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武田薬品工業の品行⑬ ~長谷川閑史が湘南研究所をごり押しする「理由」~

 〈匿名で失礼します(中略)。私は武田薬品の研究員です。〉
 連載開始から1年を迎えた6月号発売の直前、5月下旬のことだ。前記のような文言で始まるメールが届いた。末尾は次の一文で締められている。
 〈社員の一人として非常に心苦しいので、内部資料を一部公開します。〉
電力不足を恐れ湘南への移転急ぐ
 本誌ではこの間、神奈川県藤沢・鎌倉両市にまたがって竣工された「湘南研究所」の誘致・計画から操業に至る欺瞞の数々を明らかにしてきた。さらには、「リーディングカンパニー」を僭称している武田薬品工業と、周辺で姑息に立ち回る松沢成文・前神奈川県知事(現吉本興業所属)や海老根靖典・藤沢市長、松尾崇・鎌倉市長、前原金一・経済同友会広報戦略検討委員会担当専務理事らの空疎な虚像を浮き彫りにした。
 平静を装いながら取材拒否を繰り返す武田側の対応とは裏腹に記事は医療界内外で着実に反響を呼んでいる。その一部を紹介しよう。
 「毎号読んでいます」(民主党国会議員)
 「武田はいつ何があってもおかしくない状態」(在京の国立大学教授)
 「医薬品業界にいてはいけない会社」(バイオベンチャー経営幹部)
 こうした感想が毎月のように寄せられている。ほかの記事同様、業界内閲読率は高い。武田の研究員が〈非常に心苦しい〉のもうなずける。
 〈武田は湘南への移転を急いでいます。東日本では今必死で節電の努力をされているのに、移転はさらに前倒しを計画しています。恐らく前提を作らないと、今後電力が逼迫して移転できなくなることを恐れているのだと思います。〉
 武田はまたも東日本大震災の被災者を愚弄する蛮行を繰り返しているようだ。これまでも住民有志の質問の回答期限を引き延ばしたり、湘南研近くのお手盛り「展示ブース」を3月末に閉鎖したりする理由に「震災」を利用してきた。
 同社は震災支援の義援金として3月14日に3億円、4月27日には〈アリナミンの錠剤1錠あたり1円、ドリンク剤1本あたり1円を積み立て、約8億円〉を拠出すると発表している。2011年3月期決算が減収減益とはいえ、1兆4000億円強を売り上げ、10年3月期決算では前取締役のアラン・マッケンジーに5億円台、社長・長谷川閑史には2億2300万円もの役員報酬を惜しげもなく差し出す企業に見合う額だろうか。
 〈大阪(市淀川区)の研究所はまだまだ使用可能です。湘南研究所は驚くほど贅沢な広い空間ですが、動物実験のデータを正確に取るためには、十分に空調を効かせる必要があります。/また1台で3~5世帯分の電力が必要な排気装置が200台以上あります。/これらの巨大な施設を計画停電でも動かすため、何億円も投資して重油で稼働させる非常電源設備を拡張します。/1000世帯もの従業員が関西から関東に移動します。〉
 政府や東京電力が喧伝しているような電力不足にどれほどの根拠があるのかは定かでない。だが、今や被災地の復旧から復興に向けて国を挙げての努力が求められている。新研究所への「引っ越し」にかまける余裕があるなら、リーディングカンパニーがすべきことはほかにもあろう。
 「大阪の機能は生産系中心に残すものの、探索研究はすべて湘南に移す。膨大な無駄が生まれています。研究所の中間管理職以上であれば皆知っていることですが」(製薬ベンチャー経営者)
 「当面の経営を考えれば、コストカットのための人員削減など、武田は大なたを振るわざるを得ない状況です。それを表向きカムフラージュするには、移転が最も簡単な方法。世界中の製薬企業がよくやっている」(元大手製薬企業社員)
 取締役研究開発統括職・大川滋紀が〈「世界的製薬企業」〉と胸を張るだけのことはある。
 6月3日、米オレキシジェン・セラピューティクスは「コントレーブ」(ナルトレキソンとブプロピオンの配合徐放製剤)の米国における開発断念を発表した。武田は昨年9月、同社からコントレーブの北米を対象にした独占的開発・販売権の譲渡を受けている。米国食品医薬品局(FDA)が安全性について厳しい条件を出したことが背景にある。契約一時金は5000万㌦、マイルストーンペイメント(医薬品の開発の進捗に伴い発生する新規化合物発明企業への支払金)は最大10億㌦を超えていた。武田は3月にも米国で実施していた別の抗肥満薬(プラムリンタイド/メトレレプチン)の臨床第2相試験を中断している。
 翌6月4日、武田傘下のミレニアムファーマスーティカルズは米臨床腫瘍学会(ASCO)年次集会で、HER2阻害薬TAK.285の第1相試験の結果を発表。脳転移への効果が期待されていたが、限定的ではとの見方が出ている。
研究所排水を公共下水道に流す危険
 スイスの製薬大手、ナイコメッドの買収も例によってなりふり構っていられない同社のあがきの一環と見るのが妥当だろう。5月中旬に全国紙が一斉に報じ、武田は全面否定した後で正式発表に転じた。そのどたばたぶりは記憶に新しい。
 「欧州にも興味があったのでしょうが、むしろ強い関心があるのはロシアを含む新興各国市場。買収の要因もそこにあります」(同前)
 一発逆転を夢見るのは武田の勝手。自社の利益のためなら、藤沢・鎌倉両市のような人口密集地にP3実験施設を含む「研究所」(というにはあまりに巨大すぎる延床面積30万8000平方㍍の「工場」)を建設し、安全性に疑問を持つ住民の声など意に介さない姿勢に通じるものがある。
 住民が藤沢市長を訴えた「武田薬品研究用下水道管敷設費用違法支出差止訴訟」(裁判長:福田剛久)は5月30日に結審。8月3日に判決を迎えることになった。 (敬称略)

2011年7月 1日 09:40 | 医薬品メーカー・武田薬品工業・経済

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