「1000億円なんてありえない! 」"飛ばし仲間"が驚くオリンパス第三者委員会報告書の裏側に金融庁と特捜部「裁量行政」の思惑/伊藤 博敏
現代ビジネス 12月8日(木)7時5分配信
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オリンパス第三者委員会の甲斐中辰夫委員長〔PHOTO〕gettyimages |
こう率直な感想を漏らすのは、国内大手証券OBを中心とするオリンパス事件の"飛ばし仲間"である。
オリンパスの損失隠しの実態を調べていた第三者委員会(甲斐中辰夫委員長)は、12月6日、調査報告書を発表した。それによると、社長以下トップが主導、99年3月期から「飛ばし」を実行、その時点で960億円だった損失を、17のファンドや外国銀行口座を利用、巧妙に隠ぺいしていた。
報告書では、会社側が山田秀雄元副社長と森久志前副社長が担当となり、下山敏郎元社長、岸本正寿元社長、菊川剛前社長の3人は認識していたという。
社外協力者としてその名が記されていたのが、アクシーズ・アメリカ、アクシーズ・ジャパン証券などアクシーズグループの中川昭夫、佐川肇の両氏と、グローバル・カンパニーを経営、オリンパスの300億円ファンドの運用者となっていた横尾宣政氏だった。
このうち、中川、佐川両氏は、野村證券を早々に退社、生き馬の目を抜く外資の世界で腕を磨いており、オリンパスは米ペイン・ウェーバー証券時代からの顧客。ここには顧客の要望をなんでも満たす"凄腕"が集まっていたといい、同社がスイス系証券と合併するのを機に、中核メンバーが、97年、アクシーズグループを立ち上げた。
当時を知る中川、佐川両氏の"仲間"からすれば、約1000億円の"飛ばし"が信じられない。
「特定金外信託(特金)の運用損が一番大きいということですが最大でも300億円。そのほかにペイン・ウェーバー時代に寄せられていた相談などから推計すると、100億円や200億円の"飛ばし"はありましたが、それを総合しても最大で500億円です。その倍の隠さねばならない損失があったとは、考えられない。運用損以外の何か、表に出せない損失が溜まっていて、それを同時に処理したのではないでしょうか」(アクシーズ元幹部)
バブル崩壊後の損失隠しは、90年代後半まで恒常的に行われており、99年11月に事件化したクレディ・スイス・ファイナンシャル・プロダクツ(CSFP)では、「損失先送り商品」を大量販売、その結果、事件化までに60社が利用、総額5700億円の不良債権が隠ぺいされていた。
オリンパスはCSFPも利用、一時は147億円を「信託受益権再売買スキーム」に突っ込んでいた。こうして同じように、「飛ばし商品」を利用していた各社は、金融庁の「責任は問わない」という指導もあって、損失を表に出して処理していった。
しかし、オリンパスはCSFPの事件後、むしろ"飛ばし"を本格化、99年の960億円が03年に1177億円に拡大、08年から10年にかけて、アクシーズグループへの高額報酬や、横尾氏が主導した国内3社の高額買収などで資金を捻出、1348億円で穴埋めしたという。
別のアクシーズ関係者は、この発表に捜査・行政当局の"思惑"を感じるという。
「証券取引等監視委員会は、早くから法人としてのオリンパスの罪は問わず、課徴金で行政処分する方針と報じられました。おそらく金融庁は法人の罪は問わず、経営者個人の罪にして上場維持、従業員4万人の大企業を揺るがせたくないのでしょう」
それなら、調査報告書で960億円の"飛ばし"が唐突に現れ、その内容に言及していない理由もわかる。
オリンパスは、00年に積年の"ウミ"を含めて一気に"飛ばし"、08年3月期に損失解消のために決算をごまかした---。
報告書は、前者を「損失分離スキーム」といい、後者を「損失解消スキーム」という。捜査は、東京地検特捜部、警視庁、証券取引等監視委員会が、合同で行うことになっており、12月14日までにオリンパスが4半期報告書を提出するのを待って、後者の「損失解消スキーム」に絞って、強制捜査に着手することになっている。
確かに、始めから終わりまで、10年以上に及ぶ粉飾決算の過程を、すべて捜査するのは現実的ではない。前出のアクシーズ関係者はこう推測する。
「それが、金融庁の思惑も顧慮した、一番いい解決法じゃないでしょうか。入口の"飛ばし"は、大半を12年前にやった"昔話"にし、直近の粉飾は過去の"修正"ということにする。反社は関与せず、特別背任的なものもなく、悪質ではないということで上場は維持され、事件はコンパクトにまとめられる」
金融庁の裁量行政、特捜部の裁量捜査への逆戻り、という"見立て"である。
だが、海外も注目している事件の決着が、それで済むのだろうか。ライブドア元幹部が、そんなシナリオを耳にして憤る。
「じゃなぜ、ウチが上場廃止処分を受け、会社破綻に追い込まれたのでしょう。しょせん、小僧の会社とバカにされたんですか! 」
確かに、悪質さでオリンパスはライブドアを上回る。少なくとも堀江貴文元社長に粉飾の認識はなかったし、金額は50億円でわずか1期。これに対してオリンパスの粉飾は12年に及び、歴代社長が認識する確信犯で、金額は1300億円を超えている。
第三者委員会の甲斐中委員長は東京高検検事長を務めた大物ヤメ検で、他の委員にもヤメ検がいる。見方によっては、第三者委員会と捜査当局と金融庁が、予定調和の決着を目指しているといえなくもない。そう受け取られないよう徹底的な捜査が求められている。
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最終更新:12月8日(木)7時5分