きょうの社説 2011年12月9日

◎オペラ「高野聖」 金沢発の「鏡花創造」に意義
 金沢歌劇座で9日に上演されるオペラ「高野聖(こうやひじり)」は、泉鏡花の生地か ら「新作初演」として鏡花作品を発信することに意義がある。

 鏡花文学は演劇や歌舞伎、映画など、さまざまな芸術ジャンルで取り上げられてきたが 、これまでは東京発が中心だった。今回は鏡花の名作「高野聖」が初めてオペラ化される話題性に加え、金沢芸術創造財団、石川県音楽文化振興事業団、高岡市民文化振興事業団などが共同制作し、地方からのオペラ創造という点でも大きな挑戦となる。

 演劇やオペラなどの舞台芸術は、長らく東京一極集中が指摘されてきた。近年は地方に も音響設備の整ったホールが増え、鑑賞する機会も広がったとはいえ、地方が作り手になり、全国へ高水準の作品を発信する例はそれほど多くはない。

 鏡花の「高野聖」は、高野山の僧と、男たちを動物に変えてしまう妖女の物語である。 音楽はオーケストラ・アンサンブル金沢が担当し、出演者は石川、富山県からも選考した。「高野聖」は新派の舞台や歌舞伎、映画の素材にもなってきたが、幻想小説をオペラでどう表現するのか見所である。

 日本のオペラといえば海外公演を重ねた「夕鶴」が有名だが、「高野聖」の脚本・演出 を手掛けた小田健也さんは、「夕鶴」に続く日本オペラとして構想を温めてきた。金沢を皮切りに、12日に高岡、来年1月には2回の東京公演もある。大賀寛総監督は「回数を重ねて育てていく価値ある作品」としており、金沢公演がのちに「世界初演」といわれる可能性は十分にある。

 本紙で「ぶらり旅」を連載する嵐山光三郎さんは、鏡花について「明治の文豪で鏡花と 並ぶのは夏目漱石しかいない」と評価し、金沢が鏡花を生かし切れていない現状を指摘する。確かに「鏡花ブーム」といわれる現象も、東京からの逆輸入を金沢がありがたがってきた面はなかっただろうか。

 地方からの文化創造を掲げて制定された泉鏡花文学賞も、来年は40年の節目を迎える 。新作オペラの初演を、地域の側から鏡花を再評価し、現代的な価値を発信する新たな一歩にしたい。

◎揺れるロシア政権 困難さ増す北方領土交渉
 ロシア下院選で与党が大幅に議席を減らし、プーチン・メドベージェフ政権に揺らぎが 見える。選挙不正疑惑に抗議する野党支持者らを大量に拘束した治安当局の強硬姿勢は、政権の強権体質の一層の強まりをうかがわせる。プーチン首相が来年3月の選挙で大統領に返り咲くというシナリオに変わりはないとみられるが、変化するロシア情勢の分析を急ぎ、野田政権としての対ロ外交戦略を固める必要がある。

 野田佳彦首相は日ロ関係について「最大の懸案である北方領土問題を解決すべく精力的 に取り組むとともに、アジア太平洋地域のパートナーとしてふさわしい関係の構築に努める」と所信表明演説で述べる程度であり、対ロ外交の進め方についてはまだ何も語っていないに等しい。

 「プーチン独裁」と言われる現状にロシア国民の不満がたまっているのは確かで、そう した場合は対外的に強い指導者を演じ、国民の不満を外に向ける政治手法が取られがちである。下院での圧倒的優位性を失ったプーチン氏がそうした方向に傾き、北方領土交渉が一段と難しくなる可能性があるとみておかなければなるまい。

 プーチン氏は大統領時代の2001年、当時の森喜朗首相との会談で、日ソ共同宣言の 法的有効性を確認し、「法と正義」の原則を掲げた東京宣言に基づいて北方4島の帰属問題を解決するとの声明をまとめた。その当時、日本側が提案したとされる「歯舞・色丹の引き渡し」と「国後・択捉の帰属問題」を同時並行で協議する方式を受け入れるかに見えた。

 プーチン氏が大統領選再出馬を表明した時、過去の経緯と強い指導力から北方領土交渉 の前進を期待する向きもあった。しかし、その指導力に陰りが見え、北方領土についても「ロシア領であるのは第二次大戦の結果」と強調し、妥協しない姿勢を強めている。

 日本にとって、ロシア極東の天然ガスを確保することも重要な課題であるが、米中との 外交に手一杯の感のある野田政権に、対ロ外交に力を注ぐ余裕がどれほどあるのか気掛かりである。