紳士的に話しかける。


「やあ、お嬢さんどうしたのですか? 」



「別に、これを見ていただけよ。」


「テムオリン様VOICE来た!!!!!!! 」


「はぁ? 」


興奮したラクレットは、声に出して叫んだ。
まあ、彼の模している格好のゲームの中では好きなキャラBEST5に入っていたので仕方ないのかもしれない。
ちなみに、一番は緑で、次にへタレ、青、年増、コアラの順である。


それはともかく、金髪の少女━━━ノアはドン引きだった。

なにこの、キモい生き物。
といった具合である。


「いや失敬、それで、なんで紋章機なんて見てるのかな? 」


「うーん、お兄様が気にしていたからかしら? 」


「そうか。でも危ないから近寄っちゃだめだよ。落ちたら大怪我だしね。」


「平気よ。私飛べるもの。」


ノアはまったく気にしない様子でそんなことをつぶやきながら、手摺に飛び乗る。
そのときの動作は、若干人間にはできないようなものが混ざっていたのだが。
ラクレットはまったく気にしなかった。

なぜなら、彼女の正体を知っているからだが。

ちなみに彼女が手すりに飛び移るときに、スカートが大きく翻ったが、ストライクゾーンが16より上な彼は全く反応しなかったことをここに記しておこう。


しばらく、ラクレットのほうを見ていたノアだが、興味をなくしたのか、紋章機のほうへ向き直る。
ラクレットはノアの後姿をただ眺めていた。


「ねえ、あんたって偉いの? 」


「そうですね、平均よりは? 」


階級的には確かにそのくらいだが、臨時であるので、同階級のものよりは下だ。
それに加え、ここに来るまでに彼が残した功績は大きく、その辺も加味すると地味に複雑ではある。


「じゃあ、この紋章機私に頂戴。無理なら偉い人呼んできなさいよ。」


「それは無理です。紋章機をあげるなんて無理ですよ。玩具じゃないのですし。」


ラクレットはなるべく原作どおりの反応を返そうと必死にこのシーンについて思い出していた。
確か、これで自分で作るからいらないとなる流れだったっけ?
と考えつつ、ノアにそう言った。


「そう……ならいいわ。」

ノアはそうつぶやくと、手すりからいきなり飛び降りた。
なんとなく予想できてはいたが、いきなりのアクションに驚いたラクレットは、手摺に駆け寄り下を覗き込む。




「やっぱりか……。」


しかし、彼の予想通り、下には誰もいなかったのである。
































「ふむ、やはり所詮はジーダマイヤか。わずか一回の勝利で浮かれきっておる」


エオニアは現在黒き月を引き連れて、ファーゴからある程度離れた位置にいた。


「この後に余が姿を現した時こそが貴様の命日であるというのに。」


エンジェル隊に散々苦しめられてはいるものの、まだまだ余裕であるのか、ラスボス的雰囲気を醸し出していた。



「エオニア様、黒き月からです。」


そんな中一本の通信が入る。
それは大変珍しい相手からだった。


「繋げ。」


「了解。」


オペレーターはその言葉に反応して、モニターに繋いだ。

どうでもいいがエオニアは部下の前で先ほどの言葉を発していたのだろうか?

だとしたら 中々に周りが見えないか、周りのスルースキルが高いかである。


閑話休題、ともかくエオニアは、前方スクリーンに意識を集中した。



「エオニアさま、ご報告があります。」


「久しいな、カマンベール。」



スクリーンの先にいたのは、白衣を着た青年だった。
髪の色は薄いブルーでそれなりに長く、後頭部で束ねており、軽く首を動かすのにあわせてさらさらと流れた。
フレームの太い眼鏡をかけた、中々に相貌の整ったいわゆる美男子であったのだが、彼の身長は低く、少年のような印象を受ける。

低いといっても、160と少しといったところであるが。
もっと言うと、ミルフィー以上ランファ以下である。


ともかく、現在21歳の、ラクレットの兄である━━━━━カマンベール・ヴァルターであった。


「ご無沙汰しております。今回の報告ですが、少々複雑な仕組みを見つけました。」


「ほう? 」


カマンベールは黒き月に住んでいる。
というより、泊り込みで研究しているのだ。

エオニア達が入れなかった区画にも、一人ではいることができたのだ。
エオニア達が入ろうとすると、管理者権限が無いと警告が出て、扉が閉じてしまったのだ。
ちなみに、黒き月を発見してから、その区画から出た回数はまだ3回目でしかないのだが……。

彼は定期報告は文書で済ませて、奥から出てこないのである。


エオニアから見れば、有用な研究をする部下であり、その能力は買っている。
何を考えているかはわからないが、研究さえ出来れば良いと言っているので、黒き月を持っている限り裏切られることは無いと考えているのだ。

なので、そのようなスタイルでも特に咎められてはいないのである。



「今までも、中々に手のかかるものばかりですが、今回ばかりは数年単位のスパンで研究をさせて頂くつもりです。」


「そうか………。」


「つきましては、私はこれからしばらく音信不通となります。」



が、さすがに、今回のはどうかとエオニアも思った。
黒き月の中で数年も音信不通とは、さすがにどうかと思ったのである。


「まて、お前はなぜそこまでする。」


「そうですね、今回発見しましたものは、どうやら不老不死にすら通じそうなものです。外に出すことはまず不可能ですが、私が数年かけて研究すれば何とかなるかもしれないと、科学者としての血が告げているのです。」


「不老不死だと!! 」


エオニアは驚く。黒き月は兵器工場のようなものだ、そんなものの中になぜ不老不死に通ずるものがあるのか?


「はい、おそらく、人間という不確定なものを、永遠にすることで安定した結果を出せるようにするためと現在推測しています。もしくは、黒き月というものそのものを行使する根本的な目的を左右する……」


「わかったから、もうよい。お前は熱が入ると数時間は話し続ける。とりあえず研究は許可するが、兵器を製造する権限全てはこっちに預けろ。それが出来るのはシェリーからの報告から聞いている。」

一回目に、例の区画から出てきたときに7時間かけて報告したことである。
聞いたのはほぼ全てシェリーである。
本人はフラフラになりながらも、何とか要点を理解してその足でエオニアの元に報告へ向かったのだが、逆にエオニアに心配されてしまった。
というエピソードが残っている。


「ええ、了解しました。それではまた数年後に。」


「くれぐれも、余に剣を向けるなど考えるではないぞ? 」


「わかっていますよ。」



そう言って、カマンベールは通信を切った。
エオニアはそのまま、しばらく通信ウィンドウのあった虚空を眺めていた。

























「ふー、とりあえずこんなんでいいかねぇ。」


俺は演技下手なのになー。などと呟きつつ、左手を肩に当てて首を動かす。
一仕事終えた後は、肩こりが気になってしまうのだ。

もっと運動すべきかなー?などと考えながら、時間の無駄かと結論を出し、ウィンドウに背を向ける。

カマンベールはそのまま、その場を後にして、管理者および管理者の許可した者しか立ち入ることが出来ない区画に向かう。
その区画に行くまでに3人ほど兵士型のロボットに遭遇するがスルーしてそのまま進む。

そして、閉ざされた黒く重厚で巨大な全く飾り気の無い扉の前に立ち、能力を発動させる。
彼は、ありとあらゆるロストテクノロジーの解析し理解することができるのである。

構造があれば、ある程度使いこなすことはそこまで難しくない。

もっとも彼ができるのは、黒き月管理者代行レベルで、ノアのインターフェイスと同レベルだが、一人の人間が持てるレベルとしてはどう考えても破格である。





「不老不死とか……まあ、そこまで外れてるわけじゃねーけど、まさか信じるとはな。」


もしくは、オレがうっとおしくなったとか……。

ぶつぶつと独り言をつぶやき続ける彼の姿は、周りから見れば異様であろう。
独り言が多いのが彼の癖なのである。


完全に扉が開いたので中に入る。

入った途端に扉が閉まったが、いつものことなので彼は気にしない。
ここのセキュリティレベルはMAXなのだから。


「さて、ようやく君に取り掛かれそうだよ。」


カマンベールは、黒き月の中心へ向かっている、螺旋階段を下りる。
長い長い階段は、どこか神秘的であるが、手摺すらないそれは慣れてないと足が竦みそうであった。


「ああ、君はどんな声でしゃべるのかな、どんなことを知っているのかな。」


数百段下った後、紅く光っている扉に手を当てる。
すると左右にゆっくりスライドしていき、隙間から漏れる紅い光が彼の全身に降り注ぐ。


「さてと、君が目覚めるまで俺も眠ろうかな。」


部屋の中にあったのは、強く紅く輝く巨大なクリスタルだった。

そして、中には一人の金髪の少女が眠っていた。


カマンベールは再び手をかざす。いっそう輝きが強くなり部屋を包んだ。




そして、光が元の強さに戻ったときには、部屋に誰もいなかった。




















場所は戻ってエルシオール ブリッジ

現在ダンスパーティーの真っ最中。


ラクレットはレスターと雑談していた。


「そういえば、レスターさんはタクトさんの下に再配属なんですか? 」


「ああ、そういうことになる。」

現在、エルシオールにはダンスパーティーに参加しているメンバー以外すべてのクルーがいる。
しかし、新たな司令が配属されるまでは、特にすることは無く、穏やかな雰囲気が流れていた。
要するに暇だったのだ。


現にブリッジでも、職務に真面目で堅物で有名なレスターが、欠伸をしていたくらいだったのだから。


「僕はこのまま待機みたいです。クリオム星系は警戒網の真ん中ですが、星系間の物資の輸送には一切制限がかかっていないみたいです。」


「そうか、確かクリオム星系は、軍事力をほとんど持たない代わりに、半独立的な存在になっていたな。エオニアの軍隊には補給も必要ないから、放置というわけか。」


「ええ、おそらく軍事的な力が弱いので、星系の周りを囲んでいるだけなのでしょう。」


「皮肉な話だな、軍事力を持たないからこそ、平和が維持されているのか。」


「数百年前に、発展に尽力した指導者の思想がそのまま受けづかれているそうですよ。」



まあ、彼らの雑談は、雑談にしてはお堅い話であったが。


「副指令、雑談なんですから、もっと楽しい話をしましょうよ~。」


「そうですよ。」


そんな二人の話が一区切りついたところで、アルモが話に割り込んできた。
それに同意するココ。

ブリッジにいるのは今この4人であった。


「むぅ、そうか? 」


「ええ、副指令の学生時代の話とか聞きたいです。」


「ちょ、ちょっとココ!! 」


ここぞとばかりに、レスターに話を振るココは、アルモの為という友達思いではあるのだが、本人の目もらんらんと輝いていた。
一応アルモも突然の話題変更にココを制してはいるが、彼女自身も興味津々であった。


ようは、一切のストッパーがこの場にいなかったのである。

ラクレット?あいつは、誰かのブレーキ役なんてできません。


「俺の学生の話なんぞ、タクトが馬鹿をやって、それを俺がフォローしていただけで大して面白いような話ではないぞ。」


どこか遠い目をしてレスターはそういった。
その科白にはどこか、一仕事終えた男のような疲れた雰囲気を醸し出しており、誰も詳しく追求することができなかった。



「それより、むしろお前らのほうはどうなんだ? 」


「え? 」


「私達ですか? 」


急に態度を変えてこちらに質問を投げかけてくるレスターに動揺してしまった。
というより、レスターが他人に積極的にプライベートな話題を振ってくるという状況に、固まってしまったという所か。


「私達は、普通に研究をしていただけなので。」


「ハイスクール上がってすぐに、白き月に入ったとしか。」


「あ、僕も飛び級しているので、友達もいないですし、そういうわけで何かストーリーがあるわけでもないです。」



なんというか、このブリッジに集まっているメンバーは普通の学生生活を送っているのか、特殊なのか、わからない様な者ばかりだった。
しばらくの間流れる微妙に気まずい沈黙。

そんな中、あるもが突然取り繕うように、口を開いた。


「に、にしてもあれですね、マイヤーズ司令は本当になんというか、女性にもてますよね。」


「そ、そうよね、今回のダンスパーティーもミルフィーさんを誘いに行く途中にランファさんに誘われたんでしたっけ? 」


話題展開にはどうかと思うような内容ではなかったが、男共二人の反応は芳しくなかった。
一人は興味なく、もう一人は地味に懸念要因だがもうどうにもできないからだ。



「まあ、あいつは仕事の延長上でああなっているからな……。」


「僕としては、ミルフィーさんがお似合いだと思うのですが……。」


特に食いつくというわけではなく、再び沈黙が訪れる。






そして、その沈黙を遮るようにアラートが鳴り響き




惨劇が始まった。
トランスバール史にも長く残り、そして数々の人の心を痛めつけた 惨劇


そして何より、ラクレットにとって人生の転機となるそれが。








































どうも作者です。
用事、まあぶっちゃけると受験なんですが
それが無事終わったので、ストック分を投稿したいと思います。
これからは幾分かハイペースで投稿できると思いますので
どうかこれからもお付き合いください。



次回からその他に移ろうと思います。





[19683] 第十三話 ダンシングクレイジーズ 3
Name: HIGU◆36fc980e ID:fb84e1e6
Date: 2010/12/26 08:09
第十三話 ダンシングクレイジーズ 3







「っく、どういうことだ!!総員に告ぐ!!第一次戦闘態勢だ!! 」


突然鳴り響いたアラート、そんな中レスターは悪態をつきながらも冷静だった。
瞬時に脳内であらゆる可能性をシミュレートする。


「アルモ!!周辺の船と連絡を取りつつ、高精度レーダーを起動して周辺のサーチだ!!ココは司令部につないでくれ!! 」


「「りょ、了解!! 」」

エルシオールのレーダーは、現状の最新鋭の船の先を行っている。
紋章機と共に、白き月から発掘されたかれだ、このレーダーはエルシオールがココまでこれた大きな要因のひとつだ。


「各乗組員は、出航の準備……いや、それは終わっているのか。ひとまず各自持ち場に着け。」

話しているうちに落ち着いてきたのか、だんだん口調が落ち着いてきたレスターは、自分の右側で冷静にレーダーの解析画面を見つめているラクレットに向き直る。


「ラクレット、お前はエタニティーソードに乗り込み待機だ。レーダーの解析結果次第では、先行して出撃の可能性もある。お前のエタニティーソードならば、シャトル用の出入り口でいいからな。」


「了解しました。」


ラクレットは即座にブリッジから退出して全速力で格納庫へ向かった。


「ココ、繋がったか?アルモ状況は? 」


「司令部は混乱しているようで、状況を把握していません!! 」


「周辺の船も同じく、混乱しているだけです。アラートの原因は長遠距離からの砲撃だそうです。」


そうか…。とつぶやくレスターはどこまでも冷静だった。彼は集中するとだんだん冷静になっていくのだ。
急な事態にやや弱いという弱点はあるが、マニュアル的には常に満点の答えを出せるのが彼の強みである。


「解析結果出ました!敵艦がファーゴから離れたところに待機しているみたいです。」


「一部の戦闘機などが先行し、奇襲したみたいですね。」


「こちらの戦力は? 」


「それが、まだ全く対応できないみたいで。」


レスターの質問にココは顔を曇らせて答えた。
しかし、そこに通信が入る。


「副指令、僕が出ましょうか?無人戦闘機相手に時間稼ぐのなら十分に可能です。」


「アルモ、敵の数は? 」


「4機です。」


「あいつらではなさそうだな。……よし頼んだ。そういうことならラクレットがでた直後に出港だ。」


「りょ、了解!! 」


「ラクレット・ヴァルター、行きます!! 」


ラクレットはそのまま出撃し、宇宙港の船の間を器用にすり抜けて最短距離で外に出て行った。
その直後にエルシオールが出港した。


「俺は一度タクトと合流しにパーティー会場に行く、この状況ではシヴァ皇子の安全が第一で、ファーゴでもっとも戦力の配備されているこの船に避難されるべきだ。シャトルを借りるぞ。」


「そ、そんな!! 」


「出港しておいてあれだが、この船はエンジェル隊がいないと意味が無い。だが、この船が出ればそれに続く船も出てくるだろう。」


そう言ってレスターはニヒルに笑った。
無断出港は軍機違反なのだ。
だが、エルシオールという、影響のある旗艦が出港すれば後を追ってくるものはいるだろう。


「だから、俺はいったん戻りあいつらをつれて合流する、なるべく安全な宙域で待機していろ。戦闘の指揮はアルモがとれ。」


「そ、そんな、無理ですよ副指令!! 」


突然の指示にかなり狼狽するアルモ。
確かに、ココかアルモのどちらかがやらないとならないが、いきなり言われても困るのだ。

しかし、レスターは
そんなアルモの目を見つめてこう言った。


「大丈夫だ、お前ならできる、俺は信じてる。」


「……え? 」


「いままでずっと、俺はお前(の仕事)を見てきたが、お前ほど最高の(仕事のできる)奴はいなかった。」


「…………。」


「だから、俺はアルモ、お前に頼みたいんだ。」


このやり取りを見ていたココは後にこう語った。
「もしかして、副指令は全部わかっているのではないでしょうか? 」

しかし効果は抜群だった。
アルモは狼狽しながらも了承していた。
本人も気づかないうちに。


「まあ、ラクレットなら4機の無人戦闘機にやられる訳が無い、増援が来たら教えればいい。本人にも時間稼ぎで言っているからな。」

そういってレスターは全力疾走でブリッジを後にした。













































ラクレットが最後の一機を右腕の剣で切り伏せる。
敵戦闘機は爆散し、宇宙の塵となった、それを確認したラクレットは、通信で報告する。


「敵機撃墜!!周囲に敵影なし!! 」


「お疲れ様、ひとまず待機してください。」


ラクレットはその声に一息つき、背もたれに身を預けた。

最近彼が気づいたのだが、『エタニティーソード』は操縦に他の紋章機より体力を使う。
一々的に接近しなければならないのと、性能がピーキーであることもあるが、何より大きいのは機体特性だ。

カマンベール曰く『エタニティーソード』は、適正者がいるとは思えない仕様に成っているという。
紋章機を操縦できるのが第一条件なのは当たり前なのだが、それに加えて機体を手足のように扱えなければならないのである。

他の紋章機には自動ロックオンシステムなどもついていて、操縦はかなり簡略化されている。
もちろん狙いを定める必要はあるし、『ナノマシン』や『フライヤー』のように操作に特殊なスキルが必要な場合もあるが。
しかし、エタニティーソードは機体制御をしながら攻撃をしつつ、剣へのエネルギー分配の調整もしなければならない。

ラクレットはそれがなぜかできるのだが、通常ならかなり長い期間の訓練が必要だ。
彼はそれらの操作を無意識で思考操作しているのだ。


しかし、それはかなりの集中力を必要とする作業であり、長時間の戦闘はパイロットに負荷がかかってしまうのである。

例えるのなら、適正は低いものの短時間なら最高の性能で動ける機体とパイロットといったところか。



次の課題はそれだなと頭の中でつぶやき、ラクレットはココに状況を尋ねた。



「現在、こちらはどうなってますか? 」


「港にいた戦力の6割は宇宙港から出て、ファーゴを守るように陣を引いているわ。残りはようやく出たらしい指示に従って、今宇宙港から出ようとしている所ってとこね。」


冷静に状況を説明するココは、すでにこの仕事においてはプロのレベルであった。
ラクレットはそのまま質問を続ける。

「副指令からの連絡は? 」


「いまシャトルが宇宙港から出てこちらに向かっているわ。どうやらシヴァ皇子もご一緒みたいだわ。」


「そうですか……エンジェル隊の皆さんの出撃まで十数分てところですか。」


ラクレットは気を引き締める。
おそらくもうしばらく戦闘は無いと思うが、彼女達が来るまでは自分一人で持たさなければいけないのだから。

ふとコックピットの右側に見える衛星都市ファーゴが目に入る。
しばらくそれを眺めた後、再びラクレットは前を向いて戦闘に備えた。














「ラクレット、お疲れ様。アルモも後の指揮はオレが取るから。」


無事エンジェル隊の面々と合流することに成功したラクレットはひとまず胸をなでおろした。
ブリッジにもタクトとレスターが戻り、万全の体制となったのである。


「よし、エンジェル隊出撃!!目標は、現在こちらに接近中の敵艦隊だ!! 」


「「「「「了解!! 」」」」」


エルシオールから、5機の紋章機が出撃する。
実は外からこれを見るのが初めてのラクレットは、内心感動していた。

別に原作云々ではなく、純粋にかっこよいと感じたからである。
なんせ、500メートル近い巨大な戦艦から、全長数十メートルの紋章機が5つも出てくるのだ。


「おつかれさん、あとは私達に任せときな。」


「遅れてごめんね~ラクレット君。」


「私達が来たからには百人力よ!! 」


「お手柄ですわね。」


「治療します。」


出撃の光景に呆けていたラクレットは、全員から通信が入って初めて、自分の周りをエンジェル隊の面々が固めているのに気づいた。
周りを緑色の光が包み込み、機体のステータスが瞬く間にグリーンになってゆく。


「皆さんありがとうございます、僕はまだ行けます。」

一度自身の頬両手でたたき、気合を入れなおす。
まだ戦闘は始まってもいないのだ、こんなことで疲れていたらだめだ。と自分に言い聞かせてタクトからの指示を待つ。


「よし、ラクレットはまだ行けるみたいだから、ランファと二人でそれぞれ左右から回り込んでくれ。ミルフィー達は敵前面部の火力が左右にそれたタイミングで撃破していくつもりで。」


「おい、タクトそんなアバウトな作戦で良いのか? 」


怪訝な目でタクトを見るレスター、作戦がすごくアバウトなのはいつものことだが、この大事な局面でそれはどうかと思ったのだ。
しかしそれに対してタクトはいつもの調子で答える。


「だって、司令部からは、『シヴァ皇子を守りつつ、可能な限り敵を破壊せよ。』としかないし、友軍は勝手に戦ってるみたいだから、オレも臨機応変な感じでさ。」

問題ないよね、ミルフィー?
と通信で話すタクト。その様子にレスターは苛立つを抑えつつタクトを急かすのであった。


「ああ~!!ハイハイわかったから、とっとと指揮を取れ!! 」


「了解~。」



そのいつものやり取りを見て、とても頼り強く感じるココとアルモだった。
































「なかなかに頑張るではないか、エルシオール。」


「エオニア様、そろそろ。」


「ああ、わかっている。奴らに見せてやろうではないか、余が手に入れた力を。」








それは、タクト達が周辺の敵艦をあらかた片付け、別の宙域の応援に行こうかというタイミングだった。

突然周囲の敵艦が進路を変え後退して行ったのである。
不審に思うレスターと、いつもの嫌な予感がするというタクト。
二人が何か言うより前に、ココが悲鳴のような声で叫んだ。



━━━黒き月に超高エネルギー反応!!










「ノア、頼んだ。」


「わかったわ、お兄様。」










━━━緊急回避だ!!

そうタクトとレスターが叫んだ。

その声に反射するように舵を取る。
エンジェル隊の面々とラクレットも斜線と予想されるところから退避する。






その刹那




黒き月から数百メートルはあろうかというビームが照射された。




そのビームはエルシオールをぎりぎり逸れたが、そのまま真っ直ぐファーゴを貫通し、ローム本星に直撃した。





数億の命の炎が消えたのだ








[19683] 第十四話 光の天使達と永遠の剣士 前編
Name: HIGU◆36fc980e ID:f00f2e36
Date: 2010/12/26 08:10


第十四話 光の天使達と永遠の剣士 前編













「ひどい……。」


「そんな……ファーゴが!!」


「外は宇宙空間なのよ!!あんな大きな穴が開いて!!爆発があったらどうなっちゃうのよ!!」


「……人が!!……助けないと!!」


「無理だよ、この距離とか時間とか、そういうのじゃなくて、そもそももう……。」



黒き月から照射されたビームはファーゴに大きな穴をあけ爆発させ、そのままロームの地表に当たりさらに大きな爆発を起こした。
ロームのほうの被害範囲は不明だが、目の前のファーゴからは、豆粒のような大きさに見えるモノ───人が宇宙空間に投げ出されている。

当然彼らが助かるすべなど無い。
人は大気も無く壮絶な温度差のある宇宙空間に生身で生存することなどできないのだから。




「…………タクト。」

悲痛な面持ちでそういうレスター。
自分の名前を呼ぶその一言にこめられた感情を感じ取りながらタクトは口を開いた。


「………………オレはいままでどこか甘く考えてのかもしれない。」

顔は下を向いていて、表情は前髪に隠れて見えないが、声色で彼の表情を予想することは、ブリッジメンバーおよび通信を聞いている者には容易かった。


「エオニアだって、もともとは皇国の人間で、すでに復讐の対象である王族はその手にかけているんだ、そんな酷い事はしないんじゃないかってさ…………でも、その結果がこれさ。」


タクトを責める者は誰もいない、誰もこんな事になるだなんて予想していなかったからでもあり、彼の声に込められている感情を読み取ったからだ。


「……タクト、司令部との連絡が途絶えた。緊急時の取り決めどおり全艦隊の指揮権を得たが…………すでにこちらの損耗率は3割を超えているそうだ。」


今の砲撃も含めてな と最後に付け足すレスター。


「黒き月から、未確認の物体が現れました。形状から予想するに攻撃衛星の類かと思われます!!」


敵の増援、しかもこのタイミングで新型の情報を報告するアルモ。


次々と入る絶望的な情報。
皆の表情にだんだんと絶望的なそれが現れる。


しかし、この状況でも一人いつもと変わらない者がいた。



「タクトさん、指示を。僕は何をすればいいのですか?特攻してあれを落としてくれば良いですか?」


ラクレットである。彼はひたすら無表情で淡々とそう言ったのである。


「それともエオニアの母艦ですが?黒き月ですか?あなたの指示が遅れるほど秒単位で人が死ぬんです。早くしてくれませんか?」


いつもの彼と違う言い様とその雰囲気に、若干飲まれる面々、しかしタクトはその言葉で我に返ったのか、指示を飛ばす。
瞳にはまだ少々弱いが、いつもの不屈にして不敵な炎があった。


「全艦隊に通達。残存勢力はファーゴ周辺にて敵を迎え撃て、生き残ることが最優先だ。戦闘行動が不可能な船は、ロームの反対側に一先ず退避しろ。」


「エルシオール各員に告ぐ、これよりエルシオールは敵新型攻撃衛星を落としにいく。この位置からだと新型までの戦闘は起きないと思うが、大変危険な任務であることには変わりない、総員覚悟を決めて、俺に命を預けてくれ。」


「そういうことですので、よろしいでしょうか?シヴァ皇子?」


「う、うむ。この位置から撤退するのは無理だからな。それしかないであろう。」



ここまで言ってタクトは一息つきエンジェル隊に向きなおる。
その間にレスターは、アルモに指示を出し、攻撃衛星の解析と最善のルートの探索をさせていた。
ココも先程のタクトの指示を打点している。エルシオールブリッジメンバーはあの絶望から抜けたのだ。



「みんな、俺達があれを倒せば、味方も希望を持てるし、状況も良くなる。毎度のごとくハードな任務だけど。エンジェル隊ならできるよね?」


そう言ったタクトの表情は、いつもの笑顔であり。エンジェル隊のメンバーも我に返った。
そう、自分達のリーダーはまだやる気だと、認識したのだ。


「それじゃあ、命令だ、敵攻撃衛星を破壊せよ!!」


「「「「「了解!!」」」」」


「了解。」




エルシオール───希望はまだ消えてなかった。




































「ミルフィーは、ハイパーキャノンを敵攻撃衛星Bの方向に後2400移動したら撃ってくれ!!ランファ、ラクレットの二人はそのまま撹乱を続けていてくれ。」


「了解です!!ハイパーキャノン!!」


「ちょっと!ミルフィー撃つの早いわよ!!まだ1400しか移動してないじゃない!!」


「大丈夫、ミルフィーが早く打つのも考慮して指示を出したからね。この場合は……フォルテ目の前の敵を止めを刺したら右の敵攻撃衛星Fにストライクバーストを頼む。ミントは敵攻撃え……長いから敵Cを相手しててくれ。ヴァニラはそのまま攻撃を受けないように注意しつつ敵Hを。」


「了解だよ。にしてもタクト、えらく頑張るねぇ。この後反動で1週間くらいまともに仕事しないんじゃないかい?」


「了解ですわ。あら、タクトさんがまともに通常の職務をこなしていた時期なんてありましたっけ?」


「了解です。……副指令頑張ってください。」


「ありがとうヴァニラ。だが、それは俺が働くこと前提になっているのだが。」



戦闘は苛烈を極めた。しかし、包囲網を抜ける時の圧倒的な数に囲まれたときよりは幾分もましだった。
その証拠に、通信にいつもの軽口……むしろいつも以上の軽口が飛び交っていた。


「コネクティッドウィル撃てます。」


「じゃあ、敵Iに頼む。そのまま破壊するまで攻撃をしてくれ。」


「了解……『コネクティドゥ……ウィル!!』


しかし、ラクレットだけはいつも通りどころが、普段より言葉が少なかった。
全くといっていいほど軽口を言わない彼にタクトは別に気にせずに指示を出す。
現状彼は絶好調である上に、先ほどの黒き月の砲撃からこのような感じで、彼なりに思うところがあるのだとタクトは考えているのだ。

しかし、特殊兵装の発音だけはいつも通りだったが。


「あたしも行けるわよー。」


「よし、ランファは敵Hの止めを刺したらヴァニラに補修してもらってくれ。」


「「了解。」」






その後エルシオールおよびエンジェル隊は獅子奮迅の勢いで敵を殲滅し、味方艦隊に希望を取り戻した。




























「くっ!シヴァめまだ邪魔をするか。」


当然それを面白いと感じないのが、エオニアである。
別にあれが戦力の大きな部分を担っていたわけではないが、それでも損害は損害だ。

洒落ではなく、無尽蔵に無人艦隊を作れるのだが、時間と材料は必要なのだ。
あの人工衛星は、他の船の指揮を取れるようになっており、地味に他の有象無象の船よりコストが高いのだ。


「お兄様、あの艦と紋章機が邪魔なの?」


「ああ、そうだよノア。」


妹にでも接するように優しい声色でそう声をかけるエオニア。
それを見て、若干不機嫌になってしまう女性がいるのだが、本人を含め誰も気づかない。
自覚がないって怖い。

「ノアに任せて。」


するとノアはそんなの簡単よ、とでも言いそうな顔でそう答えた。



その瞬間光のようなものが黒き月から発生した。


それに触れたあらゆるものは機能を停止した。

クロノストリングエンジンの機能が停止したのである。










エルシオールと6機の紋章機は黒き月の目の前で立ち往生してしまったのだ。










































「どうした!!状況を説明しろ!!」


「ク、クロノストリングエンジン……機能……停止しました。」


エルシオールの中は混乱していた。メインサブ両方のクロノストリングエンジンが停止しているのだ。


「味方はどうなっている!!」


「それが、味方が戦闘中の敵艦隊も停止しています。ですが、正面の黒き月およびその付近の敵艦は停止していません。」


味方は敵の稼働中の戦艦の射程にはひとまず無いことに安堵しつつ。
この現象の理由を考えるレスター。


敵艦隊の一部が停止しているのは、この『ネガティブクロノフィールド』のキャンセラーを積んでいないからだ。
『ネガティブクロノフィールド』の使用する可能性を考えていなかったので、製造段階で搭載していなかったのである。
エオニアの周囲の高性能の艦には搭載してあったのだが。


もっともそんなことなど知るはずも無いレスターは、絶体絶命なこの状況の打開策を頭を高速で回転させ模索する。


「敵艦から砲撃!!直撃来ます!!」


追い討ちをかけるように始まる敵の攻撃。
シールドもいつもよりかなり出力が落ちているのだ。
被害は想像したくも無いのだが、現実に今起こっているのだ。


「総員対ショック姿勢!!」


その声と同時に、エルシオールに大きな揺れが走る。


「「きゃあぁぁ!!」」


もちろん紋章機のほうもそうだ。
動くこともできず、シールドも半減どころの話ではない。


「ラッキースター出力低下!!タクトさん!!」


「だめ!!カンフーファイターが持たない!!」


「損傷率40パーセントを超えました。非常に危険です。」


「っく、動いてくれハッピートリガー!!」


「トリックマスターも応答しません。」


次々に聞こえる、エンジェル隊の報告。
どれもこれも絶望的だ。
このままでは数分と持たない、そんな緊迫感が伝わってくる。











タクトは決断を迫られていた。













「このままじゃ……もう。」


「おい!!タクト、どうするんだ!!」


普段は冷静なレスターが声を荒げる。彼もこの状況で相当にきているらしい。
皆から伝わる、諦めや絶望の雰囲気。

司令官であるタクトを見つめている。


「もうだめです。……タクトさん」


「タクト……。」


「タクトさん……。」


「タクト、もう限界だ。」


「タクトさん……このままじゃ持ちません。」


エンジェル隊も全員が羽をもがれてしまっている。


そう絶望的で、最悪な状況だ。
四面楚歌で絶体絶命。
助かる見込みなんて微塵とない。

聞こえる音は、被害報告と爆発音だけ。
視界は暗くうすぼんやりとしか隣にいるレスターの表情すら見えない。

















だが、タクトは





タクト・マイヤーズは諦めていなかった。





「……皆諦めちゃだめだ!!」


タクトはそう叫んだ。



「ここで諦めてどうするんだ!! 自分達の力を信じろ!! 最後の最後まで!! 」





皆がタクトの声に耳を澄ませている。

ラクレットだけは、コックピットのキーボードにひたすら何かを打ち込んでいるが。
そんな様子を横目で見ながらタクトは思いの丈を咆哮する。





「ここまで来たんだ、オレ達は!! 絶望なんて、不可能なんて、そんなものが無いって証明し続けてきた君達が!! 諦めてどうするんだ!! 」





「君達は希望を運んできた天使だ!! だから絶望なんてそんなモノ!! 不可能だなんてそんな壁!! 全部超えてしまえ!! 」
















その時何かが変わった。
天使達の心に、青年の声が届いたのだ。






「そうだねえ、ここで諦めてたまるか。」


いつもの調子で帽子を直しつつ、足を組み替えてそう言う紅髪の天使






「せっかく今日までがんばって、今諦めたらすべてが無意味ですわ。」


強い眼差しで操縦桿を握り直して、同意する薄蒼の天使






「私達が倒れたら次はもっと多くの人達が犠牲になる。」


祈るように目をつぶりそう呟く緑輝の天使







「ちっぽけな命だけど、あんな得体の知れないものにくれてやるほど安くないんだから!! 」


挑むように睨み、思いを叫ぶ黄金の天使







「絶対に……絶対に負けません。」


決意を新たにし、そう宣言する桜色の天使







5人の天使が一人の青年の言葉で思いを一つにした。
ならばその天使は奇跡を起こさない訳がない。









その願いは天使達に新たな翼をもたらしたのだ。











5機の紋章機は純白の翼を授かった。










宇宙という空を飛ぶための翼に、少女てんし達が願い生まれた翼に









行けない飛べない場所など




ありなどしない。








「!!エルシオール、全システム回復しました!!」








その翼は青年の乗る舟にも加護をもたらした。








「システムリミッター解除、『エタニティーソード』フルドライブ。」







そして天使を守るべく、永遠の剣士は、漆黒の翼を開放した。




[19683] 第十四話 光の天使達と永遠の剣士 後編
Name: HIGU◆36fc980e ID:f00f2e36
Date: 2010/12/26 08:11





第十四話 光の天使達と永遠の剣士 後編














「すごい……。」


「綺麗……。」


5機の紋章機に囲まれているエルシオールの、ブリッジの外部スクリーンには、純白の羽が降り注ぎどこか幻想的な風景が映し出されていた。



「戻っただと! あーもう、わけわからん!」



そう言いつつも顔が笑っているレスター。
自身でも不謹慎だとわかっているので、直さなければいけないのだが緩んだ頬が治らないのだ。


「すごい!!ラッキースターの出力戻りました!!」


「カンフーファイターのパラメーターが書き換えられてる……これなら!!」


「トリックマスターの性能が格段に上がっています。」


「羽が生えて、強くなったみたいだね。理屈は知らないけど有難いね!!」


「なぜだかわかりませんが、機体ステータスが回復しています。オールグリーンです。」


翼が生えたことに感動し思い思いの感想を漏らすエンジェル隊。
彼女達の中は今、万能感とでも言うか、何でも出来そうに感じるもので満たされているのだ。


「『エタニティーソード』の性能も上がっているのか?」


レスターは先ほどから最低限しか口を開かないラクレットに問う。
しかし、ラクレットの反応はまたしても事務的で必要事項しか言わなかった。


「はい。エンジン出力が格段に増大しました。」


表情はひたすら無表情。いつもの彼とは本当にかけ離れているその姿に思うところはあるが、戦闘に支障はなさそうなので特に指摘しないレスター。


そして、タクト右手を前に伸ばし叫んだ。


「理由など知らんが、とにかくよし! 反撃開始だ!!」


「「「「「了解!!」」」」」



「了解」


少し離れた位置にいるエタニティーソードからは他の紋章機とは違う色の翼が生えていた。

彼だけはクロノストリングエンジンが回復した瞬間に、かけていたリミッターを外しただけである。

その翼の色はほとんど黒といって差し支えないレベルの藍であり、彼の機体の色であった。




5つの白の中でその黒色は、異様に目立っていた。






















「すごい、すごい、すご~い!!」


ミルフィーユは自分の相棒であるラッキースターの動きに感動していた。
彼女はエンジェル隊の中では操縦技量という面から見れば最も下にいる、しかし彼女自身の幸運や、機体の性能を含めればチームの主力となる実力なのだ。

タクトやレスターは不安定だが強力だと前に彼女のことを評した。

そして今の彼女は絶好調であって、トップギアで、全力全快なのだ。


要するに。


「タクトさん、もう一機沈めちゃいました。」

それはそれは、強かった。
いわゆる無双状態だ、タクトが若干引いてしまうくらいに。


「……う、うん。じゃあ敵Cのほうを頼もうかな。」

戸惑いながらも、とりあえず指示を出したタクトだが、それは無駄になってしまった。


「撃破!!タクト敵Cを撃破したわ!『アンカークロー』の射程がすごい延びてるみたいなの!!」


ランファは、自身の特殊兵装の威力を改めて実感した。
今までは敵一隻に大きな被害を与えるぐらいだったのだが、そのまま、別の敵を攻撃にいけるほど強化されていた。

するとどうだろう。

イメージとしては。高威力の単体技が、範囲攻撃に変わったのだ、威力を落とさず、コストはむしろ安くなった上で。

ミルフィーが無双ならこっちは鬼畜的な威力だった。


「……えーとじゃあ、二人ともエルシオール近くの取りこぼしを頼もうかな……。」

現在エルシオールの近くに、シールドがほとんど削られた敵艦が4隻ほどいる。
それらは十分エルシオールの砲火で対処できるので、今まで特に破壊させる指示を出さなかったのだ。


しかし、タクトに言いたい。
それは、フラグだ   と。



「『フライヤーダンス!!』」


凛とした声が通信から聞こえてくる。
その瞬間、21のフライヤーから器用にエルシオールや他の紋章機を避けるように、しかし的確に敵艦の機関部を狙い撃ちした攻撃が照射された。

フライヤー達は、器用に一発撃てば、別の位置に移動し別角度から攻撃した。


その間わずか10秒程度であったが、その間に弱っていた4隻はもちろん、2隻ほど追加で破壊した。


「申し訳ありませんタクトさん。特殊兵装を独断で使ってしまいましたわ。」


にっこりと可憐に笑うミントのその顔に反省は無かった。


「あー、ちょっとミント、それ私達の獲物だったのに。」


「あまりにもトリックマスターの調子が良くてついやってしまいましたわ。」


わいわいと、賑やかな声が響くその通信からは、誰が戦闘(しかも先ほどまで絶望的だった)を行っていると想像できようか。


「ま、まあ判断としては悪くなかったし、そもそも特殊兵装を自分で使う事自体は問題じゃないから気にしないでくれ。」

タクトはミントのお茶目(?)を責める事はできなかった。
元々、自分が特に指示しない時は自己判断で使って構わないと決めていたのだから。

それより、オレどうやって仕事しようと考え始めていた。


しかし、それを遮る様にアルモが報告する。


「司令!!新たに終わった解析によると、現在『エタニティーソード』が撹乱している宙域の近く母艦のシールド値が平均的なものの3倍ほどあります!!」

タクトはアルモが報告した母艦を地図上で確認する。
渡りに船だとタクトは思い指示を飛ばす。


だからタクト、それもフラグだ。



「よし、みんなあの母艦を落としてくれ。ミルフィーとミントは敵のやや薄い左から迂回、ランファはそのまま最短距離で……」


「「その必要はないよ(ありません)!!」」


その声と同時にフォルテの『ハッピートリガー』から圧倒的な数のミサイルが発射される。
特殊兵装『ストライクバースト』だ。

そして、丁度フォルテから敵母艦を挟んで反対側にいるラクレットがいつものように『コネクティッドウィル』の構えを取っていた。


「『ストライクッ!バースト!!』」
「『コネクティドウィル』」

紋章機最高攻撃力を持つ『ハッピートリガー』全力砲火と、100Mの長さの剣で何度も斬り付けられた敵母艦の運命など記すにも値しないであろう。


要するに 爆殺!!  である。




「…………。」


タクトはとりあえず一端戻って損傷箇所の修復をしたほうがいいんじゃないかと考えたらすぐに、ヴァニラが『リペアウェーブ』の使用許可を取ってくるんだろうな。
と半分諦めたような頭で考えた。


「タクトさん……敵撃破しました。」

しかし予想と外れ、撃破報告だった。
ヴァニラにはいくつかの敵を相手に回避に専念しながら時間を稼ぎつつ攻撃しうるように指示を出していた。

しかし、いつの間にか敵はシールドのほとんどを削り取られていて、『ハーベスター』は損傷をほとんど受けていなかった。


現在スクリーンの地図に映っている敵は当初の20%ほどしかすでにいなかった。







レスターは、楽な仕事だな、タクトとでも皮肉を言ってやろうかとも考えたが、あまりにも可哀想なので止めておく事にした。























「なぜだ!!なぜ動ける!!」


対するエオニアの陣営には動揺が走った。
ノアの発生させていたナニか(ネガティブクロノフィールド)によってエルシオールどころか全ての敵は一切の身動きを取れなかったはずなのだ。






「エオニア様!!エルシオールおよび、紋章機6機がこちらに急接近しています。残りの攻撃衛星で防衛線を構築していますが、圧倒的な速度で破壊されています!!」


「エオニア様!御指示を!」


オペレーター達の悲鳴が聞こえる。


「っく…………撤退する。この艦および近衛艦、それと黒き月はクロノドライブだ。残りのは戦線を維持しつつ後退だ。」


悔しげに顔を歪ませてそう命令するエオニア。
先ほどまでの余裕はもう無くなっていた。



「エオニア様、ここで引くのは懸命な判断でございます。すでに観測用の艦がデータを採集しておりますゆえ。」

シェリーはエオニアの判断を肯定した。
敵の戦力の最脅威存在がさらに強化されたのだから、今になって初めてのことだから、意図的にそうしたものではないのだろうが、それでも一端引いて態勢を立て直すのは決して間違ってなどいないのだから。

加えてここでの戦略目標はほとんど果たしているといって良い。
後はシヴァの身柄の確保か殺害くらいだ。

エルシオールや紋章機は確かに脅威であるが、所詮は一隻の艦とそれに搭載されている戦闘機だ。
時間さえあればどうとでも出来る。


そう自分の頭の中で結論を出し、聡明なエオニア様のことだからすぐに気づくであろうとも補足した。



そしてその瞬間、艦の周りが一面緑色となり、クロノドライブに入った。
































「っく、逃がしたか!!」


「紋章機の翼も消えちゃいましたしね……。」


エルシオール一行は、もうすぐ射程圏というところでエオニアを取り逃がしていた。
それと同じようなタイミングで5機の紋章機の翼が消えてしまったのである。

『エタニティーソード』はそのタイミングでフルドライブモードを解除したのだが。





クロノドライブの方向から推測するに、アステロイド帯がある宙域の手前であろう。
それはたいした距離ではなさそうだが、翼を失い戦力が元に戻ったときに単身で追いかけるのはあまりにも危険である。

とのレスターの言葉に従う形で、味方と合流しつつロームの反対側まで退避することになった。



「みんなひとまずお疲れ様。でももうちょっと頑張ってもらうよ。」


「ひとまず、損耗の激しい機体から順に補給を受けてくれ。」



エオニアの無人艦隊の何割かはまだ動いていたので、味方と合流してもある程度の戦闘はこなさなければならないからだ。
最も、撤退の旨は伝えていたので、第一司令軍のチョ・エロスン大佐の指揮の下に順次撤退しているのでそこまで骨を折る作業でもない。

敵もAIによって、一定レベルの損害を受けた船を撤退させており、そのうちすべて撤退するであろうから。


用はお互いが引くために戦っているのだ。


もう一頑張りとは言ったが、実際は先ほどの戦闘に比べればはるかに簡単なものだった。





だが



























「次は、『エタニティーソード』だ。ラクレットエルシオールにもどれ。」


「………そんな………でも……だって…………僕は…………ここが…………。」


「おい、どうした?ラクレット。」



「……いや…………違う…………現実…………ゲーム…………。」


「おい、ラクレット!!応答しろ!!」


ラクレットは、レスターの言葉が完全に耳に入っていない。
顔色はどんどん青くなってゆき、手が震えていてしきりに何かをつぶやいている。
誰が見ても健康や、正常という印象を抱かないであろう。

今まで戦闘状態ということで、強制的に凍りつかせていた心が氷解したのだ。
抑えていたものがあふれてくる。

彼は震える手でサブカメラをファーゴのほうへ向けて拡大させた。
そのまま、だんだんと画面を拡大させていくそしてある一点で拡大を止めた。

その瞬間彼の全身は硬直し、顔はもはや真っ白といっていいほどと成ってしまった。


「……ぁうう……おぇうう…………ぐぁうぅぅ……うわああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」


『エタニティーソード』のコックピット画面に映っていたものそれは






ファーゴから押し流された
ヒトだったモノ














次回ようやく、ラクレットの話です。
これで、少しは彼も変わります。









[19683] 第十五話 現状分析と現実認識
Name: HIGU◆36fc980e ID:f00f2e36
Date: 2010/12/12 14:28



第十五話 現状分析と現実認識













「おお、タクトにレスター。シヴァ皇子の警護ご苦労だった。」


「「ルフト准将!! 」」


あの後、ひと悶着あったが無事撤退に成功したエルシオールを待ち構えていたのは
死亡した可能性すら考えられていた、ルフト准将だった。

恩師の無事に当然のごとく顔を綻ばせるタクトとレスター。


「無事だったんですね。」


「ハハ、そう簡単にくたばれんよ。」


「それで、現状は?」


レスターが、言った言葉で急に二人の顔が引き締まる。
ただ再会を喜んでいられるような状況ではないのだ。

「現在、このロームを挟んでエオニアと相対しているわけだが……。正直打つ手が無い。」


「そうですか……。」


「エロスン大佐も良くやってくれたのだが、全体的にこちらの数も少なく、指揮系統もぼろぼろ。現在急ピッチで修復しているのだが、どうにもな……。」

ルフトの沈痛な面持ちに、レスターとタクトは言葉を失ってしまう。
予想以上に現状が酷かったのだ。

しかし、そこに割って入る者がいた。


「ルフト!!これからどうするのだ?」


「おお、シヴァ皇子よくご無事で。」


シヴァ皇子だ。
皇子は、エルシオールが無事撤退に成功したと聞いて、ブリッジまで出てきたのである。


「そうですな。正直待つしか無いという所ですな。」


「そうか……。」


ルフトのその言葉に少し悩む仕草を見せるシヴァ。
しかす、すぐに考えを纏めたのか、口を開く。


「それでは、紋章機の翼の事をマイヤーズより聞いているか?」


「翼……ですかな?」


ルフトはやや怪訝そうな顔でシヴァを見た。
まあ、紋章機という機械と翼という生物の言葉との繋がりがいまいち、ピンとこないのであろう。


「マイヤーズ……いや、クールダラス説明を頼む。」


「了解しました。」


「いや……うん、なんでもない。」


説明なら、レスターのほうが適任だもんな。と呟きつつ一歩下がるタクト。

そしてレスターは先ほどまでの戦闘経緯の説明を開始した。













「ふ~む、紋章機に翼が生えて、動けるようになったか。」


「はい、おそらく艦が動かなくなったという報告は聞いていると思いますが、エルシオールはエオニアが撤退する前にすでに動けるようになりました。」


レスターの説明を聞いて、頷くルフト。
だがふと何かに気付いた様な仕草をとり、タクトたちの方に向き直る。


「というか、タクト。シヴァ皇子を乗せている状況で、単独で敵に突撃したのか?全く無事だったから良かったもの……。」


まるで、学生時代のタクトを叱る様な口調に、タクトは苦笑いを浮かべつつ、必死に機嫌を取るのであった。
レスターはその様子を口元を緩めてみていたのだが、途中で矛先が自分にも向き必死に謝るのであった。


その様子をシヴァとココとアルモは興味深そうに眺めているのであった。











「それで、その翼は消えてしまった、しかし紋章機の発見された場所の管理人であり、なおかつロストテクノロジーの権威でもあるシャトヤーン様に伺うと。」


「ああ、そうすれば紋章機が格段に強くなる。」


「ふむ、ですが皇子エオニア軍はすでに本星の方に向かっているとの情報があり、こちらの再編にはまだ時間が……。」


「エルシオール単艦ならば、数時間の補給で動けるとクールダラスが申していた。我々だけ先行すればよいだろう。」


シヴァの提案はこうだった。
紋章機の力を飛躍的に上げた翼を出せれば、エオニアのあのクロノストリングエンジン停止の術も無効化できると。
故にすぐ動けるエルシオールが単独で向かい、白き月にエオニア軍よりも先回りをする。


「…………もう、決めてらっしゃるのですね。確かにそれしか策が無いのも事実です。このルフト・ヴァイツェン、シヴァ皇子殿下の御命令に従います。」


今までも、色々言ってきたが、こうなった皇子は後に引かない。
皇子の命という掛け金さえ無視すれば、これ以上の作戦は無いとも言えるし。
なにより、強力なシールドを張っている白き月と連絡が取れるのは皇子だけというのだ。

ルフトは臣下としてシヴァ皇子の命令を聞くだけだ。


「ルフト准将……。」


「タクト、シヴァ皇子を必ずお守りしろ。レスター、タクトを補佐してやってくれ。」

そこまで言うと、ルフトは一呼吸おき、二人を見つめる。
画面越しだが、目の前にいるようなプレッシャーを感じ、タクトとレスターは背筋を伸ばす。


「それがワシからの、准将として、お前らの元教官としての命令だ。」


「「了解!!」」











タクト達が、ルフトから命令を受けている頃、エンジェル隊の全員は同じ場所にいた。

それはいつものティーラウンジ…………ではなく。



医務室の前の扉だった。





ラクレットは、先ほど突然叫びだした後、意識を失ってしまったのである。
エルシオールからの誘導で帰還させ、コックピットから重たい彼の体を整備班の男性スタッフ二人で引き摺り下ろし、そのまま担架で運んできたのである。

エンジェル隊はそのまま順番に補給を受け、警戒任務務めたが、ラクレットはその間ずっと意識不明だったのである。


医務室に搬送された彼の様態は、特に外傷や頭を打ったわけでもなく命の危険があるわけではなかったのだが。
それでも、ミルフィーユとヴァニラは心配し皆を説き伏せて、医務室まで来たのである。

もっとも、ランファ達三人も別に行かないつもりは無かったのだが。


「大丈夫かなぁ、ラクレット君。」


「ミルフィー、あんたそれ何回目よ。」

5回目の心配の言葉を漏らすミルフィーに、それを指摘するランファ。
ランファのほうは比較的いつも通りだった。


「そんなに、ラクレットのことを心配してるんじゃ、タクトが妬くかもね。」


「ええ、タクトさんはあれでも嫉妬深そうですからね。」


なるべく、雰囲気が暗くならないように軽口をたたくフォルテとミント。
彼女達もあまり変わりはなかった。


ちなみにヴァニラは、先程の戦闘で出た数名の軽傷者の治療をしているので、医務室の中にいる。


「にしても……。」

会話が途絶えたところで、ランファが呟く。
3人の注目がランファに集まったのだが、彼女は続けない。


「にしても、何ですの?」

ミントは自分の能力を使わなくてもなんとなくわかるのだが、先を促した。
ランファはそれに反応しようやく口を開く。


「どうして、あいつは倒れたのかなって思って。」


それは皆が考えていた事だ。
単純に体力の消耗? 確かに『エタニティーソード』はスタミナが必要だが、今までもっと長い戦闘をしたこともあったが、倒れるまででもなかった。
怪我か頭でも打ったが?  外傷は無いとさきほど話しているのが聞こえた。

それに

「あんな、大声で叫ぶあいつなんて見たこと無いわよ。」


ラクレットは、何かを呟いた後にいきなり叫び出したのだ。
そんな理由聞いたことが無い。


「何かを悔いている様な文句だったと整備班の方々は仰っていましたわ。」


「ああ、ずっと自分を責めていたようなことを呟いていたとも聞いたよ」。


フォルテとミントは、少ない情報から理由を考察しようとするも、やはりそううまくはいかない。

しかしそのように彼女達が話していると、目の前の医務室のドアが開きケーラが出てきた。
エンジェル隊の姿を見つけると、予想通りだという表情を浮かべて、入りなさいと声をかけて、再び中に入っていった。

エンジェル隊はそんなケーラの後に続くのであった。






「彼が倒れた原因だけど、単純に心に負荷がかかった……ようは強いストレスを感じたってわけよ。」


カーテンで仕切られて、ラクレットが眠っているベッドの前でケーラの話を合流したヴァニラと共に聞いてるエンジェル隊。
ケーラは、全員の視線を受けつつ解説を続ける。


「ラクレット君のバイタルデータ、戦闘中はフラットだけれども、戦闘終了直後からだんだん乱れてきて、ある一点で振り切れていたの。」


「ようは、戦闘中は無理やり押さえつけていたのが、戦闘終了と共に開放されたと言う所かしら。」


そこまで続けて、ケーラは一端言葉を切る。


「ある一点ですか?」


ミルフィーユは、そのタイミングで先程のケーラの言葉で気になったところを質問する。
ケーラはその質問を待っていたのかのように、話を再開した。


「ええ、そうよ。そのタイミングに彼が見ていた映像があるの。さっきクレータから渡されたわ。」


ケーラはエンジェル隊の方へと向き直る。
その表情からは真剣な思いが伝わってくる、エンジェル隊の面々は軽く身構えてしまった。


「それが……これよ。」

その言葉と共に、壁にはめ込まれたスクリーンに映像が流れ出す。


「これは……。」


「……。」


「ファーゴの……。」


映像に写っていたのは、宇宙空間を漂うファーゴの人々だった。


「推測だけど、彼━━━ラクレット君は人々が死んでしまったことに何かしら強いストレスを感じた。もしかしたらそれは彼の心理的外傷後ストレス性障害に関わるのかもしれないし、単純に圧倒的な数の死に対してかもしれない。とにかく、私はそう考えているわ。」


やや悲しそうな顔のままそこで話を終了させ、自分のカップのコーヒーに口をつけるケーラ。


エンジェル隊はそのままラクレットのいるベッドをカーテン越しに見つめているのであった。

























「ここは、どこだ………。」

ラクレットが目を覚ますと、自分が何か柔らかいものを枕にして寝ていることに気づいた。
気になって上体を起こしてから振り向くと、そこには


「枕だ……」


自分の使っている枕よりも柔らかい、低反発の枕があった。
彼の四畳半の和室には布団も枕も有ったのだが、間違ってもこんなに高そうな低反発のものではなかった。


寝起きからいきなりよくわからないことになっているなと思いつつ、自分がなぜいつもと違う枕で寝ているのかを考える。
ふと、周りを見るとカーテンで囲われていて、さながら病室のようだなと思う。
さらにかすかにコーヒーの匂いを感じる。




「あ~?どこだ……?」

コーヒーの匂いのする病室ってどんなんだよと思い、さらに混乱する。
とりあえず、素足のままベッドから降りてカーテンの向こう側に行くことにする。


「なんだぁ……本当に病室……つーか処置室みたいだな。」


部屋には誰もいなかった。
初めて見るはずなのに、すごく既視感を感じる光景に唯でさえボーとしていて、頭痛すら伴う頭が輪をかけて鈍る。
よくわからないけれど、ここには居たくないと感じたラクレットは、近くのドアから外に出るのであった。



「どこだよ……ここ……。つーか、なんだよこれ。」

素足のまましばらく歩くと、自分の格好が学校の制服であることに気づいたラクレット。(陣羽織は医務室)
自分は既に高校を卒業したし、その高校のデザインとも違う制服に戸惑いつつも脱ぐことも出来ずそのまま探索を続ける。

廊下はどこか近未来的な雰囲気を醸し出している。
天井の照明は落ちていて、足元の非常灯のみがボゥと光るのも、要因の一つか。


「SFかよ……。」

全く見覚えが無いはずなのに、なぜか足は迷わず進む。
どこかを目指しているみたいだが、自分でもわからない。

それでも、とりあえずそのまま足に任せて進むのであった。


















「マ、マイヤーズ司令!!」


タクトは、つい先ほど明日の朝一で出発する為の準備を終わらせて、眠ったばかりであった。
しかし、そんなタクトはアルモの通信で起こされた。


「なんだぁ……アルモ。」


「それが!!ケーラ先生が少し席を外した間にラクレット君がいなくなっちゃったんです!!」


「……は?」


アルモの焦った声をどうにか理解しようとしたのだが、どうにもうまく行かないタクト。
そんな様子に焦れたのか、画面越しのアルモの左から、レスターの顔がぬっと出てきた。

「起きろ!!タクト、ラクレットがいなくなった。艦内のカメラの映像を追おうにも、先ほどの戦闘で半分ほど動いてない。だから完全に行方不明だ。」


数年来の親友の声に、意識を覚醒させるタクト。
眠い頭だが、次第に事態を理解する。


「起きて、自室に戻ったんじゃないのか?」


「ケーラ先生曰く、靴もトレードマークの陣羽織もそのままにいなくなったそうだ。」


「消息不明になって15分経ちますが、ブリッジに報告も来ていません。」


交互に喋るアルモとレスターに段々と頭が冴えて来る。


「わかった、とりあえずいったんブリッジに行く。少し待っていてくれ。その間にも監視カメラの映像のチェックと、夜勤スタッフへの連絡を。」










「何で海があるんだよ……」

ラクレットが何かに導かれるままに入ったのは、彼の主観から言えば海だった。
潮の香りが漂う波打ち際、波の音が聞こえ暖かい空気を感じる。此処ははさながら南の島かと思ったくらいだ。


「うわ、クジラが潮吹いてるよ。どこだよ本当に。」


そんな風に彼が一人佇んでいると後ろから、一人の少年が歩いてきた。
なぜそんなものを察知できるのかわからないが、ラクレットはとりあえず振り向いた。


「……来ましたか。宇宙クジラがあなたを呼んでいましたからね。」


「……………………クロミエ?」


「はい、クロミエですよ。」


ラクレットは、なぜか自分でも知らないうちに目の前の少年の名前を当てていた。
自分で、先程からどこかおかしい自分に疑問を持ちつつも『クロミエ』を見る。


「それにしても、宇宙クジラも無茶をします。ここに呼ぶために一時的に記憶を封印するとは。まあ、ラクレットさん相手じゃないと出来ませんけど。」


「何を言っているんだ?」


「……わかりました。宇宙クジラは今からあなたの記憶を戻すそうです。でも実感は持たせないそうですよ。」


「だから、何を言っている!!」


目の前の『クロミエ』の意味不明な言葉に反発するラクレット。
しかし、そのまま何をするでもなく、頭の中に映像が入り込んできた。


それは、今までの自分の14年間の記憶。






















「状況は!!」


タクトがブリッジに入って発した第一声はそれだった。
あたかも戦闘に望むようなその声に一同は即座に反応を示す。


「それが、相変わらず消息は不明で……。」


「夜勤スタッフも目撃していないそうだ……。」


芳しくない報告にも変わらずタクトは表情を変えずに指示を飛ばす。


「それじゃあ、エルシオールのここ1時間の夜勤パトロール順路を外した通路で15分以内にある個人の部屋ではない部屋は何箇所あるか調べてくれ。」


「了解しました。」


「レスターはここで待機してくれ、何かわかったらすぐオレに。」


それだけ言うとすぐに踵を返すタクト。
その姿に一瞬引き止めるべきかとも思ったが、これが適任かと思いレスターは思い止まった。

















「クロミエ、なんなんだよこれは。」


たった数時間の間に記憶を直してまた戻すなど、よくわからないことになっているのだ。
目の前のクロミエを睨みつけるラクレット。

しかし、そんなラクレットの視線を受けてても全く表情を変えず、薄い笑みを浮かべているだけだった。


「貴方は、先程自分で耐え切れなくってしまったのですよ。」


「だから、なんだよ!!確かに気絶したけどそれは!!」


心当たりのある言葉に強く反発するラクレット。
今はなぜか平気だが、先ほど自分は意識を失ったのだ。
理由は自分でもわかってはいるのだが。


「テレパシストでは読めなくとも、宇宙クジラが読めないなんて、誰が言いましたか?」


「っな!!」


その言葉に一瞬完全に思考を停止させてしまうラクレット。
今まで立っていた場所が崩れてしまったような錯覚すら感じる。
しかし、そんな彼を再び我に戻したのは、突き崩した本人だった。


「まあ、通常宇宙クジラが読めるのは、感情や心の動き程度ですけれど。」


「……おい。」


くすりと笑いながらそう言うクロミエにラクレットは完全にペースを乱されていた。
少しは反撃しようかと、口を開こうとしたところで、クロミエが再び衝撃的な(ラクレットにとっては)な話を始めたのでそれははばかられた。


「でもあなたのだけは特別で、読めるそうですよ?」


「…………。」


彼がそう言った時、丁度壁や天井に映し出された夜空の月が雲の向こうから現れた。
クロミエの背後から月明かりが射し込み、表情はよく見えないが、どこか幻想的な雰囲気をかもし出していて、ラクレットは一瞬声を出すことが出来なかった。





「それは置いておいて…………貴方はファーゴのことを知っていた。というより、今迄の起こる事全て知っていた。そうですよね?」


「……そうだが?」


話の流れを変えるように、立ち位置を変えながらラクレットに尋ねるクロミエ。
だが、追求の鋭さは変わらず、ラクレットは言葉を選んで返す。
まるで詰問を受けているようだと感じつつも、もうこうなったらやけだと答えるラクレット。




「そして、今迄それをうまく使ってきたけど、ファーゴを知りつつも放置して、自分で後悔していると。」


「……そうだよ!!それで悪いのかよ!!人が死んじまっているんだよ!!!」


クロミエの意地の悪い問い━━━少なくともラクレットはそう感じた━━━に逆切れするラクレット。
もはや、いつもつけている仮面なんて関係なく、怒鳴り散らしている。
クロミエはその様子を見ても全く表情を変えずに相変わらずの笑みを浮かべて続けた。


「ええ、後悔しているならいいんじゃないんですか?それで。」


「はぁ?さっきから何なんだよ!!クロミエ!!」


もう訳がわからないとばかりに、クロミエを睨みつけるラクレット、彼からしてみれば全くもってはっきりしない態度で、何を考えているのかわからないのである。
クロミエは意地っ張りな子供に言い聞かせるようにラクレットに説いた。



「ですから、少なくとも今の貴方は、人の死を現実だと思っているから後悔しているんでしょう?」


「当たり前だろ!!ここはゲームじゃな!!「ええ、貴方はゲームだからという理由で知っていることをそのまま適用したんですよ、現実なのに。どうしてゲームと一緒になるんですか?」」


その言葉を待っていたのか、間髪いれずに反応するクロミエ。
表情は相変わらずで、全く攻めるようなものが感じられないそれはラクレットを逆に不安にさせた。
ラクレットは自分で言ってから気づいたのだ、自分の言葉を


「それは……」

完全に否定できないことに。
今までの自分の行動はどうだ?
原作知識を使って、好きなようにやってきた。
ゲームに無かったイベントに立ち会ったことは?
毎日がお祭り騒ぎなエルシオールで自分は原作のイベントがあるとき以外はあまり出なかった。
皆がお茶をしている間、自分は一人で鍛えていたし、一般のクルーとも必要以上のつながりを持とうとすることは無かった。


それは、何故なのだろう?


原作のイベント以外には価値が無いのか?
ゲームの登場人物だから、気に入った人以外はどうでもいいのか?
出てきていない人物など、気を掛けるに値しないのか?




「ゲームと同じだと思っていたのではなく、ゲームだと思っていた。宇宙クジラも貴方がどこか物語を読むように、味わうように過ごしていたと言ってました。」


「…………。」


ああ、そうだ。
自分は楽しんでいた。
この生活を自分の知識を利用して、エルシオールのクルーとの原作イベントを。
自分が得た力で敵を蹴散らすのを。

それはきっと、この世界に生まれた僕が勝手に特権だと思っていたから。
君達を助けるのだから、自分は楽しむ権利があると。



「でも貴方は人が死ぬことを耐え切れなかった。」


「当たり前だ!!死ぬか、死なないなら、死なないほうがいいじゃないか!!」


それが、ラクレットの本心だった。
自分はゲームの世界だとどこかで考えていた、だから止めなかった。
ゲームの世界なら、人が死んでもいいけど、現実なら駄目なのに。
現実なら、どんなに低い可能性でもタクトやレスターにルフト、それこそジーダマイヤにでも掛け合って、先に避難させとけばよかった。

少なくとも、彼はそう出来る時間はあった。

だけどそれじゃあ、きっと無理で、自分のことを説明し無ければ無理で。
加えてこの事件が起きなければ、エンジェル隊は成長しない。

だから止めなかった。
死なないほうがいいのに、死んでもらった。

死ぬことを知っていて、救う努力をしなければ、殺人だ。
ラクレットの中ではそう考えているのだ。



「ええ、その通りです。」


クロミエは目を閉じて、腕を胸の前で組みそういった。

ラクレットは地面に膝をついてクロミエのことを見つめていた。


「貴方は弱い……いえ、優しい人です。だから苦しんだ。人が死んだことに。救えたかもしれなかったことに。」


ラクレットは、人が死ぬことが嫌だった。
それは人としては当たり前の感情であった。
たとえ、ゲームでも人には死んでほしくないのだ。
死ぬことは問題ないけど、誰にも死んでほしくない、そんな子どものような考えだった。


だから余計に苦しんだ、本当にわずかにでも救える可能性があったから、別に自分に責任があるわけではないのに。


「僕も宇宙クジラもそれを言ってあげたかった。」


クロミエは、ラクレットに近寄り微笑んでそう囁いた。
膝をついているラクレットのほうが、クロミエより頭一つ分小さく、ラクレットは彼を見上げる形になった。


「貴方はこれからもきっと優しい貴方でいてほしいから、苦しむだろうけれど人を救うだろうと。」


クロミエの本心だった。
ラクレットという人物の人柄を好いている少年の本音だった。


「クロミエ……ありがとう。」


ラクレットは、この世界で出来た初めての親友に心からの感謝の言葉を述べるのだった。
クロミエはそんな彼の頭に手を置いて優しく撫でながら微笑むのだった。







































「もちろん、貴方は結構欲塗れである事も知ってますけどね。」


「……台無しにすんなよ。」


そんな関係の二人であった。













ラクレット改変の話
これで、少しはましになったかな。
という感じです。
彼の空回りはまだ直りませんが、それでもすこしはまともな行動をしてくれるはずです。



感想返しで言ってきましたが、
来年の2月か、3月くらいまで海外にいることになったので投稿することができません。
その間に書き溜めておくので更新を待っていただけるとありがたいです。

もしかしたら、こらえきれずに某なろう辺りにでもに投稿しているかもしれませんが。


もしかしたらもう一話くらい更新できるかもしれませんが、期待しないでおいてください。


それではまた。




[19683] 第十六話 主人公が初めてヒロインに迫られる話
Name: HIGU◆36fc980e ID:fb84e1e6
Date: 2011/02/13 13:50





第十六話 主人公が初めてヒロインに迫られる話




「本当、ご迷惑をおかけしました」

クロミエが、クジラルームのロックを解除し、ブリッジに通信で伝えたため、ひとまず艦内のラクレット探しは終わった。
しかしながら、それによって夜勤スタッフの皆様や、その他大勢の人々に迷惑がかかったのは事実であり、ラクレットはとりあえず艦長であるタクトに謝罪をしたのだ。

「いや、無事だったならそれでいいんだよ」

「全くだ。今後あのような行動は慎むように」

ブリッジへクロミエを伴い出頭したラクレットは、レスターとタクトからそれぞれらしいコメントを頂戴したのだが。

「にしてもラクレット、なんか変わった?というか、体は平気なの?」

それはともかく、どこか今までとは違う雰囲気のラクレットにタクトは少し思うところがあるのか、軽くたずねる。

「はい、まあクロミエに諭されて心構えを少し変えたと言うか、そんな感じです。体のほうは、別に怪我をしていたわけでもなく、異常有りません」


胸を張って答えるラクレット。その表情は少し吹っ切れたようなもので、今までどこかにあった達観と言うか一歩引いたような何かはなくなっていた。
タクトはいい兆候だといいなと軽く結論をつけて、一応ケーラ先生に明日見てもらうようにと指示を出して、夜も遅いから二人とも早く寝なさいと告げて退出させたのであった。







そして、翌日




「今まですいませんでした」

そこには、朝食をとっている途中のミントに謝罪するラクレットの姿が。


「あのー……色々言いたいことはありますが、お体はもう大丈夫ですの?」

困惑の表情を浮かべつつも、ミントは2つめのデザート『宇宙レインボーゼリー』をすくい上げようとしていた右手のスプーンを止めてそう問いかける。
一応朝の放送でラクレットが無事退院したことは伝えられたのだが、それでも昨日気絶した人間がこんなにも元気そうにしているのだ。

そんなミントに対してあくまで憑き物の取れたかのように爽やかな笑顔でラクレットは答える。
もう一度言おう爽やかな笑顔だ。 これほど、彼に似合わないものは無いであろう。
どっちかと言えば、下卑た笑いとか、そこまで行かなくとも顔面神経痛を引き起こしたような笑顔が似合う少年なのにである。

顔はそこまで悪いわけでもないが中の下と中の中の間くらいの彼では、不信感しか与えないのだ。

「はい、体はもう全然。それよりも、今迄色々とご迷惑を掛けてしまい申し訳ありませんでした」

「は、はぁ」

あいまいな相槌を打つしか出来ないミント、誰かこの良くわからない人物から助けてくださいましと頭の中で電波を送ってみるが、悲しいかなそれを読み取れるのはまさに彼女だけだった。
しかし、仲間の絆と言うのは時に理屈を超えるものなのか、そこに救世主が現れる。

「あれ?ラクレット君だ~。もう体は平気なの?」

「あら、ミルフィーさん助かり……いえ、おはようございます」

ミントに声をかけたのは、トレーにオレンジジュースとスクランブルエッグ、トーストを乗せたミルフィーユだった。
彼女はミントの向かいの席につき「おはよーミント、ラクレット君」と返した。
その後「いただきます」と元気良く合掌しトーストに手を伸ばした。

それをミントとラクレットの二人はただ眺めていただけだったか、ラクレットが突然何かを閃いた様な顔をして、ミルフィーユに話しかけた。

「そうだ、桜葉少尉にも言わなければいけないことがありました」

「え?私に言いたいこと?」

ミルフィーユはオレンジジュースを飲み終えたタイミングでラクレットにそう返した。

「はい、ですがむしろエンジェル隊全員に言わなければならない事です……ですから、この後僕の部屋に来ていただけませんか?」

そこでラクレットは一端区切り、ミントの方を一瞬向いた。
ミントはとりあえず先程まで混乱していた頭から切り替える時間はあったので、今は冷静にラクレットの言動を考察していた。
『なんか怪しい。』瞬間的にそう結論が出た。

「エンジェル隊の皆さんは1時のクロノドライブまで特別予定は入ってなかったと思いますので、どうか11時ごろに皆さんでお越しいただけないでしょうか?」

その間にもラクレットは話を続けていた。

ミントは考える。なぜそこまで自分たちの予定を知っているかは別に不思議では無い。似たような所属だからだ。
だが今迄自分たちとあまり交流を持たなかった彼が、いきなり自室にエンジェル隊全員を招くなどと言い出せば、何かあるのではないかと疑ってしまう。

まあ、ラクレットが出来そうなことなどたかが知れているのでそこまで問題はないかもしれないとミントは結論付けミルフィーユのほうを見る。

ミルフィーユは、なにやら呟きながら考え事をしているようだ。
耳を傾けて見ると、「えーと、ランファは暇だって言ってたから良くて、フォルテさんはお茶会をするなら呼んでくれって言ってたからたぶん平気。ヴァニラはわからないけど……」とのことで、どうやら行くつもりのようである。
まあ、たまには良いでしょうかと結論付けミルフィーユがこちらを見たタイミングでウィンクをした。

「わかった。皆には私から言っておくね」

「はい、お願いします。それでは僕はこれで。お持て成しの準備をしなくてはいけませんから」

ラクレットはミルフィーのその言葉を聞くと、すばやく席を立ちその場を後にした。
ミントとミルフィーユはその背中を数秒見つめてから向かい合う。

「……なんか、変わったねラクレット君」

「そうですか?私には少々変だったとしか言えませんが……」

ミントはミルフィーユからの突然の言葉に少々驚きつつも自分の思ったことをそのまま伝える。
実際ランファさんやフォルテさんもきっとそういうでしょうねと思いながらであったが。

「うん、なんか前みたいに硬い感じじゃなくなっていたって言うのかな~?」

「……そうでしたか?」

言われて見れば、何時もみたいに馬鹿丁寧ではなかったかもしれない。
何かあったのかと考えるも、一番有力なのが『昨日の怪我により頭を打った』だったのでミントはそこで考えるのを止め、食後の紅茶を飲みながらミルフィーユに付き合うのであった。










「お邪魔しまーす」

「はい、どうぞ」

ラクレットはドアの開閉ボタンを押して部屋に招きいれた。
エルシオール内では通例、部屋の主がどうぞと言えば客が自ら進んで入るのだが、しばらく入ってこないので自分で開けたのである。
彼は現在キッチンに立っているため、様子を見れないが、話し声や足音から察するに5人全員来てくれたみたいだ。
思わず顔を綻ばせつつも、これから話すことを考え緩んだ頬を引き締める。

「あ、靴はココで脱げばいいの?」

「はい、それでお願いします」

ラクレットは玄関部に買ってきた水色のテープで境界線を引き、そこに自分の靴を並べている。
さながら前世での日本の住宅のつもりなのだ。
ちなみに、玄関で靴を脱ぐ風習は別にそこまで珍しいわけでもない。


「どうぞその辺のソファーなりクッションなりに座っててください。いまお茶の準備をしてますので」

ラクレットの部屋は、エンジェル隊のソレよりは幾分か狭いが、それでも十分な広さを持っている。
現代日本で言うと1LKにユニットバス付きといったところか。
カーテンで部屋を二つに区切り、奥側を自分の私室にしているが、今迄数度だけクロミエが来ただけのこの部屋は、正直あまり使われてなかった。
それでも絨毯がひいてあり、二人がけのソファーとテーブルにがあるが、それだけだった。
彼の趣味であるジグソーパズルの完成品は、まだ自分のベッド周りに飾れるだけしかないのだ。

「意外と片付いてるじゃない……というか、妙に殺風景ね」

「男性の部屋ですから、こういうものではありませんの?というより、少年ですか」

「そういや、まだ14だったね。たまに忘れそうになるんだけどね」

「ラクレットさんの部屋初めて入りました」

「そういえばそうだねー」

「あら、ミルフィーさんもヴァニラさんも初めてなんですの?」

なにやら、早速何時もの空間を作り上げているエンジェル隊に若干苦笑しつつ、ラクレットはトレーにお茶とお茶菓子(お手製)をのせてリビングに向かう。

「というより、クロミエ以外この部屋には来たことがありません」

ラクレットはとりあえずテーブルにトレーを置くとソファーに座るミントとフォルテの前に2つ、絨毯のクッションに座る3人の前にもそれぞれ3つのティーカップを置き自分の分は目の前に置き席に着く。
ちなみに長方形のテーブルの短い辺のほうにラクレットが座り、そこから左側の辺にミルフィーユ、ランファ、対面にヴァニラで、右側のソファーにミント、フォルテである。

「あ、これお口にあうか解りませんが、作ってみました。サーターアンダーギーって言って、甘くて食べ応えがあるんですよー」

ラクレットは、先程揚げてすこし覚ましておいたソレをテーブルの真ん中に置く。
彼は最近前世の記憶を頼りに色々作っているのだ。
理由はポピュラーなお菓子だとミルフィーユが既に作っているからだったりする。
もっとも、前世ではたいした料理も出来なかったので、このように簡単なものばかりだが。
それに一度作れば、ミルフィーユは自分以上の味でさらにアレンジも加えて作るのだからあまり意味は無いのだが。
それでも、珍しそうに自分の作ったサーターアンアダーギーをみるエンジェル隊の顔を見て少し誇らしげな気持ちになるのであった。















「それで、話ってのは何なんだい?わざわざ部屋に呼ぶくらいだ、それなりに重要なものなんだろう?」

皿の上のサーターアンダーギーがなくなった頃フォルテがそう切り出した。
それまで、エンジェル隊の様子を眺めていたラクレットは一瞬だけ顔を強張らせるも、すぐに何時ものすまし顔に戻した。

「ええ、それでは、聞いていただきたいんですけど、その前に一つ」

そこまで言うとラクレットは一端うつむき何かを呟くと顔を上げ口を開いた。

「僕は、エンジェル隊は出動とか、出撃するものじゃなくて、降臨するものだと思ってるんですよ」

そう前置きして、彼は語り始める。


「初対面の時も言いましたけど、僕はエンジェル隊の皆さんに憧れていたのですよ、生まれて物心ついた時には既に」

「コレといった理由はありません。ただ、エンジェル隊に憧れてしまったんです」

「それでですね、自分の中で彼女たちはこうであろう見たいな物が出来ていたんです。うまく言語化できませんが」

「つまるところですね、貴方たちを理想扱いしていたんですよ、僕は。神聖視とも言うんでしょうか?」

「しかも、本人たちに会ってみてソレに拍車がかかってしまいました」

全く間に挟みこませずに捲くし立てるラクレットは、そこまで言うと一端話すのを止めてエンジェル隊の反応を見る。
最初の前置きの時点で混乱し始めたのか、彼女たちは良く自分の話を飲み込めていないみたいだ、と思いなおしたのである。
案の定ミントとランファはポカンとしてるし、ミルフィーとヴァニラは良くわかっていないみたいだとことを確認し、苦笑しながらフォルテを見た。
唯一フォルテはラクレットの事を探るような目で見ていた、ラクレットはしばらくフォルテの目線に答えるものの、フォルテがソレをそらすことで終わった。


「続けますね。まあそんなわけで、貴方方にお近づきに成りたかった僕はシャトヤーン様に預けてあった発信機━━━アレが動いたなら、きっと何かあったのだと思いここに来ました」

「ちょっといいかい?」

「はい、なんですか?」

続きを話し始めたタイミングで、フォルテが口を挟む。
ラクレットはそれすらも予想済みだったのか、すぐに反応し対応する。

「発信機のことは聞いてたけど、アンタの話じゃまるでいずれこんな馬鹿みたいな戦争が起こるって知ってたみたいじゃないか?というか、もし無かったらどうするつもりだったんだい?」

「ああ、いずれ何か起こるんじゃないかなーくらいとは思ってましたよ。だって実際エオニアが一回反乱を起こしましたし、なのに国外追放ですよ。エオニアに賛成する派閥がいなくとも、国王への不満はありましたし一部貴族の不穏な動きはありました。そう考えるともうすぐ何か起こると考えるのはおかしくないですし。仮に何も起こらなかったとしても、自分には『エタニティーソード』があり、将来的には白き月の警護部隊になるには、ちょうどいいような人材だとの自負はありましたから、特に何かをするとは思いませんよ」

「へぇ……筋は通ってるって訳だ」

「ええ、まあ………でも今は、なんというか、自分のイメージを押し付けていたと言うか、そういう先入観みたいなものを持っていた自分が恥ずかしいくらいです」

フォルテをまっすぐに見つめる、彼はあまり人の目をまっすぐに見つめ返すということをしないのだが、この時は別だった。

「皆さんも一人の人間で、僕も別に特別な人間でもないんですよね。ようやく気付けました……本当に今更ですけどね」

「そうだね、まあ気付けただけよかったじゃないか」

いつの間にかフォルテと二人の会話になっており、残りの4人は固唾を呑んで見守っていた。
彼が次に何を話すべきか考えている間、フォルテは余裕たっぷりの仕草で紅茶に口をつける。
約一分ほど続いた沈黙を破ったのは、ラクレットだった。

「でも……今は違います。本当にい今更でおこがましいですけど、僕は一人の人間として貴方達の力になりたいんです」

「へぇ……言うじゃないか、私たちの力になるなんて」

「ええ、僕は結局は何所まで行っても僕のまんまですけど、やはり皆さんは輝いています。僕は貴方たちを守り、助けたいんです。僕じゃ出来ないことも皆さんなら出来る気がするから、そのお手伝いをしたいんです」

「それが、アンタの答えって事かい」

「はい」

自分で言葉にして、ようやく自分がいかに大層な事を考えていたかを理解したが、本心なので肯定した。
そもそも自分は最初からぶっとんでいたのだから、この位いいのではないかと言う、開き直り的な思考もあったのだが。


「それで、皆はどうなんだい?……特にミント」

しばらくラクレットのことを見つめていたフォルテは含み笑いを見せると、エンジェル隊のほうに向き直り尋ねた。
いきなり話を振られたミントはビクッと背筋を伸ばしてしまった。他の面々もミントほどではなかったがいきなり話が回ってくるとは予想していなかったのか、微妙にあわてている。

「こいつは、尊大にも『輝いている私たちを守ってあげたいから、今までの行動を無かったことにして欲しい。』って言ってるんだ。答えは決まっているようなもんだと思うがね」

フォルテのその言葉に、ラクレットは引きつった顔を浮かべる、事実なので全く反論できないのだ。
ミントは一瞬意外そうな顔をしたものの、すぐ合点が行ったのが、面白い悪戯を思いついたような顔をしてフォルテのほうを見た。

「ええ、そうですね。それならば、相応の誠意と言うものを見せていただきたいものですね」

ミントのその言葉に、ミルフィーは困ったような顔を浮かべる、今まで難しすぎてよくわかんないなーとか思っていたので、反論しようにもできないのだ。
ランファとヴァニラは怪訝そうな顔でフォルテとミントの二人を見ている。

「ほうほう、いい提案だね。よし隊長命令だ。ミント、相応の誠意を見せるに相応しい案を一つあげてくれ」

ここに来てヴァニラとランファは我らが隊長と参謀の意図を理解した。
要するにコレは、フォルテなりの歓迎の印なのだ。ようやく本音を明かしてくれた仲間が『仲間』になったことの。
ミルフィーは相変わらずどうしてそんな意地悪するんだろー?と考えていたのだが。

「そうですわね…………それでは、私たちのそれぞれどのような所に惚れ込んだのか……それを教えてくださいませんか?」

「惚れっ!!……まあ、否定はしませんが」

悪魔のようなミントの提案に大きく反応してしまうラクレット。
というか、それって自分の初恋経験みたいなものなのだから、あまり人に明かしたくないのだがなどと思っているものの、唯一反対してくれそうだった、ミルフィーもそれなら別にいいかもーみたいな表情でこちらを見ている。
つまり彼に逃げ場は無かった。

「さ、まずは私のを言ってみるかい?ラクレット」

「いいえ、ここは私からでどうでしょうか?ラクレットさん」

「あら?私からでもいいわよ、ラクレット」

生まれて始めて女性に迫られると言う経験をしたラクレットは、フォルテ、ミント、ランファに始めて名前を呼ばれたと言う事実に全く気付かなかった。

「……それじゃあ、ミントさんから」

同様に、自分が彼女たちの名前を自然に呼んでいる事にも気付かなかった。














彼の大好きな呼び名交換イベントは起きませんでした。
ここまで3人にラクレットって呼ばせないために結構苦労しました。



[19683] 第十七話 みんなの恋路事情
Name: HIGU◆36fc980e ID:fb84e1e6
Date: 2011/02/19 03:30
第十七話 みんなの恋路事情




私がアイツのことを意識したのは何時からだったか、そんなことはあまりよく覚えていない。
しいて言うなら、あの偵察型プローブの事件があったときかしら?

あの時私は、この何よりも美しい乙女の柔肌を見せてしまったのだ!!
悲鳴を聞きつけてやってきた二人に向かって色々物を投げてたら、ラクレットのほうに当たって気絶しちゃうから、服も着てないのにアイツと二人でさらに慌てちゃって。

今振り返って思ってみても、顔から火が出るほど恥ずかしい。だって私ったら服も着ないでアイツの目の前まで行って、顔を真っ赤にして眼をそらしながら指摘するまでそのままだったのだから。

あ!もちろんバスタオルは巻いてたわよ、申し訳程度には隠していたわ!!  大きな声で言うことじゃないけどね。

それから、ミルフィーのせいでその……キ……キス……しちゃった時!!
あの娘が私とアイツがいるのに気付かずに重力発生装置を解除しちゃったから!!

あーもう!!この私のファーストキスだったのに!!
まあ、別にアイツだったら悪くない……って思っちゃう自分がいるのに気付いたのもこの時。

ああ、私は恋をしてるんだなぁ……って納得しちゃったのよ。
思えばココまで本気で誰かを好きになったことはなかったかもしれない。そういう意味ではコレって初恋なのかしら?

でも結局アイツがダンスパーティーに選んだのはミルフィー。
結構勇気出してアピールしたんだけどな……。

でもまあ、私のほうが年上だし……ミルフィーが嬉しそうなのはやっぱり私も嬉しいし。
……でも……つらい物はつらいのよ。

私じゃなくてミルフィーを選んだんだから、絶対に幸せにならんきゃだめなんだからね!!
そして、幸せになった二人が羨む位の幸せを私が掴むんだから!!




















現在エルシオールは、惑星フリードの軌道ステーションでの補給を終えて白き月に向かっている。
クロノドライブ中であるため、クルーたちは最低限の人員を除き英気を養っていた。
後数度のクロノドライブを終えれば、エオニアと直接ぶつかりあうことは明白だからだ。

そんな中ラクレットは、クレータ、レスターと共に格納庫の一角に居た。


「それで、『エタニティ-ソード』について報告があるって言ってけど何かしら?」

「あ、もう少し待ってください。いまリミッターを外しますから」

先の戦闘の後、紋章機の背に発生していた翼は消えてしまったが、それぞれの紋章機がパイロットの癖などに最適化した。
同じく『エタニティーソード』もその現象が起きており、より操作性が上がった。
『エタニティーソード』が展開していた翼も、エンジェル隊の紋章機と同じタイミングで消失し、クレータは今日まで原因を探っていたが、結局白き月に着くまで何も出来ないという結論に落ち着いたところだったのである。そんな中報告があるから来て欲しいとラクレットに言われたのだ。

一方、レスターがここにいる理由はつい先程タクトの代わりにブリッジに詰めていた彼の所にラクレットが来てこういったのだ。

「もしかしたら、『エタニティーソード』の翼を展開させることが出来るかもしれません」

それを聞いたレスターは、一先ず格納庫に駆け足で駆けつけたのである。


「よし、リミッター解除。『H.A.L.Oシステム』起動、出力を最大に設定、フェザー展開!!」

ラクレットがコンソールでの操作を終え、そう宣言した途端、『エタニティーソード』の背部からわずかに黒い翼が生えた。
あまりの事態に、言葉を失うクレータ。一応聞いてはいたものの、それなりに驚いているレスター。

「…………ッ!!エネルギーカット!!リミッターを掛け、セーフモードに」

数秒膠着が続いたものの、この事態を破ったのはラクレットだった。
彼の額には汗が浮かんでおり、あたかも激しい運動をした後のようであった。
ラクレットが突然声を上げたため二人の視線は彼に注がれていた。
それに答えるかのように口を開いた。

「やはり、僕のこの機体は、単純に膨大なエネルギーを与えれば良いだけのようです」

「他の紋章機では無理だったのに……というか、リミッターって言ってたわよね、ソレは何?」

「まだ僕が幼い頃に、機体の負荷が急速に増す、駆動部操作装置停止操作Engine Control Unit Disabled Maneuver Drive状態に成らないようにつけました」

最初に『エタニティーソード』について報告した時、リミッターがかかっているとしか言ってなかったのである。
戦闘機に出力リミッターをかけるのは一般的なので、あまり重要視されていなかったのだが。

「……そうだったの、にしても本当に規格外ねこの機体」

驚きつつも、普通に納得するあたり、彼女もずいぶんとなれてきたようだ。
その会話が途切れつと、次はレスターが口を開く。

「それで戦闘中は使えるのか?ずいぶんと体力を消耗するようだが」

「はい、前回出した時のように機体を動かしていれば何とか、やはり、戦闘中のテンションが必要なのでしょう。それでも短時間にせざるを得ませんが」

「……そうか」

「でもこれで、希望は見えてきましたね。エンジェル隊の紋章機の翼、『エタニティーソード』のECUDMD、そして、詳細は不明ですがエルシオールの追加兵装、この三つの戦力上昇があれば、あの黒き月にも」

「ああ、絶対ではないが、運用次第では大きな力になるだろう」

実を言うと、ラクレットはこの時半分程度しか本当のことを言っていない、
まずリミッターについてだが、コレは翼が生えるという事実を整備班から隠すためにカマンベールに頼んでつけてもらったものだ。
だが実際に性能は落ちており、パーツへの損耗が減っているのも事実だ。

そして翼を出すこと自体は簡単であるが、これは他の紋章機と同じものでは無い
エンジェル隊の紋章機は『A.R.K』というシステムを起動させると出るもので、これにより『ARCH』というエネルギーが使えるようになるのだ。
故に先の『ネガティブクロノフィールド』下において戦闘可能だったのだ。

だが『エタニティーソード』の場合は単純に出力を上げるためのモノでしかない。
というより、単純な視覚効果しかないといっても良いのだが、コレは侮れないもので、
「翼が生えるとなんか強くなる気がする」とパイロットが思う事により、実際に『H.A.L.Oシステム』から導き出されるエネルギーの量が増えるのだ。
ちなみに『エタニティーソード』が先の戦闘で動けた理由は紋章機や、エルシオールの発生させた『ARCH』により、『クロノストリングエンジン』が活性化したからだ。

最もラクレットが理解しているのは、
紋章機とは微妙に別のシステム動いてる
自分のは元のエンジンを強化するためのもの 
やっぱり、それなりに疲れる。
程度である。


ようは翼を出すこと自体には全く制限が無い、だが、翼を出してる間は全力以上のエネルギーが出る。

例えるのなら通常の状態を全力疾走として、
紋章機は強烈な突風が後ろから吹き付けている状況
『エタニティーソード』は猛獣に追いかけられ命の危機が迫っている状況だ。

翼を少しだけ出して苦しむふりをする。

それは、今回ラクレットは自分が戦闘で短時間に限り先の戦闘と同等の力が出せることを伝えたかったが、そう乱発できるものではなく、あまりにも精通していると不自然に思われる。と考えた彼なりの苦肉の策だ。今まで出していなかったのに、なぜエンジェル隊にあわせて出したのだ?と聞かれても困るからでもある。




実際は翼を出してもそこまで苦しくなるほどではなく、実際は疲労感が増す程度なのだが、彼は今遅効性の下剤を飲んでいる。
先程まで時間を掛けていたのは、効果が発動するまでの時間稼ぎだったのだ。
額に汗を書いている理由はソレだ。
ちなみにこの薬、元々は便秘解消薬である。

「それでは、これで僕は少し部屋で休んでいます」

「ああ、クロノドライブが空けるまで、英気を養っておけ」

その後ラクレットは二人の目が届かなくなった途端に早歩きで去っていったのは完全な余談である。




























「私タクトさんと一緒にいられません……だってタクトさんが不幸になっちゃう」

「待ってくれ!!ミルフィー!!」

一方その頃タクトは修羅場ラブコメっていた。









時計の針を少し戻そう。
レスターにブリッジを任せたタクトは、ミルフィーと二人で銀河展望公園にいた。二人とも仲良くそれはもう仲良く散歩などとしゃれ込んでいたのだが、空調システムの不調が原因で実際は閉鎖されていたのに偶然が重なり、入ってしまっていたのだ。
その二人が『偶然』入った結果、『偶然』壊れていた空調からエアーが漏れ始めてしまい、後一歩で死ぬような目にあってしまったのである。

それを自分のせいだと感じたミルフィーは、先程体をぶつけてうまく動けないタクトを置き去りにして、走り去ってしまい、彼はその場に今一人で佇んでいる。


説明するならば数行で終わるが、タクトたち当人にとっては笑えないほどに深刻な話である。


「このままじゃだめだ、急いでミルフィーを追いかけなきゃ!! 」

我に返ったタクトは痛む体を引きずって走り出す。
ミルフィーの姿が見えなくなってからまだそんなに時間がたっていないから近くにいるはずだ。
と自分に言い聞かせることで、だんだん何時もの余裕が出てくればいいなと考えながら。

「まずは……ティーラウンジだ」

タクトは近くのエレベータに入りボタンを押すとそう呟いた。
閉じてゆく扉の隙間からのぞく彼の顔はなかなか格好よかったと、そこを通りがかったスタッフは残している。
























なんとか腹痛が治まったラクレットはクロミエと二人でティーラウンジの奥の方に居座っていた。
現在ティーラウンジには、彼ら以外の人は疎らだ。
入り口近くではランファが雑誌を読んでおり、そこから少し離れたところで、二人の女性クルーがケーキに舌鼓を打っている。
そのくらいしかいない、がらんどうとしたティーラウンジの中で、あえて奥の方に座っている彼らだが、不思議と目立つような雰囲気は醸し出されていなかった。

彼ら二人の間にはコーヒーカップが二つと芋羊羹の乗った皿一枚しかなく、二人は向き合って何かを話すような姿勢で座っていた。
コーヒーは普通に注文したものだが、芋羊羹は前回の補給の時に購入したものだ。
『Imo-chou』という和菓子屋で、なんでも芋羊羹を作らせたら皇国一の主人が作ってるものだそうで、ラクレットは迷わず購入してしまったのである。

「……コレ食ったら、大きくなれたりするのか?」

「どうしましたか?」

「いや、なんでもない」

自分の独り言がクロミエに聞こえていて、どこと無く恥ずかしい気分になった彼はすぐに誤魔化した。
その様子にクロミエは一瞬怪訝な表情を浮かべたものの、気にしないことに決めたらしくコーヒーに手を伸ばした。


「……それで、うまく言えたんですか?」

急にそう切り出した、その眼は真剣でラクレットは思わず一瞬息を止めてしまった。
あの夜のことを思い出してしまうのだ、クロミエのその真剣な目は

「……ああ、お前のおかげでな」

「それはよかった」

一瞬の間をおいてそう答えたラクレットにクロミエは何時もの柔らかな笑顔で答えた。


「それで、これからはどうするんですか?」

「もちろん皆のために出来ることをやるよ。僕のできる限り」

「それじゃあ、あれはどうします?」

クロミエはそう言って入り口の方を指差した。











彼女の座っているテーブルに大きな振動が伝わり、何かと思い顔を上げるとそこにいたのはタクトだった。
個人的にここ数日、微妙に避けているというか、あまり進んで会いたくないといった感じだったのだが、彼のあまりの真剣な表情を見てそれらのことが一瞬で抜け落ちてしまった。

「タクト?どうしたのそんなに慌てて」

「ランファ!ミルフィー見てないか!?」

タクトの並々ならぬ気迫に押されつつも、とりあえず、質問の意図を考える。
今朝朝食を一緒に食べたきりで、それ以来見ていない。
そう確認したランファは口を開く。

「見てないけど、それg「わかった、ありがとうランファ!!」どうしたのよ、って……もう居ないし」

ランファの言葉を途中でぶった切って走り去るタクト。
今の彼を止められるのは、それこそミルフィーのみであろう。

「はぁ、本当どうしよう」

その後姿を見つめながら、ランファは溜息をつく。

「やっぱりまだ、諦められないよ……タクト」
























クロミエが指差した方向ではランファとタクトの一連のやり取りが行われている。
それを眺めていたラクレットは、微妙にランファのリアクションが違うことに気がついた。
別に彼は男女関係に極端に鈍かったりするわけでもないのだ、自分に関してはことさら鈍くなったりもしないのだ。
逆に微妙に鋭かったりするので、気になった女の子を好きになる前に諦めたりもしている。
空気は読めないが、なぜかわかってしまうのだから仕方がない。

「あなたは、前にタクトさんが誰かを選んだらあとの女性たちはあっさり身を引くと考えていましたよね。あれは、イレギュラーじゃないんですか?」

「……むしろさ、そっちの方に疑問があったと今は思ってるわけよ。いやだってさ、そんなあっさり身を引くか?むしろこのくらいのことが普通なんじゃないの?」

「以前の貴方ならまた大騒ぎしてややこしくしていたでしょうね」

「そーかもな」

ラクレットはいまさら、タクトの女性関連の事柄がどうなるかなど心配していなかった。
成るようになるだろう。そのくらいしか考えていない。
なぜならば、彼は最大の信頼を置いているからだ。今までの自分も少なくともエルシオールクルーがミスやヘマをするわけが無いという風に考えていたからだ。
今になって、実は自分は疑われていたという話を聞いても、それは仕方ないよねと納得が出来るのもそういう理由だ。

要するに、タクトならどーにかするでしょうというスタンス(笑)だ。
もちろん、途中で色々トラブルは起きるだろうが、最終的には成る様になる。
主人公とか、オリ主とか、そういうものに囚われなくなった彼の新境地である。

人それを、開き直って諦めると言う。

「とにかく、しばらく静観しよーぜ」

「そうですね」

そして、そのまま数日が経過する。

































「本当に、どうにか成りませんの?」

ティーラウンジに入った途端に聞こえてきた声に思わずラクレットはその方向を見る。
そこにいたのはミント、フォルテ、ヴァニラの三人で、どうやら今の発言はミントのもののようであった。
その大きな声にラクレットは思わず声をかける。

「どうしたんですか?ミントさん」

今までならそのような行動をしなかったはずだが、案外あっさり出来るものだなと思いつつ彼女たちのテーブルに近づく。
席の一つを指差して座って良いか許可を取ってからミントの向かい側に腰掛ける。

「それがですね、最近ミルフィーさんがタクトさんを避けているのはご存知で?」

「はい、この前実際に追いかけっこをしているのを見ました、クロミエと二人で」

「それでですね、二人がうまく行っていないのはもちろん、それに加えてランファさんまで不機嫌になるのですよ」

ここ数日のタクトとミルフィーの追いかけっこは、エルシオールクルーに頻繁に目撃されている。
それに伴ってランファの機嫌が悪くなって行くのだ。
傍から見ればどう見てもお似合いの両思いであるのに、ラブコメよろしく
「私の近くに来ると不幸になる!!」「待ってくれ、話を聞いてくれ!!」
とやっているのだ、その片方が親友で、もう片方が思い人であるランファからすれば果てしなく微妙な心境であろう。

「はあ、それで?」

「ええ、私たちにとっては、みんな大切な仲間と上官でありますから、どうにかできないかと、今話し合っているのですわ」

横に座っている二人を見ると、二人ともこちらを見て頷いた。
ああ、本当にこの人達は仲間思いなんだなと改めて実感しつつ、ラクレットは尋ねる。

「それで、何か良いアイディアは出たんですか?」

「それが……」

「さっぱりでねぇ……」

「どうにかしてタクトさんたちが話し合える場所を作れれば良いとは思うのですが、その方法が……」

結果、三人とも沈んでしまった。
苦笑しつつ、ラクレットはゲームだとどうなったかを思い出そうとするが、そのタイミングで大声が彼の思考を遮った。

「なによ!!ミルフィー、ミルフィーって!!人の気持ちも知らないで!!」

「そんな……ランファ、オレはそんなつもりじゃ……」

瞬間、四人は立ち上がりティーラウンジを後にする。
会計とかそういうのは後回しだ、この面子なら少々融通も利くからだ。
急いで廊下に出ると、ティーラウンジの入り口近くの廊下で、タクトとランファが口論していた。

「私が、どういう思いでアンタ達を見ていたかわかる!?そんな私に毎回毎回会う度にミルフィーの事を聞くなんて、しかもうまく行かないからどうにかしてくれですって!!」

「ちが、違う。オレはそんな事……」

「違わないじゃない!!どうして……」

わかってくれないの?

ラクレットはランファが言葉にしていないがそう訴えているように感じた。

そこまで言うとランファは泣き崩れてしまい、すぐにフォルテとミントが駆け寄り助け起こす。
そのままフォルテは、ランファを連れて立ち上がらせ前方の廊下へと歩き出す。最後に一瞬振り向いたがそのまま立ち去った。
ヴァニラは、少し送れて二人についていった。

ミントは二人とは逆にタクトに向かって歩を進める。
タクトはそれまで呆然としていたが、ミントが近づいてきたことに気付いて体を強張らせる。

しかしその刹那、彼の体は真横からの衝撃により吹き飛び廊下に打ち付けられた。

ラクレットが思わずタクトを一発ぶん殴っていたのである。
横から、頬を、全力で。レスター仕込みの腰の入った一発を。

「……上官を殴ったので、営倉に入ってます」

無表情にそう言って、そのまま廊下を歩いて立ち去ってゆく。彼に合わせて野次馬が二つに割れ道ができた。
そこを歩き立ち去ってゆく彼はどこか印象的だった。と野次馬の一人が残している。

「はいはい、皆さん解散してくださいまし」

ミントがそういうと、野次馬は三々五々と散ってゆき、最終的にタクトとミントだけ残った。
ミントは優しく微笑み、ハンカチを取り出すとタクトが殴られた場所に当てる。

「それで、頭は冷えましたか?」

「……ああ、ばっちり。自分がいかに情けないことをしてきたかわかったよ」

あとで、ラクレットにもお礼を言って、営倉から出さないとな。と呟きつつ、自嘲気味に笑うタクト。

「痛かったですか?」

「ああ、ランファのも、ラクレットのもね」

「……それはよかった。実は私も一発お見舞いしたかったのですが、ラクレットさんがアレだけやった手前、気が晴れてしまいました」

「はは、やっぱり?」

「ええ。まあどうやらあの方は、純粋に私と同じ動機ではないみたいですけれど」

急に和やかな雰囲気になる二人
ミントは、ようやくどうにか成りそうですわねと考え穏やかに微笑む。

「こんな所にいてはだめでしょう?」

「そうだね。すぐにミルフィーの所に行きたい……でもそれじゃだめだ。俺が本気であることを見せなきゃ」

「それで、どうするのですか?」

「まずは、ここ数日レスターに押し付けてた仕事を片付けて、纏まった時間を作る。話はそれからだ」

「百点満点ですわ、ただ『逃げるから追いかける』のような男でしたら、駄目です。今は決定的な仲違いでは無いのですから、きちんと仕事をしてくださいまし」

「了解」

タクトは、そう言って何時もの不敵な笑みを取り戻し、その場を後にした。
今夜はよく眠れそうですわ、と彼女は思い同じくその場を後にした。


直、この日の会計は後にタクトに請求書が届いた。



















おまけ


「皆さん忘れてるみたいですけど、まあ明日くらいにタクトさんに言って出してもらえるようにしますね」

「クロミエ……ありがとう」

「ちょうどクロノドライブも一度終わるみたいですから、ちょうどいいと思いますし」

「そうだな」

「それで、どうして殴ったんですか?」

「いや、だって……」

「…………」

「……妬ましくて」

「予想はしてましたが、白き月まで入ってます?」

「ごめんなさい」



















友「ラクレットって、つ●きすでいうと、フカヒレみたいなポジのキャラだろ?」

作「むしろ、存在が2学期」

そういうわけです。

引越しのごたごたで忙しいので更新しました。
次回は27日の予定です。






[19683] 第十八話 白き月へ 前編
Name: HIGU◆36fc980e ID:fb84e1e6
Date: 2011/02/27 14:35









第十八話 白き月へ 前編







ラクレットが無事営倉から出られてから2時間ほどして、クロノドライブが終わり通常空間に出た。
そろそろエオニア軍からの妨害も激しくなるであろうということで、ブリッジでは剣呑とした雰囲気が流れていた。
適当に配備してある程度の防衛線用艦隊程度では、そこまで苦労はしないものの、敵もこちらとの戦闘たびに、AIが成長するのか、動きがいやらしくなってきているのは事実だし、敵にはまだシェリーやエオニアといった優秀な指揮官がいるのだ。
ヘルハンズ隊もいるが、あいつらはあまり問題視されていなかった。







「よし、アルモこの宙域をスキャンだ!!」

「了解しました」

「タクト、早く戻って来い、追いかけっこはもう終わりだ」

「わかってる、いま戻ってる最中だ」

タクトはクロノドライブが終わるぎりぎりまでミルフィーを追い掛け回していたが、今はブリッジに戻ってきている途中だ。
仕事も終わらせていて、全力を出していたタクトは、後一歩の所までミルフィーを追い詰めたのだが(この書き方をすると何か別のようなものに感じるが)
惜しくも時間切れであった。

「副指令、どうやら宇宙嵐が出てるみたいで、いまいちレーダーの感度がよくありません」

「この宙域だと、ルイーア星系の恒星か……こんな時に」

どうやら、天候はあまり好くないみたいだなとレスターが思っている時に、同時にタクトが廊下を歩いて居るタイミングで、突然強い衝撃がエルシオールを襲った。

「っなんだ!!」

「敵のミサイルです!!出現時間を逆算されていたのか、ありえない速度で追突!!後続も来ます!!」

「くそ!!タクト早く戻って来い!!エンジェル隊とラクレットは格納庫に急げ!!出動だ!!」

「わかった」

タクトは壁についていた手を放し、一気に駆け出した。
しかし、そのタイミングで曲がり角からミルフィーが出てくる。
一瞬だけ、硬直するものの、お互いプロだ。

「ミルフィー!!今は非常事態だ!!急いで出撃するぞ!!」

「は、はい!!」

そう声を掛けると、二人は並んで走り出した。





「ミサイル来ます!!クルーは何かにつかまって、衝撃に備えて!!」

アルモの悲鳴のような叫び声がこだまする。
その瞬間、二人のいる区画に偶然2発のミサイルが命中した。
その場所は偶然シールドの出力が弱かったのか、ミサイルが貫通してしまった。

「ミルフィー!!」

天地が判らなくなる様な揺れの中タクトは、並走していたミルフィーを庇うように抱きしめた。
耳を劈くような轟音と共に衝撃が二人を襲う。

「タクトさん!!」

そのまま二人は、土煙の中に飲み込まれた。










その頃ブリッジでは戦闘時独特の喧騒に包まれていた。
ミサイル迎撃のために先行している『トリックスター』に指示を飛ばしつつ、レスターは先の攻撃の被害を尋ねた。
襲撃の時、ちょうど格納庫にいたミントがすぐに借り出されたのだ。

「アルモ!被害状況を」

「Dブロックに被弾した模様!負傷者の数は不明です」

「救護班を急がせろ……クソッ!タクトはまだか!!」

幸いだったのが、数発のミサイルが来ただけでまだ敵艦の姿が見えないことだ。
こちらの動きは封じられているが、差し迫った危機は無い。
焦りを表情に出さないようにきわめて冷静にレスターは指示を飛ばす。
悪態を吐くのは何時ものことだが。

「ココ、次のポイントまでの進路に敵が待ち伏せできそうな場所はあるか?」

「検索してみます、2分下さい」

「まかせた」

とりあえず次回のクロノドライブ開始地点へ向かうための進路にある、敵が待ち構えていそうなポイントを同時に検索させる。

「格納庫、他のパイロットはそろったか?」

「それが、ミルフィーユさんがまだ来ていません。他の方は何時でもいけるのですが」

「わかった、とりあえず発進させてくれ」

その間の時間に、格納庫に状況を尋ね、自軍の戦力を確認する。
とりあえずエンジェル隊4人とラクレットなら、現状問題はないであろうと一息ついた。
超高速で移動しているエルシオールに、ついてこれる艦など、あまり存在しないので、敵の艦隊はそう多いものではないだろうからだ。
もっともそれが敵の戦略的な兵器────『黒き月』 などが出てくれば話は別だが。

「副指令!!ミルフィーさんと司令以外の人員は、全員無事を確認しました」

「先程のミサイルで一部区画が封鎖されてしまっている、そこにいるのかもしれない。救護班に通達しておいてくれ」

アルモからの報告を冷静に対処し、まだ予断ならぬ状況だというより、もしかしたら最悪の状況かもしれないことを認識する。
ブリッジクルーの面々の表情も、どこか暗いものになってしまっている。

「そう心配するな、あの二人が一緒にいるんだ、タクトの馬鹿は死にそうにないし、ミルフィーの幸運もある。二人は必ず無事だ。信じろ」

「……そうですね」

こういうのは、俺の役柄ではないのにな。と考えつつも、もはや癖になってしまった、フォローを入れるという、日常タスクの延長を行う。
そして自分の手元の回線を手に取った。

「ラクレット……最悪の場合は頼むかもしれない。タクトと連絡が取れない」

「……判りました。タイミングはお任せします」

「まあ、アイツに限って何かあるとは思えんがな」

そう告げたレスターは回線を切り、ココの方を見る
大体2分ほど経過したからだ。

「検索結果でました、二箇所ほど候補がありますが……」

「両方に注意を払っておけ」

それだけ言うと、通信を切り目の前のスクリーンを睨む。
この先に小惑星アステロイド帯に挟まれた宙域がある。艦影は無いが……

(俺ならそこに伏せる、戦闘機部隊は小惑星の裏に隠すのもアリかもしれない)

そんなことを思いつつ、その近辺を重点的にサーチするように指示しつつ、タクトを待つのであった。

彼がここまで行動するのは、親友に最高の状況で指揮を執らせる為なのだ。
本人は認めたがら無いが。










「いててて……大丈夫かい?ミルフィー?」

「タクトさん……私たち、どうなったんですか?」

タクトとミルフィーの二人は、現状を確認する為周辺を見渡すが、周囲は薄暗い上に、いまだに砂埃が舞っており、視界はよくない。
そんな中、かろうじて解ったのは、自分たちの左右にミサイルがそれぞれ一発ずつ横たわっており、ミサイルにはさまれる形になっているということだ。

「ミサイルはぶつかったけれど、爆発はしなかったみたいだね……運がよかった」

「…………」

タクトは安堵しながら、そう呟いただけだったのだが、ミルフィーは黙り込んでしまう。
俯いて、こちらを見ようとしないミルフィーを怪訝に思い声をかけるものの、無反応だった。

「ミルフィー、どうしたんだい?」

「……私のせいです」

そんなことはない。と思わず叫びそうになった。
だがミルフィーの真剣な顔を見てしまうと、その言葉は喉で融けてしまう。
両の瞳から、はらはらと涙が零れ落ちているのだ、その涙を見るとタクトは、胸が苦しくなり何も言えなくなってしまう。

「私が、こんな運を持ってるからです。こんな運があるから何時も変なことがおきちゃう……こんな運欲しくなかった」

そこまで言うと、完全に俯いてしまい、くぐもった声で呟く形になる。
しかし、タクトには何を言っているのか、よく聞き取ることが出来た。

────普通の女の子に生まれたかった。

この言葉が、彼女にとってどれほど重いものなのか。一瞬、その途方の無さに言葉を失ってしまう。
同時に彼の中に一つの確信が生まれる。
それは、今までもあったものだが、大きくなった……いや強固に成ったというべきか。


「そうだね、普通の運を持ってる、普通の女の子のほうが、良かったかもしれない」

「……」

「でもね、普通の運の女の子だったら、エンジェル隊の皆にも会えなかったんだよ?」

「それは……」

「それに、オレはミルフィーが、ミルフィーだからキミに会えた」

ミルフィーの顎に手を合わせ、少しだけ力を加えると、彼女は彼の方を向く。
話を聞いてくれていることに、少しだけ安堵しつつ、彼はそのまま続ける。

「それに、こんなにいろいろ事件を起こしちゃう女の子なんて、一生退屈しそうにないよ。毎日ドキドキで楽しい」

顔を寄せ、優しく囁くように、そう呟く。
自分の本心を確認しつつ、絶対に嘘は話さない様に。

「エルシオールに来てから、毎日がお祭りみたいに楽しかった。そりゃ、戦争中で大変だったけど。ミルフィーと一緒にいると、オレは楽しいんだ」

「タクトさん、でも……」

「どんなことが起こっても、オレとミルフィーなら平気さ。オレが絶対に何とかする。現に今も、ミサイルに挟まれてるけど、死んでないじゃないか」

「……」

「ミルフィーじゃないとオレはだめなんだ。すごい運を持ってるけど、笑顔が可愛くて、とっても家庭的な、可愛い女の子。そんなキミにオレは────恋をしたんだ」

いままでいろんなタイプの女性にちょっかいを出してきた彼だが、ある意味でミルフィーに対しては初恋だった。
ここまで夢中になったのも初めてだし、なんでもしてあげたいと思ったことは今まで無かったのだ。

「だから、オレの傍には居れないなんて悲しいこと言わないでくれ。自分の運が無かった方が良い何て言わないでくれ」

そう言ってタクトは右手でミルフィーの肩をそっと抱き寄せ、頭をなでた。
なすがままにそれを受け入れているミルフィーは、今言われたことを反芻している様子で、リアクションらしきリアクションは無い。

「これからも、オレの傍にいて欲しいから」

「……タクトさん……私……」

その時、二人の頭上で瓦礫の崩れる音と共に、光が差し込んだ。
二人がつられてそちらを見ると、何とか人が一人通れそうな隙間が出来ていた。

「お~い!!誰かいるか!?」

「……さて、行こうか。返事は後で聞くから」

「はい!!」

ミルフィーは満面の笑みで力強くそう答えた。
















タクトたちが瓦礫の中に居る間、エルシオールに5機の戦闘機が接近していた。
いわずもがな、ヘルハウンズ隊である。

「くそ、あいつらか……何が狙いだ……まあいい、ラッキースターを除く全機で迎え撃ってくれ。ラクレット、お前は時間を稼ぐだけでいい」

レスターがそう指示とすると同時に、戦闘機が此方を誘うように大きく旋回してからエルシオールに向かってきた。
エンジェル隊もそれに答えるように、各々の相手に攻撃を仕掛けた。
通常なら各個撃破で行くのだが、ミルフィーがいないので攻撃力に不安がある今は、時間を稼ぎつつ確実に削るのが最善だった。

そんな中、ラクレットの相手をさせられている、カミュから通信が入る。

「おや、ボクのミルフィーは何所に行ったんだい?」

「何時から彼女は、貴方のものになったんですか? 銀河をかける風の人」

「そういうキミは、何時もの特攻馬鹿じゃないか? 今日は艦の周りで皆に守って貰わなくて平気なのかい? 」

ラクレットは切り返すと同時に、敵の懐に潜り込もうとするが、カミュには通じず、ひょいと華麗に躱されてしまう。
カミュはそのままクルクルと、急降下をするように機体を動かすと、あっという間に距離をとり、『エタニティーソード』をロックし、即座にレーザーを放つ。
ラクレットは慌てて機体のブースターを全開にし、機体を右に滑らして回避するものの、カミュの優雅なそれと違い、ギリギリなものだった。
その荒々しい動作のせいでぶつけてしまったのか、ラクレットは両の頬に少しばかり痛みを感じた。

「まったく話にならないね。マイハニーじゃないと僕を楽しませてくれない」

「アンタを楽しませるために戦っているわけじゃないんでね」

「……まったく、君達兄弟は、面白みというものに欠けるね」

「……戦闘はパーティーではないもんで」

ラクレットの機体の最大の強みは速度と攻撃力だ。
リーチは短いものの、一撃の威力は高く、それなりの装甲を持っているので、相手の懐に飛び込んで一太刀を浴びせるのが基本だ。

しかし弱点もある。動きが『相対的に』鈍重かつ的の大きい戦艦には強いものの、すばやく小さい戦闘機のような敵には壊滅的に相性が悪いのだ。
無人機ならば、時間をかければ比較的落とせる。しかし有人、しかも熟練パイロットが乗っているのならなおさらだ。
エネルギーソードのリーチは、ある程度なら伸ばすことが出来る。
最近彼が長さが伸びてきたというのは、戦闘中に保てる長さが伸びたということだ。

その気になれば一瞬10KMを超える剣を作れるが、その瞬間エネルギーは枯渇し、エンジンは停止してしまう。
戦闘中の移動に割く分などにも分けると、今の50M前後が限界なのだ。

「にしても、ちょこまかと鬱陶しいものだねぇ!」

「ディフェンスには定評があるものでね!」

自分から攻撃を仕掛けようとしなければ、機体の性能の差で簡単に回避することは出来る。
もちろんよほどヘマをしない限り、攻撃が当たらない敵と
普通に避ける分には、回避が出来る自分とでは、長い時間で見ればあまりに不利だが。

そんな感じで戦闘が硬直し10分ほど続く間に、ヘルハウンズ隊の中から一人、二人と撤退するものが出てくる。
コレはひとえに『ハーベスター』の特殊兵装である『リペアウェーブ』によるナノマシン散布により、一度エンジェル隊とラクレットの機体ダメージが修理されているからだ。
手の空いたものが、他の者を手伝いつつ、着実に数を減らしている上に、敵もある程度の損害を受けると撤退している。
3機目が撤退し、そろそろ勝敗がつくであろうとレスターが確信した時、それは起こった。


「副指令!!前方10時の方向と1時の方向に敵艦を発見しました!!此方に高速で接近中です。距離は7000!」

「何!?なぜそこまで接近を許した!」


ブリッジに驚愕が走る、そのポイントはまさにレスターが先程警戒するように指示を出した所だったのだから。
クルーの視線をいっせいに集めるココは愕然とした表情でレーダーを見つめる。


「わかりません、レーダーの注意は万全でした……「副指令、通信が入っています」」

「クッ!繋いでくれ」


レスターはそれだけ言うと目の前のウィンドウを睨む。
そこに移っていたのは左の頬に傷のある麗人。エオニアの腹心中の腹心のシェリー・ブリストルだった。

「久しいわねエルシオール。どうかしら? ウチの科学者が作った、レーダージャミング装置は? 」

「……バカな、付近にそんな高度なジャミング装置を積んだ艦は……まさか!! 」

「察しが良いわね、超小型化に成功したのよ。コレの換装の為に、前回の戦闘で彼らは参加できなかったのだけれどね」


前回の黒き月による攻撃時、エンジェル隊の足止めとしては至高のカードを切ってこなかったことに対して、レスターとタクトは一度考えをめぐらせていたのだが
そのような事実があったのだと知ると、まさにあの戦闘を犠牲にしてもつける価値のあるものだったと感じていた。
現にエルシオールは多数の敵艦に接近を許している。
最初のミサイルによる撹乱も、恐らく格納庫あたりを狙ったものだろう、そして、此方が時間を稼ぐような状況に誘い込み、これ見よがしにヘルハウンズを先行させた。
何時ものことなので、特に疑問に思わなかったが全てが敵の接近するまでの時間稼ぎだったのだ。


「この宙域の宇宙嵐は……」

「それが、今回のジャミング装置よ。相手に宇宙嵐と誤認させる新しいタイプのね」

「……完全にしてやられた。これじゃあ、また士官学校からやり直しだな」

「あら? 首席の貴方が、経験も豊富で元首席の私に敗れるのはおかしくないわよ? 」


皮肉げに笑いつつそう答えるレスター。しかしそれは一種のポーズだった。
先程から背後から廊下を全速力で駆けてくる靴音が聞こえるのだ。
残念ながら自分は敵との知恵比べで敗れてしまったようだ。
だが、いやならば、親友に仇をとってもらえば良い。
親友が戦える環境をそろえることには失敗してしまったが、到着までの時間は何とか稼いだ。

「それじゃあ、オレよりも下の成績で卒業したやつに負けてくれないか?」

「ようレスター、苦戦してるみたいじゃないか?」

タクト・マイヤーズの到着である。











[19683] 第十八話 白き月へ 中篇
Name: HIGU◆36fc980e ID:fb84e1e6
Date: 2011/03/06 11:18


第十八話 白き月へ 中篇




(タクトさんは私じゃないとダメだって言ってくれた。)

ミルフィーは格納庫に向かって走っていた。
エルシオールの戦闘中のピリピリとした空気が、とても爽やかなものに感じる。体はとても軽く、陳腐だが何所までも走って行けそうな気がする。
そんな最高のメンタルで彼女は格納庫に続く扉をくぐる。

(タクトさんは私に傍にいて欲しいって言ってくれた。)

整備班のクルーが、やや驚いて出迎えるのを横目に『ラッキースター』に向かって突っ走る。
そのまま飛び乗り、発射シークエンスに入る。
その異常なまでのスピードに、整備班は困惑しつつも、それに答えるようにハッチを開放させた。

(タクトさんに早く会いたい!! 早くもう一回会って、答えを伝えたい!! )

アームから離され、『ラッキースター』が銀河の海に乗り出す。
背後に天文学的なエネルギーが集まり、圧倒的な初速で滑りだした。

(そのためにも、この戦いを終わらせるんだ!!)


「ハイパーーーーッ!!キャノン!!」

乗る前からテンションが最高だった彼女は、搭乗4秒後に特殊兵装『ハイパーキャノン』を発動させた。
『ラッキースター』の前面の砲門からありえないほどに太いビームが放射される。
その光は、敵が先行させていた、自爆特攻目的の爆薬搭載済み無人艦隊を包み込み 跡形も無く消し去った。




「こちらに接近していた無人艦隊の第一陣消滅しました」

「みんな、遅れてすまない。これからは俺の指示で動いてくれ」

ブリッジに現れたタクトは服が全体的に煤で汚れて黒ずんでおり、髪も何時もに比べてボサボサに成っていたが。
醸し出す雰囲気、気迫は何時も以上であった。

「……タクト・マイヤーズ、どうやら生きていたようね? 」

「ああ、おかげさまで絶好調さ、オレもミルフィーも」

先のミルフィーの一撃は、見事にシェリーが自爆目的で接近させていた艦を、全て沈めることに成功している。
彼女の仕掛けた策は最後の最後で阻まれてしまった。

「さて、最終通達だけど。オレたち急ぐから、大人しく引いてくれないかな? 」

「あら、せっかくこんなにたくさんでお出迎えしたのに、出会い頭でその言い草かしら? 」

「こっちにも事情があってね、戦闘なんてしている場合じゃないんだ」

「そう……それならば直の事、ここを通す訳に行かないわね。覚悟しなさいエルシオール!! 」


そういうとシェリーはつないでいた通信を切る。
無人戦艦の自爆によりエルシオールを沈めることには失敗したものの。いまだにそれなりの戦力を保持しているのだ
彼女が此処で易々引き下がる訳は無かろう。


「レスター、敵の構成は?」

「敵の旗艦と思われる高速戦艦が1隻に、高速突撃艦が8隻、ミサイル艦が4隻だ」

「うーん、それじゃあミルフィーがミサイル艦4機を沈める間に、ほかの皆で突撃艦の相手をしてくれ。ラクレットは余裕が有ったら旗艦まで近づいてみてくれ」

「……今さっき裏をかかれたばかりの俺が言うのもなんだが、そんなアバウトな作戦で良いのか? 」

タクトの作戦というよりは、方針と思われるそれに疑問を挟むレスター。
今までの戦闘も大体このような感じで何とか成ってきたが、相手があのシェリーでも良いのかということだ。
実際、前回のシェリーとの戦闘はかなり苦戦したものになった。

「まあ、見ててよ。今の『ラッキースター』の性能は凄い事になってると思うから」

「……わかった」


そしてレスターは目にすることになる。
銀河最強戦力と呼ばれることになる、『ラッキースター』の曲がるビームというものを。
すれ違いざまに一撃を落とし、そのまま反転しタクトの指示したタイミングで放たれた『ハイパーキャノン』は敵残存勢力の5割を削ったのだ。
あまりの壮絶な戦火に、タクトとミルフィーの二人を除くこの場に居る面々は空いた口がふさがなかった。



















「っく、あの紋章機の性能を見誤ったか……」

『ラッキースター』から放たれた2度の高出力長距離ビームにより、エオニアから預かった戦力の殆どが薙ぎ払われてしまったシェリーは、自責の念や怒りが混ざった複雑な表情で、モニターを見つめていた。
紋章機の性能を余裕を持って見ていたつもりが、殆ど何も出来ないうちに、こちらの戦力は頭数ですら劣る程度だ。

「せめてこの情報だけでも」

とシェリーは、戦闘データを付近の宙域の無人艦に送る。
現在、エオニア軍が持つ情報伝達手段は、無人艦を中継器代わりにすることで、安全かつ高速に情報を送ることが出来るのだ。
そして、数秒の後転送完了の文字が出る。

そのメッセージを消すと、自軍の残り戦力────といってもこの艦と高速突撃艦2隻だが────に指示を入力する。
損害部を切り離し、エルシオールへと突撃せよ。と


「エオニア様……貴方に御仕え出来て光栄でした。皇国を追放されたからの生活も悪くありませんでしたよ」


そういってシェリーは穏やかに微笑む。
エオニアと、自分を含めて両の指に満たない部下だけで皇国外をさ迷ったこと。
道中たびたびカマンベールが変な発明をして、騒動を起こしたこと。
そして黒き月を発見し、無人艦製造の為に資源惑星を探し回ったこと。
すべてが臥薪嘗胆の時期のはずが、充実はしていたこと。

そう、悪くなかったのだ。
ここでエルシオールを滅せれば、事実上黒き月に勝てる戦力など存在し得ない。
つまりはエオニアの完全勝利となる。


「ですから……最後にこの命と共にエルシオールを!!」


シェリーは2隻の高速突撃艦を上手く盾代わりにして、エルシオールに特攻を仕掛ける。
エンジェル隊の紋章機達は慌てて突撃艦を落とそうとするものの、『ラッキースター』はまだ遠くそれ以外の紋章機では破壊に時間がかかるようで、本命であるこの艦にさいている戦力はなかった。

エルシオールとの距離が1000ほどになったタイミングで、突撃艦は沈んでしまうが、この高速戦艦はまだ健在で、すでに幾許も無くエルシオールにぶつかる距離だ。
エルシオールも意図に気付いたのか、進路を急激に変更しようとしているが、既に遅い。
紋章機が攻撃を仕掛けているが、砲門の損耗や残弾度外視の全力火器で牽制しているからか、取り付けずにいる。
『ラッキースター』もさすがに3発目のビームは撃てないようで全力でこちらに向かっているが間に合う距離ではない。


シェリーは最後に、自爆シークエンスを発動させる為に、ウィンドウを操作する。
3つほどあった警告を無視し発動の許可を出す。
このコマンドにより、『クロノストリングエンジン』を開放し周囲を巻き込む爆発を起こそうとした。


しかし、ここで予想だにしない事態が発生した。
最後の『クロノストリングエンジン開放』を選択し許可を出したが、自爆シークエンスに移行しないのだ。


「何が起きている!! っく、時間はないのだぞ!! 」

彼女が狼狽していると、突然スクリーンの右下に突然ウィンドウが開き、何故かそこにカマンベールの顔が映った。

「コレを見ているっつーことは、お前自爆しようとしてるんだろ。全部自分の出来ることはやったのか? 死ぬことで楽になろうとしてねーか? 」

どうやら、強制的に再生される、自爆抑止装置のようだ。
余計なことを!! と思いつつ、ウィンドウを閉じようとするものの、操作を受け付けない。
おまけに『クロノストリングエンジン』への指示も阻害されている。

「余計な真似を!! 」

「まあ、待て。苛立ってるか、焦ってるかのどちらかだろうから言っておく、コレはカウントダウンというか、開放へのシークエンスに必要な時間を使っての再生だから気にするな。このメッセージが終わった後、開放って出たのを押せば即ドカン!!キャンセルを押せば一時的にエンジンを停止する」

こちらの思考を読んだ様な言い草に、一瞬驚きを覚えつつ、それならば良いがと思い直す。
カマンベールがその言葉を言い終わったと共に、右上に90secという表示が出て、そのままカウントダウンを始めた。
そのくらいの時間なら持ちこたえられるなと一瞬で被害状況を計算し画面に目を戻す。

「また、既に脱出している可能性も踏まえて、30秒以内に選択しない場合もドカンってなるからな」

それと同時に90secの下に30secという表示が出た。
脱出だけなら、ブリッジ床のハッチから、直接脱出艇に乗るだけで10秒とかからない、脱出艇の発進シークエンスも、自爆を起動させた時点で即終わるようになっているのだ。
そう考えるとずいぶん余裕のある時間だ。

シェリーは最後だし付き合ってやろうという気持ちで、画面を見つめる。

「さて、オレからいえることは、最後まであがいてこその軍人だぞー。ぐらいしかねーし。本題に入るぞ。実は前に、お前が簡単に自分を犠牲にしそうだって、報告したことがあってだな。その時に、死ぬ直前にしか流さないと言って、エオニア様にメッセージを残して貰ってるんだよ、お前宛に。つーわけで再生します。言っておくが俺は見てないからな。それじゃあ」

それだけ言うとカマンベールの姿は消え、別の映像に切り替わる。
そこにいたのは神妙な顔つきでこちらを見ていた彼女の主────エオニア・トランスバールだった。
まさかの事態に狼狽するシェリー。
しかし彼女を無視して画面の中のエオニアは彼女に話かける。

「……まずは言っておく、お前のことだから最善を尽くした上での選択であったのだろう。万感の思いを込めてこの言葉を送ろう、お前がいなければ、余は此処までこれたかも判らない。誠に大儀であった」

「身に余る言葉、ありがたき幸せ」


シェリーは画面に向かって頭をたれた。
最後に主君からの言葉を授かれるなんて、それが映像だとしても、自分は満たされていた。と改めて感じ入る。
そのまましばらく無言の時が続く、右上のカウントが45secになったあたりで再びエオニアが口を開いた。

「……此処から先は、お前の決意に水をさすかもしれないが、それでも余の本心だから言っておこう……シェリー、死ぬな。なんとしても生き延びて、余の元へ帰って来い」


突然の言葉に完全に思考が停止してしまう。
もちろんこの言葉がかかることは予想していた、それを振り切るつもりでいた。
だが、エオニアのあまりの真剣な眼差しで見つめられそのようなことを言われた彼女は、反射的に頭の中が真っ白になってしまった。


「お前には、まだまだやってもらわねばならない仕事が多々ある。戦後の管理など、全く役に立ちそうが無いカマンベールだけでは不可能だからな」

「で、ですが……私がここでエルシオールを撃つことで、エオニアさまの勝利は磐石のものになるのです」


咄嗟に言葉を返してしまうシェリー。
彼女の中では完全にリアルタイムでエオニアと会話していた。


「それに……余も結局は人間、寿命でいずれ死ぬ。……この正統な皇家の血筋を絶やすことも出来ないのだ。余の血を引く後継者は必要だ、父の様にならぬよう早急にな」

今度こそついにシェリーは完全に放心してしまう。
カウントは刻々と刻まれついに20secを切る。

「……それでは、そろそろ時間も無いようだ…………とにかく最善を尽くしてくれ、そして何れにしても余に顔を見せてくれ、それが数日後か、余の死後になろうともな」

映像はそこで終わりカウントが終了する。
同時に二つ目のカウントが始まり、画面中央に『開放』『キャンセル』の二つのウィンドウが現れ、選択を迫ってくる。
文字数のため当たり前なのだが、『キャンセル』のほうが大きく表示されているのが、ひどく彼女の目に映る。
手を伸ばすも、どうしてもウィンドウの手前で止まってしまう。先程までは、一切のずれが無かった自身の心の一貫性が、揺らいでいるのか動きを止めてしまったのだ。


彼女が躊躇してしまったその瞬間、艦に大きな振動が走る。
目を船外カメラを移しているスクリーンへと移すと、この艦を正面から黒い戦闘機が受け止めていた。
その背後には大きく力強く黒き翼が羽ばたいており、両の手が握っている巨大な剣を交差させこの艦の進攻を阻んでいる。

ONにしてある、広域通信チャンネルから  急いで止めをさしてください!! と叫ぶ少年の声が聞こえた。

「まったく……本当にヴァルターは私の邪魔をする……」

カウントは15secを切り、アラーム音がブリッジ大きく響き渡る。
緊急用の赤いライトが点滅しまさに非常事態だということが判るのだが、彼女は動けずにいた。
伸ばした右手は幾許か右に動かすことも、左に動かすことも出来ない。

「エオニアさま……私は……」

10,9,8……と着々とカウントされる中彼女は最後にそう残し















紋章機の集中攻撃によるダメージで艦と共に宇宙へと消えた。







































「タクトさん!!」

「ミルフィー!!」

戦闘終了後、格納庫ではちょっとしたラブロマンスが繰り広げられていた。
先の戦闘でフェザーを展開しつつ、エネルギー全開での駆動をしたラクレットは、どうにか疲れた体を引きずって格納庫の出口までたどり着いていたのだが、好奇心が先立ち手ごろな壁に寄りかかりそれを見物することにした。

「タクトさん……私、貴方に凄く伝えたいことがあるんです」

「なんだい、ミルフィー」

完全に二人の雰囲気を作り出している二人、そしてそれを眺める整備班のクルーたち。
彼らにも仕事はあるのだが、今は手を休めて野次馬の一員を構成している。

「さっき、二人で閉じ込められた時、タクトさんが言ってくれた言葉……凄く嬉しかったんです。タクトさんのおかげで、私頑張れました」

「うん、キミのおかげでこの艦は助かったんだ」

僕が受け止めて時間稼いでなかったら、ミルフィーも間に合わなかったんじゃないの?
と、微妙に穿った感想を持ってしまうラクレット、それでも気分は明るい。
妬ましいけれどやはり、微笑ましいのだ。

「私、お返事したくて、だから絶対この後タクトさんに会わなきゃって、そう思ったら凄く力がわいてきて」

「オレもだよ、ミルフィー」

「だから今お返事します……私────タクトさんが好きです。私も一緒にいると楽しかった、これからも一緒にいたいと思ったんです」

「ミルフィー!!」

ミルフィーは微笑みながらタクトにそう答えた。
タクトは彼女に近づき力強く抱きしめた。

ギャラリーから歓声が上がる。
同時にミント、フォルテ、ヴァニラから拍手の輪が広まり始め、徐々に広くなってゆく。
格納庫は瞬く間に拍手と歓声にあふれる空間となった。

それを一歩引いてみていたラクレットの横を、誰かが早足に通り過ぎた。振り向くと、俯き顔でランファが格納庫を後にする所だった。
彼女に続いてラクレットは力を振り絞り、早歩きを敢行して追いかける。

格納庫を出た時点で、ランファは10メートルほど前方を離れていた。
ラクレットは彼女に声をかけようとするが、



















何もできないで、そのまま立ち去られてしまうのであった。







[19683] IF ランファEND?
Name: HIGU◆36fc980e ID:fb84e1e6
Date: 2011/03/14 07:38



警告

この話は当SSの本筋には一切関係ありません
一部キャラの都合のいい改造を含んだりします。
エンジェル隊及びタクトへの愛が崩れるという方はどうぞ飛ばしてやってください。
もう一度言います。本筋とは一切関係ありません。


それでも良いという方はどうぞ






































































「……できちゃった」

頬を赤く染めて彼女はそう呟いた。
金色の髪は柔らかくゆれていて、彼女────蘭花・フランボワーズの魅力を良く引き出している。

「…………え?」


「3ヶ月だって…………『お父さん』」




ラクレットは目の前の光景が信じられなかった。
















IFEND1 あの時、引き止めるを選んでいたのなら。





























ラクレットの横を、誰かが早足に通り過ぎた。振り向くと、俯き顔でランファが格納庫を後にする所だった。
彼女に続いてラクレットは力を振り絞り、早歩きを敢行して追いかける。

格納庫を出た時点で、ランファは10メートルほど前方を離れていた。


ラクレットは



「ランファさん!! 」

彼女を呼び止めた。

「……なによ」



ラクレットの大きな叫び声にランファは足を止める。
しかしながら、そのままこちらに背を向けたままだ。(恐らく)涙をはらんだ表情を浮かべているであろう、彼女の表情を見ないですむので、ラクレットは少しばかり安堵した。
泣いている女の子なんぞ、対処に困るし。ましてや、その状況で上手く励ますなど、彼にとっては、地球外侵略者が蟻や蜘蛛を使って攻めてくる事態を、一人で解決する方が楽だと思ってしまうほどだ。

「その…………」

現に表情が見えない今ですら、言葉に詰まっている有様だ。
そのまま黙り込んでしまう彼に、追い討ちをかけるように事態は動く。

「あーもう!! なによ!! アンタ、急に黙ったりして。私をからかいに来たの!? 恋に破れた惨めな私を馬鹿にしに来たの!? 」

「そ!! そんなわけじゃないです!! 」

ランファが振り向いて、こちらに向かって叫んできたのだ。
話しかけたは良いものの、何もしないラクレットに業を煮やしたのだ。
その沈黙がまるで、哀れんでいるようにも取れたからでもある。

「じゃあ、なによ、励ましの言葉でもくれるの!? もっといい男が居るよとか!? 」

「え、いや、あの、その……」

「はっきりしなさい!! アンタ男でしょ!! 」

「はいっ!! 」

あっという間に場の雰囲気ふいんき(なぜか変換できる)が壊れる。
ラクレットのそれはもはや、天賦の才といえるであろう。
ある意味で彼の目的は達せられているのは、この際スルーしておこう。

「それじゃあ、私に話しかけた理由を完結に述べなさい」

「了解!! 自分はランファさんに、諦めたらそこで試合終了だ。と伝えたくてここに来ました」

「……続けなさい」

「はっ! 確かにミルフィーさんとタクトさんは今想いが通じ合いました。しかしそれだけで諦めるべきものなのでしょうか? 自分は疑問に思いました。皇国では特に貴族はよく複数の女性と結ばれたりもしています。タクトさんは伯爵の三男であり、なおかつ本人も懐の広い男性です。そして、ランファさん自身もミルフィーさんとの仲が良く、場合によっては大変羨ま……いえ、妬まし……失礼、三人仲良く結ばれるという、愛の結末もあるのではないかと愚考しました!! 」


もう、なんかいろいろとひどいことを口走っているラクレットなのだが、ランファは驚いていた。
その発想は無かったと。
幼少の頃は長女として弟妹たちの面倒を見てきて、本質的なところで 一歩引いてしまうという性質を持っている彼女には衝撃的な意見だった。


皇国において多夫多妻制は推奨こそされていないものの普通に認められている。
貴族などは世継ぎの問題もあるし。惑星によっては、男女の比率が偏っていたりするのだ。
ランファやミルフィーが通っていた士官学校でも母親が3人居ると教えてくれた友達もいた。
加えて言うと、その子の母親間の関係はきわめて良好だそうだ。

「つまり、まだチャンスはあるかもしれないということ? 」

「はっ!! そのためにはまずミルフィーさんの合意が必要と思われます!! こういう場合は女性の方から外堀を埋めていかれるのがセオリーですので」

「……ちなみに、アンタはそういうのどう思うのよ? 」

「個人的にハーレムは大嫌いです。だって、自分じゃ絶対実現できないから。ねーよっていう感情が先立つ。ハーレム作ってるやつは、よほど好感を持てるような存在じゃないと受け付けられない。流されてとか、個性薄いやつは絶対に無理。逆に言うなら、それだけの器や人間性があるなら行けるんだが……あ! でも誰かがセッティングしてくれるなら喜んで!! もちろん、修羅場もないようにして、ラブコメ時空的味付けも加えて、社会的に認められているようにしてくれよ!! つーか男って皆そういうものだと思うよ、そうだろみんな!! 」

「そう……まあ関係ないけどね、あんたの意見何て」

「その通りであります!! 」


グダグダになったが、ここでようやくラクレットは自分の目的が果たされていることに気付く。
よかった、一息つき安堵するものの、自分が物凄いことを口走っていたことに気付く。
ああ、またしばらく夜寝る前に悶える生活が続くんだなと煤けた表情で内心呟きつつ。


「そうと決まればすぐに行動ね……ありがと、アンタのおかげでやるべきことが見えたわ」

「……いえ、お力になれたのなら光栄です」

その間ぶつぶつと何かを呟いていたランファだったが、方針が決まったのかラクレットにそう告げると立ち去っていった。
部屋で計画でも練るのかな? と思いつつ先程から格納庫の出入り口からこちら覗いているミントに、どう言い訳するかを考え始めた。


「いえ、今のは一般論ですよ? 」























その後のことを記そう。
白き月に着いて、何やかんやでエオニアを倒しちゃったり黒き月を壊したよーな感じだ。
そして時間が出来た彼女は迅速な行動に移る。


まず、決戦前にミルフィーに話をつけておいた。
私もタクトが好きだと。

この時に『偶然』ミルフィーが、三角関係がこじれて親友同士で殺し合いをしてしまう恋愛小説を読んでいて、『偶然』物凄く深く感情移入してしまったのが原因か、同盟締結は速やかに行われた。

ミルフィーが軍をやめると言い出したときに、ランファも同時にやめ、タクトと3人で同居を始めた。



戦後のこの糞忙しい時にと、レスターがぼやいていたが、ミントの
「ラクレットさんがその分働けば良いのでは?」
という提案により何とか乗り切られた。


その半年後、烏丸ちとせがエンジェル隊に加わり、偶然デートに来ていた『タクト達』がエルシオールに合流。

なんだかんだで司令に復帰したりミルフィーの運が復活したり、ランファがちとせを警戒したりしたものの

『ヴァニラを絶対に加えないように阻止もする』という条件で同盟を結んだ『ヴァニラちゃん親衛隊』の協力もあって

急速に3人の中は接近した。

その片手間で、ネフュ……なんとかは倒されていた。


しかし、そんなある日ランファが気持ち悪いと訴え、嘔吐等の症状がみられケーラ先生の診断を受けた結果


見事!! ランファの懐妊が発覚したのだ。



来るヴァル・ファスク戦をどう乗り切る!!
ラクレットの明日はどっちか!!
そんな彼はいまだに彼女がいない!!










続くわけが無い。





















誰がラクレットのランファENDだと言った!!
タクトのハーレム ランファよりENDだよ!!


そしてIFEND1というからには……
この意味わかるな?





[19683] 第十八話 白き月 後編
Name: HIGU◆bf3e553d ID:fb84e1e6
Date: 2011/03/21 17:46




第十八話 白き月 後編


シェリーとの激戦から数日が経過する。
エルシオールは順調に白き月への帰路を辿っていた。
ここしばらく、ギクシャクしていたランファとタクトもどうにか普通に話せるようになり、エンジェル隊やその他のやきもきしていた人々は、胸をなでおろした。
その原因が本星に近づくにつれ、増えてゆく警戒網による連戦が齎したものなのは、手放しに喜びがたいが。


ラクレットのプレイしたゲームの中ではこの辺の敵は、戦闘データの更新というより、共有が出来てなかったので雑魚だったのだが。
どうやら、楽はさせてもらえないようで、きちんと情報を共有した艦との戦闘が続いていた。
もっとも、絶好調のミルフィーと、ラクレットのリミッター解除をうまく運用するタクトのおかげで無事に航行しているが。


今は最後のクロノドライブの真っ最中で、タクトはブリッジをレスターにまかせ、エンジェル隊の面々とティーラウンジでお茶を共にしていた。
今回は最近は頻度も高くなってきたが、やはりまだ場違い感が否めないラクレットも共に参加していた。


「いやー、みんなのおかげで無事白き月まで着きそうだ。そのお礼といっちゃ何だけど、ここはオレのおごりで良いよ」

「本当ですか!? じゃあ私はイチゴのショートケーキ追加で」

「私はこの新作のタルトに興味があるわね」

「あら、ランファさんもですの? 」

「いやー、懐が広いねタクト。私はエスプレッソをもらおうか」

「モンブランを一つお願いします」

ようやく、完全な安全圏に入ったので上機嫌なタクトは、エンジェル隊による怒涛の注文ラッシュにもにこやかに答えた。
ただ一瞬だけ自分の懐にはいっているであろうカードの方向を見ていたのを、ラクレットは見逃さなかった。
こういうところは鋭いやつである。


「ラクレットはどうするんだい? 」

「女性に奢るのは男の甲斐性ですが、僕はそうではないわけですし、僕に使うお金があったら、どうぞ自分のガールフレンドにでも使ってくださいよ」


一瞬だけタクトとランファの表情が固まるものの、すぐに元に戻り、今度はミルフィーが顔を赤くする。
ラクレットはタクトの懐を気にした上で、違和感ない言い方を考えたつもりなのだが、微妙に話題選択が怪しい。
もしかしたら彼の心では未だに燻っているのかもしれない、嫉妬の炎が。

「そんな……ガールフレンドだなんて」

「おや~、事実なんだから照れる事無いだろ? 」

「はい、事実です」

「ええ、事実ですわね」

「そうね」


フォルテたちはここ数日で、ランファの前では過度に気遣った態度を取るよりも、流れに任せた方が良いことを学んでいる。
そのおかげもあってか、今となってはランファもこの手の会話に絡んで来れる様に成ったくらいである。

照れるミルフィーを見て、ラクレットは何か思いつくことがあったのか唐突に口を開いた。


「自分で言っておいてあれですけど、タクトさん貴族ですよね? 」

「え、うんそうだけど? 」

「恋人とか自分で作っちゃって平気なんですか? ほら、貴族とか、お金持ちの一流階級の人達って、婚約者とか許婚とか、そういうのあるじゃないですか? 」

「……ああ、そういう質問かい? 」


ラクレットの質問の意図を理解したタクト。ようはミルフィーという恋人はマイヤーズ的にセーフなのかアウトなのかという質問だ。
タクトに全員の視線が集まる。心なしか不安げな顔でタクトを見ているミルフィー。
彼はすぐに微笑を浮かべて答えた。


「全然平気さ。オレがミルフィーを好きだといえば、それで解決。三男だしね、実家ではあんまり大事にされてないって言うのかな? 兄貴と姉貴たちが全部やってくれてる。」

ふぅ。と小さく息を吐く声が聞こえるが、だれもその方向を見なかった。
特定するまでもないからであろう。
一瞬だけ張り詰めた空気がすぐに元に戻り、また和やかな雰囲気が戻ってきた。

「それに、前例もあるからね」

「前例ですか? 」

補足するようにタクトはそういった。
ラクレットは微妙に気になったのかそう聞き返す。

「うん、あんまりオレも詳しくないんだけど、オレの叔母さんなんだが、一回駆け落ちしたらしいんだよね」

「……駆け落ちですか? 」

この時点で微妙にランファ、ミント、ミルフィーの3人が聞き耳を立てているのだが、二人は気付かない。
まあ、別に隠れて会話しているわけでもないので問題はないのだが。


「うん。一応相手は、それなりの生まれだったのだけれど、貴族ではなかったみたいなんだ。当時は結構反対されたりしたそうなんだけど。何とか認められたんだって」

「それは、なんともまあ」

「叔母さんには会ったことは無いけどね……まあだから、平民と言うと聞こえは悪いけど、誰と結婚しようと問題ないと思うよ」

「むしろ、そのような事があったら、余計反対されるという流れは? 」


ラクレットはそう繋げる。
せっかく、恋人同士になったのだから、そのまま結婚まで行って欲しい、なのでわかる限りの障害を取り除くつもりなのだ。

「いや、それはないよ。なんせ認められた理由が叔母さんの「マイヤーズ家は愛に生きる一族なんです!! 現に私にも4人血の繋がらない母が居るではないですか! 」だもん。それで一族全員納得しちゃってさ」

「そうなんですか」

それは、貴族としてどうなのだろうとも思ったが、とりあえず頷くことにした。

タクトの話を聞いてラクレットは何かを思い出したのか、ふと思い出したかのように口を開いた。

「そういえば、僕の母も駆け落ちのごとく父と結ばれたと言っていました。母はとある貴族の次女だったそうですが、父と恋におちて一騒動あった末に、何とか認められたといっていました」

「へえ、結構あるもんなんだな、駆け落ち」

「ですねー、昔、流行ってんですかね?」

「いえ、お二方、その解釈はどうかと……ラクレットさんのお母様の爵位は何だったのですか? 」

微妙にずれた受け答え、というか考えに思わず突っ込みを入れるミント。

「えーと、伯爵だった気がします。蝶よ花よと育てられて、昔は家事も出来なかったそうですが、父のために必死で覚えたそうです。今ではもはや趣味の一環になってますけどね」

「へー、オレの実家も伯爵だよ。家名とかはわかるかい? 」

もしかしたら、知ってる家かもしれない、とタクトは付け足す。
ラクレットは、必死に記憶を掘り返してみるが、母が旧姓を言ったことは無かった。
当然母方の祖父母にも会ったことは無い。

「いえ、そういった話はあまりしなかったので、ただ貴族としては珍しい、黒色の髪の毛に誇りを持ってるみたいですよ」

「伯爵家で黒い髪だって? 」

「はい、タクトさんと同じような……」

生まれる沈黙、ここに至ってまさかの可能性にたどり着いた。
今迄自分の目の前にあるお菓子と飲み物に舌鼓を打っていた、フォルテとヴァニラも二人を見ていた。

「オレの叔母さんの名前は……」

「もしかして……クチーナですか?」

「うん」

「「……」」


思わず沈黙する二人
それをエンジェル隊の4人は複雑そうな目で見つめていた。

「あの~、つまりどういう事ですか? 」

「タクトさんと、ラクレットさんが、どうやら従兄弟だったということですわ」

ただ一人ミルフィーは良くわかっていなかったみたいで、その沈黙を破るかのように右手を上げて質問した。
それに親切に答えるミント。彼女も微妙に顔が引きつっている。

「あ、そ~だったんですか!! そういえば、二人とも髪の色似てますよね~」

ミルフォーのその言葉にタクトは自分の前髪を右手でつまむ、ラクレットは一本髪の毛を引き抜き宙に透かした。
タクトのそれは灰色に近い黒で、ラクレットのそれは、光に透かすと蒼っぽく見えない事も無い黒だった。

「なんか、ふつうは、驚いたり喜んだりするべきとこだけど……」

「ええ、なんか、何も感じないというより、脱力してしまったというか……」

なぜか二人とも微妙に複雑な心境だった。

「帰ったら、兄さんに知ってるか確認しないと」


ラクレットはそう呟き、決意を新たにする。
まさか、タクトと従兄弟だったなんて、兄は知っていたのだろうか?
なんか、知ってそうだ、そしてあまり気にしそうにない。


「ねえ、ラクレット、きみのお兄さんてどんな人? 」


その呟きでタクトは思い出したことがあったのか、ラクレットに問いかける。
ラクレットはどう答えたらいいか悩んだものの、無難に答えることに決め口を開く。

「兄は普通の人に見える変な人です。実家の跡継ぎではあるのですが、色々自由に生きてますし」


ラクレットが教えたのはとりあえず長男エメンタールの話だ。
ずっと普通の人だと思っていたら転生者で、なんか遠くから搦め手で原作介入なんぞ始めてるっぽい人だ。
彼はつい最近知ったことだが、前世知識を使った商売で、巨万の富を1代で作り出している。


「それだけかい? 」

「はい」

「そうか」

なんとなく、タクトが何を聞きたいかラクレットは理解したが、わざわざ話すことでもないと感じた。
おそらくタクトは既に把握しているのだろう、自分の次兄は行方不明になっている事位。
ラクレットはいままで敵に自分の兄が居ることは伏せてきた。それで自分の立場が悪くなるのは嫌だったからだ。
勘の鋭い彼には、この前の通信でカミュがボソッとこぼしたことが、引っ掛かっているのであろう。
それでもいままで伏せていたなら、直のこと表にすることは出来ない。

エオニアを撃つというのは、次兄であるカマンベールを殺すというのことと同じなのだが、そのこと自体には不思議と忌避感は沸かなかった。
昔なら「オリ主補正だ」の一言で片付けていたのだが、今のラクレットはそうではない。
カマンベールと過ごした時間こそ少ないが、恩は大きい。
機体の調整やら、解析なども彼のおかげだ。
ならばなぜと考えてみるも理由はわからなかった。
自分は一般人が大量に死ぬと、気が狂ってしまうほど、惰弱な精神を持ってるのに、何故?

そう考えている間に、ブリッジから全艦に向けて、まもなく通常空間に出るとの旨が伝えられ、お茶会はお開きになった。
ラクレットの心に一つの波紋を残し。















ドライブアウトしたエルシオールを待ち受けていたのは傷一つ無く、無事に健在な白き月であった。
最悪破壊されていることも想定されていたのだが、それを見て一同は胸をなでおろした。

しかし、なぜというタクトの疑問には
シヴァ皇子の

「白き月は封印されている。それを解く方法は私のみが知っているのだ。それゆえに、エオニアは私に固執したのであろう」

との言葉で解決した。

さて、いよいよ白き月に赴くという場面で、誰が行くべきかという話が出たのである。
とりあえず、艦長のタクト、シヴァ皇子はいいとして、何時エオニア軍が向かってくるかわからない状況だ。
大まかな計算では、明日となっているが、「一度に戦闘要員の要のエンジェル隊を不在とするのはどうかと」とレスターが提案したのだ。

その結果、入港のシークエンスが行われている間

エンジェル隊の紋章機のことを聞くのだから、自分達が行くのが最善だという主張に対し、
通信でもよい、機密の保持上それが不可能ならば、タクトやシヴァ皇子が聞く方が良いだろうと反論する者。
シャトヤーン様は通信だと綺麗な人だったから、ぜひ会いたいという者。
その言葉に嫉妬し、発言が刺々しくなる者。
ナチュラルに最初から数に入っていないことを嘆く者と
大変混沌した具合になったのだが、入港が終了した時点で封印が再度張られ、議論はエンジェル隊とどうせだからラクレットもという結論に落ち着いた。

誰が誰だかはご想像にお任せしよう。







白き月のおおよそ中心にある聖母シャトヤーンとの謁見の間
事実上権力を持たない彼女であるが、白き月の管理者という立場からか、その部屋は比較的豪華なつくりになっていた。
しかし、その豪華さは調度品を始めとした絢爛なものでなく、柱などの空間のつくりが豪華というそれだったのだが。

初めて入る者はタクトだけだったので、感心の声が漏れるのも彼だけからであった。

一同が部屋に入りしばらくたつと奥の私室へと繋がる扉が開き、青緑色の髪をを腰まで伸ばし、白いドレスを身に纏った女性が現れた。
エンジェル隊一同は敬礼の姿勢をとり、タクトやラクレットもそれに習った。

「シャトヤーンさま!!」

「シヴァ皇子、良くご無事で」

シヴァはそう声をあげ、シャトヤーンに駆け寄る。
シャトヤーンは彼を慈しむように微笑みかけ無事を喜んだ。

まさに聖母に相応しきその様相にタクトは、この人が皇国の繁栄の象徴であるということを心で理解した。

「エンジェル隊の皆さん、本当によくここまで帰ってこられました」

それぞれ、思い思いの反応で答えるエンジェル隊。
やはり普段とは少し違い、やや控えめなリアクションであるが。

「マイヤーズ司令、きっとコレも貴方のおかげなのでしょうね」

「いえ、エンジェル隊や他のクルーのみんなの力のおかげです」

タクトはそう言って頭を下げた。
これは、彼の本心で本当にそう思っていることだ。

「シャトヤーン様、私たちは再会を喜ぶために、白き月に戻った訳ではありません」

次は僕かなと、少々ラクレットが期待している所に、フォルテの声が耳に入る。
実際時間は惜しいのだから手短に行くのは正しいし、やってきたことはエンジェル隊と同じだけど、エンジェル隊ではない自分にはあまり言うことが無いのかもしれない。
そう自分に言い聞かせ、ラクレットは話に耳を傾けた。もう慣れっこであまり気にならなくなってきたのだ。

「ええ、紋章機の隠された力、それとエルシオールの追加武装の事でしょう」

「……やはり、ご存知でしたか」

タクトは、シャトヤーンが自分達が戻ってきた理由を把握していたことにはあまり驚くことは無かった。
白き月の管理をしている人物だ。このくらい把握しているであろうということだ。



「ええ、白き月はあの黒き月と対を成す存在、この白き月は元は兵器プラントだったのです」

シャトヤーンは語り始めた 600年の歴史を



遥か昔、旧暦と呼ばれる時代のことです。人々は、高い技術力を持ち、幸せに暮らしていました。
しかしそこで、時空震クロノクェイクと今ではと呼ばれる。災害が起こってしまいます。
それにより、人々は惑星間の交流が不可能になり、文明が衰退していってしまいます。

そんな時です、いまのトランスバール本星近くに、白き月と呼ばれる人工の天体が現れたのです。
白き月には高度なテクノロジーがたくさん存在し、人々にそれを ギフトとして分け与えました。

そんな中、当時の研究者は厳重に封印された中心部の区画からある発見をします。
白き月の管理者と、広大な兵器製造工場です。
エルシオールや紋章機もここで見つかりました。
当時の研究者たちは、管理者を白き月の聖母として崇めるように扱いました。

エルシオールについていた、『クロノブレイクキャノン』は取り外され、紋章機の出力にはリミッターを掛けました。
兵器製造工場は閉鎖されました。
彼らは、コレを使うときが来ないよう 平和を思い封印したのです。









「それが白き月の真実。黒き月は白き月を求め今も彷徨っているのです」

「なぜ?そんなことが判るのですか?」

「それは、私が白き月の管理者であるからとしか言えません。私は黒き月が発している思念のようなものがわかるのです。狂おしいほどのなにかに、突き動かされている。と」

シャトヤーンは全てを語り終え、一同の顔を見渡す。
やはり、白き月が、黒き月と同じ兵器工場だということに、少なからず驚きを覚えているようだが、事実を受け入れているようだ。
シャトヤーンはタクトの方に向き直り、再び口を開いた。

「マイヤーズ司令、エルシオールと紋章機は、現在白き月の最深部に移動させ整備を受けるようにしました。紋章機の調整は私が、エルシオールに装備させる追加武装『クロノ・ブレイクキャノン』は整備班に任せましょう」

「……ありがとうございます」

「クルーの皆さんには、どうか貴方から説明してくださいませんか?エルシオールでここまで来てくださった方々には知る権利があります」

「はい、了解しました」

「それでは、皆さんもお疲れのようですので、ご自由に過ごしていただいて結構です。ただ、ラクレットさんには少々お話がありますので残っていただけませんか?」

ここに来て、白き月に入って初めて人に名前呼ばれたラクレットは、動揺した。
というか、いきなり自分に非が無いかということを考え始めた。
入室時の態度、 タクトやエンジェル隊よりも後に入った。
顔をあわせたときの態度、 きちんと敬礼した。
服装、 何時もどおり学生服に陣羽織だ。

などなど、色々考えてみるが問題が見つからない。
とりあえず、反応しないことは不敬に値するので「わかりました」とだけ告げるラクレット。















エンジェル隊の面々からは「くれぐれも粗相の無いように」と注意され
タクトからは「先に戻ってる」とだけ言われ
シヴァ皇子からは「明日の決戦時はよろしく頼む」と激励され
ラクレットは部屋にシャトヤーンと二人残された。


「すいません、久しぶりに人と話しましたので少々疲れてしまいました」


シャトヤーンはそう言って、部屋の中央にある椅子に腰掛ける。
その途端に椅子のまわりが、宗教画のような神々しさを放つのだから、聖母も大概である。


「いえ、お気になさらず……それで、自分に何か御用ですか?」

「ええ、少々お話したいことがあります。ですが……」

「……」

「まずは、お礼を言いましょう。この度の戦争で貴方は、本当に私の助けになってくださった。月の聖母として、一人のこの国に住むものとしてお礼を申し上げます」

「身に余る言葉を頂き恐縮です」


ラクレットは先程から、シャトヤーンの一挙一動にびくびくしていた。
前回会った時は若気の至りのようなもので、ものすごい、不敬なことを言ったような気がしないでもないのだ。
それになんか、この事態を予期していたようなことを言ったような気もする。


(びくびくじゃなくて、どきどきしたかったよ!!)


まだ何とか冗談を言える余裕があるようで、表情には出ていないのが幸いであろう。


「……さて、時間も無いので本題に入りますね、私の話は二つあります」

「はぁ……」

「一つは貴方の紋章機……いえ、戦闘機のこと。もう一つは貴方のお兄さんのことです」


心音が高鳴る、聞こえる音の半分ほどが、自分の心音であることにラクレットは気付いた。
渇く口を何とか開き言葉をつむぎだした。


「兄ですか……」

「ええ、カマンベール・ヴァルター、エオニアと共に皇国を出た彼の話です」

「……ご存知でしたか」

「はい、彼ほど優秀な研究者は、それこそ数百年に一人といないでしょう。惜しむべきは発想が軍事方面に偏っていたことですね」


穏やかなシャトヤーンの口調にとりあえず、糾弾ではないことを悟ったラクレットは何とか落ち着きを取り戻す。
一応誰かが、兄のことを知っている可能性も考慮はしてきた、彼の知っていたエルシオールの人員は実際の1割程度だったし、自分の知らない人員が兄ことを知っていてもおかしくは無かったくらいだ。
その時は仕方ないが、彼を撃つのが僕の使命だ。ヴァルターの三男としてのね。
という台詞を言おうと思っていたのだが、今となっては言う必要も無かったのですっかり忘れていた。
というか、ラクレットは既に、誰かに嘘をつきたくないのである。隠し事や一人で抱えるのはもう勘弁と言うべきか。

「彼には、首都の大学で勉学に励んでいる頃、私の元に『学生の中にロストテクノロジーの申し子がいる。』という噂が入ってきましてね。その時に知りました。それだけ優秀ならば、初の白き月の男性研究者という前例になれるかもしれない。とも思い彼を呼び寄せたのです」

どうやら、説明に入ったらしいのでラクレットはおとなしく耳を傾ける。


「ですが、彼にはテクノロジーの兵器運用に一切の抵抗がありませんでした。私は彼の危うさを感じ、白き月へと誘うことを思いとどめました。その結果、彼はエオニアと出会いこのような事態に発展してしまいました」

「……お言葉ですが、仮に兄がエオニアと共に行動しなくとも、エオニアが追放され、黒き月を手に入れたのなら、こういった戦争を起こしていたと思います」

「ええ、そうとも考えましたが……」


ラクレットは今まで、なぜこのような話をするのかが判らなかった。
兄がエオニア側についているので、疑われているか、攻めているのかもしれない。
と最初は思っていないのだが、それも違うようだった。
しかし、シャトヤーンが申し訳なさそうな顔と共に言葉を濁したのを見てなんとなく理解することが出来た。

彼女は、兄を止めなかったことに責任を感じているのだ。
自分にも、皇国の民にも。
ラクレットはそう感じた。


「兄はなるべくして、エオニアについていきました。それは変えられない過去であり。今は気にすることではありません。自分にとっては、稀に帰るってくる程度の認証だったのもあるのか、今兄と戦わなければならない事には、正直あまり抵抗はありません」

ラクレットは力強く宣言する。
この人は人の感情の機微に鋭い人で、さらに責任感も強い人だ。
自分の言葉で変えられるとは思っていないが、何かの足しにはして欲しいのだ。


「それに、逆に兄を白き月に入れていた場合、自分はシャトヤーン様に疑念の心を抱いてしまうかもしれません。平和を愛する白き月に、合理的な彼は会わなかったでしょうから。そう意味では感謝すらしています。彼のやりたいようにやらせてくれたことに。おそらく両親もそういうでしょう。不謹慎かもしれませんが」

「それは……」

「この話は、コレで結構です。時間が無いのでしょう、次の話をお願いします」


ラクレットは、不敬であることを自覚しつつ強い口調でシャトヤーンを促した。
何か不毛な気がしてきたのだ。エオニアを破ってから出ないと、彼女の心は変わらないと感じたのだ。


「わかりました……貴方の戦闘機の話でしたね」

「はい」


シャトヤーンも話を切り替える。
さっきとは打って変わって、今度は真面目な顔だ。


「貴方の戦闘機は紋章機とは別のシステムで動いている。それは、なんとなく理解はしていますね?」

「ええ、一応は」

「先程までエルシオールから送られてきた、戦闘データなどを見ていたのですが……あの黒い翼の力は恐らく十全には発揮されていません」

「……それは、本当のことですか? 自分ではリミッターもはずし、駆動部操作装置停止操作にしているあの状況が、『エタニティーソード』の全力かと思うのですが」


ラクレットの戦闘は
ファーゴ以前ではリミッターをかけた状況で戦闘し
ファーゴ以降は状況により解除し、同時に翼を出現させる『ECUDMD』状態にする。
というものだった。

「いえ、クレータもうすうす気付いているとは思いますが。貴方の機体のリミッターは、貴方が解除したタイミングでは、殆ど解除されていないのでしょう」


そういうと、シャトヤーンは目の前にスクリーンを出して、数字や数式の羅列されたものを表示した。
完全な門外漢であるラクレットはこういう専門的な数字を見せられても、いまいち理解することが出来ないのだが。


「まず……そうですね貴方の機体は『H.A.L.Oシステム』で『クロノストリングエンジン』のエネルギーを生み出しているのですが、その際何らかの方法で、それらを最適化させています。それによって多くのエネルギーを生み出しています」

「あの、良くわからないのですが」


なにやら、詳しく大変判りやすく説明しているみたいだが、やはりさっぱりわからない。
大学では文系で、今のハイスクールでもどちらかというとそっちよりの単位をとっているのだ。

「そうですね……まずリミッターをかけた時の出力が7とします。それに最適化されることで実質的に4のエネルギーを得ています……そうですね、整頓して整えることにより、効率化している見たいなイメージで結構です。これにより11程度のエネルギーを運用でき、エンジェル隊の紋章機と同等以上の力を得ています」

「はぁ……」

「加えて、あなたがリミッターを解除したと思っているそれは、恐らく『ECUDMD』に成りエネルギー出力が増えているだけです。これにより3ほど出力が追加されて14になるといった所でしょうか」

「リミッターが解除できていない?」

「ええ、貴方の機体のリミッターをかける時に『出力リミッター』と、『駆動部操作装置停止操作を封じるためのリミッター』────正しくはECU(Engine Control Unit)ですが、その二つをかけていたのでしょう。貴方が解除しているのはECUだけです。結果的に出力は増えているのですが」

「……そうだったんですか」

「おおよそですが、リミッターにより3ほど出力を抑えていますね」

そういえば、リミッターをはずす=翼が出るだったなと、いまさらになって思い出すラクレット。

大雑把にシャトヤーンの話を説明すると
まずエネルギーの基本値をレジャーシートとしよう。エネルギーは場所取りの面積だ。
ラクレットのレジャーシートは、少し折りたたまれていて(リミッターが掛けられて)いた  (これをラクレットは知らなかった)
そのため、紋章機と比べると小さかったが、迷惑にも他の人がきちんと整列して敷いている中で、一人傾けてしく(最適化する)ことにより、取れる面積を広くしていた。
しかし、紋章機のシートは後から来た人が別のシート(『A.R.C.H』によるエンジェルフェザー)を連結させより広いスペースを確保する
そのため、ラクレットはそれでは満足せずに、自分のレジャーシートが小さいと感じ、レジャーシートを激しく前後左右に動かし続ける(エンジンコントロールユニットを切る)ことで、より大きなスペースを確保していた。
そこにシャトヤーンが通りかかり、「そのシート、まだ完全に広げられていませんよ」と指摘したのだ。

ようはラクレットは迷惑な野郎……ということではなく、いままでリミッターと思っていたものはリミッターではなく、一時的ブーストだったのである。


「それで、本題なのですが、私ならそのリミッターを解除できるかもしれません。紋章機の翼開放と同時に行おうと思いますので、貴方の機体もこちらに預けていただけませんか?」

「あ、そういうことでしたら、むしろこちらから頼みたいぐらいなので、どうぞお願いします」


つまり、『エタニティーソード』はもう少し強くなるから、みせて?
といわれてるんだと、ラクレットは理解した。
しかし、先程の話を聞いていると疑問、というより気になる所が出てきた。


「あの、先程『エタニティーソード』の実質的な出力が11といっていましたが、その場合エンジェル隊の紋章機はどのくらいなんですか?」

「そうですね……貴方の出力は大変安定していて、誤差だとしか言えない程度しか上下しないので数字を言いやすかったのですが、彼女たちは上下に触れ幅がありますからそれほど正確な数字は出ません。それでもというなら、大体10を中心に行ったり来たりしている。といった所ですかね」

「なるほど、翼を出した場合は?」

「前例が1度しかないので断言できませんが、全員20くらいでしたね」


まあ、機体の大きさ違うし、しょうがないよね。と自分に言い聞かせるラクレット。
実際コレはあくまで瞬間的な出力エネルギーの話であって、燃費とかにはあまり関係ないし
さらに、『エタニティーソード』は剣にしかエネルギーを使わないのだからエネルギー=強さではない。



とりあえずラクレットは、明日の準備のためといって白き月を後にするのであった。












[19683] 第十九話 決戦────開戦まで
Name: HIGU◆36fc980e ID:bc041616
Date: 2011/03/27 06:30




十九話 決戦────開戦まで


白き月とエルシオールの超高性能レーダーなどの計器を組み合わせ、エオニア軍本隊の到着時刻がおおよそ明日正午ということがわかった。
決戦前夜、エルシオールクルーは思い思いの方法で過していたのであった。



ラクレットは日課のトレーニングをこなして、シャワーを浴びた後艦内を足の赴くままに散策していた。
シミュレーターで訓練してもよかったのだが、明日には自分の機体はさらに強化されて戻ってくる。
最後の調整をしても……といった感じだ。

普段ならティーラウンジにいるであろう面々も恐らくは自分の好きなことをしているのだろうと思い、当ても無く歩いている。
クロミエの所ではは先程顔を出してきたら、激励を受け早く休んだ方がいいといわれ追い出されてしまった。
その後食堂にも赴いたのだが、食堂のおばさんである梅さんは明日の祝勝会の準備で忙しそうにしており、飲料水だけ飲んですぐに後にした。

今にして自分がいかに偏った生活をしていたのを痛感する。
これ以外にはホールと格納庫くらいしか利用していた場所が無いのだ。
先程喉を潤したばかりの彼は、わざわざ自販機の立ち並ぶホールに行く必要も無い。
格納庫にいたっては、現在突貫作業中で、部外者立ち入り禁止だ。

そう考えつつもひたすら目的も無く歩いていたら、映画などでよく聞いていた、短く鋭い音が聞こえる。
懐かしいなと思い音の方へ歩を進める。
今迄来たことが無いものの、場所は予想できているので迷うことも無く、彼は射撃訓練場についた。

音の正体は火薬製の銃の発砲音だった。









「……そんな所で見ていないで、入ってきたらどうだい?」

「やっぱり、ばれてました?」

こちらを一切振り向かずに、弾を詰め替えつつフォルテはそう言い放った。
ラクレットも予想はしていたので、別に悪びれもせずそう答える。

「珍しいじゃないか、アンタがここに来るなんて」

「そうですね。今日になってようやく、艦内を散策なんて言うことが出来るようになりました」

「そりゃ、皮肉なもんだね、今までのほうが時間があったって言うの────にっ!!」

「…………すげー」

フォルテはすばやくリボルバー式の拳銃で、的の描かれた人型の標的を打ち抜いた。
全段撃ちつくす所までラクレットは眺めてみていようと思ったのだが、寸分違わず的のど真ん中に吸い込まれるよう着弾させていくフォルテの腕に思わず簡単の言葉が口から漏れた。

「まあ、年季が違うからね。私はこれが無きゃ今まで生きて来れなかった。だから人より優れている。自慢じゃないけどね」

「ええ、理屈では判るのですがどうにも。やはりこの目で見るのは違いますね」

「そうだろ? 実際にやってみるっていうのは、知識を聞きかじるのとは全然違う」

「ですね。まったくもってその通りです」


ラクレットはフォルテの言い分に同意する。
恐らく意図して言っているのだろうが、まるで自分自身のことを言われたようになり、心がざわつく。
そんな様子すらお見通しなのか、ここでようやくフォルテは振り向きラクレットと向き合う。
その表情は、エンジェル隊の隊長として隊員たちに向けるものと同じであった。

「それで、アンタはどうなんだい? 自分の足でこの艦を散策してみて」

「ようやく自分が戦っているんだという実感が出てきましたよ。ああ、明日が決戦なんだなって感じで」

「怖かったり、不安になったりはしてないみたいだね」

「ええ、自分でも本当なぜかわかりませんが、この事態をどこか客観的に見ている自分がいるみたいで、おかしな気分です」


最近のラクレットによくあることだった。
この前激情に任せてタクトを殴った時にすら、彼の中にどうして殴ったのかを本音と建前ですぐに理解できたのだ。
なんというか、自己分析が上手くなったというのだろうか?

それなのに、まだいくつも答えの出ない問題を抱えているのだが。


「高揚感ってやつとは違うみたいだね……まあ、その表情じゃあ問題はないと思うがね?」

「そうですか、フォルテさんのお墨付きがもらえれば安泰ですかね」

「そのぐらい、自分でけりつけられる様にならなきゃ一人前とは言えないけどね」


「厳しいですね、まだ14ですよ僕」

「ヴァニラはお前より幼いけど、あれで自分のことを把握してるよ。まだ時々危なっかしい所もあるけれど」


なんか、だんだん責められる様な感じになってきて、たじたじとするラクレット。
それをみて苦笑するフォルテ。


「なに、いずれできるようになるさ、それまでは誰かを頼っていい。それが仲間ってものだろう?」

「……ありがとうございます」

「それじゃあ、早く寝るんだね。明日が決戦なんだから」

「はい、それではおやすみなさい」

「ああ、おやすみ。ラクレット」


ラクレットは射撃訓練所を離れ、自室へと戻るのだった。












その頃、いまエルシオールで一番おアツイと評判の二人
タクトとミルフィーの二人は銀河展望公園に来ていた。
この場所は、二人がお互いを意識し始めるきっかけとなった、お花見パーティーの会場であり、
他にもピクニックなどのさまざまな思い出がある。
出会って一月ちょっとしかたってない二人だが、すでに心は通じ合っているのか、どちらから声をかけたわけでもなく気がついたら隣にいたのだ。

「タクトさん……」

「なんだい、ミルフィー?」

公園のベンチで寄り添って座る二人
お互いの表情見ないで、スクリーンに映された、トランスバール本星から見える星座を見上げづつの会話だったが、気まずさは一切無く、むしろ心地よい雰囲気が場に流れていた。


「私、最近わかったことがあるんです」

「教えてくれるかい? 」


明日が決戦だというのに、穏やかな時間の流れが感じられる。
二人の間はまさにそのような空気が流れていた。


「私、やっぱり自分のこと……自分の運が……嫌いです」

「そうか……」

「でも……」


自分の心を確認するかのようにぽつぽつと言葉をつむいで行く。
タクトは合図地を打ちながら耳を傾けていた。

「でも……タクトさんといられるなら、この運も悪くないんじゃないかって、思えるようになれたみたいです」

「ミルフィー……ありがとう」

「どうして、タクトさんがお礼を言うんですか? 」

「どうしてもさ」


タクトは星空を見上げ続ける。
ミルフィーの言葉につい、礼を言ってしまったがそれが脊髄反射的行動で、自分でも理由がわからなかったからだ。
もやもやしたけれど、決して不快ではないなにかがタクトの心を埋め尽くした。


「「…………」」


ミルフィーは夜空を見上げるのを止めていた。
顔を横に向けタクトの横顔を、その瞳にうつる星をみていた。
もう幾度と無く見た星空が、タクトの瞳にうつると、とても綺麗に思えたのだ。


「ミルフィー、君は……」

「……何ですか?」

「君はオレの幸運の女神なんだ。君がいてくれれば、オレは何だって出来る気がするんだ」


ミルフィーはいつの間にか、瞳にうつっているものが、星空から毎朝鏡で見るそれになっていることに気付く。
ならば、今自分の瞳にうつっているのは、きっと目の前の人の顔だ。
そう考えると心が温かいもので満たされるのだ。

「……明日絶対勝とう……そしたら二人だけでピクニックに行こう」

「……なら私……お弁当作りますね」

そのまま二人はどちらからでもなく、お互いの指を絡め合い
満面の笑顔を浮かべた。

お互いがお互いのことを必要としている
それを強く認識できたからである。

そのまま抱き合うでも、口付けを交わすわけでもなく
二人はずっと見つめ合っていた。























そして、日付は変わり、決戦になるであろう日
エルシオールには『クロノブレイクキャノン』が装備されていた。
紋章機の背中には白の翼が生えており、『エタニティーソード』の背中からも黒の翼が出ていた。
『エタニティーソード』の剣の長さは心なしか何時もより少々長い。
やはり、出力リミッターを解除したからであろうか?

シャトヤーン様に手を加えていただいたので、翼の展開時間が飛躍的伸び、性能も上がった。
そう報告してあるのだが、本当に飛躍的に上がるとは思わなかったラクレットであった。




「これが、『クロノブレイクキャノン』圧倒的な存在感だな」

「ああ、エルシオールの印象がずいぶん変わってしまう、これほどの大きさの砲台ならば、威力も……昔の研究者がはずしたのも頷ける」

ブリッジではタクトとレスターが現在のエルシオールについて、思う所を述べていた。
白き月から出港し、本星を守るように停止しているエルシオールの下部には、200mほどの長さを持つ、超巨大砲門が取り付けられていた。
エルシオールの全長が846.0mなのだから、その長さは窺えるであろう。


「整備班、『クロノブレイクキャノン』の調子はどうだ?」

「それが、少々手間取っていまして、上手く出力が上がりません」

「即急に対処してくれ、いざという時に撃てなければ、意味がないからな」

「了解です!! 」


レスターは、整備班との通信を終えて、タクトの方を見る。
口調こそ強いものだったが、焦りの色は少なく、人事を尽くしたので天命を待つだけだといった様子だ。
タクトもそれにならって、エルシオール全艦並びに白き月につなぐ。


「みんな、もうすぐエオニア軍の本隊がここに来る。残念ながら、ルフト准将たちの援軍はまだ間に合わないみたいだ。だけど、俺たちはやるしかない」

「「「「「「…………」」」」」」

「プレッシャーを与えるようで悪いが、オレたちが負けたら皇国の希望は失われてしまう。しかし、オレはこの事態の簡単な解決法を知っている」


そこまで言うと、タクトは不適に笑う。
将来、英雄タクト・マイヤーズと呼ばれる彼の片鱗がそこにあった。


「答えはシンプルだ、勝てばいい。君たちが自分達の力を最大限出せれば、後はオレが導いてみせる。簡単だろ? 」


エンジェル隊とラクレットは、自分の機体のスクリーンに映る、彼の自信に満ち溢れ、こちらに全幅の信頼を置いている視線を正面から受け止める。
するとどうだろう、今迄最高のテンションだと思っていた3秒前よりも、格段に士気が高まるのが自覚できる。


「しかしこの方法には一つ大きな問題がある」


そこでタクトは、もったいぶっていかにも困ったようなジェスチャーで肩をすくめる。


「このエルシオールでは、乗員500人全員で祝勝会を開くスペースがない……そこでシヴァ皇子! シャトヤーン様! 白き月の食堂スペースを貸切にしていただきたい!! コレはエルシオール艦長としての正式な通達です!! 」

「おい!! さすがにそれは不敬だろ!! 」


思わず突っこんでしまうレスターだが口元がにやけている。
ブリッジクルーも口元に手を当て、クスクスと二人の漫才を見て笑っている。


「いや、よかろう。私が全力を持ってそう取り計らおう、シャトヤーン様よろしいですか? 」

「ええ。それでは今から準備をしないといけませんね」


そこに白き月からの通信が入る。
どうやら、タクトのジョークは好意的に受け止められたようで、二人もにこやかにこちらを見ている。


「だそうだ。みんな、それじゃあ……総員戦闘準備!! 」

「「「「「「了解!! 」」」」」」


エンジェル隊とラクレットから、完全にタイミングの一致した通信による応答が入る。
同じく、各クルーもその場でタクトの声にあわせて応答していた。


「初めてだな、6人の了解が揃うのは」

そうレスターはこぼしたのであった。































「シェリー……」


エオニアの心は憤怒で染まっていた。
自分の腹心どころか、もはや半身といっても差し支えないほど近い存在を失くしたのだ。
その心境は言わずもがなであろう。


「お兄様? どうしたの? 」

「シェリーが死んでしまったのだ……エルシオールの手によってな」

「そう、それじゃあ私が変わりにシェリーを作ってあげましょうか? 姿かたちも、言動もそっくりの同じのが出来るわよ? 」

「それじゃあ、だめなんだよ! ノア!! 」

「そう? へんなの」

ノアの言いように一瞬激昂しかけるエオニアだが、なんとか理性を取り戻した。
もはや、自分にためらう理由などない。
シェリーを殺したエルシオールをこの手で……

「葬り去らねば……シェリー、それがお前への弔いになるであろう」





























「前方の空間にドライブアウトする艦を多数確認、エオニア軍です。黒き月も確認しました! 」

「来たか……エオニア!! 」


前方スクリーンに瞬時に拡大映像が表示される。
エオニアの乗る『旗艦ゼル』を囲むように高速ミサイル艦、戦闘母艦、高速突撃艦を中心に構成された前衛と思わしき軍団が映し出されていた。

タクトが無意識に右手を握り締めていると、一つの戦闘母艦から大型戦闘機が発進してきた。
今まで見たことが無い型だったので、新型かと推測したが、そのタイミングでエオニアから広域通信で呼びかけが行われた。


「白き月、並びにエルシオールに告ぐ。我が名は正統トランスバール皇国第14代皇王、エオニア・トランスバールだ」

「幾度にも渡るこちらの寛大な呼びかけに対し、断固拒否の姿勢を示し続ける貴様らは、すでに皇国の反逆者である」

「最終通達だ、白き月を余に────正統な皇国の王であるエオニア・トランスバールに明け渡せ」



その、一方的な通達はこの宙域に響き渡った。
タクトとレスターは顔を見合わせる。
レスターは、タクトのやることを悟ったようで、好きにしろと表情で伝えている。
つまりは、諦めと傍観がないまぜとなったそれなのだが。

タクトは通信をエオニアに繋ぎ、大きく息を吸い込むとエオニアに返答した。



「白き月は皇国のものだ、よって皇太子……いや廃太子である、貴方のものじゃない」

「……ほう、マイヤーズ、ずいぶんと面白いことを言うな」

「そうですか?オレはただの事実を述べただけなつもりなんですがね?」


高圧的な視線で、睨みつけるエオニアに大してタクトは何時もの飄々とした態度で切り替えしていた。
だが、エオオニアもタクトのその態度を見て逆に冷静さを取り戻したのか、一端目を閉じると、先程の激しく燃えるような激情を移す瞳は、静かに渦巻くそれとなり、何時もの表情に近いものとなった。


「マイヤーズよ、余はな、白き月のロストテクノロジーによる恩恵を使い、皇国を銀河全てを領土にもつ大国にすべきだと考えていた」

「はあ、それはご立派なことで」

「以前までの私ならば、当然のように白き月の恩恵を受けている今のお前たちが、さぞかし憎く見えたであろう…………だが、今はそうではない」


そこまで言うとエオニアは右手を垂直に伸ばしマントを翻した、その動きにあわせて彼の名が髪が風に乗りしなやかにゆれた。
一同の注目が彼の手の方向に集まる。その先にあったのは、黒き巨大な人工天体。


「黒き月……」

「そうだ、白き月など黒き月があれば、もはや不要。本質的に同じ兵器工場であるのならば、2つもいらぬのだ。以前までならば両方とも欲したであろうがな」

「それは、成長なされたのでは?二羽の兎を追うものは、一羽の兎すら手に入れることが出来ない。と言われているのですから」

「ふ、まあよい……さて、貴様の時間稼ぎにこれ以上付き合ってやる義理はないのでな、終わらせてもらう……『ヘルハウンズ隊』エンジェル隊の首を余の元に献上せよ」

「「「「「了解」」」」」


そうエオニアが指示した瞬間、5つのウィンドウが開く、ヘルハウンズ隊の面々だ。
通信が繋がっている下を見ると先程の大型戦闘機に搭乗しているようだ。


「やあ、ミルフィーどうだい、この機体は、ついに完成した僕達の紋章機『ダークエンジェル』だよ」

「今までは性能の差で苦戦を強いられていたが、それも今日まで。成り上がりのブラマンシュは、自分の無力さに打ちひしがれると良いさ」

「うぉぉ!! このオレの新たな力を貴様に見せ付けてやるぜぇ!! 」

「この剣で……貴様を撃つ」

「へっへー、オイラとこいつのデビュー戦だ。ヴァニラ・H、とっととやられちまいな」


『ダークエンジェル』
それは、白き月の生み出した紋章機を模して作られた黒き月の最高傑作。
ノアが自ら設計しつくされた、誰が搭乗しようと最高の性能を発揮することが出来る最高の兵器。

ヘルハウンズ隊の面々はそれに搭乗していたのである。
今迄エンジェル隊が彼らに優位を保ってこれた理由の一つに期待の性能差というものがある。
だが、それが極限まで小さくなってしまったのだ。

ヘルハウンズ隊は珍しく、その一言だけで通信を切り、こちらに向かって急速に距離を詰め始めた。
それに続くかのようにミサイル艦、高速突撃艦、戦闘母艦、旗艦ゼルと進軍してくる。

タクトはエンジェル隊並びにラクレットに向かって口を開く。


「さあ、みんな行くよ。これがオレ達の最後の戦いだ!!」

それに対して打てば響くような返事が返ってくる。


「はい!!皇国の平和のためにも、絶対に許して置けません」

「ついに最終決戦よ。叩きのめしてやるんだから!!」

「ええ、私も尽力させていただきますわ」

「ああタクト、派手に行こうじゃないか!!」

「傷は私が癒します」


5人が言い終わり、ラクレットに自然と視線が集まる。
彼は大きく息を吸って叫んだ、心の内を精一杯に────


「自分のエゴで人を殺すの何ざ、ゲームの中の悪役だけで十分なんだよ!!」










銀河最強の旗艦殺しフラグブレイカー の後の名言である






[19683] 第十九話 決戦────因縁の決着
Name: HIGU◆36fc980e ID:cb2b03dc
Date: 2011/04/02 20:26





第十九話 決戦────因縁の決着





「悪いけど、こちらも負けるわけには行かないんでね!!」

「クッ……集中狙いか……」


現在この宙域はまさに混戦と言うべき状況であった。
エンジェル隊はヘルハウンズ隊の駆る『ダークエンジェル』と入り乱れた戦いをしている。
エルシオールからは少々離れた距離であり、万一エルシオールに奇襲をかけようものなら、背後を見せた途端に沈められるであろう距離だ。
技量は高いものの個人プレイでの攻撃が主体であるヘルハウンズ隊は、今までの戦いで急速に成長しているエンジェル隊のチームプレイにより、やや押され気味であった。


エルシオールには足の速いミサイル艦、高速突撃艦が襲い掛かろうとしているものの、的確にこちらの武装が届く限界の距離を維持しつつ移動し続けているエルシオールにたいした打撃は与えられていない。
その理由の大きな所は、タクトのエルシオールの動きは全てレスターに委ねるという英断の結果だ。


戦闘前に自分はエンジェル隊の指揮に専念したいから、エルシオールの行動の全ては任せると言い出したのだ。
当然レスターは動揺したものの、タクトの真剣な表情に押されて、その役目を負うことにしたのである。



レスターは敵の今日までの戦闘時の動きから、敵AIが起こすであろう行動をある程度把握しつつあった。
そして、今までの戦闘において最もエルシオールの火器の管制に口を出していたのはレスターであり、『被害を最小限に抑えてほしい』というタクトのオーダーに答える最高の存在でもあった。


もちろん軍人であるレスターをもって『貧弱』と呼ばれるエルシオールの火器だけで、敵を倒せるわけではない。ミサイル艦一つ落とすのにすら、手間取るのだ。それを補っているのが


「敵機撃墜。レスターさん、次の標的は」

「高速突撃艦Cだ、ミサイル艦Fはこちらで対処する。40秒以内に頼む」

「了解しました!!」


エルシオール防衛の任についているラクレットだ。
今回のエオニアの旗艦や、戦闘母船という『エタニティーソード』に相性のいい敵と、敵紋章機『ダークエンジェル』のような極端に悪い敵が居るこの戦場において、最前線での切り込み隊長的命令が下るかと思ったのだが、その考えは裏切られ、エルシオール防衛に回された。
ついでに優先排除目標である、『ダークエンジェル』が片付くまでは、レスターに指揮権を任せているのだ。


リーチの短い『エタニティーソード』はスピードを活かして接近するのが常だが、相手が接近してくる上に、エルシオールよりも攻撃優先度が低く設定されているので、ターゲットにされにくく、見事に持ち味の高い攻撃力を活用していた。
開戦直後に数隻の艦を落としてからは、エオニアが指示したのか、そういうAIなのか、ある程度攻撃対象になっているようで、スコアは伸び悩んでいるものの、時間稼ぎつつ、エルシオールの被害は最小限にするという任務は見事達成されていた。

















「っく、なぜだ!! 同じ紋章機、性能に差は無いはず……それならば、技量に勝る僕が押されるはずが無い」

「慢心が過ぎましてよ。だいたい「技量で勝っている」という主張にしがみついているようですが、私たちに勝てたことが無いという事実が、それすら肯定されないと言うことに気付きませんこと? 」

リセルヴァは、目の敵にしているミントの機体からの攻撃を受け、右翼のスラスターが機能を停止したことに悪態をつく。
ミントは、それこそそよ風を受けたかのような、飄々とした冷ややかな表情で口撃し追い討ちをかけている。すると怒りで赤く染まっていた彼の顔はさらに恥辱が加わったのか、真っ赤と形容するしかない顔色になる。
(まるで、湯沸かし器のようですわね。)と結局の所、短気であるレセルヴァに対して心の中で呟き、ヴァニラのフォローに入る。
タクトから指示が来たのだ。


「ヴァニラ・Hのクセに生意気だぞー、ちくしょう!! 」

「うるさい」


凛としたその良く通る声にベルモットは一瞬ひるんでしまうものの、手の動きは止めず彼女の機体『ハーベスター』の隙を窺う。
毎回、彼は攻撃力の低いものの、味方を補修してしまうと言う厄介なそれを優先的に排除しようとするのだが、攻撃がメインではない彼女の機体は、回避に専念することが多く、なかなか削りきれずに手の余った別の紋章機に落とされると言うパターンで毎度沈んできた。

今回は『ダークエンジェル』という、強力な自機に搭乗しているため、果敢に攻めていたのだが、何時も以上に優れた回避能力と的確な誘導ミサイルによる中距離攻撃により、むしろこちらの損害が増してきているのだ。
彼は、そのまま『ハーべスター』の周囲を旋回しつつ散発的に攻撃を加えようと、ペダルを踏み込むのだが、警戒してなかった『トリックマスター』の『フライヤー』による攻撃でエンジン部分に攻撃を食らってしまい、機体出力を大幅に落としてしまうのだった。

ヴァニラは多少損耗していた『トリックマスター』の補修の為に機体をそちらに向ける、ランファとミルフィーの戦いを横目に見つつ。



「うぉぉぉ!! さすがはオレの好敵手ライバルいや、ライバルだな!! だが、オレもそう簡単にやられはせん!! 」

「煩いし、しつこいし、暑苦しいのよ!! 宇宙空間に出て頭冷やしてきなさい!! 」

「ミルフィー、君にはあんな男より僕のほうが相応しい、さあ僕のムネに飛び込んでおいで」

「遠慮します!! 私にはタクトさん以外にいないんだから! 」

こちらの4人はそれぞれ自分の機体の速度を活かした高速戦闘で鎬を削っていた。
他のヘルハウンズ隊とは違い、かなり拮抗した戦いである。
その理由のひとつに、初っ端にレッド・アイを落としたことにより、敵のマークがついていないフォルテの『ハッピートリガー』が介入しようにも、入り乱れすぎて誤射をしそうだという事がある。そのため、現在フォルテは近づきつつある戦闘母艦の牽制をタクトにまかされている。

「ミルフィー、上から!! バ~ンといくわよ! 」

「……うん! わかった!! 」

ランファは『カンフーファイター』の操縦桿を手前に思い切り倒し、機体を急上昇させる。それに右後方から『ラッキースター』が追従するのを横目で確認した後、左に旋回する。急な方向転換だが、ミルフィーは瞬時にランファの意図する所を理解したのか、真上への上昇をやや右にそらす。
ヘルハウンズの二人は自分のターゲットである機体を追う為、ランファの急上昇時点で追いかけ始めたいたのだが、先程まで、寄り添うように飛んでいた敵機が、二手に分かれたのことに一瞬のタイムラグが生まれてしまう。結局自分のターゲットをそれぞれ追いかけようと、二手に分かれようとした。
ギネスは急旋回したランファを追うために右に機体を向ける、その瞬間『カンフーファイター』の右翼部のエンジンの出力がまるで暴発でも起こしたかのように急上昇した。

「なんだとぉぉぉ!! 」

『カンフーファイター』はその勢いによって、滑るようにそのまま180度向きを変えた。そのタイミングで背後ののエンジンは限界まで絞られ、後ろ向きに進んでいる形になる。ギネスは、全ての砲門がこちらに向いている敵機に突っこむ形になったのだ。雨霰のようにミサイルと、粒子ビーム砲が降り注ぐ中、すぐさま直感で左下に避ける。
その判断は正しかったのか、一瞬のうちに弾幕からの脱出に成功するギネス、してやられた悔しさを感じるものの強敵の手強い行動により激しい興奮を覚えた。

「やるなぁぁ!! だが、オレを倒すには届かないぜぇぇ!! 」

「あら? 本当にそうかしら? 」

そう捲くし立てる彼に、ランファは余裕の笑みを浮かべて問いかけた。
一瞬何のことだ?と考えてしまうが、すぐさま、先程と同じ直感が働き機体を動かそうとする。
しかし、二度も幸運は続かなかったのか機体の前方に突如桃色の壁が現れた。

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 」

「やったよ!! ランファ!! 」

そのピンクの壁の正体は、『ラッキースター』の特殊兵装ハイパーキャノンだった。ギネスはそのまま砲撃に飲まれてしまい、機体を大きく損傷させてしまうのだった。
ランファは先程、ミルフィーに特殊兵装を使うように遠回しに指示したのだが、それが順調に事を運んだようで、見事にギネスを落とせた。

「それじゃあ、こっちも行くわよ!!アンカークロー!! 」

あとは、こちらの仕事だといわんばかりにランファはエンジンを再び動かし、瞬時にトップスピードにすると、電磁式ワイヤーアンカーを伸ばし、ミルフィーの後ろに張り付いて、今まさに攻撃を仕掛けようとしているカミュの機体を殴りつける。

「っく!! ミルフィー以外の人間にやられるとはね……」

「あんたらは、個人に固執しすぎなのよ!! ヘルハウンズじゃなくてヘルストーカーズの方があってたんじゃない? 」


カミュの機体も戦闘続行は難しい損害を受けたようで、宙域から離脱しようとしている。完全に芯を捕らえたつもりのランファだったが、敵もとっさに回避行動をとったのだろう。
しかし、これでどうにかヘルハウンズ隊の撃退に成功した。


「よし、みんなエルシオールはこれから、『旗艦ゼル』を最優先排除対象にする。レスターは引き続きエルシオールを頼む。ラクレットは早速で悪いけど、フォルテが牽制している敵に止めを。ヴァニラは距離をとりつつ、ラクレットのカバーを。他の皆はいったん補給に戻ってくれ、一気に決める」

「「「「「「了解!! 」」」」」」

6つの声による返事を聞きながら、タクトは補給の後にどうやって仕掛けるかの4つ目の策を考え始めている。
とりあえず、ラクレットが母艦を落とせるかにかかっているなと、結論をつけたタイミングでレスターから声がかかる。

「そういうつもりなら……操舵主!! 進路を2時方向に変更、足の遅い『ハッピートリガー』を迎えにいく……その方が都合が良いだろう? 」

「ああ、頼む」

「フッ、どうせ俺がこうすることを含めて考えてるんだろ? 」

「さぁ? どうだろうね? 」


戦闘は早くも佳境に入ろうとしていた。













「ヴァニラさん!! 右上から仕掛けますから誘導ミサイルをお願いします! 」

「わかりました、お気をつけて」


ラクレットは宣言と同時に機体を移動形態に変更し、黒翼を羽ばたかせる。ここには大気はないが、翼は『H.A.L.Oシステム』により、統制された『クロノストリングエンジン』からのエネルギーを糧にして驚異的な加速を得る。黒い羽を軌跡に残しつつ『エタニティーソード』は今までに無いほどの速度で敵の母艦に迫る。

敵の圧倒的な大きさに、目視では距離感がおかしくなってしまう……そう考えたラクレットは表示される彼我の距離を元に到着までに時間を算出する。しかし、一瞬思考を割いた事により、眼前に迫るレールガンによる迎撃を回避し遅れた。

「っぐ!!……シールド出力の低下だって? んなこと、判ってるっつーの!! 」

当たり所が悪かったのか、急激にシールドが減衰してしまう。しかし、彼が勢いをとめることは無かった。


「癒しの波動を……リペアウェーブ」

「ありがとうございっ!ます!! 」

『ハーベスター』の特殊兵装リペアウェーブだ。コレによって散布されたナノマシンでラクレットの機体は応急処置的な補修を受けたのだ。
しかし、ヴァニラの機体は少々特殊兵装を発動するためにテンションが足りなかったのか、エネルギーで代用したようで、一度補給に戻らざるを得なくなった。
ヴァニラに向いていた攻撃や、ミサイルの援護を迎撃するための攻撃分がすべてこちらに向く。いくら回避に優れる『エタニティーソード』でも戦闘母艦に単騎で突っこむのは大変困難であった。

だが、今のラクレットは違う、シャトヤーンの力により、機体の性能をより引き出すことに成功した彼は、機体を攻撃形態に変更しさらに距離を詰める。
ミサイルなら回避し、レーザーやビームならば剣で受け止め、レールガンなら斜線からそれる。そう言葉にすると単純だが、技量的には神がかりなその行為を、彼は額を汗でいっぱいにしつつこなす。コレが出来るのはリミッターが外されたことにより『H.A.L.Oシステム』の予知能力が、ラクレット自身の予知能力とシナジーを起こし一瞬の後の光景を脳に焼き付けているからだ。土壇場になって、このようなことができるようになるあたり、彼にも戦闘機乗りとしての才能はあったのであろう。

攻撃を紙一重で捌き続け、なんとか懐に入る。敵艦の表面ギリギリにへばりつき、剣を敵方向に向けて縦横無尽に飛び回る。片っ端から砲門を無効にしているのだが、この母艦には、フレンドリーファイアーや、誤射防止のためのシステムが入っていないのか、自らにも損害を与えるのにもかかわらず、兵器で『エタニティーソード』目掛けて攻撃をかまして来ているせいで、シールドが目減りしてゆく。
機体が傷つく中、彼はそれでも敵の表面で暴れまわる。手の甲や頬が焼けるように熱い、しかし今はそんなことなど、もはや構いもしなかった。

だが、それすらもラクレットにとっては都合のいいものだった。『攻撃を、受ける、躱す、与える』それらの行動によりパイロットというものは自分が戦闘していることを実感する。戦闘の渦中においてテンションが限界まで上がるのだ。


「『エタニティーソード』力を貸してくれ……僕は、希望をつなぐ力になるんだっ! うおおぉぉっっ! 」


彼は純真な天使でもなければ、伝説の勇者でもない。祈って奇跡が起こるわけでもないし、神から祝福された幸運も無い。だが、それでも────誰かの力に成りたいという願望だけは本物だ。
『H.A.L.Oシステム』はその願望によってより高い出力をくみ出すことすら可能なのだ。


「コネクティドゥ……ウィル!!」

両の手に持つ剣を一つにあわせ、一つの巨大な剣と成す。
右から左への一閃により母艦は一刀両断されるが、まだ彼の勢いは止まらない。そのまま自分が切り開いた母艦内部を突っ切り、その後ろに構えていたもう一つの母艦までもが彼の剣の間合いだった。


「消え去れぇぇっっ!!」


機体の左肩の後ろでためを作り、その勢いで2つ目の母艦を断つ。
それは彼の機体の成せる最高の攻撃であった。

後に残るのは、四散した敵母艦二つ分の残骸と呼ぶべきジャンクのみだった。






「……目標、沈黙……戦闘母艦はこれで全滅です……次の……指示を……」

「……いや、後は数隻の高速突撃艦と旗艦だけだ。エンジェル隊の調子は万全。一端補給に戻ってくれ」

「……了解……しました」


タクトはラクレットの予想以上の戦果に内心舌を巻いていた。損害を与えられれば良し。特殊兵装が決まれば、沈む寸前まで追い詰められるであろうと思っていたが。まさか沈める、しかも2隻いた両方をとは思わなかったのだ。だが。それによりもはやエオニアは、一時的に撤退をすべきであろう所まで戦力を失ってしまっている。

(逃がしはしない……) 
タクトは心の中でそう強く唱えた。



「お疲れ様です」

「露払いは十分。後はアタシたちにまかせなさい!! 」

「少々見直しましたわ」

「私たちを守ると豪語するだけのことはあるね」

「すごかったです!! 」

「……ありがとうございます。それでは後は頼みます」

エンジェル隊からも、今のラクレットを褒め称える言葉が絶えなかった。
ラクレットはそれらをかみ締めながら、『まだ始まったばかり』であるこの戦場の戦闘で、これだけの疲労感は正直まずいかもしれないと内心焦るのであった。











Q あれ、初登場より活躍してない?

A 今回は別に勝負を楽にしただけで、勝利を掴む決定打になったわけではない









作者です……ストックがもうないのに
来週から大学が始まります……
自分への入学祝で買ったXbox360のEDF3、AC4、fa
友達に勧められて買わされた、モンハンが時間を奪っていくから……

いや、まあちまちま書いていますけどね。
第1部は今日この後完結まで書き続けます、寝ないで





[19683] 第十九話 決戦────クロノブレイクキャノン
Name: HIGU◆36fc980e ID:cb2b03dc
Date: 2011/04/09 22:05






「くっ……予想以上に損耗が激しい、ここは一端前線を下げるぞ。各旗艦に通達せよ、可能な限り相手に損傷を与えつつポイントAWh14まで後退せよ」

────copy that.

台詞からは、劣勢であることが察せられるが、正統トランスバール皇国軍のトップ エオニア────彼の表情は涼しいとまでは行かないものの、まだ余裕はあった。
なにせ、自分は打つ出の小槌の如き『黒き月』を従える正統なる皇族なのだ。事実『黒き月』の中には無人攻撃衛星を筆頭に伏せられたカードもある。もっと単純に自分の後ろにはおよそ"2"方面軍分の艦隊が控えている。
彼は自分の肉声を認識する管制システムで全艦に指示を飛ばした。通信役のオペレーターもいるが、その人員は現在自分のダメージを計算している所だったのである。

「今はいきがっていると良い、エルシオールよ……所詮は1隻と6機、そちらに勝ち目など ッ!! 」

しかし、そのエオニアの余裕の宣言を妨害するかのごとく、アラーム音が鳴り響く。すぐさま手元のコンソールを操り原因を探る。するとそこには驚愕の事実が書かれていた。

「馬鹿な……! あの状況から……」






「援軍です! 当艦の11時方向、敵戦艦群の左側面に多数のドライブアウト反応を確認しました」

援軍の到着である
ドライブアウトと同時に行われた集中砲火はエオニア軍に甚大な被害をもたらした。










第十九話 決戦────クロノブレイクキャノン










「どうにか間に合ったようじゃの。タクト、シヴァ皇子は無事かの?」

「「ルフト准将! 」」


ドライブアウトし現れた戦艦を率いていたのはルフトだった。もう何度目か判らない彼の突然の出現に、タクトとレスターは驚く。
ルフトが率いてる艦隊は数にしておよそ180隻といった所か、そのいずれもが皇国の最新鋭ザーブ級戦艦とパーメル級巡洋艦であり、エオニアのおおよそ300隻の戦艦の背後からレーザーとミサイルの嵐を浴びせたのだった。
数の上ではまだこちらが不利だが、無人艦隊と侮る人員がいない今は、無人艦よりも確実に質で勝っているであろう。これでタクト達はエオニアの旗艦に集中することが出来る。


「エロスン大佐はいい仕事をした、これは戦後に褒章をやらんとな……ともかく、有象無象はわし等に任せておけ」

「はい!」

「了解です」

ルフト准将がここまでの戦力と共に来れたのは、エロスン大佐が必死で戦力の調整、人員の再配置等の諸々の雑事を、言葉どおりの不眠不休で身を粉にして処理してきたからである。そんな彼は

旗艦殺しフラグ・ブレイカーによろしくと伝えてください」

と言って倒れ、ファーゴに残留した、戦闘には支障あるが動く艦で寝込んでいる。


タクトは通信を切るとエオニアの旗艦を追いかけるエンジェル隊の動きに意識を裂くのであった。

























「くそっ! 黒き月!! 応答しろ! 」

「なぜだぁぁ!! なんで返事が無い! 」

「この僕が……こんな所で終わろうというのか! 」

「……剣は、折れた」

「ちくしょぉ! オイラ死にたくない!! 」

ヘルハウンズ隊はちょうど黒き月に向かっていた所で、ルフトの援軍と自分の艦隊の弾幕の中を航行している。ただでさえ損傷を受けているのにもかかわらず、このような環境では10分と持たずに宇宙の埃と成ってしまうであろう。『黒き月』はいくら呼びかけてもこちらの応答に答えようとはしない。
彼らの心の中は暗雲に満たされていた。


「黒き月!! 応答しろ! ノア! 」


もはや、死有るのみか。そのような言葉が頭の中で囁かれた時、急に彼らの通信スクリーンに、金髪の美少女が映し出される。それは、彼らも良く知る人物、ノアだった。彼らは彼女からこの機体を渡されたのだ。普段彼女は『黒き月』かエオニアの旗艦のどちらかにいるのだが、今日は戦闘をする為『黒き月』にいるようエオニアから言いつけられていた。つまりは『黒き月』からの通信である。


「力が欲しいの? 」


口をそろえてその言葉を肯定する。彼らは今を生き残るためならば、エオニアに謀反を起こしても良いとすら思っていた。もっとも彼らはそこまで忠誠心が高いわけではなく、エオニアからも忠臣との扱いは受けていなかったのだが。

彼女は彼らの返答が予期していたものと同じだったのか、薄く微笑みを浮かべる、まるで自分のお気に入りのおもちゃを自慢する、無垢なる少女の様な表情を浮かべ、口を開いた。


「どんなことをしても?」


────そうだ!だから早く助けてくれ!!


そう言って彼らは、悪魔の契約書にサインをした。
ノアの口元が吊り上がりそれは始まった。






『ダークエンジェル』のパイロット座席の後ろから数本の触手の様な管が伸びる。それの先端は針のように鋭くとがっており、大きく撓り彼らの首筋に狙いを定めた。
彼らが後ろを振り向こうとした時には全てが終わっていた。首筋にズブリと刺さった管は彼らをダークエンジェルと結合させる。彼らの神経という神経は『ダークエンジェル』と同化してしまったのだ。

変化は一瞬だった、彼らは自分が人間という種が手に出来るであろう、個としての力の領分を侵した。結果、圧倒的な全能感と共に彼らは自分というものを失ったのである。

ヘルハウンズ隊を取り込んだ『ダークエンジェル』は自身の形状を変化させる。人間であったから必要であったキャノピーは、分厚い金属の装甲に覆われ、Gに対するキャンセラー等も外され、エンジンの出力をダイレクトに外に伝える機構などにシステムが書き換えられた。完全に無人機としての仕様に切り替えられたのだ。
同時にパイロットであった彼ら、いや彼らの脳は戦闘機用のAIとして働くモノに成り下がった。彼らが培って来た技術は、単なる情報として置換され、記憶から記録に変換。つまりは生体コンピューターだ。

彼らは今ただ敵を倒すという目的でのみ戦闘を行う、殺戮マシーンとなった。そこに死への恐怖や生への執着は微塵もなく、あるのは命令を遂行するという命題のみだった。
























「ヘルハウンズ隊の、紋章機が反転してこちらに向かってきてます!! 速度は……先程よりも格段に速くなっています!! 」

「なんだとっ! 」


エルシオールはいち早く、彼らの接近を察知していた。何せエオニアとの進路に割り込むように接近する戦闘機が5機あったからだ。
すぐに正体を予想することが出来た。しかし、予想外の速度にタクトは解析を急がせた。


「司令! あの機体中に人間を乗せる機構が全てオミットされています。形状はほぼ同じようですが」

「そんな……生体反応は、確かにあるのに……」


ココとアルモはいきなりの事態に戸惑っているようで、表情は不安げだ。タクトは冷静に、すでに繋いであった整備班のクレータのウィンドウに顔を向けた。
彼女は苦虫を噛み潰したような顔をして、タクトに答えた。


「……おそらく、人間の体を取り込んで動いているのでしょう。人間ののはそれだけで優秀なコンピューターですから……おそらく、彼らはもう……」

「くそっ!エオニアめ……自分の部下すら駒のように使うというのか!」


タクトは医務室に待機しているケーラに繋ぐ、事態を軽く説明し彼はこう問うた。


「この状態の彼らを、元に戻すことは可能ですか?」

「正直難しい……いえ、不可能でしょうね……すでに機械と同化してしまっているもの……」


ケーラは、憂いを帯びた表情で、タクトに気まずそうに話した。自分の医療に携わるものとしての限界を見せられたような気がしたのだ。彼女に責任は塵芥一つほども無いのに、気に病んでしまっているのだ。


「そうですか……皆、あんな奴等でも顔見知りだ。楽にしてやるぞ」

タクトは、ケーラとの通信を終えると、前を向き強く宣言する。
自分達が、倒してやらなければ、彼らは救われないし、何よりこちらが危ないのだ。エンジェル隊の面々も理解しているのか、その言葉に強く頷く。


「エンジェル隊! 戦闘開始!! 」

「「「「「了解!」」」」」


10機の機体が宇宙で絡み合う、最後の戦闘が始まった。











































「『エタニティーソード』の収容を確認、右腕部の損傷の応急処置を急ぐわよ!! 」

「「「了解! 」」」

格納庫では整備のために戻った『エタニティーソード』を取り囲むように整備班の面々が作業を開始していた。彼の機体は腕の部分の劣化が激しいのだ、先程の特殊兵装の連続での使用がひびいてるのか、即急に処置が必要であった。


「ラクレット君、右腕を持ち上げるように操作をお願い」

「…………急いで、下さい」


クレータはラクレットに指示を出すものの、戻ってきたのは熱病に魘されたような上ずった声だった。しかも内容はこちらの言っていることを理解している様子ではない。ここに来てクレータはラクレットの様子がおかしいことに気付き、コックピットに駆け寄って強制的にハッチを開放する。


「……どうしました? 整備が終わり……ましたか?」


ラクレットはまさに疲労困憊という表現が似合いそうな様相だった。額は脂汗にまみれ、操縦桿を強く握り締めている腕は小刻みに震えている。クレータは一先ずラクレットを整備の邪魔だから、一端機体から降りてくれと強制的に『エタニティーソード』から出した。
ラクレットは両腕を整備しやすいように動かしてからすぐに降ろされた、加えて言うと、現在の状況がいまいちよくわかっていなかった。

そのまま近くの手すりに邪魔にならないように腰掛けて待っていると、クレータが近くまでやってきた。

少し休むことで思考に余裕が出来たラクレットは、今になってようやく自分の状況を理解した。先程までの自分は人の話を満足に聞くことすら、出来てなかった。かろうじて、タクトに『一端補給に戻れ』と言われたのを覚えててはいるが、あとは早く戦線に復帰しなければならないという使命感に突き動かされていた。


「(……戦闘中満足に自己管理も出来ないなんて、なんて不甲斐無い)あの……整備はどのくらいかかりますか?」

「すぐに出来るわ、でも貴方は平気なの?」


そのように、軽い事故嫌悪に苛まれている彼は、クレータの問に一瞬迷ってしまった。本音を言うともうしばらく体を動かしたくない、歩くの億劫なのだ。もちろんコックピットに座れば、精神的にある程度の無茶はできるようになるであろうが、それでもしばらくの休息は欲しかった。
だが、同時に彼の頭の中に、こんな所で自分だけ休んでいていいのか? という声が聞こえる。今は戦闘中なのだ、戦力の1割ほどの活躍はしていると自負しているラクレットが、戦線を抜けることなど、許されるのか? と責めて来るのだ。

その葛藤を全て見抜いたのか、クレータはブリッジに通信を繋ぐ。


「ブリッジ、こちら格納庫、クレータです」

「どうした? 」


通信ウィンドウが開き、レスターの姿が映る。
現在彼は、エルシオールの指揮権を得ているが、やっていることは『クロノブレイクキャノン』のチャージ完了まで敵を追尾するだけなのだ。


「『エタニティーソード』の処置はあと2分ほどで終了しますが、パイロットの疲労が激しく、戦闘続行は困難かと」


ラクレットは彼女の、有無を言わさぬ報告に顔を下に向ける。自分が情けないのだ。自分ひとりで戦闘続行可能だと宣言することも、少し休ませてくださいということも出来ないのだ。
その様子をクレータの肩越しに見たレスターは、すぐに状況を理解したようで、振り向いてタクトに話しかける。彼は指揮をしてても、こちらの話をする余裕を常に持っているのだ。


「タクト、ラクレットの疲労が激しい、ヘルハウンズ隊との戦闘中待機でいいか? 」

「ああ、いいよ」


あっさりそう答えるタクト。まあ、今の性能が上がった『ダークエンジェル』相手に『エタニティーソード』は囮や時間稼ぎ程度しか出来ないという事実もあるのだが。彼の反応は淡白だった。レスターはそれを予想していたのか、ラクレットのほうを見つめて口を開く。


「だそうだ、ラクレット、あんまり一人で何でもしようとするな、戦闘母艦を2つ沈めただけで、個人としては破格の戦果だ、気にすることは無い」

「……ですが」


ラクレットは悔しかったのだ、敵の母艦を落としてそこでガス欠になる自分が、その後素直に、少し休ませてくれとも言えない自分が。全部を自分一人で抱え込むことすら出来ないのだ。なにが、エンジェル隊を守るだ、自分が出来たのはせいぜい雑魚を減らす程度じゃないか。


「……エンジェル隊と、タクトが信じられないのか? 」

「そんなことはありません!! 」

「ならば大人しく、そこで待ってろ」


レスターはそれだけ言って通信を切った。ラクレットはとりあえず、言われたとおり休むことにする。色々思う所はあるものの、命令として言われると、少し気が楽になったのだ。事実、彼も『ダークエンジェル』なんぞと戦っても、まともに相手が出来ると思ってはいなかったからだ。


「少しはましになったようね」

「ええ……まあ」

「貴方は一人で戦っているわけじゃないんだから、すこしは他の人を頼ったら?それは別に悪いことじゃないのよ」


クレータはラクレットにそう微笑む、彼女は彼が今迄、時間に空きが出来ると自分の機体の調整や、シミュレーターによる訓練などに費やしてきたことを一番良く知っている。格納庫に一番長い時間居る彼女は、話こそしなかったものの、『エタニティーソード』に噛り付いているラクレットの姿は良くみていたのだ。


「そうですね……整備が終わったら言ってください、それまでここにいますから」

「わかったわ」



その後、整備が終わってから十数分ほど。ヘルハウンズ隊を倒したという報告があるまで、ラクレットは自分の体の休息に勤めるのであった。

































「なんだろう、勝ったのに全然嬉しくない」

「ああ、むしろ胸がムカムカして、どうにかなっちまいそうだ」

エンジェル隊がヘルハウンズ隊の面々を文字通り沈めた時、ブリッジでしかめっ面を浮かべながらそう交わしていた。敵の人の命をモノのように見る行為もそうだが、タクトの場合は、彼らに自分の指示で止めをさしてやれと命令したこともある。
別にタクトもレスターも争うことが好きだから軍に入ったわけではない。これは当たり前のことだが、むしろ争いなどなくなればいいと思っているのだ。ヘルハウンズ隊だって、傭兵部隊でエオニアに従っている奴等だったが、それでも自意識を消され、兵器のコンピュータ代わりになるような最期を迎えるべきやつらではない。


タクトはもう一度、前方スクリーンの中心に聳え立つエオニアの旗艦を睨みつける、情状酌量の余地などもはや無かった。



「『クロノブレイクキャノン』の充填率は? 」

「あと10秒ほどでチャージ完了です」

「……レスター……撃つぞ」

「ああ、やっちまえ……お前なら力に酔うなんてことは無いだろうからな」



『クロノブレイクキャノン』をシャトヤーンから授かった時、彼ら二人はこの強大な力に惑わされたのならば、エオニアと同じだということを強く認識していた。そのためここぞという時にしか使わないでおこうという方針で、今日の戦闘をこなしてきたのだ。事実、『クロノブレイクキャノン』の充填には多大な時間を費やすので、戦略的にもそう乱発することは出来なかった。


「チャージ完了しました、いつでも撃てます!! 」

「わかった……目標、エオニア旗艦、『クロノブレイクキャノン』撃てぇぇ!! 」


タクトのその言葉と同時に、エルシオール下部に設置された、巨大な砲台────『クロノブレイクキャノン』から天文学的量のエネルギーが一直線に飛び出した。エオニアの数百メートルを軽く越す全長を誇る旗艦すら、余裕で優雅するそのエネルギー砲は、『黒き月』がファーゴで放ったそれとなんら謙遜のない威力であった。

エオニアの旗艦は瞬く間に莫大な光量の輝きに包まれ────消滅した。



















「馬鹿な……ノア、私が……私こそが、真のロストテクノロジーの継承者だと言ったではないか、その私がなぜ……」

それが、トランスバール皇国史上、最も罪深き人間と後世で呼ばれる、エオニア・トランスバールの辞世の句であった。
















「敵旗艦、消滅を確認……司令!! 」

「ああ、やったんだ。オレ達の勝利だ」

「長かったな、今日まで……といってもエルシオールに来てまだ二月もたってないが」


ブリッジの人員は、喜びの勝利よりも、一仕事終えた達成感で、安堵に包まれているといった感じだ。しかし、そんな空気を壊すように、エンジェル隊から通信が入る。ようやく争いが終わったという開放感からか、彼女たちはいつにもまして元気にあふれていた。早速祝勝会はどうしようかとの会話をしているくらいだ。切り替えが大変早いことである。


「タクト、ようやく終わったね、お疲れさん」

「私たちの活躍、最後の最後で掠め取られた気分ですが、無事勝利できたので、良しとしましょうか」

「……私たちの勝利です」

「ええ! これで、ようやくお休みがもらえるわ!! 」

「やりましたよ!! タクトさん。これで戦いは終わったんですね? 」



途端ににぎやかになるブリッジ、いつもなら、微妙に顔をしかめるレスターだが、今ばかりは、仕方ないかといったかんじで、微妙に投げやりだ。だが、その口元はそこはかとなくにつりあがっており、珍しい彼の笑顔がそこにあった。アルモはその表情に見とれて、そのためか、ラクレットの『エタニティーソード』が出ていたことを報告し忘れていた。




「すいません、遅れました……」

「ああ、ラクレット、さっきはお手柄だったよ。あとは、残存戦力を叩くだけだから、あんまり気を張る必要は……」


タクトがそこまで言ったタイミングで、突如低い男性の声で広域通信が発せられた




────ククク、人間とは実に愚かだな、幼子の外見をするだけで簡単に騙される。

「誰だ!! 貴様は!! 」


突然の事態に一気に沸き立つ『エルシオール』
レスターは思わずその声に対して詰問するように叫んだ。






────我こそは、『黒き月』ノアという少女インターフェイスを借り、ここまで来たモノ。『白き月』よ我に答えよ。








その瞬間、黒き月は自身を分解するかのように広がり始めた。同時に戦闘宙域を漂っていた『白き月』は『黒き月』に引き寄せられるかの如く黒き月へと前進してゆく。











後にエオニアの乱と呼ばれる戦いの、正真正銘最後の戦いの火蓋が切っておろされた。







[19683] 第二十話 幸運の女神
Name: HIGU◆36fc980e ID:cb2b03dc
Date: 2011/05/01 20:53

第二十話 幸運の女神






「マイヤーズ、現在『白き月』は、あの『黒き月』に引き寄せられている……あのように人に害なすテクノロジーに『白き月』を渡すわけにはいかぬ。『黒き月』を撃て!! 」

『白き月』から、シヴァ皇子の通信が入る、現在『黒き月』は『白き月』と融合しようと自らを展開し、まるで包み込むかのように白き月を取り囲んでいるのだ。
シャトヤーン曰く

「『黒き月』が『白き月』を求めている」

とのことで、専門的な話はわからないタクトも、ともかく、シヴァ皇子の命令を遂行するのになんら不満など無い。
『白き月』をあんな、人間をパーツとしてしか見てないような、『黒き月』に渡してたまるものか。そういった使命感が胸の奥底から湧き上がってくるのだ。


「……みんな! 正真正銘これで最後の戦いになるだろう」

タクトは、今日何度目かわからない通信を飛ばす。先程敵の首領を倒したのに、実はそれが黒幕ではなかった。という事態の前にも、彼は冷静であった。むしろ、心は穏やかで、今日までのエルシオールの日々が脳裏をよぎる。

「思えば長かった。いきなりクリオム星系で君たちに出会って、そのままオレが司令に就任して、今日まで一緒に戦ってきた」

思い出すようにそうゆっくり紡ぐタクト。思えば二ヶ月前の自分は、まだクリオム星系でのんびりと昼寝をしつつ、駆逐艦の艦長なんぞをやっていたのだが、それがずいぶんと懐かしく感じる。本当に密度の濃い日々だった。

「そして、ついさっき、オレ達は絶望的な戦力差の中で、あのエオニアに勝利した。そんなオレ達が絶対に倒さなければならないモノ……それが、目の前にある『黒き月』だ」


「ミルフィー、ランファ、ミント、フォルテ、ヴァニラ、ラクレット……皆、行くよ」

「「「「「「了解!! 」」」」」」

「それじゃ、戦闘開始!! 作戦目標はエルシオールが『クロノブレイクキャノン』を撃つための時間稼ぎ、並びに、撃つポイントまで移動する間の護衛だ」

タクトのその言葉と共に、エルシオールは防衛衛星と最新型の高速突撃艦を放出し続ける『黒き月』に向かい前進を始めた。最後の戦いの火蓋が切っておろされたのだ。























「よし、ラクレット、ランファ二人とも頼むよ」

「わかったわ、遅れるんじゃないわよ!! ラクレット! 」

「了解です『エタニティーソード』移動形態に変更、全速前進!! 」

まずは何時もどおり、目の前の敵に、二機の陽動兼、近接攻撃を仕掛けるタクト。
もはやセオリーと化している、この戦術パターンだが、ランファの『カンフーファイター』一機でも、ラクレットの『エタニティーソード』だけでも成り立たない戦法だ。
『カンフーファイター』だけなら、装甲の薄いそれに攻撃が集中してしまい耐えられないし、『エタニティーソード』だと、リーチの短さから複数の目標に対応できない。
『エタニティーソード』の代わりに『ラッキースター』を用いようにも、カンフーファイターと、速度の差がありすぎるので、距離が開きすぎてしまい失敗するであろう。


機械ロボットのAIのヒステリーはみぐるしいものだな」

針に糸を通すような起動制御で、ラクレットは攻撃衛星に取り付く
こちらを研究しているのか、数百メートルサイズの巨大防衛衛星なのに、近接専用の機銃が搭載されているのだ。
しかし、『黒き月』が所持しているであろうデータは、あくまでリミッターがかかったものに過ぎない、今のラクレットは補足されることなく、左右の双剣を疾駆させ、鉛球の雨霰という、盛大な歓迎を右に左に掻い潜る。無論すれ違いざまに可能な限りの破壊を与えつつだ。







彼が零距離で回避行動を続けている間、ランファは敵の大型砲門や、遠距離用のそれを引き付ける。百メートルを優に超える大きさの、巨大な防衛衛星だ。砲門の数も馬鹿みたいな数字だ。そもそも移動を前提としている艦と、防衛のための星では、武装にさけるスペースに雲泥の差があるのだから。
しかし、それをものともしないで、果敢と攻撃をかいくぐり、粒子ビーム砲と、ミサイルを浴びせる。ラクレットの『エタニティーソード』が飛んでいるすぐそばにすら、性格に着弾させていくその腕には、もはや銀河中の誰もが文句を言うことが出来ないものだ。近接戦闘を至上とする彼女は、自分の機体制御と、一瞬での空間把握に円熟している、それこそ皇国でも五指に入るほどに。紋章機レベルの大型戦闘機に搭載されている照準システムならば、何所に打つかの判断さえ出来れば、性格に当たるのだ「。もちろん、それほど距離が離れていないことが前提だが。


「ようやく気持ちに整理がついた所なんだから!! こんな所で負けている暇なんてないのよ!! 」

彼女はしばしば、戦闘中に大声で叫ぶ。これは結局の所、自己暗示的な側面が強い。人間の心に100%の判断など出来ない。かならず選ばなかった方に、幾許かの心が惹かれているものだ。そういう意味で、人間の理性とは正反対な感情の問題……恋愛の問題など、このような非常時であろうと、短時間で吹っ切れるものではない。
しかし、しかしだ。ランファは、自分の心に良くなじむ答えを見出したつもりでいる。


「私はねぇ、皆が笑顔でいられるなら……あの娘が笑っているなら、きっと何時か私も幸せになれるって、信じているんだから!! 」



きっと彼女のことを知っている人ならば、彼女らしいと評し、話を聞いただけの他人ならば、結局負けてそれらしい理由をつけているだけ、まだ吹っ切れていないと見るであろう。そんな事を彼女は大声で叫ぶ。何よりも自分に言い聞かせるために。


「フォルテさん、今!! 」

「あいよ、了解!! 」


その言葉に答えるのが、フォルテだ。彼女は今迄、多くの場合で傍観者として、一歩引いた冷静な目線で『エルシオール』を見てきたと自負している。司令がくじけそうな時は、支えたし、仲間のメンタル面にも気を配ってきた。それを隊長の職務として、別に困難なことをやってのけたという自覚も無しにだ。
もちろん彼女自身も成長している。一応背中を預けられる上官も出来たことだし。世話の焼ける部下のフォローも上手くなった。ルフトが途中でいなくなったために、自分がエンジェル隊関係者で最年長だったからだ。
彼女の仕事は、仲間の信頼に答えることなのだ。

「ストライク バースト!!!」


だから今は、もっとも火力の高いという、攻撃の要である『ハッピートリガー』で防衛衛星を撃滅させる。
それが彼女の仕事だ。仲間も頼りにしている、その攻撃力は伊達じゃないのだから。









「敵防衛衛星、撃破!! まだたくさんあるが、道はできてきた、突っ込むぞ!! 」

「了解!!……司令!!敵の増援です!! 」


タクトがそう宣言するのと、ココが敵の増援が出現してきたのを報告するのは、ほぼ同時だった。
エルシオールは、先行させている紋章機との距離を詰めるべく、全速前進を開始したばかりで、急に方向を変えることはできない。
ちょうど3時の方向に現れた敵に側面を突かれる形となってしまったのだ。しかし、タクトは一切あわてたそぶりを見せずに、一言だけ指示を口にする

「ミント、よろしく」

「了解ですわ」


エルシオールの護衛用に待機させておいた、『トリックマスター』の背後に搭載された、フライヤーが待ってましたとばかりに、宙に出される。計21個のそれは彼女のテレパスによって完全に統制され、手足として敵を狙う。ラクレットの予知能力プレコグニッションと違い、『トリックマスター』は感知系のテレパスによりその性能を支えられているのだ。つまりは、ある意味で機体の性能を引き出すという点においては、彼女はエンジェル隊でも随一なのである。

「来て早々で申し訳ございませんが、ご退場くださいまし フライヤーダンス!! 」

彼女が歌うようにそう呟くと、すでにマルチロックを完了していたフライヤーから一斉に、レーザーが射出される。『エルシオール』からは水色の光の筋が幾重にも輝き、敵の群れを蹂躙しているように見えるであろう。それは幻想的で、優雅な光の舞を見ているようであった。



「すみませんタクトさん、一隻取りこぼしてしまいましたわ!! 」

だがさすがに数が多すぎたのか、すべてを破壊しつくすには至らなかったようだ。といっても5隻の突撃艦の内4隻を沈めたのだ時点で紋章機の恐ろしさと、彼女の能力がわかるであろう。

突撃艦は『損傷レベル的に特攻するほうが戦略的効果が得られる』という設定されたAIに基づき、全武装を稼働しエルシオールに狙いを定める。黒き月の最新テクノロジーによって作られたそれによる、砲火はそれなりのもので、『エルシオール』に爆音を伴う振動が襲う。

「っく! 損害報告!!」

「Bブロック外壁に損傷……人的被害はなし!! 」

しかし、別にミントの攻撃が封じられていたわけではない、すばやくいつもの3機で、突撃艦にとどめを刺す。ミントは『エルシオール』にダメージを与えてしまったことを一瞬悔やんだが、すぐに、ここで悔やむのが自身の仕事ではない、と思い直し、『エルシオール』を追いかけてくる敵戦艦への攻撃に移った。



彼女が、人的被害がないなら問題はないと分かったからでもある。


「修復します……ナノマシン散布」

ヴァニラの機体『ハーベスター』ナノマシンを散布してほかの機体を修復できるという、特殊な機体だといっても特殊じゃない紋章器は存在しないのだが。
それはともかく、いままで戦闘中は、内蔵されている高速修復可能なナノマシンを使用していたが、それは戦闘機修復用に調整のそれだったが、白き月において補給した結果、戦闘時においても、紋章機や戦闘機以外……といっても『エルシオール』だけだが、修復できるようになったのだ。

「ミントさん、損害は私が癒します。極力抑えてくれるのであれば、フォローは任せてください」

「……ありがとうございますわ」

しょうしょう申し訳なさそうに、ミントはそう答える。
妹分のようなヴァニラに自分の後始末をさせてしまったからだ。


「いえ、それが私の仕事ですから」

しかし、はにかみながらヴァニラはそう答えた。彼女は自分の気質的に敵を攻撃するよりも、味方を癒やす方が向いている事を解っているのだ。ゆえに自分のできることを重点的にするだけ、そういう考え方なのだ。
むしろヴァニラはラクレットを含む攻撃メインのほかのメンバーをそれぞれ尊敬している部分もあるくらいだ。

「皆さんが全力で戦えるように、サポートするのが、私と『ハーベスター』のできることです」


だから、彼女はみんなが敵を倒してくれると信じて、エルシオールの修復に全力を出すことができる。
皆もヴァニラがいるから、自分たちの仕事を遂行することに全力を出せるのだ。













「前方に敵防衛衛星が回り込んできています。数3!!」



エルシオールが、全身を続けていると、目標エリアの直前あたりに、防衛衛星が最終防衛ラインとでも言うがごとく、列を成して待ち構えていた。
どうやら、ある程度の移動はできるようで、こちらの進路を先読みして攻撃の準備をしているようだ。

ランファ、フォルテ、ラクレットはエルシオール4時方向の敵の足止めをしていて手を外せない、ミントは敵の増援を近隣に展開している味方艦隊と協力して落としている最中だし、ヴァニラはつい先ほど、補給のために格納庫に入ったばかりだ。

だが、タクトたちにはまだ、エンジェル隊の最高戦力が残っている。
彼女は先ほどからひたすら、エルシオール進路上の左側に展開している敵の周りを、適度に攻撃しながらひたすら飛行していた。本当にただそれだけをしていただけなのだが、敵からの彼女の戦略的な価値は非常に高いのか、かなり上位の優先排除目標になっているのだ。

つまるところ、彼女がこなしていたのは囮だった。ひたすら敵に一撃あてては距離を取りつつ別の敵に向かい、また一撃離脱。その繰り返しに結果、彼女がほぼ半数の敵を一人でひきつけていたのだ。特殊兵装を使用せず所持している武装を節約しつつだ。


つまり、彼女はやる気は上限を超えており、コンディションは最高で、テンションはMAXだ。

「ミルフィー、我慢してくれててありがとう。それじゃあ、頼むよ」

「はい!! バーンとやっちゃいますよ!! 」

その刹那、『ラッキースター』から壮絶な光量のエネルギーが放出される。天文学的な破壊力を持ったそれは、ある一定の太さまで広がると一直線に拡散せず対象へと侵略する。
宇宙空間のため音は聞こえないが、おそらく轟音を響かせるであろうそれは、一瞬にして、防衛衛星を塵と化した。


これでエルシオールの進行を遮るものはすべてなくなった。

そう、順調に黒き月攻略は進んでいたのだ。




「よし、ポイントに到達した、クロノブレイクキャノンの状態は? 」

「クロノブレイクキャノン、発射ポイントに到達!! 重点完了まで、あと40秒です」

「敵がこちらを攻撃可能な距離に入るまで、およそ65秒、行けます!! 」

「よし、エンジェル隊とラクレットはエルシオールの周りで待機しててくれ。」

「「「「「「了解!!」」」」」」



だが、さんざんイレギュラーが入ったこの世界においても
運命をつかさどるレベルの彼女は、数億、数兆分の一の確率を
残酷なまでに強い運によって、引き当ててしまった。





それは一瞬の出来事だった。
射程可能距離よりも離れたところで戦闘していた敵の戦艦の砲門がこちらに偶然向いていた。
それが発射されたとき、偶然対象に当たらず、そのまま宇宙空間に消えるはずだった。
しかしその先に偶然エルシオールがいた。射程可能な距離外で完全にノーマークだったエルシオールがだ。

その、何処へ飛んでいくかもわからない弾が、
偶然直進した先に偶然いたエルシオールの、
シールド出力の弱い『クロノブレイクキャノン』の砲身に偶然あたり
そのあたった場所が、偶然エネルギーの重点をしている場所であったのだ。



「!!エルシオールに被弾……『クロノブレイクキャノン』に直撃、エネルギー供給が停止しました。」

「馬鹿な!!どんな確率だそれは!! 」


そう、皇国の希望────エルシオールの切り札クロノブレイクキャノンは
あと数秒というところで、打つことができなくなってしまったのである。


「っく、格納庫!! 急いで修理と復旧を。エンジェル隊は敵の迎撃だ。」

「ですが、突然出力がなくなったので、こちらとしては全く原因に心当たりなど……」

「今更そんな情報が何になるっていうんだ!! 」



今まで順調だった分の反動か、一気に通信は不穏な雰囲気を醸し出し始める。
まるで、快晴だった空の西の彼方から分厚い雲が歩み寄ってくるような空気だ。

そんな中最も悲壮感を表して、通信を聞いているのは、ミルフィーだった
彼女の顔色は青を通り越して、色をなくし白くなっており、両腕は小刻みに震え、操縦桿を強く握りしめていた。

「……私のせいだ……だって、普通そんなこと起こらないですよね……」

「ミルフィー、それは違う!! 」

慌ててそれを否定するタクト。
彼女のテンションを元に戻すという仕事のことなど、頭の片隅にもなく、ただ単純に彼女がそのような状態に成っていることが、ただただ我慢ならなかったのだ。
しかし、ミルフィーは目に涙を浮かべ、てそのタクトの言葉を否定する。

「違わないじゃないですか!! 無視できるようなすっごく小さい確率を引き当てるなんて!! 私の運が!!」

「そうじゃない、そうじゃ無いんだよミルフィ……」

「こんなんじゃ私、タクトさんの幸運の女神なんて成れない……」

宥めるように言い聞かせるタクト、だが、ミルフィーは完全に自分の中で結論を出してしまっている。
悪いのは自分だ、私のせいで、こんなことになった。
どうにかそれをただそうとするのだが、事態はそれを許すほど甘いものではなかった。


「司令!! 周囲全方向を、敵艦に囲まれています! 指示を!! 」

「くそっ……エンジェル隊、散会して敵の注意を少しでも引き付けてくれ、1秒でもいいから時間を稼ぐんだ!! クレータ班長はとにかく、何とかしてください! 」

「わ……わかったわ」




そして、この戦いの中で最も厳しい時間が幕を開けた。


1隻の儀礼艦と6つの戦闘機に対するは、数百を超える敵の最精鋭艦隊の軍団だった。






ヴァニラとフォルテで一組、あとはそれぞれ一人で各々が、別の方向に散って行く。
誰一人として、表情に余裕などなく、歯を食いしばり、額に汗を作りながらの戦いだった。

先ほどまでと違い、それぞれが協力し合いこともほぼ不可能なこの状況。長所を最大限に生かすこともできず、事態は刻々と悪化していくばかりだ。何よりも問題なのは、エルシオールの防衛が最優先任務であり、あまり離れて行動することができないことと、すでに完全に敵に包囲されていることだ。
いくらタクトといえども、最初から詰みの状況な戦況をひっくり返るなど不可能だ。それこそ神がかりどころか神の力が必要なことだろう。

「っく、『カンフーファイター』防衛ラインを下げるから、もう少し引いてくれ。ミント! 無茶しすぎだ、下がるんだ!! 」

敵のエルシオールを中心に描く円は、次第にその直径を狭めていく。誰が悪いというわけでもなく、単純な数の暴力が理由だろう。
味方の増援は間に合わない。すでにこの包囲網を食い破り、エルシオールを救済すべく、1方向から味方の船団が切り崩し始めているが、敵は黒き月で作られたばかりの最新型だ。注意があまり向いていないとはいえ、そう簡単に倒せる相手でもないのだ。

「っきゃ!! ……エルシオール、被弾!! C,Fブロックにて火災発生!! 」

「人員を急がせろ、急いで消火させるんだ。同時に隔壁を閉鎖しろ!! 」


ついに、エンジェル隊たちの奮戦空しく、エルシオールを直接攻撃する艦が現れた。敵艦の攻撃力は相当なもので、浮沈艦エルシオールのシールドを容易く削ってくる。
エンジェル隊を呼ぼうにも、それぞれが、二桁近い数の敵艦をさばいてるのだ、そう簡単に回せるわけでもない。

「格納庫!! まだか!? 」

「もう少し時間をください!! 再充填可能にします!! 」


杯折る通信は絶望的、まだ心が折れている者はいないものの、船上では絶対に流れてほしくない空気がひしひしと感じられる。
そして、ついにぎりぎりで食い止められていた、バランスが、つり合っていた天秤が壊れた。


「きゃあぁぁぁ!!」

「ミント!! くっ!!」


敵艦は、現在最も敵の撃破効率の良い『トリックマスター』に狙いを定めたのか、集中的に砲火を浴びせていた。
ミント自身が一番よく知っていることだが、が図の暴力というのは、凄まじいもので、彼女も防御や回避に徹していたのだが、抗いきれず、ついにシールドを抜かれ、直撃をくらってしまった。
『トリックマスター』はそのまま機能を停止し、宇宙空間に浮かぶだけとだった。幸いだったのは、敵のAIの行動理念は戦闘不能にすることで、その状態の彼女の機体に攻撃が加えられなかったことであろう。


「そんな!! ミント、ミント!! 応答して!!」

「ミルフィー!! 今はそんなことしている暇じゃないでしょ!!」

「だって、ミントが!!」


完全にパニックになってしまった、ミルフィー。彼女の『ラッキースター』はエルシオールの上あたりで、停止して動くのをやめてしまう。それを叱責する蘭花だったが、彼女は呼びかけをやめない。

「……! 『ハーベスター』 損傷が許容値を超えそうです。」

「こっちも、まずい雰囲気だよ……タクト! どうする」

ヴァニラとフォルテも、そろそろ限界のようで、完全に防戦一方だ。
ランファやラクレットに比べて、彼女たちの機体は機動力に劣るからであろう。もともとこのような戦いには向いていないのだ。

「とにかく、耐えるしかないんだ……二人はそこを離脱して、さっきまでミントが居た場所あたりで、頼む」

「……了解」

「……了解しました」


タクトは、半分死ねというにも等しい命令を、部下に出すしかないという無力感に打ちひしがれていた。
だが、それによって思考を止めていいわけではないのだ。タクトはミルフィーに通信をつなぐ。

「ミルフィー、お願いだ! 力を貸してくれ!! 」

「嫌です!! ……だって」

そこで、ミルフィーは口を閉ざす。ややあって、せき止めていたものが溢れたかのように、涙とともに吐き出した。

「私が戦ったら、もっとひどいことが起きるかもしれないじゃないですか!!」

「そんな……」

彼女のその言葉はタクトにとって何よりも重いものだった。
『そんなこと絶対にないと。』言うのは、彼が言うと慰めにしかならないからだ。なぜなら彼は、彼女のその運を含めてミルフィーを愛しているのだから。
彼女の運を否定することは、昨晩の言葉が嘘になってしまう。彼女に対して嘘をつくことなど、タクトにはできるはずがないのだ。



だから、そんなタクトの心情を察したのか、突如通信ウィンドウが開き、フォルテとヴァニラの顔が映し出される。


「何を言ってるんだい!! そんなんだったら、私たちはとっくの昔にくたばってるだろ!!」

「そうです。ミルフィーさんがいたから、今の私たちがいるんです」


二人は、弾丸のスコールを浴びながら、そう叫んできた。通信ウィンドウに映し出される、二人の顔は、カメラを見ていないので目は合わなかったが、それでも強い感情が伝わってくる。通信する余裕なんてないだろうに、それでも二人は、皇国の未来と、親友を仲間を救うために繋いだのだ。
もう二機のシールド出力は、風前の灯だ。しかし彼女たちの心はまだ屈していなかった。


「だから、後は頼んだよ!!最後の花火だ!!『ストライクバースト!!』」

フォルテの『ハッピートリガー』から、今まで数多の敵を葬り宇宙の塵と沈めてきた、弾丸とミサイルの嵐が巻き起こる。それは彼女に止めを刺そうと接近してきた一隻の敵戦艦に命中し巨大な爆発を起こす。さらに後発のミサイル軍がその周りにいた敵にも降り注ぐ。敵艦の爆発から、連鎖的に付近の敵も爆発を起こし、さらにミサイルが襲いかかり圧倒的な規模の爆発が起こる。しかしその爆発の向こうから敵艦の放ったレールガンの砲火により『ハッピートリガー』は沈黙した。


「治療します、『リペアウェーブ』」

ヴァニラは、その攻撃が一瞬彼女へと向かなくなった瞬間に、治療用ナノマシンを拡散させる。ミサイルや回避行動にとっていたエネルギーをすべてそちらに回してだ。すでにシールドが落ちている2機には修復がいかなかったものの、『カンフーファイター』『ラッキースター』『エタニティーソード』『エルシオール』の損傷個所が急激に塞がってゆく。かなりの距離があったのか、完全とはいかないものの、それでも戦闘続行に支障を全くきたさないレベルまでの修復だ。『エルシオール』も外部損傷の7割以上が塞がった。だがやはり彼女の機体も、『ハッピートリガー』を沈めた敵艦によって砲撃され、沈黙してしまうのであった。


「フォルテさん、ヴァニラ!! 」

「だから、泣いてる暇なんてないってんでしょ!! 」


半狂乱になって叫ぶミルフィー、それを窘めながら、全力回避行動を続けるランファ。二人とも完全に普段の余裕などない。親友が、戦友が立て続けに3人も安否不明になってしまったのだ。まともでいられるわけないが。


タクトは、もはや最後の抵抗とばかりに、エルシオールを『黒き月』に向けさせつつ、ミルフィーに通信を繋いで、叫んだ。

「ミルフィー、お願いだ、力を貸してくれ!! オレは……オレたちは君のことを……」

「12時方向からの砲撃! 回避できません直撃します!!」

「総員衝撃に備えるんだ!! 」

しかし、その思いもむなしく、『黒き月』方面の艦隊からの攻撃が正面に命中してしまう。
天地を裂くような、激しい轟音の後、激しいノイズとともに『エルシオール』と紋章機達との通信は断絶してしまった。


「そんな、エルシオール、応答して!!」

「通信がつながらなくなっちゃった!! 」

今となっては二人とも、何をすれば解らないような状況になってしまったのだ。
タクトの指示を受けられず、ランファは敵戦艦に囲まれ、攻撃を受けてしまう。最悪なことに命中したのは、機体背部のスラスターで、急激に機体の出力が落ちてしまう。


「きゃああああ」

「ランファ!!」

強い衝撃と振動を受け、悲鳴を上げてしまうランファ。ぐるぐると錐揉み回転をしながら、不安定に『カンフーファイター』は飛び続けた。ミルフィーはその光景を見て思わず彼女の名を叫ぶものの、それが何になるというわけではなかった。

しかし、ランファは、Gキャンセラーがあっても押しつぶされそうなGの中で、ミルフィーに最後の通信を繋いだ。


「いい、ミルフィーあんたはねぇ、へんてこな女で、いっつも私から良い所ばっか掠めとってて、私ばっか割を食ってたのよ!!」

そこで、苦しいだろうに、彼女は笑顔を、心からの笑顔を作り、絶叫した。

「でもね、だからこそ、そんなへんてこなあんただからこそ、私はアンタと親友になれたのよ!!」


ミルフィーは、そんな彼女にかける言葉がなかった。この不甲斐ない自分が情けなかった。自己嫌悪と何かよくわからない、ぐちゃぐちゃな感情が混ざり合い、訳が分からなくなってしまった。

「だからね、絶対に自分を否定しちゃダメ、あんたなら、こんな状況でもどうにかできるって、そう思えるんだから、この宇宙一良い女の私がね!!」

「……ランファ」

そんな、いつも通り自信満々な笑顔でランファはミルフィーに伝えた。

「頼んだわよ……」

「うん」

その言葉を最後にランファの『カンフーファイター』のシールド残量は0となり、沈黙した。

ミルフィーは、操縦桿を強く握りしめて。決意を固めた。

「私は……」

しかし、今になってもまだ動き出さない彼女を、好機と感じたのか、敵艦の主砲から鋭くレーザーが照射された。
まだ、動き出す直前であった、彼女の『ラッキースター』へと一直線で迫りくる敵の攻撃。たとえシールドが万全に近かろうと、くらってしまえば、一撃のもとに機体が試算してしまうであろう。出力を一点に絞った、その破壊的威力を持った光線が向かってきたのだ。

当たる!! そう、ミルフィーが感じ取った刹那、そこに割り込む者がいた。


「間に合えぇぇ!! 」


疲労のため、今まで話すことすら最低限にしてきたラクレット。
その彼が今、両腕の双剣を交差させて、レーザーを受け止めていた。ギリギリとそんな音が聞こえてきそうな、つばぜり合いを繰り広げるラクレット。彼は腹の奥底から声を張り上げて叫んだ。

「ミルフイーさん!! 自分の成りたいものを、好きなものを、それをひたむきに目指すのは、恋する女の子の特権だって……ランファさんは言ってました! あなたは今何になりたいんだ!! 」

ラクレットが稼いだ時間、それによって彼女は、いや彼女と『ラッキースター』は動き出した。この瞬間に彼女はすべて悟った。
自分がどうしたらいいのか、何になりたいのか。『黒き月』へと一直線へ向かいつつ彼女も叫ぶ

「私は、今だけでいい、みんなを助ける力を、いまだけは私を幸運の女神にして!!」


恋人が言ってくれた、自分の理想を。
誰かを幸せにできる、そんな素敵な幸運な女神へと、彼女はこの瞬間成っていた。
神が下りてきたのではない、この時、彼女が神だったのだ。


その言葉と同時に、彼女の機体に生えていた天使の翼が、大きく開かれる。そのまま上方向に高く飛翔すると、付近の宙域に純白の、神々しく輝く羽が舞い降りた。

その刹那、エルシオールのシステムがすべて復旧した。
そう、まさに奇跡と思えるようなことが現実となったのだ。


「エルシオール、システムオールグリーン!! 『クロノブレイクキャノン』へと、ものすごい勢いでエネルギーが充填されてゆきます!!」

「8,7、6……2,1 チャージ完了『クロノブレイクキャノン』撃てます!!」

ブリッジから、そのような言葉と驚きの声が通信で聞こえてくる。
訳が分からんと、誰かが叫んだが、その直後に彼女は、大好きな声で叫ばれる言葉を耳で拾った。

「目標、黒き月 『クロノブレイクキャノン!!』撃てえぇぇぇぇぇぇ!!!!!! 」

そして、まばゆい光とともに、極大なエネルギーが放たれ、『黒き月』を貫き

爆散させた。










この瞬間、短いが、大きな被害を出した
エオニアの乱が終結したのであった。






[19683] 第一部エンディング 全部終わって
Name: HIGU◆bf3e553d ID:cb2b03dc
Date: 2011/04/24 15:49





第一部エンディング 全部終わって



クリオム星系 第11惑星

主な産業が農業である、のどかな風景に囲まれたこの星。そこにある、とある小さな駄菓子屋『駄菓子屋ダイゴ』に青年は足を向けていた。
その駄菓子屋は、彼が子供のころから、店主一人が店の奥に座り、すべてをこなしており、一切の変化をせず、まるで時を刻むということを忘れたような、そんな店だ。


「よぉ、ダイゴ爺さん、元気でやってっか?」

「おお、久しいのう」

青年は慣れた様子で、店の棚から麩菓子を右手でつかみ、店主の前に腰かけた。椅子が硬かったのか、何度か座り直し、そのあと右手の麩菓子を開封すると、大きく一口頬張った。黒砂糖の柔らかい甘みが彼の口の中で広がってゆく。彼が子供の頃よく通って食べたものと全く同じだ。

「そして、今日はどんな用でここに来た?」

「ああ、オレの弟が天使達と上手くやったらしくてな。大体2時間くらい前にな……本星の時間だと昼過ぎってとこか?」

窓から空を見上げつつ青年はつぶやく、一応その方向には本星がある。最も気が遠くなるほど離れているが。青年のその言葉を聞くと店主は、安堵と悲しみのようなものが混ざり合った微妙な表情をみせる。

「そうか……ついに動き出したのか……お前の言う未来が……」

「ああ、そういうことだ。クーデターが終わったのに始まったというのもあれだが、事実なんだからしょうがない」

「決着をつける……いや、新たな道を定める時が来た、お前の力、貸してくれるのだな」

「ああ、ご老体は大切にしないとな、それにこれは危険だが、最も安全な道でもあるし」


そこで言葉が途切れ、沈黙が店内を覆う。二人はそのままただ黙って、空を見上げるのであった。








「これより、叙勲の儀を執り行う。」

ルフト准将……いや、ルフト宰相の良く響き渡る声が、離宮の謁見部屋に木霊する。すべての出来事に決着がついたことからか、ここ最近の激務の割には覇気に富む声だ。先の戦乱の終結から1週間。戦後処理の真っ只中執り行われている、この式。皇国中に中継され、シヴァ皇子側の勝利であることのアピールも兼ねている。そんな式だ、やはり気合も入るのだろう。今日の為に、いままで優先的に皇国間のネットワークの再構築に力を入れてきたのだ。

「まずは、チョ・エロスン准将、前へ」

「はっ!! 」

この式に参加している人数はかなり少ないといえるだろう。叙勲を受ける側の人間が、10人しかいないのだから。これは、まだまだ戦後の大量の事後処理が残っているので、かなり簡略化されているからでもある。その分、この場にいる者はすべからく、多大な功績を遺した者たちであり、皇国の歴史に名を刻むような人物ばかりであった。
だが、レスター、タクトの二人は自分たちの右前方で、いつもの制服の上に陣羽織の格好で、ガチガチに固まっている少年を見ると、本当にこいつはそのような功績をあげたのかと、疑問に思えてくる。

「では、次 ラクレット・ヴァルター臨時少尉」

「っははい!! 」

上擦った声で、そうラクレットは返答した。まるでぜんまい仕掛けのおもちゃの人形のような動作で、そのまま前に出る彼は、いつもに増して頼りなかった。


「おいおい……」

「リラックスだよ。」

呆れるレスターに、苦笑して励ますタクト。そもそも、なぜラクレットが緊張しているのかという、根本的な疑問に対して、二人はあまり深く考えていなかった。
だが、実際考えてみてもほしい、いきなり戦闘に介入してきたり、広域に向かって通信で叫んだり、と派手なことは結構しているのだ。それが、確かに全皇国中継だが、彼がここまで緊張するものなのか?

まあ、その理由は単純明快で

「ヴァルター、お主は民間協力者でありながら、この非常時に皇国、並びに白き月の助力してくれた。その若さにしてエンジェル隊に勝るとも押さらぬ戦闘機の腕により、皇国は救われたといっても過言ではない。エルシオール所属の戦闘機部隊の代表であるお主に、皇国の長として、また個人として礼を述べよう、ありがとう、まことに大儀であった」


「み、身に余る言葉をいただき、恐縮です」


エンジェル隊の分も任されているからだ。エンジェル隊は、その特殊な存在からか、オフィシャルな場においては、なるべく顔出しは避けられているのだ。それどころか、プロフィールまでもが伏せられている。分かっているのは性別と人数程度だ。
故に今回の式典には参加できないのだ。そして、ちょうどいいところにいたラクレットが、民間協力者としてでるのに加えて、エンジェル隊の分も代表して出ることになったのだ。
その瞬間のラクレットの表情の変化は、それを目撃した蒼い髪の美少女曰く
「一瞬にして、顔が真っ白になりましたわ、ええ、私が羨ましいと思えるレベルの美白でした」
とのことだ。


ミルフィーが奇跡を起こすまで、盾となり時間を稼いだ彼は、エルシオールの中でも(つまり、彼の人物を知る者の中でも)命の恩人ないし、英雄扱いされている。戦闘の後に行われた祝勝会においても、結構もてはやされていた。もっとも本人は、少々人見知りの気があるので、若干引いていたのだが。


「なに、謙遜することはない。それだけのことをやったのだからな」

「いえ、自分にできることを、しただけです」

「そうか、将来皇国軍にはいるなら、私が口を利かせよう、そのくらい構わないであろう?ルフト」

「ええ、まああのレベルの戦闘機乗りでしたら、近衛であろうと、全く謙遜ない実力でしょうからな」

薄い笑みを浮かべて、隣に控えるルフトに話を振るシヴァ、それにこちらも微笑を浮かべつつ答えるルフト。これからの皇国の、中心的な存在になってゆくであろう二人が推してくれるのならば、多少の無理は通るであろう。


「だそうだ」

「ありがとうございます」

ラクレットは、そういってもう一度頭を深く下げ、先ほど自分のいた位置に戻って行った。ようやく重圧から解放された結果、表情は晴れやかだ。

そして、いよいよ本日最も注目を浴びている人物が呼ばれる。


「タクト・マイヤーズ准将、前へ」

「了解」

タクトだ。普通ならば、功績の大きい順番に呼ばれるであろうが、今回の式典では、最も盛り上がるであろう部分を最後にという、政治的なパフォーマンスの力が動いた結果最後になったのだ。


「にしてもタクトよ、本当にお主の心は変わらないのか? 」

「ええ、オレの隣に彼女がいなければ、オレはもうオレじゃないですから」


考え事をしていたら、いつの間にか話は先に進んでいた。ラクレットはそんなやりとりを眺めながら、ようやく終わったエオニアとの戦いに思いをはせつつ、これからの戦いについて、頭を悩ませるのだった。
何せまだ、始まったばかりなのだから。














────ゆらりゆらりと彼等は進む

────母なる宇宙を紅石に乗って

────漂う二人は 聖者と賢者

────箱舟に眠る彼女等はまだ目が覚めない

────三つの欠片の一つはまだ














叙勲の儀が終わり、数日たったころ、ようやくラクレットが帰る為の準備が整った。奇しくもその日はミルフィーが出立した次の日のことで、前日盛大にミルフィーを見送ったばかりのエンジェル隊の4人は、なんというか微妙な表情を浮かべている。
もちろん寂しさもあるだろうし、ラクレットが戦友であるのにも変わらないのだが、なんというか、全くベクトルは逆であるが、二日連続のサプライズパーティーでの驚きはどちらが大きいかといったところか。

「いまごろ、ミルフィーさんは、目的の空港についている頃ですね。」

「ええ、タクトさんが先回りしているのでしたっけ?」

「そーなのよ、全くこれからこっちがどれだけ苦労する代わってるのかしら、二人もやめちゃって」


それでもきちんと見送りに来てくれることに、ラクレットはほんの少しばかりの安堵と大きな喜びに満ち満ちていた。肩に背負った荷物はわずかな身の回り物だけだ。他の粗方の荷物は、箱詰めは終わらせているので、もうしばらくたって、民間の運送会社が本格的に営業を再開したら送ってもらう手はずになっているのだ。『求め』は腰に刺さっているが。

「すいませんね、僕も学校を卒業したら、白き月に就職するので、そしたらお手伝いできると思います」

「ああ……アンタ学生だったわね、しかも意外なことに飛び級してるっていう」

「ええ、まあ」

ラクレットは、シヴァ、ルフトの支援もあったので、シャトヤーンとの約束の通り、白き月の近衛に就職する予定だ。といってもやることは、エンジェル隊の補佐や、式典時の護衛などで、彼にとっては最も望むところな役職であるのだが。そのために、彼はこれからハイスクールをもう1年分スキップし、半年以内に卒業するつもりである。


「さて、それでは、そろそろ船の時間ですので……」

ラクレットがそういって切り上げようとした時、ちょうどラクレットの後方から一人の青年が歩み寄ってきた。体躯は180を超え、やや細身。しかし露出されている腕には引き締まった筋肉がついており、そこいらのもやしとは一味違うことを示しているようだ。

「よーラクレット、3か月ぶり」

「……兄さん?」

170あるラクレットの頭を右手でポンポンとしながら、彼────エメンタール・ヴァルターはまるで、三日ぶりに友達と会ったかのようなテンションで、そう告げた。
あいも変わらず、爽やかな笑顔を浮かべているイケメンに、ラクレットは微妙にいらっときながら、なぜ貴様がここに的なリアクションを取ろうと身構える。

「なz「いやー、君たちがエンジェル隊かー、弟がお世話になってるね。俺はエメンタール。こいつの兄さ」

しかし、いきなりぶった切られる、彼が転生者だとカミングアウトしてから、どうにも自分より上を取られ続けているような気がするラクレット。まあ、兄だし年上だし仕方ないのかもしれないが、それでも割り込まれてかなりいらっと来ていた。

「「「…………」」」

「あれ? なんで無言? あ、ヴァニラちゃん久しぶり」

「はい、お久しぶりです」

「ちょっと待てや、兄貴」

「え、本当に兄弟なの? 」

髪と目の色は、青と黒(茶) 体格は、細見と がっちり型 ルックスはお察しください
赤の他人ですといった方が信じられそうな、そんなレベルだ。ちなみにラクレットの評価では、エメンタールの外見は『少女漫画のヒーロー』でカマンベールは『エロゲの生徒会長(男)』である。自分? 『不良B』だそーで


もう、どこから突っ込めばいいかわからない、状況にラクレットは頭を抱える。エンジェル隊のフォローから、ヴァニラとの関係に、なぜここにいるのか等々。しかし、その間にも状況は進んでゆく。

「ラクレットさんのお兄様?」

「そう、よく似てないって言われるんだよね。俺は親父と瓜二つだし、それとブラマンシュの御嬢さんだね、父君とはいい商売をさせてもらってるよ」

「まあ、そうでしたの、父が申していた、「最近心の読めない食えない若者がいる」というのは、貴方でしたのですね。」

「いやー、そんな評価をいただいてたなんて、俺はただ古代語ですべてを思考しているんだよね、テレパシストの前では」

「あら、そういうことでしたの? 」



「ねえ、ヴァニラ、あんたどこで知り合ったんだい? 」

ミントと二人、微妙に込み入った話を始ている間、微妙に疑問に思っていたことを、フォルテは自分の右側に佇んでいるヴァニラに問いかける。するとヴァニラは首だけ左側に向けて、いつもよりやや饒舌に話し出した。


「孤児院の寄付に度々足を運んでいただきました、「自分の商会の慈善活動として来た」と仰っていましたが、とても良くしていただけました。『白き月』にナノマシン使いとして紹介していただいた方でもあります」

「……それ、恩人じゃない」

ランファはそう呟く、というか、乙女としてものすごく憧れるシチュエーションじゃない!! と心の中で絶叫していた。


「はい、今でもよく手紙でやり取りをさせていただいてました」

「ちょっと待って!! それなのにラクレットと兄弟ってこと知らなかったの!? 」

「はい、ずっとチーズのお兄さん と呼んでくれと仰って、名前はエメンタールとしか教えてくださいませんでしたので」



なにその、フラグ職人のやり口と、絶望するラクレット。自分にはそのような発想も行動力もなかったことが大変悔やまれた。
しかし、それで納得できないのが男心

「おい、兄貴ちょっと、あっちの荷物の影に行こうか? 」

「ほう、俺に勝てるとでも? だが、今はやめておこう、これでも半年後には一時の父親になるんでな」

「また、爆弾落とすなよ!! この爆弾魔!! 」

「いや、式はまだなんだ、席を入れただけだ。二人とも式はぜひ弟さんにも参加してほしいって言ってたしな」

「ちょっとまて!! お前、もう黙ってろ!! というかお前が爆発しろ!! 聞き逃せない言葉が今あったぞ!! 」


だんだんとカオスになっていくこの場が、何とか落ち着いたのは、10分後のことだった。



「で、なんで来たの? 」

「まあ、商会の艦でお前を迎えに来たわけさ。『エタニティーソード』持って帰れるだろ? 」

ラクレットから、彼の背負っていた荷物を受け取り、そう返すエメンタール。これで彼の荷物は腰の『求め』だけになった。

「まぁ……置いていくつもりだったけど、可能なら持っていきたいね」

「あとは、まあエンジェル隊を見たかったから」

「それが主な理由だろ」

呆れるラクレットに、苦笑するエメンタール。いつもよりも、大分口調が荒いラクレットにエンジェル隊は少しばかり驚きつつも、仲の良い兄弟だなという共通認識を持った。

「それじゃあ、そろそろ出発するぞ、父さんたちが心配してるんだ、早く帰らないと」

「あ、そうだね、やっぱり心配してくれてたんだ……悪いことしちゃったかな? 」

「いや、オレを。もうすぐ一児の父親なんだから、早く戻ってきなさいって」

「それ、どんな両親よ」

おもわずランファは、そう突っ込みを入れてしまった。まあ、一般的な常識から考えれば、ランファの反応の方が正しいのであろう。しかし、ミントはこの家の人間ならそれくらいおかしくても、不思議ではないの出ないかという、考えになっていた。


「それでは、皆さん、またいつか」

「元気でやりなさいよ」

「旅のご無事をお祈りしてますわ」

「まあ、あれだ、アンタのおかげで助かったんだ、ありがとよ」

「お二人とも、お元気で」

「はい!!」

エンジェル隊の言葉を背に、二人は搭乗口に消えていった。

後に銀河に名を轟かす エースパイロット
旗艦殺しのラクレット・ヴァルターの 最初の戦いはこうして幕を閉じたのであった。








「そうそう、ラクレット」

「何、兄さん、今僕は小さくなってゆく白き月を眺める作業で忙しいんだけど」

「カマンベールだが、生きてるからな」

「え?」








[19683] エメンタール・ヴァルター 影の支配者&今日のラクレット
Name: HIGU◆36fc980e ID:cb2b03dc
Date: 2011/07/27 17:52




エメンタール・ヴァルター 影の支配者



『エーくん、お客さん来てるよ~』

「ああ、今いく」

通信ウィンドウが突然開き、妻のシャルドネの顔が映る。俺はもうそれに慣れているので、特に驚かないが、突然ウィンドウが開くの慣れるまでは、結構驚いたものだ。それもまあ昔のことで、今はそんなことで驚いていたらお話にならない。

俺が今いる場所は、クリオム星系第11惑星の人工衛星だ。ここの名義は俺ので、ここは『チーズ商会』のためのオフィスでもある。通勤に要する時間は20分ほどのかなりいい条件である。というか、個人用シャトルでわざわざ大気圏外まで毎日来てるのは、今みたいに訪れてくる宇宙船がそのまま乗り入れられるようにするためだ。その方が早いし楽だ。

先ほどの通信は、俺のオフィスを訪ねて来た人物がいたということで、それを伝える旨がいったん地上の俺の家を経由して、ここに来たという訳だ。本来なら秘書であり、俺のもう一人の妻である、メルローが俺の隣の机で仕事をしているので、対応してくれるんだが、今は身重であるから、地上をいったん経由してという形にしている。そしてさらにちょうど休憩中だったかなにかで、席を外していて、シャルドネが応対したのだろう。

そんなことを考えながら、俺は自分の部屋を後にし、宇宙船の乗り入れ口に向かう、そこまで大きくないこの人工衛星内だ、数分で着く。今回訪ねてきたのはブラマンシュ商会のクリオム星系担当の使いだ。俺は来季から正式にチーズ商会の会長に就任するから、これまで以上にブラマンシュ紹介とは良い付き合いをしていくことになる。そのために今まで流していた商品に関して再確認をするとか、そんな感じだったと思う。まあすぐに合うから問題は無いだろう。


「ミスターヴァルター、ご無沙汰しております」

「こちらこそ、お久しぶりです、ブライトマン支部長」

俺の予想が外れたのか、宇宙船から降りてきたのは、クリオム星系担当のブライトマン支部長その人だった。てっきり代理人を立ててくると思ったのだが、用事でもあったのだろうか?とりあえず、応接間まで案内する。

今このオフィスで仕事をしているのは、俺を含めて数人、このくらい自分でやらないといけないのである。次期会長でもだ。


「にしても、まさか支部長自らここにいらっしゃるとは」

「いえ、ちょうど本部から呼び出せれていましてね、その帰りですよ」

そんな感じで、軽く会話を混ぜ合わせつつ、応接間で腰を下ろした。さすがにお茶まで自分でやるわけにはいかないので、接客用のロボットに指示を飛ばして、お茶を用意させている。そんな中俺は目の前に座る、ブライトマン支部長のことを改めて見つめなおした。

ハンク・ブライトマン 42歳。辺境と言われているクリオム星系の支部長である。ブラマンシュ商会において支部長は中々の立ち位置であるが、クリオム星系という、自治文化は進んでいるものの、位置的には本星から遠い上に、重要な資源の産出も、特殊な名産品も、観光の名所もない。支部長には成ったが、そこ止まりの男と対外的に言われている。
しかし、その実はブラマンシュ商会会長の、直々の推薦で支部長になった男だ。クリオム星系は、全くと言っていいほど注目されていない土地(フラグブレイカーの出生地であるくらいだ)であるが、エメンタールのこれからの計画において、かなり重要な土地である上に、そもそもこの土地には特殊すぎる由来がある。それを踏まえると、この星系は銀河内でも無視できないレベルで重要な土地であり、それを知っている、ダルノー・ブラマンシュが任せる男である。

「いやー、にしてもチーズ商会の考える新商品や関連商品の展開は見事の一言に尽きますな。まさかお守りまで商品にするとは……」

「信心深い人からすれば、冒涜でしょうがね」

「いえいえ、商売人は、自分の魂以外なら何でも売るのが仕事ですから、それでこちらも大変儲けさせていただいていますから、文句などありませんよ」

「それは結構、こちらとしてもそちらに紹介していただいた、人形製造メーカーは、とてもいいものを作っていただいていますからね。」

「おお、そうでしたか……いや、あそことは長い付き合いでしてね、そちらの要望にお応えできたのなら幸いですよ」

まあ、この人とも数年の付き合いになるが、お互いに利害が一致してなおかつ動きにくいものであるから、いいビジネス上の関係を築いているといえると思う。ブラマンシュ商会と言ったら、俺からすればこの人とダルーノ会長だからな。とりあえず、そのまま2,3適当な会話……といっても、一応本題とされていた、流通している商品の確認だったが、それも終わり、一瞬の沈黙が部屋を覆った。

ブライトマン支部長は、ゆっくりティーカップを口に運び、それをまたソーサーに戻すという動作をこなした後、俺に目を合わせずに、まるで世間話をするかのように、話し出した。


「いやいや、貴方がた兄弟は本当に優秀な方がそろっておりますね、末の弟さんは英雄ですからね……」

「ええ、末の弟は、皇王、っと女皇陛下の覚えも目出度い、先の反乱での最も貢献した人物の一人ですから」

どーやら、この人も、うちの家の事情を知っているらしい。まあ核心までは知らんだろーが、カマンベールがエオニア側に行ったという事を知っているのは察せる。星間ネットワークが復活してすぐに、皇国本星のデータバンクにアクセスして、確認したが、丸々削除されていた。おそらくあいつ本人が、データバンクを掌握した時に自分で消したのだろう。よってエオニアが追放された時のニュース時点で、あいつのことを知っていないと、わかりえない情報となっているのだが。

「いや、本当兄としては誇らしいでしょう。旗艦殺しフラグブレイカーと呼ばれる、二つ名まである弟は」

「その名前は、彼に相応しいと兄としても思いますよ、あまり広まっていませんが、いずれ私が広めます」

「ラクレット君も良いお兄さんを持ちましたな」

普通に褒めているようにも聞こえるが、まあ十中八九『貴方の指示で彼が動いていたのか?』と探っているのだろう。まあ確かに、彼みたいな大きな視点で物事を見ることのできる様な人物からすれば、ラクレットの活躍は、俺のような人物の支援が在ってこそのものだと考えるのが無難……いや常識だろう。しかし、あいつがやったことに関してはほぼノータッチだ。だからこそいい動きをしてくれているのだが。

「ありがとうございます。と言っても私が何もしないで育ちましたがね」

そう返すと、向こうも微笑を浮かべ頷く。まあそういう事にしておきましょうといった感じだが、気にしないでおこう。ブライトマン支部長は話したいことを話したからなのか、そろそろ帰る支度を始めている。と言っても帽子をかぶって荷物をつかんだだけだが。

「それでは、私はそろそろ失礼させていただくとしましょう」

「そうですか、こちらこそ碌なな御持て成しができずに申し訳ございませんね」







「そういえば、小耳にはさんだ話ですが……チーズ商会の建造中の船ですが、搭載されているクロノストリングの本数が、並みの軍艦を超える本数だそうで……」


ブライトマン支部長は、ドアの付近まで歩き、ノブに手を書けたタイミングでこちらに振り向くことなく呟いた。

「ほう、それは中々面白い噂ですね、どういった方から聞きました?」


うむ、本当に面白い話だ。それはうちの紹介でも機密……というか全額俺のポケットから出ているけど、規模的に個人の所有は面倒だから商会の艦として登録す予定の艦だ。制作されているという事自体はそれなりの立場の者なら知っているが、クロノストリングの情報など、一部にしか出ていないはずだった。あとは室内施設とかの整備をすれば完成である艦だが、そういった情報は確かに隠しておいたのだから。

「いえ、ただ単に噂ですよ、ネットワーク上の根の葉もないね……」

「そうですか、ありがとうございます」

俺はそう言って頭を下げる、一応この後情報が洩れていないかという確認の作業を行うつもりだ。この礼そのものは本気でしているが、別にそこまで重要なことでもないが。どうせもうすぐ完成だし。ただどの辺の経路から漏れたかは少し探るかね。

「それでは失礼します。」

「はいわざわざお越しいただきありがとうございました。」

そう言ってブライトマン支部長はこの部屋を後にした。本来ならシャトルの発着場まで見送る必要があるのだが……なんか、そういった雰囲気じゃなかったからそのまま返してしまった。まあ、そんなことを気にする人じゃないからいいが。



ゲームで言うムーンリットラバーズにはいるまであと数か月。俺は今も水面下での準備を続ける。
いずれ始まる、俺達の介入の為に。









今日のラクレット



「……おい、見ろよ……あいつ……」

「なあ……あいつって」

「そうそう、テレビでやってたぞ、英雄様だ」




彼が帰ってきてすでに2週間たっているが、歩くたびに起こる周囲からのざわめきは、まだ収まらない。本人はもう慣れてしまったが、それでも気にならないわけではない。
今彼がいる場所は、彼の通っている『ガラナハイスクール』のカフェテリアだ。現在彼は1年分の飛び級のため、猛勉強中なのだ。といっても、単位のためのエッセイやら、プレゼンテーションの準備やらに主な時間を取られているので、授業の勉強とは少々違うのだが。

幸い、先のクーデターの間、学校は休校になっていた(厳密には夏季休暇が1か月延びた)ので、出席の問題は一切ない。
そう、出席の問題はないのだ……



「クク、永劫の時を流離う宿命という枷に囚われた賢者を英雄扱いとはね、これだから民衆は……」

「うるせぇ黙りやがれ!!」

目の前に座る、元同志の魂の根源を共有せし者ちゅうにびょうかんじゃ が付きまとわなければ何も問題ないのだ。















さて、ラクレットは、今の名前で1回、昔の名前で1回、計2回中二病をこじらせている。一度目は、まあ思春期によくある主人公願望があふれ出た結果作られた、黒歴史ノートから始まる、大変オーソドックス(?) なそれだった。学校にテロリスト、突然始まる宇宙人の侵略、そういったものが多かったのは、まあ彼の個性であろう。

さて、それが一度弱まって(中二病は不治の病なので完治はない) 彼の名前が変わり、自分がオリ主と思い込んだことによって再発した。
それはもうひどかった、今も改善していないその恰好からも察することができるであろう。

詳しい内容は、彼の名誉の為に省くとして、


まあともかく彼は見事に、中二病を再発させた。
学校では最低3年ほど年が離れているため、微妙に会話がかみ合わないのもあったし、彼が微妙に周りに興味を持っていなかったのもある。が、最大の要因は彼の近くに邪気眼の患者がいたからであろう。


「ふむ、どうやら君も何かしかの洗礼を……いや祝福を受けたようだね、いつもの覇気れいしりょくがない、ひどく淀んでいる。第三形態に目覚めるには早すぎるが……何があったんだね?」

「……もう僕は卒業したんだよ……だから目の前でそんな黒歴史を暴くのはやめてくれよ、サニー」

サニー・サイドアップ ラクレットの唯一と言って良い学友である。年はハイスクールの3年目で17才が、未だに精神年齢14歳。ラクレットとはシンパシーを感じたという理由でつるむようになり、ラクレットの中二病を加速させた人物である。
ラクレットの格好は、あいも変わらず学生服(この学校のモノ)の上に陣羽織(それと帯刀)であるが、サニーはそんなものとは比較することができない、まずは眼帯、片目が実際に幼少時の火傷のせいで見えないので、眼帯自体は問題ないのだが、なんだかよくわからない紋章が黒色の眼帯の上に金色の文字で書かれている。髪の色はラクレットの紫黒色に対して、紫紺であり、首の後ろで一つに束ねている。服装は学生服なのは同じだが、なぜか他校のブレザーである。ボタンやらチェーンやらよくわからないものがついており、校則というものに正面からケンカを売っているような感じだ。

黒歴史ブラッククロニクル……そんなもの存在しない、我々の生きているのはすべて運命の開拓路トゥルーデスティニーだからな」

「だから、そういうのをやめてだね……恋人でも作れよ」

「……君こそハーレムを作るとかやっぱ作らないとか、言ってたくせに、結局ヘタレて戻ってきたじゃないか」

「それを言わないでよ……」

一応二人とも、互いの弱みを握っていることは握っているのである。ラクレットは今中二病が潜伏しているので、単純に過去の話をされるのが弱いし、サニーは実家が早く結婚しろとうるさいのに、恋人の一人もつれてこない事をちくちく、実家から言われているのだ。
サニーは17才だが、トランスバール皇国においては、年齢と結婚というものはあまり結びつけて考えられていない。早い人は10歳くらいで結婚するからだ。ゆえに十代後半になったら、親から結婚をせかされても別に珍しいことではないのだ。サニーは特に、祖父母からも曾孫の顔が早く見たいといわれているので、微妙にあせっている。その話をすると、キャラが戻ってしまうくらいに。

「お前はいいよ……幼馴染がいるじゃないか……」

「ああ、うん。最悪はそれで手を打つが……漆黒の聖女たるボクが、そう安々と相手を決めていいわけが……」


そのまま、微妙に惚気を始める元同志を、どっかへ行ってくれないかな……と思いつつ、ラクレットはエッセイに取り掛かった。












お久しぶりです、すいません、前期まるまる更新できませんでした。
想像以上に忙しいですね。とりあえず夏休みの間は少しずつ書いて更新していこうと思います。

追伸
大学で、このSSを指して『このSS知ってる? 』と質問されました。
読んでくれてる人がいることに感謝です。







[19683] 第2部 第1話 準備は念入りにね!!
Name: HIGU◆36fc980e ID:cb2b03dc
Date: 2011/07/29 18:32



第2部 第1話 準備は念入りにね!!



先のエオニアの反乱が終わり、皇国は大きな変化を強いられた。まずシヴァ皇子改め、シヴァ皇女が正式に即位し、シヴァ女皇陛下となられた。これに伴い、貴族の権力がやや弱まり、民主化といった方向に流れが進んだ。むろん反発もあっただろうが、最初から最後まで最前線に立ち、内乱を沈めた彼女に意見できる人間は一握りしかいない上に、その一握りは全員が彼女を肯定している。加えて権力を弱めたといっても、内政を行える範囲の縮小といった方面で、上納金の金額は大差がなかった。ようは皇国として一つのまとまりになろうといった動きであった。

他に大きな改革と言えば軍部の席の総入れ替えだろう。先のファーゴの壊滅により、第一方面軍の少将以上の階級の者はほぼ全員皇国を守護する英霊となっていた。故に他の方面軍から、優秀なたたき上げの将官や佐官(ほとんどが平民出身)を連れてきて配置、今までの貴族出身で階級の割に無能な方々は、左遷なり、そのままなり、人によっては都合の良

いことに、汚職までしてくれていることが発覚したので降格なり、除隊させた。
結果、上の指示が素早く末端まで通る、風通しの良い軍隊が出来上がった。


こういった急激な改革が推し進められたものの、反発は先に述べた一部の貴族の小規模なものだけで、ほとんどが好意的に受け止められてた。確かに混乱はあったものの、その混乱も5か月たった今となっては概ね終息していた。

そう、すでに先の内乱から5か月もの月日が経っていた……







「兄さん、話ってなんだよ」

「まぁ、落ち着け急ぐ男は嫌われ……ああ、別に誰からも好かれていないお前には関係なかったかな?」

「ケンカ売ってんのか? おい」

「事実だろーが、へたれ野郎」


場所はヴァルター家のリビング……といってもかなり広いのでリビングと言えるか微妙なところであるが、そこにおいてあるテーブルで男二人が向かい合ってコーヒーを飲んでいるという、実に奇妙な光景だ。入口に近い方に座っているのは、まるで絵画から飛び出してきた、貴族の青年といった相貌の男で余裕を持った雰囲気でコーヒーを味わっていると
言った所だ。逆に向かい側に座っている少年は、不恰好で粗暴な印象を受けより、前者を際立たせている。
これがこの兄弟の力関係をよく表しているであろう。


「まあいい、お前と話す時間の価値なんて、今の俺にとっては0に等しいようなものだからな。本題に入ろう」

「一々むかつくやつだな、おい」

「……烏丸ちとせがエンジェル隊新規メンバー最終候補に残った。他に候補がいないために、事実上確定したようなものだ。あと数日で辞令も行くだろう」

「…………」

「正式な着任から1週間後、それがタクト・マイヤーズのエルシオール艦長再就任日だ。言いたいことはわかるな?」


ラクレットは、会話が進むごとに考え込むように無言になって、自分のコーヒーカップを見つめている。一応はわかっていたはずだが、これから真の戦争が始まるのだというと、彼にとってはかなり気が重いのだ。そう、この戦いは前回とは比でない数の無関係の人間が巻き込まれるほど強大な戦争だ。それを好むものなんてそれこそ自分の利益だけを見て
いる安全圏にいる人物だけだ。


「さて、お前は今回どうやって介入するつもりだ? 」

「……とりあえず、ハイスクールは卒業が確定したし、ルフト将軍に来期からエルシオールなり、白き月なりに配備してください、って一報入れて、その後直接本星に向かって、タクトの援軍要請に合わせて他のエンジェル隊と合流して、その後はエルシオールに行くって感じかな 」


ラクレットは今のところそういった考えで動いている。とりあえず、飛び級での卒業は確定させたので、後は前期卒業日まではフリーである。卒業後の進路は少し前に飛び級で卒業した場合、皇国軍の方に入りたいと、前もって伝えてある。故にあとは確定しましたと伝えるだけなのだ。


ラクレットがそう言い終わるのを待って、エメンタールはゆっくり口を開いた。


「ラクレット、いいかこれまで数多の先人達が、本当に根本的なものとして信じて来ていたものっていうのは、実はすんごい薄っぺらいんだよ」

「なんのことさ?」

「ここが、ハッピーエンドの世界って誰が教えてくれたんだ?」


エメンタールがラクレットに説いている事、それはこの彼らの前世であった『ギャラクシーエンジェル』というゲームに似通ったこの世界は、ゲームに似通っているからこそ、ゲームに用意されている筋書きと似通った動きを見せる。しかしながらそれは同時に、そのゲームの中である、いわゆる『BADEND』といった結末に向けてのびているレールなのかもしれない。加えて、それが分かるのは最後の瞬間という、スリル満点を味わえる、すばらしいシステムなのだ。


「エオニアの件だが、正直俺はただの様子見だった。ここで終わるなら、それまでだ。まあ、先を見ていろいろ動いていたがな。それでも別にタクトが負けたところで、エオニアが独裁国家を作り、加えて白と黒の月が強化され、ヴァル ・ファスクと戦う。クロノクェイクボムが使われたならば、宇宙空間に行けないが、それでも俺が死ぬまでは平和に過ごせる。加えて言うなら、クロノストリングに依存しない方法では、星間移動こそできはしないが、クリオム星系内ならば、十分行き来できる。」


エメンタールは、右手で髪をかきあげてラクレットを斜めに見詰めつつ、言い放った。


「つまりな、俺は常に勝ち馬ないし、安全パイを引き続けるんだ、お前とは違ってな」


ラクレットは先ほどから、ずっと下を見つめて、肩を震わせている。それはまるで何かに気付いたか、思い出してしまったサスペンスの主人公のような動作であった。それを疑問に思ったのか、エメンタールは声をかける。


「おい、どうした? 怖気づいたのか? 」

「……Eternal Loversの撃墜ENDはマジでトラウマ……」

「……」

エメンタールは、無言でラクレットの頭を手刀叩いた。鈍い音が響き、ラクレットが我に返る。


「……それで? 何が言いたいのさ? 」

「ああ、つまりだな、お前、俺の指示で動け、お前の強みはⅡの情報を知らない事と、単純で操りやすいことだ。手駒としては中々なんだ。実際そこそこ強いし」


あっけからんと、エメンタールは言い放った。それこそ、帰りに牛乳買ってきてと、息子に頼む母親のように。ラクレットは脊髄反射的に反抗しようとするが、一瞬冷静になって

考えてみる。ない頭を絞って考えてみる。


(こいつは、最低でも自分が生きられればいいって、言っていた。僕はエンジェル隊とエルシオールの力に成りたい。)

「一つ聞いていい? それで僕にメリットはあるの? 」

「ああ、あるぞ。とりあえず、ヴァル・ファスクに勝つには、お前らに任せるから勝敗はそっち次第だが、そこに行くまでの手助けと、大規模な支援は惜しまない。俺は自分が安全なら、面白そうなことに首を突っ込ませてもらうからな」


ラクレットはとりあえず、冷静になるべく先入観を持たないように、思案する。結局最終的には勝利できたが、かなりギリギリだった先の戦い。それを支援してくれるというのならば、有難い。しかし、命令されるという事は……


「……つまり、行動しやすくするから、俺の手足になれ ってことか」

「そう、だが別に絶対服従ってわけでもない、嫌なことは断ってくれてもいい、俺はお前の足りない頭じゃ考えられないような方法で介入するからな 俺が監督と脚本やるから、役者の一人兼裏方になれってことだ 」


つまりは、ラクレットという個人で動くのは即ち国や仲間の為に動くという事であり、エメンタールが動くというのは、組織だって自分たちの利益を持っていくということだ。しかし、エメンタールの場合、この人生自体が暇つぶしであるため、利益の部分に面白そうなことが加わる。この面白そうなことは、概ねラクレットと合致する。ならば、ラクレッ
トの答えは一つだけだ。


「わかった。僕ができることで、僕が嫌なことじゃない限り、指示に従う」

「おお、そうかそうか。これで少しばかりやり易くなったな」

「そうでもしないと、そっちのカードは1枚も表にしてくれないんだろ?」


そう、ラクレットは帰宅してから、その道中で兄の呟いた、カマンベールが生きているという情報の詳細を聞いていない。なぜ知っているのか、それはどういう事なのか、さっぱりである。しつこく教えろ教えろ詰問しても、暖簾に腕押し糠に釘だったのである。


「ああ。それじゃあ俺の手下になったご褒美に、少し教えてやろう。お前に俺が隠している札は3枚だ。1枚はお前も知ってのとおり、カマンベールについてだが、これは単純に俺の直属の情報収集担当からの報告だ。ピピピと来た所を探らせたら、ビンゴだっただけ。」

「……いや、それはいいから、どういう事なのかをだね」

「それは、今回のネフューリアとの戦いの中で分かる。後2枚も、倒したら教えてやろう。」


秘密主義なのか、親切なのか、いや絶対単純にからかってるだけだろーな。なんて思いながらもラクレットは肯くしかない。なぜならば、筋力でも知力でも勝てないのだ。もはや諦めの笑みが口から洩れるものの、すぐに仕方がないと割り切って、兄に向き直る。


「それで、何をすればいいの?」

「ああ、別にそんなに面倒なことは言わないし、お前のことも分かっているから無理なことも言わない、ヒロインを手籠めにして来いとか、そういうのじゃないから安心しろ」

「あ~あ~はいはい、僕はへたれですよ。これで満足? 」

「ああ、至極満足だ。馬鹿を馬鹿にするのは大好きだからな。じゃあ本題だ、まず介入の仕方を変えてもらう、そしてもう一つお前にやってもらうことがある、それは……」





こうして、兄弟の介入への準備が着々と進んでいくのであった。


















































え?そんなシステムに不正に侵入されてる……って、あんた誰よ、なんでこんなところにいるのよ……ってそんなことをしている場合じゃなかった、急いで対処しないと

はぁ?手伝う?あんたにできるわけ……って、どういう事よそれ!!なんで、あんたがそんなこと……ああ、もういいわ!! あんたは万が一の為に切り離しの準備をして頂戴!!














最後のはバレバレですかね、とりあえずあくまで導入と言った所なのでちょっと短いです。
兄貴の思考回路が理解できないかもしれませんが、それはまた後ほどですね。





[19683] 第2話 物語序盤のデートは事件が起こる法則
Name: HIGU◆36fc980e ID:cb2b03dc
Date: 2011/07/30 06:45





第2話 物語序盤のデートは事件が起こる法則


『本日は、当商会の新型船、『ケーゼクーヘン』のプレオープンにご来場いただき、まことにありがとうございます。本客船は皇国最大の船型遊園地をコンセプトに作られた最新船です。今日という日が皆様にとって最高のものになるように、我々も尽力させていただきます。それでは、開場です。どうぞお楽しみください』




「わー、すごい!! こんなに大きい遊園地が本当に船の中にあるんですね!! 」

「ミルフィー、あんまり先に行くとはぐれ……るほどはいないけど、おいてかないでくれよ」

タクトとミルフィーは今日、チーズ商会の最新船型遊園地である、『ケーゼクーヘン』に来ていた。


話は数日前に遡る。




タクトとミルフィーは、エオニアとの戦いを終えて、軍から離れて生活していた。二人が暮らしているのは、皇国全体では、少々はずれに近いものの、快適に生活できることで有名な、『コノ星系』である。その星系内の本星都市部で、小さなアパートメントを2つ隣同士の部屋になるように借りて、お隣さんとして生活していた。

先の大戦から半年、ミルフィーはケーキ屋、タクトはチェスの教室の先生のアルバイトを始めて、のんびりとした、しかしながらも幸せな生活を送っていたのである。


「いやぁ、毎日すまないね、こんなにおいしいお昼ご飯を食べられるなんて、オレは幸せ者だよ」

「そんな……でも、食費は半分だしていただいていますし、気にしないでください」


今日の二人の昼食は、タクトの好物のひとつである、ツナサンドと、ミルフィー特製コーンスープである。タクトは昼過ぎに起きたばかりなので、朝食と言えるかもしれない、そして当然のように、タクトを起こしたのはミルフィーである、玄関の鍵が開いていたので、そのままお邪魔したという、こう何とも言えなくなるような関係である。

しかし、二人とも恋人らしいことなんてデートくらいしかしていないと上に、キスもまだ。その上二人ともそれで満足という大変プラトニックな関係で、ギャルゲーにするには都合のいい状態だ。美男美女が楽しそうに笑いながら、買い物帰りに夕暮れの街を歩いているという事で、実はご近所で地味に評判になっているのだが、それは二人の知るところで
はない。


「にしても、もうエルシオールから離れて半年か……」

「そうですねー……あれが、半年も前だなんて、全然思えませんよ」


この平和な日々を加味している二人は、ふと何気なくつけっぱなしにしてあったテレビに目を向ける。そこではニュース番組がやっており、アナウンサーが真剣な表情でレナ星系で頻発している、資源の輸送船を襲う事件を報道している。今月に入って3件目にもなるその事件は強奪船団の仕業かと言われており、軍による調査が、資源不足になりつつあるレナ星系の支援とともに行われているとのことだ。


「物騒だな……せっかく平和になったというのに」

「ですねー……でも、きっと軍の人が何とかしてくれますよね? 」

「そうだね……そういえば、軍と言えばみんな元気かな? 」


タクトが気になるのは当然、あの戦乱の日々を共に駆けた仲間たちである。と言ってもまず頭に浮かんでくるのは、親友であるレスターと、エンジェル隊の隊員、それから飛び入りで参加した少年のことだ。


「みんな忙しいみたいですよ、ランファなんかこの前、『休みを取る暇がない~!! 』ってメールで送ってきました」

「そうか、元気そうなら何よりだね」

「あ、そうだタクトさん、明後日のこと、覚えていますか? 」

「当然だよ、なんせ、久しぶりのデートだもの」


タクトと、ミルフィーは数日前に、とあるメールを受け取っていた。差出人はラクレット・ヴァルター。エルシオールには救難信号をキャッチしたという理由で入ってきた民間人だ。彼はその後もその持前の戦闘機の腕と、愛機『エタニティーソード』を駆使して戦闘要員として最後まで戦ったという戦友の一人だ。

「にしても、すごいコネだよな……ミントといい、ラクレットいい」

「ですよね、なんせチーズ商会って言ったら『子供の積み木、若者の音楽、夫婦の演劇鑑賞、老後のボードゲームまで手広く娯楽を提供する、チーズ商会』ってCM毎日のように見
ますよ」

「ミントの実家のブラマンシュ商会と提携して以来、急速に成長しているらしいからね、その最新の成果がこれっていう……」


ラクレットからのメールに書かれていたのは、簡単に言うならば招待だ。
僕の兄が経営する商会の船型遊園地のプレオープンがもうすぐあります。その場所がちょうどお二人の住む、コノ星系でやるそうなので、良かったらどうでしょうか? 招待状を添付しましたので、良かったら参加してください。

そういったことが書いてあった。ちょうどその日は、ミルフィーも休みがとれそうで、タクトのチェス教室の休みの日だったから、二人は諸手を挙げて参加を決めたのだ。


「楽しみですねー、あ、私お弁当作りますから、楽しみにしていてくださいね!! 」

「うん、楽しみにしてるよ、なんせミルフィーのお弁当は宇宙一だもの」


そういうわけで……




「わーすごい、あの観覧車、半分船の外に出てますよ!! 」

「艦のシールドを歪曲させているらしいからね、万が一攻撃をくらっても、あれが1周する時間は持つ設計らしいよ 」

二人は、適度にすいている最新の遊園地という理想的な場所でデートしているのだ。
そしてこの『ケーゼクーヘン』移動遊園地と舐めてもらっては困る。全2000M、全高1600M、全幅1600Mの卵のような形をしたこの船は、そこいらの遊園地にも負けない施設がある。確かに面積という面では劣るものの、それでも、移動型の遊園地としては破格の広さを持っている。加えて、遊園地としての機能を果たす際は、艦の上部の部分が開かれ、折り
たたまれて収納されていた、アトラクションが、シールドを歪曲させて、艦の外に出るといった形で展開するので、そのせまさをかなりカバーしている。

さらに、この船にあるのは遊園地だけではない。カジノ、プール、映画館、ボーリング場と、豪華客船というものを巨大化して、宇宙区間を進めるようにしたというものなのだ。
この馬鹿みたいにでかい船を動かすにあたって、搭載している『クロノストリングエンジン』の数も『エルシオール』の倍以上という頭の悪い数だ。こうでもしないと動かないのだからしょうがないが、そのため一部からは警戒されていたものの、武装を一切持たず、ただただ強固なシールドを作るという方面での運用にしているので、最終的には許可が下りたのである。

最も、今日は遊園地のプレオープンであって、他の部分は立ち入り禁止となっているが。



「それじゃあ、ミルフィーは何に乗りたい? 」

「いっぱい乗りたいのがあるので、タクトさんが決めてください!! 」

「え? オレが決めちゃっていいの? 」

「はい、タクトさんと一緒なら、きっと何に乗っても楽しいですから」


とまあ、このように、あまくてあまい上にとってもあまいあま~い会話をしているので、きっと彼らも楽しんでいるのだろう。結局最初はメリーゴーランドに決めたようで、二人はそちらに向けて足を進めた。













天地を裂くような爆発音と、わずかな揺れを『ケーゼクーヘン』を襲ったとき、二人は目玉である大宇宙観覧車内で、ミルフィーの作ってきたとくせい愛情たっぷりなお弁当を、二人であ~んと、食べさせ会った後である。おおよそ80パーセント回った後で、比較的すぐに、降りることができた。
そんな二人が、とりあえず周りを見渡すと、多くの乗客がやや不安そうに、開かれている天井部から、外の様子をうかがっていた。彼らが避難しないのは単に先ほどから流れているアナウンスが、避難を促すものではなく、シールドが強力なので、避難した方が危険です。と繰り返しているからだ。

事実、音に対して、この船に起こる振動はかなり微弱なものであり、シールドの強度がうかがえる。二人が周りにならって上を見上げていると、後ろから二人に近づく影があった。この遊園地のクルー、つまりはスタッフの一人である。


「お客様、少々よろしいでしょうか?」

「なんですか? 」

「タクト・マイヤーズ様とミルフィーユ・桜葉様ですね。私は、この船のクルーをしている、ブレッドと申します」


二人に話しかけたブレッドと名乗る青年は、この船において接客担当の人員だ。そんな彼のことを、なぜ今話しかけてきたのか?といった疑問を持ちながらもタクトは応対する。


「知っていると思うけが、名乗られたからには名乗っとくと、オレはタクト、こっちがミルフィー。それで何の用? 」

「はい、実は現在この船は最近活発に活動している強奪船団に襲われています。すでに軍が殲滅に当たっており、あまり問題ではないのですが……」

「それはよかった。でも、それだけではないんだろ?」

「ええ、ですが話をする間にお二人についてきてほしい場所があるのですが、来ていただけますか?」

ブレッドはタクトと話しながらも視線をミルフィーに向けていた。それは彼女の了承を待っているというポーズで、その意図を理解した彼女はタクトに向かって頷く。この頷きは、『タクトさんに任せます』ではなく、『行きましょう、タクトさん』だと一瞬で理解したタクトは、迷わずにその言葉を了承し、ブレッドの案内で歩き始めた。









「まずはこのような形でお呼びしてしまい申し訳ございません。手短に説明させていただきますと、我々は最近レナ星系を中心に活動している強奪船団が、徐々にコノ星系に近づきつつあることに気付きました。しかしながら、すでに大々的にプレオープンの広告を打った後で有り、遠距離からいらっしゃるお客様はすでに出立した後でした」


ブレッドの案内で、二人は『ケーゼクーヘン』のブリッジに向かって歩を進めていた。上の大部分が遊園地となっているこの船のブリッジは、船前方の中心より少し上と言った所にある。そこに行くまで、ブレッドの話だと4分少々かかるそうだ。


「ですが、この近辺は軍の警戒も厳しい上に、この船事態も、強力なシールドを持っている。軍が来るまで持てば問題ないのですから、そこまで深刻に考える必要はなかったのですが、会長が念には念を入れてとのことで、少々手を講じたのです」

「手? それはいったいなんですか? 」


ミルフィーがブレッドに向かって訪ねる。やや速足で歩いているので、話すのはつらいかもしれないと考えていたブレッドは、彼女も軍人だったと思い直し、質問に答える。


「現在皇国本星に向かっている途中の商会の船の経路を少々変更して、コノ星系を経由するように変えられたのです。その結果、このプレオープンの期間中、その船は『ケーゼクーヘン』で補給を受けるといった形で搭載されています、そしてその船は春から軍人になる為に本星にいる知人へと尋ねていく途中だった会長の弟をのせています。彼の愛機と共
に」

「え、それじゃあ」

「もしかして……」

「はい、ラクレット・ヴァルター。あなた方もご存じの人物です。貴方方に逢ってみてはどうですかと、私どもも申し上げたのですが、デートの邪魔をするのは悪いとのことで、客室におられましたが、つい今しがた出撃されたようです」


そう、本日『ケーゼクーヘン』は民間機(扱いは宇宙ヨットと同じ)を搭載した、商会の船を搭載していたのだ。万が一何かあった場合は、積極的自衛権の行使をするつもりだったのだが、その万が一が起こってしまったので、大慌てで出撃していたのである。


「なんだー、来てたんだラクレット君も」

「そうみたいだね、遠慮しないで言ってくれればいいのに。でもこれでたぶん安心だ」

ブレッドの話を聞き、ラクレットがいるという事で、タクトとミルフィーの表情がほころぶ。デートと言う名目で来ているものの、久々に仲間に会えるのならば、あまりそういったことを気にしない二人は、ラクレットが顔を出さかったことに微妙に首をかしげている。だからこそ、ラクレットは内密にしていたのだが……


「もう2つほど、申し上げることがあります。強奪船団の正体は、無人艦隊……それも先の内乱で使われたタイプに近しいものです」

「なんだって!! 」

「そんな、黒き月はもうなくなったはずなのに……」


二人が驚くのも無理はない、あれだけのレベルの無人艦を作れるのは、『黒き月』だけなのだ。そしてその『黒き月』こそ先の内乱の元凶でもあり、エンジェル隊とエルシオールで戦い、エルシオールの『クロノブレイクキャノン』で破壊したのである。


「それじゃあ、少し危ないかもな……敵の数にもよるけど」

「そんな……」

「いえ、おそらく心配はいらないでしょう……」


ブレッドがそこまで言うと、ちょうど、ブリッジのドア目の前まで来ていた。彼はコンソールを操作して、ドアを開けて二人に背を向けて言い放った。


「なぜなら、対応に当たっている艦の名前は『エルシオール』……あなた方がいた艦なのですから」


タクトとミルフィーが通されたブリッジは、エルシオールのそれに比べれば幾分か劣るものの、最新鋭の船であることがわかるような、清潔で整然とした機材だった。民間の船では珍しく、周囲の状況を確認することができる、巨大なエリアマップが中央に設置されており、それが普通なら目を引くであろうが、二人がまず目にしたのは、メインモニターに
映る懐かしの艦だった。


「エルシオール!! 」

「わ~すごい偶然ですね!! 」


目を輝かせるミルフィーと、驚きで叫ぶタクト。二人ともまさかここにエルシオールが来ているなんて予想にもしなかったのであろう。


「……ラクレットがいて、エルシオールまでいるなら安心だ。それにしても急に同窓会みたいになったな」

「ですね~」

「…………さて、タクト・マイヤーズ様。この船に高速指揮リンクシステムは搭載されておりませんが、通常の式システム、ならびにエリアマップがございます。そして現在通信士が対応していますがエルシオールと通信を行っています。エルシオールは現在、近隣の起動ステーションからの避難シャトルの誘導に忙しいようで、こちらもある程度の受け入れが可能なので、こちらに誘導するようにしております」


そこまで言って、ブレッドはタクトに向き直る。



「オレにエンジェル隊の指揮をするようにエルシオールに要請するのかい? 」

「端的に言えばそうですね、そうした方が、お客様の安全がより確実なものになるので……なにより、我々も見てみたいのですよ、先のエオニア戦役を最前線で駆け抜けた人物の指揮を」

「……それはなかなか、ハードルの高いおねがいだね。わかった、期待に応えてみるよ」




こうして、タクトはエルシオールとの通信繋いだ。
これが、皇国……いや銀河を巻き込む巨大な戦乱の始まりであった。












突っ込まれそーなので先に言っとくと
ケーゼクーヘンは大きいですが、ブラマンシュ商会はこれより巨大なデパートシップ(全高4000M)を所持しています。5年後にはそれがもう一つできるわけで、そこまで無理があるわけではないかと思い、こういった形になりました。




[19683] 第3話 逆に考えるんだ!ちとせはアニメでもゲームでも2度おいしいと!!
Name: HIGU◆36fc980e ID:cb2b03dc
Date: 2011/08/03 07:16





第3話 逆に考えるんだ!ちとせはアニメでもゲームでも2度おいしいと!!





「『エタニティーソード』発進準備スタンバイOK! ラクレット君どうぞ!」

「はい!! 『エタニティーソード』積極的自衛権の行使の為に『エルシオール』並びにエンジェル隊に加勢してきます!! 」






その言葉と同時に、ラクレットは、『エタニティーソード』の出力を上昇させる。『ケーゼクーヘン』は業務用のシャトルや船の搬入口は艦の前方下部にあり、そこから勢いよく飛び出す。エルシオールまでの距離はおおよそ20000強、急げば直ぐに到達する範囲だ。(ちなみに、ゲームでの戦闘画面は約4万四方)



「移動形態に移行!! これより全速力で、戦闘宙域に向かいます!! 」

『エタニティーソード』の移動形態は、最高速はカンフーファイターにやや劣るものの、旋回性能では上回っている。最も今は旋回性能はあまりは関係ないのだが、それでもまあ、現行の戦闘機に分類されるものの中では、最速クラスである。
圧倒的な加速で、一気にフルスピードまで達した『エタニティーソード』はそのまま避難中のシャトルに接近している敵駆逐艦に突っ込んでいった。











「司令!!『ケーゼクーヘン』から小型機が発進しました!! ものすごい速度です! 『クロノストリング』の反応あり! 」

「ああ、さっき向こうの言っていた自衛権の行使か……モニターに出せ」

「了解!! 」

現在『エルシオール』を指揮しているレスターは、避難シャトルの誘導、並びに紋章機の指揮、艦のダメージコントロールとかなり多忙であったが、優秀である彼は見事にこなしていた。余裕はないし、表情も硬いが特に危険な橋を渡る作業でもないために、マニュアル通り的確な指示を出している。こういったことができる軍人と言うのは少なくないが、レスターほど同時に複数の作業を正確にこなせる人物は皇国にもそうとはいない。レスターほどの年齢なら皆無に等しい。それこそ優秀な人材がレスター・クールダラスなのだ。

レスターの指示で、モニターに映し出されたのは、彼らにとってもなじみ深い……と言うよりも、何度も見たことのある機体『エタニティーソード』だった。半場予想はしていたため、特に驚きもないレスターだが、ココとアルモの二人はそうはいかなかったらしく、驚きの声を上げた。

「冷静に考えてみろ、チーズ商会がこの状況で出せる援軍なんて傭兵でも雇っていない限り存在しないし、雇っていたなら最初から配置しているはずだ。となればあの船に収まるレベルで、なおかつ戦力になるレベルというなら、あそこの会長の弟直々に出てくるのが普通ではないか? 」

「そうかもしれませんけど……」

「ふつう驚きますよ……」

「そうか……まあいい、とりあえず、接近している駆逐艦を目標にしているみたいだから、そのまま攻撃しろと伝えてくれ。……聞いたなフォルテ、心強い援軍様が来てくれたぞ」


レスターは、とりあえずここの通信をそのままエンジェル隊に流しているので、聞こえているだろうフォルテにそう伝えた。わかる人は少ないが、その口元は微妙に緩んでおり、機嫌がやや回復したことがうかがいしれた。


「それは有難いね!! まあ頼れるかどうかは別にしてだがね!! ちとせ、アンタは駆逐艦を後回しにしていいから、ミサイル艦の相手をしておいてくれよ!! 」

「了解です、フォルテ先輩!! でも本当に大丈夫ですか? 」

「ああ、あいつならたぶん何とかすると思うさね」


そう言って、フォルテはサブモニターに映した、こちらに高速で接近している機体を横目で見ながら自分の目標に向けた。










「ターゲット選択これより攻げk「こちら『エルシオール』ラクレット君、久しぶり」……お久しぶりですアルモさん」


ラクレットが今まさに攻撃に転じようと、戦闘形態に機体を移行したところで、『エルシオール』通信担当であるアルモから通信が入った。これにより、微妙に出鼻をくじかれてしまうものの、命がかかっているためなのか、体が覚えているのか敵駆逐艦からの攻撃をよけつつ接近を続けていた。


「とりあえず、その駆逐艦を倒したら、シャトルの護衛をしつつ、敵を撃破して基本的に人命救助優先だから……あ、『ケーゼクーヘン』から通信入ります!! 」


何とか駆逐艦に張り付いき、砲門をつぶすための旋回を開始、相変わらず速度と旋回、回避が高いこの機体にはほとんど当てることができないようで、敵の火力を順調に割いてゆく。滑り出しは順調、しかし気を引き締めようと集中すると、どーやら『エルシオール』に通信が入ったようで、アルモがそういったことを伝えてきた。

ラクレットはこれから起きる大声のリアクションを予想して、さらに意識を研ぎ澄ませることにした。



「よぉ、レスター久しぶり」

「はぁ!? おま、タクト!! どーしてここに!! 」

「え~!! マイヤーズ司令!? 」

「そんな、なんでこんなところに……」

とまあ、こうなるであろう、なにせ、普通に平和で群とは無縁の生活をしているだろう、彼が戦闘宙域にある船の中にいたのである。驚くのは当然であろう。タクトは右手で頭をかきながら、レスターたちに向かって苦笑しながら言い放つ。


「いやー、俺たちが住んでいるのはコノ星系だしね、今日はラクレットの招待でプレオープンできてという訳」

「なるほど……確かにそうだが、なんという偶然だ……」

レスターは頭を抱えながらそう呟く、頭の悪いような確率で起こるよーな出来事が、久々に起こったからだ。『エルシオール』の中で随一の常識人を自負する彼は、こういったことがなかなか認められないのである。


「さて、レスター……オレが手伝えることはあるかい? 」

「ああ、普通なら頼めないが、まあ非常事態だ。エンジェル隊の指揮を頼む。こちらはシャトルの誘導で手いっぱいだ」


本当なら、そういったことはないレスターだが、より任務の成功率を上げるためなら常識的な手ならば何でも使うのだ。非常識な手間で使うのがタクトであるが。ともかく、レスターは、タクトにエンジェル隊の指揮を要請した。


「わかった、今出ている紋章機は? 」

「ああ、現在エルシオールに搭載されている紋章機三機の内出ているのは2機『ハッピートリガー』と」


レスターがそう言いかけた時、後続のシャトルに向かって急接近をかけ始めたミサイル艦が発見された。どうやら自爆特攻を行うようで、すべての行為を前進の為に割いていた。タクトの表情が一瞬強張る、そのミサイル艦はラクレットからは少し離れており、ほかの紋章機からも5000以上開いていたからだ。
しかしレスターは冷静に一言指示を出しただけだった。

「ちとせ、撃て」

「了解」


鈴の音のような声が通信越しから響き、次の瞬間その艦の反応が消えた。遠方から光の矢が飛んできて、艦のど真ん中を貫いたのである。その光景にタクトは一新言葉を失ってしまう。


「先週新しくエンジェル隊に配属された烏丸ちとせだ。彼女が乗る『シャープシューター』は同じく新しく発見された機体でな、遠距離からの狙撃とそれを行うための高性能なレーダーを搭載している機体だ」

「烏丸ちとせです。マイヤーズ司令お噂はかねがね」

「……ああ、こちらこそよろしく、今は司令じゃないけどね」

「失礼しました、ご支持のほどをよろしくお願いいたします」


タクトは一瞬彼女の存在に驚くものの、かわいい女の子だったために冷静になることができたのか、普通に対応する。どっかの誰かとは真逆だが、それは言わないでおこう。


「どうだいタクト? ちとせのコレは大したものだろ? 」

「フォルテ!! 久しぶり。さて、時間もないし、そろそろはじめようか……」




タクトは、フォルテの顔を見て表情をほころばせるものの、いつまでも再会を喜んでいられないと、気を引き締めた。敵は目の前にいるのだ。ないがしろにするわけにはいかないのである。


「フォルテ、ちとせ、ラクレット三人とも俺の指示通りに動いてくれ、ちとせは実戦初めてかい? 」

「はい、司令」

「そうか、大丈夫、シミュレーション通りにやれば、問題ないよ」


タクトは、実戦が初めてであるという、ちとせに対してそう優しく声をかけた。ちとせは尊敬するタクトからそういった声をかけられて、心の奥底があたたかくなり力が湧いてくるのを感じた。

「それじゃ、はじめようか、最優先目標はシャトルの保護!! ちとせは射程圏に入った敵をこちらに近い足の速い艦から狙撃してくれ、フォルテはちとせの削りきれなかった艦の止めを、ラクレットは今の駆逐艦が片付くと同時に先行して叩いてきてくれ!! 」

「「「了解!! 」」」

気持ちよくそろう三人の声、守るべき目標もいるために全員テンションは高い。これなら大丈夫そうだとタクトは内心ほっとする。ちとせは命令に答えるべく操縦桿をきつく握りなおす。弓道の修練を行う時のように集中し遠くの目標を見据えた。口の中が少しばかり渇き、不快感を得るものの、決して意識はぶれなかった。

フォルテはそのちとせの様子をウィンドウ越しにちらりと確認し、前方の敵に意識を移す。この戦場において一番のベテランは自分なので、気を配ろうとしたのだが、どうやらその心配は必要なかったようで、新人はきちんと自分の仕事をこなそうとしている。彼女は安心して、前進するのだった。



「行くよ!! まずは一発ぶちかましてやる!! 」


気分的に特殊兵装のストライクバーストをお見舞いしてやりたかったものの、どうやらそこまで同調し切れてないようで、武装のミサイルを一斉に発射する。数ダースのミサイルが独自の軌道で単一の目標に向かい飛んでゆく、彼女なりの狼煙の上げ方であった。それらは見事に敵に命中し、さらに運よく敵の機関部に直撃したのか、一瞬光ると爆発四散した。


「よし、これでお終い!! 『エタニティーソード』次の目標に向かいます!! 」


ラクレットもとりあえず相手にしていた駆逐艦を落とす。彼と彼の機体はもともと、撃墜数が優れる機体ではない。どちらかと言えば囮や機関の足止めに向いているのだ。ちなみに現在 『駆動部操作装置停止操作』《Engine Control Unit Disabled Maneuver Drive》をカットしているために羽は生えていないものの中々の性能だ。ちなみに出していない理由は単純にあの戦闘の後彼がシャトヤーンに頼んで封印をかけて貰ったのだ。エンジェル隊の紋章機がそうしたから、彼もつられてである。もっともリミッターが解除されているので、白き月に行く前の羽を出していたころとほぼ同じ出力が出ている。


「うん、頼んだ。ちとせ、次は敵Nを頼むよ、そいつは最後尾のシャトルに近いからね。そいつを倒せばあとは殲滅戦だ」

「了解です、退きなさい!! フェイタルアロー!! 」


ちとせは、『シャープシューター』の特殊兵装を発動させて、タクトの指示した目標を打ち抜く。彼女の特殊兵装は特殊で、距離が離れていればより多くの弾を発射できるといったものだ。これはさながら、敵の位置が離れていれば、離れているほど有利な、戦場での弓使いを表しているようで、それがまた彼女に適している。





その後、ちとせの活躍により、無事独り者被害を出さずに、敵の殲滅を確認した。ラクレットの『エタニティーソード』は『エルシオール』に収容され、ミルフィーとタクトも同じく、『エルシオール』にシャトルで向かった。二人が『ケーゼクーヘン』を出るとき乗務員一堂に感謝され送り出されたが、二人とも笑顔でそれに答え、彼の英雄的名声が上がったのはまた別の話である。







戦闘後の確認のため、やや収容が遅れたラクレットと、戦闘終了後直ぐに向かったタクトたちが『エルシオール』についたのはほぼ同時だった。タクトたちを送ってきた『ケーゼクーヘン』の乗務員はラクレットの荷物一式を下ろすと、すぐに戻って行き、二人は格納庫の隅のシャトル発着場で、フォルテとちとせに出迎えられていた。


「やぁ!! タクト、さっきも言ったが久しぶりだね!! ミルフィーは、本当に久しぶりだ」

「フォルテさん、お久しぶりです。元気していましたか? 」

「ああ、皇国に戻ってから忙しくて休みが取れないぐらいだけどね」


にこにこと満面の笑顔を浮かべるミルフィーを久しぶりに顔を合わせた妹を見るかのような優しい目で、見つめるフォルテ。なんだかんだ言って群を離れた彼女を一番気にしていたのである。
その言葉が途切れると自然に視線はちとせに向いた。彼女は一歩前に踏み出すと整った背筋をさらに限界まで伸ばし敬礼する。


「烏丸ちとせ少尉です。マイヤーズ司令、かの英雄にお会いできて光栄です」

模範的な皇国軍の敬礼には一部の隙もなく、腰まで伸びた彼女の見事な艶がある黒い髪と後頭部から少しのぞかせる大きな赤いリボンがとても特徴的で、凛とした鈴の音のような声が彼女によくあっていた。タクトは今までにないタイプの美人だな~と思いつつ、あいさつを返す。

「さっきは見事な戦いだったよ、ちとせ」

「いえ、指示が的確でしたので、私はそれをしただけです。」

「おいおい、謙遜すんなよ、ちとせ」



謙虚であるちとせはタクトの賛辞をやはり否定する者の、フォルテにも褒められ、顔を赤らめさせるがどこか誇らしげな表情だ。



「さて、ちとせ、俺のことはタクトでいいから、もう呼んじゃっているけどオレもちとせって呼ぶし」

「……え?」


これが、のちにマイヤーズ流と呼ばれる人心掌握術である。




[19683] 第4話 体重は70超えました。
Name: HIGU◆36fc980e ID:cb2b03dc
Date: 2011/08/12 13:23




第4話 体重は70超えました。


ラクレットが、『エタニティーソード』から降りて、彼らに合流したのは、ちとせが、タクトの発言により1時停止して、フォルテが諭したことにより何とか再起動したあたりだった。彼は『ケーゼクーヘン』から送られてきた自分の荷物の確認をしていたのだ。大したものが入っているわけでもないが、放置するわけにはいかないのである。とりあえず邪
魔にならないように端に避けてから、彼らのもとに向かったのだ。


「皆さん、お久しぶりです!! 」


元気よくそう挨拶したラクレット。一応やましいことはしていないのだが、なんとなく無駄に声が大きくなってしまう。こう一応仕組んだといえば仕組んだことであるからだ。


「おお、久しぶりだね、来ていたなら言ってくれればよかったのに」

「そうですよ~」

「いえ、せっかくのお二人のデートでしたから邪魔をするのもどうかと思って……」


とまあ、そういう具合である。彼ら二人が全く気にしていないのは、別に彼らの関係が冷めているといったわけではなく、本心から気にしていないのだ。それを察したからこそのラクレットは連絡を取らなかったのであるが。それを傍目で見ていて、なんとなく理解したフォルテは、苦笑しつつラクレットに歩み寄る。


「いや~、さっきは助かったよ、相変わらず腕は鈍って無いみたいだね? 」

「フォルテさんこそ、また1段と操縦が上手くなっていましたよ。あとで操作ログ見せてくださいよ」

「そういう所まで気にするとは、相変わらず勉強熱心なことで、別にかまわないけどね」


ラクレットはどうにもまだ、エンジェル隊との会話が(と言うより異性との会話全般だが)不得意と言うか、自然ではない。これは元来の女性に対する微妙な恐怖症と言うかそういったものからきているのだが、一応話す大義名分や目的があれば平気なのだが、自分から話をしていくのは微妙に苦手だ。故にフォルテからの話題ふりであったが、予想道理の反
応が返ってきて、安心するフォルテだった。

そんな中、ちとせがラクレットに近づく。一応お互い初対面という事になるので礼儀正しく相対した。


「あの……先ほどはありがとうございました」

「ああ、いえ、こちらは、こちらの責務を果たしただけですから」

「それでも、やはりカバー役がいるといないとでは、重圧が違いましたので」

「そうですか……それならばよかったのですが」

「おいおい、あんたら、そんな謙遜し合ってないで、お互いの名前くらい名乗ったらどうだい? 」


ぐだぐだになりそうだったので、それを止めようとするフォルテ。実はちとせとラクレットは互いに同じような感情を抱いているのだ。

まずラクレットの場合、ちとせは途中入隊とはいえ、エンジェル隊の一員だ。これだけですでに頭が上がらなくなるというのに加えて、彼女の乗っている機体『シャープシューター』はゲームでこそ微妙な性能だったが、その性能の中最後まで生き残ったという事は、逆に操縦者の腕がかなり高いレベルであると同時に、ほかの隊員より短い期間でそのレベルまで習熟した彼女は、並大抵の人物ではないとまで考えている。加えて、その遠距離からの狙撃による一方的な攻撃ができるといったスタイルは、彼の機体とは正反対のコンセ
プトだ。そんなことが絶対できない彼はそこも個人的に尊敬している。あとは彼が予想していたよりもずっと、ちとせが美少女然していたとうところか、彼は黒髪ロング……というよりも髪の長い年上の女性が好きなのである。


そしてちとせだが、彼女もラクレットと同じくエンジェル隊に対する尊敬の念を持っていた。真面目な軍人気質で、軍の士官学校で首席だった彼女は先達に多くの関心と尊敬の念を持っているのは別段おかしいことではないだろう。そして先の内乱が終結した際に、民間人で表彰されたという稀有な人物のことを彼女は知った。彼は若干14歳という自分よりも幼い年齢で、あの紋章機を操るエンジェル隊と同等の活躍をして、公の舞台に出ることのできない彼女らの分も表彰を受けたのだ。14歳と言ったら自分はまだ軍学校の生徒としてもひよっこだったであろう。そんな年齢でそこらへの軍人より大きな表彰を得るなど、しかもそれが本人の類い稀なる戦闘機操縦技術によるものとなれば、この度紋章機を操るエンジェル隊の一員となった自分も見習う必要があるのだろうということだ。


さらにお互い、真面目に分類される個性を持っているのだから、互いに遠慮し合って、話が進まないのである。ある意味相性が悪くて、同時に最適な相性でもあるのだ。


「あ、申し遅れました。この度エンジェル隊に配属された烏丸ちとせと申します。階級は少尉、『シャープシューター』のパイロットとして配属されました」

「元エルシオール戦闘機部隊隊長、現白き月近衛部隊配属予定、ラクレット・ヴァルターです。まあどうやら、そう行きそうにありませんが……」


背筋を伸ばし、教本に載っていそうな敬礼をして、名乗るちとせと、それに若干もたつきながらも敬礼を返して名乗るラクレット。なんとなく二人の力関係を象徴しているような気もするが、誰も気づいていなかった。ともかく自己紹介が終わった彼らは、ひとまずブリッジへと移動することにしたのだが、そこでもまた、ブリッジクルーとの再開でのひと悶着がおこる。まあそれも当然なので、置いておくとしよう。







「さて、タクト……お前、エルシオールに戻ってきたという事は、司令官をやるってことでいいのだな? 」

「ああ、オレはミルフィーと一緒ならどこだっていい、それに、オレがここにいなくちゃならないって、そんな気がするんだ」

「恐ろしいことに、お前の勘はなんだかんだで当たるからな……まあいい、仕事は前と変わらんからよろしく頼むぞ、どうせすることなんて大したことないんだからな」




レスターは、いつものように腕を組みながらやや皮肉気にそう言った。なにせ、この船の司令の仕事は本当にタクトが必要な分だけの、書類にサインをする(必要性があるものだけをレスターが判断しているので、本人読んでない)ことと、艦内を巡回して、クルー特にエンジェル隊の面々とすごし、彼女らのテンションを高く保つ。艦の方針を上の命令に沿って決める。戦闘の際の指揮を執る。これだけである。
誰にでもできるわけではないが、簡単な仕事だ。レスターの、司令官、副司令官としての事務仕事、ブリッジに詰めて航行に問題がないかの監視兼指示。戦闘後の被害を計算し、補給の要請と、あらゆる雑務をこなすという仕事っぷりだ。
解りやすくいうならば、国に一人欲しい英雄と、艦に一人欲しい補佐である。両方とも大事であろう。


「じゃあ、ミルフィーはどうする?」

「ミルフィーか……紋章機に乗れないのならば、清掃員かキッチンのスタッフとして働いてもらおうか、それで構わないか?」

「はい、わかりました、レスターさん」

「ああ、まあなんかの拍子で、乗れるようになったのならば、また考え直すがな」


所属上はまだ、エンジェル隊だからな。とレスターはつぶやきつつ、右手でコンソールを操作する。ミルフィーは前回のエオニア……ではなく『黒き月』との最終決戦時の戦闘以来、紋章機を動かせなくなっている。彼女のその時に願ったことが原因かもしれないとみられているが、実際のところは不明だ。それでも理論上動かせる人物が存在しない『ラッキースター』を最も動かせる可能性が高いので、軍を抜けたのではなく予備役のような扱いだったのである。
ちなみに、なぜ『ラッキースター』が理論上動かせる人物がいないかというと、彼女の機体はそもそも『クロノストリングエンジン』を1つしか載せていない。その為に動かすのには常に不安定な『クロノストリングエンジン』からエネルギーを『H.A.L.Oシステム』により引っ張ってくる必要がある。高性能な機体である理由はほかの機体よりも多くものがつめたからなのである。そしてそんなことができる確率は、頭が悪くなるレベルで低い。他の紋章機ですら数十億分の1とされている中。『ラッキースター』は百分率で0.の後に続く0の数がトランスバール本星の人口より多いそうだ。彼女以外に動かせる人物が現在銀河中に5人しかいないのである。もちろんその5人はエンジェル隊のメンバーだが、うごかせるだけであって、とても戦闘可能な速度で飛ぶことができないありさまだ。という訳で、彼女は軍から離れられなかったのだ。


操作が終わったのか、レスターは僅かにその銀色の髪を揺らしながら、ラクレットに向き直る。あいかわらず、動作の一つ一つが無意識に格好良いなー、なんて考えながらラクレットも姿勢を正す。もはや嫉妬とかの境地は疾の昔に過ぎ去っている。


「それでラクレット、お前はどうする? 白き月の近衛に配属希望だったのだろう? 」

「ええ、ですが、それは『エルシオール』に乗れない状況でしたから。僕が居て良いのでしたら、戦闘機部隊に再配属していただければ」

「なるほど、確かにエルシオールは長期の調査任務に就いていたからな。解った、次のルフト宰相との通信時に正式に配属扱いにしよう、細かいことはその時までに決めておく」

「はっ! 了解です、クールダラス副司令」


以前のように、笑顔ながらの敬礼ではなく、おおよそ2か月の間に身に着けた、正しい皇国軍式のそれだ。この半年で身長が数センチ伸び、175に届くか、届かないかといった高さになった彼の敬礼は、なかなか様になっていた。もともと肩幅もあり、体格の良い彼は軍人だと名乗っても違和感なく溶け込めるであろう。


「ふっ、ああ頼んだぞ、それじゃあタクト、ここは俺に任せて、お前はお茶でも飲んで来い、言われなくてもそうするだろうから、先に言っといてやる」

「了解―! それじゃあ、皆行こうか? 」


ラクレットを見て若干の笑みを浮かべたレスターは、タクトに向かって投げやりにそう言った。やれと言われても仕事をしないタクトは、こうするのが一番いいことを、悲しいことに経験則で分かってしまっているのだ。対照的にタクトは嬉しそうに、声を弾ませている。
しかし、今日の彼は一味違った、最後に何か思いついた様子で、フォルテの方を一瞬見た後、タクトの懐に視線を写した。
すると、一瞬で理解したのか、タクトをたった一言で凍りつかせる言葉がフォルテから放たれた。


「お、もしかして、司令官復帰祝いにタクトの奢りかい? ちとせ、ミルフィーいい司令を持つといいものだね~」


ことあるごとに、エンジェル隊はタクトにたかっているのだが、今回もそういった半分からかいも兼ねて言った言葉であろう。レスターからの提案でもあるが、半ば冗談ではある。しかし新司令として新しい部下のちとせの前では良いところを見せたいタクトは、一瞬言葉に詰まってしまう。しばらくアルバイトで食いつないでいた彼はあまり懐の余裕がない、具体的には大佐をやっていたころよりも大分厳しい。もちろん貯蓄はあるが、それでもやはりお金の価値は平等なのだ。
タクトは一瞬ミルフィーの方をちらりと期待気に見るものの、当のミルフィーは全く意図を理解ししてないようで


「わータクトさん、私久しぶりにここのショートケーキが食べたかったんですよ。ちとせは何が好きなの?」

「え? 私ですか……あの、そもそも上官に支払いを強制するというのは……」


「ココ、アルモ、二人ともついて行っていいぞ、残りの作業はまとめるだけだからな、俺一人いれば事足りるし、そろそろ交代の時間だったろ? なに、少しくらい早く切り上げても問題は無い」

「本当ですか!! 副指令ありがとうございます!! 」

「私としては……副指令もいた方が……その……」

ああ、積んだな、タクトはその言葉を聞いて理解した。

そう、そこにお茶会があったのならば、参加するのは当然だろうか。
司令官ならば、クルーの期待を断れるはずがない、故に同席しない余地はない。
信頼する親友と部下の顔を見れば、『してやったり』と。そう、かいてある。
ああ、オレはアホかと、────馬鹿かと。
久しぶりだからという理由ごときで、普段は後から合流するティーラウンジに、行こうと誘うだなんて────。
否、久しぶりの再開、それは断じて言葉通りの価値しかないわけが、ない。
「ヨーシ私ハ、軽食メニュー片ッ端カラ頼ンジャウゾー」
もう、見てられない。
君たち、オレの財布はくれてやるから────即座にこの場所から離れよう。
元より、オレがレスターの策から逃れられるはずなどないのだから────!


そんなくだらない思考が一瞬流れて、タクトは若干すすけた背中を見せつつ、その場の全員を引き連れ、ティーラウンジに向かった。
直、会計は所持金では足りなくなり、一部をラクレットが立て替えていた。そんな男性陣の注文はコーヒー2杯だったが、途中から遠慮が減ったちとせも加わったのが原因だろう。

最も多少ちとせと打ち解けたという回収もあったのが救いだった。



[19683] 第5話 彼の方針、彼等の方針
Name: HIGU◆36fc980e ID:cb2b03dc
Date: 2011/08/21 17:20




第5話 彼の方針、彼等の方針






「クロミエ、久しぶり。挨拶回りしてたら遅くなった」

「いえ、かまいませんよそれよりも、元気そうで何よりです」


ラクレットは、タクトの奢りのお茶会の後、自分の部屋に荷物を運びに行ったり、格納庫や、医務室、食堂などに挨拶めぐりをしていた。どこでも好意的に受け止められたのは、

彼としては結構嬉しかった出来事だったりする。
その関係で、クロミエのいるクジラルームに訪れるのが後回しになってしまったのだ。


「いやー、何度来ても、ここは本当に自分が宇宙空間にいるか、疑問に感じてしまうよなー」

「まあ、ビーチですからね、壁も水平線や空を写し出すモニターになってますからね」


もうすぐ16になるだろうに、声変わりせず、まるで少女のような声で、そう返されるのを聞くと、ラクレットは安心してしまう。もう、なんか、彼の声にはきっと癒しの成分が入っているのだろう。そう思うことにしている。
そもそも、クロミエの外見は非常に中性的だ。身長もラクレットの顎ほどの位置に頭があるし、体つきも全体的に華奢だ。女物の服を着れば十中八九少女に見えるであろう。そんな思考をダラダラと、宇宙クジラの前で垂れ流しているラクレットは、ある意味ではすごい人物なのかもしれない。


「……あいかわらず、素晴らしい思考回路ですね、その柔軟性と飛躍性は見習いたいですよ」


ウォーンと、宇宙クジラの鳴き声が二人の間に響くと、クロミエは、苦笑しつつそう言い放った。別に自分の外見を理解しているので、悪口とは思わないし、前も親しくなってからは、「お前の髪ってさらさらだよな」とか「肌きれいだよな」等、ラクレットから言われているので別段新しいことではないのだから。


「そうか? ありがとう、久々に誰かに褒められたよ」

「それはまさにいつものことですね」

「なんか、お前少し黒くなってないか? 」

「てへ」


なんか、若干キャラの変わった親友に、ラクレットの方が戸惑いつつも、まあ、類友て言うし、問題ないかな?などと考えて結論付けると、クロミエから人口の海原の水平線に視線を向ける。
クロミエもラクレットにならうように同じ方向を向き、二人で壁を眺めるという構図になる。しばらくお互い話すことをせずに、ぼーっと波の音を清聴している。
人工のものとはいえ、潮風の匂いもするこの空間は、まさに、宇宙を進むエルシオールの海である。クルーの誰かが、書いたのかわからない、意味不明な落書きを並が消し去ろうとしてるのを視界の端で気づき、そこにラクレットが目線を写すと同時に、クロミエがその沈黙を破った。


「ラクレットさん」

「なに? クロミエ」


二人とも、視線を合わせずに、前を向いたままの会話だ、漫画の1シーンのような、そんな光景だが、別に特別な雰囲気は漂ってなく、日常の一コマの延長のような、そんな普通を感じさせる。


「貴方は、後悔しない生き方をしていますか? 」

「いきなり難しい質問だな」


クロミエの抽象的な質問に、苦笑しながらそう返すラクレット。彼はクロミエの言わんとしてるところを理解したのだ。と言うより彼がその問答を望んでいたのかもしれない。自分のことを分析してみると、クジラルームに来るのを意図的に最後にしていた。逆に、この問答を最も避けたのかもしれない。一番聞いてほしくて、一番触れてほしくなった質問。直感的に彼はそう理解したのだ。


「はい、ですが……前の貴方は、悔やんで折れた……そこからリセットされました」

「まあ、そうだな確かにいったんリセットされた」

「あんなこと、もうできませんよ、貴方相手だからできましたが、1度だけの反則みたいなものです、ですから……」

「今回は、後悔するような、折れる様なそんな生き方をするな……そういうことか」

「はい」


ああ、自分はいい友を持った。ラクレットは心の底からその事実を噛みしめた。あってからまだ8か月程度、内顔を合わせていたのは2月でその半分ほど、今の自分ではなかった。

そんな関係なのに、彼は自分の身を案じてくれているのだ。また迷惑をかけられのが嫌だ、とか自分を守ってくれるからと言った打算ではなく。一人の人間が一人の親しい人間を心配する響きが声に乗って伝わってきたのだ。

ラクレットは、微妙に涙腺が緩んでしまったのか、消えかけた落書きから青空を映し出している上を見上げる。若干うるんだ瞳からこぼれてしまうのは、この会話が終わった後でいいような気がした。


「……しないなんて、絶対言い切れないさ、でも今回はきっと僕を支えてくれる人がいるはずさ、お人よしの集まりのこの艦で、皆と仲良くなれたからね」


そう、彼なりに考えて返した。ラクレットがこの艦の人と仲良くなれた最大の原因は挫折だ。その挫折から立ちなおされてくれた親友に対して自分は大丈夫だと感謝しているとそう改めて伝えたかったのだ。


「そうですか……それなら、僕何も言いません……いえ、頑張ってください とだけ言いますね」

「ありがとう、クロミエ」


そう言ってラクレットの方を向き微笑むクロミエにラクレットも顔を向けて笑い返してそう言うのだった。








「さて、それじゃあ、これからの話をしましょうか」

「これからの話? それって……」

「ええ、実は────」






























「宇宙クジラが謎のメッセージを受信しているだと? 」

「ああ、今さっきクロミエから聞いた」



ブリッジにて真剣な表情で話し合う二人、タクトとレスター。タクトは先ほどクロミエに呼び出されて
「宇宙クジラが何者かの思念、通信のようなものを感知しました」
との報告を受けたのである。


「宇宙クジラ曰く、懐かしい声だったみたいで、加えて通信の内容に『EDEN』という単語が含まれていた」

「『EDEN』だと!? 600年以上前に栄えていた、古代文明の名前だぞ?」

「ああ、紋章機やエルシオール、白き月までもが『EDEN』のロストテクノロジーだ」


そう、宇宙クジラが探知した声は、はるか昔に栄え、600年前の大災害『クロノクェイク』で滅んだとされている『EDENエデン』と呼ばれる文明の名前が含まれていたのだ。
その声はだんだん大きくなってきており、声には焦燥のような情動を含んでいたと、クロミエを介して伝えられたのである。


「それで、エルシオールの計器でも観測できるそうだから、調べてみてほしいんだ」

「とはいうものの、今俺たちは他のエンジェル隊と合流するという任務中だぞ」


そう、現在タクトたちはこのところ急速に発生している、強奪船団の無人艦隊の調査を任されている。もともと皇国外のロストテクノロジーを調査していたエルシオールは、呼び戻され、ちとせと『コノ星系』近辺で合流、紋章機のテストがてら動かしていたのだ。
その後、他のエンジェル隊と『レナ星系』と呼ばれる星系で落ち合うつもりだったところに、戦闘が起きてタクトたちが合流したのだ。


「わかってる、だけど、この声の一件からは、嫌な予感がするんだ……」

「そうか……わかったココ、アルモ、エルシオールのキャッチした周波を解析しろ」

「「了解」」


タクトの嫌な予感と言うだけで、レスターはココとアルモの仕事を増やす決断をした。それは経験的なものでもあり、同時に現在彼女たちの手が比較的空いていたからでもある。
ともかく、二人が解析を初めて数分後待っていた結果が出た。


「解析終了しました、何も発見できませんでした」

「こちらも同じく」


結果は二人の予想とは裏腹に、何も発見することができなかった。タクトよりも、むしろレスターの方が意外そうな顔をしているのが、なんとも印象的だったが、レスターは仕事を命じたココとアルモをねぎらいつつ、タクトに声をかけた。


「そうか、ご苦労。どーやらお前の勘もたまには外れるようだな」

「……そうか、ならいいんだけど」


タクトが、いまいち納得いかない顔で考え込もうとしていると、突然アルモの目の前の計器が反応を示した


「司令!! 何らかの波長をキャッチしました!! 」

「なに? 再生してみろ」

「いえ、それが人間の可聴周波数ではなく、超高周波です。ただいま変換しているので少々お待ちください」

「わかった、頼んだぞ……タクト」

「ああ、どうやら見つかったみたいだ」


思わず身構える二人、アルモが変換している間の数秒間二人は緊張した趣で思わず身構えていた。ブリッジ全体にその空気が蔓延し、あたかも戦闘中のような状況がそこでにあった。


「変換完了しました。再生します」


そうアルモが言い、ブリッジのスピーカーから再生された音声は、途切れ途切れのものでノイズもひどく、ほとんど聞き取ることができなかった。
しかし、『EDEN』という単語はかろうじて拾うことができた。


「……確かに『EDEN』と言っているが、これでは何を言っているかわからん」

「ああ、でもこれはルフト将軍……宰相に報告すべきだろう」

「確かにな……ちょうどそろそろ通信するように指示されたポイントだ。」


レスターはルフトに通信をつなぐように、指示を出した。同時にラクレットも呼び出しておく。これから彼の正式な配置の指示を仰ぐからだ。

ルフトは現在、皇国の宰相であると同時に皇国軍の将軍と言う二足の草鞋を履いている。そのためかなり多忙であり、まともに通信する時間を取ることが困難だった。今までの経緯は一応報告書を転送しているので把握していると思われるが。
そもそも、ルフトは彼を知る多くのモノに『もし彼が貴族出身だったなら、確実に軍のトップにいたであろう』とエオニアの反乱よりも前に言われるほどの人物だったのである。

そんな彼が今現在どれだけ多忙なのかは、容易に想像できるであろう。


「通信繋がりました」


アルモのその言葉で、二人にとって馴染み深い顔がスクリーンに映し出される。


「おお、タクト、報告者は読んでいるぞ、戻ってきてくれたのじゃな」

「はい、同時にミルフィー、ラクレットもエルシオールにいます」


タクトがそういうと同時に、ラクレットがブリッジにたどりつき、敬礼する。ルフトは目線でそれに答えると、タクトの言葉に返答する。


「おお、そうじゃったな。桜葉少尉の方は問題ないであろう。何かの拍子で乗れるようになったならば原隊復帰、それまでは1クルーとして所属じゃな。ヴァルター君は、儂とシヴァ女皇陛下の連盟で書いておいた推薦状の先をエルシオールに変更しておいた。エルシオール中型戦闘機部隊、隊長ラクレット・ヴァルター少尉。本日付でエルシオール就任じゃ」

「────はっ!! ラクレット・ヴァルター少尉、本日付でエルシオールに配属します。」


ものすごいものが、自分の為に動いたことを自覚し、ラクレットの背筋は思わず伸びる。なにせ、皇国の女皇、宰相、将軍の推薦状だ。皇国においてそれが発揮しない場所を探すのならば、確実に骨が折れる。


「それで、ルフト将軍、実は報告したいことが……」

「なんじゃ、レスター」

「実は────」


そんな中、レスターがルフトに先ほどの会話の内容を説明する。彼らしい要点をまとめた大変わかりやすく簡潔な報告であり、どこかの司令ならば、その倍はかかるであろうことがこの場にいる者の総意だった。


「なるほどのう……あの古代文明がか」

「ええ、ですからオレ達でそれを調査したいのですが」

「よし、わかった────と言いたいところなのだが、そうとは言えない事情があるのはわかっておるじゃろ? 」

「ええ、強奪船団ですね」


ルフトのその返答を予想していたかのようにタクトは返す。彼らに課された任務は迅速に強奪船団である無人艦隊の裏にあるものを探ることなのだ。それができるのは皇国最強の戦力であるエルシオールとエンジェル隊だけだ。
大艦隊を連れて行けば、迅速な行動がとれず
他の母艦では戦力と言う面で不安が残る

エルシオールがすべきことは明白だったからである


「ああ、早急に対策……をとら……な…………だ…………タク……繋…………」


しかし、このタイミングで誰も予想していなかったことが起こる。突然通信にノイズが混ざり始めて、終いには通信が切れてしまったのだ。


「どういう事だ? 」

「わかりません、通信障害か、通信妨害かと思われますが……」


レスターが慌てたように確認を取っている間、タクトの心の中では、レナ星系の方面から通信が来ているのならば、余裕を見て両方探ろう。という決意が固まっていた。

しかし、次の瞬間、レーダーを見ていたアルモからこの場にいる者をさらに凍りつかせることが告げられた。


「前方に多数の所属不明艦隊あり」 と






短くてすいません
進みも遅いですし、原作なぞりが激しいですよね。
タクトの思考はだいぶ原作とは異なってきてますけど
それと、ラクレットはちとせ以外に階級で下回ることになり、名実ともに彼女たちに頭が上がらなくなりました。
次回から結構話が進んでいく予定です。



[19683] 第6話 天使は女神で恋人で
Name: HIGU◆36fc980e ID:cb2b03dc
Date: 2011/08/24 16:25





第6話 天使は女神で恋人で




「ミルフィー、待つんだ!! 」

「待ちません!! 私は紋章機を動かせるんです!! 」


毎度毎度、同じように二人の世界に入り込んで、いつもの問答のようなものを繰り返していた。しかしながら、今回ばかりはその規模が異なっている。ミルフィーは満足に動かすことのできない『ラッキースター』を操り、宇宙空間を単独で『エルシオール』から離れるように進んでいるのだ。

しかも進行方向には敵である無人艦が構えているという状況だ。

彼女の表情には焦燥と根拠のない自信がみてとれる。まるで何かに駆り立てられるような、そういった表情だ。


例に習い時を戻してみよう。







「ふはははは、新・正統トランスバール皇国軍 最高司令官 レゾム・メアだ!! エルシオール、ここであったが百年目、今までの恨み晴らさせてもらうぞ!! 」

彼らの前に現れたのは、レゾムという前回の内乱で数度蹴散らしてやったエオニアの配下の軍人だ。猪突猛進で自信過剰、その上頭も悪いといった。やられ役コンテストで審査員の満場一致で大賞に輝けそうな、そんな人物である。

タクトは、何とか記憶の隅から彼の情報を引っ張り出して、話を聞こうとしたものの、その過程が完全な挑発になってしまったのか敵は激昂。そのまま開戦と言う流れになってしまったのである。

一応、レゾムがエオニア軍の生き残りで、現在無人艦隊を率いている事、後ろにはミステリアスな美女がいること。その名前はネフューリアで、お茶会の誘いにはあまり靡かなかったことの四つはわかったのだが、それだけだった。


先ほどから長距離間での通信障害は続いているものの、戦闘自体はいつも通り進行した。なんせ率いているのがレゾムだ。AIが戦った方が強いであろうに、「攻撃―!! 突撃ー!! 敵を撃てー!!」の繰り返しでは効率が下がるばかりだからであろうか。

ラクレットの『エタニティーソード』が突っ込み攪乱、足が止まったところをフォルテの『ハッピートリガー』が高火力を生かして沈め、取りこぼしを正確にちとせの『シャープシューター』が狙撃するというコンビネーションは中々強力だった。

ある程度敵の数を削ると、何時ものように焦れて無駄に突っ込んでくるレゾムの旗艦。それをある程度殴れば、尻尾を巻いて逃げだした。

戦闘続行を選択し、その場に残る数隻の巡洋艦と駆逐艦を除いて、多くの敵が引いていく中、タクトの心に油断と言う料理が、ブランクと言う食材によって作られていた。彼自身の慢心がスパイスになっていたのかもしれない。無能な敵が料理人であった線も捨てきれない。

そう、『エルシオール』に、近くの駆逐艦が突撃してきたのだ。相手は無人艦だ、損害など資源の面から語ることしかできないものだ。故に毎度のように損害が多くなると手近な場所にいたこちら側の艦に特攻するのは、前内乱ですでに広く認知されていた。
タクトは、レゾムが去った後、エネルギーの少ないちとせの『シャープシューター』を回収し、ラクレットとフォルテの二人で、残党の処理をさせていたのだが、その結果敵の取りこぼしが『エルシオール』に急速に接近してきたのである。

幸いぶつかる寸前でフォルテのストライクバーストによる多数の誘導ミサイルが沈めたことにより、『エルシオール』には損傷も、人的損害もなかった。司令官が衝撃で椅子から落ちて腰を痛めた以外に。



「いてて……」

「はい、終わりました。マイヤーズ司令気を付けてくださいね」

「はい……」


戦闘が終わり、タクトとエンジェル隊、ラクレットは医務室にいた。腰を痛めたタクトが、ケーラ先生に湿布を張ってもらうためだ。

タクトが怪我をしたと聞いて、急いで駆け付けたら腰を痛めたとのことで、フォルテとラクレットは安堵した。逆にちとせは自分が出ていればこのようなことにはならなかったのに、と若干自分を悔やむような表情をしていた。
そして、ミルフィーはいつもの笑顔はなりを潜めて、思いつめたような表情でタクトを見つめていた。


「どうしたんだい? ミルフィー」

「……いえ、私が『ラッキースター』に乗れていれば、タクトさんが怪我をすることはなったなって……」

「それは違うよ、ミルフィー。オレが腰を打ったのは、オレの油断が招いたことだ。ミルフィーが気に病むことじゃない」

「……」


その時タクトは、別にこの話が大事になるなんて思ってなかった。あとでフリーの時にミルフィーの部屋を尋ねたら、彼女から軽くお説教をうけて、二人きりで反省会でもするのかなーと、考えながら微妙ににやけていたくらいだ。

しかし、この時から、ミルフィーの中には自分の強運を取り戻すという行動を始める決意が固まっていた。手始めにコンビニのくじの1等賞を当てようと、くじを大人買いしたり、コイン10枚を全部そろえようと何度も何度も投げてみたり、展望公園で雨の中ピクニックの準備をして一瞬で晴れるか試して見たり、双子の卵を見つけるために大量に卵を割ったり、それでケーキを焼いてみんなに配ったりと。

ともかく、彼女の思いつくことすべてを行い、自らが、一度は失ってもよいとまで思い忌み嫌ったことすらある、自分の運を取り戻そうとした。

それが数日続いたところで、ドライブアウト後、周囲の敵を探る為に紋章機を出すといったタイミングで、ミルフィーが独断で『ラッキースター』に乗り出動してしまい、それをタクトがシャトルで追いかけているのだ。

すぐにその場面まで行ってもよいが、まずはエルシオールの主演男優、女優の騒動の間、ほかの人物が何をしていたかを見ていこう。







「烏丸少尉、どうかなされたのですか? 」

「え?……いえ特にこれといって何かあったわけではないのですが……」


ラクレットは、タクトが怪我をした後、浮かない顔をしていたちとせのことを少し気にかけていた。しかしながら、主人公属性と呼ばれるものの対極に存在するであろう彼は、最適のタイミングであろう、医務室を出た直後でなく、明けて次の日偶然公園のベンチで座っている彼女を見つけたので話しかけた。
まあ、話しかけることができただけで前進したといえよう。

ラクレットは、自然に、そう自然に彼女に近づく。彼が声をかけた場所は公園の真ん中にあるベンチから5メートルほど離れた場所からだったのだ。そのまま不自然にならないようにややぎこちなく彼女に近づき、彼女と肩が触れ合うかどうかの距離を保って席に着く…………のではなく隣のベンチに座った。2つのベンチが並んで設置してあるため、彼はわざわざ同じベンチに座る勇気が足り無かったのだ。


「なにもない人がそのような顔をするわけがないと、自分は考えますが」

「そうですね……では、やはり私には、何かあったかもしれません」


やや抽象的なその答えにラクレットは反応に困った。一応原因は彼が考えている通りであるのだろうが、あえて言葉を濁した意図がつかめなかったのだ。聞いてほしくないのか、聞いてほしいのかである。
ちなみに本当のところは、誰かに相談したいと考えているちとせだが、仲間でありこれから信頼関係を作っていこうと思える人物のラクレットに聞いてもらうことには抵抗がない。しかし年下の少年に聞いてもらうのは少々気恥ずかしいものがあるといった彼女の心理の表れだった。

ラクレットとしては、自分の年齢をあまり意識しないのでそういった所にまで考えが及ばない。彼は19歳で0歳に年齢を戻しているが、14年半の人生で精神的な成長は半年前まで行われなかったと自信を持って断言できる。実際19の頃の彼と大差ないとすら感じていた。ここ半年でその意識は少しずつ塗り替えられているが。要するに指針年齢は二十歳前後と名乗れるのだ。最も、前世の19年において自分は19年分の精神的成長を遂げられたかと言われれば、Noと答えざるを得ない。結局彼は、自分の年齢が、いまの体の年齢であると考えている。しかし、先に述べたとおり、考えるとややこしいので自分の年はあまり考えないのだ。


「少尉、よかったらこれをどうぞ」

「え……あ、ありがとうございます」


とりあえずラクレットは無理に聞くことができないので、間を持たせるために右手に持っていたペットボトルのお茶を渡すことにした。ちとせがベンチにいるのを見て、話しかける前に近くの自販機で購入してきたのだ。


「僕には少尉がどういった経緯で、ここにいるのかはわかりません。ですが、飲み物を持っていないことはわかりましたから」

「わざわざ、買ってきてくださったのですか。ありがとうございます。ヴァルター少尉」


なるべく、核心に触れないように外側から慎重に話を進めるラクレット。彼はそもそも女性と1対1で話すとものすごい確率で地雷を踏み抜く。絶対踏み抜く。年齢、身長、体重、タブー、などなど、そういった話をしてしまうことが非常に多いのだ。故に意識して話題を選んでいる。それが功を奏したのか、幸運なことに、ちとせからはにかんだような笑顔でお礼を言われることに成功した。
その笑顔を見ただけで、報われた気持ちになってしまったラクレット。なんとか本来の目的を果たそうとするものの、浮かれる心を制御するのは中々難儀なもので、つい欲望が口から洩れてしまった。


「そちらが先任なのですから、呼び捨てで構いませんよ、烏丸少尉」

「いえ、私の尊敬する人を呼び捨てだなんて……でも、司令をタクトさんと呼んで、少尉を呼ばないのも変な話ですね、ではラクレットさんと」

「まあ、タクトさんはタクトさんですからね……あの社交性は見習いたいものですよ。従兄弟同士なのに、ここまで差が出るとは、血は信用できませんよね? 」


すでにタクトさんと呼んでいることが追い風となり、無事ちとせに名前を呼ばれることに成功したラクレット。しかし、どうみても返す話題を間違えているだろう。ここは『自分も、名前で呼んでいいですか? 』で直接的に聞き返すか、あえて『烏丸少尉』と呼ぶことで、相手側から呼び名の指定を受けるところだ。
そうしないと呼び名交換は成立しない。一方的に変わっただけだ。しかも、誰だって食いつきそうな大きな釣り針をぶら下げるような話題では、話の流れが変わってしまうことが多い。案の定、今回もそうなった。


「え? ラクレットさんは、タクトさんと親戚なのですか? 」

「ええ、まあ。伯爵家の次女だった母が、パーティーで偶然出会った、農業プラント惑星の総督だった父と、駆け落ち同然に結ばれまして、つい最近お互いが知ったんですよ? 」

「そうでしたか……初耳です」


日記に書いときますね。と彼女の口癖になるその言葉を彼に返すちとせ。そのままラクレットからもらったお茶のペットボトルで唇を濡らして、いったん息をつく。


「まあ、兄は知っていたみたいですけどね、商会の情報網は伊達じゃないそうで」

「商会? お兄様はどこかの商会に務めていらっしゃるのですか? 」

「ええ、務めるというか、会長を。チーズ商会ってご存知ですか? 」

「え? チーズ商会と言えば、娯楽と言うジャンルで追従するものがいないような大商会じゃないですか!! 」


ちとせは軍人の家系ではあるが、一般家庭に分類される家で育ったので、そういったお金持ちの人物に縁がなかった。ラクレットはそういった所まで意識はしなかったのが、自分の周りはすごい人がいるんですよーというアピールだったのだ。
ここで、ちとせが、ラクレットに対しての評価を改める、今までは天才的なパイロットの『旗艦殺し』と言った二つ名持ちの英雄(これは今の所、軍でも一部でしか言われてないが、リサーチした彼女は知っていた)であったが、そこに、『伯爵家』『総督』『商会の会長』などの単語から、『お金持ちだけどそれを鼻にかける様子もない良い子』といったものが加わったのだ。これにより、微妙に互いの間にある溝が埋まった。なんというか、特に飾らない彼に親近感を感じたのだ。
なんというか、富豪の御曹司が、親に頼らず自分の金だけで生活しているのを立派だなーと思うそれと似ている。


「まあ、そうかもしれませんねー」


と和やかに返す彼を見てなおさらそう感じたのだ。
まあこれだけいろいろ言ったが、要するに多少警戒心が緩み、好感度が上がったという事だ。


「私には、まだまだ知らないことがあるみたいです、よろしかったらエンジェル隊や、タクトさんたちのこともお聞かせ願えませんか? 」

「ええ、僕でよかったら喜んで」


そのまま半時間ほど二人は会話を交わし、ラクレットが書類を受け取りに行く時間だという事と、ちとせもレスターに頼まれた、先の『EDEN』と名乗る声の解析の続きをするという事で席を立つまで、のんびり会話をするのだった。


「それではまた、ラクレットさん」

「はい、失礼します烏丸少尉」


そしてラクレットはブリッジに向かう途中の廊下で気付く、自分がまだちとせさんと呼べていないことと、ちとせが顔を曇らせていた理由を解消していないと。
最も、前者は次の会話で解決し、後者は今ラクレットによって解決されてきたのだが、彼はそれを自覚していなかった。












また別の日、タクトが珍しくブリッジにいるときの話だ。ブリッジにはレスター、タクト、アルモ、ココという、エルシオールの首脳陣が勢ぞろいしていた。
そこでふと、アルモからタクトをからかうような質問が出た。そう、「二人はどこまで進んだんですか? 」といったものだ。年頃の乙女であるアルモ、そしてココには興味の尽きない話題だったのだ。
しかしながら、タクトはその質問に対して別段照れた様子もなく聞き返した、


「どこまでって、どういうことさ? 」


ちなみに、内心でこういったことに疎いレスターは、親友があえて聞いているならセクハラではないのかと微妙に心配していた。


「いやー、実はもうキスも済ませちゃったりして? 」


とアルモは茶化しながらそう返した。彼女からしてみれば、自分の恋愛がある程度進んで、親友のレスターを気に掛ける暇とかできれば最高だし、聞き出しておきたい情報であったのだ。
アルモのその言葉でようやく質問の意図するところが分かったタクトは、アルモの方を見て頬をかきながら、答えた。

「いや、それ近所でも聞かれるんだけどさ、オレ、ミルフィーとはそういったこと考えたことないんだよ」


「……え? 」

「……は? 」

「……ん? 」


思わぬタクトの発言に3人は一瞬思考が停止してしまう、あのレスターですら声を出してしまっていることから衝撃の大きさが計り知れよう。そんな風に、空気をそれこそ擁護する人物が出てくれるくらい、見事にぶち壊し跡形もなくしたタクトは、呆気からんと続きを言う。


「オレはさ、本当にミルフィーと一緒にいる、それだけで幸せなんだ」


言葉通り、幸せそうにそう言い切った彼は、確かに本物の男の目であって、本気でミルフィーのことを愛しているのがこの場にいる全員に伝わった。タクトは別にこれ以上を望まないわけではない。だがそう、今の幸せで、一緒にいるという事実だけで満足しているのだ。
例えるなら、素晴らしい食事を口にして、満腹状態の彼が、さらに素晴らしいデザートがありますといわれても、特に欲しいとは思えない、と言うよりも今自分の胃の中に入った素晴らしい料理を思い起こし、噛みしめるという事の方が有意義なのだ。ここでデザートまで求めようとするのは、別段間違ったことではないが、そう求めてしまう人はきっと、ダイエットが苦手な人なのだろう。


「なんていうか、すごいプラトニックなんですね」

「そうね、でもなんか素敵かも」


乙女である二人は素直に感心して、尊敬の眼差しでタクトを見た。まあここまで言い切れるような男性はなかなかいないからであろう。若干照れたように後頭部に右手を当てるタクト。その様子を横目で見ながら、今入ってきたラクレットから書類のデータを受け取るレスター。


「って、あれラクレット、いつの間に? 」

「今ですよ、タクトさん。艦の備品が必要数足りているかの点検の報告が上がったので、それをまとめていたんです」

「そうだぞ、タクト。こいつがこういった俺の仕事を手伝ってくれるから、オレがお前の仕事を手伝えて、お前がお気楽に愛やら何やらを語れるわけだ」


レスターからすれば、女など感情的で理解に苦しむ面が多々あり、苦手とする……と言うよりあまり興味のないものだった。故に最低限の仕事すら嫌がる傾向のあるタクトに対した強烈な皮肉だった。
その効果は覿面だったようで、尊敬の眼差しは消え去り、照れたような笑みは、その場をごまかすような笑みに変わった。


「マイヤーズ司令を見直した私たちが馬鹿でした」

「そうね、そういえば、副指令やラクレット君はそういった恋愛経験はあるんですか? 」


若干落胆するアルモと、そのアルモが食いつきそうな話題をだすココ。現在の矛先はこの場にいる男性クルーに向かっていた。
自分の恋愛観を話したタクトのせいで、そういった話題が大好きな彼女たちはお代わりを求めているのだ。

二人がそれに答える前に、タクトが話題に口をはさんだ


「いやー、レスターはさ、士官学校時代も勉強ばっかで、体を動かすスポーツとかなら付き合ったけど、ホント学業一筋でさ。そういう浮いた話はなかったよ。それにこいつ、人妻フェチだし」


訂正、爆弾を投げ込んだ。


「え、えええぇぇぇぇぇ────!!!!! 」


瞬間アルモの絶叫がブリッジに響き渡る。当然だ、堅物で今まで興味がなかったならまだしも、そんな人妻と言う特殊なものが好きだった故にその態度だったなんて……
彼女の頭はもはや暴走状態と言っていいほどそんな言葉で埋め尽くされていた。


「なっ!! タクト!! オレの在学中にそういった妙な噂ばっかり流れたが、やっぱりお前のせいだったのか!! やれ12を過ぎたら老女と考えているやつだ、男にしか興味がないやら、ふざけた真似を!! 俺は恋愛などに現を抜かす時間も興味もない!! 」


学生時代の不名誉な噂の出どころが分かり(正しくは確証を持ち)激昂するレスター。彼としてはそう言った噂が流れた為、面と向かって真実か聞かれることが多々あった。一度試験期間中に、お前は同性が好きなのか? と何度も聞かれた時はその噂の犯人を縊り殺してやろうかと思ったくらいだ。


「やー、ジョークだってジョーク」


手を前に突き出して宥めるタクト、お前が言うなと言いたい。だがそのやり取りで、何とか平常心に戻るアルモ。しかし彼女は気づいていない、レスターがまた一層固い決意で、誰が恋愛などするものかと意志を固めていることに。
そんな一触即発の空気を払うかのように、ココはラクレットに問いかける。


「ラクレット君は? 」

「………………えーと」


さて、思い出してほしい、彼は前世において19歳時点で彼女いない歴14年だった。これの意味するところは簡単だ。彼は幼稚園の頃幼馴染がいた。その幼馴染は彼にこういったのだ。
「あんた、わたしとつきあいなさい」
と、彼はその頃よく意味が解ってなかったが、それに頷いた。いつも一緒に遊んでいるその娘と別に何かが変わるわけでもなく、そのままその彼が引っ越すまで彼はつきあっていた。ちなみにその幼馴染は彼が中学の頃に風の噂で1児の母になったと聞いて以来全く知らない。

「その……ですね」

「お、なんだい? 」

興味津々のタクトを前に、一歩引いてしまうラクレットは現在必死に頭の中から恋愛に該当する項目をすくっていた。

小学校のころ、好きな女子のスカートめくりをして帰りの回でつるし上げられた。その子はクラスで一番足の速い男子の取り巻きだった。

中学の頃、転勤族である親のせいで2年生の頃引っ越す。その2週間ほど前、通っていた塾の休み時間に、引っ越しのことが話題に上がり、講師が彼の思い人に
「こいつがいなくなると、寂しくなるな」
と他意はなくふった時、
「え……? あ、うん別に? 」といった言葉が返ってきて消えた。

高校の頃、クラスメイトの清楚な印象を受ける女の子に、若干気持ちが傾きかけていたが、その子は他校のガラの悪い男と付き合いだし、段々校則を無視していく姿を見るうちに自然消滅。

大学の頃、そもそも友達(笑)が数人いるだけで、異性なんて接点がなかった。

そして、ラクレットになってからはお察しくださいレベルだ。


「まあ、はい、そーですね。まだそういった経験はありませんね、はい」

この、まだという2文字の言葉にどれだけの思いが込められていたかを知る者はいない。


「そうかー。まあ、まだ14だもんね」

「そうですねー、まあマイヤーズ司令ならその頃から、女の子を追いかけてそうですけどね」


ラクレットの年齢を考慮に入れて、別段不思議なことではないと判断したタクトと、若干冷やかにそういうココ。アルモはいまだにぶつぶつ言っているレスターを何とか宥めていた。

ミルフィーがいろいろ騒動を起こす中の、つかの間の平和だった。












さて、そのミルフィーの話に戻るとしよう。
彼女は、数日間自分の運を取り戻そうと策謀していたが、その結果は実らず強硬策に出た。
独断で『ラッキースター』に乗り出撃してしまったのだ。

『エルシオール』というより、多くの皇国軍の戦艦は、クロノドライブが終わった後、戦闘機を哨戒に出す。実はロストテクノロジーであるために、現在皇国で最も優秀なレーダーを搭載している『エルシオール』でも、小惑星の裏側にエンジンを停止させたミサイル艦などがいたら発見できないのだ。故に直接探らせる。
現在この任に当たるべき人員は、搭乗機の機動性からラクレットの『エタニティーソード』が担当している。彼が『エルシオール』前方に何らかの敵影を感知し、それを迎撃するためにちとせとフォルテが彼に合流したタイミングで、ミルフィーが独断で『エルシオール』後方に飛んで行った。

飛んで行ったといっても、紋章機や『エタニティーソード』特有の高出力を生かした高速で、ではなく不安定な『クロノストリングエンジン』から供給される微弱なそれでだ。

最悪なことに、彼女の飛んでいった方向に存在したのは、敵の攻撃衛星だった。

それに気づいたタクトは、すぐにブリッジを飛び出してシャトルに飛び乗り、周りの制止を振り切って彼女を追いかけた。通信で呼びかけなかったのは、先の通信障害が目的地である『レナ星系』に近づくほど強くなってきているために、この宙域でまともに通信が行えないからだ。
何とか超至近距離まで接近しタクトは通信をつなげた。シャトルが『ラッキースター』に追いつけたという事実が、彼女の不調を如実に表していた。


「ミルフィー、やめるんだ!! 」

「止めません!! だって……」


子供のように駄々をこねる彼女、しかし彼女の『ラッキースター』の背後からはこれまでのようにまばゆい光が出ているわけでなく、点滅するかのように微弱な光が覆っていた。
宇宙空間で、乗りこなせるかどうかも分からない紋章機を繰るミルフィーは内心ひどく孤独感と心細さを感じていた。仮に彼女に幸運があったらそのような心理状態には、早々ならないであろう。だが、その心理状態が『H.A.L.Oシステム』によって機体に現れていたなら。このような点滅状態に成るのかもしれない。

彼女は、不安だったのだ。
思い人のタクトは、何食わぬ顔で司令官に復帰した。それは戦争だから構わない。でも自分は?
自分は『エルシオール』に何かしている?
紋章機も動かせない自分は、戦争を終わらせようと頑張っているタクトさんに対してどうなの?
戦争の間は、二人でどこかに出かけるなんてできない、だからタクトさんは今頑張っているのはすごくわかる
じゃあ、自分は?
いつもそうだ、タクトさんは私に何も求めない、そばにいるだけで良いって
二歩も三歩も先を歩いて、私が話しかけると立ち止まって優しく頭を撫でてくれる
でも、そんな感じじゃ嫌なのだ。
私だって、タクトさんと一緒にいたい、タクトさんと一緒にご飯を食べるってだけじゃなくて
タクトさんからわがままを聞きたい、私をもっと必要としてほしい!!
もっと、もっと、求められたい!!


彼女の内心はそういったものが渦巻き、混沌とかしていた。
そもそも、デートの間にラクレットと会って、それが中断しても気にしないというのに
ただ二人きりでいるだけで、自分がわがまま言うのではなく、彼の為に彼が求めたことをしたい
といった二つの事実が同時に存在できるという時点で単純ではないことは察せられる。


「だって、私は、タクトさんと! タクトさんの為にっ!! 」


その結果彼女が言えたのはそれだけだった。頭の中がぐちゃぐちゃになって、瞳には涙をためて、絞り出せた心が、喉を通って声になったのは、それだけだった。


「ミルフィー……ごめん」


タクトは、ミルフィーの涙をみてそう呟いた。それは泣いているから謝るといった、道徳的なものではなく。自分のしてきたことが彼女に対して重荷になっていたという事に対する懺悔、悔恨だった。

ギャラクシーエンジェル moonlit loversにおいて、この時に両者が抱えていた問題は、タクトが一方的にミルフィーを守ろうとしたことが発端の擦れ違いだった。司令官に再就任したことに対して、ミルフィーを戦いに再び巻き込んでしまったことに負い目を感じていた彼の独善的な決意、エゴの押し付けが招いたものだった。

しかし、今の彼等の問題は、根本的なところで似ているが、やや違いをはらんでいる。タクトは別段ミルフィーを『エルシオール』に乗せたことに後悔の念を抱いてはいない。彼女が楽しそうにしていたからだ。ミルフィーはどちらの場合においてもタクトに肯定的だったのだ。そして、問題だったのは彼が『ミルフィーがそばにいればそれでいい』と彼女に何も求めなかったことだ。
タクトからすれば、彼女を守るのは、息をするのと同義のことで、それは戦場においても、住居のアパートメントにおいても一切の差はないという考えだった。しかし、彼女に何かを望むという事を、彼女自身を望む以外彼はしてこなかった。
彼の告白の文句も、好意は伝えているが、これからも傍にいてほしいといった、そういったことだ。

先の例を取り出すのならば、タクトがデザートをミルフィーと一緒に食べることはしなかった。彼はミルフィーに一緒にデザートを食べようとも、また食べに来ようとも、今度はどこに行ってみようか?とも言わなかったのだ。


「オレがさ、君に今してほしいことは、君にこんな無茶をしないでほしいことさ」


しかし、彼は今理解した、人は失敗から学ぶことができる生物の一つだ。


「オレは君のことが好きだ。それはもしかしたら皆がいう好きとは違うかもしれない」


でも────


「オレを以上にミルフィーの事が好きな奴なんていない、それだけはわかってるんだ」


だから────


「オレのことを赦してほしいんだ、そうすればオレはなんだってできる!! 君の為にこの銀河なんか何回だって平和にしてみせる!! そうしたらまた二人でデートに行こう。今度はオレの実家の近くの花園にピクニックにさ、君と一緒に見たいんだ」



タクト・マイヤーズの本心だった。彼は彼女を最も求めているがゆえに、彼女といるという事以外を求めなかった。
すぐにこのスタンスは変わらないかもしれない、だが彼の想いほどまっすぐなものはなかった。


「タクトさん……私も、行ってみたいです!! だから今は────」




二人がこうして会話している間に、敵が待ってくれるはずはなかった。
敵衛星は確実にこちらの命を刈りに来ていた。その証拠にスクリーンいっぱいに埋め尽くしているミサイルの雨が、『ラッキースター』を宇宙の塵芥にしようとしていたのだ。



「ミルフィー」

「私、今心が暖かいんです。なんでもできる、そんな気がするんです」


────だって私


「「オレの(タクトさんの)幸運の女神だから」」


「ラッキースター、シールド全開!! 」

圧倒的速度で迫りくるミサイルの嵐、それをすべて微動だにもせずに『ラッキースター』は受け止めた。爆発後の煙が機体の周りから晴れたのは、その翼が大きく羽ばたいたからだった。
そう、数多のミサイル群は、女神に傷をつけることなどできはしなかったのだ。

「行っきますよー、ハイパーキャノン!! 」

機体中央の巨大な砲門から、想像を絶する量のエネルギーが放射される。それだけではない。その光の束は彼女の意志でまるで手足のように自由に曲がる。
あっという間に後続のミサイルを薙ぎ払い、そのまま敵衛星に照射し爆散させた。


タクトはそれを見て、シャトルを『エルシオール』に向けて戻していった。
急ぐ必要はない、この戦いは自分が指揮をする必要がなく 彼女に敗北はないのだから。



この日、銀河に女神が舞い降りたのだった。






[19683] 第7話 謎のスポーツ スペースボール
Name: HIGU◆36fc980e ID:cb2b03dc
Date: 2011/08/31 14:47




第7話 謎のスポーツ スペースボール





ミルフィーの復帰戦の翌日、『エルシオール』はクロノドライブ空間にいた。そしてそのブリッジには司令のタクトを筆頭に、副指令のレスター、ココとアルモ、エンジェル隊にラクレットといった、錚々たる面々が集っていた。こう書けば重大な会議で深刻な問題に対して物議を醸す為に集まったように見えるが、内実はそこまで深刻ではなかった。
レスターはここ数日自分の仕事の一部をラクレットに、例の『EDEN』と名乗る声についての解析をちとせに任せていた。以前までは事務担当の人員がいたのだが、彼は前回の内乱後、第1方面軍の基地に転属したためでもある。レスターはここ数日増えた仕事と、それを手伝う人員が来たことに対して複雑な心境だった。少し前までは皇国外の調査へ向かっていたのだが、その間の仕事と言ったら半日ごとに自分をからかいに来るエンジェル隊の対処と、発見したよくわからない先文明のモノを管理するだけだったのだが、今は本星に送る報告書の制作から、戦闘後の被害をまとめたり、補給が必要な物資を調べたりといった具合だった。ラクレットはそれを自発的に手伝っているのでレスターに可愛がられている。
ちとせのほうの仕事だが、例の声をエリート校と名高い『センパール士官学校』で情報解析の方面において、諜報部から直々にスカウトが来るほど優秀だった彼女は、例の声を先に『エルシオール』が発見した物資を参考に解析してきたのである。


「さて、タクトおまえがこのところ浮かれてる間に、例の声についてちとせが解析をしてくれた」

「いやー、ちとせは優秀だねー」

「そんな、私は軍人として命令に従ったまでです」


微妙に論点をずらし、レスターをはぐらかしつつ、タクトはちとせを褒めちぎる。彼は戦闘の指揮や心理戦などの面においては圧倒的な才をもつが、同時に自分のできないことをできる人間に対して素直に賛辞を送れるという美徳があった。
案の定、憧れのタクトさんに褒められてちとせは嬉しそうに顔をやや赤らめて下を向いている。ミルフィーはそれを見て「今晩はおいしい夜ご飯を作って褒めてもらおう」と自分の中で決意していた。


「よし、それじゃあ……アルモ再生してくれ」

「了解! 」

タクトの指示でアルモは目の前のコンソールを操作して、ちとせが解析し終わったデータを再生した。


────『EDEN』の子らよ。今、時を越えて大いなる災いが再来した。我が元へ急げ。

────『白き月』よ。今こそ有限と無限を結び古より定められた使命を果たせ。

────『白き月』よ、『EDEN』の子らよ。急げ、我らに残された時間は少ない。

────己が使命を果たせ、世が災いにおおわれる前に


女性と思われる声で詠われる、この声は神秘的で人を引き付ける何かを持っていた。現にブリッジに集まった面々は、音声が再生終了した後もしばらく無言であったのだから。
その沈黙から最初に復活したのは、レスターだった。


「アルモ、とりあえず文章化しておいてくれ、さてタクト、どーやら本格的にやばそーなものだぞ」

「うん、訳が分からないけどね。ちとせ、これを解析した君の考えはどんな感じ? 」


神話に出てくるかのような、やや難しい言い回しの為にいまいち咀嚼しきれないタクト。学生時代の彼の文学に関する成績は正直褒められたものでもなかったのだ。


「はい、まず最初の『EDENの子らよ』と言うのは対象を指しています。これはおそらく『EDEN』文明のあとその流れを汲んで反転してきた、『トランスバール皇国』のことでしょう。つまりは私たちに対してです」


ちとせは、そこまで解説すると周りを見渡す。肯定しているレスター。感心しているアルモとココ。考えている素振りをするフォルテとラクレット。納得しているタクト。ニコニコ笑っているミルフィーと。それぞれのらしい反応が返ってきた。


「加えて、『白き月』と言った固有名詞も出ています。さらに大いなる禍災いとは、『白き月』に救援を求めるほど大きなもの、となればロストテクノロジーに関するものと推測できます」

「確かにな、だがこれ以上の推測は無理だ、となればだ」

「ご使命である『白き月』のシャトヤーン様に聞くしかないか」


結局のところ落ち着くのはそこであった。白き月と言う単語が出てきている以上、タクトたちにはどうすることもできないほど深い問題なのだ。



「それじゃあ、もうすぐドライブアウトするから、その後通信障害がなかったら通信しよう」

「ああ、賛成だ」

「なあ、ちょっといいかい? 」


タクトとレスターでそう結論付けた所で、今まで無言だったフォルテが口を開く。帽子をいつもよりもやや目深にかぶっているので、彼女より身長の高いレスターとラクレットからはよく表情が見えないものの、声色で真面目な話だという事は簡単に想像できた。


「もうすぐ、残りのエンジェル隊、要はミント達と合流して戦力を上げることはできる。でもさすがにエンジェル隊だけであんな数の敵を相手するのは、分が悪いんじゃないかい? 」

「ふむ……」

「幸い敵の大将さんは単純みたいだから、そこを利用してこちらから牽制できるような策がほしいところだけど、できそうかいタクト? 」

フォルテの考えは単純だ。敵の無人艦隊はすでにエオニアとの戦いで、敵が温存していた戦艦と言い切るには多すぎる量確認されている。最初は物資の強奪目的で動いていたようだが、今は自分たちの行動の妨害を目的に動いている。これはなかなかよくない徴候である。
ならば、どうすべきか、敵は前回の圧倒的な人材不足を超える壮絶な人材不足だ。なぜなら、あのレゾムが閣下と名乗ってトップをやっているからに他ならない。彼のもともとの階級は少佐で、加えてまったくもって優秀と言う言葉からは程遠い男だった。人材が不足しているエオニア軍だからこそ、少佐と言う待遇だったのだ。そんな男が現在天辺をとってる群は、人材不足以外にありえないだろう。
其処を突く、それがフォルテの案だった。と言っても具体的な方法はタクトに任せるこうした方がいいのではと言う提案であったのだが。


「そうだね……少し考えてみるよ」

「アルモ、ドライブアウトまで、あとどのくらいだ? 」

「2分ほどです」


それから緑色のクロノドライブ空間を抜けるまで、タクト以外は敵の目的などを適当な憶測を出し合って予想していたが、誰も確信を持てそうな意見を出すことができなかった。


「ドライブアウトしました、周辺のスキャンを開始します」

「敵艦なし、金属反応なし、ガス反応なし……オールクリアです」


成れた様子でそうレスターに報告するココとアルモ。シェリーとの戦いの経験からか、かなり迅速に状況確認が行われている。彼女たちももう立派な軍人であろう。ちなみに二人がこの手の報告をした相手は圧倒的にレスターの方が多い。


「通信障害は、どうなっている? 」

「現在そういったものは見られません」

「よし、ルフト将軍に繋げ」

「あ、ちょっと待ってくれる、アルモ暗号変換通信はしないで、そのまま通信しちゃってくれ」


何か思いついたのか、タクトが悪戯を思いついた子供のような顔でアルモに待ったをかける。まさに悪だくみをしていますといった様子が見えるので、アルモは一瞬で自分に責任が来ないのでしたらと言いそうになる口を必死に理性で押しとどめた。


「ですが、タクトさん皇国軍の規定では通信の暗号化は情報漏洩の面からみて必須とされていますよ? 」


その言葉に反応したのはラクレットだった。同じことを言おうとしていたのかちとせが目でそれに同意している。タクトは二人を見つめてにやりと顔の笑みを一層濃くした。


「まあ、まて あいつにも考えがあるのだろう。アルモ、オレが許可する」

「了解です……通信繋がりました、モニターに出します」

「おお、タクトか、あれから通信がつながらず心配しておったのじゃが、無事じゃったか」


スクリーンにルフトの顔が映る。やはり激務なのか相変らず目の下に隠しきれていない隈がある。軍と政治の二足の草鞋はやはり厳しいのであろう。特にまだ前回の戦いの傷跡が残る今の皇国においては、大きな重圧が襲いかかっているのだ。


「お久しぶりです、先生。通信障害を受けている間に、敵の正体を突き止めました。相手はレゾム『真・正統・トランスバール皇国軍』を名乗って、こちらへの妨害行為をしてきました」

「レゾムじゃと!? あの男、しぶとく生き延びておったのか……」


とりあえず、本題から切り出すタクト、わざわざ暗号をかけないで通信をしているのだ。怪しまれないようにする必要があろう。


「はい、それでいきなりですが、俺達だけで任務を遂行するのはちょっときつい気がして、増援って送ってくれませんかね? 」

「むぅ、確かに例の強奪船団は規模が予想よりはるかに強大だった。だが皇国にこれ以上戦力を裂く余裕がないのも事実なのじゃよ」


悔しそうにそう返すルフト、しかしながら、戦力がないというのも目をそらしてはいけない絶対的な事実だった。急ピッチで再編をしているものの、やはり絶対的に人員が足りていないのである。


「そうですか……いやーラクレットがまた無茶やって『エタニティーソード』が壊れちゃって戦力半減だったんですよ」


ここでタクトが仕掛けた。レスターはラクレットが何か言う前に彼の目の前に左手を出して行動を止めていた。ラクレットはレスターの左後ろでおとなしくしている、もともと騒ぐ気もなかったのだ。


「なんと……まあ彼もまだ若いからのぅ、落ち着いたら一度軍人としての教育を受けさせるべきか」

「そーですね……それより全く関係ない話良いですか? 」


タクトは内心で、ラクレットに謝罪していた。ルフトの目が本気だったからだ。ああ、オレのせいでまた関係ない、罪のない人を巻き込んでしまったと激しく悔やんで、1秒で忘れて話を続ける。そう、ここからが重要なのだ。


「おいおい、タクトこれは軍の通信じゃぞ」

「えーでも、もうあと少しで出かかってて、すごいもやもやして気になるんですよ!! 」

「わかった、わかった。言ってみろ」


ルフトの了承を得たので、一回咳払いしてからタクトは続けた。


「ほら、先生が俺達を監督してスペースボール士官学校リーグ決勝戦で優勝したことありましたよね? 」

「おお、覚えているぞ、悲願の初優勝を果たした時じゃな」


タクトとレスターがルフト教官の下で一緒に汗を流した良き思い出である。レスターにとっても戦略や鍛え上げた自分の肉体を競い合う面もあったので、なかなか楽しみつつ、良い経験になったことを記憶している。


「はい、それであの決勝で逆転ゴールに使用したフォーメーションって、フォーメーション0でしたっけ? それとも6でしたっけ? それが思い出せなくて……」

「はて、なぜ今のその話を……ん? フォーメーション0 おお、フォーメーション0か!!」

「あ、やっぱりフォーメーション0でしたよね?」


タクトは、内心で自分のたくらみが上手く行ったことにガッツポーズをしていた。もちろん表情は一切変えずにいつものどこか抜けたような笑みを浮かべている。
同時にレスターもタクトの意図することが分かったようで、口元を僅かに歪めた。


「うむ、フォーメーション0はここぞという時に大変効果を発揮する」

「いや~ありがとうございます。これですっきりして任務に励めますよ。また今度時間があったらスペースボールやりましょうよ。フォーメーション0なら290対0で勝てみせますよ」

「290対0とは大きく出たのー。それでは今度やる時はラークにも声をかけねばならんな」

「ラーク……ああ、はいそうですね、あいつがいなきゃ俺たちのチームは動きませんし」


ルフトの発言に一瞬詰まってしまうものの、彼の意図するところと、記憶をさかのぼって結びつけると、すぐに合点が言ったタクトは、全くその通りですねーと言うポーズを続行しつつ同意した。


「うむ、それでは貴艦の健闘を祈るぞ」


そういって通信は切れる。やりきったような表情でタクトはブリッジの面々へと振り返る。それと同時にタクトの意図を理解していたレスターは、アルモに指示を出した。


「アルモ進路変更、YMf288からYMf290にしてくれ」

「え? でも命令書だとYMf288から変更なんてありませんよ? 」

「いいんだアルモ、理由は今から説明するよ」


タクトはそう前置きしてから今の通信にどのような意味があったのかを開設し始めた。
まず、フォーメーション0はスペースボールの時、サインによってパスを受け取るメンバーを変更するものだ。これは俺たちが使った作戦で、内容を知ってる人なんてそうはいない。そして、通常レスターがパスを受け取るのだが、フォーメーション0において、そのパスを受け取るのがラークだった。加えて290対0なんてスコアはギネスブックにも載ってないとんでもスコアって程じゃないが普通にある得ないスコアでもある。

これを統合すると


『集合場所を変更しましょう、このままYMf290に行く振りをしますから、待機を』

『わかったエンジェル隊に伝えておこう』


ってことになるのさ。


「な、なるほど……」

「これで、敵に一泡吹かせられるわけだ」

「たぶん敵が優秀なら、YMf290に俺達が行くことを予想しているだろう、それを踏まえてのタクトの作戦だという訳だ」


そう補足するレスター。これ見よがしな290と言う数字はそういうわけだったのだ。


「そういう事さ、それじゃあ後は野となれ山となれで待つしかできない……という訳で、みんなお茶にしよう」

「賛成で~す、私、難しい話はあんまりよくわかりませんでしたけど。とっても甘いものが食べたい気分なんです」

「アタシも今日はシュークリームでも食べたい気分さね」

「お付き合いいたします」


そうしてタクトは、エンジェル隊の面々を連れ添ってティーラウンジに向かった。ココとアルモも、次のクロノドライブの準備をして、ドライブに入ったらそれに合流すべく、ブリッジを後にした。

ラクレットはレスターと二人でブリッジに残り、レスターがせめてもの情けで、軍人としての心構えとやらを叩き込んでいた。ルフト将軍がやるといったら、それはもう確定事項なのだから。
ラクレットの冥福を祈るしかできないタクトだった。








そして、『エルシオール』は問題の宙域に到達した。


「ドライブアウト完了、周辺空域のスキャン開始」

「さてさて、どうでるか……」

「ふむ……」


タクトとレスターはブリッジで前面の巨大なモニターを悠然と構えながら見つめていた。エンジェル隊とラクレットは既に各自自分の機体に乗り込んでいる。万全の体制ではあるので、これ以上心配することができない故にだ。


「敵を前方数十万距離に発見、どうやら待ち伏せのようです」

「ふむ、一応近辺への警戒を解かないでおくんだ」


命令書のまま移動していた場合、敵の目の前に現れる所だったことが分かり、レスターの背筋に嫌な汗が沸く。だが、それを表層には出さずに、そのまま指示を出した。


「敵艦の反応あり!! 小惑星帯の裏側に潜伏しています!! 」


こちらが発見したことに気が付いたのかわらわらと、庭に置いてあった大きめ石を裏返したかのごとくわいてくる敵艦隊。どうやら敵の本旗艦は、この場にいないようで、思考停止のごとく敵がつこんでくることはなさそうだ


「やはり、よんでいたか……タクト」

「ああ、おそらく通信が来ると思うよ」


そうタクトが言いきったタイミングで、エルシオールに通信が入る。敵の旗艦からのそれをすぐさまつなぐようにアルモに指示した。


「御機嫌よう『エルシオール』の皆様 いろいろ企んでいたようでいたようだけど、うまくいってるのかしら? 」

「いやー、ネフューリアさんお久しぶりです、こんなところで会うなんて奇遇ですね、今度どこかに食事に行きませんか? 」

「せっかくのお誘い嬉しいけど、遠慮させてもらうわ」


ネフューリアは、そういうと、別の枠で通信をつないだようだ


「レゾム閣下、『エルシオール』を補足しました」

「おお、ネフューリアよ、よくやったぞ!! よーし全軍進撃だ!! 」


『エルシオール』もそれまでの状況をただ座してみていたわけではない。エンジェル隊とラクレットは出撃してエルシオールの周りで待機しているし、『エルシオール』の進路もすでに計算が終了している。

なにより、タクトは、いや『エルシオール』に属するすべての人が信じて待っていたからだ。そう、先の戦いを乗り越えたこの艦にいる全員が、信じていた。彼女たちがここにくるであろうことを

レゾムが護衛艦を置いて我先にと『エルシオール』へ飛び込んでいく時、遠方より飛来する3つの機影があった。その三機は神速の如き速度で飛来し、油断大敵とレゾムの旗艦の横っ腹に攻撃を命中させた。

────そう、エンジェル隊の3人だった



「やあ、ランファにミント、ヴァニラ遅かったね」

「あら? タクト、いい男は女の遅刻を責めないものよ? 」

「そうですわタクトさん、それにこれでも急いで駆けつけたんですのよ? 」

「はい、可能な限りの速度でこちらに向かってきました」


タクトの言葉に三者三様の返事を返す。彼女等らしい第一声だった。変わりのない部下の────戦友のその様子にタクトの口元は綻びる。彼とエンジェル隊が集まった戦場に負けはないのだ。


「ぐぬぬ……『エルシオール』め小癪な真似を!! 」

「どうやら、裏の裏のそのまた裏をかかれたようね」


全身を目一杯につかって、悔しさと怒りの心情を現すレゾムと、その対照的にクールなまま、反省をというより事実を確認しているだけの様子なネフューリア。その二人に向かいタクトは声高々に宣言する。


「さて、エンジェル隊が全員そろったんだ、こちらの反撃の時間だ……総員出撃だ!! 一番働いた人はミルフィー特製お菓子を1番に食べる権利をあげようじゃないか!! 」

「了解です!! 私頑張って作りますから、なんでもリクエストしてくださいね!! 」

「了解よ!! 最近ダイエットしてたから、今日は遠慮なく行かせてもらうわよ!! 」

「了解ですわ! 駄菓子もいいですけど、ミルフィーさんの作るお菓子は久しぶりですわ」

「了解だよ! いやー今日は甘さ控えめのケーキでも作ってもらおうかね!! 」

「了解です 私はミルフィーさんが作るものでしたらなんでも好きですから」

「了解です! 先輩方に負けぬように私もがんばります! 」

「了解です 全力を尽くします!! 」




『エルシオール』の反撃が始まる



[19683] 第8話 君等のためなら死ねる
Name: HIGU◆36fc980e ID:cb2b03dc
Date: 2011/09/07 14:26



第8話 君等のためなら死ねる






レゾムとネフューリアが指揮する敵軍は、通常の戦略からかなり逸脱した動きを取っていた。

状況は『エルシオール』が前方と後方を除く全方向を小惑星帯に囲まれており、その『エルシオール』の逃げ道を塞ぐように、後方に無人艦5隻 前方にネフューリアの乗る旗艦と護衛艦2隻。そこからやや距離が空いてレゾムの旗艦、それを取り囲む『カ ンフーファイター』『トリックマスター』『ハーベスター』の3機。そしてレゾムの旗艦を追いかける護衛艦隊と言った形だ。

レゾムは安全だと思って前に出てきた結果、奇襲を受けたので大慌てで助けを求めている。もはやエンジェル隊がトラウマになりかけているのだ。何回も殺されそうになっているから無理もないであろう。

彼の乗っている旗艦は、一言で説明するならば『派手』に尽きるだろう。黒が基調とされている無人艦の中で、黒が多いものの、色鮮やかなペイントが施されている。これが友人の軍隊ならば、士気を高揚させるのに役立つが、あいにくほぼ無人の群であり人より艦の方が圧倒的に多い彼らの現状では、良く目立つ的だった。

目立つ要素はほかにもある。形状こそ普通の駆逐艦に近いが、巨大な砲門が艦の下についている。もちろん『クロノブレイクキャノン』ほどではないが、かなり大きいその主砲は、きちんと運用すれば脅威となったであろう。

しかし先にも述べたように、彼は現在奇襲に対応(助けを呼ぶ)ので精一杯だ。ネフューリアは、せっかく距離を詰めて、挟撃しているこの現状を捨てて、レゾムの救援に自身の護衛艦を向かわせていた。司令官を守ることは大切だが、もう少し待てば後方から護衛艦隊が追い付くのに、あえて挟撃の戦力を裂いていた。

タクトは、その意図を完全に察することはできなかったものの、素早く指示を出すことにした。


「ミルフィーは後ろの5隻を足止めしていててくれ、優先するのは時間を稼ぐこと、破壊はゆっくりでいい」

「はい! 行ってきます!! 」


彼女と超高性能な状態に成っている『ラッキースター』ならば、守勢に入ればいくらでも時間を稼ぐことが可能であろう。そこを信頼しての采配である。ミルフィーは元気よく返事をするとすぐに向かっていった。そこに恐れはなく、ただ混じりけの無いタクトへの信頼が根付いているのだ。


「ランファは、そのままレゾムの艦を、ミントも同じく、ただ特殊兵装は、近づいてきた護衛艦のねこだましに使ってくれ、その後そのまま距離を取って時間を稼いで。ヴァニラは攻撃よりも、回復にエネルギーを裂いて行動してくれ」

「「「了解!! 」」」


現状、補給するためには多くの敵をまたがなければいけないため、ヴァニラは攻撃よりも支援に特化させ、攻撃はランファが行う。ミントはいうなれば攪乱と言った所であろう、手数が最も多い彼女はそれが最適な任務だ


「フォルテ、君にはお似合いの任務を任せる、ネフューリアにタイマンを挑んで『エルシオール』に近寄らせるな!! 」

「最高にわかりやすくていいね!! 任せときな!! 」


火力、装甲ともにトップを誇るフォルテの『ハッピートリガー』は移動する必要がなければ、現存するあらゆる艦と打ち合うことができる。彼女の巧みな戦闘経験と勘が、足りない部分を補えば、支援なしで旗艦と戦うのは可能になるのだ。


「ちとせ、君は保険だ、エルシオールの護衛と、ネフューリアの護衛艦をこの場で追撃。守りの要になってくれ」

「了解です、最善を尽くします!」

『シャープシューター』は性能のほとんどが平均か、それよりやや劣る機体であるが、圧倒的な索敵性能および攻撃可能距離はやはり守勢に向いている。彼女も自分から敵を倒しに行く気質ではないので、こういった護衛の仕事の方が得意である。


「ラクレット、ランファの応援に行ってきてくれ。敵のど真ん中を突き抜けていくことになるけど、できるよね? 」

「お任せください、被弾0で目標までたどり着いて見せます!! 」


ラクレットの『エタニティーソード』はそれこそ『シャープシューター』とは真逆のコンセプトだ。攻撃可能距離以外、押しなべて高い性能を持つ。特に速度と回避は群を抜いており、敵の戦闘機用の戦闘システム程度では攻撃を当てること自体が至難の技である。だからこそ、敵陣を突破することができるのだ。


それぞれに方針を示して、ひと段落ついたタクトは目を高速指揮リンクシステムの戦略マップから離す事無く、思考を続けた。


(ネフューリアの不可解な行動、彼女はなぜそこまでしてレゾムを守る? 結果的にこちらが1枚上手に回れたが、『エルシオール』だけを見るならば、このまま押し切られれば厳しい状況だった。それこそ、全力で退避しろとレゾムに進言したならば、レゾムのことだ「お、覚えていろよ~!!」と言いながら退いていく。損耗はあるだろうが、数の暴力で『エルシオール』の紋章機の1,2機を撃破するくらいはできたはず)


「ミルフィー、1番右の敵はミサイルの一斉照射で落ちる。ヴァニラはミントの後ろをついていくように飛ぶんだ。フォルテ、その調子だ」


これだけいろいろ考えているのに、彼が戦況を見誤ることはない。それどころか、思考をさらに加速させる。

(ならば、敵の目的はなんだ? 情報収集? いや、すでにある程度は把握しているはず。時間稼ぎ? いやそれこそ自分たちが出てくる必要がない……発想を変えよう、敵がしていることはなんだ? 回りくどい、非効率的なことだ)

「レスター、一見非効率に見えること、それって軍においてどういう事だった? 」

「長期的スパンや、過去になってから確認すれば、むしろより効率的な方法で有ったりすることが多い。なんせ軍は効率を重視するからな」

「ありがとう。ラクレット右前方の弾幕が薄いところはフェイクだ、避けろ。ランファ、アンカークローは旗艦下部から打ち込むんだ」


突然レスターに質問を投げかけるが、慣れたものでレスターもすぐに彼に合わせる。レスターは理解しているのだ。自分は助言ではなく、確認作業の為に呼ばれたのだと、そういうなればこの質問は思考の工程における通過儀礼。
タクトは礼だけ言うと、そのまま指揮を続行して、思考もまとめ続ける。さながらハイスペックのコンピュータのような頭の使い方だ。


(非効率が最効率な方法、つまりこちらを確実に倒す手段がある? こちらを倒すのに、条件がある? そもそも俺達を倒すことが目標なのか? いやいい、わかったのはこの作戦で片を付けるのはほぼ無理だという事!! ならばレゾムを優先して叩いて、損耗を減らして戦闘を早期解決させるのが最適解!! )

「ミント、作戦変更、特殊兵装はレゾムに、ちとせもフェイタルアローで狙えるなら、狙撃を頼む。フォルテ、タイマンは中止。応戦しながら護衛艦隊の後ろを進んで、4人に合流」

「「「了解! 」」」


タクトは時間を稼いで、少し様子を見る作戦から、強襲して短期決戦を目標にした。例によって例のごとく、レゾムを削れば引いていくだろう弱点を突くのだ。


「ラクレット、まだかい? 」

「すいませ────ッチ! 攻撃が激しくて!! 回避で背一杯、進むのは、困難です!! 」


ラクレットは現在、護衛艦隊のほぼすべての火器に狙われている。タクトの予想だと、『エタニティーソード』に構うよりもレゾムとの合流を優先するであろうと思ったからの、敵陣突破であるが、残念なことに予想が外れてしまったようだ。
なぜそこまで集中的に彼が狙われているのか不可解だが、速度が自慢の『エタニティーソード』もさすがにこうなってしまえば逃げ切るのは難しい。というより、客観的に見れば自分から包囲網に飛び込んで攪乱しているようにしか見えないのだから敵に感情があったとすれば、彼と同様に厳しい表情をしているであろう。


「ちとせ、君のペースで撃ってくれ。ミント、先輩の余裕で、ちとせにタイミングを合わせるんだ! 」

「了解!! …………ッ退きなさい!! フェイタルアロー!! 」

「了解ですわ────フライヤーダンス! 」


しかしながら、守りに使うつもりだったちとせと、攪乱に使う予定だったミントの攻撃が決まり、レゾムの旗艦はシールドの8割以上が削り取られてしまう。


「ぬ、ぬあー!! 退避―! 退避だー!!」


案の定、レゾムはすぐにそう宣言すると、後方ではなく、彼から見て11時の方向、ラクレットと、それを包囲する護衛艦隊の方へ逃走を開始した。その方向で味方と合流しつつクロノドライブ可能なポイントでもある為、ドライブインして逃げるのだろう

ミントとランファはレゾムに元々ついてきた、ミントが本来攪乱する予定だった艦隊と向き合い、残存勢力の掃討を開始した。
ヴァニラは、ちょうど中間地点にいるフォルテの『ハッピートリガー』の修理に急ぎ、フォルテもそれに合わせて移動を開始していた。
ミルフィーはちょうど敵を片付けたところだったのか、『エルシオール』に向かい、ちとせと合流。ネフューリアはレゾムと落ち合う場所を決めているからか、すぐにドライブインをして逃走していた。

完全に掃討戦に入ったこの宙域で、気を抜いていた人物がいたのかと言われれば、答えはノーだ。全員が全員できることをやっていた。
そう、セオリー通りの最適解をしていたのだ。














故に気付くのが遅れた、そのセオリーから反している、馬鹿としか思えない行動をしているレゾムに


「フハハハハ、このレゾム様がただで逃げると思ったのか!! くらえ、『エルシオール』 主砲発射!! 」

「ッな!! 正気か!!あんな傷ついた艦の巨大な主砲を、逃走中に、本旗艦が足を止めて撃つだと!? 」


レゾムの艦が、突如反転して、『エルシオール』をロックオン、主砲のチャージを始めたのだ!!
冷静に考えてほしい、これがどういったことか。簡単に言うならば、敵陣に切り込んでいたクイーン、ナイト、ビショップを一端退かせ、(なぜか切り込んでいた)キングは撤退途中で、敵のキングめがけて攻めてきたと言った所だ。

愚策中の愚策。愚行の極みだが、こと奇襲と言った面においては、砲身が耐えきれるかを度外視すれば悪くない。
完全な定石を脱した行為は、時として完全に相手の裏をかくことができる。敵の本陣に一人で突っ込んでも、対象さえ殺せれば
よい。そういうことだ。


「シールド急げ!! 総員隊ショック姿勢!! 」


すぐさま、レスターはシールドを前面に集中させるように指示を飛ばした。
これだけ距離が離れているのならば、移動しても捕捉されきって、攻撃をくらってしまうからでもあり、なにより回避には時間が足りないからに他ならない。それは即ち絶望的な未来を示唆する、紛うことなき事実だった。

敵を拡大表示している正面モニターが眩い光で包まれ、発射までもはや秒読みとなる。思わず目をつぶってしまうタクト、しかしながら、『エルシオール』に傷をつけるなどと言う行為を何もしないまま見過ごすなんて真似を、奴がする訳が無かった


「まだぁぁぁぁ!!!!! 」


ラクレットである。彼は敵に囲まれながらも、今の今まで攻撃を紙一重で避け続けていた。エネルギーの残量が気になるほどになってしまったものの、敵の護衛艦隊のなかで耐え忍んでいた。そんな彼の目の前で、レゾムがいきなり主砲をうとうとしていたのならば、彼は機体を真っ直ぐに最短距離で飛ばして向かうであろう。
そう、たとえ銃弾やレーザーの雨に打たれ、シールドを溶かされながらも、絶対に止まることはしない。

彼は誓ったから、エンジェル隊と『エルシオール』を守ってみせると!!


そんな心意気はいいのだが、いつものように砲撃を剣で受け止めるのはエネルギー的にも、敵の砲撃の威力的にも不安があった。故に彼は、敵の正面に到達しながら、一切の速度を落とす事無く、躊躇と言う仕草を見せずに特攻を仕掛けた。



「砲身が、砕けるのが先か!! 剣が折れるのが先か!! 根競べをしようじゃないか!! レゾムッ!! 」


彼の鬼気迫る表情が、この宙域の通信に流れる。自分の命など一切被りみない、徹底した合理主義者の顔がそこにあった。彼にとっての理は、エンジェル隊や『エルシオール』の安全であるのだから。両の頬や操縦桿を握りしめる手の甲に焼け付くような痛みを感じる中、ギラギラ輝く妄信的な目で突っ込んで行く。その顔に気圧されたのか、レゾムは一歩ずさった。


「なっ!! や、やめろ~!! 」


「誰が止めるかよ!! 」


右手の剣を光に突き出し、レイピアの刺突のように砲門の発射口に差し込む、砲身は莫大なエネルギーを充填して、今にでもはき出そうとしていたのだ。その危ういバランスを崩すような異物が現れた結果、砲台の中でのエネルギー循環が崩れる。
もともと、ダメージを受けていた砲身が、さらにひび割れるのを確認してラクレットは口元を緩める。そしてダメ押しのごとく
左の剣で砲台の上部を叩きつけるように切り裂いた!!


「主砲切り離せ!! このままでは巻き込まれてしまうぞ!! 」


レゾムのその言葉をAIは一瞬で認識し、主砲をパージ。直後に、より一層輝き、その場で爆散した。ラクレットはその場で急上昇し、少しでも距離を取ろうとするが、自身の真下で起こった強大なエネルギーの奔流にかき回され、上下左右が分からなくなってしまう。だが、運が良かったのか何とかシールドが持ってくれたようで、機体の損傷は深いものの、これと言った外傷は見えない。やや顔が青白くなっているが、別段おかしいことではないだろう。惜しいことにレゾムの旗艦は今の爆発に紛れてクロノドライブで逃走をしたようだった。逃げ足の早いことである。


「ラクレット!!」

「大丈夫か!! 」


レスターとタクトから通信が入る。彼の独断で突っ込んだのだから当然であろう。ラクレットは今の衝撃のせいか全身が痛む中
その通信にこたえる。


「こちら、『エタニティーソード』回収お願いします」


それだけ言うと、ぬるま湯につかっていくような感覚の中、彼は意識を手放した。

































「「「「「「ケーラ先生!! 」」」」」」


「はいはい、患者が寝ているのだから、静かにしてね」


あの戦闘の後、僅かばかり捨て駒のように戦場に残っていた敵戦艦を瞬く間に蹴散らしたエンジェル隊は我先にと、先に搬送されたラクレットの様子を見に来ていた。

今頃タクトも、レスターにブリッジを任せてこちらに急行している事であろう。レスターも別にタクトに他意はなく、むしろ彼の背中を押しだしてきたくらいだ。
『エタニティーソード』から送られてきていたバイタルデータでは特に異常があったわけではなかったのだが、やはり心配であったのも事実だったからである。


「それで、様態は? 」

「前回と違って、ストレスで寝込んでいるわけじゃないわ。単純にオーバーワークの後の疲労よ。少し眠れば目を覚ますでしょうね」

「よかった~、私ラクレット君にもしものことがあったらと思うと心配だったんですよ」


陣羽織と上着を脱がされ、Yシャツ姿で眠っている彼を指さして、ケーラはそういった。彼女のその言葉に一先ず安堵する彼女たち。彼女たちからすれば、このしょっちゅう気絶する仲間は心配をかけさせる迷惑な奴でもあるが、大事な戦友でもあるのだ。
現に、彼女たちも久方ぶりの再開であるのにもかかわらず、そういった挨拶なしに、格納庫からここまで走ってきたのだ。

穏やかな空気が戻ってくる中、ふとちとせは先ほどから抱えていた疑問を口に出した。


「あの、ラクレットさんの頬の出血は? 先ほど通信では両頬から流していましたが」

「え? これと言った外傷はなかったわよ? 」


ちとせの言葉に眉をひそめつつ、そう答えるケーラ。一応言い終わってからもう一度ラクレットに近寄り確認する者の、傷も血の流れた後も確認することができなかった。


「そうですか……見間違いだったのかもしれません……」

「おーい! みんな、ラクレットはどうだい? 」

「司令、医務室ではお静かに」

「ああ、ごめん」


そこに、タクトが息を切らせながら走って入室してきた。部下を心配する上司として、戦友を思う仲間として彼はラクレットの事が心配だったのである。
それにケーラが答えようとするものの、ベッドの上でラクレットがもぞもぞ動き目を開いた。


「……気分はどうかしら? 」


寝ぼけ眼のラクレットに向かってケーラは話しかけた。2,3秒ほど反応を見せなかったが、すぐに意識が覚醒したようで、ケーラを見つめ返した。


「問題ありません……ここは医務室ですか? 」

「ええ、そうよ。貴方は戦闘の戦闘で倒れて、そのまま運び込まれたの、これで何回目かしらね? 貴方の倒れた回数」

「いやー、数えたくないですね。あ、みなさんご迷惑をおかけしました」


ベッドに座りながらも頭を下げるラクレット。もちろん、土下座のようなものではなく、上半身だけ起こして、頭を下げるといったそれだ。

案外元気そうなので、とりあえずエンジェル隊は、先程の礼を言って格納庫へ帰って行った。機体の簡単な整備やら、確認等の仕事があるかである。タクトはしばらく残って珈琲を飲みながらサボっていたが、レスターから呼び出しをくらってもらい、ブリッジに戻っていった。








おまけ 


わかりやすいラクレットのエンジェル隊+『エルシオール』スタッフ好感度一覧
クジラルームでクロミエに頼んで教えてもらいました(笑)
100点満点です 色は原作準拠
(知らない人の為に補足すると、原作ではクジラルームに行くとクロミエにヒロインの好感度を教えてもらえます。ですのでヒロインが彼をどう見ているかです)


ミルフィーユ 70 黄色
ランファ   50 緑
ミント    60 黄色
フォルテ   55 緑
ヴァニラ   60 黄色
ちとせ    50 緑
ココ     55
アルモ    50
ケーラ    40
クレータ   40
梅さん    75
レスター   80
クロミエ   秘密です







タクトの場合
ミルフィー  500 赤
ランファ   100 赤
ミント    90  黄色
フォルテ   95  赤
ヴァニラ   90  黄色
ちとせ    85  黄色
ココ     75
アルモ    70
ケーラ    65
クレータ   65
梅さん    70
レスター   85
クロミエ   秘密です



[19683] 第9話 そろそろタイトル考えるのが大変になってきた
Name: HIGU◆36fc980e ID:cb2b03dc
Date: 2011/09/15 07:14







第9話 そろそろタイトル考えるのが大変になってきた







先の戦闘から一晩経ち、『エルシオール』内につかの間の平和が取り戻された頃、エンジェル隊とタクト、ラクレットはティーラウンジでお茶としゃれ込んでいた。エオニアとの戦いでは、最も大きいテーブルは6人掛けだったのだが、今はだれがそろえたのか、8人が囲える大きな丸いテーブルがあった。

戦闘の後、ルフトに通信をつないで、レナ星系で補給を受けるように指示を受け、同時に送信しておいたデータの重要度を確認し合ったのだが、残念なことに増援を送ってもらうのは不可能とのこと。『エルシオール』はクロノドライブの緑色の空間を進みながらレナ星系へと向かっている。

まあ要は仕事がないわけで、全員で再会を祝ってお茶会をしようという訳である。


おきまりな近況を確認しあい、ラクレットが軍に正式に入り、名実ともにエンジェル隊に逆らえなくなったことを茶化したりと、いつものように大変にぎやかな会話となっていたのだが、当然のごとくタクトとミルフィーの関係について話が飛んだ。

色恋話は、この年代の少女たちにとっては、栄養剤であり、格好のデザートであるからして、至極当然な流れであろう。




「それで、タクトさんはミルフィーさんとはどうなんですの? 」

「あ、そうそう、ミルフィーからメールで聞いてはいたけど、やっぱり本人の口から聞かないとね」

「そーいや、目の前でいちゃついているのは見るけど、家ではどーだったんだい? タクト」


というわけで、すでに何度も話している惚気……説明を繰り返す。


「オレはミルフィーと一緒にいられれば、それで満足だったからね。キスもまだだし、二人でのんびりしていたよ。ね? 」

「はい、私もタクトさんのお弁当作って、デートに行って、それで幸せでしたし」


自然にタクトに返事をするミルフィー、やはりこの二人は最高の恋人同士なのかもしれない。
あの、ミルフィーの紋章機独断専行の後も、すぐに関係を進展させるわけでもなく、お互いのペースで歩いて行こうと元鞘に落ち着いたのだ。
もっとも、それに納得し合っているのは本人たちだけのような、ある種特殊な関係であり、当然のごとく周囲からの反応は


「……あら、まぁ……どーやら私の予想とはだいぶ……」

「え~~~!! なに、ちょっと、タクト! あんたまだキスもしてないの!! 」

「あ~やっぱり、そうだったかい」


三者三様の反応にもはや癖となっている、左手で頭をかく動作をするタクト。彼からすれば別段おかしなことをしてないし、同時に自分が世間的に微妙におかしいことも知っているからである。


「うん、今は満足しているからね」

「私もタクトさんと約束していますから……」


ねー と顔を見合わせながら笑いあう二人、本当に一人身にはつらい光景だろう。
そんな中ラクレットはいつものブラックコーヒーをさらに濃くしてもらって正解だったと一人心の中で頷いていた。

そんな、二人のあま~い光景を見たランファは、ふと疑問を抱き二人に問いかける


「ねえ、タクト。アンタはミルフィーのどこが好きなの? 」

「え? 」

「いや、単純にこの天然幸運娘の何処が好きなのっていう話よ」


タクトは、ミルフィーのことが好きだというアピールはしているのだが、実際どこが好きなのかを話したことがないのである。
まあ、そうそう話すことでもないと思うのだが。
その質問に対して、悩むようなしぐさを見せつつも、律儀に答えようとするタクト。まああまり気にしていないだけなのだが。


「うーん、やっぱり笑顔かなー。ミルフィーの笑顔を見いてると、なんだかこっちも元気をもらえるんだ」

「ハイハイ、ごちそうさまですわ」

「本当よー、にしても案の定見たいなところね、こいつと違って」


聞いてきたのに、ノーサンキューな態度を取るランファとミント。常識的にどうかと思われるが同時に感情的に納得のいく反応である。
逆にタクトは、ランファのもらした科白に反応したようだ。


「え? ラクレットがなんか言っていたのかい? 」

「ああ、こいつ私たち全員に惚れているから」

「ええ、それはもう熱烈な告白をいただきましたわ」

「そうそう、いやーあれは傑作だった」

「男性から思いを告げられたのは初めてです」

「あ、そういえば私も!! ってあれ? 告白だったの? 」


ラクレットにとって忘れたい思い出を掘り返されて、彼は必死に平静を装いつつ珈琲を口に運ぶ。カップをつかんでいる右手の小指がピンと立つという、普段は意図的に消している癖が出ているのが彼の動揺を現しているだろう。
というより、その話を誰かにするのは反則ではないか? と内心涙目なのだ。

そして、これに驚くのはちとせとタクトだ。

タクトは、いつの間にそんなことをしていたんだという、単純な事実に。
ちとせは、普通にいい少年だと思っていた彼が実はものすごく手が早く浮気性な人物のように見えてきて。


「そうよーミルフィー、ほら、ラクレット言ってみなさい、あの時のセリフ」

「ちなみに、録音しておりますので、お忘れのようでしたら、私が再生しますわ……全員分」

「言います……言いますから勘弁ください……」


内心どころか、完全に涙目になりつつラクレットはそう呟くしかなかった。
彼はもう、エンジェル隊の自他ともに認める玩具だからだ。

ラクレットは、ミルフィーの方に向き直って、深呼吸する。相変らず良くわかっていないミルフィーのニコニコ顔に気圧されて、タイミングがつかみにくいのだ。


「なあなあ、いったいどういう状況だったんだい? 」

「フォルテさんが、彼の本心を明かした時に課したイニシエーションですわ、なんでも私たち全員に憧れに似た感情を持っていたそうで、どういった所に魅了されたかを全員に言うという」

「ああ、なるほど……」


その間に、ミントにこっそり尋ねるタクト、ラクレットが自発的に告白をするなど考えられなかったのだ、それも全員に。

ラクレットにとって不運だったのは、タクトが別に自分の彼女に年下の従兄弟で部下が告白しようと、(それが遊びだと知っていれば)一切抵抗がない人物だったことだろう。
そして、不幸中の幸いが、今のタクトとミントの内緒話をちとせが聞き耳を立てて、納得していたことだ。


「僕は、ミルフィーさんの流し目に惹かれました。格納庫を歩いている時、振り返りざまにその桃色のきれいな髪をなびかせながら、色っぽくこちらを向いた表情に心臓が高鳴り、しばらく釘付けになってしまう程でした」


そして、その微妙に注意がそれている瞬間を感じ取り、ラクレットはミルフィーにその思いを告げた。

話は少々脇に連れるが、彼の言っている流し目はMoonlit LoversのOPで順番に出てくるエンジェル隊の一番最初のシーンのことだ。あれが印象に残っている人は多いであろう。ラクレットもその一人だったという訳だ。気になる人は確認してみることをお勧めする。


「わー、私って流し目できたんだー」

「ミルフィー、そのリアクションはどうかと思うがね、前とまるっきり同じだよ」

「はい、確かにミルフィーさんは前回もそのような反応をしていた記憶があります」


「なろほど、流し目ね、確かにミルフィーがしたらすごく魅力的かもしれない」

「本当ですか? それじゃあ今度やってみますね、流し目」

「はいはい、ごちそうさまですわ」

「本当、おなかいっぱいで胸焼けしそうよ。あ、店員さんアイスティー追加、タクトの伝票に」


本当にいつも通り和気あいあいとした、『エルシオール』のひと時だった。
こんな感じですごし、あっという間にレナ星系の指定された補給ポイントに到達する。



「ラクレットさん、複数の女性に同時に好意を抱くのは……あまり褒められたことではありませんよ? 」

「ですから、恋慕でなく、憧れですって!! 」






実に平和であった。






















「ドライブアウトします」

「周辺をスキャンしろ……まあおそらく平気だろうが……」


無事補給の為に指定されたポイントにたどり着いた『エルシオール』 彼らはすぐに周辺宙域を探るが、一応重要な軍事拠点の近くで、警備がしっかりした場所だ。故にそこまで過敏な警戒が必要な地域ではなかったのだ。

現に────


「前方5000に補給艦、並びに護衛艦3隻を確認、通信入りました」

「繋いでくれ」


目と鼻の先に、補給してくれる艦があったからである。


とりあえず、細かい話は後回しにして、さっそく補給に入るのであった。



しかし、ここで『エルシオール』は思わぬ懐かしき来客を迎えることになる。



話の調整の為に、数人の人員がシャトルで『エルシオール』に来る手はずになっており、司令であるタクトはで迎えのため格納庫にいた。
今か今かとシャトルから降りてくるのを待っていると、シャトルのドアが目の前で開き、中から凛とした、高貴なるものの雰囲気を漂わせた、少女が降りてきた


現在の皇国の最高指導者であり、歴代でも最年少で即位した女皇
シヴァ・トランスバール女皇陛下である。


『エルシオール』が騒然としたのは言うまではないが、驚くのはこれだけでは早い

補給品の項目の中に、こういった1文があったのだから、

────クロノブレイクキャノン 一門














「久しいな、マイヤーズよ」

「そうですね、オレの叙勲の儀以来ですから」

「別に、そなたのだけという訳ではなかったのだがな」


現在、タクトとシヴァ女皇は二人で『エルシオール』の中を歩いている。レスターは補給関連の調整をしており、シヴァ女皇の部屋は急ピッチで掃除中であるが故、女皇を一人にしておくわけにもいかず、タクトが相手をしているのだ。
もっとも成るべくしてこうなったわけであるが。

『エルシオール』に増援を送ることはできない、なぜなら戦力が手いっぱいだからだ。
ならば、クロノブレイクキャノンを送ろう、そうすれば攻撃力と言った面での不安は消える。
ロストテクノロジー云々の話もあるので、現在皇国を慰問中のシヴァ女皇陛下も合流していただければ、ロストテクノロジーの権威も送れて、その護衛の戦力も回せて一石二鳥だからだ。

そういった理由で、今回の補給となったのである。


「にしても、まさか女皇様が来るとは思ってもいませんでしたよ」

「皇国、いやシャトヤーン様は例のメッセージを重く見ている。故に私が来たのだ」

「中央の方ではルフト先生が地獄を見ているのか……」


もはや、タクトたちを驚かせることが日課になってきたルフトは、現在馬車馬のごとく働いている。
これも皇国の明日のためである。



二人は、そのままティーラウンジまで足を運んだ。その場所ではちょうどエンジェル隊がお茶をしているからだ。
彼女たちはまだ、シヴァがこの船に乗っていることを知らない、結構悪戯好きの側面があるシヴァはタクトの後ろに隠れるようにして、近づいた。


「やあ、みんないつものようにお茶会かい? 」

「そうよー、今日も平和におやつの時間よ」

「ええ、日々の日課をこなすことも軍人の仕事ですわ」

「先輩方が私も同席して良いとでしたので」

「そんな、いちいち気にする必要ないよ、ちとせ。何せ私たちは」

「仲間ですから」

「ふむ、いいことだ。エンジェル隊が変わりなくてうれしく思うぞ」

いつも通りのやり取りをする5人に、ナチュラルに混ざりこむシヴァ。
ヴァニラの言葉にそうそう、と首を縦に振りつつ同意する3人の動きが同じタイミングで止まる様は中々に笑えるものだった。

「って、えぇぇ~~!! シヴァ皇子……じゃなった女皇陛下!!」

「どうしてこちらに? 」

「なに、慰問の途中に合流したまでだ、なかなか興味深い話になっているようだからな」


悪びれもせず、しれっとそう言い放るそれは、女皇のそれではなく、悪戯好きな少女の(それでもかなり気品とオーラは出ている)ものだった。

自身の性別を明らかにしてから微妙はっちゃけている彼女である。

そこに、お菓子が完成したので持ってきたミルフィーと、その手伝いをしていたラクレットが合流する。
特に驚くしぐさを見せずに、お久しぶりですーとニコニコ笑顔で答えるのと、礼儀正しく一礼して挨拶するのの二人になんとか場の空気が元に戻りつつあった。
緊張でいっぱいいっぱいのちとせを除いては。


「ふむ、彼女がエンジェル隊の新隊員か、確か烏丸ちとせと言ったな」

「っはははははい!! エンジェル隊に所属しております烏丸ちとせ少尉です!! 」

「そう堅く成らなくともよい、私もそこまで気にする方ではないし、何よりここは『エルシオール』だ。このゆるゆるのマイヤーズが指揮する艦だからな」

「ゆるゆるはひどいですよ、女皇陛下」

「事実ではないか」


和やかに会話を進めるものの、やはり初対面であるちとせはいっぱいいっぱいだ。シヴァもそれを察したのか、適度にスルーして、ラクレットの方を向く。


「で、ヴァルターよ、久しいな」

「ええ、叙勲の儀において陛下のご尊顔を拝見して以来です」

微妙に言葉遣いが怪しい中丁寧に答えるラクレット。
シヴァはその彼を見て意味深に頷く


「ふむ、前の戦ではあまり顔を合せなかったが、今回は正式な軍人だ、私の為に働いてもらうからな」

「陛下の力に成るように、微力ながら努力を惜しまないつもりです」

「お前は面白いな、これならば前からもっと話しかけておけばよかったかもしれん」


どうやら、ラクレットを気に入ったようで、シヴァ皇子はご満悦で、ティーラウンジを後にした。
入口の所で侍女が控えており、彼女に合流し、部屋に向かったのであろう。長旅の疲れを休める必要があるからだ。
最も今も旅の道中だが。


なお、ちとせは気絶ことしなかったものの、かなりぎりぎりで、ミルフィーのお菓子の味が分からなくて悲しそうにしていた。











さて、ルフト宰相、将軍 は皇国において最も優秀と言っても過言ではないとされる軍人だ。
彼が白き月の防衛司令なんという名誉職に就いていたのは、貴族出身者の嫉妬による左遷であり、仮に彼がそう……貴族の妾の子だったとすれば、軍においてトップに君臨したであろう。
それぐらい優秀な人物だ。

そう、そんな彼は常に二手先三手先を読んで行動している。
そんな彼が仮にとある案を実行しようとしていたとする。

そして、それをより迅速に実行する術があったのなら、これはもう、そうするしかないのである。

何が言いたいかと言うと 護衛艦隊のザーブ級戦艦ひとつに、乗っていたのだ




ラクレットに軍人としての心構えを叩き込む人員が
そう、これより、ラクレットの受難が始まる















次回は閑話 ラクレットの1日です
内容はお察しください







[19683] 閑話 ラクレットの一日 MLver
Name: HIGU◆36fc980e ID:cb2b03dc
Date: 2011/09/21 08:08







閑話 ラクレットの一日 MLver




ラクレットの一日の始まりは早い


「朝だ!! 起きろ!! ヴァルター少尉!! 」


「了解であります!! 」


『エルシオール』を護衛する戦艦の時間で午前5時には叩き起こされる。
通信で呼ばれるのだ、クロノドライブ中ならば、自室ではなく、戦艦の方で寝ることになる。
これも修練の一環だ。彼のお目付け役となった、この艦の副長である少佐は、時間に厳しい軍人だからでもある。


「よし!! まずは早朝ランニングからだ!! この装備を背負って10km それが終わったら汗を流して、0630までに食堂に集合、解ったな!! 」

「了解であります、ただいまより走らせていただきます!! 」


彼が背負わされている、重りの重量は15kgほど、体重の2割もあるが、背負いやすい形である……と言うか重さを自動調節できるジャケットなので、そこまで問題があるわけでもなかった。
疲れることに変わりはないが。

何とか1時間弱で10kmを走りきったラクレットは、急いでシャワーを浴びる、『エルシオール』の自室に戻る時間などない、用意されている着替えを手に持ち、更衣室へ走る。
時間的余裕はあまりないので駆け足だ。




軍人たる者、朝食の時間ですら無駄にすることはできない、今日の特訓メニューの詳細が入ったデータを渡されるので、空中にウィンドウを浮かせ、眺めながらの食事だ。
なお彼のメニューは、トランスバール皇国の高い技術力によって、長期間の航海中もおいしい料理が食べられるにもかかわらず、冷凍のおかずと、堅いパンである。これは新兵をしごくのに使われる特別メニューである。

この艦はもともと、赴任してきたばかりの新任を、目的地に着くまでに一人前にするという事が可能な艦として有名であり、クルー全員が今度のガキは何日で認められるかかけをしているくらいだ。


今日のラクレットのメニューは昨日に引き続き、シミュレーターで仮想敵と戦い、圧倒的に足りない軍規や、戦略的思考を補うための座学を受け、筋トレと言う名の地獄を味わい、格闘訓練をこなして終了と言う、解りやすいものだ。

そして、この順番だが、最もラクレットが辛い様にされている。
彼は、戦闘機を動かすとスタミナを大量に消費してしまう。大部ましになったものの、彼の体力的には、想定の半分程度の時間しか戦闘を持続できていない。
つまり、まず1番疲れるものをやらせた後に、頭をつかわせ、また体をしごき、最後に緩んだ心身を格闘訓練で喝を入れるだ。

まあ、効率はいいものの、正直やりすぎだろと彼自身思っている。


だが、初対面のことを思うと、絶対楽しんでやっているだろうと確信していた。







「私が今日から君の教育を担当する、カトフェルだ。階級は少佐、この艦では副長を任されている」


「エルシオール中型戦闘機部隊、隊長ラクレット・ヴァルター少尉であります! 」


初老の黒く焼けた肌をもつ男性の前で直立不動で敬礼するラクレット、補給が終わった時に呼び出されたのである。

理由も今一解らず行ってみると、どうやらこの前のルフト将軍の彼を鍛えなおすという案を 今の移動時間を使ってやってしまおうという事だった。


「さて、ようこそ私たちの艦へ、この艦の乗組員は全員海の男だ、男が2割しかいない艦にいた君からすれば、カルチャーショックかもしれないな」

「はぁ……」

「なに、すぐに慣れるさ。この艦のクルーは『エルシオール』から来た君を大いに『歓迎したい』と言っているからな」


とてつもない理不尽を感じるラクレット、彼の使い込まれた結果研ぎ澄まされた不幸センサーは、信じられないような感度を誇っている。
あ、これは嫌な感じだ そう思った結果がこれだ


「さて、早速はじめようか、君の再教育をね」


この日からラクレットはカトフェル少佐を筆頭とした艦のクルーからそれはそれは丁寧な指導を受けることになる。













「まずはシミュレーターだ」


そう言われて、ラクレットは『エルシオール』に比べると幾分も無骨な────と言っても軍の一般的なシミュレーションルームに案内された。
この艦では戦闘機を搭載していないため、あまり使われることはないが、それでも充実した部屋である。


「さて、少尉。君はエンジェル隊を除けば……いや除かなくとも皇国で最強の戦闘機乗りの一人だ」

「お褒めに与り光栄であります」

「うむ、だがそれに機体の性能が大きく関与している事をまず念頭に置くべきだ」


そう、ラクレットがここまで見事な功績を得ることができているのは単に『エタニティーソード』という最高の相棒がいるからなのだ。

単純な『クロノストリングエンジン』搭載機であると同時に、ありえないほど複雑な操作機構が搭載されており、それをラクレットはなぜか半場無意識に操れるという、チートじみた事実がある。

これがやはり大きいであろう。もちろんデメリットもある。
彼のスタミナならばやはりより、長時間の操縦にも耐えるはずなのだが、『エタニティーソード』はその複雑性からなのか、かなり体力の消耗が激しい機体である。
それは、今までの彼の戦闘後の疲労具合を見ていれば解ることだ。


「このシミュレーターは、急遽一部仕様を変更して、少尉の『エタニティーソード』の操作性に酷似させている、存分に励みたまえ」

「了解!! 」


ラクレットが試にシミュレーターの内部に入ってみると、『エタニティーソード』の操縦席とは違うものの、ペダルやレバー等の位置や数が酷似していた。
これには白き月の恩恵があるのだが、それは別の話だ。


「さて、先にも述べたとおり、このシミュレーターでは互いの性能差を自動的に補正させるシステムが搭載されている。少尉の機体を遅くしては特訓にならない、故に敵が大幅に強化されていると考えてくれ」


要は、敵のカタログスペックが紋章機レベルになったという事だ。これはラクレットにとってはかなりの悪条件だ、なんせその速度で動くような敵は、攻撃を当てるだけで精いっぱいなのだから。


「そして、今回特別にルフト将軍から、ある人物のデータをもとに作り出されたAIのシミュレーター使用が許可されている、光栄に思いたまえ」

「ある人物……ですか? 」


先のエオニアの事もあって、皇国では、無人艦や無人戦闘機があまり好まれていない。その前までも実は戦闘機のAIによる操縦技術はあったが、そもそも『紋章機』クラスの出力がないと、あまり戦況に意味をなさないという純然たる事実が、積極的な運用を妨げていた。
(そもそも戦闘機を使用する局面と言うのが、海賊や反政府グループの基地への短期潜入など限定的な状況に限られていたというのもある)

しかしながら今回、ルフトはラクレットを扱く為にスペシャルなプランを発動させていた。
よかったね、ラクレット 特別扱いだ、主人公みたいだね。


「ああ、数十年前、皇国軍最高の技術を持ったパイロットとして崇め、そして恐れられていた人物だ。しかも、本職は特殊部隊の工作員だったのにだ。当時一般的でなかった二つ名まで付いたという、それはもう尊敬すべき先達だ」

「……して、その人物は?」

「白き超新星の狼」

「ウォルコット・O・ヒューイ中佐!! 」

「そうだ、光栄に思え、最強の名を受け継ぐためには越えなければならない壁だ」


そして、ラクレットの受難が始まる。敵は
『トリックマスター』レベルの速度
『ラッキースター』レベルの旋回
『カンフーファイター』レベルの攻撃力
『ハーベスター』レベルの装甲
『ハッピートリガー』レベルの射程
『シャープシューター』レベルの探知能力
を持っている。

具体的には紋章機基準で
『速度や火力は並だが、小回りが利き圧倒的な射程を持つ』
という乗り回しやすい機体である。

そんな機体を繰るのは、圧倒的な経験から最適な判断を導き出し、正確に攻撃を当ててくるというAIだ。
速度で勝っていても、射程が違いすぎるので近づくのが困難な上に、近づいても旋回のレベルが高いため捕捉ができない。


「ッぐ!! ちょこまかと!! 」

「熱くなりすぎるな!! 常に頭の片隅に冷静な判断をできる部分を作れ」

「了解……っく!! 」


そんな機体となぜか時間無制限のタイマンを張らされているのがラクレットである。
敵のエネルギーは尽きないが、こちらのエネルギーは減少する設定であり、何分間耐久できるかと言う目的だ。
重要なのは、破壊することよりも、生き残ることである。
もちろん、敵を撃破したら、新しい敵が出てくる仕様である。


「ぐはっ!! 」

「今の攻撃は回避できないものではなかったぞ!! もっと視野を広くもて!! 」

「了解!! 」


次第に慣れてきたラクレットは、その指示を的確にこなし始める。
しかし、彼が慣れた様子を見せると、設定がより厳しくなってゆく。
敵に破壊不能の攻撃衛星からの援護砲火が加わるところから始まり、単純に敵の頭数が増え、こちらのシールド残量が少ない状況から始まり……と言った具合だ。

とにかく、生き残ることが大切だという事を彼に叩き込む、それが今回の教導の目的である。


「はぁぁぁ!!! 」


絶望的な状況の中、彼はひたすらもがき続けるのであった。





































一方、その頃のタクト達は

燦々と照らす太陽(映像)、青い空(映像)、白い雲(映像)、輝く海(人口)
そんな場所に彼らはいた。
たわわに実った少女たちの肢体を隠すのはたった5mmの布きれのみ。天使のような6人が集い戯れる様は、さながら天国、楽園か。


「そーれ、ランファ、いったよー」

「任せなさい!! とぉ!!」

「おーと、そうはさせないよっと!! ミント!」

「あ、ええと……えい! と、とれましたわ!! 」

「私も……あ……」

「ヴァニラ先輩、ファイトです、次はきっとできます」

「おーい、オレも混ぜてくれよ━」

「いいですよー」

「よーし、それじゃあ次はタクトを的にしてやってみましょうか? 」

「お、そいつはいいねぇ? 」

「ちょ、ちょっとまってくれよ」


タクトはそう、クジラルームのビーチで、全員水着のエンジェル隊と、ビーチバレーに勤しんでいた。
楽しげに遊ぶ彼女たち、それを少し離れた場所で、大きなパラソルの下後ろに侍女を侍らせて飲み物片手に眺める女皇様と。


今日の『エルシオール』は平和であった。





























「よし、それでは、これから座学を始める、昨日に引き続き軍規の基本からだ」

「了解」


次に始まるのが、彼の苦手な座学だ
といっても、苦手な理由が、単純に体を鍛えている方が好きなだけで、そこまで勉強が苦手なわけではない。
彼は頭はあまりよくないが、学校の勉強はできるタイプだ。
頭でっかちともいう。


「トランスバール皇国 特別規律その38」

「戦場に赴く前に結婚の約束をしては成らない」

「トランスバール皇国 特別規律その39」

「友人に故郷で待っている妻や息子の話をしては成らない」

「トランスバール皇国 特別規律その40」

「「オレ、この戦争が終わったらあの娘に告白するぜ」といってはいけない」


内容はあれだが、真面目に勉強しているのだ。
そう、この規律だって、このような事を言っていた兵士の死亡率がなぜか高いことに気付いた、百年ほど前の統計学者が意見したのを、当時の皇王が
「それ、いいんじゃね?」
というノリで制定されたものなのだから
ちなみに、違反者には
「オレの負けだ。殺したければ殺せ」
「フッ……このオレもとうとう年貢の納め時か……」
「もうだめだ……ここで終わるんだ……」

等の文句を言う義務が発生する。


こんな感じでラクレットは急ピッチで知識の詰め込み作業に従事させられている。
しかも、試験の一夜漬けのように短期で覚えてればいい(実際はよくない)ということではなく、これから一生の間念頭に置かねばならないルールなのだから、結構な骨を折る仕事だ。
しかし、彼は毎度のごとくペース配分を考えられない全力投球で、文字とにらめっこを続けるのだった。










































一方、その頃のタクトたちは




「おじゃましまーす。わ、すごい床が草でできてる……これが本物の最近ドラマやアニメで出てくる『タタミ』か」

「あ、タクトさーん」

「こっちこっちー」


後で私の部屋に来てくださいと、ちとせに言われて足を運んだタクトはとりあえずちとせの部屋の構造に面食らっていた。
最近いろいろな娯楽作品で出てくる古代からある民族的伝統的な建築様式に使われる『タタミ』だが、実物を見るのは初めてだったのだから。
そして、障子の奥、縁側のそばでエンジェル隊は花火をしていた。


「いやー、花火って言ったらもっとこう『ドーン!! 』と派手なのを考えていたけど」

「こういうのも中々趣があって素晴らしいですわ」

「ええ、綺麗です」

「私の故郷では線香花火と言って、夏の風物詩でもあるんですよ 」


淡く光輝き燃えてゆく、小さな光を見つめる6人の天使たちと言う幻想的な光景に
タクトは思わず息をのみ、一歩離れて見物していた。
その花火が燃え尽き、全員でやってみようと声がかかるまで。


やはり『エルシオール』は素晴らしく平和だった。






















「ぐはっ!! げふぅ!! がぁ!!! 」


「どうした!! 脇が甘いぞ!! もっと腕を下げて防御に徹しろ!! 」


ラクレットは現在格闘訓練と言う名のリンチ……にみえるれっきとした訓練をうけている。
彼としては強くなりたいのだから望むところではあるが、やはり圧倒的実力差がある相手と長時間手合わせを続けるのは精神的に来るものがある。
その結果集中が緊張により解けてしまい、攻撃をもろに食らう。そしてそれを注意されて、戦闘続行。
と言った大まかな流れができてきている。


「まだ!! 負けるか!! うぉぉぉぉ!! 」

「その意気だ! 」


しかし、ラクレットも身体能力と言う点では中々に優秀なポテンシャルを持っている。
数日間繰り返されているこの煉獄に囚われたような苦行の果てに、着実に鈍足ながらも成長している。


「ぐわぁ!! 」

「っく! 」

「相手の間合い、リーチを忘れるな!! それが分からねば死ににいくだけだ!! 」


現に初日では20分もそのままの意味で、立つ事すらできなくなるようなレベルのダメージを受けていたのだが、今の彼はまだ相手の隙を見つけたら攻撃に転じる気概を持つまでになった。経過時間は30分ほどだ。
この成長速度はカトフェル少佐も予想外であり、10分ごとに交代させている、ボランティアで志願している教官役のクルーが口笛を吹きながら舌を巻いているのに、おおむね同意だ。


「っくぅ~~!! 」

「闇雲に振りかざした攻撃は、自滅への全力疾走だ!! 控えろ! 」


ラクレットは最終的にスーパー戦隊モノの一般的人間ヒーローが、スーツを着ていないレベルの身体能力を有することになるのだが、そこまで至ってない、まだ体が出来上がっていない14歳の彼でも光るものはもっているのだ。


「っそこだぁぁぁ!! 」

「甘い!! だが、悪くはなかった」


先の通り、隙を見せた教官に一撃あてに行くが、一気にバックステップで距離を離され、回避されてしまう。
しかし教官のクルーは冷や汗をかいている、攻撃のラッシュをしていても全く沈む気配を見せず、此方へと攻めに来る少年に。



「よし、今日はここまでだ、エルシオールに戻れ。明日は午後からでいい、存分に体を休めたまえ」

「ハァハァ……了解!! 」




こうしてラクレットはシャワーを浴びて、『エルシオール』に戻っていった。すぐに眠ろうと思ったが、体が火照っており少々風に当たろうと、銀河展望公園に足を向けることにした。
































一方その頃のタクトたちは





ある作戦を開始しようとしていた。

事の発端はランファの
「やはり恋人同士がキスをしないなんておかしい」
というもはや洗脳だと思われるほど強く断言された言葉に タクトが動かされたからである。

ランファからすれば、もうとっととくっついて、さっさと幸せになってもらいたいのだ。
なのに、この男「オレはミルフィーを大事にしているからね」的な感じで
手をつないで歩いてれば幸せ~
などと抜かしていたのだ。

彼女的には許されないレベルの行動だった。

そしてタクトも、これからはミルフィーに求めるという事もしてみよう
と決心しているので、その第一歩として、恋人に、愛しき人に接吻をしてみようというわけだ。



そんなタクトは、ミルフィーを銀河展望公園に呼び出していた。


















「タクトさん、お話があるって聞きましたけど、こんなところで何のお話ですか? 」

「あ、ああミルフィー。えーとね、ちょっと大事な話っていうか、用件があって……」

「要件ですか? 」


今一歯切れの悪いタクトのその態度に首をかしげるミルフィー。なんというか純粋無垢で天真爛漫と言った言葉が良く似合う、そんな彼女だ。一方のタクトはいっぱいいっぱいだ。これから恋人との関係を一歩、二人で手をつなぎ仲良く進めようというのだから、至極当然と言えばそこまでなのだが、彼は22歳だ。ちょっと二の足を踏みすぎであろう、一般的な視点で見るならば。


「えーとね、」

「? 」


そして、そんな二人を見つめる怪しい5つの影がすぐ近くの茂みに存在した。いわずもがなエンジェル隊の残りのメンバーである。
タクトのちょうど背中側1Mほどにある、やや大き目の茂みの中に5人は息を殺して潜んでいた。そんな狭い場所に潜み、何をしてるかと聞かれれば、覗きだという答え以外はこの世に存在しえないであろう。


「いけ!! いくのよタクト!! さっさと決めちゃいなさい」

「そうそう……その調子で話を切り出すのですわ」

「ほうほう、面白くなってきた」

「あの……先輩方、やはりこういったことは」

(ここにいて、強く止めない時点で貴方も、そして私も同罪です……)


そう、タクトは自分の恋人との逢瀬をすべて部下に見られているのだ、気付けタクト、お前は監視されているぞ


「だから、なんというか……その……ミルフィー、目をつぶってくれないか? 」

「あ、はい……つぶりましたよ? 」


何するんだろー? と小声で呟く、彼女の警戒心は0だ。まあ彼女に警戒しろと言う方が無理だが
そして、ヒートアップする野次馬

「そうよ!! いけ行くのよ!! 」

「ああ、ちょっと!! ランファさん私の足踏んでいますわ」

「ミ、ミント押さないでくれ、バランスが……! 」

「先輩、私! 足がしびれて動けません」

(あ、)


しかしここで不幸が彼女たちを襲う
かなり密集して、無理な体制をとり続けていたのだ、限界に向かって足を進めていたのと同義であろう。
つまりは誰かがバランスを崩してしまったのだ。

そして体を寄せ合っていればどうなるかはよくわかるであろう。総崩れだ


そしてタクトの方も……


「ああ、だめだ!! こんなんじゃできるわけがない!! 」


疑心0のミルフィーに顔を近づけたが、罪悪感に苛まれ耐えきれず、勢いよく一歩後ろに後じさった。
しかし、すぐ後ろは、茂みがある様な、道の端っこだ、
当然のごとく小さいが煉瓦で仕切りが引いており、それに踵を引掻けて、此方も同じくバランスを崩してしまう。


「ぐわっ!! 」

「「「「「きゃっ! 」」」」」


芝生にしりもちをついて倒れてしまうタクト、その上に見事に覆いかぶさるようにランファが倒れこみ、その右にフォルテが、上にミントが、左にちとせが、その上にヴァニラが倒れこんだ。
一気に5人分の女性の体重に加速を含んでのしかかられ、全く持って身動きが取れず、動揺してしまうタクト。
ちなみに、エンジェル隊の体重はトップシークレットだ、どうしても知りたい人はアニメ1期の9話を見ればいいかもね。


「だ、大丈夫ですか!? タクトさん!! それにランファ、ミント、ちとせ、ヴァニラ、フォルテさん!! 」


慌てて駆け寄り、タクトの傍にかがみこむミルフィー。仰向けに倒れているタクトは後頭部を打った可能性があるかもなのだ、エンジェル隊は、覆いかぶさるようにうつ伏せにたおれて、しかもクッション代わりのタクトがあったが。
何とかどこうとするものの、長時間の不自然な体制により、うまく足を動かせず苦戦している、彼女たち。なにより体が覆いかぶさりあっていて、混乱していたのもあるが。


「う、う~ん……みんな~早くどいてくれ~」

「どけるものなら!! 」

「とっくの昔に!! 」

「おりていますわ!! 」

「あ、えと、その!……」

「重いですか? 」

「ああ、皆さんタクトさんがつぶれちゃいます~! 」


大変カオスでいつも通りな光景が再現されつつあったが、そこに金属────スチール缶が煉瓦の敷いてある道に落ちて跳ねる音が状況を遮った。
その音源となった人物は、この世の終わりを切り抜けたと思ったら、それが絶望の集合体が来る条件で、より深い地獄への片道特急切符(返品不可)を押し付けられたような表情をしていた。

両の目は完全に濁っていながらも驚愕に打ちひしがれていて、右手は、スチール缶を持っていたであろう形のまま保持されているが、逆に左手は力が抜けたのかだらりと下げられている。口は半開きで、呼吸音が聞こえず、意味を成していない。
無音で零れ、広がっていく泥色の液体が、彼の足もとをも侵食しても、彼の体は彫刻のごとく、動く気配を感じさせなかった。


音の下方向に振り返った、この騒ぎの元の7人は、その少年、ラクレットの姿を認めた。

ラクレットの見たものは、尊敬する従兄弟で上官に対して、同じく尊敬する上官で戦友たちが覆いかぶさっており、うち一人は寄り添い腕をからめているといったものだった。
お分かりいただけただろうか、彼の見たものを。



「………………」

「「「「「「「………………」」」」」」」


誰も何もしゃべらない、硬直したまま、きっかり3秒が経過した。
その後ラクレットは何とか息を吹き返したのか、開かれた瞳をやや伏し目と言ったものに変え、乾いたというよりも、漏れてしまった微量の溜息をはき、僅かに口を動かす。
そこから生まれた振動は、こういっているように聞こえた。


「……そう、これが……現、実。……わかっていた、格差……認、識の、不足……思い上がりを、修正しない、と」


彼の瞳に涙はなく、ただただ理解した。自分の持つべき領分というものを。そうそれだけだった。
そして、そのまま踵を返し立ち去る背中は、なぜかより大きな、一回り成長し大きく見えるそれだった。


とりあえず、エンジェル隊はタクトからどいて、その場に集まっていた理由をタクトにごまかして、それぞれその場を後にした。

ラクレットのことは、次の日に顔を合わせたときには、ほとんど変わりがなかったので、特にこのことには触れなかった。
なにせいつも通りに挨拶して、いつも通りに丁寧な口調で雑談し、共に紅茶と菓子を楽しんだのだから。これと言った距離感はなく、エンジェル隊側が拍子抜けしたくらいだ。



そして、レナ星系の目的の地点につくまで、ラクレットはほとんどをカトフェルの指導のもと過ごすことになる。
それにより、戦艦のクルーと妙な一体感ができていくのは、きっと彼が人間として成長したからであろう。




斯くして、『エルシオール』は問題の場所に到着する。強奪船団の本拠地であり
宇宙クジラの感知した、謎の電波の発生源に────



銀河を巻き込む壮大な戦の火蓋が、間もなく切って落とされる




そのことを知る人物は────









[19683] 第10話 遭遇
Name: HIGU◆36fc980e ID:cb2b03dc
Date: 2011/09/28 23:54





第10話 遭遇




そこは、真紅が支配する、幻想のような世界。しかし幻想とは真逆、高度な科学により統制された空間だ。

そんな場所で眠り続けていた少女は、しばらく前に目を覚ましている。
彼女の使命を果たすには、覚醒する必要があるからだ。


「で、いい加減あんたの話に移るわ。あんた何者よ?」

「俺か、そうだな、科学者だ」

「……いいわ、科学者なのは納得よ、知識もあるみたいだし。でもね、なんでこの『黒き月』のコアの中にいて、そして一部の機能を使えるのよ? 」


少女の疑問はもっともだ。『クロノブレイクキャノン』により粉々になった『黒き月』だが、幸いにしてコアの部分は無事だった。
そのコアを何者かが回収し、機能の一部を取り出し、利用し始める。
当然それに気づいた彼女はそれを止めるべくプログラムの切り離しを行おうと意識を覚醒させて、対応を始めようとすのだが、なぜかコアの内部、管理者である自分しかいない空間に、少年と青年の合間のような男がいたのだ。

管理者の少女と同様にコールドスリープによる仮死状態で、彼女の覚醒をキーに設定していたのか、すぐに目を覚まし、当然のごとく彼女の手伝いを始めた。

そもそも通常の人間ならばアクセスすらできないようなコア内部で、『黒き月』の機能を使用して切り離し準備をするという、それこそ自分以外ならばインターフェイスしかできないであろう行動を彼は息をするかのごとくやってのけた。



「そーだなー……詳しいことは自分でもわかってないのだが、俺はロストテクノロジーを解析し、理解し、運用することができる」

「特殊能力保持者? にしたって都合よすぎよ、そんなことあるわけが……」

「子供でも科学者だろ、観測した現象を否定するなよ」


しれっとそういう男に対して少々のいら立ちを覚えるものの正論の一つではあるので、不満を飲み込む。
実際彼のおかげで、大量生産システムや『黒き月』制の紋章機『ダークエンジェル』の設計図は守れたのだ。
結局本体から切り離す羽目にはなったが、これにより敵は強力な一部のデータを回収し損ねているのだ。ざまー見ろである。


「まあいいわ。そういうことにしておいてあげる」

「そうしてくれると大変助かる。まあ俺がこうしている理由は君なんだがな」

「私? 」

「ああ、君の姿を一目見たときからね、君と話してみたいと思っていたんだ」

「っな、なに言ってんのよあんた!! 」


男からすれば、超文明のテクノロジーの中心で眠っている少女に科学的な興味を持ったことから始まった関心であるのだが、一般的にそのように聞こえないから困る。まあ実際今は両方の意味をはらんでいるが。


「は、話を戻すわ!! あんたこれからどーするのよ」

「通信ログに入っていたんだが、『弟に合わせろ』らしい」

「あれ言語だったのね……ますます興味が沸いたわ……あんたの話聞かせない、今は暇なんだし」

「了ー解」











































『エルシオール』は現在敵の本拠地とされる、『レナ星系 資源衛星レミナス』に到達した。
そこはすでに採掘が粗方終わってしまい、専用の機械を使い惑星の本当に奥底から、掘り出してくる必要があり、先の大戦でその機械が壊せれてしまっており、復旧作業に追われ放置されていた場所だ。
例の通信もそこからとされ、謎の艦隊(今ではレゾム率いる新・正統トランスバール皇国軍と判明されているが)の目撃証言から見るに、この近辺が本拠地と視られている。


「う~む、どーだろーね? 」

「さあな、だが油断だけはするなよ」

「解ってるって、『クロノブレイクキャノン』まで積んでるんだ、大丈夫だとは思うけどね」


現在『エルシオール』は、前回の大戦で『黒き月』を葬った最強武装、砲身が200M以上ある主砲『クロノブレイクキャノン』を搭載している。
これがあれば、大抵のものは撃ちぬけるからか、タクトの顔に緊張は見てとれなかった。


「ザーブ戦艦副長カトフェル少佐から通信です」

「繋いでくれ」


と、そこへ護衛も兼ねている戦艦から通信が入る。この戦艦では艦長が大変老齢のため、椅子にどっしりと座り権限の多くを優秀な副官のカトフェルに委ねている。それでもそれこそ、ルフト宰相よりも軍歴の長い艦長は伝説の男としてクルーからは畏怖の念で見られている。


「こちら、カトフェル『エルシオール』、衛星の上部を探ってくれないか? あそこがきな臭い」

「了解した、アルモ」


レスターの指示で、皇国で最も優秀なレーダーやソナーを搭載した『エルシオール』の探査機器をアルモは動かした。数秒で映像がメインスクリーンに出る。
そこに移されたのは






「ば、馬鹿な」

「そんな……」

「あれは……まさか!! 」

「『黒き月』……だと」


そこにあったのは、前回の大戦で破壊したはずの敵の超兵器『黒き月』だった。
しかし、サイズがかなり小さくなっており、衛星に寄生するかのような形で表面だけを露出させていた。


「フッハーハハハハァ!! 」

「レゾム!! 」


馬鹿っぽい叫び声とともに、すでに見慣れた男が出てきた。何時ものような馬鹿笑いをしつつ大口を開けている彼の後ろには、ネフューリアがいない。おそらく本拠地だからか、本拠地にいるのだろう。


「『エルシオール』よ、貴様らの命運もここまでだ、わが手にはこの『黒き月』がある!! これがあれば無敵!! 何人たりともこれを倒すことはできない!! 」


「「……」」


なにか、良くわからないことをほざいているレゾムに対して、レスターとタクトは顔を見合わせる。


「なあ、レゾムもしかしてお前知らないのか? 」

「な、なんのことだ!? 」

「『黒き月』を持っているエオニアが何で負けたんだ? 」

「え? 」


レゾムのリアクションに、やっぱりか~と言った具合に肩をすくめて大げさにリアクションを返して、焦らずじっくりタクトは返した。


「その『黒き月』を壊したのは、今『エルシオール』についている主砲『クロノブレイクキャノン』さ」

「つまり、その『黒き月』は攻略済み、加えてその材料はここにある」


丁寧に補足するレスター、彼の態度もやや皮肉気だ。まあそれはいつもの事ではあるのだが。


「っく、くそ――!! えーい!! 全軍突撃━!! 『エルシオール』を撃て!! 」

「あー、じゃあこっちもお仕事の時間か……」


通信が切れて、戦闘前特有の緊張感がブリッジに走る。
敵の頭は相変わらずだが、ココは敵の本拠地。しかも隙を見て主砲を撃ち込まない限り敵は大量の戦艦を製造できる、長期戦は避ける必要がある。


「それじゃあ、総員戦闘開始、『エルシオール』防衛は、護衛戦艦とラクレットに任せる。エンジェル隊は『エルシオール』が主砲を撃てる位置に行けるように敵を薙ぎ払ってくれ!! 」

「「「「「「了解」」」」」」

「了解した」

「了解だ」

「了解!! 」


敵にはばれていないが、『エルシオール』にはシヴァ皇子が乗っている。別にばらしてレゾムを委縮させる手もあったが、レゾムはやけっぱちになって気にしない可能性もある。というより自分こそが皇国の支配者にふさわしいとおこがましいにもほどがあることを割と本気で考えている節があるので、存在は秘匿することにしたのだ。
まあともかく、『エルシオール』の安全には細心の注意を払う必要がある。故に味方の護衛戦艦は護衛に使う。敵の巡洋艦以下の速度を持つ艦は応戦してもらい、それより早いのはラクレットが足止めする。修行の成果である。



敵の数は膨大であったが、すでに敵のデータは出揃っているし、此方は銀河最強エンジェル隊に、最新鋭戦艦3隻と戦力の面では十分。そしてなにより今回敵の指揮を執っているのはレゾムだ。
お世辞にも名将と言える人物ではない。即ち油断さえしなければ勝てる。


案の定、エンジェル隊は近寄る敵を見事に薙ぎ払い、道を作り。戦艦は敵を確実に仕留めてゆき。
増援の戦闘機も、『シャープシューター』が狙撃するまでラクレット一人で足止めすることに成功し、『エルシオール』は無事重点を完了させて、発射可能位置に到達した。


「『クロノブレイクキャノン』発射!! 」


そして迷わずに撃つタクト、迷えば相手に付け入るすきを与えてしまうのだから当然である。
爆炎に包まれ輝く『黒き月』の露出した部分が煙に覆われ見えなくなる。
しかし破片と思わしきものが煙のそとに散らばってゆき、爆発四散したことがわかる。



タクトたちの表情が緩んだその瞬間、そいつは現れた。



































「出てきたわ、タイミングを見誤らないように」


「わかっている、おそらく一戦交えるだろうからそれからだ」


それをデブリの陰で観察する紅の輝きを放つコアがあることを誰も知らなかった。










































煙が晴れ 現れたそれは、トランスバール皇国人の常識の範疇外なものだった。
全長何キロメートルかわからないような巨大な戦艦なんて、それこそファンタジーかSFだ。


しかし、それが目の前にある



「御機嫌よう『エルシオール』諸君、どうかしらこの『オ・ガウブ』の姿は? 」

「────っく!! 」


左右対称の超巨大戦艦、それが『オ・ガウブ』だった。
『黒き月』の超テクノロジーを持って作られたそれは、黒き月の生産能力をほとんど保持しており、戦闘能力が高い、そして何より緩衝剤である黒き月があったとはいえ、星すら貫きそうな『クロノブレイクキャノン』をくらっても壊れていないのだ……


「おい、どうするタクト!! 」

「……とりあえず、もう一発クロノブレイクキャノンを当てるしかない!! 」


タクトはそういう事しかできなかった。司令官である彼が、『クロノブレイクキャノン』でも敵のシールドを貫き傷をつけられるかわからないのだが、それでも彼が不安な顔をしていたら一瞬でそれは伝染するのだから。


「マイヤーズ司令、こちらカトフェルだ、一戦交えてデータを取るのも軍人の仕事だ、そちらの判断を優先しよう」

「そうですね、それじゃあ防御重視で充填まで耐えきりましょう」

そうタクトが提案すると、直ぐに相手側からデータが送られてくる。
開いてみると座標が記された地図だった。


「いや、今のポイントでも打てるがF68E3に行けば万一の場合クロノドライブで逃げるのも容易い」

「そうですね、タクト、俺からもそう提案する」

「二人がそういうならば、それが最善だな、進路をF68E3へ!! 『クロノブレイクキャノン』充填急げ」


タクトがそう指示すると、あわただしい空気がさらに動き出してゆく。そもそも余裕なんてないのだ。
この場所は敵の本拠地、どこに伏兵がいてもおかしくはない、そんな場所だ。


「エンジェル隊、引き続き防衛頼む!! ラクレット君は護衛戦艦の手伝いを!! 」

「「「「「「「了解」」」」」」」


そうやって決意していると通信ウィンドウが開きレゾムが馬鹿笑いして、澄ました顔をしているネフューリアに対して話しかけている。
とりあえず見守る面々、だが二人のあまりにも開きある温度差に不穏な空気を感じる。


「フハハハハ!! いいぞ、ネフューリア!! 『エルシオール』をって!! なぜだー!! なぜ吾輩まで攻撃する!! 」

「あら? どうやら勘違いしているようだけど? 」



その瞬間、ネフューリアの顔が獰猛な猛禽類のそれへと変貌する、そして


「な、なんだ!!その顔は!! 」

「クク、愚かな人間ども、私の指示で動いてくれたが、もう用済み……消えなさい!! 」


腕、足、顔と露出されている皮膚の表面に赤いラインが走る、そうそれは人間にはあり得ない状態だ。
さすれば、彼女は人間ではないのであろう。
なぜならば、彼女は人間ではない……


「私はヴァル・ファスク、この銀河の支配者よ」






[19683] 第11話 敗走
Name: HIGU◆36fc980e ID:cb2b03dc
Date: 2011/10/06 19:49


第11話 敗走


「ヴァル・ファスク? なんだ!! それは!! 良いから攻撃をやめんか!! 」


「レゾム閣下、貴方は非常に優秀な────駒でしたわ」



ウェーブのかかった黒髪を右手で払い、支配者としての冷酷な表情を見せる彼女からは、人間味という暖かさがまるで感じられなかった。それが先の人間ではないという発言をより信憑性を高めているような気がして、タクトはごくりと唾を飲み込む。ねばねばして中々喉の奥へと落ちていかないそれが、気にならないくらい掌は汗でびっしょりだ。


「っく、う、うわあああああああああああああああああ!!! 」


そして、その言葉と共にレゾムの乗る旗艦が爆散し、消え去ったのだ。そのあまりに衝撃的な光景に、彼らは声を出すことができなかった。映像自体のインパクトもあるが、なによりもその非情な行動が、人間の理性と感情に挟まれている不安定な存在ができることなのか? そんな疑問が先の人間ではないという発言の信憑性を高めている気がした。

もちろん、現在だって、『クロノブレイクキャノン』の充填率は順調に上昇中で、目標ポイントの一歩手前に到達だってしている。今の会話の間も、此方にとっては有利なことに時間が経過しているのだから。
しかし、ここで意外な人物が動く


「おい!! ネフューリア!! 」

「あら? 貴方はラクレット・ヴァルターね」


ラクレットだ、なぜか彼は、いきなり彼女に話しかけたのである。
もちろん理由はある。相手がヴァル・ファスクと言った意味を真の意味で理解しているのはこの場で彼しかいない。当然のことだが。そして彼は戦闘中の間無駄に良く回る頭で判断した。
敵は完全な合理主義で、理性で動くタイプの女だ。そんな彼女はまず自分の予想を立てて、それに沿って動こうとするであろう。故に彼女のことだ、自分が正体を明かしたならば、敵がどのような反応を返してくるかなどは、完全に予想済みだ。
だが、それはおそらくタクト・マイヤーズの反応を想定している。なぜならばこういった状況の時、敵の真理を揺さぶり、情報を聞き出そうとするのは、彼の真の姿を知っている人物からすれば予想することはそう困難なことではない。
ならば、いかにタクトを動揺させることを目的とした会話を組んでいるはず。
そこで自分が暴発したことにすればいい、タクトに次いでエンジェル隊全員から質問にされることもきっと予想に入っているであろうが、公の場では自分から通信の発言をすることの少ないラクレットを呼んでいる可能性はほぼないに等しいからだ。


「ヴァル・ファスクとかいったな!! その体を光らせる能力は感情が高ぶると使えるのかよ? 」

「あら、どうしてかしら? 」

「普通、ウザったい上官を殺したら、心躍るだろうからな!! 」

「あら、あなた案外過激ね、でもそういう訳じゃないわ。貴方も知っているでしょう? 」


ラクレットは、敵の視線が完全に自分に向いていることを感じた。どうやらこちらを観察して分析しているようだが、どうも自分の予想とは違うのだ。彼は、自分が相手にそこまで大きく見られているとは思ってもいない。エンジェル隊と同程度だろうと客観的に考えている。
故に、観察か、分析が中心となり興味と言うものは薄いと考えていたのだ。しかしどうやら彼の自分の敵からの視線に鋭い分析……ようは直感では、怒りのような羨望のような、そう行ったよくわからない感情と、結構な興味の視線を向けられていると感じたのだ。


「私は最初から、あんな突撃猪に、敬う気持ちなどは持っていないわ。私は銀河の支配者ヴァル・ファスクの先兵であり、『黒き月』を利用してこのオ・ガウブを作らしてもらったわ」

「へー、いきなりあらわれて支配者ね、その先兵さんは随分自信過剰みたいだね」


と、ここでタクトがバトンタッチする。ラクレットが繋いだ会話の糸口を手繰り寄せる為だ。彼はラクレットの考えをすぐさま理解し、絶妙なタイミングで割り込んできた。
あと少しで充填が完了するのだ。それまで相手の攻撃を遅延させるのが目標だ。


「私は自信家で有るけど、過剰だと思ったことはないわ。貴方たちが貯めているそのご自慢の武器で試してみる? 」

「ああ、試させてもらうよ」


そして、充填が完了し、まばゆい光が、主砲に集まる
巨大な星すら貫く威力を持つ、『クロノブレイクキャノン』の充填がMAXとなったのだ。


「『クロノブレイクキャノン』発射!! 」



放たれた主砲が、敵艦のシールドで、止められつばぜり合いのようにギリギリと押し合う。ただでさえまぶしい光線が、輝き何も見えなくなるような強烈な光でモニターが満たされる。思わずタクトたちは目をつむった。
そして、目を開けたときそこには




「フフ……まだわからないのかしら? この『オ・ガウブ』に傷をつけることなんて、貴方達にはできないのよ!! 」


傷一つ受けてないどころか、シールドすら破れていない。そう全くダメージを与えることができなかったのである。
これは通常ならばありえないことだ。なぜならば艦のエネルギーは有限であり、当然攻撃を受けたらシールドは減衰する。加えて、強力な攻撃ならば、シールドがあってもそれを突破して損傷を与えることができる。

そう、全くの無傷と言う状況が起こりえるはずないのだ、少なくとも彼らの知る常識の範疇内では


「ば……馬鹿な……」

「クロノブレイクキャノンをくらって……無傷だと……」


呆然自失とする、タクトとレスター仕方がないことではあるが、ここでして良い行為ではないのは明らかだ。
幸いなのは、敵はどうやらまだ本格的にこちらに攻撃を仕掛けようとする意思がないことだが


「さて、どう料理してあげようかしら? 」


獲物の前で舌なめずりをする狩人は三流と言うが、ここまで実力に開きがあれば、一概にそうとは言えないだろう。
しかし、その隙を見極め生かすことができなければ、窮鼠でも猫をかむことができない


「『エルシオール』聞こえるか? いそいでこの場を退避しろ。クロノドライブまでの時間は我々が稼ぐ」


そして、秘匿回線でそう繋いできたカトフェル少佐は見事な窮鼠であろう。彼等の戦艦の任務はシヴァ女皇の護衛だ。皇国軍人として、自らに課せられた任務をこなせないのは、許されないことだ。
例えそれが、どんなに絶望的なまでの死への一本道だったとしてもだ
それを拒否する権利などない、なぜならば彼らの仕事はこういったときに命を張ること────
戦艦のクルー全員がそれを理解し実行しようとしているのだ。


「そんな!! 何を馬鹿なことをいってるのだ!! 」


しかし、そんなことを女皇陛下が赦すわけがない。彼女は自分のせいで誰かが犠牲になることを最も嫌う高潔な皇だ。しかしまだ彼女には皇としての、命の計算をするには幼すぎる。いくら優秀でもそればかりはむりであろう。


「女皇陛下、ここは我らに課された使命を全うすべき所、今優先すべきは、生き残り本星まで戻り策を得ることです!! 」

「────ック!! 」


本気の気迫に触れ、一瞬たじろいでしまうシヴァ。それは即ち同意したという事とおなじであろう。
彼女の胸中には推し量ることのできないような、ドロドロでぐちゃぐちゃな感情が入り混じり、混沌であった。
自分の愛する臣民を、自分の生きるために殺さねばならない。そんなもの、10歳の少女が背負いきれるようなものではないのだ。


「マイヤーズ司令、皇国を陛下を頼みます」

「……ああ、わかった」

「……ココ、アルモこれより『エルシオール』はクロノドライブ可能な7時方向のポイントに向かう」


タクトは、皇国を守ろうと命を張る男たちの意志を、その一身に背負う決意を心に深く刻みつける。この悔しさ、理不尽さを忘れないように。
敵の兵器の性能差と言う理由だけで、命で時間を換金しなければいけないのだから。


「カトフェル少佐ァ!!!! 」

「ふん、ヴァルター少尉、戦場で取り乱すな!! 貴様は貴様のできる仕事をしろ!! 」


最後の教えとばかりにラクレットに喝を入れるカトフェル、その表情には教え子に対する愛が確かにあった。
そう、ラクレットも分かっているのだ、自分自身のできることをすべきだと。


「少佐!! どうして!! どうして貴方たちが!! こんなことをしなければいけないんだよ!! 」

「少尉、それが軍人の義務と言うものだ」


しかしそれと感情は別。まだスイッチの入ってない彼には割り切ることなど到底できるはずもない。
子供をなだめるようにそう言うと、帽子をかぶり直し、彼はよく通る鋭い声で指示を出す。


「本艦および全護衛艦はこれより、敵旗艦『オ・ガウブ』に突撃する。作戦目標は『エルシオール』のクロノドライブまでの時間を作ることだ。総員我らに続け!! 」


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「了解ッ!!! 」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」



割れんばかりの男どもの声と共に、三隻の艦は前進を開始する。たった三隻だ。三隻の全長を合わせても敵の大きさの半分にも満たない。その上敵の戦力は圧倒的な防御力こそ判明しているものの、それ以外は全く未知数の敵だ。
それでも彼らは行かねばならない、それが彼らの誇りなのだから。



しかし運命の神様と言うものはあまりにも残酷だった。
護衛艦に背を向けて進み始めた『エルシオール』および紋章機と戦闘機。しかしそれを敵は待っていたのだ。

そう、距離が空くのを!!


「さあ、今から見せてあげるわ、『オ・ガウブ』の真の力を!! 」


そう彼女が叫ぶと同時に、敵から一瞬光のようなものが発生し、その瞬間に異変が起こった。敵旗艦に接近し続けていた、護衛艦隊の『クロノストリングエンジン』が停止したのだ。次の瞬間には『エルシオール』と周りの7機も同じように停止してしまう。

そう、彼女が余裕ぶって待っていたのは舌なめずりではない。罠を仕掛けていたのだ。
噛みに来る鼠の抵抗すら許さない無慈悲な罠を


「さあ、目と耳は生かされて、身動きは取れない状況でおびえながら沈んでいきなさい!! 」


そして、内蔵されていたミサイル艦や、高速巡洋艦などの艦が高速で接近してくる。
そう奇しくもファーゴと似たような状況になってしまった。


「────なぶり殺しの時間よ!」


もちろん、『エルシオール』だって、この状況を指をくわえてみていたわけではない。


「っくそ━!!動け!! 動けよ!!! 少佐が!! 皆が!! うわああああああああああ!! 」

「ラクレット落ち着け!! エンジェル隊のみんな!! 羽だ! 翼を出して無効化するんだ!! 」


そう、彼女たちにはまだ抵抗手段がある。可能性は低いがそれを起動すればあるいは────


「仲間が稼いでくれた時間を無駄にするなんてできませんわ!! 」

「ああ、もちろんさ!! 」

「やってやるわ!! 」



しかし、以外にもそこに手を伸ばすものが現れる。



────逃げるわよ! 急ぎなさい!!


「!! この声は!! あの通信!? 」


そう、謎の声が聞こえてきたのだ。その発信源は『エルシオール』の真上


「『エルシオール』情報部に何らかの物体を確認!! 」

────NCFC起動!! これでこの周囲2kmでクロノストリングは動くようになるわ!!


訳も分からないうちに、どんどん状況は進むが、その言葉の直後システムが復旧する。
『エルシオール』の周りを浮かぶ紅の宝玉のような物体の力であることは推測に容易い。


「っく! 今は逃げるしかないのか!? 」


その疑問答えるかのように声がまた響く
しかし


────いいから早く来い!!


その声は、さきの少女の声とは違うものだった。その瞬間ラクレットの動きが一瞬ぴたりと止まった。
そんなことに気を書ける余裕もなく、急かされるように、『エルシオール』はクロノストリングにエネルギーを送る。
そう、彼らはもう後方の三隻を救うすべなどない、おとりとしてのこってもらうしか、有効に活用する道はない


「皆!! クロノドライブで退却だ!! 」


その言葉と共に1隻と7機そして一個は異空間へと消えた


『エルシオール』の敗走である





[19683] 第12話 解説による相互理解
Name: HIGU◆36fc980e ID:cb2b03dc
Date: 2011/10/10 21:56





第12話 解説による相互理解






タクトたちがなんとか、戦闘宙域から脱出した後、クルーの表情は晴れなかった。
結局のところ、護衛戦艦は役割を果たしたのだが、それでもおとりにして逃げざるを得ない状況になってしまったのだから。
しかも今回の敵はどうやら人間ではない、別の生命体のようだという事実も彼らの心に重くのしかかっている。これはタクトの『みんなを信じているからこそ俺はみんなから信じてもらえる。』といった方針による、戦闘時の通信の公開による弊害であろう。
こういった重苦しい空気が少しずつ艦内に蔓延してきていた。

それとは別に、『エルシオール』首脳部にはすべきことがある。
彼らは先ほど敵の不思議なフィールドを解除させ、なおかつ自分たちをここまで導いた存在である、紅い宝玉のような何かの部品を回収し終わったのだ。
その中にはおそらく敵について自分たちよりも見識の深い人物がいる。その人物の協力さえ得られれば、この状況を打破できるかもしれないと考えたタクトは、危険もあるから控えるべきではというレスターの進言を柔らかに否定して、一先ず『白き月』に状況を伝えるように指示を出して倉庫に向かっていた。


同様に現在の戦闘で、戦略的目標を破壊できなかったエンジェル隊の表情は晴れない。しかしながら、彼女たちはそれを表に出さないでいた。
先ほど護衛戦艦を置き去りにしなければいけないという事態から、取り乱していたラクレットの様子がおかしい。
確かにあの戦艦のクルーと彼は信頼関係を築いてきた。この短い期間の間にある種の連帯感と共感を覚えることができたのである。

それは決して悪いことではない、しかしそれを引きずり続けるというのは良いことではない。故に取り乱していた彼の様子が変わったのがいい傾向ではあるのだが、彼が思いつめられた時に見せるどこまでも冷徹で無表情が今も彼女たちの目の前にあるのだ。
そう、彼の表情が凍りついたのは、謎の紅の物質による『エルシオール』を導く通信が入ってからだ。
その声は若い男の声で少年から青年になる合間の色気を感じさせていたのだが、別にそれが何というわけでもないであろう。
エンジェル隊は、なかなか出てこないラクレットを、『エタニティーソード』の下で待っていた。
しばらくすると愛剣である求めを持たずにラクレットは降りてきた。
それがどういった意味を持っているのかはわからなかったが、ともかく今は先ほどの紅の物質が気にかかるので、先を急ぐことにした





格納庫ではなく、倉庫にそれは収納されている。
大きさはそれなりのものだ、荷物コンテナ1つ半くらいの高さがある。よく見ると結構な透明度を持っているようでいて、実際は輝いているだけという全く持ってみたことのない材質でできており、一部関係者以外は倉庫に入れないでいる。
この場に今いるのは、エンジェル隊、タクト、ラクレット、シヴァ女皇のみだ。


「エンジェル隊、戦闘機部隊集合したよ」

「ああ……把握したよフォルテ」


フォルテのその言葉に返事する間も、タクトはそれから目を離さずにいた。するとそれを待っていたかのように、宝石のようなそれが一瞬強く輝く。思わず目を手で覆うのだが、なぜかまぶしさというものを感じないその光に戸惑う。
そして光がやむとそこには、一組の男女が立っていた。
少女の身の丈は小さく10かそこらの子供の様だ、そして、その姿は見の覚えがあるそれだった。男の方は、20前後くらいで、背はやや低め、白衣を着て眼鏡をかけている美少年と美青年の合間のそれだった。


「で、『白き月』の管理者はどこ? 時間がないの早くして」

「は? 」


名前を名乗る時間も、自分達を説明する時間も詰問する時間もないまま、いきなり少女の方が話し始める。


「まず、男ではないから、そこのふたりは論外ね」

「そうだな、だが声に出すのはどうかと思うぞ、もっと言うと今この場に彼女はいない……この艦に『白き月』の管理者はいるか?
君たちでいうところのシャトヤーン様だ」

「すまない……まず先に君たちが何か説明してくれないか? 」


もっともな疑問を投げかけるタクト、それに対してあからさまに不機嫌そうな顔になる少女と、皮肉気に笑う眼鏡の男。
しかし、男の方は話が分かるのか、すぐにでも反論しそうな少女の口に左手を翳し押し止めて、一歩前に出る。


「そうだな、ここで10分使い相互理解に努めた方が、この後の話も早く進む。まずこの少女だが……」

「ノアよ、『黒き月』の管理者、早く『白き月』の管理者を出しなさい」

「おっと! 質問はこっちが名乗り終わってからにしてくれ、きりがない」


少女────ノアのその発言のタイミングで、数人が息をのんだ。詰問しようと一歩前に出たが、その勢いをうまくいなされてしまった。眼鏡の男はそのまま、少年────ラクレットの方を見据えながら、口を開いた。


「俺の名前は、カマンベール……今は『黒き月』の研究をしているが、それまで何をしていたかは、そこのそいつがよく知っているはずだ」


右手を前に伸ばし、ラクレットを指さすカマンベール。全員の視線がラクレットに集まる。ラクレットは既に完全に冷え切っている頭を起動させる。先の護衛戦艦のカトフェル達の犠牲による動揺など欠片も見えない、そんな異常性も周りの人間からすれば些細なこと、今のカマンベールの発言の方が注目されている。


「ええ、お久しぶりです兄さん、お変わりないようで何より、それと任務ご苦労様です」

「……ああ、久しぶりだ弟よ」


きっちり30度頭を下げて、機械のように精密な動作で戻るラクレット。それに対して、受け取るものがあったのか、一瞬で何かを思考しラクレットに合わせるように答える。


「おいおい……どういうことだい?」

「兄さんって……アンタまさか!! 」

「ええ、彼は僕の兄です。下の」


瞬時に驚きの波がそこから広がっていく。彼のそのあまりにも平坦な態度にも疑問を抱かずに、その事実だけを見ての反応だ。まあ無理もないであろう。なぜならば、自分たちにとって全くわけのわからない存在が実は、ラクレットの兄だったのだから。それこそ実は
他文明に属する人類だといわれても納得できるような存在だったのだから。


「で、なんか長くなりそうだから先に聞きたいのだけど、ここに『白き月』の管理者はいないのね? 」

「シャトヤーン様は、現在『白き月』にいる、故に私が直々に「あーはいはい、いないのがわかればそれでいいわ。カマンベール相互理解とやらを深めていて頂戴、私は策を考えているから」」


シヴァ女皇が、そう説明しようとすれば、即座に彼女は割り込んでそのまま、紅のコアの中に戻っていった。自分の話を遮られるという経験があまりない彼女にとっては、ショックだったのか呆然としていた。


「あー、はいはい。わかったよ、とりあえず、何から話すべきか……」


カマンベールはマイペースなノアに成れているのか、直ぐに話し始めようとする。とにかく疑問や疑念、そして陰謀から疑心さらに自分勝手な行動と、大変場が混沌としてくる。そして、その場を以外にも打ち破ったのはラクレットだった。


「皆さん、手短に説明します。この男性、カマンベール・ヴァルターは私の兄です。前皇王陛下の命により、エオニアについて行き、エオニアの動向を観察していたそうです。先の少女ノアは、おそらく『黒き月』の管理者でしょう」

「なっ!! ……それはいったいどういう事だ!? 」

「それを今から説明しましょう、まずは私の兄について」


詰問を受けても表情すら変えない彼の異常性にようやく、周りの数人が気づくが、ラクレットの表情はひたすら無を映し出している。
そして彼は語りだす。

兄によって書かれた架空の真実を────



先代の皇王が出資する研究所の研究員をエオニアの元に送り込んだ。


この事実を知っている人物は少ない、しかし歴史上そういった事実があったことになっている。後世の歴史家もそう信じて疑っていないのだ。

まず、世紀の科学者カマンベール・ヴァルターはもともと兵器開発の研究をしていて、当時、そういった力を欲していたエオニアが接触するのは時間の問題と思われた。この時皇王は、先手を打つことにした。そう、カマンベール・ヴァルターを抱き込んだのだ。

事実、エオニアが反乱を起こしてすぐに鎮圧されたので、その際に、対外的にエオニアについて行ってもおかしくなさそうな、彼を送り込んで、エオニアの惑星外で、ロストテクノロジーなどを入手した際に、何らかのアクションを起こさせないように、妨害をするという計画がたった。このため、カマンベールが直前に休暇を取っていたのは、ジーダマイヤのリークしていた情報により、クーデターの起こる間に命令を受けて準備をしていたためということにされたのだ。

もちろんこれは極秘裏にだ。ジーダマイヤなどと言った軍の人間は到底知りえることではない、政府の最重要機密。カマンベールと皇王の関係はごく一部、一握りの人間しか知りえない事であった。もちろん後付にしないように、エオニアが出立したのち、政府の最重要機密から、機密に格下げし、軍の高官や、一般貴族も知りえることとし、皇王の策謀を対外的にアピールするつもりであった。

しかしながら、ここで誤算が発生する。彼の顔がテレビ局のゲリラ的な取材により発覚してしまったのだ。そのため、この計画を表に
した場合、後付で取り繕ったように見えてしまう。これは、策としては下策だ。故に、この策は表にせずに、皇王とその周りの一部だけが知りうることとなった。



「この直属の命令は、その際にもらったものです。まだ幼かった、僕はこのことを知りません、兄がもしこのような事態になった場合渡すようにと……」


そういって、ラクレットは、皇王の直筆によるサインが入った命令書を提示した。これは偽装されたものではなく本物であることが一目瞭然であるもので、彼の発言の信憑性を高めている。


「そ、そんなことが……なるほど、父上の策略か……」

「ええ、勅命をうけた俺は、エオニアの下で働いていた。だが、『黒き月』を発見して、その制御を得るためのインターフェイスを味方に付けたエオニアは、俺を幽閉した」

「そして、決戦時、エオニアが死に、拘束が弱まった時に、『黒き月』のコアにたどり着き、そこに身を隠していたのか……」


そう、筋道は通っている。この皇王の勅命を示す書類が、圧倒的なサポートをしている。そう、女皇である、シヴァも納得してしまう程だ。


もちろん上は架空の事実、歴史の教科書に載っている虚構だ。
当然ながら、カマンベールは自分の意志で着いて行っている。
エオニアに拘束されていたのではなく、自分から『黒き月』に入って出てこなかった。

しかし、彼らは信じた皇王の勅命は、それだけの価値がある。
それを偽造するなど、ありえないからだ。そう、シヴァは自分自身が清く正しい皇であるからこそ、そういった発想に持って行けなかった。
もちろん勅命事態は本物だ。しかし、それ自体が本当に皇王が考え、出したものなのかは別である。


歴史の闇に消え去った真実はこうである

カマンベールの思想はやや、危険だったため(皇国や白き月よりも、強力な兵器を開発しようとしているように見えた)に追放する名分がほしかっただけであったのだ。
そのため、エオニア追放に合わせて危険思想を持つ民間人という事で何らかの罪で拘束する予定だった。(当時16歳だが、皇国の刑罰は15から適応)
しかし、彼が自らエオニアについていくという事となったために、カマンベールにはそういった罪が適応されなかった。

そう、それだけ。皇王など一切関与していない。
しかし、それならばなぜ勅命などが残っているのか、それは簡単だ

エメンタールがわざわざ、父親についっていった理由がそれなのだ。
そう、彼は偽造した。厳密には大量の寄付により、貴族の高官の一部に、そういった命令を出させたのだ。

カマンベール・ヴァルターは皇王の命令で国外に追放されるエオニアについていく予定だった。

という事実に塗り替えるために。


「うむ委細承知したぞ。しかし、なぜわざわざこのようなことを? 」

「弟がせめて、反逆者にならないようにですよ……兄からできるせめてもの手向けです」」

「そうか……皇王陛下には私から通しておこう、なに丁度ほとぼりを冷ますまで隠居する星がほしかったのだからな」

「ありがとうございます」


とまぁ、こんな感じだ。
当時の皇王は大変な好色家として有名であった。
加えて無理やりその座についたため市民からの評価も支持も人気も低い。
そのため自分を支援する貴族には大変甘い。

そういった綻びをうまくついてやれば、多少の政治的な力学は動く。なんせもう会うこともないであろう、実質死刑と同じような扱い
を受けた人物のバックストーリーを変更するだけ。そう、言うならばすでに焼却された死体の死因を大量出血から、心臓麻痺に変えるようなものだ。


これは兄が、万が一カマンベールが戻ってきた場合、自分の手足として動かすために、手綱をかけるために仕組んだ恩。
エオニアの思想に染まっていても、エオニアと共に死んでも、『黒き月』と共に砕け散っても成り立たない、お遊びのような策。
だから、読めない。優秀な思考回路を持っている人間は、それをまず否定してしまう。

策として成り立っていない、この戯れに過ぎない行動があったなんて、想像の範疇外。
完璧な未来予測でもできない限り、成就するはずのない偶然。
それを自分から行うなどは、狂人以外に他ならないからだ。


歴史上の事実となる嘘
その嘘がどうして存在しているかの陰謀
そしてそれすらも違っている、本人の意志だったという事実。

その2重の蓋に覆われた真実にたどり着ける者はいないのだ。
たとえ、少々の疑いを持っている、タクトや、フォルテだってだ。

もちろん、この策の最大の弱点はミント・ブラマンシュだ。
読心と言う能力は、こういったことすべてを凌駕する。策をいくら重ねても、裏側から覗きこまれるのだから。

しかし、それすら対策済み、この策をラクレットが知ったのは、つい先ほど、渡されていたデータを解答したからだ。
ラクレットはエメンタールに、『カマンベールを発見したら読め』と言い含められている。

そう、事前には一切知らされていない。ラクレットだって心の底から、実は皇王による勅命だと思い込んでいる。
兄からの手紙は自分の意志でついて行ったとあるが、それこそこの策を成功させるためのフェイクと信じ込んでいるのだ。

さらにそこには日本語で説明が書かれており、ラクレットの思考を強制的に日本語にしているのだ。


対するカマンベールは全ての思考を日本語と英語によって行っている。
最近トランスバールの標準言語で思考し始めたラクレットと違い、研究者として自分の頭で考えるときは自分の使いやすい言語を使う癖のついたカマンベールは、当然のごとくミントに思考をよまれることはない。

そして最後に、全員が話を理解しようと整理している間に、弟に近づき、久しぶりの再会を演出している兄は、ラクレットが読み上げている資料の後半の古代文字────日本語でより詳細なこの策を理解した。


そう、これにより事実にほころびが発生することなどない。
ラクレットが失策をしようにも、その失敗をするだけの事実を知らない。
カマンベールが、失言をすることなどないのであるから。


「まあ、そういうわけだ。今は別に俺のことが信じられなくてもいい、信用なら後で勝ち取っていく。それより重要なのは目先の事だろ?」

「ええ、一応これで兄の身分は保証されました。今後の話をしましょう」


そういって話題の転換を図る二人、疑念の目を完全に取り除けたわけではないが、それでもこの非常時ならば、話を実行せざるを得ない。


そう、重大な説明すべき話題は
ラクレットの兄と名乗った人物の正体
先ほどの敵の正体と狙い
先ほどの少女の正体と目的
の3つもあるのだから。



「それじゃあ、さっきの女の子について聞いていいかい? 」


ようやくペースを取り戻してきたのか、会話の主導権を握ろうと舵を切り出すタクト。もうあとは流れに任せるままでいいラクレットは、力が抜けたのか、椅子に腰かけている。ちなみに長い話になるからと、司令室まで移動している。


「ああ、質問してそれに答える方が早いだろうな」

「よし、それじゃあまず、オレはあの娘を前に見たことあるんだ。黒き月を管理している少女だったんだけど……」

「先に少し出した、インターフェイスのことだな。本体である彼女は、ずっとコールドスリープを施されてコアの中で眠りについていた」


余裕綽々でそう答えるカマンベール、態度は大人のそれだが実は身長がランファよりも小さく160cmと数ミリしかなく、白衣を着た子供と言ったように見えるのはご愛嬌か。正直ラクレットとどちらが年上に見えるかと聞かれれば悩んでしまうレベルだ。7つの年の差があり彼はタクトと同い年なのだが……
そして、その発言を聞いて真っ先に反応したのはシヴァ女皇陛下であった。


「まて!! それはつまり 『黒き月』の起こした被害は関与していないから関係ないと言い張るつもりか! 」


彼女は女皇として、『黒き月』の残した皇国への傷跡は絶対に忘れてはいけないものととらえている。
それは当然であろう。『黒き月』がなければあれだけ莫大な被害を出すこともなかったのだから。


「その点については、ノア自身に聞いてくれ、彼女にも目的があったんだ。そして俺はそれに協力したいと思っている」

「目的? ……目的だと!! 皇国の罪なき市民の命を使ってでも果たさねばならない目的など!! 」

「陛下、少々落ち着いてください」


タクトの取り成しに、熱くなりすぎたシヴァは一瞬で我に返る。そう今はそんな禅問答をしている時間ではないのだ。
直ぐに顔をあげ、カマンベールに向き直る。そう今必要なのは情報だ。


「あいつの心の内まで知りたいなら直接さしで話すといいさ、それで、ノアについてほかに質問はあるか? 」

「……彼女は何者なんだい? 具体的には」

「俺の知る限りだと、先文明であるEDEN時代の人間だ。外敵に備えるために作られた『黒き月』の管理者だ」

「外敵? それってさっき言っていた……」



「ああ、ヴァル・ファスク 人間を超越した寿命と能力を持つ異種族な存在だ。皇国の敵になるのだろうな……」















とりあえず早くできたのであげます
基本は水曜日更新ですがね・・・



[19683] 第13話 再び月へ
Name: HIGU◆36fc980e ID:cb2b03dc
Date: 2011/10/17 18:24





第13話 再び月へ





ヴァル・ファスク
それは我々人類とは起源を別にする生命体。
種族としての歴史は人類よりも長いとされているが、事実は確認できてない。
EDENの歴史書によると、数百年前に突然現れたそうだ。
人間との違いは3つ。
まずは寿命、彼らは千年以上の時を生きるとされている。その為でもあるのか、子孫を残そうとする行動に対してあまり積極的ではなく、出生率は低いそうだ。
次に、彼らの価値観は人間と大きく違う。徹底的な利己主義で合理主義の集団で裏切ろうとも裏切られても、相手の能力と自分の能力の比較をして、それで終了。といったように、ただ単に優秀であることを美徳としている。
そして最後に、種としての固有能力だ。彼らは特殊なインターフェイスを介する必要があるが、それを通じればあらゆる電子機器を手を使わずに自分の手足のように意志で操作できる。これがミルフィーならば、掃除洗濯料理を同時にこなすカリスマ主婦ですむが、艦隊を率いる軍人ならば、あらゆる艦と、その搭載艦、戦闘機を自分のキャパシティ一杯まで一人で操れるのだ。

そう、たった一人でも兵器を作り出す移動型工場を掌握しそれを改造して戦艦にしたならば?


国を滅ぼす脅威となりえるのだ。









そんな説明を受けた、タクトたちの表情は複雑だ。
そもそもそれを信じられるかどうかの話だが、彼らは機械を操っているとき、皮膚に赤いラインが走る。現に先ほどの戦いでもネフューリアは終盤、その白い肌に真紅のラインを走らせていた。

何かしらのトリックがあるにしても実際手足のように戦艦を操っていた。
そう、先の話が事実がそうでないかはともかく、敵がそれをできるのは事実なのだ。


そのまま、呆然としている面々に淡々と説明を続けるカマンベール。
やれ、黒き月はもともとヴァル・ファスクに対抗するために白き月と共に作られた。
二つが長い時間宇宙を彷徨うことで優れた兵器としてデータを収集し続ける。
最終的に一つに統合し、それで立ち向かうという数百年かけたプロジェクト。


などと言っていたが、あまりに壮大な話に、タクトたちの頭はパンクしてしまいそうだった。
なにせ、衝撃的な事実を暴露されたばかりであるのだ。そういうなれば、極限状態だ。

そんな聴衆の気持ちを読み取ったのか、カマンベールはそこまで話すと、いったん口を閉じてから、伝えた。


「とりあえず、俺はノアに今日のお前たちの反応とこれからの大まかな方針を伝えておく、今日はお前らも疲れただろうから、明日のこの艦の時間で正午に続きを話そう」

「そうだね、みんなも疲れただろうし今日は解散でいいよ」

「「「「「「了解」」」」」」

「……」


普通に反応するエンジェル隊に対して、無言で部屋を後にしようとするラクレット。
彼の疲労は心身ともに限界を当に越していた。そもそも彼の機体は紋章機よりも大幅に体力を使うことはすでに知っているであろう。少なくともエンジェル隊のミルフィー、ミント、ヴァニラよりは体力があると自信のある彼がここまで疲弊するのだから。
そして心のほうは言うまでもないであろう。


そのままふらふらとしっかりしない足取りで、部屋を後にしようとすが、しかしながら、最後にすべき仕事を思い出したのか、ドアの枠に手をついて振り返る。


「兄さん、積もる話もあるけど、ごめん今日は休ませて。明日時間作る」

「ああ、休め」


そしてそのまま部屋に向かい歩き出す。それを見届けたエンジェル隊の面子も三々五々と散ってゆき、最後にカマンベールが、廊下に待機していたMPとともに、倉庫に戻って行く。

それを見届けたタクトは、司令室の自分の椅子に座り、肩の力を抜く。するとそのタイミングで彼の待ち人は来た。


「お疲れさん、タクト」


「レスターもね……で、どう?」


レスターがここに来たのはもちろんきちんとした理由があってだ。この部屋にあるマイクから先ほどの会話はすべてブリッジのレスターに通じていた。一応ココとアルモやほかのブリッジクルーに聞かせてもよかったのだが、あまりに絶望的な話になると、士気が下がってしまうので、レスターにはヘッドセットをつけてもらい、そこから聞いていたのである

廊下に待機していたMPたちにも万が一の時には即突入できるような権限を彼は持っていたのだ。本当に大事を取るのならば、レスターが話を聞き、タクトがそれを遠くで聞くべきだったのだが、タクトの流儀的にこのような措置を取ったのである。


「奴の言葉をまるまる信用するのは、まず論外としてだ。それでもあの話で多くのことに符号がつく。まるっきりウソってわけではないだろうな」

「血液検査の結果は本当の兄弟で別に変な病気を持っていたわけでもないんだよな」

「そうだ、ラクレットとカマンベールは兄弟だ99.99%以上の確率でな」


レスターは常にタクトに対して否定的、懐疑的な意見を出すようにしている。それは彼が見落としをしないようにするのと同時に、多くの彼の意見がタクトの反対を行くからだ。

まとめると、『怪しすぎるものの、まるっきりの嘘吐きというわけではなさそうだ。これから見極めるべき』といったところか。

タクトとしては、なんか信じて大丈夫なきしかしないので、まあ折衷案となればとりあえず好意的に接して情報をよりだしてもらうといったところであろう。


「それより、タクトお前は、お前の仕事をすべきではないのか?」

あんな衝撃的な出来事の後、エンジェル隊がそのまま汗を流して体を休めるということがないのは、今までの統計的に見て確定的に明らかであろう。
ならばタクトの仕事は、今からこの艦を回り、彼女たちのメンタルケアをして、恋人との時間を過ごすべき。

つまりはそういうことである。


皮肉気に、そして諦めと達観の境地でそういうレスターの顔はもう、慣れてしまったという男のそれだ。
彼にはこれから白き月や本国への報告書の制作、戦闘後の事後処理の続きなどなど、山のように仕事がある。司令官がすべき仕事が。

それをやってやるという宣言である。本当にいい男だ、こんな親友俺にはもったいなさすぎると、タクトは噛み締め、礼だけ言ってその場を後にした。









自室に戻ったラクレット。自分自身の匂いが漂う自室に戻っても、機械的な表情はまだ解けない。心の氷はまだ氷解すべき時期ではない。
これからしばらく、少々行動に影響が出てくるかもしれないが、この艦における歯車として彼は人間よりも部品であるべきなのだ。

シャワーも浴びずに、靴を乱暴に脱ぎ捨て、そのままベッドに倒れこむ。
うつ伏せに寝る体を支えるベッドは、今の彼にとっては、素晴らしいほどの魅力があった。顔を右に向けると、ここしばらく来ていない黒い学生服と、白い陣羽織がハンガーにかけてある。それを見ながら、思考の速度を徐々に鈍らせて、彼は眠りにつく。

夢を見ない、休息としての泥のような眠りに。

















ミント・ブラマンシュは、彼女にしては大変珍しい場所にいた。トレーニングルームである。
自他ともに認める頭脳労働者である彼女は、体を鍛える行為があまり得意でも好きでもない。それを軽んじているわけではないのだが、やはり疲れる行為が好きではないのだ。

そんな彼女は壁に背中を預けて、床に座っていた。服装はいつものそれで、膝を抱えて、その久に自分の顎を載せてボーと目の前で揺れる赤い円柱状の物体を眺めている。
角度によっては犯罪的なものが見えるのだが、まあそれは今触れるべきものではないであろう。
彼女がここにいる理由、それは蘭花・フランボワーズに誘われてついてきたからに他ならない。
なんとなく一人になりたくはなかった。それだけの理由だ。
お互い、に会話をつなぐわけでもなく、ただただそこにいる関係

しかしそこに不快感などない、ただ無心にサンドバッグを攻めるランファ、そしてそれを眺めるミント。ある意味では対照的な二人だが、仲はわりといい。

この二人はエンジェル隊の中において、ごく一般的な乙女、少女としての考え方ができる。物事のとらえ方が比較的理解し合えるのだ。

ミルフィーは天然らしく、わけがわからないことのほうが多く、ヴァニラは少々幼く、フォルテは少しばかり冷静すぎで、ちとせはやや軍人的な気質と天然の気質が強い。

故の二人である。


そして、それが3人になる。


「二人ともここにいたのか……」

「タクトさん……」

「タクト……」


声のかけられた方向に向くと、彼女たちの司令官であり尊敬する上官であり、戦友で仲間な男性タクトが立っている。

彼はそのまま、二人に近づいて問いかける


「不安なのかい?」

「まあ……ね」

「そうでないとは……さすがに言えませんわ」


タクトはその返答を予想していたのか、ニコリと微笑む。忘れがちだが、タクトは21歳ですでに大人に分類される年だ。現代日本では大学生という年だが、すでに正式に任官してから3年以上経っている軍人だ。一応場数は踏んできている。


「さっき、ちとせにも言ったんだけどさ、今は寝れなくとも体を横にして休んでるべきさ」

「頭ではわかってるんだけどね」

「人は理性や道理だけで行動できるわけではないですわ」

「だよね」


やはり、態度を崩さないタクト、その返答も予想済みと言った所か。そのまま、二人に背を向けてトレーニングルームの出口まで行ってから振り返る。


「皆不安なんだ、だからこそ君たちにはしっかりしていてほしい、酷なようだけどエンジェル隊のみんななら、どんなことも乗り越えられるって俺は信じてるからさ」


そこで言葉を切って、タクトは手を伸ばす、この部屋の照明のスイッチに
あ、っと二人が言うまでもなく、ためらいなくタクトは電源を切った。


「明日になれば、ノアって娘と話せる、その時に正常な判断ができるように、この部屋は俺の権限で使用禁止だ、二人ともおやすみ!! 」


それだけ言って、タクトは部屋を後にした。
残された二人は、入り口からの光を見つめながら、どちらからでもなく噴出した。
タクトの顔が微妙に赤かったのだ、やはり戦闘時じゃないといつもの台詞回しは恥ずかしいのであろうか?
なんか、急に明るさが変わったのがきっかけになったのか、二人は少しばかり眠気を感じ、部屋に戻るのであった。



タクトは、その足でフォルテの元に行き、寝るように軽く伝える。
いつものように彼女は射撃訓練場の主をしていたが、悪戯がばれた子供の様に頭をかいて自室に戻っていった。明日には気持ちを整理しているであろう。


そして、医務室に向かうと、そこではヴァニラが病人用のベッドにケーラ先生の膝枕で眠っていた。
ケーラ先生曰く、ようやく眠りについたから起こさないようにとのことで、タクトはすぐに退散する。なんだか親子みたいだななんて頭の片隅で思いつつ、自分の恋人の部屋に向かうのであった。



案の定光の漏れているその部屋のドアを開いてもらうと、食欲をそそる匂いが漂ってくる。


「どうしたんだい? ミルフィー」

「タクトさんこそ、どうしたんですか? 」

「俺は見回り中さ、寝なさいって言ったのに、寝ないで歩き回ってる子が多くてね」

「あはは、タクトさん先生みたい」


にこにこと笑みを絶やさないミルフィーに少しばかり安心するタクト。思いつめていたらどうしようかと思ったのだ。
そして、彼女の作っているものの正体を今更ながらに把握する。


「ミルフィーは、なんでカレーを作ってるんだい? 」

「えへへ、実はですね、明日ノアさんとカマンベール君……じゃなかったかマンベールさんに食べてもらおうとおもって」


カレーはミルフィーの得意料理だ。
というか、彼女の作れない料理をタクトのやや貧困な料理の知識では挙げることができない。実家で食べてたそれなりに豪勢な食事の名前なんていちいち覚えているような性格ではないのだ。
実は、味覚だって別にそこまで肥えているわけでもなく、味の冷静な分析をさせるのだったら、エンジェル隊やレスターのほうが得意である。


「へー、それはいい考えだね」

「はい! 二人とも栄養摂取のためのアンプルはとってただけで、おいしい料理を食べてないみたいだから……」

「それに、明日は正午から時間を作ってくれるのだから、時間的にもぴったしだ」

「ですよね! 」


そして、タクトはのんびりミルフィーの後姿を眺めながら、彼女とかるくおしゃべりをしたまま眠りについてしまう。ふと下ごしらえが終わり、後ろを向いたミルフィーは幸せそうに微笑み、毛布をかけて、料理に戻った。


「おやすみなさい、タクトさん」


その一言を定義するのには、幸せという言葉以外に最適なものはなかった。



















「で、どうなったわけ? 」

「明日の正午お前も含めて話すことになった」

「全く、どうしてそう無駄なことに私が……」

「その無駄なものに敗れたお前は、従うべきだろ? 」

「あーわかったわよ! その代り、私は補足しかしなからね、基本はあんたが説明しなさいよ!! 」

「そうして、素直にしてればお前はやはりかわいいな」

「っな! なに言って……」

「じゃあ、おやすみ」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!! 」















次の日の対談により、お互いの間である程度の衝突はあったものの、同盟のようなものが締結されたのは記すまでもないであろう。
シヴァ女皇陛下も今はそれどころではないという事を納得はしていないものの、理解はしたのだ。
一行は、白き月へと再び進路を取るのであった。










[19683] 第14話 協力と孤立と結束
Name: HIGU◆bf3e553d ID:ee1eb4b8
Date: 2011/10/26 17:29



第14話 協力と孤立と結束



「にしても、意外だったわ」

「なにがだ? 」


『エルシオール』に乗っている人物の中で最も幼い二人、10歳コンビのシヴァ女皇とノアの二人は、シヴァ女皇の部屋で二人向き合って話していた。

つい先日、平和的な解決の為に、必要以上にノアを糾弾するという事をせずに、皇国の代表と言った形で説明の席についていた彼女の事を、ノアは意外に思っていた。
ノアの体は10歳ほどの年齢と幼いが、彼女自身精神的には、すでに大人かそれ以上だという自覚がある。だからこそ、黒き月の管理者などになったのだから。そしてその彼女のファーストインプレッションが
『自分の中の正義を絶対に曲げない、融通が利かないタイプ』
という分析だった。たった数秒の会合でそう思い、話すのも無駄みたいと考え、すべてカマンベールに丸投げしたのである。


だからこそ、自分の分析が外れていたのか、と思ったのである。


「なるほど、そのことか……一応私にも考えがあるのだがな」

「へぇ? それは聞いてみたいわね」


すでに八方ふさがりになっている彼女の思考は、そう言った無駄なことにリソースを割くように要求している。
要は、興味本位である。


「私が、感情的に……いや、立場的にでもあるが、お前を責めることはできる。その場合、謝罪させれば一定の意味を持たせることもできるかもしれない。だが、そう言ったことをさせるよりも、今は目先の問題解決が必要だ」

「……」


「だから、お主がより考える時間を持てるようにする方が、皇国の利になる。そういうわけだ」


真っ直ぐ射抜くような視線をノアに向けながら、力強くそう宣言した。
それを受けたノアは、なんか微妙な敗北感を感じてしまい、右手で髪の毛を弄りながら目をそらして呟いた。


「あ~わかったわよ、お望み通り、カマンベールと一緒に考えとくわよ!! 」


そう言い残して、彼女は自分の部屋に戻っていった。
シヴァは、微妙に釈然としない表情をしていたが、すぐに自分にできることである仕事に取り掛かることにした。


なお、ノアとカマンベールは都合により同室である。
コアから出て、急に用意できたのが一部屋だけだったのだから。


















白き月に進路を戻して、航行中の『エルシオール』
最短ルートを進んでも数日かかる航路だが、それはすなわち、敵の狩場としていた宙域を通る必要があることである。
無論、最低限の戦闘行為のみにとどめているが、それでも不可避の遭遇戦だって勃発する。

詰まる所、『エルシオール』は現在戦闘中である。


「ミント! 敵Nの左側の砲門に攻撃を、フォルテはそのまま前進して止めを、ランファは攻撃目標を敵Gから敵Nに左側から接近。ちとせは敵Gに止めを」


別段そこまで強い敵ではないのだが、一刻を争うこの事態においては、なるべく手短に敵を処理する必要がある。当然のごとく『エルシオール』は次のクロノドライブが可能とされているポイントに移動しながらの戦闘だ。

定期的に入る、味方の軍基地や、艦隊の壊滅情報は、確実にタクトたちの心に圧し掛かっているが、それでもきっちり仕事をこなすのがプロフェッショナルと言うものだ。


「ヴァニラ、そのまま3時方向に進んで、フォルテとすれ違いざまに補修を頼む、ラクレット敵Fを頼むよ」

「「了解」」


ラクレットが命令を受けた対象は無人戦闘機だった。
大型艦はすでに粗方片付いているのであまり問題は無いし、なにより撃破ではなく、近寄らせないようにと言う意図での命令だったのだろう。
しかしながら、今日のラクレットは違った。いつもなら出ないはずの攻勢にでたのだ。

ここ数日の彼はそもそもおかしかった。カトフェル少佐たちの訓練を受け、彼の一日の比重の多くがトレーニングで満たされていたので、あまり気づかれなかったが。あの撤退戦の後、一日休んだ彼は脇目も振らずにシミュレーターと筋トレで時間を費やしていた。食事、排泄、睡眠、入浴 それ以外の時間すべてだ。人間としてそんな不可能で有ろうことを数日間ずっと継続している。
もちろんカマンベールと話す時間も作ったが、それにしたって睡眠の時間を削って捻出したそれであり、家族としての空白期間を埋めるそれではなかった。カマンベールの方も科学者としての彼としての行動に忙しかったために別段気にはしてなかったし、周りからも気にはされていなかった。
まるでそう、人間ではないような、機械的な行動を繰り返していた彼は、今回の戦闘で戦闘機に対して攻撃を仕掛けているのだ。

特訓により上昇した技能もあるが、それでもおかしいようなレベルで敵の戦闘機と渡り合っているラクレット。敵はそれこそクロノストリングは搭載していないため火力は低いが、無人の為速度などは引けを取らないのに、ラクレットは位地ている。
まるで敵の軌道が見えているかのように、的確に先に回り込む。そう、彼は今敵の行動パターンをすべて頭に入れている。敵のAIの行動を自身の経験と、優秀なCPUに計算させ続けている統計的なデータから先読みしている。そもそも近接戦闘で必要なのは先を読むという技術だ、それができなければ敵の攻撃を貰って沈むだけなのだから。そういった意味では彼の先天性のESPの予知能力は、かなり有効なものであろう。残念なのはごく微弱であり感情が昂ぶったうえで『H.A.L.Oシステム』の補助があって初めて実用可能なレベルになることだが。

今の彼はESPではなく、それ以外の部分で機械的に先読みをしているのだ。
そう、どこまでも冷静に敵を追い詰めている。なぜ感情の高ぶりで性能が上がる『H.A.L.Oシステム』搭載機なのに、そこまで機械的でいれるのかというのは、まだ誰も分からない。

敵の機体が、散々追いかけまわしてくる、『エタニティーソード』を引き離そうと、上昇させていた機体を反転させ急降下を始める。宇宙空間なので、別段加速するわけではないのだが、急な方向転換である。
しかし


「………………撃破」


彼がそう呟いた、その瞬間敵機体は、エンジンユニットを含む機体の中心を右手の剣で薙がれていた。そう、ラクレットは先の行動すら織り込み済みで機体を繰っていたのだ。敵の進行方向とは真逆の位置を切る操作を、急上昇の終わるであろうタイミングで入力済みだったのだ……



「……それじゃあ、次の敵Lを頼むよ」

「了解」


無表情ではない、だが感情の色を覗かせない真剣な表情で淡々と報告し指示を受けるラクレットに思うところはあるものの、優先すべき指揮をするタクト。

その後、10分ほどで戦闘が終わり帰艦したラクレットは休息を取ると、再びシミュレーターを始めたが、彼の事情が知っているがため、誰も止めることはできなかった。





そして、『エルシオール』はこの1度限りの戦闘の後、そのまま白き月まで到達する。














挨拶もそこそこに、白き月の聖母の間に集うエルシオール首脳陣。
タクト、エンジェル隊、ラクレット、カマンベール、ノア、シヴァ、シャトヤーン、ルフトと錚々たる顔ぶれだ。
トランスバールの屋台骨を支えているような重要人物ばかりである。

定例文のような会話の後、ノアが一歩前に出て、シャトヤーンと向かい合う形となる。まだ10歳程度の子供の外見のノアと年齢不詳だが、おおよそ20代の女性に見えるシャトヤーンとの図は母と娘と言ったそれであったが、本人は至って真剣だ。


「あんたが、白き月の管理者でいいのよね? 」

「はい……聖母と呼ばれておりますが、その認識で相違はないと思います」


ノアは、ここまでの道のりで、白き月がいかに自分の使命を忘れているかと言う事実をしっかりと認識している。行きすぎてしまった黒き月とは対照的に、300年ほど自らの使命を怠っていた白き月は、当然のごとく口で説明する程度じゃ理解を得ることなどできないということも、しっかりと解っている。
だからこそ、彼女はシャトヤーンに問いかける。



「……それじゃあ、あの詩は覚えてる? 」

「え? あの伝承ですか? ええ」

「そう、それじゃあ一緒に詠うわよ、ただし2節目と3節目は交互に」

「わかりました」

周囲からすればよくわからないやり取りだが、シャトヤーンは納得のいったようで、小さく咳払いをして、息を吸い込んだ。


「「番人たる双子、楽園を囲み輪舞を踊る」」

「漆黒は確か、されど有限」

「真白は不確か、されど無限」

「「双子は断つもの。時を超えて災厄を断つもの」」

「「双子は待つもの。時の果ての結びを待つもの」」


そう、二人が唱えあげると、同時に謁見の間とされているその部屋の光景が一変してあたかも宇宙空間にいるような、そう現代風にいうのならばプラネタリウムが上半分ではなく、全方向に投射されているような、そんな風景だ。


「これは……」

「おそらく投影された映像ですわ……見たこともないような星系ばかりですわ」


いち早く分析を始めたのはミントだ。一応そういった学問的知識ではこの中では抜きんでている。この場にレスターがいれば別であるが、彼は今『エルシオール』で待機中だ。
カマンベールもなんだかんだ言って自分の専門に特化しているし、ラクレットに至っては知ってはいるが、今はそんな精神状態ではない。


「これは、白き月と、黒き月が生まれたときの記憶……よかった……パスワードはまだ変わっていなかった」


満天の星空を見つめながら、安堵するノア。白き月の管理者ですら知らなかったことを、彼女が知っていたという事実が意味するところは決して小さいわけではない。


「白き月と黒き月の関係性については、カマンベールが説明した通りよ。黒き月は徹底して不確定要素を排除して安定した戦力を作る。白き月は人間の感情みたいな不確定要素を積極的に取り込んで、そのふり幅で高い戦力を作る。二つとも目的は同じ、最高の兵器を作ってそれをEDENの防衛システムにするつもりだった。だから、最終的に600年間のシミュレーションが終わった後、強い方が弱い方を吸収して融合するはずだった。でも……」

「アタシ達が壊しちゃったか……」


ノアの独白を複雑な面持ちで聞いているシヴァ女皇。彼女の心境は複雑であろう。自分の愛すべき皇国臣民の命や財産を奪っていった、憎い対象である黒き月が、白き月と同じ人々を守るための防衛システムであったのだ。
民を守るために、民を脅かす外敵存在を排除したのが、民を危険にしているだと?
ふざけるな!!!
あれは、皇国にとって害悪でしかなかった、殺戮兵器だ!!
そんな激情がふつふつと沸き上がる。


「そうよ……一応コアはあるけど、コアだけが融合したところで勝てるわけじゃないわ……」


弱音を吐くノアの姿が、まるで自分に対して嫌味を言ってるかのように見えた彼女は、もう怒りの限界だった。
今までは、そう、感情的にならない方が、対策を考えられるかもしれないからと、そう中にとどめてきたのだ。
ここに来るまでの道のりで、彼女が胸の中にしまっておけたのは、一時的にもノアのことが信用できたからだ。
そんな思いが、彼女の中で弾けて、溢れた。


「ふざけるな!!……そこを何とかしなければ、そのせいで何の罪のない民が犠牲になるのだぞ!! 」


真っ直ぐと目を見つめて、ノアにそう言い放つシヴァ。
そんなシヴァの瞳に映るノアは、泣きそうな表情で、それでも精一杯気丈に叫び返す。


「解ってるわよ!! 私のせいで!! 私の管理している黒き月が、ヴァル・ファスクに取られたせいで!! 守るはずの人たちを傷つけていることくらい!! 」


黒き月が、敵の手中に落ちたことで、一番責任を感じているのは彼女だ。いくら想定していなかったとはいえ、黒き月が破壊されたのは、彼女としては白き月との力の差が圧倒的過ぎたという事で納得はできる。
しかし、自分の育て上げた技術のせいで、自分が守る為に自分の人生をささげた存在である人間を、苦しめているのだ。

コールドスリープで600年以上の時を超えている少女は、自分の全てを捨てて、この使命