社説
沖縄侮蔑発言/地方差別を断じて許さない
品性を疑う。言語感覚が貧しい。鼻持ちならないエリート臭も漂ってくる。 仲井真弘多沖縄県知事は「口が汚れる」とコメントを避けたが、沖縄県民と女性に対する前代未聞の冒涜(ぼうとく)である。 防衛省の田中聡沖縄防衛局長が、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設計画をめぐり、不適切な発言をしていたことが分かり、一川保夫防衛相は29日、田中氏を更迭した。 野田佳彦首相はオバマ大統領に移設先の環境影響評価書の年内提出を約束しているが、沖縄側の反発はかつてないほど強まっている。 田中氏の更迭は当然だが、政府はもはや沖縄県民が基地問題を「差別」と捉え初めていることを認識すべきだ。この期に及んで、ごり押しは許されない。 「(女性を)犯すときに『これから犯します』と言うか?」 田中氏の発言は28日夜、那覇市内の居酒屋で飛び出した。沖縄県内に取材拠点を置く報道機関のうち、約10社の記者と懇談中だった。 一川防衛相が評価書の提出時期を明言しないことの真意を問われ、例え話として持ち出した。懇談は発言を直接引用しない「オフレコ」が原則だったが、29日付朝刊で地元の琉球新報社が報じた。 普久原均報道本部長は「人権感覚を疑う発言内容。公益性があると判断して報道した」と理由を説明する。 オフレコが前提だとしても、やはり「犯す」発言は常軌を逸している。県民感情を考えれば、地元紙が報道したことは妥当な判断と言えるのではないか。 それにしても移設問題を女性への強姦(ごうかん)になぞらえるという悪意に満ちた、おぞましい物言いである。 強姦は心身に深刻なダメージを与える許し難い犯罪だ。まして、沖縄には1995年の少女暴行事件という忌まわしい記憶がある。傷口に塩を塗るような無慈悲な表現と言うほかない。 田中氏が「沖縄は弱い」とか「基地のない、平和な島はあり得ない」と述べていることからは、もう一つの構造が浮かび上がる。差別だ。 それは普久原氏の言葉を借りれば「沖縄が何度、県内移設拒否の意思表示をしても、それを無視する国の姿勢」そのものだ。植民地の総督然とした田中発言からは、上から目線で沖縄を統治しようとする官僚の思い上がりも透けて見える。 野田首相はきのう「沖縄県民には大変ご迷惑をお掛けした」と陳謝したが、環境評価書を年内に提出する方針に変わりのないことを強調した。 藤村修官房長官は「政治的案件というよりは、事務方の不祥事という捉え方が一義的だ」と火消しに懸命だ。だが、普天間移設問題は拝み倒しに頼る段階をとうに過ぎている。 政治家や官僚の不適切発言が、東日本大震災からの復興や沖縄の基地問題をめぐって繰り返されているのは単なる偶然だろうか。国策に翻弄(ほんろう)される沖縄を、東北は痛みと共感をもって支えたい。
2011年12月01日木曜日
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