「JD Edwards EnterpriseOne」は、オラクルが中堅企業向けに開発、販売するERPパッケージ製品である。同製品の歴史は非常に古く、1980年代にはオフコン上で稼働するERPパッケージの代表選手の1つとして利用された。1990年代以降はオープン系プラットフォームもサポートし、主に製造業を中心に世界中で広く普及した。もともとはJD Edwards社という独立系ベンダーが開発、販売する製品だったが、同社が2003年に旧ピープルソフト社に買収され、さらに翌年にオラクルがピープルソフトを買収したことに伴い、現在同製品はオラクルから提供されている。
JD Edwards EnterpriseOneの最大の特徴の1つは、ワールドワイドでの長い実績に裏打ちされた、グローバル対応機能の充実にある。日本オラクル アプリケーション事業統括本部 ビジネス推進本部 ビジネス開発部 担当ディレクター 野田由佳氏は次のように述べる。
「JD Edwardsの特徴を一言で言えば、『グローバルERP』であること。日本においては、海外にビジネス展開する日本企業が海外拠点を立ち上げるために、もしくは海外企業が日本に拠点を設ける際に昔から多く導入されてきた」
具体的には、多言語・多通貨対応はもちろんのこと、海外の税法へ対応する機能などもパッケージにあらかじめ組み込まれている。会計基準に関しても、IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)を含め、複数基準にあらかじめ対応している。
「JD Edwardsはもともと世界中で使われることを前提にしているため、米国会計基準への対応はもちろんのこと、既にヨーロッパやアジアで適用されているIFRSの並行開示などにも対応している」(野田氏)
こうしたグローバル対応機能が初めから実装されていることは、導入時のカスタマイズ工数を極力削減し、スピーディーな導入と立ち上げを可能にするメリットがある。実際、この点を高く評価してJD Edwards EnterpriseOneを導入する企業が多いという。
「アドオン開発やパッケージの機能強化によるグローバル対応を待っていては、ビジネス全体のスピード感が失われてしまう。特に海外進出においてはスピードがビジネスの勝敗を分けるため、これは致命的だ。JD Edwards EnterpriseOneは、あらかじめ実装された豊富な機能をパラメータ設定だけで利用でき、アドオン開発を最小限に抑えることができるため、極めてスピーディーにグローバルERPの仕組みを立ち上げられる。オンプレミスでも通常は半年以内、早ければ3、4カ月で導入が完了する」(野田氏)
近年のグローバルERPに対するニーズは、従来と比べてかなり傾向が変わってきたという。かつては日本企業の海外進出というと、大手製造業がアジア諸国の安価な労働力を求めて海外に製造拠点を設けるケースが多かった。事実、JD Edwards EnterpriseOneの導入事例もそうしたケースが多かったという。
しかし近年ではこうした動機に加え、海外に販売拠点を求めて進出する日本企業が増えてきている。その背景には円高や国内需要の頭打ちといったビジネス環境の変化があるが、ここで特徴的なのは大手企業のみならず、中堅企業も海外での販売に活路を見いだそうと、積極的に海外に進出する傾向が強まっているという点だ。そのため、中堅企業向けに最適化されたグローバルERPであるJD Edwards EnterpriseOneは、こうしたニーズにちょうどフィットするERPソリューションとして引き合いが増えてきているという。
また、このようなニーズを抱える企業は海外拠点を運営するに当たって、スピードとともにコストも非常に重要視しているという。野田氏も次のように述べる。
「大手のグローバル企業では、本社の基幹システムにSAP ERPを導入していることが多い。従ってかつては、海外拠点の基幹システムにも同じくSAP ERPを展開するケースが多かった。だがここ10年間でITコストに対する企業の意識が大きく変わり、もっと安価なソリューションが求められるようになってきた」
こうしたニーズに応えるための新たなソリューションとして、日本オラクルは2011年7月、JD Edwards EnterpriseOneをクラウドサービスとして提供することを発表した(参考記事:JD EdwardsをクラウドERPとして提供、日本オラクル)。これは同社とパートナー企業の協業により、同社のデータセンターもしくはパートナー企業のデータセンター内でJD Edwards EnterpriseOneを運用し、その機能をクラウドサービスとしてユーザーに提供するというものだ。
この新サービスは、大きく分けて2つのメニューに分かれている。1つは、年商100億円以上の企業に向けた「JD Edwards EnterpriseOne On Demand0@Oracle」(以下、On Demand)というホスティングサービスだ。これは、オラクルが米国内で運営するクラウドサービス基盤「Oracle On Demand」の上で、オラクルの技術者の手によって、ユーザーのJD Edwards EnterpriseOneのシステムが運用されるというもの。ユーザーは、JD Edwards EnterpriseOneのライセンスを通常通り購入した上で、その運用をオラクルに全て委ね、インターネットを介してその機能を利用する。
On Demandでは、導入を極力スピーディーに行えるようパートナー企業から特定業種向けのテンプレートが各種提供される。これらのテンプレートを活用することにより、カスタマイズの工数を最小限に抑え、迅速にシステムを立ち上げることができるという。さらには、オラクルのデータセンターだけではなく、パートナー企業が日本国内で運営するデータセンター上でシステムを運用することも可能になっている。
On Demandを利用するには、ライセンス費用とは別に年間1300万円程度の費用が掛かる。オンプレミスで運用する場合に掛かる初期導入コストと運用管理コストが節約できることを考えると、この価格はリーズナブルなものだと野田氏は言う。
「ERPの導入で最もコストが掛かるのはライセンス費用ではなく、初期導入と運用に掛かる費用。On Demandでは、初期導入の工数をテンプレートの活用で削減でき、またユーザーがハードウェア機器を資産として保有する必要もない。さらには運用もオラクルやパートナーが一括して請け負うため、人を雇う必要がない。かなりのTCO削減効果がある」(野田氏)
もう1つのサービスは、年商100億円未満の企業に向けた「JD Edwards EnterpriseOne BPO プログラム」だ。これは一言で言えば、典型的なSaaS。ユーザーは、オラクルのパートナー企業が運営するデータセンター上で稼働するJD Edwards EnterpriseOneを、インターネットを介して従量課金で利用する。ライセンスの購入は必要ない。
具体的なサービス内容は、サービスを提供するパートナー企業によって異なるが、2011年12月中には2社がサービスの提供開始を発表する予定だ。またサービス利用料金も各社で異なることが予想されるが、大まかな目安としては、「月額10万円程度になると思われる」(野田氏)。
この2つのサービスはいずれも、JD Edwards EnterpriseOneが持つ機能を全て利用できるようになっている。つまり、SaaSだからといって、パッケージの機能に制限が設けられることはない。このことが持つ意味は極めて大きいと野田氏は力説する。
「SaaSだろうとOn Demandだろうと、あるいはオンプレミスであろうと、ソフトウェアとしては全て同じJD Edwards EnterpriseOneが動く。従って、まずはSaaSで安く早くシステムを立ち上げておいて、後にビジネスが急成長してカスタマイズを加える必要が出てきたらOn Demandに移行する、といったような柔軟な利用が可能だ。実際のところ、このようなニーズは非常に多い」
ビジネスを立ち上げたばかりの新興企業においても同様のニーズはあるだろう。基幹システムをひとまず早く安く立ち上げたいが、将来的なビジネスの成長に備えてシステムの拡張性も確保しておきたい。まさにこうしたニーズに、JD Edwards EnterpriseOneのクラウドサービスはジャストフィットするのだという。
「本格的な機能を備えたグローバルERPでありながら、小さく始められるSaaSも用意しているのがJD Edwards EnterpriseOneの強み。逆に言えば、SaaSは複数あるJD Edwards EnterpriseOneの提供形態のうちの1つにすぎない。従って、グローバルERPの機能をそもそも必要としない企業に向けて、国産ERPパッケージ製品と競合するような安価なサービスを出すつもりはない。あくまでも、グローバルERPの機能を本当に必要とするユーザーに使ってもらいたいと考えている」(野田氏)