アジア経済見通し発表、 アジア途上国はインフレ対策が必要だが回復は堅固

【香港、2011 年 4 月 6 日】アジア開発銀行(ADB)は、「アジア経済見通し 2011 年版」(Asian Development Outlook (ADO) 2011)を本日発表した。それによると、 アジア途上国(日・豪・NZ を除く域内の ADB 加盟国 45 カ国)の経済は、インフ レや地政学的な不透明感、および新たな成長源の開拓といった課題はあるもの の、今後 2 年間は引き続き堅調に拡大する見通し。

ADO は ADB が毎年春に発表している代表的報告書。2011 年版は、アジア 途上国全体の成長率について、2011 年は 7.8%、2012 年については 7.7%と予測している。こ れら見通しは、9%成長を達成した昨年ほどではないものの、アジア全体として世界経済危機か らの力強い景気回復が続いていることを意味している。ADB の李 イ 昌 チャン 鏞 ヨ ン (Changyong Rhee)チー フ・エコノミストは、「アジアの途上国経済は、経済危機の期間中も一貫して耐性を示してきたが、 現在はその回復が確固たるものとなりつつある。中国とインドという域内の 2 大国における急成 長が、アジアのみならず世界経済を今後も押し上げていくだろう」と述べている。

一方、中東・北アフリカでの混乱が相俟って、食料・石油価格の上昇が加速しているほか、東 日本大震災も、成長持続と拡大に対し潜在的リスクをもたらしている。インフレについて ADO は、 金融引締めのみに効果を頼るのではなく、より弾力的な為替管理とそれに見合った資本規制と いったポリシーミックスによる注意深い対策が重要であるとしている。2010 年に 4.4%に上昇し た消費者物価は、2011 年には 5.3%まで上昇し、2012 年は 4.6%に下がると見られる。こうし た状況に対して李チーフ・エコノミストは、「世界の貧困人口の3分の2はアジアの途上国に住む といわれ、貧困層は物価高の影響を最も受けやすい。各国政府はインフレが進行する前に、先 手を打って対策実行を検討すべきだ」としている。

ADO はまた、アジア途上国が経済成長を長期に持続させ、広範なものとするためには、従来 と異なる市場との連携強化を進めていく必要があると指摘した上で、アジア同士、または中南米 やアフリカ、中東など域内外で急成長する新興国との『途上国間の経済関係』 *を拡大することは、 相当の可能性があるとしている。ただしそれには、対先進国に比し高い水準にある貿易・投資障 壁を取り除いていく必要があるだろう。

ADO によるアジアの地域別見通し概況は次の通り。国別成長率予測は別表の通り。

  •  東アジア 東アジア途上国全体の GDP 伸び率は、各国の財政刺激策が一服することと、投資の鈍化、 輸出の伸びが収まってきたことなどから、2010 年の 9.6%には及ばないが、2011 年は 8.4%、 2012 年は 8.1%と、経済危機後のアジアの復調を引き続き牽引するだろう。2010 年に 10.3% の高成長を達成した中国経済の 2011 年の伸び率は 9.6%となる見通し。香港、韓国、台湾の 各経済も、復調が鮮明だった昨年に比べ、本年は 5%程度と、より持続可能な成長率に落ち着く だろう。

インフレ見通しについて、大半の国は商品価格の上昇を受けて金融引締め策を講じているが、 2010 年の 3.1%から 2011 年は 4.3%に上昇するだろう。

  • 東南アジア 東南アジアの途上国経済は昨年、異例ともいえる力強い回復をみたが、2011 年は 5.5%、 2012 年は 5.7%という緩やかな成長率にとどまる見通し。7.8%だった昨年を大きく下回る理由 として、高めのベースライン効果、輸出の伸びの鈍化、および財政金融面で引締め策がとられて いることなどがあげられる。

インフレ率は、2010 年の 4. 0%から 2011 年は 5.1%に上昇する見通しであり、ベトナムでは 二ケタ台になると見られる。適切な政策措置が講じられれば、翌 2012 年には東南アジア全体で 4.2%に下がるだろう。

  • 南アジア 南アジア経済の成長率は 2010 年が 7.9%だったが、2011 年は 7.5%、2012 年は 8.1%に 届くとみられ、現在の好調ぶりが続く見通し。とりわけ、2010 年、財政再建と金融引締めにも関わ らず広範にわたって強固だったインド経済は力強さを増し、2011 年に 8.2%、2012 年は 8.8% の成長率を達成するとみられる。パキスタンでは昨年の洪水被害が重しとなっているが、スリラン カでは内戦終結の経済押上げ効果が続いた(注:インド、パキスタン、バングラディシュについては会 計年度を適用。うちインドは 4 月~翌 3 月。パキスタン、バングラディシュについては、7 月~翌 6 月)。
  • 中央アジア 中央アジア経済は、石油やガス、金など金属類、綿花といった主要商品の国際価格上昇の恩 恵を受けており、2010 年 6.6%だった成長率は、2011 年 6.7%、2012 年は 6.9%まで伸びる見 通し。ただし地域全体での食料価格と、石油輸入国における石油価格の上昇が進むことから、イ ンフレ率も 2010 年の 7.1%から 2011 年には 8.2%に上昇するだろう。
  •  太平洋諸国 資源が豊富なパプアニューギニア、東チモール、ソロモン諸島が、商品価格上昇と、鉱物資源 に係る新規投資や歳入の増加の恩恵を受け、2011 年の地域経済を牽引する。地域全体の成長 率は 2011 年が 6.3%、2012 年は 5.4%となると見られる。2010 年に 5.9%だったインフレ率は 2011 年には 6.5%まで上昇するが、2012 年は 5.6%に落ち着くだろう。

 

 


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