窓一つすらない光も届かぬ暗い部屋の中、フードを被った人影が蝋燭の仄かな灯りに照らし出されていた。
人影は何をするわけでも無く、安楽椅子に座り染み一つすらない石造りの天井を眺め、時折思い出したかのように咳を零していた。
バンッ、と大きな音を立てて部屋の扉が開かれ外の光が部屋を照らす。人影はその光を眩しいとでもいうように顔を手で覆う。
「ここに居たか、魔王」
扉を開けたのであろう者が、部屋に入るなり椅子に座っている老人に向けて声を発する。
「人違いではないかな? あいにく私は魔王などといったモノを名乗った記憶などは無いな、人形」
「戯言を、この館に居る者はお前で最後。我が神の命により、魔王お前を殺す。数百年続いたこの戦争も、これで終りだ」
血塗れた剣を向けてそう言うまだ幼さが残っている顔つきをした少年に、老人が顔を綻ばせ、
まるで世間話をするかのような調子で返すが、若者はソレを無視し言葉を連ねる。
「数百年か……思えば私も長く生きたものだ。さて、最後の戦いを始めようではないか。老骨には堪えるものなのだがね……」
老人はそう言って立ち上がり、床に置いていた赤黒い染みの付いたハルバードを杖か何かのように軽々と拾い上げ若者にその切っ先を向ける。
「それが我が神を傷つけたと言う斧槍か……」
「傷つけたは良いが、その代償で左手を持っていかれたがの」
そう言ってヒラヒラと先の無くなった左腕を振る。その顔は楽しそうに笑みを浮かべ、これから命を賭けた戦いをするなどとは微塵も考えてはいないようであった。
「その命、貰いうける」
「良いだろう、見事私を殺してみせよ人形。出来たらの話だがな」
声を交わし終わるがいなや剣と斧槍が交差し剣戟の音が部屋に響く。老人が若者を叩き切らんとハルバードを振り回し、少年が時にかわし、時に剣で受け流して間合いを詰めていく。
「貫け!」
「お得意の無詠唱魔導術式か、だが残念。私には効かんよ」
少年が叫ぶと同時に現れた魔法陣から放たれた雷を老人がハルバードの一振りで掻き消す。
「チィッ! だがッ!」
「一々大声を出すな、耳に響く」
「何ッ!?」
雷を掻き消してがら空きになった老人の胴体に向けて踏み込み、剣を突き出すが、剣の腹を蹴り上げられ強引に切っ先を持ち上げられあらぬ場所を切っ先が通り過ぎていく。
「飛べ」
「グ、がぁ……」
全身鎧の上から叩きこまれた老人の左肘が鉄板を凹ませ、その衝撃を余すところなく中身に伝える。
少年はそれに踏ん張ることすらできずに吹き飛ばされ、二転、三転と床を転がり石壁に叩きつけられようやく停止した。
「ふむ、情け無いな。隻腕の老人を相手にこの様か。それとも若すぎるからか……。歴代の勇者と呼ばれた者達が見たら泣くぞ人形」
「ぐ……、ガフッ、ォエッ……」
内臓が傷ついたのかその場で反吐と共に血を吐き出す少年を見て、老人が呆れたようにタメ息を吐きつつそう声をかけた。
外見からして齢は恐らく12、3辺り、幼いとしか言いようがないほど若い。神からの力の供給とやらは行われているらしいが、これではまだ将軍格の方が強い。
「ふむ、となると……焦っておるようだな、貴様等の神とやらは。傷は癒せなかったらしいようで安心したぞ」
「クッ…………」
絶望的な状況だというのに少年はまだ諦めていないのか殺意で目にギラつかせて此方を見ている。
「心が折れぬことには賞賛するが、勝てぬとわかっても退かぬ猪か……全く本当にこやつで良いのか心配になるな」
「何の話だ……」
「我等が神が企てた計画の話さ。悪いが、君にはその礎となってもらう」
「誰が貴様等の計画など手伝うものかッ!!」
「だろうな、そう答えると思っていたよ」
血反吐を吐きながらも気炎を上げる少年に老人は笑みを零す。
「だがこれは私の命すら賭けられている、正真正銘最後の計画でな。君に手伝わないという選択肢は元より存在などしておらぬのだ」
「貴様等に利用されるぐらいなら死を選ぶ!」
少年はそう言って懐に隠し持っていた短剣を抜き、自身の喉に突き立てようとするが……
直後飛来したハルバードに短剣を持っていた腕ごと貫かれ、壁に縫い止められた。
「がぁあ嗚呼アあぁああぁあ!?」
「余り足掻くな、殺さぬように手加減するのも手間なのだ」
開いたままの扉を閉め切り、ツカツカと足音を立てて老人が痛みに喘ぐ少年の前まで歩み寄り、その頭を掴み上げる。
「な……何をッ……」
少年の疑問に老人が柔らかな笑みを浮かべると同時に、少年の脳に見知らぬ情報の波が襲いかかった。
「グガウゥうぅうううぅウウァアアアァ嗚呼アア!!」
「数百年にも及ぶ我が記憶、全てを貴様に譲ろう。誇りに思えよ、いずれ我が子の為にととっておいたものだ。尤も先の大戦で私を庇って死んでしまったがね」
口から泡を吹き出してビクリ、ビクリと体を震わせる少年を尻目に、
老人は腕に突き刺さっているハルバードを無造作に引き抜き、部屋の中央に向けて投擲する。
ハルバードと言う支えを失ってドシャリと音を立てて床に崩れ落ち、痙攣を繰り返す少年をボールか何かのようにハルバードと同じ場所に蹴り飛ばした。
血反吐を吐きながら部屋の中心に転がっていく少年を尻目に、老人は床に転がっていた少年の剣を手に持ち、ソレで迷い無く自身の胸を刺し貫いた。
「ぐぬぅ……く、……準備は……ここに、整った。我が肉体と……この館に在る全ての魂、を捧げる……ッ!!」
そういい終えるが早いか、部屋中に彫られていた文字の羅列が一斉に紅い光を放ち明滅を繰り返しながら、徐々にその光の強さを増していく。
「後は頼みましたぞ。我、等が……神……よ…」
老人が最後にそう言い残すのを待って居たかのように、その光が部屋全体を覆い部屋を紅に染め上げる。
光の収まった後には中央に突き刺さっていた筈のハルバードも、先ほどまで居た二人も忽然と姿を消し、
ただゆらゆらと揺れるか細い蝋燭の光が、床に転がる血の一滴すら付いていない白銀の剣を照らし出していた。
中二回路、全☆開!さぁ、滾れ我が妄想!中二回路を暴走させたらどの程度のファンタジー小説が書けるか試すのだ!
黒歴史確定? ハーハッハッハハハ物書きとはそういう者よ!黒歴史が怖くてファンタジー小説なぞ書けるか!