AKB人気の秘密は「法律スレスレ」にあった
独占禁止法
彼女たちをスターダムへと押し上げた原動力の一つが、“AKB商法”と呼ばれるCD販売手法だ。
ジャーナリスト 村上敬=文 PANA=写真
いまや国民的アイドルとなったAKB48。彼女たちをスターダムへと押し上げた原動力の一つが、“AKB商法”と呼ばれるCD販売手法だ。AKB 48のCDには、選抜総選挙の投票券や握手券といった特典がつくケースが多い。投票券や握手券はCD1枚につき1枚。ファンは自分の“推しメン”(いち推しメンバーの略)を応援するために特典目当てでCDを大量購入し、ヒットチャートも上昇するという仕組みだ。
この販売手法に対しては、抱き合わせ商法の一種ではないかという批判もある。抱き合わせ商法とは、売れない商品を処分するために人気商品とセットで販売する手法のこと。抱き合わせで販売されると、消費者は人気商品を手に入れるために不人気商品を同時購入しなければならない。AKB 48でいえば、イベント参加券が欲しいファンも、それを手に入れるためにCD購入を強いられることになる。
ただ、ファンの多くは抱き合わせに納得したうえでCDを購入している。企業と購入者で合意ができていれば、どのような商品を組み合わせて売買しても問題はない。抱き合わせ商法が真に問題なのは、市場における企業間の自由かつ公正な競争を阻害する恐れがある場合だ。荘司雅彦弁護士は、次のように解説する。
「たとえばドラクエなどの人気ゲームソフトと、あまり売れない将棋ソフトを抱き合わせで売ったとします。こうなると、人気商品と抱き合わせられない他の将棋ソフトメーカーはハンディを背負うことになる。公正取引委員会は、こうした販売手法を不公正な取引方法として指定。不公正な取引方法は、独占禁止法第19条で禁止されています。AKB商法も、他のレコード会社からすると不公正な取引に見えるでしょう」
じつはAKB48は、過去にも独占禁止法違反騒ぎを起こしたことがある。2008年、8作目シングル「桜の花びらたち2008」の購入特典であるメンバーのソロポスターを44人分集めると、特別イベントに参加できるキャンペーン企画を実施。ところが不公正な取引に抵触する恐れがあるとして、レコード会社が自主的に企画を中止した。現在のイベント参加券の特典もこれと変わらない気がするが、はたして独占禁止法に違反しないのだろうか。
鍵になるのは、イベント参加券が単独で商品として成立しているかどうかだ。単独商品として市場性があるなら、イベント参加券はCDのおまけとはいえず、抱き合わせ商法と判断される恐れがある。
実態はどうか。21枚目のシングル「Everyday、カチューシャ」のCD価格は1600円だったが、特典としてついていた投票券はネットオークションで1枚980円の値がついていた。それだけの値段がつくのだから、どちらがおまけなのかわからない。イベント参加券が商品として流通していることは、もはや動かし難い事実だ。
しかし、荘司弁護士は慎重な見解を示す。
「先に単独の商品として存在していたイベント参加券に、あとからCDをつけてセットにしたら、公取に抱き合わせ商法と判断される可能性は高いでしょう」
しかし、ネットで流通したのは後から。加えて、レコード会社がイベント参加券の転売対策を行い、流通すべきものではないという姿勢を示しているのであれば、「スレスレのところでセーフ。独占禁止法違反とは言い切れないと思います」(荘司弁護士)
考えてみると、CDにイベント参加券などの特典をつけているアーチストはほかにも大勢いる。その中でAKB48が槍玉にあがるのは、人気者ゆえの宿命なのかもしれない。
村上 敬
むらかみ・けい●1971年、大阪府生まれ。東京外国語大学外国語学部(マレーシア語科)卒。ビジネス誌・エンタープライズIT誌を中心に、自己啓発から経営論まで、幅広い分野で活躍中。
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