集中CONFIDENTIAL「医療周辺の真相×深層」の情報ページ

旧ミドリ十字「継子扱い」のツケ回る田辺三菱製薬

 田辺三菱製薬の子会社バイファによる遺伝子組み換え人血清アルブミン製剤「メドウェイ注」をめぐるデータ改ざんに対し、厚生労働省は4月、田辺三菱製薬に25日間、バイファには30日間の業務停止および業務改善を命じた。
 製薬業界では「異例の重い処分」とささやかれたが、マスコミは一斉に「薬害エイズ」「C型肝炎」を引き起こした旧ミドリ十字の体質と断罪した。昨年3月に田辺三菱製薬はデータ改ざんを発表し、有識者4人の外部委員会「メドウェイ問題社外調査委員会」を同年9月に発足させた。
 調査報告書は「旧ミドリ十字の企業文化・企業体質」と題した項目を設け、「メドウェイの開発製造事業は、HIV問題等の重大な医薬品不祥事を起こした旧ミドリ十字によって計画され、事業化された」「バイファでは旧ミドリ十字出身者を中心に開発が進められ、本件事件を引き起こしたグループマネジャーは同社出身者であった。・・・・・・本件問題は旧ミドリ十字の企業文化・企業体質に起因する」と断罪している。
利益重視・安全性軽視の〝遺伝子〝
 だが、バイファだけの責任だろうか。報告書でも「旧ミドリ十字の企業体質や、同社出身者の個人的問題だけに原因を単純化すべきではない」と結論付けている。親会社の田辺三菱製薬の責任も大きいはずだ。
 責任問題について同社広報部に取材を申し込んだが、「世間をお騒がせして誠に申し訳ない。反省し、改善に真摯に取り組んでいる」という素っ気ない回答だった。
 旧ミドリ十字社でメドウェイの開発が始まったのは1981年。薬害エイズ事件が和解した96年にメドウェイの製造子会社としてバイファを設立。承認申請に向けて本格的開発に取り組んだ。当時は「アルブレックス」という名前を付けていた。
 悪名高い旧満州(中国東北部)の関東軍防疫給水部(通称731部隊)出身の故内藤良一・元陸軍軍医中佐が部下を集めて設立した「日本ブラッドバンク」を前身とする旧ミドリ十字は、血液製剤については世界一。その知識と技術を駆使して血液を使わない遺伝子組み換えによる人血清アルブミンを製造し、活路を切り開こうとしたものだった。
 旧ミドリ十字は吉富製薬と合併、新会社ウェルファイドとなった後、三菱東京製薬と合併。さらに田辺製薬と合併して田辺三菱製薬に変わるが、バイファの遺伝子組み換え人血清アルブミンの開発は続けられ、2007年、薬事・食品衛生審議会で承認された。世界初の快挙だった。
 この遺伝子組み換え人血清アルブミンは、血漿由来の人血清アルブミンと違い、ウイルス感染症を排除できるウイルスフリーの製剤。やけどや肝硬変などで使用されるアルブミン製剤は献血の血漿から作られるが、自給率は半分にも満たない。厚労省は13年をめどに自給体制を目指しており、メドウェイの登場は自給率達成を可能にするはずだった。
 今回のデータ改ざんは、ラットを使ったアレルギー反応試験で陽性となったサンプルを陰性のサンプルと取り換えたり、不純物の濃度を実際より低く記載したりして31項目でデータを捏造、差し替えた。そのうち16項目が薬事法違反。旧ミドリ十字の利益重視、安全性軽視の姿勢そのものである。旧ミドリ十字出身者が中心のバイファは批判されて当然だ。
 田辺三菱製薬になる前の三菱ウェルファーマ時代、C型肝炎の賠償問題で三菱東京製薬出身者や三菱グループから「三菱の名前にキズがつく。旧ミドリ十字を売却してしまえ」という声が上がったが、旧吉富製薬出身者から売却したら開発力がなくなると反対された。田辺三菱製薬になっても旧ミドリ十字出身者を毛嫌いする姿勢は変わらなかった。バイファの藤井武彦社長が「10年間、親会社との人事交流はなかった」と語ったように、旧ミドリ十字出身者たちを厄介者扱いし、バイファやべネシスに押し込めていた。
 加えて、メドウェイは承認が遅れた。99年に北海道に140億円を投下して専門工場を建設、00年の承認を目指していた。だが、厚労省の審査は慎重で、アレルギー反応の追加データなどを要求され、承認は遅れに遅れ、結局承認されたのは07年。発売されたのは08年だった。
問われるべき親会社の経営姿勢
 申請から10年以上かかったことに対し、田辺三菱製薬は苛立ちを隠さなかった。「メドウェイはカネばかり掛かる。研究開発費どころか設備投資資金すら回収できない代物」とこき下ろしていた。そういう田辺三菱製薬の態度に旧ミドリ十字出身者で構成されるバイファはやりきれない鬱屈感を持たされていた。その結果、同社は承認の遅れを恐れるあまり、データ改ざんという旧ミドリ十字が犯した犯罪行為を繰り返した。
 田辺三菱製薬の土屋裕弘社長は「旧ミドリ十字の体質を薄めきれなかった」「バイファには旧ミドリ十字の遺伝的体質が残っていた」と、バイファの責任に帰すかのような反省の弁を語っている。
 確かにデータ改ざんを意図し、手を下したのは旧ミドリ十字出身者で固められたバイファだ。だが、旧ミドリ十字の体質を変えようともせず、旧ミドリ十字出身者を隔離し、追い込んだのは田辺三菱製薬である。
 調査報告書は「旧ミドリ十字の企業体質だけに原因を単純化するのではなく、多方面から分析するように」求めている。データ改ざんに走らせた原因には財閥、名門の名前にあぐらをかく田辺三菱製薬の経営姿勢にこそ問題があったはずだ。


データ改ざん事件の記者会見で謝罪する田辺三菱製薬の土屋裕弘社長(左端、4月13日)

100706_田辺三菱製薬.jpg

2010年7月 6日 11:42 | 医薬品メーカー・田辺三菱製薬・経済

関連記事

powered by weblio



カテゴリー一覧

医療
病院
浜六郎の臨床副作用ノート
医師会
薬剤師会
中医協
医療報道
政治
厚生労働省
政局
行政
医療政策
政治報道
経済
医薬品メーカー
アステラス製薬
ウエルシア関東
第一三共
武田薬品工業
中外製薬
東和薬品
参天製薬
エーザイ
ツムラ
田辺三菱製薬
富士フイルム
富山化学工業
興和テバ
グラクソ・スミスクライン
日本ケミカルリサーチ
持田製薬
大日本住友製薬
キッセイ薬品
日本新薬
日本ケミファ
ロシュ
久光製薬
協和発酵キリン
大鵬薬品工業
メディパルホールディングス
大洋薬品工業
グローウェルホールディングス
大塚ホールディングス
沢井製薬
万有製薬
塩野義製薬
日本調剤
あすか製薬
わかもと製薬
ビオフェルミン製薬
科研製薬
ロート製薬
アストラゼネカ
富士バイオメディックス
有機合成薬品工業
大正製薬
日医工
アルフレッサホールディングス
スズケン
東邦ホールディングス
生化学工業
アボットジャパン
明治ホールディングス
ジョンソン・エンド・ジョンソン
日水製薬
栄研化学
鳥居薬品
カイノス
中京医薬品
ゼリア新薬工業
アンジェスMG
その他
イオン
京王電鉄
JT
セコム
帝人
中部電力
三菱商事
マツモトキヨシ
花王
JR東海
日本光電工業
セブン&アイホールディングス
アインファーマシーズ
セブンヘルスケア
三井物産
住友商事
伊藤忠商事
CFSコーポレーション
クスリのカツマタ
ニチイ学館
富士薬品
東芝メディカルシステムズ
ケンコーコム
トヨタ自動車
テルモ
NHK
NHKエデュケーショナル
栄光
オリックス
寺島薬局
アース製薬
フマキラー
エステー
住友スリーエム
大日本印刷
山崎製パン
雪印メグミルク
アイロムホールディングス
オリンパス
東京ガス
三井住友海上
小田急電鉄
みずほ証券
大和証券
朝日新聞社
パラマウントベッド
スギ薬局
東レ
理研ビタミン
森下仁丹
みらかホールディングス
パルコ
森トラスト
バイタルネット
薬王堂
日本チェーンドラッグストア協会
日立メディコ
日本赤十字社
メドトロニック
医学生物学研究所
企業スキャン
社会
事件
環境
未確認情報