特定の国家を想定していない建前にはなっているものの、米国に対し「A2AD」の能力を拡充しようとしているのは事実上、中国だけであるから、米国は国防総省の中に「対中国専門部局」を設置したことになる。
しかも、国防総省がこの部局を報道陣に説明したのは11月9日である。この間、政府内で対中戦略を練り上げていたはずだ。
米紙「ワシントンタイムズ」の報道によれば、米国防総省筋は「エア・シー・バトル」というコンセプトが中国に向けられた新たな軍事態勢の手始めであるとし、さらにオバマ政権の高官筋はもっと明確に、中国に対する新たな冷戦型のアプローチを取ることを伝える重大な転換点だと述べている。そうだとすれば、経済や貿易ではTPPという高い自由貿易のハードルを設け、軍事的には「エア・シー・バトル」で中国を包囲して孤立させる「米中冷戦時代」の到来ということになる。
在日米軍のプレゼンス低下を日本は埋められるか
しかしながら、米国を東アジアの経済連携の枠組みに引き入れたとはいえ、米国が中国への対決姿勢を強めた場合、日本の立場は難しくなる。
南シナ海をにらみ、米豪同盟が強化され、グアムの米軍配置も強化されるにせよ、この地域に前方展開される米軍の戦力自体は大きく変わらない。国防費の圧縮圧力がのしかかる米軍に、戦力拡大の余地は乏しいからだ。
だとすれば、グアムやダーウィンでの米海兵隊の増員は、沖縄駐留海兵隊から人員を回すことを意味する。もともと沖縄の海兵隊から8000人をグアムに移す計画もあった。
要するに、日本に駐留する米軍のプレゼンスが低下することを覚悟しなければならなくなる。南シナ海を米海軍が重視すれば、それだけ西太平洋における米海軍のプレゼンスも下がる。
日本は独自に、米国の低下したプレゼンスを埋める努力が求められることになる。防衛大綱で自衛力の西方への重点配備が打ち出されているが、深刻さを増す財政赤字の圧力下で自衛力強化はおぼつかない。そうした状況は、ここ数年は続くと考えなければなるまい。
問題なのは、そうした状況を米国も中国も知っているということだ。
野田佳彦総理は12月中旬の訪中を予定し、そのために玄葉光一郎外相が訪中した。東アジアサミットで「四面楚歌」に置かれた中国にとって、近隣諸国との関係改善を目指すチャンスであるはずだ。
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