世界経済の不確実性を受けアジア途上国の成長は減速へ、 ―アジア経済見通し改訂版発表

【香港、2011年9月14日】アジア開発銀行(ADB)は、『アジア経済見通し2011年改訂版』(Asian Development Outlook Update (ADOU) 2011)を本日発表した。それによると、アジア途上国(日・豪・NZを除くアジア・太平洋の45カ国・地域)の経済成長率は、主要貿易相手国の外需が弱いことへの懸念が続くなか、本年および来年とも7.5%になるとみられる。成長率は、本年4月の予測値(2011年7.8%、2012年7.7%)から、いずれも僅かながら下方修正された。

ADOUは、毎年春に発表されるADBの代表的報告書『アジア経済見通し』(ADO)に対し、見直しを加えるもの。米欧からの需要の減速がアジア経済に引き続き影を落としているほか、2011年第2四半期には中国などで輸出の伸びが大きく鈍化した。

ADBの李昌チャン鏞ヨン(Changyong Rhee)チーフ・エコノミストは、「とはいえアジア経済は、力強い内需と、域内貿易の拡大に支えられ、しっかりした成長レベルに保たれている。いくつかのアジア国では、世界経済が回復し始めて以来、対中輸出の伸びが他の国・地域への輸出を上回る状態にある」としている。ADOUは、2007年に42%だったアジアの主要国間の輸出が2011年前期、47%に達したとしている(対総輸出量比)。

2011年のインフレ率については、4月時点で5.3%だった予測値が今回5.8%に引き上げられ(アジア途上国平均)、多くの国にとって物価上昇圧力は依然懸念材料となっている。市況商品価格が落ち着けば、インフレ率は来年4.6%まで下がるとみられるが、各国の中央銀行は注視を続けながら、対策を講じることが求められる局面もあろう。

資本は域内への流入が続いているが、直近数ヶ月はやや勢いが落ち、対処可能な範囲におさまっている。だが各国政府は、米欧の債券市場が落ち着き、先進国経済が上向けば、ボラティリティ(変動性)の急激な高まりに備える必要がある。

ADOUは、主要先進国経済が景気後退に逆戻りしなければ、多くのアジア各国は、世界経済の軟調に対し、当面はうまく対処できるとしている。

李チーフ・エコノミストは、「各国は、(世界危機を受け)財政刺激策を次々と打ち出したところだが、なお財政的余地は十分あり、外貨準備高も豊富にあるので、更なる下振れリスクに対しバッファーとなりうる」としている。ただ、より長期的には、先進国の需要が控えめであるため、各国は、内需主導型で包括的な成長促進をめざして構造改革を推し進める必要がある。

地域別見通し概況は次の通り。国別成長率予測は別表の通り。

  • 東アジア

アジア経済の主な牽引役である東アジア5カ国(中国、香港、韓国、モンゴル、台湾)全体の本年のGDP伸び率は、4月の予測では8.4%とみられていたが、中国経済がやや減速することから今回8.1%に下がった。2012年については、中国の成長率がさらに緩み、地域全体で8.0%に下がるだろう。

  • 南アジア

高水準にとどまっているインフレ対策に金融当局が着手していることから、南アジアでも成長率は鈍化し、本年の地域全体のGDP伸び率は7.2%、インフレ率は9.1%に達する見込み。2011年はインドの消費支出と投資が利上げの影響を受けるものの、来年はそのインドに牽引される形で、地域全体の成長率は7.7%に回復するだろう。

  • 東南アジア、中央アジア

地域全体の本年の成長率は、東南アジアが5.4%、中央アジアでも6.1%と減速が見込まれるが、両地域とも、堅調な民間消費と投資、海外送金、および有利な輸出価格を背景に、経済活動は全体として引き続き活発である。 アゼルバイジャンの主要な生産井での原油生産停止が、中央アジア地域全体の成長予測に影響を与えている。東南アジアでは、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムの成長見通しが下がっており、インドネシアの力強いパフォーマンスを吸収している。

  • 太平洋諸国

資源国であるパプアニューギニア、東チモール、およびソロモン諸島が、本年の成長見通し6.4%を支えていくとみられる一方、クック諸島やバヌアツでは経済は思わしくないものとなろう。来年の成長率はさらに減速し、地域全体で5.5%、本年のインフレ率は平均8.3%とみられる。


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