しかし、ちょうどその時、中国海軍の艦隊が宮古海峡を通過し、西太平洋に出た。中国海軍の西太平洋演習は2011年6月に実施されており、今回また演習を行うなら、これまでの年1回のペースを変更することになるし、その演習に意図するものがあるとすれば、それは対日牽制であり、背後にある米国への牽制である。
懸念される人民解放軍の独走
米中の角逐が鮮明になればなるほど、外交の舵取りが難しくなるのは日本ばかりではない。米国や中国の周辺諸国にとっても舵取りが難しいのは、中国の政策に一貫性がないことにも起因する。
中国の場合、外交は外交部(外務省)が一元的にコントロールしているわけではない。中国の権力構造の中で外交部の力は相対的に脆弱であり、もっと強力な人民解放軍の圧力を受ければ無力化してしまう現実がある。
2009年後半以降、中国外交が強硬化し、周辺諸国の反発を買ってきたことを想起すると、例えば東シナ海や南シナ海での海軍に代表される人民解放軍の強硬意見が外交に反映されてきたと見ることができる。
2010年のちょうど今頃、北朝鮮による韓国領・延坪島への砲撃事件を受け、韓国が米国との合同軍事演習で北朝鮮を牽制しようとした時、中国は米海軍空母の黄海での活動に強く反対した。その反対の先頭を切ったのが人民解放軍の馬暁天副総参謀長であり、これに外交部は追従するしかなかった。
中国の政策決定が分裂しているとなると、日本は穏健路線の中国外交部に合わせるべきか、あるいは強硬路線の人民解放軍に対応すべきか判断に迷うことになる。
中国内部の力関係で言えば人民解放軍の方が上だと言えるが、中国の最高首脳の胡錦濤主席はどう考えているのか。胡主席は軍を十分にコントロールしているのか。過去の日本にもあった「軍部の独走」は、今の中国を観察する上でも重要なポイントになりつつある。
日本は米国と中国の間でどう動くのか
米中関係が厳しい状況になるとすれば、その間に立つ日本の重要性は増すことになる。日米同盟がなければ、米国のアジアにおける影響力を維持することは極めて困難になる。裏腹の関係で、中国にとっては日本が米国一辺倒の反中国家になってしまうことを恐れる。
日本は安保政策の基軸である日米同盟を維持しつつ、中国との経済関係を発展させたい。米中角逐の外交ドラマが開演したいま、日本の戦略的価値は確実に高まったと言えるだろう。
しかし、その価値を維持するために日本は主体的な外交・国防政策が求められる。果たして日本にそれができるか。野田政権に課された責務は重い。
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