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「引きこもり」するオトナたち
【第88回】 2011年12月1日
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池上正樹 [ジャーナリスト]

引きこもるのは“家”だけではない
今も居場所を探し漂流するある若者の半生

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 昼間、暇つぶしに図書館に行っていたら、ホームレス支援のチラシを見つけた。

 様々な資格が取得できるという制度だ。後藤さんは、その中から大型免許を選んで取らせてもらった。

 「何とかプログラムとかいう国の方針です。そこで借りたお金は、返さなくてもいいらしいんですよ。でも、実際は、ホームレスじゃない人が、どんどん借りていました。いま振り返ると、僕も借りておけばよかったな、とか思って…」

 後藤さんが大型免許を取れたのも、国からの援助らしい。後藤さんは「それは、とても助かった。本当にありがたい」と思った。

 それまでの車上での生活から、自分で仕事を探し出して、その会社で寮生活を始めることもできた。

 時給は1000円弱。食事代も実費で支給される。

やはり電磁波が…
「引きこもり」という心性

 「良かったんですけどね。ダメになっちゃいまして…」

 長続きしなかった理由は、「やはり電磁波的なものですかね」と、後藤さんはいう。そのことが原因で、人間関係もダメになった。

 「元々、コミュニケーションが苦手で、なじみにくい性格だと思っている。ただ、30歳を超えてからは、だいぶ慣れてきたかなと思えるようにもなりました」

 会社での寮生活も、結局、仕事が長続きすることはなかった。いまは再び、引きこもりの生活を送っている。貯金も底をついてきた。

 「眠れない。ぐっすり寝たい。休める場所が欲しい。精神的にも参っている。モヤシみたいな感じで、ちょっと何かあるとビビってしまうんです」

 家という環境があるから、引きこもるわけではない。元々、「引きこもり」の心性を持つ人たちは、ちょっとしたきっかけから、どんな環境の中でも引きこもってしまう。

 「とにかく、何とかならないかな」と、後藤さんはいまも「居場所」を探し続けている。


拙書『ふたたび、ここから―東日本大震災・石巻の人たちの50日間』(ポプラ社)が発売中。石巻市街から牡鹿半島の漁村まで。変わり果てた被災地を巡り、人々から託された「命の言葉」をつづるノンフィクションです。ぜひご一読ください。

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池上正樹 [ジャーナリスト]

1962年生まれ。大学卒業後、通信社の勤務を経て、フリーに。新聞、月刊誌、週刊誌で、「心の問題」「住環境」などの社会問題をテーマに執筆。1997年から「ひきこもり」を巡る取材を始める。著書は、『ドキュメント ひきこもり~「長期化」と「高年齢化」の実態~』(宝島社新書)、『「引きこもり」生還記』(小学館文庫)など。2011年6月には最新刊『ふたたび、ここから~東日本大震災、石巻の人たちの50日間~』(ポプラ社)を上梓。


「引きこもり」するオトナたち

「会社に行けない」「働けない」――家に引きこもる大人たちが増加し続けている。彼らはなぜ「引きこもり」するようになってしまったのか。理由とそうさせた社会的背景、そして苦悩を追う。

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