2011年11月20日日曜日

名古屋の学会

今名古屋の金山町にあるワシントンホテルでこれを書いている。精神分析学会が開かれているからだが、運営委員をしている関係もあり、3日間の会期中ずっと会場にいる形になる。「さっと帰宅」が趣味の私には珍しいことである。
今回は東日本大震災をテーマにしたシンポジウムも設けられ、いろいろ盛りたくさんである。香港からはブラウアー先生という日本の精神分析の歴史にも造詣の深い先生の講演もあった。今回の大会のシンポジウムのテーマは、「発達障害」であるが、日ごろ発達障害を持つ患者さんと向き合う臨床家たちにとってどの程度有益な情報を提供できるかが興味あるところだ。

2011年10月28日金曜日

精神神経学会でのシンポジウム

昨日は、精神神経学会(ようするに精神科医の集まり)の解離のシンポジウムに出席した。思った以上に人が集まり、精神科医の間でもこのテーマへの関心がそこそこあることが分かった。シンポジストはそれぞれ内容のある発表をできていたと思う。個人的には柴山雅俊先生。一人であの体系を作り出していること、借り物ではないこと。進む方向は違うが素晴らしいと思う。北山先生と同じようにあっぱれである。柴山さんは、普段はチャランポランな雰囲気なので、そのギャップがまたいい。
それはそうと・・・・。お台場(学会の開催場所)って遠いね。自宅から4回乗り継ぎ。会場についたときには疲れ切っていた。終わって職場の大学院についたときにはもっと疲れていた。昼ごはんのアイスを食べたら少し落ち着いた。午後は院生さんたちの発表の予行演習を聞き、少し持ち直すことができた。(今回もいい加減な更新である。)

2011年10月24日月曜日

一仕事終わった

半年間の「仕事」が終わり、比較的爽快な気分である。昨日は夏の名残を思わせる陽気で春日通りをぶらぶら歩きながら帰国してからの6年半について振り返る。ひとつ変ったのは、そろそろ「もう年配だから勘弁してもらう」という口実が使いやすくなってきているということだ。社会的責任はこれ以上増えないだろう(つまり職場での位が上がる、そのほか。その予定はない)。しかも50台の半ばといえば、学会などでの活動は「そろそろ若い人に・・・・」と言えるのだ。
それとは別に自分の興味に従い活動を続けている人たちのなんと元気なことか?ここで紹介をした北山先生を始め、トラウマ学会の金吉晴先生やわれらが心理学専攻の専攻長であられる亀口憲治先生など、脂が乗り切っている、という印象を受ける。

私には彼らのエネルギーの10分の一ほどもないが、またしばらくこのブログで他愛もないことを書くことが増えそうだ。

2011年10月16日日曜日

北山先生のコンサート(久しぶりの更新)

久しぶりの更新となる。「丸ごと一冊英訳」のつもりで5月のはじめから欠かすことなく続けた英語のブログも、めでたくあと数日で一区切りつきそうである。一日二十行(以上)というペースがよく続いたものだ。
昨日は北山修先生の「悲しみを水に流さず」というコンサートの対談者という役で、銀座のコレドという場所で舞台に出た。私にとってはまったく分不相応な場所。しかも例によって舞台とは私には異様な空間だ。舞台の上からはスポットライトで照らされるために客席が見えない。額に手をかざせばようやく客席の人々の顔がわかるのだが、そんなおかしな格好を続けているわけにはいかない。北山先生の話をさらに盛り立て、引立て、しかし自分の考えを言うという役回りが私にとっては至難(というより不可能)だったためか、非常に緊張した。大体私がそこになぜいるのかがピンと来ない。私自身先生の思考の全体を見渡せないレベルにしかいないので、偉そうにコメントできる立場にないことは重々わかっている。しかし北山先生という類まれなる才能を持った人間(私が研究者の能力として最も評価する独創性という点で、彼ほどそれを発揮している人は、私が知っている世界ではちょっと思いつかない)が渾身をこめて行うレクチャーに、対談者として呼ばれるということがいかに名誉かということはよく自覚している。そして彼の学説にあえて何かをコメントしなくてはならない立場に迫られて、初めて自分の中に生まれた発想もあったことは確かである。とにかく一生忘れられない思い出となることは確かだろう。
もうひとつの収穫は、杉田二郎さんと言葉を交わす機会に再び恵まれたことである。北山先生が「あなたという人は、表も裏もいい人なんだね」と舞台でおっしゃっていたことを思い出す。素顔の杉田二郎さんは飾らない、きわめて腰の低い、おそらく何千回となく歌ったであろう歌の歌詞カードをそれでも用意して、楽屋でギターのリハーサルをする実直な人であった。それにしても特に彼の若い頃の天性としか言いようのない声。個人的に聞いたところでは、年をとるにしたがってその声域は低いほうに移ってきたということである。

2011年9月27日火曜日

雑感ー小沢さんの心証

今日のYOMIURI ONLINE の記事。
小沢元代表は26日夜、東京・赤坂の陸山会の事務所で判決について報告を受け、収支報告書の作成に直接関わっていなかった大久保被告も有罪とされたことなどについて、「予想外だ」と淡々とした口調で話したという。(下線は岡野)

これって要するに心証は真っ黒ということになるだろう。身に覚えがあるからこそ(うまく有罪を逃れられると思っていたのに)「予想外だった、ちぇっ」となる。冤罪だったら「断じて控訴する。絶対に許されることではない!!」と息巻くのが普通だろうから。
同日の別の報道では、「『検察も立証できないことを有罪にする、あんな判決はあり得ない』と述べ、強い不快感を示したという。」とあるが、これも「やって」いない人間からは出ない言葉。やっているから「立証」にこだわることになる。こんな言葉に表れる無意識的な心理をコメントする専門家が出てもおかしくないだろう。

23日の「私の診療手順」。誰も読んでいるはずはないが、私自身は更新をしながら進んでいる。万が一誰かが読むかもしれないというそれだけで、書くモティベーションになるのは実に不思議だ。

2011年9月24日土曜日

どうでもいい雑感

昨日聞いたユニクロの宣伝。アンジェラ・アキの「津軽海峡・冬景色」のカバー。あの後頭の中を回ってしまう。全然いいと思ったことのなかった演歌が、別の歌手のカバーで全く新しくよみがえるって不思議だ。それにしてもやはり歌唱力の問題だろうか?

野田さん。案外いいかも。首相って、まさに人格のリトマス氏になる。一年間(もう期間をすっかり決めてしまっている)メディアにさらされる。一挙手一投足が国民、そして議員の目に届く。政治の世界は権謀術数のはずなのに、「いけ好かない」「誠実さがない」「傲慢だ」「いい人だ」などがたちまち支持率に響いてくるのだ。折り紙つきの「いい人」の野田さん。単なるノー天気でなければいいのだが。

2011年9月23日金曜日

精神科「わたしの診療手順」

11月20日ごろまでに、次のような手順で解離性(転換性)障害について書く必要がなぜか生じた。詳しい事情を書くわけにはいかない。しかしこれほど枠にはめられた執筆は例がないが、かえって面白いかもしれない。
ただし執筆の意欲や意気込みはかなり低い。(どこかに書いたようなことばかりだからである。新しいことがかけない。)よってこの場を使うことにする。
                         

ステップ I 受診理由(請託内容)の事前確認
1.お困りの症状は?
① 一番お困りの症状はなんでしょう?
本疾患を疑わせるのは、
・世界がいつもと違ったように見えたり、自分自身の知覚や体の感覚がいつもと違っていると感じるが、うまく言葉では説明できない。
・身体の一部の機能が失われることがある。失声、失明、耳が聞こえない、足腰が立たなくなる、などの症状が突然失われ、または回復する。
・一定の期間のことが後になってそっくり思い出せないことがある。
・自分が買った(もらった)覚えのない物を所持している。
・他人から別の名前で呼びかけられる。

・自分の中に異なる部分があり、それらが話しかけて来る声(幻聴)が聞こえたり、それらと話し合ったりする。
② 他にお困りの症状はないですか?
本障害の場合、患者自身がそれを異常なこととみなしているかどうか、問診者に警戒の念を抱いていないかなどより、症状の訴え方が大きく異なる。幻聴、内部の人格との対話などについては注意深く尋ねる必要がある。
2.症状のこれまでの経過は?
① 最初にそれらに気がついた時期について尋ねる。多くの場合幼少時にさかのぼるために、時には家族からの聴取も必要となる。
② 症状が学校生活や仕事に支障をきたすようになった時期の生活環境について特に尋ねる。多くの場合外傷性のストレスが契機となっている。

③ 異なる人格状態により、症状の経過に関する話が異なる場合があるので注意する。
3.生活への支障は?
・人とのコミュニケーションに支障をきたす。
・人からわざと病気のふりをする、演技をしている、と思われやすい。そのために学校や職場で誤解されたりいじめにあったりすることがある。
・就学や継続的な勤務に困難が生じる。
4.今日来たきっかけは?当院(当科)を選んだ理由は?
・本障害の診断を確定してほしいという場合には関連疾患に関する著作以外にもインターネットや口コミの情報によるものが多いであろう。
5.ご自分では「何のせい」だと?
① 幼少時期の虐待や外傷がなかったか?
② 最近になりストレスや過去の外傷を思い起こさせることはおきていないか?
 うつ病、PTSDなどの併存症の悪化が生じていないか?
6.医療側への期待を確認する
① 「ここでして欲しいと期待していることは何ですか?」
本障害の場合、診断を確定してほしいという場合と、その診断は了解しているので、それに対する継続的な治療をしてほしいという場合がありうる。
ステップ II
1.問診
 本障害の問診は、ほかの精神科疾患と際立って変わることはないが、問診中に解離症状がおきたり、話題によっては人格の交代現象が生じる可能性があるので注意を要する。また症状の経過自体に対する健忘が生じている場合には、家族や同居者からの情報も時には非常に重要となる。

2.身体診察・検査手順
特に転換性障害の場合には、一般内科、神経内科における検査による身体疾患の除外が重要となる。しかしそれは必ずしも容易ではない。またしばしば身体疾患が併存している場合がある。解離性のてんかん(擬性てんかん)の場合には、脳波異常を伴う実際のてんかんが並存することも少なくないのはその例である。
3.病名分類診断
解離性障害と転換性障害は、DSMとICDではその分類の仕方が異なるので注意を要する。(ICD-10と異なり、DSM-Ⅳでは転換性障害は解離性障害にではなく、身体表現性障害の中に分類されている。)
4.症例定式化(case formulation)
基本的には生来の高い解離傾向と、幼少時の外傷性ストレスとにより本障害が形成されるものと考えられる。解離は外傷性のストレスを乗り切るための防衛として用いられるようになり、そのために生じる解離症状が常態化、慢性化して本障害が成立する。そして現在の精神的、身体的ストレス、併存症の存在が、症状の悪化を招く傾向にある。
ステップ III
1、病態・治療法の説明
① 診断の説明
解離性障害の概念は複雑であるが、とりあえずそれが統合失調症や詐病、「なまけ病」とは異なる現実の精神疾患であるということを説明する。
②病態の説明
病態の説明も容易ではないが、基本的には通常は統合されているはずの心身のさまざまな機能が分断され、それらの一部が一時的に機能を失ったり暴走している状態として症状を説明する。
③転帰の説明
解離症状、転換症状はその多くが時間とともにその華々しさを失っていく傾向にあるが、一部にはそれが非常に長く遷延するケースもあることへの言及も忘れてはならない。またうつ病などの合併症が伴う場合にも症状が慢性化する傾向にあることも説明する。
④治療法の説明

本障害の治療は精神療法が主体となり、薬物療法は対症療法的であったり、合併症の治療に向けられたものであることを説明する。
2 治療契約の協議

① 精神療法のための毎週~隔週の通院が必要である点を説明する。また場合によっては精神療法を提供できるような他機関を紹介する必要も生じるだろう。また治療は比較的長期にわたる可能性もあり、家族や同居人の協力も必要であることを説明する。
② 治療において解離症状が一時的に頻発する可能性も説明し、場合によっては治療への付き添いも必要となる点について理解を求める。
ステップ IV 治療手順
1.初診時
心理教育
解離性(転換性)障害がどのようにして生じ、どのような症状を示し、どのような治療手段が考えられるかについて説明する。そこには適切な書籍や文献を紹介することも含まれる。
精神療法
①上述の心理教育や、同障害の精神療法の趣旨について説明する。すなわち同障害は患者が自分の気持ちを自由に表現する機会を与えられることを治療の基本としていることを告げる。

②症状の引き金になっている可能性のある社会生活上のストレスについて検討し、その回避および軽減の方法について話し合う。薬物療法





とりあえずは現在見られる症状、すなわち不眠、興奮、抑うつに対する薬物を処方する。
① 急性期における身体的障害、家族の消耗を避ける意味での  精神安定剤の使用。
  ジプレキサ(5) 1~2T 興奮時頓用
 デパス(0.5) 1~2T 不安時頓用
② 合併症としてのうつ病の徹底したコントロール。
  ジェイゾロフト(25) 2~4T 眠前
  アナフラニール(10) 4~10T 眠前

2.維持期に至るまで
精神療法
① 症状の程度や頻度、それによる社会生活上の問題を明らかにしたうえで、治療目標を定める。支持的なアプローチに従う精神療法的な設定を提供することが望ましい。その際治療者は同障害についての知識と治療経験を一定程度持っている必要がある。
② DIDの場合は症状に特化した精神療法的なかかわり(個々の交代人格との接触を含む週に一度のプロセス)について説明し、了解を得る。
③ 解離性の健忘が生じている際の対処法として日記をつける、ホワイトボードを用いる等の指示を与えることが望ましいであろう。

薬物療法

3.維持期以降

精神療法
① 継続的な支持的アプローチ、生活環境の調整。
② DIDの場合は症状に特化した精神療法の継続。(2~3週に一度の頻度。)

薬物療法
① 継続した抗鬱剤、気分安定剤の使用。