経済産業省原子力安全・保安院が、2007年8月の中部電力浜岡原子力発電所のプルサーマル発電に関するシンポジウムの際、中部電に対し、参加者の動員と会場での発言を依頼していたことが分かった。会場での質問が反対派のみとならないようにするため、地元住民に原発に肯定的な発言をしてもらうものだったという。
本来は原発を監視する立場の保安院が、やらせを事実上指示していたことになる。中部電は依頼にもとづいて社員や下請け業者、町内会長ら地元住民に呼びかけて参加させていた。住民向けに肯定的な発言文案も作成したが、問題があると社内で判断し、発言させることは見送った。
29日に中部電が記者会見して明らかにした。
問題となっているのは、経産省が静岡県御前崎市で07年8月26日に開いた「プルサーマルシンポジウム」。保安院からの依頼は7月下旬にあった。これを受けて中部電は8月上旬、社員や下請け業者にメールや会議の場で広く参加を呼びかけた。町内会長など地元住民へも参加を求めた。
また、おなじ8月上旬には、保安院の依頼で、中部電本店原子力部グループ長が、協力を求めた町内会長ら地元住民向けに「化石資源は何年もつのか」「自然エネルギーは原発に比べてコストが高いのでは」など原発を肯定する発言文案を作成したという。
だが、中部電社内で議論した結果、特定の意見を表明するよう住民にお願いすることは、法令順守に問題があると判断。「発言を住民に求める依頼には応じられない」と、保安院に報告した。ただ、浜岡原発幹部が「地元から意見が出たほうがいい」として、地元住民約10人に「厳しい意見でもいいので、正直な思いを発言して欲しい」と頼んだことはあったという。
シンポでは、作成した文案と類似する発言はなかった。すべて原発やプルサーマルに慎重な発言だった。
一方、シンポ参加者524人のうち、中部電本体からの参加は約150人。参加要請について、中部電は「あくまでも任意での参加を呼びかけたもので、強制的なものではない」と説明している。会場で特定の意見を発言する「やらせ」の有無については、「発言は個人の判断に委ねていた」と否定した。
シンポは、開催直前の7月に浜岡原発4号機で使用済み核燃料を使うプルサーマル発電の許可が出たため、地元住民に理解を深めてもらうのが目的だった。会場では、参加者を対象とするアンケートが行われ、357人が回答。プルサーマルの必要性を「理解できた」「だいたい理解できた」などとする肯定的な意見が8割を占めていた。
九州電力の「やらせメール」問題を機に、経済産業省資源エネルギー庁は過去5年に国主催のシンポジウムなどを行った九電を含む電力7社に調査を指示。29日までの報告を求めていた。中部電はこの調査結果を29日、経産省資源エネルギー庁に報告した。
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中部電力への依頼問題について、経済産業省原子力安全・保安院の森山善範・原子力災害対策監は「本日、エネ庁に報告があがっていると聞いているが、報告書の中身は把握していないし、事実関係も分からない」と話した。
その上で、「あってはならないこと」とした。
森山氏自身が、シンポジウムの説明者で保安院の原子力発電安全審査課長として出席。「中越沖地震があった後なので、耐震について厳しい質問が多くあったと記憶している」と話した。