2011-12-01

電車内で異臭男に遭遇した

ある平日の京浜東北線電車に乗り込んだ時、ふっと、堆肥のような臭いがした。

なんとなく口臭(奥歯に詰まったカス臭?)のような気もしたので自分の息が臭わないかかめてみた。

が、特に臭わない。

周りを見回しても異臭の元がつかめない。

そうこうしているうちに次の駅について、座席が空いたので座った。

座席が空いた理由はすぐに分かる事になる…。

座席に座ったら途端に臭いが強くなった。

かいにはハンカチで鼻を押さえている人がいる。

眉をひそめて周りをキョロキョロと見回している人がいる。

二人連れが怪訝な顔をして「…何?」「…なんか臭くない?」とコソコソ話をしている。

隣の車両に移る人もいる。

右隣の人が立ち上がり、遠くの別の座席に移動していった。

そうしたら臭いがいっそう強くなった。

自分が座っているのは7人掛けの長椅子タイプの座席の左端。

右側に座っていた人がいなくなったら臭いが強くなったという事は…臭いは右から来ているのか?

ちらっと右を見てみたら一番端に男が座っていた。

ホームレスのような不潔な感じの風貌をしている。

臭いの元はこの男か、あと数駅だしこの程度の匂いならなんとか我慢できるかな

…と思った瞬間、その男が突然

キエーーーーーーーッ!

と絶叫して頭をかきむしりはじめた。

かいの座席の人が男に一斉に視線を注ぐのが見える。

はげしく咳き込みながらキー!キエーッ!キー!と奇声を上げ続ける男。

時々痰を吐くような音もする。

(怖くて男のほうを見られないので音しかからない)

車内は恐怖に凍りついていた。

はやみんな男から視線を外して何事もないように振舞おうとしているのが分かった。

顔をひきつらせて泣きそうな若い女性もいる。

男の奇声と奇行はしばらく続いた。

から遠くにいる何人かは隣の車両に移っていたが、近い人は恐怖のせいで動けない。

俺も男とは近いので動けなかった。

怖がって逃げる事でコイツを刺激したくはない。

次の駅についた時、この車両からドッと人が消えた。

皆バタバタと避難するような速度で我先にと出ていった。

隣の車両に移った人も大勢いた。

人が一気にいなくなり周辺の座席がたくさん空いた。

隣の車両は立っている人が結構いるのに、この車両だけは異様なほど空いている。

人がいなくなったせいで伝播力が上がったのか、また臭いが強くなった気がした。

俺はといえば、中途半端しか逃げられなかった。

さっきの駅についたどさくさで一つ隣の座席に移動したのみで、男とは依然同じ車両のまま。

自分心臓の音がバクバク聞こえているほど本気で怖かったが、なんとなく怖いもの見たさでこのまま目的地に着くまでここに座っていようと思った。

「何かのネタになるな」と思った。いや、ネタにしなきゃやってられない。

そう、ネタにしようと思ってしまった。(だからこれを書いた。)

つのまにか男は奇声を上げるのをやめていた。

相変わらず異臭は漂っている。

から次の駅に到着する時間がいつもよりも長く感じられる。

知らずにこの車両に乗ってくる人は可哀想だな…誰も乗ってこなければいいのに…と考えていたが

その思いも虚しく、駅につく度に人が乗ってきて空いている座席に座り、次の駅についたら無表情で降りてしまうという予想通りの行動が何度も繰り返されていた。

男は時折大きな音で痰を切る。

奇声を上げている頃に比べたら随分おとなしくはなっていたが、車内の雰囲気おかしいまま。

ただ異臭がするというだけで車掌を呼ぶわけにもいかないし、一体この男をどうすればいいんだろうという感じだ。

(こういう時本当にどうすればいい?車掌を呼んでもいい案件?)

そしてとうとう俺の降りる駅に着いた。

ようやく異臭と緊張感から解放されると思ったら、その男も立ち上がった。

同じ駅に降りる様子。

ついて来られたら…同じ目的地だったら…と怖くなったが、

電車内みたいに密室ではないのでいくらでも走って逃げられる。

降りたらさっさと駅から逃げよう。と気を持ち直した。

電車から降りて、ホームで男の姿をゆっくり観察できた。

癖っ毛で脂ぎったボサボサ髪。

マスクをしている。

ペラペラでヨレヨレのスタッフジャンパー

薄汚れたシャツ

中年のような出っ腹。

何かをパンパンに詰め込んだボロいビニール製バッグを3つほど持っている。

ボロボロに履き古した運動靴のかかとを踏んでいる。

その足がなんだかグチャグチャで変な色で、汁のようなものが靴に染みていた。

臭いの元は多分これだ。

そういえばいつか田舎で見た、車に轢かれて放置された動物死体がこんな臭いを放っていたような気がする。

腐臭だ。

この人の足は腐っている。

臭いはずだよ。

とにかくさっさと駅から出た。

振り向いたら男の姿はどこにもなかった。

ホッとした。

ただ、その日一日は臭いが鼻から離れなかったのは参った。

今までに出会った人の中で一番異臭を発している人だったと思う。

鼻に残る臭いを感じながら、

腐った足は痛くないのだろうか?

腐っているので痛みも麻痺しているのだろうか?

もしかして奇声を上げたのは痛かったからか?

咳き込んだのは何かの病気か?

その病気のせいで足が腐ったのか?

末端が腐るといえば糖尿病か?太っていたし…

病院には行かないのか?

治療できない事情があるのか?

金銭的な事情か?

どうしてこんなになるまで放っておいたんだ?

助けになってくれる人はいないのか?

あの男はあんな体でこの先どれだけ生きられるのか?

色々な事が頭を巡った。

俺がどれだけ考えても詮無いことだよなあ…。

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