ヨーロッパの信用不安が収まらないなか、アメリカの大手格付け会社が、5日、ドイツやフランスなども含めたユーロ圏の大半の国債の格付けを一斉に引き下げる方向で見直すと発表し、債券市場での各国の国債の取り引きなどへの影響が注目されます。
アメリカの大手格付け会社「スタンダード・アンド・プアーズ」は、5日、国債の格付けが最も高いドイツやフランスをはじめ、ユーロ圏の15か国の長期国債の格付けを一斉に引き下げる方向で見直すと発表しました。この理由について、格付け会社では、ここ数週間でユーロ圏各国の国債の利回りが上昇し、国債発行による資金調達の環境が厳しさを増しているほか、市場の動揺を抑えるための当面の対策などについて、各国の間で足並みがそろっていないことなどを挙げ、信用不安の払拭(ふっしょく)に向けた取り組みの遅れに強い警鐘を鳴らしています。発表に先立つ5日のヨーロッパの債券市場では、ドイツとフランスの首脳が各国の財政規律を強化するための新たな条約を結ぶことで合意したことなどを材料に、財政状況の厳しい国の国債が大幅に買い戻され、利回りが低下していました。しかし、その後、格付け会社の発表の内容が一部で報道されると、ニューヨーク株式市場では、ダウ平均株価の上昇幅が、一時、150ドル余り縮小するなど市場に動揺がひろがっており、6日のヨーロッパの債券市場での国債の取り引きや各国の株式市場への影響が注目されます。
今回、スタンダード・アンド・プアーズは、ユーロ圏15か国の長期国債の格付けを「クレジット・ウォッチ」と呼ばれる見直し対象に指定しました。見直しの方向性はいずれも「ネガティブ」で、格付けを引き下げる方向だとしています。会社側によりますと、見直し作業は90日以内に行われ、50パーセント以上の確率で実際に格付けが下げられるということです。さらに、格下げされる場合は、最も高いトリプルAという格付けを持つ6か国のうち、ドイツ、オランダ、オーストリア、フィンランド、ルクセンブルクについては最大で1段階、フランスについては最大で2段階の引き下げになるという認識を示しています。また信用不安が飛び火しているイタリアやスペインについても、格下げとなる場合には、最大で2段階の引き下げになるとしています。今回、信用不安対策を協議するEU=ヨーロッパ連合の首脳会議を間近に控えて格付けの見直しを発表した理由について、スタンダード・アンド・プアーズは「会議でのEU当局の対応が断固としたものだと投資家に受け止められなければ、市場の不安が急速に強まり、政府や金融機関にとって市場からの資金調達がより困難になるおそれがあるため」と説明しています。格付け会社としては、EU当局の対応によっては、格下げに踏み切ることもありうるという立場を示したものと受け止められています。
「スタンダード・アンド・プアーズ」が、ユーロ圏の大半の国債の格付けを引き下げる方向で見直すと発表したことに対して、ドイツとフランスの両政府は共同で声明を発表し、「両国は団結し、ユーロ圏の安定をはかるためヨーロッパ各国や関係機関と連携して、すべて必要な措置を取る決意だ」としてヨーロッパの団結を強めて危機を乗り越えていくと強調しました。また声明では、ドイツとフランスが5日に、財政規律の強化策を盛り込んだ新たな条約についての提案をまとめたことについて触れ、この提案が、ユーロ圏の安定や競争力、それに経済成長を回復させることにつながるとしています。これに関連してフランスのバロワン経済財政産業相は、地元のテレビ局に対し、「スタンダード・アンド・プアーズ」の判断は、ドイツとフランスが5日にまとめた提案を考慮に入れていないと批判しました。