ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
「引きこもり」するオトナたち
【第88回】 2011年12月1日
著者・コラム紹介バックナンバー
池上正樹 [ジャーナリスト]

引きこもるのは“家”だけではない
今も居場所を探し漂流するある若者の半生

previous page
3
nextpage

 後藤さんは、バイトを辞めた後、ハローワークに通って仕事を探していた。しかし、いまはハローワークには行っていない。ずっと引きこもり状態の生活を送っている。

 実家には、働き始めてから、自分のくつろげる「居場所」はなくなっていた。

 元大手企業の会社員を定年退職した父親と、専業主婦で宗教にハマっている母親とは、これまで真剣に話をしたことがない。両親は、本性を現すことがなく、コミュニケーションがとれる状態ではなかった。

 実家に帰ってきたら、泊まる場所がなくなっていて、ネットカフェを転々とするネットカフェ難民になった。知り合いの家やホテルにも泊まり歩いた。

 結局、父親がお金を出してくれて、アパートを借りてくれたのだ。

 ところが、アパートの部屋にいると、こうした物音に悩まされるため、親の車の中で寝泊まりしていた。

ついにホームレスに転落
それでも家にいるより楽

 そして、1年余りにわたって、ホームレスを経験する。つらかった。

 おじいちゃんが夏にダウンを着ている気持ちがわかった。冬の寒さが身に沁みて、トラウマになるのだ。

 冬の間は、ホームレスと車上での寝泊まりを繰り返した。

 それでも、後藤さんの場合、ホームレスの寒さより、家にいるほうがつらかった。家にいるときには、下血や吐血などを起こして、体調も崩したことがある。

previous page
3
nextpage
Special topics
ダイヤモンド・オンライン 関連記事

DOLSpecial

underline
昨日のランキング
直近1時間のランキング

話題の記事


池上正樹 [ジャーナリスト]

1962年生まれ。大学卒業後、通信社の勤務を経て、フリーに。新聞、月刊誌、週刊誌で、「心の問題」「住環境」などの社会問題をテーマに執筆。1997年から「ひきこもり」を巡る取材を始める。著書は、『ドキュメント ひきこもり~「長期化」と「高年齢化」の実態~』(宝島社新書)、『「引きこもり」生還記』(小学館文庫)など。2011年6月には最新刊『ふたたび、ここから~東日本大震災、石巻の人たちの50日間~』(ポプラ社)を上梓。


「引きこもり」するオトナたち

「会社に行けない」「働けない」――家に引きこもる大人たちが増加し続けている。彼らはなぜ「引きこもり」するようになってしまったのか。理由とそうさせた社会的背景、そして苦悩を追う。

「「引きこもり」するオトナたち」

⇒バックナンバー一覧