もちろん、その直前にオバマ大統領がオーストラリア議会で行った演説で、米国が外交・安保の軸足をアジアに回帰させ、米豪軍事同盟を強化し、オーストラリア北部のダーウィンに米海兵隊を駐留させることを明らかにしたことも、大きく影響した。
米国は戦略的に対中牽制に大きくかじを切った。それが明らかになったことが、中国の脅威をひしひしと感じてきたASEAN諸国に歓迎されたことも指摘しなければならない。
図らずも「悪役」に回ったのが中国だった。南シナ海領有権問題で「当事者間の交渉」を主張したものの、その主張は多国間外交の舞台でそれを否定するように聞こえ、「航行の自由」「国際法の順守」という大原則を振りかざして中国に一歩も引かないオバマ大統領の前になすすべもなかった。
中国と南シナ海の領有権で競合するベトナム、フィリピン、マレーシアは米国という加勢を得て勢いづき、歴史的に対中不信感の強いインドネシアも同調した。そのため、中国はまさに「四面楚歌」の状況に追いやられた。
「予定の行動」とも言えた米国のサミット参加
こうした米国の戦略的アジア回帰は、十分に練られた政策であった。言うまでもなく、イラクやアフガンへの米国の関与を一段落させた結果でもある。
2011年10月、パネッタ国防長官は就任後初めてアジアを歴訪し、その時すでに中国への対応を重点に置く米国防戦略のアジア回帰を明確にしていた。
もともとオバマ政権は対ASEAN外交を重視していた。オバマ大統領自身、幼少時代に母親とインドネシアに暮らした経験があることも見逃せないが、世界経済の成長を牽引する東アジアの経済統合の動きに距離を取ってきたクリントン政権以来の米国の政策への反省から、オバマ政権は対ASEAN政策を転換したのである。
米国の歴代政権が署名をためらってきた東南アジア友好協力条約(TAC)にも、オバマ政権が発足した2009年に署名している。同条約への加入が東アジアサミット参加の条件になっていたこともあり、今回実現した米国の参加は、いわば「予定の行動」とも言えた。
米国防総省の中に設置された「対中国専門部局」
こうした動きの中で、われわれがもっとも注目しなければいけないのは、オバマ政権の「対中認識」の変化であろう。
2011年8月、米国防総省に「エア・シー・バトル・オフィス(Air-Sea Battle Office)」という部局が新設された。「エア・シー・バトル」とは、米国が「A2AD」すなわち米軍が特定地域への「接近阻止(Anti-Access)」「領域拒否(Area-Denial)」に対抗するため策定した空・海統合作戦である。
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