<宇宙と話そう 古川聡・臨時ISS宇宙支局長>
国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在した宇宙飛行士の古川聡さん(47)が11月22日、日本人最長となる167日間の宇宙滞在を終え、地球に帰ってきた。ISSでは25項目の実験に取り組み、医師として宇宙での生活が人体に与える影響を調べる「宇宙医学」に貢献。毎日新聞臨時ISS宇宙支局長として情報発信もした。古川さんの帰還で、日本人の宇宙滞在日数は9人で計615日、ドイツを抜いて米露に次ぐ3位となった。厳寒のカザフスタンで、古川さんの帰還を見届けた。【比嘉洋】
首都アスタナから四輪駆動車で道なき雪原を約10時間。車中泊し、帰還当日を迎えた。前日の吹雪はうそのようにやみ、満天の星だった。首にぶら下げた温度計は氷点下17度を指している。
22日午前8時15分(日本時間午前11時15分)、夜明け前の群青色の空に古川さんら3人を乗せたソユーズ宇宙船の帰還カプセルが現れた。着陸予定地点に待機するロシア宇宙庁の職員や報道関係者ら約200人が見守る。大気圏突入の熱で表面が燃え、ぼんやりと赤く輝いている。周囲の星よりひときわ明るいISSも上空に姿を見せた。
やがてカプセルが「ボンッ」と大きな音を立ててパラシュートを開いた。オレンジと白のしま模様がはっきり見える。夜空の一点がどんどん大きくなり、やがて釣り鐘形の船体がゆっくりと頭上を通過した。
「乗れ」。案内役のカザフスタン人運転手の合図で車に飛び乗り、着地点に向かった。3分後の午前8時26分(同11時26分)、帰還カプセルが雪煙を上げて着地した。「時間通り。すごい」。思わず叫んだ。
車を降りて近づくと、横倒しになったカプセルから焼け焦げたようなにおいが漂ってくる。古川さんは約30分後、野口聡一宇宙飛行士(46)ら数人に抱えられて船外に出てきた。無重力の宇宙から、突然地上に戻ると、訓練を重ねた飛行士でも足腰がふらつき、低血圧になる。古川さんも宇宙服からのぞく顔は青白く少しむくんでいるように見えるが、笑顔で元気そうだ。
抱えられたまま臨時設営の医療検査用のテントに向かう古川さんに駆け寄った。「半年ぶりの地球は」。「重力を本当に感じる。重力のおかげでいすに座れますから」。「今、何がしたい」との問いには「たまったお湯のお風呂に入りたい」。そしてテントの前で「息ができる空気が周りにたくさんあるのは素晴らしい」とにっこり笑った。
すっかり夜が明けた。空気中の水分が凍り、ダイヤモンドダストとなって朝日にきらきらと輝いていた。きっと本当においしい空気だったんだろう。
古川さんに続き、来年6月ごろから星出彰彦さん(42)が約6カ月間、ISSに長期滞在する。星出さんの宇宙飛行は08年6月以来2回目で、長期滞在は初めて。
慶応大理工学部卒。宇宙開発事業団(現宇宙航空研究開発機構)の技術者だった99年、古川さん、山崎直子さん(40)とともに宇宙飛行士候補に選ばれた。08年、米スペースシャトル「ディスカバリー」でISSと往復。2週間の宇宙滞在中、シャトルで運んだ日本の「きぼう」実験室を取り付けた。
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◆古川さんの167日◆
6月 8日 カザフスタンのバイコヌール宇宙基地からソユーズ宇宙船で打ち上げ。「応援、ありがとう。みなさまの熱い気持ちと一緒にいきたいと思っています」
6月10日 ISSに到着、長期滞在スタート
6月14日 短文投稿サイト「ツイッター」で宇宙酔いを報告。「頭を急に動かすとウゲー、気持ち悪くて吐き気がする。何とかしてください」
6月28日 宇宙ごみがISSに接近、一時退避。「宇宙ごみの相対速度は秒速13キロ。衝突したら穴があいて大変。ぶつからないでよかった、よかった」
7月11日 最後のスペースシャトルがISSにドッキング。「4人の仲間が増えてにぎやかになりました」
7月15日 宇宙から初めての記者会見。「やはり(シャトルに)乗ってみたかった。でも日本人として最後のシャトルを迎えられたことはうれしい」
8月 1日 東日本大震災の被災地の子どもたちと交信。「昼は緑が美しく、夜は街の明かりに活気を感じる。力強く復興していると思います」
8月24日 補給物資を運ぶ無人貨物船プログレスが打ち上げ失敗。「残念。食料や生活用品は十分そろっているので、しばらくは大丈夫」
9月 6日 宇宙医学の実験で、地上の医師の「遠隔診察」を受ける
9月16日 米露の飛行士3人が帰還。ISSは3人体制に
11月16日 米露の交代要員3人を乗せたソユーズがISSにドッキング。「わずか1週間足らずの6人生活ですがにぎやかになりそう。楽しみ!」
11月22日 ISSを離脱、地球に帰還。「日本人としての誇りを胸にいよいよ帰還します。これまで応援ありがとう」
※記者会見と交信時以外の言葉はツイッターから抜粋
毎日新聞 2011年12月6日 東京朝刊
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