「恥さらし」
拳銃100丁以上を押収し「銃器対策のエース」と呼ばれた北海道警の敏腕刑事が、数多くの違法捜査に手を染め、警察組織に裏切られた揚げ句、覚醒剤におぼれて転落していく―。
様々な警察小説などの題材となった「稲葉事件」の当事者、道警警察銃器対策課元警部の稲葉圭昭さんが、9年の服役を終えて「恥さらし」(講談社・1785円)を書き下ろしました。警察組織の腐敗を赤裸々に描くとともに「成果主義」への警鐘の書ともなっています。
先日、札幌しないで稲葉さん御本人にインタビューさせていただきました。
暴力団員になりすまして、拳銃の取引現場に潜入。ところが、潜入捜査の刑事と見抜かれかけ、耳元ではヤクザが拳銃の撃鉄を起こす音が聞こえる―。刑事ドラマのような命がけの修羅場をくぐり抜けてきた稲葉さんは、仕事にのめり込むうちに、超えてはいけない一線が見えなくなってしまったそうです。
覚せい剤取締法違反などで懲役9年。服役を終えても、罪の意識は消えず、本人は出版に抵抗がありました。「だけど事件を起こした背景を、警察がどんなところかを、ちゃんと皆に知ってもらいたいと思い始めたんです」。
想像がつかなかった本の反響は、励ましばかりでした。現役の警察官、警察OB・・・。検事からも手紙が届きました。「『長い間、ご苦労さま。これから頑張ってください』と。すごくうれしかったですよ」。
稲葉さんが違法捜査に手を染めていった背景には、警察組織の腐敗があるという。ヤクザとの「信頼関係」を駆使して拳銃押収のノルマを達成するエース刑事を警察組織は頼りにしまくっていました。ところが、ある一件を機に稲葉さんは、閑職に追いやられます。自暴自棄になり、覚せい剤に手を染め、逮捕されたが、違法捜査を主導した元上司は、その後も着々と出世していったそうです。「責任を取って辞めていると思ったら、ある署の署長をしているそうです。どんな顔をして、署員の前で訓示をたれているんでしょう。顔がみたいです」。
自身の起こした事件にけじめをつけるために書いた告白は、図らずもノルマ主義に追われ、一線を踏み外す危険を抱える者への警鐘の書となっています。「ただ、人は壊れるんだよ、ということを分かって欲しい。特に警察官には読んで欲しいですね」。出版後、道警からの反応は全くないそうです。
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