【コラム】国が成長しても不幸な国民

 与党ハンナラ党の朴槿恵(パク・クンヘ)元代表は先ごろ「今後は(成長率ではなく)雇用率を経済政策の指標とすべきだ」と述べた。これまで保守政権が掲げてきた成長中心の政策の大転換を宣言したようにも聞こえる。この発言に対してはすぐに「皆、頭では分かっていても行動できないだけだ」という批判が出たが、雇用重視の姿勢を示すことだけでも政策がもたらす効果は違ってくる。政策の中心が向かう場所に、国の目指す先もシフトするからだ。

 フランスのサルコジ大統領は、世界的な金融危機後の2009年に「われわれが建設する文明の形態は、それを測る方式によって異なる」と述べた。サルコジ大統領は、国内総生産(GDP)の成長にこだわっても、人々の生活は苦しくなるだけだと指摘し、国家経済と国民生活をGDPという物差しだけで測ってはならないと力説した。

 サルコジ大統領は、世界の学識者を集め、GDPに代わる新たな経済指標作りを目指す「スティグリッツ委員会」を創設した。同委の報告書は「われわれは(GDPなど経済成長と関連した)指標の矛盾が行き詰まり、壁にぶち当たるのを待つしかなかった。『国民総幸福』の増進のために新たな指数を探し求めよう」と提言した。

 サルコジ大統領の主張通り、われわれはこれまで慣れ親しんできた統計数値にとらわれてきたか、あるいは統計という名前にだまされていたのかもしれない。その代表的な例が青年の失業だ。韓国の若者は80%が大学に進学し、そのうち相当数が海外に語学研修に出掛ける一方、一部は学費を払えず休学する。男子学生には兵役もある上、良い職場にありつくためには、就職浪人、試験の準備に明け暮れることになる。

 生産可能年齢(15-64歳)の序盤に当たる10-15年を、そのように無駄にする国は他にないだろう。しかし、その間、彼らは失業統計に反映されないため、韓国の青年失業率は8%にとどまり、スペイン(41.7%)、イタリア(27.8%)、フランス(23.5%)などに比べはるかに低い。にもかかわらず、雇用率は経済協力開発機構(OECD)加盟国の最下位に近い。統計という名のまやかしはそれほど大きな威力を持つというわけだ。

 家計所得もそうだ。韓国で2人以上の世帯の平均年間所得は、2003年の2846万ウォン(約195万円)から09年には3055万ウォン(約210万円)へと7.3%増えた。しかし、同じ期間に所得の中間値は2581万ウォン(約177万円)から2664万ウォン(約183万円)へと3.2%増加するにとどまった。上流層は大金を稼ぎ、全体の平均所得を押し上げたが、大多数の国民の所得増加は物価上昇分にも満たなかった。

 韓国の大手石油元売り会社は、石油製品の大半を輸出すると胸を張っているが、その輸出競争力は安い電気料金によるところが大きい。韓国電力公社の累積赤字を肩代わりしなければならない国民が、雇用効果が薄い石油業界の輸出実績を喜ぶ理由は特にない。韓国の自動車メーカーが海外工場で生産した自動車で稼いだ収入も、大半は株主の利益になるだけだ。

 成長せず、利益も出さずに存続できる企業はない。しかし「皆が幸せな成長」を目指すならば、戦略は異なってくる。そんな変化を宣言したと言えるのが、新たな資本主義を目指す「資本主義4.0」の実践プランの一つだ。(編注:資本主義4.0とは、経済学者アナトール・カレツキー氏が提唱した資本主義の進化段階)

金徳翰(キム・ドクハン)社会政策部次長
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