どこの国でも国家権力は不都合な事実を隠蔽し、歪曲し、矮小化し、無視し、真実の言論を厳しく封鎖してきた歴史がある。ありとあらゆる方法を使って、国家権力の都合の悪い情報は隠されてきた。
アメリカでもそうだ。愛国法というものがあって、国家権力に都合の悪い情報や行動や言動をしていると、ある日、突如としてFBIやCIAが乗り込んで逮捕されてしまうのである。
なぜインターネットは自由なのか?
しかし、不思議に思わないだろうか。
そんなに言論封鎖をしていた国家権力が、いったいなぜインターネットだけは放置しているのか。そして、なぜユーザーにポルノから反政府言論まで自由に読ませたり、書かせたりするのを許しているのか?
もちろん、「規制しろ」という声もある。しかし、現実的には世界中の人々はインターネットの中で自由を満喫し、自分の行動が規制されることもない。
日本でもそうだ。
政府は情報規制を強めている。たとえば、日本の中枢の韓国支配や、TPP問題や、沖縄問題や、放射能汚染問題を隠蔽・矮小化しているのは周知の事実ですらある。
にも関わらず、インターネットでは逆に徹底放置なのである。せいぜい幼児性愛だけが規制されているくらいだ。あとは、自由なのである。
そういった自由を利用して、多くの人々が国家の欺瞞を取り上げてている。重大な事実もそこに書かれており、中には明らかに政府には都合の悪いことも取り上げられている。
しかし、国家権力からメールや電話が来て「あなたの書いている物は国家に不当なもので、削除しなければ逮捕します」と言われた人はいない。
あまり過激すぎると、サーバー運営企業が恐れをなしてアカウントを削除して来ることはあるが、国家が介在してくることはない。
これを持って、インターネットは言論の自由が尊重されていて素晴らしい世界だと言うことができる。
インターネット・ビジネスに関わっている技術系の人たちですら、手放しで自由を絶賛するばかりで、その自由に何らかの疑問を持っている人は少数派だ。
それにしても、いつから人々はこんなにも無邪気になったのだろうか。おかしいと思わないだろうか。
為政者に不都合な情報で満載のインターネットは、いったいなぜ自由なのか?
"Carrier IQ"(キャリアIQ)
つい2週間ほど前の2011年11月中旬。
アメリカのコンピュータ管理者だったトレバー・エッカート氏は、スマートフォンのアプリの中に奇妙なソフトウェアが走っていると開発者コミュニティで報告した。
それは、"Carrier IQ"(キャリアIQ)と呼ばれるものだ。サムスンやHTCが出しているアンドロイドOSの携帯すべて、ブラックベリー、そしてアップルの iPhone などにインストールされていた。
アンドロイドとブラックベリーとアイフォーンの3つのOSだけで、スマートフォンはほとんどカバーされている。
だから、ほとんどのスマートフォン・ユーザーの端末に「キャリアIQ」が仕込まれて動いているということだ。
いったい、この「キャリアIQ」とは何をしていたのか。
これは、あなたがどこにいるのかという位置情報はもちろんのこと、ウェブで何を閲覧したのか、パスワードは何を打ち込んだのか、すべて操作履歴を記録していたのである。
どこの誰と何時何分にどれだけ通信していたのか、誰にどんな内容のメールを送ったのか、どんなアプリケーションを立ち上げ、どんんな音楽を聞き、どんなビデオを見て、どんなゲームで遊んだのか。
何もかもだ。
すべての操作履歴を記録し、片っ端からキャリアIQ社のサーバーに送り出していた。
ありとあらゆるプライベートがすべて、あなたの知らないところで、キャリアIQという聞いたこともない企業に向けて送られていた。これをトレバー・エッカート氏が証明した。
このソフトウェアは、端末の奥深いディレクトリに隠されていて、しかも削除も不可能なのだという。
Android端末で見つかったCarrier IQソフト、「iPhone」にもか--ユーザー情報を送信
「Carrier IQのアプリケーションは、端末の非常に奥深くに組み込まれているため、端末をソースコードから再構築しなければ完全に取り除くことはできない」と述べた。「これは、高度なスキルを有するユーザーが端末を完全にアンロックして実行しなければ、不可能である。端末が契約外の場所にあっても、同アプリケーションによるデータの収集を停止させるための手段は存在しない」
アップルやグーグルはいったいそれが何なのかを「性能の改善や、端末の不具合を解決するための診断ツール」だったと釈明した。
2011年12月1日にもなると、AT&A、スプリント・ネクステル、T-モバイルなども使用していたことが次々と発覚して、問題が拡大している。
どういうことなのか。
あなたの情報が大企業で共有されていたのである。もっとも、槍玉に上げられている各社は「不正な個人情報の取得などは行っていないと主張」している。
もう監視されている
政府が個人情報を黙って手に入れる世界はすでに実現している。たとえば、FBIはウィキリークスが台頭したとき、ツイッター、グーグル(Gmail)、フェイスブック各社に、ウィキリークスを支持するユーザーに関する情報開示を求めた。
対象は外国人も含んでいる。
すでにグーグル社はスパム業者の逮捕に協力するためにFBIに容疑者のアカウントを「のぞかせていた」という例もある。
FBIがフェイスブックでも地下鉄テロを計画していた男の会話を「のぞき見」していて逮捕していたという例もある。
これが何を意味しているのかというと、もはやアメリカで反政府言動をインターネットで発言すると、それがすべて補足されているという事実だ。
そういう時代になるのではなく、そういう時代に「なった」と過去形にしなければならない。
エシュロンなどは飛び交う電話の会話の中から特定の単語、たとえば「テロ」「自爆」「爆破」という単語が発せられると、それがデータベース化されて誰がそれを話したのか探知できるようになっている。
特定の個人名も検出される。たとえば、過去には「ビン・ラディン」「アンワル・アウラキ」などの単語が補足されるようになっていた。
同じような仕組みをインターネットでも実現したのが、「キャリアIQ」であり、すでにそれは知らない間に実用化されていた。
もう監視されているのである。
たとえ外国人であってもそうだ。国家権力に不都合なことを書いたり、反体制を擁護したり、支持したりするユーザは「監視」されている。
リチャード・ストールマン氏は時代遅れ?
現在でもそういう状況なのに、それに加えてオバマ政権はインターネットIDを国家プロジェクトとして計画立案しようとしている。
Gmailで違う名前のアカウントを使っても、Hotmail、Yahoo mail と使い分けても、インターネットIDで一元管理されていれば何の意味もない。
他にも大統領が非常時にインターネットを遮断することを可能にする法案も検討されている。
ほとんどのユーザはもうクラウドに依存しつつあると思うが、非常時にアメリカ政府がそれを遮断したとき、どうなるだろう。
自分のデータはすべてアクセスできなくなるばかりか、それを人質に取られてFBI等の政府機関が閲覧し放題になる。
クラウドについては、リチャード・ストールマン氏が「プライパシーを他人のサーバに預けるなど尋常ではない」と激しい批判を展開している。
しかし、一般的な傾向としては氏の警告はほとんど無視されていて、クラウドこそがコンピュータ業界のあるべき未来という薔薇色の世界ばかりが喧伝されている。
最近は、リチャード・ストールマン氏は時代遅れの変人だという評価になりつつある。
リチャード・ストールマン クラウドというものが危険なワナであることを警鐘する。 |
誰もが他人事ではない現象
インターネットに関する個人情報の追跡は、個人に召喚状や捜査令状が行くのではなく、プロバイダーやサービス提供企業に行く。
つまり、自分にはその拒否権はまったくない。
拒否権どころか、召喚状や捜査令状が来ないので、自分が「監視」されていることすら気がつかない状態になる。
たとえば、匿名掲示板と言われている日本の「2ちゃんねる」にしても、とっくの昔にIPを記録・保管して匿名でも何でもなくなっている。
何か殺人予告や爆破予告のようなものを書きこむと、すぐにIPが照会される。
そのIPに基づいて今度はISP(インターネット・サービス・プロバイダ)に照会がいくと、それを使用していたユーザーが判明することになる。
どこかのネットカフェを使っていたとしても使用時の身元確認、あるいは店内の防犯カメラ、あるいは路上の防犯カメラで身元が追える。
監視・摘発されるのは、児童ポルノ、ファイル共有ソフト、ネットオークションの詐欺、出会い系サイト、薬事法違反がほとんどを占めている。
テロ・売春・買春・ドラッグに関する内容を書き込んでいるサイトの管理者、あるいは虐待・暴力・死体画像を掲載するような危険サイトの管理者についても、もちろん恒常的に監視されている。
中国は規制が厳しいと他人事のように見るのもいいが、日本は半年で約2,500件の違法サイトが検挙されたという事実も重く見るべきだろう。
自分の情報を丸裸で晒している
そして、アメリカの捜査状況をも鑑みると、もはやインターネットは自由でも無法地帯でもない。これからも規制強化と監視対象の拡大が予測できる。
これに、インターネットのクラウド化と実名主義のSNS化と規制強化が合わさる。さらに今後はインターネットIDなるものも登場するかもしれない。
もう誰もが国家権力の前に自分の情報を丸裸で晒しているのと同じだということだ。
あなたが危険人物ではなかったとしても、自分の情報はクラウドとSNSの波に乗って漏れていくと考えていい。この件に関しては、誰もが他人事ではない。
そこで最初の命題に戻る。
国家権力に不都合な情報で満載のインターネットは、いったいなぜ自由なのか?
ここまで来れば、もうすでに答えは分かっているはずだ。
あなたがどこで何をして、どういう人物で、どういう思考を持っていて、どういう友人と付き合っているのか。
いつもインターネットで何を閲覧しているのか。誰とどこで何時に会ったのか。
これらが、すべて記録し尽くしていて保管されている。
ある何かがきっかけで国家権力があなたを「逮捕したい」と思ったとき、あなたの過去はすべて国家権力によって補足される。
その中でもっとも法律に抵触したと思うような部分であなたを起訴することが可能になる。
インターネットは、いったいなぜ自由なのか?
それは、あなたのプライベートを記録するためかもしれない。あなたの「全人生」を記録させるために、自由に泳がせているのかもしれない。
インターネットの自由は「ただ」ではない。発言、ネット履歴、位置。あなたは今、徹底監視されている。
膨張する監視社会 |
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