破綻した核燃料サイクル ― 2011/11/27 21:18
どうやら、高速増殖炉『もんじゅ』が廃炉になりそうです。
『もんじゅ:廃炉含め検討…細野原発事故相「来年判断」』【毎日新聞】
細野豪志原発事故担当相は、「一つの曲がり角に来ている。何らかの判断を来年はしなければならない」と述べています。
グズグズしている必要はありません。直ちに廃炉プロセスに入るべきです。すぐに始めたって、10年以上はかかるのですから。
高速増殖炉は、使用済み核燃料からプルトニウムとウランを取り出して再利用するというもの。再処理工場と並ぶ、いわば「夢の核燃料サイクル」の中核とも言うべきものです。事実上のもんじゅの廃炉決定。やっと、国が核燃料サイクルの破綻を認めた形です。
あまり大ニュースにはなりませんでしたが、もう一つ、核燃料サイクルがらみのニュースがありました。
『核燃:ロシアの再処理提案文書を隠蔽 「六ケ所」の妨げと』【毎日新聞】
2002年に、ロシアから日本に対して行われた使用済み核燃料の受け入れ&再処理の申し出が、資源エネルギー庁の一部幹部によって握りつぶされていたのです。
当時、六ヶ所村再処理工場はトラブル続発。高コストも問題視されていました。記事の中にあるエネ庁幹部の「極秘だが使用済み核燃料をロシアに持って行く手がある。しかしそれでは六ケ所が動かなくなる」という発言が、すべてを物語っています。
9年前、核燃料サイクルそのものが成立しなくなる可能性を当事者たちは感じとっていたのです。ですから、汚い手を使ってまでも、情報を隠蔽しました。
なぜ?
核燃料サイクルがなくなると、自分の出世がなくなるからです。天秤の片方の皿に乗っているのは、私たちの健康と安全。反対側の天秤皿には官僚たちの出世。秤を操作しているのは官僚たち。このことに気が付かなかった私たちにも、少し責任があります。
では、幾つかのテーマに絞って、核燃料サイクルの話を進めましょう。
●核燃料サイクルの嘘
まず、核燃料サイクルの考え方を示す図をご覧ください。
『もんじゅ:廃炉含め検討…細野原発事故相「来年判断」』【毎日新聞】
細野豪志原発事故担当相は、「一つの曲がり角に来ている。何らかの判断を来年はしなければならない」と述べています。
グズグズしている必要はありません。直ちに廃炉プロセスに入るべきです。すぐに始めたって、10年以上はかかるのですから。
高速増殖炉は、使用済み核燃料からプルトニウムとウランを取り出して再利用するというもの。再処理工場と並ぶ、いわば「夢の核燃料サイクル」の中核とも言うべきものです。事実上のもんじゅの廃炉決定。やっと、国が核燃料サイクルの破綻を認めた形です。
あまり大ニュースにはなりませんでしたが、もう一つ、核燃料サイクルがらみのニュースがありました。
『核燃:ロシアの再処理提案文書を隠蔽 「六ケ所」の妨げと』【毎日新聞】
2002年に、ロシアから日本に対して行われた使用済み核燃料の受け入れ&再処理の申し出が、資源エネルギー庁の一部幹部によって握りつぶされていたのです。
当時、六ヶ所村再処理工場はトラブル続発。高コストも問題視されていました。記事の中にあるエネ庁幹部の「極秘だが使用済み核燃料をロシアに持って行く手がある。しかしそれでは六ケ所が動かなくなる」という発言が、すべてを物語っています。
9年前、核燃料サイクルそのものが成立しなくなる可能性を当事者たちは感じとっていたのです。ですから、汚い手を使ってまでも、情報を隠蔽しました。
なぜ?
核燃料サイクルがなくなると、自分の出世がなくなるからです。天秤の片方の皿に乗っているのは、私たちの健康と安全。反対側の天秤皿には官僚たちの出世。秤を操作しているのは官僚たち。このことに気が付かなかった私たちにも、少し責任があります。
では、幾つかのテーマに絞って、核燃料サイクルの話を進めましょう。
●核燃料サイクルの嘘
まず、核燃料サイクルの考え方を示す図をご覧ください。
あっちこっちの原発推進派の広報サイトにある核燃料サイクルの図と似ていますが、決定的に違うところがあります。原発と再処理工場から出る放射性排気と放射性廃液です。原発推進派は、ものの見事に、この点に目をつぶっています。
詳しく言えば、原発から出る放射性排気も問題なのですが、実は、再処理工場からは、同じ時間内に原発の1万倍もの放射性物質が出ます(主に廃液)。
原子炉も無いのになぜ?と思われる方も多いかと思いますので解説しましょう。
再処理の過程では、使用済み核燃料を硝酸に溶かす必要があります。この溶液からプルトニウムとウランを抽出したあと、残りを高レベル放射性廃棄物としてガラス固化体に固めるのですが、すべてをガラス化することは技術的にも、コスト的にも、不可能なのです。
残った放射性廃液はどこへ?
海に流します。現在、再処理をビジネスとして行っているのは、フランスのラ・アーグとイギリスのセラフィールドにある再処理工場。どちらも、放射性廃液を海に流して、海洋汚染が大きな問題になっています。六ヶ所村も同じことをしようとしています。いや、せざるを得ないのです。再処理をする限りは。
放射性廃棄物を海に棄てておいて、何が核燃料サイクルなのでしょうか!?本来、○○サイクルと言ったら、閉鎖系でなくはいけません。「ゼロ・エミッション=排出物無し」です。
再処理工場から放射性廃液が大量に出る。核燃料サイクルには、根本的な嘘が隠されています。
●高速増殖炉の危険性
1980年代までは、世界各国が高速増殖炉の実用化に向けて、積極的な姿勢を示していました。「夢の原子炉」と言われていました。
しかし、政治的には、プルトニウムが世界的に拡散することを後押しする可能性があること。技術的には、冷却剤に液体ナトリウムを使用するという、大事故と背中合せのようなシステム。この二つを解決することができず、アメリカを含む各国が、開発中止を表明しています。
日本が、事実上の撤退表明をしましたので、今、本格的に開発を進めているのはフランスだけになりました(ロシア、中国、インドも開発の姿勢だけは示していますが)。
液体ナトリウムの恐ろしさ… それは、水に触れただけで大爆発を起こすことです。
次の映像は、第二次世界大戦中にアメリカが溜め込んでいた液体ナトリウムを、湖に廃棄する場面です。少しばかり古い映像ですが、液体ナトリウムの恐ろしさを伝えるには十分です。
Disposal of sodium
高速増殖炉では、炉心を冷やす(炉心から熱を取り出す)ために、水の代わりに液体ナトリウムを使います。熱を受け渡す効率が良いからです。
しかし、発電機のタービンを回すためには、最終的には水蒸気が必要ですから、炉心で高熱に熱せられた液体ナトリウムの熱で、水を沸騰させ水蒸気にします。
液体ナトリウムと水の間にあるのは、金属製のパイプの厚みだけです。そして、熱をより効率よく伝えるためには、パイプは、できるだけ薄い方がよいのです。
この話を読んだだけで、高速増殖炉が、まさに砂上楼閣、怪物の綱渡りのようなものなのだということが、お分かりいただけたかと思います。薄いパイプに、何らかの理由で傷が付き、そこから穴が空いたら… いや、大地震で、そのパイプ自体が折れたら… とんでもない大惨事が待っています。
●再処理工場はプルトニウム抽出工場
世界初の再処理工場が稼働したのは1944年です。
原子力発電も行われていなかった時代に、なぜ、再処理工場が?
アメリカのハンフォード核施設。長崎に投下する原爆を作るために再処理工場が作られました。再処理工場などと言われると聞こえが良いですが、その実態は、プルトニウム抽出工場に他なりません。
最初に示した核燃料サイクルの図から、余計な部分を消すと、簡単にプルトニウム爆弾を作るためのフローチャートになります。
原子力発電自体が、軍事技術の民生転用ではあるのですが、再処理工場は、その最たるものです。逆も真なりで、民生用の再処理工場は、簡単に軍事転用可能。再処理工場さえあれば、数ヶ月でプロトニウム原爆は作れます。
今、再処理工場(再処理施設)を稼働させている国は、英・仏・ロシア・中国・インド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮・アルゼンチン・日本だとされています。
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核燃料サイクルについて、高速増殖炉と再処理工場という二つの側面から見てきました。本当に初歩的な話だけを書いたつもりですが、これだけでも、核燃料サイクルの恐ろしさと馬鹿馬鹿しさは、ご理解いただけたかと思います。
「もんじゅ」の事実上の廃炉決定。まずこれを確実に、出来るだけ早く実行させなくてはいけません。
次は「核燃料サイクルからの全面撤退=六ヶ所村再処理工場の廃止」です。
そして、全原発を廃炉へ。気を緩めている暇はありません。
尿検査とホールボディカウンター ― 2011/11/23 18:44
内部被ばく量や体内にある放射性物質の量を知るためには、今のところ、尿検査とホールボディカウンターが主に使われています。
いずれも万全ではないし、検査結果をどう評価すればよいのかも分かり難いものです。しかし、現状では他に頼るものがないのが事実です。
そこで、尿検査やホールボディカウンターでは、何が分かって、何が分からないのか… 結果をどう評価すればよいのか… ということを考えてみたいと思います。
●尿検査
まず、尿検査で出た放射性物質(ここではセシウム137)の検出値(尿中濃度)から体内残留量を計算する方法は、以下の通りです。
いずれも万全ではないし、検査結果をどう評価すればよいのかも分かり難いものです。しかし、現状では他に頼るものがないのが事実です。
そこで、尿検査やホールボディカウンターでは、何が分かって、何が分からないのか… 結果をどう評価すればよいのか… ということを考えてみたいと思います。
●尿検査
まず、尿検査で出た放射性物質(ここではセシウム137)の検出値(尿中濃度)から体内残留量を計算する方法は、以下の通りです。
体重と放射性物質の体内実効半減期が分かれば、体内残留量が算出できますが、性別、個人差、体調などによって、数値が大きく変わる可能性があり、誤差は大きいと考えられます。
また、子供では成人よりも体内実効半減期が短いとされますが、何歳でどの位といったデータは、明確になっていません。
…とは言え、一応計算してみましょう。体重60kgの成人の尿から1ベクレル/kgのセシウム137が検出された場合、その時点での体内残留量は208ベクレルと推測されます。
ここでは、セシウム137を例にしていますが、ストロンチウム90ではどうでしょう?
ストロンチウム90の体内有効半減期は18年=6570日です。1日の排泄率は0.00011になります。もし、体重60kgの人の尿から1ベクレル/kgのストロンチウム90が検出されたとしたら、13650ベクレル(227.5ベクレル/kg)という大量のストロンチウム90が体内にあることになります。おまけに、ストロンチウム90は、ほとんどが骨に集まります。骨組織は人体の20%を占めていますので、実質的には、骨に1137.5ベクレル/kgの濃度で集積し、造血細胞にベータ線を浴びせ続けます。
ストロンチウム90が、尿中から検出されるようなことがあれば、かなり深刻な事態だと考えなくてはなりません。
主な放射性物質の体内実効半減期は、以下の通りです。
一応、尿中の放射性物質の濃度から、体内の残留放射性物質量を計算する式を作りましたので、どなたもご自由にご活用ください。ダウンロードしたZIPを解凍するとexcelになります。
尿検査評価計算式
●ホールボディカウンター
ホールボディカウンターは、体内から出てくるガンマ線の波長と強度を計測することで、体内にある放射性物質の核種と量を推測する装置です。
核種によって、放出するガンマ線の波長が異なりますので、波長が分かれば核種を特定できるのです。放射線の強度は、いわゆる線量(シーベルト)と考えてよいでしょう。ガンマ線の線量が分かれば、体内にある放射性物質の量(ベクレル)が推測でき、ベータ線による被ばく量も算出できます。
ホールボディカウンターは、崩壊する時にベータ線とガンマ線を出すヨウ素131やセシウム134、セシウム137に対しては有効です。しかし、ベータ線しか出さないストロンチウム90や、アルファ線しか出さないプルトニウム239を検出することはできません。
また、体内のどの部分から多くのガンマ線が出ているのかも分かりませんので、内臓や器官による放射性物質の蓄積の偏りも知ることはできません。
従って、ベータ線による被ばく量が算出できるといっても、あくまで全身均等被ばくに換算した値になってしまいます。実際には、ストロンチウム90は、ほとんどが骨に蓄積し、セシウム137は甲状腺や心臓で高濃度になります。
ホールボディカウンターでは、何ができて、何ができないのかを下にまとめました。
●1回摂取か継続摂取か
尿検査にしてもホールボディカウンターにしても、検査した時点で、どのくらいの量の放射性物質が体内にあるのかしか推測することしかできません。
内部被ばくを考える時には、その後、放射性物質を継続的に取り込むのかどうかが大きな問題となります。1回だけ摂取した場合と継続的に摂取した場合では、体内残留量が大きく変わってくるからです。下の図をご覧いただければ、一目瞭然だと思いますが、1000ベクレルを1回摂取した場合と、10ベクレルを継続的に摂取した場合では、後者の方が、ずっと恐ろしいのです。
上のグラフの裏付けとなっている計算式は、次の通りです。
1回摂取か継続摂取かを見極めるためには、継続的に検査を続けるしかありません。おそらく、一か月に1回程度の検査を続ければ、いろいろなことが分かってくるでしょう。
たとえば尿検査なら、結果を以下のように判断すればよいと思います。
●濃度が上がっていく=飲食や呼吸による放射性物質の摂取量が増えて続けている危険な状態。ただちに、クリーンな環境に避難または疎開の必要あり。
●濃度が変わらない=飲食や呼吸による放射性物質の摂取量が変わっていない状態。数値によっては、クリーンな環境に避難または疎開を検討する必要有り。
●濃度の下がり方が「一回摂取」の場合よりも遅い=減ってはいるが、放射性物質の摂取が続いている状態。注意深く観察の要有り。
●濃度の下がり方が「一回摂取」の場合に一致=現在は放射性物質の摂取がない状態。そのまま下がり続けるかどうか、注意深く観察の要有り。
残念ながら、4番目の場合でも、すでに受けた内部被ばくを帳消しにする方法はありませんし、この先、濃度が下がっていく過程でも、内部被ばくは受けます。
いずれにしても、内部被ばくは難敵なのです。特に、継続摂取をせざるを得ないような環境は、きわめて危険と考えなくてはいけません。
福島は深刻な状況にあります。もっともっとモニタリングを徹底化し、必要な対策(クリーンな環境への避難または疎開)を取っていかないと、とんでもないことになりそうで心配です。
一方、首都圏や福島以外の東北の県でも、子供の尿からセシウム134やセシウム137が検出されています。例によって、「微量」で片づけられていますが、より広範なモニタリングを行う必要があります。
移住と除染 ― 2011/11/23 08:55
福島第1原発が立地する大熊町。町全体が20km圏内の警戒区域に入り、町民全員の避難が続いています。
11月20日に町長選が行われ、「しっかりと町の除染を行い、住民が生活できる環境を作ることが最優先の課題」とする現職候補が、「いわき市などに町ごと移転」を公約に掲げた対立候補を破りました。
故郷を離れたくないという住民の気持ちは、痛いほど分かりますが、福島第1至近のエリアで、本当に除染によって生活できる環境が取り戻せるのか、大きな疑問があります。
一方では、漏出した放射性物質を少しでも環境中から取り除く除染は、絶対に必要なものです(本来は、東電がすべて行うべき)。空間線量を下げるだけでなく、内部被ばくを少しでも低減させるためにも、除染は必要です。
ここでは、ともすれば対立する考え方とされる「移住」と「除染」について、いくつかの視点から見直してみます。
●上乗せ分が年間1ミリシーベルトを越える地域では移住権を認めるべき。
現在、福島第1由来の外部被ばくが、年間20ミリシーベルト以下の場所では、住民は、住み続けるか、自費での避難・疎開・移住を選択することしかできません。
当方の計算では、年間20ミリシーベルトは、空間線量では毎時4.0マイクロシーベルトに相当します。年間被ばく線量は、3.11以前の自然放射線による外部被ばく線量の約48倍に達します。この環境に住み続けてよいわけはありません。
少なくとも、「チェルノブイリの移住権の基準=年間1ミリシーベルト(上乗せ分)」で、住民に無条件で移住権を認めるべきでしょう。「上乗せ分=年間1ミリシーベルト」は、空間線量で毎時0.34マイクロシーベルト(自然放射線込みの数値)になります。それでも、3.11以前の7倍の空間線量なのです。
ただ、移住権エリアであっても、除染は進めるべきです。それは、当面暮らし続けるための除染というよりは、福島第1から放出された放射性物質を回収するための努力と考えるべきでしょう。
●除染は「放射性物質を環境から隔離する」が原則
「放射性物質による環境汚染と除染のイメージ」を図にまとめてみました。
11月20日に町長選が行われ、「しっかりと町の除染を行い、住民が生活できる環境を作ることが最優先の課題」とする現職候補が、「いわき市などに町ごと移転」を公約に掲げた対立候補を破りました。
故郷を離れたくないという住民の気持ちは、痛いほど分かりますが、福島第1至近のエリアで、本当に除染によって生活できる環境が取り戻せるのか、大きな疑問があります。
一方では、漏出した放射性物質を少しでも環境中から取り除く除染は、絶対に必要なものです(本来は、東電がすべて行うべき)。空間線量を下げるだけでなく、内部被ばくを少しでも低減させるためにも、除染は必要です。
ここでは、ともすれば対立する考え方とされる「移住」と「除染」について、いくつかの視点から見直してみます。
●上乗せ分が年間1ミリシーベルトを越える地域では移住権を認めるべき。
現在、福島第1由来の外部被ばくが、年間20ミリシーベルト以下の場所では、住民は、住み続けるか、自費での避難・疎開・移住を選択することしかできません。
当方の計算では、年間20ミリシーベルトは、空間線量では毎時4.0マイクロシーベルトに相当します。年間被ばく線量は、3.11以前の自然放射線による外部被ばく線量の約48倍に達します。この環境に住み続けてよいわけはありません。
少なくとも、「チェルノブイリの移住権の基準=年間1ミリシーベルト(上乗せ分)」で、住民に無条件で移住権を認めるべきでしょう。「上乗せ分=年間1ミリシーベルト」は、空間線量で毎時0.34マイクロシーベルト(自然放射線込みの数値)になります。それでも、3.11以前の7倍の空間線量なのです。
ただ、移住権エリアであっても、除染は進めるべきです。それは、当面暮らし続けるための除染というよりは、福島第1から放出された放射性物質を回収するための努力と考えるべきでしょう。
●除染は「放射性物質を環境から隔離する」が原則
「放射性物質による環境汚染と除染のイメージ」を図にまとめてみました。
除染と言われて、真っ先に思い浮かぶは、汚染土壌をビニール袋に詰めて山積みにしていく風景か、高圧洗浄機で道路や屋根を洗い流している風景です。
このうち、汚染土壌の方は、各自治体とも保管先に腐心していますが、基本的には、「仮置き場→中間処理施設→最終処分場」という流れで、環境から隔離することができます。
洗浄水はどうでしょうか?一部の都市部を除けば、ほとんどが河川や海に流れ込んでいきます。これでは、放射性物質を環境から取り除いたことにはなりません。ピンポイントの除染では、屋根の洗浄は欠かせませんが、原則は「放射性物質を環境から隔離する」ことだと理解しておかないと、放射性物質の拡散を招く恐れがあります。下水施設のない地域では、河川に流れ込んだ放射性物質を回収する方法を考える必要があります。
一方、ゴミ処理所の焼却灰や下水処理場の汚泥に、高濃度の放射性物質が集まることが問題視されていますが、これは、不幸中の幸いと考えるべきでしょう。灰や汚泥に集まらなかったら、いつまでも、環境中にあるのですから。中間処理施設を早急に建設し、汚染された灰や汚泥を環境から完全に切り離すことが先決です。
●森林や農地の除染は本当にできるのか?
仮に、住宅地の除染がある程度できたとしても、森林の除染は容易ではありません。
国は、住民に「高濃度に汚染された森林と面と向かって暮らせ!」と言うのでしょうか?森林から流れ出る水はどうするのでしょうか?森林と人の生活圏との間を行ったり来たりする野生動物をどうするのでしょうか?解決の術は見当たりません。
この間、放射性セシウムを積極的に吸着する、いくつかの物質が提案されていますが、それらは例外なく、植物にとって欠くことの出来ない栄養素であるカリウムも吸着してしまいます。生態系の中から、放射性セシウムだけを抜き取ることは、ほぼ不可能といってよいのです。
農地は森林よりは除染できる可能性がありますが、それでも困難が付きまといます。農地の汚染は、作元を通して内部被ばくに直接つながります。きわめて深刻な問題です。
農地から放射性セシウムを化学的に除去しようとすると、必ず栄養分のカリウムも失われてしまうのは、森林の場合と一緒。今のところ、表土と、ある程度深いところの土を入れ替えてしまうのが有効とされていますが、大変な労力を伴う上に、土質が変わってしまいます。
チェルノブイリでは、最初、農地の土を丸ごと入れ替えることを考えましたが、あまりに広すぎて断念。今は、カリウムを撒いて、作物が吸収する射性セシウムの濃度を相対的に下げる方法が中心になっているようです。
何十年もかけて作ってきた豊かな土を放射性物質によって汚されてしまった農家の悔しさを思うと、涙が出てきます。
●福島県以外のホットスポットに関して
首都圏でも、千葉県柏市や埼玉県三郷市など、放射性物質のホットスポットが見つかっています。
除染が難しい森林が少ない地域なので、やる気になれば、徹底的に除染を進めることができると思います。汚染土壌の除去、屋根やアスファルト路面の洗浄などです。場合によっては、街路樹や植栽を撤去・植え替えする必要もあるかも知れません。
一方で、群馬県などには、山間部にもホットスポットがあります。高濃度に汚染された森林をどうするのか… 原発至近エリアと同じ問題があります。
悲しいかな、数十年間、立ち入り禁止にすべき森があります。
●自衛隊を全力動員せよ!
東大アイソトープ総合センター長の児玉龍彦教授が、国の内部被ばくや除染に対する対応を鋭く批判したのは、7月30日のことでした。
この日の児玉発言の中に、「ただちに現地に除染研究センターを作って、実際に何十兆円という国費をかかるのを、今のままだと利権がらみの公共事業になりかねない危惧を私はすごくもっております」というものがあります。除染が利権がらみのビジネスになることを警戒した発言です。
児玉教授は、土壌汚染に関する様々な技術を持つ民間企業の力を結集させるべきと言っています。それ自体は正しいと思うのですが、ハイテク技術を総動員したとしても、除染の現場は人海戦術になることは目に見えています。
なぜ、ここに自衛隊を動員しないのか?給料は税金で払っているのですから、支出は大きく抑えられます。
いずれにしても、自衛隊をフルに活用すれば、除染の利権化を防ぐことができ、費用全体を大きく抑えることができるはずです。
語弊を恐れずに言うなら、私たちは、東京電力から「汚い爆弾」による攻撃を受けた状態にあります。
核兵器を製造する能力を持たない国や組織が、放射性物質を手に入れた場合、それを敵国に撒き散らすだけで、大きな被害を与えられます。これを「汚い爆弾」と呼ぶのです。
福島第1という「汚い爆弾」は、セシウム137だけでも、広島原爆168個分を撒き散らしています。
戦争被害にも匹敵する状況。自衛隊の全力動員は、間違っていないはずです。日本には、陸海空合わせてで約25万人の自衛隊員がいます。
福島とチェルノブイリの年間1ミリシーベルト ― 2011/11/13 14:45
今、福島の人たちは、まったくひどい状況の中に住み続けることを強制されています。
国が発表した年間1ミリシーベルトという除染のための基準。『汚染状況重点調査地区域』という難しい名称が付いていますが、簡単に言えば、福島第1由来の外部被ばく量が年間1ミリシーベルトを越える場所には、除染を受ける権利が有るという話です。最初、年間5ミリシーベルトと発表して、被災者から猛反発を食い、1ミリシーベルトに下げた経緯があるため、いかにも低い数字のように思えますが、これに騙されてはいけません。
この年間1ミリシーベルトという数字を冷静に見直すためには、除染だけでなく、避難や移住まで含めて、今、どういった基準になっているのか… それを検証し直す必要があります(福島の皆さんは切実な問題なので、ほとんど理解されていると思いますが、全国的に見ると多くの人が理解していません)。
まず一覧表で、チェルノブイリの基準と較べてみましょう。いかに、福島の基準が緩いものなのかお分かりいただけると思います。それは、とりもなおさず、福島の人たちが、きわめて危険な場所に住み続けさせられているということです。
国が発表した年間1ミリシーベルトという除染のための基準。『汚染状況重点調査地区域』という難しい名称が付いていますが、簡単に言えば、福島第1由来の外部被ばく量が年間1ミリシーベルトを越える場所には、除染を受ける権利が有るという話です。最初、年間5ミリシーベルトと発表して、被災者から猛反発を食い、1ミリシーベルトに下げた経緯があるため、いかにも低い数字のように思えますが、これに騙されてはいけません。
この年間1ミリシーベルトという数字を冷静に見直すためには、除染だけでなく、避難や移住まで含めて、今、どういった基準になっているのか… それを検証し直す必要があります(福島の皆さんは切実な問題なので、ほとんど理解されていると思いますが、全国的に見ると多くの人が理解していません)。
まず一覧表で、チェルノブイリの基準と較べてみましょう。いかに、福島の基準が緩いものなのかお分かりいただけると思います。それは、とりもなおさず、福島の人たちが、きわめて危険な場所に住み続けさせられているということです。
年間1ミリシーベルトは、チェルノブイリでは、クリーンな環境への「移住権利」が認められる基準でした。
福島では、年間1ミリシーベルトでは、まったく先行きの見えない除染を受ける権利しか得ることができません。
他にも、チェルノブイリと福島では、明らかに、人の健康と命に対する基本的な考え方が、違っています。ソ連という国が崩壊するかしないかという瀬戸際の時期に、語弊を恐れずに言うなら、「チェルノブイリでさえ、ここまでやっていた」のです。
分かりやすい図にまとめてみました。
実質的に、避難や疎開・移住が義務化される基準値は、チェルノブイリでは年間5ミリシーベルトでした。福島では20ミリシーベルトです。「移住権利」については明確な概念すらなく、実質的には20ミリシーベルトを越えないと得ることができません。これはチェルノブイリの基準の20倍です。
年間20ミリシーベルトより下には、「除染を受ける権利」しかありません。しかし、その除染は遅々として進まず、時が無為に流れています。山林や農地の除染は見通しがまったく立たず、住宅地でも「屋根の除染が難しい」「風が吹くと放射性セシウムが舞い上がっているらしい」「セシウム以外の核種はどこにどうなているのか不明」といった新たな困難が明らかになっています。国や自治体が立ち止まる度に、住民は、しなくてよい被ばくを受け続けているのです。
「除染なのか移住なのか」という議論も起きています。これは、最終的には、どこかで線を引かなくてはなりません。ただ、必ずしも一本の明確な線である必要はありません。
まず、「移住権利エリア」をある程度広範囲にとって、移住するかどうかの判断を住民が行えるようにするべきでしょう。
それでもエリアごとの境界線は決めなくてはいけませんが、単純に○○シーベルトで切るのではなく、すくなくとも集落単位で設定すべきです。移住するにしても、住み続けるにしても、多くの困難が伴います。その時に、今まで暮らしてきた共同体が完全に失われてしまったら、何も前に進まなくなるでしょう。
住民の移住に関する原則があります。それは、東電と政府は、住民の生活を3.11の前の状態に戻す義務があるということを明確化すること。2ヘクタールの稲作をしていた農家には2ヘクタールの水田を。600頭の牛を飼っていた畜産家には600頭の牛を。この原則を徹底して守りながら、移住を実行しなくてはなりません。
外から見た勝手な思いと言われてしまうかも知れませんが、住民の皆さんも、移住に伴って、今までの暮らしを棄てるようなことはしないでください。住民は、何も悪いことはしていないのですから。
今、最悪の指定基準になっているのは、「特定避難勧奨地点」です。これは、世帯単位で決めているため、指定世帯のすぐ隣でも指定されなかったり、玄関先を毎日きれいに掃除していたために空間線量が局所的に下がり、指定されなかったりといった馬鹿げた事態が起きています。
人の暮らしが、家の中にとどまらないのは当たり前で、これは早急に集落単位の基準に変更すべきです。また、家の目の前に、高度に汚染された山林があったら、そこに住めないのは自明です。宅地だけを測っても意味はありません。もちろん、年間20ミリシーベルトなどという数字も根底から見直さなくてはいけません。
今一度、「福島とチェルノブイリの年間1ミリシーベルト」の違いをしっかりと見直してみる必要があります。
安斎育郎さん、室井佑月さん、今こそ一言を! ― 2011/11/01 22:21
10月17日の『あさイチ』に、ゲストコメンテーターとして出演したのは、放射線防護学を専門とする安斎育郎さん(立命館大学名誉教授)と作家の室井佑月さんでした。
「これは絶対!」という勢いで示された、首都大学東京の福士研究室の分析データに対して、最後まで首を縦に振らなかった室井さんの母親としての直感というか、作家魂には頭が下がりました(私でさえ騙されかけました)。
安斎先生は、「まさか学者が間違ったのデータを提供するはずない」という前提から、福士研究室のデータを受け入れていますが、「これは、この1週間では出なかったという事だけれども別の1週間やったら少し出るという可能性もありますし」とか「この日たまたま多いのは、これはカリウムリッチで、食事をいっぱいとったのかもしれませんけどね」といった疑問を呈しています。番組全文書き起しという大変な作業をしてくれたブログがあります。あの『あさイチ』を見た人も、見なかった人も、一度目を通したらよいと思います。
当ブログとしては、意図せずこの一件に巻き込まれてしまった安斎育郎さんと室井佑月さんにお願いがあります。他でもありません、『あさイチ』のレポートに対して、どういう立場を取るのかということです。今がよいのか、NHKが再検証の結果を発表してからがよいのか分かりませんが、是非とも立場表明をして欲しいです。
一方、分析を担当し、今、再分析に取り組んでいるはずの福士政広教授へ。ご専門は放射線安全管理学だそうですね。もし、再分析・再解析で、正しいデータを出せないようだったら、あなたの学者人生は終わりますよ。
でも実は、福士教授の学者人生がどうのこうのという、小っちゃな話ではないのです。子供たちの命が、私たちの命が守れるのかという話なのです。福士教授には、是非、この点を理解して欲しいものです。
「これは絶対!」という勢いで示された、首都大学東京の福士研究室の分析データに対して、最後まで首を縦に振らなかった室井さんの母親としての直感というか、作家魂には頭が下がりました(私でさえ騙されかけました)。
安斎先生は、「まさか学者が間違ったのデータを提供するはずない」という前提から、福士研究室のデータを受け入れていますが、「これは、この1週間では出なかったという事だけれども別の1週間やったら少し出るという可能性もありますし」とか「この日たまたま多いのは、これはカリウムリッチで、食事をいっぱいとったのかもしれませんけどね」といった疑問を呈しています。番組全文書き起しという大変な作業をしてくれたブログがあります。あの『あさイチ』を見た人も、見なかった人も、一度目を通したらよいと思います。
当ブログとしては、意図せずこの一件に巻き込まれてしまった安斎育郎さんと室井佑月さんにお願いがあります。他でもありません、『あさイチ』のレポートに対して、どういう立場を取るのかということです。今がよいのか、NHKが再検証の結果を発表してからがよいのか分かりませんが、是非とも立場表明をして欲しいです。
一方、分析を担当し、今、再分析に取り組んでいるはずの福士政広教授へ。ご専門は放射線安全管理学だそうですね。もし、再分析・再解析で、正しいデータを出せないようだったら、あなたの学者人生は終わりますよ。
でも実は、福士教授の学者人生がどうのこうのという、小っちゃな話ではないのです。子供たちの命が、私たちの命が守れるのかという話なのです。福士教授には、是非、この点を理解して欲しいものです。
NHK『あさイチ』の怪 ― 2011/10/30 18:42
NHK総合、朝の人気番組『あさイチ』で「放射能大丈夫?食卓まるごと調査」が放送されたのは10月17日のことです(私は、偶然だったのですが、リアルタイムで見ました)。
福島の2家族を含む全国7家族の一週間分の食事に含まれている放射性セシウムの量を計測(方法は、毎食一人前ずつ多く作ってもらい、それを分析に回す陰膳(かげぜん)法)。結果的には、5家族で一週間の間に1回ずつ5~9ベクレル/kgが検出されたというものです。
当ブログでも、その日にアップした「低線量内部被ばく/「毎日少しずつ」の恐怖」 で、番組内容に簡単に触れました。
「厳密な検査でも、一部の家庭で微量の放射性セシウムしか出なかった。福島でさえも」という、このレポートの反響は大きく、「これで安心して子供に食事を食べさせられる」といった声が上がりました。
ところが、一方で、「データが変だ」という声も広がりました。当ブログにも、『あさイチ』のデータに関するコメントを頂き、さっそく、NHKのホームページに上がっているデータを見直してみて、ビックリ。このPDFです。
まず第一の疑問は、7家族7日分=延べ49日分の食事を調べ、5日分から5~9ベクレル/kgの放射性セシウムが検出されているのですが、5件ともセシウム134かセシウム137のいずれかしか出ていないのです。
福島第1原発からの放出量を見ると、セシウム134(半減期:2年)が1.8京ベクレル、セシウム137(半減期:30年)が1.5京ベクレル(京は兆の1万倍)です。半減期の関係で、セシウム134の方が多少減りが早いのですが、現状では環境中にある福島第1由来のセシウム134とセシウム137は、ほぼ同量と見られます。おまけに、化学的な性質はまったく一緒。比重や融点、沸点なども一緒です。従って、2種類の放射性セシウムは、同じように、一緒に混ざったまま拡散していったと考えるのが妥当です。
下の地図は、文科省が発表した航空機モニタリングのデータです(福島第1の北側30キロ~60キロ圏)。セシウム137とセシウム134の広がり方も土壌への沈着量も、ほぼ同じです。
福島の2家族を含む全国7家族の一週間分の食事に含まれている放射性セシウムの量を計測(方法は、毎食一人前ずつ多く作ってもらい、それを分析に回す陰膳(かげぜん)法)。結果的には、5家族で一週間の間に1回ずつ5~9ベクレル/kgが検出されたというものです。
当ブログでも、その日にアップした「低線量内部被ばく/「毎日少しずつ」の恐怖」 で、番組内容に簡単に触れました。
「厳密な検査でも、一部の家庭で微量の放射性セシウムしか出なかった。福島でさえも」という、このレポートの反響は大きく、「これで安心して子供に食事を食べさせられる」といった声が上がりました。
ところが、一方で、「データが変だ」という声も広がりました。当ブログにも、『あさイチ』のデータに関するコメントを頂き、さっそく、NHKのホームページに上がっているデータを見直してみて、ビックリ。このPDFです。
まず第一の疑問は、7家族7日分=延べ49日分の食事を調べ、5日分から5~9ベクレル/kgの放射性セシウムが検出されているのですが、5件ともセシウム134かセシウム137のいずれかしか出ていないのです。
福島第1原発からの放出量を見ると、セシウム134(半減期:2年)が1.8京ベクレル、セシウム137(半減期:30年)が1.5京ベクレル(京は兆の1万倍)です。半減期の関係で、セシウム134の方が多少減りが早いのですが、現状では環境中にある福島第1由来のセシウム134とセシウム137は、ほぼ同量と見られます。おまけに、化学的な性質はまったく一緒。比重や融点、沸点なども一緒です。従って、2種類の放射性セシウムは、同じように、一緒に混ざったまま拡散していったと考えるのが妥当です。
下の地図は、文科省が発表した航空機モニタリングのデータです(福島第1の北側30キロ~60キロ圏)。セシウム137とセシウム134の広がり方も土壌への沈着量も、ほぼ同じです。
また、植物にしても、動物にしても、どちらかの放射性セシウムを選んで吸収することはできませんから、両方あれば、両方を吸収。私たちが食べる食品の中に入っていきます。
その証になるのが、食品別に放射性物質の濃度を発表している食品流通構造改善促進機構のデータです(シイタケなどを見ると分かりやすいです)。2種類の放射性セシウムのうち、片方だけが検出されるのはまれで、ほとんどの場合、両方同時に検出されています。
しかし、『あさイチ』では、5例が5例とも揃って片方だけなのです。これは、検査機器は大丈夫なのか?と疑って当然です。
もう一つの大きな疑問は天然に存在する放射性物質であるカリウム40の値です。延べ49日分のデータは、一日平均で250~470ベクレル/kgの間に入っています。しかし、通常、食品に含まれるカリウム40の濃度を見てみると下の表のようになります。
海草類などで高いものがありますが、食品全体を見れば200ベクレル/kgを越えるものはわずかしかありません。特に主食系の穀類では、ここに上げただけでなく、参考にした『家族で語る食卓の放射能汚染』のすべてのデータを見ても中華麺の99ベクレル/kgが最高で、100ベクレル/kgを越えるものはありません。
ところが、『あさイチ』のデータは、49日分すべてが、一日の平均で250ベクレル/kgを越えているのです。主食とおかずをどんな組み合わせにしても、250ベクレル/kg以上は、あり得ません。
番組では、水(おそらく飲料水)と米だけのカリウム40のデータも取っていますが、これらも考えられないような高い数値になっています。
カリウム40のデータも正しいのかどうか、疑わざるを得ないというか、ほぼ間違っているでしょう。
ところが、測定を担当した首都大学東京の福士政広教授もNHKも、「精度の高いゲルマニウム半導体検出器を用い、通常よりも時間をかけて綿密に調べた」と自信満々でした。
しかし、まず不思議なのが、専門家中の専門家であるはずの福士教授が、「セシウム137とセシウム134が一緒に出ない」「カリウム40の値が高すぎる」と疑問に思わなかったのでしょうか?NHKもNHKで、多くのスタッフが関わっているはずなのに、誰一人としてその疑問を持たなかったのでしょうか?
あるジャーナリストが、福士研究室に尋ねたところ、「機械の故障等で正確なデータではなく再分析中」という、とんでもない返事が返ってきたようです。故障した機械で取ったデータを全国放送に流すか!それも自信満々で。この記事を見た時、手が震えるような怒りをおぼえました。
NHKは、ホームページ上で再分析を行っていることを明らかにしています。
「調査を担当した首都大学東京と、外部分析機関の協力を得て、データの再検討を行っています。結果が出次第、改めてホームページで公表いたします」と。
番組が大きな反響だったことを考えれば、もし、異なる結果が出た場合は、ホームページでの公表だけでは許されないでしょう。『あさイチ』で再度特集し、正しい情報を伝え直すのが報道機関の役目であり、責任だと考えます。
これは、多くの命に関わる問題なのですから。
セシウム137とカリウム40 ― 2011/10/29 10:57
昨日、セシウム137の内部被ばくに関する注目すべきニュースが伝えられました。
『セシウム検出の子ども274人 南相馬市が検査結果公表』【河北新報10/29】
例によって、「低い数値で、緊急治療を要する子どもはいない」と発表されていますが、裏読みすると「長期的に見ると治療を要する子供がいる」という意味にも取れます。果たしてどうなのでしょうか…
セシウム137の危険性を論じる時に、よく引き合いに出されるのがカリウム40です。セシウムはカリウムと化学的な性質が似ているので、体内での蓄積のメカニズムなどが、ほぼ同じと考えられているからです。
カリウム40は自然界に存在する放射性物質で、カリウムの中に必ず0.0117%含まれています。植物だろうと、人体だろうと、海の中だろうと、この比率は変わりません。
一方、カリウムは人間にとっての必須栄養素の一つですから。健康な人であれば誰でも、67ベクレル/kgのカリウム40を体内に持っています。
しかし、このカリウム40が人体に何も悪さをしていないかというと、それは断言はできません。少ない数ですが、ガンや他の病気の引き金になって、人を死に至らしめている可能性はあります。ただ、人類が地球に登場してから約300万年の間、67ベクレル/kgという体内での濃度は、おそらく変化していません。人類全体としては、カリウム40の悪さに対して抵抗力と繁殖力が勝ってきたから、私たちは、今、こうして生きていられるのです。
さて、南相馬の子供たちのセシウム137の話に戻りましょう。
最も大きな値が出た子供は45~50ベクレル/kgです。ここでは、計算をしやすくするために50ベクレル/kgとします。
よく「天然放射性物質のカリウム40が67ベクレル/kgもあるんだから、50ベクレル/kgなんて心配無用」という言われ方をしますが、これはまったくの間違いです。セシウム137による被ばく分をカリウム40の分と比較しても意味はないのです。なぜなら、セシウム137はカリウム40に対する上乗せ分として効いてくるからです。比較するなら、セシウム137とカリウム40の合計を3.11以前のカリウム40と較べるべきです。考え方は下の図の通りです。
『セシウム検出の子ども274人 南相馬市が検査結果公表』【河北新報10/29】
例によって、「低い数値で、緊急治療を要する子どもはいない」と発表されていますが、裏読みすると「長期的に見ると治療を要する子供がいる」という意味にも取れます。果たしてどうなのでしょうか…
セシウム137の危険性を論じる時に、よく引き合いに出されるのがカリウム40です。セシウムはカリウムと化学的な性質が似ているので、体内での蓄積のメカニズムなどが、ほぼ同じと考えられているからです。
カリウム40は自然界に存在する放射性物質で、カリウムの中に必ず0.0117%含まれています。植物だろうと、人体だろうと、海の中だろうと、この比率は変わりません。
一方、カリウムは人間にとっての必須栄養素の一つですから。健康な人であれば誰でも、67ベクレル/kgのカリウム40を体内に持っています。
しかし、このカリウム40が人体に何も悪さをしていないかというと、それは断言はできません。少ない数ですが、ガンや他の病気の引き金になって、人を死に至らしめている可能性はあります。ただ、人類が地球に登場してから約300万年の間、67ベクレル/kgという体内での濃度は、おそらく変化していません。人類全体としては、カリウム40の悪さに対して抵抗力と繁殖力が勝ってきたから、私たちは、今、こうして生きていられるのです。
さて、南相馬の子供たちのセシウム137の話に戻りましょう。
最も大きな値が出た子供は45~50ベクレル/kgです。ここでは、計算をしやすくするために50ベクレル/kgとします。
よく「天然放射性物質のカリウム40が67ベクレル/kgもあるんだから、50ベクレル/kgなんて心配無用」という言われ方をしますが、これはまったくの間違いです。セシウム137による被ばく分をカリウム40の分と比較しても意味はないのです。なぜなら、セシウム137はカリウム40に対する上乗せ分として効いてくるからです。比較するなら、セシウム137とカリウム40の合計を3.11以前のカリウム40と較べるべきです。考え方は下の図の通りです。
セシウム137が50ベクレル/kgの場合で見ると、ベクレル値は3.11以前の1.75倍に上がっています。これを誰が安全と言えるのでしょうか?300万年間、変わることのなかったカリウム40の体内での濃度が、いきなり1.75倍に跳ね上がったのと同じことなのです。
今回の発表で、うやむやにされている点もあります。今後、南相馬の子供たちが、あらたにセシウム137を体内に取り込む可能性をどう見ているのかです。それを明示しないで「生涯に受ける累積線量は0.41ミリシーベルトと推定」なんて言っても、意味がありません。今後の、呼吸による摂取と飲食による摂取をどう推測しているのか、あるいはまったく算入していないのか、ただちに明らかにすべきです。
セシウムは比較的代謝が速い物質で、大人で100日程度、小学校低学年で30日程度で体内残留量は半分になるとされています。今回、50Bq/kgが検出された子供は小学校低学年。ということは、3か月間、クリーンな環境に移住または疎開させることで、体内残留量は1/8にまで下げることができます。クリーンな環境とは、呼吸によっても、飲食によってもセシウム137を摂取する可能性がない場所ということです。
子供たちの将来を考えるなら、こういった対応を積極的にとっていかないと、あとで悔やむことになりかねません。
東電の責任を明確にしつつも、今のところ、東電による対応は期待できませんから、国と自治体が、すぐに動くべきでしょう。
今回、内部被ばくが確認された274人を真っ先に。加えて、内部被ばくが疑われるすべての子供たちへの具体的なケアを実行する必要があると思います。
思わぬところから… 忍び寄る放射性物質の恐怖 ― 2011/10/24 09:06
お茶の一件に始まった思わぬ植物や農作物の放射能汚染。
特に空間線量の高くない場所でも、植物の特性や成長期との関係で一気に放射性物質が濃縮されることを私たちは知りました。お茶の木は、新芽を出す直前に、葉から大量の放射性シセウムを栄養分のカリウムと間違って吸収していたと考えられます。
思わぬところから忍び寄ってきた放射性物質の恐怖。
この件に関して、いくつか新しい情報が入ってきました。
●スギ花粉
『スギ花粉の放射能汚染について』【WINEPブログ】
このブログでは、独自に杉の雄しべのセシウム137を計測し、懸念を表明しています。非常に意味のある取り組みだと思います。
『スギ花粉のセシウム調査、林野庁が来月にも実施』【読売新聞10/21】
林野庁も動き出すようです。
しかし、この記事の中に、たいへんな認識違いがあります。
「花粉症の人は、普段と同じ対策をしていれば、それほど心配する必要はない」。専門家として意見を述べている環境科学技術研究所の大桃洋一郎特別顧問の発言です。
花粉に乗った放射性セシウムを吸い込むのは、花粉症の患者だけではありません。春先になれば、誰もが吸い込んでいるのです。私は患者なので、よく分かるのですが、花粉症の患者には、ある意味で、花粉が見えます。「今日はたくさん飛んでそうだな」とか。危なそうな日にはマスクをします。だから私たち花粉症患者には、花粉に放射性セシウムが乗ってくる絵がはっきりと思い浮かびます。
このままだと、花粉症と無関係な人たちは、まったく無防備のまま、放射性の花粉を吸い込んでしまうでしょう。これは恐怖です。
一方、その季節、花粉症の患者の鼻腔内やまぶたの裏側の粘膜は、炎症を起こしている状態です。そういった場所から、より多くの放射性セシウムが体内に入り込む可能性があるのかどうか… これもまた恐怖です。
実際、スギの花粉は200キロ以上飛ぶと言われます。これまでのエアロゾルとかホット・パーティクルといったチリや火山灰のような形状とは違った飛散の仕方をするでしょう。放射性セシウムから見れば、スギ花粉は、あらたな、そして大きな船のようなものになる可能性が高いのです。
果たして、有効な対策はありうるのか… 春が来るのが怖いというのが、正直なところです。
スギやヒノキに次いで、花粉症の原因となるケヤキも要注意。今はソースを明かせないのですが、東京多摩地区で、ケヤキからだけ、突出した放射性セシウムの値を検出した例があります。
●クリとドングリ
クリは、カリウムが豊富です。と言うことは、放射性セシウムが蓄積しやすい。前から危ないとは思っていたのですが、案の定でした。
(財)食品流通構造改善促進機構が発表しているデータをもとに、一覧表を作成してみました。当ブログ独自の基準で、セシウム137と134の合計で100Bq/kgを越えたものを赤字で示しています。
特に空間線量の高くない場所でも、植物の特性や成長期との関係で一気に放射性物質が濃縮されることを私たちは知りました。お茶の木は、新芽を出す直前に、葉から大量の放射性シセウムを栄養分のカリウムと間違って吸収していたと考えられます。
思わぬところから忍び寄ってきた放射性物質の恐怖。
この件に関して、いくつか新しい情報が入ってきました。
●スギ花粉
『スギ花粉の放射能汚染について』【WINEPブログ】
このブログでは、独自に杉の雄しべのセシウム137を計測し、懸念を表明しています。非常に意味のある取り組みだと思います。
『スギ花粉のセシウム調査、林野庁が来月にも実施』【読売新聞10/21】
林野庁も動き出すようです。
しかし、この記事の中に、たいへんな認識違いがあります。
「花粉症の人は、普段と同じ対策をしていれば、それほど心配する必要はない」。専門家として意見を述べている環境科学技術研究所の大桃洋一郎特別顧問の発言です。
花粉に乗った放射性セシウムを吸い込むのは、花粉症の患者だけではありません。春先になれば、誰もが吸い込んでいるのです。私は患者なので、よく分かるのですが、花粉症の患者には、ある意味で、花粉が見えます。「今日はたくさん飛んでそうだな」とか。危なそうな日にはマスクをします。だから私たち花粉症患者には、花粉に放射性セシウムが乗ってくる絵がはっきりと思い浮かびます。
このままだと、花粉症と無関係な人たちは、まったく無防備のまま、放射性の花粉を吸い込んでしまうでしょう。これは恐怖です。
一方、その季節、花粉症の患者の鼻腔内やまぶたの裏側の粘膜は、炎症を起こしている状態です。そういった場所から、より多くの放射性セシウムが体内に入り込む可能性があるのかどうか… これもまた恐怖です。
実際、スギの花粉は200キロ以上飛ぶと言われます。これまでのエアロゾルとかホット・パーティクルといったチリや火山灰のような形状とは違った飛散の仕方をするでしょう。放射性セシウムから見れば、スギ花粉は、あらたな、そして大きな船のようなものになる可能性が高いのです。
果たして、有効な対策はありうるのか… 春が来るのが怖いというのが、正直なところです。
スギやヒノキに次いで、花粉症の原因となるケヤキも要注意。今はソースを明かせないのですが、東京多摩地区で、ケヤキからだけ、突出した放射性セシウムの値を検出した例があります。
●クリとドングリ
クリは、カリウムが豊富です。と言うことは、放射性セシウムが蓄積しやすい。前から危ないとは思っていたのですが、案の定でした。
(財)食品流通構造改善促進機構が発表しているデータをもとに、一覧表を作成してみました。当ブログ独自の基準で、セシウム137と134の合計で100Bq/kgを越えたものを赤字で示しています。
クリの親戚のような、ドングリはどうでしょうか?
都内のある大学で、農学部の研究者がキャンパス内の銀杏とドングリ(3種類)を調べたそうです(これも事情があって今はソース情報明かせず)。結果は、クヌギのドングリにだけ、放射性セシウムが高濃度に蓄積していました。
「植物はよ―分からん!」とは、この研究者の口を突いて出た言葉。植物における放射性物質の蓄積、濃縮は、分かっていないことがたくさんあるのです。
しかし、「人間はドングリは食べないから関係ない」と見過ごすわけにはいきません。たとえば、夕方になると街路樹に集まって、ギャーギャーとうるさいムクドリ。木の実が大好物です。群れをなして生活しますので、その巣の近くは、糞によって放射性セシウムのホットスポットになる可能性があるのです。
ドングリにも野鳥にも、なんの罪もありません。しかし、思わぬところに、思わぬ形で放射性物質が集積するのです。
まだまだ、いろいろなところで、いろいろなことが起きるでしょう。本当に原子力事故というのは、計り知れない恐怖をもたらします。分かっていたつもりでしたが、身に浸みています。原発はいりません。
しかし、今広まりつつある汚染に対して、立ち向かわざるを得ないのも事実。その時に武器になるのは、これまでに蓄積してきた知識と大胆な想像力です。農業関係者、農学研究者、植物学研究者には、いっそうの努力をお願いしたいものです。
都内のある大学で、農学部の研究者がキャンパス内の銀杏とドングリ(3種類)を調べたそうです(これも事情があって今はソース情報明かせず)。結果は、クヌギのドングリにだけ、放射性セシウムが高濃度に蓄積していました。
「植物はよ―分からん!」とは、この研究者の口を突いて出た言葉。植物における放射性物質の蓄積、濃縮は、分かっていないことがたくさんあるのです。
しかし、「人間はドングリは食べないから関係ない」と見過ごすわけにはいきません。たとえば、夕方になると街路樹に集まって、ギャーギャーとうるさいムクドリ。木の実が大好物です。群れをなして生活しますので、その巣の近くは、糞によって放射性セシウムのホットスポットになる可能性があるのです。
ドングリにも野鳥にも、なんの罪もありません。しかし、思わぬところに、思わぬ形で放射性物質が集積するのです。
まだまだ、いろいろなところで、いろいろなことが起きるでしょう。本当に原子力事故というのは、計り知れない恐怖をもたらします。分かっていたつもりでしたが、身に浸みています。原発はいりません。
しかし、今広まりつつある汚染に対して、立ち向かわざるを得ないのも事実。その時に武器になるのは、これまでに蓄積してきた知識と大胆な想像力です。農業関係者、農学研究者、植物学研究者には、いっそうの努力をお願いしたいものです。
放射線とは何か… あえて今、問い直す(2) ― 2011/10/22 22:18
さて、放射線の種類によって、人体への影響がどう違うのか、それを再確認していましょう。
まず、核分裂生成物からの放射線です。前の記事で、ベータ線とガンマ線を出すものが多いと書きました。しかし、ベータ線は大気中では数十センチから精々数メートルしか飛びません。従って、人体が核分裂生成物からベータ線を受けるとしたら、すぐ近くにある核分裂生成物からだけです。さらに、人体に入ってからは、1センチほどしか進めませんので、外部被ばくしたベータ線が内蔵に達することは、まずありません(皮膚ガンを引き起こす可能性はありますが)。
しかし、同じ核分裂生成物から発せられたガンマ線はどうでしょうか… まず、遠くからでも届きます。そして、人体全体に、ほぼ均等な外部被ばくを引き起こします。ガンマ線は透過力が強いので、一部は、体を突き抜けて透過してしまうほどです。ただ、「体を突き抜けて」と書くと恐ろしげですが、まっすぐに突き抜けた場合は、何の害もありません。ガラスを透過する光が、ガラスを壊さないのと同じ理屈です。
まず、核分裂生成物からの放射線です。前の記事で、ベータ線とガンマ線を出すものが多いと書きました。しかし、ベータ線は大気中では数十センチから精々数メートルしか飛びません。従って、人体が核分裂生成物からベータ線を受けるとしたら、すぐ近くにある核分裂生成物からだけです。さらに、人体に入ってからは、1センチほどしか進めませんので、外部被ばくしたベータ線が内蔵に達することは、まずありません(皮膚ガンを引き起こす可能性はありますが)。
しかし、同じ核分裂生成物から発せられたガンマ線はどうでしょうか… まず、遠くからでも届きます。そして、人体全体に、ほぼ均等な外部被ばくを引き起こします。ガンマ線は透過力が強いので、一部は、体を突き抜けて透過してしまうほどです。ただ、「体を突き抜けて」と書くと恐ろしげですが、まっすぐに突き抜けた場合は、何の害もありません。ガラスを透過する光が、ガラスを壊さないのと同じ理屈です。
アルファ線に関しても、外部被ばくは大きな問題にはなりません。アルファ線の透過力はベータ線の1万分の1程度なので、皮膚に直接乗ったりしない限り、外部被ばくはありえないのです。ただ、アルファ線を出す超ウラン元素は、微量のガンマ線も出しています。大量に超ウラン元素が存在する場合は、それが発するガンマ線への警戒は必要になります。
ここまでで、今回の福島第1の事故に関する限り、外部被ばくは、基本的にガンマ線を警戒すればよいことが分かっていただけたかと思います。
さて、問題は内部被ばくです。まず、下の図をご覧ください。放射線の種類による異なる内部被ばくが及ぶ範囲を図示してあります。
見て頂ければ、アルファ線とベータ線による内部被ばくが、極めて危険である事は明白だと思います。アルファ線とベータ線は、遠くまで飛べない分、近くの細胞やDNAに確実に損傷を与えます。
すべてがガン化の引き金になるわけではありませんが、細胞になんらかの影響を与えるという意味では100%の確率です。片やガンマ線は、内部被ばくであっても、一部は体の外にそのまま飛び出していきますので、すべてが悪さをするわけではありません(ガンマ線を過小評価するわけではありませんが)。
また、ベータ線とガンマ線を出す核種であれば、外部被ばくの約2倍の被ばく量があることも、お分かりいただけると思います。同じ核種による外部被ばくではガンマ線の影響しか受けませんが、内部被ばくでは、ベータ線とガンマ線の両方を被ばくするのです。
ベータ線を発する代表的な核分裂生成物は、甲状腺に集積するヨウ素131であり、骨に集積するストロンチウム90です。政府の発表は、いつも○○シーベルトですが、これは全身が均等に被ばくした場合に換算した数字です。それが甲状腺だけに集積した場合、あるいは骨だけに集積した場合、その器官・臓器における被ばく量は、実質的には何倍、何十倍にもなります。国だけでなく、多くの医学関係者が、このことに目をつぶって、「危険な値ではない」と言い切る神経が理解できません。
一方、アルファ線を放射するのは、プルトニウム239に代表される超ウラン元素です。これらの多くは水に溶けません。それは血液にも溶けないことを意味します。従って、呼吸で肺に入った場合、肺細胞のある部分に長い間留まり続け、数マイクロメートルという狭い範囲にアルファ線を浴びせ続けます。もはや、○○シーベルトはなんの意味も持ちません。超ウラン元素を含む微粒子を数個吸い込んだだけで、肺ガンを発症する可能性が高くなるとされています。
放射線の人体への影響… それを突き詰めたときに明らかになってくるのは、外部被ばくと内部被ばくのメカニズムの違いです。この違いを無視して、すべてを○○シーベルトで語りきろうとする国や一部の研究者、研究機関の姿勢には悪意があると言ってもよいくらいです。ある臓器に、ある核種が、どれだけの量、集積した時に何が起きるのか… それを隠し続ける者たち。大きな憤りを覚えます。
内部被ばくは、まだまだ研究され尽くしているとは言いがたく、一部には、本当に分かっていないこともあります。しかし、「分かっていないから安全」ではないでしょう。「分かっていないことは、最大限の安全を考慮して」でしょう。そうしなければ、放射線から、子供たちの命と健康を、そして私たちの命と健康を守ることはできません。
放射線とは何か… あえて今、問い直す(1) ― 2011/10/22 17:04
分かったようで分からない放射線。3種類の放射線をゴッチャにして論じて、特に、内部被ばくを過小評価しようと動きがあります。これに対抗するために、今一度、放射線とは何なのかを問い直してみようと思います。
実は、放射線と一口に語られますが、アルファ線、ベータ線、ガンマ線は、物理学的にはまったく別なものです。
実は、放射線と一口に語られますが、アルファ線、ベータ線、ガンマ線は、物理学的にはまったく別なものです。
ガンマ線はX線よりも波長の短い電磁波。光や電波の仲間です。電磁波なので質量はありません。また、電磁波は波長が短ければ短いほどエネルギーが大きいので、ガンマ線は遠くまで届き、一部は人体を突き抜けるほどの透過力を持っています。放射線が体内に入った時に、DNAなどの分子結合に関わる電子をはじき飛ばす力を電離作用力と言いますが、ガンマ線の電離作用力を1として基準にしています。
ベータ線は、高速で飛び交う電子。電子線とも呼びます。とても軽いですが、質量はあります。大気中でも数十センチから数メートルしか飛べませんので、外部被ばくには、ほとんど関係しません。
一方、ベータ線を出す放射性物質が体内に入ってしまうと、内部被ばくが深刻です。電離作用力は、ガンマ線と同じ1とされますが、もっと強いのではないかと疑問を呈している研究者もいます。
アルファ線は、陽子が2個、中性子が2個という粒子(ヘリウム原子核)です。これも高速で飛びますので、単に粒子ではなく粒子線と呼ばれます。陽子や中性子の質量は、電子の1800倍ありますから、アルファ線はベータ線の7200倍の質量を持ちます。
粒子が持つエネルギーは、その質量と速度の2乗に比例します。従って、質量が大きいアルファ線は大きなエネルギーを持ち、細胞やDNAを破壊する力も大きくなります。
ちなみに、プルトニウム239からでるアルファ線1個(1本)は、セシウム137のベータ線1個(1本)の10倍のエネルギーを持っています。
アルファ線の電離作用力は、ガンマ線やベータ線の20倍とされています。
一方、重いものが遠くまで飛びにくいのは、プロ野球選手が野球のボールを100メートル近く投げるのに、砲丸投げでは世界記録でも20数メートルというのと同じ理屈です。飛距離で言うと、アルファ線はベータ線の1万分の1程度しか飛べません。
運転中の原子炉の中では、ウラン235(一部、プルトニウム239も)が核分裂をしています。その結果できるのが、核分裂生成物。ヨウ素131、セシウム137、ストロンチウム90などが代表的ですが、細かく調べる千種類くらいあるそうです。ただ、半減期が1秒以下というものもありますので、今回の福島第1の事故で、環境中に放出された核分裂生成物の種類は、もっと少なくなります。
核分裂生成物は、主にベータ線とガンマ線を発して、安定した元素に変わります。
一方、核燃料の中にあって核分裂しないウラン238が中性子を取り込むことによって、プルトニウム239をはじめとする何種類かの超ウラン元素ができます。超ウラン元素は、何度もアルファ線とベータ線を発して、最後に安定した元素になります。
下の図は、原子炉の中で、核分裂生成物と超ウラン元素ができる仕組みを簡単に描いたものです。
原子力安全・保安院は、6月6日に「大気中に放出された主な放射性物質(核分裂生成物と超ウラン元素)31種類とその量(推測)」を発表しています(PDFの15ページ目です)。
では、核分裂生成物や超ウラン元素は、どんな仕組みで放射線を発するのでしょうか?
三つの放射線の生成の仕組みを示したのが、下の図です。
まずアルファ崩壊。
陽子と中性子が多すぎて不安定な状態の超ウラン元素が、陽子2個と中性子2個を吐き出して、少しでも安定した元素に変わろうとする過程がアルファ崩壊です。飛び出してきた陽子2個と中性子2個が、アルファ線ということになります。従って、崩壊後の元素では、陽子が2個、中性子が2個、減っています。
ただ、超ウラン元素は、一度アルファ崩壊しただけでは、完全に安定した元素にはなれません。下にプルトニウム239が最終的に鉛207で安定するまでの過程を示します(アクチニウム系列と呼ばれる)。アルファ崩壊やベータ崩壊を繰り返した末に、やっと安定した元素になれるのです。その間に、なんとたくさんのアルファ線とベータ線を放射することか。
では、今度はベータ崩壊に注目しましょう。
一言で言うと、中性子が多すぎて不安定な状態の放射性物質が、一つの中性子を陽子と電子に割ることで、少しでも安定しようとするのがベータ崩壊です。中性子は電気的に中性。陽子はプラス、電子はマイナスです。電気的にもつじつまが合います。できた電子が飛び出してきます。これがベータ線です。
崩壊後の元素では、陽子が1個増え、中性子が1個減っています。質量数(陽子数+中性子数)は変わりません。
次はガンマ崩壊です。
マスメディアの報道や、東電、国が発表する情報を詳しく見ていると、キセノン131mとかバリウム137mとか、質量数の後ろに"m"が付いている放射性物質があることに気がつきます。"m"は「メタ」と読み、「高次な-」とか「超-」といった意味ですが、原子の世界では「エネルギーが余っている」とか「不安定な」と解釈して良いでしょう。
例えば、セシウム137が崩壊してできるバリウム137は、陽子=56個、中性子=81個で、本来安定している元素です。しかし、セシウム137がベータ崩壊しただけでは、原子核内の余計なエネルギーすべてを放出することができず、少しだけエネルギーが余った状態になっています。これがバリウム137m。不安定な状態なので、やがて原子核は安定しようとします。この時に、余ったエネルギーがガンマ線として放出されるのです。
なお、原子や原子核の世界では、エネルギーは飛び飛びの値しか取れませんので、一個の原子について言えば、不安定な状態は徐々に解消するのではなく、安定する時は一瞬で安定します。また、元素の種類ごとに、不安定なエネルギーの値も決まっていますので、飛び出すガンマ線の波長も決まっています(一種類の場合もあるし、複数種の場合も)。従って、ガンマ線の波長を調べるとこで、元素の種類=核種が特定できます。
まとめとして、下に、セシウム137の崩壊プロセスを示します。
核分裂生成物の多くがベータ崩壊をしますが、それだけで安定した元素になるのは限られたものだけです。多くはベータ崩壊の後にガンマ崩壊をします(中にはベータ崩壊を2回繰り返すものも)。結果的には、多くの放射性元素が2種類・2本の放射線を発することになります。このことは、内部被ばくを考える時に、極めて重要です(次の記事で詳しく書きます)。
さて、話は一気に飛びます。
地球が誕生してから46億年。原始地球には超ウラン元素や核分裂生成物がたくさんありました。元素は皆、恒星や原始地球での核反応で作られたものです。できたばかりの元素の多くは不安定で、アルファ崩壊・ベータ崩壊・ガンマ崩壊を繰り返します。
崩壊で出る放射線がかなり減ってきた頃、一番、放射線が届きにくい海の底で生命が誕生。地上の放射線が減るにしたがって、生命は陸に上がり、恐竜の時代が訪れ、やがてほ乳類の時代へ。そして、300万年ほど前に地球に登場したのが人類です。
地球は46億年をかけて、放射性物質を減らし、豊かな生命の営みを包み込む星となりました。地球誕生以来、放射性物質が減ることはあっても、増えることはなかったのです。原爆と原発が登場するまでは…
原爆製造のための最初の原子炉が、シカゴ郊外で稼働したのは1942年の12月です。以来70年弱。人類は、46億年におよぶ地球の歴史をゆがめ、地球を極めて危険な方向に引っぱり続けています。
長くなりそうなので、ここで記事を分けることにします。
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