|
きょうの社説 2011年12月7日
◎幸福度調査 郷土の豊かさ知る一助に
内閣府の有識者会議が試案をまとめた国民の「幸福度」を測る指標は、国内総生産(G
DP)などの経済統計では表せない豊かさを数値化するものである。「幸福」という主観的な分野だけに、信頼に足る尺度になるのか、さまざまな見方があ るが、法政大大学院の研究グループが先ごろ公表した都道府県別の「幸せ度ランキング」では、1位が福井、2位が富山、3位が石川と北陸勢がトップ3を占め、郷土の姿を見つめ直すきっかけになった。 法政大の調査は、11月に国王夫妻が来日したブータンの「国民総幸福量(GNH)」 の考え方を参考に、「生活・家族」「労働・企業」「安全・安心」「医療・健康」の4部門に分け、40のデータを分析してランク付けしたものである。北陸では、就業基盤や子育て環境、治安など、全体を通して評点が高かった。これまでも各種指標で評価が定着してきた暮らしやすさが、幸福度にもつながったといえる。 だが、トップの福井県から「実感がわかない」との声が聞かれるように、統計的な評価 の高さと住民の実感は必ずしも一致していない。これでは、せっかくの評価も魅力発信には十分に生かせないだろう。統計と住民意識とのギャップがどこにあるかを探ることも、北陸においては郷土の豊かさを追求することになる。 内閣府がつくる幸福度指標は、法政大のように全項目を統合した指標は算出しない方向 だが、できれば地域の現状を把握できる仕組みがほしい。指標ができれば、長所、短所をつかみ、具体的な施策づくりにつなげることが大事である。 国の社会生活基本調査などのデータでは、たとえば石川県は華道や茶道をたしなむ人の 割合が1位であり、美術や音楽に親しむ割合など文化に関する多くの項目で5指に入っている。地域イメージを発信するには、こうしたデータも加味して、地域像を自らの手で描く必要がある。 幸福度は、何を指標にするかによって見え方が違ってくる。国や地域がどんな姿を目指 すのかということに通じるものだろう。そうした視点を忘れず、新たな指標を地域づくりに生かしていきたい。
◎原子力協定承認へ なお必要な本質的論議
ヨルダンなど4カ国への原発輸出を可能にする原子力協定が衆院を通過し、今国会で承
認される見通しとなった。野田政権は、国内では新規の原発建設を行わず原発依存を低減していく一方、海外には原発を積極的に輸出するという一見矛盾した政策を選択したことになる。原子力協定を結ぶ4カ国はいずれも国内手続きを済ませており、来年1月にも発効する予定であるが、今後なお原子力技術の継続保有に関する本質的な議論が必要である。原子力協定は日本企業が原発の機材や核物質、原子力技術を他国に供与、移転する際の 法的根拠となる。野田佳彦首相は原発輸出に関して「福島第1原発事故の経験や教訓、知見を国際社会と共有するのは日本の責務」「日本の技術はすばらしいので自国の原発建設に生かしたいという国がある」などと述べている。 民主党政権は原発輸出を成長戦略の柱に据えてきた。原発事故で国内政策は転換するが 、国際的な原発ビジネスからの完全徹底は日本経済にとってマイナスという判断があるのだろう。が、原発輸出に絡む議論はビジネスの次元で済むものではない。 原子力技術の維持に関しては、高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」(敦賀市)の是非も焦 点になっており、細野豪志原発事故担当相は廃炉も選択肢に検討する考えを示している。中長期的に原発を縮減する政策を貫徹するとなれば、もんじゅを含め原発の必要性はなくなる。使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し、再び核燃料として利用する「核燃料サイクル」政策自体の意義も失われる。 ただ、原発関連技術は「潜在的な核抑止力」であり、国家の安全保障の観点から保持す べきという声は根強い。国際的なエネルギー資源争奪戦が激しさを増す中、核燃料サイクル技術は「国力」を向上させるとして、開発研究の継続を求める意見もある。 原発関連技術の保持と輸出は、国家のありようを大きく左右する問題であり、もっと多 角的に深く掘り下げた議論を国会で行ってもらいたい。
|