・ゲームストーミング ―会議、チーム、プロジェクトを成功へと導く87のゲーム
あまりに内容が濃くて熟読していてレビューが遅くなってしまった。
この本は現代の知識創造のバイブルといっていいと思う。「共創」とか「創発」という言葉は概念レベルでよくつかわれるが、それを具体的にどうやって実現するかを書いた本をはじめて読んだ。なるほど、こうやるのかという方法(ゲーム)が80種類も紹介されている。いくつか試してみたが、私の周囲では大好評で成果を挙げている。
「ゲームストーミングはゲームのアルゴリズムと視覚的効果および効用を利用してグループワークを促進させる手法・技術・行為の総称です。ブレインストーミング、ファシリテーション手法、アイスブレイキングといったテクニックと同様、ゲームストーミングも会議、セミナー、ワークショップなど協働において優れた効果を発揮します。」
この本はビジネスの会議で使えるゲーム的なワークショップ、ファシリテーション技法のマニュアル集だ。主要なゲーム、参加者の心を開き発想を拡げる開幕のゲーム、深く掘っていく探索のゲーム、収束させる閉幕のゲームの4パートで合計80以上のゲームの進め方が紹介されている。
3つほど簡単なゲームを紹介してみると、
「ペチャクチャナイトとイグナイト」。限られた時間で、たくさんの発表を、たくさん公開できるアイデア。
「ペチャクチャナイトのコンセプトは単純で、プレゼンテーションに使う「スライド(画像)の枚数と1枚あたりの表示時間を制御することによって情報を素早く簡潔に伝えるというものです。具体的には20×20、つまりスライドはひとり当たり20枚、1枚あたりの表示時間は20秒です。スライドの切り替えは自動的に行われ、発表者は制御することはできません。ペチャクチャナイトに触発されて生まれたイベント「イグナイト(ignite)」も同様にペースが決められています。」
参加者の理解度を確認する「5本指コンセンサス」。
「進行役は参加者に、議題についてどのくらい合意が取れているか5段階で評価するように依頼します。完全に合意が取れていると思う」場合は5本の指を上げ、「まったく合意が取れていないと思う」場合は5本の指を閉じます。これは特にその場で作られたグループの場合には効果的です。同時にいろいろな話題が議論されがちだからです。指が1本、2本、3本というように、いろいろなレベルの人がいるグループは進め方をもう少し検討する必要があるでしょう。」
問題の根本的下人を見つけ出す「なぜなぜ5回」
参加者に5枚の付箋を配って「なぜこれが問題なのか自問してみてください。そしてその答えを付箋1に書いてください」「付箋1に書いた答えがなぜそうなのか自問して、その答えを付箋2に書いてください。」「付箋2に書いた答えがなぜそうなのか自問して、その答えを付箋3に書いてください」...。全員の5枚の答えを縦に並べて、共通点と相違点を話し合う。
ゲーム的なセッションはアウトプットが曖昧に終わりがちであるが、この本のゲームを組み合わせて閉幕のゲームを後半に配置していけば、上司への報告も可能な創造的なミーティングができると思う。
監訳者の野村恭彦(富士ゼロックスKDIシニアマネージャー)は日本に「フューチャーセンター」という未来探索の方法論を紹介している国内有数の凄腕ファシリテーター。所属する会社での実践例が日本語版には収録されている。
デジタルの時代は、ツールの使い方に習熟するだけでは他人と差をつけることが難しい。こうしたアナログでアイデアを引き出す、チームで創発するやり方を知っている人こそ、クリエイティブなリーダーになれる。来年は"ゲーミフィケーション"より"ゲームストーミング"だ。
昔、小説の原作を読んだ時以上にマンガ版で興奮している自分に驚く。
木製の衛星・ガニメデで発見された謎の宇宙船を目指す第一線の科学者たち。長い旅程で地球に5万年前まで月がなかったというとてつもない仮説を検討する。そして太陽系にもうひとつの幻の第5惑星ミネルヴァの存在が浮かび上がる。第1巻、月面で見つかった深紅の宇宙服をまとった死体はミネルヴァに由来するものなのか。前半は科学者たちの議論が長く続くが、圧倒的な画力で飽きさせない。
ついにこの巻では、科学者チームがガニメデに到着して、100万年前に消えた宇宙人ガニメアンと遭遇する。そのガニメアンの造形が素晴らしい、素晴らしすぎる。西洋、東洋の古代神話の異形の神々や魑魅魍魎を描き続けてきた作家だけあって、いかにも人類の神話に巨人伝説として残っていそうな、深層意識を刺激するデザイン。星野之宣が描く理由が十分にあると思った。
原作小説。
・星を継ぐもの
この物語は雑誌ビックコミックで連載中だが、7月に第1巻、12月に第2巻が出た。次は春か。来年内には完結する、かなあ。楽しみ。第一巻を読んで傑作の予感がしたが、第二巻で傑作確定である。
星を継ぐもの
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/07/post-1470.html
2008年に新たな言語感覚で話題になった川上 未映子の芥川受賞作。今頃ですが文庫で。
東京に棲むひとりぐらしのわたしのところへ大阪から姉の巻子とその娘の緑子がたずねてくる。もうすぐ40歳の巻子は、ホステスをしながら母子家庭の生計をたてているが、この夏、豊胸手術がしたくて上京してきた。久々に会う緑子は言葉を話さず、親と筆談でコミュニケーションをしている。親子関係はうまくいっていないらしい。
「卵子というのは卵細胞って名前で呼ぶのがほんとうで、ならばなぜ子、という字がつくのか、っていうのは、精子、という言葉にあわせて子、をつけてるだけなのです。図書室には何回か行ったけど本を借りるためになんかややこしくってだいたい本が少ないしせまいし暗いし何の本を読んでるのんか、人がきたらのぞかられうしそういうのは厭なので、最近は帰りしにちゃんとした図書館に行くようにしてる。パソコンも好きにみれるし、それに学校はしんどい。あほらしい。いろんなことが。」
一文が数ページも続く文章。最初は読みにくいのでは?と思ったが、独特のリズムを持っていて、慣れてくるとユーモラスで親しみやすく感じた。標準語の"わたし"の地の文と巻子の関西弁の会話、言葉を話すことができない緑子の、幼くて少し情緒不安定な手紙の文体。標準語×関西弁×こどもの内面の不思議語のリミックス文体がこの作品の魅力。朗読作品にしても面白そう。
併録された『あなたたちの恋愛は瀕死』は都会で疲れた女と、ティッシュ配りの男の不可能な関係性を描く滑稽な短編。人間がいっぱいいるのに、関係性が希薄な都会の雑踏では、一方的な思い込みで、話したこともない相手に対して、恋愛感情とか敵対感情とかを持ってしまう。つながりまくりの時代には、逆につながらないことがドラマになる。
要するにiPhoneみたいな付箋。メモを書いて貼ることができる。
退席中の同僚に伝言メモを渡す時に、PCの画面にでもペタっと貼り付けておけば絶対に目立つ。50枚入っている。箱にはスマートフォンの裏側もデザインされていて凝っている。お遊び商品であるが、スマートフォンの大きさと言うのは手帳サイズのメモ用紙と同じサイズだから使いやすい。
ただ私はこの付箋を買ってから半年以上経過するのだが、もったいなくてなかなか使えない。こんなのあるのですよーとパッケージをみせびらかして遊んでいるだけだ。付箋なら便利なものはいろいろあるし...。
付箋以外の用途としては、新しいスマートフォンアプリのインタフェース設計に使えそうである。誰が一番面白いアプリを発想できるかコンテストでもやってみようかと思っている。
そういえばyPadあったな。最近使っていないな。
・yPad チマチマした電子アプリが真似できない スケジュール+ノートパッド
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/12/ypad.html
出来がかなりいい。
写真を手描き風スケッチに変換する画像加工ソフト。Facebookで映えるプロフィール写真をつくるのにもつかえそう。大きな画面で変換するのが楽しいので、iPhoneよりiPadに最適なアプリである。
手描きパターンも複数から選ぶことができて、コントラストとブライトネスは後から調整することができる。背景が整理された構図で、コントラストがはっきりした写真が、手描き変換に向いているようだが、最初のパターンでいまいちでも、豊富にあるパターンをとりかえていくとしっくりくるものがみつかることもある。一枚の画像でずいぶん遊べて楽しい。
アプリケーションから直接、制作した画像をメールしたり、ソーシャルメディアへ投稿したりする機能もある。そういえばそろそろ年賀状シーズンだ。今年はこれでつくるのもおもしろそう。
なるほど。よく考えた。単純だが現時点では新しい。
iOS5の新機能である"通知センター"(上からなぞるとスルっと降りてくる画面)にメモを表示させることができるアプリ。標準のメモやEvernoteその他のメモアプリなどいくらでもメモするアプリはあるのだけれど、複数あるがゆえに、どこにメモしたかわからなくなってしまうのもありがちなこと。
メッセージ確認で定期的に見るのが癖になっている通知センターに表示されれば、忘れないのである。手に直接ペンで書いておくに近いコンセプト。
このアプリでは4行のメモを、最大10件表示させることが出来る。もうちょっとなにか機能があってもいい気がするのだけれど現時点ではシンプルにただこれだけ。通知センターを使ったアプリは今後増えていくのだろうな。
・雑誌タダ読み定期便
http://www.fujisan.co.jp/tadayomi/teiki
これは楽しいなあ。とてもおすすめ。PC、iPhone/iPad向けの無料電子書籍配信サービス。これまで知らなかった雑誌の魅力を発見できる。
登録すると週に一冊の紙の雑誌のデジタル版雑誌が配信される。なにが配信されてくるかはわからない。雑誌はまるごと読むことができる。配信タイトルはメジャー誌から専門誌までバラエティにとんでいて、思わぬ出会いがある。
ボディビルダーのディープな世界をのぞいたり『Body Building』、松下幸之助に叱られたり『PHP Business Review』、新しいガンダムが凄かったり『Quanto』、サーフィン雑誌でショートボードの魅力を知ったり『Blue』、梨花結婚密着取材を読んだり『Numero』、『別冊家庭サスペンス』でイカれた主婦のマンガを読んだり。
配信された雑誌はライブラリに保存され、いつでも読めるようになる。申し込んだ時点からの配送となり、過去に配送された雑誌は配送されない。つまり、早く申し込んだ方が得である。私はたまたま一冊目の配信が知っている雑誌だったためピンとこなくて登録してからしばらく忘れていたが、10誌くらい蓄積されると、とても楽しい本棚になっていることにきがついた。
市場としては低調とはいえコンテンツ面では雑誌の世界はまだまだ厚みがあるなと実感。
うまいなあ。駄作、普通作がない。傑作のみで構成された心霊恐怖短編集(8本収録)。日本的怪異をテーマにしたホラーが好きな人にはとてもお買い得な文庫本だと思う。
人の死をきっかけに見えないものが見えるようになってしまう人たちの話が多い。
一人称の緻密な心理描写にひきこまれていくと、中盤で実は現実に起きていることは違うとわかったり、見えないものが見える自分が正気なのか狂気なのかわからなくなったり。読者の感情移入先の状況が二転三転して、何が本当なのかわからなくなる。そんな巧妙なストーリーテリングが味わえる。短編とは思えないしっかりした物語感。
こういう心霊ホラーって一般的には、霊が出るか出ないかくらいが一番怖くて、出ちゃってからの展開はあんまり怖くないのが普通である。だから出るか出ないかで止めておくホラーって多いのだ。だが、この作家の場合、モロに出しちゃってからも、別の次元での怖さを醸し出していく。
私は家を捨てた女が子供の死をきっかけに里帰りする『彼岸橋』が好きだなあ。古い田舎の村の因習にとらわれて渡れない橋というモチーフが魅力的。それからヨット遊びに興じる都会のヤンエグたちが、海辺で障害を持つ青年と出会う『ジェリーフィッシュ』は、単なるホラーに終わらず現代人の深層心理を描いていていい。そして冒頭の『かっぱタクシー』は、どんでんがえしのどんでんがえしみたいな感じで完璧にヤラレマシタ、降参です。1998年第37回オール讀物推理小説新人賞をとったデビュー作『雨女』も収録されている。表題作の『澪つくし』はその続編。受け継ぐシャーマンの血のもたらす因果が悲しい。
冬だけどホラー。おすすめ。
現状iPhoneのテレビ番組表アプリと言うと定番にマイクロソフトのテレBingがある。非常に完成度が高いので当面はテレBingだなあと思っていたら、ライバルが登場。
テレビ番組表としては地味だが、基本機能が軽快に動くので、文句なし。何よりCSに対応しているのがよい。
最初に地域を設定する。そして地上波、BS、CSを選ぶ。CSはジャンル別に整理されているので見たいチャンネルを探しやすい。番組表の表示は縦でも横でも可能。広告が表示される。
これといった目新しい機能がないことで、軽い動作を実現している。ソーシャルメディアにつぶやくとか、番組サイトを見るとかは、テレビ番組表をみたいだけの人には不要な機能なので、この割り切り方はいいと思う。
iPhone/iPadでテレビ番組表 マイクロソフトが開発 テレBing
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/08/iphoneipadbing.html
パーティーでたくさん配って名刺が切れてしまう、オフだと思っていた日にオンの人と会ってしまう、なんていうことが年に何度もある。そういうときには本来は後日、感謝の手紙とともに郵送で送るのが正式なビジネスマナーであるが、実際のところ、なかなか日常そこまで手間をかけていられないものだ。
このアプリは、まずその場で相手の名刺を頂いておいて、メールで自分の名刺情報を相手に送る。メールでのつながりができれば、ビジネス的には単なる名刺交換の先へと関係をすすめやすくなる。名刺切れの失点を、メールのコンタクトで回復できるかもしれない。名刺を忘れないのが一番であるが、もしものときのために、入れておくと安心だ。
「お世話になります。
お渡しできなかった名刺を送付します。
よろしくお願いします。」
といったメッセージ(編集可能)とともに、名刺の裏表の画像が送信される。
本来は名刺の裏と表を登録するのだけれど、私の名刺は裏はロゴだけで情報量が少ないので、裏には自分の写真を登録してみた。これなら1日にたくさん名刺交換する相手でも、顔を思い出してもらいやすいだろう。
名刺キャプチャ機能(余白切り抜き・歪み補正・コントラスト調整)が充実しており、自分の名刺を簡単に美しく画像として登録することができる。
とても面白い。虚構の時代から拡張現実の時代へ。ユニークな社会文化論。
シリーズ最新の仮面ライダー フォーゼは、初代仮面ライダー世代の私からみたらとにかくヘンだ。バッタみたいな仮面ではなくて、ロケットみたいな被り物を被っている。昔だったら正義の味方ではなくてショッカーの怪人の一人のような外見だ。ストーリーもシリーズ初の学園物で異色の展開。主人公はリーゼントに短ランのツッパリ風だが、転校してくるや「全校生徒と友達になってやる」と宣言して皆に呆れられる。空気の読めない主人公をアメフト部長一派がリンチしているとモンスターが現れる。主人公は友達が持っていたフォーゼドライバーを装着して、仮面ライダーに変身し、怪物を倒す。そして仮面ライダー部を結成して学園の平和を乱すゾディアーツと戦う日々が続いていくことになる。
仮面ライダーはシリーズ作品として40年間、脈々と続いてきた。しかしこういう特撮モノは、マニアをのぞいたら子供時代の数年間ハマるだけの番組だから、昭和も平成も広く知っている人は少ない。実はこのシリーズは知らない間に、社会の変化を反映する形で、単純な勧善懲悪からより複雑な人間ドラマへと変化を続けていたのである。
著者は、日本を代表する二つのヒーロー ウルトラマンと仮面ライダーの40年間のほぼ全作品を、並の頭の読者ではついていけないほど丁寧に丁寧に分析していく。すると、あら不思議、そこに日本の時代精神の変遷が鮮やかに浮かび上がってくるのだ。それは著者によれば、ビッグブラザーの死であり、リトルピープルの台頭という変容である。
「もはやビッグ・ブラザーのもたらす縦の力、遥か上方から降りてくる巨大な力ではなく、私たちの生活世界に遍在する横の力、内部に蠢く無数のリトル・ピープルたちの集合が発揮する不可視の力こそが、現代においてはときに「悪」として作用する「壁」なのだ。大きなものから距離を取り、解体していくことではなく、遍在する小さなものにどう対するか、接するか、用いるか。無数に蠢くリトル。ピープルたちにいかにコミットするか───そのモデルを提示することこそが、現代における「正義/悪」を記述する作業に他ならない。」
小説『1984』に登場したリトルピープルのはたらきって、具体的にはなんだろうか?著者は貨幣と情報のネットワークが代表的なそれであると指摘している。
「ビッグブラザーという近代を支えた疑似人格回路は「政治の季節」の終わりとともに徐々に壊死を始め、人々はこの回路がもたらす「大きな物語」を虚構の中に求めるようになっていった。しかし、グローバル/ネットワーク化の浸透によってビッグブラザーが完全に死した現在───国民国家よりも貨幣と情報のネットワークが上位の存在として君臨するようになった現在、私たちが虚構に求める欲望もまた変化することになる。貨幣と情報のネットワークが世界をひとつにつなげた今、虚構は<ここではない、どこか>───すなわち外部に越境することではなく、<いま、ここ>───この現実の生活世界の内部を掘り下げて、そして多重化することでその姿を現す。」
現代社会は大きな物語という外部を失い、ひたすら自己目的化するコミュニケーション連鎖が広がっている。その世界から逃げるのではなく、むしろ内部へ深く深く潜ることで世界を変えていくことができると主張する。必要なのは革命ではなく、ハッキング。
もうひとつの世界という虚構の大きな物語をつくりだした時代は終わり、現実の世界に小さな物語を立ち上げる拡張現実の時代に我々は生きている、と。何が正しいか、何が価値があるかわからない時代になった、自分が信じられるものを信じるしかない。小さな物語万歳、要するにTwitterとかニコ動とかラブプラスとか、もっとやれ、どんどんやれ、無数のリトルピープルが拡張現実をハックすれば世界が変わるぞと、わかりやすくいえばそういうことみたいである。
仮面ライダーとウルトラマンの徹底分析の章は正直、長くてマニアックで、読むのが大変骨が折れたが、時代精神の変容を抽出した結論としての文化論は、納得と共感できる内容で、素晴らしい出来だと思った。途中で投げるともったいない。頑張って全部読むといい本だ。
いきなり冒頭が感情をコンピュータが読み取り可能にするための
<?Emotion-in-Text Markup Language:version = 1.2:encoding = EMO-590378?>
<!DOCTYPE etml PUBLIC :-//WENC//DTD ETML 1.2 transitional//EN>
<etml:lang = ja>
<body>
というマークアップ言語で始まって、わかるひとにだけわかればいいという著者 伊藤計劃の創作意図が伝わってくる。フィリップ・K・ディック賞特別賞を受賞したグローバルでも通用した本物のハードSF。
21世紀後半、医療技術が究極の進化を遂げて、人は病気で死ななくなった。体内に健康状態をモニターするナノロボットWatchMeを注入して、異常があればメディケア機構がはたらいて分子レベルで治してしまう。老朽化した器官は人工臓器ととりかえてしまう。
かつて人類が"大災禍"を経験してからは、健康が人類共通の最高にして最大の価値となり、政府は解体され、WHOが発展した医療合意共同体"生府"機関が世界を統治するようになった。生命主義はあらゆる争いをなくし、人類にはじめて完璧な調和(ハーモニー)をもたらしていた。
完璧なユートピア社会は、ある意味では不自由な社会だ。たとえばこの世界では万人が体内から完全に監視されていてプライバシーといえるものがなくなっている。人類の健康が最大にして唯一の価値であり、その他の価値観は認められない。
そのユートピア的な世界にWatchMeを体内に入れる前の少女3人が登場する。あまりに完璧な世界に対して違和感を覚えた少女たちは抵抗を試みる。完全なハーモニーにおける不協和音としての、自由意志を持った人間の抵抗の物語である。
テクノロジー要素が強調されたハードSFなので、一般読者と言うよりも、SF好きに向けた本である。読み応えたっぷり。
第30回日本SF大賞受賞
「ベストSF2009」第1位
第40回星雲賞日本長編部門受賞
・虐殺器官
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/09/post-1520.html
「これはコンニャク屋と呼ばれた漁師一族の漂流記である」
2001年『転がる香港に苔は生えない』で第32回大宅壮一ノンフィクション賞受賞した女性作家が先祖たちの軌跡をたどる。一族の古い墓に刻まれた見知らぬ名前を発見して、正体を調べていくうちに、五反田(東京)、御宿・岩和田(千葉)、加田(和歌山)を結ぶ400年のザ・ルーツの壮大な物語が浮かび上がってくる。
「私は町工場の娘であり、漁師の末裔である。祖父は外房の漁師の六男で、祖母はやはり外房の農家の侍女だった。祖父が東京に出て町工場を始めたため、いうなれば漁農工が三分の一ずつといったところだろう。在京漁師三世。あるいは漁師系東京人三世といった感じだろうか。体のどこかに漁師の血が流れていることは感じる。」
古いものが好きな著者は、生まれ育った五反田の町工場が消えていく様子を悲しく思う。祖母の他界を機に、祖父が晩年に書き遺していた手記をたよりにして、房総半島の漁師町 岩和田をたずねる。すべてが消えてしまう前に一族の歴史を書きのこすために。土地に残る伝承や記録から、徳川家康の時代の先祖の様子が垣間見える。そしてルーツはさらに奥へたどれることがわかる。房総には紀州と同じ地名がいくつもある。数百年前に紀州の多くの漁民が、房総へ移民した記録が残っているのだ。紀州の取材旅行でコンニャク屋400年の漂流記が完結する。
この著者、文章の端々に、物書きとしての自分が一族の物語を書き遺さなければいけないという強い使命感が感じられる。同じ物書き指向の私としてはすごく共感してしまうところがあった。私もいつかこういう一族にとっての記録係をしたいなあ、と思うのだ。
3年に渡って雑誌に連載された記録なので、10ページで一話進むスタイルだから長編でも読み進めやすいのもよかった。
読んでいて似ている本を2冊連想した。ルーツをたどる傑作ノンフィクションというと、中国残留孤児だった父の半生を追った『あの戦争から遠く離れて』(城戸久枝)が印象に残っているが、むしろ、フィクションだが新宿にある大衆中華食堂の三代に渡る家族の歴史を書いた『ツリーハウス』に、この本の内容は近い気がした。
・あの戦争から遠く離れて 私につながる歴史をたどる旅
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/12/post-683.html
・ツリーハウス
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/08/post-1498.html
内閣官房参与にもなった劇作家で演出家の平田オリザ氏の本。
コミュニケーションと身体表現のノウハウが詰まっている。
ワークショップで演技者に架空のキャッチボールをさせると、最初は標準的なキャッチボールを演じようとする。ボールや動作のイメージの標準が人によって違うので、なかなかうまくいかない。しかし、"バウンドさせる"、"転がす"、"高く投げ上げる"という非標準的な動作が入ってくると、イメージがいっきに共有されていく。
「標準的な(と本人が思っている)動作を繰り返しても、相手とのイメージの共有ができるとは限らない。実は特殊に見える動作を行った方が、逆にイメージの共有がしやすくなることが多くある」
特殊で特徴的な動きか。オヤジジェスチャーなんてそういう動きかもしれない。
オヤジ★ジェスチャー
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/01/post-914.html
そういえばモノマネの名人がするのもそんな特殊動作だと思う。こういう動作を身につけるにはまず日常の観察力も重要だ。
そして著者の表現教育の重要キーワードの一つが「意識の分散」。
「例えば、長い台詞を言うと、どうも力が入ってしまう、他人から「力みすぎ」「芝居がかっている」と言われがちな人は、長い台詞のどこかに、ちょっと他の動作を入れてみる。それだけでもずいぶんと肩の力が抜けるものです。」
ある単一の行動を繰り返し訓練するより、負荷をかけつつ複雑な動きを複雑なまま習得した方が、より大きな成果が得られるという理論。台詞をいうのも動作のひとつに過ぎず、すべての台詞を他者や環境との関係でとらえていくのが平田オリザ流。
まず動きだけ練習で完璧にして、次に台詞を完璧にして、そして表情を完璧にして、という風に別々に練習するのではなく、いっぺんに全部を完璧に演じる練習をする。これって実はある程度の複雑な行動を習得する上で、普遍的なノウハウかもしれませんね。
なるほどねえということ続出。演技、演出に関心のある人は必読。
・デフォルト Web メーラー
http://attosoft.info/blog/default-webmailer/
ブラウザーでメールアドレスをクリックすると、普段使わないOutlookが起動してしまう。本当はお気に入りのGmailを使いたいのに。そんなときにこのフリーソフトで、ブラウザーとメーラーの組み合わせを任意に設定すれば問題が解決できる。
Firefoxを使っているときはYahoo!メールで、SafariのときはBiglobeメールでなどわがままな設定もできてしまう。ブラウザーもメーラーも対応ソフトの幅広さがすばらしい。
Gmail や Hotmail, Yahoo!メールなど 20 種類以上の Web メールを「既定の電子メール プログラム」として設定可能。Webメールだけでなく、インストールされているメールクライアントを指定することもできる。