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男女ともに宿命の対決があり必見!! 混戦必至なフィギュアGPファイナル。

Number Web 12月8日(木)18時59分配信

 今季のGPシリーズは、6戦目のロシア杯まで目が離せない展開となった。

 男子でこの大会にGPファイナル進出がかかっていたのは、ジェレミー・アボット、ハビエル・フェルナンデス、羽生結弦の3人。そのほかにすでに進出の決まっていたミハル・ブレジナ、たとえ優勝してもファイナル進出は無理だったアルトゥール・ガチンスキー(ロシア)など、他にも表彰台にのる可能性の選手はいた。

 この戦いで、優勝を射止めたのは16歳の羽生結弦だった。

 中国杯で4位だった彼にとって、ファイナル進出のチャンスは優勝以外ない。そんな追い詰められた状況で、みごとにロシア杯のタイトルをもぎ取った。

 初めて上がるシニアGP大会の表彰台でいきなり真ん中に立つとは、やはり並の選手ではない。彼の能力もさることながら、この勝負運の強さはトップアスリートにとって何より大切な財産になるだろう。

 僅差で2位となったハビエル・フェルナンデス、3位だったジェレミー・アボットと、表彰台に上がった3人全員が、GPファイナル進出を果たした。

■3選手が同点でファイナル進出した男子は群雄割拠。

 このファイナル選抜方法は、順位のポイント制で決まる。1位15ポイント、2位13ポイント、3位11ポイント、4位9ポイントというように順位によってポイントがあり、2試合(3試合出場した選手はベストな結果2試合)の合計ポイントが高い順に選ばれていく。

 中国杯4位(9ポイント)、ロシア杯1位(15ポイント)だった羽生の合計点は24ポイント。だが実は同点の選手がほかに2人いた。中国杯3位(11ポイント)、フランス杯2位(13ポイント)だった中国のソン・ナン。そしてスケートアメリカ3位、NHK杯2位だった小塚崇彦である。

 このような場合に備えて、ISUではタイブレークの条件を何重にも決めてある。タイブレークその1は、より高い順位を得た選手。要するに同じ24点でも、2位と3位より、1位と4位だった羽生が上位になった。

 ちなみにタイブレーク2は、試合のスコアの合計点である。少々ややこしいが、これは順位点ではなく、試合でジャッジたちから得たスコアのこと。ソン・ナンが2大会で得た合計点は450.85、小塚は447.11だったため、ナンが補欠1、小塚が補欠2に位置づけられた。

■制するのは2試合優勝のチャンか、最高得点の高橋か!?

 こうして男子、6人の強豪が揃った。

 パトリック・チャン(カナダ)、高橋大輔、ジェレミー・アボット(米国)、ミハル・ブレジナ(チェコ)、ハビエル・フェルナンデス(スペイン)、羽生結弦と、国籍のバラエティにも富んだ顔ぶれとなった。

 ちなみに今回男子で、2試合優勝して合計30ポイントを獲得したのは現世界選手権王者のパトリック・チャンのみ。だが2試合で得たスコアの合計がもっとも高いのは、497.62を獲得している前世界選手権王者の高橋大輔である。スコアだけで見ていくと、高橋、チャン、フェルナンデス、羽生、アボット、ブレジナの順となる。

 とはいえ勝負は時の運。GPファイナルでもこのとおりの順位になるとは限らないところが、フィギュアスケートの面白さでもある。

■佐藤コーチとの二人三脚で弱点を克服した浅田真央。

 一方女子は、浅田真央がロシア杯で優勝を果たし、3シーズンぶりにGPファイナル進出を決めた。

 3アクセルという大技へのこだわりをいったん捨て、彼女が本来持っていたスケーティングの美しさと全体のバランスを取り戻しつつある。表情も明るくなり、見ていて心が癒されるような彼女ならではの滑りを、再び見せてくれるようになった。

 フィギュアスケートでは、通常の場合、コーチを移るとその成果が試合に出るまで2年はかかると言われている。浅田の場合は特に、ドラマチックな演技の演出が得意なタチアナ・タラソワ・コーチから、スケーティング技術の基礎にこだわりの強い佐藤信夫コーチへと、極端にタイプの違うコーチへ移った。彼女ほどのキャリアを持つ選手が、すべて基礎から修正していった作業がどれほど大変だったか、想像に難くない。

 だが浅田真央は課題から目をそらさず、自分の弱点に真っ向から取り組んだ。それが今シーズン、彼女の演技の結果となって出てきたのだ。本人のみならず、佐藤コーチもおそらく世間の期待という、多大なプレッシャーを感じながらの共同作業だったことだろう。

「2シーズン目になって、ようやくコミュニケーションが取れるようになってきた」と佐藤コーチも手ごたえを語った。

■浅田真央が戦うトゥクタミシェワは「過去の自分」だ。

 ファイナルで注目したいのは、彼女とトゥクタミシェワの対決である。

 フランス杯でトゥクタミシェワが優勝したとき、私は2005年11月に浅田がサーシャ・コーエンと荒川静香を退けて優勝したことを思い出した。

 シニアデビューしたばかりで失うものもなく、恐れるもののなかった15歳当時の浅田と、今季のトゥクタミシェワが重なって見える。

 あれから様々な困難を乗り越えて大人の女性のスケーターに成長した今の浅田が、過去の自分を見るかのような14歳とどのような戦いぶりを見せるのだろう。

■技術に加えて「華」も身につけた鈴木明子は絶好調。

 鈴木明子も、今季は絶好調である。

 3+3のトウループコンビネーションを新たにプログラムに組み込んで、NHK杯では185.98という、今季のGPシリーズ女子全体の中での最高スコアを記録した。もともと鈴木は安定した5種類の3回転ジャンプと、優れたリズム感を駆使したステップで高いレベルを得る能力を持っている。今季の彼女は、さらに加えて「華」という存在感を身につけたように見える。技術と表現力をグレードアップさせた今季は、世界の頂点に立つことも夢ではないだろう。

 2試合の合計スコアでいうと、トップは浅田真央。カロリナ・コストナー(イタリア)、エリザベータ・トゥクタミシェワ(ロシア)、鈴木明子、アリッサ・シズニー(米国)、アリョーナ・レオノワ(ロシア)の順になる。

 だがもちろん、GPファイナル本番では何が起きるかわからない。

■ペア、アイスダンスにも熾烈な争いが待っている。

 ペアでは、川口悠子&アレクサンドル・スミルノフ、高橋成美&マーヴィン・トランら6組がファイナルに進出。川口はすでにロシア国籍ながら、日本人女子2人が進出したのは嬉しい。優勝争いは川口&スミルノフ、ドイツのサフチェンコ&ゾルコーヴィ、ロシアのヴォロサザール&トランコフの3組の間で繰り広げることになるだろう。

 アイスダンスは、五輪金メダリストのヴァーチュー&モイア(カナダ)と、銀メダリストのデイビス&ホワイト(米国)が他を大きく引き離してトップ争いを繰り広げることが予想される。トップ2組はほぼ確定したこの顔ぶれの中、3位を狙うペシャラ&ブルザ(フランス)、シブタニ&シブタニ(米国)ウィーバー&ポジェ(カナダ)らが激しく競り合うことになるだろう。

 それぞれ個性豊かな役者は出揃った。充実した大会になるはずである。

(「フィギュアスケート、氷上の華」田村明子 = 文)

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最終更新:12月8日(木)18時59分

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