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「 グロ−バル化と日本 」
『ニュ−ズウィ−ク日本版』創刊15周年企画懸賞論文 優秀賞受賞論文
私は、在日朝鮮人3世の立場から日本のグロ−バル化とどう向き合うかについて考えてみたい。
今までの日本におけるグロ−バル化の議論は、日本のヒト、モノ、カネ、スキルが、外国にどう出ていくのか、また逆に外国のモノ、カネ、スキルを日本にどう取り入れていくのかというものであったと思われる。そこには、「日本に入って来るヒト」という視点が、すっぽり抜けていたような気がする。特に「日本に入って来るヒト」よりも「もう既に日本にいるヒト」、すなわち在日朝鮮人をはじめとする在日外国人(注釈1)とどう向き合うかという視点である。
在日朝鮮人とは、日本に住んでいる朝鮮半島出身者とその子孫たちであり、約100万人(注釈2)を示す。在日朝鮮人は、1910年8月、日本による朝鮮の植民地化以降、日本経済の発展のために多大な犠牲を余儀なくされたし、また貢献もしてきた。しかし日本・日本人は、在日朝鮮人たちを経済発展のために苦労を共にしたパ−トナ−と思っているであろうか。今、日本人の真横にいる、そして日本で90年も一緒に生活を共にしてきた在日朝鮮人たちをである。
日本は、まず「足下のグロ−バル化」を考えるのが先決ではないか。そのために一つは、在日コリアンや在日韓国人という当たり障りのない表現を使うのではなく、在日朝鮮人、特に「ちょうせん」という表現・言葉を克服すべきだ。とはいっても在日コリアンや在日韓国人という表現・言葉を使うなといっているのではない。ただ言いたいことは、日本・日本人のみならず一部の在日コリアンや在日韓国人たちは、なぜ「ちょうせん」を避けるのかということである。「ちょうせん」は、決して差別用語でもなく、古い表現でもない。これは、れっきとした民族と文化を表す誇らしく、かつ崇高な表現・言葉である。
日本は、現在の大韓民国との友好関係と朝鮮民主主義人民共和国との対立関係をもって、在日朝鮮人と向き合おうとするのでなく、歴史的経緯に基づいて自らの頭で考えて向き合うべきだ。
現在の調整型の外交関係、すなわち主体性のない外交を押し進めるならば在日韓国人と在日朝鮮人をさらに分け隔てることになり、新たな2重差別を生みだし、グロ−バル化とは全く正反対の視野狭窄に陥るであろう。
日本の「足下のグロ−バル化」のためにもう一つは、在日朝鮮人である私たち自身が、日本のグロ−バル化の力量となり得る資質と自覚を持ち合わせることだ。なぜならば在日朝鮮人の法的地位は、日本と祖国との外交・国交関係によって決まるが、日本のグロ−バル化における役割は、私たち一人一人の意識と使命感によって決まるからである。この使命感は、日本や祖国に強制されるものではなく、日本と祖国との狭間に埋没し、また歴史と戦争に翻弄されるなかでその苦悩と葛藤から滲み出たものである。したがって「足下のグロ−バル化」は、日本・日本人が「ちょうせん」を克服し、また同時に在日朝鮮人自身がその主体的役割・使命を認識する、すなわち克服と認識が収斂されることによってはじめて実現すると考える。この実現のためには、日本・日本人と在日朝鮮人の双方が、はっきりとした主張をしながらも我慢するという能力が重要だと考える。私の考える国際性とは、相手の民族や伝統文化を歴史が長い短い、国が大きい小さいに関係なく、認める能力である。2つ以上の国をその国の長所、短所を踏まえつつ納得できなくとも理解できるということは、誰もが簡単にできないりっぱな能力であり、国際性であるといえる。よって国際性とは、我慢であるともいえる。
また日本・日本人が、「アウトサイダ−」の価値を認め、在日朝鮮人は、これを前向きに自覚することによってグロ−バルな社会を共に築き上げることが重要だと考える。「アウトサイダ−」とは、常識社会のわく外にある人を指し、時に反逆、無頼、退廃した人たちを意味するが、時に体制批判の立場に立つ「独創的な人」を意味する。すなわち後者の「独創的な人」と双方が認識・自覚するならば日本の「グロ−バル化のためのイノベ−タ−」となり得るのではなかろうか。
日本は、今後、少子高齢化が進み、現在の経済力と労働力を維持するためには、毎年60万人の外国人を受け入れる必要があると言われている。そして2050年には、在日外国人は、3000万人になると推計されている。したがって日本において大きな在日外国人社会が形成され、在日外国人市場というエネルギッシュなマ−ケットが、誕生するであろう。この新たに再構築される在日外国人社会のリ−ダ−は、在日朝鮮人である。なぜならば日本で在日外国人としての歴史が一番長く、また豊富な経験をもっているからである。この歴史と経験は、20世紀は埋もれたものであったが、21世紀は間違いなく日本のグロ−バル化のための貴重なノウハウとなるであろう。最後に日本のグロ−バル化は、日本・日本人が在日朝鮮人とどのようにパ−トナ−シップをとり、在日朝鮮人が自らの民族性とアイデンティティをどう尖鋭化させるかがその試金石となると考える。
注釈1:現在の在日外国人は150万人であり、在日朝鮮人は63万人である。在日朝鮮人比率は42%であるが、戦前、戦後から1985年まで80%以上を推移していた。
注釈2:朝鮮籍と韓国籍の特別永住者52万人、永住者2万5000人、帰化者24万人、ニュ−カマ−12万人、帰化者の子孫約9万5000人という説がある。
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