きょうの社説 2011年12月2日

◎東芝工場再編 「企業留置」戦略も強化を
 東芝の半導体事業再編で、国内生産拠点6カ所のうち、加賀東芝エレクトロニクス(能 美市)など3カ所に生産が集約されることになった。石川県にとってはプラスの動きだが、富山県ではパナソニックの半導体事業縮小で、魚津、砺波工場が再編対象となった。円高や欧米景気減速、世界的な競争激化を背景に、製造業のダイナミックな事業再編の波は北陸にも押し寄せている。

 工場の海外移転や国内の生産体制見直しは、製品の需要動向に合わせ、一段とスピード 感を増している。自治体に求められるのも、そうした動きに即応できる体制づくりである。

 誘致企業の追加投資を支援する新たな仕組みも設けられているが、企業誘致だけでなく 、進出企業を留め置く「企業留置(りゅうち)」戦略はますます重要である。グローバルな企業の動きにアンテナを研ぎ澄ませ、事業再編による投資を地域に呼び込めるよう支援策も絶えず見直してほしい。

 東芝の生産拠点見直しはデジタル家電の不振や円高の長期化で、半導体の需要が低迷し たことにある。東芝の工場で最も古い北九州工場など3拠点を閉鎖する大規模なリストラ策となる。生産集約に伴い、加賀東芝エレクトロニクスは設備を増強し、光半導体の製造を新たに開始する。

 東芝グループでは、東芝モバイルディスプレイが能美市にスマートフォン向け液晶パネ ル新工場を建設するなど、付加価値の高い分野に経営資源を集中する動きが加速している。工場の優位性が保てる補助金、税の優遇措置は一段と重要になっている。

 一方、パナソニックは魚津、砺波を含めた半導体の国内生産拠点5カ所の再編に踏み切 った。具体的な縮小計画は明らかにされていないが、規模によっては地域経済に大きな影響を及ぼしかねない。

 セラミックス大手の日本ガイシが能美市で石川工場を操業する一方、北陸ではキリンビ ール北陸工場、日本製紙伏木工場、JT金沢工場などの閉鎖が相次いできた。大規模工場は地域の雇用や税収を左右するだけに、進出企業の動向については、これまで以上に目を凝らしていく必要がある。

◎同時株安に歯止め 日米欧強調に世界が安堵
 ちょっとしたサプライズ(驚き)と言ってよい。日米欧の中央銀行6行が、欧州債務危 機対策としてドル資金の供給拡大に合意したことで、ニューヨークや東京証券市場の株価が急反発した。注目すべきは、日米欧の協調がはっきりと行動で示されたことだ。来週の欧州中央銀行(ECB)理事会で具体的な資金供給の仕組みや担保基準の緩和が話し合われるのは確実だろう。

 いまだ底が見えぬ欧州債務危機は世界経済に暗い影を落としている。価格の下落が止ま らないギリシャやイタリア、スペインなどの国債を大量に保有する欧州の金融機関の破綻懸念から、資金の出し手がいなくなり、手持ち資金が枯渇する信用不安が広がっている。この重苦しいムードが漂う中で、日米欧の金融当局が連携して問題解決に乗り出した意味は大きい。

 今回の措置は、通貨交換(スワップ)の規模を拡大し、金利を下げることで、ドル資金 の調達を容易にし、欧米の銀行を助ける狙いがある。日銀は円を提供し、欧米の中銀はそれをドルに換えて銀行に提供する。6中銀は時限的な通貨交換協定を締結する見通しであり、特にドル調達に苦しむ欧州には恵みの雨になるはずだ。

 欧州債務危機の影響で、日本は超円高と株価の下落に苦しんでいる。この先、国際金融 資本市場が一段と不安定化すれば、影響はますます深刻さを増すだろう。欧州債務危機は日本にとっても対岸の火事ではない。

 むろん、6中銀の協調行動が欧州債務危機を一挙に解決させるほどのインパクトがある わけではない。流動性不足は一時的に緩和されるとしても、あくまで対処療法に過ぎない。通貨交換の合意に続く次の一手を繰り出すとともに、もっと大規模で包括的な救済措置を打ち出す必要がある。

 できることなら6中銀だけでなく、中国やインド、ブラジルなど新興国を加えた連携の 枠組みができないか。欧州債務危機による経済的な打撃はこれら新興国でも深刻だが、一定の役割を果たせるはずだ。そろばん勘定だけでは先進国の仲間入りは難しい。