学長の逮捕(連載第1回)
朝日新聞朝刊に連載中の「プロメテウスの罠」の本日(2011年12月8日)掲載分を以下に引用します。
プロメテウスの罠
■学長の逮捕:1
エリート医師が突然
ベラルーシ共和国第2の都市、ゴメリ。人口約50万人。1999年夏、その町で事件が起きた。ゴメリ医科大学の学長、ユーリー・バンダジェフスキー(54)が突然逮捕されたのだ。
学生から賄賂を受け取った疑いと伝えられるが真相はわからない。バンダジェフスキーは90年にゴメリ医大を創設したエリート医師だ。その逮捕は国際的に波紋を広げた。
86年、チェルノブイリで原発事故が起きた。原発の北にあるベラルーシには大量の放射能がまき散らされた。バンダジェフスキーは事故後、死亡した人を解剖して臓器ごとにセシウム137の量を調べた。
その結果、大人と子供、男性と女性で、臓器ごとに量が違うことを突き止めた。たとえば97年に死亡した人の平均では、子供の心臓には、体重1キロあたりで大人の約4倍のセシウム137が集まっていた。
放射線医学総合研究所の元主任研究官、崎山比早子〈さきやま・ひさこ〉(72)は「彼の論文にはさまざまな批判がある。しかし、人の内臓にどのくらいの放射能があるか、解剖して実際に確かめたのは彼しかいない」と評価する。
ベラルーシ当局は、放射線による健康被害は大量の被曝(ひばく)の場合しか認めていない。少量の被曝も影響すると主張するバンダジェフスキーは、政府にとって目障りな存在だ。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、彼が政府の被災者への対応を公然と批判したためにでっちあげられた事件だとし、救援活動に乗り出した。しかしバンダジェフスキーは01年、禁錮8年の判決を受け、服役した。
05年に釈放される。そして09年、ウクライナのキエフ市に移って研究を再開したのである。
キエフ市郊外に、チェルノブイリで被災した子供たちの保養施設が集まる地区がある。施設は現在は機能しておらず、周囲には廃虚のような建物も多い。敷地に入ると野犬が集まってくる。バンダジェフスキーとはそこで会った。
「日本の子供がセシウム137で体重1キロあたり20〜30ベクレルの内部被曝をしていると伝えられましたが、この事態は大変に深刻です。特に子供の体に入ったセシウムは、心臓に凝縮されて心筋や血管の障害につながるためです」 (松浦新)
◇
第5シリーズ「学長の逮捕」は内部被曝が健康に与える影響とその対策をみます。十数回の予定です。
(引用終わり)
この記事を読んでいて思い出しました。
2011年11月19日当ブログ記事「チェルノブイリの内部被ばくの明らかな証拠 」に、朝日新聞デジタルからこんな記事を引用していました。
『チェルノブイリ、内部被曝なお ロシアの小児科医報告
朝日新聞デジタル 2011年11月19日2時3分
チェルノブイリの原発事故から20年以上たっても、周辺住民に放射性セシウムによる内部被曝(ひばく)が続いている と、ロシアの小児がん専門家が18日、千葉市で開かれたシンポジウムで報告した。また、子どもの免疫細胞も減少している可能性があることも明らかにした。
報告したのはロシア連邦立小児血液・腫瘍(しゅよう)・免疫研究センターのルミャンツェフ・センター長。2009〜10年にベラルーシに住む約550人の子どもの体内の放射性セシウムを調べると、平均で約4500ベクレル、約2割で7千ベクレル以上の内部被曝があったという。
03年にベラルーシで亡くなった成人と子どもの分析では、脳や心筋、腎臓、肝臓など調べた8臓器すべてからセシウムが検出された。どの臓器でも子どもの方が濃度が高く、甲状腺からは1キロ当たり1200ベクレル検出された。 』
臓器を分析した年代をみると、「プロメテウスの罠」の報告と、以前私がブログに載せたデータは違うようですが(「プロメテウスの罠」のデータは2003年のものであるから、バンダジェフスキー氏は服役中であったはずだ)、
どちらにしても、これは実際にヒトの臓器にどれだけ放射性セシウムがあるか調査しているという点で、大変インパクトがあります。
「プロメテウスの罠」に出てくる、 「日本の子供がセシウム137で体重1キロあたり20〜30ベクレルの内部被曝をしていると伝えられましたが、この事態は大変に深刻です。特に子供の体に入ったセシウムは、心臓に凝縮されて心筋や血管の障害につながるためです」という箇所、ピンときました。
2011年10月25日当ブログ記事「子どもの体内からセシウムが検出されたことが意味すること」に引用した、朝日新聞デジタルの記事を以下に引用します。
小中学生の体内から少量のセシウム 福島・南相馬で検出朝日新聞デジタル 2011年10月25日05時33分
福島県南相馬市の市立総合病院は、9月下旬から検査した市内の小中学生の半数から少量の放射性セシウム137が検出されたことを明らかにした。事故直後に呼吸で取り込んだものか、事故後に飲食物を通じて取り続けたものか不明のため、病院の責任者は「定期的に調べて健康管理につなげたい」と話している。
小中学生527人を最新の内部被曝(ひばく)測定装置で調べたところ、199人から体重1キロあたり10ベクレル未満、65人から同10〜20ベクレル未満、3人から同20〜30ベクレル未満、1人から同30〜35ベクレル未満のセシウム137を検出した。
セシウム137が半分になるまでは約30年かかるが、体からは便などとともに排出されるため、大人で100日程度、新陳代謝が高い小学校低学年生で30日程度で半分が出ていく。
低線量の内部被曝の人体への影響についてはわからないことが多い。1945年の広島・長崎への原爆投下や、86年の旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所事故などでは、詳細なデータが取れていないからだ。
今回、少量ながら内部被曝の量を数値で把握できたことで、継続的に測定すれば、事故時に呼吸で取り込んだ量と、その後に飲食物を通じて取り込んだ量がそれぞれどのくらいかなどが、これまでより正確に推測できるとみられる。
その結果、内部被曝と健康被害の関係を詳しく調べることができ、今後は、食品を通じた内部被曝の増加を監視できるという。
検査結果を分析している東京大学医科学研究所の坪倉正治医師は、「1回の検査では確かなことは言えない。数カ月後に検査して推移を見れば、ある程度は推測できる。南相馬だけの問題ではない。国家的な取り組みが必要だ」と話す。
25年前にチェルノブイリ原発事故を経験したベラルーシのベルラド放射能安全研究所は、子供の場合、放射性セシウムは体重1キロあたり70ベクレル以上を危険レベル、20ベクレル以上を要注意レベルと決めて対策をとっている。
京都大原子炉実験所の今中哲二助教は「人体には1キロあたり50〜60ベクレルのカリウム40という放射能が自然にある。その変動の範囲の10や20なら、神経質になっても仕方がないだろう。30ベクレルあったら、少し気になるので、減らしたほうがいい」と話している。(松浦新)
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