きょうの社説 2011年12月1日

◎中学生殺害再審 証拠の評価がさらに厳格化
 福井市で1986年に起きた女子中学生殺害事件で、名古屋高裁金沢支部が出した再審 開始決定は、「開かずの扉」と言われるほど厳格だった再審制度に新たな道を示す判断である。

 DNA鑑定に誤りがあった足利事件や真犯人が判明した氷見事件など、近年の再審開始 は確定判決を覆す明白な事実があった場合に認められてきた。今回は決定的な新証拠に欠けるとの見方もあったが、裁判所が証拠を厳格に評価する流れが重い門戸を開いたといえる。その背景には、捜査に対する不信もうかがえる。

 この事件では、逮捕された前川彰司さん(2003年に満期出所)が一貫して否認する 一方、知人らの「血のついた服を着た前川さんを見た」「犯行を打ち明けられた」などの証言が決め手となって起訴された。

 だが、捜査段階から公判にかけ、関係者の証言が変遷し、供述の信用性が争点になった 。1審の福井地裁は無罪、2審の名古屋高裁金沢支部は逆転有罪の懲役7年、最高裁で同判決が確定したが、下級審での正反対の結論は、供述を評価する難しさも浮き彫りにした。

 再審決定につながったのは、金沢支部の勧告に基づき、検察が未開示の供述調書や解剖 写真などを新たに提出したからである。弁護団は旧証拠と照らし合わせ、1、2審でも指摘された矛盾をより鮮明にあぶり出した。裁判所も弁護団の主張をほぼ認め、「犯人と認めるには合理的な疑いが生じている」と結論づけた。

 再審請求審は事実関係に大きく踏み込み、事実審に近い異例の展開となった。再審制度 運用にかかわる新たな流れだが、同様の事例が続けば、3審での確定を定めた司法の根幹が揺らぐおそれもある。証拠を十分に開示しない検察側の姿勢はこれまでも批判されてきた。被告に有利な証拠が検討できなければ公正な裁判は実現できず、裁判員制度にも背くことを検察は重く受け止める必要がある。

 有力な物証がなく、供述に頼らざるを得ない事件では「合理的な疑い」を差し挟まれな いほどの立証が求められている。取り調べの可視化拡大も、証拠の評価が厳格化する流れでは避けて通れない。

◎自動車関連税制 避けられぬ抜本的見直し
 民主党税制調査会がまとめた2012年度税制改正要望で、自動車取得税(地方税)と 自動車重量税(国税)の「廃止、抜本的な見直し」が大きな焦点になっている。国税の重量税も約4割が市町村に配分されており、地方にとって自動車2税は貴重な安定財源である。全国知事会など地方側が、具体的な代替財源を示さないまま廃止を言い出した民主党税調に強く反対しているのはもっともである。

 ただ、道路特定財源の歴史を持つ自動車関連税は取得と保有の税金だけでなく、揮発油 税など走行段階の課税も含めて複雑であり、簡素化と軽減を求める声が、自動車業界だけでなく利用者にも強いのは確かである。取得税と消費税の二重課税問題もかねて指摘されているところであり、その解消は民主党の政権公約でもある。

 自動車取得税と重量税の税収は約9千億円で、うち約5千億円が地方の財源になってい る。代替財源をすぐに確保できないため、来年度廃止は難しいとみられるが、この先、複雑な自動車関連税制を「公平・中立・簡素」の原則に基づいて抜本的に見直すことは避けられないのではないか。

 民主党税調は、自動車2税の廃止を含む見直しを求める背景として「超円と国際的な 金融危機」を挙げている。超円と国内需要の伸び悩みに苦しむ自動車産業を側面支援する狙いである。経済産業省なども、重い税負担が自動車の売れ行きを鈍らせている一因とみており、自動車の生産拠点がある愛知県など7県は地域産業支援の立場から自動車2税の廃止を政府、与党に訴えている。

 両税の存廃をめぐり、地方は一枚岩ではないが、全国知事会としての見解は、円高対策 は政府と日銀が金融・為替政策などで対応すべきことで、都道府県や市町村の財源を奪う議論にすり替えてはならないという主張である。

 地方の安定財源の確保と成長戦略をいかに実現するかという重いテーマであり、今後、 政府税制調査会だけでなく、今年設置された「国と地方の協議の場」でもじっくり議論してもらいたい。