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[30758] 神羅万象チョコ ゼクスファクター二次
Name: 歩(ホ)◆f5ded427 ID:07fffcdd
Date: 2011/12/05 01:18

 “神具”。
 それは人類が新たに得た道具であり、力である。
 “外海”と呼ばれる広大で未開のジャングルが広がった大地に点在する遺跡より発見されたそれは、人類に大きな力を与えた。
 神具には“魂獣”と名乗る精霊が宿り、これに認められた者は神具に眠る超能力を得ることが出来るのだ。
 魂獣と契約を交わして神具と適応し、所有者となった者は“因使”と呼ばれ、未だ人類の手が及ばない世界を切り開く先駆者となっている。
 そして人類は、未だ謎が多い神具と因使の研究をする機関を作り上げた。
 
 これはその1つ“鳳凰学園”での物語である。
 

一話。学園都市耶馬都。


 鳳凰学園は、機関でありながらその名の通り、学園としても機能している。
 因使の卵。才能や素質を持っていても心身が未だ未熟な少年少女を広く受け入れ、実戦に耐えれる因使に育て上げるのが鳳凰学園の役割だからだ。
 しかし多くはない機関の中でもこの様な方針、神具の研究を半ば捨てて因使の育成に重きを置く場所はここ以外には無いに等しく、その希少性からこの鳳凰学園がある都市は“学園都市”という異名で呼ばれている。
 
 学園都市の名前は“耶馬都”。
 外海のジャングルを何代も昔の人々が切り開いて出来た平地にある大都市だ。
 都市の周囲には幅広な川が囲むように流れており、外海の危険な生物がやってくることもまずない。
 卵とはいえ因使達が密集しているために、外部からの安全はほぼ保障された数ある都市の中でも一際安全な都市である。
 
 そして始めましてこんにちは。僕の名前は“氷翠ムツミ”。。
 神具を扱えれば誰でも入学出来ると噂される狭いようで広い鳳凰学園因科に去年入学をして、今年無事に1号生から2号生へと進級出来た学生である。
 名前の語呂が悪い、と思われているかも知れないが、氷翠と言う苗字は僕が入っていた孤児院のファミリーネームだからだ。
 特徴としては“希少能力”持ちとして既に卒業後、高名な機関に招待をされているということだろうか。
 3号生にもなってないというのに将来が約束された、所謂勝ち組という輩の1人だ。
 
 といっても勝ち組にも上には上が居るもので、今目の前で演説を行っている人物がその最上級に位置している“人間”だ。
 鳳凰学園の入学式。学園最大のホールには、因使として審査を合格した因使科の生徒と、一般の高校生として試験を合格した普通科の生徒合計600名弱が集まっている。
 関係者を含めれば700人は居そうな空間の中、気が飛んでしまいそうなほど高い天井の下、緊張感を全く感じさせない雰囲気でその人間は入学生に激励を送っている。
 
 “鳳凰院カナト”。
 その男女を問わず魅了する輝くような笑顔から“太陽王子”という愛称を持つ人間だ。
 鳳凰学園の理事長の息子であり、学園都市の老若男女からアイドルの様に好かれ、さらには学園の生徒会会長も務めるというトンデモ人間である。
 何が凄いかと言うと、全てだ。
 竜人、翼人、獣人、魔人、機人、人間という数多の人種が耶馬都に乱れ集う中、最弱の人種である人間。
 人間ながら耶馬都のほぼ全ての人種から好かれているという人間性。
 鳳凰学園の創立者であり、実質学園都市の実権を握っているとまで言われている鳳凰学園理事長のその息子。
 そして、
 その権力は教職員にまで及び、学年主任階級でなければ彼等の行動を制限できないとまで言われ、優れた因使である彼等は神具関連のあらゆる案件に介入することが認められており、学園理事会の承認さえ得られれば、現場の指揮権を得る事も可能な鳳凰学園全生徒の頂点に立つ生徒活動統治機構、鳳凰学園生徒会の会長である。
 生徒会会長がどれだけ凄いかと言うと、耶馬都市民全員の投票による生徒会メンバーの選挙を勝ち抜いた上で、理事会と教職員の満場一致による認定が不可欠とされているという、おおよそ人類という括りの中で成し遂げれる人物が1人でも居れば奇跡と呼べるような行いを出来た人物しかなれないのが生徒会長だ。
 それを人類最弱の人種である人間が成し遂げたという凄まじさ。
 もう解ってもらえたと思う。
 読み飛ばされることが明らかな文章の羅列の中に含まれる物のおかしさを。
 鳳凰院カナトという人物がどれほど勝ち組なことか。
 
 僕と同じ人間だというのに、この差はなんなのだろうか。
 もはや、矮小な僕の持つものなんて鳳凰院カナトのどれにも敵わないというのは比べるまでもないことだろう。
 敵意を向けることさえ憚れる、競おうとするのがどれほど愚かな行いか。
 そして僕自身も鳳凰院カナトのファンだという事実。
 自分と同じ人間という種族の可能性をその身体で示し続ける、人間にとっての希望の星なのだ。
 学園関係者として、壇上にある暗幕の裏でその勇姿を見れるのは感動物である。
 
 
「しっかし……凄い光景だよなぁこれ」


 思わず感嘆の声が出る。
 小声で言ったわけでもないが、その声はすぐさまは鳳凰院カナトのマイクの声でかき消される。
 去年は新入生としてこのホールで既に生徒会長であった鳳凰院カナトを見上げていて分からなかったが、ここまで人種が入り混じった空間というのも珍しいものだ。
 さっきも少しだけ言ったがこの世界の人種は6種類。
 その中で最も数が多いのが、竜人、翼人、獣人の3種だ。
 三大種族と呼ばれるこの3種は、仲が悪い訳でもないが、特に良くもない普通の関係を維持し続けている。
 余計なトラブルを呼び込まないためなのかは、歴史に詳しくない僕には判らないことだが、学園都市耶馬都でもこの3種は東西南に住処を分けている。ちなみに北は機人という超希少種族が代表?として立っている。
 当然学校も種族別に別れており、その中に他の3種混じる形だ。
 だが、この鳳凰学園は入学した生徒全てを公平に扱い、全ての人種を混ぜて公平に扱っている。

 それがこの学園の理事長の意向なのだとか。
 まぁ因使科は種族が得意としている属性のせいで、クラス分けに多少のへだりがあったりするが。
 
 
「……つまらん」


 僕の言葉に反応したのか、隣で腕を組み眼を閉じてムッスリとしていた人が言葉少なく口を開く。
 
 彼の名前は“竜胆イツキ”。
  両側頭部から生えたまるでクワガタ虫ような大きな角が特徴的な竜人だ。
 青龍組の青を基調とした制服に竜人族の文化である和風の袴を穿き、腰には神具である刀を帯びている。
 
 つまらんって……いや、こういう、ただ立って話を聞くだけのイベントは総じてつまらないのは当然と言っていい事だけど。
 まぁ、僕も退屈なのは否めない。
 けれどこう突っ立ってるのも立派な仕事の内なのだ。
 
 僕と隣の彼、竜胆イツキ君は今日のこの入学式の警備の1人としてこの場に居る。
 それぞれ別口からの依頼ではあるが、その依頼人はあの鳳凰院カナトである。
 正直に言って、生粋の因使でもある学園長と理事長に加え、因使科教師陣に優秀な因使でもある生徒会5名がこの場に居るのに僕達が必要なのか、と思ったりする訳だけど。
 今ここで暴れようとする奴が居たらそれは自殺志願者と言っていいだろう。
 なので、今日一日立っているだけで真面目に働いてる人に対して申し訳無くなるような報酬が貰える裏には、別の意図が含まれているのだろう。
 警備だというのに暗幕の後で、裏方に徹しさせているのもそう感じさせる。
 
 大方、竜胆イツキ君とその仲間達に「勝手な真似はするな」と、この学園の戦力を見せ付けての忠告と言ったあたりか。
 僕は関係はないだ、竜胆イツキ君達と絡んでいることがあるので一応の忠告なのだと思いたい。
 
 
「僕もつまらないですよ。なんで僕の隣に居るのがカリンさんじゃなくてイツキ君なんだか」

「リーダーは別の依頼があったので今はコウヤ殿と耶馬都の外だ」

「……あぁ、お金が絡んでなかったらコウヤさんと代わってもらいたかった」

「リーダーに色目を使うな」

「いや僕、シヅカさんが好きなんで。野郎と居るより女性と居た方が建設的だって話ですよ」言って、演説の終えた生徒会長の隣に居る副会長を見ると目が合った。そしてすぐにツンと逸らされた。


 会話している内に理事長の話が済み、学園長のとても短い言葉で入学式が終わりを迎えた。
 ガヤガヤと一気にホール内が騒がしくなり始め、潮が引くように人が出口へと消えていく。
 後は各々の学科とクラスで事が行われるので、警備の仕事はこれで終わりだろう。
 思ってはいたが、本当に何も無かった。
 これでお金が貰えるなんて本当にいいのだろうか。いや、遠慮はしないのだけれど。
 
 勝手に帰るわけにもいかずしばらく2人でじっとしていると、後片付けが済んだのか今回の依頼人である鳳凰院カナトが生徒会副会長と庶務を侍らせて僕達へとやってくる。


「今日はとても助かったよ。氷翠ムツミ君。ありがとう」


 甘いマスクという表現が似合う顔で、実際に光を発していそうなほどの輝く笑顔と白い歯を見せ付けて、鳳凰院カナトさんが手を差し出してくる。
 まるで今日の依頼に裏なんて無かったと言わんばかりのその笑顔に惹かれるようにして、僕も手を差し出し重ね合わせる。
 握手により握られた手には、ガッシリとした重圧と慈しむような優しさが内包されており、変な表現だが極上の握手という言葉が頭に浮かんでくる。
 うっひょうもう手洗えねぇ! と内心思ったりしてる辺り、僕も立派なカナトファンなんだなぁと実感。

 
「竜胆イツキ君も。カリンさんとコウヤ君にも、よろしくと伝えておいてくれたら嬉しいよ」


 カナトさんはイツキ君に向き直って握手を交わす。
 笑顔のカナトさんと比べて後ろの2人はキツイ表情を浮かべているのがとても印象的だ。
 副会長にはツンと顔を逸らされ、庶務には歯軋りが聞こえてきそうなほど睨まれる。うわぁ。
 僕が何をしたというのだろうか。
 副会長は仕方ないとして、庶務の方には接点が同学年ぐらいしかないのだけれど。
 
 そうして答えも出ないまま「報酬は今日にでも部屋に届けさせておくから」とカナトさんが言い残して生徒会の面子はホールを去っていった。

 
「僕、庶務の人に何かしましたっけ。シヅカさんに顔を逸らされるのは慣れてますが」

「さあな。副会長からお前の話でも聞いたんじゃないのか」

「……イツキ君は睨まれました?」

「いや、私は視線は感じなかったが」

「なんだか、そんな気もしてきますね」

「なにしろ公衆の面前で告白したからな。しかも大声でな」

「好意を持っていると速く伝えておくのは大事な事ですよ。ええ」

「そうして平手打ちをされたな」

「痛かったですね。あれで更に惹かれたわけですけど」

「……」



△▽


作品的に少し古いですがゼクスファクターの二次を書かせていただきます。
設定のほうは公式のゼクスファクターページに書かれているのを使います。

読み。
“神具”アーティファクト
“外海”げかい
“魂獣”スピリッツ
“因使”ファクター
“耶馬都”やまと
“氷翠”ひすい



[30758] 二話目。
Name: 歩(ホ)◆f5ded427 ID:07fffcdd
Date: 2011/12/07 04:34
 神具には大きく分けて5つの特徴がある。
 1に、使用者によって様々な超能力を発揮することが出来る。
 2に、1つの神具に対して2人以上の者が契約者になることは出来ない。また、1人が2つ以上の神具と契約することも出来ない。
 3に、神具単体では能力は発揮されず、魂獣と契約を交わすことで初めて道具として使用可能になる。
 4に、“魂石”と呼ばれる宝石が埋め込まれている。
 5に、現代魔法科学を超えた“超科学”が用いられれており、今の人類に再現することは不可能である。
 以上の5つが現在判明している神具の特徴だ。
 
 これらの情報は、鳳凰学園の因使科なら入学してすぐに、一般科の上級生は選択科目で習う神具の初歩で習うことだ。
 というよりも基本的過ぎて習う前から知っている、というのが生徒の殆んどなのだけど。
 当たり前ながら僕も知っていた。自慢にもならない。
 補足するなら、魂石は神具の心臓部であり核とも呼べる代物。
 その魂石が無事であるなら、神具がどれほど木っ端微塵になろうとも時間を掛ければ自動的に修復される。
 神具としてのレベルが高いほど、埋め込まれた魂石の大きさや数は増す。
 と言ったところだろうか。
 
 剣や刀や斧といった武器型の物のみならず、本や扇子、はたまたスコップや鳥籠とまでいった形にまで神具があるというのも特徴の1つに挙げられるだろう。
 今も外海に点在する遺跡から神具は発見されており、その総数は機関の倉庫にある分だけで現存している因使の3倍はあるんだとか。
 しかし神具1つにつき因使は1人と決まっているし、そもそも因使の素質を持つ人類自体その数が少ない。
 そのため機関は“1人につき1つの神具”という枷を外す、または“因使の素質の解明”という研究を活発に行っているんだとか。

 
二話。鳳凰学園学生寮。


 以前の入学式から一週間の時が過ぎた。今日は週末であり、新入生達にとっては初めての休日になっている。
 遊びにでも行くのか。足りなくなったり必要になった生活用品の買い足しか。それとも両方なのか。
 その浮き足立った雰囲気は昨日の夜から感じられ、朝日が昇ってからは普段より慌しい足音が木製の廊下を軋ませる音と共に何度も部屋の前を通っていく。
 何れにしろ、寮の門限はきっちりと守ることだ。
 
 鳳凰学園の寮は3つある。
 1つ目と2つ目は、一般科の男子寮と女子寮。
 そして3つ目は因使科専用の男女共同の寮だ。
 鳳凰学園直轄の施設ではあるが何も全寮制といった訳ではなく、別の都市からやってくる新入生も多く居るために用意された施設なだけだ。
 自分で住む場所を見つければそこに住んだっていいし、元から耶馬都に住んでいる人であればそこから通学したっていい。
 僕が居るのは当然因使科学生寮だ。
 それと、この因使科寮は入学審査の時に未だ住居が決まっていない因使科入学希望者が強制的にブチ込まれる施設でもある。
 
 鳳凰学園も一般の学生を受け入れているとはいえ、実態は機関だということに変わりはなく、因使科の生徒は一般科と比べて優遇された措置が多く取られていたりする。
 この因使科寮もその優遇措置の1つで、生徒1人に1室は当たり前、その上アスレチックジムに露天風呂、サウナ設備までもが付いた豪華仕様になっている。
 当然一般科の方は相部屋が普通だし、今挙げた設備も無い。
 傍から見ても格差社会上等といった感じの設備の差がある訳だけど、案外と一般科から不満の声が上がることは少ない。
 むしろ、入寮した因使科の生徒の方が不満を上げて出て行こうとする事の方が多い。
 その不満は、恐らくこの寮に住んでいる生徒全てが思っていることだし、内容はたった1つだが、それだけが唯一にして最大の不満点でこの寮の欠点だ。
 
 とにかく遠いのだ。学園が。この因使科寮から。
 
 因使科の生徒は、鳳凰学園から未だ因使がどういった存在かを知らない市民との交流を推奨されていて、その為に因使科寮は学園敷地外のそれも耶馬都最北端の一般住宅街に建っている。
 その立地条件の悪さから、寮から学園までの道のりは徒歩で約2時間。
 往復ではなく片道2時間、往復で4時間という因使科寮は猛者専用の寮なのだ。
 重要なのが、鳳凰学園は徒歩以外での通学を校則で禁止しているということ。優遇されている因使科も例外無く禁止されている。
 その癖、一般科寮と同じように門限があり、これを破れば寮長である“白鳥寮長マッチョーネ”本名“町田超蔵”42歳、白鳥のコスプレをした筋骨隆々の翼人のオカマという、まるで食玩のハズレカードにでも居そうな人から“ディープインパクト・キス”という恐ろしい体罰を受けることになっている。
 ちなみに、この体罰は学園理事長から直々に許可が下りている公認の体罰だ。
 逃げることは許されない。
 もはや学園理事長から無いはずの悪意を感じ取ってしまうのは仕方の無いことだろう。
 女生徒はほっぺというのが唯一の救いか。男子は唇だが。
 僕も入学したての頃に門限を破り、マッチョーネ寮長からディープインパクト・キスの一撃を食らい、ショックから3日寝込んだ。余裕でファーストキスですありがとうございます。
 多分今日ぐらいに1人出るんじゃないかな、被害者。
 
 追記として、一般科の寮は学園の敷地内にあるし、毎朝教師達が起こしに来るので無縁だ。
 後、因使科の生徒が一般科寮に入寮することは禁止されている。何故かはわからない。
 
 言っておくが、規則を犯さなければマッチョーネさんはとても素晴らしい寮長だ。規則を犯さなければ。
 毎日の朝と晩に出されるマッチョーネさん直々の手作りの寮食は、その容姿からは想像も付かないほどの出来で絶品の一言に尽きるし、男性的な力強さと女性的な優しさを併せ持った賢母の様な性格から寮生(特に上級生)から意外と慕われていたりする。
 毎晩のように女生徒から恋の悩み相談もされていたりするんだとか。
 メリット以上のデメリットも目立つが、僕はその美味な寮食に価値を見出しているので卒業まで因使科寮を出て行くことは無いだろう。
 
 さて、話が長くなったが僕も今日は用事があるので外出することになっている。
 まぁその用事が歓楽街に遊びに出掛ける訳でもなく買い物でもなく、鳳凰学園の教師から呼び出しだったりする訳だけど。
 でも一応お金は出るし、バイトのし辛い学生寮生活で得れる金銭は貴重なものだ。
 手早く鳳凰学園の学生服に袖を通し身支度を済ませ、誰も居ない共有スペース兼食堂にてマッチョーネ寮長の出す絶品の朝食を頂く。うめぇ。
 そうして、僕が因使寮に残って居た最後の寮生らしく、マッチョーネ寮長が玄関までやってきて「門限を守らない困ったちゃんは晩飯抜きよぉ~ん!」と送りされた。
 晩飯抜き以前に“ディープインパクト・キス”という貴方の特技が恐ろしいです。
 
 余談だが、その夜に予想通りマッチョーネ寮長の体罰がエッジという竜人の生徒に炸裂したらしい。
 
 
「―――はい、何も無く着きました」

 
 鳳凰学園の校門を前にして独り呟く。
 片道2時間という道程を歩んできた結果、何もイベントは起こらなかった。
 何故だろうとても虚しい。
 折角の休日なのだからもっと何かに遇っても良かったんじゃないだろうか。
 あった事と言えば、「今日休日ですよ」と、犬と兎の獣人のカップル? に注意されたぐらいだ。
 イツキ君とかカリンさんとかコウヤさんとか、そんな人達とすれ違うかなと淡い希望を抱いていたが、そんなことは全く無かった。
 あの3人のことだから休日だからこそ忙しいのかも知れない。
 そう自分を納得させ、気持ちを切り替える。
 
 
「それにしても、」


 仰ぐようにして鳳凰学園の校舎を見上げる。
 
 
「でっかい建物だ」


 目の前には建物の先が薄っすらと雲に掛かった鳳凰学園の本校舎の姿がある。
 その校舎の形は、塔と言っても差支えが無い(というか塔)ほどだ。これだけ高いと付近の日照権の問題などは大丈夫なのだろうか。
 しかも周りに負けず劣らずの高さの塔が囲むようにして、他にも4本も建っている。
 その周りには城壁と堀すらあり、全様を見ればさながらそれは城に見えることだろう。
 学園都市耶馬都の中心部に建っているから余計にそれらしく見える。
 流石はあの鳳凰院カナトの実家も兼ねているだけのことはあると言えばいいのか。実際、本校舎の10階から上は鳳凰院の関係者しか入ることが出来ない。
 これだけの建物を理事長だけのお金で建てているというのも凄い所だろう。
 もはや凄すぎて驚くに驚けないが。
 ここでうだうだしていても仕方ないので学園の中に入る。
 目的地は学園の中の一室だ。
 
 因使科の教師達は当然教師として教鞭を執るために鳳凰学園に居る。
 けれど、所属の方は鳳凰学園ではなく機関に位置している。
 教師達全員が因使なのは当たり前。かつ研究者出身の人も多い。
 何が言いたいのかと言うと、鳳凰学園理事長は、そういう人達の持て余している探究心のために教師個別に研究室を設けていてくれたりする。
 これも因使科の、教師側のだが優遇措置だろう。l
 これだけでかい建物なのだから部屋の数は多いに持て余しているだろうし。
 
 そして今から会いに行く僕を呼び出した人も、そんな研究者上がりで因使科教師の一人だ。
 将来他所の研究所にお世話になる事が確定している僕に、その間までの優先的な研究と協力を依頼として持ちかけ、身の安全と金銭を頂けるのならばと受諾したのでこうやって定期的に呼び出されている。
 この呼び出しも慣れたもので、両手で数えられないぐらいには彼女の研究室に通っている。
 
 目的地である研究室前へと到着する。
 一応マナーとしてノックを2度。中から入室を許可する声が届いてくる。
 カラカラと軽快に動くドアを横にスライドさせると、さっきの声の本人が部屋の奥で「やあ、待っていたよ」と、首だけで出迎えてくれた。
 空気が固まる。いや、向こうは全然平気そうな声色で返答してきているので、この空気のぎこちなさは僕の錯覚なのだろう。
 だがどうしよう。
 見てはいけないものを見てしまったのではないだろうか。
 そんな固まってしまっている僕は不審げに思ったのか、脇にあった首無しの身体が喋る首を両手に抱えてこっちへと足を向けてきた。なにやら顔も訝しげだ。
 戦慄必須なその光景に、防衛本能でも働いたのか意識しないまま僕は扉を閉めた。
 もしかしたら「ひ」という情け無い声が出ていたかもしれない。
 閉めてしまったものは仕方ない。だが開ける気というか、勇気も湧いてこない。
 しばらくドアに手を掛けたままで居ると、いきなり向こう側から力が加わり、扉に隙間が出来る。
 
 
「どうした。何故閉める」


 何がおかしいのかわからないといった様子で、扉の隙間からその黄金色の瞳がこちら見上げてくる。
 明らかにその頭の位置はおかしい。絶対今もその頭は首無しの身体の小脇に抱えられている。
 反射的に開けさせまいと僕も流れに身を任せて両手で扉を閉める。
 が、その扉はどれだけ力を加えても一切閉まろうとせず、むしろ逆に開いていく。
 僕の両手での全力を、ソレは片手1本で何事も無かった様にいなす。
 完全に開ききるのに数秒と掛からず、その頃には僕は力無くへたり込んでいた。
 目の前には、相変わらずの首無しの身体がその頭を抱えて立っていた。

 
「採血をするぞ。早く立て、氷翠ムツミ」


 自分の異常性を自覚していないまま言葉を発するその人が、今日僕を呼び出した人物だった。
 “鋼鉄乙女マリオン”。
 正式名称“MARION-HM08”。
 この世界で人口比率1%を誇る超希少種族“機人”の因使科教師である。
 

 
△▽



この二次創作で神羅万象チョコ、ひいてはゼクスファクターに興味を持ってくれる人が出てくれればいいなと思います。
ゼクスファクター公式を見れば載っていることに厚みを持たせて書いているので、知っている人にも楽しんで読んでいただけるよう書いていきたいです。
後、少し改変もしています。
ウエハーマンのつぶやきのほうでは、寮から学園へは30分と記されてますが、流石に余裕過ぎると思ったので変更しています。

読み。
“魂石”クリスタル
“鋼鉄乙女”アイアンメイデン


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