衆院外務委員会が原発輸出に道を開くヨルダンなど四カ国との原子力協定案を可決した。今国会で承認される見通しだが、福島の検証も終わらぬうちに輸出では国際社会への説得力に欠ける。
東京電力福島第一原発が今なお冷温停止に至っていないにもかかわらず、野田政権は原発輸出にこだわっている。協定締結の相手国はヨルダン、ベトナム、ロシア、韓国で、核物質を輸出入する際、軍事転用を防ぐことが目的だ。衆院での質疑は国の内と外で原発政策を巧みに使い分ける姿を鮮明に映し出した。
野田佳彦首相は「福島の教訓や知見を国際社会で共有することが日本の責務」と語り、「事故後も日本の原発を求めてくる国があり、ならば最高水準の技術で協力していく」と力説した。
一方で玄葉光一郎外相は「日本は原発を新増設する状況になく、政府内で段階的な依存度引き下げを共有している」と述べている。国内の新増設には腰を引き、海外には売り込む。こうも国の内外で落差があっては、国際社会から信頼を得られるか疑わしい。
特にヨルダンは日本と同じ地震国で、原発に不可欠な冷却水の確保が難しい内陸部の乾燥地帯が予定地だ。八月の通常国会で参考人から指摘され、継続審議になったのに、政府は原発の専門家を派遣しての調査もしていない。
立地場所の周辺は、首都アンマンなどの大都市やヨルダンの半数の工場が集中しており、立地の適否すら確かめずに協定を優先させては怠慢のそしりを免れない。
輸出相手国の多くは新興国で、原発の資機材だけでなく運転・保守管理も日本に求めているが、事故が起きた際の責任の所在は明確になっていない。そのリスクを回避する「原子力損害の補完的補償に関する条約」への加盟も、福島後に慌てて検討するお粗末さだ。
原発は一基五千億〜六千億円の大型商談で、人口減少で需要が縮む日本に代わって外需を取り込む新成長戦略の一環でもある。
原発メーカーの東芝、日立製作所、三菱重工業はリトアニアやトルコなどとも受注交渉を進め、政府も協定を結べば原子力ビジネスの海外展開が可能になるとの見解を示している。
日本経済の再生に輸出拡大は有効な手だてだが、首相は福島の事故の検証が道半ばなのに教訓をどう生かすというのか。安全確保があいまいでは、立ち止まることも選択肢の一つに加えるべきだ。
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