ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
「引きこもり」するオトナたち
【第88回】 2011年12月1日
著者・コラム紹介バックナンバー
池上正樹 [ジャーナリスト]

引きこもるのは“家”だけではない
今も居場所を探し漂流するある若者の半生

previous page
2
nextpage

 隣人がいったいどんな人なのか――。都会のアパートではそんな近所付き合いもほとんどないから、知る由もない。

 やがて、後藤さんが帰宅すると、昼夜を問わず、ドスン、ドスンと何かで突きあげるような音が聞こえるようになったという。ただ、彼自身には、怒りを買うような心当たりなど、何もなかった。

 後藤さんが深夜、足音を立てないように、こっそり帰ってきても、しばらく経つと、下の部屋の電気が点いて、物音がし始めるという。

 そこで、ある日、実家の父親にお願いして、一緒に部屋で寝泊まりしてもらった。父親がアパートの部屋に来ると、なぜか何も起こらなかった。

 確かに、まったく音がしない静寂の流れる日もある。ところが、父親がいびきをかいて寝始めると、やはりドスンという音がして、父親は目を覚ました。

 後藤さんが父親に「聞こえた?」と聞くと、父親も「確かに、聞こえた」と答えた。

仕方なく実家へ戻るも居場所がなく
ネットカフェ、ホテル、親の車と転々

 実は、後藤さんは以前住んでいたアパートでも、似たような経験をした。部屋は1階だったが、上の階からドスンドスンという音が響いてきて、眠れなかったのだ。

 仕方なく、いまのアパートの2階に引っ越して来たのに、まだ同じような目に遭っているのだという。

 ちなみに、下の階の女性は、後藤さんが引っ越してきたときには、すでに入居していた。

 「幻聴なのではないか」と親に疑われ、物音を録音したところ、かすかではあるが、その音は録音されていた。また、医療機関で身体を診てもらったものの、どこにも異常は見つからなかったという。

previous page
2
nextpage
Special topics
ダイヤモンド・オンライン 関連記事

DOLSpecial

underline
昨日のランキング
直近1時間のランキング

話題の記事


池上正樹 [ジャーナリスト]

1962年生まれ。大学卒業後、通信社の勤務を経て、フリーに。新聞、月刊誌、週刊誌で、「心の問題」「住環境」などの社会問題をテーマに執筆。1997年から「ひきこもり」を巡る取材を始める。著書は、『ドキュメント ひきこもり~「長期化」と「高年齢化」の実態~』(宝島社新書)、『「引きこもり」生還記』(小学館文庫)など。2011年6月には最新刊『ふたたび、ここから~東日本大震災、石巻の人たちの50日間~』(ポプラ社)を上梓。


「引きこもり」するオトナたち

「会社に行けない」「働けない」――家に引きこもる大人たちが増加し続けている。彼らはなぜ「引きこもり」するようになってしまったのか。理由とそうさせた社会的背景、そして苦悩を追う。

「「引きこもり」するオトナたち」

⇒バックナンバー一覧