思わぬところから… 忍び寄る放射性物質の恐怖2011/10/24 09:06

お茶の一件に始まった思わぬ植物や農作物の放射能汚染。
特に空間線量の高くない場所でも、植物の特性や成長期との関係で一気に放射性物質が濃縮されることを私たちは知りました。お茶の木は、新芽を出す直前に、葉から大量の放射性シセウムを栄養分のカリウムと間違って吸収していたと考えられます。
思わぬところから忍び寄ってきた放射性物質の恐怖。
この件に関して、いくつか新しい情報が入ってきました。

●スギ花粉
『スギ花粉の放射能汚染について』【WINEPブログ
このブログでは、独自に杉の雄しべのセシウム137を計測し、懸念を表明しています。非常に意味のある取り組みだと思います。

『スギ花粉のセシウム調査、林野庁が来月にも実施』【読売新聞10/21
林野庁も動き出すようです。
しかし、この記事の中に、たいへんな認識違いがあります。
「花粉症の人は、普段と同じ対策をしていれば、それほど心配する必要はない」。専門家として意見を述べている環境科学技術研究所の大桃洋一郎特別顧問の発言です。
花粉に乗った放射性セシウムを吸い込むのは、花粉症の患者だけではありません。春先になれば、誰もが吸い込んでいるのです。私は患者なので、よく分かるのですが、花粉症の患者には、ある意味で、花粉が見えます。「今日はたくさん飛んでそうだな」とか。危なそうな日にはマスクをします。だから私たち花粉症患者には、花粉に放射性セシウムが乗ってくる絵がはっきりと思い浮かびます。
このままだと、花粉症と無関係な人たちは、まったく無防備のまま、放射性の花粉を吸い込んでしまうでしょう。これは恐怖です。
一方、その季節、花粉症の患者の鼻腔内やまぶたの裏側の粘膜は、炎症を起こしている状態です。そういった場所から、より多くの放射性セシウムが体内に入り込む可能性があるのかどうか… これもまた恐怖です。

実際、スギの花粉は200キロ以上飛ぶと言われます。これまでのエアロゾルとかホット・パーティクルといったチリや火山灰のような形状とは違った飛散の仕方をするでしょう。放射性セシウムから見れば、スギ花粉は、あらたな、そして大きな船のようなものになる可能性が高いのです。
果たして、有効な対策はありうるのか… 春が来るのが怖いというのが、正直なところです。

スギやヒノキに次いで、花粉症の原因となるケヤキも要注意。今はソースを明かせないのですが、東京多摩地区で、ケヤキからだけ、突出した放射性セシウムの値を検出した例があります。

●クリとドングリ
クリは、カリウムが豊富です。と言うことは、放射性セシウムが蓄積しやすい。前から危ないとは思っていたのですが、案の定でした。

(財)食品流通構造改善促進機構が発表しているデータをもとに、一覧表を作成してみました。当ブログ独自の基準で、セシウム137と134の合計で100Bq/kgを越えたものを赤字で示しています。

クリの親戚のような、ドングリはどうでしょうか?
都内のある大学で、農学部の研究者がキャンパス内の銀杏とドングリ(3種類)を調べたそうです(これも事情があって今はソース情報明かせず)。結果は、クヌギのドングリにだけ、放射性セシウムが高濃度に蓄積していました。
「植物はよ―分からん!」とは、この研究者の口を突いて出た言葉。植物における放射性物質の蓄積、濃縮は、分かっていないことがたくさんあるのです。
しかし、「人間はドングリは食べないから関係ない」と見過ごすわけにはいきません。たとえば、夕方になると街路樹に集まって、ギャーギャーとうるさいムクドリ。木の実が大好物です。群れをなして生活しますので、その巣の近くは、糞によって放射性セシウムのホットスポットになる可能性があるのです。

ドングリにも野鳥にも、なんの罪もありません。しかし、思わぬところに、思わぬ形で放射性物質が集積するのです。
まだまだ、いろいろなところで、いろいろなことが起きるでしょう。本当に原子力事故というのは、計り知れない恐怖をもたらします。分かっていたつもりでしたが、身に浸みています。原発はいりません。

しかし、今広まりつつある汚染に対して、立ち向かわざるを得ないのも事実。その時に武器になるのは、これまでに蓄積してきた知識と大胆な想像力です。農業関係者、農学研究者、植物学研究者には、いっそうの努力をお願いしたいものです。

コメント

_ mmrnnf ― 2011/10/24 13:50

こんにちは。9/17の学習会に参加させていただき、沢山質問した者です。その節は大変ありがとうございました。また、ツイッターフォローをいただきありがとうございます。
私も家族も花粉症ですし、花粉症でない方にとってもこの記事は怖いですね~。プルトニウムを吸い込んできた話も怖いですが...。我が家は311以降マスクをするのが習慣になりましたが、花粉除けマスクでは心もとなく、もうどんな核種をどれだけ取り込んでいるのか分からないと感じます。もう笑って生きるしかないかも?
今日は小学校で「どんぐり拾い」の授業があり、うちの子だけ念のため図書室で過ごさせていただきましたが、やはりどんぐりはセシウムちゃんを沢山ため込んでいるようですね。他のママにも伝えます。
とっても貴重でタイムリーな情報、ありがとうございました!他の記事はなかなか読む余裕がありませんが、これからもよろしくお願いいたします。

_ 段 勲 ― 2011/10/24 16:22

こんにちは、いつもお世話様です。
今回の記事は文字通り思わぬところの思わぬ危険性に何も気がついていない自分にとって物凄いショッキングな内容でした。しかし、ちょっとだけ深く考えてみれば我々の周りのあらゆるところに潜んでいる放射能の危険に気がつくはずですね。
やはり、普段何気なく食べているお肉や卵以外にも色々な農作物や木の実などなど一体どれくらい汚れていてどこまでが食べてもいいのか戸惑いの毎日です。
しかしながら、日本で暮らしている以上、より確かな情報やデータのもとで自己防御をしていくしかないかと思います。
また新しい斬新な情報をありがとうございました。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/10/25 12:54

>mmrnnfさん
先日は、お世話になりました。
クヌギのドングリの件なのですが、調査した大学を明らかにできると、もっと説得力を持つのですが、残念ながら今は無理です。
花粉の件も心配です。深刻な事態にならないよう願うしかありません。

>段勲さん
仰る通り、「より確かな情報やデータのもとで自己防御」ですよね。しかし、検査している品目も、公開されるデータも、まだまだ少ないのが実情です。とにかく、広範で詳細な情報公開を強く求めていかないと…

_ ちゃちゃ。 ― 2011/10/27 18:04

こんにちは。いつも参考にさせていただいてます。
身の回りにヒタヒタと広がりつつある放射能汚染、本当に恐ろしいです。
なのに周りの人々があまりにも無関心で悲しくなります。その無関心の方が恐ろしいのかもしれませんね。

少しテーマから外れてしまうのですが、教えて頂きたいことがあります。
放射性壊変についてです。
例えば…、
1Bqのテルル129mが壊変すると1Bqのテルル129になり、その1Bqのテルル129が壊変すると1Bqのヨウ素129になるのでしょうか?
素人的な質問ですみません。
なぜそのような質問をしたのかというと、『ヨウ素129は通常のゲルマニウム半導体検出器では測定できません。』と書かれていたので、では計算で出すことはできないのか…と考えたからです。
これは「東京都健康安全研究センター」に掲載されていた『1か月毎の降下物の放射能調査結果』です。
http://monitoring.tokyo-eiken.go.jp/mon_fallout_data_1month.html
この備考欄を見ると、一見テルルなどの核種がどんどん減っているように見えますが、ヨウ素129に放射性壊変をしているとしたら、逆に汚染濃度が広がっているのではないかと懸念しています。
ヨウ素129の半減期は1570万年だとか…。半減期8日のヨウ素131はマスコミも取り上げていましたが、もっと重要なヨウ素129については報道されないのはなぜでしょう?
混乱を防ぐためなのでしょうか?
そうやって、私たちは知らず知らずのうちに被曝させられるのでしょうか?
やるせない気持ちでいっぱいです。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/10/27 22:19

>ちゃちゃ。さん
コメントありがとうございます。
手短に回答します。

>1Bqのテルル129mが壊変すると1Bqのテルル129になり、その1Bqのテルル129が壊変すると1Bqのヨウ素129になるのでしょうか?

なりません。ベクレルは1秒間に崩壊する原子核数なので、簡易的な計算では半減期と反比例します。テルル129m(半減期:33.6日)がガンマ崩壊してテルル129(半減期:70分)になった場合、ベクレル数は691倍になります。それがベータ崩壊してヨウ素129(半減期:1570万年)になると、テルル129mの時と較べて、ベクレル数は10のマイナス9乗のレベルまで下がります。
では、半減期が長くて、ベクレル数が少ないヨウ素129になってしまえば安全か?そんなことはありません。
ヨウ素129はベータ崩壊してキセノン129になります。ヨウ素129は外部被ばくにはほとんど関与しませんが、体内に入った場合、ほとんどすべてが甲状腺に集まります。ヨウ素131の体内での有効半減期は7日とされますが、ヨウ素129では138日となるはずです。
http://nucleus.asablo.jp/blog/
「ヨウ素131は8日で半減」という宣伝がなされていますが、実は、たった8日で半分に減るのに、甲状腺に大きな傷跡を残します。一方、ヨウ素129は、一般的にはヨウ素131ほどたくさんは存在しませんが、長く被ばくが続くという意味で深刻です。

たとえば、海藻はよくヨウ素を吸収し溜め込みます。ヨウ素131は8日で半分に減りますが、ヨウ素129は、ほとんど減りません。それがそのまま私たちの体内に入る恐れがあるのです。

_ ちゃちゃ。 ― 2011/10/28 09:30

早々のご回答ありがとうございました。
なるほど、半減期と反比例していくんですね。
全然知らなかったです。とても勉強になります。
ベクレル数が少なくなっても私たちに多大な影響をもたらすヨウ素129の存在は、やはりとても怖いですね。
やはり日々の生活で気を付けて、自己防衛するしかないですね。
ありがとうございました。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/10/30 06:50

<半減期とベクレル値>に関する追記:
より正しく言うと、「半減期が短い核種→半減期が長い核種」の場合は、半減期とベクレル値は、ほぼ反比例します。
逆に、「半減期が長い核種→半減期が短い核種」では複雑な計算になって、ベクレル値はあまり変化しないと思います。崩壊後の核種がさらに崩壊しようとしても、原子数自体が足りないからです(供給不足状態)。

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