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[25124] [習作]英雄伝説(軌跡シリーズ) ~光と闇の軌跡~ (クロス元 幻燐の姫将軍・空を仰ぎて雲高く)
Name: sorano◆b5becff5 ID:15a3753e
Date: 2011/10/24 10:36
ついにやってしまった^^幻燐の姫将軍と書いてますが実際はVERITA後の話しです。基本幻燐側しか出す気がないので戦女神キャラを期待している方は諦めて下さい……
また、にじファンにも同じものがあります。



かつて、二つの世界が融合して誕生したディル=リフィーナ。
数ある大陸の中でもディル=リフィーナで2番目に大きい大陸、ラウルバーシュ大陸のアヴァタール地方
で邪竜復活による大きな戦いが起きた。戦いは多くの犠牲を出したが神殺しと半魔人とその使徒や
仲間たちによって邪竜は倒された。

そしてそれぞれが違う道を歩み始めた中で半魔人でありレスペレント地方を収める国、メンフィル帝国の
初代皇帝リウイ・マーシルンは亡き愛妻、正妃イリーナの魂を求めて息子シルヴァンに国を任せ、信頼ある仲間と旅に出ていたが、
メンフィルを飛び出した孫娘、第一皇女リフィアとリフィアに連れ出されたメンフィルの客人、魔神エヴリーヌを捕まえメンフィルに
戻し、また仲間と共に旅に出ようとした時リウイの最も信頼する家臣の一人であり混沌の女神、アーライナの神格者
ペテレーネ・セラの体調が崩れ、診察をした所なんとリウイの子供を身籠っていたのだ。これを知ったリウイは一時旅に出るのを中断したのだ。そんなある日………



後書き
紹介程度に書いたのですっごく短いです。更新は基本焔の軌跡を優先するのでかなり遅いと思いますのであまり期待しないで読んで下さい。



[25124] 第1話
Name: sorano◆b5becff5 ID:15a3753e
Date: 2010/12/28 18:38
~メンフィル王都・ミルス城内~

新兵達の演習につきあったリウイはある部屋に向かい、ドアの前に立ちノックした。
コンコン
「はい、どちら様でしょう?」
「俺だ、入ってもいいか?」
「ご主人様!?どうぞ!」
ドアの中から慌てた声が返され、リウイは相変わらずだと苦笑し部屋に入った。
そこにはお茶の用意をしようとしているペテレーネの姿があった。
「あ、ご主人様。今、お茶の用意を致しますので少々お待ち下さい。」
その様子を見てリウイは呆れた。
「ペテレーネ……お前はもうすぐ子を産む身なのだから無理はするな。」
「ですが、折角ご主人様に来ていただいたのに何も御出ししない訳には……」
「構わん。これは命令だ。今はその身を大事にしろ。」
「ご主人様……ありがとうございます。」
リウイの言葉にペテレーネは顔を赤くし、椅子にすわり、リウイも椅子に座った。
そしてリウイはペテレーネを見、体の調子を尋ねた。

「どうだ、体の調子は。」
「はい、今は大丈夫です。でもときどき赤ちゃんがお腹を蹴るんですよ。ふふ、早く出してくれって言っているみたいです。」
「そうか……元気な子が生まれればいいな……」
「はい……」
ペテレーネはリウイの問いに答えた後、暗い顔をした。

「どうした、そのような暗い顔をして。」
「はい……リフィア様達を国に戻しこれからイリーナ様をお探しする矢先に私がこのようになってしまって、ご主人様の旅を中断してしまい申し訳ないんです。」
「そのことか……前にも言ったが気にするな。イリーナを探す旅はあてのない旅になるからな。数年中断した所で支障はでん。」
「ですが……」
「くどい。それともお前は俺の子を産みたくないのか?」
「そんな!私にとってご主人様の子供を授かるなんてこの上なく幸せなことです!」
リウイの言葉をペテレーネは慌てて否定した。

「ならばいいではないか。以前にも言ったが子供は多いほうがいい。それも信頼ある女性のなら尚更だ。」
「ご主人様………」
「それにイリーナがもし、これを知ったら間違いなくお前についてろと言うはずだ。だから今は安静にして
元気な子を産め。」
「ご主人様……はい、絶対に元気な子を産んでみせます!」
リウイの言葉にペテレーネは笑顔で答え、そんなペテレーネを見てリウイは笑みを浮かべた。そしてそこにほかの来客が現れた。

「は~い、ペテレーネ!元気?」
「全くあなたときたらいつも騒々しい……少しはペテレーネの性格を見習えないのかしら?」
元気よく部屋に入って来たのはリフィアの祖母で、リウイの幼馴染であり側室の一人であり、上位悪魔と睡魔族を両親に持つ闇剣士カーリアンと、その後から入って来たのはリウイの最も信頼する家臣の一人であり、飛天魔族のメンフィル大将軍ファーミシルスだった。

「なによ~いちいち五月蠅いわね~やるっていうの~?」
「私は当然の事を言ったまでよ。あなたがかかって来るならいつでも相手になるわよ?」
二人はどんどん険悪になり武器を構え始めた。それを見たリウイはいつものように2人を叱りつけた。
「いい加減にしろ、お前達。腹の子に悪影響だろうが。」
「申し訳御座いません、リウイ様。」
「ふう、今日のところはお腹の子に免じて収めてあげるわ。」
リウイの言葉に2人は武器を収めたが相変わらずお互いを牽制していた。それを見たリウイは相変わらずの様子に
溜息をついた。

そしてカーリアンはペテレーネに話しかけた。
「よかったわね、ペテレーネ。あなたずっとリウイの子供が欲しかったんでしょ。私、ずっと傍にいたあなたを出しぬいてちょっと悪く思っていたのよね。」
「そんな!恐れ多いです!私はカーリアン様なら素晴らしいお子様を産むと思っていましたし、そのお陰でリフィア様がいるではないですか。」
「ありがとう、ペテレーネ。」
カーリアンの言葉にペテレーネは慌てて否定した。そしてファーミシルスの方へ顔を向け申し訳ないような顔をした。

「それより、ファーミシルス様より早く子供を授かって申し訳ないです………」
「あら、気にしなくていいわ。幼い頃よりずっとリウイ様の傍にいたあなたなら私より早く産んで当然だと思っているわ。」
「ですが、私のような力不足の者が………」
「ペテレーネ、私はあなたを弱者だと思ったことはないわ。リウイ様のためだけに神格者にまで登りつめたその忠誠心、
魔術の力は私を超えていると言っていいわ。もっと自分の力を誇りなさい。そしてリウイ様のためにも元気な子を産みなさい。」
「ファーミシルスの言うとおりだ。プリゾアもあの世できっとお前を誇りに思っているだろう。」
「ファーミシルス様、ご主人様……ありがとうございます!」
ファーミシルスからの思いがけない励ましにペテレーネは自信を持った。
そこにさらに来客が来た。

「元気であるか、ペテレーネよ!」
「……気持ちよく寝てたのに………」
一人はリウイとカーリアンの孫であり、次期メンフィル皇帝第一候補である第一皇女リフィアともう一人は
姫神フェミリンスと戦うために太古の魔術師ブレア―ドより召喚された魔神の一柱、深凌の楔魔第五位のエヴリーヌだった。

「リフィア……もう少し静かに入室できないのか。それにエヴリーヌを無理やり起してくる必要はないだろう……」
リウイは相変わらずの孫の様子を見て呆れた。
「せっかく余の新たな妹か弟ができるのに大人しく入って来れるものか。それにエヴリーヌにとっても妹か弟になるのだから
連れて来て当然であろう!」
リウイの問いをリフィアは一蹴した。

「妹か弟って……カミ―リが産むわけじゃないんだから、正確にはあんたは叔母になるんじゃないの?」
カーリアンはリフィアから普段、婆と言われてた分、ついにリフィアが叔母と呼ばれるようになったのに気付き
ニヤついた。
「何を言っておる!生まれてくる子が伯父か叔母になるのじゃぞ?全くこれだからカーリアン婆は……」
「だ~れが婆ですって~!!」
「い、痛い、痛い!痛いのじゃ~!!離すのじゃ~~!!」
婆と言われ怒ったカーリアンはすかさずリフィアの後ろにまわりリフィアの頭を拳でグリグリし、それをされた
リフィアは呻いた。
「そのぐらいにしてやれ、リフィアも新たな命に興奮してるだけだろう。」
「もう、リウイったら。相っ変わらずリフィアには甘いわね!」
リウイに諭されカーリアンは文句を言いつつリフィアを離した。

「ハアハア、死ぬかと思ったのじゃ。リウイ、大好き!」
「これに懲りたらもう少しカーリアンを親切にしてやれ……」
「うん、わかった!」
リウイの言葉にリフィアは笑顔で答えた。
そしてリフィアはエヴリーヌといっしょにペテレーネに近寄った。

「ここに余とエヴリーヌの新たな兄妹がおるのか……不思議じゃの。」
リフィアはペテレーネのお腹をマジマジと見、興味深そうに見た。
「お2人ともさわってみますか?」
「よいのか?」
「はい、お2人でしたら赤ちゃんも喜ぶでしょうし。」
珍しく恐る恐る聞いたリフィアにペテレーネは笑顔で答えた。

「そうか、では早速……おお!かすかだが動いておるぞ!エヴリーヌも触ってみるが良い!」
リフィアはペテレーネのお腹に触り驚いた。
「ん……わあ、動いている……生きているの?」
「ええ、生きていますよ。この子が生まれたらエヴリーヌ様も姉になりますね。」
ペテレーネのお腹に触って驚いているエヴリーヌに優しく言った。
「エヴリーヌがお姉ちゃん……ふふ、楽しみ………早く産んで元気になって……いつも作るお菓子も楽しみだから……」
「ええ、その時はまた作らせていただきます。」

さまざまな人から祝福されペテレーネは幸せを感じ、また仲間もそれぞれ新たな命が産まれる時を待っていた……




後書き なんかペテレーネを凄く贔屓してしまった気分です……エヴリーヌやリフィアの口調がおかしくないかちょっと心配です……



[25124] 第2話
Name: sorano◆b5becff5 ID:15a3753e
Date: 2010/12/28 22:01
~メンフィル王都・ミルス城内~

月日が経ちついに、ペテレーネはリウイの子を産んだ。
「ペテレーネ、無事か!」
お産の時部屋の外で待たされたリウイは新たな命の泣き声が聞こえるとすぐに部屋に入った。
そこには幸せそうな顔で赤ん坊を抱いているペテレーネとそれを優しく見守っているカーリアンの姿があった。
「リウイ、少しは落ち着きなさい。全くあなたったら子供が生まれるといつもそうなんだから……」
「ご主人様……はい、見ての通り無事です。それより見て下さい、この子がご主人様の子です……」

慌てている様子のリウイを見てカーリアンは呆れた。
そしてペテレーネは抱いていた子をリウイに見せた。
「仕方がなかろう。それよりこの子か……ほう……元気な子だ……それに魔力もリフィアに負けず劣らずあるようだな……きっと素晴らしい子に成長するだろう。性別はどっちだ?」
リウイは抱いていた子を渡されその子供の魔力を感じ取り驚いた。
「はい、女の子になります。」
「そうか……リフィアがいる以上恐らくこの子は王位継承者にはなれないが、正式な皇女扱いにはするから安心しておけ。」
「そんな!私はご主人様の子を授かれただけでも嬉しいのにそこまで気にして頂けるなんて……本当にありがとうございます!」
ペテレーネはリウイの優しさを感じ感謝した。

そしてリウイはある事に気付き、ある提案をペテレーネにした。
「ペテレーネ、いつまでもその呼び方はやめてはどうだ?」
「え、呼び方といいますと……?」
「その“ご主人様”だ。子供が産まれた以上その呼び方もおかしかろう。」
「え………でもご主人様はご主人様ですし……」
ペテレーネはリウイからの突然の提案に戸惑った。
「子供にとって父と母がお互い呼び合うのにはおかしかろう。お前ならば俺を呼び捨てにしてもいいのだぞ?」
「あら、それなら私も呼び捨てにしていいわよ?お互いリウイの子を産んだし、私とあなたは長年の仲間じゃない。」
「そんな!お2人を呼び捨てにするなんて恐れ多いです!その……せめて名前でしたら……」
ペテレーネは2人の提案に恐縮し、その後小さな声で呟いた。

それを見てカーリアンは感心し、リウイは笑みを浮かべた。
「あなたって本当遠慮気味ねえ……」
「ならばこれからは俺の事も名前で呼べ。これは命令だ。」
「はい、わかりました……その……リ、リウイ様……」
ペテレーネは恥ずかしげにリウイの名前を呼んだ。それを聞きリウイは笑みを浮かべた。

そしてカーリアンがある事に気付いた。
「そういえばその子の名前はどうするの?」
「ふむ……名か。ペテレーネ、お前がつけていいぞ。」
「え、私がですか!?よろしいのでしょうか?」
ペテレーネはリウイの言葉に驚いた。
「構わん。お前が産んだのだから当然だ。シルヴァンの時は俺がつけたがほかの子はその子の母につけさせたしな。」
「わかりました………では、プリネというのはどうでしょう?」
ペテレーネは少し考え子供の名を言った。

「プリネ……珍しい名だな。どこからその名が出た?」
リウイは新たな子の名を聞きペテレーネに名の由来を聞いた。
「はい、プリゾア様の名前から頂いた名です。私にとってあの方はもう一人の母親のような方でしたから……女の子が生まれたらこの名前にしようかなとずっと思っていたんです。」
「なるほどな……わかった、今日からこの子は「プリネ・マーシルン」だ。ペテレーネ、お前もマーシルンを名乗ってもいいぞ?」
「いえ、お気持ちはありがたいのですがそれだけはできません。リウイ様の妃でその名を名乗っていいのはイリーナ様だけであると私は思っていますから。」
「そうか……」
「そうね……ペテレーネの言うとおりだわ。」
王族の名を名乗っていいと言われたにも関わらずそれを断り、その断った理由を知り
ペテレーネのその忠誠心にリウイは感心し、またカーリアンもその言葉に賛成した。

「ペテレーネ!産まれたそうじゃの!余の新たな妹はどこじゃ!」
「エヴリーヌの妹……どこ?……」
そこに新たな妹の誕生で興奮しているリフィアと秘かに期待しているエヴリーヌが部屋に入って来て部屋は賑やかになった。
その後、ファーミシルスやシルヴァン等リウイの縁者や家臣が次々にやって来て賛辞を述べた。

そして神格者の子で、帝国の新たな皇女の誕生にレスぺレント地方の人々は喜び、記念に国を挙げた祭り等を行ったのでレスぺレント地方は一時期賑やかになった……

そして賑やかなレスぺレント地方に一つの魂が彷徨って来て太古の迷宮、「ブレア―ドの迷宮」の中にある不思議な魔法陣に入り消えた……

~クロスベル自治州・ウルスラ病院~

同じ頃、ディル・リフィーナとはまた異なる世界の大陸、ゼムリア大陸の様々な貿易がされている自治州、
クロスベルでも新たな生命が誕生した。
ある夫妻の夫は病室の前でうろうろしてる時、そこから新たな生命の初声が聞こえた時、
いてももたってもいられなく病室の中に入り、子供を抱いている妻の姿を見て安心し、笑顔で妻に近づいた。
「よくやった!本当にかわいい子だよ……」
「ええ……見て、この金の瞳と髪はあなた似ね……」
「そうか!でも女の子だからきっとお前に似て美人になるさ!」
「もう、あなたったら……」
赤ん坊を見て赤ん坊の将来を語り合っている夫妻が目を少し離している間に別の世界から来て
彷徨っていた先ほどの魂が赤ん坊の中に入り、その事に気付かない夫妻は赤ん坊の名を考えていた。

「名前はどうしようか……?」
「一応、考えてあるわ。エリィ、セリーヌ、イリーナ。どれがいいかしら?」
「どれもいい名だね。迷うな……」
夫は妻が提案した名前に迷い、一通り考えた後ある名前に決めた。

「そうだな……イリーナはどうだろう?なんとなくその名にしたらこの子は身分のある男性に嫁いで幸せになる気がするんだ。」
「イリーナ……いい名ね。偶然かしら、私もその名を口にした時、そう思ったわ。」
「決まりだな!今日からこの子の名は「イリーナ」!「イリーナ・マグダエル」だ!」
夫は決めた名を口にし、妻もその名を口にし赤ん坊を祝福した。

名を決める時、妻が「イリーナ」の名を口にした時、赤ん坊が反応したのは誰も気づかなかったことだった……

そして数年後………


後書き オリジナルキャラ、プリネ登場です。多分、これからの冒険でプリネとリフィアが主体になると思います。ちなみにエリィは生まれますのでご心配なく……



[25124] 第3話
Name: sorano◆b5becff5 ID:15a3753e
Date: 2010/12/30 10:56
~アヴァタール地方・冥き途~

新たなメンフィル皇女、プリネが生まれて数年後リウイはペテレーネ、カーリアン、ファーミシルス、そして幼い娘のプリネを連れて死した命が集まる場所、冥き途にイリーナの魂の行方を門番に聞きに来た。

「あら、お久しぶりですね。またお妃様の行方を聞きに来たんですか?」
「……久し……ぶり……」
リウイ達の姿を見つけ、姿を現したのは冥き途の門番であり神殺しの使い魔であり、魔槍の使い手、リタ・セミフと、同じく神殺しの使い魔であり、ソロモン72柱の1柱、魔神ナベリウスが姿を現した。

姿を現した2人にリウイは魂の行方を聞いた。
「イリーナの魂はあれから何かわかったか?」
「………何年か前に……北……行って……消えた……場所………深い……そこで…魂……感じにくい……」
「数年前に北のほうへ行って魂が消えたそうです。場所はどこか地下深くに潜ってしまってそこから魂の反応が感じとりにくいそうです。」
独特の話し方をするナベリウスを補佐するようにリタが説明した。

「消えたって……もしかして、魂が消滅したってこと!?」
カーリアンは説明を聞き焦った。
「いえ、魂が消滅したのならナベリウスが感じ取ります。ナベリウスが存在を微かに感じましたから恐らくですが神の墓場のような別次元の世界に行って彷徨っているか、そこで新たな人間に転生したかもしれません。」
「別次元の世界か……それにここから北の地方なら我が領土であるし、地下深くならブレア―ドの迷宮に手がかりがあるかもしれんな。」
「ええ、あそこは全ての階層は制覇しましたが、転移門に未だ謎の部分がありますから可能性はあるかもしれませんね。」
リタの説明でリウイは場所を推測しまた、ファーミシルスもリウイの考えに賛成した。
「そうだな……ならば国に戻り次第、迷宮の探索隊を再び結成し調べてみるか……」
リウイは少し考えた後これからの方針を決めた。

「あ……よければこれをどうぞ。」
ペテレーネは荷物からお菓子を出し門番の2人に渡した。
「……甘い……匂い……あり……がとう……」
「わあ、ありがとうございます。エクリアちゃんやマリーニャちゃんのお菓子もおいしいですけどこれもおいしいから気にいってるんですよ。」
「気にいって頂けたのなら何よりです。」
ペテレーネは2人の様子を見て笑顔になった。
そこに興味深そうに周りをみていた母と同じ髪を持つ娘、プリネが2人と母のところに来た。

「ねえねえおとうさま、おかあさま~この人達、だれ~」
娘の素朴な疑問を聞きペテレーネは優しく答えた。
「この人達はお母さん達の友達のようなものよ。ほら、挨拶をしなさい。」
「わかった~メンフィル皇女、プリネ・マーシルンです~よろしくおねがいしま~す。」
「よろ……しく……」
「わあ、かわいい。ペテレーネちゃんの子供ですか?私はリタ、こっちはナベリウスよ。よろしくね。」
幼いながらもたどたどしい礼儀で挨拶をしたプリネに2人は自己紹介をし、少しの間おしゃべりをした。

「……そろそろ国に戻るぞ。」
「はい、リウイ様。お2人ともお世話になりました。プリネ、帰りますよ。」
「わかった~じゃあ、またね。リタちゃん、ナベリウスちゃん。」
「ええ、無事見つかる事をお祈りしておきます。」
「……また……会う……」
門番の2人に別れを告げたリウイ一行は祖国、メンフィルに戻った……

~ブレア―ド迷宮・地下100階層・野望の間~

広大なレスぺレント地方にある古代の迷宮”ブレア―ドの迷宮”に帰還したリウイは調査隊を結成し
迷宮内の奥深くを調べて、そこでメンフィル機工軍団の団長、古代の兵器でもある機工種族の
シェラ・エルサリスより報告をうけていた。
「謎の転移門だと?」
「ハ、調査隊の一部が調べましたところ、現在登録済みの転移門のほかに記録されてない新たな転移門が見つかり現在、その門の先を探索中です。」
「そうか……では、ほかの調査隊をもそちらにも廻してその転移門の先を重点的に調べるようにしておけ。」
「御意。」
淡々と報告するシェラにリウイは新たな命令を出した。

~メンフィル王都・ミルス城内~

そして数日が経ちリウイは謎の転移門から帰還した調査隊の隊長より報告を受けていた。
「……別次元の世界だと……?」
「ハ、謎の転移門の先を調べました所、別の世界につながっておりました。最初はほかの大陸かと我々は疑いましたが、調査しましたところ、この世界とはあまりにも違う文明が発達しておりました。さらにそこにも信仰されている神はいたのですが”空の女神(エイドス)”という聞いたこともない神しか信仰されていなく”軍神(マーズテリア)等の
他の神の名を出しましたが全く知らない様子でしたので別次元の世界だと我々は判断致しました。」
「光の勢力で最も知られている”軍神”も知らぬとはな……それは信憑性が高そうだな……ほかに報告はないか?」

リウイは新たな世界が存在することを知り、内心驚いたが心の奥深くに止め、先を促した。
「ハ、あの門には欠点がございました。」
「欠点だと?」
「我々先行隊より後に来た部下達が申すには我々とは異なった場所に出たようです。ただ、向こうからこちらに戻ってくる門は何ヵ所かに固定されているというおかしな現象がございました。」
「その異なった場所というのは全く違うのか?」
「いえ、調べました所、”ロレント”という街の近くの森に全て出ましたのでそれほど離れてはございませんでした。魔術師達の話ではもうすぐ出る場所の固定は出来るそうです。」
「そうか……御苦労、下がっていいぞ。」
「ハ!失礼いたします!」
隊長はリウイに一礼した後部屋を後にした。

「リウイ、やったじゃない!もしかするとそこにイリーナ様がいるかもしれないわね。」
報告を聞いていたカーリアンは喜んだ。
「まだ、断定はできん。だが、可能性は出てきたな。しばらくはその世界に拠点を作り調べるとするか。」
カーリアンの言葉を否定しながらもリウイは微かな希望を持ち、笑みを浮かべた。

~ブレア―ド迷宮・謎の転移門前~

そこにはリウイ一行のほか、リフィア、エヴリーヌ、シェラとファーミシルスの副官、ティルニーノエルフのルースがいた。
「では、これより別次元の世界の調査及び拠点作りに我々が先行する。みな、準備はいいか。」
「いつでもオッケーよ。」
「こちらも万全です。」
「ふふ、腕がなりますわ。」
3人の頼もしい言葉を聞きリウイはリフィアとエヴリーヌの方に顔を向けた。

「……どうしてもお前たちもついてくるのか?」
「当たり前であろう!別世界に余の名を知らしめしてくれる!」
「エヴリーヌはお兄ちゃんといっしょならなんでもいい……プリネとお留守番もいいけど、すぐ帰ってくるんでしょう……?」
「……仕方のないやつらだ。絶対に俺達から離れるなよ?」
おいていってもついてきそうな2人にリウイは溜息をつき注意をした。そしてシェラとルースに顔を向けた。

「いつでも軍は出せるようにしておいたか?」
「ハ、機工軍団は問題ありません。」
「こちらも問題なく迷宮の外に待機させています。みな、リウイ様の久しぶりの出陣に勇んでおります。
かく言う俺も楽しみなのです。」
淡々と報告するシェラと年甲斐もなくワクワクしているルースの言葉にリウイは頷き背を向けた。

「では、みな行くぞ!」
そしてリウイ達は門の先に進み光につつまれた……









後書き リタとナベリウスは出してもおかしくなかったので出しました。多分戦女神キャラはもう出ないかと……リウイ達がついた時の時代は”焔の軌跡”といっしょですのでいくつかの軌跡キャラの運命を改変いたしますので期待して待って下さい。



[25124] 第4話
Name: sorano◆b5becff5 ID:15a3753e
Date: 2010/12/30 10:57
~ロレント市内~

ズドーン!ダダダダダ!キャア―!助けてくれ!逃げろ!
ディル・リフィーナとは異なる世界の大陸ゼムリア大陸にある小国、リベールの都市の一つロレント市内は戦場であった。なぜそのような事になったのは突如、エレボニア帝国がハーメルという村をリベール軍が襲ったと言い、戦争を仕掛けてきたのだ。リベール軍は劣勢ながらも軍人カシウス・ブライトが考えた作戦で反撃をし始めたのだ。この作戦でエレボニア帝国軍は崩れ始めたのだが、作戦により孤立した一部の部隊が半ばやけ気味にロレントを襲ったのだ。そしてあちこちで市民が戦闘に巻き込まれ、悲劇が生まれた。
そして、ある場所でも悲劇が生まれようとした。

「おかあさ~ん!」
「に……げ……て……エ……ステル……」
瓦礫に埋もれている女性はカシウス・ブライトの妻レナで呼びかけているのはその娘、エステルだった。
レナは砲撃によって崩れてきた瓦礫からエステルをかばい重傷を負い、正に命が風前の灯であった。
「誰か~助けて――!おかあさんが死んじゃう!」
エステルは必死で助けを呼んだが逃げる事に必死な市民達は誰も気付かなかった。
そこにリウイ達が転移してきた。

「ふ~ついたわね。あら、面白い事になってるじゃない。」
カーリアンは周りの戦闘を見て不敵に笑った。
「きゃは、久しぶりに遊べそう……」
エヴリーヌも周囲の状況を見て遊ぶ相手を見つけたような顔をした。
「報告では街中に出るというのはなかったんですがね……」
ファーミシルスは街中に出たのに気付いて呆れた顔をした。
「まだ、転移の固定が出来てないのだから仕方ないだろう……それより現状の把握をするぞ。」
リウイは周りを見て現状を把握しどう動くか考え始めたところ、その姿を見つけたエステルがリウイのマントをひっぱた。

「ねえ、おかあさんを助けて、お願い!」
「……なんだ、貴様は?」
マントをひっぱられた事に気付いたリウイはエステルに声をかけた。
「お願い!あそこにいるおかあさんを助けて!おかあさんが死んじゃう!」
エステルは瓦礫に埋もれているレナを指差してリウイに懇願した。

「リウイ!助けようぞ!それが余達王族の義務のひとつであろう!」
リフィアはレナを見てリウイに答えを求めた。
「(………母か)ああ。」
母の助けを懇願しているエステルを見て人間に追われ母に庇われた昔を思い出し、瓦礫のところに近寄った。
「さっさと片付けるぞ。カーリアン、ファーミシルス、悪いが手伝ってくれ。」
「しょがないわね~」
「ハ、了解しました。」
そして3人は協力して瓦礫からレナを出した。

「おかあさん!」
瓦礫から出された意識を失っているレナを見てエステルは縋りつくように泣いた。
「おかあさん!死なないで!お願い!」
「……リウイ様……」
それを見てペテレーネは懇願するような目でリウイを見つめた。
「わかっている。治療してやれ。」
「はい、わかりました!」
「余も力を貸そうぞ!」
リウイから許可をもらいペテレーネとリフィアはレナの所に近寄った。

「おかあさん、助けてくれるの?」
「ええ、今助けますからね。」
「安心するがよい。余の辞書に不可能という文字はない!」
泣きはらした顔をあげたエステルにペテレーネは優しく言ってリフィアと共に魔術を発動した。
「「暗黒の癒しを……闇の息吹!!」」
神格者であるペテレーネと、魔力の高いリフィアの手から放たれた紫色の光はレナの傷を完全に癒した。
そしてレナは目を覚ました。

「う……ん?あら、どうして傷が?」
レナは重傷だった傷が治っていることに気付き不思議がった。
「おかあさん!よかったよ~。」
「エステル……ごめんね心配をかけて……」
目が覚めたレナにエステルは抱きつき、抱きつかれたレナは受け止めエステルの頭をなでた。そしてそれを見ていたリウイ達に気付き話しかけた。

「あの……どちら様でしょうか?見た所帝国兵でもありませんし、かといってこちらに住んでいない方と見受けられていますが……」
「……ただの旅の者だ。」
レナの問いにリウイは適当に答えた。
「あのね、おかあさん。この人達がおかあさんを助けてくれたの。」
「そうでしたか……本当にありがとうございました。」
「礼はいらぬ。それが余達の義務であるからな。」
エステルから事情聞いたレナはリウイ達にお礼を言ったがリフィアのおかしな言動と
翼のついているファーミシルスを見てレナは疑問を持った。

「義務……?それにあなたは人間ですか?」
レナの疑問にどう説明するべきか考えていたリウイ達のところに複数の帝国兵達が包囲した。
「市民がいたぞ!殺せ!」
ズダダダダ!
帝国兵達は銃を構え一気に放ち、それを見たレナはエステルを抱きしめた。
「ハッ!」
「甘い!」
「遅いわよ!」
「させません!」
「させぬわ!」
「「「「「「「「な!!!!!!」」」」」」」
放たれた銃弾はリウイのレイピア、カーリアンの双剣、ファーミシルスの連接剣にはじかれ
リウイ達の横を通り過ぎた銃弾はペテレーネとリフィアの簡易結界に弾かれ兵達は驚愕した。

「まさか、いきなり攻撃してくるとはな……」
リウイが出す闘気に兵達は後ずさった。
「ク……臆するな!かかれ!」
「「「「「「「オオ!!」」」」」」

一人の兵の言葉に兵達はリウイ達の恐ろしさも知らずに襲いかかった。
後にこの一人の兵の判断がエレボニア帝国の衰退の原因となった……




後書き 次回はリウイ達の蹂躙です。といかリウイ達に勝てる人って英雄伝説シリーズはいないんですけどね……



[25124] 第5話
Name: sorano◆b5becff5 ID:15a3753e
Date: 2010/12/30 21:42
突如襲いかかった兵達にリウイ達は戦闘態勢に入った。
「みな迎撃するぞ!」
リウイはレイピアを兵達に向けて号令をし
「ハイ!リウイ様!」
ペテレーネは杖を構えて詠唱をし始め
「ハッ!」
ファーミシルスは連接剣を構え
「ふふ、楽しませてもらうわよ!」
カーリアンも双剣を構え
「力持たぬ者を攻撃した上、余達に剣を向けたその罪……死して悔いるがよい!」
リフィアはペテレーネと並ぶような位置で杖を構えて詠唱をし始め
「きゃは、遊んであげる……」
エヴリーヌは弓を虚空から出し、片手に魔力の矢を作りだした。

「「「死ね―!」」」
「炎を味わえ!フレインバル!」
ゴオ!
「「「ぐああ……」」」
リウイに襲いかかった兵達はリウイの炎を纏ったレイピアによって急所をつかれた上、その身を炎が跡形もなく焼いた。

「相手は女子供がほとんだ!殺せ!」
「「「「オオッ!!」」」」
「ふふ、ファーミ、何人殺せるか競争ね?それェ!」
「フン、こんな雑魚共相手に何を言ってるのかしら?……まあ、あなたには負けないけどね!」
ズバ!ドス!
「「ガ!」」
「「ガあ……」」
軽口を叩きながらもカーリアンとファーミシルスは次々と兵達を葬っていった。
「うふふ、みんな死んじゃえ!」
ドスドスドス!
「「「グ……ア……」」」
遊び感覚のエヴリーヌが空中に向けて放った矢は空中で分散し複数の兵達の眉間や喉元に当たり絶命させた。

「大いなる闇よ……ティルワンの死磔!」
「古より伝わりし純粋なる爆発よ……落ちよ!エル=アウエラ!」
ゴォォォォ……ズドーン!
「「「「「ギ!………」」」」」
ペテレーネの暗黒魔術とリフィアの純粋魔術によって周りの兵達は跡形もなく消え去った。
リウイ達の圧倒的な強さに帝国兵達はなすすべもなく命を落とし、ついには突撃を命令した兵しか残らなかった。

「……さて、残るは貴様だけのようだな。」
「ヒ!な、なんなんだよ……貴様らはぁ!」
近づいて来るリウイに恐怖した兵は銃を何度も撃ったが、全てリウイの剣によって弾かれ弾切れになった。
「俺達<闇夜の卷族>に剣を向けた事をあの世で後悔するがいい!」
ズバ!
そして一瞬で相手に詰め寄ったリウイの剣が兵の首を通り、恐怖の顔をした兵の首が地面に落ちた。
「フン、雑魚が。あっけない。」
「ん~ちょっと物足りないわね。」
物足りなさそうな顔をしたカーリアンと死体に侮蔑の顔をむけたファーミシルスは武器を収め、ほかの仲間達も武器を収めた。

「あなたたちは一体……」
驚異的な強さを見せたリウイ達をエステルに死体を見せないように抱きしめたレナは呟いた。
「……いずれ我ら<闇夜の卷族>を知る時が来るだろう。せっかく助かった命だ。娘共々さっさとここから離れるがいい。」
「……わかりました。命を助けて下さって本当にありがとうございました。」
リウイの警告にレナはリウイ達に頭を下げた後、エステルを抱いて戦場から走り去った。

「それでこれからどうするのリウイ?」
レナ達を見送ったカーリアンはリウイにワクワクした顔で何をするか聞いた。
「少し待て。ファーミシルス、確かこの世界には3ヵ所の国があるそうだな?」
「ハッ、”カルバード共和国”、”エレボニア帝国”、そしてここ”ロレント”を持つ国”リベール王国”の3ヵ所の国が主体で、ほかは自治州等小国がちらばっているほどかと。先ほど助けた女性の話から推測すると我らを襲ったのはエレボニア帝国兵かと。」
「そうか……フ、この世界に拠点を作る手間が省けたな。」
「では……?」
リウイの言葉から先を予測しファーミシルスは不敵に笑った。
「ああ、ここロレントを”一時的”に我がメンフィル”保護領”にしここを拠点にエレボニアに攻め入る。ファーミシルス、お前は一端戻ってルース達を連れて来い。戻る転移門の場所は知っているだろう?」
「ハッ!すぐに連れて来てまいりますのでお待ち下さい!」
リウイの命令を受けたファーミシルスは翼を広げ空へ上がり転移門がある森のほうへ向かった。

「フフ、国を攻めるなんて”幻燐戦争”以来じゃないの?」
「勘違いするな。俺達は”襲われた”から対処するだけだ。ロレントもいずれリベールに返還する。まあ、”条件”は付けさせてもらうがな……」
久しぶりの戦争の気配で笑っているカーリアンの言葉をリウイは否定しながらも笑みを浮かべた。そしてリフィアのほうに顔を真剣な顔を向けた。

「リフィア、お前にとってこれが初めての国同士の戦争になるだろう。怖いのなら国に戻ってもいいぞ?」
「余を誰だと思っているのじゃリウイ?余は次期メンフィル皇帝、リフィア・イリーナ・マーシルン!余の辞書に後退の二文字はない!あっても消し去ってくれる!此度の戦いで得た知識を余の力にしてみようぞ!」
「そうか……ならばしっかり学べ。」
「当然じゃ!」
迷いのない顔で否定し、前向きな発言をしたリフィアにリウイは孫娘の将来を期待した。

そしてそこに先ほどメンフィルに戻ったファーミシルスに先導されたルース率いる陸兵軍団とシェラ率いる機工軍団が到着した。
「リウイ様!ご指示通り我らメンフィル軍、いつでも出れます!ご命令を!」
「ご指示を、リウイ様。」
命令を待つ2人にリウイは頷き、勇んでいる兵達の正面に立ち、レイピアを空高くへ振り上げ大きな声で号令をした。

「これより我らメンフィル軍はロレント市を”保護”しエレボニア帝国に進軍する!!一般市民達の保護と建物の消火を最優先にしろ!!力持たぬ一般市民を襲うエレボニア帝国兵に慈悲はいらぬ!!行くぞ!!!」
「オオオオオオオオオッオオオオオオオッ!!!!!!!!」
リウイの叱咤激励を受け、武器を掲げ勇んだ兵達は帝国兵との戦闘や一般市民の保護を行い始め、わずか2刻で市内の戦闘は終了した。

そしてリウイ達は市内の戦闘後の処理をし、市内にいくつかの部隊を残し1日後に来た援軍と共に破竹の勢いで帝国軍が守るエレボニア帝国とリベールの国境、ハーケン門を突破しエレボニア帝国に侵攻をし始めた。

何の前触れもなく、突如現れたメンフィル軍はゼムリア大陸全ての国に激震を走らせた……


後書き やばい、どんどんアイディアが来ます。本編に入るまで下手したらこっちを更新し続ける気がします……



[25124] 第6話
Name: sorano◆b5becff5 ID:15a3753e
Date: 2010/12/31 17:35
~エレボニア帝国・平原~

晴れ渡る平原に2つの軍が睨みあっていた。一つはエレボニア帝国でも5本の指に入る名将、ゼクス・ヴァンダール率いるエレボニア帝国軍でもう一つは突如どこからともなくロレントより現れ、ロレントの帝国兵を殲滅した後、破竹の勢いでハーケン門を突破し次々とエレボニア帝国領を制圧しているリウイ、ファーミシルス、シェラ、ルース率いる猛者揃いのメンフィル皇帝軍だった。


「(ク……リベール攻略だけでも手間取ってるというのに、ここで我が国土に侵攻する強国が現れるとは……これもリベールに無実の罪を被せた我らの報いか……)全軍、ここで必ず押しとめるぞッ!!!今こそ我らの忠誠を皇帝陛下に見せてみよ!!!!」
「イエス、サー!!!!!」
目の前の謎の軍――メンフィル軍の強さを感じ取り自軍の劣勢を悟ったゼクスは自分を叱咤するように兵達に号令を挙げた。
「全軍突撃ッッ!!」
「オオオオオオッオオオオッ!!!!!!」
ゼクスの命令で歩兵や導力戦車はメンフィル軍に向かって突撃した。

その突撃を丘の上からリウイ達は見ていた。
「リウイ様、機工軍団、戦闘配置完了しました。ご指示を」
機工軍団の戦闘配置を完了したシェラは主君の命令を待っていた。
「よし、突撃してくる帝国兵どもを一掃しろ。」
「了解しました。―――全軍に通達、第一戦闘準備。繰り返す――」
ウィィ――ン……
リウイの命令を受けた軍団長シェラの指令に反応し、兵士たちが唸りにも似た騒動音を徐々に高めていた。

「(……なんだこの音は……まさか!)いかん!全軍後退せよ!」
風に乗って聞こえてきた騒動音に嫌な予感を感じ、ゼクスは後退の命令を出した。

「我が主、攻撃準備完了。」
「攻撃開始だ。」
「……攻撃開始。」
ズド―――――ン!!!!
「「「「―――――ッ!!!!」」」」
「なッ!!!!」
しかしその命令は空しくリウイの命令によりシェラ率いる機工軍団が放った砲撃は平原を轟かす大爆音と共に、業火と爆発が一瞬で
突撃した敵兵を飲み込んだ。兵達の断末魔の叫びさえ掻き消し導力戦車さえも跡形もなく吹き飛ばした
機工軍団の一斉砲撃にゼクスは驚愕した。

「……目標攻撃範囲の生体反応が半減、残存した敵兵に動揺が見られます。」
「わかった。御苦労。」
シェラの報告を聞きリウイは兵達の前に出て大声で号令をした。

「我らはこのまま目の前の帝国軍を突破し、エレボニア主要都市の一つに侵攻する!兵は将を良く補佐し、将は兵を震い立たせよ!何人たりとも遅れることは許さんぞッ!!」
「オォォォオオォォォォォォオオオォォッッッ!!!!」
リウイの叱咤激励に応じて勇ましい雄叫びを上げたメンフィル軍は一斉に突撃を開始し帝国兵達を蹂躙した。
動揺している帝国軍はなすすべもなく突撃したメンフィル兵に次々と討取られて行った。

「………まさかこれほどの強さとは………全軍、退却せよ!!!」
戦場の敗北を悟ったゼクスは退却命令を出し、退却をし始めたのだが。
「ギャア!」
「グワア!」
「な、何が起こった!」
次々と討取られて行く周りからの叫び声にゼクスはうろたえた。

「フフ、どこを見ているのかしら?」
「どこだ!どこにいる……馬鹿な!」
どこからともなく聞こえて来た声を探していたゼクスは空を見上げた時、降下してくるファーミシルス率いる
親衛隊の飛行部隊に驚愕した。
「まさか、天使……」
「フン!あんな奴らと同等だなんて気分が悪いわ。……見た所貴様が指揮官のようだからここで討取らせてもらうわよ。」
ゼクスの呟いた言葉に降下したファーミシルスは鼻をならし連接剣を構えた。
「戦う前に聞きたい事がある……貴殿等は何者だ!なぜ、我が国土を侵攻した!」
「フフ……死に行くものに教えてやる義理はないけど、冥途の土産に教えて上げるわ。我はメンフィル大将軍ファーミシルス!誇り高き闇夜の卷族の国の将なり!貴様らによる我らが王を攻撃した罪、そして我らが王の悲願のため、貴様等には死を捧げて貰うわよ!」
「メンフィル……!?闇夜の卷族……!?我らが貴殿等の王を襲っただと……!?何を言っているのか理解できんぞ!」
「おしゃべりはここまでよ……ハッ!」
「ッ!!」
ガン!
戸惑っているゼクスにファーミシルスは襲いかかったが咄嗟の判断で剣を抜いたゼクスは防御した。

「少しはできるようね……楽しませて貰うわよ!」
「クッ!」
ガン!ギン!ガン!ヒュッ!
人間でありながらファーミシルスの攻撃を捌き致命傷を避けていたゼクスだったが、メンフィルでも一、二の実力を争うファーミシルスには叶わず徐々に疲弊して行った。
「ハアハア……(つ、強すぎる……この私が手も足もでんとは……)」
「フフ……神格者でもない人間にしては中々やるようだけど、遊びはここまでよ、ハッ!」
「クッ!」
疲弊したゼクスは迫る連接剣を交わそうと動いたが、疲弊していた体は云う事を効かず少ししか動かなかったので
攻撃を受けてしまった。
「グアアアッッ!!」
「少将ッ!」
ファーミシルスの凶刃を受けて叫び声を上げたゼクスを見てファーミシルスの部隊と応戦していた兵士達は思わず悲鳴を上げた。

「だ、大丈夫だ……うろたえるな。」
「しかし少将、目が……!」
駆け寄ってくる兵達を片手で止めたゼクスだったが、もう片方の手で連接剣で斬られ血を流し続けている片方の目を押さえていた。
「フフ、疲弊しながらも致命傷をさけるとはやるじゃない……だが、ここまでよ……!」
それを見てファーミシルスは半分感心し、止めを刺すため連接剣を振るった。
「グウッ!」
「な……!」
「あら。」
ゼクスは迫り狂う連接剣を見てもはやこれまでかと諦めたがほかの兵が楯になったのを見て驚き、ファーミシルスも少しだけ驚いた。

「少……将……お逃げ……下さい……グフ!」
ファーミシルスの剣によって貫かれた兵は血を吐き事切れた。
「少将、今のうちにお逃げ下さい!」
「お前達をおいて逃げれるものか……!やめろ、離せ!離せ――!」
わめくゼクスを兵達は抑え戦場から退避しようとした。
「チッ、逃がすか!」
「させるか!少将をお守りしろ!」
ズダダダダダダ!
追撃しようとしたファーミシルスを止めるため、周りの兵達は銃を撃ったが全てファーミシルスやファーミシルスの部下によって防がれた。
「鬱陶しい!……闇に落ちよ!ティルワンの闇界!」
「「「アアアアアッッ……!!!」」」
「怯むな!少将を逃がす時間を稼ぐだけでいい!」
「「「「オオッッ!!!」」」」
ファーミシルスの暗黒魔術を喰らった兵達は叫びを上げて事切れた。しかしそれでも将を守るため挫けずファーミシルス達に帝国兵達は襲いかかった。

「どうやらよほど死にたいようね……いいわ、その心意気を買って上げるわ!親衛隊よ!まずはこいつらを皆殺しにしてその後逃げた将を追うわよ!」
「「「「「「ハッッッッ!!!!」」」」」
ファーミシルスを中心とした飛行部隊に周りの帝国兵は一矢も報いることができずわずか1刻で全滅した。

「フン、雑魚共があっけない!」
全滅した兵に侮蔑の顔を向けたファーミシルスは武器を収めた。
そこに伝令を携えた副官のルースがやって来た。
「リウイ様より伝令です、ファーミシルス様!敵は全滅し街も制圧したとのことでただちに部隊を戻すようにとのことです!」
「……そう。指揮官を討ち取れなかったのは口惜しいがあの程度の者を逃がしたくらいで支障は出ないわ。親衛隊、ただちに帰還せよ!」
「「「「「「ハッッッッ!!!!」」」」」
ファーミシルスは指揮官が逃げた方向を見た後踵を返し、リウイ達の元へ向かった。

この戦いでエレボニアは全兵力の4割と主要都市の一つが失われた……




後書き 今年最後の更新です。みなさんよいお年を…… 感想お待ちしております。



[25124] 第7話
Name: sorano◆b5becff5 ID:15a3753e
Date: 2011/01/01 21:23
あけましておめでとうございます。これからもよろしくお願いします。








~グランセル城~

リベールの首都グランセル城内は今、新たな第3勢力謎の軍――メンフィル軍についての話し合いが行われた。
「……それで、現在ロレントに駐屯している謎の軍についてはわかりましたか?」
不安そうな顔で情報を聞いたのはリベールの全国民に慕われているリベールの女王、アリシア・フォン・アウスレーゼであった。そして報告を待つ人物の中にはロレントに妻と娘がいるリベールの英雄、「剣聖」カシウス・ブライトもいた。
カシウスは最初ロレントが謎の軍に制圧されたと聞き、一人で向かおうとしたが上司や部下達総動員で押しとどめられなんとかグランセルに留まったのだ。ロレントの状況を最も知りたかったため、ロレントへ偵察に行ったカシウスの部下・リシャールが戻った時は鬼気迫る顔で妻と娘の状況を聞き、リシャールを脅えさせ女王にたしなめられてようやく大人しくなったのだ。

「ハッ!では報告いたします!現在ロレントに駐屯している謎の軍はメンフィル帝国軍という名前でございました!」
「メンフィル帝国……?エレボニアではないのか?」
聞いたこともない国の名前を出されリベールの将軍、モルガンは確認するように聞いた。
「間違いございません。町人の振りをし見回りを行っている謎の兵に聞きました。念のためエレボニアの間違いではないかと聞きましたが強く否定されました。」
「君主の名前はなんという者ですか?」
アリシア女王は先を促すように聞いた。
「ハッ!現メンフィル皇帝はシルヴァン・マーシルン。そして現在軍を率いているのはその父リウイ・マーシルンという者だそうです。そしてリウイ・マーシルン率いるメンフィル皇帝軍はロレントを制圧後翌日には部隊を残しハーケン門へ向かったとのことです。」
「……市民はどうなっている。」
最も聞きたかった事をカシウスは心の中で妻と娘の無事を祈るようにして聞いた。
「はい。市民達は少々とまどってはいますが普通の生活をしてました。聞けば襲撃の混乱の最中に突如現れ、市民達の保護や建物の消火をしエレボニア兵達を皆殺しにしたそうです。戦闘後は食料、医療品の配給や市民の怪我人や病人の治療も
行っていて、市内は至って平和です。ただ……」
「ただ……とはなんだ?ハッキリ言え!」
「カシウス、落ち着け!」
リシャールの言葉を濁すような言い方にカシウスは我慢できず声を上げたがモルガンに窘められた。

「……取り乱して申し訳ございません、将軍。リシャール続きを。」
「ハッ!メンフィル兵の中には人ではない存在がいました。」
「人でない?どういうことですか?」
アリシア女王はリシャールの言葉に疑問を抱き聞いた。
「見た目は人なのですが翼や尻尾がついている者や明らかに人の姿ではない者がいました。メンフィル兵によると彼ら自身を含め自ら”闇夜の卷族”と名乗りました。」
「”闇夜の卷族”……聞いたこともない人種ですね。ほかにはありませんか?」
アリシア女王は未知の人種名を聞き少しの間思考したがほかの情報を聞いた。
「はい。もうひとつございまして……こちらは我々リベールというよりゼムリア大陸全てが驚愕するようなことかと。」
「ゼムリア大陸全てだと?一体何なのだ?」
モルガンは先を促すように聞いた。
「……たまたまメンフィル軍による市民の治療を見たのですが、市民の治療をメンフィル軍のあるシスターがしていました。」
「……軍にシスターがいるとはな……それで?どこがおかしいんだ?」
カシウスは軍内にシスターがいたことに驚き理由を聞いた。

「はい。そのシスターが傷を癒す時手から光が出、光が収まった後は傷は跡形もなく消えていました。それを見た市民達は奇跡だと大騒ぎをしてメンフィル兵達によってその場は収められました。
騒ぎは収まりましたがそのシスターは現在、市民から奇跡を起こす聖女として敬われています。……それでそのシスターに七曜教会の者かと聞いたのですが、否定されました。……混沌の女神(アーライナ)の神官だそうです。」
「「「混沌の女神(アーライナ)!?」」」
ゼムリア大陸唯一の信仰されている神、空の女神以外の神の名前が出されその場にいた全員は驚いた。

「……続けます。そのシスターに治療され感謝した者やそれを見ていた市民達の一部がそのシスターに教義等を求め信徒となる者まで現れ、七曜教会の者達はどうすればいいのか戸惑っています。」
「……陛下、これは一度七曜教会の者を含め、メンフィルと話し合う必要がございますな。」
驚愕したカシウスだったが気を取り直し女王に進言した。
「……そうですね。市民達に危害を加えていない上、治療もしているということは少なくても話しあう余地はありそうですね。
誰か、紙と筆を。」
「ハッ!」
報告していたリシャールは部屋の前を守っている兵に紙と筆を持ってくるように命じた。

そこにリシャールの部下、カノーネが慌てて入って来た。
「重要会議中の所申し訳ありません!火急の情報が入ったので報告に参りました!」
「火急の情報とはなんですか?」
どんなことが知らせれてもいいように心構え、アリシア女王は先を促した。
「ハッ!偵察兵によるとメンフィル皇帝軍はハーケン門を破竹の勢いで突破後、エレボニア帝国領内に進軍し主要都市の一つやいくつかの帝国領を制圧しました!エレボニア帝国軍も抵抗はしたのですがなすすべもなく全滅あるいは敗退いたしました。かのゼクス・ヴァンダール率いる帝国の主力部隊も壊滅しゼクス少将自身も重傷を負い撤退したとのことです!メンフィル軍はその後部隊を残し本軍はロレントに引き返したそうです!」
「「「「なっ!?」」」」
カノーネの言葉に部屋は驚愕に包まれた。

「この短期間で主要都市を落とし、エレボニアでも5本の指に入るというゼクス少将がなすすべもなく敗退するとは……メンフィル軍は一体どれほど強いのでしょうか……」
報告を聞いたリシャールは震えるように嘆いた。
「……それよりエレボニア帝国が今後どのように動くかだ。見ようによってはリベールの逆襲とも見られてしまうぞ……」
モルガンはこれから先起こりそうなことを考え唸った。
「……そうですな。陛下、一刻も早くリウイ・マーシルン殿と会見をする必要がございますな。」
カシウスもモルガンの考えに同意し女王に進言した。
「……急いで教会の者に同行するよう連絡してください。そしてエレボニア大使館にも人をやって帝国侵攻は私達の仕業ではないと伝えて下さい!準備ができ次第すぐにメンフィル軍本陣に私自身が向かいます!」
「陛下!危険なのでは!」
女王の命令にモルガンは慌てた。
「……人を信じることで信頼が生まれるのです。最初から私達が向こうを疑えば相手の本音を知ることができません。市民に危害を加えていないのです。相手は賢王なのでしょう。ですから心配は無用です。」
「……わかりました、陛下、ただし私もお連れ下さい。」
女王の決意を知りモルガンは諦めたような顔で護衛を申し出た。
「僭越ながら陛下、私も同行させて下さい。」
「わかりました。お願いします。」
「「ハッ!」」
そして女王の命令の元、城内は慌ただしくなり準備ができた女王たちは陸路でロレントへ向かった……




後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第8話
Name: sorano◆b5becff5 ID:024b2ccc
Date: 2011/01/08 17:17
文章力がだんだん落ちて来た気がします……




~ロレント郊外・メンフィル皇帝軍本陣~

ロレントの郊外にあるメンフィル軍の本陣の前に女王達はつき、入口を守っている兵士に話しかけた。
「リベール国王、アリシア・フォン・アウスレーゼです。リウイ・マーシルン皇帝陛下に御取次をお願いします。」
「……少々お待ち下さい。」
女王の言葉を受け、判断がつかなかった兵の一人が伝令を伝えに本陣の中へ走っていた。
そしてそこにロレントの探索から帰ってきたプリネを連れたリフィアが女王達の姿を見つけ近寄った。

「なんじゃお主らは?余達になにかようか?」
「あなた達はどなたですか?見た所身分が高い方に見受けられますが……」
話しかけられた女王はリフィア達の服装を一目見て、位の高い者だと判断し、正体を聞いた。
「余か?余はメンフィル皇女にして次期皇帝、リフィア・イリーナ・マーシルン!謳われし闇王、リウイ・マーシルンの孫!」
「……メンフィル皇女、プリネ・マーシルンです。お父様に何か御用ですか?」
自身満々に紹介するリフィアと幼いながらもしっかり紹介したプリネを見て女王達は驚いた。

「あなたが次期皇帝ですか……!それにそちらの方は父とおっしゃりましたが両親はどなたしょうか。」
「父はメンフィル初代皇帝、リウイ・マーシルン。母はアーライナの神官、ペテレーネ・セラです。」
「え……リフィア姫は今、リウイ皇帝陛下の孫とおっしゃていましたが……」
女王達はリフィアとプリネを見比べ戸惑った。
「事実じゃ。ここにいるプリネは形式上には余の叔母じゃが、余の後に産まれておるから実質余の妹のようなものだ。」
「そうでしたか……紹介が遅れ申し訳ありません。リベール国王、アリシア・フォン・アウスレーゼです。
リウイ皇帝陛下に此度のロレント制圧のことについてお聞きしたいことがあり、こうして参上してまいりました。」
「ふむ、そうか。一つだけ訂正しておこう。余達はロレントを制圧した覚えはない。あくまで”保護”だ。」
「”保護”ですか……詳しいことをお聞きしても?」
「それはリウイ本人に聞けばわかる。……どうやらお主たちの迎えが来たようだな。」
女王としばらく話していたリフィアは近づいてきてる気配を感じ、その方向に向いた。

「ペテレーネ、迎え御苦労。」
「おかえりなさいませ、リフィア様。それにプリネも。」
「ただいま戻りました、お母様。」
「おかえりなさいプリネ。……リフィア様、この場は私にまかせて本陣の中へ。」
「わかった。エヴリーヌのところに行くぞ、プリネ。」
「はい、リフィアお姉様。」
女王達を迎えに来た時、その場にリフィアとプリネを見つけたペテレーネは2人を本陣の中へやった後
女王達の正面に立った。
「お初にお目にかかります。アーライナの神官にしてリウイ様の側室の一人、ペテレーネ・セラです。」
「貴殿がかの”聖女”か……」
モルガンは先ほど出会ったプリネ皇女の母であり、報告にあった聖女だと気付き、少女と言ってもおかしくないペテレーネの若さに驚き呟いた。
「あの……その呼び名は恥ずかしいのでお止め下さい。みなさんが勝手におっしゃているだけです。
……それでご用件はリウイ様とお会いしたいとのことですが。」
「はい。お会いできるでしょうか?」
「構いません……こちらです。」
そしてペテレーネは女王達をリウイの元へ案内した。

ペテレーネによって案内された天幕の中に入り女王達はリウイと対面した。
「……メンフィル皇帝リウイ・マーシルンだ。まあ、今は隠居の身だがな。」
「(なんて覇気……まさに覇王ですね……)リベール国王、アリシア・フォン・アウスレーゼです。使者も出さずのいきなりの訪問、お許し下さい。」
女王はリウイがさらけ出す覇気に飲み込まれないよう自分自身を保って自己紹介をした。
「七曜教会より参りました者です。」
「リベール王国軍所属、モルガンです。」
「同じくリベール王国軍所属カシウス・ブライトです。とても孫がいるような年には見えないのですが失礼ながら本物ですか?」
「本物だ。これでも100年以上は生きてる。そこにいるペテレーネもそうだ。」
「ハッ……?」
リウイを見て年齢を疑ったカシウスだがリウイの言葉に理解ができず女王達と共に固まった。

「この世界の人間が驚くのも無理はない。俺は半魔人でそこにいるペテレーネは神格者だからな。」
「この世界……?詳しいことをお聞きしたいのですが。」
一瞬思考が停止した女王はリウイ達の正体を聞き、リウイは語った。自分達は異世界の者でありその中で
人ならぬ者やその者と共に暮らす者を”闇夜の眷属”といい、異世界には複数の神が現存していることを語った。
また、信仰する神より”神核”という力を承った者を”神格者”と呼び、神格者は半不老不死の存在であることも話した。

「異世界では不老不死の方法があるのですか……」
カシウスはペテレーネの容姿を見て、どう見ても年下にしか見えない少女が自分の倍以上生きてるようには思えなく驚愕した。
「複数の神が現存しているのですか……!そこには我らが神、エイドスはいらっしゃるのでしょうか?」
異世界の存在、神が現存していることに驚いた七曜教会の司祭は自らの神の存在を聞いた。
「生憎ながら聞いたことはない。まあ所詮異世界だ。いなくて当然だ。……世間話はここまでだ。要件を聞こうか。」
「では……異世界に来た目的、此度のロレント保護とエレボニア侵攻についてお聞かせ下さい。」
女王はリウイにここに来た理由を話した。

「……こちらに来た理由はある探し物だ。」
「……それはどのような物ですか?」
「それは教えることができん。国家機密と言っておこう。」
「……わかりました。では続きをお願いします。」
「まず、エレボニア侵攻はこちらの世界に来た時、いきなりエレボニア軍に襲いかかられたからだ。よって我らは身を守るためとこの世界の拠点を作るためにエレボニアに侵攻しただけだ。ロレント保護はそのついでだ。そちらに通達もなしで勝手ながら保護をしたのは謝罪する。」
「……いえ、聞けば市民の保護や食料の配給等もして下さったと聞きます。リベール国民を代表してお礼を言わせて下さい。民を守って下さってありがとうございます。」
アリシア女王はリウイに頭を下げた。それを見てモルガンは慌てた。
「へ、陛下!他国の王族に簡単に頭を下げるなど……!」
「よいのです。民の命と比べられません。……それでできればロレントを返還してほしいのですが。」
「……条件がある。今回の保護で食料、医療薬などかなりの出費が出た。その条件を呑むのなら我ら
メンフィル軍はロレントから兵を退こう。」
「その条件とは……?」
女王達はリウイから出される条件を固唾をのんで待った。

そしてリウイが出した条件とは
1、ロレントの近くにある森の一部にメンフィル大使館を作ることを許可すること。
2、導力技術の提供
3、メンフィルの国教の一つ、混沌の女神(アーライナ)の教義を広めることの許可
だった。

「……以上の条件を呑むのならすぐに兵を退こう。よければ友好の証として現在占領されている都市の解放を手伝うが?」
「いえ、貴国にそこまでしていただくわけにはいきません。条件ですがアーライナ教を広めることにはすぐには頷けません。七曜教会との相談が必要ですので。」
「……いいだろう。こちらにも多少の非はあるしな。返事をもらうまでは我らが責任を持ってロレントを守ろう。」
「……念のためにこちらの兵も置いてよろしいでしょうかな?」
モルガンは情報等手に入れるためリウイに兵の配置の許可を聞いた。
「かまわん。我らをよりよく知るにはちょうどいい方法だしな……」
「ありがとうございます。……陛下、一度城に戻り会議を開かなくては。」
「そうですね……リウイ殿、私達はこの辺りで失礼します。」
一通り話し合いが終わった女王達はその場を去ろうとした時、シェラが入って来た。

「会議中のところ、申し訳ありません。リウイ様、エレボニア兵がボース方面より迫って来ています。」
「何……?ハーケン門にはファーミシルス達を配置したが。」
「敵兵勢力は数はありますが我らが圧倒的に優勢。ファーミシルス大将軍から伝令が来まして、現在ハーケン門にも
ボース方面から向かってきたエレボニア兵を相手にしてるとのことです。恐らくリベールの都市内を占領していた兵が2手に分かれたかと。」
「フン……ロレントとエレボニア侵攻の兵の敵討ということか。出陣するぞ。シェラ、ペテレーネ。」
「御意。」
「はい、リウイ様。」
リウイは外套をペテレーネから受け取るとそれを羽織り、エレボニア兵の出現に驚いている女王達に顔を向け話した。
「我らはこれよりエレボニア兵の迎撃にうつる。よければ我らの戦いを見ていくか?」
「よろしいのでしょうか?自国の戦い方を見せつけるなど。」
女王はリウイの提案に戸惑った。
「かまわん。見られた所で貴殿等が我らの真似をできる訳ないしな。」
「陛下、せっかくのご好意を受けられるのがよいかと思われます。」
モルガンはリウイの言葉に内心、自国では真似できないと言われ憤ったがメンフィルの強さを知りたいため
顔に出さず女王に進言した。
「陛下、将軍の意見に私も賛成です。陛下の身は我らが責任を持ってお守りしますので。」
「大佐まで……わかりました、リウイ殿、よければ後方で貴殿らの戦いを見せて貰ってもよろしいでしょうか?」
「ああ。」
そしてリウイはシェラやペテレーネと共に天幕から出て行き女王達もリウイ達について行った……







後書き 今、レンをどうしようか考え中なんですよね……
一つは教団壊滅作戦の時リウイ達に保護されマーシルン王家入りする。もう一つは原作通り結社入りし王都襲撃かリベル=アークの際リウイ達に敗北し、パテル=マテルはリウイ達に破壊され心のよりどころをなくし、脅えたレンにリウイ達が止めをさそうとした所をエステルに庇われ、今まで嫌っていたエステルを大好きになりエステルの支えになることを決める。どっちがいいかみなさんのご意見待っています。



[25124] 第9話
Name: sorano◆b5becff5 ID:50efcd77
Date: 2011/01/13 17:04
~メンフィル皇帝軍・本陣~

天幕から出た女王達はすでに整列して命令を待っているメンフィル兵を見て驚いた。
「な……すでに出陣用意ができているとは……なんという早さだ……!」
モルガンはメンフィル兵達の行動の早さを知り驚いた。そしてリウイは兵達の前に立ち、命令を出した。
「我らはこれより街の防衛とエレボニア兵の迎撃にうつる!第1部隊から第3部隊は市民を安全な場所に避難させろ!
第4部隊は……」
次々と命令を出すリウイに兵達はリウイに敬礼をした後それぞれの行動を移すために動き始めた。
そしてリウイ達は少数の兵を率いてボース方面の街道でエレボニア兵が来るのを待ち構えていた。そこにはリフィアやペテレーネもリウイと共にいた。
前線となる場所に皇女や衛生兵がいるのに驚きカシウスはリウイに自分の疑問を話した。

「リウイ殿、前線に皇女やシスターがいるのは危険なのでは……?それにこの数では迎撃が難しいのでは?」
「カシウスと言ったか。何か勘違いしているようだが2人がいるからこそこの数で迎撃できるのだ。」
「ハッ……?」
カシウスはリウイの言葉に思わず呆けた。
「……今にわかる。シェラ、エレボニア兵はまだか?」
「少々お待ちを……複数の反応が近付いております。後、数分で姿を表すかと。」
「わかった。ペテレーネ、リフィア。」
「お任せを、リウイ様。」
「余に任せておけ!リベールの者達よ、余の戦いをその目でしかとみるがよい!」
リウイの言葉を聞き、2人はそれぞれ詠唱を開始した。
「シェラ、お前も準備しておけ。」
「ハッ……いつでもいけます。我が主ご命令を。」
シェラもエレボニア兵が来る方向に攻撃できるように準備した。
そしてついにエレボニア兵達がその姿を見せた。

「来たか……攻撃開始だ。」
「……攻撃開始。」
「……アーライナよ!私に力を……深淵なる混沌、 ルナ=アーライナ!」
「これが余に秘められし真なる力!究極なる光、クロースシエル!」
「「「「「「「「「………ッ!!!!!」」」」」
シェラの砲撃、リフィアの出す強大な光の奔流とペテレーネの出す強大な闇の奔流がエレボニア兵を呑みこみそれをうけた大半のエレボニア兵達は叫び声を上げずのも許されず消滅していった。
「「「「なっ……!」」」」
それを見た女王達は驚愕した。

「敵兵戦力、攻撃前の兵力と比べ3割を切りました。」
「御苦労。いくぞ!一兵たりとも生かすな!」
「オオオオッオオオオオッ!!!!!」
「フフ、やっと私の出番ね。行くわよ!」
リウイの号令でカーリアンを筆頭にメンフィル兵達は進軍しリフィア達の攻撃を運良くのがれたエレボニア兵達を蹂躙した。

「神聖なる力よ!エクステンケニヒ !」
「「「ギャぁぁぁ……」」」
リウイの聖なる力を宿したレイピアが複数の兵を消滅させ
「ふふ、行くわよ……奥義!桜花乱舞!」
「「「グワァ!」」」
カーリアンの剣技は兵達の体を2つに分かれさせ
「古より伝わりし炎よ……落ちよ!メルカーナの轟炎!」
「「「ウワァァァァ……」」」
ペテレーネの火炎魔術に兵達は叫び声を上げながら骨すら残さず炎に焼かれ
「出でよ!ソロモンに伝わりし魔槍!……封印王の槍!死愛の魔槍!」
「「「グッ、ガハ!」」」
リフィアが次々と出す暗黒魔術の槍が兵達を貫き絶命させた。そしてメンフィル兵達も雄叫びをあげ敵兵を討取って行った。

「……メンフィルは信じられない戦い方をしますな……まさか王自身も戦うとは……」
カシウスはシスターのペテレーネや皇女のリフィアの魔術攻撃、シェラの砲撃、またリウイ自身が戦っているのを見て驚愕した。
「王族達も強いが兵達自身、統率がとれ一人一人が強すぎる……これがメンフィルの強さか……」
モルガンはメンフィル兵達の統率のとれた攻撃に唸った。
「……一般兵達がこれほど統率のとれた攻撃にうつれるのはやはり、リウイ殿の仁徳の良さですね……兵の一人一人がリウイ殿を信頼を超えて信仰に近い形で慕っているように見えます……私やクロ―ディア、デュナンでは決して真似はできませんね……」
女王はリウイのカリスマ性を感じ、自分たちでは決して真似できないとわかり溜息をついた。
「それだけではなく、王自身が戦い自らの強さを見せることで兵達の士気も上げているのでしょう……本当にリウイ殿は隠居をなさっているのでしょうか?」
カシウスはリウイの強さは自分を超えていると感じ、また先ほどのリウイの隠居しているという言葉に疑問を持った。そしてわずか1刻でエレボニア兵は全滅した。

メンフィル兵の勝利の雄叫びの中、驚愕している女王達のところにリウイ達が悠然と歩いてきた。
「いかがかな?我が軍は。」
「さすがエレボニアに侵攻するだけのことはありますね……それより、ロレントを守って下さってありがとうございました。」
女王はロレントを守ったことをリウイにお礼を言った。
「気にする必要はない。力持たぬ者を守るのも我ら王族の務めだ。」
「ご高説ありがとうございます。私達も見習わせていただきます。」
女王とリウイが会話を終えた時、今まで黙っていた七曜教会の司祭がペテレーネに質問した。

「ペテレーネ殿、一つ質問はよろしいですか?」
「……はい、なんでしょう。」
「なぜ、奇跡の力を戦争のために使うのですか?我々聖職者はそのような力を決して戦争に使ってはいけないはずです!」
「そう、申されましても……私はリウイ様のためにこの力を使っているだけです。」
司祭はペテレーネの言葉に驚愕した。
「なっ……!個人のためだけに使うというのですか!それでも神を敬う人間の一人ですか!?」
「……もちろん、我が主神、アーライナも敬っております。それにアーライナ様は混沌を司る女神。力をどのように使うかは個人の自由が我らの教えです。それに神核を頂いた時、アーライナ様は自分の思うがままにその力を使えとおっしゃられました。」
「「「「なっ!!!!!」」」」
司祭と横で聞いていた女王達はペテレーネの言葉に絶句した。

「一つだけ言わせてもらいます。あなた達の教義と我が主神アーライナの考えは違います。あなた達の考えといっしょにしないでください。」
ペテレーネは毅然とした態度で自分自身の考えを言った。そして女王達の様子を見たリウイが口を開いた。
「異世界の神官よ、一つだけ言わせてもらおう。ペテレーネは俺にとっても掛け替えのない存在だ。また、我が国にとってもなくてはならない存在だ。この意味はわかるな?」
「……それはどういうことでしょう?」
リウイの脅しともとれる言葉に司祭は震えながら聞いた。
「確か貴殿等、七曜教会にも武装集団がいたな。……”星杯騎士団”と言ったか。」
「なっ……!どこでその名を!?」
司祭は教会でも極秘とされる集団の名前を出され驚愕した。
「この世界はある程度調べさせてもらった。もちろん貴殿等、七曜教会も詳しくな。ペテレーネは我が国メンフィルの神官長であり、王族でもある。ペテレーネや娘のプリネに手を出したらどうなるかわかるな?」
「ッッつ!!!!」
司祭はリウイが星杯騎士団の実態を知っていることに気付き、王族でもあるペテレーネやプリネに騎士団が危害を加えることがあれば先ほどのエレボニア兵のようにメンフィル帝国に蹂躙されると思い、押し黙った。

「……さて、我らは事後処理があるのでこれで失礼させてもらう。先ほどの条件、よい返事を待っている。」
「……はい。では、私達はこれで失礼させてもらいます。」
メンフィルの強さを知った女王達はそれぞれが違った表情を出しながら、リウイの言葉に頷きその場をカシウス達と共に去った。


~ロレント郊外・ブライト家~

リウイと会談を終え、グランセルに戻る女王達にカシウスは1日だけ家に戻ることの許可をとり、急いでブライト家に戻りドアを蹴破った。
「レナ!エステル!無事か!?」
ドアを開けたカシウスが見た光景は食事の支度をしているレナと、何かの本を読んでいるエステルだった。
「あら、おかえりなさい、あなた。」
「おかえり~おとうさん!」
いつもとかわらない愛妻と愛娘の姿にカシウスはホッとした。

「ああ、1日だけ家に戻れる許可がとれたので戻ったぞ。ケガはしてないか?食事はまともにとれているか?」
「ふふ、見ての通りよ。食事のほうはメンフィル軍が食料を配給してくれているおかげで大丈夫よ。」
「そうか……そういえばエステル、何の本を読んでいるんだ?見た所聖書のようだが?」
元気そうなレナから現状を答えられカシウスはホッとし、エステルが聖書らしきものを読んでいるのを見て驚き聞いた。
「あのね、これはアーライナ教の教えと魔術の使い方が書いてあるの~」
「なっ……!エステル、お前、アーライナ教の信者になったのか!?」
カシウスはエステルが異教の信者になったのかと気付き顔色を変えた。
「ううん違うよ。あたしはただ、聖女様みたいに誰かを助ける力が欲しいから読んでいるだけだよ?」
「聖女様……!?エステル、ペテレーネ殿に会ったのか!?」
エステルから予想もしない人物の名が出、カシウスは驚いた。
「ほえ?おとうさん、聖女様に会ったの?」
「ああ……陛下の会談の時にな。」
「すっご―――い!あたしも会ってお礼をしたかったな。聖女様、めったに町に出てこない上に町に出てきたらみんなの人気者だから近づけないし……」
「お礼?エステル、何かあったのか?」
「うん、あのね……」
ペテレーネに会ったことにはしゃぐエステルにカシウスは事情を聞いた。それは死にそうになったレナをペテレーネと誰かが魔術を使いレナの命を救ったことで、レナからはリウイ達が自分達をエレボニア兵から守ったことを聞いた。
そしてエステルは大好きな母を助けたペテレーネに憧れ、少しでも近づくためにアーライナ教の教義が載っている本をアーライナ信徒から貰ったことを言った。

「そうだったのか………」
全てを聞き終えたカシウスは溜息をついた。そしてエステルに聞いた。
「エステル、お前はこれからどうしたい?ペテレーネ殿を慕ってアーライナ教に入信するのか?」
「ううん。あたしにはシスターなんて向いてないもん。でも聖女様のように誰かを助けれるようになるために、あたし遊撃士になる!そしてこの本に書いてある魔術を覚えて、それを使って聖女様のように傷ついた人を助けるわ!」
「そうか……父さんは応援するぞ。」
「お母さんも応援しているわ。がんばりなさい、エステル。」
「うん!」
父と母に自分の夢を応援され、エステルは元気よく頷いた。

その後久しぶりの家族そろっての夕食に3人は楽しんだ。そしてエステルが寝かしつけた後、カシウスはレナと話をした。
「レナ……今回のことが片付いたら俺は軍人をやめて遊撃士になろうと思う。」
「あなた?」
「エステルとお前から話を聞いて痛感した……軍人では身近な人間は守れない。今回はリウイ殿達のお陰でお前達は無事だったが、次があるかもしれないしな……だから俺はそうならないために遊撃士になる。」
「あなたがそう決めたのなら私はそれに従います。」
一家を預かる男として、職を手放すその行為にレナは笑顔で応援した。

そしてリベール王国はメンフィル帝国との条件を呑み、同盟を結んだ。異世界の宗教を広めることに七曜教会の
一部が反対したが、グランセルの司祭よりアーライナ教が広まる元となる人物は王族であり、またその人物より敵対する意思はないと伝えられ、星杯騎士団がメンフィル帝国を相手にする訳にもいかず、しぶしぶながらアーライナ教の布教を認めた。
その後、メンフィルの攻撃とリベールの反撃で疲弊したエレボニアはメンフィルとの仲介を条件にリベール侵攻を断念し、リベール、メンフィルと講和条約を結んだ。

こうして後に百日戦役と呼ばれる戦争は結果的に戦争を仕掛けたエレボニアが領土のいくつかを失い終結した。
また、ペテレーネは今回の功績が評価されアーライナ自身がメンフィルに降臨し、ペテレーネにさらなる力を授けるという異例の事態が起こった。

そして数年後………



後書き 次はいよいよリウイ達のパラメータを出します。まあ、反則的なパラメータですが。



[25124] 設定1
Name: sorano◆b5becff5 ID:9b89eb66
Date: 2011/01/14 16:44
<漆黒の神魔王>リウイ・マーシルン
LV500
HP70000
CP6000
ATK7000
DEF6000
ATS4000
ADF3000
SPD60
MOV20

装備

武器 ロイヤルバキュラ
防具 神魔の戦鎧(属性・魔神……空、時、幻以外の属性ダメージを半減する)
靴  ロイヤルブーツ
アクセサリー イリーナの首飾り(リウイ専用、回避30%上昇、5%の確率でダメージ無効)
       マリアハート (全パラメータ20%上昇効果、HP+5000)

自らの身体能力のお陰で即死無効、また、一人出番が廻るごとにCP300自動回復する。
ほか、パーティーにカーリアン、リフィア、ペテレーネ、プリネがいるとお互いATK、DEF10%アップ

オーブメント(無属性)並びはリシャールです。

クラフト フェヒテンアルザ 200 単体 5回攻撃
     フェヒテンケニヒ 900 単体 ダメージ450%
     戦闘指揮 100 全体 自分を含めた味方の回避、命中を20%アップ
     マーリオン召喚 300 自分 サポートキャラ、マーリオンを召喚する
(水属性の全体攻撃or味方全員20%回復)
     ウィンディング 400 小円 風属性130%攻撃
     フレインバル 400  小円 火属性130%攻撃、火傷20%
     メーテアルザ  400  小円 地属性130%攻撃
     エクステンケニヒ 600 中円 空属性150%攻撃

Sクラフト フェヒテンカイザ 単体 レイピアによる驚異の連続突き 
                     ダメージ300%の8回攻撃
      魔血の目覚め  全体 内に秘めたる魔の力を解放する究極奥義。時属性のダメージ2000%

<燐武の戦妃>カーリアン

LV500
HP68000
CP6500
ATK8000
DEF3500
ATS3000
ADF2000
SPD70
MOV18

装備

武器 戦姫の双剣
防具 女剣士の肌着
靴  剣士の靴
アクセサリー 剣の耳飾り(CP+500、SPD3%アップ)
       技力再生の指輪 (一人終わるごとにCPが200回復)

味方のすぐ後に攻撃すれば1.5倍。また、常にクリティカル率20%、回避率50%で回避すればカウンター攻撃。

オーブメント(時属性)並びはジョゼットです。

クラフト 挑発 20 自分 敵の攻撃対象を自分に向ける
     三段斬り 200 単体 3回攻撃
     双葉崩し 100 単体 騒動&アーツ妨害
     北斗斬り 300 単体 120%攻撃&マヒ20%、遅延効果
     淫魔の魅惑 500 全体 敵を50%で混乱させる
     魂の接吻術 600 単体 敵の体力を奪い自分の体力を回復させる
                    (ただし威力はATSに反映される)
     乱舞 400 小円 140%の複数攻撃
     冥府斬り  800 単体 200%攻撃&マヒ30%、またこの攻撃の後すぐ自分の番になる。

Sクラフト 白露の桜吹雪 特殊 自らを中心とした中円攻撃。ダメージ800%
     奥義・桜花乱舞 中円 武器から強力な衝撃波を出す技の中の最終奥義。ダメージ1200%

<アーライナ聖女>ペテレーネ・セラ
(属性・神格……物理攻撃を含め全属性ダメージを70%にする)
LV490
HP35000
CP9500
ATK300
DEF2000
ATS9999
ADF8000
SPD45
MOV12

装備

武器 アーライナの聖杖(攻撃の際30%の確率で敵のいずれかの能力を下げる)
防具 混沌の聖衣(即死無効)
靴  混沌の聖靴(毒無効)
アクセサリー 杖の耳飾り(EP、CP+250 SPD3%アップ)
       混沌の証(ペテレーネ専用、混乱・封魔・封技無効。5%でダメージ無効)
一人終わるごとにCP、EPが500回復、10%で敵の攻撃を反射、リウイがいると本人のATK、DEF10%上昇

オーブメント(時属性)ならびはレンです。

クラフト 連続闇弾 100 単体 2回攻撃の時属性攻撃
     闇の息吹Ⅴ 300 単体 味方のHPを全回復させる
     ティルワンの死磔 800 全体 180%の時属性攻撃
     死愛の魔槍 600 単体 時属性ダメージ150%&HP吸収30%
    滅びの暗礁壁 700 特殊 指定した横3列全体に時属性攻撃130%&毒30%
     トラキアの消沈 700 全体 敵全員のSPDを30%下げる
     アルテミスの祝福 500 全体 味方全員のSPDを30%上げる
     メルカーナの轟炎 800 小円 ダメージ180%&火傷30%の火属性攻撃
     ケシェスの聖炎  1500 全体 ダメージ140%&火傷20%の火属性攻撃
     酸衝撃 600 特殊 指定した横3列全体に地属性攻撃130%&毒30%
     イオ=ルーン 300 小円  ダメージ110%の無属性攻撃
     レイ=ルーン 400 中型直線 ダメージ130%の貫通する無属性攻撃
   ベーセ=ファセト 3000 全体 ダメージ200%&混乱、毒40%の地属性攻撃
   アーライナ召喚 5000 全体 サポートキャラ、アーライナを召喚する。
  (ダメージ1000%&混乱90%の全体攻撃or味方全員異常&全回復)


Sクラフト ルナ=アーライナ  全体 混沌の女神、アーライナの力を憑依させ、最大級の神力を放つ。ダメージ3000%

ペテレーネのクラフトは全てATSに反映される


<メンフィル帝国第一皇女> リフィア・イリーナ・マーシルン

LV400
HP25000
CP7500
ATK250
DEF1000
ATS7000
ADF6000
SPD30
MOV10

装備 

武器 プランセスロッド
防具 燐露の聖衣(空、幻属性の攻撃を半減する)
靴  燐露の靴
アクセサリー 賢者の石(一人廻るごとにCPが500回復)
       マルウェンの腕輪(経験値が40%増加)

アーツ攻撃無効、敵に見つかりやすい

オーブメント(空・時属性)並びはレンです。

クラフト 追尾弾 100 2回攻撃の無属性攻撃
     イオ=ルーン 300 小円  ダメージ110%の無属性攻撃
     レイ=ルーン 400 中型直線 ダメージ130%の貫通する無属性攻撃
     闇の息吹Ⅳ 300 単体 味方のHPを80%回復させる
     防護の光陣 500 全体 味方のDEF、ADFを30%上昇
     死愛の魔槍 600 単体 時属性ダメージ150%&HP吸収30%
     贖罪の光霞 800 全体 空属性ダメージ140%
     ティルワンの闇界 700 全体 120%の時属性攻撃
     エル=アウエラ 1200 全体 200%の無属性攻撃

Sクラフト クロースシエル 特大直線 内に秘めたる魔力を全解放する究極魔術の一つ。
ダメージ4000%

リフィアのクラフトは全てATSに反映される

<深凌の楔魔第五位>エヴリーヌ(属性・魔神)

LV380
HP40000
CP5500
ATK4000
DEF3000
ATS4000
ADF2800
SPD50
MOV10

装備

武器 蒼穹の魔神弓
防具 黎魔の戦衣
靴  闇の靴
アクセサリー 杖の耳飾り(EP、CP+250 SPD3%アップ)
       黒の魔鏡(20%の確率で敵の攻撃を反射)
一人廻るごとにCP、EPが300回復、常にクリティカル率10%、戦闘開始時10%で先制攻撃

オーブメント(時・風属性)並びはケビンです。

クラフト 三連射撃 300 単体 3回攻撃
     贖罪の雷 200 直線 貫通する130%の風属性攻撃、封技10%(ATSに反映)
     ティルワンの闇界 700  全体 120%の時属性攻撃(ATSに反映)
     闇の息吹Ⅲ 300 単体 味方のHPを60%回復させる
     制圧射撃 400 全体 110%の攻撃
     精密射撃 350 単体 150%のアーツ&騒動妨害、遅延攻撃
     審判の轟雷 800 中円  150%の風属性攻撃、封技25%(ATSに反映)
     ケール・ファセト  900 単体 時属性ダメージ200%&HP吸収50%
                              (ATSに反映)
     アン・セルヴォ 1000 中型直線 ダメージ300%

Sクラフト ゼロ・アンフィニ  大型直線 魔力の眼と闘気を最大限に出した一撃奥義
ダメージ2500%

<メンフィル大将軍>ファーミシルス
LV490
HP65000
CP6000
ATK6000
DEF4500
ATS5000
ADF3000
SPD55
MOV15

装備 ラクシュティール
防具 飛天魔の鎧(時属性ダメージを半減)
靴  飛天魔の靴 
アクセサリー 大将軍の指輪(DEF40%上昇)
       魔力再生の指輪(一人廻るごとにCP、EPが300回復)
味方のすぐ後に攻撃すれば1.5倍、戦闘開始時20%で先制攻撃

オーブメント(時属性)並びはヨシュア、ダドリーです。

クラフト 戦闘指揮 100 全体 自分を含めた味方のATK、SPDを20%アップ
     連接剣伸張 200 直線 アーツ&騒動妨害の貫通攻撃
     闇の息吹Ⅱ 300 単体 味方のHPを40%回復させる
     電撃剣 300 単体 140%の風属性攻撃、封技10%
     ティルワンの闇界 700  全体 120%の時属性攻撃(ATSに反映)
     封印王の槍 400 単体 時属性攻撃ダメージ130%
     強酸の暗礁壁 700 特殊 指定した横3列全体に時属性攻撃、120%&毒20%
     連接剣双伸張 1000 直線 ダメージ300%の2回攻撃、この攻撃の後すぐ自分の番になる

Sクラフト 暗礁電撃剣 単体 電撃剣の上位奥義、ダメージ800%&封技70%
      暗礁回転剣武 大型直線 近づく者全てをチリにする最終奥義、ダメージ1500%






後書き 強すぎです。特に前衛は正直言ってカシウスやレーヴェどころかウロボロスの全戦力でも無理でしょう。原作知ってる人ならわかると思いますが、VERITA後だったらこれぐらい強くても可笑くないはずです。HPの限界は軌跡シリーズを採用しています。後、CPはリウイ達に200とか少なすぎですし。というかリウイ達にオーブメントって必要でしょうか?全員、人間じゃないですから。オーブメントを使って身体能力上げたらとんでもないことに……それとペテレーネが純粋と地の魔術が使えるのはアーライナからさらなる力を貰った時に使えるようになりました。
元々大地も司っていましたから使えてもおかしくないでしょうし。
後、更新はしばらくないかもしれません。ここで一区切りができましたので、焔の軌跡に集中しようかなと思っています。



[25124] 第10話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/02/01 00:27
~国境~
「ハァハァ……」
「イリーナ、エリィ!こっちよ!」
「はい、お母様!エリィ、急いで!」
「う、うん、お姉様!」
そこには一つの家族が何者かに追いかけられているように走っていた。
その家族は理由があって家族離れ離れに暮らしていたが、年に一度だけ家族そろって食事をしていたのだ。いつものように、決まったレストランで食事をしていたのだが突如何者かにそこが襲撃されたのだ。襲撃の時、運良く家族全員逃げれたのだが襲撃者達は逃亡者に気付き、執拗に追いかけてきたのだ。

「それにしてなぜこんなことが……」
金の髪と瞳を持つ少女イリーナと姉とは逆に銀の髪と瞳を持つ少女エリィの母は息を切らせながら呟いた。
「もしかしたら、最近大陸中で流行っている幼児誘拐事件のグループの仕業かもしれないな……」
2人の父は最近の出来事を思い出し、妻の疑問に答えた。
「そんな………!」
妻は娘達の手を握り、震えた。
「もうひと頑張りしよう。あそこにある関所はメンフィル領の関所だ。噂ではメンフィル領では例の事件は起こってないそうだから、メンフィル領に亡命すれば大丈夫だろう。」
「ええ、そうね……」

その家族が逃げようとした場所は百日戦役でメンフィル帝国領となった場所であった。なぜ、メンフィル領だけ事件が起こらなかったのは、問題になっている犯罪グループが自分達の教祖になってもらうためにペテレーネを勧誘しようとして活動目的を話し
断られ、強硬手段としてその場でペテレーネを攫おうとしたが同席していたリウイ達によって討取られ、その犯罪グループの活動をプリネやリフィアにとって危険と判断したリウイによってメンフィル領と大使館があるロレントを徹底的に警戒させ、誘拐が起きても
本国から呼び寄せた夜の活動を主としている闇夜の眷属によって全て未遂に抑えられたのだ。

安堵をついている家族の所に突如どこからともなく飛んできたナイフが地面に刺さった。
「「ひっ……!!」」
突如刺さったナイフにイリーナとエリィは悲鳴を上げた。
「クッ……もう、追いついてきてしまったか!」
父は悔しげに嘆き、懐から護身用の銃を出した。
「イリーナ!エリィを連れてあそこにある関所に逃げなさい!」
「で、でもお父様とお母様は!?」
イリーナは母の言葉に驚き、2人に詰め寄った。
「お父さん達はここで2人を攫おうとしている悪者と戦うよ。」
「嫌よ!2人ともいっしょに逃げよう!?」
エリィは半泣きの顔で2人に懇願した。
「大丈夫よ。少ししたら追いつくわ。だから、2人はあそこにある関所の兵士に助けを呼んでお母さん達を助けて。」
「で、でも……」
「イリーナ、お前は賢い子だからわかるだろ……このまま逃げても絶対に捕まってしまうことに……だったら、誰かが助けを呼ぶ必要があるんだ。」
「お願い、2人とも聞きわけて……」
夫妻は娘達の手を握り諭した。
「………わかりました。でも、2人とも絶対に無茶をしないでね……」
「ありがとう、イリーナ。」
そして夫妻は2人の娘の体を抱きしめた。
「「2人ともまた、会いましょう!」」
「絶対にだよ!エリィ、早く!」
「う、うん!お父様、お母様、どうかエイドス様の加護を……」
そしてイリーナはエリィを連れて関所に向かって走った。

「……君には辛い思いをさせたね。」
「いいえ、最後にあなたといっしょだからいいのですよ。」
夫の言葉に妻は微笑み、夫と同じように懐から銃を出し襲撃者の迎撃をしようとした。
そしてついに襲撃者達が追いつき、姿を現した。
「……子供達がいないだと?陽動のつもりか、余計な真似を……」
「ふん、ならばこいつらを殺して子供達を奪うまでだ。」
「そんなことは絶対させない!」
「例えこの命果てようとも、絶対にあの子達には手出しをさせないわ!」
そして夫妻達は銃を使って襲撃者達と戦闘を始めた。


~関所~
「ハァハァ……ついた……エリィ、大丈夫?」
「う、うんお姉様。」
2人はようやくついた関所を見て安堵をつき、イリーナはエリィを連れて関所にいる兵士に話しかけた。
「「お願いします!お父様達を助けて下さい!!!」」
「な、なんだお前達は……?」
関所を守っているメンフィル兵士達は深夜に現れた子供達とその勢いに押され戸惑った。
「今、お父様達が戦っているんです!」
「このままじゃ、2人は死んじゃうよ!兵士さん、お願い助けて!」
「ま、待て!順を追って話してくれ!」
「……何かあったのですか?」
そこに騒ぎを聞きつけた、幼いながらも関所の兵士達の慰問に来たプリネ皇女が姿を現した。
「プ、プリネ様!」
「お休みの所、申し訳ありません!」
兵士達はプリネの姿を見ると姿勢を正した。

「……構いません。その子達が何か?」
「ハッ!父を助けろと言って場所や事情も判らずどうすればいいのか、判断がつかなかったのです。」
「判りました……お二人とも何があったのか話してくれませんか?」
兵士から事情を聞いたプリネは2人に近づき事情を聞いた。
「は、はい!実は……!」
同い年に見えるプリネを見て安堵したイリーナは事情を話した。
「……なるほど。事情を話してくれてありがとうございます。」
プリネは事情を聞き、イリーナにお礼を言った後真剣な顔をして兵士に命令した。
「……今すぐ、就寝している兵士の方々を起こしてこの子達の親の救出に向かって下さい。万が一の事を考えて私も行きます!」
「し、しかし救出だけなら我々だけで十分です!プリネ様に万が一の事があったら陛下やリフィア様に顔向けできません!」
「……こう見えても、お父様達から剣術や戦い方、魔術を習っています。だから護身ぐらいできます。それにもしお二人のご両親が怪我をしていたら、私を除いて治癒術ができる方はいらっしゃいますか?」
「「そ、それは……」」
プリネの言葉に兵士達は思わず口をつぐんだ。
「絶対に貴方達から離れたりしませんので、お願いします!」
「わかりました……そこまで言うのでしたら、絶対に我々から離れないで下さい。おい、休んでいるやつら全員叩き起こしてきてくれ!」
「ああ!」
そして一人の兵士が休んでいる兵士たちを起こしに関所の中へ走って行った。

「お二人は関所の中で休んでいて下さい。」
「そんな……!そんなことできません!」
「迷惑はかけませんので連れて行って下さい!」
「「お願いします!!」」
プリネは2人の安全を考え関所の中にいるように言ったが2人は強く否定した。
「……わかりました。では絶対に私達から離れないで下さいね。」
「「は、はい!ありがとうございます!」」
押し問答している時間がなかったプリネは仕方なく2人の同行を許した。
そしてプリネは兵士達と共に助けを求めた少女を連れて2人の親が戦っているであろう場所に向かった。

そしてプリネ達が関所を出て少しした後、ある場所に夫は事切れ妻も大量の血を流して息絶え絶えになって倒れていた。
「クソ……手間をとらせやがって……」
「どうする?この先はメンフィル領だぞ?」
「構うものか。関所にいる兵士なんて数えるぐらいだろう。行くぞ!」
「「了解した。」」
そして襲撃者達は関所に向かおうとしたが、
「出でよ魔槍!狂気の槍!!」
「プリネ様に続け!弓隊撃て!!」
「「「「「オオッッ!!!」」」」
プリネが放った暗黒魔術の槍と続くように兵士達が撃った矢が襲撃者達に命中した。
「「「グハッッ!!」」」
「全員、抜刀!!!」
「「「「「オオッッ!!!」」」」
「「「ギャぁぁぁ……!!!」」」
さらにメンフィル兵士達は剣を抜き襲撃者達の命を刈り取った。
「「お父様、お母様!!」」
一瞬で戦闘が終了し、イリーナとエリィは血を流して倒れている2人に近寄った。
(こちらの男性はもう……なら女性だけでも!!)
2人の状態を見て男性はすでに死んでいると確信したプリネは女性に近づき治癒魔術を使った。
「暗黒の癒しを……闇の息吹!!」
治癒術を発動したプリネだったがその表情は芳しくなかった。
(……ダメ……傷が深すぎるし血も流しすぎている……お母様がいなくても、せめてリフィアお姉様かエヴリーヌお姉様のどちらかがいれば……)
自分では女性を助けれないと悟ったプリネは悔しげに唇を噛んだ。
そして女性はうっすらと眼を開けた。

「イリー……ナ……エ……リィ……」
「「お母様!!」」
母親の目が覚めたことに気付いたイリーナとエリィは母に何度も呼びかけた。
「よ……かった……無事で……」
「気をしっかり持って下さい!今、目を閉じたら死んでしまいます!」
「あ……な……た……は……?」
薄れゆく意識の中、娘以外の声の持ち主を見て、呼びかけているのがイリーナと年が同じくらいの少女に気付き聞いた。
「メンフィル軍の者です!」
「メン……フィル軍……よ……かった……お願い……しま……す……私達はもう……無理です……だか……ら
この子達……の……こと……を……お願い……しま……す」
「わかりました……私の名はプリネ・マーシルン!闇夜の眷属を束ねる名においてお二人は責任を持って守ります!」
「マーシルン……!よかった………!」
母親はプリネがメンフィル王家の者だと知り、イリーナとエリィが王家に保護されたことに安心し涙を流し2人の名を呼んだ。
「イリーナ……エリィ……よく聞き……なさい……」
「お母様しっかり!」
「言うことなんでも聞くから死んじゃやだ!」
「ごめんね……お父さんと……お母さんは……先に……エイドス様の……所に……行くね……だから……
この人の……言う事を……よく聞きなさい……2人とも……幸せに……な……ってね……」
そして女性は事切れ目を閉じた。
「お父様、お母様……?嘘でしょう……ねえ……返事を……してよ……」
「うっ……ひっく……おとうさま、おかあさま……」
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ……!!!」」
雲ひとつなく月明かりとメンフィル兵士の持つ照明の許で2つの亡き骸によりそった少女達の泣き声が響いた……




後書き エリィ達の両親設定はほぼオリジナルです。後、エリィは原作通りになりますのでご安心を。感想お待ちしております。



[25124] 第11話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/02/03 21:42
その後、イリーナとエリィの両親を兵士の手を借りて手厚く葬ったプリネは2人を連れて関所に戻った。
~翌日~
「落ち着かれましたか?」
「……はい。お父様とお母様の御墓を建ててくれてありがとうございます……」
「う……ひっく……ありがとうございます……」
プリネの言葉に2人は沈みながらも答えた。
「……あの、あなたは本当にメンフィル帝国の皇女様なのですか?」
顔を下に向けイリーナはポツリと呟いた。そしてその疑問にプリネは答えた。
「ええ……ご紹介が遅れ申し訳ありません。メンフィル皇女、プリネ・マーシルンです。」
「ひっく……エリィ・マグダエルです……」
「エリィの姉のイリーナ・マグダエルです……」
「イリーナ!?」
「あの……私の名に何か……?」
「……いえ。特に何もありません。(金の髪に金の瞳……おまけに名前がイリーナ……それによく見ると肖像画のイリーナ様に似ているような……まさかね……)」
プリネはイリーナの名を聞いた後、驚きイリーナの容姿を見て父親の目的の人物だと一瞬思ったがその考えを打ち消した。

「……ひょっとしてリウイ皇帝陛下と親しいですか?」
「え、ええ。リウイ・マーシルンは私の父ですが……」
イリーナの疑問にプリネは戸惑いながらも答えた。
「だったらお願いします!私達の家族を無茶苦茶にした人達を処罰するために軍を動かすようリウイ皇帝陛下にお願いして下さい!!
このお願いを聞いて頂けるのなら私にできることならなんでもします!」
「落ち着いて下さい。貴女達は今回の事件の終結と貴女達の親戚の方を見つけるまで
ロレントの大使館で保護するつもりですから、その時お父様と会わせますのでお父様に直接言って下さい。」
「はい、ありがとうございます……」
そしてプリネは2人を連れて兵士に守られながらロレントの大使館への帰途についた。


~ロレント郊外・メンフィル大使館内会議室~
そこではリウイやファーミシルスとルース、ペテレーネ、カーリアン、そしてリフィアがシェラの報告を聞いていた。
「……以上になります。子供達の誘拐の阻止はできたのですが、襲撃の際両親などに被害が出、孤児になる子供が増加しています。」
「……そうか。孤児となった子供達のための孤児院や心の治療が必要だな……癒しの女神(イーリュン)の信者達に協力を呼びかけてくれ。……ティアに信者達の先頭に立つよう俺から頼んでおこう。……誰かティアに至急城に戻るよう手配してくれ。」
「ハッ!!」
リウイの命令にルースはイーリュンの信者へ協力の要請とレスペレント地方で母の遺志を継ぎ皇女と云う身分でありながらイーリュンの信者として活動しているリウイと幻燐戦争でペテレーネと共に衛生兵として活躍したイーリュンの信者であったティナ・パリエの娘、ティア皇女をミルスに呼び戻すために会議室から出て行った。そして入れ替わるようにプリネが会議室に入って来た。
「お父様、お母様。プリネ・マーシルン、ただいま戻りました。」
「戻ったか、プリネ。」
「お帰りなさい、プリネ。」
「よく戻ったのプリネ。余とエヴリーヌも首を長くして待っておったぞ。」
「ありがとうございます、リフィアお姉様。あの……帰って早々にお願いがあるのですが……」
優しく迎えた両親にプリネは言いづらそうに願いを言った。
「お前が頼み事とは珍しいな……言ってみろ。」
「はい、実は……」
そしてプリネは関所で起こった出来事、孤児になった2人の少女を保護するようにリウイに頼んだ。
「……そうか。いいだろう、例の事件の終結とその2人の縁者が見つかるまでここで世話をする。みな、いいな?」
「リウイ様が決めたのなら従うまでです。」
「私もファーミシルス様と同じ意見です、リウイ様。」
「別にいいわよ。」
「妹の頼みを聞くのも姉として当然のことじゃ!」
「皆さん……ありがとうございます!」
全員から2人の滞在の許可を言われプリネは笑顔になりお礼を言った。
「あの……それから、保護した姉妹の姉の方がお父様に頼みがあると。」
「俺にか?……まあいい、会って話をしよう。その2人を呼んでくれ。」
「はい。……いいですよ、入って来て下さい。」
プリネの言葉を聞いて会議室のドアが開けられ、そこに立っていたのは緊張しているイリーナとその後ろに隠れているエリィだった。

イリーナとリウイが目を合わせた時、それぞれに衝撃が走った。
(な……イリー………ナ……!?いや、ただ似ているだけかもしれんが……この雰囲気は………!?)
(何……?この愛しい気持ちと胸の高まりは……?私、この人に会ったことあるの……?)
2人は見つめあいしばらくの間、沈黙が流れた。
「リウイ?何、その娘をボーっと見てるのよ?もしかして小さい子が趣味になったの?」
「バカを言うな……プリネ、その二人が話に出ていた例の姉妹か?」
カーリアンの言葉に我に帰ったリウイは気を取り直しプリネに聞いた。
「はい。二人ともこの方が私のお父様であちらにいる女性が私のお母様です。」
「あの……もしかして、そちらの方はアーライナ教の聖女様ですか?」
エリィはプリネが紹介した女性を見て、新聞で載っていた異教を広める聖女だと気付き震えながら聞いた。
「あの……お願いですからその呼び名はやめて下さい……本当に恥ずかしいのですから……」
「お母様はゼムリア大陸でアーライナ教の神官長を務めております。巷では”闇の聖女”とも呼ばれています。」
「プリネまで……お願いだからその呼び名はやめて……」
「ふふ、ごめんなさいお母様。でもお母様は私にとって女性の鑑だもの。」
「もう、この娘ったら……」
娘にまで恥ずかしい呼び名を言われペテレーネはやめるように言い、プリネは上品に笑いながら謝った。

「本当に聖女様なのですか!お願いします、奇跡の力でお父様とお母様を生き返して下さい!」
エリィはペテレーネに詰め寄り懇願した。
「申し訳ありませんが、私が使える魔術で人を生き返す魔術は使えません。イーリュンの神格者の方でしたら可能かもしれませんが、
魂と体が離れている以上、例え蘇生魔術を使っても生き返らせません。人を生き返すのはとても高度な事ですから……」
「そう……ですか……」
ペテレーネの言葉にエリィは暗い顔になり顔を下に向けた。
「さて……自己紹介をしようか。プリネの父でこの大使館を指揮している、リウイ・マーシルンだ。」
「プリネの母、ペテレーネ・セラです。何か困ったことがあれば遠慮なく私に言って下さい。」
「カーリアンよ♪よろしくね♪」
「メンフィル大将軍、ファーミシルスよ。武芸を学びたいのなら教えてあげてもいいわよ。」
「メンフィル機工軍団団長シェラ・エルサリス。」
「そして余こそが!メンフィル次期皇帝、リフィア・イリーナ・マーシルン!大事な妹の頼みじゃ、何か頼みたいことがあれば余に言ってみるがよい。願いにもよるが、余の器の大きさを見せてやろう!」
それぞれが自分の名を言った後、リフィアのフルネームを聞いた時エリィとイリーナは驚いた。
「「え……イリーナ……!?」」
「どうした、余の名が不服か?」
「いえ……私といっしょの名前だなと思って……紹介が遅れ申し訳ありません。イリーナ・マグダエルです。」
「エリィ・マグダエルです……」
2人は自分達とは身分が遥かに違う者達に恐縮しながら自分の名を言った。

「何!?」
「え……!?」
「嘘!?」
「な……!?」
「………」
「ほう……」
リウイ達はイリーナの名を聞き、驚愕しイリーナを見た。
「あの、プリネ様も私の名を聞いて驚いたのですが何かあるんでしょうか?」
リウイ達の反応を見てイリーナはオロオロした。
「…………………いや、その名は我らにとって特別な名でな。驚かせてすまなかったな。」
しばらくの間、黙っていたリウイだったが気を取り直し理由を言った。
「リウイの言う通りじゃ。その名はリウイの正妃で人間でありながら闇夜の眷属との共存を願った者の名前じゃ。国民達や余にもその思いを忘れぬよう余の名につけられたのがその名なのじゃ。……余とイリーナ様と同じ名を使うその心意気、気にいったぞイリーナ!我らマーシルン家に仕えてみないか?お主を余やプリネ専属の者として重用してもよいぞ。」
「え……そんな……私のような者が王族の方達に仕えるなんて恐れ多い事を……」
イリーナはリフィアの言葉にうろたえた。
「リフィアお姉様……この方も混乱していますからそれぐらいで……」
「プリネの言う通りだ……まだ幼い者に仕えるよう言うのは酷だ。王族であるお前が言ったら断れなくなるだろう。」
「そうか?いい考えじゃと思ったんじゃがな。」
リウイとプリネに諌められリフィアは残念そうな顔をしつつ引き下がった。
「……さて、プリネの話では俺に何か願いたいことがあるそうだな?」
「そうでした……お願いします!お父様とお母様の仇を取って下さい!」
「仇だと?」
そしてイリーナはリウイに事情を話した。

「………そうか、いいだろう。その願い確かに聞き届けた。」
「本当ですか!?」
「そろそろこちらも本格的に動くべきか迷っていた所だ。ペテレーネを攫おうとした時点で奴らを野放しにした俺たちにも多少その責はあるしな……」
「ありがとうございます!!」
リウイの言葉にイリーナは頭を下げた。
「……ペテレーネ、客室の用意を。プリネ、お前はこの2人の相手をしてやれ。」
「承知しました、リウイ様。」
「はい、お父様。それでは失礼します、2人とも行きましょう。紹介したい方もいますし。」
「「は、はい!」」
「余も行くぞ、プリネ。」
ペテレーネは2人の滞在用の部屋を用意するために出て行き、プリネは姉妹を伴ってリフィアと共に出て行った。

「……それで、あのイリーナという少女、いかがなさいますか?」
「私もあの子の容姿を見たけど、雰囲気とか髪や瞳とかイリーナ様そっくりじゃないの?」
リフィア達が完全に離れたのを見計らってファーミシルスとカーリアンはリウイに聞いた。
「………………しばらくは様子見だ。ファーミシルス、お前はあの少女の産まれた年、家族を調べてくれ。」
「ハッ!」
「シェラ、例の事件、これ以上被害が出ぬよう夜の見回りの兵達を本国から呼び寄せさらに増やせ。犯人を見つけた際、前のように殺害でかまわないが、できれば生け捕りにするように指示をしてくれ。」
「御意。」
「リウイ様、件の組織はどのようにつぶしますか?」
ファーミシルスはリウイの命令を受けた後、今後の方針を聞いた。
「例の誘拐組織は一斉につぶす必要がある。そのためには彼女に協力の手紙を書かなければな……」
「手紙って誰に書くの?」
カーリアンはリウイの手紙の相手を聞いた。
「セリエルだ。彼女とメルの力は今回の事件の解決の鍵となる。」
「そっか、動物達に聞くのね。リウイ、一斉攻撃する時私も混ぜてね。子供達を攫うなんて趣味の悪いやつ、私は気にいらないもの。」
「ああ。」
イリーナの必死の願いを受けたメンフィル帝国は事件解決に向けてついに動き出した……!




後書き ついに生まれ変わったイリーナがリウイと出会いました。もっと感動的な再会を期待した方、ごめんなさい……ただ、このイリーナは魂の記憶は目覚めてないので完全なイリーナではないです。空の軌跡の間に記憶を取り戻しますのでそれまで期待して待ってて下さい。ちなみにティアはシルフィアがシルヴァンを生むより早く生まれたリウイの娘、つまりシルヴァンの腹違いの姉というオリジナル設定です。セリエルは獣人族の血を継いでますからVERITA後でも生きている数少ないキャラだと思っています。感想お待ちしております。



[25124] 第12話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/02/06 22:15
リウイ達が動き始めて数日後、遊撃士協会を始めとし、各国でも事件解決や防止に向けて動いていたが一向に犯罪は減らなかった
~グランセル城~
そこにはアリシア女王を始めとした、各国の大使館の人間や事件解決の指揮をしている人物達がさまざまな確執を捨て秘密裏に集まっていた。
「……あれから、子供達の行方や犯人の手掛かりは掴めたのでしょうか?」
アリシア女王は沈痛な顔をして各国の代表者に聞いた。
「……残念ながら、共和国では依然防げてない上、足取りもつかめません。」
カルバード大使館のエルザは悔しそうな顔をして答えた。
「……我らエレボニア帝国も巡回を増やしたりしているのだが答えは同じだ。」
メンフィルに大敗しながらも未だに少将という地位で収まっているエレボニア帝国のゼクス・ヴァンダールも進展しない今の状況に屈辱を感じ、重々しく答えた。
「……俺達、クロスベル警察は醜い上共の保身せいで、事件が起こっても内密にしようとしてさらに酷くなってて嫌になってくるぜ。」
クロスベル警察からの代表者セルゲイは今の警察内部の状況を吐き捨てた。
「私達ギルドもA、B級を総動員して調べてはいるのですが中々尻尾を出さず悔しい思いをしております……」
遊撃士協会からはリベール軍をやめ遊撃士になったカシウスが来ていて、自分の無力さを嘆いた。

「そういえば、例の異世界の方々は見えておられませんね。」
エルザはここにいる人物を見て疑問に思ったことを言った。
「来ていなくて当然でしょう。メンフィルは文字通り異世界にある上、世界の移動の仕方はメンフィルしか知りませんからな。当然被害は受けていないのでしょう。……それにしても、おかしいですな。メンフィルは以前の戦争でいくつかの都市を得たはずなのに、そこでは事件は起こらなかったのでしょうか?」
リベールの将軍、モルガンはエルザの疑問に答え、あることに気付きメンフィルに疑問を持った。
「……もちろん起こりました、将軍。ですがメンフィルは全て未遂に防いだとメンフィル領にある支部やメンフィル大使館があるロレント支部から報告が上がっています。」
「「な……!」」
「なんと………」
「「いったいどうやって……」」
カシウスの答えた事にそれぞれ驚いた。
「報告によれば、メンフィル兵を本国から大量に呼び寄せ、さらに人でない存在――闇夜の眷属の中でも夜の活動を主にしている者達を巡回させ、未然に防いでいます。彼らの中には翼を持ち、空を自由自在に飛べる者や暗闇の中でも目が利く者等いるのですから誘拐に成功した犯人がいてもすぐに未然に収められるのです。」
「では、メンフィルなら何か情報があるのでは……!」
アリシア女王はカシウスの答えを聞き、希望を持ち聞いた。
「……メンフィルは犯人達をかなり危険視しているようで、犯人は我々遊撃士が駆け付ける前にメンフィル兵や闇夜の眷属によってその場で殺害されております。ですが組織の名は判りました。メンフィルによると犯行グループの名は『D∴G教団』という名でエイドスを否定する集団だそうです。」
「「「「「「なっ!!!!!!」」」」」
カシウスの報告にその場にいた者達はエイドスを否定するという集団に驚愕し、声を上げた。

「なぜ、エイドスを否定するためにそのような凶行を……」
女王は震えながら嘆いた。
「それより、なぜメンフィルがそれほどの情報を持っている!エイドスを否定する教団ということはエイドスとは異なる宗教、アーライナ教が関係してくるのではないか!?アーライナ教が関わっているのだとすると此度の件、メンフィルの仕業ではないのか!!」
ゼクスは憎々しげに自分の意見を言った。
「まさか……リウイ殿やペテレーネ殿、帝位継承者であるリフィア殿とは何度か会談を通じて話しましたが3人とも人格ある方でそのようなことを考える方達には見えません。」
「陛下のおっしゃる通りそれはありえません。例の教団はペテレーネ殿を勧誘し断られさらおうとしたそうです。もちろんその場でリウイ殿達によって討取られたそうです。」
カシウスはメンフィルがある程度の事情を知っている理由を言った。
「ほら、御覧なさい。私も一度だけ聖女殿とお話しましたけどそんなことを考える人には見えませんでしたわ。評判通り正に聖女と言われても可笑しくない他者を労わる優しい方でしたわ。それに聖女殿とて幼い一人娘がいるのにそのようなことをするハズがないでしょう。これだから野蛮なエレボニアは……」
エルザはゼクスの言葉を否定し、さらに挑発した。
「貴様……!何が言いたい!」
ゼクスはエルザの言葉を受け、怒り心頭に聞いた。
「今、共和国で噂になっていますわよ。エレボニアはメンフィルに逆襲の機会を淡々と狙っていると。
無駄なあがきですわよね、以前の戦争でメンフィルによって戦力の半数が壊滅した上、メンフィルは未知の技術、我々には使えないアーツに似た魔法、魔術を持って戦っているのですから。私自身、好戦的なエレボニアなどメンフィルに占領されてしまえばいいと思っていますもの。」
「我らを愚弄するか……!そういうそちらこそどうなんだ!?例の件のせいでそちらからメンフィル領へ亡命する市民が増えていると聞くぞ!」
「なんですって……!それはそちらこそ同じじゃありませんか!」
ゼクスとエルザはお互い睨みあった。
「お、おいおい何喧嘩してんだよ。今はそれどころじゃないだろ。」
「お二人ともやめられよ!」
犬猿の仲である帝国と共和国の代表が喧嘩を始めたことで、慌ててセルゲイとモルガンは仲裁に入った。しかし、2人の罵倒は止まらず、女王も困ったように眉を顰めどうすればいいか迷っていた時カシウスが怒気を猛烈に含み叫んだ。

「静粛に!!!」
その場にいた全員がカシウスを見た時、カシウスのさらけ出す怒気に全員が震えあがった。
「……権力をもつただの大人が……」
少しずつ呟くカシウス。その声が、不自然なほど室内に響き渡りカシウスの言葉ひとつひとつで全員は冷や汗をかいた。
「……自国の利益だけを醜く言い争う。」
「グッ……」
ゼクスは頬を赤くし、唸った。
「そんなくだらない国の事情より、もっと大切なことがあるだろう!今、なお攫われた子供達はその幼い体を苦しめられているというのに!」
エルザはカシウスの言葉に痛い所をつかれ目を伏せた。
セルゲイも悔しそうに拳を握り顔を歪めた。
「我々に出来ることは最も簡単なこと。」
女王はカシウスと視線を交わして静かに頷いた。
「今こそ、1つに集い、事件解決のために必要なメンフィルに積極的な協力を願うよう頭を下げる覚悟をお願いしたい。」
頭を下げるカシウス。そして最初に席を立ったのはセルゲイ。
「クロスベル警察セルゲイ・ロウ以下2名。事件解決のために必要であればこんなオッサンの頭でよければいくらでも下げる。」
「幼い子供が助かるためにはこの老骨、いくらでも頭を下げさせて頂きたい。」
「私も同じ意見です、カシウス殿。」
続くようにモルガンと女王が賛同した。
カルバード共和国大使・エルザがしばらくの間思考した後ゆっくりと立ち上がった。
「我々も、力なき子供たちが犠牲になるのは見過ごせません。そのための協力、いくらでもさせて頂きます。」

そして最後となったのはエレボニアのゼクスのみ。
「我々がこれまでやってきた事は、外道と言われてもおかしくない。好戦的国家と言われても、メンフィルや闇の聖女から裁きの鉄槌を受けたと揶揄されても否定できない。」
正に外道と言われても可笑しくないことをエレボニアはやってきた。リベール侵攻のために一つの村を犠牲にしたことを。
「だが、それでも幼い甥を持つ者としてこの事態は見過ごせない。」
そして席を立つ。
「我々エレボニアも今はメンフィルへの恨みを捨てさせて、頭を下げさせて頂く。カシウス殿あなたが我らの代表者になっていただけないか?」
「私が……ですか?」
ゼクスの提案にカシウスは唖然とし、周囲を見たがみなゼクスの意見に頷いた。
「わかりました……このカシウス・ブライト、此度の事件解決のため必ずメンフィルとの共同作戦を実現させて頂きます!」
全員がその場でメンフィルへの協力要請の紙に調印し、カシウスはそれを大事に受け取り全員に敬礼した。



~ロレント郊外・ブライト家~
そこではレナと最近正遊撃士になったシェラザードが今の状況を話していた。
「……そう、未だに事件解決は難しいのね……」
「はい……私も参加したいのですが今はC級以上の正遊撃士は受けれない状況です……」
レナは暗い顔をし、シェラザードも自分に力のなさを嘆き、悔しそうに唇をかんだ。そこにエステルが2階から降りて来た。
「あ、シェラ姉来てたんだ!いらっしゃい!」
「ちょっとね……ところでエステル、その格好は何?あんた、まさかどこかに出かける気?」
シェラザードはエステルの服装や持ち物を見て疑問に思った。
「そうだけど?」
「今は一人で外に出るのはやめなさい!ロレントはメンフィル大使館があるおかげでメンフィル兵や闇夜の眷属によって市内は平和だけど
この辺りは昼とかそんなに見回りはされていないのよ!?」
「何よもう~シェラ姉ったら~……それに今は一人で外に行かないし!」
慌てたシェラザードの注意にエステルは口を尖らせた。

「じゃあ、お母さん行ってきます!」
「暗くならない内に帰ってくるのよ。」
「はーい。」
「レ、レナさん!」
あっさり外出を許可したレナにシェラザードは慌てた。
「大丈夫よ。今は安心できる友達があの娘にはいるから。」
「それはいったい……」
「すぐにわかるわ。エステル、今日はあの人に挨拶をするわね。」
「うん、いいよ~」
そう言うとエステルは2階に上がった。
「え……なんで外に行くのに2階へ……?」
シェラザードはエステルの行動に疑問を持った。
「まあ、ついて行けばわかるわよ。」
そして2人はエステルについて行き、ついたその先は2階のベランダだった。
「いったいどういう事……?」
「ふふ、最初はビックリするわよ、シェラちゃん。」
そしてエステルは眼を閉じて集中し両手を空にかざした。
「え~い!」
すると両手から紫色の弾が空に向けて放たれ、それが空中に弾けた。

「な………エステル、あんた魔術が使えるの!?」
シェラザードはエステルが魔術を使ったことに驚愕し聞いた。
「うん、でも今できるのはこれだけだよ?」
「これだけって……あんた、わかってんの!?魔術はアーライナ教の司祭以上の人かメンフィル出身の人しか使えないのよ!」
「むう、わかってるわよ~。でも、あたしはできたよ?」
「できたって、いったいどうやって……」
「この聖書に書いてある、え~と……ひいんじゅつ?それのやり方にそって練習したらできたんだよ~」
「いや、あたしもその本読んで魔術を使えるように頑張ったけど無理だったわよ!?」
シェラザードが唖然とする中、空より翼を持った睡魔族の娘、リスティがベランダに降りて来た。

「な………!闇夜の眷属!?」
シェラザードはリスティを見て、驚愕した。
「今日もいっしょに遊ぼう、リスティ!」
「はいですぅ~」
エステルの誘いにリスティはほのぼのと答えた。
「リスティさん、今日も娘のことを守って下さい。」
「エステルに近づく悪い人はリスティが懲らしめますから、安心して下さい~」
「ありがとうございます。」
レナとリスティが普通に会話をしているのを見て、シェラザードは混乱した。
(嘘……レナさんも顔見知りなの!?いったい何がどうなっているの!?)
そして会話をしていたリスティは今の状況に驚いて固まっているシェラザードに気付いた。
「そちらの人は誰ですか~?」
「この人はシェラ姉!遊撃士をやっているんだよ!凄いでしょ!」
「……シェラザード・ハ―ヴェイよ。一応エステルの姉みたいなものよ。」
「リスティですぅ。名前がシェラザードですか~シェラ様の名前に似ていてややこしいですね~」
「シェラ様……か。その人は私達の知っている人かしら?」
シェラザードはほのぼのしているリスティが言った言葉に引っ掛かり聞いた。
「どうでしょう~?でも、その人はたくさんの兵隊に命令していますよ~」
「(兵を率いているということはメンフィル軍の中でも少なくとも隊長クラスね……)その人のフルネームはなんていうのかしら?」
「シェラ・エルサリス様ですよ~」
「「え………!?」」
リスティが出したフルネームにレナとシェラザードは驚いた。

「それって、メンフィル機工軍団団長の名前……!」
シェラザードは新聞に載っていたメンフィルの重鎮の名前を聞き驚いた。
「……そういえば、リスティさん。あなたは以前”ご主人様”の許で暮らしているって言ってましたよね。その方の名前は……?」
「ご主人様ですか~?ご主人様はリウイ・マーシルン様ですよ~」
「「な……!?」」
2人はリスティの言った言葉にさらに驚いた。
「むう~お母さん達ったらあたしにはわかんない話をしている~。リスティ、行こう!」
3人のやり取りが理解できなかったエステルは膨れ先を促した。
「はいですぅ~それじゃあ、私にしっかりつかまって下さいね~」
「うん!」
そしてリスティはエステルを抱きしめ空へ舞い上がった。
「きゃっほ~い!いつものことだけど凄いながめだわ~!エリッサやティオはなんで断るのかしら?すっごく気持ちいいのに!」
エステルは空を飛んでいることに歓声をあげた。
「今日はどこまで行きますか~?」
「今日はミストヴァルトの大樹があるところまで冒険よ!マーリオンともお話したいし!」
「わかりましたですぅ~」
「ちょ、ちょっと!まだ聞きたいことが……!」
シェラザードはリスティを引き留めようと大声を出したが、すでにエステルを抱きしめた状態のリスティは飛び去っていた。

その場にはしばらく沈黙が流れ、やがてシェラザードが口を開いた。
「レナさん、エステルはいったいどうやってあの闇夜の眷属の人と知り合ったんですか?」
「私も詳しいことはわからないんだけど、あの子が言うには森で寝ていた彼女を見て話しかけて最近友達になったそうよ。それにしてもまさかメンフィル皇帝と縁のある方だったなんて……」
「はぁ……あたしの時と言い、相変わらずあの子には驚かされますね……」
「ふふ、そうね。」
シェラザードは自分とエステルの出会いを思い出し、思わず溜息をつきその後真剣な顔をした。
「レナさん、もし今日エステルがあのリスティと云う人と帰ってきた時、引き留めてもらえますか?いろいろと聞きたいことがあるので。」
「リスティさんとはたまにいっしょに食事をしているからいいわよ。」
「ありがとうございます。」
レナに礼を言ったシェラザードは事件解決に向けて何か進展ができるかと思い気を引き締めた………

後書き エステルは信仰による魔術ではなく秘印術によって暗黒魔術が使えるようになりました。まあ、アーライナにも目をかけられていますが。次回、エステルがあるキャラを召喚できるようになります。ちなみにそのキャラはZEROから出すつもりなのでお楽しみに……感想お待ちしております。



[25124] 第13話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/02/08 20:46
~ミストヴァルト~
木が深く茂っている中、開けた場所で大樹がと小さな泉がある場所にリスティは降り立った。
「到着ですぅ~」
「ありがとう、リスティ。……すぅ……マーーリオ――ン!遊びに来たよ――!!」
リスティに礼を言ったエステルは深く息をすって最近友達になったもう一人の人でない存在の名前を叫んだ。
「こん……にち……は、エステルさん……」
すると泉の中からリウイの使い魔――水精・マーリオンが出て来て、表情が見えないその顔をわずかに笑みに変えた。
「えへへ、こんにちは!」
「今日は何して遊ぶですか~?」
「リスティの翼に埋もれるのもいいし、釣りだってできるし、冒険もしたいわね……悩むわ……よし、決めた!
全部やるわ、まずは釣りよ!」
そしてエステルは木の枝等を使い即席の釣り竿を作り泉で釣りを始めた。それをしばらく見ていたマーリオンはエステルに話しかけた。

「エステルさんは……どう……して……私達と……仲良く……できるん……ですか?」
「ほえ?どういう意味?」
「人間の方は……自分達とは……違う……姿を見て……普通……恐がり……ます……でも……あなたは……最初に…出会った時から…私達と……気兼ねなく……話して……います……」
「う~ん、あたしは特に何も考えてないな~。それにリスティとかただ単に翼と尻尾があるだけの人じゃない。」
エステルはそう言うと釣り竿を置き、リスティの翼に埋もれた。
「う~ん、気持ちいい……」
「くすぐったいですよぉ~」
リスティはそう言いながらも気持ちよさそうにした。
「それにさ、マーリオンとだって今、こうして会話をしているでしょ?ロレントの人以外で何人か闇夜の眷属の人を悪魔や魔物とか言うけど失礼しちゃうわね!確かに闇夜の眷属の人って、ちょっと近寄りがたい雰囲気があるかもしれないけど、会話ができるんだから、こうやって友達になれることをなんでわかってくれないのかしら?」
リスティの翼を堪能した後、エステルはマーリオンの手を握った。
「あ………」
「うわぁ~……マーリオンって本当に水で出来ているのね。冷たくて気持ちいいわ……でも、なんで水なのにこうやって手を握れるのかしら?」
「私の……体は………魔力によって……固められて………います……から……」
「う~ん、よくわかんないわ。ま、いっか!よし、次は森の中を冒険よ!リスティ、行こう!」
「はいですぅ~」
マーリオンの言葉に少しの間考えたエステルだったが、理解できなく考えるのをやめた後、立ち上がりリスティを呼んだ。
「じゃあ、マーリオン。ちょっと行ってくるね!」
「はい………」
そしてリスティを連れたエステルを見送った後、マーリオンは心の中でいつかエステルが今言った言葉をリウイの
前でも言うことがあればいいのにと願った。

そしてエステルはリスティとしばらくの間、森を歩いていた時、エステルが何かに気付いた。
「…………」
「ほえ、リスティ、呼んだ?」
「いいえ~」
誰かに呼ばれたような感じがしたエステルはリスティに振り向いたが違うようで、空耳かと思い気を取り直したが
また、自分にでは理解できない言葉が頭に響いた。
「…………」
「また、聞こえた!ねえ、あなたはどこにいるの!?」
エステルは辺りを見回し叫んだ。
「チ………カ……ク………」
するとわずかながら理解できる言葉が聞こえた。
「近くね!わかったわ!」
「エステル、どうしたですかぁ~?」
リスティはエステルの突飛な行動に疑問を持ち聞いた。
「誰かがあたしを呼んでるの!リスティ、いっしょに探して!」
「何がなんだかわかんないですけど、わかったですぅ~」

そしてしばらく辺りを探すとそこにはエステルの拳ほどの大きさの羽の生えた小人が倒れていた。
「え……妖精さん!?」
エステルは倒れている小人を見て驚いた。
「その子は風の守護精霊ですねぇ~。でも、どうしてこんなところにいるんでしょう~?」
リスティは呑気に答えたがなぜ異世界である場所にいるのかと疑問に思った。
「それより、助けなくちゃ!妖精さん、目を覚まして!」
エステルは小人を両手ですくい、呼びかけたが目を覚まさなかった。
「あやや……この子、異世界に来て慣れない魔力のせいで魔力が上手く維持できず、それが切れてしまったんですね……」
リスティは小人の状態を見て悲しそうな表情に変えた。
「それじゃあ、この子どうなるの!?」
「消えて、自然に還ってしまいますね……」
「それって死ぬってことじゃない!?ねえ、リスティ、どうにかならないの!」
エステルは悲痛な表情でリスティに懇願した。
「この子にエステルの魔力を分けて上げれば、一時しのぎにはなりますぅ~」
「それってどうすればいいの!?」
「いつもやっているみたいにこの子に魔術を使う感覚で魔力を集めてみて下さい~」
「わかったわ!」
そしてエステルは目を閉じて願った。
(お願い……目を覚まして……!)
すると、エステルの両手から淡い光が出てそれが小人を包んだ。そして小人は目を覚まし、自分が助かったのはエステルのお陰だとわかり笑顔でエステルの周りを回った。

「わぁ………キレイ……!」
エステルは飛び回っている小人を見て、思わず呟いた。
「………」
「え、何?なんて言ってるの?」
エステルは頭に小人の声らしきものが聞こえたがわからず、聞いた。
「助けてくれてありがとうと言ってますね~。それと私といっしょにいることをどうしてと聞いていますね~」
「リスティ、わかるの!?」
エステルはリスティが小人の言葉を訳していることに驚いた。
「一応私は風属性の睡魔ですから~それとこの子の名前はパズモ・メネシスだそうです~。」
「名前はパズモって言うんだ……うん、いい名前ね!それとさっきの答えだけどリスティとは友達だからいっしょにいるだけだよ?」
「…………!」
「闇夜の眷属である私やその子自身恐くないのかと言ってますね~」
「全然恐くないわ、むしろもっとたくさんの闇夜の眷属の人と友達になりたいわ!」
エステルの答えを聞いたパズモは少しの間、エステルの嘘をついていない純粋な眼を見つめてまたエステルの頭の中に声を送った。

「………」
「え………」
「ほえ?リスティ、なんて言ってるの?」
パズモの言葉を訳そうと思ったリスティが呆けた声を出したのに気付き、エステルは聞いた。
「エステルを守護する契約をして下さいと言ってるですぅ~。」
「あたしを守護する契約ってなに?」
「言ったことそのままの通りですぅ~。要するにエステルを主人と認めてエステルが死ぬまでずっと傍にいることですね~」
「え……あたしなんかとずっといるなんて約束していいの!?」
エステルはリスティが言った事に驚きパズモに聞いた。そしてまたエステルの頭の中に声を送った。
「…………」
「エステルじゃないと嫌と言ってますぅ~」
「そうなんだ……あたしでよければその契約、受けて上げるわ!」
「………!」
エステルの言葉を聞き、パズモは真剣な表情を笑顔に変え、またエステルの頭の中に声を送った。
「契約を受けてくれてありがとうと喜んでいますね~。」
リスティはパズモの喜びが自分が喜んでいるように伝えた。
「あ!ひとつだけ言い忘れたことがあるわ!」
「………?」
思いついたかのように言い出したエステルにパズモは小さな首をかしげた。
「あたしとパズモは主人と従者じゃなく友達よ!友達に命令するとかあたしが嫌だもん!」
エステルの言葉を受けて固まったパズモだったが、やがてまた笑顔になりエステルの頭の中に声を送った。
「…………!」
「わかったと言ってますね~。」
「えへへ、よかった。それで契約って何をすればいいの?」
「………」
「エステルは何もしなくていいですよ~ただ、この子がエステルの魔力と同調するだけですからエステルはそれを受け入れるだけですぅ~」
「わかったわ……いつでも来なさい!」
リスティから契約の仕方を聞き、エステルは両手を広げた。そしてパズモは勢いよくエステルの身体に入った。
「わ……」
エステルは自分の身体にパズモが入ったことに最初は驚いたが、特に何も異常は感じずあたりを見回した。

「ねえ、パズモはどこにいっちゃったの?」
「エステルの身体の中に入ってエステルの魔力と統合しただけですから、エステルが呼びかければまた出てきますよぉ~」
「わかった、やってみる……おいで!パズモ!」
エステルがパズモの名を言うと、エステルの目の前で小さな竜巻が起こりその中からパズモが姿を現した。
「えへへ……これからよろしくね、パズモ!」
(あなたをずっと守るね、エステル……)
「え……今の声はパズモ、あなたなの!?」
エステルは頭の中に響いた声に驚き、パズモに聞いた。
(そうよ……エステルと私は契約して繋がっているから精霊である私の声が聞こえてもおかしくないわ。)
「そうなんだ……パズモとおしゃべりができるようになって嬉しいわ!」
(私もよ、エステル……!)
そしてパズモを加えてリスティとしばらく遊んだエステルはマーリオンにもパズモのことを報告し、その後行きと同じようにリスティにブライト家まで送ってもらった。

かつて正義の大女神と神殺しに仕えた守護精霊は長年いっしょに旅をし、異世界に来た際はぐれた友人の思いと同じ新たな幼い契約者に希望を持った……




同じ頃、プリネもまた、誰かに呼ばれるように感じメンフィル大使館の敷地内を歩いていた。
(確か……この辺り……いた!)
そこには鳥翼族の娘が倒れていた。
「う~魔力がうまく取り込めないよ……ボク、このまま死んじゃうのかな……」
「あなたが私を呼んだのですね。」
「え……もしかして、ボクの呼びかけの答えてくれた人!?」
鳥翼族の娘はプリネを見て驚いた。
「ええ、異世界だから魔力がうまく取り込めなかったんですね……少しの間、待って下さい……」
プリネは鳥翼族の娘に近づき魔力を分けた。
「う~力がみなぎってきた……ボク、ふっか~つ!」
鳥翼族の娘は魔力を分けられ元気になり、勢いよく起き上がった。
「魔力を分けてくれてありがとう!」
「気にしないで下さい、私がやりたいと思ってやったことですから……それより、どうしてこんな所にいるのですか?あなたはメンフィル兵やお父様が呼んだ闇夜の眷属の人にも見えませんが……」
「う……それは……!」
鳥翼族の娘は図星をつかれたように後退した。
「事情を話してくれませんか?このままだとあなたを侵入者としてメンフィル兵に突き出さなければなりません。」
「はい……実はボク、闇夜の眷属と人間が仲良く暮らす国を世界中を廻って探していたんだ。それで久ぶりに故郷に帰ろうと思って来た帰り道によったレスぺレント地方がいつのまにか、ボクが望んだ国になっていて、それでミルスで王様が新しい世界を見つけてそこと交流をし始めたって聞いたから、そこもボク達闇夜の眷属を受け入れてくれるのかなと思って、友達といっしょに兵士の目を盗んで転移門に入ったんだけど、入る直前に兵士にみつかっちゃって、焦って起動してしまったから友達ともはぐれて今の状況に……」
「なるほど……それで、友達は見つかったのですか?」
「ううん……この世界は魔力の流れが違うからわかんなくなっちゃった……」
「……あなたのお名前は?」
「ボク?ボクの名前はペルル!」
「私の名前はプリネ・マーシルンです。」
「え、マーシルン!?それってメンフィル王家の名前……!」
ペルルはプリネのフルネームを聞き、驚いた。
「ええ、お父様はリウイ・マーシルン。闇夜の眷属と人間の共存の国を実現した偉大なるお方です。」
「あわわ……ボク、皇女様に失礼をしちゃった……ごめんなさい!」
ペルルは慌て、勢いよく頭を下げて謝った。

「フフ、気易く接してもらってかまいません。それより友達を探すあてはあるのですか?」
「う……それが全然……おまけに魔力の波長も合いにくいし……」
プリネの疑問にペルルはこれからのことを考え肩を落とした。
「でしたら、これも縁だと思ってお友達が見つかるまで私の使い魔になってくれませんか?」
「え……皇女様みたいな偉い人がボクなんかを使い魔にしちゃっていいの!?」
ペルルはプリネの言葉に驚き聞いた。
「皇女と言っても私は帝位継承権はほとんどありませんから……それにお父様とマーリオンのやり取りを見て、私もずっと傍にいる使い魔さんがほしいと思いましたから。……それでどうでしょうか?」
プリネの言葉を聞き少しの間考え真剣な顔でプリネに聞いた。
「一つだけ聞かせて……プリネはボク達、闇夜の眷属と人間の共存を望んでいるの?」
「私とて魔神の血を引く闇夜の眷属の一人です。いずれ皇帝となられるリフィアお姉様を手伝って、広大なレスぺレント地方を闇夜の眷属と人間が暮らすためのよりよい国にしていきたいと思ってます。……こんな答えじゃダメですか?」
「ううん!それだけ聞ければ充分!ボクの方こそお願いします!」
ペルルはプリネの答えを聞き笑顔になった。
「よかった……では、契約を……」
「うん……!」
そしてプリネとペルルはお互いの手と翼を握り、ペルルが翼に伝わるプリネの魔力に溶け込むように消えた。
「契約完了ですね……ペルル、来て!」
「はーい!」
プリネが呼びかけるとプリネの身体から小さな光が出、その光の中からペルルが現れた。
「しばらくの間、お願いしますね。ペルル。」
「うん!こっちこそよろしくね、プリネ!」
こうして、ペルルもまた闇夜の眷属と人間の共存を願った最初の主の思いと同じ新たな契約者にパズモと同じように希望を持った……




後書き 感想者様の要望を受けて文を大幅に変えました。パズモ、ペルルは数少ない神聖魔術使い、お宝探し要員でしたがアムドシアスやナベリウス等が入ると即2軍行きしましたから、優遇しました。パズモの口調は今、ZEROの終章の紅き月神殿なんですが、一切しゃべらないので正直わかんないです……感想お待ちしております。



[25124] 第14話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/02/07 23:59
~ブライト家~
夕方にさしかかりそうになった頃、3国とクロスベルの代表になったカシウスは妻にもそのことを報告するために一端、家に戻った。
「今、帰ったぞ。」
「おかえりなさい、あなた。」
「お邪魔しています、先生。」
出迎えたのは夕食の準備をしているレナとテーブルにタロットカードを広げて占いをしているシェラザードだった。
「来ていたのか、シェラザード。」
「ええ、レナさんに例の事件でエステルに注意してもらうためにお邪魔させてもらいました。」
「そうか……ところでエステルの姿が見えんが?」
「あの子なら友達と遊びに行ってますよ。」
「今大変なこの時期にか……はぁ、こっちの気も知らないであのお転婆娘は……」
カシウスはレナからエステルの姿が見えない理由を言われ溜息を吐いた。
「ふふ、あの子の行動は誰にも止められませんよ。」
「レナさん、そんな呑気な……でも、レナさんの言う通りですね。まあ、ここロレントはメンフィルのお陰でなんとか例の事件の影響を受けずにいますけどね……」
「そうだな……実はそのメンフィルのことで、忙しい中帰って来れたんだ。」
そしてカシウスは2人に事情を話した。

「メンフィルに大敗したエレボニア帝国までメンフィルに頭を下げるなんて信じられませんね……」
カシウスの話を聞き、シェラザードは驚愕し目を見開いた。
「それだけ深刻な問題なんでしょうね……あなた、いつ大使館のほうに行くの?」
レナは暗い顔をした後、気を取り直しカシウスに聞いた。
「ああ、ここで少し休憩したらすぐにでも行く気だ。」
「でも先生、相手は隠居しているとはいえ仮にも皇帝ですよ?いくらなんでも約束もなしにそんな時間に行ったら門前払いされるんじゃ……」
「わかっている。それでも俺達の本気がメンフィルに伝わってほしいんだ。そのためなら土下座でも何でもやってやる。」
「あなた……」
レナはカシウスのことを心配そうな顔で見た。
「……そうだ、先生!ひょっとしたらすぐに会えるかもしれませんよ!」
「何?どういう事だ?」
シェラザードの提案にカシウスは驚き聞いた。
「その前にレナさん、さっきのことを話さないと……」
「そうね。あなた、驚かないで聞いてちょうだいね。実は………」
そしてレナはカシウスにカシウスが事件解決にリベール中を奔走している中、エステルが闇夜の眷属と友達になりその友達がメンフィル皇帝縁の者であることを言った。

「まさかエステルがそんな人物と友達になるなんてな……魔術が使えることといい、本当にあの娘には驚かされるよ……」
「ふふ、そうね。」
カシウスが驚くという珍しい光景を見たレナは同意しながら笑った。
「それで先生、どうします?」
「渡りに船だ。その人物にできれば今日中にリウイ殿と接触できるように頼むつもりだ。」
「そう……私からもリスティさんに頼んでみるわ、あなた。」
「ありがとう、レナ。」
そして3人はリスティを確実に引き留めるためにいつも空から帰ってくるベランダで待っていた。半刻後、空からエステルを抱きしめたリスティが姿を見せ、ベランダに降り立った。
「あ、おとうさん!帰ってたんだ!」
「ああ、お帰り、エステル。」
「えへへ、ただいま!あ、そうだ!みんなに紹介したい友達がいるんだ!」
「紹介したい友達というのはそちらの女性かな?」
エステルが嬉しそうにしていることをカシウスはリスティを見て聞いた。
「あ、おとうさんは初めて会うよね。この人はリスティ!あたしの親友の一人だよ!」
「リスティですぅ~。よろしくお願いしまーす~」
「エステルの父のカシウス・ブライトだ。娘を守ってくれてありがとう。お陰で安心して娘を遊びに行かせれるよ。」
「リスティも楽しいから別にお礼なんていいです~それよりエステル、パズモの事を報告しなくていいんですか~?」
「そうだ!おとうさん、おかあさん、シェラ姉!みんなにパズモのことを紹介するから広間に行こう!」
エステルは3人に守護精霊になったパズモのことを紹介するために広間に行くよう促した。

「じゃあ、私は帰りますね~」
リスティが帰るために飛び立とうと翼を広げた時レナがリスティを呼び止めた。
「あの、リスティさん。今日はあなたの分の夕食も作りましたからよかったらいっしょに食事をしませんか?」
「あ、大賛成!リスティ、いっしょに食べましょ!」
「はいですぅ~」
そして5人は広間に降りた。

「それで、エステル。パズモさんっていう人はどこにいるの?私達以外いないようだけど……」
レナは広間を見渡しエステルに聞いた。
「えへへ、今紹介するね……おいで!パズモ!」
広間の中で小さな竜巻が起こりその中からパズモが姿を現した。それを見た3人は驚愕した。
「え……妖精!?」
「な………!」
「な……エステル!今、あんたが呼んだからこの子が出たように見えたけどいったい何をしたの!?」
「えへへ、パズモはあたしの守護精霊になってくれたんだ!」
「守護精霊?エステル、いったいそれはなんなんだ?」
カシウスはパズモを横目で見つつ、エステルに聞いた。
「う~んと……ずっとあたしの傍にいてくれる友達だよ!」
「それだけじゃちょっとわからないわね……リスティさん、守護精霊とは何か知っていますか?」
レナは困ったような顔をした後リスティに聞いた。
「はいですぅ~守護精霊とは~普段は契約した主の魔力と同調していますけど~こうやって主が呼んだら出てくるんですよ~それで役割ですけど~その名の通り、主を守るために共に戦ってくれる精霊ですよぉ~ちなみに主が死ぬか契約を解除するまでは主の魔力で身体を保ちますから~致命傷を受けても時間をかけて、復活しますよ~」
「今、エステルの魔力で身体を保っていると言ったがエステルに負担はかからないのかね?」
カシウスはリスティの言ったことに驚愕した後、心配そうな顔になりリスティに聞いた。
「精霊の強さによっては~主に負担を掛けてしまいますけど~この子だったらずっと召喚しても特に問題ありませんよ~」
「そうか……」
カシウスはリスティの言葉を聞きホッとした。
「でも、こんな小さな子が戦えるのかしら?」
シェラザードはパズモを興味深そうに見て呟いた。
(失礼ね!私はこれでも守護精霊の中では強いほうよ!)
パズモはムッとした顔でシェラザードを睨んだ。
「あ~!シェラ姉、私は弱くないってパズモが怒っているよ!」
「へ……この子、しゃべったように見えないんだけど、エステル、わかるの!?」
エステルがパズモの代わりに怒っているのを聞いてシェラザードは驚き聞いた
「あたしはパズモとえーと……いっしんどうたい?なんだよ。だから、この子の怒った声が頭に響いて来るよ!」
「エステルとパズモは契約してつながっていますから~人間には聞こえない精霊の声がエステルに聞こえて当然ですよ~」
「もはや何でもありね……それでどんな事ができるのかしら?」
シェラザードは溜息をついた後、パズモに聞いた。
(今、見せてあげるわ!……エステル、ちょっと手伝ってくれる?)
「うん、いいよー」
そしてエステル達は外に出て、エステルがパズモの言う通り、庭に壊れた小さな椅子をおいた。
「これでいい、パズモ?」
(ええ、それじゃあ、私の力見せてあげるね!……光よ、集え!光霞!)
パズモが椅子に手をむけると、椅子の周りに強烈な光が走り、光が収まった頃には壊れた椅子が粉々になっていた。
「「「な………!」」」
3人はその状態をみて驚愕した。
(光よ、かの者を守護する楯となれ!防護の光盾!)
今度はレナに手を向けるとレナの身体に淡い光が覆った。
「レナ!?」
カシウスはレナに何かの魔術を掛けられたと思い、慌ててレナに駆け寄った。
「あら……?これはいったい?」
レナは自分を覆った淡い光を見て不思議がった。
(魔術によって少しの間だけ、身の守りを固くしたわ。物理防御、魔法防御共に抵抗力があがったわ。)
「すっご~い!あのね、魔術の力でおかあさんを少しの間だけ守っているんだって!攻撃や魔法攻撃を受けてもある程度平気らしいよ!」
エステルは興奮した様子で3人に説明した。
「う~ん、そう言われても特に何も感じないわね……そうだわ!」
レナは悩んだ後、家からペンを持って来てペンの切っ先を思いっきり自分の手に刺そうとしたが、
手に当たった瞬間逆にペンの切っ先が折れてしまい、レナは自分に全く痛みがなかったことを感じた。
「「「………!」」」
そしてレナを含めた3人は信じられないような顔で折れたペンの切っ先を見た。
さらにパズモはカシウスにも手を向けて魔術を放った。
(戦意よ、芽生えよ!……戦意の祝福!)
「む……?」
カシウスも自分に何か起こったかを感じた。
「なんだ……?体が羽のように軽く感じるぞ……?それにこの感触はどこかで感じたような……?」
(今度は戦う意識を底上げしたから、少しの間だけ体がいつもより早く動かせるわ。)
「ふわぁ~……今度はおとうさんがいつもより早く動けるんだって!」
エステルはパズモをキラキラした目で見つつ、説明した。
「そうか、この感触は時のアーツ、”クロックアップ”を使った感じに似ている。だからか……」
カシウスはエステルの説明に納得した。
(私の使う魔術はこうやって味方を援護したり、敵の身体能力を下げたり敵を攻撃できたりするわ。)
「……だって、みんな!」
パズモの言葉を伝えたエステルはパズモのことを自慢の友達だと思った。

「あらあら、エステルに小さな騎士(ナイト)さんができたわね。」
驚いていたレナだったが気を取り直し、パズモと目を合わせた。
「パズモさん、私達が見てないところでこの子が危ない目に合わないようお願いしますね。」
(当然、守るわ!)
パズモはレナにもわかるように小さな首を縦に振った。
「ありがとう。」
それを見たレナは笑顔でお礼を言った。
「そうだ~言い忘れていました~風の守護精霊と契約しましたから~もしかしたら、その影響で風の魔術が使えるかもしれませんよ~?」
「本当!?う~んと……風よ起これ~!」
リスティの言った言葉に目を輝かせたエステルは両手を広げて、試しに風を起こそうとしたが特に何も起こらなかった。
「あれ?」
(そんなすぐにはできないわ。でも、練習すれば使えるわよ。)
「本当!?よ~し、かんばるわよ~!」
パズモの言葉を聞きエステルはこれからのことを思い、張り切った。

「はぁ~……あの子は私達をどれだけ驚かすつもりなんでしょうね……」
張り切っているエステルを後ろで見ていたシェラザードは溜息をついた。
「それがあの子の良さの一つなんだろう……得てしまった力は俺達が間違った方向に進ませないよう教えるだけだ。」
「そうね……もしかしたら、その内たくさんの闇夜の眷属の人と友達になるかもしれないわね♪」
「レ、レナさん……今の状況を見たら冗談に聞こえませんよ……」
レナの冗談にシェラザードは冷や汗を垂らした。
その後、新たな小さな家族を迎えたブライト家は賑やかな夕食となった……




後書き エステルがどんどん原作より強くなっていく気がする……このままだと軌跡キャラの中では最強キャラ化するかも……?今のところ、魔術が使えるキャラは空シリーズではエステル以外考えていないんですよね…… 感想お待ちしております。



[25124] 第15話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/02/08 18:29
~ブライト家~
食後、しばらくの間パズモとリスティとおしゃべりしていたエステルは目をこすり欠伸をした。
「ふわぁ~……」
「エステル、もう寝る?」
「うん……」
レナの言葉に答えたエステルはパズモを呼んだ。
「パズモ。」
(わかったわ。お休み、エステル)
「おやすみ~」
そしてパズモは小さな光となってエステルの中に入った。
「じゃあ、あたしはもう寝るね~またね、リスティ。」
「はいですぅ~」
そしてエステルはレナに連れられて二階に上がった
「それじゃあ、リスティも帰りますね~ご飯ありがとうございました~」
「リスティさん、少し話があるんだが、聞いてくれないかね?」
「私にですか~?別にいいですよ~」
リスティを呼び止めたカシウスは真剣な顔で話しかけた。
「すまない……リスティさんは最近流行っている『D∴G教団』という犯行グループによる誘拐事件を知ってるかな?」
「ごめんなさい……リスティ、難しい話はわかんないですけど、ご主人様達がセリエル様を呼んで教団の拠点がどうとか言ってたのは覚えてます~」
「な……!まさか例の犯行グループの拠点を見つけたの!?」
シェラザードは驚いて椅子から立ち上がった。
「落ち着けシェラザード。……そのセリエル様というのはどなたかな?」
カシウスは心の中で驚き、顔に出さず先を促した。
「セリエル様ですか~?セリエル様は獣人族がたくさん住んでいる領、スリージを治めた前領主様で聖獣メルと同じ動物と意思を通じ合える方ですぅ~」
「動物と意思を通じ合える……か。」
カシウスはリスティの言った言葉を考え、ある結論に至った。
(まさか動物を使って、教団の拠点を見つけたのか!?だとすると一刻も早くリウイ殿と会わなければ!)
カシウスは姿勢を正しリスティに頭を深く下げた。
「リスティ殿、お願いがあります。どうかリウイ殿とすぐ会えるよう口添えをお願いします!!」
「お願いします!」
カシウスにつられてシェラザードも頭を下げた。
「あやや……困りました……どうしましょう……」
リスティは2人を見て困った顔をした。
「リスティさん、私からもお願いします。」
そしてエステルを寝かしつけたレナも二階から降りて来て頭を下げた。
「エステルのお母さんまで……わかりました~取りあえずご主人様に話してみますぅ~」
「ありがとうございます、リスティ殿!」
リスティの答えを聞きカシウスは頬を緩めた。
「じゃあ、今ご主人様に伝えてきますね~」
そしてリスティは椅子から立ちドアを開け外に出た後、翼を広げ大使館へ飛び去った。三人は藁をすがむ思いでリスティが飛び去った空を見上げた。

~メンフィル大使館内会議室~
そこではメンフィルの主な人物達が机に何ヶ所かに印をつけた地図を広げ話し合ってた。
「まさか、これほどの規模だったとはな……」
リウイは大陸中にちらばっている教団の拠点である印がしてある地図を睨み呟いた。
「いかがなさいますか、リウイ様。今この世界にいる兵達を半分ほど使えば一斉攻撃は可能ですが。」
「いや……それは出来ん。他国の領地に勝手に兵を入れる訳にはいかん。」
ファーミシルスの意見をリウイは溜め息をついて否定した。
「それじゃあ、どうするの!?このままじゃ、子供達がどんどんあいつらの実験台に使われ続けられるわよ!?」
「そうじゃぞ、リウイ!力無き者のために動くのが我ら王族の務めであろう!!」
「リウイ様……」
教団の活動内容を知ったカーリアンとリフィアはリウイに詰め寄り、ペテレーネも懇願するような目でリウイを見た。

「……とりあえず、遊撃士協会に相談してみるか。話はそれからだ。」
リウイは少しの間目を閉じて考えた後、目を開き答えを言った。
「そうですね……彼らは国家間の問題では中立の立場であるのでちょうどよいかと。それに彼らも奴らの情報を欲しがっていましたからね……」
ファーミシルスもリウイの考えに賛成した。
「シェラ、生け捕りにした犯人共はあれから口を割ったか。」
「ハッ……捕らえた教団員を尋問しましたが、全く口をわらず、それどころか精神に異常が見られ会話が成り立ちません。」
「そうか……まあいい。拠点が判明した以上奴らに用はない。魔導鎧の実験に使うなり自由にしろ。元々奴らは生かす必要などないしな。」
「御意。では、実行のためこの場を離れます。」
リウイの処刑とも言える命令をシェラは実行するために部屋を出た。。
そしてそこにリスティが部屋に入ってきた。

「ご主人様~エステルのお父さんがご主人様と話したいそうです~」
「なんだリスティ、帰ってきていきなり……待て。エステル、だと?」
リウイはリスティの言葉に呆れたがエステルの名を聞き、リスティに聞いた。
「はいですぅ~エステルのお父さんがご主人様と今から話したいそうです~」
「そのエステルって子って、確かマーリオンが言ってた人間の友達じゃない?」
カーリアンはリスティから出た名前を思い出しリウイに聞いた。
「ああ。この世界の人間であるにもかかわらず俺達、闇夜の眷属に驚かず、逆にたくさんの闇夜の眷属と友人になりたいと言ってた変わった娘とマーリオンが言ってたな……確か父親は以前のリベールとの会談で何度か会ったカシウス・ブライトだったな。」
「ハッ……カシウス・ブライト……人呼んで『剣聖』。我らがこの世界に来るまで大国、エレボニアの攻撃を凌ぎ、さらには反撃作戦を考えた勇将です。私もかの者と会談を通じて会いましたが、かの者はこの世界の人間では最強の部類だと思います。恐らく”幻燐戦争”時に共に戦った同士達以上、あるいは神格者と同等の強さを持っていると私は感じました。……今は、軍を退き遊撃士協会に所属しています。」
ファーミシルスはゼムリア大陸で有名な武人の情報を入手しており、その情報をリウイに言った。
「遊撃士協会に所属か……ファーミシルス。その者、恐らくランクも高レベルだろう。」
「ハッ!おっしゃる通り、かの者の正遊撃士ランクは最高ランクのA級です。」
「だとすると、例の教団の事件に担当している可能性は高いな……ちょうどいい。今からその者に会いに行く。ペテレーネ、その者の家に今から行くぞ。」
「承知しました、リウイ様。」
「こっちに呼ばないの、リウイ?」
カーリアンは王族であるリウイ達が自ら会いに行くのを珍しがり聞いた。

「今から使者をやってこっちにこさせても二度手間になる。……それにそのエステルと言う娘、少々興味があるしな……」
「そうね。あたし達、闇夜の眷属と進んで友達になりたい人間なんてこの世界じゃ初めてじゃないの?」
「ああ。……会う機会があればその者と話そうと思っていたのでな……まあ、この時間では寝ているかもしれんが。その時はまた、別の機会を待つだけだ。」
カーリアンの言葉にリウイは頷き、外に出かけるため立ち上がった。
「リウイ、余も行くぞ!余達、闇夜の眷属と友人の娘なら、余にとっても友人じゃ!余も会いたいぞ!」
リフィアはリウイ達の会話を聞き、自ら会いにいくため立ち上がった。
「ダメだ。お前はここで留守番していろ。」
「なぜじゃ!?」
「こんな夜遅くに大人数で押し掛ければ相手を警戒させるだけだ。それに俺の不在時、この大使館を指揮できるのはまだお前だけだ。プリネにはまだ早いのはわかるだろう?」
「むう~……確かにそれも王族としての役割じゃの。仕方あるまい……今回は大人しく引き下がるとするかの。」
リフィアはしばらくの間、唸り引き下がった。

そしてリウイとペテレーネはブライト家に向かった……



後書き エステル、本人が知らぬ内にメンフィルでは有名人に……言っておきますがいくらんなんでもリウイとエステルをカップルにするという暴挙はしませんのでヨシュアファンはご安心を……感想お待ちしております。



[25124] 第16話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/02/09 20:00
~ブライト家~
ブライト家では3人がメンフィルからの迎えの使者が来るかもしれないことに誰もが緊張していた。そして広間は時計の針の音だけの静寂な間であった。そこに入口のドアをノックする音が聞こえた。
コンコン
「………はい!どなたですか?」
レナはノックの音を聞き、ハッとし立ち上がりドアの外にいるであろう人物に用を聞いた。カシウスとシェラザードも緊張した顔を見合わせ立ち上がった。
「メンフィル大使館の者です。先ほどリスティさんから知らされた件でこうして参上してまいりました。」
ドアの外から聞こえたのは兵士の声ではなく、穏やかな女性の声を聞きレナは戸惑ったが返事をした。
「今開けますのでお待ち下さい!」
そしてレナは急いでドアに近寄りドアを開けた。

「あ、あなたは……!」
「な……!」
「嘘……!闇の……聖女……!?」
ドアを開け姿を見せたペテレーネにレナは驚き開いた口をふさぐように片手を当て、カシウスは予想外の人物に目を丸く開き、シェラザードは新聞でしか見なかったアーライナ教を広める元となった女性を見て驚愕した。
「こんばんわ、私はゼムリア大陸でアーライナ教の神官長を務めさせて頂いているペテレーネ・セラと申します。夜分遅くの訪問、お許し下さい。」
「顔を上げて下さい……!謝るのは私達のほうです!聖女様ほどの方がわざわざ知らせに来るなんて……ありがとうございます!」
頭を下げるペテレーネに恐縮したレナは慌てて頭を上げるように言った。
「ありがとうございます……あら?もしかしてあなたとお会いしましたでしょうか?どこかで見たような……」
顔を上げたペテレーネはレナの顔を見て、見覚えのある顔だと気付いた。
「あの……ロレントで起こったエレボニア帝国兵による襲撃の時、あなたに傷を癒してもらった者です……あの時は本当にありがとうございました!」
「ああ……あの時の方でしたか……その後お変りはありませんか?」
レナの事を思い出したペテレーネはレナに体調を聞き、それをレナは恐縮しながら答えた。
「は、はい!貴方様のお陰でこうして元気に家族と共に幸せに暮らせております。……娘は特にあなたのことを尊敬していて私の傷を癒すあなたを見て、自分も魔術を覚えて貴方様のように『人助けをするために遊撃士になる!』と言って、時間がある時は貴方様が書いた聖書を読んで魔術の練習と、武術を練習しているんです。あの子に将来の目標が出来たのは貴方様のお陰でもあります。本当にありがとうございます。」
「そ、そんな……!私はただ、当然の事をしただけです……」
レナの言葉にペテレーネは顔を赤くし、慌てた。

「………なるほどな。あの時、助けを求めた少女がマーリオン達と友人になった少女だったとはな……案外世間とは狭いものなのだな……」
ペテレーネの横に並ぶようにリウイが姿を現した。
「え………!」
「リ、リウイ殿!?」
「嘘……メンフィル皇帝……!」
3人はリウイの姿を見て生きている中で一番驚いた。
「……メンフィル大使、リウイ・マーシルンだ。貴殿とは”百日戦役”の講和条約の時以来だな。カシウス・ブライト。」
「……久しぶりでございますな、リウイ殿。狭い家でございますがどうぞこちらへ。」
「……失礼します。」
「……失礼する。」
そしてカシウス達はリウイとペテレーネをテーブルの椅子へと案内した。

「……エステル・ブライトはやはりもう寝てしまったようだな。」
椅子に座ったリウイは2階にある部屋からリウイのみがわずかに聞こえる少女の規則正しい寝息を聞き、少しだけ残念そうな顔をした。
「あの……エステルが陛下に何か失礼をしてしまったのでしょうか?」
レナは心配そうな顔でリウイに聞いた。
「いや……人間でありながら我ら”闇夜の眷属”と進んで友人になろうとしている少女がどのような少女なのか直接話してみたかったのだがな……寝てしまっているのであればまたの機会を待とう。……子供は幼い時はよく眠るのも仕事の一つだからな。」
「そうでしたか……皇帝という忙しい毎日を送っていたのにもかかわらず子煩悩なリウイ殿を見て、失礼ながら少々意外と思い申し訳ありません。」
カシウスはリウイの子煩悩な所を以外そうな顔でみた後、謝った。
「こう見えてもたくさんの子を持つ父親でもあるのでな。気にするな……」
(メンフィル皇帝にまで気にいられるなんて、あの子、どこまであたし達を驚かせる気よ……)
シェラザードはリウイがエステルの事を話す時、リウイがわずかに笑みを浮かべているのに気付き、心の中で妹分の凄さに溜息を吐いた。
「さて……リスティから聞いたが何か俺に用があるそうだな?……例の教団の件か?」
そしてリウイはここに来た直接の理由を言った。
「ハッ、理解が早くて助かります……レナ、シェラザード。お前達は別の部屋で待機していなさい。」
「でも、先生……!」
「シェラちゃん。今はこの人の言う通りにしましょう……私達ができるのは子供達が一人でも無事に帰れるようにエイドスとアーライナに祈るだけよ……」
「はい……」
カシウスの言葉に反発しようとしたシェラザードだったが、レナに諌められ自分の力の無さに怒りレナと共に別室に入った。

「さて………リウイ殿、まずはこちらをお読み下さい。」
レナとシェラザードが別室に入ったのを見届けると、自分の鞄の中から何重にも保護された一枚の嘆願書を出し、それをリウイに渡した。
「拝見しよう。」
嘆願書を受け取ったリウイはそれを端から端まで丁寧に読んだ。
「………なるほど。3国を始めとし、遊撃士協会、クロスベル警察が一丸となって異世界人である俺達に頭を下げさせるとはな……」
リウイはカシウスの手際の良さに感心した。
「その嘆願書にも書いてあるように、事件解決のためにどうかご協力を……!」
カシウスは机に両手をつけ、リウイに深く頭を下げた。
「………顔を上げてかまわん。こちらもその件に関して遊撃士協会に相談することがあったのでな。……ペテレーネ。」
「かしこまりました、リウイ様。」
リウイの意図がわかっていたペテレーネは一枚の地図を懐から出し、それを机に広げた。
「これは………まさか、教団の拠点ですか!?」
カシウスは地図に示してある印を食い入るように見て、驚愕した。
「なぜ、それがわかる……?……リスティか。ふう……あいつには情報の重要さを教えてやらねばな……」
リウイはカシウスが地図を見てすぐにわかった原因がリスティだとわかり、溜息を吐き、話始めた。
「我らも領民の安寧のためにいい加減やつらとは決着をつけたかったのでな……本格的に調べさせてもらった結果がそれだ。拠点が他国に散らばっている以上、さすがに兵を勝手に動かす訳にはいかなかったのでな……悩んだ結果、貴殿等遊撃士協会に仲介役にでもなってもらおうと思って来たのだがこの嘆願書を見る限り渡りに船のようだな。」
「ハッ!ギルドを始めとし、クロスベル警察、3国も事件解決のために精鋭を参加させてもらうつもりでいます!……それでリウイ殿、先ほどの嘆願書の件はいかがでしょう?もし、よろしければこちらを頂くだけでもいいので良い返事をお願いします!」
「王族として、また子を持つ親として当然我らメンフィル、教団壊滅作戦に全力を持って参加させてもらおう。」
「愛する娘を持つ母として、微力ながら私も参加させて頂きます。」
「ペテレーネ殿まで……ご協力、感謝いたします!」
2人の返事を聞き、カシウスは希望を持った顔で礼を言った。

「代わりにと言ってはなんだが、貴殿等に頼みがある。」
「私共にできることなら、何でも致します。どうぞ、おっしゃて下さい。」
条件を出されたカシウスは一瞬緊張したが、気を取り直しリウイに聞いた。
そしてリウイは教団による襲撃によって孤児になってしまった子供達のために、孤児院を作り、心の治療のために光の神殿で唯一闇夜の眷属の国、メンフィルと友好的な癒しの女神(イーリュン)教の信者達をゼムリア大陸に来させ、子供達の心の治療にあてること、そしてイーリュン教の布教の許可の手配を頼んだ。
「今まで唯一の女神、空の女神(エイドス)を信仰していたそちらにとってはこれ以上異教の信者が増えるのは我慢ならぬかもしれんが、頼まれてくれるか?」
「子供達のためでよければいくらでも協力させて頂きます……!私共のほうから七曜教会に言っておきますので一日でも早く親をなくした子供達の心を癒してあげて下さい。」
「ああ。」
カシウスはイーリュン教の活動内容、その教えをリウイとペテレーネから聞き安心し七曜教会との仲介を約束した。そして話し合いの結果、詳しい作戦内容は代表者達を集めて後日ということになり、リウイとカシウスは友好の証の一つとしてカシウスと握手をした。
「では、今後とも協力、お願いする。」
「ハッ!こちらこそお願い致します!」

そして2人は3人に見送られようとした時、ペテレーネが懐から紫色のブローチを出し、それをレナに渡した。
「あの……よろしければこちらをエステルさんにお渡し下さい。」
「これは……?」
「それは私が魔力を込めて作った厄除けのお守りのようなものです。所有者の潜在魔力を少しだけ上げる効果と混乱と毒を抑える効果を持っています。……命に危険が晒される遊撃士を目指すのですから、状態異常に耐性を持ってたほうがよろしいでしょう。」
「え……そんな凄い物を貰ってもよろしいのですか……?」
レナは渡されたブローチの効果を聞き、驚き聞いた。
「信者の方にもお守りとして配っているものですから、それほど大した品ではありません。ですから、遠慮なく受け取って下さい。」
「わかりました……きっとあの子も喜ぶと思います。」
そしてレナはペテレーネから貰ったブローチを大事そうに両手で包んだ。

そしてそれを見ていたシェラザードがペテレーネに真剣な顔で頭を下げた。
「あの……ペテレーネさん、お願いがあります!失礼と思いますがどうか、私に魔術を教えてもらえませんか!」
「魔術をですか?なぜ私に……?」
ペテレーネはシェラザードの唐突な願いに目を丸くした後、聞いた。
「私は今回の件で改めて、人を守る遊撃士として力の無さを感じました……ですから、力を補うためにも魔術の力が必要なのです!秘印術を使ってのアーライナの魔術は私には使えないと感じ、一度は諦めたのですが噂でペテレーネさんはアーライナの魔術以外も使うと聞いたことがあります!どうか、それを教えて頂けませんか!」
「……確かに秘印術を使えば、神を信仰していない人間の方でも魔術も使えますがそれを教えたからと言って、あなたが私と同じ魔術を使えるとは限りませんよ?人それぞれ適正の属性の魔術がありますから。」
「それでもです……お願いします!」
ペテレーネは必死に何度も頭を下げるシェラザードを見て、リウイと永遠に生きるために必死に神殿で修行したかつての自分を思い出し笑顔で答えた。
「わかりました……魔術の適正属性を調べることぐらいでしたら私でもできますので……それに例え私が使えない属性の魔術でも使えるようにある程度教えることはできますのでそれでもよければ、大使館の隣にある教会に来て下さい。時間がある時なら教えられますので。」
「ありがとうございます!」
シェラザードはペテレーネから返事を聞き笑顔でお礼を言った。

「では、戻るぞペテレーネ。」
「はい、リウイ様。」
そして2人はブライト家を去った。翌日目覚めたエステルは両親からペテレーネが来た事を聞き目を丸くした後、『聖女様が家に来たのにどうしておこしてくれなかったのよ!』と膨れたが、憧れている人が作ったブローチを母から渡され、機嫌が直りそれを宝物のように大事にした。

数日後、3国、遊撃士協会、クロスベル警察、そして異世界の国、メンフィルの精鋭達を加えた教団壊滅作戦の最終会議が始まろうとした………!






後書き シェラザード……FCでは物理、アーツ共にできる万能キャラでしたがパラメーターが本格的に差別されるSC、3rdでは、物理アタッカーのアガット、ジン、アーツアタッカーのクローゼやオリビエ達と違って中途半端な攻撃力しか持たなく、唯一の取り柄は味方の順番を上げるためにいるようなほぼ2軍キャラだったのでちょっとだけ優遇しました。……ちなみにエステル、ある幻燐キャラの魂を受け継いでいるのでさらに使える魔術の属性が増える予定です。やばい、エステルがセリカ並の反則キャラになってしまうかも……?
………さあて、レンをどうしようかな?感想お待ちしております。



[25124] 第17話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/02/10 23:45
~某所~
そこには教団壊滅作戦の指揮を執る事になったカシウス・ブライトを始めとした3国の名将、A級遊撃士、クロスベル警察の部署の中で最強と言われる部署の人物達がある人物達の登場を待っていた。そしてついにその人物達が姿を現した。

「……失礼する。」
「……失礼します。」
「は~い、よろしくね。」
「………失礼しますわ。」
その人物達とはリウイ達であった。リウイ達が姿を見せた時、ざわめきが大きくなった。
(まさか皇帝自らが参加するとは……メンフィルは王族自身が戦い兵を鼓舞するというのは噂だけではなかったのか……)
(へ~……聖女や将軍といいメンフィルは綺麗所だらけだな。あの皇帝、仏頂面に似合わずモテモテだな、アリオス。)
(……滅多なことを言うな、ガイ。)
(あれが我らエレボニア帝国を恐怖の底に叩き落とした悪魔共か……クソ!なぜやつらと共同作戦をとらねばならない!)
ざわめきの中でもエレボニアの軍人達はゼクスを除いてリウイ達を厳しい表情で見ていた。そして視線に気付いたファーミシルスはその中でゼクスの姿を見つけ、ニヤリとした。

「あらあら……どこかで見たと思えば、あの時部下全員を殺されたにも関わらずおめおめと逃げ帰った将じゃない。よくこの作戦に参加できたわね。」
「貴様、少将を侮辱するのか!」
ゼクスの傍に控えていた軍人の一人が声を上げファーミシルスを睨んだ。
「あら、私は事実を言ったまでよ?……まあ、見た所貴方達エレボニアはそいつ以外は話にならない強さだったわね。だったら仕方ないわね。」
「我らを侮辱するか……!」
挑発され、怒りを顔に表したエレボニアの軍人達は武器に手を掛けたがゼクスが一喝した。
「バカ者!これから一丸となって戦う同士に何故武器に手を掛ける!!」
「「「しかし、少将!」」」
「聞こえなかったのか!今すぐ武器から手を放せ!」
「「「クッ………」」」
ゼクスに一喝された軍人達は悔しそうな顔で武器から手を放した。
「……部下共が失礼をして申し訳ございません、ファーミシルス殿。」
「……いいわ。私の方も多少言いすぎたようだしね。」
ゼクスが素直に謝ったのを見てファーミシルスは感心し、自分の非も認めた。

そしてざわめきが一通り収まるのを見計らったカシウスが声を上げた。
「さて……全員揃いましたな。これより『D∴G教団壊滅作戦』を行いたいと思います!作戦は至って単純です。こちらをご覧下さい!」
「この印をされているのはなんだい?カシウス殿。」
セルゲイはカシウスが広げた地図に至る所に印がされてある部分を聞いた。
「メンフィルによって提供された、教団の”拠点”です。」
「へえ……たった数日で大陸中にあるこれほどの数の拠点を見つけるなんて、ぜひその方法を俺達警察にも教えてもらえないですかね?」
セルゲイは捜査が専門の一つである自分達が出し抜かれた不甲斐なさに溜息をつきながら冗談混じりにリウイに聞いた。
「………悪いが方法は教えられん。まあ、教えたとしてもお前達人間では決して真似できんが。」
「”闇夜の眷属”ならではの捜査方法ですか……羨ましいですな……」
セルゲイはリウイの遠回しな言い方で拠点を見つけた方法を推理し、メンフィル特有の人材の良さを羨ましく思った。

「では、続けさせて頂きます。具体的な作戦はこちらの拠点を一斉に制圧し、子供達を救出、そして犯人達の拘束です。みなさん、覚悟はよろしいですかな?」
カシウスの確認の言葉にその場にいる全員が頷いた。
「それでは具体的な各国の制圧メンバーの行く場所を今からいいます。まずこちらのA拠点ですが……」
そしてカシウスは次々と各国の精鋭達が行く拠点の場所を読み上げて行った。
「最後にこの拠点ですが……メンフィルの方々にお願いしてもよろしいですかな?」
「ああ。」
「お任せ下さい。」
「腕がなりますわ。」
「任せてよ!」
4人の頼もしい言葉に頷きカシウスは号令した。

「ではみなさんにエイドスとアーライナのご加護を!」
そして軍人や遊撃士達は出て行き、その場に残ったのはカシウスとリウイ達だけであった。
「……本当にこの拠点を俺達に当ててよかったのか?そちらの調書にも書いてあるが”そこ”は拠点の中でも特別だぞ。」
リウイはカシウスにその拠点の特別さを強調して確認した。
「……その拠点に関係するであろう人物達のことを考えれば、その者達と関係がない貴殿等でなければ頼めません。……信じたくはないのですが”ここ”を襲撃した際、”客人”を庇うメンバーが出る恐れもありますので……」
カシウスはリウイの問いに目を閉じて答えた。
「そうか……それとカシウス・ブライト。先ほど貴殿は犯人を拘束してくれと言ったが、悪いが俺達は犯人を”客人”ごと滅し、子供達の保護をするつもりだ。」
「………下手に”客人”が生きていては後々国家間で問題になるので、そのほうがいいでしょう。子供達の救出を優先的にお願いします……」
「わかった。」
そしてリウイ達も出て行きその場に残ったのはカシウス一人だった。
「快楽のためだけに幼い子供達を汚す薄汚い権力者共が……!俺達は裁けないが彼らなら裁いてくれるだろう。では、俺も行くか……」
カシウスは怒りの言葉を呟いた後、自分も作戦に参加するため出て行った。



深夜の森の中、リウイ達は拠点が見えると見張りに見つからないよう隠れて時間を待ち、ついにその時間が来た。
「……時間だ。行くぞ。」
「ええ!」
「ハッ!」
「かしこまりました!」
3人の返事に頷いたリウイはあることに気付いていて、それをファーミシルスとカーリアンに言った。
「……ファーミシルス、カーリアン。気付いているな?」
「ええ。この気配、人間にしては結構腕があるようね。」
「いかがななさいますか?」
「……警告だけしておけ。」
「ハッ!……闇に呑まれよ!ティルワンの闇界!!」
ファーミシルスは闇の奥に潜む存在に加減した魔術を放った。そしてそれを察知できなかったリウイ達を監視していた者達は回避もできず命中した。
「グハッ……!」
「くはっ!」
魔術が命中した監視者達は思わず呻き声を上げた。
そしてファーミシルスは呻き声を上げた方向に向かって叫んだ。
「今のは警告よ!私達の後をついてきたり、私達が戻って来た際まだいるつもりなら、今度は本気で殺すわよ!!」
警告をしたファーミシルスはリウイ達の方に向き直った。
「ではさっさと終わらせましょう、リウイ様。」
「ああ。」
そしてリウイ達は拠点へ進撃した。

一方ファーミシルスの魔術を受けた監視者――青年と少年は呻き声を上げながら起き上がった。
「……ア、無事か?」
「くっ……なんとか……まさか気配を悟られた上、僕達が攻撃を察知できないなんて……」
「……”闇夜の眷属”は人間より感覚が優れているというしな……それにこの暗闇の中であんな魔術を使われれば、例え察知能力が高いお前でもよけられまい……」
「それよりどうするの……ェ。結社からはあの拠点の襲撃の命令を受けたけど、これじゃあ任務どころか返り討ちにあってしまうよ……?」
「退くぞ……メンフィルがこの件に関わってきた際、『絶対に関わるな』。それも命令の一つだろう。」
「わかった………」
そして少年は音もなく木に飛び移り消えた。
「………あれがエレボニアを降したメンフィル皇帝か……機会があれば手合わせを願いたいものだ。」
リウイ達が進撃した方向を見た青年は一言呟いた後、気配を消しどこかへと消えた……



後書き アハハ……ここまでヒント出せば、リウイ達がどの拠点に行ったかわかっちゃいますよね……ちなみにリウイ達は今回の件が終わり、本編に移ればリフィアやプリネにバトンタッチしあまり出てきませんので、ご了承を……感想お待ちしております。



[25124] 第18話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/02/14 01:57
注意!今回の話は弱冠R15ですのでお気をつけ下さい。







~拠点内~
教団の中でも特別な拠点――今、そこはリウイ達の襲撃によって阿鼻叫喚が飛び交った。
「セアッ!!」
「グハッ……!」
リウイの持つ技でも高威力を持つ突剣技――フェヒテンケニヒによるレイピアの攻撃が教団員の腹に大きな風穴を空け
「行くわよ~それ、それ、それぇッ!」
「あ……?ギャァァァァ……!手が……足が……!」
カーリアンの目にも止まらない3連続攻撃を喰らった教団員は自分の体の一部がなくなったことに気付き叫びながら大量の血を流し死に
「行きます……!烈輝の陣!レイ=ルーン!!」
「「「「………ッ!!!???」」」」
ペテレーネの魔術は逃げようとした”客人”や教団員諸共巻き込み消滅させ
「連接剣のお味はいかが?ハッ!」
「グッ……そんな……私を……誰だと……!」
同じようにその場から逃げようとした客人の心臓をファーミシルスが放った連接剣が破壊し絶命させた。

「ファーミシルス!」
「ハッ!」
「お前は一端ここを出て、裏口や隠し扉等から逃げているであろう教団員や客人達を滅せよ!」
「お任せを!……ハァッ!!」
リウイの命令を受けたファーミシルスは逃亡者の追撃のため、広間で飛び上がり、天井を稲妻を帯びた連接剣で破壊してその場を離れた。
「カーリアン!俺とお前は二手に分かれて館内にいる奴らを一掃するぞ!もし、子供達がいたら優先的に保護をしろ!」
「わかったわ!」
カーリアンもリウイの命令を受け違う広間から部屋へ向かった。
「ペテレーネ!お前は俺と共に来い!」
「はい!私は常にリウイ様のお傍にいます……!」
ペテレーネもリウイの命令に頷きリウイと共に違う部屋へ向かった。

「ハァハァ……どうして、こんなことに……!」
拠点の異変を感じいち早く逃げだした客人の一人が息を切らせながら呟いた。
「クソ……!肝心な所では使えない奴らよ!とにかく我らは何事もなかったかのように戻りましょう。」
一人の客人が悪態をついた後、その場にいる客人達に提案した。
「ええ、それがよろしいでしょうな。」
提案に頷いた客人達は一刻も早く自分の屋敷に戻ろうとしたが、その時一人の客人が闇の魔槍に貫かれた。
「な……ガハ!」
貫かれた客人は血を大量に吐き絶命した。
「「「ヒ、ヒィィィィ……!!」」」
それを見たほかの客人達は慌て急いでその場から逃げようとしたが
「その身を溶かせ!強酸の暗礁壁!!」
「「「何も見えない……!ギャァァァァ!体が……と……け……る……」」」
空を飛んで追いついたファーミシルスが放った魔術を喰らい暗黒の壁に包まれた後、体がとけ消滅した。
「あ……あ……メンフィルの……堕天使……!」
ほかの客人達が殺され一人となった客人はファーミシルスの姿を見て、正体がわかり腰をぬかしてしまった。
「フン……堕天使ね……その呼び名を知っているということは、さてはエレボニアの貴族ね。……あの国も堕ちたものね。」
ファーミシルスは百日戦役の時、エレボニアから恐怖の対象としてある呼び名で呼ばれていたことを思い出し、目の前の客人の正体を悟り鼻をならした。
「頼む!金ならいくらでも出す!だから、どうか見逃してくれ!」
客人はファーミシルスに何度も土下座をして命乞いをした。
「フフ、誇り高き”飛天魔族”である私には不要よ。……今、私が欲しいのは貴様のような人間とはいえない屑の命よ!魔の雷に呑まれなさい!ハァァァァァ……!」
「ガァァァァァァ……!」
ファーミシルスの闇の雷を帯びた連接剣に体を裂かれた客人は叫びをあげながら消滅した。
「さて……そういえばまだ、逃げている連中が途中でいたわね……ハッ!」
そしてファーミシルスは遠くへ逃げた客人達を追いかける途中でもほかの客人や教団員がいたのを思い出し
殲滅するために飛び上がり戻って行った。、


「なぜです、聖女殿!混沌を望む女神の僕であるあなたがなぜ我々の邪魔をするのですか!?」
一方教団員と戦っている中でペテレーネの姿を見た一人の教団員が叫んだ。
「……確かにあなた達のやっていることもアーライナ様が望んでいることの一つです……でも!私にとっての”混沌”とはリウイ様と永遠に生き、リウイ様とイリーナ様の理想である人間と闇夜の眷属が共に生きる争いのない世界を作ることです!”混沌”の考え方は自由!ですから、あなた達を許さないのも私の”混沌”です!」
教団員の叫びにペテレーネは珍しく声を荒げ答えた。
「そういう訳だ。滅せよ!メーテアルザ !!」
「ギャァァァ……!!」
そしてリウイの技によって全身血だるまになり絶命した。
「クッ………かくなる上は!」
周りの死体を見てやけになった教団員の一人が懐から薬を出しそれを飲んだ。
「おお!力が沸いてくる……!ガァ!?アアアァァァッ……!」
「え……!?」
「何!?」
リウイとペテレーネはもはや人間とはいえない姿になった教団員を見て、驚いた。
「チ……カ……ラ……ガァ!」
化け物ともいえる教団員がペテレーネに向かって襲いかかったが
「……どうやら人を踏み外してしまったようだな……ならば遠慮はせん!……我が魔の血よ!目覚めよ!!」
「ガァァァァァ!?」
リウイが放ったすざましい闘気によりあっけなく消滅した。
「……ペテレーネ。今の薬に心当たりはないか?」
リウイはペテレーネにアーライナ教に伝授されている薬かと疑い聞いた。
「……混沌魔獣を作る上で必要な薬に少し似ているかと思います。ですけど材料もここ、ゼムリア大陸では手に入らないのに
一体どうやってここまでの薬を……」
リウイの疑問に答えたペテレーネは信じられないような顔で変貌した教団員の消滅後をしばらく見た。
「……今は考えている時間はない。子供達が優先だ。行くぞ。」
「はい、リウイ様!」
気を取り直したリウイはペテレーネと共に子供達を探しつつ教団員や客人達を殺していった。

そしてリウイ達はある部屋に入った。
「これは……!」
「そんな……!」
そこはに子供達と思われる頭や体の一部が散乱し、死体として無事だったものには白い液体らしきものがついていた。
部屋の惨状を見たリウイとペテレーネは驚いた後、怒り悲しんだ。
「金によって肥えた豚共が……!あの時、奴らに恐怖をさらに植えつけて殺すべきだったな……!」
「ごめんなさい……もっと私達が早くこれたら、こんなことには……!」
「………せめて、生存者がいるかどうかだけ確かめるぞ……」
「はい………」
悲痛な顔をしたリウイやペテレーネは地獄絵図となった部屋を散策すると体中に十字傷をつけ、倒れている少女を見つけた。
「もしかしてこの子……リウイ様!この子だけ生きています!」
少女に駆け寄ったペテレーネは少女の微かな鼓動を聞き、生きていることに驚いた。
「……人間とはこんな幼く酷い姿になっても生きているのか……ペテレーネ、回復を。」
「はい!……暗黒の癒しを……闇の息吹!」
ペテレーネが少女に手をかざすと少女の傷が完全に治り、規則正しく呼吸をし出した。
「よかった……それより、今の傷はなんだったんでしょう……?あれではまるで自分で傷つけたような……」
少女が助かったことに安心したペテレーネは少女の傷に疑問を持った。
「……先ほどの無数の十字傷(クロス)。おまえの言う通り自分でつけたものだろう。恐らくこの惨状から自分を保つために……な。」
「そんな……!例え、両親が生きていてもこの子自身が両親を受け入れないのでは……それにご両親も今のこの子を受け入れてくれるかどうか……」
リウイの答えを聞きペテレーネは少女の未来を心配した。
そして少女が目覚めた。
「ん……お姉さん達は誰……?」
「気がついたのね……私達はあなたを助けにきたのよ……」
少女が目覚め、リウイ達のことを聞きそれをペテレーネが優しく答えた。
「レンを……?もしかして、本当のパパとママ……?やっと来てくれたんだ……!」
「え……?」
ペテレーネは少女――レンが自分達を父と母と言ったことに戸惑った。それを聞いてリウイがレンに聞いた。
「本当の……か。以前の両親はどうしたんだ、レン。」
「偽物のパパとママを知りたいの?嫌だけどパパの頼みだから話してあげる。」
レンは話すのも嫌かのように両親のことを語った。誰かに預けられ、そして気付けば今に至ったことを。リウイとペテレーネは両親のことを聞き、何も言えなくなった。

「ねえ、あなた達がレンの本当のパパとママでしょ?うんって言ってよ……」
黙っているリウイ達を見てレンが不安そうな顔で聞いた。
「……ああ。お前は俺達の娘だ。……事情があってな、今まで会えなかったんだ。」
リウイが少女の言葉を認めたことに驚いたペテレーネは何か言おうとしたがリウイの『何も言うな』と訴える視線で黙った。
「よかった……!やっとレンは幸せになれるのね……!」
リウイの言葉を聞き、レンは心の底から笑顔になった。
「今は眠れ。疲れているだろう、おぶってやる、ほら。」
「わあ……パパってば逞しい背中ね……気持ちいい……すぅ……」
リウイにおぶられたレンはその気持ちの良さに目を閉じ、眠った。
「あの……リウイ様、本当にこの子を育てるのですか?」
レンが完全に眠ったのを見てペテレーネはリウイに聞いた。
「ああ、いつかこの子が自立するまで育ててやろうと思う。……プリネがいるのに相談もなしに勝手にお前の娘にしてしまってすまんな。」
「そんな……!私もそうしようかなと迷っていた所です!……プリネもきっとこの子のことを受け入れてくれると思います。」
「そうだな……お前には苦労をかけるな、ペテレーネ。」
「いいえ、私にとっては大したことではございませんので大丈夫です。」
「フ、そうか……カーリアン達と合流し、ここに散らばる子供達を供養するか……行くぞ。」
「はい、リウイ様。」
レンをおぶったリウイとペテレーネは一端部屋を出てカーリアンと合流した。
カーリアンはレンの事情を聞き目を伏せた後『そっか。わかったわ、リウイ!』と言って笑顔で答えた後、
ちょうど戻って来たファーミシルスを含めた4人で子供達の供養をして、最後に拠点をペテレーネの魔術で消滅させた後その場を去った。

こうしてゼムリア大陸を揺るがした『D∴G教団事件』で助けられた子供達はリウイ達が助けた少女とクロスベル警察が助けた少女の、たった2人という後味の悪い結果で終わった……







後書き みなさんのご要望通り、レンはメンフィル陣営になりました。もちろん戦闘キャラとしても前衛でありながら魔術を使える数少ないキャラで、原作以上の強さとなります。ちなみにレンは”天才”です。どの魔術を使えるかはみなさんなら予想できるかもしれませんね。ただし、FCの間は少しだけしか出さないつもりなのでご了承を……感想お待ちしております。



[25124] 外伝~黒翼の少女~前篇
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/02/16 19:12
外伝と書いてありますが実質続きの話なのでご安心を。気分的にタイトルを外伝にしちゃいました。




ゼムリア大陸を揺るがした”D∴G教団”事件でわずかな生き残りの子供である内の一人、少女レンはリウイ達――マーシルン家に引き取られ、非公式ながらメンフィル帝国の皇女扱いとなった。そしてもう一人の生き残りの少女は傷等を治癒するために医療の設備が最も発達している場所、クロスベル市にある聖ウルスラ病院に入院となった。

~クロスベル州・聖ウルスラ病院~
「すみません、クロスベル警察のガイといいます。例の少女の見舞いに来ました。」
「いつも御苦労さまです。」
少女を助けた教団壊滅作戦に参加したクロスベル警察のガイは毎日かかさず、少女の見舞いに来ていた。
「あれから、どうですか?」
ガイは入院してから一向に目を覚まさない少女を心配し、何か進展があったかを受付に聞いた。
「……いえ。ここに入院してから全く目を覚ましていません……」
「そうですか……」
暗い顔をした受付から今の状態を聞き、ガイも暗い顔になった。
「部屋はいつものところですか?」
「はい〇〇〇号室です。」
「わかりました。」
気を取り直したガイが少女が入院している病室に向かいドアを開けた。
そこには看護婦を纏めている婦長、マーサと少女を見ている医師がいた。

そしてガイに気付いたマーサはガイに話しかけた。
「あら、ガイさんじゃないかい。いつもすまないね。」
「いいんっすよ。俺が勝手にやっていることですから。それで、先生。実際どうなんですか?」
「悔しいがこの病院にいる全ての医師を総動員させたのだが、目覚めない原因が全くわからないんだ……」
医師は悔しそうな顔をして今の現状を話した。
「よっぽどショックなことがあって目を覚ましたくないのかね……」
マーサは少女の今までの境遇を考え、思わず呟いた。
「それもあるが、問題はこれだ。」
医師は少女をうつ伏せにして、少女の病院服を背中の部分だけ脱がすと、そこには天使に生えいているような小さな黒い翼が1対生えていた。
「レントゲンをとってみてわかったのだが、見事に骨と接合してしまっている。これでは翼だけを手術で取り除く事は不可能だ。……一体どうやって翼をつけたんだ?」
「恐らく奴らの”儀式”のせいでしょう……」
「なんて奴らだい……同じ人間だとは思えないよ……!」
医師の疑問をガイが答え、それを聞いたマーサは怒りを持った声で呟いた。
「それより、例えこの子が目をさまし成長した時、翼まで大きくなったら隠しようがないぞ……」
医師は少女が将来、翼があることで恐がられ迫害されるかもしれないことを遠回しに言った。
「それに関しては大丈夫だと思います。数年前ならともかく今は”闇夜の眷属”がいますから。最悪それで誤魔化すしかないでしょう。」
ガイは医師の心配の内の一つの解決策を出した。
「それしかないか……では、後は目を覚ます方法だな。もしかしたらと思って、七曜教会の”法術”も試してみたがダメだったしな……」
医師は自分達とは違う方向で医療が発達している七曜教会を頼ってみたが。自分達と同じく手の施しようがない今の現状に溜息をついた。
「先生、それでした最近始まった新しい宗教、癒しの女神(イーリュン)教の方に頼ったらどうです?噂では彼らは癒しを専門とした魔術を使えるそうですから、もしかしたら少女が目覚めさせてくれるか、目を覚まさせる方法がわかるかもしれませんよ?」
マーサは最近、看護婦の一部が信仰する宗教をイーリュン教に変えたこととイーリュンの教えと活動を聞いたのを思い出し、彼らに頼ることを提案した。
「私もそれを考えて、クロスベル市にいる信者から聞いたのだが実際に癒しの魔術が使えるのは極僅かでその者達は大陸中に広がって活動しているらしい。……ダメ元で一応使い手を呼んでもらったら何とか都合がついてな、明日には来てもらえる。」
「そうですか!だったら明日が楽しみですね……!」
ガイは医師の言葉を聞き、明日に希望を持った。


そして翌日ティアと同じく数少ないディル・リフィーナ出身のイーリュン信者で癒しの魔術を使えるシスターが来て少女の容体を見た。
「……どうですかシスター、治りますか?」
ガイは3人の中で代表して聞いた。
「………深い闇が少女の頭の中を支配しています。それが原因で目が覚めないのでしょう。これを祓うには魔力が相当の術者が必要です。……申し訳ありませんが私では力不足のため無理です。下手に闇を払おうとすると死や永久に目が覚めない可能性もありますので……」
少女を看終わったシスターは申し訳なさそうな顔で答えた。
「その凄い術者様ってのにシスターに心当たりはあるのですか?」
マーサは原因がわかりそれを取り除ける人物をシスターに聞いた。
「………2人ほど心当たりがいます。一人は私達の先頭に立って活動しているティア様ですね。あの方は魔神の血を引くお父様の強大な魔力を受け継いでいますから、私達人間が持つ魔力より強力な魔力を持っていますから可能でしょう。ただあの方は力が強い分、よりたくさんの方を癒すために各地を点々と廻っている上、皇女という身分のため時には本国に戻らなければならない時もありますから……皇女であるあの方が信者として活動できるのは陛下に願い、陛下の許しを得て活動していて、国の祭事等王族が参加しなければならない行事に今まであまり顔を出さなかったことにも引け目に感じていましたからもし、父親であるリウイ皇帝陛下や現皇帝であるシルヴァン様から何かで呼ばれたら断りづらいでしょう……呼べるのは早くても半年か一年後になるかと思われます。」
「そうですか……それでもう一人は?」
ガイはシスターの答えを聞き、もう一人の少女を治せる人物を聞いた。
「もう一人の方は私達とは違う神を信仰している方です。どちらかというとティア様よりその方がここ、ゼムリア大陸では知られていますね。……名前はペテレーネ・セラ様です。あの方は信仰する神は違いますが、他者を労わる気持ちは私達と同じだと思いますのできっと力になってくれると思います。」
「”闇の聖女”ですか……確かに彼女なら可能かもしれませんが……」
医師はもう一人の名前を聞き、たった一人の少女のために宗教の頂点に立っているであろう人物を呼び出せるのかわからず唸った。
「……その人でもこの少女を治せるんですね?」
しばらくの間考えたガイはシスターに確認した。
「ええ。どちらかというと闇側の神を信仰している彼女のほうが治しやすいと思います。私達ができるのは光の加護で”祓う”ことなのでどうしてもその際、少女に苦痛を与えてしまうのですが、彼女なら少女に苦痛を与えず治せる方法を知っていると思いますし、神格者なのでティア様以上に強大な魔力を持っていますから大丈夫だと思われます。」
「そうですか……すみません!俺、急用が出来たので失礼します!」
「ちょっと待ちな、ガイさん!?」
シスターの話を聞いたガイはマーサの呼び止める声が聞こえる前に、病室を出て急いで警察署内にある自分の所属課の部屋に向かった。

「セルゲイさん、有給を使わしてくれ!」
ガイは警察署の自分達の所属課の部屋に入るなり言った。
「いきなりなんだ、ガイ。理由を言ってみろ。」
ガイの突然の言動に驚いたセルゲイはガイに聞いた。
そしてガイは今も目覚めない少女のためにペテレーネに治してもらうため、急遽リベールへ行くために休暇を取る事を言った。
「……今は例の事件の報告を纏めているだけだから休暇はいいんだがガイ、お前が会おうとしている人物は俺達みたいな身分のない奴がそうそう会えるとは思えない人物とわかっているのか?」
「大丈夫です、なんとかしてみます!すみません、急ぐのでこれで失礼します!」
「おい、ガイ!」
セルゲイの制止の声を聞かずガイは部屋を出て行った。
そして後に残されたセルゲイとガイの同僚のアリオスはガイが出て行った扉をしばらく黙って見た後、アリオスが口を開いた。
「……いいんですか、セルゲイさん。」
「いいも何も本人がいなきゃ俺達がグダグダ言っても無駄だろう……」
セルゲイは一言嘆いた後、溜息をついた。
「それよりわかってんのかね、あいつは。闇の聖女に会うのがどれほど難しいか。」
「……というと?」
「闇の聖女はアーライナ教のトップでさまざまな強力な魔術を使う術者として有名で忘れがちだが、メンフィル皇帝の側室でもあるんだから皇族でもあるんだぜ。そんな身分のある人物と会う約束もなしで会えると思うか?」
「まあ、案外会ってくれるかもしれませんよ。あの作戦の時の自己紹介を聞く限り身分に拘っている人物にも見えませんでしたが。」
「本人に会う前に門番とかが取り次いでくれるか心配なんだよな……トラブルを起こさなきゃいいんだが……」
セルゲイはガイがメンフィルとトラブルを起こさないよう心の中で祈った。




後書き
ここまで書けばわかると思いますが零のあのキャラは儀式の結果、純粋な人間から離れちゃいました。というか原作でも超感覚を手に入れるだけでよく体に異常がなかったなと思いましたね。なのでこんな結果になってもおかしくないと思います。それと『焔の軌跡』の続きを期待している方はもう少しだけお待ち下さい。エステルやリフィアが旅立つ頃に一端区切ろうと思っていますので。感想お待ちしております。



[25124] 外伝~黒翼の少女~後篇
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/02/20 19:56
~メンフィル大使館前~
「頼む、闇の聖女と会わしてくれ!」
ロレントにあるアーライナ教の聖堂を尋ねたガイだったが今は大使館内にいることを聞き、大使館の門番に面会を希望した。
「なんだ貴様は!約束もなしにお忙しいペテレーネ様に会えると思っているのか!」
門番は当然のごとくガイの面会を断った。
「人の命がかかっているんだ!頼む、会わしてくれ!」
「黙れ!これ以上騒ぐと痛い目にあうぞ!?」
「……さわがしいな。何があった。」
そこに仕事の息抜きをしていたリウイが騒ぎを聞き、門の所に来た。リウイを見た門番達は慌てて敬礼した。
「へ、陛下!」
「お騒がせして申し訳ありません!今すぐこの者をつまみ出しますので!」
「かまわん。そこにいる者が原因か。……うん?お前は確か教団の拠点制圧に参加したクロスベル警察の者だったな。クロスベルからわざわざこんなところに何の用だ。」
「あんたはメンフィル皇帝!ちょどよかった、頼む!闇の聖女に会わしてくれ!」
「貴様、陛下に向かってその口の聞き方と無礼はなんだ!?」
リウイに詰め寄ろうとし門番に取り押さえられながらもガイはリウイにペテレーネに会わすように必死で頼んだ。
「ペテレーネに用か?珍しいな。……放してやれ。」
「「ハッ!」」
リウイの命令を受けて門番達はガイを取り押さえるのをやめた。
「会わしてくれるのか!?」
門番に放されたガイは希望を持った顔でリウイに聞いた。
「こんなところで立ち話もなんだ。中で話を聞こう。」
そしてガイは会議室に入り、呼ばれたペテレーネを交えてここに来た経緯を話した。


「……という訳なんだ。頼む、忙しいのはわかっているが少女を助けてくれ!」
「……その症状でしたら確かに私かティアさんなら可能と思いますが、リウイ様。よろしいでしょうか?」
ペテレーネはリウイに大使館を少しだけ離れる許可を聞いた。
「ああ。……ただし俺もついて行く。”儀式”の影響で翼がついてしまったその少女に一言言いたいことがあるしな……(クロスベルか。ちょうどいい、あの二人の縁者もそこだったな。少女を治した後会いに行くか……)」
「頼みを聞いてくれて感謝する!早速で悪いんだが今から来てくれねえか?」
「いいだろう。軽い旅支度をして行くぞ、ペテレーネ。」
「はい、リウイ様。」
2人から良い返事を貰ったガイは笑顔でお礼を言い、少女の所に向かうためにリウイ達と共に会議室を出た時、たまたま通りがかったレンと出会った。
「あ、パパとママ!そこにいるお兄さんはだあれ?」
レンはリウイとペテレーネに近寄りガイのことを聞いた。
「……実はそこにいる男の妹が重い病にかかってしまってな……治せるのはペテレーネだけだそうだから、こうして頼みに来たそうだ。それでペテレーネは快く頼みを承諾してな、俺もそのつきそいで外国へ行ってくる。1週間ぐらい留守にするからそれまではプリネ達と共に留守番をしてくれ。何、連絡は通信を使って毎日するから、安心しろ。」
「は~い。パパ達が帰ってくるまでレン、お姉様達といっしょに待っているからお土産よろしくね。」
リウイの頼みを聞いたレンは快く返事をした。
「ええ、だからいい子にして待っててね。」
ペテレーネはその場でしゃがみ、レンと目を合わせ頭を撫でた。
「(気持ちいい……)うん!レン、いい子にして待っているわ!」
頭を撫でられたレンは気持ちよさそうな顔をした後、笑顔で答えた。
「さっきから気になってたんだが、この子もメンフィル皇帝、あんたの子供なのか?」
3人のやり取りを見ていたガイはリウイに聞いた。
「……ああ。レン、自己紹介を。」
「はい、パパ。……ご紹介が遅れ、申し訳ありません。メンフィル皇女、レン・マーシルンです。どうぞよろしくお願いします。」
リウイに自分の事を紹介するように促されたレンは、短期間で身についた王族としての行儀作法でガイに挨拶をした。
「っと、これはご丁寧に……クロスベル警察のガイ・バニングスだ。ちょっとだけお父さんとお母さんを借りるのを許してくれ。」
「フフ、ママは奇跡を起こす聖女としても有名ですから仕方ありません。いつものことなので気にしないで下さい。」
ガイの軽い謝罪を受けたレンは上品に笑いながら、気にしていないことを言った。
「それより、レン。どこかに向かっていたんじゃないの?」
「あ、いっけない!ファーミシルスお姉さんやカーリアンお姉さんに戦い方を教えてもらう約束の時間で早く教えてもらうために急いでたんだわ!……それでは失礼いたします。」
ペテレーネの言葉で本来の目的を思い出したレンは、ガイにお辞儀をした後その場を去った。

「なあ、気付いたんだが今の娘、あの作戦でわずかに生き残っていたもう一人の少女じゃないのか?」
レンのことをよく見て、あることに気付いたガイはリウイ達に自分の持っている疑問を聞いた。
「………ああ、そうだ。あの娘は俺達と血の繋がりはない。」
「だったらどうして……あの娘にも親がいるんじゃねえのか?」
「……申し訳ありませんがあの娘にもいろいろ複雑な事情があるんです。……だからこれ以上の詮索はしないで下さい。」
ペテレーネの言葉を受けたガイは謝罪した。
「っと悪い。失言だったな。すまねえ。」
「何、気にするな。」
そしてリウイ達は一般の飛行艇を使ってクロスベルへ向かった。


~ウルスラ病院内~
「失礼するぜ。」
「あら、ガイさん。昨日、急に飛び出しちまってビックリしたけどどこに行ってたんだい?」
ガイに気付いたマーサは何をしていたか聞いた。
「ああ、ある人をここに連れてくるためにちょっとリベールまで行ってたんだ。」
「ある人?だれかね、その方は?」
ガイの言葉に疑問を持った医師は聞いた。
「まあ、会えばわかるよ。……ここにいる少女がそうだ。頼む。」
「はい。」
「ああ。」
ガイの言葉を受けてリウイとペテレーネは病室に入った。2人の姿をみて、医師とマーサは驚愕した。
「おや、まあ……!聖女様にメンフィルの皇帝様じゃないかい!」
「なんと……!まさかたった一人のために聖女殿がわざわざこんなところまで足を運んで下さるなんて……それにメンフィル皇帝殿まで……!」
「私がその子を治したいと思って来ているだけですから気にしないで下さい。………なるほど、何があったのかはわかりませんが強力な
闇がこの子の頭の中に集中していますね……」
ペテレーネは少女に近づき状態を確かめた後、少女の額の所に両手をかざした。するとペテレーネの両手から紫色の光が出、やがて紫色の光は少女の体全体に広がり消えた。
「……今のはどういった治療の仕方なんでしょうか?」
医師はペテレーネの魔術を目にして驚いた後、効果を聞いた。
「……この子の頭の中にあった強力な闇を体全体に行き渡らすことで脳内にあった闇をなくしました。恐らくもうすぐ目を覚ますと思います。」
「今、闇を体全体に行き渡らすって言ったけど大丈夫なのか?」
ガイはペテレーネの言葉を聞き、心配になって聞いた。
「ええ。むしろ体全体に行き渡らすことで、闇の恩恵を受けれるようになりましたから、私が使っているアーライナ教の魔術が恐らく使えるようになっていると思います。」
「へえ~……」
答えを聞いたガイは感心した声を出した。そして少女が目を覚ました。

「こ……こ……は……?」
「気がついたのか!ここは病院だ、もう恐い目に会わなくて済むんだぜ!」
少女が目を覚ました事にいち早く気付いたガイは少女に話しかけた。
「病……院……?」
「ああ、そうだ。具合は悪くないかね?」
医師も少女に状態を聞いた。
「いえ………別に……今まで目の前が真っ暗だったのですがそれが取れたので目を覚ませたと思います……体にも特に異常は……!?」
医師の質問に答えた少女は背中にある違和感があるのに気付き、その部分を手で触った。
「え……これ……は……翼……!?」
少女は自分の背中に翼が生えている事に驚き、信じられないような顔をした。
「気の毒と思うんだけど……見てもらえばわかるわ。」
マーサは手鏡を少女に自分の背中が見えるようにした。そして自分の背中に黒い翼がついていることを認識した少女は渇いた声で笑った。
「あはは……感覚が鋭くなった上この翼……私……とうとう人間じゃなくなったんですね………どうして私みたいな化け物が生きているのでしょう……?」
「バカ野郎!」
少女の自虐の言葉を聞きガイが一喝した。
「え……?」
「命を粗末に扱うんじゃねえ!感覚が鋭くなった?翼が生えた?そんなことよりまず、助かったことに喜べよ!」
「………………でも、この翼は今は小さいからいいですけど……大きくなった時どうやって隠せれば………」
ガイに叱責され少女はしばらくの間、黙っていたが一言呟いた。
「……その事に関してですけど、もしよければ翼を隠せる方法を教えてもいいですよ。」
少女を見兼ねたペテレーネがある提案をした。

「あなたは………?」
「私はアーライナの神官、ペテレーネ・セラです。あなたは?」
「………ティオ・プラトー………」
「ティオ……いい名前ですね。ティオさん、魔力を感じていませんか?」
「………はい。何かが体を包んでいるのがわかります。魔力かどうかはわかりませんが………」
「幸か不幸かわからないけど、ティオさん。あなたには魔術師としての才能があります。今回の件でそれも目覚めてしまったようです。もし、短期間でもよければ私が魔術や魔力の使い方を教えます。」
「………それが翼を隠す方法と何か関係があるのですか……?」
少女――ティオはペテレーネの提案に戸惑い聞いた。
「ええ。魔力を背中部分を覆うことによって翼が見えないようにし、最終的に幻影の魔術を使って普通の人間の背中に見えるようにします。……こんなことができる方はよっぽど限られてきますが、あなたなら練習すればできると思いますよ?」
「……そうですか。一応お願いします………」
ティオは少しの間考えてペテレーネの提案を受けた。
「はい、わかりました。……すみませんが1週間ほど、この病院で寝泊りをしてもよろしいでしょうか?」
ペテレーネは医師やマーサに病院に寝泊りする許可を聞いた。
「聖女殿のような方がこの病院に寝泊りするなんて……!我々や患者達の励みにもなりますのでぜひ、お願いします。」
「先生の言う通り、お願いします。」
2人は恐縮しながらも答えた。
「ありがとうございます………リウイ様、申し訳ありませんがクロスベルを発つ時までこの子に付きっきりで魔術を教えなくてはならないのですが、よろしいでしょうか?」
「かまわん。俺はクロスベル市にあるホテルにいるから、何かあればそこに連絡してくれ。」
「かしこまりました。」
そしてリウイはティオに近づいた。
「あの……?」
リウイを見上げたティオは戸惑った。
「ティオと言ったか………もし、どうしても周りの環境になじめないというのなら、ここを訪ねてこい。」
リウイは一枚の封筒をティオに手渡した。
「メンフィル大使館……?もしかしてあなた達は”闇夜の眷属”なのですか?」
ティオは手渡された封筒に書いてある住所を見てリウイに尋ねた。
「ああ。その封筒の中に入ってある手紙を門番にでもみせれば俺達に会えるようにしてある。……俺達”闇夜の眷属”は人間に迫害された存在の中でも秩序と調和を重んじる集まりでもある。………もし”人間”として生きれなく”闇夜の眷属”として生きたいのであればここを訪ねて来い。その時はお前を”仲間”として暖かく迎えてやる。」
「………………………はい。その時はお願いします……………」
ティオはリウイの言葉を受けて、視線を封筒に戻し少しの間黙っていたが、答えた。
「そうか。では俺はこれで失礼する。ペテレーネ、後は頼んだぞ。」
「はい、リウイ様。」
そしてリウイはティオのことをペテレーネに任せ病院から去った。

そしてティオは短期間でありながらもペテレーネに魔術や魔力の使い方を教えられ、必死に練習した結果ペテレーネがクロスベルを去る頃には、なんとか翼を隠せることに成功した。この練習が後に数年後にクロスベル警察のある部署の大きな助けとなる人物になる始まりの一歩目だった………






後書き 零の軌跡での魔術使い誕生です。ちなみにティオもエリィと同様原作通りにしますのでこちらもチートの予感………考えてみればティオって原作でも十分反則クラスですよね?オーブメントは零では唯一の全連結でATSも零ではナンバー1で、敵の情報&防御減少技に、複数の状態異常&体力回復技、100%凍結技、そして最後は味方全員完全防御技を覚えるのですから、これに魔術を覚えたらどこまで強くなるんだろう……ティオのSクラフトでVERITAのセリカの魔剣Mクラス技に似たものや魔導鎧の技まで考えちゃってます^^次も外伝を書くつもりですが一応続きものです。感想お待ちしております。



[25124] 外伝~イリーナの決意~前篇
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/07/12 17:27
~クロスベル市内~
ペテレーネがティオに魔術を教えている間、リウイは今もメンフィル大使館で預かっている少女達――イリーナとエリィの縁者、祖父のヘンリー・マグダエル市長宅に向かって着いてドアをノックした。

コンコン
ノックを聞き、市長に仕えているであろう執事がドアを開け姿を現した。
「……どちら様でしょうか?」
「メンフィル大使、リウイ・マーシルンだ。イリーナ・マグダエルとエリィ・マグダエルの件について話すことがあったのでこうして参上した。約束もなしで急で悪いが市長殿と会えるか?」
リウイが名乗り上げると執事は目を見開き驚いた。
「なんと……!メンフィルの皇帝陛下でございましたか……!これは失礼して申し訳ありません!今すぐ主人に話して来ますので申し訳ありませんが少しの間だけお待ち下さい!」
「ああ。」
執事はリウイの返事を聞くと急いで書斎で仕事をしているマグダエル市長に報告した。

「旦那様、リウイ皇帝陛下がイリーナお嬢様とエリィお嬢様の件で話すことがあるので、今入口の所でお待ちになっております!」
「何!?どうしてリウイ皇帝陛下がイリーナ達のことを……?とにかく会おう。すぐに客室にお通ししてくれ。私も今すぐ向かう!」
「かしこまりました!」
市長はリウイの突然の訪問と、最近行方がわからなかった娘夫婦の子供達の件をなぜリウイが報告をしに来たのかと驚いたが気を取り直し執事にリウイを客室に通すよう指示して、市長自身も客室へ向かった。そして市長とリウイは対面した。
「……メンフィル大使、リウイ・マーシルンだ。連絡もなしに突然の訪問に答えてくれて感謝する。」
「そんな!これぐらいのことで陛下に感謝されるとは恐れ多いです……!………それで、孫達のことでリベールからはるばる来たとおっしゃいましたがあの子達の行方がわかったのでしょうか?……実は最近娘夫婦と連絡が取れなくて探していたのですが……」
リウイの感謝に市長は恐縮した後、本題に入った。
「ああ。イリーナ・マグダエルとエリィ・マグダエルは今メンフィル大使館で預かっている。」
「なんと……!一体なぜそんなことに……?」
市長はリウイの言葉を聞いて驚いた後、メンフィルが孫達をなぜ預かった経緯を聞いた。そしてリウイは話した。2人の両親が最近世間を騒がしていた子供達を誘拐していた犯行グループに殺されたこと。イリーナとエリィは幸運にもたまたまその場にいたリウイの娘であるプリネに保護され、プリネに2人を事件が解決するまで大使館で預かるように嘆願されたのでそれに答えたこと。そして事件が解決したのでこうして2人の無事を知らせに来たことを話した。

「そんな……!もう娘達がエイドスの所に召されていたなんて………!………どうりでいくら手紙や通信をしても連絡がない訳です………」
市長は娘夫婦の訃報を聞き、ショックを受け両手から力が抜けた後、顔を下に向けた。
「心中お察しする………預かった2人の安全を考え、事件が解決するまで連絡しなかったことには謝罪する。」
「………いえ、孫達のことを考えての行動としてはあの時はそちらの方が安全です。………孫達を救い今まで守ってくださってありがとうございました………」
市長は孫達だけでも生きていることに希望を持ちリウイにお礼を言った。
「俺達は王族としての義務を果たしたまでだ……それで、2人をどうする?」
「当然私が育てます!迎えに行かせていただいてもよろしいでしょうか?」
「……かまわん。ただ後2、3日ほどクロスベルで用事があるので待ってほしい。クロスベルを発つ時、必ず連絡はする。」
リウイは今は亡き愛妻が転生した可能性のある少女が自分の許を離れる事に一瞬だけ迷ったが、気を取り直し答えた。
「わかりました。連絡をお待ちしております。」
「ああ。………それでは失礼する。」
そしてリウイは市長邸を後にした。

ホテルへの帰り道、リウイは赤ん坊を抱いて幸せそうにしている夫婦に気付いた。
「うん?あれは………」
リウイはその家族を見て少しだけ驚いた。なぜなら、その夫婦は報告にあったレンの両親でもあったのだ。
「ふふ、本当に可愛いね。お前にそっくりだよ。」
「ほ~らよしよし」
女性は抱いている赤ん坊をあやしていた。
「ふふ、前の子はあんなことになってしまったけれど……でもよかった。女神様は私達をお見捨てにならなかったんだわ。」
「おいおいその話はしない約束だろう?昔のことはもう忘れよう。」
「ええ……哀しいけれどその方があの子のためよね……おお、よしよしいい子でちゅね~」
「あぶぅ、あぶぅ。」
赤ん坊は女性に甘え、また女性も笑顔であやしていた。
(………下衆共が………!………あの親子をどうするかはレン次第だ。俺達がどうこう言う事ではない。俺達ができるのはあの子を見守り立派な大人に育てるだけだ………
ヘイワーズ夫妻よ、今はいいがその子供が成長するに従ってお前達はきっと捨てた娘のことを思い出し後悔する。その罪をどう償い、捨てた娘とどう向き合うかはお前達次第だ……今は偽りの幸福をかみしめるがいい……!)

リウイはレンを忘れようとしている実の両親を心の中で怒った後、踵を返しホテルへ向かった……



後書き タイトルにイリーナとか書いてるくせに今回は出てこなくてすみません!後篇には出しますのでお待ち下さい。感想お待ちしております。



[25124] 外伝~イリーナの決意~後篇
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/02/22 02:03
~メンフィル大使館~
ティオを治療したペテレーネと孫を迎えに来たマグダエル市長と共にリウイはメンフィル大使館に帰還した。
「今、戻った。」
「御苦労様です。」
「「お帰りなさいませ!陛下、ペテレーネ様!」」
門番達はリウイとペテレーネに敬礼をした。
「この者は今、大使館で預かっている姉妹の縁者で姉妹を迎えに来たそうだ。通してやってくれ。」
リウイは後ろにいた市長を通すように言った。
「「ハッ!!」」
門番達はリウイの命令を忠実に聞き、門を開けた。そしてリウイ達は大使館内に入り兵士やメイドに姉妹がどこにいるかを聞き、プリネと共にいると聞いた後プリネの部屋に入った。

部屋にはプリネやリフィアと談笑していたイリーナとエリィがいた。
「入るぞ、プリネ、リフィア。」
「おお、リウイにペテレーネ!帰ったか。」
「あ、お父様にお母様。お帰りなさい。……そちらの方は?」
プリネは父と母に気付いた後、見知らぬ老紳士のことを聞いた。老紳士を見てイリーナとエリィは駆け寄った。
「「お爺様!!」」
「おお……イリーナ……エリィ……2人が無事でよかった……!!」
市長は駆け寄った2人を強く抱きしめた。
「ひっく……お父様とお母様が……」
祖父と会って安心したエリィは涙を流しながら両親の訃報を言った。
「……陛下から一連の出来事は聞いているよ……これからはあの娘達に変わって私がお前達を育てる。いいかい?」
「うん……!」
祖父の言葉を受けエリィは笑顔で答えたがイリーナは何かを考えているようで答えなかった。
「どうしたんだい、イリーナ?」
イリーナの様子がおかしく思い、市長はイリーナに何を考えているのかを聞いた。
「…………ごめんなさい、お爺様。私、やりたいことがあってお爺様達といっしょに暮らせないわ。」
「お姉様!?」
エリィは姉から自分達といっしょに暮らせないことを聞き、驚いた。
「やりたいこと?一体なぜ、それで私達と暮らせないのかい?」
「………うん、訳を話すからちょっとだけ待って下さい。……リフィア様、あの時の勧誘はまだ有効ですか?」
「ふむ、あの時の勧誘とはなんじゃ?」
突然話をふられたリフィアは要領を得ずイリーナに聞いた。

「………陛下達と初めて拝見した時、私の名前を聞いて私にマーシルン家に仕えてみないかという話です。」
「おお、その件か!もちろん、今でもその勧誘は有効じゃ!お主の事は今でも気にいっておるしな!余の言葉に偽りはない!」
「そうですか………返事が遅くなりましたがその件、私なんかでよければお受けしてもよろしいでしょうか?」
「何……!?」
リウイは目を見開いて驚き
「え………」
ペテレーネも同じように驚き
「本気なのですか……?」
プリネは信じられないような顔をして驚き
「お姉様……!?」
エリィは思わず声を出し
「イリーナ!?」
市長はイリーナがなぜ、そんなことを言い出したのかが理解できず叫び
「おお、そうか!お主を歓迎するぞ、イリーナ!」
リフィアだけは笑顔で歓迎した。

「お姉様、どうして!?」
エリィはイリーナに詰め寄り理由を聞いた。
「うん………メンフィル帝国の方々に私の願いを聞いてもらった恩を何かの形で返せればいいなとここに来てずっと考えてきたら、リフィア様の提案がちょうどよかったの……」
「………その件に関して別に気にやむ必要はないぞ。どの道、俺達も例の事件の解決には乗り出すつもりでいたからな。……俺達のことは気にせず残された家族と幸せに暮らすがいい。」
気を取り直したリウイはイリーナに考え直すように言った。だがイリーナはリウイの言葉を否定するように首を横に振って答えた。
「いいえ、それだけではありません。………両親が死んで塞ぎこんでいた私達をリフィア様やプリネ様、エヴリーヌ様にずっと励まされてきました。その恩にも報いたいのです!……それに私自身、見ず知らずの私達を暖かく受け入れてくれたマーシルン家の方々に仕えたいのです!」
「イリーナ………」
「お姉様………」
イリーナの決意を持った言葉を聞き、市長とエリィは何も言い返せなくなった。
(………マーシルン家に仕えたい……か………何があったかはわからぬが見た所次期皇帝のリフィア様や、陛下の側室の一人でアーライナ教の教祖でもある”闇の聖女”殿のご息女であるプリネ様にこれほど気にいられているのなら、恐らく将来的にリフィア様かプリネ様専属の侍女になる可能性もあるな……メンフィルはあのエレボニアすら破った強国だ……そんな強国の王族に直接仕えるとなるとそれなりの身分にもなるし、身の安全も保障されるだろう………クロスベルで渦巻く混沌とした政治を見て育つより、仕えたいと思う人から大事にされ、王族から身分を保障される仕事に就ける事のほうが幸せかもしれないな……)
市長はイリーナの将来を考え、メンフィルに預けた方がいいと思い、溜息をついた後イリーナに確認した。
「イリーナ。本気でマーシルン家に仕えたいのかい?」
「はい!」
「王族に仕えるまでの道のりは決して楽ではないだろう。それでもいいのかい?」
「覚悟の上です!どんな苦しい道になろうとも私はプリネ様達に仕えたいのです!」
「イリーナさん……」
「うむ、良い心がけじゃ!ますます気にいったぞ!」
イリーナが自分達に仕えたいとはっきり言ったことを聞き、プリネは感動し、リフィアはイリーナの事をさらに気にいった。

「わかった……陛下、よろしいでしょうか?」
市長はイリーナの決意は覆らないと感じ、諦めてリウイにメンフィルにイリーナを預けてもいいかを聞いた。
「俺はかまわんが……いいのか?残された孫の片割れといっしょにいなくて。」
「はい。……孫が進みたい道を見つけたのなら私はそれを応援するまでです。」
「了解した……俺達に仕えたいと言ったあの少女には一般教育はもちろんの事、侍女や淑女としても立派な教育をしておくし、もちろん身の安全も保障するから安心しろ。……リフィアも言っていたが将来、リフィアかプリネ専属の侍女として仕えてもらうことになるだろう。その際はそれなりの身分も与えよう。」
「ありがとうございます。」
市長の頼みをリウイは内心イリーナが残ることに複雑な感情を持ったがそれを顔に出すことなく快く受けた。

そしてイリーナはイリーナに払う賃金や大使館で働いているイリーナに連絡をとる際の手順や面会の手順を市長に説明しているリウイを見つめて思った。
(嘘をついてごめんなさいお爺様、エリィ……さっき言ったことは本当だけど、一番の理由はリウイ陛下の事を思うとなぜ、胸が張り裂けそうになり、愛しく思う気持ちになるか
を知りたいの……!)
イリーナは人知れず早くなっている胸の鼓動を抑えるように胸を片手にあてた。
「お姉様?どうしたの?」
姉の異変を感じたエリィはイリーナに聞いた。
「……なんでもないわ。……それよりごめんね、エリィ……一緒に暮らせなくて……」
気を取り直しイリーナはエリィに一緒に暮らせないことを謝った。
「ううん、いいの。リウイ陛下はもちろんの事、メンフィル王家の方々は私達みたいな身分がはるかに離れている子供に気易く接してくれて凄く優しかったものね……お姉様の気持ち、わからなくはないわ。」
エリィは寂しそうな顔で笑った。
「エリィ………毎日連絡を取るからあなたも私のように自分の進むべき道を見つけるよう頑張ってね!」
「うん……お姉様も頑張って!」
姉妹は別れを惜しんだが、市長とエリィがロレントの空港で別れる時には2人とも笑顔で別れた。

そして数年後…………





後書き みなさんも予想したと思いますがイリーナはメンフィル陣営に残留しました。と言ってもFCではあまり出番がないのですが……というかVERITAキャラやプリネを除いてリウイ達、旧幻燐キャラは基本、エステル達の冒険にはあまり出せません。エステル達について行く口実とかないですし。というかリフィア達がいる上、エステルが原作より強化されているだけでも反則なんですけどね………ちなみにどうでもいいことですがメンフィル大使館内のBGMは”高貴なる御所”か”英雄集結”でリウイのBGMはもちろん”覇道”です!”覇道”はVERITAの曲の中でも最も気にいってる曲ですね。まさにリウイにピッタリの曲ですし正史ルートラスボスの曲でもありましたから。ただのダンジョン曲にしてはカッコよすぎだろ!ってつっこんじゃいました。………感想お待ちしております。



[25124] 第19話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/02/23 20:55
~ロレント郊外・ブライト家 朝~

チュンチュン……
朝の小鳥が鳴く声と朝日のまぶしさにエステルは目覚めた。
「う~~まぶし。もう朝か……今日の当番はお母さんだったわね。
ヨシュアはまだ寝てるのかな……」

エステルは目覚めた後、数年前に義弟になったヨシュアがまだ寝てるのかを少し考え出すと
ハーモニカの音とが聞こえてきた。

~~~~~~~~~~~♪ 
「あは、もう起きているみたいね。よーし、あたしも支度しよっと。……パズモ!」
エステルがパズモを呼ぶといつものように小さな竜巻が起こり、その中からパズモが姿を現した。
「おはよう、パズモ!」
(おはよう、エステル。)
「今日もよろしくね!」
(ええ。)
そしてエステルはいつもの服に着替えるとパズモと共に2階のベランダに出た。そこには目の前にはハーモニカを吹いているヨシュアがいた。ヨシュアがハーモニカを吹き終わるとエステルは拍手をした。
パチパチパチパチ………
「ひゅー、ひゅー、やるじゃないヨシュア。」
「おはよう、エステル、パズモ。ごめん、もしかして起こしちゃった?」
「ううん、ちょうど起きた所よ。でもヨシュアったら朝からキザなんだから~お姉さん、聞き惚れちゃったわ~」
(そうね、確かに上手いわね。)
エステルのからかいにヨシュアは呆れた。
「何がお姉さんだか。僕と同い年のくせに……」
「チッチッチ、甘いわね。同い年でもこの家ではあたしが先輩なんだからいうなれば姉弟子ってやつ?だからあたしがヨシュアの姉なのよ。」
「はいはい、よかったね……」
ヨシュアは言っても無駄だと思い溜息を吐いた。

「それにしても、相変わらずハーモニカ吹くの上手いわね~あ~あ、あたしもうまく吹けたらいいんだけどな~簡単そうにみえて難しいのよね。」
エステルはハーモニカが吹けるヨシュアを羨ましそうな顔で見た。
「君がやっている棒術や魔術よりはるかに簡単だと思うけど……ようは集中力だよ。僕が使えない魔術を君は独学で習得したんだからできると思うんだけど……」
「魔術は別よ!それに全身を使わない作業って苦手なのよね~眠くなるし。ヨシュアもハーモニカはいいんだけどもっとアクティブに行動しなきゃ。ヨシュアの趣味って後は読書と武器の手入れでしょ。そんなインドアばっかじゃ女の子のハートは掴めないわよ~?」
エステルに趣味のことを軽く攻められたヨシュアは反撃した。
「悪かったね、ウケが悪くて。……そう言うエステルだって女の子らしい趣味とは思えないよ?スニーカー集めとか、釣りとか、虫取りとか男の子がやる趣味じゃないかい?」
「失礼ね!虫取りは卒業したわよ!」
ヨシュアの反撃にエステルは思わず叫んだ。

そこにカシウスが子供達を呼びに玄関を出た。
「おーい、2人とも朝食の用意ができたからレナが冷めない内に来いと言ってるぞ。」
「は~い」
「わかったよ、父さん」
そして2人はそれぞれ食卓に着き朝食を取り始めた。
「ごちそうさま~」
「はい、おそまつさまでした。」
その後エステルは朝から良く食べ満足した。
「朝からよく食べるなぁ……父さん並じゃないか。」
ヨシュアはエステルの食べっぷりに感心した。
「いいじゃん、よく食うこととよく寝ることは大事よ♪それにお母さんのオムレツは大好きだし。」
(そうね。私も少しだけ分けてもらったけど、確かに美味しいわね。)
小さなお皿に乗っている自分の体より大きな林檎の切り身を食べていたパズモもエステルの意見に同調した。
「そうでしょう!パズモもお母さんのオムレツは美味しいって言ってるよ!」
「ふふ、ありがとうエステル、パズモ。」
娘と幼い頃から娘を守る小さな妖精のほめ言葉にレナは笑顔で答えた。

「まあ、しっかり食って気合を入れておくんだな。2人とも今日はギルドで研修の仕上げがあるんだろう?」
カシウスは今日のギルドである遊撃士の研修のことを2人に確認した。
「うん、そうね。ま、かる~く終わらせて準遊撃士になってみせるわ。」
「エステル、油断は禁物だよ最後の試験があるんだから。」
「え”?試験ってなに?」
「シェラさんが言ってたよ、合格できなかったら追試だって。」
「……やっば~完璧に忘れてたわ……(お願い、パズモ!いざとなったら助けてね!)」
(ふう………長年エステルを含めて3人の主を守って来たけど、そんな時に助けてなんて言われたの初めてよ……)
ヨシュアから試験のことを聞いたエステルは念話でパズモに試験を手伝うようにお願いし、それを聞いたパズモは溜息を吐いた。
「エステル………まさかとは思うけど、パズモを使ってカンニングとかなしだよ。」
エステルと溜息を吐いているように見えるパズモの様子を見たヨシュアはエステルに一言釘をさした。
「う”!な、なんのことかしら?あたし、パズモに何も言ってないわよ……?」
図星をさされたようにエステルは慌てた。
「シェラさんから聞いてるよ。精霊であるパズモは僕達とは話せないけど、パズモの主であるエステルは頭の中に響く念話という形で話せるって。だからパズモと協力してズルをしないようにしっかり見張ってくれと言われたよ。」
「う”~……シェラ姉ったら余計なことを………」
エステルはヨシュアを恨みがましく見て、唸った。
「エステル……お前な、メンフィル出身の者以外は誰も契約できないと言われる使い魔や守護精霊を何だと思っているんだ?」
カシウスはエステルの様子に呆れ、思わず呟いた。
「そんなの友達に決まってるじゃない!それに何度も言うようだけどあたしとパズモは主従の関係じゃないわよ!」
エステルはカシウスの言葉にムッとした後、言い返した。
「あら。それなら、もちろん試験の時は友達であるパズモに協力させないわよね?」
それを聞いたレナは笑顔でエステルに確認した。
「う……!と、当然よ!試験ぐらいかる~く、クリアしてあげるわ!」
エステルは冷や汗をかきながら答えた。
(さすがレナだな。見事だ。)
(あれは僕も見習いたいな)
カシウスとヨシュアはエステルに見事に釘を刺したエステルに感心した。

「しょうがない、エステルの言葉を信じてみるか……そろそろ時間だし、行こうエステル。」
「わかったわ、ヨシュア。パズモ、行くわよ。」
(わかったわ、エステル。)
主の言葉を聞いたパズモはエステルの肩に乗った。
「じゃあ、行ってきます。」
「行って来るね、お父さん、お母さん!」
「行ってらっしゃい、気をつけてね。」
「頑張って来い、2人とも。」
両親から応援の言葉を聞いた2人はドアを開け、ロレント市のギルドへ向かって歩いた。

ロレント市への道のりの途中にあるメンフィル大使館や隣にあるアーライナ教会を見てエステルはいつも大事にしている紫色のブローチを握りしめて心の中で思った。
(聖女様……あたし、もうすぐ遊撃士になります……あたしなんかが聖女様のような人になれるとは思わないけれど……少しでも聖女様のように困った人を助ける人に近づいてみせます!)
「エステル、どうしたんだい?」
エステルの様子を不思議に思ったヨシュアは話しかけた。
「試験に合格するようにアーライナに祈ってただけよ!気にしないで。」
「アーライナというかエステルの場合は”闇の聖女”さんに祈ってたんじゃないかい?……というかエステル。シェラさんが”闇の聖女”さんから直々に魔術を教わってた時、どうして君もいっしょに教わりに行かなかったんだい?シェラさんと同じく魔術を教わりに行くという口実があったし、君がずっと憧れている人なのに。」
ヨシュアはエステルからペテレーネに憧れていることを聞いてずっと思っていた疑問を聞いた。
「う……あたしもそれは考えたけど聖女様だって普段の仕事で忙しいし、必死で魔術を習得しようとしていたシェラ姉の邪魔はできないもん。それに何よりその頃はあたしなんかが聖女様に会っていいのかと思って気遅れしちゃったもん……」
「エステルが人に会うのに気遅れするなんて珍しいね。”闇夜の眷属”の人とさえ気軽なく接しているのに。」
「それとこれとは別よ!それより早く行きましょ、遅れちゃうわ!」
「はいはい。じゃあ、行こう。」

そして2人は再びギルドへ向かった…………





後書き 焔の軌跡を楽しみにしている方、ホントすみません!今はこっちのアイディアがどんどん沸いてくるので止まらないんです……エステル達がロレントを旅立つ頃に区切りますのでもう少々お待ち下さい……感想お待ちしております。



[25124] 第20話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/02/26 22:02
ヤヴァいなあ……おまけのつもりで書いていたのにこっちのほうが本格的になっている気がします……ああ、リウイが好きな自分が恨めしい!




~遊撃士協会・ロレント支部~

「アイナさん、おはよう!」
「おはようございます。」
「あら、おはようエステル、ヨシュア。」
ドアを開け挨拶をした2人に気付いた受付のアイナも挨拶をした。
「シェラ姉もう来てる?」
「ええ、2階で待ってるわ。今日の研修が終われば晴れてブレイサーの仲間入りね。2人とも合格するよう頑張って。」
「うん、ありがとう!」
「頑張ります。」
そして2人は2階に上がって行った。
2階では遊撃士の中でもメンフィルに関係する者以外は使えないと言われている魔術を使え、遊撃士としての評価も高い「風の銀閃」の異名を持つ遊撃士、シェラザードがタロットで占いをしていた。
「………「星」と「吊るし人」、「隠者」と「魔術師」に逆位置の「運命の輪」、そして
「皇帝」と「王妃」に正位置の「再会の輪」……「皇帝」は恐らくメンフィル大使ね……でも、「王妃」は一体誰のことを……?師匠は違うわね。師匠のことを示すとしたら呼び名通り「聖女」だろうし……これは難しいわね……どう読み解いたらいいのか………」
シェラザードは占いの結果の難解さに頭を悩ませていた。

「シェラ姉、おっはよう~!」
そこに元気よく声を上げたエステル達が上って来た。
「おはようございます、シェラさん。」
「あら、エステル、ヨシュア。あなた達がこんなに速く来るなんて珍しいわね。」
「えへへ、速くブレイサーになりたくて来ちゃった。」
「はあ、いつも意気込みだけはいいんだけど…ま、いいわ。その意気込みを
組んで今日のまとめは厳しくいくからね。覚悟しときなさい。」
「え~そんなぁ。」

シェラザードの言葉にエステルは声を上げた。
「お・だ・ま・り。毎回毎回教えた事を次々と忘れてくれちゃって……そのザルみたいな脳みそからこぼれ落ちないようにするためよ。全く、アーライナの聖書に書かれてある難解な秘印術や私が使える秘印術は覚えたのにそれより簡単なことをなんで忘れられるのかしら?それがわからないわ。」
シェラザードは理解できず溜息を吐いた。
「う……それとこれとは別よ。秘印術は体で覚えた感じのように、実際に何度も練習して覚えたような物だし……」
エステルはシェラザードから視線を外すように横に向け、小さな声で呟いた。
「大丈夫ですよ、シェラさん。エステルって勉強が嫌いで予習も滅多にやらないけど……ついでに無暗とお人好しで余計なお節介が大好きだけど……にカンの良さはピカイチだから魔術のようにオーブメントも実戦で覚えますよ。」
(クスクス……ヨシュアったらわかっているじゃない。)
「はぁ……こうなったらそれに期待するしかないわね……」
エステルの性格を改めて思い返したシェラザードは溜息をついた。

「ちょっとヨシュア……なんか全然フォローしてるように聞こえないんですけどっ?それにパズモも聞こえているわよっ?」
エステルは2人をジトーッと睨んだ。
「心外だな、君の美点を言ったのに。」
(ヨシュアの言う通りよ。それがエステルのいい所じゃない。)
ヨシュアは笑顔で答えパズモも笑顔で頷いた。
「全くもう……ところでシェラ姉タロットで何を占っていたの?」
溜息をついたエステルは机に出してあるタロットカードに気付いた。
「ああ、これね……近い将来起こることを漠然と占ってみたんだけど……ちょっと調子が悪いみたい。読み解く事ができなかったわ。」
「読み解くことができない??」
「へえ、そんなこともあるんですね。」
シェラザードは気持ちを切り替え顔を引き締めた。
「ま、いいわ。それより2人とも最後の研修を始めるわよ。」
「「ハイ」」
そして2人は今までの復習をして最後にリベール王国について復習した。

「あたしたちの住む、このリベールは豊かな自然と伝統に育まれた王国よ。大陸でも有数の七曜石(セプチウム)の産地でそれを利用したオーブメントの開発でも高度な技術を誇っているわ。また、10年前に突如現れた異世界の大国、メンフィル帝国が唯一友好的に
接している国よ。」
「リベールとメンフィル帝国が仲良しなのは知ってるわ、シェラ姉。メンフィル帝国がロレントに現れたお陰で百日戦役が終わったんだよね?それにお母さん言ってたよ、メンフィルの配給のお陰であたし達ロレントの市民は戦争中であるにも関わらずまともな食事ができて、病気も治療できたって。」
エステルは自分達、ロレントの市民にとって恩人とも言えるメンフィル帝国の話が出ると反応した。
「そうね。当事者であるあんたも知っていると思うけどメンフィルのロレント保護とエレボニア侵略によって、リベールとメンフィルが友好的になるきっかけになって、またエレボニア帝国は自国の領地が次々と占領された上、戦力も大幅に減らされたからリベール侵略を断念することになった原因の一つよ。メンフィルの出現はゼムリア大陸に衝撃を走らせたわ。人間とは似ているようで異なる種族、”闇夜の眷属”の出現、七曜教会とは異なる宗教、”アーライナ教”に”イーリュン教”……何より衝撃的なのはこの2つの宗教が信仰している女神は実在するそうよ。」
「女神が実在するのですか……でも、日曜学校ではそんなこと教えてくれませんでしたよね?」
ヨシュアは神が実在することに驚き、なぜ七曜教会が開いている日曜学校で教えてくれなかったのかを疑問に思った。
「そりゃそうよ。遥か昔から信仰されているエイドスは実在していなく、異世界の宗教の神が実在するなんて教えたら信者がそっちに行ってしまう恐れもあるからよ。只でさえアーライナの”闇の聖女”とイーリュンの”癒しの聖女”がいるお陰で信者が取られがちなんだから。まあ、あまり聞かせたくない話だけどこれ以上異世界の宗教に信者を取られないためという対策でもあるわ。ちなみにこの事実を知っているのは七曜教会でも限られた人間だそうよ。」
「へえ……それならどうしてシェラさんが……ってそうか。”闇の聖女”さんですね。」
ヨシュアは七曜教会でも限られた情報をなぜ遊撃士のシェラザードが知っているのかと疑問に思ったがすぐにその疑問は解けた。
「まあね。ちなみにこれは師匠の受け入りよ。師匠自身はただアーライナの教えを広めたいだけで、遥か昔から信仰されているエイドスの信者まで取り上げるつもりはなかったって苦笑いしてたけどね……ちなみにイーリュン教も同じ考えだそうよ。あの宗教はただ、傷ついた全ての人に癒しを与えるのが目的だからね。」
「う~ん……でも、エイドスといっしょにほかの宗教を信仰している人とかいるのにどうしてそんなことをするんだろう……あたしもアーライナの聖書を読んだけど同時にほかの神を信仰してもかまわないって書いてあったよ?それにアーライナ教やイーリュン教の信徒になった人とかでも今でもエイドスを信仰しているって聞いたんだけどな……」
「まあ、いろいろあるのよ。(師匠は何も言わなかったけど多分、エイドスだけを信仰しないのが許せないんでしょうね……)」
エステルの疑問に答えにくかったシェラザードは笑って誤魔化し、話題を変えた。

「話がそれたわね……リベールにとってオーブメントの技術は周辺の大国と渡り合うための大事な技術よ。メンフィル帝国と対等に渡り合うための技術でもあるし、10年前の戦争の時もメンフィルに頼らずリベールの占領されている市を解放させた作戦も、導力機関(オーバルエンジン)で空を駆ける飛行船を利用した解放作戦よ。……まあ、エレボニア帝国とは今でも微妙な関係だけど、アリシア女王の優れた政治手腕やロレントにあるメンフィル大使館の影響もあって今のリベールは、おおむね平和と言えるわね。……さてと、復習はこのくらいで勘弁してあげるわ。今日はやることが山ほどあるんだからとっとと実地研修に進むわよ。」
「ねえ、シェラ姉。実地研修って今までの研修と何が違うの?」
「簡単に言うと実際に遊撃士の仕事に必要なことを一通りやってもらうわ。」
「それってつまり、机でお勉強、じゃないってこと?」
エステルは座学ではないことに希望を持ち確認した。
「ええ、もちろんよ。いろんなところに行って体を動かして貰うんだから覚悟しておきなさい。」
「えへへ、助かったわ~。体を動かせるんなら今までの研修よりずーっとラクだわ。」
エステルは最後の研修に不安だった顔を手のひらを返したように笑顔になった。
「なんだか、急に元気になったよね。」
「その笑顔が最後まで続くといいんだけど……さてと、最初の実地研修を始めるわよ。」
そしてエステル達は研修を次々と受けて行き、ついに研修も大詰めとなった。

「さて、研修用の依頼にもあったように地下水路にある捜索物を探すのが目的よ。水路は単純で迷わないだろうけど、本物の魔獣がうろうろしてるから
油断してると痛い目に遭うからね。危なくなったらこれを使いなさい。」
シェラザードはエステルに初歩的な傷薬を渡した。
「サンキュー、シェラ姉!あたし、アーライナの治癒魔術も使えるけど最近やっと使えるようになったから、あまり上手く使えないせいで何度も使えないし、回復量も大したことないのよね~」
「あんたね……魔術の中でも高等とされる治癒魔術を使えるだけでも凄いと思わないのかしら?」
「そうだよ、エステル。治癒魔術を使える人はイーリュン教の信徒の中でも限られているというし、アーライナ教の使い手は”闇の聖女”さんだけだよ?」
ヨシュアとシェラザードはエステルが自分自身の才能の凄さに鈍感なのを呆れた。

「はあ、まあいいわ……それとエステル、試験中はパズモを頼ってはダメよ。」
「へ……どうして?」
パズモと共に戦う気でいたエステルはシェラザードの言葉に目を丸くして聞いた。
「この試験はエステル、あんた自身を試す試験よ。使い魔や守護精霊はいるだけでも心強いのに、パズモは特に支援に優れているからね。戦闘が初歩なあんた達でもパズモと共に戦えば、正直言って正遊撃士とも渡り合えるような戦力を覆せるような存在よ。実際の戦闘では依頼を成功させるためにも共に戦うべきだけど、今回だけは頼るのをやめなさい。」
「わかったわ、パズモ。」
(了解、頑張ってねエステル。)
シェラザードの説明に納得したエステルはパズモを一端自分の身体に戻した。
「よーし、ヨシュア。気合入れて行こっ!」
「そうだね。実戦だど思って慎重に行動しよう。」
そして2人は研修用の依頼を達成するために地下水路に潜って行った………



後書き 最初軌跡キャラで魔術が使えるのはエステルだけの予定でしたがよく考えたほかにも使っても違和感ないキャラが続出してきたんですよね……クロ―ゼがイーリュンの魔術とか似合いすぎですし。元々回復アーツ専門のようなキャラでしたから。感想お待ちしております。



[25124] 第21話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/02/28 23:27
~ロレント・地下水道~
灯のオーブメントで照らされた道をエステルとヨシュアが歩いていた。
「ふふ~ん、ま、ちょろいもんよ♪」
「油断は禁物だよエステル。」
研修用の依頼の捜査対象物を2人は見事見つけ、エステルは上機嫌で帰っている途中だったのだ。

「それにしても、オーブメントの扱いを実戦で覚えるなんてやっぱりエステルだね。」
「なによ~その言い方は。頭で覚えるより体で覚えたほうが速いに決まってるじゃない。」
「まあまあ、いいじゃないか。無事対象物は見つけたんだから。」
「そうね♪これで、もうすぐブレイサーの仲間入りね♪」
ヨシュアの言葉でエステルは膨れていたがもうすぐ依頼を達成できるという言葉に笑顔になった。そこに魔獣が現れた。
「っと、行くよエステル。」
「了~解!」
魔獣をみた2人は浮ついていた表情を引き締め武器を構え魔獣に攻撃を仕掛けた。
「セイ!」
先制攻撃に放ったヨシュアの双剣は一撃で魔獣を斬り伏せ
「とりゃっ!」
続くように振るったエステルの棒は蝙蝠のような魔獣を地面に叩き伏せ二度と起き上がらなくなった。そこに倒された魔獣の血を嗅ぎつけ複数の魔獣が現れた。
「今度は結構数があるね……」
「あたしに任せて!………闇よ敵を吹き飛ばせ!黒の衝撃!」
エステルが放った暗黒魔術はすさまじい勢いで固まっていた魔獣達を吹き飛ばし、吹き飛ばされた魔獣は水路に落ち、気絶した。
「相変わらず凄い威力だね……今の魔術ってそんなに威力がない奴だよね?下手したら中級アーツ並なんじゃ……」
「シェラ姉が言うには魔術は使用者の魔力で威力が決まるらしいよ。でも、最初は苦労したわ~。魔力の制御が出来ないせいで数回使っただけで疲れるし……後、パズモが言うにはあたしの適性属性は無属性だからえ~と……自然界の四属性?は契約した守護精霊とかに影響されるらしいわ。だからどんどん友達を増やしていきたいわ~。
あたしなら、後2、3体なら契約しても大丈夫って言うし。」
「ハハ………でも、エステル。使い魔や守護精霊は存在自体が珍しいからそんな簡単に見つからないと思うよ?」
エステルが自分の才能の凄さにイマイチわかってないことを彼女らしいとヨシュアは苦笑した。
「まあね~。それに一つの属性に特化してない分、高度な魔術を使えるようにするにはほかの人より努力が数倍必要らしいから得をしているかわかんないわ~」
エステルはより高度な魔術を使うのにはさらに努力しなければならないと思って溜息を吐いた。

そして街への道を再び歩こうとした2人の目の前で突如霧状の魔獣が複数現れ、突然攻撃してきた。
「ッツ!」
「わっ!」
2人は驚きながらも回避に成功した。
「何よこれ~!今まで倒した魔獣でこんな魔獣いなかったわよ!?」
「下手をしたら手配魔獣かもしれないね……どうしよう……数はそんなにないけど僕達で倒せるかな?」
2人は武器を構え見た事のない魔獣を警戒した。
「もちろん、倒すわよ!それにこの上は街だし、このまま放っておく訳にはいかないわ!」
「確かにそうだね……行くよ、エステル!」
気を取り直した2人は新たな魔獣に武器で攻撃したが攻撃はすり抜けた。
「いっ!?」
攻撃が効いていないことにエステルは驚いて後退した。
「物理攻撃は効かないのか……なら!………時の刃よ!ソウルブラ―!!」
ヨシュアが放ったアーツが敵の一体にあたり、怯んだ。
「よし、効いてる!エステル、アーツや魔術主体で行くよ!」
「オッケー!……風よ切り裂け!旋刃!!」
エステルが放った風の魔術は霧を切り裂くように重傷を与えた。そして2人はアーツや魔術を使って攻撃し、怪我をした時は薬やエステルの魔術で回復して、残り一体まで減らした。
「……今のでEPが最後か……エステル、後一体だけどそっちはどう?」
ヨシュアは自分のオーブメントのEPが切れアーツが放てなくなったことを確認した後、エステルの様子を聞いた。
「こっちもオーブメントのEPは空よ。魔力も結構使ったから一気に決めるわ!」
エステルは勝負を決めるために棒で残り一体の魔獣に立ち向かった。
「エステル、何を!?」
物理攻撃が効かない魔獣にエステルが再び棒で攻撃しようとする無謀さにヨシュアはギョッとした。そしてヨシュアはエステルの棒に雷を帯びているのを見て驚いた。
「まあ、見てなさい!これで決める………ハァァァァァァ!雷波!無双撃!」
雷を帯びた棒でエステルは残りの魔獣を連続で攻撃した。それをまともに喰らった魔獣はその場にほかの倒された魔獣と同様セピスを残し、消えた。
「ま、こんなもんね♪ぶっつけ本番の技だったけど上手くいったわ♪」
「エステル、今のは?」
ヨシュアは今まで見た事のないエステルの技に驚き聞いた。

「今のはあたしが考えた魔術の力を帯びた武器攻撃よ!棒と魔術を合体できないかとずっと考えてカンで試しに使ってみたけど、案外いけるわね♪」
「武器と魔術を合体させるって……エステルの野生のカンは本当に凄いな……」
ヨシュアは武器と魔術の力を合体させるという誰も考えないようなことを、やってのけたエステルを感心した。
「さてと……行きましょ、ヨシュア!」
戦闘が終わりホッとしたエステルはヨシュアに共に戻るよう促した。
「いや………どうやら、まだいるみたいだよ……」
「へ………?」
新たな魔獣の気配を感じたヨシュアはエステルに警告し、その警告にエステルは目を丸くした。すると先ほど現れた霧状の魔獣より一際大きい同じ魔獣が現れた。
「い!?まだ残ってたの!?」
「ク………どうしよう……」
ヨシュアは劣勢を一瞬で悟り、どうするか考えた。
「……しょうがないわ……パズモ!」
(ようやく私の出番ね!)
エステルは溜息を吐いた後、己の守護精霊を呼んだ。呼ばれたパズモは2人を守るように現れた。
「エステル、シェラさんの言ってたことを忘れたのかい!?」
パズモを見たヨシュアは驚き、エステルに聞いた。
「覚えているわよ!でも、緊急事態だからシェラ姉も許してくれるって!パズモ、お願いできるかしら!?」
(大丈夫!私に任せて!………光よ!我が仇名す者に裁きの鉄槌を!贖罪の光霞!!)
パズモが放った魔術は薄暗い地下道全体を照らすような強力な光が走り、それをまともに受けた魔獣は消滅した。
「フゥ~……助かったわ。ありがとう、パズモ。」
今度こそ戦闘が終了したと思ったエステルはパズモにお礼を言った。
(フフ、あなたを守るのが私のやるべきことだから気にしないで。………!?エステル、ヨシュア!後ろ!)
お礼を言ったエステルにパズモは笑顔で答えた後、エステル達に襲いかかろうとした魔獣に気付きエステルに警告した。
「へ……」
「しまった……!」
警告されたエステルは後ろを振り向き、それに気付いたヨシュアも後ろに振り向いたとき魔獣はすでに2人に襲いかかろうとしていた。
(ク………間に合って……!)
パズモは焦りながらも魔獣に魔術を当てようとした時
「……雷よ落ちなさい!落雷!!」
魔獣に強烈な雷が落ち、雷を受けた黒焦げになって息絶えた。そして2人は振り向いて雷を放った術者であるシェラザードを見てホッとした。
「シェラ姉、来てくれたの!?」
「助かりました、シェラさん。」
「2人とも油断はするなって言ったでしょ。遅いと思って一応様子見に来て正解だったようね。」
シェラザードは溜息を吐いた後、エステルの肩に乗っているパズモに気付いた。
「エステル、あんたね……私の言ったこと忘れたの?」
「う”!これには訳が………」
シェラザードの言葉を聞いてのけ反ったエステルはヨシュアと共に理由を話した。

「ああ、それはごく最近姿が見られた新しい魔獣よ。別に手配魔獣でもないわよ?」
エステル達が苦戦した魔獣のことを聞くとシェラザードはなんでもない風に言った。
「へ……じゃあ、どうして教えてくれなかったのよ!?あんな魔獣がいるとは聞いてないわよ!?」
エステルは呆けた後、シェラザードに詰め寄った。
「不足の事態や未知の魔獣と出会っても冷静に対処するのが遊撃士の心得の一つ。あたしが教えたこと、もう忘れたの?」
「(ギクッ!)そ、それぐらい覚えてるわよ!やぁね、シェラ姉ったら、アハハ……」
シェラザードに理由は言われたエステルは渇いた声で笑い誤魔化した。
「エステル、今回は僕達のミスだよ。やっぱり今回は不合格でしょうか?」
納得したヨシュアは合否を聞いた。
「………そうね。本来は不合格と言いたいとこだけど、今回はいい勉強になったってことで特別に目をつぶってあげるわ。」
シェラザードは少しの間だけ考えた後、答えた。
「ありがとう~シェラ姉!」
(よかったわね、2人とも)
エステルはその言葉を聞いてホッとした。
「そんなことより、2人とも私が言った捜索物を見つけたかしら?」
「うん、ハイ。」
「お願いします。」
そして2人は捜査対象が入った小箱をシェラザードに渡した。

「……うん、本物ね。途中で開いた形跡もなし、と。」
(あ、あぶな~)(やっぱりね……)
シェラザードの言葉を聞き帰りの途中で中身が気になり箱を開けるのをヨシュアに止められたエステルは冷や汗をかき、ヨシュアは予測通りでよかったと思った。
「2人とも、おめでとう。実技試験は合格よ。」
「ふふん、あのくらい楽勝よ。それでシェラ姉その小箱には何が入ってるの?」
エステルはずっと気になってた小箱の中身を聞いた。
「まあ、それは研修が終わってからのお楽しみよ。さあ、ギルドに戻りましょ。」
そして3人はギルドに戻り2人は無事試験に合格し準遊撃士になった。

そしてエステル達が準遊撃士になってさまざまな出来事が起こった数日後……



後書き エステルが使った魔術・暗黒はオリジナルにしました。いくらなんでも初っ端から魔槍系やティルワンの闇界とか使うのは反則すぎますし。それとちなみに気付いていると思いますが雷波無双撃はセリカ、リウイの魔剣技から考えました。原作のSクラフト、烈波無双撃に雷を帯びさせただけの単体技です。これがパワーアップするとさらに別の技名になる予定です……次は少しだけ原作を飛んでロレントを出て本格的な旅に出るあたりです。もちろんメンフィル側も………あ、ちなみにエステルはパズモを合わせて最終的に3、4体と契約する予定です。契約キャラは……作者は戦女神シリーズは幻燐から始めて、戦女神1.2をやったことがありません!かと言って幻燐側からも出す気がありません!と言えばある程度しぼれるかと。大ヒントとして1体は第1世代からいて、VERITAで登場するキャラです。……感想お待ちしております。



[25124] 第22話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/03/03 23:50
文章がおかしいかもしれませんがそれでもよければどうぞ……





~メンフィル大使館~

一方リウイ達、メンフィルは数年の間特に何事もなく時を過ごした。そんな中、リウイを含めメンフィル建国時からいる忠臣や仲間達を悩ましている存在がいた。それは数年前から大使館で働いているイリーナだった。マーシルン家に恩を返したいイリーナはよくリウイ達に尽くした。そのこと自体はいいのだが、問題は時間が経つにつれどんどん成長していくイリーナの容姿や雰囲気、またちょっとした仕草だった。今年で18歳になるイリーナの姿はもはや、生前のリウイの愛妻、イリーナ・マーシルンと区別がつかないほど成長した。

「お仕事中すみません。陛下、お茶をお持ちしました。入ってもよろしいでしょうか?」
「え……!?」
「……っ。あ、ああ。入って来てかまわん。」
執務室で仕事をしていたリウイは亡き愛妻そっくりの声に一瞬戸惑ったが気を取り直し答えた。また、リウイの手伝いで書類整理をしていたペテレーネもイリーナの声を聞いて目を見開いて驚いた。
「………失礼します。」
入って来たイリーナは一人前の淑女の足取りでリウイ達に近づきトレイに載せてあるカップに紅茶を入れ2人の前においた。
「どうぞ。」
「いただこう。」
「ありがとう、イリーナさん。」
2人は仕事の手を休め出された紅茶を飲んだ。
「……ほう、よい香りだ。味もちょうどいい。城のメイド達が出している味と大して変わらないぞ。」
リウイは紅茶を飲み若いながらもリウイの舌を唸らせる紅茶を出したイリーナを感心した。
「……ありがとうございます。これもペテレーネ様の教育の賜物です。」
イリーナはリウイの賛辞を謙虚に受け、普段の仕事で忙しいながらも王族に仕える侍女としての教育をしてくれたペテレーネに感謝した。
「そ、そんな。私は基本的な事しか教えていません。イリーナさんの努力が実った成果が出ているだけです。」
ペテレーネはイリーナの感謝を聞き恥ずかしくなり、イリーナを正面から見られなくなり視線を外した。
「………お前がここで働くようになって、あれから5年か………時間が経つのは早いな。あの頃幼さがまだ残っていたお前も、今では立派な淑女と言われてもおかしくないだろう。」
リウイは飲み干したカップを置くと大使館で働き始めた当時のイリーナを思い返すように呟いた。
「お褒めに与かり光栄です。今の私があるのは陛下が私みたいな使用人見習いにペテレーネ様を含め、さまざまな教育係を当ててくれたお陰です。……一般常識や淑女としての立ち振舞いを学んだ時、皇女であるプリネ様と机を並べて共に学んだことは中々慣れませんでしたが……」
イリーナは大使館に来て色々学んだ当時を思い出し、苦笑いをした。
「フ……俺達、マーシルン家はほかの王族と比べると色々型破りだから慣れておけ。それに一々一人ずつ教えていたら時間も非効率だしな。ここに来て色々と驚くことがあっただろう。」
「はい。例えば陛下やリフィア様達に出される食事にも驚きました。てっきり皇族専用の料理人がいらっしゃって豪華な料理をいつも食べていると思っていたのですが……実際はペテレーネ様が陛下達の食事を作っていましたし、料理も私達が食べているのと変わりなかったので、本当に驚きました。」
イリーナはリウイ達、皇族に出されている食事が自分達使用人と大して変わらない料理に驚いたことを2人に話した。

「まあ、そこはメンフィルに仕え初めの者達がよく驚くことだ。元々俺は豪華な料理はあまり好きじゃないし、いつもそんなのを食べていたら国費が嵩むだけだ。料理人も信頼する者に作って貰う方が安心できるしな。」
そう言ってリウイはペテレーネに顔を向けた。
「こ、光栄です。リウイ様……」
顔を向けられたペテレーネは恥ずかしくなり、顔を赤くして答えた。
「我らマーシルン家の食事を用意するのは非常事態でない限りは皇族専属の侍女か、王妃だ。……いずれお前も俺達の食事を作ることになるかもしれないな。プリネ専属の正式な侍女を希望しているのだろう?」
「は、はい!いつか陛下達に食事を出しても恥ずかしくないよう精進いたします!………あの、ずっと聞きたかったのですが本当に私のような他国の、しかも身分のない人間が皇女であるプリネ様に仕えてもよろしいのでしょうか?」
イリーナはいつかリウイ達に食事を出すかもしれないことを考え、緊張した声で答えた後、ずっと疑問に思っていたことをリウイに聞いた。
「そのことか………まあ、普通なら代々王家に仕える者の役目だが、我らメンフィルに限っては職務の採用に関しては平等だ。例えそれが王家に直接仕えることでも……な。……それに俺は王族に仕えるのに出身や身分で決めるのが必ずしもいいとは思わん。大事なのは仕えるべき者へどれほどの忠誠心があるか、それだけだ。」
「……………」
イリーナはリウイ色々語っているのを見惚れた。
(……っ!やだ……また、胸の鼓動が激しく……お願い治まって……!)
イリーナは激しくなった胸の鼓動を抑えるように両手を胸に当てた。その様子を見てペテレーネが声をかけた。
「イリーナさん、どうかしましたか?具合でも悪くなったんですか?」
「い、いいえ!大丈夫です!陛下、それでは失礼いたします!」
「あ、ああ。」
リウイはイリーナの様子を変に思ったが退出を許可した。そしてイリーナは執務室を出た後、両手で胸を抑えて天井を見上げた後、溜息を吐いた。
(はあ……どうして陛下と顔を会わしたらいつもこんな愛しい気持ちになるんでしょう……年は凄く離れているし、陛下にはカーリアン様やペテレーネ様もいるのにどうして………)
イリーナはリウイへの思いが許されざる思いとわかっていながらも、リウイを愛する自分がわからなくなった。
(……っ。いけない、こんなことを考えちゃダメ……今日からプリネ様達が自らの見聞を広めるためにしばらく大使館を離れるから、離れている間プリネ様達のお世話をしなくていい代わりに、ペテレーネ様のお手伝いをしなくてはならないから陛下とはほぼ毎日顔を会わせちゃうわ……頑張って私!)
イリーナは自分を叱咤するように呟いた後、プリネ達の旅支度を手伝うためにその場を離れた。


一方リウイ達はイリーナが出て行った扉をしばらく見つめた。そしてペテレーネがポツリと呟いた。
「………イリーナさん、一体どうしたんでしょう?」
「わからん。ただ自分の状態が理解できないようにも見えたがな。」
リウイはイリーナの先ほどの様子がわからなく、溜息を吐いた。
「………あの、リウイ様。もしかして体の奥底に眠るイリーナ様の魂が目覚め始めているのでは……?」
「………なぜ、あの少女にイリーナが宿っていると言える?」
ペテレーネが呟いた言葉にリウイは気になり聞いた。
「お言葉ですが、それはリウイ様自身もわかっているのでは。カーリアン様やファーミシルス様もあの子をしばらく見て転生したイリーナ様だと気付いていらしてました。」
「…………ああ、お前の言う通りだ。俺があいつを見間違うハズがない。容姿、仕草、表情……どれもあの頃のイリーナだ。決定的なのはあの少女の生まれた日がちょうど、
冥き途の門番が言ってたイリーナの魂を感じにくくなった日だからな。」
「そんな!それだったらもうあの少女で決まりではないのですか!?……教えなくてよろしいのですか?」
ペテレーネはイリーナが転生したイリーナであるとリウイがわかっていながら、何も行動を起こさないリウイに疑問を持ち聞いた。
「何をどう教えればいいのだ?今のイリーナはあのイリーナではないのだぞ?」
「それは………」
質問を返されたペテレーネは答えられず顔を下に向けた。
「………今すぐにでもあいつを抱きしめてやりたい。だが魂が目覚めていない他人と言っても可笑しくないイリーナの人生を俺が勝手に決める訳にはいかん。それはあいつも望んでいないだろう。」
「…………リウイ様………」
辛そうにしているリウイを見て、ペテレーネは立ち上がって思わず後ろから抱きしめた。
「ペテレーネ?」
「挫けないで下さい、リウイ様。ずっと探していたイリーナ様が見つかり、目の届く場所にいるのです。それだけでも喜ばしいことじゃないですか。今はイリーナ様が目覚めるのを待ちましょう。」
「フ、お前の言う通りだな……幸いにもあの少女自身、プリネに仕えたいと希望しているしな。長い年月の間探して来たんだ。気長に待とう。」
ペテレーネに励まされたリウイは微笑を浮かべ、気を取り直した後立ち上がり正面からペテレーネを抱きしめた。
「リ、リウイ様!?」
「お前には本当にずっと世話になってしまっているな。感謝する。」
「そんな………私はただリウイ様のお傍にいることだけが生きがいなのです。可愛いプリネも授かり、本当に私は幸せ者です。」
リウイに抱きしめられたペテレーネは顔を真っ赤にしながらも答え、抱き返した。そして2人はしばらく見つめ合い、お互いの唇が合わさろうとした時、突然扉が開かれリフィア達が姿を現した。

「旅支度が出来たぞ、リウイ!……む?もう少し遅く来るべきじゃったか?」
「………お兄ちゃん達、何しているの?」
「お、お姉様!」
リフィアは自分達を見ている2人を察して、呟いた。エヴリーヌは何もわかってない様子で、2人の様子から察したプリネは顔を真っ赤にしながらもリフィアを咎めた。
突然のリフィア達の登場に驚いたペテレーネは思わずリウイから離れた。リウイはその様子を見て苦笑しながらも答えた。
「リフィア……お前は仮にも皇女なのだからノックぐらいしろ。」
「ずっと待ち続けた旅がようやくできるのじゃ!細かいことはなしじゃ!」
呆れた様子でリウイはリフィアを咎めたが、リフィア自身全く気にしていなかった。
「まあいい。少し待て。」
3人に待つよう言ったリウイは執務室に備え付けてある通信機に手を取り、ある場所に掛けた。
「はい、こちら遊撃士協会・ロレント支部です。」
通信機から聞こえたのはロレント支部の受付、アイナの声だった。
「……メンフィル大使だ。例の依頼、準備ができたので連絡させてもらった。指定した遊撃士の方はどうだ?」
「ご丁寧な連絡、わざわざありがとうございます。今、本人に推薦状を渡したのでそちらにご連絡を差し上げようとした所です。………あの、本当に指定した遊撃士でないとダメなのでしょうか?よければもっと実力のある遊撃士を用意できますが……」
通信機からはアイナの戸惑った声が聞こえた。
「依頼の時も伝えたが、そう難しいことではない。むしろそちらにとって大助かりだと思うが。それに同行者の3人は戦闘に関しては俺が保証するし、旅の間万が一怪我等しても責任を負わせるつもりはない。」
「………わかりました。それではお待ちしております。」
「ああ。」
通信機からは半分諦めが混じった声が聞こえた後、リウイは通信を切った。
「……向こうの準備も完了したそうだ。」
「おお!ついにエステルに会えるのか!」
「旅行、楽しみ……」
「フフ、不謹慎ながら私も初めての旅が楽しみです。」
リウイが旅支度をした3人に伝えると3人共これからの旅を楽しみにした。

「リフィア。くれぐれも問題は起こすなよ?ここは他国だ、国際問題にもなりかねん。」
リウイはリフィアに念を持って注意した。
「それぐらいわかっておる!此度の旅を通じて祖国のためになる知識を余の力にしてくれる!」
注意されたリフィアは自信を持ってこれからの旅への心構えを言った。それを聞いたリウイは頷いた後、エヴリーヌにある頼みごとした。
「エヴリーヌ……面倒と思うがこの2人が危ない目に会わないよう守ってやってくれ。」
「ん……妹を守るのもお姉ちゃんの仕事だもんね……それにリフィアも友達だから守る……エヴリーヌ、がんばるね……」
エヴリーヌはリウイの頼みごとに微笑して頷いた。
「プリネ。お前も今回の旅でさまざまな事を学んで来い。」
「はい、お父様。」
「……初めての旅での餞別だ。持って行け。」
リウイは飾ってあったレイピアの一つをプリネに渡した。
「これは……?見た所かなりの業物のようですが?」
プリネは渡されたレイピアを鞘から抜き、刃の状態を確かめて出所を聞いた。
「俺が昔使っていた剣だ。何度も鍛え直して使っていた剣だから切れ味や耐久性は保証する。」
「え……そんな剣を私なんかに……?ありがとうございます!!」
プリネは父が使っていた剣を貰い、喜んだ後笑顔でお礼を言った。
「プリネ、これは私からの餞別よ。」
ペテレーネはある衣をプリネに渡した。
「この衣は……?魔力がかなり籠っているみたいですけど……」
プリネは渡された衣を広げ、衣に宿っている魔力に驚いた。
「それは私が神殿で修行していた時、着ていた衣よ。アーライナ様の魔力に加えて私の魔力も籠っているから見た目の割には防御力があるわ。」
「お母様もありがとうございます!」
母の思いでの品といってもいい衣を受け取り感動したプリネはリウイと同じようにお礼を言った後、着ていた服を一枚脱ぎ渡された衣を羽織り鞘を腰に差した。
「後はこれも付けて行け。」
「これは……マーリオンの召喚石!?どうして私に?」
プリネはリウイから渡された指輪についている宝石に刻まれている印を見て驚いた。
「護衛のようなものだと思えばいい。」
「え……でも、それなら私にはペルルがいますが?」
「護衛の意味もあるがマーリオン自身、あの少女の旅を見てみたいそうだ。フ……ただひたすら俺に仕えていたマーリオンが俺以外の人と進んで関わろうとするとはな……マーリオンがそこまで見たいと言ったエステルと言う少女とゆっくり話したいものだ。」
「クス……お父様がそこまで言う方なんて、これから会うのが楽しみです。」
渡された指輪を付けたプリネは父がある意味敬意を持っているエステルの人物像を思い浮かべた本人に会うのを楽しみにした。そして3人は大使館の入口でリウイ、ペテレーネ、レン、イリーナに見送られようとした。

「行ってらっしゃいませ、お嬢様方。」
「うむ。行って来るぞ。」
「私達がいない間はお父様やレンのことをよろしくお願いしますね、イリーナさん。」
「はい。」
自分達が留守の間、義妹の世話等をイリーナに託したプリネはレンにも話しかけた。
「レン、いい子にして待っているのよ?」
「むう~……レンもお姉様達といっしょに旅に出たかったな。」
レンは自分だけ仲間外れなことに頬を膨らませた。
「あなたにはまだ早いわ。その変わり帰ったら土産話をたくさん聞かせるからそれで我慢してくれないかしら?」
プリネはレンの機嫌が直るようにレンの頭を撫でた。頭を撫でられたレンはくすぐったそうにしながらもそれを心地よく感じた。
「うん!楽しみにしているね!それとお土産も忘れないでね!」
プリネに頭を撫でられ機嫌が直ったレンは笑顔で答えた。それに頷いたプリネはリフィアとエヴリーヌに先を促した。

「では、お姉様方。参りましょう。」
「うむ!」
「ん……」
「3人共、どのように成長するか楽しみにしているぞ。」
「みなさん、怪我や病気には気をつけて下さいね。」
「お帰りをいつでもお待ちしております。」
「いってらっしゃ~い!お姉様方!」
「「行ってらっしゃいませ!!」」
4人と門番に見送られた3人はしばらく行動を共にする遊撃士と合流するためにギルドへ向かった………



後書き 多分次の更新をした後、プリネやエステル、シェラザードのステータスを出してしばらくの間更新は止まると思います。……感想お待ちしております。



[25124] 第23話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/03/07 11:59
~遊撃士協会・ロレント支部~
エステル達は準遊撃士になって、さまざまな依頼を達成した後起こった強盗事件に関わった。事件は犯人を逃がしたが、幸いにも奪われた物は取り返せた。また、カシウスが行方不明になるという信じられない情報が来て、最初はそれに驚いたエステルだったが気を取り直し母と同じく父の無事を信じた。そして今までの地道な功績を評価された2人は各地のギルドで貰える正遊撃士資格の推薦状を貰い、2人がそれぞれ喜んでいた所通信機が鳴った。
「あら、誰かしら。ちょっと待ってね。」
そう言うとアイナは通信機を手に取った。
「はい。こちら遊撃士協会・ロレント支部です。」
そしてアイナは相手が名乗り出ると驚いた。
「ご丁寧な連絡、わざわざありがとうございます。今、本人に推薦状を渡したのでそちらにご連絡を差し上げようとした所です。………あの、本当に指定した遊撃士でないとダメなのでしょうか?よければもっと実力のある遊撃士を用意できますが……」
「へ……今推薦状を貰ったのってあたし達の事だよね?」
会話を聞いていたエステルは自分達の事だと気付き目を丸くした。
「恐らくそうだよね……話を聞く限り依頼で僕かエステルを指名しているみたいだけど一体誰が……?」
「誰でもいいじゃない!あたし達は遊撃士なんだから依頼を達成するだけよ!」
「エステルは呑気だなあ……」
準遊撃士に成り立ての自分達を指名して依頼を出すことをヨシュアは怪しく思ったが、エステルは全く気にせず答えたことに
思わず苦笑いをした。
「………わかりました。それではお待ちしております。」
アイナは諦めの表情で通信機を切った。

「アイナ、誰だったの今のは?依頼のようだけど、エステル達のことを言ってなかった?」
会話を聞いてある事に疑問に思ったシェラザードはアイナに聞いた。
「ええ……実はエステル達が準遊撃士になった翌日にある方から依頼が来たの。しかも、エステルを指名で。」
「へ………あたし??」
自分の事を言われたエステルは思わず目を丸くし驚いた。
「アイナさん、そのある方という人は誰なんですか?」
ヨシュアは警戒するように真剣な顔をして依頼した人物の正体を聞いた。
「それは………」
依頼者の正体を聞かれたアイナは戸惑った顔をして言い淀んだ。
「あんたが困惑するなんて珍しいこともあるものね。ちなみにどういう依頼なの?」
アイナの様子を珍しく思ったシェラザードはこのまま聞いても埒があかないと思い、肝心の依頼内容を聞いた。
「………その方の縁者3人とエステルが共に行動すること。期間はエステルが正遊撃士になるまでよ。後、遊撃士の仕事をサポートさせること。それが依頼内容よ。」
「えっと、それってどういうこと??」
依頼内容の意味がわからなかったエステルは質問した。
「要するに僕達の修行の旅に同行者が3人増えるってことだよ。後、その人達が僕達の仕事を手伝ってくれるってことだね。でも、いいいんですかアイナさん?
僕達はまだ準遊撃士に成り立てですよ?それに一般の人達に僕達の仕事を手伝わせるのは無理なんじゃあ……遊撃士の仕事は荒事もありますし、正直僕達2人で
3人も守るなんて難しいことだと思いますよ。」
エステルに判り易く説明したヨシュアはアイナに依頼の難しさを訴えた。
「私だって最初は断ろうと思ったけど相手が相手だしね……本部にも一応聞いたけど、今回は特例よ。後、護衛に関しては一切心配しなくていいと思うわよ。多分、あなた達より実力があると思うし。」
「あたし達より実力があるってどんな人達なの?」
同行者の3人が気になったエステルは質問した。

「………会えばわかると思うわ。ちなみに提示された報酬の金額はこんなにあるわ。」
3人はアイナから見せられた依頼書に書かれてある報酬の金額を見て驚愕した。
「いち、じゅう、ひゃく………じ、10万ミラ~~~~~!!!!!????な、何よこの金額!!??」
「信じられない金額ですね………相手は貴族か商人ですか?」
「何よ、このバカげた金額は!?先生でもこんな報酬の仕事、滅多にないわよ!?準遊撃士の報酬で10万ミラなんてありえないわ!?」
エステルとシェラザードは提示されてある金額に目を大きく見開き思わず叫び、ヨシュアは依頼者の正体を推理した。

「私も本当なら受けるにしてもカシウスさんか最低でもB級と思ったんだけど、カシウスさんは行方不明だし、何より相手がエステルでないとダメって言い張るのよ……」
「………どうして、その依頼者はエステルを指名したんでしょうね?僕達はまだ準遊撃士の成り立てで父さんやシェラさんと違って知名度はないのに。」
ヨシュアは最大限に警戒し、相手の思考を考えたがわからずアイナに聞いた。
「それはあんまり詳しく教えてくれなかったけど、唯一教えてくれたのはエステル。あなたが”闇夜の眷属”と仲がいいからよ。」
「へ……?なんでそれが関係するの??」
アイナに言われたことが理解できなかったエステルは目を丸くした。
「……ちょっと待ってアイナ。”闇夜の眷属”が関係してあんたが断れない相手でこんな金額を出せる人物ってもしかして……」
アイナから出たある言葉から依頼者を推理したシェラザードは信じられない人物が浮かび上がりそれを聞こうとした時、ギルドの扉が開かれた……




後書き ちょっと短いかもしれませんが、このまま出すと長くなりそうなので区切りました。なので次の更新は早いと思います。感想お待ちしております。



[25124] 第24話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/03/08 23:44
~遊撃士協会・ロレント支部~
扉が開かれ入って来た人物は先ほど大使館を旅立ったリフィア一行だった。
「ほう!ここがギルドというものか!!」
リフィアはギルドに入って興味深そうに周りを見て、初めて見る光景に喜びの声を上げ
「……ん、ここ、エヴリーヌの部屋より狭いね………」
「エ、エヴリーヌお姉様!そういう失礼な事は控えた方が……!」
ギルドの広さを見て思わず呟いたエヴリーヌをプリネは慌てて咎めた。3人の登場に驚いた4人の中でシェラザードがプリネの姿を見て驚いた。
「あ、あなたはプリネさん!?」
「あ、シェラザードさん。お久しぶりです。あなたの活躍はファーミシルス様から聞いていますよ。時間があればお母様に会いに行って下さい。お母様もあなたと話したがっていましたし。」
「ど、どうも……時間があれば窺わせてもらいます。」
プリネの言葉にシェラザードは恐縮しながら答えた。
「シェラ姉、一体どうしたの?この人あたし達と同じくらいの年に見えるけど?」
シェラザードの様子をおかしく思ったエステルは聞いた。
「バ、バカ!口を慎みなさい!この方を誰だと思っているのよ!?」
エステルの言い方にシェラザードは思わず慌てた。そしてその様子を見たプリネは上品に笑って答えた。
「クス……構いませんよ、シェラザードさん。これから、共に旅をする仲間となるんですから2人には気軽に接してもらって構いません。」
「っ!?じゃあ、やっぱり依頼者は……!」
「うむ!シェラザードとやら、お前の思う通りじゃ!……それでギルドの受付よ、余達と共にする者はそこの2人か?」
シェラザードに答えたリフィアはアイナに自分達の同行者が、目を丸くして見ている2人かと聞いた。
「……はい、そうです。…………あなた方3人が同行者ですか?」
「うむ!」
アイナの言葉にリフィアは頷いた。
「ふ~ん、あなた達がこれからいっしょに旅をする仲間か……ま、いいわ。あたし、エステル・ブライト!よろしくね!」
「……ヨシュア・ブライトです。僕もエステルといっしょに旅をするのでよろしくお願いします。」
あまり気にせず自己紹介をしたエステルと違い、3人を警戒しながらヨシュアは自己紹介をした。
「プリネ・マーシルンです。気軽に呼び捨てにしてもらって構いませんよ。」
「私、エヴリーヌ……よろしくね……」
「そして余の名は!リフィア・イリーナ・マーシルンじゃ!プリネが言ってるように余やエヴリーヌのことを呼び捨てにするのを特別に許してやるから、気軽に呼ぶがいい!」
「あはは、なんか偉そうな子ね……ま、いいわ。よろしくね、プリネ、エヴリーヌ、リフィア!」
エステルは3人の名前を聞いても特に何の反応もせず気軽に話しかけた。逆にプリネとリフィアのフルネームを聞いてヨシュアは顔を青くして、エステルの言動を諌めた。

「エ、エステル!この人達、そんな気軽に呼んでいい人達じゃないよ!?」
「ほえ、なんで?」
「………それはこの人達が王族の人達だからだよ。」
「へ……?でも、確か女王様の名前ってアウスレーゼだよね??」
ヨシュアが慌てていることに気付かないエステルは思わず聞き返した。その様子を見てシェラザードは呆れながらエステルに話した。
「……それはリベール王家の名よ。マーシルンはメンフィル皇帝の名よ………」
「え………じゃあ、あなた達ってもしかしてメンフィルの皇女様!?」
シェラザードからマーシルンの名がどれほどの名前か理解したエステルは驚愕に満ちた表情で3人を見た。
「付け加えておくとプリネさんは師匠……つまり”闇の聖女”の娘でもあるわ。」
「聖女様の………!?そう言われてみれば聖女様によく似ているかも………!」
エステルは憧れている人の娘だとわかりさらに驚いた。
「でも、どうしてメンフィル王家の人達がエステルに直接依頼を出したんですか?」
「うむ!それは余が答えてやろう!一つはお主たち、ブレイサーの仕事を手伝うことで、余達の見聞を広めることじゃ!民の暮らしを知ることも王族の務めじゃからな!
そしてもう一つはエステル、お主がどのような人物かを余達、メンフィルは知りたいのじゃ!」
ヨシュアの疑問にリフィアは堂々と答え、それを聞いたエステルは目を丸くした。
「へ……あたしを知りたいってどういうこと??」
「それはエステルさん。あなたの考えが我々メンフィル帝国が掲げる理想にとてもよく似ているのです。ですから、お父様――リウイ陛下があなたのことをよく知りたいため
あなたに依頼を出し、私達があなたと行動を共にすることになったんです。」
「メンフィルの理想って何??」
プリネが答えたことが理解できなかったエステルは聞き返した。
「私達メンフィル帝国が掲げる理想とは”人間”と”闇夜の眷属”の共存です。私達、”闇夜の眷属”は人間の方とは色々違うのであなた達ゼムリア大陸に住んでいる人達にとって初めてみる私達は距離を取られて当然なのですが、あなたはそんなことを気にせず自ら進んで友達になってくれましたよね?」
「あたしはただ、会話ができればどんな人でも仲好くできると思っただけだよ?………というか、皇女様があたしの友達で”闇夜の眷属”の人がいるってどうして知っているの??」
「フフ……それはこの子が教えてくれたんですよ………マーリオン!!」
プリネが指輪に呼びかけると指輪から光が走り、その場にマーリオンが現れた。
「え……マーリオン!?どうしてあなたがここに!?」
「お久ぶり……です……エステル……さんに……ヨシュア……さん……あなたの……こと………ご主人様に………話しました……あなた…なら……ご主人様……と…きっと……仲好く……なって…くれる……と……思った……から……」
「そうなんだ……でも、マーリオンの主ってこの人?」
突然現れたマーリオンに驚いたエステルだったが理由がわかり、ずっと気になっていたマーリオンの主の正体を聞いた。
「いえ、私は一時的にマーリオンを使役しているだけです。マーリオンの本当の主はお父様――メンフィル初代皇帝、リウイ・マーシルンです。」
「あ、あんですって~~~!?マーリオン、そんな凄い人の使い魔だったの!?」
主の正体を知ったエステルは思わず叫んだ。
「ちなみにリスティもリウイに仕えておるぞ。」
「嘘……あの呑気なリスティが……?信じられない……」
自分の友人達がメンフィル王家と深い繋がりがあることを知ったエステルは信じられない思いだった。
「………それで、エステル。どうするのこの依頼?」
アイナは心配そうな顔でエステルに依頼を受けるか聞いた。

「当然、受けるに決まっているじゃない!あたしは遊撃士よ!指名されたからにはどんな難しい依頼だって、成功させてみるわ!!」
「うむ、よく言った!これから頼むぞ、エステル、それとヨシュアとやら!」
「ええ!」
「ハハ……さすがエステル……相手が王族とわかっても普通に接するんだ……」
(お父様、お母様……この人は私達の初めての友達にもなってくれそうです……)
エステルとリフィアはお互い、笑顔で握手した。その光景をヨシュアは苦笑しプリネは微笑ましそうに見ていた。
「ヨシュア、厳しいとは思うけどエステルをサポートして上げて。この依頼の報酬はエステルと半分にしといてあげるわ。」
エステルが依頼を受けたことに諦めの表情だったアイナは頼みの綱のヨシュアにエステルのことを頼んだ。
「ハハ……言われなくてもそうするつもりでしたよ。下手したらそれこそ国際問題に発展するかもしれませんしね……」
アイナの頼みをヨシュアは苦笑しながら引き受けた。そして一連の流れを見たシェラザードは自分もついて行くためにアイナに名乗りあげた。
「アイナ、空賊の件もあるからボースの修行と空賊の件が解決するまで私もエステル達について行くわ。」
「ええ、お願い。」

そしてヨシュアはある事が気になった。
「……あの、3人共戦闘は大丈夫でしょうか?ブレイサーの仕事の中には戦闘が避けられない場合もありますし。」
「ヨシュアさんでしたっけ?あなたもエステルさんと同じように気軽に接してもらって構いませんよ。私達はしばらく寝食を共にするのですから。」
「………わかった。それで、どうなのプリネ?」
「その点は大丈夫です。私はお父様からは剣術、お母様やお姉様方からは魔術を教えて貰っていましたから。実戦もファーミシルス様やカーリアン様にも鍛えて頂いたので
足手まといにはなりません。接近戦、攻撃魔術、回復、補助、どれでもできますのでお任せ下さい。」
「ふえ~……凄いわね……そっちの2人はどうなの?」
エステルはプリネの万能さに感心しながら2人の戦闘スタイルを聞いた。
「ん……エヴリーヌの武器はこれ……」
エヴリーヌは虚空から弓を出した。
「わ……!一体どうやったのそれ??」
何もない空間から突如出て来た弓にエステルは驚いた。
「これ……?出したいから出しただけだよ……?」
「いや、それだけじゃわかんないだけど……」
「余が特別に説明してやろう!エヴリーヌは弓を魔力で微粒子状にして利き腕に収納しているのじゃ。だから、いつでも武器が出せるのじゃ。」
「びりゅうしじょう……??さっぱりわかんないわ~……ヨシュア、シェラ姉。わかる?」
リフィアの説明でさらに理解できなかったエステルは2人に聞いた。
「ごめん……僕も全然わかんない。」
「わたしもよ………」
「要するにエヴリーヌお姉さまは普段武器を持ち歩く必要がなく、いざ戦闘が起こった際にはいつでも武器を出せることです。」
唸っていた3人を見兼ねたプリネは簡単な説明をした。
「な~んだ、そういうことね……なんとなくわかったわ!」
「本当にわかってるのかいエステル……でも、弓を使うということは当然矢があるはずだけど、見た所矢筒を背負ってないけど矢はどうしているんだい?」
プリネの説明で理解しているエステルを怪しんだヨシュアは、弓を使うエヴリーヌが矢筒を背負ってないことに気付き聞いた。
「矢はエヴリーヌお姉様の魔力で構成されているので、普通の矢は必要ないのです。」
「それって魔力がある限り矢は無制限ってこと!?凄いといえば凄いけど、それだったら魔力がすぐ尽きるんじゃ……」
普通の矢が必要ないことに驚いたシェラザードだったが、ある事に気付きそれも聞いた。それを聞いたプリネは上品に笑って否定した。
「フフ、その心配は無用ですよ。エヴリーヌお姉様は”魔神”ですから。」
「嘘!?この娘が”魔神”!?信じられない……!」
「シェラさん、なんなんですかその”魔神”っていうのは?」
エヴリーヌが魔神ということを教えられたシェラザードは驚愕し、その様子を不思議に思ったヨシュアは聞いた。

「………師匠から教えて貰ったんだけど”魔神”っていうのは”闇夜の眷属”の中でも全てにおいて最強を誇る種族よ……その力は神にも匹敵すると言われるし魔力も無限のようにあると言われているわ……正に魔王と言われてもおかしくない強さだそうよ……ちなみにメンフィル皇帝も半分、魔神の血を引いているそうよ。多分、この娘が本気になったらリベールは焼け野原になるんじゃないかしら……?」
「え”!?それなら戦闘なんてことしたら不味いんじゃあ……」
魔神のことを知ったエステルは思わず心配そうに言った。
「大丈夫だよ……エヴリーヌ、人間が好きだし、そんなことしたら疲れるしリウイお兄ちゃん達に嫌われるからそんなことしないよ……」
「そう願いたいわ……魔神だったら魔術も使えるのよね?」
エヴリーヌはエステルの心配を無邪気に笑って否定した。その様子を見たシェラザードは思わず溜息を吐いてエヴリーヌが本気になって暴れないことを祈った。
「ええ、エヴリーヌお姉様は弓の技に加えて強力な風と暗黒の魔術が使えます。」
「あはは……それは心強いわね……リフィアはどうなの?」
エステルは明らかに自分達と実力が違うエヴリーヌを知り、冷や汗を垂らし、渇いた声で笑った後、最後の一人であるリフィアに聞いた。
「うむ、よくぞ聞いた!余は神聖、暗黒に加えて無属性である純粋魔術も使えるから後方からの攻撃や回復は余に任せるがよい!」
「へえ……以外ね。リフィアって攻撃あるのみ!っていう印象があるけど回復魔術もできるんだ……」
リフィアが傷の治療もできることを知ったエステルは意外そうな顔でリフィアを見た。
「傷ついた民を治療するのも王族としての義務じゃからな!それに余はこれでも”百日戦役”のエレボニアによるロレント襲撃の際、瓦礫に埋もれて瀕死であった一人の女性の命をペテレーネと
共に救ったのじゃぞ。」
「………え………………」
リフィアの言葉を聞いたエステルは、かつて母の命を救った際に見た憧れの女性であるペテレーネの優しげな笑顔と、自信満々な笑顔で絶望していた自分に母は助かると希望を持たせてくれ、ペテレーネと共に母の傷を癒した少女の顔を完全に思い出した。
「あなたがあの時、お母さんを助けてくれたもう一人だったんだ……やっと……会えた………!」
リフィアを思い出し、母の命を救った人物に再会し感激したエステルは嬉し涙を流した。
「エステル……!?どうしたんだい!?」
ヨシュアはエステルが涙を流していることに慌ててエステルに何があったかを聞いた。
「うん………この人、聖女様といっしょにお母さんを助けてくれた人だったの……」
「え………それってレナさんが言ってた命の恩人!?」
シェラザードはリフィアがレナの命を救ったことに驚いた。そしてエステルは涙を腕で力一杯拭き太陽のような笑顔でリフィアにお礼を言った。
「お礼が遅くなったけど………リフィア、あの時、瓦礫に埋もれて瀕死だったお母さんを助けてくれてありがとう!!」
「ほう、お主があの時の少女だったのか………何、余は王族として、また一人の人として義務を果たしたまでじゃ!あの時から余とエステルは出会うべき運命だったのじゃな!」
「ふふ、本当にその笑顔はあの時から変わらないわね。……友達としてもこれからよろしくね!」
「うむ!」
リフィアとエステルのやり取りを周囲の者達はしばらく微笑ましく見ていた。

「フフ、エステルさんとリフィアお姉様。お二人とも似た者同士だから本当に微笑ましいですね。」
「えっと……プリネ?似た者同士ってどういう意味かな……?」
思わず呟いた言葉に反応したヨシュアは嫌な予感がして自分の予感が当たらないようエイドスに願いつつ聞いた。そしてプリネはそんなヨシュアの願いを知らず見事に打ち砕いた。
「あの眩しい笑顔もそうですけど、何より性格だと思います。お姉様は基本的に、人の話を聞かず思い立ったら即実行してしまう……その、いわゆる暴走してしまう部分がありますから。
エステルさんもそんな風に見えたのですが、間違っていたでしょうか?」
「…………いや、君の言う通りだよ………はぁ~…………(エステルだけでも手一杯なのにそれがもう一人増えるのか………大丈夫かな、僕……)」
リフィアの性格を知ったヨシュアはこれからの旅に起こるであろうことを考え大きな溜息を吐き肩を落とした。
(ヨシュア………準遊撃士になったばかりなのにきつい事を押しつけてごめんね………せめて報酬は交渉して、もう少し多めに貰えるよう後で交渉してあげるわ……)
(がんばりなさい、ヨシュア………プリネさんはまだまともだから、いざとなったら2人で協力してあの暴走コンビを抑えなさい………)
ヨシュアの様子を見てシェラザードとアイナはそれぞれ哀れに思った。そしてプリネはある事を思い出し、エステル達にそれを言った。
「そうだ………私達の姓ですけど、”マーシルン”を名乗らず旅の間は”ルーハンス”を名乗りますのでその点を注意して下さい。」
「さすがに王家の姓を名乗ったら色々問題が起こるだろうしね。後でエステルにも言い聞かせておくよ。」
「ありがとうございます。そこの受付の方もお願いしますね。」
「ええ、ほかの支部の受付達にもそのことは伝えておきます。」
アイナはプリネの言葉に頷き、ヨシュアはプリネの言葉に納得した後、プリネ達の正体をエステルがばらさないよう細心の注意を払うよう心の中で誓った。
「さて………こうしちゃいられないわ!みんな、早くボースに向かうわよ!」
「了解。」
「はいはい……」
「うむ!」
「ん……」
「フフ、しばらくの間お姉様共々よろしくお願いしますね。」
そしてリフィア一行とシェラザードを加えたエステル、ヨシュアは次の推薦状を貰うためにボース市へ向かった。

次世代の闇の英雄達と英雄への道を辿り始める遊撃士達の旅の幕が今、開いた………!



後書き リフィア、エヴリーヌ、プリネがエステル達のメンバー入りです。正直言ってこの3人いれば反則だろう!と思いますがこれでいきます。ただ、ところどころこの3人はある重要場面などで同行から外れる場合があります。ちなみにメンフィル勢が一人でも戦闘メンバーに入っていれば通常戦闘BGMはVERITAの”我が旗の元に”が流れると思っていて下さい。まあ、完全に空の軌跡と合っていないBGMですが………次はプリネ、エステル、シェラザードの設定を出します………感想お待ちしております。



[25124] 設定2
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/10/19 23:03
空の軌跡がついにアニメ化ですね!!紹介されているキャラを見た感じSCもやるようですから今から超楽しみです!!空の軌跡のアプリ化に、今年も新たな軌跡が出るらしいですから、今年は軌跡シーズン!ですね!





<闇の申し子> プリネ・マーシルン  

髪の色、容姿、体つきは完全にペテレーネ似。瞳は赤、髪型は腰まで伸ばしたロングストレート、魔の力を解放した際、髪の色が銀髪になる。

LV40
HP3500
CP800
ATK440
DEF300
ATS550
ADF420
SPD22
MOV7

装備

武器 ロイレイピア改(モルテニア決起から幻燐戦争終結までリウイが使った愛剣。クリティカル率25%)
防具 イブ・アーライナ改(混沌の女神アーライナと神格者、ペテレーネの魔力を強く受けた混沌の神格者になるための修行用のローブ。火・地・時・幻属性ダメージ半減、さらに毒、混乱、即死防止)
靴  プリンセスヒール(メンフィル皇女専用の靴。護身の魔術がかかっている。封技、封魔防止)
アクセサリー アクアマリン(水精・マーリオンを封じた指輪。水属性ダメージ0、凍結防止)
       マースティア(全パラメータ10%上昇効果、HP+1000)

オーブメント(時属性)並びはエリィです。

味方のすぐ後に攻撃すれば威力1.5倍、一人終わるごとにCP、EPが50回復する。

クラフト

フェヒテンイング 80 単体 3回攻撃&アーツ、駆動妨害
闇の息吹Ⅰ 40 単体 味方のHPを20%回復させる
狂気の槍  60 単体 時属性攻撃ダメージ110%(威力はATSに反映)
戦士の付術 30 単体 味方のATK&DEFを15%アップ、2回まで重ねられる。
魔術師の付術 30 単体 味方のATS&ADFを15%アップ、2回まで重ねられる。
ペルル召喚 60 自分 サポートキャラ、ペルル(HPは主の7割)を戦闘に参加させる(1~300%の単体攻撃or敵全員を30%で混乱or敵全員100%攻撃)ただし召喚した主は召喚している間、最大HP、CPが15%下がる、任意でペルルを自分の元に戻せる。
マーリオン召喚 100 自分 サポートキャラ、マーリオンを召喚する(援護内容はリウイと同じ)ただし、アクアマリンを装備していないと召喚できない。
イオ=ルーン 150 小円  ダメージ100%の無属性攻撃(威力はATSに反映)
フェヒテンバル 200 単体 ダメージ150%
黒の闇界 250 大円・地点指定 110%の時属性攻撃(威力はATSに反映)
魔力全解放 全部 自分 内に秘められし魔神と姫神の力を解放する。全パラメータ3倍。ただし、解放した際のCPによって効果時間が変わる。

Sクラフト 暗礁火炎剣 中円  闇の炎で敵を焼き尽くす魔剣技、400%攻撃&火傷70%


<闇を受け入れし少女> エステル・ブライト

レベル、パラメーター、オーブメントは原作通り。ただし、CPは400、ATS、ADFは原作の2倍

アクセサリー 混沌の印(混沌の女神、アーライナの信者達に配られているお守りにエステルのためにペテレーネが魔力を込めた逸品。エステル専用、ATS&ADF10%上昇、毒・混乱防止)
それ以外の装備は全て原作通り

クラフト(原作以外)

パズモ召喚 30 自分 サポートキャラ、パズモ(HPは主の半分)を戦闘に参加させる(味方単体DEF&ADF20%上昇or味方全体SPD15%上昇or敵全体空属性130%攻撃、たまに400%攻撃)ただし召喚した主は召喚している間、最大HP、CPが5%下がる、任意でパズモを自分の元に戻せる。
黒の衝撃 50 中型直線 貫通する暗黒魔術、80%時属性攻撃&後退効果(威力はATSに反映)
旋刃 40 小円・地点指定 風の魔術 70%風属性攻撃(威力はATSに反映)
闇の息吹?  45 単体 味方のHPを回復させる。ただし、回復量は5~25%とバラバラ

Sクラフト

雷波無双撃 単体 自ら編み出した魔棒技、威力はATK、ATS両方を合わせ、さらに烈波無双撃の1.5倍、封技50%。ただし、CPが200からでないと使えない。MAX威力になるCPは400、任意で烈波無双撃か選べる。


<風の銀閃> シェラザード・ハ―ヴェイ

レベル30でパラメーター、オーブメント、装備は原作と同じ。ただし、CPは250、ATS、ADFは原作の1,5倍

クラフト(原作以外)

旋刃 40 小円・地点指定 風の魔術 70%風属性攻撃(威力はATSに反映)
電撃 30  直線 貫通する風の魔術 60%風属性攻撃&封技10%(威力はATSに反映)

消沈 25 小円 範囲の敵のSPDを10%下げる、2回まで重ねられる。
戦意の祝福 65 全体 味方全員のSPDを15%上げる
落雷 55 小円 風の魔術 90%風属性攻撃&封技20%(威力はATSに反映)

大竜巻 60 中円・地点指定 風の魔術 85%風属性攻撃、混乱15%(威力はATSに反映)





オマケ

<皇族専属侍女見習い> イリーナ・マグダエル
髪の色、容姿、体つきは全て原作のイリーナ。髪型はVERITAのエクリア。服装は幻燐2の×××シーンで着ていたメイド服に似た服。






後書き
プリネはリウイ達によって鍛えられているので相変わらずのメンフィル勢特有の反則な強さです^^シェラザードのレベルですが……どう考えてもエステル達よりずっと長く遊撃士やっているんですから当然のレベルでしょ。ゲームバランスとはいえ先輩遊撃士達がエステル達よりちょっと高いぐらいじゃ正遊撃士とはいえないでしょうし……CPやATS系は魔力の使い方がわかったのでプラスしました。エステルがなぜATSやCPが高いかは後のお話でわかります……関係のない話になりますが私もアプリの空の軌跡をやっているのでもし、やっている方がいらっしゃったら仲好くしてもらえば幸いです。まあ、名前は違いますが。……さて、ここで一端更新はしばらくないと思います。焔の軌跡もいい加減書いた方がいいですし、今月末には穢翼が……11が……そして4月には神採りが……!で夢中になると思いますので次の更新はとんでもなく遅いかな……?まあ、遅くても6か7月には再開しようとは思っています。感想お待ちしております。



[25124] 第25話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/03/16 18:17
生存報告代わりの更新です。仕事が自宅待機で時間があったので焔の軌跡と同時に作れました。なので更新速度が戻るわけではありませんので………





~ミルヒ街道~
ボース市へ続く街道をリフィア一行を加えたエステル達は関所に向かって歩いていた。
「あ、そういえば3人に紹介する子がいたわ……パズモ!」
歩いていたエステルはあることに気付き立ち止ってパズモを呼んだ。
「ん………この子、守護精霊だね……」
「ほう、まさか守護精霊とまで契約していたとは………さすがじゃな、エステル!」
パズモを見たエヴリーヌとリフィアは珍しがってパズモを見た。
(へえ……この人、アムドシアスやハイシェラほどではないけどかなり上位の魔神ね……それに周りの2人も少しだけど魔神の血を引いているわね……)
見られたパズモは3人の力に気付き、3人がかなり強い力を持っていると思い呟いた。
(へ……パズモ、もしかして友達で魔神がいるの!?)
パズモの呟きが聞こえたエステルは思わず念話を送った。
(……前の主人が魔神を使い魔にしていたり、魔神の協力を受けて凄い威力を持つ剣や鎧を手に入れたの。だから友達っていうほど仲はよくないけど、知り合いではあるわね。(最も向こうはもう、忘れているかもしれないけどね……))
(ふわぁ~……パズモの前の主人、そんなに凄い人だったんだ………ねえねえ、その人強いの?パズモの前の主に会って話をしてみたいわ!)
(う~ん……強いと言われれば強いわね……でも、会うのはやめたほうがいいわ。)
(なんで?)
(ちょっと……ね。その内理由は教えるわ。(まあ、エステルならセリカの正体を知っても平気で友達になろうとするかもしれないけどね……))
(???うん、わかったわ。)
エステルが前の主人のことを聞いた時、パズモは前の主が世界の敵であることは流石にエステルには言えず、誤魔化した。

そしてパズモを見たプリネはあることに気付いた。
「(もしかしてこの子……)エステルさん。この子といつ契約したんですか?」
「えっと……結構前よ?6年前ぐらいかな……?」
「(6年前……もしかして……)ペルル!」
「はーい!」
プリネに呼ばれたペルルは姿を現した。そしてペルルは驚いた表情で自分を見ているパズモに気付いた。
「パズモ!?よかった、無事だったんだ~!」
(ペルル……!あなたも無事だったのね!どうしてその人の使い魔に?)
「うん、魔力がなくなってこの人に魔力を分けて貰ったの。それでパズモが見つかるまで使い魔にならせてもらって今まで、この世界で生きてこれたんだ。パズモはどうして?」
(あなたと同じよ。私もエステルに助けられてお礼にエステルの守護精霊になることにしたの。それにこの子、闇夜の眷属を友達って言ったの。だからそんなエステルを私は守りたいからいっしょにいるのよ。)
「そうなんだ……ボクも同じだよ!プリネといっしょにいたらボク達が目指していた理想郷を作るのに一番近いんだ!」
(そうね、メンフィル皇女といっしょにいるのなら確かに私達の理想郷を作る大きな一歩になるわね。でも今は私はエステルといっしょにいたいからすぐにあなたといっしょに行動はできないの。ごめんね……)
「ううん、いいよ!ボクも最近プリネとずっといたいって思っているから気にしていないよ!エステルって子は見た所人間だよね?だったら何十年だって待つよ!」
(ありがとう、ペルル。もし、エステルとの契約がなくなった時そちらのメンフィル皇女の方と契約していいか聞いてくれないかしら?)
「了解、えっとプリネ。ちょっといい?」
「……何でしょうか、ペルル。」
ペルルに呼ばれたプリネはもしかしたら約束通り契約を解除するかもしれないことに寂しさを感じながら答えた。
「えっと、あのね。パズモのことなんだけど、エステルとの契約がなくなった時プリネがパズモと契約してくれないかな?」
「別にいいですが……ペルル、私との契約のことはいいんですか?」
「うん!ボクなんかでよければメンフィルをより住みやすい国作りの手伝いのためにずっと使って!」
「ありがとう、ペルル。……エステルさん、もしあなたの寿命が来てパズモとの契約を解除した時、その子を引き取ってもよろしいでしょうか?」
ペルルがこれからもずっといてくれることに安心したプリネはエステルに聞いた。

「別にいいけど……凄く後になるわよ?あたしはまだ16歳だし、もしあたしの寿命が来てパズモとの契約を解除した時とかプリネもおばあちゃんとかになって寿命もあたしと変わらないんじゃないの?」
「あはは………エステルさん、私も”闇夜の眷属”ですよ?多分数十年たったぐらいでは私は若いままですから。」
エステルの言葉にプリネは苦笑いしながら答えた。
「そう言えばそうよね。ねえ、プリネ。ずっと疑問だったんだけど聖女様って何歳なの??たまに遠目で見た事あるけど、聖女様がロレントに来てから全然年をとっている風に見えないんだけど……?」
「エステル、女性の年齢を聞くなんて失礼だよ。」
エステルがプリネに聞いたことをヨシュアは咎めた。
「まあまあ、ヨシュア。別にいいじゃない。私も師匠の若作りにはずっと疑問を持ってたわよ?最近師匠を見て、私の方が師匠より年上に思えてちょっとへこむのよね……」
「シェラさんまで……えっと実は言うと僕も気になっていたんだ。いいかな、プリネ?」
「別にいいですけどお母様の年ですか………すみません、正直いって私は知りません。多分、お母様も自分が今何歳かわからないかもしれませんね。」
「へ………なんで?」
エステルはペテレーネ自身が自分の年齢を把握していないことを不思議に思い聞き返した。
「”神格者”であるお母様には年齢など無意味ですから。」
「その”神格者”って言うのはなんなんだい?」
ヨシュアは聞いたこともない言葉が出て来てそれの意味を聞いた。
そしてプリネはペテレーネの年齢を知りたがっていた3人に神格者がどういう存在、そしてペテレーネが神格者を目指した理由の一つを話した。
「ふわぁ~……聖女様って年をとらないんだ………さすが聖女様ね~……」
エステルはペテレーネが年をとらないことを知り呆然とし
「凄いな……よくおとぎ話とかで出てくる不老不死が本当にあるんだね……」
ヨシュアは不老不死があることに驚き
「永遠に年をとらず、ずっと好きな人の傍に居続ける……か。師匠の好きな人ってメンフィル皇帝でしょ?メンフィル皇帝は魔神の血を半分引いているお陰で不老の存在だって前に師匠から聞いたことがあるわ。……夫は皇帝でしかも両方とも若い姿のまま……女としては羨ましい限りね……」
シェラザードは女として最高の幸せを手に入れたペテレーネを羨ましがった。
「”魔神”ってそんなに凄いんだ……あれ?もしかして3人共あたしより凄く年上??」
エステルは感心しながらあることに気付き3人に聞いた。
「私は18になったばかりですけど、ほかのお2人は……」
プリネはリフィアとエヴリーヌを見て言い淀んだ。
「エヴリーヌは何万年も封印されて眠っていたからよくわかんない……」
「な、何万年~!?どれだけ凄いのよ……リフィアは?」
エヴリーヌの言葉にエステルは思わず叫んだ後、リフィアに聞いた
「む……余か。余もあまり年は気にしていないのじゃが、少なくともシェラザードよりは年上のはずじゃ。」
「え!?背はあたしよりも低いのにシェラ姉より年上!?」
「背のことは申すでない!余も一応気にしているのじゃ!……全くなぜじゃ?母やカーリアン婆はあれだけ体つきがいいのになぜ余だけ……ブツブツ……」
「えっと……リフィア?どうしちゃったの??」
急に独り言を言いだしたリフィアにエステルはわからなかった。それを見たプリネは3人に小さな声で話した。
「リフィアお姉様……ああ見えて、家族の中で自分だけ背や胸が小さいことを凄く気にしているんです……だから、今後そのことは言わないで貰えると助かります……」
「あはは……了解。」
「うん、僕も絶対に誰にも言わないよ。」
「私も女として誰もが気にする事、絶対に言わない事を誓うわ。」
3人はプリネの頼みを苦笑し、真面目な表情で了解した。
「ん……?……プリネ……あれ……」
魔獣に気付いたエヴリーヌはプリネの服を引っ張り魔獣の集団を指差した。
「あら、魔獣ですね。リフィアお姉様!戦闘です!」
「ブツブツ……何!?フフフ……ちょうどいい、余の鬱憤を受けてもらおうか!!えーいっ!!」
プリネに言われたリフィアは我に帰り素早く魔力でできた光の弾ーー追尾弾を放った。光の弾に当たった魔獣は一撃でやられセピスを落とした。
「凄っ……あんな小さな魔力の弾で魔獣が一撃……」
エステルはリフィアの魔力の高さを実感し驚いた。
「エステル、呆けてないで武器を構えて!」
「っと、そうね!」
ヨシュアに言われたエステルは武器を構え、魔獣の集団との戦闘を開始した。

戦闘は終始エステル達の有利だった。エステル、ヨシュアの息がぴったりな攻撃に加え、パズモの援護、シェラザードの鞭による攻撃や魔術攻撃、何より新しく仲間になったリフィア一行が圧倒的な強さを見せた。
「余の風格を拝め!鋼輝の陣、イオ=ルーン!!」
リフィアの属性を選ばない純粋魔術はどの魔獣にも大ダメージを与えるか消滅させ
「んっ。………はい、どかーん」
エヴリーヌの弓矢による攻撃は魔獣を正確に射抜き、放った上級の風の魔術ーー『贖罪の雷』は地面をすさまじい勢いで走りそれに直接当たった魔獣は哀れにも一瞬で消滅し、
余波を受けた魔獣にもダメージを負わせ
「行きます!ふっ、はっ、そこっ!!……出でよ魔槍!狂気の槍!!」
プリネのレイピアによるリウイ直伝の突剣連続技ーーフェヒテンイングで確実に魔獣を斬り伏せた後、魔術を使い離れた敵にも大ダメージを与え
「プリネには指一本触れさせないんだから!えーい!超ねこパーーンチ!!」
プリネを守るようにプリネの傍らでペルルは自らの翼を使って魔獣を仕留めていった。そして戦闘はあっと言う間に終結した。
「よし、バッチリね!……にしてもメンフィルのみんな、本当に強いわね。”魔神”や”闇夜の眷属”のエヴリーヌやペルルはともかく、プリネやリフィアとか皇女様とは思えない強さね……」
エステルは新しく仲間になった同行者達が明らかに自分達より実力があることを知り、王族であるプリネ達がなぜ、そんなに強いか疑問に思った。
「王族とは民を守るため時には、先頭に立って戦場に出る必要があるからの。じゃから余達が強いのは当然じゃ!」
「私もお姉様と同じ理由です。私は家族の中では戦闘が一番経験不足です。ですからそれを補うためにもお父様のほか、カーリアン様やファーミシルス様によく稽古をして頂きました。そのお陰でもありますね。」
「そうなんだ……2人ともあたしより凄いわ……」
自分と同じくらいの2人がすでに民のことを考えているのを知ってエステルは感心した。
「カーリアンって人はもしかして、強者揃いのメンフィルの中でも一、二の実力を持つと言われるあの女性剣士かい?同じ実力を持つファーミシルス大将軍にも稽古してもらうなんて、”闇の聖女”さん直々の魔術に加えて戦闘の稽古相手の凄さ……それは強くなるよ……メンフィル皇帝も大陸で最強の突剣使いって言われているし。」
ヨシュアはプリネに戦闘指導をした人物の名前を知り、プリネが強い理由に納得した。
「確かにリウイは強いがそんなリウイを剣で追い詰めた相手がいるぞ。」
「はっ!?あのメンフィル皇帝に剣で追い詰めるってどんな化け物よ!?」
シェラザードはリフィアの言葉に驚愕し、リウイを追い詰めた相手がどんな相手か想像できなかった。
(もしかして……)
(セリカ~……なんでメンフィルの王様と戦ったの~……?そんなことしたらレスぺレント地方で賞金首や指名手配にされちゃうよ~……?ただでさえセリカには敵が多いんだから……)
リウイを追い詰めた相手に心当たりのある守護精霊や使い魔はそれぞれ複雑な表情をした。
「ふむ、それは機会ある時に教えてやろう。それよりボース市とやらに早く行こうぞ!」
「そうね!関所も見えてきたし、やっと半分ね!先を急ぎましょう!」
そしてエステル達は関所を越え、途中で会った遊撃士ーーグラッツの言葉に疑問を持ちつつボース市に到着した……



後書き 久しぶりの2作同時更新です。まあこんな荒技、めったにできませんが。戦女神キャラはあまり出す気はないと言いましたが話を作っている上でリタ、ナベリウス以外でどうしても戦女神シリーズの主役クラスの2人を出す必要が出て来たんですよね……書けるかな??………関係ない話ですが穢翼、11共に延期に……!!(泣)仕方ないとはいえショックです……感想お待ちしております。



[25124] エイプリルフール記念ネタ
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/04/02 00:44
エイプリルフールで突如思いつき、2時間で書きあげた記念で書いたボツネタです。なので本編とは一切関係はほとんどありません……ただし、一つだけ『真実』が混じっています……なのでネタばれが嫌な人は今の内にお帰りの扉へ…… 後、R15も混じっているのでご注意を……







「えっと……あなたは誰?」
「わ、私の名は『水那』と、も、申します……!あ、危ないところを助けて頂いてありがとうございました!」
「あはは、いいわよ別に。あなたを守るのもあたし達、遊撃士の義務だからね!」
表情がほとんどわからないマーリオンと違い、恥ずかしそうにお礼を言う、表情が豊かな水精にエステルは笑顔で答えた。
「え………で、でも、わ、私は人間ではないのにどうして……?」
「そんなの関係ないわ!あたしがあなたを守りたいと思ったから行動しただけよ!」
「(この人、なんとなく……さんに似ている。この人なら……!)あ、あの!私をエステルさんの使い魔にしてもらってもいいですか!?」
「へ……?なんで急にそんなことを……?」
エステルは水精が突如言い出した願いを聞いてわけがわからなかった。
「そ、その……恩返しがしたいんです……!そ、それに!あ、あなたとしばらく、い、いたいんです!」
「そっか……わかったわ……!これからよろしくね、『水那』!」
「は、はい!」
そしてエステルは新たな精霊と契約した………







「リウイ様、捕えた結社の幹部、『幻惑の鈴』とやらをいかがなさいますか?」
ファーミシルスは主が見守っていた女性を自分の知らぬところで妙な術をかけられて、未だ眠りからさめない状態にした結社の幹部をリウイ自身が怒りの鉄槌を下して、重傷を負わせ、牢に入れた者の処分をどうするか未だ怒りが収まっているように見えないリウイに聞いた。
「………オーク共に犯させて処刑と言いたいところだが、腐っても謎の組織の幹部だ……戦力として使い道はある。魔導鎧の生贄にしたほうが有益だろう……シェラ、確か最近発掘された魔導鎧があったな?それをその者に使って構わん。」
「御意……では、速やかに実行いたします。」
そしてシェラは出て行き、牢に向かった後、牢に捕えられた女性に封印されていた魔導鎧の力を解放した。
「いやああっっ!ああっ、なんなのこれ!?や、やめてぇっ!!」
女性は鎧から出て来た怪しげな触手に体中に絡みとられ悲鳴を挙げた。触手は貪欲な魔物のように女性の体を自分が食するに値する肉体が吟味した。
「いやああっっ!ああっ!お願い、私の知っている結社のことならなんでも話すからお願い!助けて!!」
「話す必要など不要……『幻惑の鈴』、あなたが忠実なるメンフィル最強の戦士として生まれ変わった時、貴殿を我が軍ーー機工軍団の副団長に迎える。その時にでも、情報を開示してもらいます……」
女性の嘆願をシェラは冷酷に断ち切った。
「だ……れが……メンフィルに……忠誠を……誓うものですか……!いやああっっ!!!!!!!」
女性は最後まで抵抗しようとしたが、魔導鎧が体中に浸食した時目の光がなくなりシェラと同じく魔導鎧を全身に覆った女性になった。
「………浸食完了……シェラ団長、指示をお願いします。」
「……これより我が主に生まれ変わったあなたを紹介する。私についてくるがいい。」
「了解……」
そして女性はメンフィル機工団の副団長となり、皮肉にも自分の前にいた組織の本部を魔導鎧の装備についている強力な魔導砲を使って建物ごと消滅させたのであった………
その知らせを聞いた他国の重役は複雑な思いをしつつ、組織の壊滅に胸をなでおろした………ある一人の女性の悲しみを知らずに……






「………スを『……の生から解放する』」
「えっ……?」
美しい女性に見間違われるような男が女性にある言葉を呟くと、女性の中にあった男との結合の魔力が失われた。
「ど、どうして……」
女性は信頼していた主がなぜ、そんなことをしたのかわからず、また支えにしたものがなくなり悲痛な表情をした。
「これでお前との約束を果たした。お前を殺す、というな。」
(………フェ………は死んだ。そして生まれ変わった。これからは使徒ではなく、まして……の娘でも
ない自分の人生を生きるのだ。)
男が女性に理由を言い、男が腰に下げている魔剣が女性に男の意図を伝えた。
「……自分の、人生……」
(そうじゃ。………が………に依存していること…………となることで安息を得ていたことは分かっておった。
じゃが今の……、依存せずとも生きていけよう。己の足で、自らの途を)
「あまり喋るな………」
自分の持つ魔剣に男は女性にペラペラと男の意図を話すことに目を閉じ、注意した。
「わ、私……なんと、申していいのか……ううっ……」
女性はついに涙を流し、それを隠すように両手を自分の顔に覆った。そして落ち着いた女性を男はリウイとイリーナの元へと連れて行った。
「しばらく……を預けていいか?」
「………それでいいのか?」
男の頼みをリウイは目を閉じて聞き返した。
「リフィアの後見人か、今後生まれてくるお前とイリーナの子の教育係に据えてやってくれ。ずっと望んでいたイリーナとの絆を取り戻すまでの間だけでいい。」
「承った………」
「……カ殿……ありがとうございます……」
リウイは男の頼みを受け、イリーナは涙を流しながら男に礼を言った。
「……様、わ、私……貴方にお仕えできて……幸せでした……その気持ちは変わらない……ずっと……いつか……また……帰っていいですか?貴方のいる御屋敷に……?」
「好きにしろ。」
そう言った男は元の世界に戻る門へ行こうとした時、男は振り返り女性に伝えた。
「俺はあそこにいる。ずっとな……お前が帰ってくるまで……ティ……を探す旅には出ない………」
そして男は背を再び向けて元の世界へ去って行った。







「黒き翼の少女よ……どうやら自分の居場所を見つけたようだな……」
「はい……今まで心配して下さってありがとうございました……私の居場所はここです!」
少女はリウイに答えた後、今まで誰にも見せたことのなかった最高の笑顔で自分を受け入れた仲間の内の若きリーダーーー青年の右手に抱きついた。
「ちょっ……オ!?」
「……ちゃん!?」
「ヒュー~……やるじゃないか……助。」
少女に抱きつかれた少年は慌て、仲間の中でも年長の男性は口笛を吹き、女性は慌てて
「な、なら私も!」
「ちょっ……ィ!?」
さらに女性も青年のもう片方の手に抱きついた。
「おお、お嬢も行ったか!(これは面白くなってきたぜ……!)両手に花じゃねえか!しかも、お嬢の姉や皇族の義理の兄も認めているから一夫多妻が実現するじゃねえか!マジで羨ましいね~……ド!」
「……ィ!?ぐ、ぐぐ……絶対にあなたなんか認めませんわ!!」
女性が青年に抱きついたことに女性の親友は青年を睨みつけ、男性は青年を茶化し、非常時でもあるに関わらずしばらくの間その場は賑やかになった………









後書き やっちまった……!でも、後悔はしていません。前書きにもあったようにほとんど没ネタですがあるネタは『真実』です。これの意味がわかるかたにはわかると思います……感想お待ちしております。



[25124] 第26話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/05/31 17:04
お待たせしました!11、穢翼全クリ、神採りも1週目クリアして、小説を書く時間が少しだけできたので少し速いですが更新再開です!!ただ、ユエラ、エミリッタ終わってない上、仕事も忙しくなってきたので今までのようにいかず多分月に一回ペースぐらいしか更新できないと思いますが必ず完結目指して頑張りますので応援よろしくお願いします!!





~ボース市~

「やっと到着したわね。ここがボース地方の中心地、商業都市ボースよ。」
シェラザードは目的地について一息ついた。
「うわ~……いかにも都会って感じね……」
エステルはボース市の風景を見てロレントでは見られない光景に驚いた。
「リベール五大都市の中では王都に次ぐ大きな街らしいね。確かにロレントと比べると建物が石造りで大きい感じだな。」
ヨシュアは周囲の建物等見て、ボース市がロレントより栄えていると納得した。
「ねえねえリフィア、プリネ。メンフィルにもこんな街あるの?」
「ふむ……メンフィルの商業都市か。メンフィルの商業都市と言えばあそこに決まっておるな、プリネ。」
「はい、リフィアお姉様。”レスぺレント都市国家領”ですね。」
「”都市国家領”……その言い方だとかなり広いみたいだね?」
ヨシュアはプリネの言葉から、メンフィルの商業都市はかなり広いと推測した。
「うむ!メンフィルの中心地でもあるからな。王都・ミルスを含めて周りの王公領から来る名産物や食料はそこに集まり、そこからさまざまな場所へ運ばれていくからな。」
「広さはそうですね……少なくともリベールぐらいの広さの領ですね。」
「凄いね………」
「領一つでリベール全都市並……メンフィルってどれだけ広いのよ………」
ヨシュアとシェラザードはプリネからメンフィルの商業都市の広さを知り、メンフィルの土地の広大さに驚き溜息をついた。

「ふわあ~………メンフィルは本当に凄いわね……ね、あそこにでーんとあるメチャメチャ大きな建物、何かしら?」
エステルは目の前に建っている一際大きな建物を指差した。
「あれはボースマーケット。色々な店が集まった屋内市場ね。食料品、衣類、雑貨、書籍……武器やオーブメントを除いた大抵の買物はあそこで出来るわ。」
「さすが商業都市って言われるだけあるわね~……あーあ……買物目的で遊びに来たかったな……」
エステルはさまざまな買物が出来ると知り、仕事でボース市に来た事に肩を落とした。
「一つの建物の中で市場を開く……メンフィルにはないやり方ですね、お姉様。」
「うむ!屋内で市場を開くことで天候にも買物が目的の民達の足が左右されない画期的な市場じゃ!旅が終わったら早速父に提案してみよう!」
プリネはリベールの商業都市のやり方に感心し、リフィアは祖国をより豊かにするため早速、メンフィルの屋内市場の構造等を考え旅が終われば父親である現皇帝シルヴァンに提案しようと思った。
「さて、早速ギルドへ行こうか。」
ヨシュアの言葉に全員が頷きボース市のギルドへ向かった。

~遊撃士協会・ボース支部~

「おお、シェラザード。思ったより早く着いたな。ロレントからわざわざ歩いて御苦労じゃったのう。」
ギルドの受付、ルグラン老人はエステル達が予想以上に早くついたことに驚いた。
「お久しぶりね、ルグラン爺さん。もしかして、あたし達が来るっていう連絡があったの?」
「うむ、先ほどアイナからな。それでは、そこの嬢ちゃんと坊主がカシウスの子供達というわけか。」
シェラザードの言葉に答えたルグランはエステルとヨシュアを見た。
「えっと、初めまして。エステル・ブライトです。」
「ヨシュア・ブライトです。よろしくお願いします。」
「わしはボース支部を預かるルグランというジジイじゃ。お前さん達の親父さんとは色々懇意にさせてもらっておる。ルグラン爺さんと呼んでくれ。」
「うん、ルグラン爺さん。」
そしてエステル達はギルドの支部の移動手続きをした。
「これでお主たちはボース市で準遊撃士所属じゃ………さて、そこのお嬢ちゃん達が例のメンフィル大使のご令嬢達か?」
エステル達の手続きが済んだルグランはリフィア達を見てエステルに確認した。

「うん……3人共。」
エステルに促されて3人はルグランに自己紹介をした。
「はい……プリネ・ルーハンスです。色々到らない所があるでしょうが精一杯がんばらせていただきます。」
「私、エヴリーヌ……」
「余はリフィア・ルーハンス!!余にかかればどのような難しい依頼もこなしてみようぞ!」
「うむ、よろしく頼みます……しかし、”闇夜の眷属”の……しかも皇族の協力を得れる等ありがたいものじゃ。」
3人の自己紹介に頷いたルグランはリフィア達が遊撃士の仕事を手伝うことにありがたがった。

「どうして、リフィア達があたし達ブレイサーの仕事を手伝うことがありがたいの?」
エステルはルグランが喜んでいる様子がわからず、その理由を聞いた。
「ブレイサーは基本、人手不足じゃからな……それがサポーターとは言え3人も入ってくれたら本当に大助かりじゃ。しかも、”闇夜の眷属”は身体能力がわしたち、人間より優れておるし魔術も使えるから実質正遊撃士クラスの強さな上、メンフィルの皇族達は種族の中でも最強と言われておるしの。喜びたくもなるぞ。”闇夜の眷属”の遊撃士はいまだにおらんようじゃからな……これを期に誰かなってくれんもんかのう?」
「ふむ……それは各自の考えじゃから仕方ないと言えば仕方ないな。」
「ええ……さすがに私達がみなさんに遊撃士になるよう頼むわけにもいきませんものね……多分、お父様や私達が頼めばなってくれるかもしれませんが、それは私達
皇族が絶対にやってはいけないことですし。」
「うむ、個人の考えを我ら皇族が捻じ曲げる訳にもいかないしな。それは権力を悪用する薄汚い権力者共といっしょの行動になる。」
ルグランの呟きにリフィアとプリネは難しい顔をして答えた。

「2人ともその年でもう、そんなこと考えているんだ。さすがね~………それでルグラン爺さん、例のリンデ号の事件はどうなったかさっそく教えてくれない?」
エステルはプリネとリフィアを感心した後、ロレントで知った飛行艇が行方不明になった事件の事について聞いた。

「ウム、それなんじゃが……王国軍による捜索活動はいまだに続けられているらしい。じゃが、軍の情報規制のせいで状況が全く伝わって来ないのじゃ。
一般市民だけではなくギルドにも何の音沙汰なしでなぁ……」
ルグランは溜息をついて情報が全く入って来ないことを嘆いた。
「ええ~!?なんで!?軍とギルドって協力関係じゃないの?」
それを聞いたエステルは驚いた後、疑問に思ったことを聞いた。
「ま、それはあくまで建前ってやつよ。実際には、様々な局面で両者が争うことがあるわ。」
「つまり、縄張り争いですね。」
シェラザードの言葉を補足するようにヨシュアはエステルにもわかりやすいよう説明した。
「そんな……ねえ、2人とも、メンフィルもそうなの?」
エステルはそれを聞いて悲痛な表情をした後、プリネやリフィアに聞いた。

「メンフィル軍は基本的にこちらの世界で起こった事件等はギルドと連携しています。土地勘等は私達、異世界人ではわかりませんから。同盟国であり大使館があるリベールのロレント市は別にして、こちらのメンフィル領は”百日戦役”の際、占領した領ばかりですから民はあまり好意的ではないんです。その点、ブレイサーは普段から民の声を聞いていますから私達ではわからない民の情報もわかるんです。」
「うむ、これはリウイの意向でもある。その土地で起こった事件はその土地の者達に解決させる……彼らの生活に土足で踏み込んでしまった異世界出身の余達は彼らの影となって支えるのが筋というものじゃ。」
「そうなんだ……」
2人からメンフィルとギルドは諍いもないことを知ったエステルはホッとした。

ちなみにプリネ達は知らないことだが、メンフィルがエレボニア帝国領を制圧した当初はメンフィルは恐れられていたが、リウイの卓越した政治手腕により税はメンフィル領となる以前より低くなり、公共で利用できる医療機関の設立や軍による周期的な魔獣の討伐等、領内に住む人々にとって大きな助けとなり、だんだんと信用され始め、「メンフィル領になってよかった。」と言い始める人々も出て来てメンフィルは着実に領内の民からも慕われて来ているのだ。

「さすが大国の王の考えることは違うの……モルガン将軍も見習ってほしいものじゃ……」
メンフィルの寛容さにルグランは感心した後溜息をついた。
「げ、もしかして今回の件、モルガン将軍が関わっているの?」
シェラザードはある人物の名前がルグランから出たのに顔をしかめ確かめた。
「残念ながらその通りじゃ。」
「あっちゃ~……それは面倒なことになったわね……」
シェラザードは嫌そうな表情になった。それを見て、疑問に思ったエステルはシェラザードに聞いた。
「なに、そのモルガン将軍って?」
「10年前、エレボニアの侵略を撃退した功労者として有名な人さ。歴史の教科書にも出てたよ?」
エステルに説明したヨシュアだったが肝心の本人はほとんどわからない様子だった。

「う~ん、見事なぐらい記憶に残ってないわね~あたしが覚えている歴史の教科書に出ていた人は聖女様だけだもん。それで、その将軍がどうしたの?」
「聞いた話だと、その将軍……大のブレイサー嫌いらしいのよ。遊撃士協会なんか必要ないって日頃から主張してるらしいわ。」
「む、無茶苦茶なオッサンね~……じゃあ何、その将軍のせいで情報が入ってこないわけ?」
シェラザードからモルガンのことについて聞いたエステルは怒りの表情になった。
「……それどころではない。軍が調査している地域にはブレイサーを立入禁止にしよる。おかげで、他の仕事にも支障を来しておるのじゃよ。」

「まあ……それはいくらなんでもやりすぎではありません……?」
「全くじゃ!権力の使い方を間違えておる!民の命や生活がかかっておるのじゃぞ!?私情に流されるなど……あの老将軍、それでも国を守る軍の長か!?」
「……エヴリーヌ達の邪魔するやつなら殺しちゃう……?」
ルグランからモルガンがブレイサーの仕事を邪魔している事を聞いたプリネは遠回しにモルガンを非難し、リフィアは怒り心頭になり、エヴリーヌは物騒な言葉を言った。

「エヴリーヌったら何、物騒なことを言ってるんだよ…………あれ、リフィアってもしかして将軍を知っているの?」
ヨシュアはエヴリーヌの発言に冷や汗をかいた後、リフィアがモルガンを知っているように見え聞いた。
「うむ、リベールとの同盟を組む会談や”百日戦役”の講和条約を結ぶ際の会談に会ったことはあるぞ。最も余はあまり興味がなかったから挨拶程度にしか話しておらん。」
「そうなんだ……ねえ、将軍と顔見知りのリフィアが頼めば話してくれるんじゃないの?それにメンフィルの皇女様でもあるし、さすがに将軍も同盟国の皇女様の頼みは無視できないんじゃないの?」
エステルは名案が思いついたように顔なり、その案をリフィアに聞いた。
「ふむ………民のためならそれぐらい別にいいが……しかし………」
エステルの案を聞いたリフィアは難しい表情になり考え込んだ。

「エステル………それはさすがにちょっとまずいと思うよ。」
ヨシュアはエステルの案はまずいと思い、それをエステルに言った。
「へ……なんで?」
「他国の……しかも皇族である私達が国の一大事となる事件に口を挟んでしまったら内政干渉になってしまいますから、できるだけその案はやめたほうがいいです。」
「内政干渉って何?」
プリネの説明した意味がわからなかったエステルはシェラザードに聞いた。
「内政干渉とは他国の政治に介入すること……わかりやすく言えば要らぬ御節介を国のレベルで行う事よ。過去それが原因で戦争になった国や州もあるわ。」
「せ、戦争……」
予想外の言葉が出て来てエステルは何も言えなくなった。

「まあ、さすがにリベールとメンフィルが戦争になんてならないと思うわ。力の差は歴然だし、それに民の平和を願うアリシア女王が戦争なんてこと許さないし、そんな女王が向こうから持ちかけて来た同盟をわざわざ破棄するとは思わないもの。ちょっと大げさに言っただけだから安心しなさい。」
シェラザードはエステルに安心させるために大げさであったことを言った。
「シェラザードの言う通りじゃ。まあ、そう焦るでない。実は今回の事件に関してボースの市長から依頼が来ておる。軍とは別に、ギルド方面でも事件を調査して欲しいとの話じゃ。」
「あら、それは心強いわね。ボース市長の正式な依頼があればこちらが動く大義名分になるわ。」
ルグランから依頼人に関して聞いた時、シェラザードは光明が見えた表情になった。

「なるほど、渡りに船ってやつね。ルグラン爺さん、あたしたち、その依頼受けるわ。」
「うむ、いいじゃろう。詳しい話は市長に会って聞いてきてくれ。」
「わかったわ!」
そしてエステル達はボースの市長に会うために市長邸に向かった………



後書き 神採り、2週目突入していますが相変わらずエウシェリーの作品はやりこみ度があって面白くて最高です!!特に今回は中盤以降ストーリーやバトルフィールド等ヒロイン専用ルートになるのがまたいいですね!アペンドデータで幻燐勢が出てくるのもよかったですし、何気に戦女神へ続く話も微妙にあったのは驚きです!!それに神採りやったお陰で悩んでいたエステルのある属性の召喚キャラを思いついた上、オリジナル武器を出すことも思いつきました!なので神採りのキャラも出したり、ウィルが作った武器とかも出す予定なので楽しみにしていて下さい!!ちなみに現在のエステルの最終的な召喚キャラの数は5体、プリネは3~4体です!とりあえず次話は9割できてるので明日には更新できると思います。……感想お待ちしております。



[25124] 第27話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/06/01 11:41
最近、あるゲームの続きの新作が出ると知って一瞬そのキャラをエステルやプリネの仲間として加えようかなと思っちゃいました。………クロスオーバーしているネタとは関係ないキャラを出すのはやめたほうがいいですかね?ちなみにそのキャラのキーワードはドラゴン幼女・声優が〇〇ゆいと言えばわかる人がいると思います。






市長に会うために市長邸に向かったエステル達だったが、生憎市長は留守にしていて時間の効率などを考えてエステル達は自分たちで探して会いに行く事にし、市長がいつもつれているメイドーーリラを探し見つけたのだが肝心の市長はボースマーケットに視察に行ったのでリラをつれてマーケットの方に向かった。

~ボース市・ボースマーケット~

「はー、ずいぶん広いよね。市長さんはどこにいるのかな?」
「何しろ目立つ方ですから、すぐに見つかると思います……」
周りを珍しそうに見ているエステルが呟いた言葉にリラは答え、ある一角の喧騒を見て溜息をついた。
「……ああ、やっぱり思ったとおり。恥ずかしながらあそこの女性が市長です……」
リラは溜息をついた後、商人の男性2人に説教をしている身なりがいい女性が市長だとエステル達に言った。

「貴方たち、恥を知りなさい。この大変な時に食料を買い占めて、値をつり上げようとするとは……。ボース商人の風上にも置けなくてよ。」
「し、しかしお嬢さん……」
「僕たちはボースマーケットの売り上げアップを考えてですね……」
2人の商人は及び腰で言い返したが、その言葉は市長にとって火に油を注ぐ言葉で市長はさらに商人達に怒鳴った。
「お黙りなさい!他の品ならいざ知らず、必需品で暴利を貪ったとあっては、わがマーケットの悪評にも繋がります。それにもしこのことがメンフィル大使にでも伝わったら、ボースは利益だけを求めている薄汚い商人の集まりと思われて、生前のお父様の粘り強い交渉でようやく実現することができた異世界の国、メンフィル帝国との取引がなくなってしまうかもしれませんのよ!?それを防ぐため、またお客様の生活のためにも即刻、元の値段に戻しなさい!」
「は、はい……」
「わかりました……」
市長の一喝を受けた2人は肩を落として頷いた。市長はそれを見た後、市長に怒られて表情を暗くしている商人達を自分の意図を話した。

「……わたくし、貴方たちのボースマーケットにかける情熱を疑っているわけではありませんわ。ただ、判って欲しいのです。商売というものが、突き詰めれば、人と人の信頼関係で成立している事を。大丈夫、貴方たちだったら立派なボース商人になれますから。」
「お、お嬢さん……」
「はい、頑張ります!」
市長から励まされた2人は元気が戻り、自分の持ち場に戻った。
(ほう……あれが噂のボースの女傑か……なかなかの為政者じゃな。)
(ええ……政治家と商人、両方の考えを両立させれる方はそうそういませんものね……もしかしたら将来、かつて娼館の経営と同時に都市国家長を務めた”幻燐戦争”の英雄の一人、”母神賢者”レアイナ様のような為政者になるかもしれませんね。)
喧騒の一部始終を見ていたリフィアとプリネはエステル達には聞こえない小さな声で市長を評価していた。

「ふう……」
市長は2人を見送った後一息をついた。
「お嬢様……」
「リラ……来ていたの。恥ずかしい所を見せてしまったわね。」
リラに気付いた市長は照れながら答えた。
「いえ……相変わらず見事なお手並みです。それよりお嬢様。こちらの方々が用がおありだそうです。すぐにお屋敷にお戻りくださいませ。」
「あら、その紋章は……。ひょっとして依頼したブレイサーの方々かしら?」
エステルがつけているバッジに気付いた市長はエステルに確認した。
「うん、そうだけど……」
「ひょっとして貴女が……」
「ふふ、申し遅れました。わたくしの名は、メイベル。このマーケットのオーナーにしてボース地方の市長を務めています。」
エステルとヨシュアの疑問に答えたボース市長ーーメイベルはエステル達に依頼内容を話すため、ボース市の高級レストラン、アンテローゼに案内した。

~レストラン・アンテローゼ~
「た、高そうなお店……こんなところで打ち合わせするの?」
エステルは周りの風景を見て、肩身を狭そうにしていた。
「よく商談に使いますの。味の方も、なかなかのものですわ。ちなみに父がリウイ陛下とメンフィル帝国との取引の話でもここを使いましたわ。」
(ふむ……確かに悪くない雰囲気だな。そう言えばリウイもボースから帰って来た時言っておったな。『小さな都市ながらも中々いい店がある』と。ロレントの隣でもあるし旅が終わった後レンを連れて行ってやろう。)
(ふふ、それはいい考えですね。あの子もきっと喜びますね。)
(ん……あのお菓子、美味しそう……リフィア、頼んでいい……?)
(まあ、待て。この後、事件の事を聞くためにおそらくハーケン門へエステル達が行くだろうから、その時に一端別行動にするからそれまで我慢じゃ。)
(わかった……我慢した後のお菓子も美味しいからエヴリーヌ、今は我慢するね……)
アンテローゼの高級感溢れる雰囲気に戸惑っているエステル達とは違って、王城の生活で高級な雰囲気に慣れて堂々としているリフィア達は小声で会話をしていた。

「しかし、ボースの市長が女性なのは聞いていたけど……。ここまで若いとは思わなかったわね。」
「見たところ、あたしと4、5歳くらいしか違わなさそう。」
シェラザードとエステルはメイベルの容姿から年齢等を予想し、若いながらも市長を務めるメイベルに感心した。
「実際、まだ若輩者に過ぎません。亡くなった父が前市長で、ボースマーケットの事業権と共に政治基盤を引き継いだだけですわ。」
「何というか……ずいぶん率直な自己評価ですね。」
自分のことをあまり高くない評価をしているメイベルにヨシュアはそのことを指摘した。
「所詮は商人の娘ですし、気取っても仕方ありませんから。それでは改めて、依頼内容を確認してもよろしいでしょうか?」
「うん、オッケーよ。」
メイベルの依頼を聞くためにエステルは真面目に答え、小声で話していたリフィア達も話をやめてメイベルの依頼を聞く姿勢になった。

「お願いしたいのは言うまでもなく、定期船消失事件の調査と解決です。わたくし、今回のような事件では軍よりもブレイサーの皆さんの方が結果を出してくれると思うのです。戦争をするわけではなく、謎を解き、解決するわけですから。」
「あら、光栄ね。買いかぶってくれるじゃない?」
シェラザードがメイベル市長を見て目を少し細めた。
「商人としての目利きですわ。実際問題、消えた定期船にはボースの有力商人が乗っています。それにこのまま、王国軍によるボース上空の飛行制限が続いたら、こちらの商売が成り立ちません。せっかくメンフィルとの取引も本格的になって来て、女王生誕祭を前に景気もかなり好調でしたのに……」
「なるほど。経済的な要請という事ですね。」
「ええ、とても軍だけに任せておくわけにはいきません。どうか、お願いできないでしょうか?」
ヨシュアの言葉に頷いたメイベルはエステル達に依頼を受けてくれるか確かめた。

「こちらにも理由があるし、引き受けたい所ではあるけど……。今回の事件に関しては軍が、あたしたちブレイサーを締め出そうとしてるみたいなのよね。そのあたり、市長さんの立場から何とか働きかけられないものかしら?」
「モルガン将軍ですわね……。あの方、昔からブレイサーがお嫌いでいらっしゃるから。」
シェラザードの言葉にメイベルは溜息をついた。

「あれ、市長さん。その将軍のことを知ってるの?」
エステルはメイベルがモルガンのことを知っている風に話していたのでそのことを尋ねた。
「亡くなった父の友人ですの。一応、顔見知りではありますわ。ですから……何とかできるかもしれません。……リラ。」
「はい、お嬢様。」
「……………………………………………………………………こんなものですわね。では、これをお持ち下さい。」
リラにペンと便箋を渡してもらい、その場で書状を書き、それをエステルに渡した。

「なに、この手紙?」
エステルは渡された手紙がなんなのかわからなかったのでメイベルに尋ねた。
「モルガン将軍への依頼状です。ボース地方の責任者として今回の事件についての情報を請求する旨をしたためました。ある程度なら、軍が掴んだ情報を教えてくださると思いますわ。」
「なるほど……。でも、ブレイサー嫌いの将軍があたしたちに会ってくれるかな?」
「もちろん、皆さんの身分は伏せた方が無難だと思いますわ。ただ、市長からの使いだと名乗るだけでいいかと存じます。」
「う、ちょっとイヤかも。なんか騙しているみたいで……」
メイベルの提案にエステルはモルガンを騙すようなことに少しだけ顔を顰めた。

「騙してるわけじゃないよ。本当のことを言わないだけさ。一刻を争う状況なんだから、ここは割り切るべきだと思う。」
「うーん、確かにそうね。ところで、モルガン将軍ってどこに行けば会えるのかな?」
ヨシュアに諭されたエステルはモルガンがどこにいるのかメイベルに尋ねた。
「ボースの北、メンフィル・エレボニア帝国領方面の国境に『ハーケン門』という砦があります。そこに将軍はいらっしゃいますわ。」
「わかったわ。ありがとう、市長さん!」
「はい、くれぐれもお願いします。……そう言えばそちらの御三方はどちらさまでしょう?見た所遊撃士の紋章をつけていないようですし、それによく見るとそちらの方達が身につけている服の生地はメンフィルが取引で出している服の生地に似ていますね……?
耳も私達とは弱冠違うようですし、もしかして”闇夜の眷属”の方達でしょうか?」
メイベルはリフィア達が着ている服や容姿を見て、リフィア達の正体を尋ねた。

「え、えっとそれは……」
一方リフィア達のことをどう説明しようかエステルは困っていたが、ヨシュアがそれをフォローした。
「ええ、確かに彼女達は”闇夜の眷属”です。何か問題があるでしょうか?」
「いえ。”闇夜の眷属”はメンフィル大使ーーリウイ皇帝陛下に忠誠を誓っているそうなので、メンフィル軍に協力的なのは知っていますが遊撃士に協力的なのは聞いたことがないので、なぜ遊撃士であるエステルさん達と共にいるのかわからなかったので。」
探るように自分達を見て呟くメイベルにリフィアは堂々と答えた。

「フム、それは民の生活を知り余達の見識を広めるために余達はエステル達ーー遊撃士と行動を共にしているのじゃ。」
「……その物言いですと、もしかしてメンフィル帝国の貴族の方でいらっしゃるのですか?見た所服の生地もメンフィルの数ある生地の中でもかなり高価な生地を使っているようにも見えますし。」
メイベルはリフィアの言動やリフィアとプリネの服装からリフィア達は身分が高い者達であると予想し聞いた。
「まあ、その通りじゃ。……余の名はリフィア・ルーハンス。そしてこ奴はエヴリーヌ。我がルーハンス家の食客じゃ。」
「……よろしくね……」
「同じくルーハンス家の娘、プリネと申します。リフィアお姉様とは腹違いになりますが血の繋がった姉妹になります。」
「そうでしたか、これは失礼しました。……先ほどにもご紹介をしたと思いますがボース市長のメイベルと申します。(リフィアにプリネ……どこかで聞いたことのある名前ね……)……差し支えがなければルーハンス家とはどのような家系か教えていただいてもよろしいでしょうか?」
メイベルはリフィア達の名前が頭の片隅に引っ掛かり、それを解くためにもリフィアに尋ねた。

「ルーハンス家とは代々皇家ーーマーシルン家に仕える古参の貴族じゃ。騎士、文官、メイド等さまざまな形で活躍しておる。余やプリネは政治を司る文官を目指して居ての。
窮屈な家では学べない民の生活や他国の商売等を学ぶために民と密接な仕事をする遊撃士ーーエステル達の仕事を手伝っておるのじゃ。余やプリネも護身はできるが念のためを持ってエヴリーヌを護衛としている。もちろんこのことは陛下にも許可を頂いておる。」
「あら、そうするとルーハンス家とは名門貴族ではないですか?よく、ご両親方が他国での行動を許可しましたね。」
メイベルはリフィアが説明した偽の情報とは知らず驚き尋ねた。

「ルーハンス家の名を知らない他国だからこそ行動するのが安全なのだ。こう見えてもルーハンスの名はメンフィルでは有名じゃからな。それにリベールはゼムリア大陸では最も平和な国であると聞く。……まあ、旅を始めた矢先このような事件が起こるとは余達も少々驚いたがな。」
リフィアはメイベルを納得させるために弱冠真実を混ぜた事も説明した。
「……メンフィルにそのように評価されながらこのような事件が起こり、未だ解決できないことにはお恥ずかしい限りです。……世間話はここまでにして率直に聞きます。メンフィル帝国は今回の事件に関してどうお考えでしょうか?もしかして、軍や”闇夜の眷属”での調査の話も出ているのでしょうか?それでしたら私達も多少は安心できるのですが。」
「……中々大胆なことを言う市長ね。自国の軍が他国の軍に劣っているようなことを言ってしまっていいのかしら?」
シェラザードはメイベルの言動に驚きを隠せず尋ねた。
「………確かに私の言動はある意味、自国の軍を信用していない言い方になるかもしれませんが、実際に人の命がかかっているのかもしれないのです。今は自国のプライド等の問題ではないと考えています。それにメンフィルはリベールの同盟国でしょう?同盟国がリベールの一大事となる事件に協力してもどこもおかしいところはないと私は思っています。………最もこのことを将軍が聞けば怒り心頭になるでしょうけどね。」
「ふむ………民のために下らない誇りは捨て使える物は使おうとする考えは為政者としてよい考えと余は思うぞ。」
メイベルの考えを聞いてリフィアはメイベルの評価をさらに上げた。

「ありがとうございます……それで実際どうなのでしょうか?」
「……大使館を発つ時、リウイ陛下にそのことを聞いたが今の所は特に動くつもりはないそうじゃ。メンフィル領に住む民達が被害に遭ったりメンフィルの経済に影響が出ているわけでもないからな。ただ、リベールが要請をするのなら軍を動かす事や”闇夜の眷属”に協力を要請することも考えているそうだ。」
「そうですか。貴重な情報をありがとうございます。」
リフィアが答えたことをある程度予想していたメイベルは当然のことと思って、気持ちを切り替えた。

そしてエステル達はメイベル達と別れ、またリフィア達がモルガンと会うわけにもいかないので一端別行動にし、エステル、ヨシュア、シェラザードの3人でハーケン門に向かった……




後書き 碧の軌跡、前作と比べて超面白そうで楽しみです!何より銀が正式メンバー入りすることやアリオスが仲間になるらしいとの情報を知って驚きました!特に大幅に変更した銀の姿を見て何があった!?と思いましたがまた、爆雷符の連射や麒麟功ができるのは嬉しいですね!あのクラフト、少量の消費CPの割には超凶悪な効果でしたから………にしてもアリアンロードって一瞬味方に見えましたがまさかの七柱だったとは……前作の七柱、ワイスマンと比べたらめちゃくちゃいいキャラに見える上に強そうで今から戦うのが楽しみです!ただ、ワイスマンと比べたらかな~り苦戦しそうな予感が……まあ、そのためのアリオスや銀がいると思うと負担は楽ですし、いざとなったらティオに闘魂ベルトつけてCP回復アイテムドーピングしてゼロ・フィールド戦法ありますしね。アリオスの強さは多分リシャールかそれ以上のチート的な強さでしょうね……未だ情報がないランディはラストダンジョンで合流すると信じています!そしてできればエステル、ヨシュア、レンも………!!前書きに書いてある件はみなさんの要望が多ければパーティインも考えてみます。………感想お待ちしております。




[25124] 第28話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/06/02 21:44
いくつかストックして書いていたので後3話ぐらいは連日更新できると思います。まあ、それ以降はいつになるかわかりませんが………





エステル達と一端別行動にしたリフィア達はエヴリーヌの希望通りアンテローゼで食事をした後、何かやることがないか聞くためにギルドに戻った。

~遊撃士協会・ボース支部~

「おや、メンフィルの嬢ちゃん達じゃないか。エステル達と市長に会いにいったんじゃないのか?」
受付で事務作業をしていたルグランは戻って来たリフィア達に気付き、なぜ戻って来たのかわからず聞いた。
「はい。そのことなんですが………あの後市長殿に会って事情を聞い後、エステルさん達はモルガン将軍に一度面会をすることになりましたので、私達の正体を知っている将軍と
会う訳には行きませんのでエステルさん達とは一端別行動にしました。それでエステルさん達を待っている間になにかやることはないか聞きに来たんです。」
ルグランの疑問にプリネが順番に事情を話して説明した。

「確かにそうじゃな……おお、そうじゃ。実はお嬢ちゃん達に伝えることがあっての。」
「?なんでしょうか?」
「実は……」
疑問符を浮かべているプリネ達にルグランは先ほどロレント支部から掛ってきたプリネ達の依頼に弱冠の変更があることを伝えた。
「………ということじゃ。悪いと思うが、変更を受け入れてもらえんかのう?」
実はエステル達を見送った後、アイナはあることに気付きそのことについて依頼人であるリウイと相談し依頼内容の変更をしてもらったのだ。それは基本的にはエステル達と行動するがエステル達が受ける全ての仕事は手伝わず、ほかの遊撃士達の仕事もプリネ達が手伝うことだった。

「確かに私達がエステルさん達の仕事を全て手伝ってしまえば、エステルさん達の実力が上がらない可能性が出てきますね……私はいいですけど、お姉様方はいかがでしょう?」
依頼内容変更の理由を聞いたプリネは少しの間、考えて納得し2人に聞いた。
「エヴリーヌはどっちでもいいよ~」
「余も構わん!エステル達の成長を余達が妨げるわけにもいかんからの!それに基本的にはエステル達と行動を共にするのじゃからそれほど気にすることでもないしな!」
「おお、ありがたい。すまんの、こちらの都合で依頼内容を変えてしまって。」
依頼内容の変更をあっさり受け入れたリフィア達を見てルグランは安心し、お礼を言った。

「気にしないで下さい。元々私達の無茶な依頼を受けてもらったのですから、これぐらいは当り前です。……とりあえずエステルさん達が帰って来るまで何をすればいいでしょう?」
「ふむ……何をしてもらおうかの……?」
プリネの言葉にルグランはエステル達が戻ってくるまでの間、何をしてもらうか考えていた所、ギルドの扉が開かれボース所属の2人の遊撃士達が帰って来た。
「たっだいま~!ルグラン爺さん!」
「こっちも終わったぜ。」
「………こっちもだ。」
ギルドに依頼完了の報告をしに来たのは明るい性格に見える女性遊撃士――アネラスとエステルやリフィア達がボースへ行く途中で出会った遊撃士――グラッツとリベールの遊撃士の中でも数少ないC級である正遊撃士、アガットであった。

「おお、アネラスにグラッツか。それにアガットも。ちょうどいいところに戻ってきたようじゃな。戻って早々で悪いが少し頼みごとをしていいじゃろうか?」
「別にいいが……もしかして、そこにいる3人をどこかへ護衛するのか?」
ルグランの頼みに頷いたグラッツはリフィア達に気付いて、聞いた。

「いや、この3人の戦闘技能を3人がそれぞれ確かめてほしいのじゃ。ちょうど3人いることじゃしな。」
「え?」
アネラスはルグランの言った言葉の意味がわからず、思わず呆け
「は?なんだそりゃ?爺さん、なんのために一般人の戦闘技能を調べる必要があるんだ?」
グラッツも意味がわからなかったため、ルグランに理由を聞いた。
「はあ?おい、爺。ついにボケたか。」
アガットも一瞬呆けた後、ルグランの言ったことが本当か確認した。
「まだ、そんな年じゃないわい……実はこの嬢ちゃん達はメンフィルのとある貴族のご令嬢でな。なんでも将来就く仕事のために民間人の生活を知る必要があっての。そのために民間人に接することが多い仕事――遊撃士のサポートをして学びたいそうなのじゃ。」
ルグランはリフィア達の正体を隠して話をした。

「へ~………じゃあ、あなた達って異世界の人なんだ!私はアネラス!こう見えても正遊撃士だよ。え~と………貴族のあなた達はなんて呼べばいいのかな?」
アネラスはリフィア達が異世界人――メンフィル人であることを知ると興味深そうに一人づつ順番にリフィア達を見た。
「はい。プリネ・ルーハンスと申します。気軽にプリネと呼んでもらって構いません。どうぞよろしくお願いします。」
「私……エヴリーヌ……」
「余はリフィア・ルーハンスじゃ!余やエヴリーヌもプリネのように気軽に接してもらって構わん。今は貴族の娘ではなく、遊撃士のサポーターの一人だからな。まあ、余達は無礼云々で目くじらを立てるような心が狭い貴族共とは違うから、安心してよいぞ。」
「そっか~。じゃあ、私も普段通りの態度でいかせてもらうね!それにしても、みんな可愛いね!抱きしめていいかな!?」
3人の気さくな態度にアネラスは笑顔で打解けた。

「はぁ~………そこの嬢ちゃん達があの異世界の国の貴族なのか。てっきり、エレボニアのようにプライドが高くて気難しい奴らかと思ったが、あんなに気さくな態度をとってくるとは意外だな。けど、爺さん。いいのか?もし、怪我とかしたらちょっと厄介なことにならねえか?」
グラッツはアネラスと談笑をし始めたリフィア達を以外そうな目で見た後、あることに気付きルグランに聞いた。
「ああ、そこは心配しなくてもよい。両親からも彼女達が怪我等しても責任を負わせるつもりはないと言質をとっておるから安心してくれい。」
ルグランはグラッツの心配を苦笑しながら否定した。

「…………おい、爺。あの小娘共が俺達のサポーターをやるっていうのはマジで依頼なのか?見た所ガキも混じっているぞ。」
好意的な目で見ているアネラスやグラッツと違って、アネラスと談笑しているリフィア達を一人一人睨んでいたアガットはルグランに聞いた。
「お主はもう少しその口の悪さはなんとかならんのか……嬢ちゃん達は気にしないと思うが、下手したら大事になってもおかしくないぞ……」
ルグランはアガットの口の悪さに溜息をついて注意した。
「んなことは今は関係ねえ。それで、どうなんだ?」
「もちろん依頼じゃ。すでに依頼料も渡されているし協会本部も、このことを依頼と認めておる。それにこの依頼はすでにお前達とはほかの遊撃士が受けておる。」
「ん?ほかの遊撃士が受けているのにいいのか?」
グラッツはルグランの言葉に引っ掛かり聞いた。
「うむ………この依頼は少々特殊での。彼女達は基本、すでに依頼を受けている準遊撃士と共に行動することになっているのじゃが、彼女達の実力は明らかに依頼を受けた準遊撃士の実力を上回っていての。ずっと彼女達を準遊撃士のサポーターにつけていたら準遊撃士の実力が上がらなくなる恐れも出てくるから、依頼者にも許可を取ってほかの遊撃士達の仕事も手伝ってもらうことにしたのじゃ。報酬はこの依頼を直接受けた準遊撃士が依頼終了をした時にお主たちにも別依頼扱いの報酬として支払われるから安心していいぞ。」
「さすがに貴族だけあって、羽振りがいいな……ん?今、依頼を受けた遊撃士より明らかに実力が上回っていると言っていたよな?………あいつら、見かけによらず強いのか?」
グラッツはリフィア達の実力に興味が沸き聞いた。

「だから、それを今からお主たちに確かめてもらうのじゃよ。わしも彼女達の実力はまだよく知らんが彼女達は”闇夜の眷属”であると言えば実力はある程度わかるじゃろ?」
「!なるほど………それは興味深いな………!」
噂でしか聞いたことのない闇夜の眷属の実力が見れることにグラッツは不敵な笑顔を浮かべた。
「爺、さっき準遊撃士が受けていると言っていたが、なんでひよっこがこんなややこしい依頼を受けれるんだ?明らかにひよっこ共が受けれるレベルじゃねえだろ。こんなややこしい依頼、ランクは相当高いんじゃねえのか?」
「そのことか……本部で見積もりした最低依頼ランクはCじゃ。」
「はあ!?どう考えてもひよっこ共が受けれるレベルじゃねえだろ!?協会は何考えているんだ!?」
アガットはルグランの言葉を聞いて机を叩いて怒鳴った。
「ちゃんと説明してやるからそう、かっかするでない。………実はこの依頼は依頼者――彼女達の両親から依頼を受ける遊撃士が指名されていたのじゃ。そして指名された遊撃士が準遊撃士であった。それだけじゃ。」
「……おい、爺。いつから依頼者の選り好みで受ける遊撃士を決めれるようになったんだ?普通はそんなふざけたこと、許されねえんじゃねえのか?」
ルグランから理由を聞いたアガットは目を細めてルグランを睨んで聞いた。

「お主のいう通り、確かに通常なら許されないが依頼者がメンフィルの皇帝とも縁ある大貴族での。ほかの国と違って事件があった際素早く連携してくれるメンフィルとは協会としても細かいことであまり向こうと争いたくないのじゃ。協会本部で将来的にメンフィルの本国に支部を作る話も出ていての。これを機に異世界にも遊撃士協会を置く事をメンフィルに考えてもらうためにも、依頼者のある程度の要望を受けたのじゃ。」
「チッ……!そう言うことかよ……!中立の立場を謳っている遊撃士協会が聞いて呆れるぜ……!」
協会本部の意向を知ったアガットは舌打ちをした。

「お主はどうしてそう斜に構えるのじゃ。この依頼はある意味メンフィルの好意に近い依頼なのじゃよ?もう少し、素直に好意を受けてみればいいじゃないか。」
「余計なお世話だよ。……まあいい、爺の言う通り実力を見てからこの素人共が俺達、ブレイサーのサポートをできるか判断してやるよ。で?俺は誰の実力を見ればいいんだ?」
気を取り直したアガットはルグランにリフィア達3人の誰と組むかを聞いた。
「ふむ……お主としては希望はないか?」
「希望か……おい、ガキ共。てめえらの中で一番弱いのは誰だ?俺がテメエらの中で一番マシな強さになるよう叩き直してやるから正直に答えな。」
質問を返されたアガットはアネラスと談笑していたリフィア達に近づき聞いた。
「が、ガキじゃと!?余を子供扱いするでない!どいつもこいつも見てくれで判断しおってからに!ぬぬぬぬっ……!実力があるのなら少しは目を凝らさぬか!」
アガットの言葉にリフィアは怒り、わずかでありながら全身に覇気を覆った。
「はっ!ガキがナマいって………!?」
リフィアの言葉をアガットは鼻で笑おうとしたがリフィアの覇気と小さな身体に収められているであろう何かの”気配”に気付き息を飲んだ。また、横で話を聞いていたグラッツやアネラスもアガットの様子をおかしく思い、リフィアをよく見て息を飲んだ。

(な……!この俺が気圧されるだと……!?何者だ、このガキ……!!)
アガットは自分が気圧されたことに驚き、驚愕の表情でリフィアを見た。
(わぁ~……ほかの2人もわずかだけど、”強者”の気配がもれているね。やっぱり可愛いのは正義だね!うん!うん!)
アネラスはプリネやエヴリーヌが無意識に出している何かの”気配”にも気付き、リフィア達の容姿を見て見当違いな答えで納得した。
(なるほどな……噂は本当だったようだな……俺はぜひ、あの嬢ちゃんの実力を見たいもんだね……!)
グラッツはリフィアがただ者ではないと気付き、不敵に笑いリフィアの実力を自らの目で見たくなった。

「どうやら余の偉大さがわかったようじゃな?これにこりたら余を二度と子供扱いするでない!よいな?」
驚愕しているアガットの様子に満足したリフィアは杖をアガット達には見えない速度でアガットの顔の寸前で突きつけ警告した。
「グッ……ああ、わかったよ………(クッ……動作が速すぎて反応ができねえ……!)」
リフィアの牽制攻撃に反応できなかったアガットは悔しそうな表情で頷いた。リフィアはその様子を見て突きつけるのをやめた。
「アガット、これにこりたらもう少し丁寧な対応で嬢ちゃん達と話すんじゃぞ?………さて2人は誰の戦闘技能を見たいか希望はあるか?」
ルグランは一連の流れを冷や汗をかいて見ていたがリフィアの機嫌が直ったことに安心してアガットを注意し、アネラスやグラッツに誰を選ぶか聞いた。
「じゃあ、俺はリフィアだな。さっきのアガットへの牽制攻撃……見事なもんだったぜ。実戦はどうやって戦うのかも見て見たいしな。」
「ほう、グラッツとやら、中々見所があるようだな!よかろう!余はグラッツに余の強さを見せてやろうぞ!」
グラッツの言葉に機嫌が良くなったリフィアはグラッツに見てもらうことを宣言した。

「じゃあ、私はエヴリーヌちゃんかな?なんてったってこの中で一番気になるし!」
「なんで、エヴリーヌ……?」
アネラスの言葉にエヴリーヌは首を傾げた。
「それはもちろん美人と可愛さを両立させているからに決まっているよ!普通、可愛さと美人は両立させられないのにエヴリーヌちゃんはそれを両立させているんだもん!」
「なんか良くわかんないけど、エヴリーヌを誉めているんならまあ、いいよ~。アネラスだっけ?エヴリーヌの強さを見せてもっと驚かせてあげる♪」
アネラスの理論を理解できなかったエヴリーヌだったが、自分が誉められていることには気付いていたので特に気にせずアネラスに見てもらうことにした。

「フフ、では余り者の私はアガットさんに見てもらうということですね。ある意味アガットさんの希望通りになりましたね。」
プリネは上品に笑いながら最後の一人は自分であることを名乗り出た。
「あん?どういう意味だ?」
プリネの言葉の意味がわからなかったアガットは聞き返した。
「言葉通りの意味ですよ。私がこの中で最年少で実戦経験も一番少ないからですよ。」
「テメエが………?まあいい、ブレイサーが素人に務まるのがどれだけ難しいか叩きこんでやる。」
3人の中で最年長と思っていたプリネが最年少であることに眉を潜めたアガットだったが、気を取り直していつものように厳しい態度で接した。
「フフ、お手柔らかにお願いしますね。」
アガットの脅しに近い言葉をプリネは上品に笑って答えた。

「どうやら決まったようじゃの。試験方法じゃが、ちょうど3種類の手配魔獣が確認されたからそれぞれ手配魔獣と戦ってもらうつもりだから、それで判断してくれ。一人で戦わすもよし、共に戦って確かめるのもよし。それぞれの判断に任せるわい。」
ルグランはそう言って手配魔獣の姿や生息場所を書いた依頼書をアガット達、正遊撃士にそれぞれ配った。
「どれどれ……私とエヴリーヌちゃんは東ボース街道か。」
「俺とリフィアはアンセル新道か。」
「……俺は西ボース街道か。」
依頼書を受け取った遊撃士達はそれぞれの相手に手配魔獣の特徴や生息場所の詳細な情報を伝え、それぞれギルドを出ようとした時、エヴリーヌがあることに気付きアネラスに聞いた。

「ん……?この東ボース街道ってエヴリーヌ達、一度通ったよ……?」
「え……?あ、そうか。エヴリーヌちゃん達ってメンフィル大使館があるロレントから飛行艇を使わず歩いて来たんだよね?だったらこの道は一度通っている筈だよ。」
アネラスはエヴリーヌの疑問に丁寧に答えた。
「ふ~ん……そっか。いいこと考えた。リフィア、プリネ。一番ノリは貰うよ。」
「それはどうかの?……肝心の魔獣を見つけなければ意味はないぞ?お主と余、どっちが一番最初に見つけるか競争だ!」
「キャハッ♪その競争、のった♪エヴリーヌ、負けないよ?」
「フフ、私はお姉様達を待たせないよう精一杯がんばりますね。」
「?おい、お前等何の話をしているんだ?」
エヴリーヌ達の会話の意味がわからなかったアガットは声をかけた。

「すぐわかるよ……キャハッ♪アネラス、ちょっとこっち来て。」
「?うん。」
エヴリーヌに呼ばれたアネラスはエヴリーヌに近寄った。
「手、つないで。」
「いいよ~。ギュッとね!……わあ!エヴリーヌちゃんの手ってちっちゃくてすべすべしている!可愛い!」
「しっかり捕まってよね。……転移っと。」
エヴリーヌの手を握ってはしゃいでいるアネラスと共にエヴリーヌは印象が深いロレントとボースの街道を結ぶ関所前――ヴェルデ橋へ転移してその場から消えた。

「「「なっ!?」」」
それを見たルグラン達は驚愕した。
「では余も行くぞ!遅れるなよグラッツよ!フハハハハハハ―――!」
驚愕しているルグラン達を気にせずリフィアは元気よく入口の扉を開け、走り出した。
「おい待て!今のはなんだったんだ!?説明してくれ!ってもう、あんな所に!?クソッ……!俺も行ってくる!」
グラッツはリフィアの突飛な行動に驚き、リフィアに追いつくために全速力でリフィアを追った。そして後に残ったのは呆けている2人と装備の確認をしているプリネだった。

「さて、私達も行きましょうか。アガットさん。」
装備の確認をし終えたプリネはアガットに話しかけた。
「あ、ああ……って今のはなんだったんだよ!?」
プリネの言葉に無意識に反応したアガットだったが我に返りプリネに聞いた。
「今のといいますと………ああ、転移魔術のことですね。」
アガットの言葉を最初わからなかったプリネだったが、あることに思い当たり一人納得し、説明をした。

「転移魔術とはその名の通り、術者が思い浮かべた場所に瞬間移動することです。転移魔術は普通地面に魔法陣を書く必要があるのですが力が強い術者なら魔法陣なしで思い浮かべた場所ならどこでも飛べるんです。」
「瞬間移動までできるとは魔術とやらはなんでもありじゃな………わしが知っている範囲では威力がアーツより強力ということぐらいじゃったが……」
プリネの説明を聞いたルグランは魔術の凄さを改めて知り、溜息をついた。
「おい……確かお前等は”闇夜の眷属”らしいな?お前を含めてほかの奴らもさっきみたいなことができるのか?」
「まさか。先ほども申しました通り、転移魔術は数ある魔術の中でも最高レベルの魔術です。よほどの魔力と才能、そして適正がないと魔法陣なしではできません。エヴリーヌお姉様は”闇夜の眷属”の中でも最強の種族である”魔神”ですからできるのです。」
アガットの疑問にプリネは首を横に振って否定した。

「あん?”闇夜の眷属”ってのは全員同じ種族じゃないのか?」
プリネの言葉に疑問を抱いたアガットは聞き返した。
「………少し思い違いをしているようですね。”闇夜の眷属”とは複数の種族を総じて呼ぶ呼び方で、また彼らと共に生活をする人間の方達も呼ばれるのです。ですから”闇夜の眷属”は決してみなが人間ではないということではないんです。」
「ふん、なるほどな………で?”魔神”っていう種族はなんなんだ?さっきの口振りだとかなり強いようだが、本当に今の小娘が最強と呼ばれているのか?」
「”魔神”とは種族の中でも魔力、身体能力等全てにおいて”最強”を誇る種族です。貴方方にわかりやすい例えでいえばよく御伽話で”魔王”が出てきますよね?あれと同じものだと思ってもらって構いません。」
「なっ……あの小娘がか!?信じられねえ……」
「”闇夜の眷属”は見かけに騙されていては痛い目を見ると言うのは本当のようじゃな……」
魔神という種族を知ったアガットとルグランは驚愕した。

「付け加えて言うなら、私達の先祖の中で”魔神”の方がいらっしゃいましたのでリフィアお姉様や私にも弱冠ですが”魔神”の血が混じっています。ですから自慢をするみたいに聞こえて嫌なのですが、私も眷属の中ではある程度の力は持っています。」
「フン………どうやら先祖が強ければ自分も強いと勘違いしているようだな?貴族として不自由もなくぬくぬくと育ってきたテメエの言葉がどれだけ間違っているか教えてやる。……行くぞ。」
「クス、わかりました。では私達も行ってきますね。」
「う、うむ。気を付けてな。」
アガットの挑発とも取れる言葉をプリネは上品に笑って受け流し、ルグランに見送られアガット共にギルドを出た………




後書き 最近の情報でテイルズの新作がまさかの碧の軌跡よりやや早いというとんでもない時期に……!!どっちを先にクリアすべきか非常に迷います……ああ、速く9月になってほしい………!!ちょっとしたアンケートになるのですが、凄い先になりますがシルフィアを出せるネタがあります。よければ出すべきか出さないべきか意見お願いします!感想お待ちしております。



[25124] 第29話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/06/03 22:34
~ヴェルデ橋・東ボース街道方面~

「ん、到着。」
ロレントとボースの街道をつなぐヴェルデ橋の関所から少し離れた所にギルドから転移してきたエヴリーヌとアネラスが降り立った。
「う~ん……エヴリーヌちゃんの手を握っていたらいきなり今のよくわからない感覚が来たんだけどなんだったんだろう……あれ?あれはヴェルデ橋……ってことは、ここって東ボース街道!?さっきまでギルドにいたのになんで!?」
アネラスは一瞬でギルドから東ボース街道に移動したことに気付き驚いた。
「じゃあ、紙に書いてあったのを探してさっさと終わらせちゃおう。」
「え……ちょっと待って、エヴリーヌちゃん!一体どうなっているの!?」
早速手配魔獣を探し始めるために歩き出したエヴリーヌにアネラスは急いで追いつきなぜ、ギルドからいきなり東ボース街道に移動したかを聞いた。
転移魔術のことを聞かれたエヴリーヌはめんどくさそうな表情をしながらも簡単な説明をし、アネラスを納得させた。ちなみにアネラスは「エヴリーヌちゃんが可愛いからできたんだ!やっぱり可愛いから凄いんだね!」という訳のわからない納得の仕方でエヴリーヌを困惑させた。そして2人がしばらく歩いていると手配魔獣と周囲にも複数の魔獣の姿を確認した。

「お、早速発見だね!じゃあ、エヴリーヌちゃん。今からあなたの力を見せて貰うね!とりあえず最初は一人で戦ってみて!危なくなったら私が助太刀してあげるからがんばって!」
「はーい。でも、すぐ終わらせるから助けなんて必要ないよ。」
エヴリーヌはまるで遠足に出かけるような物言いで返事をして虚空から弓を出し、片手に魔力で形成した矢を弓につがえた。

「うーで、あーし、むーねにあったま……全部潰す!」
ビュンッ――!!
「グオッ!?グオオオオオオオオオオオッ!?」
初撃の矢が弓を離れたと思った矢先、そこには新たな矢がつがえられていた。放たれた矢は分散し手配魔獣の四肢に刺さり、4か所からの痛みに耐えられず
四肢を潰された手配魔獣は叫び声を上げ横たわった。
「え!?」
アネラスはエヴリーヌが放った矢が魔獣に命中した後すでに次の矢が弓につがえられているのを見て驚愕し、その光景が信じられず思わず自分の目を疑った。
「あーあ、つまんなーい。つまんないから全部消えていいよ!」

凶悪な顔でエヴリーヌは人間であるアネラスには決して見えない神速の動作で次々と矢をつがえては放って行く。放たれた矢を受けた魔獣は四肢をつぶされるもの、一本の矢が空中で複数の矢に分かれ雨のように降り全身矢だらけになるもの、
一か所に3本の矢で集中攻撃されるもの、攻撃の動作をする寸前に攻撃されたもの、矢を受けたどの魔獣も矢が貫通した。その威力は足や腕を簡単に破壊し、エヴリーヌの一方的で残酷な攻撃はあっという間に手配魔獣を含め周囲は死屍累々になった。
「もう、おしまい?じゃあ、最後にとっておきのプレゼントを上げるから消えちゃって!」
エヴリーヌはつまんない表情で横たわっている魔獣を見た後、とどめに大技を出すために眼に魔力を、矢には闘気を宿らせ放った。
「キャハッ♪エヴリーヌの敵はみんな消えちゃえ!ゼロ・アンフィニ!!」
魔力と闘気の力を纏った一本の矢は巨大な衝撃波となり、地を走り死屍累々となった魔獣達を吹き飛ばし消滅させた。
「はい、おしまーい。」

戦闘が終了し弓を虚空に閉まったエヴリーヌは呆然としているアネラスに気付いた。
「…………何固まっているの?終わったよ?」
「ハッ!?エヴリーヌちゃん!今の技ってどうやったの!?それに、弓矢の動作が速すぎて見えなかったんだけど、どうやったらあんなことできるの!?」
エヴリーヌに話かけられ我に帰ったアネラスはエヴリーヌに詰め寄って聞いた。
「ここで説明するのめんどうだから、帰りながら話してあげるからさっきの街に歩いて帰るよ?思ったより早く終わっちゃったからリフィアにハンデをあげるために歩いて帰りたいし。ハンデをもらったってわかった時のリフィアの顔が今から楽しみ……キャハッ♪」
そう言うとエヴリーヌはボースへ続く道にさっさと歩き始めた。
「あ、待って!エヴリーヌちゃん!」
歩き始めたエヴリーヌに追いつくためアネラスは慌ててエヴリーヌを追った。そして帰り道で出会った雑魚魔獣もエヴリーヌは魔術で一瞬で終わらせアネラスをさらに驚かせた。


~アンセル新道~

「ぜえ……ぜえ……やっと、追いついたぜ……」
自分を待っていたリフィアに追いついたグラッツはギルドからずっと全速力で走っていたので息を激しく切らせていた。
「なんだ、これぐらいでバテるとはまだまだだな。余の走りに付いて来れないとは鍛え方が足りないぞ?」
グラッツを待っていたリフィアはグラッツの様子を見て呆れた。
「ぜえ……ぜえ……そういうお前はこれだけの距離を走ってるのになんで、息切れしてないんだよ……(おいおい、ヴァレリア湖と琥珀の塔の分かれ道があるってことはかなりの距離を走っているぞ……この嬢ちゃん、この小さな身体のどこにこんな凄い体力が秘められているんだよ……)」
グラッツは自分と違い自分より速く走ったにも関わらず息切れをしていないリフィアを見て驚いた。

「余は幼少の頃よりメンフィルのあらゆる領内を見て回ったからな。そのおかげで自然と体力はついたぞ?」
「……とても貴族の娘がやることとは思えねえな……よくそんな危険なことを親が許したな?」
リフィアの今までの行動を聞きグラッツは疑問を持った。
「母は笑って許してくれるが父を含めたほかの者達は心配して余が家を出たと分かるとすぐに追手を差し向けるのじゃ。母以外は皆心配性でな。……嬉しくもあり、悲しくもありだが。」
グラッツの疑問にリフィアは答え、毎回追ってくるリウイ達のことを思い出し溜息をついた。
「はあ………要するにお前が規格外なだけか……まあいい、それより手配魔獣を探すぞ。」
リフィアの答えを聞いたグラッツは溜息をついた後、気を取り直しリフィアと周囲を歩いて手配魔獣を探した。そしてある程度探すと手配魔獣の姿を確認した。

「お……いたか。じゃあ、試験開始だ。まず最初は一人で戦ってみな。」
「フフフ……グラッツよ、余の力を知って腰を抜かすでないぞ?」
「ハハ……強気だな。まあ一応期待しておこうか。」
リフィアの言葉にグラッツは苦笑した。その様子を見たリフィアは少しだけ不機嫌な表情をした。
「なんだ?その顔は。さては余の言葉を信じていないな?まあいい、その眼でしかと見るがよい!」
そしてリフィアは杖を構え魔術の詠唱をして、放った。
「………罪人を処断せし聖なる光よ!我が仇名す者に裁きの鉄槌を!贖罪の光霞!!」
「「「「―――――――――ッ!!!???」」」」
リフィアが魔術は放つとは手配魔獣と周囲にいた魔獣に薄透明な壁が多い、強い光と爆音がその中で走った。光を受けた魔獣達は叫び声すらも光と爆音に掻き消され完全に消滅した。
「んな!?」
遊撃士も手こずると言われる手配魔獣が一瞬で片がついたのを見て、グラッツは驚愕した。さらにリフィアは範囲外で集団になっている魔獣を見つけ新たな魔術を放った。
「闇の彼方に沈め!……ティルワンの闇界!!」
リフィアが放った暗黒魔術は先ほどの光の魔術とは逆に魔獣達のいる範囲が暗闇につつみこまれると魔獣達が叫びを上げた。
「「「「「ガァァァァァッ!!??」」」」」
(な!今度も一撃かよ!?カルナに見せて貰った最高の威力を持つアーツとは格が違いすぎる……これが”魔術”か……)
暗闇がはれると事切れて死屍累々と横たわっている魔獣達がいた。一瞬で複数の魔獣達がやられていく様を見てグラッツは驚きすぎて、しばらくその場を動けなかった。
「余がいれば負けはない!……さて、いつまでも突っ立てないでギルドに戻るぞ?」
リフィアは固まっているグラッツに声をかけた後、ボースに戻る道を歩き始めた。
「お、おう……」
リフィアに促されグラッツは今起こったことがいまだに半分信じられない気分でギルドへ帰って行った。


~ボース西街道~

「いましたね。あの魔獣でいいんですよね、アガットさん?」
「……ああ。」
2組より遅れて出発したアガットとプリネは街道をしばらく歩いていると手配魔獣の姿を見つけた。
「さて、どうしましょう?ルグランさんは私一人で戦うなりアガットさんと協力して戦うかで試験をするとのことでしたが、私はどうすればいいでしょう?」
「………どちらも必要ない。」
「……それはどういう意味ですか?」
アガットの言葉にプリネはわからず聞き返した。
「すぐにわからせてやる。………オラァ!」
背中に背負っている重剣を抜いたアガットは重剣を持った状態でジャンプして手配魔獣に攻撃を叩きつけた。
「グエエエエッ!!!!???」
重剣を叩きつけられた手配魔獣はあまりの痛さに叫び声を上げた。叫び声をあげ隙を見せた手配魔獣にアガットはすかさず、Sクラフトを放った。
「一気に行くぜ!うおぉぉぉぉ!ダイナスト!ゲイル!!」
普通の人間が持つのは難しいと言われる重剣をアガットは軽々と振り回し連続で攻撃した。そしてその攻撃によって手配魔獣は完全に沈んだ。

「見事です。けど、私の試験はどうなるんでしょうか?何故、こんなことを?」
試験対象である魔獣を勝手にアガットが倒したのでプリネはアガットに理由を聞いた。理由を聞かれたアガットはプリネを睨み口を開いた。
「そんなのは当然テメエらみたいな素人どもが手配魔獣と戦わせないために決まってんだろが。怪我でもされたらこっちが迷惑なだけだ。それで試験方法だが、こういう事だ!」
プリネを睨んでいたアガットは手に持った重剣でプリネに襲いかかった。
「!!」
襲いかかられたプリネは後ろに飛んで、アガットの攻撃を回避した。
「これはどういうことですか?」

回避されても攻撃の態勢を解かないアガットを見て、プリネは素早く鞘からレイピアを抜きアガットに向けて構え聞いた。
「今から俺とサシで戦え。それが試験内容だ。テメエらみたいな温室育ちで世間知らずの小娘共が俺達の仕事を手伝えるなんて二度と思えないよう、この”重剣”で教えてやる。」
「……なるほど、そういうことですか。出会った時から感じていましたがアガットさんは私達にあまりいい印象を持っていませんね?」
「ハッ!前々からテメエらメンフィルの奴らは気にいらなかったんだよ!”百日戦役”で襲撃されたロレントを救ったぐらいででかい態度をとりやがってよ!」
プリネの言葉にアガットは鼻で笑った後、今まで隠してきた自分の本音を叫んだ。アガットの本音を聞いたプリネはムッとした顔になり言い返した。

「……大きな態度とは心外ですね。私達、メンフィルはリベールを盟友と認め平等な取引をしています。あの時のロレントはどれだけ悲惨だったか知らないのですか?それに我々の登場はほかの国々に対しても医療関係等生活に対して発達したはずです。特にイーリュンの信者の登場は今まで助けられなかった民の命を救って来たのを知らないのですか?」
「ごちゃごちゃうるせえ!オラァ!」
「!!」
プリネの説明を聞く気がなかったアガットは再びプリネに攻撃をしかけたが横に飛んで回避された。

「………どうしても”力”を示す必要があるみたいですね……仕方ありません。お相手致します……!」
「ハッ!その言葉を吐いた事を後悔させてやる………!」
こうしてアガットとプリネが戦いを始めた……!



後書き 次のが最後になりますがストックしているので明日には更新できますので楽しみに待ってて下さい。プリネとアガットの対戦ですが誰がプリネを鍛えたかを知っていたら結果はわかるでしょ?感想お待ちしております。



[25124] 第30話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/06/04 21:03
最近気付いたのですが零の戦闘メンバーって空と比べたらクラフトが超高性能ですよね?特にダドリーや銀のクラフトの即死率が即死専門だったレンを軽く凌駕するところとか……ランディの即死も余裕でこえていますし……




~ボース西街道~

戦いは正遊撃士の中でも高ランクであるC級を持つアガットの優勢かと思われたがプリネの優勢だった。アガットの重い一撃をプリネは最小限の動きでかわしてアガットの大ぶりな攻撃でできた隙を狙い、反撃しそれに驚いたアガットは後退した。しかもプリネはさらに追撃をかけた。突きだけではなく斬撃も混ぜてくる予想外のプリネのレイピアでの攻撃に対処できずアガットはだんだん擦り傷等を付け始めたのだ。

「そこッ!」
「チッ!」
プリネの素早く重い一撃の突剣技――フェヒテンバルが見えずアガットは大きく後ろに飛んで回避した。
「……さすが正遊撃士といった所ですか。中々の腕です。」
「余計なお世話だ!(チッ……どうなってやがんだ!?この小娘……対人戦に戦い慣れていやがる上に実力もありやがる……!!)」

アガットはプリネの予想外の強さに内心驚いた。自分は一番弱いと卑下するプリネだが、リウイからは剣術や戦術の指南を、ペテレーネやリフィアからは魔術の指南、メンフィルでも指折りの強さを持つカーリアンやファーミシルス、そして”魔神”であるエヴリーヌに実戦形式で鍛えられ、時には国内の盗賊討伐にも参加して兵達に見せた強さは本物で、精鋭揃いのメンフィル兵も自分達が忠誠を誓う覇王の血を引く者として、また自分達を率いる将に相応しいと認める強者になりつつあったのだ。そんなプリネの強さの秘密を知らないアガットは自分が劣勢であることに苛立った。

(クソ……!隙が見当たらねえ……!!メンフィルの奴らだけには絶対に負ける訳には行かないのに……チクショウッ!!)
かつて”百日戦役”で妹を亡くしたアガットにとってその原因となった王国軍を、また助けられなかった自分を憎み、妹の死後に現れたメンフィルや”聖女”の存在を知ったアガットは「なぜ、もっと早く現れなかった!」と見当違いな怒りを心の中で秘めメンフィルにはあまりいい印象を持っていなかった。

その後妹を亡くしたアガットは自暴自棄になり市民を脅かす不良となっていたがある遊撃士――カシウス・ブライトに導かれ不良からは足を洗った。自分の進む途に迷いながらも遊撃士として活躍していったアガットにとってゼムリア大陸真の覇者と言われる大国――メンフィルで何の不自由もなく幸せに暮らしてきたであろうプリネに負ける訳にはいかなかった。
「少し剣の腕がいいからと調子に乗るんじゃねえ!くらいやがれっ!」
「甘いですよッ!!」
アガットの持つ技の中でも隙が少なく常人ならよけられない技――スパイラルエッジを放ったアガットだったが、対するプリネは旅に出る前は常日頃メンフィル皇女としてリウイ達に厳しい鍛錬をしてもらい、またプリネ自身も半魔人のため常人には回避できない攻撃をレイピアで受け流して回避した。

「チッ!」
攻撃が回避され反撃を警戒したアガットは後ろに大きく飛んで後退し普段はあまり使わないアーツを発動させた。
「燃えやがれっ!フレイムアロー!!」
発動したアーツは炎の槍となりはプリネの頭上に襲いかかろうとした。
「させません!」
しかしアーツに気付いたプリネは片手で簡易結界を作り、結界を出している手を頭上に上げ防いだ。
「なっ!?」
人間では決して防御できない攻撃――アーツまで防いだことにアガットは驚愕した。そしてプリネはその隙を逃さず手加減した魔術を放った。

「驚いている暇はありませんよ!?……出でよ鋼輝の陣!!イオ=ルーン!!」
「!!」
本能で自らの危機を感じたアガットは自分のいた位置から横に飛んだ。アガットの判断は正しくアガットが横に飛んで回避した瞬間アガットのいた場所に少しの間だけ小さな渦が空間ができ爆発したのだ。それを見たアガットは”アレ”を何度も撃たれれば自分に勝機はないと感じ短期決戦で戦闘を終わらすため自らの体力と引き換えに闘気をためこむクラフト――バッファローレイジを使った。

「うおぉぉぉぉぉぉ、だぁぁぁぁぁっ!!」
自らの体力と引き換えに闘気を得たアガットは現段階で自分の持つ中で最高のクラフトの構えをした。
「これで終わりだっ!!らあぁぁぁぁぁぁぁぁ………………!」
重剣に闘気を流し込むようにアガットはその場で力をためた。
「……どうやら奥の手を使うようですね……ならば、私もそんなあなたに敬意を示して少しだけ本気を出させていただきます……!」
アガットの様子からアガットが大技を使うと感じ、それに対抗するためプリネは自身に秘めたる真の力を解放した!
「行きます……ハァッ!!」
自分の身体に眠る真の力を解放したプリネの姿は母譲りの夕焼けのような赤髪は闇エルフ達のような夜に輝く美しい銀髪になり、父譲りの赤の瞳は妖しく輝き全身には闘気と魔力が混合した気を纏った。そしてプリネが真の姿になると同時にアガットはSクラフトを発動した!
「くらえっ!ファイナル……ブレイク!!」
「ブラッシュッ!!」
重剣に闘気を流しこみ放ったアガットの重剣による衝撃波はプリネに向かって地を走った。そしてプリネはアガットが放った衝撃波に強力な斬撃でできた衝撃波を放ってぶつからせて爆発させた。

「ハァ……ハァ………」
大技が決まったのを見てクラフトで体力を失ったアガットは息が切れ、疲労もピークに達していた。
「クソ……ここまで手こずるとは俺もまだまだだな……」
プリネに手間取ったことにアガットは舌打ちをして呟いた。
「勝手に終わったことにしないで下さい。」
「え…………なっ………!?」
だが、アガットの苦労をあざ笑うかのように爆発で出来た煙が晴れるとそこには銀髪のプリネが立っていた。

「バカな……無傷だと……!?それにその姿はなんだ!?」
アガットはプリネの姿と全くダメージを受けていない姿を見て狼狽した。
「………これが私の真の姿です。」
「真の……姿……だと……!?どういうことだ!」
プリネの言葉にアガットは理解できず叫んだ。
「言葉通りの意味です。普段の私は力を抑えるためにあの姿ですが、今の私の姿は力の枷をはずした状態ということです。」
「力を抑える……だと……?まさか、今まで本気を出していなかったのか……!!ざけんなぁっ!」
手加減されたことにアガットは怒り疲労した体に鞭を打って再びプリネに攻撃を仕掛けたが、疲労のせいか攻撃の勢いは目に見えて鈍かったのでプリネは謝罪の意味もこめて本気で攻撃を仕掛けた。
「力を抑えていたことは謝ります。なので謝罪の意味をこめて今から本気を出させていただきます!」
「きやがれっ!!」
プリネの言葉を聞いたアガットは自分を叱咤するように叫んだ。そしてプリネは残像が見えるほどの速さでアガットに攻撃を仕掛けた!

「ハッ!セイッ!ヤァッ!!」
「しまった!?」
「終わりです!!」
内に秘める真の力で放った突剣技――フェヒテンイングを重剣で防御していたアガットだったが疲労した体では防げず、プリネの攻撃によって重剣はアガットの手から離れ放物線を描き地面に刺さった。その隙を逃がさずプリネはレイピアをアガットの首筋に当たるギリギリの所で寸止めした。
「グッ………!」
「合格……でよろしいですか、アガットさん?」
自分が負けたことに信じられない表情をしているアガットにプリネはニッコリと笑って確認した。
「………ああ。俺の負けだ……!」
勝負事に関してはケジメを持っているアガットにとって自分の発言を取り消す訳にはいかないので潔く自分の敗北を認め、両手をあげた。

「フゥ………」
アガットの敗北宣言を聞くとプリネは安心の溜息をはきレイピアを鞘に戻し、解放している力を抑えいつもの姿になった。そしてアガットの傷だらけの姿を見てアガットに癒しの魔術を使った。
「あ………いくつか擦り傷がありますね。治しておきます………癒しの闇よ……闇の息吹!!」
「………悪いな。(まさかこの俺が回復魔術を受けるハメになったとはな……)」
初めて体験した癒しの魔術にアガットはまさか自分が体験するとは思わず、戸惑いながらプリネの回復魔術を受けあることを疑問に思いそれを聞いた。
「………いくつか聞きたいことがある。なんで最初から本気で来なかった?それにテメエは貴族の娘なのになんでそんな強いんだ?」
「確かに私のあの姿を見たら普通そう思いますね……すぐにあの姿にならなかったのはまだ完全に私の中に眠る力が目覚めてないからです。」
アガットの言葉にプリネは苦笑しながらも答えた。

「ハッ……?どういう意味だ?」
プリネの説明が理解できずアガットは聞き返した。
「あの時見せた姿は私の中に眠る力を無理やり出した姿です。ですから長時間あの姿ではいられないんです。」
「なるほどな………それでなんでお前はあんなに対人戦にも慣れてんだ?直接お前と対峙してわかったが剣の腕はかなりだし、対人戦を想定した戦い方だったぜ?」
「私にある程度の力があるのはお父様やお父様の臣下の方達に鍛えられたからでもありますが、一番の理由は兵を率いる者としても強くならないといけないのです。」
「な……?まさかお前、私兵がいるのか!?」
アガットはプリネの兵を率いているという言葉を聞いて驚いてプリネを見た。
「はい。と言ってもお父様の私兵です。ですが将来その方々は私やリフィアお姉様に仕えることになります。その方々を失望させないため、また民の先頭に立って行動する”メンフィル貴族”として強くなければならないのです。」
「………下の奴らを黙らせるためっていうのはわかった。でもその”メンフィル貴族”としてってのはどういう意味だ?」
「……私達貴族は民の税で生活をしていることはご存じですよね?貴族は普通戦争等には関わりませんが、私達メンフィルは違います。”力あるものは無暗にその力を震わず力無き者を守るために使う”………これは初代から始まり、今の皇帝、また次期皇帝となられる方のお考えです。皇帝の考えは当然私達貴族は従わなければなりませんし、民の血税で生活をしているのですから有事の際、私達が先頭に立って民を守るのは当然の義務です。……例えそれが戦争であっても民を守るため兵を鼓舞し自らも戦う必要があるのです。」
「……………(完敗だ………)………お前達をバカにしてたのは俺の間違いだったようだ。悪かった……」
アガットは自分より年下のプリネが自分と違い進むべき途を持ってそれに向かって進み、戦うという覚悟をすでに持っている言葉を聞いてプリネを見直し、頭を下げ謝った。

「気にしないで下さい。普通はそう思われても仕方ありませんから……さあ、ギルドに戻りましょう!恐らくほかの2組も終わっているでしょうし。」
アガットの謝罪を苦笑しつつ受け取ったプリネはギルドに戻ることを提案した。
「ああ。……それと今、一人になりたい気分でな……後で追いつくから先に行っててくれ……」
「?わかりました。」
アガットの様子を変だと思ったプリネだったがアガットの言葉通り先にギルドに戻った。プリネの姿が見えなくなるとアガットは何かを堪えるように呻いた。

「チクショウ………俺は年下の小娘にも劣るのか……………どこまで行っても俺は情けねえ兄だな………ミーシャ……………」
呻いたアガットは悔しさを発散するかのように突如空に向かって吠えた!

「うおおおおおおおっ!!!!!」
空に向かって吠えた後、プリネに追いつくためアガットはプリネが戻った道を走って行った…………


後書き 恐らくほとんどの方が予想していたと思いますが、案の定アガットはプリネに負けちゃいました♪というかリウイ達に鍛えられたプリネに勝てるのはカシウスや碧で出るアリアンロード(どれぐらい強いか知りませんがワイスマンと違って前線系に見えたので少なくとも七柱の中では最強と思っています。)ぐらいだと思います。それ以外は強くても攻撃は捌けますし、パワー全開で行ったら誰にでも勝てると思います。どれだけ強くても相手は所詮人間ですし。そう、例えどこかの組織の誰かさんにもです……感想お待ちしております。



[25124] 第31話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/06/05 22:10
あるキャラを登場させるために更新している間に凄い勢いで作れました♪なのでそのキャラが登場するまでは連続更新できます!!






一方リフィア達と別行動にしたエステル達はハーケン門に向かい、モルガン将軍からブレイサーであることを隠して情報をある程度、引き出せたのだがエステルがうっかり口を滑らせてしまったせいで、エステル達がブレイサーと分かるとモルガンは激昂し、エステル達を攻め、そのことに反応したシェラザードも未だに事件の解決への道を見つけていないことと、異国の軍、メンフィルのほうが優秀で協力的であることを持ちだし、そのことでモルガンをさらに怒らせ、今にも喧嘩をしそうな雰囲気であったが、ハーケン門の食堂で出会ったエレボニア帝国人の旅行者、オリビエ・レンハイムの突拍子のない演奏でそれぞれ拍子がぬけ、モルガンは取り巻きの兵を連れて持ち場に戻った。そしエステル達はギルドや市長に報告するため、モルガンとの仲裁をしてくれたオリビエをついでに護衛しながらボース市へ向かった。そしてボース市でオリビエと別れ、エステル達は一端ギルドに報告し、リフィア達と合流するためにギルドに向かった。

~遊撃士協会・ボース支部~

「ただいま~」
「おお、戻ってきたか。」
ルグランは戻ってきたエステル達に気づいた。
「あれ?リフィア達は?」
ギルドで待っているはずのリフィア達の姿がなくそれを不思議に思ったエステルはルグランに聞いた。
「あの3人なら今は上で休憩しとる。……実はお主たちにも伝えることがあっての。」
「なんでしょうか?」
ルグランの言葉が気になりヨシュアは聞き返した。そしてルグランはプリネ達にした説明をエステル達にもした。
「……ということじゃ。2人ともあまりあの3人を頼りにするんじゃないぞ?」
「……確かにその通りね。あの3人の強さは私達とは次元が違うわ。アイナの考え通りずっとプリネさん達に頼っていたらあんた達が成長しなくなってしまうわね。特にエステル、わかってるわね?ただでさえあんたにはパズモや魔術という反則技があるんだから、自分がどれだけ恵まれているかわかっているでしょう?」
ルグランの説明にシェラザードは頷き、エステルに念を押した。
「それぐらいわかっているわよ、シェラ姉。……でもリフィア達と仕事が毎回できないのはちょっと残念だけど、ルグラン爺さんの言う通りだわ!ヨシュアもいい?」
「了解。……というか基本的に気をつけるのは依頼を受けたエステルなんだけどね……」
エステルの言葉にヨシュアは苦笑して答えた。


「……それにしても、猛者だらけの闇夜の眷属達を束ねる王族の血は伊達ではなかったようじゃの……」
「……というと?」
リフィア達の強さに驚きを隠していないルグランにヨシュアは気になって聞いた。
「うむ……遊撃士として必要な最低限の戦闘能力を確かめるために、アネラスにはエヴリーヌ嬢ちゃんと。グラッツにはリフィア嬢ちゃんと、アガットはプリネ嬢ちゃんと手配魔獣を倒しに行ってもらったんじゃが、結果を聞いて驚いたわい……まず、エヴリーヌ嬢ちゃんは弓矢で目にも止まらぬ速さで次々と手配魔獣や配下の魔獣を倒し、帰り道で出会った魔獣も魔術で一撃だったそうじゃぞ……」
「………僕も彼女の戦いをボースに向かっている途中の魔獣との戦闘で少しだけ見ましたが、魔術も当然のことながら彼女の弓技は誰にも真似はできないでしょうね。」
「そりゃあ、そうでしょう。彼女は”魔神”なんだから私達とは体の創りからして違うし、あの外見で騙されてしまうけど私達の何千倍も生きているんだから実力も豊富なんでしょうね。」
ルグランとヨシュアの言葉にシェラザードは自分達とはあまりにもかけ離れている存在であるエヴリーヌに畏怖を持ちつつ答えた。

「あはは……ほかの2人はどうだったの、ルグラン爺さん?」
シェラザードの言葉にエステルは引きつった笑顔で笑った後気になるほかの2人のことを聞いた。
「うむ……リフィア嬢ちゃんに至ってはたった数秒で手配魔獣を含めて周囲の魔獣達を魔術で全滅させたそうじゃ……」
「例えアーツの数倍は勝っていると言われている魔術でも豊富な体力を持つ手配魔獣を一撃なんて私やエステルでは絶対にできないわ。とんでもない魔力がある証拠よ……プリネさんでさえ私達より上なんだから。やっぱりあのメンフィルの姫殿下達と私達は格が違うわね………」
シェラザードは改めてリフィアの凄さを知り溜息を吐いた。
「何を言っておる、魔術が使えるお主達も十分凄いではないか。魔術は基本的にメンフィルの出身者、あるいはアーライナやイーリュンの一部の信者達しか使えないのは2人とも知っているじゃろ?」
ルグランはシェラザードの溜息が贅沢な溜息に聞こえ指摘した。

「………まあね。私は幸運にも師匠――――闇の聖女様に師事をお願いする機会があったから恵まれているとは思っているわよ……(最もこの娘ほどではないけどね)……」
そう言ってシェラザードは横目でエステルをチラリと見た。
(??なんで、あたしを一瞬だけ見たんだろう、シェラ姉……)
(この様子だとわかっていないみたいだね………まあ、エステルらしいか。)
ペテレーネを含めてメンフィルから特別扱いされ、精霊の協力を得ている自分のことだとわかっていないエステルをヨシュアはエステルらしいと思った。

「……プリネ嬢ちゃんに関してなんじゃが……アガットの奴、手配魔獣はプリネ嬢ちゃんが信用できないと言って自分で倒した後、試験と言ってプリネ嬢ちゃんにいきなり模擬戦を仕掛けたそうなんじゃよ……」
「はあ!?あのバカ……何考えてんのよ!?下手したらよくて牢屋行き、悪くて死刑になっててもおかしくないわよ!?それどころか最悪ギルドが潰される可能性があってもおかしくないわよ!」
アガットがプリネを襲ったと聞いたシェラザードは声を上げた。
「全くじゃ……アガットの報告を聞いて正直、寿命が縮まると思ったわい……まあ、肝心の本人は笑って「気にしないで下さい。いい訓練になりました。」と言ってたからよかったのじゃがな……」
「ねえねえ、シェラ姉。そのアガットっていう人、シェラ姉知っているの?」
アガットを知っている風に話しているシェラザードに疑問を思ったエステルは聞いた。
「まあ、同じ先生に関わった者同士ある程度はね……言っておくけど、かなりの凄腕よ。」
「ふ~ん………あれ?それだけ強いにも関わらずプリネに負けたってルグラン爺さん、言わなかった?」
「うむ。リベールの正遊撃士の中でも高レベルのアガットが負けたと聞いて、一瞬耳を疑ったぞい。」
「………まあ、プリネさんは大使館にいた頃は常日頃先生以上の達人達と手合わせをしてたからね……アガットじゃ荷が重いと思うわ。」
「へぇ~………シェラさん、まるでプリネの修行を見て来たかのように言ってますけど、やっぱり闇の聖女さん繋がりですか?」
プリネの強さにあまり驚いていないシェラザードを見てヨシュアは疑問に思っていたことを口に出した。

「ええ。プリネさんは師匠の娘だけあってアーライナの信者達から御子扱いされてたからプリネさんの姿を拝見したいっていう信者達が多くてね……それに答えるためかよく親子揃って仕事をしていてね、自然と話す機会も増えてね……第三者の視点での意見も欲しいからってファーミシルス大将軍や異母のカーリアン様との修行も見せてもらったのよ。」
「え!?プリネってアーライナの信者の人達からはそんな凄い扱いをされていたんだ!!」
アーライナ教でのプリネの立場を知ったエステルは驚いて声を出した。
「母親があれだけ信者の人達に慕われていたら特別扱いされるのは仕方ないと思うよ?………それで実際プリネの修行ってどうだったんですか、シェラさん。」
驚いているエステルとは逆にプリネの立場を理解し納得しているヨシュアは肝心なことを聞いた。

「………プリネさんが本気を出した時の手合わせを見せて貰ったんだけど……私達とは次元が違いすぎるとしかいいようがないわ。」
「へ?プリネって今まで本気を出していなかったの!?」
エステルは短期間ながらもプリネの実力は自分より確実に上とわかり、それが本気でないと知り驚いた。
「ええ。あんた達が知っているプリネさんの姿は父親から受け継いでいる力――”魔神”の力は一切使っていないわよ?」
「………その”魔神”としての力を使ったプリネの姿は違うんでしょうか?」
ヨシュアの疑問にシェラザードは頷いて答えた。

「何も容姿や体が変わる訳ではないわ。”魔神”としての力を解放した時、唯一違うのは髪の色が銀髪になるぐらいよ。」
「銀髪…………シェラ姉見たいな?」
「いえ、プリネさんの銀髪は私のと比べたらもっと美しいわよ。」
「ふえ~………いつか、見てみたいな………」
エステルは自分の髪に自慢を持っているシェラザードが誉めたプリネの銀髪に一目見たいと思った。

「まあ、そんな訳じゃから3人共文句なしの合格じゃからな。お主達も彼女達に負けないよう精進するのじゃぞ?」
「うん!」
「はい。」
「ええ。」
ルグランの言葉に3人は頷いた。
「それより肝心の事件の事は何かわかったかね?」
「うん、そのことだけど……重大な情報を手に入れたよ!」
ルグランの言葉にエステルは嬉しそうな表情で答えた。
「おお、そうか!じゃあ、上にいる3人も呼んで話して来てくれ!」
「じゃあ、僕が3人を呼んでくるね。」
そしてリフィア達も交えてエステル達はモルガンから引き出した情報を話した。


「空賊団の『カプア一家』……それは確かに重大な情報じゃな!これで遊撃士協会としても方針が決められるというものじゃ。しかし、モルガン将軍というのも噂以上に遊撃士嫌いらしいのう……」
エステル達の情報に驚いたルグランはモルガンの予想以上の遊撃士嫌いに溜息をついた。
「うん、ビックリしちゃった。遊撃士って、ロレントじゃみんなに親しまれてる職業だから、あそこまで嫌われてるなんて……」
エステルは肩を落として答えた。
「エステルさん……元気を出して下さい。私達も民のために精一杯がんばらせていただくつもりですから!」
「うむ!当然だ!エヴリーヌもよいな?」
「はーい。エヴリーヌ達がその空賊捕まえてその人間を驚かせよう?」
「プリネ、リフィア、エヴリーヌ……3人共、ありがとう!」
3人の励ましを受けたエステルは笑顔でお礼を言い、気を取り直した。

「まあ、モルガン将軍は例外じゃ。普段は王国軍とギルドも、それなりに協力関係を保っておる。ただ、今回ばかりはお前さんたちに余計な苦労をかけることになりそうじゃのう。」
ルグランはエステル達のやり取りを微笑ましげに見た後、エステル達にかかる負担を考えそれを呟き肩を落とした。
「ま、こちらが出来ることを地道にやっていくしかないわね。とりあえず市長にもこのことを報告してこれからの捜査方針を考えてみるわ。」
シェラザードの言葉にエステルやリフィア達、5人が頷き市長にモルガンから得た情報を報告するため市長邸に向かった…………






後書き オリビエのイベントはあまり変わりませんのでとばさせていただきました。もちろん基本原作どおりなのでオリビエ再登場&仲間になるのでご安心を……ただリフィア達がいるから一度やってみたいことがあるのであるイベントでリフィア達は自分達自身を有効に活用しますのでお楽しみに……感想お待ちしております。



[25124] 第32話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/06/06 10:44
~ボース市長邸~

メイベル市長にモルガンから得た情報を報告しに来たエステル達だったが、市長邸の前でリラとエステル達が以前護衛した新聞記者とカメラマン――ナイアルとドロシーがいた。

「なあ、お譲ちゃん。頼むからそこを通してくれよ。市長から一言、コメントをもらうだけでいいんだからさ。」
「そうそう、ついでに写真も撮っちゃいますけど~」
「そう仰られましても……市長は多忙を極めておりまして。アポイントメントのない方はお引き取り願っているところです。どうかご了承ください。」
2人は市長との面会を希望していたがリラはあっさり断った。
「そこを何とか!これほどの大事件なのに判ってることがロクにねぇ……。読者に何か伝えてやりたいんだ!」
「ですが……」
断っても食い下がらないナイアルにリラは困った表情をして、内心どうするべきか迷っていた。

「そうそう、そうですよー。噂の美人市長が表紙を飾れば部数倍増も間違いナシですし~」
「………………………………」
しかしドロシーの言葉を聞いて何かあると思ってリラは黙った。
「こ、こらドロシー!なに失礼なこと言ってやがる!」
ドロシーの言葉にナイアルは慌てた。
「え、ナイアル先輩が言ったんじゃないですかぁ?ネタがないんだったらメンフィル大使館の美女達を取材できなかった代わりに、美人市長を客寄せのアイドルに仕立てて紙面を稼いじまえーって。」
しかしドロシーは場を悪化させるかのように市長邸に来る前にドロシーにしか言っていないことを言った。
「わ、バカッ!」
「………………………………………………………………………………………………」
ナイアルはドロシーを制したが時既に遅く、リラは無言でナイアル達を見ていた。

「あ、あの、メイドさん?」
リラの様子をおかしいと思ったナイアルは恐る恐る尋ねた。
「ずいぶん面白いお客様ですね……。お2人の話は、出来るだけ詳細にメイベル市長に伝えておきますので。今日のところはお帰りください。」
「ま、待ってくれ!これはちょっとした誤解なん、」
完全に追い返すつもりのリラになんとか誤解を解こうとしたナイアルだったが
「お・帰・り・下・さ・い」
「はい……」
リラが有無を言わさず言ったのでナイアルは肩を落として諦めた。
「あれ、美人市長の写真、撮らなくていいんですかぁ?」
さらにドロシーは空気を読まないかのごとく、ナイアルに質問した。
「頼む……頼むから……これ以上喋らないでくれ……」
「セ、センパーイ!待ってくださいよ~!」
ドロシーの言葉にナイアルはさらに疲れすごすごと市長邸から離れ、ドロシーもナイアルを追うかのように市長邸を離れて行った。

「ふう………………あら?」
ナイアル達を追い返したリラは安堵の溜息を吐いた後、エステル達に気付いた。
「こんにちは、リラさん。」
6人を代表してエステルはリラに挨拶をした。
「まあ、ブレイサーの皆さん。ハーケン門からお戻りになったのですか?」
「うん、まーね。ところで今の人たちって……」
ナイアル達がなぜ市長に会いに来たのか気になりリラに聞いたエステルだったが、
「不届き者です。」
「へ……」
リラの言葉に目を丸くした。

「お嬢様を利用しようとする不逞(ふてい)の輩だと申し上げたのです。私の目の黒いうちは指一本たりとも触れさせません。」
「あ、あはは……そう」
「し、仕事熱心なんですね……」
リラの仕事ぶりにエステル達は苦笑した。一方リフィア達はリラの仕事っぷりを小声で評価していた。
(ほう……あのリラとやら中々の手際じゃな。)
(フフ、そうですね。……そう言えば今の方達、イリーナさんに追い返されてた人達じゃありませんでしたっけ?)
(言われてみればそうじゃな?エヴリーヌも覚えておるか?)
(………お、思い出したくない。)
(エヴリーヌお姉様?)
微妙に震えているエヴリーヌにプリネは首を傾げた。

実はエステル達に護衛されたナイアル達はその後メイベル市長と同じように客寄せ用にペテレーネやメンフィルの武官達に真面目な記事を書く代わりに、ペテレーネ達に直接取材をさせてもらおうと大使館を訪ねたのだが、イリーナが対応したのだ。最初はナイアル達の言い分を真面目に聞きどうやって断ろうかと思案していたイリーナだったのだが、ドロシーが言った「そうそう、美人で永遠に年をとらないと言われる噂の闇の聖女様や美女揃いのメンフィルの武官の方達を表紙に飾れば部数が数十倍増間違いナシですよ~」と言う余計な言葉でイリーナは固まり無表情になったのだ。それに慌てて弁明したナイアルだったがさらにドロシーが闇の聖女の娘や次期皇帝も容姿淡麗という噂でペテレーネやカーリアン達と同時に載せればさらに売上が上がるなどと場を悪化させる言葉を言い、それを横で聞いていた門番の兵達もナイアルとドロシーを睨み、それに気付いたナイアルは誤解を解こうとしたが時すでに遅く、命の恩人であるプリネや自分を励ましてくれたリフィア達に強い感謝と高い忠誠心を持つイリーナは彼女達を下らない紙面に載せまいと笑顔で断ったのだ。なんとか食い下がろうとしたナイアルだったのだが、誰もが見惚れるような笑顔でありながら迫力のあるイリーナの笑顔に負けすごすごと引き下がったのだ。それを隠れて見ていたプリネ達はイリーナが戻って来た後誉めて感謝したのだが、エヴリーヌは自分に向けられていないにも関わらずイリーナの迫力に恐怖感を覚え、人知れずイリーナを怒らせないようにしようと誓ったのだ。ちなみに同じようにナイアル達とイリーナのやり取りを隠れて見守っていたリウイは「そういう所まで受け継がれなくていいだろう……」と呟き冷や汗をかくと同時にやはり転生したイリーナだと感じ、新たに見せたかつてのイリーナの片鱗を見て複雑な思いになったのだ。

「それが私の務めですから。さ、皆さんはどうぞ中へ。市長がお待ちになっています」
そんなリフィア達の様子に特に気にも止めずリラはメイベルの執務室に案内した。


~ボース市長邸・執務室~

「市民からの苦情の処理……ボース上空の飛行制限によるマーケット商品の納入遅れ……下水道設備の修理について……女王陛下への贈答品の選定……アンセル新道での魔獣被害……一時的な陸路でのメンフィルとの取引の詳細………」
メイベルは次々に問題になっていることが書かれてある書類を読み上げていってどうするか考えた。
「もう~、いつになったら書類の処理が終わるんですのー!」
しかし、あまりの多さに悲鳴を上げた。
「あのー……」
そこにリラに案内されたエステル達が入って来て、エステルが恐る恐る話しかけた。
「あ、あら……?オホホ、皆さん。戻っていらしたんですか?」
それに気付いたメイベルは気不味そうな表情をして答えた。
「お忙しそうですけど……お邪魔してもよろしいですか?」
「コホン、もちろんですわ。モルガン将軍からの情報ですね?早速、伺わせていただきます」
ヨシュアの言葉にメイベルは一度咳払いをすると、報告を聞く姿勢になった。そしてエステル達はモルガンから得た情報を報告した。

「……ご苦労様です。大体の状況は飲み込めました。空賊団によるハイジャック。そして身代金の要求ですか……。思った以上に深刻な事態ですわね。」
「遊撃士だってバレなければ、他にも掴めたと思うんだけど……」
メイベルが話を聞いて言った後、エステルは申し訳なさそうな表情で肩を落として呟いた。
「いえ、墜落事故でないことが判明しただけでも助かりましたわ。これでボース市としても対策が立てられるというものです。早速、市民へのアナウンスと乗客の家族への対応を考えないと……」
メイベルはそんなエステルを励ますようにお礼を言った。
「大変ですね……ただでさえお忙しそうなのに。」
「ふふ、それが市長の責務ですわ。ところで、犯人の正体は明らかになったわけですが……。引き続き、事件の調査と解決をお願いしてもよろしいでしょうか?」
ヨシュアの労いにメイベルは笑って答え、調査の続行を嘆願した。

「もちろん、そのつもりよ。あたしたちも例の空賊団とは一度やり合った因縁があるからね。遊撃士協会のメンツに賭けて、王国軍だけに任せてはおけないわ。」
「うん、そうだよね!父さんのこともあるし、今度こそ決着をつけなくちゃ!」
「………………………………」
シェラザードとエステルは意気込んだがヨシュアだけは黙っていた。
「ん、どうしたの?難しいカオしちゃって……」
ヨシュアの様子に気付いたエステルはヨシュアに尋ねた。
「うん……色々と考えてみたんだけど。どう考えても信じられなくてさ。」
「信じられない?」
ヨシュアの言った言葉に理解できないエステルは聞き返した。
「あの父さんが空賊に遅れを取ったことだよ。ロレントに現れた連中だけで実力を判断するのも何だけど……」
「確かにそれは言えるわね。あの程度の集団だったら、先生なら軽くあしらえるはずよ。」
ヨシュアの言葉にシェラザードも頷いて同意した。
「もー、ヨシュアもシェラ姉も父さんを買いかぶりすぎだって。確かに、けっこう腕は立つけど、集団相手じゃキツイと思うし……」
2人の様子にカシウスの実力を知らないエステルは笑って否定した。

(リフィアお姉様、確かエステルさんのお父様って……)
(うむ、かの「剣聖」だ。他者の強さに厳しいファーミシルスも評価していた男が賊ごときで遅れをとるとは確かに思えんな……)
一方プリネとリフィアは3人の会話から疑問に思ったことを小声で会話した。

「あの、ちょっと宜しいかしら?エステルさんたちのお父様も例の船に乗っていらっしゃったの?」
「あ、話してなかったっけ……。恥ずかしながらそうなの。しかも遊撃士っだったりして。カシウス・ブライトっていうんだけど……」
メイベルの疑問にエステルは恥ずかしそうに答えた。
「カシウス・ブライト……今、そうおっしゃいまして!?」
「え……うん??ひょっとして知り合いとか?」
カシウスの名を聞いてメイベルは驚いて立ち上がり、それに驚いたエステルはたじろいだ。
「直接の面識はありません。ですが、お話は伺っていますわ。そう……そうだったのですか……。これはひょっとして軍との交渉に使えるかも……」
「市長さん?」
独り言を言いだしたメイベルにエステルは首をかしげて言った。
「……失礼しました。皆さんの胸中、お察ししますわ。事件の解決に役立つのなら、どのような協力でも惜しみません。何かご入用になった時には遠慮なく申しつけてくださいませ。」
エステルの言葉にハッとしたメイベルは気を取り直して全面的な協力の言葉をエステル達に言った。

その後市長邸を出たエステル達は今後の方針を話しあい、エステルの提案で新聞記者であるナイアル達が何か情報を持っていないか聞くため、
エステル達は事件の手掛かりのためにナイアル達を探し始めた…………




後書き ボース編もいいですけど早くルーアン編を書きたいです……なんせ、ルーアン編では新たなクロスオーバーキャラを2人出すつもりですし、しばらく出番無しだった旧幻燐キャラも出せますから。ただ、ルーアン編とグランセル編はネタはあるんですけどツァイス編は全然ないのでいいかげんになるかもしれません。感想お待ちしております。



[25124] 第33話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/06/07 20:39
~ボース市内・居酒屋 『キルシェ』~


ボース市内を探してようやく見つけたエステル達だったが、そこには酔っぱらって机に伏せているナイアルを見つけた。
「ういー……チクショウ……。ったく冗談じゃねーぞぅ……。……うーん……ヒック……」
「見つけはしたけど、ベロンベロンに酔ってるわね~。取材拒否されたことがそんなにショックだったのかな?」
昼間から酔っているナイアルにエステルは呆れて呟いた。
「男のクセにだらしないわね。酒は呑むものであって、呑まれるものじゃないのに。」
「全くじゃな。このような少量の安酒ぐらいで酔うとはだらしないの。」
ナイアルの状態を見てシェラザードは溜息をつき、酒瓶の匂いで判別したリフィアは呆れた。
「底なしのシェラ姉と一緒にされてもねぇ……」
「リフィアお姉様、さすがに私達が飲んでいるのと比べるのはちょっと……」
シェラザードの言葉にエステルはジト目でシェラザードを見て呟き、皇族であるため良い種類のお酒以外はあまり飲んだことのないプリネはリフィアの言葉に苦笑した。

「失礼ね、底なしっていうのはアイナみたいな女を言うのよ。あの女、いくら飲んでも顔色変わらずに平然としてるしね。あたしみたいに気持ちよく酔っ払う酒飲みと一緒にしないでちょうだい。」
「よくゆーわよ。いくら酔っても潰れずに、ひたすら周囲を巻き込むくせに。ねえプリネ、もしかしてシェラ姉、そっちでも迷惑をかけなかった?」
「あはは……それを言うのは控えさせていただきます。」
「シェラさんがザルとしたら、アイナさんはタガって感じかな。どちらも底なしには違いないと思いますけど……」
「むう……」
エステルの言葉に反論したシェラザードだったが、エステルとヨシュアの言葉と苦笑したプリネに黙ってしまった。

そしてエステル達が騒いでいると机に付していたナイアルは起きた。
「……うーん…………うー。ここは……?」
「目、醒めたみたいですね。飲み過ぎは体に良くないですよ?」
「く……頭がズキズキしやがる……。……ってなんだぁ?新米遊撃士どもじゃねえか。おいおい、なんで俺がロレントなんかにいるんだ!?たしかボースまで歩いて……」
ヨシュアの心配する言葉に気付いて、エステル達を見たナイアルは酔っているせいか見当違いな答えを言った。
「なに寝惚けてんのよ。あたしたちもボースに来たの。」
ナイアルの様子にエステルは溜息をついて答えた。
「ふぃーっ……まったく驚かせやがるぜ……。おっと、こらまた色っぽい姉ちゃんと一緒だな。」
エステルの言葉に安堵をついたナイアルはシェラザードに気付いた。
「初めまして、記者さん。シェラザード・ハーヴェイよ。この子たちの先輩にあたるわ。」
「シェラザード……。おい、もしかして『風の銀閃のシェラザード』か?」
シェラザードの名前を聞いたナイアルは驚いてシェラザードを見た。
「あら、光栄ね。あたしの名前を知っているの?」
ナイアルの様子にシェラザードは嬉しそうにしながら答えた。

「ああ、噂くらいだがな。若手遊撃士の中じゃあ、1、2を争うこととメンフィル関係者以外じゃ数少ない魔術の使い手らしいじゃねえか。噂によってはあの”闇の聖女”の弟子っていう噂もあるんだが……ちょうど良い機会だ。あの噂は本当なのか?」
「ええ、そうよ。師匠とは6年ぐらいだけど魔術に関する事では師弟関係にあるわ。」
「マジかよ………!!ちなみにこのことを記事にしていいか!?」
シェラザードの噂の真実を知ったナイアルはシェラザードに記事を書いていいか尋ねた。
「私個人はいいんだけど、師匠がなんて答えるかしらねぇ……記事を書くにしても師匠やメンフィル大使に許可を取ってもらわないとダメよ。」
「クソ、やっぱりか……許可なしで勝手に書いてメンフィルに抗議される訳にもいかないしな……かと言ってしばらく大使館には近寄れねえし……ハァ……まあいい。そんな有名な遊撃士がボースにいるってことになると、お前さんたちも例の事件を調べに来たわけだな?」
シェラザードの答えを聞いたナイアルは肩を落として溜息をついた後、気を取り直して聞いた。
「まあ、ね。そっちは何か情報集まった?市長さんちの前で見かけたけど、なんだか困ってたみたいじゃない。」
「くそ、あれを見られてたのか……。ああ、そうだよ!ネタが無くて困ってたところさ!」
エステルの答えと質問にナイアルは逆ギレした。

「あ、やっぱり?」
ナイアルの様子にエステルは苦笑しながら答えた。
「なにせ、軍による情報規制のせいで事故かどうかも判らない状況なんだ。直接、モルガン将軍に会いにハーケン門に行こうとしたら検問に引っかかるし……ならせめて、噂の美人市長にインタビューしようと思ったら、メイドから門前払いを喰らうし……。おまけに、あのトンチキ娘は事あるごとにヘマをしでかすし……メンフィル大使館の取材も記事は真面目にして、ついでに闇の聖女達の写真を入手して表紙にしようと思っていたのにあのトンチキ娘は………!!おお、女神(エイドス)よ!俺が何をしたっていうんですか!」
ナイアルは今まで溜まった鬱憤を晴らすかのように話した後悲壮な表情をした。

「追い詰められているわね~。そんなに情報が知りたければ、教えてあげないでもないけど……」
「へ………?」
エステルの答えにナイアルは呆けた。
「あたしたち、メイベル市長に協力する形で事件を調べてるの。市長さんの紹介があったから一応、モルガン将軍にも会ったわよ。」
「……………………マジで?」
エステルの説明にナイアルは信じられない表情でエステル達を見た。
「うん、マジで。」
ナイアルの様子にエステルは得意げな表情をした。
「おおおおおお!これぞ女神の助けだぜっ!どうか頼む!その話、俺にも教えてくれっ!」
エステルの答えを聞いたナイアルは目を輝かせ、喜びの叫び声を上げて深々と頭を下げた。
「それは構いませんけど……。ナイアルさん、こういう時のルールを忘れていませんか?」
「……え?」
ヨシュアの予想外な一言にナイアルは呆けた。
(フフ、ヨシュアさんってば遊撃士に成り立てなのによくわかっていますね。)
(フム。確かにあやつは取引の基本というのをわかっておるな。)
(キャハッ♪もしかして、これが裏の取引ってやつ?)
(エ、エヴリーヌお姉様………それはちょっと違うと思います………)
エステル達の会話を黙って聞いていたリフィア達はエステル達には聞こえないぐらいの小声で会話をしていた。

「フフ……情報はタダじゃないってこと。代価が必要だって言ってるわけ。」
「ミ、ミラを取るつもりかよ?自慢じゃねえが、取材費なんざとっくに使いきっちまったんだ!」
シェラザードの答えにナイアルは青褪めて答えた。
「情報屋じゃないんですからミラを取ったりしませんよ。ナイアルさんは事件直後にボース入りしていましたよね?色々と、面白そうな話を耳にしているんじゃないですか?」
ナイアルの様子にヨシュアは呆れながら尋ねた。
「チッ、大人しそうな顔をして、なかなか喰えない小僧だぜ。言っておくが、こっちのネタはそれほど大したもんじゃねえぞ?」
ヨシュアの答えを聞いたナイアルは舌打ちをした後、念を押した。
「事件に関係あることだったら、どんな些細な情報でも構いません。ただし……出し惜しみは止めてくださいね?」
「わかった、わかりましたよ!こちらが出せるネタは2つある。そいつで手を打ってくれ!」
ヨシュアの冷ややかな答えにナイアルは必死に頼んだ。
「決まりですね。」
ナイアルの頼みにヨシュアは頷いて、エステル達もメモやペン等を出してナイアルの情報を聞く姿勢になった。

「最初のネタは、西の方にあるラヴェンヌ村での目撃情報でな。ちょうどボースを訪れていた村人から聞いた話なんだが……。事件があった夜、空飛ぶ大きな影がある村人によって目撃されたらしいんだ。」
「空飛ぶ大きな影?そ、それって……」
ナイアルの話にエステルは身を乗り出した。
「ああ、例の定期船だって誰が聞いたって思うだろ?だが実際、軍の部隊が行っても何も見つけられなかったらしい……」
「なーんだ。期待して損しちゃった。」
「つまり、単なる見間違い?」
しかしナイアルの答えを聞いたエステルは肩を落とし、シェラザードも溜息をついた。
「だから言っただろうが!大したネタじゃないって!こんなネタでも、情報規制下じゃ集めるのに苦労したんだからな!」
2人の様子を見たナイアルは吠えるように答えた。

「ご苦労さまです。それで、もう1つのネタは?」
「くっ……。……もう1つは、軍の情報部が動き始めているらしいってことだ。」
先を促すようにしたヨシュアの態度に弱冠の悔しさを覚えつつナイアルはもう一つの情報を話した。
「情報部?」
「噂は聞いたことがあるわね。最近、王国軍に新設されたばかりの情報収集・分析を行う集団だって。」
なんのことかわからないエステルにシェラザードは説明した。
「ああ、王室親衛隊と並ぶほどのエリート組織だって触れ込みだぜ。司令を任されているリシャール大佐という人物がこれまたキレ者っていう噂でな。今回の事件も、彼にかかったら解決確実と囁かれているらしい。」
(………リフィアお姉様、ご存じでしたか?)
(………いや、情報部やリシャールとやらは余も知らぬ。恐らく最近できたのであろうな。しかし「情報部」か……)
(…………念のためにお父様に調べて頂いたほうがいいのでは?)
(………そうだな。まあ、例え情報部とやらが余達を探っていたとしても、余達の弱みは握れまい。兵達の情報徹底はしているし大使館の警備も固いしな。)
(ええ……お父様の弱みとなるであろう方はいますが、傍にはお父様を含めメンフィル屈指の戦士達がいますし、その情報は私達を除いて”過去のあの方”を知っている人しか知りませんしね……)
ナイアル達の会話を黙って聞いていたプリネ達はきな臭さを感じて警戒する会話を小声でしていた。

「ふーん……。でも、あたしたちの捜査には役に立たない情報のよーな。」
プリネ達の会話に気付いていないエステルはナイアルの情報に辛辣な意見を言った。
「悪かったな、役に立たなくて!だが、約束は約束だ!お前たちも喋ってもらうからな!」
エステルの言葉にナイアルは叫んでエステル達を睨み、ヨシュアに記事の内容になるであろう情報の提供を求めた。
「ええ、それはご心配なく。」
ナイアルの言葉にヨシュアは冷静に答えてモルガンから得た情報を一通り伝えた。

「空賊団の『カプア一家』……王家と飛行船会社に身代金要求……メンフィルの静観。それだ!そーいう決定的なネタが死ぬほど欲しかったんだよっ!」
ヨシュアが話した情報にナイアルは満面の笑みを浮かべて立ち上がった。
「気に入ってもらえましたか?」
ナイアルの様子からわかっていながらもヨシュアは尋ねた。
「おうよ!これで記事が書けるってもんだ!こうしちゃいられねえ……ドロシーのヤツを見つけないと!それじゃあ、またなッ!」
そしてナイアルは店員に勘定を払うとその場から飛び出して行った。
「す、すっごい勢い……」
「よっぽどネタに困って追い詰められてたんだろうね。協力できて良かったよ。」
ナイアルの行動にエステルは驚き、ヨシュアは笑顔で答えた。

「それよりあの記者の方から得た情報をどう扱いますか?」
これからの方針を考えるためにプリネは提案した。
「うん……それなんだけど、あたしは空飛ぶ大きな影の話、気になったんだけどみんなは気にならなかった?」
「ラヴェンヌ村の目撃情報だね。軍の調査が入ったってことは何もない可能性が高いと思うけど。」
エステルの質問にヨシュアはナイアルから得た情報から仮の結論を言った。
「でも、その調査が完璧とは限らないじゃない?モルガン将軍じゃないけど、軍人ってアタマ堅そうだから見落としてることもありそうだし。」
「確かに……。ダメもとで調べてみる価値はありそうだね。」
「ええ、私もエステルさんの考えには賛成です。」
「うむ、余もそう思うぞ。メンフィル領内で起こった事件も軍では得れなかったが遊撃士では得れた情報も過去数例あったしな!」
エステルの説明にヨシュアやプリネ、リフィアは賛成した。

「ふふ、あんたたちも色々身に付いてきたじゃない。ラヴェンヌ村は、西にある果樹栽培が盛んな小さな村よ。西ボース街道の途中から北に向かう山道の先にあるわ。さっそく行ってみるとしますか。」
「うん!」
そうして、エステルたちは空飛ぶ大きな影の真偽を確かめるためとさらなる情報の獲得のため、プリネ達には引き続きボース市内や市外にあるヴァレリア湖にある宿屋での聞き込みを頼みエステル達はラヴェンヌ村へと向かった…………





後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第34話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/07/05 19:38
いよいよ、新クロスオーバーキャラ登場です!!







ナイアルの情報の真偽を確かめるためにエステル達はボース西街道の先にあるラヴィンヌ村へ続く道、ラヴェンヌ山道を歩いていた。

~ラヴェンヌ山道~

「あれ……?」
エステルは山道から下って来る人物に気が付いて立ち止まった。
「おっと……」
下って来た人物――アガットもエステル達に気付いて近付き立ち止まった。
「シェラザードか。珍しいところで会うもんだな。」
エステル達の中にシェラザードの姿を見たアガットは口を開いた。
「それはこっちの台詞だわ。王都方面からこっちに移ってきたって話は聞いたけど、あんたも事件を調べに来たクチ?」
「いや、ヤボ用でな……。そういや、例の事件は空賊の仕業だったらしいな?しかし、お前が来たんだったら安心して任せられるってもんだ。せいぜい頑張ってくれよ。」
「なによ、冷たいじゃないの。先生が捕まったかもしれないって、あんたも聞いているはずでしょう?」
協力的でないアガットにシェラザードはムッとして言い返した。
「捕まった?あのカシウス・ブライトが?はははッ、冗談キツイぜ!あの喰えないオッサンが空賊ごときに遅れをとるもんか!なんかの間違いに決まってるさ。」
「あたしもそう信じたいけど……」
シェラザードの発言にアガットは笑い飛ばして否定し、言った本人であるシェラザードもあまり確信を持てなかったため溜息をついた。

「(何なのかしら、この人……)」
「(分からないけど……遊撃士であるのは確かみたいだね。)」
エステルとヨシュアはアガットの正体を知らないため小声で何者かを話していた。そしてアガットはエステル達にも気が付き、シェラザードに聞いた。
「ところで……そこのガキどもはなんだよ?見たところ、新入りみたいだが。」
「ふふん、聞いて驚きなさい。カシウス先生のお子さんよ。」
アガットの疑問にシェラザードは自慢をするように言った。
「こりゃ驚いた……あのオッサンの子供かよ。ふーん、こいつらがねぇ……………………………………」
シェラザードの言葉に驚いたアガットはエステルとヨシュアを注意深く見た。
「な、なによ?じろじろ眺め回しちゃって……」
アガットの様子にエステルは戸惑った。
「黒髪の小僧はともかく……そっちの娘はドシロウトだな。本当に、オッサンの娘なのか?」
「あ、あんですってー!?」
一通り見たアガットの結論にエステルはムッとした表情で声を上げた。
「彼女は正真正銘、カシウス・ブライトの娘です。僕の方は、養子ですけど。」
「そうよ。それにこの子はちょっと特別でね。」
「特別?どういうことだ?」
ヨシュアはアガットにエステルのことを説明し、シェラザードはそれに頷いた後意味ありげなことを言い、それを聞いたアガットは頭に疑問符を浮かべた。

「エステル、パズモのことを見せて上げたら?」
「あの子は見せ物じゃないんだけどな……まあ、いいわ。………おいで!パズモ!」
ヨシュアの言葉にエステルは溜息をついた後、パズモを召喚した。
(何か用?エステル。)
「ごめんね、ちょっとだけこいつにあたし達の力を見てもらうために呼んじゃった。」
要件を聞くパズモにエステルは手を合わせて謝った。
「んな!?なんだ、こいつは!?どうやって現れた!!」
一方パズモを知らないアガットはパズモの登場の仕方と姿を見て驚愕した。
「この子はあたしの守護精霊よ!!」
驚いている様子のアガットにエステルは胸を張って答えた。
「守護精霊?なんだそりゃ??」
エステルが言った言葉の意味がわからないアガットは聞き返した。そしてパズモのことをエステル達はわかりやすいように説明した。

「ふーん。要するにその小さいのはテメエがあまりにも弱いから情けをかけているだけじゃねえか。そんなんにまで情けをかけられるなんてドシロウトであるいい証拠じゃないか。」
「あ、あんですってー!?あたしとパズモの出会いも知らないくせにあたしとパズモの絆をバカにするようなことを言わないでちょうだい!!」
(そうよ!!私はエステルのことが好きだから契約したのよ!!)
アガットの言葉にエステルとパズモは怒って睨んだ。
「ふーん………ま、そんな事はどうでもいいか。」
「ど、どうでもよくないッ!」
(そうよっ!!今の発言、取り消しなさい!!)
エステル達の睨みを軽く流したアガットにエステルとパズモはアガットをさらに睨んだ。
「じゃあな、シェラザード。ガキどもに足を引っ張られないよう、せいぜい気を付けるんだな。」
「はいはい。あんたこそ突っ張りすぎて痛い目に遭わないよう注意なさい。………あ。そう言えばもうあんた、一度痛い目を見てるわね。」
「あん?どういう意味だそれは?」
去り際に放ったアガットの警告にシェラザードは呆れたように答えた後、あることに気付きそれを言った。一方それを言われたアガットは何のことかわからず去り掛けだった足を止めてシェラザードの方へ向いた。

「聞いたわよ~♪プリネさんに喧嘩売った挙句、返り討ちにあっちゃったってこと♪」
シェラザードはからかう表情でアガットに言った。
「ぐ!?クソッ……あの爺っ……!!余計なことを話しやがって!!」
図星をつかれたアガットは一瞬顔を顰め、悪態をついた。
「そのことにこりたら、自分の腕を過信せず精進することね~♪」
「チッ……余計なお世話だよ!!あの小娘から受けた借りもリベンジしていつか返すつもりだから、せいぜい言ってろ!」
シェラザードの言葉にアガットは舌打ちをして、いつかプリネとまた再戦することを言った後エステル達の元から去って行った。
「あら~………あの様子だと懲りてないわねこりゃ。」
アガットの後ろ姿を見送ったシェラザードは呆れて呟いた。

「な、なんなのアイツ!?めちゃめちゃムカつくんですけどー!………ってあれ?さっきシェラ姉、今の失礼なヤツがプリネに負けたって言ったよね?確かその負けた人の名前ってアガット?だっけ?」
「うん、そうだね……今の人が『重剣のアガット』だね。」
最後まで自分達を認めなかったアガットにエステルは頭にきて怒った後、あることに気付きヨシュアはそのことに頷いた。
「『重剣のアガット』?シェラ姉の『風の銀閃』みたいに二つ名がついてるみたいだけど、あんなのが凄いの?」
「ええ。アガット・クロスナー………遊撃士協会の正遊撃士よ。特定の所属支部を決めずに各地を回りながら活動してるわ。得物は、魔獣を一刀両断できるほどの質量のある大剣……。以前にも言ったけど、かなりの凄腕よ。」
エステルの疑問にシェラザードは頷いて説明した。
「ふん、凄腕だろうが失礼なヤツには違いないわよ。それにプリネに負けたんでしょ?だったら大したことないんじゃないの?」
シェラザードからアガットのことについて説明されたエステルは鼻をならしてそっぽを向いた。
「あんたね……プリネさんの場合は例外よ。あの人は”闇夜の眷属”である上普段から強豪揃いのメンフィルの中でも一、二を争う武人達や大陸最強と言われている父親に鍛えられているんだから、アガットに勝って当たり前よ。」
エステルの発言にシェラザードは呆れて言った。
「そうだよ、エステル。でもそう言えばあの人、父さんの実力は認めているけど、好意的とはいえない態度だったね。」
「そう言われてみればそうよね……なんか父さんの知り合いみたいだったけど……」
シェラザードの言葉に頷いたヨシュアはあることに気付きそれを言い、またエステルもアガットが父を知っている風のようなことを思い出した。

「色々と事情があってね……。先生に対して突っ張ってるのよ。」
「ふーん……。まあ、どうでもいいか。あんな失礼なヤツのことなんか。ラヴェンヌ村へ急ぎましょっ!」
シェラザードの説明をエステルは聞き流した後、先に進むために歩き出そうとしたがヨシュアが呼び止めた。
「待った!エステル!」
「どうしたの、ヨシュア?」
ヨシュアの呼び止める言葉に気付いたエステルはヨシュアに振り返った。
「……………誰かに見られている気がするんだ………」
「へ……!?誰もいないけど??」
ヨシュアの言葉に驚いたエステルは周囲を見回したが誰もいなかったのでヨシュアにそれを言った。
「……ごめん。ただの気のせいだったみたいだ。心配させてごめん。」
「もう、ヨシュアったらビックリするようなことを言わないでよね~」
周囲を全力で警戒したヨシュアだったが敵意は感じられなく、すぐに視線の感触も消えたので警戒を解いてエステルに謝った。

「あんたはもう少しヨシュアを見習いなさい。あんたはガードが甘すぎるからね。」
「あう。う~……そういわれても、あたし自身よくわからないのね~。」
シェラザードはエステルに注意した後、エステルの額を指で軽く叩いた。シェラザードに注意されたエステルは唸った。
「全く……パズモ、これからもこの暴走娘を頼むわね。」
(ええ。そのために私がいるんだから。)
エステルの様子に溜息をついたシェラザードは常にエステルの傍にいるパズモにエステルのことを軽く頼んで、パズモはそれに頷いた。
「はは、その内身につけると思うよ。じゃあ、行こうか。」
「ええ、そうね!」
3人のやり取りにヨシュアは苦笑した後、先を促しエステルもそれに頷いて、パズモを一端自分の身体に戻した。そして3人は再びラヴィンヌ村へ向かった。

エステル達がその場から離れた後、ヨシュアが言っていたエステル達――正確にはパズモを召喚したエステルを見つめる存在が崖の上にいて、その存在は崖から飛び降りてエステル達が向かった方向を見つめていた。
「…………………………………」
その存在は鋭い瞳と牙や爪を持ち、そして炎を纏ったような見事な毛並みの狐であったが、尾は数本あり体の大きさは普通の狐と比べると数倍は大きい狐であった。
「…………………………………」
そしてその狐は素早い動きで崖を登り、エステル達を追うようにエステル達が向かった方向へ走り去った……………







後書き 最初の新クロスオーバーキャラは序盤で仲間になり、再行動、遠距離攻撃、霊属性対策、探索要員に加えて戦闘能力も非の打ちどころなしの万能で、序盤では数少ない前衛かつ主力で切り込み隊長だったあのキャラです♪本当お世話になりましたよ……まあ、エウ娘を含めて2週目以降に仲間になるキャラ達や強化されるメインヒロイン達があまりにも反則なスキル、強さだったため2週目以降は2軍落ちという悲しさでしたが………登場の仕方がどこかの狼に似ているのは気にしないで下さい。……感想お待ちしております。



[25124] 第35話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/06/09 22:07
~ラヴィンヌ村~

「ここがラヴェンヌ村……ずいぶんのどかなところよね。あ、果樹園があるんだ。」
「果物の生産で知られてるけど、その昔は採掘で賑わったそうよ。北の方に、廃坑になった七耀石の鉱山があるって聞いたわ。」
初めて見るラヴィンヌの風景に興味深そうに見ているエステルにシェラザードは説明した。
「ずいぶん詳しいですね。前にも来たことがあるんですか?」
「正遊撃士になるために、修行の旅をしていた頃にね。あの時は、飛行船に乗らずに王国全土を歩き回ったもんだわ。」
ヨシュアの疑問にシェラザードは昔を懐かしむような表情で答えた。
「え、どうして?飛行船を使った方が便利なのに。」
一方エステルはシェラザードの行動がわからず、首を傾げた。
「『飛行船は確かに便利だが、五大都市しか行き来していない』『その便利さに慣れてしまうと他の場所に目が行き届かなくなる』『まずは、自分が守るべき場所を実際に歩きながら確かめてみろ……』――そんな風にカシウス先生に勧められたのよ。」
「へえ、父さんが……」
「確かに、事件が起こった時、そこが行ったことのない場所だと手遅れになる可能性もありますね。あと、犯罪者を追いかける時にも地理を知っていた方が有利ですし……」
シェラザードの説明にエステルは感心し、ヨシュアは頷いて同意した。
「ふふ、そういうこと。さてと、それはともかく……。例の目撃情報について調べてみるとしましょうか。」

シェラザードに調査を促されたエステルだったが、いきなり村の人全員に聞いて回るのも妖しいので村長に事情を話すことにした。そして村長からはある子供がエステル達が注目していた情報を持っているようなことを聞いて、エステル達はその子供を探した。しばらく村を歩きまわると池の桟橋に一人の男の子がいたので情報の元の少年かと思い近付いた。

「あれ、お姉ちゃんたち、見かけないカオだね……。フルーツ買いに来た商人さん?」
エステル達の足音に気付いた少年はエステル達の顔を見て疑問に思ったことを呟いた。
「ふっ、それが違うのよね。何を隠そう、遊撃士(ブレイサー)よ!」
「ブレイサー?アガットお兄ちゃんと同じ?でもお姉ちゃん、そんなに強そうには見えないけど……」
気取って答えたエステルに少年はエステル達を見て、呟いた。
「うぐっ。はっきり言ってくれちゃって……。でも、この華麗な棒術を見て果たして同じことが言えるかしら!」
少年の呟きにエステルは図星をつかれた表情をした後、気を取り直し棒を取り出し、回転させた。
「わ、わわ!クルクル回ってすごいや!」
「むふふ、思い知ったかね。それじゃ、もっと凄い技を……」
「エステル、はしゃぎすぎ。それよりも……もしかして君がルゥイ君?」
驚いている少年にエステルは胸を張りさらに何かをしようとした時、ヨシュアはエステルの先の言葉を遮って少年に確認するように話しかけた。

「あ、うん……。どうして名前を知ってるの?」
「村長さんに聞いたんだ。君が、空飛ぶ影を見たってね。その時のことを聞きにきたんだ。」
自分の名前を言われた少年――ルゥイは首を傾げて答え、ヨシュアはルゥイに話しかけた理由を言った。
「え、でも……。兵隊さんが調べて何も見つからなかったって……」
「うん、それでもいいんだ。僕たちにも教えてくれないかな?できる限り詳しくね。」
自信なさげに答えるルゥイにヨシュアは諭すように言った。
「う、うん……………………………………」
ヨシュアの言葉にルゥイは頷いて少しの間考え、やがて口を開いた。

「あのね……ボク、星を見るのが好きなんだ。それで、夜中に家を抜け出して、ここで星を見たりするんだけど……。このあいだの夜、夜空に2つの影が動くのを見かけたの。」
「え、ちょっと待って……。空飛ぶ影って2つもあったの?」
ルゥイの言葉とナイアルから得た情報が微妙に違っていることに気付いたエステルはルゥイに確認した。
「うん……。あっ、大きさは違ったよ。まるで親子連れみたいだった。」
「大きさの違う2つの影……」
「定期船と空賊艇……そう考えると辻褄が合うわね。」
「確かに、森に現れた船は定期船よりも小型でしたね。」
ルゥイの情報からエステルは考えるように呟き、シェラザードとヨシュアはその情報に正当性がありそうであることに頷いた。

「それで、その2つの影は北の方に飛んで行っちゃって……。そのまま見えなくなっちゃった。」
「北っていうと……」
「村の裏口からさらに山道が続いているわ。ずいぶん昔に廃坑になった七耀石の鉱山があるみたいね。」
さらに続くルゥイの情報にエステルはシェラザードに場所の確認をして、シェラザードはそれに答えた。
「兵隊さんたち、北の山道をテッテイ的に調べたんだけど、なにも見つからなかったって……。だから、ボクが寝ぼけて夢を見たんだろうって言って……。それで……バカにしたように笑って……」
ルゥイは兵達にバカにされた嫌な記憶も思いだし、顔を下に向け瞳から涙が出始めた。

「ああ、もう……男の子が泣いたりしないの!あたしたちは兵隊とは違うよ。君の話が夢なんかじゃないって、ちゃんと証明してあげるんだから!」
「ほ、ホント……?」
エステルの慰めの言葉にルゥイは顔を上げた。
「ホントもホント。どーんと任せなさいって!……そうだわ!重要な情報を渡してくれたお礼にいいものを見せて上げるわ………パズモ!!」
(今度は何かしら、エステル?)
ルゥイの言葉にエステルは大きく頷いた後、パズモを召喚した。
「わぁ………妖精さんだ!」
ルゥイはパズモを見て目を輝かせた。

「ふふ~ん。こう見えてもお姉さんは妖精さんと仲良しなのよ。パズモ。(お願い、パズモ。少しの間だけでいいからこの子の周囲を飛び回って上げて!)」
(わかったわ、相変わらず優しいわね、エステル。)
エステルの念話にパズモは微笑して答え、ルゥイの周りを飛び回った。
「わ、わ、わ!凄い綺麗!お星様みたいだ!」
自分の周りを飛び回るパズモを見てルゥイははしゃいだ。そしてある程度飛び回ったパズモはエステルの肩に座った。
「妖精さんも君を励ましているんだから、君もベソかいちゃダメだからね?」
「う、うん……。お姉ちゃん達、いいヒトだね!」
エステルの言葉にルゥイは喜びの表情で答えた。
「(フフ、相変わらず子供に好かれやすいみたいね。それにパズモをあんな風に使役するとはね。)」
「(ええ……あれも人徳かもしれませんね。それにあの場面でパズモを出して男の子のケアを頼んだのはブレイサーとしていい選択だと思います。)」
シェラザードとヨシュアはエステルの行動を微笑ましげに見て小声で会話をしていた。

「ん、どうしたの?」
エステルはヨシュア達が小声で会話らしきことをしているのに気付き振り向いた。
「いや、何でもないよ。それよりも、やるべき事は決まったみたいだね。」
「うん!早速、村の裏口から出て、北の山道を調べてみましょ!」
ヨシュアの言葉にエステルは頷き、ルゥイと分かれたエステル達は村の北にある山道の先にある廃鉱山へ向かって行った…………




後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第36話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/06/10 21:07
ルゥイの情報の真偽を確かめるため、ラヴィンヌ村からさらに山道を登りエステル達は廃鉱山についた。

~廃坑~

「ここが廃坑の入口みたいだね。」
ヨシュアは頑丈な鎖が巻きつけてあり、南京錠によって封鎖されている入口を見て頷いた。
「確かに、マルガ鉱山と同じような雰囲気は残っているけど……。ずいぶん寂れちゃってるわね~」
「ずいぶん昔に閉鎖されたそうよ。鍵と鎖も錆び付いているわ。最近、開かれたことは無さそうね。」
エステルの言葉に頷いたシェラザードは入口の状態を見て言った。
「という事は、空賊たちが出入りした可能性もない……。だから軍も調べなかったのかな?」
ヨシュアはシェラザードの言葉から軍が調べなかった理由を推測した。
「確かに、岩山の中を調べても、何かの手掛かりが見つかるわけ………………………………あれ?なんか、風が吹いてきてない?」
「風って、廃坑の奥から?」
エステルの発言にシェラザードは不思議そうな表情をした。
「うん、そう。」
「ちょっと待って……」

2人の会話を聞いたヨシュアは真偽を確かめるため、人指し指を口に含んでから、そっと立てた。
「………………………………本当だ……微かだけど風が吹いて来ている」
ヨシュアは驚いた表情で呟いた。
「あ、やっぱり?」
「あんたって、時々驚くほどカンが冴えることがあるわねぇ。さすが先生の娘ってところかしら。」
「父さんは関係ないってばぁ。それよりこの中……メチャメチャ気にならない?」
シェラザードの言葉に呆れたエステルは話を本題に戻した。
「確かに、どこかに通じてる可能性があるかもしれないね。調べてみる価値はありそうだ。」
「よーし、そうと決まったら、さっそく鍵をブチ破って……」
ヨシュアの言葉に同意したエステルは嬉しそうな表情で棒を出し、構えて棒に雷を流し始めた。
「こらこら、止めなさい。というかそんなことしなくても、あんたしかできないことがあるでしょうが。」
エステルの行動をシェラザードは諌めた後、提案した。
「へ?あたししかできないって?」
シェラザードに諌められたエステルは棒に雷を流すのを止めて、仕舞いシェラザードの提案に頭に疑問符を浮かべた。
「あ……そうか。エステル、パズモならこの入口の隙間を通って先にある光景がわかるんじゃないかい?」
ヨシュアはシェラザードの提案にいち早く気付きそれをエステルに説明した。
「あ、な~るほど。オッケー、わかったわ。………おいで、パズモ!」
ヨシュアに説明されたエステルは何かに閃いたような表情をした後、パズモを召喚した。

(どうしたの?エステル?)
「ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」
(……話はエステルを通して聞いてたわ。ちょっと行ってくるね!)
「うん、気を付けてね!」
エステルのお願いを聞いたパズモは小さな体で入口の合間を通り、奥へ飛んで行った。そしてエステル達が少しの間、待ってるとパズモが廃坑の奥から戻って来た。
「どうだった?」
(一番奥が開けた所になっているんだけど………そこに大きな飛行艇が一隻あったわ!)
「え!?」
パズモの報告を聞いたエステルは驚いた。
「……その様子だと何かあったようね。エステル、パズモはなんて?」
エステルの様子から何かあるとわかったシェラザードはエステルに聞いた。
「……この奥に大きな飛行艇が一隻あったって………」
「それって………」
エステルの報告を聞いたヨシュアは真剣な表情をして、シェラザードはその先の解答を答えた。
「定期船のことでしょうね……決まりね。急いで村に戻って村長に相談してみましょ。鍵を持っているかもしれないわ。」

そしてエステル達は急いでラヴィンヌ村に戻り、村長に理由を話して鍵を借りて入口の鍵を開いてパズモの案内の元、廃坑の中を進んで行った………





後書き 今回は短くてすみません!ここで区切らないとすごい量になってしまうので一端区切りました。もちろん、明日も更新できるので更新をお待ち下さい。感想お待ちしております。



[25124] 第37話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/06/11 21:05
~廃坑・奥~

「まぶし……………ん、あれって……」
廃坑を進み開けた所に出て、そこから太陽の光が差し込み、暗い廃坑を歩いていたエステルは太陽の眩しさに一瞬目を閉じた後、奥にある飛行船を2隻見つけた。
(静かに、エステル……)
声を出したにエステルにヨシュアは囁いた。
(これは、大ビンゴね……)
シェラザードは2隻の飛行船を見て確信した。その2隻は行方不明の定期船『リンデ号』とロレントで見た空賊艇であり、さらに空賊がいた!

「重い資材は放っておいて、食料品と貴重品を優先するんだ。できるだけ急げよ。グズグズしてると連中が来る。」
「「「「「がってんだ、キール兄貴。」」」」」
以前エステル達がロレントで戦った空賊の少女の2番目の兄、キールが部下達に指示をしていた。

(こ、こんな所に定期船が……あの子の話はやっぱり夢じゃなかったんだ………)
エステルは前に見える光景を見て驚き小さな声で呟いた。
(ここは……露天掘りをしていた谷間ね……うまい隠し場所もあったもんだわ。)
シェラザードは周囲の状況を見て納得した。
(あれ?パズモ、さっき飛行艇は一隻って言ってなかった?)
(ええ、私が見た時はあの大きな飛行艇だけで、あの小さな飛行艇はなかったわ。)
(………ってことは、あいつら今来たとこってとこね……)
エステルは先行したパズモの情報が微妙に違うことに気付きパズモに念話で聞き、情報が違う理由を考えた。
(あれは、定期船の積荷を空賊艇に運び込んでいるのかな?)
ヨシュアは空賊達の行動を見て呟いた。
(そんなことよりまた逃げられる前に、なんとか捕まえなくちゃ!)
ヨシュアの疑問を置いておくことをエステルは小声で言った後、武器を構え空賊達に近付いた。

「はあ、これで三往復目かよ……。まったく兄貴ときたら弟使いが荒くてたまらないぜ。まあいいや、これが終わったらゆっくりと身代金の交渉を……」
一通りの作業が終わり空賊達が集合しているところでキールは一人嘆いた。
「そこまでよっ!」
そこにエステル達が乱入した。
「なにっ!?」
キールと空賊たちは驚きながら振り向いた。
「この世に悪が栄える限り、真っ赤に燃える正義は消えず……ブレイサーズ、ただいま参上!」
驚いているキール達に向かってエステルは高らかに叫んだ。
「………………………………」
しかし、エステル以外は全員静まり返った。
「あり?」
様子がおかしいと思ったエステルは周りを見た。
「なんなの、ブレイサーズって……」
「まったくもう。すーぐ調子に乗るんだから。」
(エステル、もうちょっとマシな名前はなかったの……)
「な、なによう……ちょっと外しちゃっただけじゃない」
ヨシュアとシェラザード、パズモの呆れている様子にエステルは恥ずかしくなり顔が赤くなった。

「お前たちは……ジョゼットがやり合った連中!?は、話が違うじゃないか!どうしてこんな早く来るんだよ?」
キールはエステル達を見て焦って口を滑らした。
「話が違う?早く来る?なにワケ判んないことを……」
キールの発言にエステルは首を傾げた。
「遊撃士協会の規定に基づき、定期船強奪、乗客拉致の疑いであなたたちを緊急逮捕するわ。覚悟はいいかしら?」
一方シェラザードはキール達に警告した。
「ちょ、ちょっと待て。ひょっとしてお前ら……3人だけで捕まえに来たのか?」
「何よ、見ればわかるでしょ?」
キールの発言が理解できずエステルは答えた。
「ふーん、なるほどね。あの連中とは関係ないわけか。だったら話は早い……しばらく眠っていてもらおうか!」
エステルの答えを聞いたキールは安堵の溜息をついた後、武器を構え部下達と共にエステル達に襲いかかろうとしたが
(……光よ、集え!光霞!)

「ウっ!?」
「「「「ギャぁッ!?」」」」
パズモが牽制代わりに空賊達の手前に放った光の魔術は空賊達の目が眩ませ、衝撃を受けてのけ反らせた。
「ナイスよ、パズモ!よーし、あたしも………闇よ我が仇名す者を吹き飛ばせ!黒の衝撃!」
「「「「「グハッ!?」」」」」
そこをすかさずエステルは暗黒魔術を使って空賊達を吹き飛ばした。さらにエステル達に続くようにシェラザードも詠唱し魔術を放った!
「これだけ広いとアレが使えるわね……ロレントの借りを返させてもらうわよ!………集いし怒りの風よ、吹きあがれ!!大竜巻!!」
「「「「「ウワァァァァァッ!!!!????」」」」」
シェラザードが放った魔術はエステルの魔術で吹き飛ばされ、呻いている空賊達の地面から竜巻ができ、その中にいた空賊達に悲鳴をあげさせながら空へ舞い上がらせた。
「グッ!?」
「「「「グギャッ!?」」」」
竜巻がなくなり、空へ舞い上がっていた空賊達は地面に落ち、その衝撃に呻いた。
「クソ、やられっぱなしでいると………」
部下達が呻いている中キールはよろよろと立ちあがろうとしたが
「そこまでです。」
「!!」
ヨシュアに首筋に武器をつきつけられ、固まった。

「ふふ~ん、勝負ありね!」
自分達の勝利にエステルは得意げな表情をした。
「ク……なかなかやるじゃないか。まさか、魔術を使って来るとはな……ジョゼットを負かしただけはある。」
「おだてても何も出ないもんね。ほら、とっとと降参して乗客たちを解放しなさいよっ!」
痛さに顔を顰めているキールにエステルは乗客の解放を要求した。
「ははは!本当に何も知らないらしい。まったくおめでたい連中だぜ。」
しかし、キールは絶対的不利な中笑いだした。
「あ、あんですってー!?」
キールの笑いにエステルは怒って叫んだ。
「これでもくらいな!」
「!!」
キールは隠し持っていた何かを地面に叩きつけた。すると突然煙が出て、エステル達の視界を覆った。

「な、なにこれ……」
「しまった、煙幕!?」
「エステル!!」
エステルは煙に混乱し、シェラザードはしてやられた表情をした。また、ヨシュアはエステルを心配して煙幕が出た瞬間エステルの元に行って、無事を確かめた。
「あーっはははははっ!積荷を残したのは残念だが、そのくらいは我慢してやるさ!あばよ、ブレイサーの諸君!」
エステル達が煙幕で混乱している中、キールの高らかな声が響いた。そして視界が開けたときには、空賊艇は空を飛んでいた。

「ごほっ、ゲホゲホ……。ちょっと目にしみた~……」
「大丈夫、毒性はない……普通の発煙筒だったみたいだね。」
エステルは咳き込んでいる中、ヨシュアは冷静に煙幕の正体を確かめて安心した。
「……見えなくなったわね。やれやれ、一度ならず二度までも取り逃がしたか。こりゃあ、あたしの方は降格されても文句言えないわね。」
シェラザードは逃げた空賊達の方向を見て溜息をついた。
「もう、シェラ姉ってば……。そんな風に、自分一人が悪いような言い方やめてよね」
「僕たちにだって逃げられた責任はあります。悔やんでいる暇があったら、今できる事をしておかないと……」
「フフ、まったく……これじゃあ立場が逆だわね。幸い、定期船は取り戻せたし、さっそく調べてみるとしますか。中に乗客がいるかもしれないわ。」
2人の慰めの言葉にシェラザードは苦笑して言った。
「……うん!っとそうだ、パズモ!ありがとう!今は戻って!」
(ええ!)
そしてエステルたちは定期船の中を調べ始めが、人や手掛かりもないのを見て肩を落としたが、空賊達のアジトをある程度予想できたのでアジトを見つけために軍に協力を仰ぐため、一端ギルドに戻ってそれらのことをルグランに相談するために定期船から出ると王国軍兵士が定期船を取り囲んでいた。

「え、ええ~っ!?こ、これってどういうコト!?」
「ハハ、これはさすがに予想外だね。」
「うーん、連絡する手間が省けたと喜ぶべきかしら……」
いつの間にか現れた軍にエステルは叫び、ヨシュアとシェラザードは苦笑した。
「武器を所持した不審なグループを発見!」
「お前たち!大人しく手を上げろ!」
兵士達は銃を構えエステル達に警告した。
「まったく世も末だぜ。こんな女子供が空賊とは……」
「だ、誰が空賊ですってぇ!?この紋章が目に入らないの!?」
兵士の一人が呟いた言葉にエステルは怒り、遊撃士の紋章を見せた。

「フン、遊撃士の紋章か……。そのようなものが身の潔白の証になるものか。」
「モ、モルガン将軍!?」
「どうしてここに……」
しかしモルガンが現れエステルの言葉を否定し、エステルとヨシュアは現れたモルガンに驚いた。
「各部隊の報告に目を通して調査が不十分と思われる場所を確かめに来たのだが……。まさか、おぬしらが空賊団と結託していたとは思わなんだぞ。」
「言いがかりをつけるのは止めていただけないかしら?我々は、そちらより一足先にこの場所を捜し当てただけだわ。」
モルガンの言葉を聞いたシェラザードはモルガンを睨み反論した。

「空賊には後一歩のところで逃げられてしまいました……。人質の乗客もここにはいません。」
「フ、語るに落ちたな……。大方、我々がやって来ることをおぬしらが空賊に知らせたのだろう。」
ヨシュアは自分達は空賊でないと説明したが、それにモルガンは嘲笑して否定した。
「ちょ、ちょっとぉ!いいかげんにしてよねっ!」
モルガンの発言にエステルは叫んだ。
「それはこちらの台詞だ!者ども!こやつらを引っ捕らえい!」
しかしモルガンは聞く耳を持たず兵士達に命令してエステル達を拘束し、ハーケン門へ連行してしまった。

谷の上からそれらの出来事を見つめる存在がいて、その存在にはモルガンも気付かず去って行った。
「…………………………………」
その存在はラヴィンヌ山道でエステル達を見つめいていた狐らしき存在で、エステル達が王国軍に連行され、その場からいなくなったのを見ると踵を返してその場を去った………





後書き 碧のムービー第二弾を見て思ったことはランディいてよかった~ですね!早くバトルシーンとかあるデモムービーがみたいです……感想お待ちしております。



[25124] 第38話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/06/12 22:39
~ハーケン門・兵舎内の牢・深夜~

「明朝、将軍閣下自らの手で、あんたたちの尋問が行われる。そこで無実が証明されれば2、3日で釈放されるはずさ。ま、しばらくそこで頭を冷やしておくことだな。」
エステル達を牢屋に入れた兵士はそう言って去って行った。
「はあ、冗談じゃないわよ……。こちらの言い分も聞かないで、こんな場所に放り込んでさ……」
「軍が空賊団を逮捕できれば疑いは晴らせるだろうけど……。こうなると無理かもしれないな。」
牢屋に入れられたエステルは溜息をつき、ヨシュアは項垂れて呟いた。
「え、どうして?」
ヨシュアの言葉が気になったエステルは聞いた。
「廃坑で戦った空賊リーダーの言葉を覚えているかい?『話が違う』、『来るのが早い』って。」
「そういえば、そんなこと言ってたかな。あ、まさかそれって……軍の部隊のことだったの!?」
「十中八九、そうだと思う。そしてそれが意味するのは……」
ヨシュアの説明を聞いてエステルはある考えが浮かび、それを口にして驚きヨシュアはそれに頷いて遠回しに言おうとした所をシェラザードが続けた。
「軍内部に空賊のスパイがいる。もしくは情報を流す協力者のような人物がいる………つまり、そういうことね?」
「はい。」
シェラザードの言葉にヨシュアは頷いた。

「そ、それが本当だったら絶対に捕まらないじゃない!やっぱり、あたしたちが頑張るしかないっていうのに……」
「八方塞がりってやつね。こんな時に、先生だったらどう切り抜けるかしら……」
状況が分かったエステルは青褪めて悔しがり、シェラザードも項垂れてどうするかべきか考えた時、隣の牢屋から声が聞こえて来た。
「フフフ……。どうやらお困りのようだね?」
「あれ……ヨシュア、何か言った?」
「いや、僕は何も……」
「隣から聞こえてきたわ。しかも何だか聞き覚えのあるような……」
聞こえて来た声にエステルとヨシュアは首を傾げ、シェラザードは声の持ち主を思い出そうとした。
「おお、つれない事を言わないでくれたまえ。この艶のある美声を聞いたら誰だかすぐに判るだろうに……」
「こ、この根拠のない自信……」
「そして自分に酔った口調……」
青年の嘆くような声と言葉にエステルとヨシュアは疲れた表情で言葉を続けて
「ひょっとしなくても、オリビエ?」
シェラザードがその名前を言った。

「ピンポ~ン♪ああ、こんなところで再会することができるとは……。やはりボクとキミたちは運命で結ばれているらしいね。」
隣の牢屋にいる青年――オリビエは嬉しそうな表情で答えた。
「あ、あんた……どうしてここにいるのよ?ボースに案内したハズでしょ!」
「しかも、こんな牢屋に閉じ込められてるなんて……。一体、何をしでかしたわけ?」
牢屋にいる青年がオリビエとわかり、エステルは驚きシェラザードはなぜここにいるかを尋ねた。
「まーまー、そう一度に質問しないでくれたまえよ。これには海よりも深く、山よりも高い事情があるのさ。」
「あっそ、だったら聞かない。ていうか聞いちゃったらものすごく疲れそうな気がする。」
「偶然だね、エステル……僕もそんな予感がするんだ。」
「そういうわけで、話してくれなくても結構よ。あたしたちの健康と美容のために。」
物語を語る詩人のような大げさな口調で話すオリビエにエステルはきっぱり断り、ヨシュアもそれに同意し、シェラザードも断った。
「はっはっはっ。そんなに遠慮することはない。一部始終聞いてもらうよ……ボクの身に起きた悲劇的事件をね。」
だがオリビエはエステル達の否定の言葉を無視して、続きを話した。
(聞いちゃいない……)
得意げに話し始めようとしたオリビエにエステルは溜息をついて、諦めた。

「キミたちと別れた後……。ボクは、マーケットを冷やかしてから、レストランの『アンテローゼ』に入った。そして、存分に舌鼓を打った後、余興にグランドピアノを弾いたのさ。すると、レストランの支配人が身を震わさんばかりに感激してね……。レストラン専門のピアニストとして雇いたいと頼み込んで来たわけだよ。」
「どうでもいいけど……あんた、リュート弾きじゃないの?」
得意げに語るオリビエにエステルはオリビエと出会った当初、リュートを弾いていたのを思い出して、どうでもいいような表情で尋ねた。
「フッ、天才というのは得物を選ばないものだよ。それはともかく……ボクはある条件を出してそのオファーを受けたわけだ。ミラの代わりに、料理とワインを毎日タダでご馳走してくれってね。」
エステルの疑問にオリビエは髪をかきあげて答えた。
「何て言うか……オリビエさんらしいですね。でも、それがどうしてこんな牢屋に入れられることに?」
オリビエの語りに苦笑したヨシュアは牢屋に入るに到った理由を聞いた。
「ああ、ここからが聞くも涙、語るも涙の話なのさ。その夜、さっそくボクはシェフに作らせた鴨肉のソテーに舌鼓を打っていたのだが……血を使ったソースがまたたまらなく濃厚な味わいでねぇ。どうしても普通の赤ワインでは物足りなく感じてしまったのだよ。」
「なんか無性に殴りたくなってきたわね……。それであんたはどうしたの?」
オリビエの話し方にエステルは殴りたくなる衝動を抑えて聞いた。
「貯蔵庫の奥に保存されていた良さそうな一本を拝借したんだ………『グラン=シャリネ』1183年物。」
「『グラン=シャリネ』……しかも1183年物ですって!?王都のオークションに出た幻のワインじゃない!」
オリビエが飲んだワインの名を聞いたシェラザードは驚いて叫んだ。

「ほう、シェラ君はなかなか詳しいみたいだね。ボクも噂を聞いて、かねてから飲んでみたいと思っていたのさ。」
「オ、オークションって……どのくらい値段がついたの?」
シェラザードの言葉を聞いたオリビエは感心し、エステルは恐る恐る値段を聞いた。その答えをシェラザードが答えた。
「聞いた話じゃ……50万ミラで落札されたそうよ。」
「ご、50万ミラ~!?たかがワイン一本に!?」
「とんでもない世界だね……。オリビエさん。まさかそのワインを……」
値段を知ったエステルは驚き、ヨシュアも驚いた後、嫌な予感がしたヨシュアはそれを遠回しに聞いた。
「フッ、言うまでもない。美味しく頂かせてもらったよ。……鼻腔をくすぐる馥郁(ふくいく)たる香り。喉元を愛撫(あいぶ)する芳醇(ほうじゅん)な味わい……ねえキミたち、信じられるかい?薔薇色に輝く時間と空間が確かにそこには存在したんだ……」
「……ダメだこりゃ………」
「……やっぱり疲れたね………」
「……呆れてモノも言えない………」
得意げに語り続けるオリビエに3人は聞く必要はなかったと後悔し、未だ語り続けるオリビエを無視して眠りについた。

「……それで……なんと……………これがまた……………」
エステル達の様子に気がつかないオリビエは1人喋り続けて高らかに言った。
「以上が、ボクをここに送った涙なしでは語れぬ悲劇的事情さ………さあ!思う存分同情してくれたまえっ!!」
「……くーくー………」
「……すーすー………」
「……うン……バカ………」
しかしすでにエステル達は眠りにつき、オリビエの言葉は空しく牢屋に響いた。
「…………おや?ちょっとキミたち……。その『くー』とか『すー』とか『うン、バカ』というのはなんだね?いいかい?話はここから面白くなるのだよ?ここに連れてこられてからも更なる試練がボクを待ち受けて……………………………………もしもーし?ちょっと聞いてますかー?」
エステル達の様子がおかしいと気付いたオリビエは呼びかけたが返事はなかった。そして一夜が明けた。

~ハーケン門・兵舎内の牢・早朝~

「おーい!あんたたち、起きてくれ。」
「うーん……ふわわ……。んー、眠いぃ~……」
「……どうしたんですか?」
「あふ……こんな朝早くから尋問なの?さすがに勘弁して欲しいわね。」
兵士の起こす声に気付いたエステルはあくびをし、ヨシュアも眠そうな表情で答え、シェラザードは嫌そうな表情で聞いた。
「いや、その反対だ。あんたたちを釈放する。」
「えっ……。ど、どうして急に……」
「何か理由でもあるんですか?」
兵士の予想もしなかった発言にエステルは驚きヨシュアは理由を聞いた。
「……こういう訳ですわ。」
するとメイベル市長をモルガン将軍がエステル達の目の前に現れた。
「し、市長さん!?」
「あらら。珍しい場所で会うじゃない。」
メイベルの姿を見たエステルは驚き、シェラザードは意外そうな表情でメイベルを見た。
「皆さん、大変でしたわね。ですが、もう安心して下さい。皆さんの疑いは晴れましたから。」
驚いているエステル達にメイベルは微笑んで答えた。そしてエステル達は牢屋から出た。

「フン、まだ完全に納得した訳ではないがな……。まあ、メイベル嬢たっての頼みだ。せいぜい彼女に感謝するといい。」
牢屋から出たエステル達に納得していないモルガンは鼻をならして答えた。
「えっと、それって……。市長さんが、あたしたちをかばってくれたっていうコト?」
「かばったわけではありませんわ。ただ、皆さんの事情について閣下に説明しただけですから。」
「あたしたちの事情……?」
メイベルの説明にエステルは首を傾げた。
「……そこの2人。おぬしらに1つ質問がある。カシウス・ブライトの子供というのは本当なのか?」
「へっ……」
「はい、仰るとおりです。彼女はエステル・ブライト……。僕は養子のヨシュアといいます。」
突然のモルガンの質問にエステルは呆け、ヨシュアは冷静に答えた。
「そうか……。確かに、そちらの娘にはレナ殿に似ているな。」
ヨシュアの答えを聞き、モルガンはエステルの容姿を見て納得した。
「え!!!お母さんを知ってるの!?」
「ロレントの家を訪れた時に何度か手料理をご馳走になった。フフ、赤ん坊だったおぬしにも会ったことがあるぞ。」
驚いているエステルにモルガンは昔を懐かしむように答えた。

「ちょ、ちょっと待って……。モルガン将軍って父さんの個人的な知り合い?父さんが昔、軍にいたのはあたしも知っているけど……」
「フン……遊撃士としてのヤツは知らん。わしが知っているのは軍人としてのカシウスだけだ。稀代の戦略家と呼ばれた、な。」
エステルの疑問にモルガンは鼻をならして答えた。
「戦略家?」
エステルはモルガンの答えを聞き、首を傾げた。
「まったく、何を好んで遊撃士協会などに…………ええい!思い出すだけで腹の立つ!わしはこれで失礼する。」
モルガンはぶつぶつと独り言を言いながら退出した。
「ど、どうなってんの?」
「フフ……。エステルさんのお父様は優秀な軍人だったそうですわね。退役する時、何度も引き留めたと将軍閣下から伺ったことがありますわ。」
モルガンの言葉を聞き困惑したエステルにメイベルは説明した。
「そ、そうだったんだ……。なんだか信じられないけど。」
メイベルの説明を聞いたエステルは普段のカシウスの姿を思い出し、信じられない表情をした。

「しかし、そうなると……。将軍の遊撃士嫌いは先生が原因かもしれないわね。目を掛けていた部下に去られた悔しさから来ているのかも……」
「なんかそれっぽいですね。」
モルガンとカシウスの関係を聞いたシェラザードはある考えが浮かび、ヨシュアもその考えに同意した。
「じゃあ何、父さんのせいであたしたち苦労しているわけ?あ、あんの極道オヤジぃ~っ!」
それを聞いたエステルは拳を握って身を震わせた。
「フフ……。さて、それでは皆さん。ボースに戻ると致しましょう。定期船が見つかった事で、事件は新たな局面を迎えました。色々と相談したい事があるのです。」
「あ、うん………………………………」
メイベルの言葉に頷いたエステルは急に黙った。
「あら、どうなさったの?」
エステルの様子が変だと思ったメイベルは黙っている理由を尋ねた。
「帰るのは賛成なんだけど、何かを忘れているような……」
「そういえば……」
「何だったかしらね……?」
何かを思い出そうとしているエステルの呟きにヨシュアとシェラザードも頭の片隅に残っている何かを思い出そうとした。
「ああ……人は何と無情なのだろう。一夜を共にした仲間のことをいとも簡単に忘れ去るとは……。なんという悲劇……何というやるせなさ……。いいさ、ボクはこの暗き煉獄で一人朽ち果てて行くとしよう……」
すると隣の牢屋からリュートを弾きながら嘆くオリビエの声が聞こえて来た。

「アレがいたか……」
「うーん……完全に忘れ去っていたわね」
「気の毒とは思うけど、さすがにどうすることも……」
エステルはやっかいそうな表情でオリビエを見て、シェラザードとヨシュアはそれぞれ違う表情で見た。
「そちらの方は……噂の演奏家の方ですわね?《グラン=シャリネ》を勝手に飲んでしまったという。」
「フッ、いかにも……。しかしレディ。勘違いされては困るな。あれは前払いだよ。華麗なるボクの演奏に対するね。」
メイベルの質問にオリビエは気障な動作でに答えた。
「フフ、面白い方ですわね。まあ、ついでですから貴方も釈放していただけるよう将軍に掛け合って差し上げますわ。」
「ほう……?」
しかしメイベルから出た以外な言葉にオリビエは驚いた。

「さ、さすがにそれは無理があるような……」
「レストラン側が訴えれば、少なくとも訴訟にはなるはずよ。」
メイベルの言葉にエステルは苦笑し、シェラザードも無理なことを言った。
「ふふ……その心配はありませんわ。あのレストランのオーナーはわたくしですから。」
「え……」
しかしシェラザードの言葉を否定するように言った、メイベルの言葉にエステルは驚いた。
「あの『グラン=シャリネ』もわたくしが競り落としたもの。これならば問題ないでしょう?」
そしてオリビエもメイベルによって釈放された。釈放されたエステル達は一端ボース市に帰ろうとハーケン門の入口まで来たところ、そこに別行動をしていたリフィア達がやって来た。

「エステルさん!よかった……釈放されたんですね……」
釈放されたエステル達を見てプリネは安心した。
「プリネ!リフィアにエヴリーヌも……どうしてここに?」
ボース市内にいるはずのプリネ達に疑問を持ったエステルは聞いた。
「エステル達と別れて情報収集をしていた余達だったんだが……ヴァレリア湖とやらにも足を延ばしての。そこである気になる情報があり、一晩ヴァレリア湖の宿屋に泊まって様子を見ていたんだが何もおこらくての。一端ギルドに戻ってお前達とその情報について相談しようとしたんだが、受付からお前達が軍に捕まったと聞いてな。急いでここまで来たのじゃ!」
「気になる情報って?」
リフィアの説明を聞いたエステルは聞き返した。
「それは後で話す……ん?そやつは何者だ?」
リフィアはオリビエに気付いてエステル達に聞いた。
「あ~こいつは……」
リフィアの疑問にエステルは苦笑しながら答えようとしたところ
「おお……清楚な雰囲気ながらどことなく漂う高貴な雰囲気……そして夕焼けのような流れる美しい髪に紅耀石のような瞳……まるで陰謀渦巻く貴族の中に咲く一輪のバラのようだ……ぜひ、ボクの貴女への愛の歌を一曲聞いてくれますか、レディ?」
(始まった……)
(こいつは~!)
いつのまにかオリビエが紳士が淑女にダンスを誘うような動作でプリネに向かって歯の浮くようなセリフを言っていた。それを見てヨシュアは溜息をつき、エステルは怒りに震えた。

「フフ………お気持ちは嬉しいですけど、時と場所を考えて下さいね?」
「ハハ……これは手厳しい。。……しかし一度断られたからと言って、このオリビエは諦めないよ♪むしろ、燃えちゃうね♪ということでいつか一日、デートに付き合って♪」
だが、プリネは自分をナンパするオリビエに微笑してやんわりと断った。一方断られたオリビエはめげずにプリネを口説いていた。
「……申し訳ありませんが、そういうことは一生を共にする伴侶以外はしないと決めているのでお断りさせていただきます。」
「それは残念だ。では代わりにそこの冷たい雰囲気を持つリトルレディに付き合ってもらうとしようか。」
「……勝手に決めないで。エヴリーヌだってそういうことはお兄ちゃんとしかしないって決めているから。……後、今度プリネにそんな冗談みたいな態度で言い寄ったら潰すよ?」
プリネに断られたオリビエは今度はエヴリーヌを口説いたが、エヴリーヌは冷たい瞳でオリビエを見て言った。
「心外だな。冗談のつもりではなかったんだが。」
「だからそれが余計にタチが悪いんでしょーが!!全くだからこいつとプリネ達は会わせたくなかったのよね……」
意外そうな表情で語るオリビエにエステルは吠えた。
「案の定の行動だね……」
「はぁ……すみません、師匠。大事な娘さんをこんなやつと関わらせてしまって。」
ヨシュアは呆れシェラザードは溜息をつきながら、ペテレーネに謝った。
「フフ、本当に面白い方ですね。」
メイベルはエステル達とオリビエのやり取りをみて微笑した。

「旅の演奏家のくせにして余の目の前でプリネに手を出そうとするとはなかなかいい度胸をしておるな?……まあいい、お主のその度胸に免じてこれから起こる面白い出来事の観客になることを許してやろう。」
「ほう?一体それはどういうことかな?」
リフィアの言葉にオリビエは首を傾げて言った。
「すぐに見せてやる……みな、行くぞ。市長もついてくるがいい。お主が欲しい情報をあの老将軍からさらに引き出したり、軍による飛行制限を緩くしてやろう。」
「え……いくらメンフィルの貴族とはいえ、さすがにそれは難しいのでは?」
リフィアに言われたメイベルは疑問に思ったことを尋ねた。
「フム、一つ言っておこう。初見で会った時お主に言った名は偽名だ。」
「偽名?でしたら本当の名はなんなのでしょうか?」
リフィアの言葉にメイベルは真剣な表情で尋ねた。
「それはあの老将軍の前で明かしてやろう………みな、余達についてくるがいい!」
そしてエステル達はモルガンのいる司令官室に向かうリフィア達について行った………





後書き 次回はリフィア達とモルガンが対面します!その時、リフィア達は自分達の身分を存分に活用するので楽しみにして待ってて下さい!感想お待ちしております。



[25124] 第39話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/06/16 01:18
「また、あんた達か。将軍は今は誰とも会わないよ。」
再び来たエステル達を見てモルガンの部屋の前にいる兵士が言った。
「雑兵ごときに用はない!そこをどけっ!!」
「なっ!?」
しかし、リフィアの痛烈な言葉に驚き固まった。驚いている兵士を無視してリフィアはドアを思いっきり開けた。

~ハーケン門・司令官室~

バン!

「何事だ!」
「え~と……お邪魔します?」
ドアの大きな音にモルガンは怒鳴り、そこにエステル達が遠慮気味に入って来た。
「また、貴様達か……!メイベル嬢、いい加減にしてくれないか!儂達はあなた達に付き合ってるほど暇ではないのだ!」
モルガンはエステルやメイベル達を見て怒鳴った。
「……用があるのは、その者達ではなく余達だ。」
そこに怒りを抑えた表情をしているリフィアといつもの優しげな雰囲気はなくなり、どこか威厳があるプリネとこれから始まることを知っていて、ニヤニヤしているエヴリーヌが入って来た。
「なっ!?な、なぜこんなところに貴女様が……!」
モルガンはリフィアを見て信じられない表情をした。

「おい、あんた達!何勝手に入っているんだ!」
「そうだ!ここはお前たちのような民間人が入って来ていい場所ではない!」
そこに部屋を守っていた兵士が入って来て注意し、モルガンの側に控えていた副官も注意した。
「ほう……余を知らぬか……本来ならお前達のような他国の雑兵ごときに教える義理などないのだが特別に教えてやろう。余の名はリフィア!メンフィル帝国第一皇女リフィア・イリーナ・マーシルン!メンフィル皇帝、シルヴァン・マーシルンの娘にして『謳われし闇王』リウイ・マーシルンとメンフィルの守護神と謳われた伝説の聖騎士、『断罪の聖騎士』シルフィア・ルーハンスの孫!」
「同じくメンフィル帝国第二皇女プリネ・マーシルン!メンフィル初代皇帝リウイの娘にして『アーライナ聖女』ペテレーネ・セラの娘!」
「キャハッ♪2人ともはりきっているね♪じゃあ、エヴリーヌも負けていられないね……『深凌の楔魔』の”魔神”にしてメンフィル客将の1人、エヴリーヌだよ♪」
リフィアとプリネは高らかに名乗り、またそれを真似してエヴリーヌも現在の自分の立場を明らかにした。
「えっ……!?」
「ほう……」
リフィア達の真の名を知ったメイベルは驚き、オリビエは驚いた後探るような目でリフィア達を見ていた。
(ええ~!リフィア達、正体を自分から言っちゃったけどどうしよう!?)
(しっ……リフィア達も考えがあってあえて自分達の正体を言ったと思うよ。もしかしたら引き出せなかった情報が聞けるかもしれないね。だから、もしリフィア達に話を振られたら彼女達に話を合したほうがいいよ。)
(ヨシュアの言う通りよ……これはひょっとしたら面白いものが見れるかもしれないわね……♪)
(う、うん………でも、面白いものってなんだろう?)
リフィア達が正体をモルガン達の前で言ったことにエステルは焦り、小声でヨシュアに相談したがヨシュアはリフィア達の真意がある程度わかり、エステルにリフィア達と話を合わせるように言ってエステルはそれに頷き、シェラザードは口元に笑みを浮かべて驚愕しているモルガン達を見た。

「なっ……!?メン……フィル……の皇女だと!?ふざけるのも大概にしろ!そんな身分の高い方達がこのようなところにいるはずがないだろう!!」
一方リフィア達の名に驚いた副官だったが気を取り直し、リフィア達の正体を否定した。
「ほう……余を偽物呼ばわりするか。……モルガン。貴様もそこの雑兵と同じことを言う気か?」
偽物呼ばわりされたリフィアは不愉快そうな表情をしてモルガンを見た。
「め、滅相もございません!!私の教育が足りなかったようです!!ここは私の顔に免じてどうかこの者達の無礼を許してやって下さい!!……お前達!そこで何を呑気につっ立っている!!この方達は正真正銘、我が同盟国メンフィルの皇族の方達だぞ!!」
話を振られたモルガンは顔を青褪めさせた後、椅子から立ち上がってリフィア達の正面に来て跪いて頭を下げ、跪いていない副官達に気付いて怒鳴った。
「は、はい!」
「申し訳ありませんでした!」
上官に怒鳴られ、状況を理解した兵士や副官も青褪めた後、その場で跪きリフィア達に謝罪した。

「思い出しました……!リフィア……リフィア・イリーナ・マーシルン……メンフィル皇女にして大国メンフィルの次代の皇帝……!!プリネ姫はリウイ皇帝陛下のご息女であると同時にアーライナ教のトップ『闇の聖女』のご息女……!!」
リフィア達のことをようやく思い出したメイベルはリフィア達の正体を呟いた後、信じられない表情でリフィア達を見た。
「顔を上げよ、モルガン。余はそんな細かいことに一々目くじらをたてるほど心が狭くないからあまり気にしておらぬ。……余達を偽物呼ばわりしたのは少々見逃せないことだが、今回はお前の顔に免じて水に流してやろう。」
「ハッ!お心遣い、感謝いたします!」
(うわぁ~……あれだけ、あたし達に怒鳴っていた将軍がリフィア達にペコペコするなんて信じられない光景よね……)
(それだけリフィア達の身分が凄い証拠だよ……モルガン将軍は僕達と違って”軍人”だからね。特に他国の王族に対しては慎重な態度になって当然だよ。)
(ええ、加えてメンフィルはエレボニアを超える大国だからね。そんな大国のメンフィルの皇族には慎重になって当然よ……)
リフィア達の機嫌を損ねないよう跪いて頭を下げ続けているモルガンを見てエステルは目を丸くし、ヨシュア達を小声で会話をしていた。

そしてモルガンはエステル達の会話には気付かずリフィア達にさらに謝罪し、また、なぜこんな場所に来たかを聞いた。
「……このような場所に殿下達がいらっしゃるとは露知らず、歓迎の準備もせず部下達が失礼な態度を取ってしまい本当に申し訳ありません!」
「よい。今回の訪問は非公式だ。気にする必要はない。」
「ありがとうございます……して、此度は何用でこちらに参ったのでしょうか?」
「………お前達リベール軍が我が祖国とアーライナ教会を侮辱する行為を行ったと聞いてな。それを確かめるため、余はメンフィルの代表として、プリネは教会の代表としてこうして参上したのじゃ。」
「なっ!我らには身に覚えがありませぬ!一体どこからそのような情報が……」
リフィアの言葉にモルガンは驚き、すぐに否定して情報の出所を聞いた。
「それはすぐにわかる……モルガンよ。そこにいる遊撃士、エステル・ブライト以下3名を今、ボース市内を騒がしている空賊疑惑で拘束したことに相違ないか?」
「はっ……?何故、そのことが関係するのでしょうか……?」
予想外のリフィアの言葉にモルガンは戸惑い、聞いた。しかしリフィアはモルガンの言葉を無視して追及した。
「いいから答えよ!そこの3名を空賊疑惑で拘束したのは正か!否か!」
「リフィア殿下のおっしゃる通り間違いなく、我々はそやつらを空賊に加担している疑惑で拘束しました。しかしそこにいるボース市長、メイベル嬢の嘆願を受け解放しましたがそれが何か……?」
「モルガン将軍、今の発言にあなたの誇りを持って偽りではないと言えますか?」
「ハッ!我が軍旗、「シロハヤブサ」の紋章に誓って偽りはないと断言します!」
プリネの確認する言葉にモルガンは胸を張って答えた。

「準遊撃士エステル・ブライト並びにヨシュア・ブライト、正遊撃士シェラザード・ハ―ヴェイ。今のモルガンの発言は間違っていないか?」
「え、えっと。間違っていないわよ。2人ともそうよね?」
どこか威厳のあるリフィアの言葉にエステルは戸惑いながら答え、ヨシュアとシェラザードに確認した。
「はい、リフィア様のおっしゃる通り相違ありません。」
「そこの2人の言う通りです。『支える籠手』に誓って断言できます。」
エステルに話をふられたヨシュアは普段とは違う口調で答え、シェラザードも丁寧な口調で答えた。
「ボース市長メイベル殿、エステル・ブライト以下3名に今回世間を騒がしている『定期船消失事件』の調査を依頼し、拘束された遊撃士3名を無実と訴え解放したのは間違いないか?」
「はい、間違いありませんわ。」
話をふられたメイベルも頭を軽く下げて答えた。
「そうか……今ここでリベール軍が我が祖国メンフィルを侮辱したことを真実だと、メンフィル帝国第一皇女リフィア・イリーナ・マーシルンの名において断言する!」
「アーライナ神官長ペテレーネの娘、プリネ・マーシルンの名においてリベール軍がアーライナ教会を侮辱したことを教会を代表して真実だと断言します!」
「なっ!?それは一体どういうことですか!?失礼ながら詳しい説明を要求します!」
リフィアとプリネが高らかに言った発言にモルガンは驚いて説明を聞くことを嘆願した。跪いている副官や兵士も自分達が追い詰められていることに気付き青褪めた。

「よかろう、お主達にもわかりやすいよう話してやろう。実は前々から異世界人であり人間でない我ら”闇夜の眷属”に物怖じもせず、自ら歩みよるエステル・ブライトが注目されていてな、件の少女をよく知るため、また余の見聞を広めるために今回、遊撃士協会に準遊撃士エステル・ブライトに遊撃士としての修行に同行することをリウイが依頼したのじゃ。エヴリーヌは余とプリネの護衛のためについて来たのだ。」
「リフィアの言う通り、リウイお兄ちゃんに頼まれたからエヴリーヌが特別にリフィア達を護衛しているんだよ。」
「なぜ、1人の民間人の少女を知ることだけのために皇帝陛下がわざわざ依頼をしたのでしょうか……?」
モルガンはリフィアの言葉が理解できず質問した。
「それほど難しい話ではない。単にリウイが個人として、また眷属を束ねる王としてエステル自身を知りたいだけだ。また余達異世界人を民間人に詳しく知ってもらうため、我ら”闇夜の眷属”に理解があるエステルを通してお前達異世界の者達とさらなる密接な交流をするためだ。」
「……リフィア殿下のお話は理解しました。プリネ姫は先ほどアーライナ教会を代表してとおっしゃられていましたが、それは何故でしょう?」
たった1人の民間人のために皇族達が動いていることに信じられない思いを持っていたモルガンだったが、実際にリフィア自身が目の前にいるので、いまだ半分信じられない思いでいつつ納得し、プリネに聞いた。

「私は母の命によってリフィアお姉様達と行動を共にしております。」
「母君……と言いますと『闇の聖女』ペテレーネ殿ですか?一体何故……?」
「母――アーライナ教会神官長ペテレーネは、いつものアーライナ様への祈りの際、父――リウイからエステル・ブライトのことを聞きそれを報告し、それを知ったアーライナ様は件の少女に興味を示され、母に教会の誰かを使って少女を観察し報告するよう神託を授けたので、私が母の名代としてエステル・ブライトに同行しているのです。」
「えっ……!?」
プリネの説明にエステルは驚いて声を出した。

「………女神自身が一人の少女に興味を示すなど、正直信じられませぬ。何か、証拠はございませんか?」
プリネの説明にモルガンは信じられず、エステルがアーライナに気にいられている確かな証拠を求めた。
「証拠ですか。エステルさん、少しよろしいですか?」
「う、うん!何かな?」
プリネに呼ばれたエステルは場の雰囲気に緊張しながら答えた。
「エステルさんは以前お母様からアーライナ様のご加護を受けたお守りを受け取ったと聞きます。今、それをお持ちですか?」
「う、うん。これがどうしたの……?」
エステルはいつも身につけているブローチをプリネに見せた。
「少しだけそちろを借りてもよろしいですか?」
「うん、いいよ。」
プリネの求めに応じてエステルは服についているブローチをはずし、プリネに手渡した。
「ありがとうございます……モルガン将軍、これが証拠になります。」
「それが……?一体それは何なのでしょうか?」
プリネに証拠を示されたモルガンは理解できず聞き返した。
「……この装飾品はアーライナ様のお傍に仕える巫女の候補に配られる証。すなわち教会でもこれを持つ者は教会からさまざまな支援を受けられ、またそれと同時にアーライナ様の神託を受けられる証拠です!この装飾品の裏に主神アーライナのお姿が彫られていますよね?これが何よりの証拠です!」
プリネはブローチの裏に彫られているアーライナの姿をモルガンに見せて言った。
(え~!嘘、あれってただのお守りじゃなかったの!?)
一方プリネの説明を全て信じたエステルはいつも大事にしているブローチがどれほど重要な物か聞いて驚いた。

「……プリネ姫のお話も一応理解しました……まだ、信じられませぬがプリネ姫がここにいるのが何よりの証拠ですしな……それで話が戻るのですが、一体それがなぜ我らがメンフィルやアーライナ教会を侮辱したことに繋がるのでしょうか?」
プリネの説明にも強引に自分を納得させたモルガンは聞いた。モルガンに聞かれたリフィアは呆れた顔をした後、モルガンを睨んで答えた。
「まだわからぬか……件の少女、エステル・ブライトに皇帝であるリウイ直々が依頼を出した……エステル・ブライトはリウイの依頼を受けた時点で、我が祖国メンフィルから信頼ある者として認められているのだ!即ち、我らマーシルン家の客人と同然の扱いだ!また、エステルが所属する組織、遊撃士協会は我らメンフィルとは友好な存在!ここまで言えば余の言いたい事はわかるな?」
「そ、それは………」
リフィアに睨まれたモルガンはメンフィルの皇族から客人扱いされているエステル達を、自分の独断でメンフィルに断りもせずエステル達を賊と決めつけ、拘束してしまったこと、さらにはメンフィルが信頼している組織まで侮辱してしまったことを思い出し、青褪めた。
「加えて、エステルさんはアーライナ様の神託を受けられる可能性を持つお方……我々教会としても当然巫女候補としてさまざまな支援をさせていただいております。またそこにいる正遊撃士、シェラザード・ハ―ヴェイ殿は母、ペテレーネの一番弟子……これがどういうことかお分かりでしょう、将軍?」
「う……!」
アーライナ教会からも特別扱いをされているというの情報が偽りとは気付かず、また教会のトップの人物の弟子に何をしてしまったという追い打ちをかけるようなプリネの言葉にモルガンはさらに呻き、顔を下に向けた。

「さて……何か、申し開きはあるか?先ほどのエステル達を賊と決めつけ拘束したというお前自身の発言は、撤回しようと思ってもできんぞ?さっき言ったな。『シロハヤブサ』の紋章に誓って……と。お前達リベールの国の象徴であり、王家の紋章に誓ったことを嘘や冗談とは言わせんぞ?」
「!!」
リフィアに問いかけられたモルガンはリベールの象徴であり、王家の紋章に安易に誓ったことを思い出し、反論や言い訳も見つからず沈黙した。
「それとは別件でもう一つ個人的に余が怒っていることがある。……以前リベールとの会談の際、余はアリシア女王陛下に尋ねた。軍と民間人の武装組織である遊撃士協会とはどんな関係とな。女王陛下はこうおっしゃていたぞ。『軍は大勢の民のために、遊撃士協会は個人のために動きますが事件があった時は手を取り合って協力し合う仲です。』とな。余やリウイはその言葉を信じて今まで協会と我らメンフィル軍は連携してさまざまな事件を遊撃士達と共に解決してきた。なのにその発言をした女王陛下の軍の長であるお前が今していることはなんだ?余やリウイは女王陛下に騙されたのか?」
「それはありえません!陛下は殿下達を騙すような御方ではありませぬ!!」
リフィアの問いかけにモルガンは顔を上げ、声を荒げて否定した。

「ではどういう事だ?確かな理由がないと大使館を通して女王陛下に抗議させてもらうぞ?」
「グッ……!それは………私の………独断……です……」
リフィアの脅しとも取れる言葉にモルガンは呻き声を上げ、言いづらそうに答えた。
「お前の遊撃士協会に対する評価や態度の噂はここに来るまでに聞いた。まさか大局を見ずに軍の長であるお前が、私情に流されて軍を動かしているとはここにくるまで思わなかったぞ?」
「…………………………」
リフィアの痛烈な言葉をモルガンは俯き耐えて聞いた。
「それ以上将軍を攻めないで下さい、リフィア殿下!」
「そうです!これには理由が………」
尊敬している自分達の上官が攻め続けられるのを黙って見る事ができず、副官や兵士は声を上げたが
「黙れ!誰がお前達の発言を許した!」
「「しかし将軍!!」」
「これ以上騒ぐな!これは上官命令だ!」
「「クッ……!」」
しかし顔を上げたモルガンの怒声に制され、悔しそうな顔をして俯いた。

「…………部下達の再度の無礼、どうかお許し下さい。」
顔を下に向けた兵士達を見て、モルガンはリフィアに向き直り謝罪した。
「よい。上官思いの部下であるということはよくわかった。そのこと自体は余はいいと思うぞ?」
「……ありがとうございます。リフィア殿下、プリネ姫。どうすれば我が軍が貴殿等にしてしまった無礼を取り消すためにどのような誠意を見せればよいでしょうか?」
「何、簡単なことだ。お前達が現時点で掴んでいる『定期船消失事件』の詳細を全てここで報告し、遊撃士協会には謝罪の文と事件の詳細な情報を提出すればメンフィルとアーライナ教会の抗議はここで収めてやる。プリネもいいな?」
「はい、リフィアお姉様。」
「エステル、お前達はどうだ?」
「え!?えっと……」
リフィアから急に話をふられたエステルは戸惑ってどう言おうか悩んでいたが
「はい、僕達としては拘束されたことはあまり気にしていませんが、事件解決のために軍から情報を貰うことには異論ありません。」
「ヨシュアの言う通り、私達としては情報を貰えば文句は言いませんよ♪」
ヨシュアが代わりに答え、シェラザードは口元に笑みを浮かべて答えた。

「メイベル殿、貴殿が余達に代わってエステル達を解放したこと、偉大なる王リウイに代わって感謝する。」
「とんでもございません。私は独自で動いただけですから。」
「ふむ、余としては何か礼をしないと気がすまないが何かないか?」
リフィアはメイベルに不敵な笑みで問いかけた。リフィアの笑みからモルガン達に会いに行く前に言ったリフィアの言葉を思い出し、察したメイベルは微笑して話を合わせるように答えた。
「でしたら王国軍による飛行制限をもう少しだけ緩めて頂けるよう、話をしてもらえませんか?空輸が頼りのボースではそのようなことをされたら商売が成り立たず、市民の生活に支障が出てしまいますので、市長として、また一商人として見逃せません。」
「………だそうだ。軍によるボース領空の制限を緩めることで余自身の怒りも収めてやろう。」

「なっ!?殿下、それはあまりにも無茶すぎます!!遊撃士協会に情報を渡すことは仕方ありませんが、領空制限を緩めてしまっては第2、第3の事件の発生の恐れが出てしまいます!!」
リフィアが出した条件にモルガンは大きな声で反論した。
「それぐらいお前達ご自慢の警備艇を使って護衛でもして防げばよいだろう。」
モルガンの必死の反論をリフィアはスッパリと切り事件の予防策を言った。
「しかし!」
「……どうしても無理というのなら余にも考えがあるぞ?」
尚も食い下がろうとするモルガンにリフィアは威厳ある雰囲気で話した。リフィアの言葉にモルガンは嫌な予感がして恐る恐る聞いた。
「………何をお考えなのでしょうか………?」
「何、我らメンフィル軍や”闇夜の眷属”達に空輸する飛行船の警備に当たらせるだけだ。さすがに警備艇はまだ開発中だが、我が軍には竜騎士(ドラゴンナイト)や空が飛べる眷属がいるしな。お前達に代わって民間人の護衛をしてやろう。なんならファーミシルスを指揮に当たらせてやってもよい。最近のあ奴は後身を育てることばかりで暇を持て余していたからな。メイベル殿は余の考えをどう思う?」
「私としては領空の制限を緩めていただけるならどんな条件でも構いません。それに精強なメンフィル軍の中でも『空の王者』とも言われる竜騎士やリウイ皇帝陛下の親衛隊長であり大将軍である名高いファーミシルス閣下直々に護衛してもらえれば、我々としても安心して空輸を続けられます。」
リフィアに話をふられたメイベルは微笑して答えた。
「……だそうだぞ?」
「殿下!それは内政干渉になりますぞ!?メイベル嬢も滅多なことを口にしないでもらいたい!!」
モルガンはリフィアの考えに賛成したメイベルを注意し、反論した。

「内政干渉?これはおかしなことを言う。余は同盟国として善意で申し出ているのだぞ?」
「それが本当だとしてもまだあります!本当に殿下が軍を動かせるのですか!?」
「モルガン、余を誰だと思っている。」
「それはもちろん存じ上げています。殿下は現皇帝シルヴァン陛下のご息女であり、次期………皇帝………」
リフィアに問いかけられたモルガンはそれに答えてある事に気付いた。
「ま、まさか!!」
「お前が今何を考えているか知らんが、お前の予想通りであると言っておこう。付け加えて言うなら皇位から退き隠居しているとはいえ、我が祖父リウイでも軍を指示できる。
それは”百日戦役”でお前も知っているだろう?」
「…………………………」
「まあ、どうしてもというのなら女王陛下か女王陛下直系であるクロ―ディア姫を連れくるがよい。もしその際陛下達が反論するのなら余もその理由を聞こう。」
リフィアの言葉を自分なりに解釈し、リフィアには軍を動かせる権利があり、最悪リウイ自身が出てくる考えも浮かんだモルガンはそれが起きたことによって、他国のリベールに対する痛烈な評価を予想し、自分が反論しようにも相手が他国の王族の上皇帝直系の娘であり、次代の皇位につく事が約束されている人物なので武官である自分ではあまりにも役不足であることに気付き唇を噛んだ。

「さて、まだ何かあるか?」
(勝負ありね……)
その場の勝者がリフィア達であると悟ったシェラザードは溜飲が下がる思いで小声で呟いた。
(うわぁ~……ねえ、ヨシュア。いいのかな?)
モルガン達を皇女という身分で萎縮させているリフィア達を見てエステルは呆けた後、ヨシュアに小声で話しかけた。
(う~ん……本当は不味いんだろうけど、今回は将軍の自業自得、情報不足と遊撃士協会を知らなさすぎたことが敗因だね。)
(言われてみればそうよね……あれ?遊撃士協会を知らないからってどういうこと?)
(……エステル……この間習ったことだよ?……まあいいか、後で教えるよ。)
(何よ、ヨシュアったら~!絶対後で教えて貰うからね!)
エステルの疑問にヨシュアは呆れた後、溜息をついた。

「グッ……承知………しました………」
「「将軍!?」」
リフィアの要求に呻きながら了承したモルガンに副官達は信じられない表情で叫んだ。
「全く最初から遊撃士協会に素直に情報を渡していれば、こんなことにはならなかっただろうに……まあいい、お前達が持つ情報をここで包み隠さず話してもらうぞ?もちろん、出し惜しみなどは許さんからな?」
ようやく観念したモルガンを見てリフィアは溜息をついて呟き、モルガンに情報を話すよう促した。そしてモルガンはその場で最近の情報を話した。それはすでに空賊達に払う定期船の乗客達の身代金の話が出て来ていること、また身代金を女王自身が自分の資産から出す事、情報部が近々ボースに来て空賊達の情報を探すことが決定したことを話した。

「………以上になります。」
モルガンは嫌悪している遊撃士達に大事な情報を渡したことの悔しさで拳を握りながらもそれを表情に出さず答えた。
「なるほど、さすが常に民の幸せを第一に考えるアリシア陛下だな。エステル、お前達から聞くことはもうないか?」
「う、うん。……というかさすがにこれ以上は落ち込んでいる将軍が可哀想になってくるからやめてあげてくれないかな?」
リフィアに問いかけられたエステルは苦笑しながら答えた。
「お主は本当にお人よしだな……無実の罪で捕まえられたのだから普通、もっと怒ってもいいのだぞ?」
「うーん………そうなんだけど、将軍は将軍で事件を解決するために必死で動いているのはよくわかったから、それぐらいにしてあげて。」
「フフ……自分を陥れた相手にも拘わらず相手の心配をするなんてエステルさんらしいですね。」
無実の罪で自分達を拘束したモルガンの心配をするエステルをプリネは微笑ましく思って呟いた。

「リフィアお姉様、当事者であるエステルさんがこう言っているのです。話はこれぐらいにして私達もそろそろ行きましょう。」
「そうだな……では、余達はこれで失礼させてもらうぞ。」
「お、お待ち下さい!せめてお見送りだけでも……!」
「よい。そのようなことに時間を使うより、此度の事件解決への時間に使ったほうが民のためになる。……領空制限の件と協会への情報提供の件、忘れるでないぞ。みな、行くぞ。」
「はい、お姉様。………それでは失礼します。」
「ばいばーい。」
さっさとその場を去ろうとしたリフィア達を見送るためにモルガンは慌てて引き留めたが、リフィアにとっては自分達を見送るより事件解決のために裂く時間のほうが優先なので断り、
プリネは軽く会釈し、エヴリーヌは手を軽く振ってエステル達と共に部屋を出た。

「閣下、どうするのですか?」
未だその場で跪いて俯いているモルガンに副官は話しかけた。
「………ボースの領空制限を緩めるぞ。また、哨戒用の警備艇を一隻哨戒からボースに航行してくる飛行艇の護衛に当たらせろ。
そこのお前、今からわしが作成する謝罪の文と情報の書類を遊撃士協会に届けてくれ。」
モルガンは立ち上がり副官や兵士に指示をした。
「ハッ!」
兵士は立ち上がり敬礼して命令を受けたが
「閣下!本当にあのメンフィルの姫殿下達の言いなりになっていいのですか!?」
副官は立ち上がりモルガンに反論した。
「………仕方がなかろう。相手は何といっても現皇帝の直系のご息女であるリフィア殿下やリウイ皇帝陛下と『闇の聖女』のご息女であるプリネ姫だ。今回の件を理由にメンフィルとの同盟を破棄される訳にはいかぬし、冗談抜きでメンフィルに此度の事件に介入されかねん。それにメンフィルと密接な関係にあるアーライナ教会の機嫌を損ねる訳にはいかぬ。アーライナ教会が出している治療薬は他国の軍は大金を出して購入しているが、我が軍には無償提供されていることや我らリベールは他国と違い、メンフィルと密接な関係であることは理解しているな?」
副官の叫びにモルガンは辛そうに答えた。
「それは………」
モルガンの言葉に副官は言葉を失くして俯いた。
「………とにかく、今は一刻も早く事件の解決のために動くぞ!全員、粉骨砕身で空賊達を捜索させろ!」
「「ハッ!」」
気を取り直したモルガンの言葉に副官達は敬礼し、行動を始めた………





後書き カシウスが軍に戻っていなく遊撃士協会を嫌っていてエステル達を捕まえたモルガンを一度、権力でボッコボッコにしたかったので書きました♪後、リフィア達の強権発動も書きたかったですし。ちなみにこれで連日更新は終わりです。ストックが完全になくなりましたので。なるべく早く更新を心がけますが、遅くなるのはご了承お願いします……感想お待ちしております。



[25124] 第40話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/06/16 01:35
その後、ハーケン門を後にしたエステル達はボース市に戻り、市長邸で今後のことを話しあった。

~ボース市長邸~

「………それにしても本当にモルガン将軍から情報を引き出せたり、領空制限を緩めちゃうとは、びっくりしたわ~」
「何、余は王族として民の生活を考えて当然の事をしたまでよ。」
市長邸に戻ってエステルの呟いた言葉にリフィアは何でもない風に装った。
「あ、そうだ。ねえ、リフィア、プリネ。」
「何だ?」
「何でしょう?」
あることを思い出したエステルは2人に話しかけた。
「あのさ、さっき2人が将軍の目の前で言ったことって本当?」
「それは一体どのような事でしょう?」
エステルに聞かれたプリネは首を傾げて答えた。
「え~と……あたしがメンフィルの皇族の客人とかアーライナ教の巫女がどうとかっていう……」
「ああ………あれはほとんど嘘ですよ?」
「へ………嘘?」
プリネの答えにエステルは呆けた。

「さすがに信者でもないエステルさんを勝手にアーライナ様の巫女候補なんてできませんし、そもそもアーライナ教には巫女という役職の存在はありません。あの場で将軍から情報を提供してもらうために考えた嘘ですから、それほど気にしなくていいですよ。」
「もちろん、余がモルガンの前で言ったこともあ奴に余達の要求を通すために言ったことだから、ほとんど偽りだから気にしなくてよいぞ。」
「あ、あんですって~!!」
プリネとリフィアの説明にエステルは驚いて叫んだ。
「エステル………まさか、本当に信じていたんだ……」
「はぁ……全くこの娘は………少し考えたらわかるでしょうに。」
驚いているエステルを見てヨシュアとシェラザードは呆れて溜息をついて呟いた。
「だ、だって将軍があれだけ簡単に信じてたんだもん……」
呆れて溜息をついているヨシュア達にエステルは頬を膨らませて答えた。

「確かにそうだけど、よく考えればわかることだよ?少なくとも、メンフィルと遊撃士協会が密接な関係であることは絶対にないということは、遊撃士協会を少しでも知っていたらすぐ気付くことだよ?」
「ほえ?そーいえば、将軍のところでも言ってたけどそれってどういうこと?」
ヨシュアの言葉にエステルは首を傾げて聞き返した。
「遊撃士協会とは『国家権力の不干渉』を規約とする代わりに国家に所属しない民間組織である……そういうことだろ、ヨシュア君♪」
「………その通りですけど、よくご存じですね?」
得意げに語るオリビエをヨシュアは呆れた表情で見た。
「あ……そういえばそうだったわね!」
オリビエの答えにエステルは納得したような表情をした。
「遊撃士規約で必ず覚えておく必要があることなのに、案の定忘れてくれちゃって……これは再テストが必要かしら?」
「え~!!やっと遊撃士になったのにもう、テストはゴメンよ~!」
シェラザードの言葉に嫌な予感を感じたエステルは泣き言を言った。

「フフ………でも、エステルさんがアーライナ教会からさまざまな援助を受けられる立場は変わりませんよ?」
「ほえ?それってどういうこと?」
プリネの言葉にエステルは首を傾げた。
「エステルさんの付けているそのブローチはアーライナ教の信者の証にもなります。ですからそのブローチをゼムリア大陸中にあるアーライナ教会に見せれば、教会で販売している治療薬を通常の半額で販売してもらえますし、さまざまな薬品を売ってもらうことも可能です。……まあ、将軍の前では少し大げさに言って見ただけですから、アーライナ様の神託を受けれたり等はさすがにできませんよ?」
「え………信者でもないのにいいの!?」
ただのお守りと思っていた大切なブローチが持つ効果を知ったエステルは驚いて聞いた。
「ええ、構いませんよ。母は信者以外に個人的に気にいっている方にも渡していますから。……ほら、私はそのブローチを加工してもらって髪飾りにしています。」
「あ……ホントだ。シェラ姉が持っているのは知っていたけど、プリネも持っていたんだ。この髪飾り、どこかで見たと思ったけど、あたしのブローチと同じ物だったんだ……」
プリネが普段からつけている髪飾りの宝石と宝石の裏に彫られている女神――アーライナの姿を見て、エステルは呟いた。
「これって、そんな意味もあったのね……」
シェラザードもペテレーネの弟子になって数ヵ月後に初めて使えた魔術で祝い代わりにペテレーネから貰ったブローチを見て呟いた。

「……ねえ、プリネ。ずっと思っていたんだけど、なんで聖女様はこのブローチをあたしにくれたのかな?聖女様の弟子のシェラ姉や娘のプリネはわかるんだけど、あたしなんか一回会ったきりだよ??それも会話なんかほとんどしなかったし。」
「確かにお母様がエステルさんと直接会って話したことがあるのは少ないですが、以前にも言ったと思いますがエステルさんのことはマーリオンやリスティさんを通してお父様に報告されていましたから。多分お母様はエステルさんに主神・アーライナに気にいられる要素があると思って、渡したんだと思います。」
「へ……それってどういうこと??」
「お忘れですか?アーライナ様は”混沌”を司る女神。エステルさんが普段私達”闇夜の眷属”への接し方を自分達”人間”と同じ態度で接することもまた”混沌”になります。ですから、エステルさんはそのブローチを持つ資格がありますから気兼ねなくそのブローチを利用してもらって構いませんよ。」
「うむ!眷属の王であるリウイもお前と個人的に話をしたがっていたから、時間があれば我が大使館を訪ねてもらって構わないぞ?その際はもちろん、お主にとって憧れの対象であるペテレーネも同席させよう。」
「ホント!?じゃあ、正遊撃士になったら絶対行くわ!”闇夜の眷属”の王様もどんな人か気になるし!」
ペテレーネと直に話せる機会があると知ったエステルは喜び意気込んだ。
「ハハ……じゃあ速く正遊撃士になるためにも、今は事件の解決をより頑張ろう、エステル。」
「うん!モチのロンよ!!」
ヨシュアの言葉にエステルはより一層意気込んだ。

「フフ……まさか、カシウス・ブライト殿のご息女だけでなくメンフィルの皇族の方達や『闇の聖女』と密接な関係であるとは思いませんでした……それにしてもまさかリフィア殿下やプリネ姫が私の目の前にいるなんて、今でも信じられない思いです。」
意気込んでいるエステルを微笑ましそうに見たメイベルはリフィア達を見て真剣な表情に戻して呟いた。
「偽名を語ったことは謝罪する、メイベル殿。余達の旅は一応お忍びになるからな。あまり周囲に余達のことを伝えないでもらうとありがたいが。」
「それはもちろん心がけております、殿下。それにボースの領空制限を緩めていただいたんですから、その恩を仇で返すことなんてできませんわ。」
「そうか、礼を言う。」
「ありがとうございます。」
メイベルの言葉にリフィアとプリネはお礼を言った。

「話は変わるけどよく釈放されたわね……」
「まったく、大した悪運だこと。」
市長達の話が終わったのを見てエステルとシェラザードはちゃっかり一緒についてきたオリビエを見て呆れた表情をした。
「はっはっはっ。そんなに誉めないでくれたまえ。だがそのお陰で容姿端麗と噂されるメンフィルの姫君達に会えるとは、これもボクの詩人としての運命の導きだね♪」
周りの様子を全く気にせず、笑ったオリビエは満面の笑みでリフィア達を見た。
「言っとくけど……プリネ達に冗談でも手を出そうとしたらただじゃすまさないからね!」
既にプリネとエヴリーヌをオリビエが口説いたことを思い出したエステルはオリビエをジト目で睨んで言った。
「失敬な。ボクはいつも本気だよ?」
「だからそれが悪いんでしょうが……」
心外そうな表情で答えるオリビエを見て、シェラザードは呆れた。
「わかってるとは思いますけど……彼女達のことはもちろん黙っていて下さいね?後、僕達はご両親から彼女達のことを託されている身ですから、何かしようとしたらその時は遠慮はしませんよ?」
ヨシュアはそう言った後、笑顔で威圧感のようなものを纏った。
「はい、わかりました……(ヨシュア君、コワイ……)」
ヨシュアの威圧に脅えたオリビエはガッカリした態度で答えた。

「フフ……それでそちらの演奏家の方は今後どうしますか?」
エステル達のやり取りに思わず笑ったメイベルはオリビエに質問した。
「フム……許されたとは言え、タダであのワインを飲んだとあっては心が咎めるな。契約通り、レストランでピアノを弾かせていただこうか?」
「それは遠慮しておきますわ。さすがに、あの騒ぎの後だと色々と気まずいでしょうから。」
オリビエの申し出にメイベルはあっさり断った。
(うーん、コイツだったら全然気にしないと思うけど……)
(確かに図太そうだしね……)
メイベルの言葉を聞いたエステルは呆れた表情で、ヨシュアは苦笑してオリビエを見た。
「まあ、今回のことはお互い不幸な事件と割り切りましょう。」
「しかし……それではボクの気が済まない。」
話を締めくくろうとしたメイベルにオリビエは話に割り込み、信じられない提案をした。
「ふむ、そうだな……。ちょうど、エステル君たちが何かの調査をしているようだね。ワインの礼に、彼らの手伝いをするというのはどうだろうか?」
「ハア?」
突拍子もなくいきなりのオリビエの提案にエステルは素っ頓狂な声をあげた。

「あら、それは面白いですわね。お願いしてもいいでしょうか?」
一方メイベルは微笑して賛成した。
「フッ、お任せあれ。そう言うわけだ。キミたち、よろしく頼むよ。」
メイベルの言葉を聞いたオリビエは爽やかな態度でエステル達と同行することを言った。
「ちょっと待って……どーしてそうなるのよっ!?」
「素人に付いてこられても正直言って迷惑なんだけど……。足手まといにならない自信は?」
一方エステルは真っ先に反対し、シェラザードは実力を尋ねた。
「銃とアーツにはいささか自信がある。無論、ボクの天才的な演奏と一緒にされても困ってしまうが。」
「そーいうセリフが激しく不安を誘うんですけど。」
「でも、悪くないかもしれないね。軍が当てにならない以上、リフィア達がいるけど僕たちも人手不足な気がするし。」
自己陶酔するようなオリビエの言葉にエステルは呆れたが、ヨシュアは賛成した。
「そうですね……ヨシュアさんの言う通り、人手は多くても困りませんから別にいいですよ?」
「プリネ!?」
意外な人物からの賛成にエステルは驚いた。

「戦力的に考えてもそちらの方がおっしゃることが本当なら、戦闘の隊列もバランスがよくなると思いますし。」
「確かに………この中で完全な後方支援ができる人は少ないしね。シェラさんやプリネは後方支援としても優秀なのはわかるけど、できれば僕やエステルみたいに
前衛で戦ってくれたほうが心強いし。」
プリネの説明にヨシュアは納得し、オリビエの加入にさらに賛成した。
「けど、そいつがデマカセを言ってるかもしれないわよ?」
いまだ反対のエステルはオリビエをジト目で見た。
「フッ……そう見つめないでくれ。照れるじゃないか。」
「やかましい!本当にこいつを連れて行って大丈夫??」
エステルに見られたオリビエは髪をかきあげて自己陶酔に陥り、エステルはそれを聞いて呆れた。
「その心配はないぞ。」
「え?」
しかし、リフィアの言葉にエステルは呆けた。
「ここに来るまでそやつの足運びや目の動きを見ていたが、あれは銃や弓等遠距離攻撃を行う者達の動きによく似ていたぞ。」
「………だね。少なくともただの人間じゃないね。まあ、エヴリーヌは楽になるから別にいいよ~」
「こいつが~?ねえ、シェラ姉。どうしよう?」
リフィアとエヴリーヌの評価にエステルは信じられなく、遊撃士として経験の長いシェラザードに聞いた。

「………………………………まあ、いいわ。協力してもらうとしますか。ただし、足手まといになると判断したら外れてもらうけど……。それでもいいかしら?」
少しの間、目を瞑って考えていたシェラザードだったが賛成した。
「フッ、構わないよ。決して失望させたりしないから、どうか安心してくれたまえ。」
「うーん、失望するもなにも最初からそんなに期待してないし。」
オリビエの自信たっぷりの言葉にエステルは何気に酷い言葉を言った。
「そうだ……今更ですけど、リフィア達と行動してもオリビエさんは大丈夫ですか?」
ヨシュアはあることに気付きオリビエに尋ねた。
「フム?それはどういうことかね?」
「ほら、オリビエさんはエレボニア人じゃないですか。”百日戦役”後リベールにとってメンフィルは救世主ですけど、エレボニアにとってメンフィルは恐怖と恨みの対象じゃないですか。
メンフィルがエレボニア領を制圧した際、犠牲者がかなり出たと日曜学校で習いましたけど。」
「あ……」
ヨシュアの説明にエステルは不安そうな表情をした。
「なんだそのことか。そんなこと、このオリビエは気にしないよ。大体犠牲者と言うけど、エレボニアがリベールに侵攻した時と違ってメンフィル軍は民間人には一切手を出していないし、犠牲が出たのはあくまで軍人だけだしね。まあ、平和なリベールに侵攻をした帝国の自業自得だ。だからボクには関係ないから安心していいよ。」
「なんというか……他人事ですね。オリビエさんは愛国心とかはないんですか?」
自国の評価を悪く言うオリビエに疑問を持ち、ヨシュアは尋ねた。
「もちろんこのボクとて自分が生まれ育った国は好きだよ。」
「あっやしいわね~?あんたの事だから『可愛い子がいるならどこでもオッケーだよ♪』とかいいそうなんだけどね……。」
オリビエの言葉が信じられなくエステルはジト目でオリビエを睨んで言った。
「ほほう?エステル君もわかって来たじゃないか♪同じ屋根の下、一晩過ごしたせいかな♪」
「他人が聞いたら勘違いしそうなことを言うな~!!」
しかしオリビエのからかうような言葉にエステルは吠えた。

「フフ……話がまとまって何よりですわ。それはそうと、皆さんに報告する事があるのです。」
エステル達のやり取りを微笑ましそうに見たメイベルは話を変えた。
「報告すること?」
メイベルの話にエステルは興味を示し、聞き返した。
「そういえば、余達がヴァレリア湖から戻った際街が騒がしかった気がするな。何かあったのか?」
「はい……。実は昨晩、ボースの南街区で大規模な強盗事件があったのです。武器屋、オーブメント工房をはじめ、何軒かの民家が被害に遭いました。」
リフィアの質問にメイベルは真剣な表情で答えた。
「ええっ!?」
「やっぱり……例の空賊たちの仕業ですか?」
新たな事件の発生にエステルは驚きヨシュアは犯人を聞いた。
「今のところは不明ですが、その可能性は高そうですわね。現在、王国軍の部隊が調査を行っている最中ですわ。」
「なるほど、あたしたちもすぐに調査した方が良さそうね。」
メイベルの言葉にシェラザードは頷いて、早速調査をするために市長邸を出た。

「また軍の連中に邪魔されそうな気がするけど……。ま、そうなったらその時はリフィア達に頼むね!」
「余に任せておくがよい!余の風格をリベールの者達に思いしらせる良い機会でもあるしな!」
「お、お姉様……ほどほどにしておいて下さいね……?お願いですからお父様やシルヴァンお兄様を困らせることだけはやめて下さいね……?」
エステルに頼まれたリフィアは不敵な笑みを浮かべて言い、それを聞いたプリネは苦笑しながらやりすぎないよう嘆願した。
「あ~……思いつきの顔になっちゃったね。諦めた方がいいよ、プリネ。」
「ですが……」
「あの生き生きとしたリフィアを止められるのはリウイお兄ちゃんぐらいだよ。リフィアが生まれた頃から付き合ってるからよくわかるもん。」
「わかりました……後はリフィアお姉様がリベール軍と揉め事を起こさないことを祈るしかありませんね……ハァ……」
エヴリーヌに言われたプリネは諦めて溜息をついた。

「邪魔されるのはともかく……。こちらが情報を掴んだとしても、軍には伝えない方がいいと思う。本当にスパイがいるとしたら空賊たちに筒抜けになるからね。」
「不本意だけど仕方ないわね。とにかく、慎重に行動しましょう。」
エステル達にヨシュアは警告し、シェラザードもそれに頷いた。
「フッ、それでは諸君。さっそく南街区に行くとしようか。」
そしてオリビエはタイミング良く場を仕切り始めた。
「だ~か~ら!どうしてあんたが仕切んのよっ!」
オリビエの仕切りにエステルは声を荒げたが時間が勿体無いと思い、追及をするのをやめた。

そしてエステル達は被害状況を調べるため、新たに仲間になったオリビエと共に被害に遭った南街区に向かった…………







後書き 感想お待ちしております。





[25124] 第41話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/07/08 22:27
早速新たに起こった強盗事件の調査を開始したエステル達だったが民家等はすでに軍による事情聴取があったのでできなかったので、すで軍が調査をし終えている武器屋やオーブメント工房を周った。その際、ナイアル達と再会して聞いた空賊達が現れた場所の近くには市長邸やマーケットがあるにも関わらず民家に押し入ったことを聞き、首を傾げたが気を取り直し調査を続行するために一端工房を出た。

~ボース南街区~

「おい、お前たち!」
兵を率いる士官がエステル達を見つけ呼び止めた。
「ん、どうしたの?」
「一言、忠告しようと思ってな。いくら市長の代理とはいえ、お前たちはあくまで民間人だ。我々が調査している最中にウロウロしないでもらおうか。」
「あ、あんですって~!?」
「忠告というよりも、警告ですね。」
士官の物言いにエステルはムッとし、ヨシュアは呆れた表情をした。
「分をわきまえろと言っている。そんなに調べたいのだったら、我々が引き上げた後にするんだな。あまりワガママが過ぎると、また牢屋に招待させてもらうぞ?」
そんなエステル達を見て鼻をならした士官はエステル達を脅した。
「むっ……」
士官の物言いにエステルは士官を睨んだ。
「気にしないの、エステル。どうせ何もできやしないわ。」
「フッ、虎の威を借る狐とはよくぞ言ったものだね。」
「な、なにぃ!?」
シェラザードの冷ややかな物言いとオリビエのからかいの言葉に士官は顔を真っ赤にした。

「ほう………余達を牢屋に招待か……面白い冗談を言うな……」
「キャハッ♪逆にそっちが牢屋行きになるんじゃない♪」
「リ、リフィアお姉様!エヴリーヌお姉様も何も知らない方に挑発をするのはちょっと……」
さらに士官の脅しにリフィアは不敵に笑い、エヴリーヌは話を合わせるように士官をからかった。一方リフィア達の態度に冷や汗をかいたプリネはリフィア達を諌めた。
「なんだと?何を寝ぼけたことを言ってる。我らがお前達を捕えて牢屋行きだと?ハッ!民間人の分際で大口を叩いてくれる!どうやら公務執行妨害で逮捕されたいようだな……?」
士官が兵士達にエステル達を拘束する命令をしようとした時、
「……何をやっているのかね」
士官たちの後ろから黒服の軍人がやって来た。

「こ、これは大佐どの!?」
黒服の軍人を見た士官は焦って敬礼した。
「栄えある王国軍の軍人が善良な一般市民を脅す上、無実の罪を着せて拘束しようなどとは……。まったく、恥を知りたまえ。」
「で、ですがこいつらはただの民間人ではありません。ギルドの遊撃士どもです!」
黒服の軍人に注意された士官は慌てて言い訳を言った。
「ほう、そうだったのか……。だったら尚更だろう。軍とギルドは協力関係にある。対立を煽ってどうするのだ?」
しかし黒服の軍人は士官の言ったことを気にせず、さらに注意をした。
「し、しかし自分は将軍閣下の意を汲みまして……」
「………付け加えて言うなら彼らを拘束してしまったら君達は良くて牢屋行き、悪くて処刑になるぞ?」
「なっ!?それはどういう意味ですか!!」
黒服の軍人の言葉に士官は焦って聞いた。また、士官につき従っている部下の兵士達も黒服の軍人の言葉にうろたえた。
「私は君達のためにも言っている。……モルガン将軍にも困ったものだ。ここは私が引き受けよう。君は部下を連れて撤収したまえ。」
「し、しかし……」
黒服の軍人の言葉に士官は納得がいかない様子を見せた。
「早朝から始めているのだ。もう充分に調査しただろう。将軍閣下には後で私が執り成しておく。それでも文句があるのかな?」
「りょ、了解しました……撤収!ハーケン門に戻るぞ!」
黒服の軍人の言葉に士官は戸惑ったが部下を連れてその場を去った。

「さて、と……遊撃士の諸君。軍の人間が失礼をしたね。謝罪をさせてもらうよ。」
士官達を見送った黒服の軍人はエステル達に向き直り謝罪をした。
「これは、どうもご丁寧に。ま、こちらも挑発的だったし、お互い様としておきましょう。」
黒服の軍人の言葉にシェラザードは意外そうな表情をした後、気にしていないことを言った。
「そう言ってくれると助かるよ。………先程も言ったように軍とギルドは協力関係にある。互いに欠けている部分を補い合うべき存在だと思うのだ。今回の、一連の事件に関しても君たちの働きには期待している。」
「フフ、失望させないようせいぜい頑張らさせてもらうわ。」
黒服の軍人の言葉にシェラザードは微笑みながら答えた。
(な、なんか……すごくマトモそうな人ね)
(うん……誰なんだろう?)
黒服の軍人の態度にエステルは目を丸くしてヨシュアと小声で会話をしていた。

「大佐……そろそろ定刻ですが。」
軍人の後ろに控えていた女性士官が軍人に言った。
「おお、そうか。だが、その前にやることがある。……カノーネ君。」
「ハッ。」
軍人と女性士官――カノーネはリフィア達の正面に立ち、その場で跪き頭を下げて謝罪をした。
「……部下達の教育がなってなく申し訳ありません。リフィア殿下、プリネ姫、エヴリーヌ殿。」
「申し訳ありません。」
「……顔を上げて立って構わん。ここでは人目につきやすい。」
自分達の正体を言いあてられたリフィアは本来の皇族としての態度で言った。
「ハッ。」
リフィアに言われた軍人とカノーネは跪くのをやめて立った。
「お前達の名は。」
「名乗り出るのが遅くなり申し訳ありません。王国軍大佐、リシャールと申します。」
「同じく王国軍大尉、カノーネと申します。リシャール大佐の副官を務めております。」
(……この方が「情報部」の……)
(……………………………)
自分達の名を名乗ったリシャールをプリネはナイアルから聞いた情報を思い出し、エヴリーヌは何かの違和感を感じ、探るような視線でリシャール達を見た。

「リシャールにカノーネか。……ん?リシャールとやら、お前の顔はどこかで見たことがあるのだが余の気のせいか?」
「ハッ。以前の女王陛下とリウイ皇帝陛下との会談の際に若輩の身ながら女王陛下のお傍に控えさせていただきました。」
リフィアの質問にリシャールは敬意を持って答えた。
「………思い出したぞ。あの時、モルガンやカシウスと共にアリシア陛下の傍にいた者か。それで余達に何のようだ?余達も忙しい身でな、あまりお前達に構っておられんのだ。」
「ハッ。先ほどの部下達の不手際、またモルガン将軍の不手際を重ねて謝罪させてもらうために、どうか殿下達の大切なお時間を少しだけいただいてもよろしいでしょうか?」
「そのことか。よい、もうその件は余達の要求をあの老将軍が呑んだ時点で解決した。先ほどの件もあまり気にしておらぬ。関係のないお前達が謝る必要などない。」
リシャールの言葉にリフィアは気にしていないことを言った。
「いえ、リベールとメンフィルが同盟国同士として、末永く付き合って行くためにも謝罪はさせていただきたいのです。また貴国と密接な関係であり国教でもあるアーライナ教や、イーリュン教ともさらなる密接な関係を結ばせていただくためにも、殿下達のご不満をこの場で絶っておきたいのです。」
「………アーライナ教が我が祖国メンフィルと密接な関係であることはわかるのですが、なぜそこでイーリュン教も出てくるのでしょうか?イーリュン教はメンフィルを含めて、どの国に対しても公平な態度を取っていますが?」
リシャールの言葉に疑問を持ったプリネは尋ねた。

「独自で調べた我が軍の情報ではかの『癒しの聖女』殿がリウイ皇帝陛下のご息女であり、プリネ姫や現皇帝、シルヴァン陛下の姉君だという情報がありますので、勝手ながら推測をさせていただきました。」
「ほう。まさかティア殿と我らの関係まで調べていたとはな……なかなかやるではないか。」
リフィアはリシャール達が叔母であるティアとメンフィルの関係まで調べ上げていることに弱冠の驚きを隠せず、リシャール達を評価した。
「ハッ。お褒めの言葉をあずかり、光栄です。」
「ただこれだけは言っておく。ティア殿は確かに我がマーシルン家の者だが、あの方は一信者としてイーリュンの教えを全うしている。よって余達の機嫌を取っても無駄だぞ。」
「わかりました。殿下の大切なお言葉、心に留めさせておきます。」
「やれやれ……モルガンとは違った堅物だな……それよりそこのカノーネとやらも言っていたが時間があまりないのであろう?部下達を困らせないためにも行ってやれ。余達はもう気にしておらぬ。」
「ハッ!それでは失礼いたします!……おっと、言い忘れる所だった。遊撃士諸君、何かあったら連絡してくれたまえ。私でよかったら相談に乗ろう。」
「……失礼いたします。」
リフィア達とエステル達にリシャールとカノーネは軽く会釈した後、その場を去った………


後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第42話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/06/20 18:29
久しぶりの連日投稿です。今回は懐かしい人物達の名前がチラッと出てきます。それとエステルはすでに原作からかけ離れているキャラだと再認識できることが書いてあります。




~ボース南街区~

「リシャール大佐って……どこかで聞いたことあるような。」
去って行くリシャールの後ろ姿を見てエステルは呟いた。
「ナイアルさんが言ってた人だね。王国軍情報部を率いるキレ者の若手将校だっていう。」
「あ、そうだった♪うーん、軍人にしてはけっこう話が判るヒトだったね。」
ヨシュアの言葉で完全に思い出したエステルはリシャールの自分達に対する態度を思い出し、感心した。
「ふむ、歳は30半ばくらい、ルックスも悪くないと来たか……。軍人より政治家に向いていそうね。」
シェラザードは自分なりにリシャールを解釈した。
「おーい、お前さんたち。今の黒服の軍人、誰なんだ?なんか見覚えがあるんだが……」
そこにナイアルが工房から出て来て首を傾げながらエステル達に尋ねた。
「なんだ、顔は知らないんだ。ナイアルが言ってた、情報部のリシャール大佐だってさ。」
「な、なにーーーーっ?おいおい、そりゃホントか?」
エステルの答えに驚いたナイアルは聞き返した。

「う、うん……。」
「本人がそう名乗っていたから間違いないと思いますけど……」
ナイアルの様子にエステルはたじろぎ、ヨシュアは丁寧に答えた。
「まさかこんなところで噂の人物に出くわすとは……。こうしちゃいられん!ドロシー、追いかけるぞっ!」
「アイアイサー!よくわかりませんけど~」
エステル達の答えを聞いたナイアルはドロシーと共にリシャールを探すために走り去った。
「は、張り切ってるわね~。インタビューでもするのかな?」
「ふふ、確かに記事にしたら受けそうな人物ではあるわね。」
ナイアル達の様子を見て呟いたエステルの言葉にシェラザードは笑って答えた。
「……ふむ………」
「ん、どうしたの?珍しく真剣な顔しちゃって。」
オリビエの真剣な表情を珍しく思ったエステルは声をかけた。
「いや、今の大佐なんだが……。なかなかの男ぶりであるのはボクも認めるに吝(やぶさ)かではない……。しかし……」
「しかし……なんですか?」
続きが気になり、何かあると思ったヨシュアはオリビエに尋ねた。
「ボクのライバルとなるにはまだまだ役者不足だと言えよう。より一層の精進を期待したいね。」
「聞くんじゃなかった……」
「その自信がどこから湧いてくるのか不思議ですね。」
しかし次に出たオリビエの言葉が全てを台無しにし、エステルとヨシュアは疲れた表情をした。

「そう言えば……さっき大佐達が言ってたけど、イーリュン教で有名でプリネのお母さんと同じ『聖女』の『癒しの聖女』さんがメンフィルの皇族というのは本当なのかい?」
話を変えるためにヨシュアはリシャールが言っていたある事をリフィア達は否定せず、認めたことが気になって聞いた。
「ん?ティア殿のことか?さっきも言ったがティア殿は余の叔母上であり、プリネや父にとっては腹違いの姉になるぞ。」
「おや?確か『癒しの聖女』の名前は『ティア・パリエ』だったと思うのだが……?」
「よく知ってるわね~」
オリビエがティアのフルネームを言った時、エステルは怪しい者を見る目付きでオリビエを見た。
「フッ……そう誉めないでくれ。照れるじゃないか。」
「誉めてなんていないわよ!どうせあんたの事だから、『癒しの聖女』っていう人も美人だから覚えていただけでしょーが。」
「ありえそうね……私も一度だけたまたま『癒しの聖女』がメンフィル大使のところに帰省した時、見たことがあるけど、師匠やメンフィルの武官達と並んでもおかしくない容姿はしていたからね……」
「ハハ………それでどうして『癒しの聖女』さんはリフィア達の名前を使わないんだい?」
エステル達とオリビエのやり取りに苦笑したヨシュアは本題を戻した。
「ティアお姉様は同じイーリュンの信者であったお母様の遺志を継ぐ意味でお母様の名前で名乗っているんです。それにマーシルンの名はどちらの世界でも有名すぎますから………もちろん必要と思った場面では私達の名前を使っているそうですから、多分リシャール大佐達はその時の情報を手に入れたんでしょうね……」
「……ねえ。話を聞いてて思ったんだけどさ。プリネのお父さんって聖女様を含めて何人奥さんがいるの?今までの話から考えると少なくとも3人はいるよね?」
プリネの説明を聞いていたエステルはある事に気付き聞いた。

「お父様の側室の数ですか?え~と……何人でしたっけ、お姉様?」
「正式に認められているのはアーライナ神官長ペテレーネ、闇剣士カーリアン、近衛騎士団長シルフィア、イーリュンの神官ティナに各王公領の姫君であった、セルノ王女ラピス、バルジア王女リン、スリージ王女セリエル、フレスラント王女リオーネだからリウイの側室は8人だな!」
次々とリウイの側室の名前を言うリフィアの言葉にエステルは一瞬、夜空の様な長く美しい黒髪をなびかせる女性と、その女性の横に並ぶように肩まで切りそろえた陽の光の様な輝く金髪の女性の後ろ姿が頭に浮かんだ。
(……え……?今、頭に浮かんだ2人は誰?何だろう?2人が自分のように思えるのはなんで………??)
リフィアが口に出して言ったリウイの側室であり”幻燐戦争”の英雄達の知らないはずのある名前を聞き、頭に浮かんだ女性達の後ろ姿にエステルは何かが心に引っかかり、無造作に胸を抑え俯いた。

「8人って……いくら大国の皇帝とはいえ凄い数だね……」
一方ヨシュアはエステルの様子に気付かず、リウイの側室の数に驚いた。
「それがリウイの器の大きさよ!世継ぎである子供を作るのも王としての務めだからな!」
「だからと言って限度があるでしょうに……よく後継者争いとかにならなかったわね?」
リウイのことを誇っているリフィアを見てシェラザードは溜息をつき呟いた。そしてシェラザードの言葉にプリネは微笑みながら答えた。
「フフ……確かに普通ならそう思いますが、お父様はああ見えて家族を大切にする方ですからお兄様方や側室の方々を誰一人ないがしろにせず、家族として大事に接してきました。また、側室の方同士仲がよかったですから。そのおかげで私を含めてお兄様方はみんな仲がいいですし、それぞれの側室の方々の中には領主、あるいはその親族である方もいらっしゃいましたから、その方々のご子息やご息女は自分の母親の領を継ぎましたし、中には兄妹同士で結婚した方々もいらっしゃいますよ。」

「ほう……半分とはいえ血が繋がっている兄妹同士が結ばれるとはこちらでは考えられないことだけど、それも異世界特有の文化かい?」
兄妹同士が結婚した事に驚きを隠せていないオリビエはプリネに聞いた。
「……まあほとんどの神殿では兄妹同士の結婚は禁じられていますが、メンフィルと友好的な神殿では特に禁じられている訳ではありませんから。」
「ふむ……しかし夫婦の絆でもある子供は生まれるのかね?兄妹同士では生まれないと聞いたことがあるよ?」
「その心配は無用です。すでにその証拠はオリビエさんの目の前にいますよ?」
「ほう。どういうことかね?」
プリネの言葉にオリビエは首を傾げて聞いた。そしてオリビエの様子を見てリフィアは胸をはって答えた。

「その証拠とは余だ!」
「リフィアが?」
高らかに言ったリフィアをヨシュアは不思議そうな表情で見た。
「うむ!余の父――シルヴァンはリウイと側室の一人であり近衛騎士団長であったシルフィアの息子で、同じく母――カミ―リはリウイと同じ側室のカーリアンの娘だ!」
「へえ………エステル?どうしたんだい?」
弱冠驚いたヨシュアは先ほどから黙って俯いているエステルの様子がおかしいと思い、声をかけた。
「へ!何??」
ヨシュアに呼ばれたエステルは驚いて顔を上げた。
「いや、エステルがさっきから黙っているからどうしたのかと思って。」
「ちょっと考え事よ!それより、リフィアのお父さんが今のメンフィル皇帝だっけ?」
「うむ、それがどうかしたか?」
「さっきの話を聞くとリフィアのお父さん達のお母さんって側室なんだよね?」
「……ああ。」
エステルの言葉に何かあると思ったリフィアは真面目な表情をして先を促した。

「気になったんだけど……プリネのお父さん――リウイって人だっけ?のえ~と……正室の子供はいないの?」
「!!」
エステルの言葉にリフィアは目を大きく開いて驚き
「………………」
エヴリーヌは複雑そうな表情をし
「…………………それは…………」
プリネは悲しそうな表情で呟いた。
「え?え?何?あたしなにかマズイこと言った??」
リフィア達の空気が凍ったことに気付いたエステルは慌てて聞いた。
(どうしたんでしょう、リフィア達。)
(私にもわかんないわよ……ただ、以前師匠にもメンフィル大使の正室の方はどんな方か聞いたことがあるんだけど、いつもはぐらかされるのよね……)
(ふむ……何か深い理由がありそうだね。)
リフィア達の様子がいつもと違う事にヨシュア達は小声で会話をしていた。

「えっと……お父様の正室の方ですね。実は正室の方は若くして子を残さず死去されたのです。」
「あ………ゴメン……もしかしてあたしかなりマズイことを言ったみたいだね………」
気を取り直したプリネの言葉にエステルは気不味そうな表情をして謝った。
「いえ、気にしない下さい。知らなかったのですから仕方ありません。……お父様と正妃様の出会いは決していいものではありませんでしたが、お互い惹かれ、愛し合い、周囲の者達が羨むような仲睦まじい夫婦で、誰もがお父様達の子を期待したのですが正妃様は若くして無念の死を遂げられたのです……」
「そう……だったんだ……病気か何か?」
「………まあ、そのようなものだ。ちなみにプリネの母であるペテレーネは当時、リウイと正妃様の傍で世話をする侍女として仕えていたのだ。」
「聖女様が………」
リウイの愛妻、イリーナの最後を誤魔化し話を変えたリフィアから聞いた、ペテレーネの以外な過去にエステルは驚いた。

「まあ、それは今でも変わっておらぬがな。プリネを産んで側室という位を得たにもかかわらず、未だにあ奴は臣下の態度を取り続けているからな……リウイはもちろんのこと、余やファーミシルス、同じ側室であるカーリアンも気軽な態度をとることを認めているというのに………」
リフィアはペテレーネのリウイに対する普段の態度を思い出し溜息をついた。
「まあ今まで仕えている人、しかも皇帝に臣下の態度をなくすなんて本人にとっては難しいことだと思うわよ。……さて、話はここまでにして調査の再開をしましょうか。」
「うん、そうだね。そういえばハーケン門でリフィア達がヴァレリア湖で何か気になることがあったて聞いたけど何なの?」
シェラザードの言葉に頷いたエステルは調査を再開しようと歩きかけた時、ある事を思い出しリフィア達に聞いた。

「おお、それを伝えるのをすっかり忘れていたな。」
エステルから聞かれたリフィアはエステル達がラヴィンヌ村に行き軍に拘束されている間に手に入れた情報を話した。それはヴァレリア湖で最近妖しい男女の2人組が現れ会話を
しているというものだった。そしてその内の女性が学生服を着ていたことをエステル達に伝えるとエステル達は驚いた。
「学生服って、まさか……」
「ジェニス王立学園かい!?」
リフィア達の情報にエステルは驚きヨシュアは確認した。
「余はそのジェニス王立学園とやらの制服は知らぬが少なくともその情報を持っていた者は、学生服を着ていたと言っていたぞ?」
「……決まりね。早速ヴァレリア湖に行きましょう。」
シェラザードはリフィアの言葉に頷き、エステル達に目的地であるヴァレリア湖に向かうよう促し歩き出した。エステル達が歩き出しリフィアとプリネが仲良く会話をしている姿を、オリビエはエステル達が見た事もない意味ありげな眼差しで後ろから見つめた。
「…………フッ………………(ボクとしたことが……らしくないことを考えてしまった。)」
口元に笑みを浮かべた後、すぐにいつもの表情に戻したオリビエはエステル達の会話に混ざり、エステル達と共にヴァレリア湖に向かった………




後書き 今回の話で幻燐やっている人にとってはエステルに隠された真実がバレバレのような気がします。………今更ですが碧の軌跡の公式でキャラクター達が一挙公開されましたね!ランディ、再び仲間でよかった……そしてノエルとワジはいつのまにやらメインキャラに昇格……ノエルはわかるんですがなぜ、ワジの所属が特務支援課に??って思いましたよ……どっちにしろ期待がさらに大きくなりました♪感想お待ちしております。



[25124] 第43話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/06/23 22:40
~ヴァレリア湖畔~

「ここがヴァレリア湖の北岸か……。なかなか雰囲気がいい場所ね」
「そうだね。宿も立派そうだし。」
ヴァレリア湖についたエステルは辺りを見て感想を言い、ヨシュアもエステルの言葉に頷いた。
「前に仕事で泊まった事あるわ。酒は美味しいし、部屋も良い、文句のつけられない宿だったわね。」
「食事のほうも美味しかったですよ。」
「ん。アンテローゼ?だっけ。あそことはまた違った美味しさだったよ。」
「うむ!風景、宿の雰囲気、酒や料理……どれも素晴らしい物だった!余も個人的に何度も来たいと思うところであったぞ。」
「うーん、遊びに来たんだったら言うことなしだったんだけど……」
シェラザードやプリネ達の高評価にエステルは残念そうな表情をした。
「あれ、違うのかい?ボクはそのつもりだったけど。昼はボートに揺られうたた寝し、夜は酒と料理に舌鼓を打つ……。これぞバカンスというやつだね。」
「「………………………………」」
「「………………………………」」
「「………………………………」」
オリビエの言葉にエステルとリフィアは怒ったような表情でオリビエを睨み、ヨシュアは呆れたような視線を送り、プリネは困ったような視線を送り、シェラザードとエヴリーヌは冷ややかな視線をぶつけた。
「ハッハッハッ。ちょっとしたジョークさ。バカンスはいつでも楽しめるが、空賊退治は今しか楽しめない……。このオリビエ、優先順位はちゃんと弁(わきま)えているつもりだよ。」
エステル達に睨まれたオリビエは笑って誤魔化した。
「楽しむ、楽しまないの問題じゃないと思うんだけど……」
脱力したエステルは溜息をついた。
「ふふ、まあいいわ。本気でやってくれさえすれば。……さて、プリネさん達が言ってた目撃者を捜すわよ。」
そしてエステル達はプリネ達の情報の元となった目撃者を探し始めた。

しばらく歩いて探していると桟橋で釣りをやっている男性がいた。
「あ……確かあの人です。そうですよね、リフィアお姉様?」
プリネは釣りをしている男性を見てリフィアに確認した。
「うむ。」
「じゃあ、早速声をかけて見ますか。あのー、ちょっといいかな?」
「………………………………………………………………」
エステルは話を聞くために声をかけたが男性は釣りに夢中で全く気付かなかった。
「あれ?」
全く反応がない男性にエステルは首を傾げた。
「……エヴリーヌ達が話しかけた時も同じだったよ。釣りが終わるまで話しかけても無駄だと思うよ。」
「すごい集中力だね……魚以外目に入らないみたいだ。」
エヴリーヌの言葉を聞き、ヨシュアは男性の動作を見て感心した。
「フッ、仕方ない。ここはボクの出番のようだね。」
「へっ……」
オリビエが前に出て来、何かすると思ったエステルは場所を空けた。そしてオリビエは男性の傍に近づき耳に息を吹きかけた。
「……ふう~っ……」
「ひゃああっ!?な、なんだね君たちは!?い、い、いつからそこにっ!?」
オリビエの行動に驚いた男性は飛び上がり、エステル達に気付いた。

「エ、エゲツな~……」
「見ているコッチも思わず鳥肌が立っちゃったわね……」
「……プリネ、あいつの傍いっちゃダメだよ。」
「フフ、ありがとうございます。エヴリーヌお姉様。」
オリビエの行動にエステルとシェラザードは呆れ、エヴリーヌはプリネを守るように自分の後ろに隠すためにプリネの前に移動した。
「やあ、ごきげんよう。先程から声をかけていたんだが、さすがプロ、凄い集中力だねぇ。」
驚かした張本人であるオリビエは悪びれもせず話しかけた。
「あなたがロイドさんですね?」
「あ、ああ、その通りだが。はて、どうして私の名を?」
ヨシュアの言葉に男性――ロイドは首を傾げた。
「ここにいる3人からあなたのことを聞いたのよ。少し時間をいただけないかしら?」
シェラザードはリフィア達をロイドに見えるようにどき、尋ねた。

「なるほど……そこのお嬢さん達から聞いたのか。ああ、確かに見たよ。おとといの夜、奇妙な連中をね。」
「やっぱり……。その話、あたしたちにも詳しく教えてくれないかな?」
「……その前に。君たちは遊撃士だって?何か事件に関係することかい?」
エステルの質問にロイドは聞き返した。
「断言は出来ません。ですが、可能性はあります。」
「わかった……そういう事なら協力しよう。」
ヨシュアの説明に頷いたロイドは話し始めた。
「おとといの晩……ボートで夜釣りに出た時のことさ。ヌシとの格闘に明け暮れた私はクタクタになって宿に戻ってきてね。すっかり夜も更け、宿の者全員が眠りに就いている時間になっていた。」
「ちょっと待って。……そのヌシっていうのは?」
ある言葉が気になりシェラザードは尋ねた。
「よくぞ聞いてくれました!」
シェラザードの質問にロイドは目を輝かせて声を上げた。
「ヌシというのはこのヴァレリア湖に住む巨大マスのことでねっ!もう10年以上も前から我々釣り愛好家のあいだで畏怖されている魚なんだよっ!」
(しまった……)
(マニア心に火をつけましたね……)
熱く語り出したロイドを見てシェラザードは後悔し、ヨシュアは溜息をついた。
「そ、そんな凄いヤツなんだ!?」
一方釣りが趣味であるエステルは興味心身で聞いた。

「ああ、私は5年近くヤツを追っているのだが……。なにせ、広大なヴァレリア湖をあっちに行ったりこっちに来たりと
気まぐれにエサ場を変える魚でね。最近、この辺りに現れた事を知って、私も王都から追っかけてきたわけさ。」
「フッ、大した情熱だ。その気持ち、判らなくもないよ。ボクも気に入ったものがあったら、何としても手に入れたくなる口でね……たとえば『グラン=シャリネ』とか。」
「あれは手に入れたんじゃなくて飲み逃げしたたげでしょーが。」
ロイドの情熱に同じ気持ちのつもりのオリビエだったが、すかさずエステルが否定した。
「コホン……話を戻すわよ。それで、ロイドさん。夜釣りから戻ってきてどうしたの?」
話を戻すためにシェラザードは咳払いをした後、再び尋ねた。
「あ、ああ……。それで、ボートを戻して宿の中に入ろうとしたんだが……。奇妙な二人組が、宿の敷地から街道に出て行くのを見かけたんだよ。」
「街道って……そんな真夜中にですか?」
ロイドの言葉に疑問を持ったヨシュアは尋ねた。
「ああ、間違いない。アンセル新道に出て行ったよ。最初は、街から遊びにきた連中が戻るところなのかと思ったけど……さすがに時間が遅すぎるし、次の日、宿の人間に聞いてみたらそんな連中知らんと言うじゃないか。幽霊でも見たんじゃないかって思わず背中がゾーッとしたものさ。」
「ゆ、幽霊!?そ、そんなの出るの、ここ!?」
思い出して震えているロイドの言葉にエステルは悲鳴を上げた。

「はは、何せその二人組、若い男女のカップルだったからね。もしかしたら、周囲に認められずに心中したカップルだったのかも……」
「あぅぅぅ~、や、やめてよぅ!」
怪談話をするようなロイドの雰囲気にエステルは悲鳴を上げて耳を塞いだ。
「やれやれ……相変わらず幽霊話には弱いのね。」
「そのクセ聞きたがるんですよ。怪談とか、世にも奇妙な物語とか。」
「ふふ、エステル君もそうやって恐がってる分には、なんとも可愛らしいじゃないか。寒さに震える子猫のようだよ♪」
震えているエステルの様子にシェラザードは苦笑し、ヨシュアは面白そうな表情で話し、オリビエはからかった。
「ふーっ、噛み付くわよ!?」
オリビエの言葉に頭にきたエステルは振り向いてオリビエを睨んだ。
(う~ん……幽霊ってそんなに怖いものですかね?リタさんのことを考えたらそれほど怖くないのですが……?)
(プリネ、あ奴を比較対象にしてはダメだ。参考にならん。)
(ん。エヴリーヌ達の世界にいる不死者とか怨霊を見たら、普通の人間は怖がると思うよ。)
幽霊を怖がっているエステルを見て、幼い頃に会ったことがある幽霊の少女のことを思い出したプリネは不思議がったが、リフィアは比較する相手が違うことを言い、エヴリーヌもリフィアの言葉に頷いた。

「ははは……まあ、幽霊っていうのは冗談さ。だが、訳ありのカップルというのはもしかしたら本当かもしれないんだ。女の子が変わった服を着てたからね。」
エステル達のやりとりに苦笑したロイドは話を続けた。
「変わった服……というと?」
ロイドの言葉が気になったヨシュアは聞き返した。
「そちらのお嬢さん達にも言ったが……後ろ姿から見て学生服を着てたみたいなんだ。」
「学生服って、まさか……」
「ジェニス王立学園ですか?」
「ほう、良く知っているね。私の姪も通っているんだが、それとソックリだったよ。」
ヨシュアの答えにロイドは感心して答えた。
「どうやらアタリを引いたみたいね……」
「うん!あの生意気娘、とうとう尻尾を掴んだわよ~っ」
シェラザードの言葉に頷いたエステルは以前空賊の娘にバカにされたことを思い出し、怒りを再熱させた。
「なんだ……君たちの知り合いだったのか?だったら、あの2人が思い詰めて早まったことをしないよう注意してやってくれ。たしか、今夜あたりにまた来るような事を話していたからね。」
「なるほど……。貴重な情報、感謝するわ。後は我々に任せてちょうだい。絶対に悪いようにしないから。」
「ホッ、そうか……そう言ってくれると助かる。何だか肩の荷が下りた気分だよ……安心したら今度はボート釣りがしたくなってきたな。こうしちゃいられん!君たち、私はこれで失礼するよ!……ああ、そうだ!もう一つ伝え忘れるところだった。」
シェラザードの言葉に安心したロイドはその場から走り去ろうとしたが、ある事を思い出し戻って来た。

「何かしら?カップルの件で伝え忘れた事かしら?」
戻って来たロイドにシェラザードはさらに情報があると思って聞いた。
「いや、それとは関係のない話になるんだけど、伝えさせてもらってもいいかな?」
「ええ、構わないわ。」
「わかった。……実はここ最近の噂なんだが、このヴァレリア湖に”竜”がいるっていう噂があるんだ。」
「”竜”ってあのよくお伽噺とかで出てくるやつ?大きな体で翼があって炎を吐く。」
ロイドの話にエステルは半信半疑で聞いた。
「ああ。炎を吐くかはわからないが翼はあって、巨大な体で後、湖の底から姿を現したという噂だ。」
「……そう、ありがとう。一応その情報も気にしておくわ。」
「遊撃士の人達にこの情報を伝えれてよかったよ。それじゃあ改めて失礼する!」
シェラザードにもう一つの情報を伝え、安心したロイドはその場を走り去った。

「……湖の底から”竜”か……リベールでも”竜”の伝承はあるけど湖の底から姿を現すってのはないわね……エレボニアではどう?」
ロイドの情報の真偽を考えたシェラザードはオリビエにも聞いた。
「エレボニアも同じだね。”竜”は高い山脈で眠り、大空から姿を現すことが伝えられているね。」
「……3人共、メンフィルでは心当たりはない?」
情報の真偽がわからずヨシュアはリフィア達にも聞いた。
「……一つ、心当たりはあります。」
「うむ、恐らく先ほどのロイドとやらが言ってた”竜”は”水竜”のことだな。」
「”水竜”??何それ??」
リフィアの言葉がわからなかったエステルは詳しい説明は聞いた。
「”水竜”とはその名の通り、海や湖等水の中で生活する”竜”の一種です。”水竜”は賢く、自分が認めた者にはその背にのせ共に戦ってくれる心強い味方にもなりますから、騎馬代わりに乗る騎士も結構いるのです。」
「うむ、その者達は”水竜騎士”と呼ばれるのだ。”水竜騎士”は”飛竜”をあやつり大空をかける”竜騎士”とは逆に地上を駆け、さらには水上での戦闘も可能だからどの軍でも主力となるのだ。」
「ほう……メンフィル軍にもいるのかい?」
リフィア達の説明を感心して聞いたオリビエは質問した。
「もちろんメンフィル軍にも”水竜騎士”はいます。ただ少し気になることがあるんですよね……」
「それはなんだい?」
考え込んでいるプリネが気になったヨシュアは続きを聞いた。

「”水竜”は普通大蛇のような姿をしているんです。ですが先ほどの男性の話では……」
「あ……『翼が生えてる』って言ってたよね!?」
プリネが考え込んでいる意味がわかったエステルは声を上げて言った。
「うむ。翼が生えてる”水竜”もいることはいるが、その”水竜”は恐らく”水竜”の中でも相当高位に値する種族だな。」
「高位……ってことはかなり強いんだろうな~。でも、なんでこんな所にいるんだろ??」
「エステル……ロイドさんの話はあくまで噂だよ。まずいるかどうかわからないじゃないか。」
すっかり噂の竜がいると思いこんでいるエステルにヨシュアは呆れて注意した。
「あ……そっか。」
「まあ、一応心にとどめておきましょ。それより例のカップルを待つために今日はここで宿をとるわよ。」
シェラザードはヨシュアの言葉に頷き、今後の方針を言った。
「ふむ、先ほどから話によく出ていたそのカップルがどう事件に絡んでくるんだい?事情を知らないボクにも懇切丁寧に教えてくれたまえ。」

そしてエステル達は事情を知らないオリビエに空賊達のことを説明した後、真夜中まで待つために宿を取ることにして、それぞれ一時の休憩に入った……






後書き もうお気づきかと思いますが今回の話ですでに新クロスオーバーキャラ2人目の話も出て来ています。まあ、わかる人にはわかるでしょうね……感想お待ちしております。



[25124] 第44話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/06/28 08:42
今回はみなさんも予想していた新クロスオーバーキャラ2人目が出てきます!



宿屋の受付で部屋をとったエステル達は一端自由行動にした。シェラザードとオリビエは果実酒を飲みかわし、エステルとリフィアは釣りで勝負をして楽しみ、ヨシュアとプリネはそれぞれ宿屋のベランダにあるテーブルの傍にある椅子に座り読書をし、またエステルとプリネは使い魔達を召喚し自由に遊ばせ、エヴリーヌは適当な場所で日向ぼっこをして昼寝をした。楽しい時間はすぐに過ぎ、気がつくと夕方になっていた。

~ヴァレリア湖・夕方~

「ふ~、もう夕方か……」
「む?もう、そんな時間か。」
魚をまた釣ったエステルは辺りが夕焼けにそまっているのに気付き、リフィアはそれに気付いて残念そうな表情をした。
「うん!なかなかの戦果ね。」
「むむむ……余が勝負事で負けるとは。次はこうは行かないぞ!」
「ふふ~ん♪いつでも受けて立つわよ♪」
エステルが釣った魚の数と自分が釣った魚の数を見てリフィアは唸り、エステルは得意げな表情をした。
「見て見て、ヨシュア、プリネ。こ~んなに釣っちゃったわよ!」
「ふふ、凄いですね。」
読書をしているヨシュア達に自慢するために振り向いたエステルだったが、そこにはプリネしかいなかった。
「あり?ヨシュアは?」
「ヨシュアさんでしたら、先ほど席を立ってどこかに行きましたよ。」
「ふ~ん。……あれ、これって……」
机に近づいたエステルはテーブルの上に置いてある本――『実録・百日戦役』を見つけた。
「あら。先ほどヨシュアさんが読んでいた本ですね。」
「じゃあ、ヨシュアの忘れものじゃない。いつも澄ましてるクセに割と抜けてるトコがあるのよね~。仕方ない、あたしが届けてやるか。」
「私達はエヴリーヌお姉様を起こして先に宿屋で待ってますね。」
「うん、わかった。」
そしてエステルはヨシュアを探して歩き周った。

~外れの桟橋~

そこにはヨシュアが無言で寂しそうに佇んでいた。
「よっ、少年。こんなところで何をたそがれておるのかね?」
「はは……たそがれてなんかいないけどね。もう、釣りはいいの?リフィアと勝負していたんじゃないの?」
エステルの声のかけかたに苦笑しながらヨシュアは振り向いた。
「うん、夕食の時間が近いから切り上げてきちゃった。もちろん、あたしの勝利でね♪あ……そうだ。」
エステルはヨシュアに先ほど見つけた本を差し出した。
「も~、読書するとか言って置きっぱなしにしちゃってさ。それに美人でスタイル抜群、おまけに器量よしと女の子として完璧な上、皇女様なプリネといっしょに読書をする機会なんて滅多にないわよ~。せっかく気を効かせて話しかけなかったのに、ヨシュアったら読書に夢中でプリネには一回も話しかけないなんて勿体ないわね~。そんなんだから可愛い彼女ができないんだよ?」
「余計なお世話だよ。そういうエステルだって皇女様と釣りで勝負するなんて、釣り勝負の中では前代未聞じゃないのかい?」
エステルのからかいの言葉にヨシュアは溜息をついた。
「まあいいや。……ちょうど読み終わったばかりでさ。目が疲れたから気分転換に散歩してたところなんだ。」
「こーら。」
ヨシュアの様子に溜息をついたエステルは近付いた。
「な、なに?」
エステルが近付きヨシュアは珍しく焦って一歩下がった。

「まーた1人だけでなにか溜め込もうとしてるな?分かるんだってば、そーいうの。」
「………………………………」
エステルの言葉にヨシュアは口を閉ざした。
「大体ね、フェアじゃないわよ、ヨシュアだって、あたしが落ち込んだ時には慰めるクセに……あたしじゃ父さんみたいに頼りにはならないと思うけど……それでも、こうやって一緒にいてあげられるんだから。」
ヨシュアの隣に来たエステルは優しい笑顔でヨシュアに言った。
「…………………………………………ごめん…………」
エステルの言葉にヨシュアは辛そうな表情で謝った。
「こういう時には、ありがとう、でしょ?ヨシュアって頭はいいけど肝心なことが分かってないんだから。」
「はは、本当にそうだな。ありがとう……エステル。」
エステルが教えたことにヨシュアはようやく笑い、お礼を言った。
「うむうむ、苦しゅうない。あ……そうだ!ハーモニカを1曲。お礼はそのあたりでいいわよ。」
「おおせのままに……『星の在り処』でいいかな?」
ハーモニカを取り出したヨシュアはなじみ深い曲でいいか尋ねた。
「うん。」
エステルが頷き、桟橋を支えている木の柱に座ったのを見て、ヨシュアはハーモニカを吹き始めた。

~~~~~~~~~~~♪ 
ヨシュアのハーモニカの曲は儚げながらも耳に残る曲で、シェラザードやオリビエ、プリネ達を含めヴァレリア湖の客達も耳を傾けて聞いていた。ちなみにヨシュアのハーモニカの曲にプリネは驚いた表情で聞いていた。

「えへへ、なんでかな。ハーモニカの音って夕焼けの中で聞くとなんだか泣けてくるよね。」
ヨシュアがハーモニカを吹き終わるとエステルは目元についていた涙を拭った。
「………………………………相変わらず……何も聞かないんだね。」
「………………………………あは……約束したじゃない。話してくれる気になるまであたしからは聞かないってね。」
エステルから目をそむけているヨシュアにエステルは苦笑して言った。
「それに5年も経つんだもん。なんか、どーでも良くなったし。」
「そう……5年もだよ。どうして何も聞かずに一緒に暮らせたりするんだい?あの日、父さんに担ぎ込まれたボロボロで傷だらけの子供を……昔のことをいっさい喋らない得体の知れない人間なんかを…………どうして君たちは受け入れてくれるんだい……?」
エステルの前向きな言葉にヨシュアは不思議に思い、真剣な表情でエステルを見た。
「よっと………そんなの当たり前じゃない。だってヨシュアは家族だし。」
ヨシュアの言葉を気にせず、腰を上げて立ったエステルは事も無げに言った。
「………………………………」
エステルの言葉にヨシュアは呆気にとられたような表情をした。
「前にも言ったけど、あたし、ヨシュアのことってかなーり色々と知ってるのよね。本が好きで、武器オタクで、やたらと要領がよくて……人当たりはいいけど、他人行儀で人を寄せつけないところがあって……」
「ちょ。ちょっと……」
どんどん自分のことを言うエステルにヨシュアは制しようと声を上げたが
「でも、面倒見は良くて実はかなりの寂しがり屋。」
「………………………………」
エステルの言葉に口を開いたまま黙った。

「もちろん、過去も含めて全部知ってるわけじゃないけど……それを言うなら、父さんやお母さんの過去や出会いだってあたし、あんまりよく知らないのよね。だからと言って、あたしと父さんやお母さんが家族であることに変わりはないじゃない?多分それは、父さん達の性格とか、クセとか、料理の好みとか……そういった肌で感じられる部分をあたしがよく知ってるからだと思う。ヨシュアだって、それと同じよ。」
言いたいことを言い終えたエステルは満面の笑みを浮かべてヨシュアを見た。
「………………………………本当に……君には敵わないな。初めて会った時……飛び蹴りをくらった時からね。」
「え……。そ、そんな事したっけ?」
ヨシュアの言葉にエステルはたじろいだ。
「うん、ケガ人に向かって何度もね。」
「あ、あはは……幼い頃のアヤマチってことで。」
ハッキリ言ったヨシュアにエステルは苦笑しながら言った。
「はいはい。……ねえ、エステル。」
「なに、ヨシュア?」
「今回の事件、絶対に解決しよう。父さんが捕まっているかどうか、まだハッキリしてないけど……。それでも、僕たちの手で、絶対に。」
「うん……モチのロンよ!」
ヨシュアの真剣な言葉にエステルは元気良く頷いた。
「ふふ……そろそろ宿に戻ろうか?食事の用意もできてる頃だろうし。」
「うん、お腹ペコペコ~。しっかりゴハンを食べて真夜中に備えなくちゃね。」
そしてヨシュアとエステルが宿に戻ろうとした時、ヨシュアは何かの気配を感じて足を止めた。

「!エステル、気をつけて!」
「ふえ!?」
いつでも戦闘ができるようにヨシュアは双剣を構えたが、エステルは驚いて周囲を見渡した。すると湖の底から巨大で翼を持つ竜らしき生物が大きな水音を立て、現れた。
ザッパーーーーーン!!
「な!!」
「り、竜!?」
湖の底から現れた竜のように見える生物を見て、2人は驚いて声を出した。
「まさか、噂が本当だったなんて……もしかして、この竜?がプリネ達が言ってた”水竜”なのかな?」
「………みたいだね。どうする、エステル?」
水竜と思わしき生物を見上げたエステルは呟き、ヨシュアは頷いた後武器の構えを解かず、どうするかエステルに聞いた。
「どうするって……どうしようかしら??」
ヨシュアの言葉にエステルは判断がつかず、首を傾げた。すると水竜は長い首を動かし、エステルに顔を近づけた。
「エステル!!」
エステルに近づく水竜にヨシュアは焦って双剣を構えて声を出した。
「待って、ヨシュア。」
焦って攻撃をしようとするヨシュアにエステルは片手で制した。エステルの言葉通り、近付いてきた水竜の顔はエステルの目の前で止まり、エステルを見つめた。

「あたしに何か用?」
自分を見つめている水竜にエステルは言葉をかけた。
「……………………」
しばらくエステルを見つめていた水竜はエステルから感じる僅かな懐かしい魔力やエステルの雰囲気に、水竜が子供の頃に出していた鳴声でエステルに甘えた。
「………ク―…………」
水竜が感じた僅かな魔力とは水竜がかつて契約した主と同じ魔力だったのだ。なぜ、エステルにかつての主の魔力が僅かながら感じたのは、水竜と同じ主に仕えたことのあるパズモと契約した際、パズモに残っていたかつての主の僅かな魔力がエステルの魔力と混ざっていたのだ。
「わぁ、見た目によらず結構可愛い鳴声ね♪」
一方理由がわからないエステルは水竜の鳴声に喜び、手を出した。すると水竜は懐くようにエステルの手に顔を擦りつけた。
「ふふ、くすぐったいわよ♪」
「やれやれ、相変わらず凄いな。エステルは……」
エステルと水竜のやりとりにヨシュアは安心して武器を収めた後、水竜と仲良くしているエステルを感心した表情で見た。そしてある事を考えたヨシュアはエステルに聞いた。

「エステル、もしかしてその水竜の言葉がわかるの?」
「ううん。契約している訳でもないし、この子の言葉はわかんないわよ。でも、なんとなくこの子は悪い子じゃないって感じるのよね……」
答えたエステルは水竜の頭を優しく撫でた。エステルに撫でられた水竜は気持ちよさそうに甘えるような鳴声を出した。
「ク―♪」
「ふふ、ここが気持ちいいのね……よしよし……」
少しの間エステルは水竜を撫でて遊んだ。そしてしばらくするとヨシュアは口を開いた。
「……エステル、名残惜しいとは思うけど。」
「うん、わかってる。ゴメンね、あたし達はもう行かないとダメなんだ。いつかまた会いに来るから、その時はいっぱい遊んで上げるね!だからそれまで、良い子にして大人しく待っているのよ?」
エステルの言葉を理解した水竜は名残惜しそうにエステルを見た後、エステルから離れて、静かに湖の底に潜った。

「……さて、シェラ姉達のところに行こう、ヨシュア。」
水竜が潜った場所を見続けたエステルはヨシュアに宿に戻るよう、促した。
「それはいいけど、さっきの水竜をシェラさん達にどう説明しようか?」
「見たまんまのことを伝えればいいじゃない。少なくとも人を襲うような子じゃないでしょ。」
「……そうだね。じゃあ、行こうか。」
「うん!」
そしてエステル達は宿に戻って行った。
「……………………………………」
水竜とのやりとりをラヴィンヌ山道からエステルを観察していた狐らしき生物が見ていたことには気付かずに……


後書き
もうお気づきと思いますがエステルがどこかの誰かさんが契約を解除した召喚キャラとの契約フラグを作っていることにはつっこまないで下さい♪まあ、今回の話でこれからの話で出てくる新クロスオーバーキャラも予想できますが。……感想お待ちしております。



[25124] 第45話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/06/30 21:06
その後、宿に戻り食事をしたエステル達だったが、シェラザードが調子に乗ってオリビエに酒を飲ませまくったので見回りの時間である深夜になると、オリビエはすでに泥酔してベッドに寝転がり起き上がらなかった。

~ヴァレリア湖・宿屋川蝉亭・2階寝室~

「あー……うー……。うーん……げふへふ……」
「あーあ、完全にグロッキーね。さすがの超マイペース男も酔ったシェラ姉には勝てなかったか。」
ベッドで魘されているオリビエを見て、エステルは溜息をついた。
「いやあ、飲んだ飲んだ。最近色々あって飲めなかったから、久しぶりに堪能しちゃったわ♪」
「もう完全に素面(しらふ)だし……。シェラさん、何か特殊な訓練でも受けているんじゃないんですか?」
すでに酔いが覚めているシェラザードにヨシュアは疑問を持った。
「うーん、ゲテモノ酒のたぐいは一座にいた頃から飲んでたけど。サソリ入りとか、マムシ入りとか。後、大使館で一年の終わりにする宴会にも師匠のお誘いで参加させてもらって、その時高級なお酒を何本も呑んだこともあったからね。それで酒に強くなったのかしら?」
「いや……それは違うんじゃないかなぁ。ていうか、シェラさん。やっぱり大使館にも迷惑をかけたんですね……」
シェラザードの昔の行動をヨシュアは苦笑して違うことを指摘した後、呆れた。
「何よ、やっぱりって。だって、せっかく誘ってもらったのを断るなんて失礼でしょ?」
「いやシェラ姉の場合、意気揚々と行きそうなんですけど……」
心外そうな顔をしているシェラザードにエステルは呆れて、白い目で見た。
「う、うるさいわね。それにメンフィル大使も悪いのよ!今まで呑んだこともない美味しいお酒や滅多に手が出せない高級なお酒を湯水のように兵士や使用人にも振舞うんだから、つい私もそれに便乗して頂いちゃったのよ!」
エステルとヨシュアに白い目で見られたシェラザードは焦って言い訳をした。
「……でもお兄ちゃん、呆れ半分で感心してたよ。『まさか、酒が苦手なペテレーネが呼んだ客が一番酒を飲むとはな』って。」
「う”………」
しかし、エヴリーヌに突かれシェラザードは一歩後退した。

「ま、まあ気にする必要はないですよ。お母様はお酒は苦手であまり呑めませんし、カーリアン様やファーミシルス様も自分達と対等に飲み勝負ができる方がいらっしゃって、楽しんでおられましたし。」
プリネは苦笑しながらシェラザードをフォローした。
「うう、この場の味方はプリネさんだけね……というか、プリネさんやリフィアさんのほうも結構呑んでた割には平気な顔をしていなかったかしら?」
「余やプリネは酒に強くて当然……いや、強くなくてはいけないからな。」
「それはどうしてだい?」
シェラザードの疑問に答えたリフィアの言葉にヨシュアは聞き返した。
「私達は”皇女”ですからね。お酒にやられて判断がつかないところを狙われて”間違い”を起こしたり、覚えのない婚約を結ばせる訳にはいきませんから。」
「ま、”間違い”って……」
プリネの言葉からある事を連想したエステルは顔を赤らめた。
「まあ、国内でそんなことを考える輩はいないが、他国との付き合いではどうしても酒は出てくるものだ。だから、余達――皇族は酒に慣れるために幼少の頃より必ず食事に酒は出されたし、判別の仕方等でも呑んだから自然と強くなったのだ。……まあ、父達やリウイが酒に強いのも関係していると思うがな。」
「なるほどね……」
ヨシュアはリフィアやプリネの説明に納得して頷いた。

「それよりもコイツ、どうするの?しばらく使い物にならないわよ。」
ベッドに寝込んでいるオリビエをエステルは一切心配せず、どうするか聞いた。
「このまま寝かせておきましょう。……ここから先は、空賊たちと直接対決になる可能性が高いわ。やっぱり、ただの民間人を巻き込むわけにはいかないからね。」
「え、もしかして……。付いて来させなくするために、わざとオリビエを酔わせたとか?」
シェラザードの言葉にエステルは驚いて聞いた。
「えっ……。………………………………。あ、当ったり前じゃない。深慮遠謀のタマモノってヤツよ。」
「その間は何なのよ……」
「絶対ナチュラルに楽しんでたね。」
「絶対今の、嘘だね。」
「あはは……」
「やれやれ……戸惑わずにすぐに答えればその嘘も本当に思えたものを……」
少しの間考えた後、笑顔で肯定したシェラザードにエステルやヨシュア、エヴリーヌは白い目で見て、プリネは苦笑し、リフィアは溜息をついた。

そしてエステル達は真夜中に隠れて、見張っていたところロイドの話通りのカップル――空賊の兄妹が現れ、さらに黒装束の怪しい人間達と会話をし始めた。
シェラザードの提案でエステル達は空賊達が黒装束達と話をしている隙に、空賊艇を抑えるために一端ヴァレリア湖から離れて飛行艇が停泊できそうな所を探していたところ、なんと昔からある遺跡――琥珀の塔の前に空賊艇が停泊し、さらに空賊達がたき火をたいて自分達を纏めている人物達――キールやジョゼットを待っていた。

~琥珀の塔・入口前~

「なるほど『琥珀の塔』の前か。確かに街道から外れてるから停泊場所としてはうってつけね。」
岩陰に隠れながらシェラザードはたき火を囲っている空賊達や空賊艇を見て、頷いた。
「『琥珀の塔』ってロレントの『翡翠の塔』と同じような塔だったっけ?」
「『四輪の塔』と呼ばれている古代遺跡の1つだよ。」
エステルの素朴な疑問にヨシュアは簡単に説明した。
「みなさん……どうします?奇襲して制圧しますか?」
「そうね……。前に遭遇した時と較べて手下の人数が倍以上いるけど……(どうする……むこうの数は多少上だけど、以前戦った時のあいつらの戦力を考えると下っ端を率いている男や少女を除けば一人一人ほとんど素人に近かったし、加えてここにプリネさん達がいることや、
エステルやプリネさんの精霊や使い魔達を数に入れれば同等以上の数になる上、一瞬の制圧は可能……でも、下っ端達を捕まえてもあまり意味がないと思うのよね……)」
プリネに提案され、シェラザードはどうするか悩んだ。
「大丈夫だって。制圧できない数じゃないよ。」
「うむ。余がいるのだ!負けはない!!」
「キャハッ♪殺さないように手加減するのは面倒だけどエヴリーヌは遊べるなら、いつでもオッケーだよ♪」
シェラザードが悩んでいる所エステルやリフィア、エヴリーヌが意気込んでいたところ

「フッ……それはどうかと思うけどね」
いつのまにかオリビエが草陰から飛び出してきた。
「やあ、待たせてしまったね♪」
酔っぱらって寝込んでいたはずのオリビエは何事もなかったのように、いつもの調子のいい笑顔で言った。
「オ、オリビ……むぐ。」
(ふぅ……)
オリビエの姿を見て驚いたエステルが大声を出そうとしたが、傍にいたプリネが両手でエステルの口を塞いだので大声を出さずにすんだ。
「静かに……あいつらに気付かれるよ。」
「…………(コクコク)」
ヨシュアの言葉にプリネに口を塞がれたままのエステルは頷いた。それを見たプリネは安心して、エステルの口から手を離した。
「驚いたわね……。あの酔いつぶれた状態から、よくそこまで回復したもんだわ。」
「うむ、さすがの余も驚いたぞ。一体どんな方法をとったのだ?」
「フッ、任せてくれたまえ。胃の中のものをすべて戻して、冷たい水を頭からかぶってきた。」
シェラザードやリフィアの感心した声にオリビエは得意げに語った。
「あ、ありえない……」
「なんと言うか、執念ですね……」
オリビエが酔いから復活したやり方を聞いたエステルやヨシュアは呆れて溜息をついた。また、シェラザードやプリネ達も呆れや驚きなどの表情をオリビエに向けていた。エステル達の様子に気にせずオリビエは笑いながら話し続けた。
「こんな面白そうな事を見逃すわけにはいかないからね。ちょうど宿から出たところで街道に出るキミたちを見かけて、ようやく追いついたという次第さ。」
「ツメが甘かったわね……。火酒に一気飲みでもさせておけば良かったかしら?」
「それは確実に死ねるんで勘弁してくれたまえ……」
しかし、シェラザードの言葉に顔面蒼白になった。

「それよりもキミたち。ここで空賊たちと戦うのは少々面白くないと思わないか?」
「別に面白くなくてもいいの!」
理解できないオリビエの発言にエステルは怒った。しかしオリビエはエステルの怒りを気にせず、珍しく真面目な表情で自分の意見を言った。
「いや、これは真面目な話。ここで戦って、ついでにあの兄妹を捕らえたところでだ。彼らがアジトの場所について口を割らない可能性だってある。それどころが、人質をタテに釈放を要求してくるかもしれない。」
「何事にもリスクは付きものだわ。それとも、リスクを回避できるいいアイデアでもあるのかしら?」
オリビエのまともな意見にシェラザードは自分なりの考えを言った後、尋ねた。
「フッフッフッ……諸君、耳を貸したまえ。」
シェラザードの言葉を待ってましたとばかり、オリビエは不敵な笑いを浮かべた。
「いいけど……。息を吹きかけたりしたら、マジでぶん殴るからね?」
エステルが念を押した後、オリビエが自分のアイデアを説明し、オリビエのアイデアに賛成したエステル達は行動を開始した………



後書き 実はボース編は書き終えてすでにルーアン編を書いてるんですけど、中々進まない……ルーアン編は新クロスオーバーキャラや旧幻燐キャラが多数出てくる上、特に新クロスオーバーキャラはエステル達に深く関わらせるので、オリジナル部分が多く今までのように原作を元にして中々作れませんからその分1話が中々できない……なのでストックはしていますが週1~2ペースで出します……感想お待ちしております。



[25124] 第46話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/07/05 18:00
その後空賊達は帰って来たキール達と合流した後、自分達のアジトに飛行艇で帰って行った。飛行艇の中に侵入者がいるとは気付かずに……

~空賊団アジト~

「ふわ~、眠い、眠い。ここに来てから昼夜逆転の生活だからな。」
「まあ、もう少しの辛抱でこんな生活ともオサラバさ。ドルンのお頭に付いていけば間違いなしってもんだぜ。」
見張り役の空賊が欠伸をして愚痴を言っている所を、もう一人の見張り役の空賊が耐えるように言った。そして空賊は思い出したかのように口を開いた。
「しかし最近のお頭……ちょっとばかり変じゃねえか?おっかないっていうか気安く話せねえっていうか。」
「お前ね……そんな滅多なこと言うなよ。兄貴やお嬢に聞かれたらぶっ飛ばされるぞ?」
「で、でもよ……」
「寝不足で疲れてるんだよ。とっとと片づけを終わらせて、ゆっくり休むとしようぜ。」
相方の注意に空賊は反論をしようとしたが流された。そして2人が空賊艇の整備をしようとした時
「今すぐ休んでもオッケーだけど?」
オリビエのアイデアで空賊艇に忍び込み、潜んでいたエステル達が現れた!
「あ。」
「お前たちは……!」
一方それを知らずにエステル達を見た空賊達は驚いた。
「遅いってば!」
空賊達が驚いている隙を狙ってエステル達は戦闘を仕掛け、空賊達を気絶させた!

「フッ、無事、潜入できたようだね。」
「まったく……こんなに上手くいくとはね。今回ばかりはあんたに感謝しなくちゃいけないわね。」
シェラザードはオリビエのアイデアの成功に半信半疑だったが、実際成功したのを見て驚いた。
「で、でもさ~。メチャメチャ焦ったわよ。隠れてる所を発見されたらどうするつもりだったの?」
「いや、発見されたとしても、その時は空賊艇を制圧すればいい。飛行船の内部は狭いから多数との戦いにも有利に働くしね。オリビエさん……そこまで考えていたんですか?」
エステルの疑問にヨシュアは答えた後、オリビエに尋ねた。
「いや、まったく。敵地潜入というシチュエーションが単に面白そうだと思っただけさ~。」
「あ、あんたねぇ……」
オリビエを見直したエステル達だったが、オリビエの考えていたことを知ると脱力した。

「まあ、いいじゃない。こうして無事潜入できたんだし。それよりも……ここは『霧降り峡谷』みたいね。」
気を取り直したシェラザードは周りの風景を見て場所の詳細を言った。
「『霧降り峡谷』ってボースとロレントの境にある?そっか……だから外が白く霞んでるのか。」
自分達がいる場所をギルドや街の住民の情報で知っていたエステルは霧が深い外を見て、納得した。
「それと、大型船は侵入できない高低差の激しい入り組んだ地形……。シェラさんの推測、どうやら当たってたみたいですね。」
「ま、せっかくの推測もあまり役に立たなかったけどね。」
ヨシュアの言葉にシェラザードは溜息をついた。
「そういえば、プリネ達を置いてきちゃってよかったの、エヴリーヌ?」
空賊艇に侵入する際、あまり大人数だとばれる恐れがあったのでプリネやリフィアはその場で残り、エヴリーヌだけをエステル達に同行させたことを思い出したエステルは尋ねた。
「大丈夫。今連れてくるから。」
そう言ったエヴリーヌは転移して、プリネ達と共に再び転移して戻って来た。
「え!」
「なっ……」
「ほう。」
エヴリーヌがその場で消えた後、一瞬でプリネ達を連れて来たことにエステル達は驚いた。

「こういうことだ!だから、後で追いつくと余も言ったであろう?」
驚いているエステル達にリフィアは胸をはって答えた。
「ちょっ……今の何!?」
驚きがまだなくなっていないエステルはプリネ達に詰め寄って聞いた。
「フフ……時間もありませんから、簡単に説明しますね。」
そしてプリネは驚いているエステル達に簡単に転移魔術の事を説明した。
「ふえ~……魔術ってそんなこともできるんだ!」
「魔術はどんな場面でも役に立って、本当に万能性があるね……」
「師匠から転移魔術のことも知識として教えてもらったけど、実際にこうして見てみると驚きを隠せないわ……」
転移魔術の説明を聞き魔術が使えないヨシュアはもちろん、魔術が使えるエステルやシェラザードも驚きを隠せなかった。

「ほほう……これはボクも本気で魔術習得を考えようかな♪」
「ハァ?なんでアンタがそんなことを?」
オリビエの言葉に疑問を持ったエステルは聞いた。
「そんなの決まっているじゃないか♪その転移魔術ができればいつでも、ヨシュア君やシェラ君、可愛い女の子達の傍にいけるんだよ♪」
「……そんなことだろうと思いました。」
「あ、アンタってやつは……」
「あはは………」
「まさか、転移魔術をそのようなくだらないことに使うことを考える輩がいるとは……」
「……言っとくけど、エヴリーヌは教えないよ。」
冗談か本気かわからないオリビエの答えにヨシュアやエステルは呆れて白い目で見て、プリネは苦笑し、リフィアは呆れて溜息をつき、エヴリーヌは冷ややかな視線でオリビエを見た。
「ハァ……さてと……あまりグズグズできないわ。空賊たちを制圧しつつ、監禁されている人質の安全を確保するわよ。もちろん……カシウス先生もね。」
「うん……!」
「了解です!」
「フッ……では行こうか!」
「フフフ……ついに余の異世界での活躍の時が来たか!」
「いやな予感……面倒なのはエヴリーヌ、嫌だよ。」
「リ、リフィアお姉様……お願いですから力の加減を間違って砦を崩壊なんてことをしないで下さいね……」
溜息をついた後、気を取り直したシェラザードの言葉に全員は頷いてアジト内部に潜入した。

「……………………………………」
さらにさまざまな場所でエステルを観察し、エステル達が空賊艇に忍び込むのを見て、空賊艇が飛ぶ瞬間、船に飛び移り潜んでいた狐らしき生物も現れ、エステル達の後を追って行った……………




後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第47話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/07/09 23:05
ついに潜入した空賊団のアジトにエステル達は素早い行動でアジト内を進んで行った。

~空賊団アジト内~

「…………」
「手下がいるみたいだね。……突入してみようか?」
「モチのロンよ!」
アジト内を歩いていたヨシュアは部屋から話声が聞こえたことに気付き、ヨシュアは部屋に近づきドアの隙間から談笑している空賊達を見つけて、戦闘準備をするように全員に合図を送った。
ヨシュアの合図に全員は武器を出して、ヨシュアとエステルを先頭に部屋に突入した!
「あん……?」
「なんだ、新入りか?」
「ガクッ……そんなわけないでしょ!」
「緊張感のない連中ねぇ。」
エステル達の姿を確認して言った言葉にエステルとシェラザードは相手の呑気さに呆れた。
「え、でもよ……それ以外に誰がいるって、」
「………………………………」
「……あの、まさか侵入者?」
空賊達はお互いの顔を見合わせた後、恐る恐る聞いた。
「ピンポン♪」
これから驚くであろう空賊達の表情を考えた、オリビエは楽しそうに肯定した。

「遊撃士協会の者です。降伏した方が身のためですよ。」
「じょ、冗談じゃねえ!」
「返り討ちにしてやらあ!」
ヨシュアの宣言に怒った空賊達はエステル達に襲いかかろうとしたが
「とりゃっ!」
「はっ!」
「ギャッ!」
エステルの棒の一撃やヨシュアの双剣の攻撃がそれぞれ攻撃した空賊を沈め
「フッ!」
「ウワァッ!?」
「そこっ!」
「ぎゃ!」
オリビエの銃での攻撃に怯んだ隙を逃さなかったプリネのレイピアの攻撃に悲鳴を上げて、気絶し
「余の風格を知るがよいっ!」
「キャハッ♪」
「「「「「ギャァァァ………」」」」」
リフィアやエヴリーヌが手加減した魔術――追尾弾やティルワンの闇界を受けてしまった空賊達は断末魔を上げて気絶し
「せいっ!」
「あう!」
シェラザードの鞭による攻撃に耐えられず、最後の一人は膝をついた。

「ちょっと!人質はどこにいるの?正直に言わないと、ひどい目に遭わすわよ!」
「か、勝手にしやがれ。誰が喋るもんかよ……」
痛みで呻いている空賊に尋ねたエステルだったが、空賊は情報を口にしなかった。
「あーら、そう。エステル、どいてなさい。」
「う、うん……」
シェラザードの言葉にエステルは戸惑いながらどいた。そしてシェラザードは鞭を震ってさらに空賊を痛めつけた!
「ぎゃっ……!」
「ふふ、手加減しているから簡単に気絶できないでしょう?素直に話してくれればゆっくりと寝かせてあげるわ。」
悲鳴を上げた空賊にシェラザードは鞭を床に叩いて脅迫した。
「ひ、ひいいいい……。この下の階にいるっ!俺たちの仲間が守ってるんだ!」
シェラザードの本気の態度に恐れた空賊はあっさり大切な情報を手放した。
「素直でよろしい。キールとジョゼットっていう首領格の連中はどこにいるの?」
「ふーん、人質はともかく自分たちのボスは売れないか。仕方ない、勘弁してあげるわ。」
自分達の首領の情報を頑なに話そうとしない空賊にシェラザードは弱冠感心し、飛び掛かって勢いよく鞭を空賊に振るった!
「ぎゃうっ!………う~ん……」
「うっわ~……相変わらず容赦ないわね。」
情報を引き出された後、容赦なく気絶させられた空賊を見てエステルは言った。

「失礼ね。これでも手加減してるんだから。」
エステルの言葉にシェラザードは心外そうな顔で反論した。
「確かに、そこはかとなく気持ちよさそうな感じではあるね。」
「あら、試してみる?」
「いや、またの機会に。」
オリビエの言葉にシェラザードは鞭を構えたが、オリビエはキッパリと断ったので鞭をしまった。
「人質が監禁されているのは下の階のようですね。急ぎましょう。」
プリネの言葉に頷いたエステル達は下の階層へと進んだ。

「それにしても……ここって一体なんなのかな?あいつらが造ったにしては大きすぎるし、古めかしいけど。」
下の階層に降りてエステルはさっきから疑問に思っていたことを口に出した。
「大昔の城塞のような雰囲気ね。その頃の隠し砦を、アジトとして使っているんじゃないかしら?」
「『大崩壊』から数百年以上、戦乱の世が続いたそうだからねぇ。こういうものが残っていてもそれほど不思議ではないだろう。」
エステルの疑問にシェラザードやオリビエはそれぞれの自分なりの答えを言った。
「『大崩壊』?」
「1200年前にあったっていう古代ゼムリア文明の崩壊のことだよ。天変地異が原因と言われているんだ。」
オリビエの言葉に首を傾げたエステルにヨシュアは説明した。
「ああ、前にアルバ教授が言ってた……」
ヨシュアの説明を聞いてエステルは以前護衛したことがある歴史学者の説明を思い出した。
「あら?エステルさん、アルバ教授を知っているんですか?」
「うん、前に『翡翠の塔』まで行った時、たまたま護衛もなしに一人で調べているのを見つけて街まで護衛したんだ。でも、なんでプリネが知っているの?」
エステルはなぜ、プリネがアルバ教授を知っているのか疑問に思って聞いた。
「エステルさん達と同じ理由ですよ。エステルさん達がラヴィンヌ村に行っている間に、私達はヴァレリア湖へ行ったのですがリフィアお姉様が『琥珀の塔』に興味を示されて、探索をしたんですがその時にお会いして街道まで送ったのです。」
「そうなんだ……っていうか相変わらずね~。あの教授は……」
護衛をつけずに魔獣がいる危険な遺跡に一人で調査していたアルバ教授にエステルは溜息をついた。

「…………エステル、余の直感になるんだが奴とは関わり合いにならないほうがいい。」
「ほえ?なんで??」
リフィアの忠告が理解できずエステルは首を傾げた。
「………なんとなくなんだが、奴は何かとんでもない謀を考えている気がするのだ。」
「……リフィアの言う通りだよ。あいつ、雰囲気がパイモンに似ていた気がするもん。」
「パイモンって誰??」
リフィアやエヴリーヌの言葉に首を傾げた後、エヴリーヌが口にした知らない名前にエステルは聞いた。
「エヴリーヌと同じ『深凌の楔魔』の”魔神”だけど、今のエヴリーヌはあいつ、信用できない。リウイお兄ちゃんを人間達を怖がらせる魔王にしようと考えてたし。」
「ああ、あの不忠義者は余をも謀ろうとしていたからな……。プリネ、お前はどうだ?」
「……そうですね。あの方、隠してはいましたけど私達を後ろから探るような視線で見ていたのには気付いていました。……あの舐め回すような視線で見られた時、正直嫌な気分でした。」
「えっと……なんかその言い方だとアルバ教授が凄い悪者みたいな言い方なんだけど……?」
リフィア達の言葉にエステルは理解できず聞き返した。
「端的に言えば、そうなるな。」
「アルバ教授が?まっさか~。リフィア達の気にしすぎだよ!」
「………………」
リフィアの言葉にエステルは笑い飛ばして否定したが、ヨシュアは真剣な表情で聞いていた。
「……まあ、余達の気のせいかもしれぬ。今のは心に止めておくぐらいにしておいてくれ。」
「はいはい。それより早く人質達の監禁部屋を探そう!」
そしてエステル達は監禁部屋を探した。しばらく歩くとまた、話声が聞こえる部屋があった。

「また話し声が聞こえる。……突入してみようか?」
「迷ってられないわ、行くわよ!」
再びエステル達は武器を構えて部屋に突入し、部屋にいた空賊達を気絶させた後、奥の部屋に入った。そこにはリンデ号が行方不明になり、詳細が不明で空賊達に
人質にされていた飛行船の船長達や船客達がいた。
「みんな、無事!?」
「遊撃士協会の者よ。皆さんを救出しに来たわ。」
「ほ、ほんまか……ワイら、助かったんか!?」
部屋に入って来たエステル達が名乗り出た時、乗客の一人が期待したような目でエステル達を見た。
「見張りは片付けました。とりあえず安心してください。」
「ほ、本当か……!?」
「た、助かったの!?」
ヨシュアの言葉に人質達は半信半疑でありながらも、喜んだ。そして人質の中から船長らしき人物が名乗り出てエステル達にお礼を言った。

「私は、定期船の『リンデ号』の船長を務めるグラントという。本当にありがとう……何と礼を言ったらいいか。」
「……あれ?あれれ?」
「いないみたいだね……」
「どうかしたのかね?」
誰かを探しているように見えるエステルやヨシュアに船長は声をかけた。
「え、えっと……。人質のヒトって、これで全部?」
「ああ、その通りだが……。『リンデ号』に乗っていた乗客・乗員はこれで全部だよ」
戸惑いながら尋ねたエステルに船長はハッキリ答えた。
「うそ……」
グラントの答えを聞いたエステルは呆然とした。
「カシウス・ブライトという人が定期船に乗っていませんでしたか?遊撃士協会の人間なんですが……」
「カシウス・ブライト……?どこかで聞いたことがあるような。」
ヨシュアの言葉に船長は首を傾げて思い出そうとした。その時、一人の女性乗務員が思い出してグラントに言った。

「あ、あの船長……あのお客様じゃありませんか?離陸直前に船を降りられた……」
「ああ!そう言えばそんな人がいたな。」
乗務員の言葉にようやく思い出した船長は手をポンと打った。
「ど、どーゆうこと!?」
船長達の会話を聞いたエステルは慌てて聞いた。
「いや、ボースを離陸する直前に船を降りたお客さんがいたんだよ。王都から乗ってきた男性で確かに、そんな感じの名前だった。」
「あ、あんですってー!だ、だって乗客名簿には……」
「なにせ離陸直前の下船だったから、書類の手続きが間に合わなくてね。ロレント到着後に手続きするはずが空賊に襲撃されて、そのままなんだ。」
「……………………(パクパク)」
船長の説明に驚いたエステルだったが、さらに話された船長の説明を聞いて言葉を失くした。
「なるほど、そういう事ですか。父さんが空賊に捕まるなんて変だとは思っていたけど……」
「ふう……ようやく疑問が氷解したわね。」
「ハッハッハッ、それは重畳。」
「よかったですね、エステルさん。お父様が捕まっていなくて。」
「おめでとー。」
「道理でおかしいと思った。……ファーミシルスも高評価する男が賊程度で遅れをとるとは到底思えなかったからな……」
一方ヨシュア達は納得した後、安堵の溜息をついた。

「ちょ、ちょっと待ってよ。そ、それじゃ……父さんは何をしているわけ?これだけの騒ぎになってるのにどうして連絡を寄越さないの!?」
「落ち着いて、エステル。確かにそれは気になるけど、今ここで考えても仕方がない。ここにいる人たちの安全を確保するのが優先だよ。」
未だ混乱しているエステルは周りの者達に意見を求めたが答えは帰ってこず、ヨシュアの意見だけが帰って来た。
「あ……うん。わかった、今は忘れる。」
そしてヨシュアの意見にようやくエステルは落ち着いた。落ち着いたエステルを横目で見た後、シェラザードは人質達に言った。
「皆さん、我々はこれから空賊のボスの逮捕に向かうわ。申し訳ないけど、もう少しだけここで辛抱していてちょうだい。」
「あ、ああ……どうかよろしくお願いする。」
「こうなったら腹くくったわ。ワイらの命、アンタらに預けたる。せやから、あんじょう頑張りや!」
「うん、まかせて!」
船長や乗客の励ましの言葉にエステルは元気良く頷いたて、部屋を出て首領達がいる部屋を目指そうとした時、気絶している空賊達に気付いたエステルはある事を考えて、リフィア達に言った。

「そうだ……ねえ、リフィア達はここで気絶したコイツらの見張りと船長さん達や乗客達を守ってくれないかな?」
「確かに……誰か守りを置く必要はあるね。」
エステルの意見にヨシュアは頷いて同意した。
「なるほど……私はいいですが、お姉様方はどうですか?」
「ふむ……賊の首領と直接対決できないのは口惜しいが民を守るのも皇族の務め。よかろう、余達はここに残ろう!エヴリーヌもよいな。」
「ん。エヴリーヌ達が抜けて、そっちが大丈夫ならいいよ。」
「モチのロンよ!今までの直接対決ではあいつらには負けなかったんだから!」
エステルの頼みにプリネは頷き、リフィアは残念そうな表情をしたが納得して頷いた。そしてエヴリーヌの疑問にエステルは胸を張って答えた。
「オリビエさんはどうしますか?なんならプリネ達と共に見張り役として残ってもいいですよ?」
ヨシュアは空賊の首領達と直接対決する前にオリビエをどうするか考え、提案した。
「フム……麗しきメンフィルの姫君達に囲まれるというのは魅力的な提案だが、ヨシュア君達に同行しよう。」
「なんで?」
女性だらけのプリネ達と共に残らないと言ったオリビエにエステルは疑問を持ち、聞いた。
「だって、そっちのほうが面白そうだから。」
「ガクッ……こ、こいつは~!」
「ハァ……まあいいわ、足手まといにだけはならないでよ。」
オリビエの答えにエステルは脱力した後拳を握って怒りを抑え、呆れたシェラザードは気を取り直し忠告をした。

「フッ……任せたまえ!」
「本当に大丈夫かしら……まあいいや!3人共行くわよ!」
「みなさんのご武運をお祈りします!」
「余が守るのだ!ここは心配いらぬ!だから、思い切り戦ってくるがいい!」
「がんばって。」
「うん!」
プリネ達の応援の言葉を受け、エステル達は部屋を出た後首領格の人物達がいる部屋を探した………



後書き 碧の軌跡、公式サイトでどんどん情報が公開されていますね~………というかツァイトに声があるのは驚きました!まさか、本当にしゃべるのでしょうか!?OPでリベルアークのようなダンジョンやメルカパ?らしき画像を見て、今回はSCクラスの大作の予感と思いました!!OPの歌やムービーも相変わらずのよさで早くやりたい~!………感想お待ちしております。



[25124] 第48話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/07/11 17:13
プリネ達に人質の安全を任せたエステル達はさらに奥へと進み、終点らしき部屋を見つけ、そこから聞き覚えのある声が聞こえてきたので足を止めた。

~空賊団アジト内~

「ここは……」
「うん……ここが首領の部屋みたいだね。」
エステルの言葉を続けるようにヨシュアは言った後、エステル達は様子を見てから踏み込むことにした。

「ぐふふ……女王が身代金を出しやがるか。これで貧乏暮らしともオサラバだな。」
空賊団の首領3兄妹の一番上の兄、ドルン・カプアがこれからのことを考え、危険な瞳で笑っていた。
「兄貴、油断は禁物だぜ。身代金が入るのはこれからだ。」
「うん、まずは人質解放の段取りを決めなくちゃね。」
すでに勝利気分の兄にキールとジョゼットがそれぞれの意見を言った。
「人質解放?おいおい、どうしてそんな面倒くさいことをしなくちゃならねえんだ?」
「え……」
しかし不思議そうに言うドルンの言葉にジョゼットは呆けた。
「そんなもん、ミラだけ頂いて皆殺しにすりゃ済む話じゃねえか。生かしておく必要はねえだろう。」
「ド、ドルン兄……?」
「じょ、冗談キツイぜ……」
ドルンの予想外の言葉にキールやジョゼットは信じられない表情をして焦った。
「連中には俺たちの顔をしっかり覚えられてるんだぜ?リベールから高飛びしても足がつくかもしれねえだろうが。」
「だ、だって年寄りとか小さな子供だっているんだよ?本当に殺しちゃうつもりなの!?」
人質達を殺す気でいるドルンにジョゼットは必死で反論して、引き止めた。
「まったく、おめぇときたらいつまで経っても甘ちゃんだな。ママゴトやってんじゃねえんだぞ?」
「そ、そんな……ボク……」
しかしドルンは妹の言葉に全く耳を貸さず、それがわかったジョゼットは愕然として項垂れた。

「兄貴……悪いが俺もそれだけは反対だ。そこまでやっちゃあ混沌の女神(アーライナ)はわからないが、空の女神(エイドス)や癒しの女神(イーリュン)だって許しちゃくれん。それに……血塗れのミラで故郷を取り戻したくないんだよ。」
キールも必死でドルンを真剣な表情で引き止めた。
「…………………………………………キールよ、おめぇ……いつからそんな偉くなったんだ?」
「えっ……」
静かに怒りを抑えるようなドルンの言葉にキールは呆けた。
「なめた口叩くんじゃねえ!」
そしてドルンは手元にあった瓶をキールに投げつけた。
「がっ!」
「キール兄!?」
瓶に当たったキールは呻き声を上げてうずくまり、ジョゼットはキールの元に駆け寄った。
「がはは、なにが故郷だ!せっかく大金が入るのに今更あんなしみったれた土地を取り戻してどうするつもりだよ?ハッ、南のリゾートあたりで豪遊するに決まってるだろうが!」
「なん……だって……?」
高笑いで言うドルンの言葉にキールはうずくまったまま、信じられない表情でドルンを見た。
「それでミラが無くなったら、また飛行船を強奪すりゃあいい。それが、これからの『カプア空賊団』ってやつだぜ。ぐわーっはっはっはっ!!」
「ドルン兄……どうしちゃったの……?本当にどうしちゃったのさぁ!」
あまりにも変貌した兄にジョゼットは叫んだ。
「お取り込み中のところを悪いんだけどさぁ……兄妹ゲンカは後にしてくんない?」
そこにエステル達が武器を持って突入した。

「あ、あんたたち!?」
「遊撃士どもっ!?ど、どうしてこの場所に……」
エステル達の姿を見たジョゼットとキールは信じられない表情をした。
「フッ……薄情なこと言わないでくれ。キミたちがあの船で運んでくれたんじゃないか。」
「バ、バカな……何をふざけたこと言ってる……………………まさか。」
オリビエの言葉に最初は理解できなかったキールだったがある考えが浮かび、その考えを肯定するようにエステルが笑いながら続けた。
「琥珀の塔の前に飛行艇を泊めてたでしょ?スキを見て忍び込んで船倉に隠れてたってわけ。いわゆる密航ってやつね♪」
「ず、ずっこいぞ!この脳天気オンナっ!!」
「だ、誰が脳天気よ!この生意気ボクっ子!!」
ジョゼットの言葉にムッとしたエステルは言い返した。
「な、なんだと~っ!?単純オンナ、暴力オンナ!」
言い返されたジョゼットも黙っていられず、言い返した。
「あ、あんですって~!?」
「はいはい。口ゲンカはそのくらいで。……人質は解放したし他のメンバーも倒しました。残るは、あなたたちだけです。」
程度の低い口喧嘩に呆れたヨシュアは仲裁した後、遊撃士として宣言した。
「遊撃士協会の規定に基づき、あなたたちを逮捕・拘束するわ。逆らわない方が身のためよ。」
「うう……」
「くっ、くそー……」
シェラザードの言葉にキールとジョゼットは呻いた。

「キール、ジョゼット……。てめぇら、何やってやがる?」
「す、すまねぇ兄貴……」
「ゴメンなさい……」
ドルンの責めるような言葉に2人はすまなさそうな表情で謝った。
「ぐふふ、まあいい。大目に見といてやるよ。こいつらをブッ殺せば、それで済むわけだからなぁ。」
「あ、あんですって~っ!?」
ドルンの物騒な発言にエステルは怒って叫んだ。
「がはは、馬鹿な連中だぜ!その程度の人数でこのドルン・カプアを捕まえようとするとはなぁ!」
ドルンは高笑いをしながら机に飛び乗って、大砲のような物を取り出しエステル達に向けて撃った!
ズガーーーン!!
「きゃあ!?」
「導力砲を軽々と……!」
ドルンの攻撃にエステル達は驚いて回避した。
「がはは!逃げ惑え!!」
ドルンは高笑いをしながら狭い室内の周囲に導力砲を乱射しまくった!砲弾は爆発し、爆発によってできた煙は室内を充満してエステル達の視界を奪った。
「くっ……!」
「まずい……!これじゃあ、近づけない!」
導力砲の攻撃を回避しながら、シェラザードは悔しそうな表情をし、ヨシュアはどうするか迷った。
「ちょっ……兄貴!!」
「やりすぎだよ!ボク達まで巻き添えになっちゃうよ!!」
一方、我を忘れて味方をも巻き添えにする攻撃にキールとジョゼットは悲鳴を上げて、諌めようとしたがドルンは聞く耳を持たなかった。

「くっ……こんの……」
現状を打破するためにエステルは魔術を使おうとしたが
「がはは!隙だらけだぜ!!」
「!!」
「エステル!!」
動きが止まったエステルを逃さなかったドルンが導力砲をエステルに向け、それを見たエステルは驚いて硬直した。ヨシュアは叫んで警告したが、警告は空しく硬直した状態のエステルに向かってドルンは導力砲を撃った!
「喰らえ!!」
「やばっ……!キャッ!?」
ドルンの砲撃を避けようと動いたエステルだったが、足が縺れてその場で転んだ。迫りくる砲弾にエステルは目をつむった。その時、エステルの後ろから砲弾と同じくらいの火の玉が何個も飛んできて、砲弾にぶつかり火の玉が砲弾を押し返した後、引火した砲弾がドルンの目の前で爆発した!
ドガーーーーーン!!
「ぐわぁ!?」
目の前で起こった爆発にドルンは怯んだ。ようやく収まったドルンの砲撃に部屋内は静かになり、煙が晴れた。そして煙が晴れると、なんと今までエステルを観察した狐らしき生物がエステルを守るように、そして戦闘ができるように飛び掛かる態勢でエステルの前にいた。
「…………………………………」
「え……!?」
突如目の前に現れた狐らしき生物にエステルは驚いた。
「ほう……見事な毛並みな狐だね。」
「いや、狐にしては体があまりにも大きすぎます!それに尾が……!」
いつの間にか現れた狐らしき生物にオリビエは感嘆の声を上げたが、ヨシュアは体の大きさや何本もある尾を見て狐であることを否定した。
「考えるのは後にしなさい!首領達を拘束するわよ!!」
「う、うん!!」
「わかりました!」
「フッ……それでは反撃開始だ!」
状況を見て好機と判断したシェラザードの言葉にエステル達は再び武器を構えた。

「グッ……獣ごときがなめた真似をしてくれたじゃねえか!?キール、ジョゼット!さっさと得物を取りやがれ!遊撃士共々血祭りにあげるぞ!!」
「う、うん!」
「ほどほどにしてくれよ、兄貴!」
ドルンの言葉にジョゼットは導力銃を、キールは長剣のように長い短剣を構え、エステル達に襲いかかった………!



後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第49話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/07/12 17:19
昨日と今日で3話できたので、ちょっと奮発して今日も投稿です♪



~空賊団アジト内~

ついに始まった空賊――カプア一家との対決はエステル達の優勢だった。導力砲を軽々と使う唯一やっかいなドルンには狐らしき生物が周囲を素早く駆け回り、時には懐に飛び込んで鋭い爪で攻撃し、さらには火の球を口から吐き撹乱したのでエステル達はそれぞれ首領達の相手をできた。
「くっ……こんのぉっ!」
「ふっ、甘いよ!」
「いたっ!?」
シェラザードに銃で攻撃しようとしたジョゼットだったが、オリビエの精密な射撃のクラフト――スナイプショットに銃を持っている手を打たれ、導力エネルギーの弾を受けたジョゼットは痛みで銃を落とした。
「戦闘中に武器を落とすなんてまだまだね!喰らいなさい!」
「あう!?」
オリビエの攻撃によってできた隙を逃さずシェラザードは鞭による鋭い一閃の攻撃をするクラフト――シルフェンウィップで攻撃した。鞭による攻撃にジョゼットはさらに呻いて後退した。
「ちっ……これでも喰らえ!」
「遅い!絶影!」
一方キールはヨシュアに小型の爆弾を投げたが、回避されいつの間にかキールの横を駆け抜け、駆け抜ける際に攻撃をされた。
「ぐっ!?」
ヨシュアの神速の攻撃にキールは呻いた。そこに後退したジョゼットがキールの背にぶつかった。

「キール兄、どうしよう!こいつら……強すぎだよ!」
「泣き言を言うな!今はこいつらをなんとかして振り切るぞ!」
泣き言を言うジョゼットにキールは渇を入れたが、キール自身勝てる気がしなかった。キールとジョゼットが2人揃って纏まっているのを見たオリビエは特殊な銃弾に口づけをした後、それを銃に込めて撃った!
「お見せしよう!美の真髄を!!ハウリングバレット!!!」
「きゃぁぁぁぁ!!??」
「ぐわぁぁぁぁぁ!!??」
オリビエの放った特殊な銃弾によるエネルギーは普通の導力銃が放つエネルギーの数倍の大きさはあり、キール達に命中した後エネルギーが爆発した!そしてオリビエの強力な攻撃にキールとジョゼットは膝をついて、立ち上がれなかった。
「お休み、子猫ちゃん達♪」
キールとジョゼットを2人纏めて倒したオリビエは明後日の方向を見て、勝利のセリフを言った。

「チッ……役に立たねえ奴らだぜ。」
一方弟と妹の敗北を横目で見たドルンは舌打ちをした。
「ちょっと!あいつら、アンタの兄妹でしょ!?なんでそんなことが言えるの!?」
キール達のことを酷く言うドルンにエステルは怒って叫んだ。そしてエステルの怒りにドルンは嘲笑して、さらにエステルが怒るようなことを言った。
「ハッ!あんな甘ちゃん共はカプア一家の恥だ!本当のことを言って何が悪い!」
「なっ!?こ、こんのぉ~!」
さらに怒ったエステルは体を震わした。そこに狐らしき生物がエステルの横に並んだ。エステルはドルンを撹乱していた狐らしき生物の動きや、火の玉を吐いたことを思い出し、なんとか協力をしてもらおうと話しかけた。
「狐さん!あいつをブッ飛ばすために力を貸してちょうだい!お願い!」
(………”我が友”に似る少女よ。……我は狐ではない。)
「え!?」
突如頭に響いた聞き覚えのない声にエステルは驚いて、狐らしき生物を見た。
「今のは………もしかしてあなた!?狐じゃないとしたら、一体何?」
(我はサエラブ!”焔の仙狐”様の使いにして誇り高き”狐炎獣”!少女よ。本来なら我は我自身が認めた者にしか力を貸さぬが、お前はどことなく”我が友”に似ている……
我の頼みを後で聞くならば、今はお前の指示に従おう……)
「わかったわ!あたしでできることならなんでもするわ!だから今は力を貸して!」
(……よかろう。)
エステルの言葉にレスぺレント地方の遥か南――セテトリ地方のある火山に住み、近くの町――ユイドラに住む人々からは聖獣扱いされている焔の幻獣サエラブは口元を僅かに笑みに変えて、エステルに協力することを伝えた。

「あ、それとあたしの名前はエステルよ!これからはちゃんと名前で呼んでよね、サエラブ!」
(フッ……いいだろう。我があの正気でない人間の動きを止めている間に、お前が勝負を決めるがいい……行くぞ!)
「オッケー!」
「さっきから一人でごちゃごちゃと何を言っている!死ねぇ!」
エステルとサエラブの念話がわからず、エステルの独り言と思い業を煮やしたドルンは再び導力砲を構えたが
(”我が友”の妻が放つ”魔導砲”と比べれば砲撃の瞬間、速さが遅すぎる上威力もなさすぎる!自らの武器で傷つくがよい!)
ドルンの動作を見て、サエラブは口を開き再び火の玉を吐いた。火の玉はドルンの持つ導力砲の砲口に入り、砲弾に引火させて、引火した砲弾は導力砲の中で小規模な爆発をした!
「ぐわぁ!?」
自らの武器による爆発によってドルンは怯み、傷ついた。
(今だ、行け!)
「うん!」
ドルンが怯んでいる隙を逃さず、サエラブの念話に頷いたエステルは棒を構えて強烈なクラフトを放った!
「これで決める……ハァァァァァァ!烈波!無双撃!」
「ぐわぁぁぁぁぁ!!??……グハッ!?」
エステルの強烈なクラフトを受けたドルンは吹っ飛ばされて、壁にぶつかり項垂れて立ちあがらなかった。
「よーし!上出来!」
立ち上がらなくなり、気絶したドルンを見て、エステルは棒を自分の前で回転させた後、勝利のピースをした。

「つ、強い……。これが遊撃士か……」
「く、くっそ~……こんな奴らに負けるなんて~……」
ドルンをも倒し、自分達を完膚なきまでに敗北させたエステル達にキールは膝をつきながら諦め、ジョゼットは悔しがった。
「ふふん、思い知ったか♪」
自分を何度もバカにしたジョゼットが悔しがっているのを見て、溜飲が下がったエステルは胸をはって答えた。
「それにしても驚いたよ、エステル。意思の疎通ができない相手と連携するなんて……」
ヨシュアはエステルがサエラブと連携してドルンを倒したことを思い出し、感心した。
(……我をそこらの獣といっしょにするな、人間。)
「え……」
「ん?」
「なっ……今の声は!?」
サエラブの念話にヨシュア達は驚いて周囲を見回した。
「あれ?みんなもサエラブの声が聞こえるんだ。」
一方唯一サエラブの声を知っているエステルは不思議そうな表情をした。
「誰よ、そのサエラブって。」
知らない名前にシェラザードは首を傾げてエステルに聞き返した。
「さっきからシェラ姉達の目の前にいるじゃん。」
「え………ってまさか今の声って……!」
エステルの言葉から謎の声の正体がわかり、驚いたヨシュアはサエラブを見た。
(ふん。我は悠久の時を生きる誇り高き”狐炎獣”。契約をしなくとも念話をお前達に送ることなど容易いわ。)
驚きの表情のヨシュア達に見られたサエラブは気にしないようにした。

「……そんな誇り高く知恵がある存在が力を貸してくれるなんて本当にあんたには驚かされるわね……(ヴァレリア湖でも噂の水竜にも懐かれたらしいし、数年前に言ってたレナさんの冗談が現実になりそうね……)……まあいいわ。決着もついたし、大人しく降伏してもらうわよ。抵抗したりしたら……わかってるでしょうね?」
サエラブの事を一先ず置いて優先すべき事をするために、シェラザードは鞭をしごいてジョゼット達に微笑んだ。
「ひっ……やだ、勘弁してくださいっ!」
「トホホ……こんな終わり方ありかよ……」
シェラザードの微笑みにジョゼットは怖がって後ずさりをし、キールは悲壮な表情をした。その時気絶していたドルンが目を覚ました。
「……うーん……………あいたた……どうなってやがる。身体のあちこちが痛ぇぞ……なんで俺……導力砲なんざ持ってるんだ?…………はて?」
目を覚ましたドルンは壊れた導力砲を見て、首を傾げた。
「兄貴?」
「ドルン兄?」
理解できないことを言う兄にキールとジョゼットは不思議そうな表情でドルンを見た。
「おお、ジョゼット!ロレントから帰ってきたのか?こんな早く帰ってきたって事は、やっぱ上手くいかなかったんだな。」
「ふぇっ……?」
一方状況を理解していないドルンはジョゼットを見ると笑いだした。笑い出したドルンにジョゼットは驚いた。
「がっはっは、ごまかすな。まあ、これに懲りたら荒事は俺たちに任せておけよ。ちまちました稼ぎだが、なあに、気長にやりゃあいい。」
「ド、ドルン兄、何言ってるの?」
「あ、兄貴、しっかりしろよ。ジョゼットはとっくにロレントから戻ってきただろう。定期船を襲った直後に俺が迎えに行ったじゃないか?」
戦闘前と明らかに様子が変で、昔の事を言いだしたドルンに2人は焦り、笑っているドルンにキールが説明した。

「はあ?定期船を襲うだとぉ?なに夢みたいな話をしてやがる。そんな危ない橋、渡れるわけないだろうが。」
「………………………………」
「………………………………」
以前と言っていることが全然違うドルンに兄妹達は口が開いたまま言葉が出なかった。
(何言ってんの、コイツ?)
(うん……言い逃れじゃなさそうだけど……)
(……傀儡の術が解けて正気に戻ったか……)
一方エステルも訳がわからずヨシュアに聞いたが、ヨシュアもわからなかった。ドルンの状況をわかっていたサエラブは納得した。
「さっきから気になっていたんだが、この奇妙な連中は何者なんだよ?まさか新入りじゃねえだろうな?」
そしてドルンはエステル達を見て、キール達に尋ねた。
「残念ながら違うわね。あたしたちは遊撃士協会の者よ。」
「はあ!?な、何でこんな所に遊撃士がいやがるんだ!?」
シェラザードの言葉に驚いたドルンは大きな声で叫び、信じられない表情をした。
「ダメだこりゃ……ホントに忘れてるみたいね。」
「ハッハッハッ。面白い展開になってきたねぇ。」
ドルンの様子にエステルは呆れて溜息をつき、オリビエは楽しそうに笑った。

「忘れていようといまいと、逮捕することに変わりないわ。定期船強奪、人質監禁、身代金要求など諸々の容疑でね。」
「定期船強奪……人質監禁、身代金要求だと!?キール!ジョゼット!こ、こりゃあ何の冗談だっ!」
シェラザードに睨まれたドルンは顔を青褪めさせて、兄妹に真実かどうか聞いた。
「ドルン兄ぃ……」
焦っているドルンにジョゼットは呆れた。
「聞きたいのはこっちだよ……だが、兄貴のおかげで……チャンスができたぜ!」
キールも呆れたが、いつのまにか隠し持っていた発煙筒を床に叩きつけた。叩きつけられた発煙筒は部屋中の視界を奪った。
「ああっ!」
「しまった!2度も同じ手に……」
「お、おい……!」
「キール兄!?」
「話は後だっ!とにかくここを脱出するぞ!」
視界を奪われている間になんとキールが2人の手を引いて、部屋から脱出した。

「ごほごほ……け、煙がノドに……」
(不覚……!我としたことがこんな手に引っ掛かるとは……)
発煙筒の煙にオリビエは咳こみ、サエラブは自分の不甲斐なさを呪った。
「早く部屋から出ましょう!」
ヨシュアの言葉に全員が部屋から出た。
(くっ……あの戦いが終わって数年……しばしの平和で危険を感じる感覚が鈍ったか……!)
「あいつら~。どこにいったの!?」
「上だ……飛行艇で逃げるつもりだよ!」
あたりを見回してドルン達を探すエステルにヨシュアは答えを言った。
「あ……!」
「ここまで追い詰めて取り逃がすわけにはいかないわ!全力で追いかけるわよ!」
「うん!!」
「了解です!」
シェラザードの言葉にエステルとヨシュアは頷いた。そこにオリビエが咳込みながら部屋から出て来た。
「ごほごほ……た、助かった……ああ、何たる悲劇!ボクのデリケートな鼻腔が……」
「ほら、オリビエも!急がないと置いていくわよ!」
「あわわ……ま、待ってくれたまえ!」
咳込んだ後わざとらしく悲観をくれていたオリビエだったが、エステルに急がされ慌ててエステル達と共に走って行った………


後書き サエラブの言葉で神採りのヒロインルートが誰になっているか、プレイした方ならわかっちゃうと思います。……感想お待ちしております。



[25124] 第50話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/07/15 17:07
今凄いペースで次の話がどんどんできています……!話数もかなり溜まってきたので、しならくはかなり早いペースで更新できると思いますので楽しみにして下さい。



~空賊団アジト内~

「待ちな、てめえら!」
「ここから先には行かせねえ!」
ドルン達を追ったエステルだったが、途中で倒したはずの下っ端達に行く手をさえぎられた。
「も、もう復活したの?」
「なかなかタフな連中だね。」
気絶したはずの空賊達を見てエステルは驚き、ヨシュアは感心した。
「絶対にここは通さねえ………ぜ!?」
一人の空賊が意気込んでいたが、足元から水の柱が吹きあがり、吹きあがった水の柱によって意気込んでいた空賊は天井にぶつかり気絶した。
「え……今のは……!?」
何もしていないエステル達は驚いてあたりを見渡すと、いつの間にかエステル達の後ろにペルルとマーリオンがいた。
「ペルル、マーリオン!どうしてここに?」
「……プリネ様……に……頼ま……れて……援軍……に…来ま……した。」
「部屋に空賊達の援軍が来ないように外で見張っていたプリネが敵を追っかけるエステル達を見て、自分達の持ち場は離れられないから、代わりにボク達をエステル達を追って手伝うように指示したんだ!」
「フフ……親娘揃って世話になってしまうわね……ここは任せてもいいかしら?」
マーリオンとペルルの言葉にシェラザードは笑みを浮かべて尋ねた。
「おまかせ……下さい……」
「マーリオンの言う通り、ここはボク達に任せて、エステル達は敵のボスを追って!」
「うん!」
「さっきから何を勝手なことを……数が増えたからと言って絶対にここから先には行かさねえぜ!」
空賊達は絶対にエステル達を通さないよう、先に進む道を塞いでいたが

「行っくよ!……それぇ!」
「「「うわぁっ!?」」」
体全体を回転させて突進したペルルの攻撃に驚いて、横に回避した。
「今だよ!」
「わかった!」
ペルルの言葉に頷いたエステル達はペルルの横をすり抜け先に進んだ。
「あ、待て!」
「逃がさねえぞ!」
空賊達は慌ててエステル達を追いかけようとしたが
「超ねこパ~ンチ!」
「水よ……」
「「「うわぁ!?」」」
ペルルの翼による攻撃とマーリオンが放った水の魔術をうけて、後退した。
「ここは通さないよ!」
「エステルさん達……の……邪魔……は……させ……ません……」
「「「く、くそ!どけぇ!」」」
エステル達を追うためにペルル達に襲いかかった空賊達だったが、相手は主と共に厳しい戦いを勝ち抜いて来た使い魔。数の優劣に関わらずペルル達によって気絶させられた。

ドルン達を追ってさらに進んだエステル達だったが、後少しで空賊艇がある場所に行く手前の部屋でまた下っ端達が行く手を遮った。
「けっ、おいでなすったか……」
「勝とうとなんて思うな!兄貴たちが逃げるまでの間、時間稼ぎができればいいんだ!」
「ああ!兄貴たちにはいろいろ世話になったからな。恩返しをさせてもらうぜ!」
「フッ、自らを盾にして主人のためにつくすか……。愚かではあるが、なかなか天晴な心意気だ。」
下っ端達の叫びにオリビエは感心した。そこにサエラブが前に出て来て、口を大きく開いて大声で吠えた!
「ウオオオオオオオォォォォッ!!」
「「「「ウワァッ!?」」」」
サエラブの咆哮は強力な衝撃波となり、道を塞いでいた空賊達を吹き飛ばした。
「すごっ……!」
「吠えるだけであそこまでの威力……!」
サエラブの咆哮による攻撃にエステル達は驚いた。
(何をしている!こいつらは我が相手をしてやる!行け!)
驚いているエステル達に念話を送り、サエラブは頭をドルン達が逃げ去った方向に振り、エステル達に先に進むよう促した。
「う、うん……一人で大丈夫!?」
(侮るな!我は自らの悪を喰らいさらなる強さを手に入れた”善狐”!このような雑魚共相手に手間取る我ではない!)
「わかったわ、気を付けてね!」
「お願いします!」
「フッ……このボクに任せたまえ、狐くん♪」
「行くわよ、3人共!」
サエラブの念話に頷いたエステル達は吹き飛んで壁にぶつかり、呻いている空賊達を無視してさらに先に進んだ。

~空賊団アジト・地上~

ようやく空賊艇がある地上に出たエステル達だったが、なんとそこには王国軍の警備艇が停泊しており、ドルン達を拘束した王国軍兵士達がいて、さらにはナイアルとドロシーがいて、ドロシーがドルン達の写真を撮っていた。
「へっ……」
「これは……」
いつの間にか現れて空賊の首領達を拘束した王国軍兵士達にエステル達は驚いた。
「くそっ、まさか軍にここの場所を知られるとは!あの野郎、話が違うじゃないか!」
「こ、こらっ!気安くボクに触るなよっ!」
「おいおい……何がどうなってるんだぁ!?」
拘束された空賊の首領達は連行されながら、さまざまな事を言った。
「は~、あの人たちが空賊さんたちのボスですか。女の子もいるなんて、なんかビックリですねぇ。」
「無駄口叩いてないで、とにかく撮りまくれっ!こんなスクープ、滅多にあるもんじゃねえ!」
「どうだ、ナイアル君。いい記事は書けそうかな?」
ドロシーに必死の形相で指示しているナイアルに兵士達を引き連れ、カノーネやモルガン達と共に来たリシャールが話しかけた。

「そ、そりゃあもちろん!連れてきてくれて、ほんっとーに感謝してますよ!あっ、ついでですから大佐も撮らせてもらえませんかねぇ?」
「ふむ……閣下、よろしいですか?」
頭を下げながらするナイアルの要求に答えるため、リシャールは上官であるモルガンに許可を聞いた。
「勝手にするがいい。今回の作戦はお前の立案だ。正直、大した手並みだったぞ。」
「いや、情報部のスタッフの分析が正確だったからです。それと、そこにいる諸君の協力のたまものでしょうね。」
「なに……?」
リシャールに言われたモルガンはエステル達に気付き、信じられない表情をした。
「ゆ、遊撃士ども!?なぜ貴様らがここにいる!?」
「念のため言っておくけど、また一足先に潜入していたの。このアジトもすでに制圧済みよ。」
「逃げた空賊の首領たちをここまで追ってきたんですが……。まさか王国軍の警備艇が来ているとは思いませんでした。」
怒鳴りながら尋ねたモルガンにシェラザードとヨシュアは落ち着いて説明した。
「ぐぬぬぬ……また出過ぎたマネをしおって。……ハッ!ま、まさか!あの方達もここにいるのか!?」
(ん?あの方達……?一体誰だ??)
エステル達が先に空賊団のアジトを見つけたことに悔しがったモルガンだったが、エステル達に同行しているはずのリフィア達の事も思い出し、顔を青褪めさせた。
ナイアルはそれがわからず、心の中でモルガンが慌てているほどの人物達が何者か考えた。

「お言葉ですが、閣下。彼らがいたから、我々の突入もここまで上手くいったのです。その功績は認めるべきかと。それにみだりにあの方達の事を口にしていただくのは困ります。あちらはあちらで恐らくこちらに気を使ってこの場にいないのでしょうし。」
「……くっ。まあよい。後の指揮はおぬしに任せる。わしは一足先に船に戻って空賊どもを締め上げてくるわ。………くれぐれもあの方達に失礼のないようにな。」
「承知しました。」
リシャールの正論と注意にモルガンは唸った後、その場から引き上げて言った。
「相変わらず頑固オヤジね~。」
「悪い人ではないのだがね。いささか柔軟性には欠けるな。ところで、他の空賊たちと人質の方々はどこにいるんだね?」
去って行くモルガンの後ろ姿を見て溜息をついたエステルに、リシャールは同意した後尋ねた。
「他の手下たちはそこらで転がっているはずよ。人質たちには、監禁されていた部屋で待機してもらっているわ。……ちなみに私達に同行者がいるんだけどその人達に人質達の身を守ってもらっているわ。」
「後、大きな狐が砦内にいると思いますが僕達の味方なので手は出さないで下さい。」
「そうか……。いや、本当にご苦労だった。人質や積荷の移送を含め、後のことは我々に任せて欲しい。行くぞ、カノーネ大尉。」
「承知しましたわ。」
シェラザードとヨシュアの説明に頷いたリシャールはカノーネと共に兵を引き連れて砦内に入って行った。
「あ、ちょっと大佐!お前さんたちにもインタビューしたいんだが、今回ばかりはあっちが優先だ。機会があれば、よろしく頼むぜ!」
「まったね~!エステルちゃん、ヨシュア君。」
去って行くリシャールを見て慌ててナイアルとドロシーが追って行った。

「いやはや、美味しいところを根こそぎ持っていかれた気分だね。」
「うーん、確かに……せっかくマーリオン達が頑張ってくれたのに……」
リシャール達が去った後呟いたオリビエに同意するようにエステルは残念そうな表情で頷いた。
「フフ、いいじゃないの。遊撃士の本分は縁の下の力持ちというもの。無用に目立っても仕方ないわ。それに彼らもきっとわかってくれるわ。」
残念そうな表情をしているエステルにシェラザードは本来のやるべきことは達成したと慰めた。
「確かにそうですね。父さんも、そのあたりには気を配っていたみたいですし。」
「あれ、そうだったっけ?………………………………ああっ、父さん!」
「うん……その問題を考えなくちゃね。父さんが今、どこにいて何をしているのか……どうして連絡をくれないのか。」
「うん……」
未だ消息がわからにカシウスの事を思い出し、エステルとヨシュアは俯いた。
「ここで、私達が出来ることはもう無さそうね。とりあえず、プリネさん達と合流してボースに戻って事件の報告をしておきましょう。先生の事を考えるのはそれからよ。」
その後王国軍兵士を見て、安心したプリネ達は後をリシャール達に任せた後エステル達のところに戻って来て合流し、エステル達はボース市に戻って行った。また、サエラブはいつの間にか姿を消していた。

こうして『定期船消失事件』はいくつかの謎を残して幕を閉じた…………





後書き ようやく1章ももうすぐ終わりです。というかまだ1章の終わり。長……!2章はどれだけ長くなるか想像もつかないです……ちなみに2章は新クロスオーバーキャラ等原作以外のキャラが多数出てくるため、楽しみに待ってて下さい!……感想お待ちしております。



[25124] 第51話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/07/16 21:05
~遊撃士協会・ボース支部~

「――本当にご苦労さまでした。やっぱり、わたくしの目は間違っていなかったようですわね。みなさんだったら絶対に解決してくれると思いましたわ。」
軍に空賊や人質達の事を任せたエステル達はギルドに戻り報告し、ルグランから事件が解決したことを聞いたメイベルがリラを共につけて直接ギルドに出向いてエステル達に感謝し、褒め称えた。
「でも、軍に良い所を持っていかれちゃったしなぁ。解決したとはいえないかも……」
「そんなことはありませんわ。仮に、皆さんがいなかった場合、軍の突入も上手くいったかどうか。逆上した空賊たちに人質を傷つけられたかもしれませんから。」
「うむ、お前さんたちが潜入してアジトを制圧していたおかげじゃ。胸を張ってもいいと思うぞ。」
事件が自分達で解決できたかわからなく、納得しきれていないエステルにメイベルやルグランは褒めてフォローした。
「そ、そっかな……えへへ。」
2人に褒められたエステルは納得しきれてない表情から照れた表情になった。
「確かに人質は解放されて空賊たちも逮捕されたけど……。幾つかの謎が、解明されぬまま残ってしまったのが悔やまれるわね。」
「湖畔に現れた男たちと空賊の首領の奇妙な態度ですね。この事件、まだ裏があると考えた方がいいかもしれません。」
「まあ、そのあたりは王国軍に任せるしかなさそうじゃのう。連中の身柄を拘束された以上、こちらとしては調べようがない。」
同じようにいくつかの謎が残ったことに後悔しているシェラザードとヨシュアにルグランは気持ちを切り替えるように言った。

「とにかく、人質たちが全員無事に戻ってきただけでも幸いですわ。空賊逮捕のニュースのおかげで街にも活気が戻りつつあります。感謝の気持ちに、少しばかり報酬に色をつけさせて頂きました。」
「え、いいの?」
報酬を上乗せしたメイベルにエステルは驚いて尋ねた。
「ふふ、もちろんですわ。オリビエさんも……本当にありがとうございました。」
「フッ……『グラン=シャリネ』分の働きが出来たのであればいいがね。」
「ええ、お釣りが来るほどですわ。」
オリビエにもお礼を言ったメイベルはリフィア達の方にも向いて、感謝した。
「リフィア殿下達も他国の事件だというのにありがとうございました。殿下達のおかげで飛行制限も緩くされ、ボースの経済もなんとか立て直せました。」
「気にしなくてもよい。例え他国だろうが民はみな同じだ。それにリベールはメンフィルにとってこの世界では唯一の盟友。余達は友に力を少し貸しただけだ。それにリベールには色々と世話になった。このぐらいのことは当然だ。……だが、メイベル殿の感謝はありがたく受け取っておこう。」
「私もリフィアお姉様と同じです。私も今回の事件に関われたことによって貴重な経験を得られました。メイベル様とも出会えてよかったです。」
「屋敷で出たお菓子結構美味しかったよ。ありがとう。」
「フフ……お気遣いありがとうございます。」
リフィア達から逆に感謝の言葉を貰ったメイベルは上品に笑って答えた。
「リフィアお姉様、アレは渡さなくていいのですか?」
「おお!すっかり忘れていた!……メイベル殿、よければこれを使ってくれ。」
「?これは?」
プリネに促されリフィアは懐から手紙を出し、それをメイベルに手渡した。手渡されたメイベルは首を傾げて尋ねた。

「その手紙はリウイに会えるように書いた余とプリネの紹介状だ。メイベル殿――新しいボースの市長殿と今のボースの現状が書いてある。今後のボースの経済のためにも役立ててくれて構わん。」
「えっ……そのような重要な手紙を貰ってもよろしいのですか!?」
リフィアから聞いた手紙の効果にメイベルは驚いて聞き返した。
「構いません。ただ、それはあくまでお父様と会えるようにする紹介状なので、メンフィルとさらなる取引ができるかはメイベル様の腕によります。」
「うむ。双方にとってよい取引をメイベル殿がリウイに提案するのを期待しているぞ。」
「ええ、それはもちろん私も同じ思いです。それに父が死去してからリウイ陛下に市長としてお会いしてなかったので、私にとってもちょうどいい機会です。殿下達の期待を裏切らないためにもこの紹介状は大切に使わせていただきます。………それでは皆さん、ご機嫌よう。何かあったらまたお願いします。」
「……失礼いたします。」
エステル達に会釈をしたメイベルとリラはギルドから去って行った。
「うーん、何だかものすごく感謝されちゃったわね。」
市長であるメイベルに多大な感謝をうけたエステルは照れながら答えた。
「あれ以上事件が長引いていたらリフィア達のお陰で航空制限が緩くなったとはいえ、流通を元通りにするのは難しくなっただろうからね。市長さんが喜ぶのも当然かもしれないな。」
「えへへ、何だか嬉しいな。あたしたちが頑張ったことでみんなのお役に立てたんだったら遊撃士冥利に尽きるってもんよね♪」
「フフ、ナマ言っちゃって。でも、確かにあんたたちももう新人とは言えないわね。正直、今回は色々驚かされたわ。」
「えへへ、そっかな?」
喜んでいるエステルにシェラザードは嬉しそうにエステル達が予想以上に活躍したことを褒めた。

その後エステル達はルグランからメイベルからの多めの報酬を受け取った後、さらにはボース支部の推薦状を貰った。推薦状をもらって喜んでいたエステルとヨシュアだったが、未だに連絡がつかないカシウスの事が心配になった。しかしその後カシウスからしばらく帰れないことの便りを貰い安心した。また、カシウス宛の謎の小包で漆黒のオーブメントは小包に書いてあった”R博士”を探して届けるためにエステル達が預かった。その後シェラザードは事件が解決したのでロレント支部に戻ることになり、ロレントに観光に行くオリビエと共に定期船に乗ってロレントに行くために見送りのエステル達と空港に行った。

~ボース国際空港~

「それじゃ、あたしはこれでロレントに戻るけど………まあ、プリネさん達がいるから心配は無用と思うけど無茶は禁物だからね?」
「も~、大丈夫だってば。一応、正遊撃士を目指す旅だもん。シェラ姉ったら心配のし過ぎだよ~。」
「エステルの言う通り何とかやっていけますから、心配はしないで下さい。」
シェラザードの心配の言葉にエステルとヨシュアは大丈夫だと答えた。
「プリネさん、リフィアさん、エヴリーヌさん、本来なら私の役目なんですがエステル達のことをお願いします。」
「うむ!余達に任せるがよい!」
「エステルさん達が何か困った時があれば出来る限る力になりますから、安心して下さい。」
「エヴリーヌ達がいるんだから、大船に乗った気持ちでいていいよ。」
「ありがとうございます。……あんたたちの歳で正遊撃士を目指すのは珍しいんだからくれぐれも無茶しないようにね。
それと、困ったことがあったらプリネさん達に相談するかロレント支部に連絡するのよ。あんたたちがどこに居ようとすぐに駆けつけて行くからね。」
リフィア達にエステル達のことを託して安心したシェラザードはいつでも相談するように言った。

「うん……ありがとね、シェラ姉。シェラ姉の方こそあんまり飲み過ぎないでよね。あたし、それだけが心配なんだから。」
「タハハ……まあ、気を付けておくわ。」
心配したエステルから逆に心配されたシェラザードは苦笑しながら答えた。
「フッ、心配しないでくれたまえ。何といってもシェラ君にはこのボクが付いているのだから!」
そこにオリビエが出て来て胸をはって答えた。オリビエの発言にオリビエ以外は全員脱力した。
「……で、どうしてあんたもロレントに行くわけ?しかもシェラ姉と一緒に……」
「フッ、ボースの郷土料理はとりあえず全部味わったからね。そろそろ他の地方に足を向けてみようと思ってね。ロレントの料理は、野菜が絶品と聞いているし、シェラ君が噂の『闇の聖女』と深い知り合いだというから今から楽しみだよ。」
ジト目で睨んで尋ねたエステルの疑問にオリビエは楽しそうな表情で答えた。
「――てな感じで、美味しい店と師匠を紹介しろって言って聞かないのよ。あんまりしつこいから居酒屋で酒に付き合うのを条件に付いてくることを許可しちゃった♪」
「うっわ~……」
「オリビエさん……あの、本当に大丈夫なんですか?」
「早まった真似はよしたほうがいいですよ?」
生き生きとして答えるシェラザードを見て、エステルやヨシュア、プリネが心配して言った。

「フッ、このオリビエ、美人と美食のためなら死ねるさ。本当は、ヨシュア君やメンフィルの姫君達にも付いていきたいところなのだがね。迷った挙句の苦しい選択だった……」
「迷われても困るんですけど。」
「あはは……」
「プリネ、こんな奴相手にするだけ無駄だよ。」
「あれほどシェラザードに酒でやられたというのに、懲りない奴だな……」
相変わらずのオリビエの様子にヨシュアやリフィア、エヴリーヌは溜息をつき、プリネは苦笑した。
「まったく懲りないヤツ……ロレントの治安を乱さないでよね。あと、仕事明けのシェラ姉って本当にリミッター外れちゃうから。マジで注意した方がいいわよ。」
「なによぅ、失礼ねぇ。アイナは付き合ってくれるもん。」
「あの人だって底ナシでしょ!」
「リミッターが外れる?あの、それって……この前よりもスゴイのかい?」
エステルとシェラザードの会話が気になったオリビエはヨシュアに尋ねた。
「……何というか。比較にならないと思います。」
「ふーん、そうなんだ……え!?」
気不味そうな表情のヨシュアの答えにオリビエは流しかけたが、ある事に気付き驚いた。その時定期船の離陸の放送が響いた。

ロレント方面行き定期飛行船、まもなく離陸します。ご利用の方はお急ぎください。

「あら、もう出発か。ほらオリビエ、急がないと。」
「シェ、シェラ君。ちょっと待ってくれたまえ。少し考える時間をくれると嬉しいな~って……」
発信の放送を聞いたシェラザードはオリビエの服をつかみ、飛行船に乗るよう促したがオリビエは及び腰で少し待つよう嘆願した。
「出発直前になって、な~にを言ってるのかしら…………男だったらグダグダ言うな!」
「ひええええ~っ!」
しかしシェラザードはオリビエの願いを断ちきって、情けない叫びを出すオリビエを飛行船のデッキへ引きずっていった。
「シェラ姉、まったね~!ロレントのみんなによろしく!」
「2人ともお元気で!」
「うむ、達者でな!」
「2人とも体には気を付けて下さい!」
「ばいば~い!」
エステル達の別れの挨拶と共にシェラザードとオリビエを乗せた定期船は飛び立っていった……



後書き 次回はエステル達は出てきません。原作知っている人ならわかると思います。……感想お待ちしております。



[25124] 外伝~銀閃と黄金の軍馬の旅行者~
Name: sorano◆b5becff5 ID:8bc17880
Date: 2011/07/17 07:23
~飛行船・デッキ~

「……以上が王国北方で起こった空賊事件の顛末さ。」
「まさか、没落した我が国の貴族がそちらにいるとはな……」
ロレントに向かって飛行している定期船のデッキでオリビエは何かを耳にあててしゃべり、何かからも男性の声が聞こえて来た。
「ああ、没落したカプア一家の連中がこんなところに流れてくるとはね。王国から問い合わせがあるかもしれないから適当にあしらってくれ。」
「了解だ。ダヴィル大使にも言っておく。……それで肝心の”彼”には会えなかったようだな?」
「うん、結局彼には会えなかった。どうやらトラブルが発生したらしい。空賊事件との関係はいまだ不明だが別の勢力が動いているのは間違いない。」
「そうか………やはりそう簡単に事は運ばないな……」
オリビエが残念そうに語ると、何かからも落胆した声が聞こえた。

「フッ、そうでもないのさ。面白い連中と知り合いになれたよ。」
「面白い連中だと?」
「ああ、”彼”の家族に後”闇の聖女”の娘に”覇王”の孫娘にも会っちゃったよ♪」
「ほう……”彼”の……ん?待て、今何かとんでもない人物と出会ったと言わなかったか?」
「え……ああ”闇の聖女”の娘に”覇王”の孫娘かい?」
「そう、それだ………って何!!!???」
オリビエが話をしている男性らしき声はオリビエが会った人物を告げると一瞬絶句し、その後怒りを抑えたような声を出した。
「……まさか、貴様はいつもの調子でその方達と話をしたのか?」
「さすが我が親友♪いやぁ~、噂通り容姿端麗なメンフィルの姫君達を見て、”闇の聖女”やメンフィルの武官達にも会いたくなっちゃったよ♪いっそ、こっそり大使館に侵入しちゃおうかな♪」
「この……お調子者が!!万が一正体がばれて、他国の土地で同盟国の皇女に言い寄ったこと等が判明したら完全に外交問題だぞ!?それに大使館に侵入して、捕まったら貴様の身どころかエレボニアが滅んでしまうわ!そこのところをわかっているのか!?」
「わかった、わかった。そんなに恐い声をださないでくれ。そちらの方は引き続き頼む。くれぐれも宰相殿に気付かれるな。」
怒鳴る男性らしき声にオリビエは適当に答えて言った。
「くっ……本当にわかっているのだろうな?……まあいい、その件は了解だ。」
「また連絡するよ……親友。」
そしてオリビエは何かについているボタンを押して懐に戻した。
「フフ、相変わらずからかい甲斐のある男だな。融通の利かないところが可愛いというか何というか……」
「……携帯用の小型通信機ね。ずいぶん洒落たものを持ち歩いているじゃないの。」
飛行船から見える空を見て呟いたオリビエだったが、その時背後からシェラザードの声が聞こえ驚いて振り向いた。

「シ、シェラ君……」
「ツァイスの中央工房ですら実用化していないオーブメントを持っているなんてね……。あんた、いったい何者なの?」
「フッ、水くさいことを言わないでくれたまえ。漂泊の詩人にして天才演奏家、オリビエ・レンハイムのことはキミも良く知っているはずだろう?だが、もっと知りたいのであれば所謂(いわゆる)ビロートークというやつで……」
「悪いけどマジなの。道化ゴッコは通用しないわよ。エレボニア帝国の諜報員さん。」
「フフ、『風の銀閃』の名はどうやらダテじゃなさそうだね。エステル君やメンフィルの姫君達の前では気付かぬフリをしていたわけか。」
シェラザードを誤魔化そうとしたオリビエだったが、真剣に自分を睨み仮の推測で自分の正体を言ったシェラザードにオリビエは否定もせず、シェラザードに感心した。
「これ以上、あの子達やお世話になっている人から任されたご息女に余計な心配をかけたくないもの。それじゃ、詳しいことをサクサクと喋って貰おうかしら。あんたの目的は?どうやってリベールに潜入したの?」
「その前に……2つほど訂正させてくれるかな。まず、道化ゴッコはしていない。ボクの場合、これが地の性格でね。擬態でも何でもなかったりする。」
「あー、そうでしょうね。ワインをダダ飲みしたのだって飲みたいからやったんでしょうよ。」
オリビエの答えにシェラザードは溜息をつきながら納得したが、その後真剣な表情でオリビエを睨んだ。
「ただしその後、門に連行されて情報を集めることまで計算してね。私達と合流する事まで狙っていたとは思えないけど……」
「フフフ……そのあたりは想像にお任せするよ。……訂正するのはもう1つ……この装置はオーブメントじゃない。帝国で出土した『古代遺物(アーティファクト)』さ。あらゆる導力通信器と交信が可能で暗号化も可能だから傍受の心配もない。忙しい身には何かと重宝するのだよ。」
オリビエは懐から先ほどまで使っていた装置らしき物を出して説明した。

「アーティファクト……七耀教会が管理している聖遺物か。ますますもって、あんたの狙いが知りたくなってきたわね。あんたも知ってると思うけどリベールは唯一異世界の国であり、
”大陸最強”を誇るメンフィルと同盟を組んでいる国……まさか同盟を崩す工作や……それとも、自分達にとってリベール侵攻を邪魔された恨みや仲間の仇であるメンフィルの重要人物の誘拐や暗殺かしら?」
オリビエの説明を聞いたシェラザードはますます警戒心をあげ、目を細めてオリビエを睨んだ。
「イヤン、バカン。シェラ君のエッチ。ミステリアスな美人の謎は無闇に詮索するものじゃなくてよ。」
「………………………………本物の女に近づきたい?あたしの鞭で手伝ってあげるけど。」
オリビエのふざけた態度にシェラザードは鞭を構え、笑顔で睨んで言った。
「や、やだなあシェラ君。目が笑ってないんですけど……まあ、冗談は置いとくとして。」
シェラザードの様子に焦ったオリビエだったが、急に真面目な表情になった。
「ったく。最初から素直に話なさいよ。」
「お察しの通り、ボクの立場は帝国の諜報員のようなものさ。だが、工作を仕掛けたり、極秘情報を盗むつもりはない。ましてや眠れる獅子より怖い物を起こすような真似なんてできやしないさ。知っているとは思うけどエレボニアは導力技術さえなかったメンフィルに大敗したんだからね。そんなエレボニアが導力技術も手に入れたメンフィルに逆らう勇気や戦力なんてないよ。なんせエレボニアが誇る将軍、『焦眼のゼクス』中将さえ『メンフィルの堕天使』ファーミシルス大将軍に圧倒的な力の差を見せつけられた上、率いていた兵もほぼ全滅させられたんだしね。そりゃあ逆らう気もなくすよ。ボクはただある人物達に会いに来ただけなんだ。」
「ある人物達……?」
シェラザードはオリビエの目的が気になり、先を促した。

「キミも良く知っている人物達だよ。一人は『王国軍にその人あり』と謳われた最高の剣士にして、稀代の戦略家。大陸に5人といない特別な称号を持つ遊撃士――『剣聖』――カシウス・ブライト。そしてもう一人は異世界の偉大なる王にして”大陸最強”と謳われている魔人。『剣聖』の上をも行くと言われるメンフィルの”覇王”――『剣皇』――リウイ・マーシルン皇帝その人さ。」
オリビエは詩人が物語を謳うような動作で自分が会いに来た人物達を語った……




後書き ようやく1章が終わった!2章は原作も含めて新キャラが多数登場しますので楽しみに待ってて下さい。……感想お待ちしております。



[25124] 第52話
Name: sorano◆b5becff5 ID:fe752bca
Date: 2011/07/18 22:38
いよいよ2章開始です!2章開始と同時に驚きの展開やあるキャラの話が出てきます!


シェラザード達を見送ったエステル達は次の推薦状を貰うために新たな街、ルーアンに向かって歩いていた。

~西ボース街道~

「それにしても……本当に定期船は使わなくていいのかい?歩いて行ったらかなりの遠回りになると思うけど。」
「さっきも言ったけど、父さんの言葉も一理あるわよ。『まずは自分が守るべき場所を実際に歩いて確かめてみろ』って言葉。」
定期船を使わず歩いてルーアンを目指すつもりのエステルにヨシュアは尋ねたが、エステルは笑って答えた。
「まあ、僕はいいんだけどね。リフィア達のことも一応考えて言ってる?」
「あ……そう言えば、今更だけどリフィア達は歩いて次の街に行くのは大丈夫?結構歩くと思うけど……」
「余を誰だと思っている?幼少の頃より国中を駆けまわった余にとって造作もないわ!」
「歩くのはめんどくさいけど、みんなとおしゃべりできるからエヴリーヌはいいよ~。」
「私も鍛えてはいますから、大丈夫ですから心配は無用です。この旅はエステルさん達の修行でもあるんですから、私達のせいでお二人の修行内容を変えさせはしませんから安心して下さい。」
「そっか……そう言えばサエラブ、あれからどうしているんだろう?」
エステルは空賊団のアジトで共に戦い、いつの間にか姿を消していたサエラブのことを思い出して呟いた。

「僕達がリフィア達と合流する道すがらいなかったから、きっと人に見つかる前にどこかに行ったんじゃないかな?下手したら僕達以上に知能がありそうだから人間に姿を見られたら怖がられると思ったんじゃないかい?」
「それはそうなんだけど……」
「ん?エステル。お前、”炎狐”と出会ったのか?」
エステル達から聞き覚えのある懐かしい名前が出て来てリフィアは首を傾げて聞いた。
「うん。ボクっ娘達と戦った時、いきなり現れていっしょに戦ってくれたんだ!」
「後、首領達を追う時も道を塞ぐ手下達を相手にしてくれたんだ。……それにしてもリフィアが知っているということはそっちの世界の生物なのかい?」
リフィアの疑問にエステルは胸をはって答え、ヨシュアはサエラブの事を知っていそうなリフィアに聞き返した。
「うむ。とは言ってもレスぺレントに住む生物ではない。レスぺレント、アヴァタール地方より遥か南――セテトリ地方の”工匠都市”ユイドラの近くの火山に住む幻獣だ。以前余とエヴリーヌが共に戦った仲間――ウィルフレドと共に戦っていたからよく覚えている。」
「”工匠都市”って何??」
リフィアから聞き覚えのない言葉が出て来て、エステルは聞き返した。
「”工匠都市”とはその名の通りさまざまな職人によって治められているいる都市だ。ユイドラの近辺には”工匠会”に管理され、さまざまな材料の宝庫となる場所があるからな。余も時間があればもっと行ってみたかったものだ。」
「エヴリーヌもあそこは結構気にいっていたよ。葡萄が凄く甘いんだよね~。……ん~……思い出したら、セテトリ地方の葡萄が食べたくなっちゃったよ!」
「へぇ……職人によって治められている都市か……ルーアンの次にある都市、ツァイス市に少し似ているね。」
リフィアの説明を聞き、ヨシュアは感心した様子で答えた。

「それだけではないぞ。今のユイドラはある意味メンフィルと同じ考え方をしているからいいのだ!」
「それってどんな考えなの?」
胸をはって答えるリフィアの言葉に疑問を持ったエステルは尋ねた。
「”全ての種族と協力し合って生活をする”。これが今のユイドラの領主であり”工匠”の中で最高の称号、”匠王”ウィルフレド・ディオンの考えだ!余もかの者に依頼をしたことがあったが、職人としての腕はもちろん、さまざまな種族を集める求心力、武芸も中々のものだったぞ。特にお互い相容れないはずの天使と睡魔族が共に戦っているのを見た時はさすがの余も驚いたぞ。余とエヴリーヌが去った後も我が祖国メンフィルが集めた情報によれば天使の中でも中位に冠する天使や精霊の中でも王族に値する精霊や”雷竜”、”歪魔”それに”死神”、果ては古代の”魔神”ソロモン72柱の一柱すら力を貸したというしな。」
「確か話によるとエルフを娶ったそうですよね、リフィアお姉様。」
「うむ。ちなみに余があ奴らと会った時からエルフと恋仲だったぞ。それにすでに子も産まれたそうだからな。……あれほどの者が人間としての生を終えることを考えると残念なんだがな……」
「そうですね、特に妻となったエルフの方にとってはつらい事でしょうね……」
残念そうな表情のリフィアに同意したプリネは悲しそうな表情をした。
「う~ん。そうかな?」
一方エステルは首を傾げて答えた。
「ほう?それはどういう意味だ、エステル。」
エステルの答えを聞いたリフィアは興味深そうに聞いた。

「えっと……その前に聞きたいんだけど、そのエルフって種族も長寿なのよね?」
「うむ。彼らは余達”闇夜の眷属”より”魔神”を除いて長寿とも言われておる。」
「そっか……確かに好きだった人がいなくなって、自分だけ生き続けるのはつらいと思うよ?でも、あたしが思うに多分2人もそのことも考えた上で結婚したんじゃないかな。それにさ、そのウィルフレドっていう人の考えを奥さんがずっと覚え続けてくれるんじゃない?そして奥さんが住んでいる街も奥さんがいる限り、ずっと”全ての種族と共存して生活する。”の考えを守ってくれるんじゃないかな?
それに子供だっているんでしょ?その子供を夫の代わりに母親としてずっと見守っていけるんだから、つらいことばかりじゃないとあたしは思うよ?」
「「「「「……………………」」」」」
「あ、あれ?みんなどうしたの??」
驚いた表情で自分を見るヨシュアやリフィア達を見て、エステルは慌てて聞き返した。
「いや……そんな前向きな考えがあるとは思わなくて、僕を含めてみんな驚いていたんだよ。」
「ええ。……フフ、私は自分の伴侶は寿命の関係で少なくても人間の方はやめておこうかと思っていましたけど、エステルさんの考えを聞いたら少し考え直そうと思いましたよ。人間でありながら異種族と結ばれた時の利点を思いつくなんて、さすがエステルさんですね。」
「や、やだなぁ。照れるじゃない……」
ヨシュアやプリネに褒められたエステルは照れて笑った。

(……まさかあの2人が我や”仙狐様”を含め戦友達の前で結納を挙げた際、我らの前で宣言した永遠の約束をお前が考え付くとは、さすがの我も驚いたぞ。エステル。)
「へ……あ!サエラブじゃない!いつの間に!?」
聞き覚えのある念話にエステルは驚き、振り向くといつの間にかエステル達の前にサエラブがいた。
「この方が話に聞いていた”炎狐”ですか……」
初めて見る幻獣にプリネは興味深そうに見た。
「おお、お前はウィルフレドの所にいた”炎狐”ではないか!久しぶりだな!」
「久しぶりだね。」
懐かしい人物の関係者にリフィアとエヴリーヌは話しかけた。
(……久しいな。それにしてもお前達が北の魔族大国の王族とは思わなかったぞ。ウィルは少なくともお前が貴族の類であることには疑っていたがな……)
「正体を隠していたのは余達にとってお忍びの旅になるからな。それに一応皇族として他国に許可もなく歩く廻る訳にもいかなったからな。結局お前達には正体を明かさず去ってしまって、すまなかったな。」
(……別にいい、我には関係ないことだ。我がお前達の前に姿を現したのはエステル、お前に用があるからだ。)
「あ……ボクッ娘達と戦った時の約束だね。何かあたしに頼みたいことがあるって言ってたわよね?あたしにできることならなんでもいいわ!あたしの頼みを聞いてくれたっていう報酬を貰っているんだから遊撃士としてあなたの依頼を受けるわ!」
サエラブの念話にドルンと戦った時の約束を思い出したエステルは何をすればいいか尋ねた。

(では、手短に用件だけ伝える。エステル、我と契約しろ。)
「へ!?」
サエラブの念話にエステルは驚いて声を出した。
(どうした、そのような声を出して。以外か?)
「えっと……うん。とりあえずなんであたしと契約したいのか聞いていい?」
(いいだろう。心して聞くがよい。)
そしてサエラブはエステル達に語った。サエラブは自分達”狐炎獣”を束ねる長”仙狐”が新たな世界の登場を、ほかの”仙狐”から聞き”仙狐”同士でその世界のことについて話し合い、自分達のような存在がその世界にいるか、またサエラブ達の長自身がどのような世界か知りたいために誇り高くあまり人間に友好的でない”狐炎獣”の中で唯一人間と交流をしたことがあり、一人の人間を友と認めたサエラブが選ばれ、ゼムリア大陸を調べるために来たことを語った。
「……それにしてもよく異世界の存在を知りましたね?一応異世界の存在は関係者以外機密扱いにしていたんですが……」
プリネはサエラブ達が異世界の存在を知ったことに驚いて尋ねた。
(我らには我らなりの情報の集め方があるとだけ言っておこう。)
「”狐炎獣”の情報の集め方やどうやって我が軍の監視の目を掻い潜ったか余も多少興味があるが今はそれどころではないな。それよりどうするのだ、エステル?」
「え!?う~ん……ねえ、一つ聞いていいかな?なんであたしをあなたの契約者として認めてくれたの?あなた自身も言ってたけどあなた達ってあたし達より賢くて、すっごく誇り高い性格をしているんでしょ?なのになんで??」
リフィアに尋ねられたエステルは迷った後、なぜ自分がサエラブに選ばれたかを聞いた。

(……どこか”我が友”に似ているお前なら力を貸してやってもいいと直感で感じたのだ。それにどの道この世界の人間達の生活を知る必要がある。だったら魔族や精霊を怖がらず友人として扱い、共に戦うお前と契約し、大陸中を廻ったほうが効率がいい。お前と共に歩んでいるのなら人間達の目を気にする必要もないしな。お前は大陸中に散らばる”遊撃士”の一人なのだろう?)
「うん。……と言ってもまだ見習いだけどね。正遊撃士になったら他国でも仕事が出来るから今は修行中よ!」
(ならいい。それにあの赤毛の重剣士も言っていたがお前自身はまだまだだからな。)
「あ、あんですってー!なんでアガットが言ってたことを知っているのよ!?」
サエラブがアガットが言ってたことを出し、それに怒ったエステルは尋ねた。
(……崖の下で騒がしい会話をしていたからな。それで少々興味があったからお前達の会話を聞いていただけだ。)
「……もしかしてラヴィンヌ山道で一瞬だけ視線を感じたのはあなただったんですか?」
一方サエラブの説明を聞いてある事を思い出したヨシュアは尋ねた。
(そうだ。それにしてもあの時は驚いたぞ。この世界の人間が精霊と契約し、友人のように接していたことにな。それどころか”水竜”をも手なずけていたしな。)
「ちょ、ちょっと!なんでヴァレリア湖のことまで……」
サエラブの念話にエステルは驚いて聞いた。

(山道で幼い頃に精霊と契約したと言っていたお前に少々興味があってな……さまざまな所で遠くからお前の行動を見ていた。)
「なんで声をかけてくれないのよ~……まあ、いいわ。それで期間はどれくらいかな?サエラブはこの世界を調べるように言った人にいつか報告するんでしょ?」
サエラブの説明にエステルは呆れた後、いつまで契約してくれるか尋ねた。
(お前が契約している精霊と同じようにお前の生涯の最後まで付き合ってやろう。)
「え!?あたしまだ16歳なのにいいの!?」
(我を誰だと思っている?我は悠久の時を生き、遥か高み”仙狐”を目指す幻獣。高々数十年をお前のために使っても特に支障はない。”仙狐”様もいつまでに帰還してくることを言わなかったしな。それにお前のような存在がいたことを報告すれば”仙狐”様も気にいっている”我が友”のような者がいたことに喜ばれ、こちらの世界の人間のために他の”仙狐”を派遣することも考えるだろうしな。)
「そっか……じゃあ、早速契約をお願いしていいかな?」
(その前に一つだけ聞いておく。エステル、お前は何のために自らに秘めたる力を揮い、我や風の精霊を使役する?)

「……あたしの”力”を揮う理由やあなた達と共に戦う理由は一つ!”闇の聖女”様のように、傷ついて困っている人達を助けるために使うこと!そしていつか聖女様に成長したあたしを見て貰って、その時にお母さんを助けてくれたお礼を言うんだ!」
「エステルさん………」
(フッ……よりにもよって”混沌”を望む女神の僕に憧れるか。クク……”悪”を喰らった我にはちょうどいい。……いいだろう!今より我、サエラブはお前の命果てるまで力になることを誓おう!我が炎、使いこなしてみるがよい!行くぞ!)
「オッケー!いつでも来なさい!」
エステルはかつてパズモと契約したように、両手を広げ胸をはってサエラブを受け止めれるような姿勢なった。そしてサエラブは前足をかがめた後、大きく跳躍してエステルに突っ込みエステルの魔力に同調して消えた。
「これが”契約”か……」
初めて見る使い魔の契約にヨシュアは興味深そうに見て呟いた。
「どうだ、エステル?体に異常はないか?」
リフィアも興味深そうに見た後、エステルの体調を尋ねた。
「うん……サエラブがあたしの魔力に同調した時、一瞬体中が炎が宿ったみたいに凄く熱かったわ。それに何か閃いたわ。……サエラブ!」
何かの感覚を掴んだエステルは生涯を共にする新たな仲間を呼んだ。契約主に呼ばれたサエラブはエステルの身体から光の玉として出て来た後、自分の体を覆うような炎を纏いながら炎の中から出て来た。

「これからよろしくね、サエラブ!」
(この我が契約してやったのだ。我が失望せぬよう精進するがよい。)
「相変わらずえらそうね~……まあいいわ。ねえ、もしかしてあたし、あなたと契約したから炎の魔術が使えるの?」
サエラブの念話に苦笑したエステルはある事に気付きサエラブに尋ねた。
(我は炎の属性を司る幻獣。我と契約した影響は出て当然だ。試しにお前なりの炎を浮かべて放つがよい。)
「わかったわ。………えい!」
エステルはサエラブと共に戦った時、サエラブが口から吐いた火の玉を思い浮かべ片手を前に突き出した。すると突き出した片手から拳ほどの火の玉が出て来て、近くの大きな石に当たって消えた。
「ほう……火炎魔術の初級魔術の”火弾”だな。」
リフィアはエステルが放った火の玉を見て、感心して呟いた。

「凄いな……思い浮かべるだけで新しい魔術が出来るなんて……エステルの野生のカンは本当に驚かされるよ……」
「し、しっつれいね~……でもいいわ。新しい属性の魔術も使えるようになったし!」
感心して呟いたヨシュアにエステルは白目で睨んだ後、喜んだ。そこにプリネが真面目な表情で話しかけた。
「喜んでいるところ悪いんですが……エステルさん、火炎魔術は細心の注意を払って使って下さい。私も魔力で武器に炎を宿す技を持っているからわかるんですが……炎はこの世に留まり続けている邪霊や不死の者達を焼き払い、自然界の属性魔術の中で最も威力が高いのですが、使い方を間違えれば周囲の人達に甚大な被害を与えてしまう恐ろしい属性でもあります。」
「……そう言えばシェラさんも言ってたね。アーツの属性の中で最も気を付けなければならないのは”火”のアーツだって。」
「あ……そっか。使い方を間違ったら火事にもなるし、加減を間違えたら相手に大火傷させてしまうものね……」
プリネとヨシュアの説明に納得したエステルは魔術を放つ両手を見た。
(……炎の扱いは我がいるから、無理してお前が使う必要はないぞ。)
「ううん……絶対使いこなして見せるわ。魔術が使えるとわかったその時に父さんに言われたの。『得てしまった力は間違った方向に使わなければ、心強い力になる。』って。だからあたしに宿った炎の力も正しいことに使ってみせるわ!」
(フッ……その意気だ。我が炎を見事使いこなせるか、見守らせてもらうぞ……)
「うん!」

こうしてエステルは新たな仲間と力を手に入れ、そして次の目的地ルーアンに向かってヨシュアやプリネ達と共に歩き出した………


後書き サエラブの登場の仕方といい、仲間のなり方がどこかの狼さんのパクリとか突っ込まないで下さい……感想お待ちしております。



[25124] 第53話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c98fe1bd
Date: 2011/07/19 18:33
神採りのアペンドきたーーー^^!!今から凄く楽しみです!




ルーアンに向かって歩いて進んでいたエステル達は夕方になる頃に、ボースとルーアンを繋ぐ関所についた。

~クローネ峠・関所前~

「は~、やっと着いたみたい。あれが関所の建物なのかな?」
関所らしき建物を見たエステルは長い道のりを歩いて来たので、安堵の溜息をはいた。
「そうみたいだね。あれを越えたらルーアン地方だ。でも参ったな……もうすぐ日が暮れる。今日はここに泊めてもらった方がいいかもしれない。」
「別にいいけど……。急いで峠を降りて、麓の宿に泊まる選択肢もあるんじゃない?」
日が暮れ始めていることに気付いたヨシュアは提案をし、エステルはそれに頷きながらもほかの選択肢を言った。
「夜の峠越えは危険だよ。視界も悪ければ足場も悪い。夜行性の魔獣に襲われたら崖から落ちる可能性だってある。あんまりお勧めできないけどな。……それに旅をしているのは僕達だけではないんだよ。」
「あ………」
エステルに答えたヨシュアはリフィア達の方に向いた。ヨシュアに気付かされたエステルは思わず声を出した。
「エヴリーヌはフカフカのベッドで寝たいから、ここに泊まるのに賛成~。」
「余はどちらでも構わん。夜の行軍などで慣れておるしな。」
「私もリフィアお姉様といっしょです。お父様達からは野営の訓練も受けていますし。」
「2人の気持ちはありがたいけど、ここはエヴリーヌの希望に沿って休ませてもらいましょ。さすがにあたしも夜の峠越えは怖いし。」
そしてエステル達は関所に泊めてもらうことにし、門番の兵士達に近づいた。

「おっと、珍しいな。こんな時間にお客さんなんて。ハイキングに来て道に迷っちまったのか?」
兵士の一人がエステル達を見て、尋ねた。
「ううん、違うわ。あたしたち、一応、遊撃士なんだけど。」
兵士に答えたエステルは準遊撃士の紋章を見せた。
「へえ、あんたたちの歳で遊撃士ってのは驚きだなぁ。それじゃあ、仕事で来たのかい?」
「いえ、実は正遊撃士を目指して王国各地を回るつもりなんです。」
「で、どうせだったら修行を兼ねて飛行船を使わずに歩こうかな~って。」
「歩いて王国一周するのか!?は~っ、若いって言うか気合が入っているって言うか。」
「えへへ、それほどでも。」
ヨシュアとエステルの答えに兵士は驚いて感心した。兵士に感心され、エステルは照れた。

「しかし、いくらなんでも今から峠を降りるのは危険だぞ。最近、このあたりではやたらと魔獣が発生してるからな。5人もいるとはいえ、油断は禁物だ。旅人用の休憩所があるから今夜はそこに泊まっていくといい。」
「やった、ありがと♪」
「助かります。」
「ありがとうございます。」
「お主の好意に感謝する。」
「ありがとう。」
兵士の好意にエステル達はそれぞれ感謝の言葉を言った。
「なんのなんの。休憩所を使うときはウチの隊長に声をかけるといい。手前の詰所にいるからさ。」
そしてエステル達は関所の中に入って行き、関所を守る兵士達を纏めている隊長から許可をもらい、休憩所の中に入った。

~関所内・休憩所~

「ここが旅行者用の部屋ね。」
「うん。まずは暖炉をつけようか。」
そしてヨシュアは暖炉に火をつけた。すると部屋中が暖炉の火によって暖かくなった。
「は~、あったかい……。やっぱり薪を使った暖炉って落ち着く感じがする……」
「そうだね。導力ストーブも出回ってるけど、暖かさでは暖炉には敵わないかな。」
「ええ。大使館にも導力ストーブはありますが、私を含めほどんどの方は暖炉を使用していますから、やはりこちらのほうが落ち着きますね。」
「……あったかくなったら眠くなっちゃった。ベッドもあるし寝ようかな……」
「気持ちはわかるがせめて食事が終わってからにしておけ。」
「おーい、お邪魔するぞ。」
暖炉の火で暖かくなった部屋で安心して、寛いでいるエステル達の所に関所の隊長の補佐をしている副長が入って来た。

「隊長から話は聞いたぜ。今夜は泊まっていくんだって?夕食、俺たちのメシと同じでよけりゃご馳走するけど、どうする?」
「え、いいの?」
「すみません、何から何まで。」
副長の申し出にエステルは驚き、ヨシュアはお礼を言った。
「なあに、定期船が就航してから通行人がめっきり減ってな。ヒマを持て余しているから正直、客人は大歓迎なのさ。」
「よし、それじゃあ少しの間待っててくれや。もっとも軍隊のメシだから、あまり味に期待しないでくれよ?」
エステルの答えを聞いて、頷いた副長は料理を持ってくるために部屋から出て行った。
「空賊団騒ぎでは王国軍と張り合っていたけど……。1人1人の兵士さんはやっぱり親切な人が多いよね。」
副長が出て行った後、エステルは今まで会って来た王国軍の兵士達を思い出して呟いた。
「確かにそうだね。まあ、軍人が親切なのはリベールくらいだと思うけど……」
「え?」
「「………………」」
しかしヨシュアの含みのある言葉にエステルは何のことかわからなく思わず声を出した。ヨシュアの言葉の意味がわかっているリフィアやプリネは何も言わず黙っていた。
「いや……とりあえず荷物を置こうか。」
そしてエステルに追及されないためにヨシュアは話題をそらし、荷物を置き始めた。しばらくすると副長が食事を持って来てえ、エステル達は関所の兵士達に出される食事をたっぷりと堪能した。

「は~、お腹いっぱい。期待しないでとか言ってたわりには、かなり美味しかったと思わない?」
「うん。デザートもあったから、果物も出てそれも甘くて美味しかったから、エヴリーヌも驚いたよ。」
「そうだね。軍で出る食事とは思えないな。」
「ええ、普段の食事とほとんど変わりなくて私も驚きました。」
「ふむ。兵士達のことを考えるのも皇族としての務め……我が軍の食事も改正する必要があるかもしれんな。」
「ちょっと失礼するぞ。」
夕食の感想をそれぞれ言っているところに、副長が入って来た。
「あ、副長さん。すっごく美味しかったわよ♪」
「ご馳走さまでした。」
「美味しかったよ、ありがとう。」
「うむ、普段の食事と変わらぬ美味な料理であったぞ。」
「美味しい料理をありがとうございました。」
副長を見て、エステル達はそれぞれお礼を言った。

「お粗末さま。口に合ったようで何よりだ。ところで……もう1人客が来たんだが、相部屋でも構わないかい?」
「来客……こんな夜中にですか?」
副長の言葉にヨシュアは首を傾げた。
「ずいぶん度胸があるヒトねぇ。あたしたちは構わないけど?タダで泊めてもらってる身分だし。」
「そう言ってくれると助かるよ。ま、嬢ちゃんたちの同業者だから気兼ねする必要はないだろうけどな。」
エステルの答えに副長は笑って言った。
「え?」
「同業者?」
「フン……どこかで見たような顔だぜ。」
エステルやヨシュアが首を傾げている所、部屋に新たな客――なんとアガットが入って来た。
「あら……」
「む?どこかで見た顔だな?」
「…………ふわぁ~あ……………」
「あ、あんた……」
「『重剣のアガット』……」
アガットの姿を見てリフィアは首を傾げ、エステルやヨシュア、プリネは驚いた。アガットに興味がないエヴリーヌは欠伸をして、眠そうにしていた。

「なんだ、知り合いだったのか。ところで、アガット。お前さん、メシはどうする?」
驚いているエステル達を見て顔見知りと判断した副長はアガットに尋ねた。
「いや、せっかくだがさっき喰っちまったばかりだ。寝床を貸してくれるだけでいい。」
「わかった。ベッドは適当に割り振ってくれよ。それじゃあ、おやすみ。」
アガットの答えに頷いた副長は部屋を出た。
「さてと……オッサンの子供たちだったか。それにメンフィルの貴族共も。何だってこんな場所に泊まってやがる?シェラザードはどうしたんだ?それにどうして小娘共がオッサンの子供達といっしょにいるんだ?」
副長が出て行くのを見届けたアガットは疑問に思っていたことを早速エステル達にぶっきらぼうな態度で尋ねた。
「シェラさんはロレント地方に帰りました。プリネ達は僕達がメンフィルの方達に依頼で指名されているので共に旅をしているんです。今は僕たち5人で旅をしています。」
「正遊撃士を目指して王国各地を回ろうと思ってるの。修行を兼ねて自分の足だけでね。」
「正遊撃士?歩いて王国一周だぁ?ずいぶんと呑気なガキどもだな。」
エステルの答えにアガットは呆れた口調で言った。
「あ、あんですってー!?」
アガットの言い方にエステルは怒って叫んだ。

「お前らみたいなガキが簡単に正遊撃士になれるわけねぇだろ。常識で考えろよ、常識で。しかもメンフィルの大貴族とやらはお前達を指名したのかよ。お前達みたいなヒヨッコに依頼するなんて、貴族の考えていることは理解できねぇな……」
「こ、これでもあたしたち空賊逮捕で活躍したんだから!推薦状だって貰っているし、子供扱いするのやめてよねっ!それにあんたも遊撃士の一人なら依頼者の事を悪く言わないでよ!」
「フン、依頼者をどう思うかは俺の勝手だ。……それと空賊の件はルグラン爺さんから聞いたぜ。それじゃあ聞くが……仮にお前らしかいなかったらその事件、解決できたと思うか?シェラザードの手やそこのメンフィルの貴族共の手を借りずにお前たち自身の力だけでだぞ?」
「そ、それは……」
「……難しかったと思います。」
アガットに反論したエステルだったが、正論を返されエステルとヨシュアは口ごもった。

「ま、当然だろうな。お前たちは新米で、しかもガキだ。力もなけりゃ、経験も足らねえ。とっさの判断も出来ねえはずだ。それを忘れて浮かれてるといつか必ず足元をすくわれるぞ。」
「う、浮かれてなんかないもん。あんたの方こそ、こんな時間に峠越えなんて危なっかしいことしちゃってさ。人のこと言えないんじゃないの?」
アガットの忠告にエステルは言い返した。
「アホ、鍛え方が違うんだよ。それに俺の方は仕事だ。物見遊山の旅と一緒にすんな。」
「仕事?遊撃士協会のですか?」
アガットの答えが気になったヨシュアは尋ねた。
「ああ、お前らのオヤジに強引に押し付けられた……」
「え……?」
「父さんが押し付けた?」
「……………………………………さてと、明日は早いし、とっとと休ませてもらうぜ。お前らも喋ってないで寝ろや。」
ヨシュアの疑問に思わず答えようとしたアガットだったが、エステルとヨシュアを見て口を閉じベッドに寝転んだ。

「あー、ごまかした!?」
「そこまで露骨すぎると余計に気になるんですけど……」
アガットの態度にエステルは怒り、ヨシュアは呆れた。
「あーもう、うるせえな。ガキが余計なことに首を突っ込んだら火傷するぞ。とっととルーアンに行って掲示板の仕事でもしていやがれ。それが……ふぁあ……お前らにはお似合いだぜ………………………………」
2人の答えにアガットは面倒くさい表情をして答え、すぐに眠りについた。
「ちょ、ちょっと……」
「もう寝ちゃったみたいだね。エステル並みに寝つきがいいなぁ。」
「一緒にしないでってば!もー、何なのよコイツ!?ケンカ売ってるとしか思えないんですけどっ!?」
ヨシュアに自分とアガットの事をいっしょにされたエステルは怒った後、疲れた表情になった。
「まあまあ。もしかしたら、エステルさん達のことを心配してわざと厳しく言ってるのかもしれませんよ?」
怒っているエステルを宥めるようにプリネは言った。
「………………………………ねえ、プリネ。ほんとーにそう思う?」
「あはは……すみません。正直、自信がありません。それよりそろそろ私達も寝ましょうか。お姉様達はアガットさんに興味がなかったのか、明日に備えてすでに眠りについていますし。」
「へ?あ、ホントだ。」
プリネに言われたエステルはいつの間にか、ベッドに入って眠りについているリフィアやエヴリーヌを見た。

そしてエステルはアガットに悪戯しようとしたがヨシュアやプリネに止められ、納得しない表情をしながらも明日に備えて眠りにつこうとした時何かの物音が聞こえ、異変に気付いて起きたアガットやリフィア、エヴリーヌと共に物音がした場所に向かった………


後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第54話
Name: sorano◆b5becff5 ID:a5dc3f67
Date: 2011/07/20 09:52
物音がした場所に向かったエステル達が見たのは狼の群れと戦っている兵士達であった。

~ボース側関所前・深夜~

「狼の群れ……!」
ヨシュアは兵士達と戦っている正体を見て驚いた。
「た、大変!早く加勢しなくちゃ!」
エステルは慌てて棍を出した。
「……犬のクセに気持ちよく眠っていたエヴリーヌを起こすなんてムカツクね。どんな鳴声を鳴かせてあげようかな……キャハッ♪」
一方エヴリーヌは凶悪な顔で物騒な事を言った後、虚空から弓を出した。
「……コラ、やめとけ。」
「エヴリーヌも武器をしまえ。余達の出番ではない。」
エステルとエヴリーヌが武器を出して狼の群れと戦おうとした時、アガットとリフィアが止めた。
「な、なんで止めるのよ!?あんた、それでも遊撃士なの!?」
「……なんで戦っちゃダメなの?リウイお兄ちゃん、いつも言ってるじゃない。『力ある者は力無き者にために使え。」って。」
アガットとリフィアの制止の声にエステルは怒り、エヴリーヌは不思議そうな表情をした。

「勘違いするんじゃねえ。関所を守るのは軍の仕事だ。ここの連中は錬度も高いからすぐに撃退できるだろうよ。余計なお節介ってモンだろうが。」
「アガットさんの言う通りです。エヴリーヌお姉様。彼らにも私達”闇夜の眷属”のように王国を守る兵士としての誇りを持っているのですから、それを無下にしてはいけません。」
「………………」
「そ、そんなこと……」
エヴリーヌはプリネの言葉を理解したのかつまらなさそうな表情で弓を虚空に戻したが、エステルは納得できない様子で呟いた。
「2人の言う通りだ!これは自分たちの仕事さ!」
「嬢ちゃんたちは中に入ってな!」
「で、でも……」
狼と戦っている隊長や副長が口々に手助けは無用であることを言ったが、エステルはまだ迷っていた時に突然警報がなった。

ジリリリリリ!!

「……ちいっ!」
警報にいち早く気付いたアガットは舌打ちをして、関所の奥へ向かって行った。
「ど、どうなってるの!?」
「エステル、反対側だ。ルーアン方面の出口でも何かが起こったらしい。」
「あ、あんですって~!?」
そしてエステル達もアガットを追って行った。

~ルーアン側関所前~

そこには狼の群れに力尽きて跪いている兵士が襲われようとしていた。最初に狼の群れが現れたボース側に戦力を割いたため、ルーアン側では一人で狼の群れと戦っていたため、
数に圧されてしまったのだ。狼の群れから一匹兵士に向かって飛び掛かった時
「おらっ!」
アガットが重剣で飛び掛かった狼を一刀両断した。
「す、凄い……!」
「噂以上の破壊力だね。」
「ほう、中々の実力だな。」
「ん。まあ、お兄ちゃんほどじゃないけど。」
「お、お姉様……さすがにお父様と比べるのはちょっと……」
アガットの実力にエステルやヨシュア、リフィアは感心したが、エヴリーヌはリウイと比べたのでプリネは苦笑して比較対象が違いすぎることを言った。
そして仲間を斬り伏せたアガットに標的を変えた狼の群れはアガットを包囲した。
「ハッ、包囲するつもりかよ。犬ッコロのくせにわりと知恵が働くじゃねえか。」
自分を包囲した狼の群れにアガットは不敵に笑った。
「……加勢するわよっ!」
そこにエステルとヨシュアが飛び込み、アガットの背中を守るような戦闘配置に付き、武器を構えた。

「コラ、引っ込んでろ!」
「ふ~んだ。あたしたちの勝手だもんね。」
「邪魔にならないように手伝わせてもらいますから。」
エステル達を見て怒鳴ったアガットだったが、2人は気にせず答えた。
「お姉様方!私達も援護を……!?」
狼の群れに飛び込んだエステル達を見て即座にレイピアを鞘から抜き、リフィアやエヴリーヌにエステル達の援護を呼びかけようとしたプリネだったが敵意をほかの場所から感じて口を閉ざした。
「プリネも気付いたか。………どうやら向こうの襲撃は囮で、こちらの襲撃が本命だったようだな。」
「……だね。犬のクセに頭がいいようだね。………いい加減出てきたら!エヴリーヌは見下されるのがムカツクの………!」
いつの間にか弓を出したエヴリーヌが放った矢は崖の一部を破壊すると、狼の群れが崖から降りて来て、リフィア達を囲んで攻撃する態勢になって唸り声をあげた。
「「「「「「「「グルルルルル………」」」」」」」」」
「ほう……よりにもよって余達に目をつけたか………余が直々に相手にすることを光栄に思うがいい。」
「自分達からエヴリーヌ達に向かって来たんだから、跡形………残さなくていいよね………ウッフフフ♪」
自分達にも戦う相手がいるとわかったリフィアは不敵に笑い、エヴリーヌは凶悪な表情で笑った。
「チッ、どいつもこいつも………勝手にしやがれ。ヒヨッコ共!せいぜい、俺の『重剣』に巻き込まれないよう注意しとけよ!」
「来ます……!」
プリネの警告に答えるかのように狼の群れはそれぞれの目標に向かって襲いかかった!

襲いかかった狼の群れは普通の魔獣よりは知恵が廻り、身も軽く強かったが正遊撃士の中でも実力が高いアガット、これまでの経験で着実に強くなっているエステルとヨシュア、
世界を滅ぼしかねない邪悪な存在、”邪龍”をリウイ達や神殺し達と共に戦い倒したことのあるリフィアやエヴリーヌ、そして18という若さながらメンフィルの強豪達に鍛えられ、すでに達人以上のクラスに達しているプリネが相手では分が悪かった。

「ふおらあぁぁぁ!」
何匹かに固まっている狼の群れに向かってアガットは重剣に気合を込め、闘気で火炎を巻き起こし放った豪快な一撃のクラフト――フレイムスマッシュは固まっている狼達を斬り伏せ
「せいっ、はっ!」
ヨシュアは一体一体を双剣の特徴である2回攻撃――双連撃で着実に仕留め
「はぁぁぁぁぁぁ!」
エステルは自分自身を回転させて棍を振り回すクラフト――旋風輪で狼たちを吹っ飛ばした後、魔術の詠唱をした。
「………炎よ、行け!火弾!」
エステルの片手から放たれた火の玉は一匹の狼を燃やして倒し、さらに吹っ飛した狼たちに着実に狙いをつけて火の玉を放ち倒した。
「純粋なる魔の陣よ、出でよ!イオ=ルーン!レイ=ルーン!」
「全部……つぶす!制圧射撃!……まだまだ!行くよ……死んじゃえばぁ!アン・セルヴォ!!」
一方エステル達とは離れた所で戦っているリフィアやエヴリーヌは魔術や弓技で次々と狼達を一撃で討取り
「闇よ!我が仇名す者達に絶望を!……黒の闇界!!」
プリネは自分が使える魔術の中でも威力があり、効果範囲も広い暗黒魔術で狼達を攻撃し重傷を負わせたところを
「そこっ!ハッ!」
レイピアで一体一体確実に仕留めて行った。

「フム……まだ数は結構いるな。エヴリーヌ、久しぶりに”アレ”をやるぞ。」
リフィアは自分達の攻撃範囲内に逃れて無事な狼達を見て、エヴリーヌに言った。
「そうだね、こいつら弱すぎてつまんなくなったし、エヴリーヌもさっさと寝たいし決めちゃおうか。」
「よし……始めるぞ!」
エヴリーヌの了承の意を聞くと、リフィアは杖を構えて詠唱を始めた。また、エヴリーヌも弓を虚空にしまい両手を掲げリフィアと同じように詠唱を始めた。
「「……我等に眠る”魔”の力よ、我等に逆らう者達を滅せよ!………血の粛清!!」」
「「「「「ガァ…………………!!」」」」」
リフィアとエヴリーヌが協力して放った魔術は狼達の上空から魔力でできた槍が雨のように降り注ぎ、それに命中した狼達は断末魔を上げながら跡形もなく消滅していった。
「フフ、お姉様達も張り切っていますね。……では私も!」
尊敬する姉達の活躍を見て、自分もさっさと勝負を決めようと思ったプリネは一体一体を確実に仕留めるのを止めて、一端後ろに跳んで後退しレイピアを斬撃をする構えにして、自らの魔力で剣に黒々と燃える闇の炎を宿らせた。
「全てを燃やしつくす暗黒の炎!……魔剣奥義!暗礁!火炎剣!!」
「「「「グォォォォォ………!!」」」」
斬撃の構えで放った衝撃波は紫色に燃える妖しい炎と同化して狼達に襲い、狼達に断末魔を上げさせながら塵や骨も残さず焼き尽くした。そしてプリネの攻撃を最後にリフィア達を囲んでいた狼達は全滅した。
一方エステル達の戦いも終盤に向かっていた。
「せいやっ!」
アガットの重剣による豪快な一撃は敵を真っ二つにし
「おぉぉぉ!」
冷たい視線で敵の動きを鈍らせて、さらに精神的に追い詰めるヨシュアのクラフト――魔眼で狼達にダメージを与えると共に動きを止めさせているところを
「………風よ、切り裂け!旋刃!!」
エステルの風の魔術で狼達を切り裂いて倒した。倒された狼達は魔獣が倒れた時と同じようにセピスを落として消滅していった。

「ふう……なんとかやっつけたわね。」
「うん、数も多かったしなかなか手強い相手だった。」
真夜中の戦闘がようやく終了してエステルとヨシュアは一息ついた。そしてアガットはしばらくの間エステル達を観察して、自分なりの正当な評価をした。
「………………………………フン……思ったよりもやるみたいだな。ま、あのオッサンの手解きを受けていたんだったら当然か。……魔術に関してはサッパリわからねえがシェラザードには劣るが上手く使ってやがるな。」
「え。」
アガットが自分達を少しだけ認めたことにエステルは驚いた。
「勘違いするなよ。あくまで新米としてはだ。まだまだ正遊撃士には遠いぜ。」
驚いているエステルにアガットは忠告した。
「おーい!そっちは大丈夫か!?」
そこにボース側の関所前で戦っていた隊長と副長がやってきた。
「ああ、問題ない。一匹残らず片付けたぞ。気絶していたヤツはどうだ?」
「思ったよりも軽傷だ。お前がいてくれて助かったよ」
「さすが『重剣のアガット』だぜ。」
「大したことはしてねぇよ。それに、このガキどもやそこのメンフィル人どもがそこそこ働いてくれたからな。」
口ぐちアガットを高評価した隊長や副長にアガットはなんでもない風に装って、エステル達の働きも言った。
「そうなのか……嬢ちゃんたち、ありがとうな。」
「う、うん。」
副長のお礼の言葉をエステルは戸惑いながら受け取った。
「へえ……嬢ちゃん達はメンフィル人だったんだ……てことは”闇夜の眷属”なのか?」
隊長はリフィア達を興味深そうな表情で見て尋ねた。隊長の疑問にリフィア達を代表してプリネが答えた。
「ええ、余計なお世話かと思いましたが手伝わさせていただきました。」
「いやいや、こちらも嬢ちゃん達のおかげで本当に助かった。ありがとう。」
「メンフィルとリベールは盟友だからな。困った時は手を取り合うのが当たり前だ。」
隊長のお礼の言葉にリフィアが答えた。
「ハハ、それは心強い。自分達も精強なメンフィル軍に負けないよう、より一層訓練を励まないとな……自分達は、念のため周辺をパトロールするつもりだ。君たちは中に入ってゆっくりと休んでくれ。」
「ああ、気をつけろよ。」
アガットがそう言うと、隊長と副長はパトロールを始めた。

「さてと、寝直すとするか。もう危険は去ったはずだ。お前らも大人しく寝ておきな。」
そしてエステル達に言いたい事だけ言ったアガットは関所の中へ入って行った。
「ど、どうなってんの?あの口の悪いヤツがあたしたちを誉めるなんて。」
アガットに遠回しに褒められたことにエステルは意外そうな表情で呟いた。
「少しは、僕たちの実力を認めてくれたのかもしれないね。思ったよりも真っ直ぐな人なんじゃないかな?」
「ええ、私も少しだけ行動を共にしましたが決して悪い方ではありませんよ。」
「うーん……とてもそうは思えないんだけど。……まあ、たしかにデカイ口を叩くだけはあるわね。」
ヨシュアとプリネの言葉にエステルはある程度納得した。
「そんなことより寝直すぞ。明日の峠越えに響かせる訳にもいかないしな。」
「賛成~……早く寝よう?」
リフィアとエヴリーヌの意見に頷いたエステル達は関所に入って寝直した。

翌日起床したエステル達は関所の兵士達に一晩泊めてもらったことに感謝の言葉を述べて、すでに関所から去ったアガットを追うかのようにルーアン地方に足を踏み入れた……





後書き 次話からはかなり早いペースで新キャラが次々と出てくるので楽しみにして待ってて下さい。……感想お待ちしております。



[25124] 第55話
Name: sorano◆b5becff5 ID:4d34e903
Date: 2011/07/21 07:46
いよいよルーアン編が本格的に始まる&いきなり新クロスオーバーキャラ登場です!



ルーアン市に向かって歩いていたエステル達は山道を越えて、ルーアン市に行く途中にある村、マノリア村に続く街道を進み始めた。

~マノリア間道~

「わあっ……!」
「エステル?」
突然エステルが感動の声を上げたことにヨシュアは首を傾げた。
「見て見て、ヨシュア!海よ、海!」
「はいはい。言われなくても判ってるよ。」
「フフ、高い場所から見る海は眺めがよくていいですね。」
「うん、それに風が気持ちいいね。」
「そうだな。リウイの故郷であるモルテニアからも海が見えるが、ここから見る海の景色はまた格別だな。」
はしゃいでいるエステルを見てヨシュアは呆れ気味の声で答え、プリネ達はエステルの感動に微笑しながら同意した。
「青くてキラキラしてメチャメチャ広いわね~。それに潮騒の音と一面に漂う潮の香り……。うーん、これぞ海って感じよね。」
「エステル、海を見るのは初めて?」
海を見てはしゃいでいるエステルを見て、疑問に思ったことをヨシュアは尋ねた。
「昔、父さん達と定期船に乗った時、ちらっと見た記憶があるんだけど……。こんなに間近で見るのはひょっとしたら初めてかもしれない。」
「そっか……。僕も海は久しぶりだな……。定期船を使わずに歩いてきた甲斐があったね。」
「うんうん。何だか達成感があるよね!」
「フフ、達成感を感じているところ悪いですけど、旅はまだまだ終わっていませんよ?」
「うむ。まずは看板に書いてあったマノリア村とやらを目指すぞ。」
そしてエステル達はマノリア村に向かって海の景色を楽しみながら歩き始めた。

一方エステル達がマノリア間道を進んでいる間、間道の近くにある森で一人の女性が窮地に陥っていた。

~マノリア間道・森~

「「「「「「「「「グルルルルル…………」」」」」」」」
「ハァ…ハァ…ハァ………」
女性は見た目では人間と変わらない姿をしていたが、唯一足の部分は木の根がからみついていた。その女性を囲むようにエステルやリフィア達が関所で戦った狼達が唸りを上げながら女性を攻撃する態勢に入った。女性は最初、狼の群れが自分を標的にした時戦いを避けて逃げていたが、間の悪いことに逃げている最中に他の魔獣まで女性に襲いかかったのだ。魔獣に襲われた女性は自分の武器である弓や習得している魔術で対抗して倒していたが、魔獣との戦闘の最中に狼達が追いつき魔獣との戦いが終わった頃には狼達が女性を囲んでいたのだ。
「ううっ………やっぱり異世界だと力が入らない……森出なんてするんじゃなかったです……」
自分の劣勢に女性は脅えた。本来なら女性は華奢な見た目に反してかなりの実力を持っているのだが、女性はリウイ達の世界――ディル・リフィーナに生息する精霊の一種のため、異世界では魔力が合わない上本来力を貸してくれるはずの大地に住まう精霊達も答えなかったため、自分の力のみで戦っていたのだ。
「「「ガウ!」」」
「くっ………降り注げ、大地の矢よ!………大地の援護射撃!!」
「「「ギャウ!?」」」
襲いかかった狼達を女性はエヴリーヌが得意とする弓技に似ているが唯一違うのは大地の魔力と闘気を合わせた大技を放ち狼達を倒した。
「あっ………力が……」
しかし力を使い尽くしたのか女性は跪いて立てなくなった。
「「「「「グルルルル………」」」」」
残った狼達は獲物が弱っているとわかり、いつでも飛び掛かる態勢になって唸った。
「ひっ……!誰か~!助けて下さい!ご主人様~!山の主様~!」
絶体絶命になった女性は助けを求めるように大声で叫んだ。

~マノリア間道~

「あれ?」
「どうしたんだい、エステル?」
急に足を止めたエステルにヨシュアは不思議に思って尋ねた。
「うん……今、誰かが助けを求めているような気がしたんだけど……(なんだろう……この不思議な感覚、パズモと出会った時に似ている気がする……)」
「?助けを求める声なんて聞こえないけど……」
エステルの言葉を信じてヨシュアは耳を澄ませたが何も聞こえなかったので不思議に思った。
「待って下さい。………………!!どなたか、そこの森の中から助けを求めています!」
同じように耳を澄ませたプリネは近くの森の中から聞こえる助けを求める声を聞き、顔色を変えた。
「余も聞こえたぞ。……かなり窮地に陥っているようだ。すぐに助けに行ったほうがいい。」
「………あっちの方から聞こえたよ。」
プリネの答えにリフィアも頷き、エヴリーヌは声が聞こえた方向を指差した。
「え……」
自分以外は全員聞こえたことにヨシュアは驚いた。

「あっちね!………サエラブ!」
(……何用だ。)
そして驚いているヨシュアを気にせず、エステルは素早く助けを求める声の場所に行くために素早い動きをする幻獣――サエラブを呼んだ。
「お願い!助けを求めている人がいるの!あなたの背中に乗せて!」
(………お前と契約して最初の指示がよりにもよって、我の背に乗せろとはな………)
「あなたの契約主としてまだまだなあたしが誇り高いあなたに背中を乗せてなんてことを頼むなんてどうかしてると思うけど、お願い!助けを求めている人がいるの!」
不愉快そうに聞こえるサエラブの念話にエステルは頭を下げて、一生懸命嘆願した。
(……さっさと乗れ。急を要するのであろう?)
「いいの!?」
誇り高い性格のサエラブの以外な答えにエステルは頭を上げて驚いた。
(……以前の我なら断固断っていたところだが、今の我はある程度の事に関しては寛大になっているつもりだ。ただし、我の背に乗るのはお前かウィルしか許さないし、緊急時でない限りは乗せないからな。)
「うん、ありがとう!」
サエラブの念話に表情を明るくしたエステルは、サエラブの背に恐る恐る跨った。
「エステル!一人では危険だよ!僕達も……!」
「ヨシュア達は後から追いついてきて!あっちの方向よ、お願い!」
(承知!)
ヨシュアの制止の声を聞かず、エステルはサエラブに助けを求める声がした方向を指差した。エステルの指示に頷いたサエラブは背にエステルを乗せているにも関わらず大きく跳躍して、森の中に入って跳躍と走りを繰り返して助けを求める者を
見つけるために進んだ………



後書き 今回の話でもうお分かりと思いますが、新クロスオーバーキャラは序盤の最後で仲間になり数少ない回復キャラとしても役立つあのキャラです♪………感想お待ちしております。



[25124] 第56話
Name: sorano◆b5becff5 ID:4d34e903
Date: 2011/07/22 11:33
~マノリア間道・森~

「「「「「「「「「グルルルルル…………」」」」」」」」
「ひっ……!」
自分を囲んだ狼達は唸り声を上げながら飛び掛かる態勢になった狼達を見て女性は悲鳴を上げた。
「ガウ!」
「いやぁっ!(死にたくない!誰でもいいから助けて!)」
そしてついに狼達の中の一匹が女性に飛び掛かった。女性はそれを見て悲鳴を上げて自分の人生はこれまでかと思った。
「はっ!」
「ギャン!?」
その時、サエラブに跨ったエステルが棍を震って女性に飛び掛かった狼を攻撃した。棍に当たった狼は頭に当たった棍による痛みに悲鳴を上げて吹っ飛ばされた。
「えっ……」
女性はエステルとサエラブの登場に驚いて声を出した。
「大丈夫!?怪我はない!?」
「は、はい。」
「よかった……ってこの狼達は関所の時の!まだ仲間がいたのね……よ~し、サエラブ!一網打尽にするわよ!」
(ああ。………フン、こやつら狼の癖に人間の匂いが強くするな。さては人間にしつけられたな。……しつけられた狼等もはや犬と同等!この我が本物の”獣”の恐ろしさを見せてやろう!)
「行くわよ!」
エステルの掛け声を合図に戦闘が始まった!

「はぁぁ、せいっ!」
「ガウ!?」
エステルの持つ棍の技の中でも急所を狙い、敵の溜め攻撃を無効化するクラフト――金剛撃に命中した狼は断末魔を上げて倒され
(燃えよ!)
「「ウオオオオオン……!!」」
サエラブが口から連続で吐いた火の玉に当たって体中が燃えた狼は悲鳴を上げながら消滅した。
「せいっ!……ふう、後少しね。」
棍に力を込めて震い、その震いでできた衝撃波ーー捻糸棍でまた一匹仕留めたエステルは残りの敵の数を見て一息ついた。
「オン!」
「やばっ!」
そして油断しているエステルに隠れていた狼が襲いかかった。狼の奇襲に気付いたエステルは防御の態勢に入ろうとしたが
「やぁ!」
「ギャン!?」
(フン!)
「ガッ!…………」
守っていた女性が矢を放って狼を撃ち落とし、撃ち落とされた狼の喉にサエラブは鋭い牙で噛みつき絶命させた。

「ありがとう、サエラブ!それにそこの人も!」
(フン、真の強者は目の前の戦いだけでなく周囲にも気を配るものだ。まだまだ修行が足りん。)
「力がなくなって、山の主様達の加護がなくても矢を放つことぐらいはできます!どなたか知りませんが、援護させていただきます!」
エステル達の登場と活躍に勇気づけられた女性はよろよろと立ちあがり、足元の木の根から弓の形をつくり、魔力でできた矢をつがえてエステル達の援護する態勢に入って言った。
「よ~し、ヨシュア達が来る前に終わらせちゃいましょ!」
そしてエステルとサエラブは助けた女性の弓矢による援護を受けて、お互いの背後を守りながら、エステルは棍で、サエラブは素早い動きで狼達を翻弄しながら牙や爪で倒した。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
(滅せよ!)
エステルが放った旋風輪で傷を負った残りの狼達をサエラブは炎を纏って突進して倒した。
「チョロい、チョロい!」
ようやく戦闘が終了して、エステルは棍を自分の目の前で廻して勝利のセリフを言った後、武器をしまって女性の方を見た。
「あはは、助けるつもりが助けられちゃったね。」
「そんな!助けられたのは私のほうです!危ない所を助けていただき本当にありがとうございました!」
「えへへ……あれ?あなたの足、どうなっているの??木の根が絡み付いているようだけど……」
女性にお礼を言われたエステルは照れていたが、女性の足元を見て首を傾げて尋ねた。
「えっ、あ、その……(どうしよう……この子、この世界の人間のようだけど、木精(ユイチリ)を知って怖がらないかな……見たところ、幻獣もつれているから大丈夫かな……?)」
エステルに尋ねられた女性は戦闘が終了し安心したのか、本来の臆病な性格が出てエステルが自分の正体を知って怖がることを恐れておどおどした。

(……そ奴は人間ではない。森に住まう木の妖精――”ユイチリ”だ。)
「へ!?サエラブ、この人の事を知っているの!?」
サエラブの念話に驚いたエステルは聞き返した。
(我はこの者の事は知らぬ。……以前話していた我が友――ウィルに力を貸して共に戦っていた戦友の中で双子のユイチリ達がいたから、そ奴の正体がわかっただけだ。)
「そうなんだ……じゃあ、あなたはパズモと同じ、妖精なんだ!……でも同じ妖精なのにパズモとは全然違うわね……?念話を使わずあたしとこうやって話せるし、見た目もあたし達と変わりないじゃない。」
「私達ユイチリは木々の願いによって生まれ、同じ森に住むなじみ深い種族であるエルフを元に形成していますから……あれ?私の事、怖くないんですか?」
「?どうして、あなたを怖がるの?」
「だって、私の姿はあなた達人間とは姿が違いますし。特にここは異世界ですから、私の姿を見慣れてないあなた達が私を見て魔物といっしょの扱いをすると思ってたんです……」
「あ、あのね~!どこをどう見たらあなたが魔獣に見えるのよ!?それにパズモと契約しているあたしがあなたを怖がるわけないでしょ!?」
女性の答えにエステルは呆れて溜息をついた。
「あの……さっきから気になっていたんですが、そこにいる幻獣の主はあなたなのですか?」
(勘違いするな。我は力を貸してやっているだけだ。人間に従う犬に成り下がった覚えはない!)
「ひっ!す、すみません!」
怒ったように聞こえたサエラブの念話に女性は怖がった後、謝罪した。

「エステル――!どこにいるんだい!?」
そこにエステルを追って来たヨシュア達の声がした。
「あ、ヨシュア達も追いついてきたんだ。……お――い!あたしはここだよ、ヨシュア!」
「……エステルさんの声があちらからしました。急ぎましょう!」
自分を呼ぶ声に答えるかのようにエステルは大きな声で呼び返した。するとエステル達を見つけたヨシュア達も森の中から姿を現した。
「エステル!無事だったんだね!一人で向かったから、心配したよ……」
「もう、ヨシュアったら心配性ね~……サエラブもいるんだからあたしが魔獣ごときにやられる訳ないでしょ?」
エステルの無事な姿を見て安堵の溜息をついたヨシュアにエステルは苦笑しながら答えた。
「あ、あなた達は!」
一方リフィアとエヴリーヌの姿を見て、女性は驚いて声を出した。
「あれ?そいつ、どっかで見たような……?」
「む?確かに余もそこのユイチリに見覚えがあるぞ。……ユイドラの時のユイチリ達は双子だったから違うな。……そこのユイチリ、お前の名は?」
女性を見てエヴリーヌは見覚えのある顔に首を傾げ、リフィアも頷いた後少しの間考えたが思い出せず、女性に尋ねた。
「テトリです!邪龍との戦いにいっしょに戦った仲なのに、忘れるなんて酷いです!……うう、ご主人様が私を忘れた事といい、私って影が薄いんでしょうか……」
女性――テトリはリフィア達が自分の事を忘れていた事に怒った後、以前かつての主に会いに行った時主の従者は自分の事を覚えていたが、肝心の主は忘れていた事を思い出していじけた。

「……そう言えば、そんな奴いたね。」
「おお、セリカの使い魔のユイチリか!久しぶりだな。なぜ、こんな所にいる?」
「…………その………森出です。」
少しの間いじけていたテトリだったが、リフィアの疑問に言いにくそうに答えた。
「森出?何それ??」
テトリの言葉がわからずエステルは首を傾げた。
「あなた達人間にわかりやすくいうなら、家出です。」
「家出~!?なんでそんな事したの??」
テトリが説明した言葉の意味がわかったエステルは声を上げて尋ねた。
「聞いて下さいますか!みんな、酷いんですよ!私の初めてを奪ったご主人様は邪龍との戦いが終わって、力を失くしてしまったので契約を解除しのですが、久しぶりに会いに行ってみたら完全に私の事を忘れているし、山の主様は力が戻ったというのに何度も勝手に許可もなく私に憑依するし、あげくリタさんやナベリウスさんは私の死後、冥き途の門番にするとか私の意思も聞かず面白半分で提案するんですよ!?しかもタルタロス様まで2人の提案に賛成してましたし!いくら温厚な私でも怒るし、傷つきます!……だから傷心を癒す旅代わりに住んでいた森を出て、監視の目を苦労して掻い潜って山の主様の影響もない木々が噂していた異世界に来たんです!」
「あはは……よくわからないけど、色々あったみたいね……」
勢いよく事情を話すテトリを見て、エステルは苦笑いをした。
「……ハァ……ハァ……」
「!?どうしたの!?」
元気に見えたの急に顔色を悪くして崩れ落ちたテトリを見てエステルは駆け寄って声をかけた。
「……やはりこの世界の魔力と合わなかったようですね……特に世界の魔力で存在を保っている精霊がこの世界で生きるのは厳しいのに戦闘をして、さらに力を使ってしまったようですね……エステルさん、まず魔力を供給してあげましょう。」
「う、うん!」
倒れたテトリを見て原因がわかったプリネの答えにエステルは頷いて、プリネと共に自分の魔力を供給した。
「フゥ……助かりました……ありがとうございます。」
魔力が供給され、力が戻って顔色が良くなったテトリは立ち上がってお礼を言った。

「気にしないで。困った人を助けるのがあたし達、遊撃士の仕事なんだから!それよりこれからどうするの?」
「はい。…………あの、もしよろしければ私をエステルさんの使い魔にしてくれませんか?」
「へ!?」
「ほう、何故じゃ?お前はセリカに仕えていたのではないのか?」
テトリの申し出にエステルは驚き、リフィアは不思議に思って尋ねた。
「エステルさんには助けていただいた恩がありますし、しばらく元の世界には帰りたくないんです。……それとさっきも言いましたがご主人様との契約はもう解除されちゃいましたから……ご主人様が私を覚えていたら新たな契約を申し出なかったかもしれませんが、見事に私の事を忘れていましたからね……ですからご主人様の事はもういいんです。」
前の主の事を言われたテトリは寂しそうに笑って答えた。
「テトリ……わかったわ!ぜひ、あなたの力を貸して!弓の腕も凄かったし、ぜひお願いするわ!この世界のよさをあたしがいっしょにいて、教えて上げるわ!」
「急な私の申し出を受けてくれてありがとうございます。……では両手を出してくれませんか?」
「うん。」
テトリの言葉通り、エステルは両手をテトリの目の前に出した。そしてテトリはエステルの両手を握り、両手から伝わるエステルの魔力に溶け込むように消えた。
「……サエラブの時とはやり方が違うね。エステル、また新たな力を感じるのかい?」
「うん。……なんだろう、根強い大地の力を感じるわ。……テトリ!」
少しの間、自分の両手を見た後、エステルは新たな仲間――テトリを召喚した。召喚されたテトリは光の中から地響きのような音と共に光の中から出て来た。
「これからよろしくね!」
「はい!母なる大地の力、エステルさんを助けるために役立てます!」
「ありがとう。そうだ、テトリの前の主の事、教えてくれないかな?」
「え?どうしてですか?」
前の主の事を聞かれたテトリは首を傾げた。
「だって、その人契約を解除したとはいえテトリの主だったんでしょ?同じ契約主として精霊が力を貸してくれる事がどれだけありがたい事とテトリがどれだけ傷ついたかを思い知らせるために、その人に会ったら今のテトリの主としてブッ飛ばしてあげるわ!」
「あわわ……私のためにそんな寿命を縮めるような事をしなくていいです!」
「っぷ。ぷっくくく……神殺しをブッ飛ばすか。お前は余も予測できないことを言うから、本当に面白いな……っぷっくくく!」
エステルの言葉にテトリは慌て、テトリの前の主の事を知っているリフィアは声を押し殺して笑った。そして新たなる仲間と力を手に入れたエステルはヨシュア達と共に次なる目的地、ルーアンに向かって進み始めた……



後書き VERITAのユイチリ参入は速くから決定していたことでようやく出せました!ちなみに炎属性の召喚キャラは思いついていたのですが、そのキャラはあまりにも反則すぎるため出してもSCと決め、神採りが出たお陰で序盤に仲間になってもおかしくない強さのキャラが思いついたのです!(まあ、基本エウシェリーキャラはみんな反則クラスですが^^)今日の夕方か夜にはエステルの現在のパラメーターを出します。………感想お待ちしております。



[25124] 設定3
Name: sorano◆b5becff5 ID:4d34e903
Date: 2011/07/22 20:31
<精霊遊撃士> エステル・ブライト
レベル、パラメーター、オーブメントは原作通り。ただし、CPは450、ATS、ADFは原作の2倍

クラフト(原作以外)

パズモ召喚 30 自分 サポートキャラ、パズモ(HPは主の半分)を戦闘に参加させる(防護の光盾(味方単体DEF&ADF20%上昇)or戦意の祝福(味方全体SPD15%上昇)or光霞(敵全体空属性130%攻撃)、たまに贖罪の光霞(400%攻撃))ただし召喚した主は召喚している間、最大HP5%、CPが10下がる、任意でパズモを自分の元に戻せる。
黒の衝撃 50 中型直線 貫通する暗黒魔術、80%時属性攻撃&後退効果(威力はATSに反映)
旋刃 40 小円・地点指定 風の魔術 70%風属性攻撃(威力はATSに反映)
闇の息吹?  45 単体 味方のHPを回復させる。ただし、回復量は5~25%とバラバラ
サエラブ召喚 40 自分 サポートキャラ、サエラブ(HPは主の9割)を戦闘に参加させる。(物理単体攻撃or連続火弾(火属性2回魔術攻撃&火傷10%)or炎狐強襲(火属性物理全体攻撃120%&火傷20%)or拡散咆哮(敵全体200%攻撃&遅延、後退効果)、1回の出番で2回連続で行動する。ただし召喚した主は召喚している間、最大HP15%、CPが30下がる、任意でサエラブを自分の元に戻せる。
火弾 20 単体 火の魔術、90%火属性攻撃(威力はATSに反映)
テトリ召喚 35 パーティーキャラ、テトリを召喚する。ただし召喚した主は召喚している間、最大HP、CPが10%下がる、任意でテトリを自分の元に戻せる。
地脈の吸収 50 単体 地の魔術、70%地属性攻撃&与えたダメージの30%吸収(威力はATSに反映)

<放浪のユイチリ> テトリ(属性・地……地属性攻撃を無効化する。)

LV200
HP14000
CP2500
ATK1400
DEF1000
ATS1700
ADF1200
SPD40
MOV8

装備 

武器 イブ・ユイチリ(ユイチリ専用の弓、混乱30%攻撃)
防具 木精霊王女の戦衣(テトリ専用。女性ユイチリの中でも力の持った者しか羽織る事が許されない衣。風・地属性耐性100%&全状態異常無効)
靴  大地の力(ユイチリ専用。また、ユイチリはこれ以外の靴は装備できない。)
アクセサリー 必中の腕輪(テトリ専用。装備中絶対に攻撃を外さない。)
       再生の指輪 (一人終わるごとにHPが200回復)

味方のすぐ後に攻撃すれば1.5倍。一人終わるごとにCP、EPが100回復。回避30%上昇

オーブメント(地属性)並びはリースです。

クラフト 二連射撃 100 単体 2回攻撃
     地響き 250 指定した横3列全体に地属性攻撃110%、なお飛行系の敵には効かない(威力はATSに反映)
     大地の恵みⅡ 200 単体 味方一人のHPを40%回復する
     制圧射撃 400 全体 100%の攻撃
     再生の風 500 全体 自分を含めた味方全体に傷を再生する膜を覆わせる。しばらくの間、一人廻るごとにHP5%回復
     重酸の地響き 700 特殊 指定した横3列全体に地属性攻撃130%&毒40%(威力はATSに反映)
   地脈の抗体 1200 全体 自分を含めた味方全体に大地の力で守護の膜を覆う。戦闘不能&石化以外回復&しばらくの間全員状態異常無効&一人廻るごとにHP10%回復
     精密射撃 350 単体 120%のアーツ&駆動妨害、遅延攻撃
     ベーセ=ファセト 2000 全体 ダメージ150%&混乱、毒20%の地属性攻撃(威力はATSに反映)

Sクラフト 技魔代謝の風 全体 自分を含めた味方全体に全てを再生する膜を覆わせる。戦闘が終了するか戦闘不能になるまで一人廻るごとにHP30%回復、EP&CP10%回復
      大地の援護射撃  大円 魔力の眼と闘気を最大限に出したユイチリに伝わる一撃奥義 ダメージ率600%



後書き いつの間にかエステル、最強主人公セリカより万能性があり強くなってきちゃいました。このままだとエステル、人外クラスの強さに……!テトリの強さがVERITA後のわりに弱いのはセリカが契約を解除した影響です。まあ、それでも軌跡シリーズでは相変わらずの反則クラスですが。……感想お待ちしております。



[25124] 第57話
Name: sorano◆b5becff5 ID:4d34e903
Date: 2011/07/22 21:55
軌跡をやった方にとってはお待ちかねのキャラが出てくるので、本日、特別に一日で2話更新です!



~マノリア村~

「は~っ。やっと人里に着いたわね。なんだか、白い花があちこちに咲いてるけど……ここって何ていう村だっけ?」
ボース市から長い道のりを歩いてきて、ようやく人里に着いて一息ついたエステルは周囲の風景を見て呟いた。
「マノリア村だよ。街道沿いにある宿場村さ。あの白い花は、木蓮の一種だね。」
「ええ、いい香りです。おそらくあの白い花の香りなんでしょうね。」
「ふーん、キレイよね~。それに潮の香りに混じってかすかに甘い香りがするような。うーん……何だかお腹が空いてきちゃった。」
ヨシュアの説明を聞いてプリネは息を大きく吸って漂ってくる白い花の僅かな香りを楽しんでいたが、エステルは違う事を言った。
「あはは、花の香りで食欲を刺激されるあたりがエステルらしいって言うか……。まさに花よりダンゴだね。」
エステルの言葉にヨシュアは苦笑した。
「だって、育ち盛りなんだもん。ちょうどお昼だし、休憩がてらにランチにしない?」
「賛成~。関所から歩いてきたから、エヴリーヌもお腹がすいてきちゃった。」
「いいけど……何か手持ちの食料はあったかな?」
「あ、ちょっとタンマ。どうせだったら落ち着ける場所で、できたての料理を頼まない?せっかくルーアン地方に来たんだし。」
「そうだな。地方独特の郷土料理を楽しむのも旅の醍醐味の一つだしな。早速宿酒場を探すぞ!」
エステルとリフィアの言葉に頷いたヨシュア達は村中を歩き回って宿酒場を探した。

~マノリア村宿酒場・白の木蓮亭~

「ようこそ、『白の木蓮亭』へ。見かけない顔だけど、マノリアには観光で来たのかい?」
酒場のマスターは村では見かけないエステル達を見て尋ねた。
「ううん。ルーアン市に向かう途中なの。」
「ボース地方からクローネ峠を越えて来たんです。」
「クローネ峠を越えた!?は~、あんな場所を通る人間が今時いるとは思わなかったな。ひょっとして、山歩きが趣味だとか?」
エステルとヨシュアの答えにマスターは驚いて聞き返した。
「うーん……。そういう訳じゃないんだけど。ところで、歩きっぱなしですっごくお腹が減ってるのよね。」
「何かお勧めはありますか?」
「そうだな……今なら弁当がお勧めだけど。」
「お弁当?」
マスターのおススメの意外な料理にエステルは首を傾げた。
「町外れにある風車の前が景色のいい展望台になっていてね。昼食時は、うちで弁当を買ってそこで食べるお客さんが多いんだ。」
「あ、それってナイスかも♪聞いてるだけで美味しそうな感じがするわ。」
「それじゃ、そうしようか。どんな種類の弁当があるんですか。」
マスターの言葉にエステルは楽しそうな表情で頷き、ヨシュアも同意してメニューを聞いた。
「スモークハムのサンドイッチと魚介類のパエリアの2種類だよ。どちらもウチのお勧めさ。」
「うーん、あたしはサンドイッチにしようかな。」
「それじゃ、僕はパエリアを。」
「まいどあり。しめて120ミラだよ。」
エステルとヨシュアはそれぞれお金を払って弁当を受け取った。
「そこのお嬢さん達は何にするんだい?」
マスターはリフィア達がまだメニューを頼んでいないことに気付き、聞いた。

「ふむ。外の風景を楽しみながら食べる弁当も悪くないが余はこの『魅惑の魚介畑』とやらが気になるな。」
「私はこの『頑固パエリヤ』という料理が少し気になっています。」
「エヴリーヌは甘いお菓子が食べたいから、この『季節限定・フルーツケーキ』が食べたいな。」
「まいどあり。お嬢さん達の注文は今から作ることになるけど、いいかい?」
「ええ、私達は空いた席に座って待っているのでお願いします。」
リフィア達を代表して頼んだ料理のお金を払ったプリネはマスターの確認する言葉に答えた。
「リフィア達はここで食べるようね。じゃあ、あたし達は外の展望台で食べているから。」
「わかった。余達はお前達が食べ終わってここに来るのを待っている。」
エステルの言葉にリフィアは頷いて答えた。
「ああ、そうだ。ついでにサービスでハーブティーもつけておいたよ。これもウチの名物でね。」
「わ、ありがと♪」
マスターのサービスにエステルは喜んだ。
「それじゃ、展望台に行こうか?」
「うん!」
そしてエステルとヨシュアは宿酒場を出た。

「ここはさっき調べたばかりね。雑貨屋さんにも居なかったし……困ったわ……どこに行っちゃったのかしら。」
宿酒場の前で制服を着た少女が何かを探していた。
「ヨシュア、ほらほら早く!」
「ちょっとエステル。前を向いて歩かないと……」
そこにヨシュアの方を見ながら前を見ず、宿酒場から出たエステルが少女にぶつかった。
「あうっ……」
「きゃっ……」
ぶつかった2人は地面に手をついた。
「あいたた……。ご、ごめんね、大丈夫!?あたしが前を見ていなかったから……」
「あ、いえ、大丈夫です。すみません、私の方こそよそ見をしてしまって……」
少女はエステルに起こされながら謝罪した。
「あ、そうなんだ。じゃあ、おあいこって事で♪」
「まったく……エステル、何やってるのさ………………………………」
早速人にぶつかってしまったエステルに呆れたヨシュアは制服の少女を見ていきなり黙った。
「???」
「ヨシュア、どうしたの?」
ヨシュアの様子に少女は不思議そうな表情をし、エステルも不思議に思って尋ねた。
「い、いや……。ごめんね。連れが迷惑かけちゃって。どこにもケガはないかな?」
「はい、大丈夫です。私も人を捜していて……。それでよそ見をしてしまって。」
「え、誰を捜してるの?」
少女の言葉が気になったエステルは尋ねた。

「帽子をかぶった10歳くらいの男なんですけど……。どこかで見かけませんでした?」
「帽子をかぶった男の子……。ヨシュア、見かけたりした?」
「いや、ちょっと見覚えがないな。」
「そうですか。どこに行っちゃったのかしら……。私、これで失礼します。どうもお手数をおかけしました。」
エステルとヨシュアの言葉を聞いた少女は軽く頭を下げた後、去って行った。
「ヨシュア?ねえ、ヨシュアってば。」
去って行く少女の後ろ姿を見て、呆けていたヨシュアをエステルは肩をゆすって気付かせた。
「え、ああ……どうしたの。」
「どーしたもこーしたも……あ、もしかして……。なるほど、そーゆーことか♪」
ヨシュアの様子に呆れたエステルだったが、突然一人で納得した。
「……なんか、激しく勘違いしてない?」
エステルの様子から何か勘違いしていることを悟ったヨシュアは呆れた表情でエステルを見た。
「照れない、照れない♪一目会ったその時から恋の花咲くこともあるってね。」
「ち・が・い・ま・す。ただ、昔の知り合いにほんの少し似ていただけだよ。それで、ちょっと驚いただけさ。」
案の定勘違いしているエステルにヨシュアは溜息をつきながら答えた。

「へえ、ほう、ふーん。昔の知り合いに似ているね~。口説き文句としては30点かな?」
「ところでエステル。あの子の制服、見覚えない?」
全然信じていないエステルにヨシュアは弱冠怒り気味の口調で言った。
「そういえば……。ジョゼットが変装に使ってた何とか学園ってところの制服!?」
「ジェニス王立学園だよ。このルーアン地方にあるらしいから見かけても不思議じゃないけどね。」
「ふーん、今のが本物なんだ。なんか清楚で礼儀正しくて頭も良さそうだったわね~。生意気ボクっ子とは大違いだわ。」
「何言ってるんだか。ジョゼットと最初に会った時、完全に騙されていたくせに。」
「うっ……」
ヨシュアの言葉が言い返せず、エステルは黙った。
「そういや、あの時も僕の事をからかっていたよね。ま、それでまんまと騙されたら世話ないんだけど。」
反撃するかのようにヨシュアは正論を言って、エステルに笑顔で言い返した。
「ううう……」
何も言い返せないエステルは唸るだけで反撃の言葉は出なかった。
「人をからかう暇があったら、もうちょっと観察力を養った方がいいんじゃないの?」
「わかった、わかりました!もう、からかったりしません!」
「分かればよろしい。」
ようやく降参して謝ったエステルをヨシュアは許した。
「さてと、それじゃ展望台でお昼ご飯にしようか?」
「ふあ~い。」
ヨシュアをからかって、手痛い反撃の言葉を受けて精神が回復しきっていないエステルは元気がなさそうな返事をしてヨシュアと共に展望台に向かった………



後書き 現在学園祭編の中盤に差し掛かっています。なので全話投稿した頃にはひょっとしたらルーアン編は終わるかもしれないので、楽しみに待ってて下さい。ちなみにストックしている話の数はなんと15~6話です!……感想お待ちしております。



[25124] 第58話
Name: sorano◆b5becff5 ID:4d34e903
Date: 2011/07/23 22:50
その後展望台につき、景色を楽しみながら食事をし終えたエステル達はリフィア達と合流するために宿酒場に行こうとした所、少女が探していた男の子らしき人物とエステルがぶつかった。その時、男の子に遊撃士の紋章を盗まれたと気付いたヨシュアはエステルにその事を指摘し、男の子を探して村の住民に聞いて廻った結果、近くの孤児院に住む男の子とわかり、遊撃士の紋章を取り返すためにエステルとヨシュアはマノリア村の近くにある孤児院に向かった。

~マーシア孤児院~

エステルとヨシュアが孤児院の土地に入ると、そこにはエステルのバッジを盗んだ男の子を含め3人の子供がいた。
「クラムったらどこに行ってたのよ、もう!クローゼお姉ちゃん、すごく心配してたんだからね!」
3人の中で唯一女の子のマリィが帽子を被った男の子――クラムを怒っていた。
「へへ、まあいいじゃんか。おかげでスッゲェものが手に入ったんだからさ。」
「なんなの、クラムちゃん?」
得意げにしているクラムにもう一人の男の子――ダニエルが首を傾げて尋ねた。
「にひひ、見て驚くなよ~。ノンキそうなお姉ちゃんから、まんまと拝借したんだけど……」
「……だ~れがノンキですって?」
「へっ……」
ダニエルとマリィに自慢しようとしていたクラムだったが、聞き覚えのある声に驚いて振り向いた。振り向くとそこには遊撃士の紋章の持ち主であるエステルとヨシュアがいた。
「ゲッ、どうしてここに……!」
エステルの顔を見てクラムはあせった。
「ふふん。遊撃士をなめないでよね。あんたみたいな悪ガキがどこに居るのかなんてすーぐに判っちゃうんだから!」
「く、くそー……。捕まってたまるかってんだ!」
「こらっ、待ちなさーい!」
クラムが逃げ出し、エステルが声を上げてクラムを追いかけ回した。

「あのう、お兄さん……。どうなっちゃてるんですか?」
「クラムちゃん、また何かやったの~?」
エステルに追いかけ回されているクラムを見て事情を知っていそうなヨシュアに2人は尋ねた。
「ええっと……騒がしくしちゃってゴメンね。」
尋ねられたヨシュアは苦笑して答えた。そして逃げていたクラムがついにエステルに捕まった。
「ちくしょ~!離せっ、離せってば~っ!児童ギャクタイで訴えるぞっ!」
エステルに捕まえられたクラムは悪あがきをするかのように、暴れて叫んだ。
「な~にしゃらくさい事言ってくれちゃってるかなぁ。あたしの紋章、さっさと返しなさいっての!」
「オイラが取ったっていう証拠でもあんのかよ!」
「証拠はないけど……。こうして調べれば判るわよ!」
反論するクラムにエステルはクラムの脇腹をくすぐった。
「ひゃはは……!や、やめろよ!くすぐったいだろ!エッチ!乱暴オンナ!」
「ほれほれ、抵抗はやめて出すもの出しなさいっての……」
少しの間、クラムの脇腹をくすぐっていたエステルだったがその時、少女の声がした。
「ジーク!」
少女の声がした後、白ハヤブサがエステルの目の前を通り過ぎた。
「わわっ!?なんなの今の!?」
エステルは目の前に通った白ハヤブサに驚いてくすぐる手を止めて、声がした方向を見た。するといつの間にか白ハヤブサを肩に止まらせたマノリア村でぶつかった制服の少女が厳しい表情をエステルに向けていた。

「その子から離れて下さい!それ以上、乱暴をするなら私が相手になりま………………………………あら?」
少女はエステルの顔を見ると目を丸くした。
「あ、さっきの……」
エステルも同じように目を丸くした。
「マノリアでお会いした……」
「ピュイ?」
「助けて、クローゼお姉ちゃん!オイラ、何もしてないのにこの姉ちゃんがいじめるんだ!」
肩に乗った白ハヤブサと共に首を傾げている少女――クロ―ゼにクラムは助けを求めた。
「な、なにが何もしてないよ!あたしの紋章を取ったくせに!」
「へん、だったら証拠を見せてみろよ!」
クラムの言葉に頭に来たエステルはまた捕まえようとしたが、クラムは素早く避けた。
「あ、くすぐるのは無しだかんな。」
「うぬぬぬ~……」
エステルは悔しそうな表情でクラムを見た。

「やあ、また会ったね。」
「あ、その節はどうも……。すみません、私てっきり強盗が入ったのかと思って……。あの、それでどういった事情なんでしょう?」
クロ―ゼは事情を知っていそうなヨシュアに困った表情で尋ねた。
「クローゼお姉ちゃん。そんなの決まってるわよ。どーせ、クラムがまた悪さでもしたんでしょ。」
「ねー、おねえちゃん。もうアップルパイできた~?」
そこにマリィが口をはさみ、ダニエルは今の状況とは関係のないことを言った。
「あ、もうちょっと待っててね。焼き上がるまで時間がかかるの。」
ダニエルにクロ―ゼは微笑みながら答えた。そしてエステルとクラムが言い争いを始め、どうするべきか迷っていたヨシュア達のところに女性が孤児院から姿を現した。
「あらあら。何ですか、この騒ぎは……」
「テレサ先生!」
姿を現した女性は孤児院を経営するテレサ院長だった。
「詳しい事情は判りませんが……。どうやら、またクラムが何かしでかしたみたいですね。」
「し、失礼だなぁ。オイラ、何もやってないよ。この乱暴な姉ちゃんが言いがかりをつけてきたんだ。」
「だ、誰が乱暴な姉ちゃんよ!」
テレサに自分の事を言われたクラムは言い訳をしたが、エステルがクラムの言い方に青筋を立てて怒鳴った。
「あらあら、困りましたね。クラム……本当にやっていないのですか?」
「うん、あたりまえじゃん!」
困った表情で近付いて尋ねたテレサにクラムは笑顔で答えた。
「女神(エイドス)様にも誓えますか?」
「ち、誓えるよっ!」
「そう……。さっき、バッジみたいな物が子供部屋に落ちていたけど……。あなたの物じゃありませんね?」
「え、だってオイラ、ズボンのポケットに入れて……はっ!」
テレサの言葉にクラムは無意識に答え、誘導された事に気付いて気不味そうな表情をした。

「や、やっぱり~!」
「まあ……」
「見事な誘導ですね……」
バッジを盗んだ事を口にしたクラムにエステルは声を上げ、クロ―ゼとヨシュアはテレサを感心した。
「クラム……。もう言い逃れはできませんよ。取ってしまった物をそちらの方にお返ししなさい。」
「ううううううう……。わかったよ!返せばいいんだろ、返せば!」
クラムは悔しそうな表情でバッジをポケットから出して、エステルに放り投げた。
「わっと……」
「フンだ、あばよっ!」
エステルにバッジを放り投げたクラムはその場から走り去った。
「あっ、クラム君!」
「大丈夫、頭が冷えたらちゃんと戻ってくるでしょう。」
クラムを呼び止めようとしたクロ―ゼにテレサは落ち着いた表情で諭して後、エステルとヨシュアに言った。
「それより……ここで立ち話をするのも何ですね。詳しい話は、お茶を飲みながら伺わせていただけないかしら?」
そしてエステル達はテレサに孤児院の中に招き入れられた…………


後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第59話
Name: sorano◆b5becff5 ID:4d34e903
Date: 2011/07/24 23:56
その後ハーブティーとアップルパイをご馳走になったエステルとヨシュアはしばらくの間、テレサやクロ―ゼと世間話をした後宿酒場で待たせているリフィア達の事を思い出し、テレサに別れをつげてクロ―ゼと共に孤児院を出た。

~マーシア孤児院・入口~

「うーん、テレサ院長ってあったかい感じのする人よね」
「そうだね……お母さんって感じの人かな」
「ふふ、子供たちにとっては本当のお母さんと同じですから。」
3人がテレサの事について話していた時、白ハヤブサのジークが来てクロ―ゼの肩に止まった。
「ジーク。待っていてくれたの?」
「ピュイ」
「うん、そうなの。悪い人たちじゃなかったの。エステルさんとヨシュアさんっていってね。あなたも覚えていてくれる?」
「ピューイ!」
「ふふ、いい子ね。」
「す、すごい。その子と喋れるの?」
ジークと会話している風に見えるクロ―ゼを見てエステルは驚いた。
「さすがに喋れませんけど、何が言いたいのかは判ります。お互いの気持ちが通じ合ってるっていうか……」
「ほえ~……」
クロ―ゼの言葉にエステルは感心した。
「相思相愛ってわけだね。」
「はい。」
ヨシュアの言葉をクロ―ゼは否定せず頷いた。

「こんにちは、ジーク。あたしエステル、よろしくね♪」
「ピュイ?……ピュイ―――――ッ」
ジークに話しかけたエステルだったがジークは飛び立って行った。
「ああっ……。しくしく、フラれちゃった。」
「はは、残念だったね。」
「いいもん。あたしにはパズモ達がいるんだから、悔しくなんてないもん!」
ヨシュアの言葉にエステルはすねながら答えた。
「あの……そのパズモという方はエステルさんのお知り合いか何かですか?」
エステルの言葉が気になったクロ―ゼは尋ねた。
「あ、そうだね。見て貰えばわかるわ。……パズモ、サエラブ、テトリ!みんな、出ておいで!」
エステルは自分に同化している精霊達や幻獣を呼んだ。呼ばれたパズモ達はエステル達の前に姿を現した。
「え!?これは一体……!」
初めて見る召喚されたパズモ達の姿の現れ方を見てクロ―ゼは驚いた。
「えへへ……この子があたしが小さい時からずっといっしょにいてくれている友達のパズモよ!」
(よろしくね。)
「えっと……もしかして、妖精……なんですか?」
クロ―ゼはパズモを見て驚いた表情で尋ねた。
「うん。と言ってもこの世界の精霊じゃないよ。パズモもそうだけど、こっちのサエラブやテトリもみんな異世界に住む幻獣や精霊なんだ!」
「まあ……!そうだったんですか!異世界に住む種族と言えば”闇夜の眷属”しか知りませんでしたが、そのようなお伽噺でしか出てこない存在もいたんですね……!」
「あはは……そんな風に言われると照れちゃいます。」
(フン、くだらん。)
自分達の存在を感動しているクロ―ゼを見てテトリは照れ、サエラブは興味なさげに鼻をならした。
「えっ……今の声は……!?」
クロ―ゼは頭に響く初めてのサエラブによる念話に驚いて辺りを見回した。
「あ、そうか。クロ―ゼさんは念話の事を知らないんだったわね。」
念話に驚いているクロ―ゼにエステルが説明した。
「……そうなんですか。口にすることもなく、お互いの気持ちを伝えあうなんで素敵ですね……!私もエステルさんのようにジークと直に話してみたいです。」
「えへへ、ちょっと照れちゃうな。」
念話の事を理解したクロ―ゼはエステルを尊敬の眼差しで見て、見られたエステルは照れた。

「エステル……自慢する気持ちはわからないでもないけど、プリネ達の事を忘れていない?」
「あ……いっけない!みんな、出て来て早々で悪いんだけど一端戻って!」
(はいはい。)
(……用もなく我を呼ぶでないぞ。)
「わかりました。」
パズモ達はそれぞれまた、光の玉となってエステルの身体に入った。
「じゃ、プリネ達を迎えに行きますか。」
「そうだね。クロ―ゼさんもよかったら途中まで送るよ。」
「ありがとうございます。あの……ルーアンのギルドでしたら私、何回か行った事があります。よかったら案内しましょうか?」
「わ、いいの?すごく助かっちゃうけど。」
「君の方は大丈夫?すぐに学園に戻らなくて。」
クロ―ゼの申し出にエステルは喜び、ヨシュアは確認した。
「はい。今日一日は外出許可を貰っていますから。夜までに戻れば大丈夫です。」
「それじゃ決まりね♪じゃあ、まずはプリネ達と合流しましょうか!」
「?さっきから気になっていたんですが、エステルさんとヨシュアさんのお二人で旅をしていたのではいないのですか?」
エステルの言葉に疑問を持ったクロ―ゼは尋ねた。
「うん。ちょっと事情があってね。メンフィルの貴族の人達と旅をしているんだ!」
「メン……フィル……の……貴族の方……ですか。どうしてエステルさん達と?」
エステル達の同行者の身分を知ったクロ―ゼは一瞬固まった後、気を取り直して尋ねた。
「それは歩きながら話すわ。」
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。プリネ達は”闇夜の眷属”で貴族だけど僕達と比べて見た目も変わりない人達だし、3人共気さくな人達だからクロ―ゼさんも彼女達とすぐ打解けれるよ。」
緊張しているように見えるクロ―ゼにヨシュアは微笑しながら答えた。そしてクロ―ゼを加えたエステル達は途中でその場からいなくなったクラムから謝罪を受けた後、マノリア村の宿酒場に向かった。

~マノリア村宿酒場・白の木蓮亭~

「おまたせ、3人共。結構待たせちゃったかしら?」
「いいえ、大丈夫ですよ。今、食後の休憩をしていたところでしたから。」
「ん……人が増えてるね。誰?」
エヴリーヌはクロ―ゼを見て尋ねた。
「ジェニス王立学園に通うクロ―ゼ・リンツと申します。エステルさん達とは縁あってルーアンの案内をする事にしました。」
「プリネ・ルーハンスです。将来就く仕事のためにエステルさん達といっしょに旅をしています。よろしくお願いしますね。」
「……私、エヴリーヌ。」
「プリネの姉のリフィアだ。……………ん?クロ―ゼといったな。お前とはどこかで会ったような気がするんだが……」
クロ―ゼの顔をよく見たリフィアは首を傾げて呟いた。
「(え……!?どうしてリフィア殿下がここに……!?じゃあもしかして、こちらの方はリウイ皇帝陛下とペテレーネ様のご息女……!?)えっと……人違いだと思います。私の知り合いの方にメンフィル出身の方はいらっしゃいませんから……」
幼い頃、ある場所で祖母に促されてリフィアと会って挨拶をして、リフィアの正体を知っているクロ―ゼは表情には出さず心の中でリフィアが目の前にいる事に驚き、プリネの名を聞いた後メンフィル皇族の直系――マーシルン家の中で唯一自分と同じぐらいの年の皇女の存在がいた事を思い出し、察しがついて驚いた。そして隠している自分の正体が悟られないために誤魔化した。
「ふむ、そうか。まあいい、それよりルーアンとやらに向かうぞ。今度はどんな街か今から楽しみだ。」
「了解、じゃあ行こうか。みんな。」
リフィアの言葉に頷いたヨシュアは全員にルーアンに向かうよう促した。そしてクロ―ゼを加えたエステル達はルーアンに向かい始めた………


後書き 次回はエステル達はでなく、あるキャラ達が初登場します。………感想お待ちしております。



[25124] 外伝~幼き竜達~
Name: sorano◆b5becff5 ID:4d34e903
Date: 2011/07/25 11:09
今回登場するキャラ達は多分、結構マイナーなキャラ達ですからわからない方が多数いるかもしれません。あとがきにこのキャラ達が出てくる作品名を書いておきますので気になったら調べてみて下さい。





~マーシア孤児院~

エステル達がマノリア村を出た頃、孤児院に住んでいる2人の少女がテレサに頼まれた買物から帰って来た。
「た・まご♪た・まご♪今日~はど~んな料理にな~るかな♪」
買った物が入った籠を持って無邪気に独自の歌を歌っている少女の一人の容姿は太陽のように輝く黄金の長い髪をゆらして、紅耀石のような赤い瞳で誰からも可愛がられるような容姿をしていた。
「ミントちゃん、楽しそうだね。私も楽しい気持ちになっちゃいそう。」
「えへへ、だって今日の晩御飯のおかずに卵があるんだよ!ミント、卵が大好きだもん!」
歌を歌っている少女――ミントの喜びを自分の喜びのように感じている少女の容姿もミントにまけず劣らず可愛らしい容姿だが明るい性格のミントとは逆に物静かに見え、髪や瞳も黄金の髪と赤い瞳のミントとは逆に、夜空の様な長く美しい黒髪と水耀石のような透き通る青い瞳を持っていた。
「そうやってはしゃぐのもいいけど、足元をよく見ていないとこけちゃうよ?」
「大丈夫だよ!ミント、ツーヤちゃんと同じみんなの中では一番上のお姉さんなんだもん!………きゃっ!」
黒髪の少女――ツーヤの言葉にミントは笑顔で答えた後、足元にある出っ張った石につまずいた。
「ミントちゃん!」
つまずきかけたミントをツーヤは支えて、助けた。
「ありがとう、ツーヤちゃん!」
「だから言ったんだよ?足元をちゃんとよく見て歩かないとって。でないとさっきみたいにつまずいて大好きな卵を割っちゃうよ?」
「ごめん、ごめん。でも、その時はツーヤちゃんが助けてくれるんでしょ?だったら大丈夫だよ!」
「もう、ミントちゃんったら……」
ミントの言葉にツーヤは苦笑したが悪い気持ちではなかった。実はこの2人の少女は”百日戦役”後森の中で倒れている所をテレサ夫妻に拾われ、ずっと孤児院のお世話になって来た少女達なのだが耳は人間とは違い尖っていた。2人は同じ場所に倒れていてお互いの事は知らなく、また記憶がなかったが孤児院で過ごす中記憶がないことを気にせず、お互い同じ境遇だったため、意気投合していつの間にか無二の親友になっていた。マーシア孤児院に住んで長い時が過ぎても全く成長しない2人の事をテレサはいくらなんでもおかしいと思ったが、2人の耳を見て”百日戦役”後に現れた異世界の種族――”闇夜の眷属”と思い、人間とは異なる種族の”闇夜の眷属”は成長も自分達人間とは違うと思い、気にしなくなったのだ。

「テレサ先生、ただいま~!」
「今戻りました。」
2人は孤児院のドアを開け、ミントは元気よく、ツーヤは落ち着いた口調で言った。
「あら、ミントにツーヤ。お帰りなさい。」
食器を洗っていたテレサは帰って来た2人の声に気付き、手を止めて身につけているエプロンに手をふいた後、2人に近づいた。
「はい、先生に言われた物を買って来たよ!」
ミントは嬉しそうな表情で買物籠をテレサに手渡した。
「ふふ、ありがとう。………うん、ちゃんとメモ通りの物を買って来たようね。そうそう、今日クロ―ゼが来てアップルパイを焼いてくれたわ。あなた達の分は残してテーブルの上に置いてあるわ。」
「本当!?クロ―ゼさんの焼いたアップルパイってすっごく甘くておいしいから、ミント、大好き!」
「2人とも帰ったらまず、手を洗いなさい。」
「はい。ミントちゃん、手を洗いに行こう。」
「うん!」
そして2人は手を洗って来た後、テーブルの傍にある椅子に座った。
「はい、アップルパイにハーブティーよ。」
「ありがとうございます、先生。」
「わーい♪クロ―ゼさんのアップルパイだ♪」
2人は皿にのっているアップルパイを美味しそうに食べた後、ハーブティーを飲んだ。

「あれ?」
「どうしたの、ミントちゃん?」
ハーブティーの入ったカップに口をつけたミントは呑むのをやめて、首を傾げた後集中した。いつもと違う様子の親友が気になりツーヤは声をかけた。
「このカップ……ママの香りがする!先生、もしかしてミントのママがここに来た!?」
ミントはカップについていた僅かな魔力に気付き、顔色を変えてテレサに尋ねた。ミントの持っていたカップは先ほどエステルが使っていたカップで、エステルがハーブティーを呑んだ際、エステルは無意識に微量な魔力を出していたのでその時、エステルの微量な魔力がカップに付着したのだ。
「ミントのお母さん……?いいえ、今日ここに来た女性のお客様はクロ―ゼと遊撃士のエステルさんですよ。」
ミントの言葉に首を傾げたテレサだったが、それらしき人物が思い当たらず今日孤児院に来た客の名前を告げた。
「エステルさん……」
一方テレサに告げられた客の名前をミントは忘れないように呟いた。
「ミントちゃん、もしかして………」
自分とミントしかわからないある事に察しがついたツーヤは驚いた表情になった。
「先生、そのエステルさんって人はどこにいるの!?ミント、会いたい!」
「……どうしたの、そんなに血相を変えて?いつも楽しそうにしているあなたらしくないわよ?」
「そのエステルさんって人、ミントのママの気がするの!ずっと待っていたママにミント、会いたいの!」
「エステルさんがミントのお母さん………?ミント、嘘をついてはいけませんよ。」
エステルを思い浮かべたが、ミントの親とは思えずテレサはミントを諭した。

「先生!」
自分の言っている事が本気にしてもらえずミントは声を荒げた。
「……先生、お願いします。そのエステルさんって人とミントちゃんを会わせて下さい。」
「ツーヤ?あなたまで…………わかりました。明日、ギルドに連絡してエステルさんがこちらに来るように頼んでみますね。だから、いい子にして待っていなさい。」
普段自分からは何も頼まないツーヤにまで嘆願されたテレサは少しの間考えて、答えた。
「本当!?ありがとう、先生!」
「よかったね、ミントちゃん。」
「うん!ママってどんな人なんだろう……優しい人かな……?」
エステルに会えるかもしれない事に喜んだミントは未だ姿がわからないエステルの姿を幸せそうな表情で連想し、会うのを楽しみにした。予想外の早さで望んでいた形とは違う形でエステルと会う事を知らずに………




後書き 今回出て来たキャラ達の原作は「空を仰ぎて雲高く」と今月発売する新作「時を奏でる円舞曲」です。ちなみに最初、前作では脇役だったツーヤは出すつもりはなく、代わりに真ラスボスをミントといっしょに出すつもりでしたが、新作で主役レベルになったので予定を変更してツーヤにしました。ツーヤには戦女神シリーズに出てくるあるキャラ達の技を使ってもらうつもりです。この2人はルーアン編が終わるとレギュラークラスの登場の頻度になるので楽しみに待ってて下さい♪後、2人は後に”成長”します。ちなみに原作の主人公は真ラスボスを拾って本来ミントの位置になるはずの場所にしたと思ってもらっていいです。まあ、出す気はないですが。次回更新した時にクロスオーバー作品を追記します。………感想お待ちしております。



[25124] 第60話
Name: sorano◆b5becff5 ID:4d34e903
Date: 2011/07/26 21:04
今回は軌跡シリーズお馴染みの土下座が得意技(笑)のあのキャラの登場です。



クロ―ゼを加えたエステル達は途中で出会う魔獣も簡単に倒し、ようやく目的地であるルーアンに到着した。

~ルーアン市内・北街区~

「うわ~……。ここがルーアンか。なんていうか、キレイな街ね。」
「海の青、建物の白……。眩しいくらいのコントラスト。まさに海港都市って感じだね。」
「ええ……風景に合わせた建築物、素晴らしい街ですね……」
「ああ………我が祖国では決して見る事のできない景色だな……」
「よくわかんないけど、エヴリーヌもこの街、キレイだと思う。」
初めて見るルーアンの景色にエステル達は見惚れた。
「ふふ、色々と見所の多い街なんです。すぐ近くに、灯台のある海沿いの小公園もありますし。街の裏手にある教会堂も面白い形をしているんですよ。でも、やっぱり1番の見所は『ラングランド大橋』かしら。」
「『ラングランド大橋』?」
観光名所を挙げていったクロ―ゼの言葉のある部分が気になったエステルは首を傾げて尋ねた。
「こちらと、川向こうの南街区を結ぶ大きな橋です。巻き上げ装置を使った跳ね橋になっているんですよ。」
「跳ね橋か……。それはちょっと面白そうだな。」
「うむ。橋が上がる所をぜひ見なければな!」
クロ―ゼの答えを聞いたヨシュアは興味深そうに呟き、リフィアもヨシュアの言葉に頷いた。
「あと、遊撃士協会の支部は表通りの真ん中にあります。ちょうど大橋の手前ですね。」
「オッケー。まずはそっちに寄ってみましょ。」
そしてエステル達はルーアンの支部に向かった。

~遊撃士協会・ルーアン支部~

「こんにちは~、って。あれ、受付の人は?」
元気よく挨拶をしながら入って来たエステルは受付に誰もいないことに気付き、呟いた。
「おや、お嬢ちゃんたち。なにか依頼でもあるのかい?」
そこに掲示板を見ていた女性がエステル達に気付き尋ねた。
「あ……」
「受付のジャンは2階で客と打ち合わせ中なんだ。困ったことがあるならあたしが代わりに聞くけど?」
「えっと……。客じゃないんだけど。」
女性はエステルの胸についている準遊撃士の紋章に気がついた。
「ん、その紋章……。なんだ、同業者じゃないか。あたしの名はカルナ。このルーアン支部に所属してる。見かけない顔だけど新人かい?」
「うん。あたしは準遊撃士のエステル。」
「同じく準遊撃士のヨシュアです。よろしくお願いします。」
「エステルさん達の旅に同行させてもらっているプリネと申します。よろしくお願いします。こちらは幼い頃から姉代わりになってくれているエヴリーヌお姉様とリフィアお姉様です。」
「よろしく。」
「余がリフィアじゃ!カルナとやら、余の活躍を楽しみにしてるがよい!」
女性遊撃士――カルナにエステル達はそれぞれ名乗った。

「エステルとヨシュア……それにプリネにエヴリーヌ、リフィア……そうか、あんたたちがロレントから来た新人とメンフィルのサポーター達だね?ボースじゃ、シェラザードと大活躍したそうじゃないか。」
カルナは少しの間考え、エステル達の事を思い出してエステル達を褒めた。
「ほう……もう、余達の活躍が広まっているのか。」
「あ、あはは……。それほどでもないけど。」
「僕たちが来ることをご存じだったんですか?」
「ああ、ジャンのやつが有望な新人とサポーターが来るって言ってたからね。しかし、転属手続きをするなら彼の用事が終わらないとダメだねぇ。しばらく、街の見物でもして時間を潰してきたらどうだい?」
「そうですね……。ただ待っているだけも何ですし。」
「あたしも賛成!あ、そうだ……。ね、クロ―ゼさん。良かったらもう少し付き合ってくれないかなぁ?せっかく知り合いになれたのにここでお別れも勿体ないし……」
カルナの提案にヨシュアとエステルは頷き、クロ―ゼに尋ねた。
「あ……喜んで。お邪魔じゃなかったらぜひご一緒させてください。」
「やった♪」
「決まりだね。それじゃあ僕たち、ルーアン見物に行ってきます。」
クロ―ゼの答えにエステルは喜び、ヨシュアはカルナに出直す事を言った。
「ああ、楽しんでおいで。」
そしてエステル達はクロ―ゼの案内でルーアン市内の見物を始めた。

その後クロ―ゼの案内でさまざまな所を見て廻ったエステル達はギルドに戻るために南街区と北街区を結ぶラングランド大橋に向かおうとした時、ガラの悪そうな男性3人に呼び止められた。

~ルーアン市内・南街区~

「待ちな、嬢ちゃんたち。」
「え、あたしたち?」
見覚えのない男性に呼び止められ、エステルは首を傾げた。
「おっと、こりゃあ確かにアタリみたいだな。」
男性の中で緑の髪を持つ不良――ディンがエステルやプリネ達の容姿を見て喜んだ。
「ふん、珍しく女の声が聞こえてきたかと思えば……」
3人の中でリーダー格に見える不良――ロッコが鼻をならしてエステル達の顔を一人一人ジックリ見た。
「あの、なにか御用でしょうか?」
「へへへ、さっきからここらをブラついてるからさ。ヒマだったら俺たちと遊ばないかな~って。」
クロ―ゼに尋ねられ、答えたディンは下品な口調で答えた。
「え、あの……」
「やれやれ……余達がお前達ごときと釣り合うと思っているのか?」
「寝言は寝て言え……だね♪」
「お、お二人とも!そんな角が立つような言い方をしなくても……」
ディンの答えにクロ―ゼは困惑し、リフィアとエヴリーヌは辛辣な事を言い、プリネは姉達の言動に慌てた。
「なによ、今時ナンパ~?悪いけど、あたしたちルーアン見物の最中なの。他をあたってくれない?」
「お、その強気な態度。オレ、ちょっとタイプかも~♪」
呆れた様子で答えるエステルに最後の不良の一人――レイスも下品な顔と口調で答えた。
「ふえっ!?」
レイスの言葉にエステルは驚いて声を上げた。

「見物がしたいんだったら俺たちが案内してやろうじゃねえか。そんな生っちろい小僧なんか放っておいて俺たちと楽しもうぜ。」
「………………………………」
ロッコがヨシュアを見て辛辣な事を言った。辛辣な事を言われたヨシュアは何も言い返さず黙っていた。
「ちょ、ちょっと!何が生っちろい小僧よ!?あんたたちみたいなド素人、束になってもヨシュアには……」
「いいよ、エステル。別に気にしてないから。君が怒っても仕方ないだろ?」
ロッコの言葉に頭がきたエステルは怒って言い返そうとしたがヨシュアに制された。
「で、でも……」
ヨシュアに制されたエステルは納得がいかない表情をしていた。
「なに、このボク……。余裕かましてくれてんじゃん。」
「むかつくガキだぜ……。ガキの分際で上玉5人とイチャつきやがって。」
「へへ、世間の厳しさってヤツを教えてやる必要がありそうだねぇ。」
ロッコ達はゆっくりとヨシュアに歩み寄った。
「ちょ、ちょっと……!」
「や、止めてください……!」
「「「………………」」」
歩み寄って来るロッコ達にエステルとクロ―ゼは叫び、プリネは無言でレイピアをいつでも抜けるように剣の柄に手を置き、リフィアとエヴリーヌはロッコ達を睨んで片手に魔力を集め始めた。
「……僕の態度が気に入らなかったら謝りますけど。彼女たちに手を出したら……手加減、しませんよ。」
3人の大人の男性を相手にヨシュアは慌てず冷静に答えた後、威圧感を出して睨んだ。
「なっ……」
「な、なんだコイツ……」
「ハ、ハッタリだ、ハッタリ!」
ヨシュアの威圧に圧された3人は思わず恐怖感で後退した。
「ヘッ、女の前でカッコ付けたくなる気持ちも判るけどな。あんまり無理をしすぎると大ケガすることになるぜ……」
恐怖から持ち直したディンがそう言った時

「お前たち、何をしているんだ!」
身なりのいい青年が大きな声で叫んで、エステル達のところに近付いた。
「ゲッ……」
「うるせえヤツが来やがったな……」
レイスとロッコは青年の顔を見て面倒くさそうな表情をした。
「お前たちは懲りもせず、また騒動を起こしたりして……。いい年して恥ずかしいとは思わないのか!」
「う、うるせぇ!てめぇの知ったことかよ!」
「市長の腰巾着が……」
青年の言葉にロッコ達は忌々しそうな表情で青年を睨んだ。
「なんだと……」
「……おや、呼んだかね?」
ロッコ達の挑発する言葉に怒りで答えようとした青年の言葉を中断するように、身なりのいい男性がやって来た。
「ダ、ダルモア!?」
「ちっ……」
男性の顔を見たロッコ達は舌打ちをして、さらに面倒くそうな表情をした。

「(だ、誰なのかな……。すごく威厳ありそうな人だけど。)」
「(ルーアン市長のダルモア氏です。お若い方は、秘書をされているギルバードさんといったかしら……)」
一方男性の事がわらかないエステルにクロ―ゼは小声で囁いた。
(ほう。あれがルーアンの市長か……)
(……リフィアお姉様はご存じでなかったのですか?)
(いや、会った事もない。余が会った事のある市長はメイベル殿を除いてロレントのクラウス市長ぐらいだ。)
メンフィルが異世界に進出してさまざまな公式の場でリウイやペテレーネ、ファーミシルスと共に顔を出しているリフィアにプリネはルーアン市長――ダルモアの事を小声で尋ねたが、リフィアは首を横に振って小声で返した。
「このルーアンは自由と伝統の街だ。君たちの服装や言動についてとやかく文句を言うつもりはない。しかし他人に、しかも旅行者に迷惑をかけるというなら話は別だ。」
「けっ、うるせえや。この貴族崩れの金満市長が。てめえに説教される覚えはねえ。」
諭すように答えるダルモアにディンはダルモアを睨んで荒い口調で答えた。
「ぶ、無礼な口を利くんじゃない!いい加減にしないと、また遊撃士協会に通報するぞ!?」
「フン……何かというと遊撃士かよ。ちったあ自分の力で何とかするつもりはないわけ?」
「たとえ通報されたとしても奴らが来るまで時間はある……。とりあえず、ひと暴れしてからトンズラしたっていいんだぜぇ。」
青年――ギルバートの言葉にレイスは鼻をならし、ロッコは腰に差しているナイフを抜いて答えた。
「悪いんだけど……。通報するまでもなくすでにここに居たりして。」
「「「な、なにぃ?」」」
しかしエステルの言葉に驚いた3人はエステルの方に向いた。

「はあ~、この期に及んでこの紋章に気付かないなんてね。あんた達、目が悪いんじゃない?」
驚いているロッコ達にエステルは溜息をつきながら左胸に飾った準遊撃士の紋章を指差した。
「そ、それは……!?」
「遊撃士のバッジ!?」
「じゃあ、こっちの小僧も……」
3人は遊撃士の紋章に驚いた後、ヨシュアを見た。
「そういう事になりますね。」
3人に見られたヨシュアも同じように左胸に飾ってある遊撃士の紋章を指差して答えた。
(ど、どうすんだ?まさかこんなガキどもが遊撃士なんて……)」
(なあに、構うもんか!遊撃士とはいえただの女子供じゃねえか!)」
(ば、馬鹿野郎!見かけで判断するんじゃねえ!ついこの間、3人がかりで女遊撃士と戦ってのされちまったのを忘れたのか!?そ、それに何と言っても……”あの人”と同じなんだぞ!?)
一方、エステル達が遊撃士とわかったロッコ達は焦って小声でどうするか会話をして、ある決断をしてエステル達の方に向いて答えた。
「きょ、今日の所は見逃してやらあ!」
「今度会ったらタダじゃおかねえ!」
「ケッ、あばよ!」
捨て台詞を言ったロッコ達は逃げるようにエステル達から離れて去って行った。

「なんて言うか……。めちゃめちゃ陳腐な捨て台詞ね。」
「まあ、ああいうのがお約束じゃないのかな?」
去って行ったロッコを見てエステルとヨシュアは苦笑した。
「済まなかったね、君たち。街の者が迷惑をかけてしまった。申し遅れたが、私はルーアン市の市長を務めているダルモアという。こちらは、私の秘書を務めてくれているギルバード君だ。」
「よろしく。君たちは遊撃士だそうだね?」
「あ、ロレント地方から来た遊撃士のエステルっていいます。」
「同じくヨシュアといいます。」
「エステルさん達の修行の旅に同行させてもらっているプリネと申します。」
「……エヴリーヌ。」
「プリネの姉のリフィアだ。」
話しかけて来たダルモアとギルバートにエステル達は自己紹介をした。
「そういえば、受付のジャン君が有望な新人やサポーターが来るようなことを言っていたが……。ひょっとして君たちのことかね?」
「えへへ……。有望かどうかは判らないけど。」
「しばらく、ルーアン地方で働かせて貰おうと思っています。」
「ほう。ジャンとやらもわかっているではないか。」
ダルモアの言葉にエステルは照れ、ヨシュアは礼儀よく答え、リフィアは口元を笑みに変えた。

「おお、それは助かるよ。今、色々と大変な時期でね。君たちの力を借りることがあるかもしれないから、その時はよろしく頼むよ。」
「大変な時期……ですか?」
ダルモアの言葉が気になったヨシュアは聞き返した。
「まあ、詳しい話はジャン君から聞いてくれたまえ。ところで、そちらのお嬢さんは王立学園の生徒のようだが……」
「はい、王立学園2年生のクローゼ・リンツと申します。お初にお目にかかります。」
「そうか、コリンズ学園長とは懇意にさせてもらっているよ。そういえば、ギルバード君も王立学園の卒業生だったね?」
「ええ、そうです。クローゼ君だったかい?君の噂は色々と聞いているよ。生徒会長のジル君と一緒に主席の座を争っているそうだね。優秀な後輩がいて僕もOBとして鼻が高いよ。」
「そんな……恐縮です。」
ギルバートの言葉にクロ―ゼは自分の事を謙遜して答えた。
「ははは、今度の学園祭は私も非常に楽しみにしている。どうか、頑張ってくれたまえ。」
「はい、精一杯頑張ります。」
「うむ、それじゃあ私たちはこれで失礼するよ。先ほどの連中が迷惑をかけたら私の所まで連絡してくれたまえ。ルーアン市長としてしかるべき対応をさせて頂こう。」
そう言って、ダルモアとギルバードは去っていった。

「うーん、何て言うかやたらと威厳がある人よね。」
「確かに、立ち居振る舞いといい市長としての貫禄は充分だね。」
去って行ったダルモアの後ろ姿を見てエステルとヨシュアは感心した。
「ダルモア家といえばかつての大貴族の家柄ですから。貴族制が廃止されたとはいえ、いまだに上流貴族の代表者と言われている方だそうです。」
「ほえ~……。なんか住む世界が違うわね。まあ、それを言ったらリフィア達もそうなんだけどね。リフィアはもちろんだけど、プリネも優しそうに見えていざという時にはなんていうか……近寄りがたい雰囲気を持っていたもんね。」
「そうだね。特にモルガン将軍に交渉した時なんて立ち振舞いや言葉遣いも含めて立派な貴族に見えたよ。」
クロ―ゼの説明にエステルは呆けた後、リフィア達を見て呟き、ヨシュアも頷いた。
「あの……先ほどモルガン将軍とおっしゃりましたが、エステルさん達は将軍とお知り合いなのですか?」
エステル達の会話で気になったクロ―ゼは恐る恐る尋ねた。
「うん。ほら少し前にあったハイジャック事件をあたし達とあたしの先輩の遊撃士の人といっしょに担当していたんだ。」
「その時、モルガン将軍と一悶着あってね。プリネやリフィアが納めてくれたんだ。」
「は、はあ、そうなんですか……(将軍、一体何をもめたんでしょうか?将軍もリフィア殿下の事はご存じのはずなのに……)」
エステルとヨシュアから軽く説明を聞いたクロ―ゼは人知れず冷や汗をかいた。

「あはは……その事は持ち出さないでいただけますか?我ながらあの時はちょっと大げさに言いすぎましたから、今でも恥ずかしいと思っているんですよ。」
「何を謙遜している、プリネ。あの時のお前は我がルーハンス家の者として立派な立ち振舞いだったぞ。」
「うん。いっつもエヴリーヌ達の後を付いて来た可愛いプリネも成長したね。やっぱりエヴリーヌやリフィア、お兄ちゃん達の教育の賜物ってやつかな?」
「お、お二人共……本当に恥ずかしいのでこれ以上はやめて下さい……」
姉達に褒められたプリネは照れた母のように顔を真っ赤にして照れた。
「あはは、いつも冷静であたし達より大人なプリネもそんな顔をするんだね♪しかし、それにしてもガラの悪い連中もいたもんね。」
「そうですね。ちょっと驚いちゃいました。ごめんなさい、不用意な場所に案内してしまったみたいです。」
「君が謝ることはないよ。ただ、わざわざ彼らを挑発に行く必要はなさそうだね。倉庫区画の一番奥を溜まり場にしていみたいだからなるべく近づかないようにしよう。」
「うーん……。納得いかないけど仕方ないか。」
ヨシュアの言葉にエステルは腑が落ちてない様子で頷いた後、エステル達は一端ギルドに戻った………



後書き 現在学園祭編もほぼラストまで書けました♪この調子なら全話投稿した頃にはひょっとしたらルーアン編が終われるかもしれません♪……感想お待ちしております。



[25124] 第61話
Name: sorano◆b5becff5 ID:4d34e903
Date: 2011/07/27 21:24
~遊撃士協会・ルーアン支部~

「いらっしゃい。遊撃士協会へようこそ!おや、クローゼ君じゃないか。」
エステル達がギルドに戻ると先ほど席を外していたルーアンの受付――ジャンがクロ―ゼの姿を見て、声をかけた。
「こんにちは、ジャンさん。」
「また、学園長の頼みで魔獣退治の依頼に来たのかい?ああ、判った!学園祭の時の警備の依頼かな?」
「いえ、それはいずれ伺わせて頂くと思うんですけど。今日は、エステルさんたちに付き合わせて貰っている最中なんです。」
「あれ、そういえば……。学園の生徒じゃなさそうだけど。……待てよ、その紋章は……」
クロ―ゼの言葉にジャンはエステル達の服装とエステルとヨシュアの左胸についている準遊撃士の紋章に気が付いた。そしてエステル達が自分達の顔がよく見えるように、受付に近付いた。
「初めまして。準遊撃士のエステルです。」
「同じく準遊撃士のヨシュアです。」
「お二人の旅に同行させてもらっているプリネです。こちらは私の姉代わりのエヴリーヌお姉様です。」
「ん、よろしく。」
「余がリフィアだ!ジャンとやら、よろしく頼むぞ!」
「ああ、君達がエステル君とヨシュア君か!それにあなた達がメンフィルのひ……おっとと……失礼。君達がサポーターを申し出てくれたメンフィルの方達だね。いや~、ホント良く来てくれた!ボース支部から連絡があって今か今かと待ちかねていたんだ。」
エステル達が来た事に嬉しいジャンは事情を知らないクロ―ゼがいることに気付かず、思わずリフィア達の事を言いそうになったが、すぐに気付き言い直して答えた。

「そっか、ルグラン爺さん、ちゃんと連絡してくれたんだ。」
「感謝しなくちゃね。」
エステルとヨシュアはすでに連絡をしていたルグランに感謝した。
「僕の名前はジャン。ルーアン支部の受付をしている。君達の監督を含め、これから色々とサポートさせてもらうよ。5人とも、よろしくな。」
「うん!よろしくね、ジャンさん。」
「よろしくお願いします。」
「はい。」
「ん。」
「うむ!」
ジャンの言葉に5人は頷いた。
「はは、君達には色々と期待しているよ。何といっても、あの空賊事件を見事解決した立役者だからな。」
「空賊事件って……。あのボース地方で起きた?私、『リベール通信』の最新号で読んだばかりです。……そう言えば先ほどエステルさん達がハイジャック事件を担当したとおっしゃていましたが、あれ、エステルさんたちが解決なさったんですか?」
ジャンの言葉を聞いたクロ―ゼは驚いた表情でエステル達を見た。
「あはは、まさか……。手伝いをしただけだってば。」
「実際に空賊を逮捕したのは王国軍の部隊だしね。」
「ええ、私達がした事は人質の安全を確保したぐらいです。」
クロ―ゼに驚かれ、エステルは照れ、ヨシュアとプリネは実際自分達がやった事を話した。

「謙遜することはない。ルグラン爺さんも誉めてたぞ。さっそく転属手続きをするから書類にサインしてくれるかい?さあさあ、今すぐにでも。」
ジャンはいつの間にか書類を出して、エステル達を急かした。
「う、うん……?」
「それでは早速。」
「うんうん、これで君たちもルーアン支部の所属というわけだ。いやぁ、この忙しい時期によくルーアンに来てくれたよ。ふふ……もう逃がさないからね。」
2人のサインを確認したジャンは含みのある言葉で笑った。
「な、なんかイヤ~な予感。」
「先ほどから聞いてるとかなり人手不足みたいですね。何か事件でもあったんですか?」
ジャンの言葉を聞いたエステルは弱冠不安になり、ヨシュアは気になって尋ねた。
「事件という程じゃないけどね。実は今、王家の偉い人がこのルーアン市に来ているのさ。」
「王家の偉い人……。も、もしかして女王様!?」
ジャンの言葉にエステルは受付に身を乗り出して期待した目で尋ねた。
「はは、まさか。王族の1人であるのは間違いないそうだけどね。何でも、ルーアン市の視察にいらっしゃったんだとさ。」
(……お姉様、リベールの王族でアリシア女王陛下以外の方達は確か……)
(うむ。アリシア女王陛下の孫であるクロ―ディア姫ともう一人は確か……甥のデュナン公爵という者だったな。)
エステルの疑問にジャンは苦笑しながら答えた。また、プリネはリフィアにリベール王家の人間に関して小声で確認した。

「へー、そんな人がいるんだ。でも、それがどうして人手不足に繋がっちゃうの?」
「何と言っても王家の一員だ。万が一の事があるといけないとダルモア市長がえらく心配してね。ルーアン市の警備を強化するよう依頼に来たんだよ。」
「なるほど、先ほど2階で話し合っていた一件ですね。それにしても市街の警備ですか。」
「まあ、確かに港の方には跳ねっ返りの連中がいるからね。そちらの方に目を光らせて欲しいという事だろう。」
ジャンはダルモアに頼まれた事を思い出し、溜息をついた。
「跳ねっ返りって……。さっき絡んできた連中のことね。うーん、確かにあいつら何かしでかしそうな感じかも。」
「なんだ、知っているのかい?」
事情を知っている風に見えるエステルに不思議に思ったジャンは尋ねた。
「実は……」
そしてエステル達はジャンに先ほどの出来事を話した。

「そうか……。倉庫区画の奥に行ったのか。あそこは『レイヴン』と名乗ってる不良グループのたまり場なんだ。君たちに絡んできたのは、グループのリーダー格を務める青年たちだろう。」
「『レイヴン(渡りカラス)』ねぇ……。なーにをカッコつけてんだか。」
ロッコ達のグループ名を知ったエステルはロッコ達がグループ名に負けていると思い、呆れた表情をした。
「少し前までは大人しかったんだが最近、タガが緩んでるみたいでね。市長の心配ももっともなんだが、こちとら、地方全体をカバーしなくちゃならないんだ。……とまあ、そんなワケで本当に人手不足で困っていてね。君たちが来てくれて、感謝感激、雨あられなんだよ。……特にメンフィルのお嬢さん達には期待しているよ。なんたって3人は僕達人間より身体能力が遥かに高く、魔術も使える”闇夜の眷属”なんだから。」
「フフ、まだまだ修行中の身ですが精一杯がんばらせていただきます。」
「余がいるのだ!大船に乗った気分でいるといい!」
「ま、疲れない程度にがんばってあげる。」
「あたしとヨシュアも3人に負けないようがんばるわよ!それじゃあ、明日からさっそく手伝わせてもらうわ。」
「何かあったら僕たちに遠慮なく言いつけてください。」
「ああ、よろしく頼むよ!」
そしてエステル達は英気を養って明日に備えるため、ギルドを出てホテルに向かい、部屋を取った後クロ―ゼを街の入口まで送り、ホテルに戻った………



後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第62話
Name: sorano◆b5becff5 ID:4d34e903
Date: 2011/07/28 22:33
ホテルに戻ったエステル達は運良く取れた最上階の部屋のバルコニーで景色を見て、堪能している所部屋の中から聞き覚えのない声が聞こえて来た。

~ルーアン市内ホテル・ブランシェ・最上階~

「ほほう……。なかなか良い部屋ではないか。」
「なに、今の?」
「うん、部屋の中から聞こえてきたみたいだけど……」
(ん……?どこかで聞き覚えのある声だな……?)
部屋の中から偉そうに話す男性の声にエステルとヨシュアは首を傾げ、リフィアは聞き覚えのある声に訝しんだ。
「それなりの広さだし調度もいい。うむ、気に入った。滞在中はここを使うことにする。」
「閣下、お待ちくださいませ。この部屋には既に利用客がいるとのこと……。予定通り、市長殿の屋敷に滞在なさってはいかがですか?」
豪華な服を着ている男性に執事服を着た老人が自分の主である男性を諌めていた。
「黙れ、フィリップ!あそこは海が見えぬではないか。その点、この海沿いのホテルは景観もいいし潮風も爽やかだ。バルコニーにも出られるし……」
男性が執事――フィリップを怒鳴った後、バルコニーに向かおうとした時、バルコニーにいるエステル達の存在に気がついた。
「な、なんだお前たちは!?賊か!?私の命を狙う賊なのか!?」
「何をいきなりトチ狂ったこと言ってるのよ。オジサンたちこそ何者?勝手に部屋に入ってきたりして。」
(リベールの王族がルーアンに滞在していると聞いたが…………よりにもよってこ奴か。道理で聞き覚えはあるが聞きたくない声だと思った。)
エステル達の姿を見て慌てている男性にエステルは注意し、男性の身なりと顔を見て男性の正体がわかったリフィアは溜息をついた。
「オ、オジサン呼ばわりするでない!フン、まあよい……。お前たちがこの部屋の利用客か?ここは私が、ルーアン滞在中のプライベートルームとして使用する。とっとと出て行くが良い。」
「はあ?言ってることがゼンゼン判らないんですけど。どうして、あたしたちが部屋を出て行かなくちゃならないわけ?」
「事情をお伺いしたいですね。」
「「「…………」」」
自分達に理不尽な命令をする男性にエステルとヨシュアは顔をしかめて尋ねた。また、男性の言動にプリネは表情を硬くし、エヴリーヌとリフィアは男性を睨んだ。

「フッ、これだから無知蒙昧(むちもうまい)な庶民は困るのだ……。この私が誰だか判らぬというのか?」
「うん、全然。なんか変なアタマをしたオジサンにしか見えないんだけど。」
自信を持って答える男性にエステルはあっさりと否定した。
「へ、変なアタマだと……!」
「エステル……。いくら何でもそれは失礼だよ。個性的とか言ってあげなくちゃ。」
「なるほど、物は言いようね♪」
「キャハッ♪別にこんな人間にエヴリーヌ達が気を使う必要はないよ♪」
「うむ!エヴリーヌの言う通りだな!」
「み、みなさん………お気持ちはわかるのですが、そんな挑発をするような言葉はできればやめたほうが……」
普段礼儀のいいヨシュアまで遠回しに男性を貶したのでプリネが呆けている男性を横目で一瞬見た後、一人でエステル達を諌めようとした。
「ぐぬぬぬぬ……。フッ、まあ良い。耳をかっぽじって聞くが良い。……私の名は、デュナン・フォン・アウスレーゼ!リベール国主、アリシアⅡ世陛下の甥にして公爵位を授けられし者である!」
怒りを抑えていたが、とうとう我慢できなく男性――デュナンは自分の身分と名前を威厳がある声で叫んだ。

「………………………………」
「………………………………」
「………………誰?」
(……リフィアお姉様、今の方がおっしゃたことは本当なのですか?)
(ああ、残念ながらな……一度だけ会った事はあるがあの横柄な態度や自分勝手な性格は全く変わっていないな……)
デュナンの名乗りを聞いたエステルとヨシュアは口をあけたまま何も言わず、エヴリーヌは首を傾げ、プリネはリフィアに小声で確認した。
「フフフ……。驚きのあまり声も出ないようだな。だが、これで判っただろう。部屋を譲れというそのワケが?」
「ぷっ……」
「はは……」
「キャハ……」
「あはははははは!オジサン、それ面白い!めちゃめちゃ笑えるかも!よりにもよって女王様の甥ですって~!?」
「あはは、エステル。そんなに笑ったら悪いよ。この人も、場を和ませるために冗談で言ったのかもしれないし。」
「キャハハハ………!」
デュナンは威厳ある声で言ったがエステルやヨシュア、エヴリーヌは笑いを抑えず大声で笑った。

「こ、こ、こやつら……」
デュナンは笑っているエステル達を見て、拳を握って震えた。
「……誠に失礼ながら閣下の仰ることは真実です。」
そこに今までデュナンの後ろに控えていたフィリップがエステル達の前に出て来て答えた。
「え……」
エステル達は笑うのをやめてフィリップを見た。
「これは申し遅れました。わたくし、公爵閣下のお世話をさせて頂いているフィリップと申す者……。閣下がお生まれになった時からお世話をさせて頂いております。」
「は、はあ……」
フィリップの言葉にエステルは状況をよく呑みこめず聞き流していた。
「そのわたくしの名誉に賭けてしかと、保証させて頂きまする。こちらにおわす方はデュナン公爵……。正真正銘、陛下の甥御にあたられます。」
(し、信じられないけど……。そのオジサンはともかく、あの執事さんはホンモノだわ)
(そういえばジャンさんが言ってたね……。ルーアンを視察に来ている王族の人がいるって……)
「ふはは、参ったか!次期国王に定められたこの私に部屋を譲る栄誉をくれてやるのだ。このような機会、滅多にあるものではないぞ!」
小声で会話をし始めたエステルとヨシュアを見て、デュナンは高笑いをしてエステル達に再び命令した。
「ふ、ふざけないでよね!いくら王族だからといってオジサンみたいな横柄な人なんかに……!それにこっちにだって……」
「あいや、お嬢様がた!どうかお待ちくださいませ!」
デュナンに言い返そうとしたエステルにフィリップは駆けつけて大声で制した。
「え?」
「しばしお耳を拝借……」
そしてフィリップはデュナンに聞こえないように壁際までエステルたちを誘導した。

「失礼ながら、お嬢様がたにお願いしたき儀がございます。これで部屋をお譲り頂けませぬか?」
フィリップは懐から札束になったミラを取り出してエステル達に差し出した。
「し、執事さん……」
「何もそこまで……」
「閣下は一度言い出したらテコでも動かない御方……。それもこれも、閣下をお育てした私めの不徳の致すところ……。どうか、どうか……」
フィリップは土下座をする勢いで何度もエステル達に頭を下げた。
「……そこの執事。余の顔に見覚えはないか。」
フィリップが何度も頭を下げている所、今まで黙っていたリフィアが声をかけた。
「ハ……?」
リフィアの言葉にフィリップは頭を下げるのをやめて、リフィアの顔をよく見た後驚愕した。
「なっ………!?そ、そんな!?なぜ貴女様がここに……!?」
「今はそんなことはどうでもよい。あの放蕩者は一度会っているにも関わらず余の事をわからない上、今の発言……リベールは余を馬鹿にしているのか……?」
「そ、それは………」
威厳を纏って語るリフィアを見て、フィリップは顔を青褪めさせた。そしてフィリップはその場で土下座をしてリフィアに嘆願した。
「申し訳ありません……!これも閣下をお育てした私めの不徳の致すところ……ですので決して我が国は救世主であり、また同盟国の皇族であるリフィア殿下を貶してなどいません……ですから殿下の怒りは閣下に代わりまして私が全て受けます!どうか、どうか……!」
フィリップは土下座をした状態で床にぶつけるかの勢いで何度も頭を下げた。
「ふう、仕方ないか……。あんまり執事さんを困らせるわけにもいかないし。」
「リフィアも許してあげてくれないかな?全てフィリップさんが悪い訳ではないと思うよ?」
「…………お前達がそう言うのなら余も怒りをここで収めるか………さすがにこのような素晴らしい部屋を血で染める訳にもいかぬし、ここで力や権力を振るえば余はあの放蕩者と同等になるしな……」
エステルは溜息をついて部屋を譲る事を言い、ヨシュアに諌められたリフィアも溜息をついて答えた。
「エヴリーヌお姉様も我慢できないでしょうが、お願いします。」
「ん。お兄ちゃんからもいくらムカつく相手でも無暗に人を殺してはダメって言われているしね。」
「フィリップさんの誠意は十分僕達やリフィアに伝わりましたから、頭を上げて立って下さい。部屋はお譲りします。ただ、そのミラは受け取れません。」
「し、しかしそれでは……」
「いいっていいって♪リフィア達にとっては大した部屋じゃないかもしれないけど、あたしやヨシュアにはちょっと豪華すぎる部屋だし。あのオジサンのお守り大変とは思うけど頑張ってね♪」
「お、お嬢様がた……。どうも有り難うございます。」
フィリップはエステル達の懐の広さに感動してお礼を言った。

その後最上階の部屋をデュナンに譲ったエステル達はホテルの受付に空き部屋を聞いたが部屋はなく、困っていた所をナイアルが通りかかりナイアルの好意でナイアルが取っている部屋に一晩泊めてもらった。リフィア達がメンフィルの貴族と知ると、ナイアルは興味ありげな表情で追及したがヨシュアが誤魔化し、またリフィア達の取材の許可は大使館で取る必要があると言うと、引き下がった。そしてその翌日ギルドに行くとマーシア孤児院が火事になった知らせが届き、エステル達は孤児院に住むテレサや子供達の安否、火事の現場を調べるために急いでマーシア孤児院に向かった………



後書き いや~……自分で書いといて言うのもなんですが、リフィア達の存在は軌跡世界の身分ある人達にとってはとんでもない存在ですね。…………感想お待ちしております。



[25124] 第63話
Name: sorano◆b5becff5 ID:4d34e903
Date: 2011/07/28 22:45
学園祭編を書き終わったので、記念にもう一話投稿です♪



エステル達がマーシア孤児院に着くと、孤児院は見るにも無残に崩れて焼け落ちて、周囲のハーブ畑は無茶苦茶に荒らされていた。

~マーシア孤児院~

「これは……」
「ひ、ひどい……」
「完全に焼け落ちてるね……」
焼け落ちた孤児院を見て、エステル達は悲痛な表情をした。
「あれ、あんたたち……?」
「ひょっとして君たち遊撃士協会から来たのかい?」
そこに焼け跡の処理をしていたマノリア村の村民らしき男性達がエステル達に気付いて話しかけた。
「う、うん……」
「皆さんはマノリアの方ですね?」
「ああ……。瓦礫の片付けをしているんだ。昨日の夜中に火事が起きて慌てて消火に来たんだけど……。まあ、ご覧の通り、ほぼ建物は焼け落ちちまった。」
男性の一人が無念そうな表情で答えた。
「そ、それで……。院長先生と子供たちは!?」
「それが……何人かの子供たちが火傷を負って煙をすってしまったようで、無事だったのは院長先生と僅かな子供達で何人か重体で宿の一室で寝かしているんだ……」
「そ、そんな……!」
「………どのぐらい酷いのでしょうか……?」
男性の説明にエステルは悲壮な表情をし、ヨシュアは辛そうな表情で尋ねた。
「正直言ってわからない……マノリアは小さい村だからね……それに加えて冒険者用に売っている火傷した時用の薬がちょうど切れていてね……ありったけの傷薬で火傷は抑えたがあくまで傷薬だからね……村にはどの教会もないから、専門的な薬はないし処置の仕方もわからないんだ。……ただ、希望はあると思うよ。」
「一体それはなんなのでしょう?」
男性の言葉が気になり、ヨシュアは聞き返した。

「先ほど『白の木蓮亭』のマスターが傷や病気等を治してくれるところ――癒しの専門であるルーアンのイーリュン教会に連絡したら、運良く癒しの魔術ができる信徒の中でも高度な術を使う方がいらっしゃって、急いでこっちに向かって来てくれているらしいんだ。」
「イーリュンの……それはよかった。」
(………ふむ。こちらの世界のイーリュン教の信徒で高度な治癒魔術をできる者等ティア殿しか思い当たらないのだがな……?まさかルーアンに来ているのか?)
男性の答えにヨシュアは安堵の溜息をはき、リフィアは首を傾げた。
「俺たちはもう少し後片付けをするつもりだけど。あんたらはどうするつもりだい?」
「あ、さっそく宿屋に行ってあの子たちのお見舞いと傷の手当てに……」
「悪いけど、それは後回し。」
「ふえっ!?」
ヨシュアの言葉にエステルは驚いて声を出した。
「この現場、ざっと見ただけでも妙なことが多すぎる。そして、そういう手がかりは時間が経つと失われてしまうんだ。……君の気持ちもわかるけど今は現場検証の方を優先しよう。子供たちのことが心配なのはわかるけど、専門の人がこっちに向かっているんだ。素人な僕達はあまり手を出さない方がいい。下手に手を出して状態を悪くする訳にはいかないしね。」
「………………………………わかった……。あたしたち、遊撃士だもんね。何があったのか突き止めないと。リフィア達もいいかな?」
「ああ……」
「はい、わかりました。」
「…………」
そしてエステル達は孤児院の敷地内を調べ廻った。孤児院を調べ廻ってわかった事は何者かによって放火されたという結論であった。

「……魔力の痕跡があるのは気になりますが、この痕跡で感じられる魔力では原因の一つではないでしょうね。炎の魔術を使ったなら炎属性の魔力が漂っているはずです。……ハーブ畑や食料が入った樽が荒らされていた事といい、恐らく全て人の手によって起こされた事でしょうね……」
「ああ、それにこの辺りは特に油の匂いが強い。恐らく可燃性の高い油をこの辺りに撒いて火をつけたんだろうな。」
「……だね。」
「そ、そんな……」
プリネ達の結論を聞いたエステルは信じられない表情をした。
「プリネの言う通り、これは完全に何者かの仕業だと思うよ。」
「それ……本当ですか……?」
ヨシュアもリフィア達の結論に頷いた時、いつの間にかクロ―ゼがいた。
「あ、クローゼさん!?」
「来ていたのか……」
「どうして……。誰が……こんなことを……。かけがえのない思い出が一杯につまったこの場所を……。どうして……こんな……酷いことができるんですか……!?」
「クローゼさん……」
「「「「………………………………」」」」
取り乱して叫んでいるクロ―ゼにエステル達はかける言葉はなく、辛そうな表情で見た。
「………………………………。ごめんなさい……。……取り乱してしまって……。私……わたし…………」
「取り乱すのも無理ないよ。知り合ったばかりのあたしだってちょっとキツいから……。……信じられないよね。こんな事をする人がいるなんて。」
エステルはクロ―ゼの両手を握ってクロ―ゼに同意した。
「エステルさん……」
「子供たちが怪我を負ったのは残念だったけど……イーリュンの人がこっちに向かっているからきっと大丈夫だよ。だから安心していいからね?」
「………………………………。……ありがとう。少しだけ落ち着きました。朝の授業を受けていたらいきなり学園長がやって来て……。孤児院で火事が起きたらしいって教えてくれて……。ここに来るまで……生きた心地がしませんでした。」
ようやく落ち着いたクロ―ゼは授業中であるにも関わらず火事跡の孤児院に来た経緯を話した。
「そっか……」
「院長先生と子供たちはマノリアの宿屋にいるそうだよ。調査も終わったし、僕たちも一緒にお見舞いに付き合わせてくれるかな?」
「あ、はい……。そうして頂けると嬉しいです。」
「それじゃあ、さっそくマノリアに行くとしましょ。」
そしてエステル達はマノリア村の宿屋であり、酒場でもある『白の木蓮亭』に向かった………



後書き あるキャラを登場させるために、悪いとは思いましたが孤児院の子供達には原作と違って火事の影響を受けて貰いました。……というか、火事がおきて全員無傷とか、そっちの方がありえないでしょ?基本、英雄伝説は優しい世界だからありえた事です。……感想お待ちしております。



[25124] 第64話
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/07/29 12:15
碧の軌跡のデモムービーがついに解禁されましたね!!内容を見ましたけど、軌跡シリーズの大作、SCを越えるのではないか!?と思っちゃいました♪あ~……早くアリオスやリーシャ、新コンビクラフトを使ってみたいです……



~白の木蓮亭・宿屋の一室~

エステル達がテレサ達がのいる部屋に入ると、そこにはベッドに寝かされ火傷の痛みと煙をすった影響で苦しんでいる子供たちと無事だったテレサやクラム、マリィがイーリュンのシスター服を着た女性に嘆願していた。
「お願いします!どうかあの子達を助けてやって下さい!」
「頼むよ!イーリュンのお姉ちゃんならどんな傷でもなおせるんでしょ?」
「お願いします!」
「………落ちついて下さい。この子達は母なるイーリュンに代わりまして私が責任を持って癒します。ですから今はこの子達の無事を祈ってあげて下さい……」
「はい………」
女性に諭され、テレサはその場で手を組んで祈り、それを見てクラムやマリィも祈った。
「………まずは体内にある吸ってしまった毒をなくさなくてはいけませんね。………イーリュンよ、かの者等に浄化のお力を……大いなる浄化の風!」
女性が強く祈ると苦しんでいる子供達を淡い光がつつみ、光がなくなると子供達は規則正しい寝息を始めた。
「……イーリュンよ、お力を……癒しの風!」
さらに女性がもう一度祈ると同じように寝息を立てている子供達を淡い光がつつみ、光がなくなると子供達の火傷は綺麗に消えていた。
「ポーリィ、ダニエル、ミント、ツーヤ!ああ、よかった……!」
「「みんな!」」
子供達が苦しまなくなり、完全に火傷が消えて安心したテレサは寝ている子供達にクラムやマリィと共に駆け寄った。
「すごっ……!一瞬でみんなの火傷が治っちゃった……!」
「あれがイーリュン教に伝わる癒しの魔術か……まるで奇跡だな……」
「よかった……本当によかった……」
一連の光景を見たエステルやヨシュアは初めて見るイーリュン教の癒しの魔術に驚き、クロ―ゼは涙を流して安心した。

「えっ……」
「やはりか……」
「あれ………?」
一方女性の横顔や後ろ姿を見てプリネは驚き。リフィアは納得し、エヴリーヌは首を傾げた。そして女性はエステル達に気付いて振り向いた。
「あら……?」
「わっ。凄い美人……」
エステルは女性の容姿を正面で見て思わず声を出した。女性の容姿は一般の女性と比べるとかなり整っており、腰まで届くほどの澄んだ水のような美しい水色の長い髪をなびかせ、瞳は髪の色とは逆に赤であったが女性の容姿や髪、シスターの服装と合わさって逆に似合っていた。また、女性の耳はプリネやリフィアのように尖り、清楚ながらどこか高貴な雰囲気を纏っていた。
「お久しぶりですね、ティアお姉様。」
「久しいな、ティア殿。相変わらず見事な治癒術だな。余も見習わなくては。」
「やっほ。」
女性――リウイの娘でありイーリュンの神官のティアにプリネ達は滅多に会わない家族に親しげに話しかけた。
「リフィアさんにプリネさん。それにエヴリーヌさんも……お久しぶりですね。」
「えっ。リフィア達、この人の事を知っているの?」
ティアと親しげに話すリフィア達を見て、エステルは驚いた。
「………その人の事をリフィア達が知ってて当然だよ、エステル。」
「へ?それってどういう事。」
ヨシュアの言葉にエステルは首を傾げて聞き返した。
「エステル……日曜学校の授業で七曜教会以外の宗教の事を授業で習った時、その人の顔を見た事なかった?」
「へ………………………あ――!?聖女様の横に写っていた人だ!ちょっと待って、聖女様が写っていた所って確かアーライナ教やイーリュン教で有名な人が載っていたはず。…………って事はもう一人の聖女様!?」
「『癒しの聖女』ティア・パリエ様………!」
ティアの顔を見て思い出したエステルは驚き、同じように学園の授業でティアの事を習ったクロ―ゼも驚いた。

「はじめまして、イーリュンの信徒の一人、ティア・パリエです。後………できればその聖女と言う呼び方はやめていただけないでしょうか……?私はペテレーネ様のように我が主神、イーリュン様の神核を承っている訳ではありませんし、そんな風に呼ばれると恥ずかしいんです……どうか気軽に”ティア”とお呼び下さい。」
「えっと、じゃあティアさん。みんなの火傷を治して早速で悪いんだけど、聞いていいかな?」
「構いませんが……あなた達は?」
「あ、自己紹介がまだだったわね。準遊撃士のエステル・ブライトよ。」
「同じく準遊撃士のヨシュア・ブライトです。エステルとは義理の兄妹です。」
「………ジェニス王立学園のクロ―ゼ・リンツと申します。昔、お世話になった縁でマーシア孤児院の手伝いをさせて貰っています。子供達の命を救って下さって本当にありがとうございました。」
「私は母なるイーリュンの教えに従ったまでです。ですからあまり私の事は気にしないで下さい。……それで遊撃士の方達が私に何の御用でしょうか?依頼を出した覚えはないのですが……」
「あ、単に同じ治癒魔術を使う者として気になっただけ。だから、あまり気にしないで。」
「あなたが……?もしかしてアーライナ教の信徒の方ですか?こう見えてもゼムリア大陸のイーリュン教の神官長を務めさせていただいており、信徒の顔は全員覚えていて、エステルさんの顔は見た事がありませんから……」
エステルの言葉にティアは首を傾げて尋ねた。
「ううん。あたしはどの宗教の信徒でもないわ。」
「そうなのですか。という事は”秘印術”の使い手の方ですね。それで一体何をお聞きしたいのでしょうか?」
「うん。どうやったらあんなに上手く治癒魔術ができるのかなーって。あたしも”闇の息吹”っていう治癒魔術ができるけど、回復量はバラバラでティアさんみたいにみんなを一遍に治したりできないもん。」
「……治癒魔術は魔術の中でも高度な魔術と言われていますが、それほど難解な魔術ではありません。要は相手をどれだけ思えるかですね。治癒魔術は魔力もそうですが使い手の精神状態によっても効果は変わりますから……それと申し訳ないんですが闇の神殿の治癒魔術についてはよくわからなくて何も申し上げる事はできません。すいません……」
ティアはエステルに申し訳なさそうな表情で頭を下げた。
「わわっ。あたしなんかにティアさんみたいな凄い人が頭を下げる必要なんてないよ。信者でもないあたしに治癒魔術の事について教えてくれてむしろ感謝しているわ。」
ティアの行動にエステルは慌てて答えた。
「そうですか、少しでもお役に立ててよかったです……ところでどうしてリフィアさん達がここに……」

「「……ハァ……ハァ……」」
「ミント!?ツーヤ!?しっかり!」
「ミント姉ちゃん、お願いだから目を覚ましていつものような明るい笑顔を見せてくれよう……」
「起きてツーヤお姉ちゃん……でないとクラムを叱るのあたしだけになっちゃうよ……そんなの嫌だよ!?」
ティアがリフィア達に尋ねようとした矢先、眠っていたミントとツーヤに異変が起こり、それに気付きテレサやクラム、マリィは焦って何度も呼びかけた。
「え!?完全に治療したはずなのに……!?……すみません、ちょっと失礼します!」
容体が急変したミントやツーヤに驚き信じられない表情をしたティアはミントとツーヤに急いで近付いて状態を確かめた。
「……………これは!……………………そんな……………」
2人の状態を確かめてそれぞれに魔力を送ったティアはいくら魔力を送っても効果がない事に気付き、悲痛な表情をした。
「ティア様、2人の体に蝕んでいた毒を先ほど除去しきれてなかったのですか……?」
クロ―ゼはティアの表情を見て、不安そうな表情で尋ねた。
「いえ、今のお二人は健康そのものです。」
「じゃあ、どうしてミント姉ちゃん達がうなされているんだ!?」
ティアの答えにクラムは詰め寄った。
「クラム!恩がある方になんて口を聞くんですか!」
「あ………」
テレサに怒られたクラムはティアに詰め寄るのをやめて、気不味そうな表情をした。

「………話を続けます。確かにお二人は健康そのものですが……その前にテレサさんに一つお聞きしたいのですが。」
「なんでしょうか?」
「ミントさんにツーヤさん……2人は最近魔力を使うような事はしませんでしたか?」
「魔力を使うような事とは……?」
「簡単に言えば魔術を使う事です。手から火や水を出したりや風をおこしたりなど、そういった不思議な事を2人はしませんでしたか?」
「そんな事をしている事は見た事が……………あ………!」
「……どうやら、心当たりがあるようですね。」
ティアに尋ねられ少しの間考えていたテレサは声を出した。
「先生、ミントちゃんとツーヤちゃんは魔術が使えたんですか……?2人が”闇夜の眷属”である事は知っていましたが……」
テレサの様子が気になったクロ―ゼは尋ねた。
「あれ?そう言えば昨日はその2人は孤児院にいなかったわよね?」
「……あの時この子達はちょうどお使いに行っていましたから………それでクロ―ゼ、先ほどの質問に答えるけど、2人は今まで不思議な力を使ったりなんて事はしなかったわ。でも…………あの時………」
「………あの時とは?」
テレサの言葉が気になったヨシュアは尋ねた。

「………孤児院が火事になって逃げ場を失った時、天井から私やクラム達に火のついた屋根の瓦礫が落ちて来た時、それに気付いた2人は両手を上にかざしたんですが……その時、2人の全身が光り、両手から大きな光の玉のような物が出て来て落ちて来た瓦礫を破壊したんです。………そういえばその直後に2人は倒れたんです。あの時は煙を吸ってしまったせいかと思ったんですが……」
「やはりそうですか……このお二人が今うなされている原因なのですが……魔力の枯渇です。」
「魔力の枯渇……?それは一体何なのでしょうか……?」
ティアの答えにテレサは不安げな表情で尋ねた。
「魔力の枯渇とは体内にある魔力を使いきってしまうとよく起こる症状です。……軽い症状なら眩暈や気絶程度ですむんですが、重い症状だと最悪死に到ります……」
「そんな……どうにかならないのですか!?」
血相を変えたテレサはティアに詰め寄って嘆願した。
「……魔力が枯渇しているなら供給をして回復する事は無理なんですか?」
「もちろん、私もそれを考えて先ほど試しましたが……駄目なんです。魔力を2人にいくら供給しても私の魔力を受け付けなく、供給できないんです……もしかしたら、魔力の相性の問題があるかもしれません。」
ヨシュアの提案にティアは首を横に振って悲痛そうな表情で答えた。
「そんな……!せっかくミントはエステルさんに会うのをあんなに楽しみにしていたのに……こんな事って……!」
「え……その子があたしに会いたいってどういう事ですか?」
テレサの言葉に驚いたエステルはテレサに尋ねた。
「……エステルさん達が孤児院を去った後この子達が帰って来てアップルパイとハーブティーを出して食べさせていた時、この子が急に昨日来たお客様の名前を聞き、エステルさんが自分のママだと言ってエステルさんに会いたいって言ったんです。」
「あ、あたしがこの子のママ!?」
テレサの説明を聞いたエステルはうなされているミントを見て驚いた。

「ふーん、エステルってこんな大きな子供がいたんだ。もしかしてエステルって人間じゃなくて見かけによらず結構年を取っているの?」
「ハ……!?……ってそんな訳ないでしょ!?あたしは正真正銘16歳の人間だし、子供を産んだ覚えもないわ!」
「エ、エヴリーヌお姉様……さすがにそれは無理がありますよ……」
「やれやれ……」
エヴリーヌのとんでもない発言にエステルは驚いた後、顔を真っ赤にして否定した。エヴリーヌの発言にプリネは苦笑し、リフィアは溜息をついた。
「(………もしかして……)あの、エステルさん。この子にあなたの魔力を供給してあげてくれませんか?」
エステルが騒いでいる中、ティアはある事を思い付きエステルに頼んだ。
「へ?……わかった、やってみるわ。………………………」
ティアに言われ目を丸くしたエステルはすぐに表情を引き締め、ミントに近付きミントに自分の魔力を供給した。
「………ハァ………ハァ………………スゥ……スゥ……マ……マ……」
すると今までうなされていたのが嘘のようにミントは規則正しい寝息をし始めた。
「嘘……!?魔力が供給できた!?」
「……………やはり………」
自分より高度な術者であるティアに出来なかった事が自分に出来た事にエステルは驚き、ティアは一人納得した。

「ミントさんにとってエステルさんの魔力が相性がよかったのでしょうね。おそらくミントさんは孤児院のどこかに漂っていたエステルさんの僅かな魔力を感じて本能的にエステルさんに会いたがったのでしょうね……なぜ、エステルさんを母と感じたのはわかりませんが……」
「あたしの魔力が………」
ティアの説明を聞いたエステルは自分の両手を見た。
「………ハァ…………ハァ…………」
「ツーヤちゃん!?」
「そうだ……もう一人いたんだ……」
未だうなされているツーヤにクロ―ゼは駆け寄り、ヨシュアはどうするべきか考えていた。
「だったらあたしを含めて魔術を使える人がみんな試してみればいいじゃない。考えるのは後よ!」
「そうだね。プリネ、リフィア、エヴリーヌ。お願いしていいかな。」
エステルの意見に頷いたヨシュアはプリネ達を見た。
「うむ。」
「わかった。」
「私の魔力で命が助かるのならいくらでも供給をして差し上げます……!」
ヨシュアの言葉に頷いたリフィア達はそれぞれ順番にツーヤに魔力を供給した。するとリフィアとエヴリーヌは供給できなかったがプリネの魔力は供給できて魔力が供給され、回復して顔色がよくなったツーヤはミントと同じように規則正しい寝息をし始めた。
「スゥ………スゥ………ご……主人……様……」
「よかった……ありがとうございます、プリネさん……」
「いえ、力になれてよかったです。」
ツーヤも助かった事に安心したクロ―ゼはプリネにお礼を言い、お礼を言われたプリネは謙遜して答えた。そして今まで眠っていたダニエルとポーリィが目覚めた。

「「う、うん……?」」
「ダニエル、ポーリィ!目覚めたのね!どこか痛い所はない?」
目覚めた2人の子供にテレサは尋ねた。
「うん、さっきまで苦しくて痛かったけど今はへーき。」
「えへへ、なんだか暖かかったね。」
「良かった……。本当に良かったね……」
元気そうな2人の子供を見てクロ―ゼは安心した。
「そう言えば遊撃士のお二人はどうしてこちらに?私が目的でないとするとテレサさん達のお見舞いですか?」
「いえ、調査に来たついでにお見舞いに寄らせて頂きました。」
ティアの疑問にヨシュアは丁寧に答えた。
「調査に来たって……。あの火事を調べに来たんだろ?なにか分かったこと、あんの?」
「えっと……」
「何と言ったらいいのか……」
クラムの言葉にエステル達はそれぞれお互いの目を合わせて困っていた。
「ねえ、みんな。お腹は空いてないかしら?私、朝ゴハンを食べてなくて食堂で何か頼もうと思うの。ついでだから、みんなにも甘いものをご馳走してあげる。」
「え、ほんとぉ!?」
「ポーリィ、プリン食べたーい!」
エステル達の空気を読んだクロ―ゼは子供たちの関心を別に向けるために提案をし、ダニエルやポーリィはクロ―ゼの提案に喜んだ。
「で、でも姉ちゃん……」
「……………………。行きましょ、クラム。」
「え……」
「つべこべ言わずにさっさと来なさいってば。クローゼお姉ちゃん、はやく下に行きましょ。」
「ふふ、そうね。」
クラムは納得がいかない様子だったが空気を読んだマリィに引っ張られてクロ―ゼや起きている子供達といっしょに部屋を出た。

「ティアお姉様、積もる話もあるでしょうし私達も下に行きませんか?」
「うむ。余もティア殿とは話したい気分だったしな。」
「………わかりました。」
「エヴリーヌ、余達も部屋を出るぞ。下で何か頼むといい。」
「本当?じゃあ、下に行こう。」
同じように空気を読んだプリネやリフィアはティアやエヴリーヌと共に部屋を出た。
「ふう、助かっちゃった。あの子たちやイーリュンの信徒のティアさんにはあんまり聞かせたくなかったから……」
「そうだね。プリネ達やあのマリィって子は察してくれたみたいだけど……」
火事について聞かせたくない子供たちやティアが部屋を出た事にエステルは安堵の溜息をはき、ヨシュアも頷いた。
「ふふ、良い子に恵まれて私は本当に幸せ者です……。それで、調査に来たとおっしゃっていましたね。どうぞ、何なりと聞いてください。」
「ご協力、感謝します。」
「えっと、それじゃあ……」
そしてエステル達はテレサに調査の結果を伝え、テレサからは状況を聞き始めた………





後書き リウイとティナの娘であり、オリジナルキャラ、ティアの登場です。ティアの容姿はティナの瞳が赤くなっただけでほかは全て幻燐2のティナ似だと思ってもらっていいです。ちなみに使える魔術は『魔術・治癒』のSランクまでの術と『魔術・再生』の全部の術です♪………感想お待ちしております。



[25124] 第65話
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/07/30 16:59
テレサから状況を聞いたエステル達は愉快犯の可能性を考え、見知らぬ人物を孤児院の周辺で見なかったと聞くと、火事が起こり逃げられなくなった際、銀髪の青年がテレサ達を助けてくれただけで、テレサ達を助けた青年は関係ないと思い、続きを話そうとした所ヨシュアの様子がおかしかった。ヨシュアの様子に不思議に思ったエステルはヨシュアに尋ねたがヨシュアは誤魔化した。そこにクロ―ゼが部屋に入って来た。

~白の木蓮亭・宿屋の一室~

「……失礼します。」
「あれ、クローゼさん?」
「あの子たちはどうしたの?」
下にいるはずのクロ―ゼにエステルとヨシュアは首を傾げた。
「ふふ……。下でケーキを食べています。それとティア様達が子供達の相手をして下さってます。あの、先生。お客様がいらっしゃいました」
「お客様?」
クロ―ゼの言葉にテレサは不思議そうな表情をした。
「お邪魔するよ。」
「あ……!」
「ダルモア市長……」
そこにルーアンの市長ダルモアと秘書のギルバートが部屋に入って来た。
「おや、昨日会った遊撃士諸君も一緒だったか。さすがはジャン君、手回しが早くて結構なことだ。さて……」
エステル達に気付いたダルモアは一人で感心した後、テレサの正面に来た。
「お久しぶりだ、テレサ院長。先ほど、報せを聞いて慌てて飛んできた所なのだよ。だが、ご無事で本当に良かった。」
「ありがとうございます、市長。お忙しい中を、わざわざ訪ねてくださって恐縮です。」
「いや、これも地方を統括する市長の勤めというものだからね。それよりも、誰だか知らんが許しがたい所業もあったものだ。ジョセフのやつが愛していた建物が、あんなにも無残に……。心中、お察し申し上げる。」
「いえ……。子供たちが助かったのであればあの人も許してくれると思います。遺品が燃えてしまったのが唯一の心残りですけれど……」
ダルモアの言葉に答えたテレサは残念そうに視線を下に落とした。

「テレサ先生……」
クロ―ゼはテレサの様子に何も言えなかった。
「遊撃士諸君。犯人の目処はつきそうかね?」
「調査を始めたばかりですから確かな事は言えませんが……。ひょっとしたら愉快犯の可能性もあります。」
ダルモアはエステル達に調査の状況を聞いたがヨシュアは芳しくない状況である事を話した。
「そうか……。何とも嘆かわしいことだな。この美しいルーアンの地にそんな心の醜い者がいるとは。」
「市長、失礼ですが……」
無念そうに語るダルモアにギルバートが話しかけた。
「ん、なんだね?」
「今回の件、もしかして彼らの仕業ではありませんか?」
「………………………………」
「ま、待って!『彼ら』って誰のこと?」
ギルバートの言葉にダルモアは黙ったがエステルは反応して訪ねた。
「君たちも昨日絡まれただろう。ルーアンの倉庫区画にたむろしているチンピラどもさ。」
「あいつらが……」
「………………………………」
「失礼ですが……。どうして彼らが怪しいと?」
ロッコ達の事を思い出したエステルは厳しい表情をし、クロ―ゼは沈黙し、ヨシュアは冷静に尋ねた。

「昨日もそうだったが……。奴ら、いつも市長に楯突いて面倒ばかり起こしているんだ。市長に迷惑をかけることを楽しんでいるフシもある。だから市長が懇意にしているこちらの院長先生に……」
「ギルバード君!」
「は、はい!」
「憶測で、滅多なことを口にするのは止めたまえ。これは重大な犯罪だ。冤罪が許されるものではない。」
「も、申し訳ありません。考えが足りませんでした……」
調査を混乱しかねない情報を言うギルバートにダルモアは声を荒げた後、一喝した。
「余計なことを言わずともこちらの遊撃士諸君が犯人を見つけてくれるだろう。期待してもいいだろうね?」
「うん、まかせて!」
「全力を尽くさせてもらいます。」
「うむ、頼もしい返事だ。」
エステルとヨシュアの返事に満足げに頷いたダルモアはテレサに尋ねた。
「ところでテレサ院長……。1つ伺いたいことがあるのだが。」
「なんでしょうか?」
「孤児院がああなってしまってこれからどうするおつもりかな?再建するにしても時間がかかるし、何よりもミラがかかるだろう。」
「………………………………。正直、困り果てています。当座の蓄えはありますが、建て直す費用などとても……」
「院長先生……」
「………………………………」
悲痛そうに語るテレサをエステル達はただ見ているだけしかできなかった。

「やはりそうか……。どうだろう。私に1つ提案があるのだが。」
「……なんでしょう?」
「実は、王都グランセルにわがダルモア家の別邸があってね。たまに利用するだけで普段は空き家も同然なのだが……。しばらくの間、子供たちとそこで暮らしてはどうだろう?」
「え……」
「もちろん、ミラを取るなど無粋なことを言うつもりはない。再建の目処がつくまで幾らでも滞在してくれて構わない。」
「で、ですがそこまで迷惑をおかけするわけには……」
テレサはダルモアの申し出に戸惑った後断ろうとした。
「どうせ使っていない家だ。気がとがめるのであれば……。うん、屋敷の管理をして頂こう。もちろん謝礼もお出しする。」
「あの………僕からも提案があります。」
「ほう?一体それはなんだね?」
ギルバートの言葉に首を傾げたダルモアは続きを促した。
「その前にお聞きしたいのですが……こちらに来る際、下で子供たちと談笑しているイーリュンのシスターを見たんですが……もしかして院長がお呼びになったのですか?」
「はい。子供達の傷が深かったので宿屋の主人にお願いして呼んでもらったのです。」
「そうですか。……僕の提案なんですが下にいるイーリュンの方に頼ってみてはいかがでしょう?」
「ほう、何故だね?」
ギルバートの提案にダルモアは不思議に思い続きを促した。

「人から話伝手で聞いた事なんですが……イーリュン教はメンフィル帝国からの援助を受けてさまざまな街で孤児院を経営していると聞きます。ですから再建の目処が建つまでそちらでお世話になったらいかがですか?孤児院には護衛として精強なメンフィル軍の兵士が門番として守っていると聞きますし、孤児院の周辺もメンフィル帝国兵がよく巡回している上子供達の教育もしていて、成長した子供達の希望があれば仕事を紹介してくれ、またその仕事に合った勉強を子供の頃から教育してくれると聞きます。防犯や子供達の未来を考えたらこれほど環境が整っている孤児院はほかにはないと思いますよ?」
「ふむ……先ほどさまざまな街にあると言ったがリベールにもあるのかね?」
「はい。メンフィル大使館があるロレント市にもあります。特にあそこはあの”闇の聖女”もたまに顔を出して子供達のお世話をしてくれるそうですよ。それになんたってあのメンフィル大使――リウイ・マーシルン皇帝陛下がいる街ですから、いざという時は10年前の”百日戦役”のようにメンフィル軍が守ってくれると思います。」
「そうか……そう言えば遊撃士の諸君はロレントから来たと言っていたね。実際どうなのだい?」
ギルバートの言葉に頷いたダルモアはエステルやヨシュアに尋ねた。
「え~と……そうね、秘書さんの言っている事は大体合っているわよ。日曜学校に通っていた時イーリュンの孤児院に住んでいる知り合いとかに聞いたけど、孤児院に務めている人達はみんな優しくて食事も美味しいし、将来に向けての勉強もさせてくれて楽しいって言ってたわ。もちろん遊ぶ時間も一杯あるそうよ。王国軍の兵士になりたいって言ってた男の子も毎週決まった日にメンフィル軍の兵士に稽古をつけてもらえてるって嬉しそうに話していたわ。……今考えるとメンフィルって太っ腹よね。他国の軍の兵士になりたいって言ってる子供の面倒を見てくれるんだから。」
「それとロレント市内をメンフィル軍の兵士や闇夜の眷属の人達が見回りなのかよくロレントで見かけました。……普通同盟国とはいえ他国の軍の兵士がいれば街は緊張状態になるのですが、誰も気にせずむしろ街の警備もしてくれますからありがたがってました。また孤児院に務めている人達はイーリュンの信徒だけでなく子供を病気や事故等でなくした母親なども務めています。」
「おお、そうか。テレサ院長、そちらもいいと思うがどうかね?」
エステルとヨシュアの説明を聞いたダルモアは感心した声を出した後、テレサに提案した。
「市長……。………………………………。少し考えさせて頂けませんか?どちらもありがたい申し出ですけれど、いろいろな事が起こりすぎて少し混乱してしまって……」
「無理もない……。ゆっくりお休みになるといい。今日のところはこれで失礼する。その気になったらいつでも連絡して欲しい。イーリュンの孤児院の件に関してもロレント市長とは知り合いだから、彼に君達が孤児院に受け入れてもらえるようにイーリュンの方達に口添えしてもらうように言っておこう。」
「はい……。どうもありがとうございます」
「ギルバード君、行くぞ。」
「はい!」
テレサの感謝の言葉を聞いたダルモアはギルバートを伴って部屋を出た。

「は~、驚いちゃった。メイベル市長もそうだったけどめちゃめちゃ太っ腹なヒトよね。」
「そうだね……。元貴族っていうのも頷けるな。」
ダルモア達が出ていった後、エステルとヨシュアはダルモアの申し出に感心していた。その一方でクロ―ゼが不安げな表情でテレサに尋ねた。
「先生、市長さんの申し出やギルバートさんの提案、どうなさるおつもりですか?」
「そうですね……。あなたはどう思いますか?」
「………………………………常識で考えるのなら受けたほうがいいと思います。特にイーリュンの孤児院はあのメンフィル帝国が援助しているのですから、生活の心配はないと思います。……だけど……。一度王都やロレントに行ってしまったら……。いえ……。なんでもありません。」
テレサに尋ねられたクロ―ゼは辛そうな表情をしながら答えた。
「ふふ、あなたは昔から聞き分けがいい子でしたからね。いいのよ、クローゼ。正直に言ってちょうだい。」
「………………………………。あのハーブ畑だって世話する人がいなくなるし……。それに……それに……。先生とジョセフおじさんに可愛がってもらった思い出が無くなってしまう気がして……。ごめんなさい……。愚にも付かないわがままです。」
「ふふ、私も同じ気持ちです。あそこは、子供たちとあの人の思い出が詰まった場所。でも、思い出よりも今を生きることの方が大切なのは言うまでもありません。」
「はい……」
辛そうにしているクロ―ゼにテレサは諭した。
「近いうちに結論を出そうと思います。あなたは、どうか学園祭の準備に集中してくださいね。ミントやツーヤ、そしてあの子たちも楽しみにしていますから。」
「…………はい。」
テレサの言葉にクロ―ゼは先ほどの辛そうな表情はなくし、力強く頷いた。
「エステルさん、ヨシュアさん申しわけありませんが……。調査の方、よろしくお願いします。」
「お任せください。」
「絶対に犯人を捕まえて償いをさせてやりますから!」
テレサの言葉に2人は力強く頷いた。

その後エステルとヨシュアは調査をどうするか考え、一端ギルドに戻ってジャンやプリネ達と相談して捜査方針を決めようとしたところ、エステルやダルモア達の会話を盗み聞きしたクラムが村を飛び出して『レイヴン』がいる倉庫に向かったらしいという情報をマリィから聞き、急いで追いつくため、リフィア達に子供達の世話やティアにもう少しだけ残ってもらえるように頼んだ後、クロ―ゼと共に急いでルーアンに向かった…………




後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第66話
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/07/31 19:06
ルーアンに向かいながらクラムに追いつこうとしたエステル達だったが、姿を見る事もできずルーアンに到着した。ルーアンに到着し、ようやくクラムの姿を見たエステル達だったが運悪くラングランド大橋が跳ね上がる直前にクラムは南街区に向かい、クロ―ゼは呼びかけたがあまりにも距離があったため制止の声はクラムには聞こえなかった。困り果てているクロ―ゼにエステルは街を案内してもらった時、ホテルの裏手に貸しボートがあったのを思い出し、ボートを管理している老人に頼みこみ、運良くボートを使う事に許可をもらい急いで『レイヴン』がアジト代わりにしている倉庫区画に向かい、ボートを止めた後倉庫に向かった。

~ルーアン市内・倉庫区画最奥~

「……とぼけるなよ!お前たちがやったんだろ!?ぜったいに許さないからなっ!」
「なに言ってんだ、このガキは?」
「コラ、ここはお前みたいなお子ちゃまが来るとこじゃねえぞ。とっとと家に帰って母ちゃんのオッパイでも飲んでな。」
「ひゃはは、そいつはいいや!」
クラムはロッコ達を怒鳴ったが、ロッコは首を傾げ、ディンはクラムの怒りを流して馬鹿にし、レイスはディンの言葉に同意して下品に笑った。
「ううううう……。わああああああああああっ!」
「な、なんだ……?」
「このガキ……なにブチギレてんだぁ?」
相手にされないことに怒って叫んだクラムはロッコ達に飛び掛かって体をぶつけた。ロッコ達はクラムのいきなりの行動に戸惑い何もしなかった。
「母ちゃんが居ないからってバカにすんなよっ!オイラには先生っていう母ちゃんがいるんだからなっ!その先生の大切な家をよくも、よくも、よくもおっ!」
「ちっ……」
「あうっ……」
ロッコは面倒くさそうな表情でクラムを突き飛ばした。突き飛ばされたクラムは悲鳴をあげた。
「黙って聞いてりゃあいい気になりやがって……」
そこにディンが近付き、クラムの首を持ち上げた。

「黙って聞いてりゃあいい気になりやがって……」
「どうやら、ちっとばかりオシオキが必要みてえだなぁ。」
「お尻百たたきといきますか?ひゃーっはっはっは!」
「やめてください!」
「お、お前たちは……」
クラムに暴力を振るおうとしたロッコ達だったが、クロ―ゼを先頭に乱入してきたエステル達に気付いて素早く短剣を構えた。クラムを持ち上げていたディンもクラムを後ろに投げ飛ばし短剣を構えた。
「けほけほ……。クローゼ……姉ちゃん?」
「子供相手に、遊び半分で暴力を振るうなんて……。最低です……。恥ずかしくないんですか。」
クラムは咳込みながらクロ―ゼを見、クロ―ゼは哀れそうにロッコ達を見て言った。
「な、なんだとー!」
「ようよう、お嬢ちゃん。ちょっとばかり可愛いからって舐めた口、利きすぎじゃないの?」
「いくら遊撃士がいた所で、この人数相手に勝てると思うか?」
クロ―ゼの言葉にディンは怒りの声をあげ、お気楽なレイスも怒り気味な声を出し、ロッコは余裕の笑みを浮かべた。

「クローゼさん、下がってて!」
「僕たちが時間を稼ぐよ。その隙にあの子を助けて……」
エステルとヨシュアはクロ―ゼに警告した。しかしクロ―ゼは首を横に振って答えた。
「……いいえ。私も戦わせてください。」
「へ……」
「本当は使いたくありませんでしたけど……。剣は、人を守るために振るうように教わりました。」
クロ―ゼはスカートにベルトを撒いて止めていた鞘からレイピアを抜き、構えた。
「今が、その時だと思います。」
「ええっ!?」
「護身用の細剣(レイピア)?」
クロ―ゼの行動にエステルとヨシュアは驚いた。
「その子を放してください。さもなくば……実力行使させていただきます!」
「か、かっこいい……」
「……可憐だ……」
レイピアを構えたクロ―ゼの姿にレイヴンの下っ端達は見惚れた。
「可憐だ、じゃねえだろ!」
「こんなアマっ子にまで舐められてたまるかってんだ!」
「俺たち『レイヴン』の恐ろしさを思い知らせてやるぞ!」
見惚れている下っ端達にディンは渇をいれ、レイスは怒り、ロッコは下っ端達に命令した。
「「「ウイーッス!」」」
下っ端達はロッコの命令に呼応し、エステル達に襲いかかった!

「相手は6人か……こっちの数もちょっと増やしたほうがいいわね。はぁぁぁぁ!旋風輪!」
「「「ギャッ!?」」」
「うわ!?」
襲いかかった下っ端達とレイスをエステルはクラフトを使って吹き飛ばした。ロッコはヨシュアが相手をし、ディンはクロ―ゼがレイピアで応戦していた。
「………来て!テトリ!!」
そしてエステルは味方の数を増やすためと後方の援護を任せられるテトリを召喚した。
「あなたの力を貸して、テトリ!」
「はい!」
召喚されたテトリは足元の木の根から弓を形造り、魔力の矢を片手で形成して弦に矢を通して構えた。
「「「な!?」」」
「な……一体なんだってんだ!?……って今はそれどころじゃねぇ!お前等、何を呆けて嫌がる!増えたとは言え、相手はアマだ!一気にたたみかけるぞ!」
「「「ウイーッス!」」」
「元、神殺しの使い魔を舐めないで下さい!やぁっ!!」
「「「「うわっ!?」」」」
テトリは牽制代わりにレイスや下っ端達の真横をクラフト――2連射撃を放ってレイス達を驚かせ、動きを止めた。
「………大地よ、怒れ!地響き!!」
「「「ぐわっ!?」」」
「いてっ!?」
続けて撃った手加減した魔術は地面から衝撃波が起きて、レイス達にダメージを与えた。
「………吹き飛びなさい!黒の衝撃!!」
「「「「ぐはっ!?」」」」
テトリに続くように放ったエステルの魔術に当たったレイス達は、吹き飛んで壁にぶつかり立ち上がらなくなった。
「おらっ!」
「甘い!朧!!」
「ぐっ!?」
ヨシュアはロッコの攻撃を回避し、一瞬でロッコの背後に移動して背中を攻撃して止めにSクラフトを放った。
「いくよ!ふん!はっ……はっ………せぃやっ!」
「く……そ……」
Sクラフト――断骨剣を全て受けてしまったロッコは跪き、立ち上がらなくなった。
「せいっ!」
「おわっ!?」
クロ―ゼのレイピアによる鋭い突きの攻撃にディンは驚き、のけ反った。
「チッ。やってくれるじゃえか。お返しだ!」
ディンは反撃に短剣をクロ―ゼに突き出したが、クロ―ゼは華麗に回避してさらに攻撃を加えた。
「えぃ!やぁ!やぁ!」
「ぐ……マジ……かよ……」
続けるように放った華麗な連続攻撃をするクラフト――シュトゥルムを回避できず受けてしまったディンは信じられない表情で跪き、立ち上がらなくなった。

「こ、こいつら化け物か……?」
「遊撃士どもはともかく、こっちの娘もタダ者じゃねえ……」
「それになんだよ、そのアマは!?いきなり現れた事といい、そいつ人間じゃねえな!?」
戦闘が終了し、膝をついたロッコやディンはエステル達の強さに驚き、レイスはテトリを見て叫んだ。
「いや、まあ……実際私は人間ではなくてユイチリですし……」
レイスの叫びにテトリは苦笑しながら答えた。
「ありがとう、テトリ。一端戻って。」
「はい。また何かあったら呼んで下さいね。」
そしてテトリはエステルの呼びかけに応じてエステルの身体に戻った。
「す、すごいや姉ちゃん!」
「確かにクロ―ゼさん、凄かったわね。プリネとはまた違ったレイピアの使い方をしているけどクロ―ゼさんも凄いわね♪」
「その剣、名のある人に習ったものみたいだね。」
「いえ、まだまだ未熟です。それに同じ細剣使いならプリネさんの方が上手いですよ。」
クラムやエステルはクロ―ゼの強さをはやしたて、ヨシュアも感心し、クロ―ゼは照れて答えた。
「あの、これ以上の戦いは無意味だと思います。お願いします……。どうかその子を放してください。」
「こ、このアマ……」
「こ、ここまでコケにされてはいそうですかって渡せるかっ!」
クロ―ゼの言葉に逆上したロッコとディンは叫んだ。その時

「……そこまでにしとけや。」
エステル達の背後から聞き覚えのある声がした。
「だ、誰だ!?」
「新手か!?」
エステル達以外の声に驚いたロッコ達は再び身構えた。そして声の主がエステル達とロッコ達の前に姿を現した。
「やれやれ、久々に来てみりゃ俺の声も忘れているとはな……」
「ア、アガットの兄貴!」
「き、来てたんスか……」
「………………………………」
声の主――アガットにディンやレイスは驚いた。驚いているロッコ達にアガットは無言で近付いた。
「ど、どうしてあんたが……。ていうか、こいつらの知り合いなの!?」
「……レイス…………」
エステルの疑問には答えずアガットは静かな口調でレイスを呼んだ。
「は、はい、なんでしょう?」
レイスはアガットの雰囲気に恐れながら答えた。するとアガットはレイスの腹に強烈な拳による一撃を叩きこんだ!」
「ふぎゃっ!」
「お前ら……。何やってんだ?女に絡むは、ガキを殴るは……。ちょっとタルみすぎじゃねえか?」
腹を抱えてうずくまるレイスを無視して、アガットはロッコ達を一瞥して言った。
「う、うるせえな!チームを抜けたアンタにいまさら指図されたく……」
「フン!」
「ぐぎゃっ!?」
アガットに反抗したロッコだったが、アガットは有無も言わさずロッコを殴った。殴られたロッコは悲鳴をあげて壁にぶつかり気絶した。

「……何か言ったか?」
ロッコを殴ったアガットは何もなかったのように言った。
「あ、兄貴、勘弁してくれ!ガキならほら、解放するからよ!」
自分もレイスやロッコのようになりたくないと思ったディンはクラムを解放した。
「クローゼ姉ちゃん!」
「よかった……。もう大丈夫だからね……」
解放されたクラムはクロ―ゼに駆け寄り、クロ―ゼはクラムを抱きとめて安心した。
「フン、最初からそうしときゃいいんだよ。」
「まったく乱暴なんだから……。第一、どうしてあんたがタイミングよく現れるわけ?」
「ジャンのやつに聞いただけだ。どこぞのヒヨッコどもが放火事件を捜査してるってな。さてと……」
エステルの疑問に答えたアガットはクラムの方に向いた。
「おい、坊主」
「な、なんだよ……?」
「1人で乗り込んで来るとはなかなか気合の入ったガキだ。だが少々、無茶しすぎたようだな。あんまり、おっ母さんに迷惑をかけるんじゃねえぞ。」
アガットは入口の方を見て、クラムに言った。アガットにつられたクラムは入口にいた人物を見て驚いた。
「え……」
「クラム……」
「せ、先生!?」
「どうしてここが…………」
入口にはテレサがいて、マノリア村にいるはずのテレサにクロ―ゼは驚いた。

「ギルドで事情を伺ってそちらの方に案内していただきました。クラム、あなたという子は……」
「こ、今度だけはオイラ、あやまんないからな!火をつけた犯人をゼッタイにオイラの手で……」
「クラム!」
強がったクラムだったがテレサの怒鳴りに飛び上がって黙った。
「テレサ先生……。どうか叱らないであげて下さい。」
「いいえ。叱っているのではありませんよ。ねえ、クラム……。あなたの気持ちはよく判ります。みんなで一緒に暮らしたかけがえのない家でしたものね。でもね……。あなたが犯人に仕返ししたとしても燃えてしまった家は戻らないわ。」
クロ―ゼのクラムを庇う言葉に首を横に振ったテレサはクラムを優しく諭した。
「あ……」
「あなたたちさえ無事なら先生は、もうそれだけでいいの。他には何も望まないから……。お願いだから……危ない事はしないでちょうだい。」
「せ、先生……。……ううううううう……。うわああーーーーん!」
クラムはテレサに抱きついて泣いた。
「グス……。こういうのには弱いかも……」
「はい……。本当に、無事でよかった……」
クラムとテレサのやり取りにエステルは感動して目を拭い呟き、クロ―ゼも同意した。

「ったく……。これだから女子供ってやつは。おい、小僧。院長先生たちを連れてさっさとここを引き上げろや。どうもこういうのは苦手でな。」
「構いませんけど……。アガットさんはどうするんですか?」
アガットの言葉に頷いたヨシュアは聞き返した。
「決まってんだろ……このバカどもが犯人かどうか締め上げて確かめてやるんだよ!たっぷりと急を据えてからな!」
「ひえええええっ。か、勘弁してくださいよ~!」
ヨシュアの疑問に答えたアガットはディンに近付き睨んで答え、ディンはアガットの睨みと言葉に顔を青褪めさせ震えあがった。
「なるほど……。そういう事ならお邪魔したら悪そうですね。」
そしてエステル達はロッコ達の事はアガットに任せ、ヨシュアはボートを返しに行き、エステルとクロ―ゼはテレサとクラムをマノリア村まで送った……



後書き 次回、いよいよエステルが別作品の主役と対面です。……感想お待ちしております。



[25124] 第67話
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/01 06:36
~マノリア村宿酒場・白の木蓮亭~

「あ、クラム!」
「「先生!」」
宿屋の部屋に姿を現したクラムとテレサにティアやプリネ達と談笑していたマリィ達はクラムやテレサに駆け寄った。
「クラム!こんな状況でなんで、先生を困らせているのよ!」
「……ぐ……」
マリィの言葉にクラムは言葉が詰まった。
「いつもいつもツーヤお姉ちゃんといっしょに言ってるじゃない!もっと大人しくしなさいって……大体、あんたは……」
「そこまでにしておきなさい、マリィ。」
さらにたたみかけるように口を開いたマリィをテレサは諭した。
「先生……でも……」
「今回の件はクラムも反省しています。だから許してあげてくれないかしら?」
「………はーい。」
テレサの言葉にマリィはまだ納得のいかない表情で答えた。そしてツーヤといっしょにプリネ達と会話していたミントはエステルに気付いた。
「……ママ!」
「へ!?」
ミントはエステルを見ると嬉しそうな表情でエステルに駆け寄り、抱きついた。抱きついたミントをエステルは受け止めて驚いた。
「ようやく会えたね、ママ!ミント、いつかママがミントを迎えに来てくれると信じてたよ!」
「………え~っと、ミントちゃんだっけ。一つ聞いていいかな?」
「何?」
「そのママっていうのは一体どういう事かな?」
「?ママはママだよ?」
エステルの言葉にミントは可愛らしく首を傾げて答えた。

「でもあたしとミントちゃんは初対面だよね。ミントちゃんはどうして、あたしをママだと思ったのかな?」
「それはママから、ママの優しい香りがするからだよ!」
「いや、全くわかんないですけど……」
ミントの説明にエステルは苦笑した後、どうするべきか迷った。そこにプリネが話しかけた。
「エステルさん、ちょっといいですか?」
「あ、プリネ。どうしたの?」
「ミントさんがエステルさんの事をお母さんと呼んでいる件ですが……」
「え、何かわかったの?」
プリネの言葉にエステルは以外そうな表情で聞き返した。
「はい。……ツーヤちゃん。」
「……はい、ご主人様。」
プリネに呼ばれたツーヤは静かにエステルの前に来た。
「え~っと……あなたは確かツーヤちゃんだっけ?」
「はい、私とミントちゃんは初めて出会ってから10年間ずっといっしょにいる親友です。」
「そっか。それでミントちゃんがあたしをママって呼ぶ事なんだけど……」
「その事も含めて、先生やクロ―ゼさんやみんなに私とミントちゃんの事を話します。」
「ツーヤちゃん?もしかして記憶が戻ったんですか!?」
ツーヤの言葉にクロ―ゼは驚いて尋ねた。

「………いえ。ただ、私とミントちゃんの正体は何なのかを思い出せました。」
「2人の正体……?あなた達は”闇夜の眷属”ではなかったのですか……?」
「……ごめんなさい先生……いつかご主人様が現れるまでは黙っておこうと思ったんです。」
テレサの質問にツーヤは気不味そうな表情で答えた。
「ご主人様?ツーヤ、あなたはもしかして誰かに仕えていたのですか?」
「いいえ。……私達の正体ですが……私とミントちゃんはドラゴンです。」
「ド、ドラゴン!?ミントちゃんとツーヤちゃんが!?……全然そうには見えないんですけど……」
ツーヤの言葉にエステルはミントとツーヤの容姿を見てヴァレリア湖で会った水竜の事を思い出しながら、驚いた。
「事実です。……最も私やミントちゃんは今まで”パートナー”がいませんでしたから成長もせず、竜化もできなかったんです。」
「”パートナー”って?」
「私達ドラゴンには生まれつき、共に生きるべき存在がいます。それが”パートナー”です。ドラゴンにとって”パートナー”の存在は不可欠で、”パートナー”がいないと魔力の供給もできない上満足に戦えないんです。誰が”パートナー”かは私達が直感的に感じられるのです。
いつもミントちゃんは私に自分にとっての”パートナー”とは何か嬉しそうに話してくれたんですが……”パートナー”とは自分と最も親しい存在……つまりミントちゃんにとっては親だったのです。」
「………そうだったんだ……あれ、そう言えばツーヤちゃんはプリネの事を”ご主人様”って言ってたよね?それって……」
ツーヤの説明に驚きつつ納得したエステルは先ほどのツーヤがプリネに対してどう言ってたかを思い出して尋ねた。
「はい、こちらの方が私にとっての”パートナー”……つまりご主人様です。」
「……私も最初、ツーヤちゃんの説明を聞いて驚きました。まさか、このような”竜”がいるとは思いませんでした。」
「うむ、世界は広いな。余もプリネのように自分の竜を見つけたいものだ!」
「エヴリーヌは友達でカファルーがいるから別にいいけどね。」
プリネの言葉にリフィアは頷き、エヴリーヌは興味なさげに言った。

「…………それで2人とも。”パートナー”を見つけたあなた達はこれからどうするのですか?」
テレサは静かにミントとツーヤに尋ねた。
「そんなのもちろん、ママといっしょにいるに決まっているよ!今まで甘えられなかった分、い~っぱい、甘えていいよね?ママ!」
「え!?え~っと………」
「私もミントちゃんと同じ答えです、先生。ようやくご主人様に会えたのですから、もちろんご主人様と共に生きていきます。……今までこの日をどんなに待ち侘びたことか………」
「ツーヤちゃん………」
ミントとツーヤの言葉にエステルは戸惑い、プリネはどうするべきか迷っていた。
「何を迷っている、プリネ。ツーヤはお前を慕い、共にいたいと言っているのだから受け入れてやればいいではないか。」
「お姉様。ですが………」
「……リフィアさん、あなたの言う事は最もですがもう少し周りを見てから言ったらどうですか?」
「む………?」
ティアに言われたリフィアは周りを見ると、ミントとツーヤを孤児院に住む子供達やクロ―ゼが不安げに見ていた。
「ミント姉ちゃんにツーヤ姉ちゃん……どっか行っちゃうの……?」
「……………………」
「クラム。…………」
「マリィ。………みんな。」
「「………グス………お姉ちゃん達、どっか行っちゃやだよ………」」
クラムは今にも泣きそうな表情でミントやツーヤを見て、マリィは何も言わず悲しげに黙って2人を見て、ポーリィやダニエルは泣きべそをかきはじめた。子供達の表情に明るかったミントもツーヤと同じように気不味そうな表情をした。

「……………すまなかった。テレサ殿達の気持も考えず余はなんという自分勝手な事を……」
「……いえ、いいのです。リフィアさんと仰いましたね?私もあなたと同じ考えですから気にしないで下さい。」
「先生!?どうしてそんなことを……!」
テレサの言葉にクロ―ゼは信じられない表情になり、テレサに詰め寄った。
「……子はいずれ巣立つものです。2人はそれが少し早かっただけです。……いつかクラム達も巣立つ時が来ることはあなたも理解していますね?ミントとツーヤは今がその時だと私は思うのです。それにクロ―ゼ、あなたが小さい頃から知っているこの子達は
もう、エステルさん達やあなたと同じくらいの年である事はあなたもわかっているはずです。」
「………それは…………」
テレサの言葉にクロ―ゼは何も言えず黙った。
「エステルさん、プリネさん。」
「は、はい。」
「何でしょうか。」
テレサに呼ばれた2人は姿勢を正した。
「………2人のこれからの未来をあなた達に託してもよろしいでしょうか……?」
「そ、それは………」
「……………」
「ママ……」
「………ご主人様………」
テレサの問いにエステルやプリネは即答できず黙り、その様子を見たミントやツーヤは不安げな表情をした。
「…………あの、少しだけ考える時間を貰ってもよろしいでしょうか?答えは近い内、必ず出しますので。」
「……あたしもプリネといっしょで時間を貰ってもいいですか?遅くてもルーアンを発つまでには必ず答えは出します。」
「………わかりました。ミント、ツーヤ。あなた達もいいですね?」
「………はい。」
「……わかりました、先生。」

そしてエステル達はルーアンに戻るついでに戦えないティアをルーアンまで護衛しながら、ルーアンに向かった………




後書き 次回はティアとの会話が主体です。ティナファンは楽しみにして下さい。……感想お待ちしております。



[25124] 第68話
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/09 21:49
今回の話では前回側室の話をした時、なぜ”あのキャラ”の名前があがらなかった理由がわかります。



~メ―ヴェ海道~

「それにしてもまさかイーリュンの聖女様に会えるなんて、ビックリしたわ~。」
「あの……本当にその呼び名はやめて下さい……私はイーリュンの信徒として当然の事をしたまでです。」
海道を歩きながら呟いたエステルの言葉にティアは照れながら答えた。
「それにしてもイーリュンの信徒であるティア様がよくお一人でルーアンからマノリアに来れましたね?確か、イーリュンの教えは『どんな相手でも決して傷つけてはいけない。』があったと思うのですが……ですから、魔獣がいる海道をよくお一人で歩けましたね……」
「フフ……お父様から受け継いだ力のおかげで私、他の方より身体能力が高いのです。聖なる結界を身体に纏わせて魔獣達を寄せ付けなかった事もありますが、身体能力が高いお陰で人間の方達の数倍の速さで走れますから、そのお陰でもありますね。」
クローゼの言葉にティアは恥ずかしそうに微笑みながら答えた。
「ねえねえ、ティアさんは”闇の聖女様”とも親しいの?」
「ペテレーネ様ですか?……そうですね……私が物心ついた時にはもう、アーライナ教の本神殿に修行に行ってらしてましたから、初めて顔を合わせたのは6年前こちらの世界に来た時です。……ですが同じ治癒術師としてペテレーネ様と親しかった母からペテレーネ様の事はよく聞きましたから、
ある程度の事は知っています。」
「へえ~……闇の聖女様って昔、どんな人だったの?」
ティアの説明を聞き、興味が沸いたエステルはティアに尋ねた。
「今とそれほど変わらない方ですよ。ずっとお父様を慕い続ける一途な方で、困っている人や苦しんでいる人を見過ごせない優しい方ですよ。」
「ふえ~………」
ティアが話した昔のペテレーネの性格を知ったエステルは感心し、さらに憧れた。

「あの………さっきから気になったんですがティア様はメンフィル大使――リウイ皇帝陛下を自分の父親のように仰っているのですが、もしかしてティア様はメンフィル帝国の皇族の方なんでしょうか?”闇の聖女”――ペテレーネ様の伴侶の方は確か、リウイ皇帝陛下の筈でしたし………」
「ええ。私は当時、メンフィル国王だったお父様――リウイとイーリュンの神官であり側室の一人であったお母様――ティナの娘で、お父様達の子供の中では最初に生まれた子供になります。」
「え………という事は今のメンフィル皇帝、シルヴァン陛下の姉君という事になりますよね……?皇位継承権はティア様が1番なのではないですか?メンフィルは男性でないと皇帝になれないと言う訳ではありませんよね?確か、次のメンフィル皇帝はシルヴァン陛下のご息女と聞きますし……どうしてイーリュンの信徒として活動を……?」
ティアの言葉にクロ―ゼは驚いて尋ねた。
「確かに普通はそう思いますね。…………お母様は私には自由に生きてもらい、また私が国を背負うには余りにも重すぎると思ってお父様に嘆願して、皇位継承権からは外してもらったのです。そのお陰で私はこうしてイーリュンの信徒として活動できるのです。」
「その…………失礼を承知で聞きたいのですが、どうして皇女である事を捨てたんですか……?自由に生きれるという事は当然、皇女として国を支える事はできたのではないでしょうか……?」
「そうですね………広大なレスぺレント地方の覇権を握ったメンフィル皇女である事に重荷を感じていないと言われれば嘘になりますが、決して皇女として民を思う心を捨てた訳ではありません。………自分のできる事で国を、民を支えるために母から教わった治癒魔術を活用
できるイーリュンの信徒となったのです。……それに正直な話、私が皇帝になるのは役者不足すぎると思ったのです。それぞれの領の領主や領主の親族であったラピス様、リン様、セリエル様、リオーネ様……すでに領主がいて、後継も産まれていたミレティア領を混乱させないために公式上存在が隠されていたミレティア領前領主ティファーナ様の御子である腹違いの兄妹達や、今では伝説と化し、当時からも慕われていたシルフィア近衛騎士団長の血を引き、マーシルン家にとって長男のシルヴァンさんにファーミシルス大将軍と同等の活躍をなさったカーリアン様のご息女、カミ―リさん……みなさんのお母様は身分ある方や有名な方ばかりに対して、私のお母様は平民でただの神官の一人……そんな娘が皇帝になってしまったら、他国にも示しがつかない上せっかく平和になってしまった国が乱れるでしょう?………ですから私は皇位継承権を辞退し、せめて民達の支えとなれるためにイーリュンの信徒になったのです。」
ティアは昔を思い出すかのように遠い目をして語った。
「………………………その……………ティア様は腹違いの兄妹の方達との仲はどうだったんでしょうか………?」
「兄妹仲は凄くよかったですよ。みなさん、身分のない女の娘である私の事を一番上の姉としてとても慕ってくれましたし、他の側室の方達からも自分の子供と同じように凄く親身にしていただきました。それにシルヴァンさん達から直接頼まれて、シルヴァンさんとカミ―リさんの結婚式やラピス様の娘であるアリアさんとリン様の息子であるグラザさんの結婚式を仕切る司祭を務めました。ですから今でもみなさんとは仲がいいですよ。」
「そう……なんですか……それは素晴らしい事ですね……」
聞きづらそうな表情で尋ねたクロ―ゼの質問にティアは微笑みながら答えたので、クロ―ゼはティアを眩しい物を見るような目で見た。

「そういえば……メンフィルの貴族であるリフィア達から聞いたんだけど、ティアさんはお母さんの遺志をついでイーリュンの神官になったのって本当なの?」
エステルはクロ―ゼがいるため、さっきから何も言わず黙っているリフィア達をチラリと見た後尋ねた。
「ええ、民の支えとなるためにイーリュンの信徒になったのは私自身の考えで、本当の理由は悲しみに囚われたお父様を陰から支えていたため、イーリュンの神官として広々と活動できなかったお母様の思いを受け継いだ事が一番の理由になりますね。」
「ほえ~……あれ?ティアさんのお父さんって幸せじゃなかったの?一杯奥さんや子供がいて、王様なんだからそれ以上の幸せってないんじゃないのかな?」
ティアの言葉を聞いて感心したエステルはある事が疑問になり、尋ねた。
「…………………………………………」
「あれ?」
「ティア様?」
エステルの疑問には答えず、目を閉じ何も語らないティアにエステルやクロ―ゼは不思議に思った。
「………リフィアさん、プリネさん。エステルさんにはどこまで話したのですか?」
「………”あの方”の事を少しエステルに話した。」
「それとリウイ陛下と”あの方”の夫婦仲も話しましたね。」
静かに問いかけるティアにリフィアとプリネも静かに答えた。
「……そうですか。エステルさん、お父様と正妃様の事はリフィアさん達から聞きましたね?」
「あ、うん。なんか凄く夫婦仲はよかったって聞いたよ。後……その、正妃様が亡くなってティアさんのお父さんが凄く悲しんだって事も……」
確認するようなティアの言葉にエステルは言い辛そうに答えた。
「………そこまで知っているというのなら、お分かりと思うのですがお父様はまだ正妃様の事をずっと思い続けているのです。お母様は正妃様を亡くし、心に酷い傷を負ったお父様をほおっておけず、今まで精力的に色々な所でイーリュンの信徒としての活動をしていたのですが、正妃様が亡くなられてからは活動は王都内だけにして生涯お父様の傍にいて、傷ついたお父様の心をずっと支えていたんです。」
「その………ティア様のお母様はリウイ陛下の事は……」
「もちろん、一人の女としても愛していました。でなければいくら全ての傷ついた方を癒すイーリュンの信徒といえど、そこまではできません。」
「そう……なんだ。……いつか幸せになれるといいね、ティアさんのお父さん。」
「ええ……最も、その日はすぐそこに来ているかもしれませんが……」
「え?」
ティアの言葉にエステルは首を傾げた。
「……なんでもありません。今のは私の空言です。……それより私に何か聞きたいことがあるのではないですか?エステルさん達がクラム君を追いかける時、私を引き止めておいて欲しいとの事だったのですが、一体何が聞きたいのでしょうか?」

「あっと……すっかり聞くのを忘れていたわ。ティアさんを引き止めたのは聞きたい事でもあるけど、頼みたいにもなるかな。」
「なんでしょう?私で力になれるのならできる限り協力しますが。」
そしてエステルはティアに住む家を失くしたマーシア孤児院の人達をイーリュンが運営している孤児院にお世話になれないか聞いた。
「なるほど………私に頼みたい事というのはテレサさん達の今後の話だったのですね?」
「うん。ルーアンの市長さんはロレントの市長さんにロレントにあるイーリュンの孤児院の人達に口添えしてもらうよう頼むって言ってたけど、イーリュンの信徒のティアさんに直接頼んだほうがいいかな~って。」
「テレサさん達が望むのなら、私は別に構いませんよ。」
「あの………そんな簡単に決めても大丈夫なのでしょうか……?」
テレサ達が来るかもしれない事をあっさり許可したティアにクロ―ゼは驚いた後尋ねた。
「ええ。イーリュンは傷つき、困っている方ならどんな方にも慈悲を与えるのですから、家を失くし困っているテレサさん達も当然受け入れます。もし、ロレントの孤児院にお世話になりたいのでしたら、私が手配しておきます。……こう見えてもゼムリア大陸の各地にあるイーリュンの孤児院の総院長を務めさせていただいておりますから、全ての孤児院に新しく来る人達の事を受け入れるよう手配することは可能です。」
「ふえ~………」
「……………」
ティアの説明にエステルは呆けた声を出し、クロ―ゼは辛そうな表情をして黙っていた。

「そういえば気になったのだが、どうしてティア殿はルーアンに?高度な治癒魔術が使えるティア殿はさまざまな国を廻っているが、どうしてリベールに?リベールはこの世界では最も平和な国だが。」
「こちらに来たのは久しぶりに大使館に帰るために、船でこちらに来たからです。以前いた街には飛行艇が通ってなく、一日に数本しかない船でしか安全に他国に行く手段がなかったのです。」
「ティアお姉様はいつまでこちらに滞在するのですか?」
「ルーアン地方にあるジェニス王立学園が近く学園祭をすると聞きます。準備等で怪我をする方もいらっしゃるでしょうから、学園祭が終わるまではルーアンのイーリュン教会に滞在して活動するつもりです。ですからもし、学園祭の準備等で怪我をしたら私を呼んで下さい。その時は駆けつけて怪我を治療いたします。」
「心強い言葉、ありがとうございます。」
リフィアやプリネの疑問に答えたティアはクロ―ゼを見て言って、クロ―ゼは辛そうな表情を消して微笑みながら答えた。

そしてルーアンまでティアを護衛したエステル達はティアと別れ、ヨシュアと合流する場所であり、火事やクラムの件を報告するためにギルドに向かった………



後書き 今更思うのですが、ティナやイリーナってホント、心が広いですよね……自分を凌〇した相手を許し、逆に愛しているんですから。まあ、イリーナはそれとは別に幻燐1の頃から嫉妬深かったですが。それと側室でティファーナについてはこういう形で収まりました。ですので決して、リウイの側室ではないという訳ではありません。ティファーナが好きな方はこれで納得してくれれば幸いです。後、あの2人の子供の名前に突っ込まれると思うのですが、すいません……マジで名前が思い付けません………感想お待ちしております。



[25124] 第69話
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/03 11:19
今日はいつもと比べるとちょっと短いです。話の切り分けって難しい……



その後ルーアンのギルドに戻ってヨシュアと共に報告していたエステル達だったが、そこにアガットが帰って来てロッコ達は関係ない事を伝えると有無を言わさず孤児院の火事事件をエステル達から取り上げて、さっさと出て行った。そしてエステル達は納得のいかない表情でジャンに今までの調査結果を報告をした。

~遊撃士協会・ルーアン支部~

「うん、良く調べてくれたみたいだね。でも、さっき言った通り、今度の件には色々と事情があるんだ。申しわけないが、この報告で捜査は終了とさせてもらうよ。」
「で、でも……。院長先生とあの子たちのために何かしたいと思ってたのに……。……こんなのって……」
「エステル……」
「エステルさん……」
「「「………………」」」
冷静に言うジャンの言葉にエステルは落ち込んだ表情をし、エステルを見たヨシュア達はかける言葉はなかった。
「………………………………。あの、ジャンさん。遊撃士の方々というのは民間の行事にも協力して頂けるんですよね?」
そこにしばらく黙って考えていたクロ―ゼがジャンに話しかけた。
「ああ、内容にもよるけど。王立学園の学園祭なんか大勢のお客さんが来るらしいからうちが警備を担当してるしね。」
「でしたら……。エステルさん、ヨシュアさん。その延長で、私たちのお芝居を手伝って頂けないでしょうか?」
「え……?」
「それって、どういうこと?」
クロ―ゼの依頼にエステルとヨシュアは驚いた。

「毎年、学園祭の最後には講堂でお芝居があるんです。あの子たちも、とても楽しみにしてくれているんですけど……。とても重要な2つの役が今になっても決まらなくて……」
「も、もしかして……」
「その役を、僕たちが?」
「はい、このままだと今年の劇は中止になるかもしれません。楽しみにしてくれているあの子たちに申しわけなくて……。そこで昨夜、学園の生徒会長にお2人のことを話したんです。そしたら、すごく乗り気になって連れてくるように言われて……。あまり多くはありませんが、運営予算から謝礼も出るそうです。」
「ど、どうしてあたしたちなの?自慢じゃないけど、お芝居なんてやった事ないよ?」
クロ―ゼの説明に驚いたエステルは尋ねた。
「片方の、女の子が演じる役が武術に通じている必要があって……。エステルさんだったら上手くこなせると思うんです。」
「な、なるほど……。うーん、武術だったらけっこう自信はあるかも……でも、武術ができる女の子だったらプリネもそうだけど?」
「その事なんですけど……実はプリネさんにも手伝っていただきたいのです。」
「私が……ですか?」
エステルに説明したクロ―ゼはプリネを見て答え、プリネはクロ―ゼの言葉に驚いた。
「はい。実はお芝居の武術なんですがレイピアを使ったお芝居になるんです。ですから、レイピアを武器に使うプリネさんにご教授の方をぜひ、お願いしたいのです。」
「別に私はいいのですがレイピアでしたらクロ―ゼさんも使うのでは?お芝居の内容を知っているクロ―ゼさんが教えた方がいいと思うのですが……」
「私は護身程度にできるぐらいですから……ですから私とエステルさん、両方を見てもらいご教授をお願いしたいのです。」
「…………どうしましょう、リフィアお姉様。」
クロ―ゼの言葉にプリネは迷い、リフィアに聞いた。
「余はいいと思うぞ。それに同じ年頃の者達と協同して芝居を成功させる事はお前にとってもよい体験になるはずだ。ルーアン市内の事は余やエヴリーヌに任せてお前はエステル達と共に行くがよい。」
「ん。お姉ちゃんに任せて、プリネは楽しんできて。」
「お2人とも……ありがとうございます。フフ………学園生活には少しだけ憧れていたんですよね。まさかこんな形で体験する事になるとは思いませんでした。」
リフィアやエヴリーヌの言葉にプリネは感謝し、これから行くジェニス王立学園で待っている芝居の準備に期待した。

「確かにエステルにピッタリだし、レイピアの使い手として上手いプリネが教えたらさらに成功率はあがるね。それでもうひとつの役は?」
「そ、それは……。私の口から言うのは……」
ヨシュアの疑問にクロ―ゼは戸惑った。クロ―ゼの様子が気になり、ヨシュアは続きを促した。
「言うのは?」
「……恥ずかしい、です。」
「そ、それってどういう意味?」
「もー、ヨシュアってば。しつこく聞くと嫌われるわよ。お祭りにも参加できるし、あの子たちも喜んでくれる……。しかもお仕事としてなら一石三鳥ってやつじゃない!こりゃ、やるっきゃないよね♪」
クロ―ゼの答えに嫌な予感がしたヨシュアはさらに尋ねたがすっかり立ち直ったエステルに流された。
「ちょ、ちょっと待ってよ。ジャンさん、こういうのもアリなんですか?」
「もちろん、アリさ。民間への協力、地域への貢献、もろもろ含めて立派な仕事だよ。リフィア君やエヴリーヌ君もいるし、アガットが来たおかげでそれなりに余裕も出来たし……。よかったら行ってくるといい。」
慌ててジャンに尋ねたヨシュアだったが、ジャンは笑顔でクロ―ゼの依頼を肯定した。

「やったね♪」
「ふう……。何だかイヤな予感がするけど。あの子たちのためなら頑張らせてもらうしかないか。」
「フフ、今から楽しみです。」
ジャンの言葉にエステルは喜び、ヨシュアは溜息をついた後気持ちを切り替え、プリネは期待した。
「後の仕事は余やエヴリーヌが他の遊撃士を手伝って完遂しておこう。だからお前達は学園に向かうといい。」
「ん。」
「ありがとう、リフィア、エヴリーヌ。クロ―ゼさん、道案内よろしくね♪」
「はい。」
そしてエステル達はクロ―ゼが生活するジェニス王立学園に向かった……


後書き いよいよ次回からルーアン編のメインイベントである学園祭編です!プリネがいる事で劇の内容も少しだけ変えましたので楽しみにして下さい。……感想お待ちしております。



[25124] 第70話
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/04 11:39
いよいよルーアンのメインイベント、学園祭編スタートです!



その後ジェニス王立学園に着いたエステル達はまず学園長に挨拶するために、学園長室に向かった。

~ジェニス王立学園・学園長室~

「学園長。ただいま戻りました」
「クローゼ君、戻ったか。おや、そちらの君たちは……」
ジェニス王立学園長――コリンズはエステルやヨシュア、プリネに目をやった。
「初めまして、学園長さん。」
「遊撃士協会から来ました。」
「よろしくお願いします。」
「ほう、まだ若いのに遊撃士とは大したものだ。孤児院で火事があったそうだがもしや、その関係で来たのかね?」
「はい、実は……」
そしてクロ―ゼはコリンズに火事の事件を含め、エステル達が学園に来た経緯を説明した。
「そうか……。大変なことになったものだ。わしらも、何らかの形で力になれるといいのだが……。………………………………。まずは、学園祭を成功させて子供たちを元気づけること……。そこから始めるしかないだろうな。」
「はい……。そこで、お芝居についてはエステルさんとヨシュアさん、そしてプリネさんに協力していただこうと思いまして。」
「いい考えだと思うよ。エステル君、ヨシュア君、プリネ君。どうかよろしくお願いする。」
「あ、はい!」
「微力を尽くさせて頂きます。」
「私もできる限りの事はさせていただきます。」
コリンズの言葉にエステル達は姿勢を正して答えた。
「劇に関しては、生徒会長のジル君に全てを任せている。監督も担当しているから詳しい話を聞くといいだろう。わしの方からは……寮の手配をしておこうか。」
「「え……」」
「寮、ですか?」
コリンズの言葉にエステルとプリネは驚き、ヨシュアは驚きながら尋ねた。
「何と言っても学園祭までほとんど時間がない。おそらく毎日、夜遅くまで練習する必要があるだろう。そうなると、泊まる場所が必要になるのではないかな?」
「あ、なーるほど……」
「それは助かります。」
「ありがとうございます、学園長。」

キ―ン……コーン……カーン……コーン……

「ちょうど授業も終わりだな。さっそく、生徒会長に紹介してあげるといいだろう。」
学園のチャイムを聞いたコリンズはクロ―ゼに言った。
「はい。エステルさん、ヨシュアさん、プリネさん。次は生徒会室に案内しますね。」
「うん、それじゃ行きましょ。」
そしてエステル達は生徒会室に向かった。

~ジェニス王立学園・生徒会室~

「は~、忙しい、忙しい。各出店のチェックと予算の割り当てはOK……。招待状の発送も問題なしと。」
生徒会長のバッジをつけた眼鏡をかけた制服の少女――ジルは書類を見て呟いた。
「残る問題は、芝居だけか……。このまま見つからなかったら俺たちがやる羽目になるのかね。」
副会長のバッジをつけた制服の少年――ハンスは溜息をついた。
「私はともかく、あんたは問題外でしょうが。衣装合わせをした時のおぞましい恰好といったら……」
「言うなっての……。俺も思い出したくないんだから」
「ただいま。ジル、ハンス君。」
衣装合わせの事を思い出し身を震わせながら呟いたジルの言葉に同意して溜息をついている所にエステル達を連れたクロ―ゼが生徒会室に入って来た。
「あ、クローゼ!?火事の話、聞いたわよ。大変だったそうじゃない。」
「院長先生とチビたちは大丈夫だったのか?」
「ええ……。怪我をした子もいたけど運良くイーリュンの信徒の方がいらっしゃって傷を治してくれて一応、みんな無事でした。ただ、孤児院の建物が完全に焼け落ちてしまって……」
「そうか……」
「元気出しなさいよ。悩んでいたって仕方ないわ。チビちゃんたちが楽しめるように学園祭を成功させないとね。」
クロ―ゼの説明にハンスはかける言葉はなかったがジルは前向きにクロ―ゼを励ました。
「うん、テレサ先生にもそんな風に注意されちゃった。だから、全力で頑張るつもり。」
「あんたが本気を出せば百人力だから期待してるわよ。ところで、さっきから気になってるんだけど……。その人たち、どちらさま?」
ジルはエステル達に目をやって尋ねた。

「初めまして。あたし、エステルっていうの。」
「ヨシュアです、よろしく。」
「プリネです。エステルさんとヨシュアさんの仕事をサポートさせていただいています。」
「それじゃ、あんたたちがクローゼの言ってた……!」
ジルはエステル達が名乗り出ると驚いた。
「ふふ、約束通り連れてきたわ。2人とも協力してくださるって。それとプリネさんにはエステルさんにフェンシングを教えて貰うためにいっしょに来てもらったわ。」
「いや~、助かったわ!初めまして、エステルさん、ヨシュアさん、プリネさん。私、生徒会長を務めているジル・リードナーといいます。今回の劇の監督を担当してるわ。」
「俺は副会長のハンスだ。脚本と演出を担当している。よろしくな、3人共。」
「うん、こちらこそ。」
「よろしくお願いします。」
「私は直接劇に関われないと思いますがお手伝いする事があったら何か遠慮なく言って下さい。」
「う~ん、それにしても……」
エステル達に自己紹介をしたジルはエステル達をじっくりと見た。

「な、なに?」
エステルは戸惑いながら尋ねた。
「さすが遊撃士だけあってスポーツも得意そうな感じね。エステルさん、剣は使える?」
「そんなに上手くないけど多分、大丈夫だと思うわ。棒術がメインだけど父さんに習ったこともあるし、それにプリネにも教えて貰うもん。」
「へ~…………ん?そういえばさっきクロ―ゼも言ってたけど、プリネさん、フェンシングが出来るの?腰にさしてあるのってレイピアよね?」
ジルはプリネの腰にさしてあるレイピアに気付いて尋ねた。
「ええ。ただ、私の剣技はお父様譲りなので競技用ではなく実戦用ですが………」
「実戦って……プリネさんの家庭って剣術の道場か何かか?」
プリネの言葉に驚いたハンスは尋ねた。
「ううん。プリネはメンフィルの貴族なの。」
「彼女の父親は凄い剣士でもありますから、彼女は幼い頃から父親から護身用に教えてもらったそうです。だから今の彼女の剣技は大人顔負けの腕をしています。」
「メンフィルの!?おいおい……じゃあ、もしかして彼女は”闇夜の眷属”なのか!?」
エステルとヨシュアはプリネの仮の正体を説明し、それに驚いたハンスは声を上げて興奮気味に尋ねた。
「ええ。」
プリネは恥ずかしそうにしながら答えた。
「すげーな、クロ―ゼ……まさか、”闇夜の眷属”も連れてくるとは思わなかったぜ。」
「そんな……私は何もしていません。ダメ元で頼んでみたらプリネさんが快く了解してくれただけですから……」
「…………閃いたわ!まずエステルさん。あなたには、クローゼと剣を使って決闘してもらうわ。」
「け、決闘!?」
「もちろんお芝居で、ですよ。」
何かに閃いたジルはまずエステルに劇の役割と何をするか言った。ジルの言葉にエステルは驚いたが、クロ―ゼが補足した。

「クライマックスに2人の騎士の決闘があるのよ。まあ、劇の終盤を彩る迫力のあるシーンなんだけど……。クローゼと勝負できるくらい腕の立つ女の子がいなくてねぇ。この子、フェンシング大会で男子を押しのけて優勝してるし。」
「へ~、すっごい!」
ジルの説明にエステルは感心してクロ―ゼを見た。
「ちなみに、決勝で負けたのはそこにいるハンスだけどね~」
「悪かったな、負けちまって。ちなみに俺が弱いんじゃない。クローゼが強すぎるんだよ。」
「あ、あくまで学生レベルの話ですから……。本職のエステルさんやプリネさんには足元にも及ばないと思います。」
溜息をつきながら話すハンスにクロ―ゼは苦笑しながら、答えた。
「またまた、謙遜しちゃって。でも、そういう事ならちょっとは協力できるかも。クローゼさん、頑張ろうね♪」
「はい、よろしくお願いします。」
「う~ん……クロ―ゼさんがそこまでの腕なら正直私は必要ないと思うのですが……」
クロ―ゼの腕を知ったプリネは苦笑いをしながら答えた。
「フッフッフ……そこはご心配なく!プリネさんも当然劇に参加してもらうわ!」
「え……私が……劇に?」
ジルの言葉にプリネは驚いた。
「おい、ジル。余っている役なんてもうないだろ?」
ジルの様子を不審げに思ってハンスは尋ねた。

「今、閃いたのよ!蒼騎士オスカーと紅騎士ユリウスの剣の師匠であり誰もが見惚れる騎士団長!名前はそうね……『剣帝ザムザ』の主人公、ザムザでどうかしら?」
「「「「…………………」」」」
嬉しそうに説明をするジルをエステル達は呆けてジルを見た。そしていち早く立ち直ったハンスがジルに慌てた様子で尋ねた。
「おいおいおい……!ここで役を増やすとか何、考えてんだ!?ようやく役が揃ったってのにここで新しい役なんて増やしたら今までの練習がパアになるだろ!?」
「どっちみち、主役クラスが抜けてたから大した事ないわよ。今までの流れに少し加えるだけだし。」
ジルは涼しい表情でハンスの反論を打ち破った。
「でもな……!」
「あら、あんたは孤児院の子供達を喜ばせたくないの?役が増えればその分、さらに面白くなるのに。」
「グッ!」
ジルの言葉に図星をつかれたかのようにハンスはその場でのけ反った。
「それにあんた、言ってたじゃない。『せっかく今回の面白い趣向を先生方に認めて貰えたのに、学園生の中で”闇夜の眷属”がいないから少し残念だぜ。』って。」
「あーもう!わかった!わかりましたからこれ以上言うのはやめてくれ!」
「わかればいいのよ、わかれば♪」
降参したハンスを見てジルは満足げに頷いた。

「あの……本当に大丈夫なのですか?急に役を増やしたりして……」
2人のやり取りを見て心配したプリネは尋ねた。
「大~丈~夫!必ず成功させるわ。だからプリネさんも急で悪いんだけどがんばってもらえないかしら?」
「……わかりました。私にできる精一杯の力を出させていただきます……!」
「がんばろうね、プリネ!」
「はい、お互いがんばりましょう、エステルさん。」
「ハハ……それにしても……。女騎士の決闘なんて、なかなかユニークな内容だね。それに女性騎士団長なんて珍しくてお客の目を引きそうだね。」
エステルとプリネの会話に微笑ましく思ったヨシュアは劇の内容について仮の感想を言った。
「女騎士に女性騎士団長?3人に演じてもらうのはれっきとした男の騎士役に騎士団長役だぜ?」
「え。」
ヨシュアの感想に以外そうな表情で答えたハンスの言葉にヨシュアは驚いた。
「しかし、ヨシュアさんの方は文句のつけようがないわね……。期待してもいいんじゃない?」
「ああ、悔しいが同感だぜ。」
「???」
「えっと、その劇……どういう筋書きなのかな?」
ヨシュアを見る目が妖しいジルの言葉にハンスは頷き、エステルは2人の言葉に首を傾げ、ヨシュアは嫌な予感がしながらも尋ねた。

「題名は『白き花のマドリガル』。貴族制度が廃止された頃の王都を舞台にした有名な話なの。貴族出身の騎士と平民出身の騎士による王家の姫君をめぐる恋の鞘当て……。しかもこの3人、身分は違うけどお互い幼なじみの関係にあってね。それに、貴族勢力と平民勢力の思惑と陰謀が絡んできちゃうわけよ。まあ、最後は大団円、文句なしのハッピーエンドだけどね。」
「へ~、面白そうじゃない♪」
「ええ、中々いいお話ですね。」
「そ、それで……。どうして女の子が男性役を?」
劇の内容をジルが説明し、それを知ったエステルとプリネは期待したがヨシュアは不安そうな表情で尋ねた。
「それが、今回の学園祭ならではの独創的かつ刺激的なアレンジでね。男子と女子が、本来やるべき役をお互い交換するっていう趣向なのさ。」
「男女が役を入れ替える?へ~、そんなのよく先生たちが許してくれたわね。」
「性差別からの脱却!ジェンダーからの解放!そして新しく現れた異世界の種族との協力!…………とかなんとか理屈をこねて無理矢理押し通したちゃったわ。本当は面白そうっていう、それだけの理由なんだけど♪」
「ジルったらもう……」
「ほんと、こんなヤツが生徒会長とは世も末だよな。」
力説した後、無邪気に笑うジルにクロ―ゼは苦笑し、ハンスは溜息をついた。
「あはは♪うん、確かに面白そうかも。」
「エ、エステルさん。私達はいいかもしれませんが、この流れで行くとヨシュアさんが……」
ジルの考えにエステルは笑って同意したが、プリネは横目でヨシュアを見て言いかけた所にヨシュアが青褪めて会話に割って入った。
「ちょ、ちょっと待った!その話の流れで言ったら……。僕が演じなくちゃいけない『重要な役』っていうのは……」
「いやぁ、ホント助かったぜ」
「クローゼ、ありがとね。いい人たちを紹介してくれて♪」
「あ、あはは……。ごめんなさい、ヨシュアさん……」
そしてエステル達は早速衣装合わせや劇の練習をするために自分の役割を知り絶望したヨシュアを連れて、講堂へ向かった………



後書き 軌跡ファンの方々がお待ちかねの『白きマドリガル』ですが、原作と違って最後に驚く展開がありますので楽しみにしていて下さい。……感想お待ちしております。



[25124] 第71話
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/05 08:00
~ジェニス王立学園・講堂内舞台~

「うーん、これが舞台衣装か。騎士っていうから鎧でも着るのかと思ってたけど。」
「さすがに甲冑だと演技に支障をきたすからね。現在の、王室親衛隊の制服をアレンジする方向で行ったのよ。」
赤を基調とした芝居用の騎士服を着たエステルは自分が着る服のあちこちを見て呟き、ジルが説明した。
「ふーん、そうなんだ。クローゼさんはショートだし、ハマリ役って感じがするけど。」
「ふふ、ありがとうございます。エステルさんもとても良く似合ってますよ。」
「えへへ、そうかな?ところで……。なんで色違いになってるの?」
エステルはクロ―ゼの着る騎士服が蒼を基調とした服である事に気付いて尋ねた。
「私が演じるのは平民の『蒼騎士オスカー』。エステルさんが演じるのは貴族の『紅騎士ユリウス』。それぞれの勢力のイメージカラーなんです。」
「は~、なるほど。それじゃ、ヨシュアは……」
クロ―ゼの説明に納得したエステルが言いかけた所ハンスの声が舞台わきからした。
「2人の騎士の身を案ずる王家の『白の姫セシリア』だ。ささ姫、どうぞこちらへ。」
「ちょ、ちょっと待った。……まだ心の準備が……」
ヨシュアは抵抗する言葉を言ったがハンスに無理やりエステル達の前に出された。

「………………………………」
舞台に引き出されたヨシュアは腰まで届くウィッグを被り、白を基調としたドレスを着、頭にはティアラを着け、容姿も合わせて美しい深窓の姫君のように見えた。
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
エステル達はヨシュアの姿に言葉を失くした。
「頼むから何か言って……。このまま放置されるのはちょっとツライものがある……」
言葉を失くし黙っているエステル達にヨシュアは居心地が悪く思い、言った。
「いやぁ、何て言うか……。ぜんっぜん違和感ないわね♪」
「びっくりしました。はぁ、すっごく綺麗です……」
「ええ………正妃様や側室の方々のドレス姿と並んでも見劣りしない姿ですよ……」
「うんうん、自信持っていいぞ。事情を知らずにあんたを見たら、俺、ナンパしちゃいそうだもん♪」
ヨシュアの姫の姿にエステルとハンスは褒め称え、クロ―ゼとプリネは見惚れていた。
「正直な感想、ありがとう。ぜんぜん嬉しくないけど……」
エステル達の褒め称える感想にヨシュアは溜息を吐いた。

「ムフフ……。まさに私の狙い通り……。この配役なら、各方面からウケを取れること間違いなしね……。プリネさんの衣装はもう少しだけ待ってね。今、急いで作らせているから。」
「はい、ありがとうございます。」
「それじゃあ、みんな、一致団結して最高の舞台にするわよ~っ!!!」
「おーっ!」
「「はいっ!」」
「うーっす!」
「しくしく……」
ジルの場を盛り上げる言葉に一人悲しんでいるヨシュアを除いて、エステル達は拳を空にあげて乗った。
そして練習が終わった夜、エステルとプリネ、ヨシュアはそれぞれ女子寮と男子寮に泊まることになった。

~ジェニス王立学園・女子寮の一室~

「では……、エステルさん、プリネさん。申し訳ないんですが……ベッドを2人で使ってもらう事になるのですがよろしいでしょうか?」
「はい、私は大丈夫です。」
「ベッドも広いし2人がいっしょに寝るには十分よ!それに一度プリネと一緒のベッドで寝ておしゃべりしたいと思ってたし。」
「フフ、私もです。」
エステルはプリネを見て言い、プリネはエステルに微笑んで答えた。
「でも、クローゼさんとジルさんって同じ部屋なんだ。道理で仲がいいわけね。」
「ふふ……。学園に入って以来の仲です。」
エステルの言葉にクロ―ゼは微笑みながら答えた。
「ルームメイトにして腐れ縁ってところかしらね。ところで、エステルさん、プリネさん。1つ提案があるんだけど……」
「なに?」
「なんでしょう?」
ジルの言葉にエステルとプリネは首を傾げた。
「私のことは、ジルって呼び捨てにしてくれるかな?さん付けされるとなんだかムズ痒いのよね~。代わりに私も、エステルやプリネって呼び捨てにさせてもらうから。」
「あはは……。うん、そうさせてもらうわ。」
「う~ん……私はこの口調が癖になっていますから難しいと思いますが、努力はしてみますね。」
「でしたら、私のこともどうか呼び捨てにしてください。その方が自然な気がしますし……」
そこにクロ―ゼも自分の事を呼び捨てにするように2人に言った。
「そう?だったら遠慮なく……。ジル、クローゼ。しばらくの間プリネ共々、よろしくね♪」
「はい、こちらこそ。」
「まあ、女所帯だし気軽に過ごしてもいいわよ。建物の中にいる限りは男子の目も気にしなくていいし。」
「だからと言って、だらしないのは感心しないけど。」
ジルの言葉にクロ―ゼは苦笑しながら答えた。

「はあ~、これだからいい子ちゃんは困るのよね。カマトトぶっちゃってもう。」
「あ、ひどい。そんな事を言う子にはお菓子焼いてもあげないから。」
「あ、うそうそ。クローゼ様。私が悪うございましたです。」
「だーめ、反省しなさい。」
「「………………………………」」
ジルとクロ―ゼが楽しそうに会話しているのをエステルとプリネはその様子を黙って見ていた。
「あら……?」
「どうしたの、エステル、プリネ?まじまじと見詰めたりして……」
「あはは、いやあ~……。なんだかうらやましいなって。」
「ええ、なんだかお二人が眩しく感じます。」
「うらやましい?」
エステルとプリネが自分達を羨ましがっているのがわからず、ジルは首を傾げた。
「あたしもロレントに仲のいい友達はいるけど……。せいぜい、お互いの家にお泊りするだけだったのよね。こんな風に、気の合う友達と一緒に暮らせていいなって思って。」
「ええ。私なんか今までの遊び相手は家族であるお姉様達しかいませんでしたし、赤の他人とこのような協同生活をした事がないんです。」
「……クローゼ、どう思う?」
「どうって言われても……。プリネさんはともかくエステルさんに羨ましがられるのはちょっと納得いかないような……」
「へ?」
ジルとクロ―ゼの言葉の意味がわからず、エステルは首を傾げた。

「もしかして……」
「プリネはわかったようね。そんで肝心の本人はあ、やっぱり?何言ってやがるんだこのアマは、って感じよね。」
「な、なんで!?」
「あんたねぇ……。自分が、誰と一緒に旅をしてるのかわかってる?自宅では、一つ屋根の下で暮らしていたんでしょーが。」
何もわかっていなく驚いているエステルにジルは首を横に振って、溜息を吐いた。
「え……それって。もしかしてヨシュアの話?」
「もしかしなくてもそうですよ。」
「あんな上玉の男の子といつも一緒にいるくせに女所帯を羨ましがるとは……。もったいないオバケが出るわよ?」
「も~、何言ってるかなぁ。ヨシュアはあたしの兄弟みたいなものだってば。何年もの間、家族同然に暮らしてきたんだから。」
ジルの言葉にエステルは溜息を吐いた後、平然と答えた。しかしジルは目を妖しく光らせて尋ねた。
「ほほう、家族同然ね……。あんたがそのつもりでもヨシュア君の方はどうかしら?」
「え。」
「あの年頃の男の子って抑えが利かないって言うし。まして、あんたみたいな健康美あふれた子が傍にいたら色々とつらかったりして……加えてプリネみたいな自分よりちょっとお姉さんで清楚な雰囲気を持っている子が傍にいたらさらにつらいんじゃないかしら……?スタイルも私達とは比べ物にならないくらいいいし。」
ジルはプリネに近付いて突然プリネの胸を揉んだ。
「キャッ!?」
「ジ、ジル!?」
ジルの行動にプリネは驚き、即座に胸の部分を両手で隠し、クロ―ゼも驚いた。
「う~む、やはり胸も結構あるわね……腰も細い上容姿も抜群。女として完璧で妬ましいわね~……」
「あ、あはは………私の容姿はお母様譲りですから、そんな事を言われても……」
「…………………………」
「もう、ジル!ごめんなさい、エステルさん、プリネさん。ジルってば、興が乗ると人をからかう悪癖があるんです。」
ジルの行動に固まったクロ―ゼだったがすぐに立ち直って、恥ずかしがっているプリネと口を開けて固まっているエステルに謝罪した。

「ぶーぶー。悪癖ってなんだよー。」
「何か文句でも?」
「や、滅相もないっす。」
クロ―ゼの言葉に口を膨らませて反論したジルだったが、クロ―ゼに睨まれたので反論するのをやめた。
「あ、あはは……。も~、ビックリさせないでよ。そんな、まさかねぇ。ヨシュアが……だなんて。そ、それにプリネはプリネのお父さん達から信頼されてあたし達が預かって余計な虫が寄って来ないようにしている事ぐらい、ヨシュアだってわ、わかっているはずだし。」
(エステルさん、それだと丸っきり意識している事を2人に知らせているようなものですよ……)
立ち直ったエステルだったが、意識している事を隠せない表情で呟き、プリネはエステルの表情と言動に苦笑した。
「意識してる、意識してる。」
「ジル!」
「おっと、忘れてたわ。寝る前に日報を先生に提出しなきゃ。それじゃ、おやすみ。先に寝ちゃってていいわよ。」
場を掻き乱しまくったジルはクロ―ゼの追及を逃れるためにそそくさと部屋を出て行った。

「まったくもう……。そうだ、エステルさん、プリネさん。私のでよかったらパジャマを貸しますけど……」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて一着お願いします。」
「………………………………」
「エステルさん、どうしました?」
「ふえっ!?」
呆然と立っているエステルを不思議に思ったクロ―ゼが声をかけ、エステルは慌ててクロ―ゼに振り向いた。
「あ、ああ、パジャマね。うん、何でもいいから貸して。」
こうして思わぬ形でエステル、ヨシュア、プリネの学園生活がスタートした………



後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第72話
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/13 08:45
今回の話でプリネがただのオリジナルキャラでないことがわかります。





家族以外の同世代の仲間とともに起き、学び舎に行く朝……

午前中は、他の生徒と一緒に授業に参加させてもらい……

昼はランチを共にしながら他愛のないおしゃべりを楽しみ……

そして、放課後は厳しい稽古が夜まで続く……

忙しくも楽しい学園生活は瞬く間に過ぎていった。そんなある日。

~ジェニス王立学園・音楽教室~

「あら?」
学園祭に使う楽器を運んでいたエステル達だったが、ある楽器を見つけたプリネが声をあげた。
「どうしたの、プリネ。」
「ええ……ヴァイオリン……この学園にも置いてあるんですね。」
ヨシュアの質問に答えたプリネはヴァイオリンを手に持って感慨深く言った。
「吹奏楽部が演奏をする時に使いますから数は少ないんですが、置いてあるんです。もしかして、プリネさん。ヴァイオリンが弾けるんですか?」
「ええ。期間はそんなに長くありませんでしたが侍女見習いの方といっしょに、淑女の嗜みの一つとして楽器は一通り学びました。その中でも一番気にいって、今でもたまに弾いている楽器がヴァイオリンなんです。」
説明し尋ねたクロ―ゼの言葉に答えたプリネは微笑んで答えた。
「へ~……ねえねえ、ちょっと弾いてもらってもいいかな?」
「フフ、じゃあ1曲だけですよ?」
期待するような目をしているエステルに微笑んだプリネはヴァイオリンを弾き始めた。

~~~~~~~♪

「なんて綺麗な旋律……」
プリネの演奏に耳を澄ませたクロ―ゼは感動した。
「え……この曲って……」
「………………」
一方ヴァイオリンを聞いていて曲がわかったエステルは驚いた。また、ヨシュアは自分にとって馴染み深い曲をヴァイオリンで弾いているプリネの姿を驚いて凝視した。

~~~~~~~♪

(………なん………だ………ろう……?どこかで見た事ある光景なのに……思い出せない……)
ヴァイオリンを弾いているプリネの姿にヨシュアは既視感を感じ何かを思い出そうとしたが、頭の中に霧がかかり思いだせなかった。

~~~~~~~♪

(!?……今……のは……一体………)
ヴァイオリンを弾いているプリネの姿と一瞬自分と同じ琥珀の瞳を持ち、腰まで届いた美しい黒髪をなびかせ、ハーモニカを吹く優しげな女性の姿と重なったようにみえたヨシュアは困惑した。そしてプリネの演奏が終わった。

~~~~~~~♪

「……ふう。ご静聴、ありがとうございました。」
ヴァイオリンを弾き終わったプリネは一礼した。

パチパチパチ………!

一礼したプリネにエステルとクロ―ゼは拍手をして称えた。
「すばらしい演奏でした……!」
「うんうん!ヴァイオリンは初めて聞いたけどプリネ、凄っごく上手いわ!」
「フフ、ありがとうございます。」
感動したクロ―ゼの言葉と最大限に自分を称えるエステルの言葉にプリネは照れた。
「それにしても今の曲はなんという曲なんでしょうか?」
「『星の在り処』だよ。そうだよね、プリネ?」
「え?そんな曲名だったんですか?」
「へ………?もしかしてプリネ、曲名もわからず弾いていたの!?」
曲名を聞くクロ―ゼにプリネに代わって答えたエステルだったが、曲を弾いた本人のプリネが知らないのを知り、エステルは驚いた。
「はい。今の曲が私の一番得意な曲なんですが、恥ずかしながら曲名もわからなかったのです。さまざまな曲の楽譜が載っている本をレスぺレント地方全ての領から入手して調べたのですが、どの楽譜の曲も今の曲ではなかったのです。」
「じゃあ、どうやって弾けたの?」
「なんと言えばいいのでしょう……?まるで昔から知っているみたいに今の曲が頭に浮かび、自然と弾けたのです。お父様が言うには『もしかしたら、お前にその曲の弾き手の魂が宿っているのかもしれないな』らしいです。」
「へ~………それにしても、『星の在り処』をプリネが弾けたのは驚いたよね、ヨシュア?」
「………………」
「ヨシュア?」
プリネの言葉に呆けた声を出した後ヨシュアに言ったエステルだったが、ヨシュアは何の返事もせずプリネを見続けていたのでエステルは首を傾げた。

「ヨシュア?ねえ、ヨシュアってば。」
「……!どうしたの、エステル。」
エステルに肩をゆすられ我に帰ったヨシュアはエステルに聞き返した。
「どーしたも、こーしたも……ヨシュア、さっきからプリネの姿をかなり凝視してたみたいに見えたよ?」
「ああ、その事か。……プリネが一瞬昔の知り合いに見えたから思いだしただけだよ。」
「またそれ~?あっやしい~……」
ヨシュアの言葉にエステルは疑った。
「あの……さっきから気になったのですが、エステルさんとヨシュアさんは今の曲を知っているんですか?」
「うん。だっていっつもヨシュアがハーモニカで弾いていた曲だもん。」
「曲名は『星の在り処』だよ。」
2人の会話に割って入って尋ねたプリネの言葉に、エステルとヨシュアは頷いた。

「『星の在り処』…………そういえば以前、ヴァレリア湖で休憩してい時夕方に聞こえたハーモニカは……」
「僕だよ。エステルに頼まれてね。」
「そうなんですか。………同じ曲を知っているなんて、偶然って身近にあるものなのですね。」
「そうだね、僕も驚いたよ。」
プリネの言葉にヨシュアは同意するように頷き、お互いの目を見つめ合った。
(………あれ?なんだろう……?今、胸が締め付けられるような痛みがしたのはなんで……?)
見つめ合っているヨシュアとプリネを見てエステルは不思議そうに無造作に胸を抑えた。
「あの………そろそろ作業を再開しませんか?速く持って行かないとジル達に妖しがられますし。」
「あ、そうですね。」
クロ―ゼの言葉にハッとしたプリネは頷き、エステル達と共に作業を再開した。

そしてエステル達の学園生活はさらに過ぎて行き、ついに学園祭前日となった……



後書き 軌跡シリーズを知っている方にとっては今回の話は驚いたかもしれませんね。言っておきますがこの話は基本原作通りにするので、主役のカップリングを変えたりしませんから、ご安心を……まあ、もしかしたらあるキャラの運命を変える事になるかもしれません。その人物は誰か、軌跡シリーズファンならわかるでしょう?……感想お待ちしております。



[25124] 第73話
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/07 08:30
~ジェニス王立学園・講堂内舞台~

「わが友よ。こうなれば是非もない……。我々は、いつか雌雄を決する運命にあったのだ。抜け!互いの背負うもののために!何よりも愛しき姫のために!」
紅騎士ユリウス――エステルはレイピアを抜いてセリフを言った。
「運命とは自らの手で切り拓くもの……。背負うべき立場も姫の微笑みも、今は遠い……」
蒼騎士オスカー――クロ―ゼは辛そうな表情でセリフを言って剣も抜かず立ち尽くした。
「臆したか、オスカー!」
「だが、この身に駆け抜ける狂おしいまでの情熱は何だ?自分もまた、本気になった君と戦いたくて仕方ないらしい……」
自分を叱るエステルに答えるかのようにクロ―ゼはレイピアを抜いて構えた。
「革命という名の猛き嵐が全てを呑み込むその前に……。剣をもって運命を決するべし!」
クロ―ゼがレイピア構えるのを見て、エステルも構えた。
「おお、彼らの誇り高き二人の魂、女神達もご照覧あれ!!女神達よ……誇り高い2人の剣士達にどうか祝福を!………2人とも、用意はいいな!?」
エステルとクロ―ゼの間にいた騎士団長ザムザ――白を基調とした芝居用の騎士服を着、純白のマントを羽織ったプリネがセリフを言いながら片手を天井に向けて上げ、エステルとクロ―ゼの顔を順番に見た。
「はっ!」
「応!」
「それでは………始めっ!」
「……………」
「……………」
「……………」
そして3人はその場で動かずジッとしていた。

「は~っ……」
「ふう……」
「ほっ………」
しばらくすると3人は一息ついた。
「やった~っ♪ついに一回も間違わずにここのシーンを乗り切ったわ!」
「ふふ、迫真の演技でしたよ。」
「ええ、これなら明日の本番も大丈夫ですね。」
「えへへ、クローゼやプリネにはぜんぜん敵わないけどね。セリフを間違えたこと、ほとんど無かったじゃない?」
自分を称えるクロ―ゼやプリネの言葉にエステルは照れた後、言った。
「私はずいぶん前から台本に目を通していましたから。」
「私の場合は主役のお二人と違ってセリフの数は少なかったですから、なんとかすぐに覚えられただけです。」
「そんな……謙遜する事ないですよ。それより色々と稽古をつけてくれてありがとうございました、プリネさん。お陰でエステルさんの動きに付いていけそうです。」
「ふふ、私は少し助言しただけですよ。クローゼさんは基本がしっかりしていましたから。」
「うんうん!その気になれば、いつでも遊撃士資格を取れると思うよ?」
「ふふ、おだてないで下さい。」
プリネとエステルの言葉にクロ―ゼは照れた。そして3人は椅子が並べられた講堂を見渡した。

「いよいよ、明日は本番ですね。テレサ先生とあの子たち、楽しんでくれるでしょうか……」
「ふふ、本当に院長先生たちを大切に思ってるんだ……。まるで本当の家族みたい。」
「ええ、まるでテレサさん先生とは本当の親子のように見えましたし、子供達の本当の姉にも見えましたしね。」
「………………………………」
エステルとプリネの言葉にクロ―ゼは突然黙った。
「あ、ゴメン。変なこと言っちゃった?」
「いえ……。エステルさんとプリネさんの言う通りです。家族というものの大切さは先生たちから教わりました……。私、生まれて間もない時に両親を亡くしていますから。」
「え……」
「……………」
クローゼの言葉にエステルは驚き、プリネは真面目な表情に直して黙った。
「裕福な親戚に引き取られて何不自由ない生活でしたが……家族がどういうものなのか私はまったく知りませんでした。10年前のあの日……先生たちに会うまでは。」
「10年前……。まさか『百日戦役』の時?」
「はい、あの時ちょうどルーアンに来ていたんです。エレボニア帝国軍から逃れる最中に知っている人ともはぐれて……。テレサ先生と、旦那さんのジョセフさんに保護されました。」
「そうだったのですか………」
「戦争が終わって、迎えが来るまでのたった数ヶ月のことでしたけど……。テレサ先生とおじさんは本当にとても良くしてくれて……。その時、初めて知ったんです。お父さんとお母さんがどういう感じの人たちなのかを。家族が暮らす家というのがどんなに暖かいものなのかを……」
「クローゼ……」
「………………」
昔を懐かしむように語るクロ―ゼにエステルは何も言えず、リウイとペテレーネ、リフィア達に愛されて育っても、後継者がいながら初代皇帝の娘である自分がいれば本当なら後継者争いが起こってもおかしくないのに、そういった事はなく、リフィアを含めシルヴァンやカミ―リ、ほかの腹違いの兄や姉達から可愛がられ正式な皇女に扱われている自分がどれだけ恵まれているかを理解しているプリネは黙って耳を傾けていた。

「す、済みません……。つまらない話を長々と聞かせてしまって。」
「ううん、そんな事ない。明日の劇……頑張って良い物にしようね!」
「私も精一杯がんばらせていただきますので、明日の劇……絶対に成功させましょう!」
「……はい!」
エステルとプリネの心強い言葉にクロ―ゼは微笑んで頷いた。そしてクロ―ゼはある事を思い出し、2人に尋ねた。
「そういえば……ミントちゃんとツーヤちゃんの事……お二人はどうするか決められましたか……?」
「あ、そのことね。プリネやヨシュアと何度も相談してやっと決めたわ。」
「私はツーヤちゃん。エステルさんはミントちゃんの”パートナー”になってこれからの人生を共に歩むつもりです。」
「そう………なんですか………」
エステルとプリネの答えにクロ―ゼは表情を暗くした。
「クロ―ゼや孤児院のみんなは寂しがると思うんだけど、これだけは譲れないわ。………どういえばいいんだろう……?ミントちゃんに出会ってからなんとなくミントちゃんをずっと見守りたい気持ちになるのよね。」
「ええ。それにツーヤちゃん達は私達をずっと待っていたんです。だったらそれに答えてあげるのが”パートナー”というものでしょう?」
「………………………エステルさん、プリネさん。」
少しの間目を閉じて考えたクロ―ゼは口を開いた。
「はい。」
「何?クロ―ゼ。」
「私が言うのは筋違いかもしれませんが………2人の事を……大事にして下さい……」
「モチのロンよ!だってあたしはミントちゃんにとってはお母さんなんだから!まだ16歳のあたしが母親をやるなんて無理があるけど、ミントちゃんがいい大人になるよう頑張って育てるわ!ヨシュアは最初、反対してたけど最後には納得してくれたから大丈夫よ!」
「私もツーヤちゃんが立派な大人になれるようお父様達といっしょに大事に育てるつもりです。だから安心して下さい。」
「(エステルさんならきっとミントちゃんを大事に守ってくれるでしょうね……ツーヤちゃんの未来もメンフィル皇女のプリネさんの傍にいれば華々しく明るい未来になるでしょう……この人達なら………)ありがとう……ございます………」
エステルとプリネの答えにクロ―ゼは目に溜まっていた涙をぬぐって笑顔で答えた。

その後ヒロイン役をするヨシュアの演技の上手さの話に花を咲かせていたエステル達はヨシュアやハンスと合流した後、明日の本番の景気づけにいっしょに夕食をするためにヨシュアとハンスを席をとっておいてもらうために先に食堂に行かせ、学園長に呼ばれたジルを迎えに行った………



後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第74話
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/08 07:00
今回は久しぶりのあのキャラが再登場します!




~ジェニス王立学園・学園長室・夕方~

「なるほど……。それはいいアイデアですよ!さすが学園長、冴えてますねぇ。」
「ははは……。おだてても何も出んよ。それでは、リストの方は君に任せても構わないかね?」
会話をしていてある提案をしたコリンズにジルは喜び、それを見たコリンズは尋ねた。
「はい、任せてください!……あの~……できれば例の異世界の大使も呼べればな~って思っているんですが。」
「もちろん招待状は送ったが期待はしないでくれよ?リベールが異世界との交流を始めてから、何度か招待状は送ってはいるが学園祭に一度も顔を出した事もなく、後日に多忙という理由で来れなかった事の謝罪の返事の手紙が来るぐらいだからな。………将来的に”闇夜の眷属”の子供達を学園に迎え入れて子供達同士仲好くなって、種族や異世界人との隔たりをなくす礎になってほしいものなのじゃが……その提案を話す機会を作るためにも送っているのじゃ……」
ジルの言葉にコリンズは溜息をつきながら答えた。
「そうですか……まあ、余り期待せず待っています。もしかしたら今回に限って来てくれるかもしれませんし。」
「そうだといいのだがな………とにかくリストの件は任せるよ。」
「はい!」
ジルとコリンズが会話をちょうど終えた時エステル達が入って来た。

「失礼しま~す。」
「あ、すみません……。まだお話中でしたか?」
「いやいや。ちょうど終わったところだよ。実はなぁ……」
「ああ、学園長!喋っちゃダメですってば!明日の楽しみが減っちゃうじゃないですか!」
エステル達に先ほどの会話の内容を話そうとしたコリンズだったがジルが慌てて口止めをした。
「な、なんなの?あからさまに怪しいわね。」
「ジルったら……。また何か企んでいるの?」
ジルの様子を訝しげに思ったエステルとクロ―ゼは首を傾げた。
「ふっふっふ……。それは明日のお楽しみよん。そうだ、プリネ!」
「なんでしょう?」
「プリネは明日の学園祭の事……お父さん達に話している?」
「いえ。今は家を出てお姉様達といっしょに旅をしていますから知らないと思います。」
「ふ~ん……じゃあ、プリネのお姉さん達がプリネのお父さん達に話している可能性はあるんだ?」
「どうでしょう?……もしかしたらお父様達に今回の学園祭の事を話しているかもしれませんが、それがどうかしましたか?」
「ううん!そんな大したことではないから気にしなくていいわ!(もしかしたら、プリネのお父さんが来るかもしれないわね……プリネは貴族らしいから、もしプリネのお父さん達が来たら寄付金が期待できるわね。)」
「??」
ジルの意味ありげな言葉にプリネは首を傾げた。

「それより、どうしたの?ひょっとして私に用?」
「ええ、実は……」
聞き返したジルにクロ―ゼは明日の景気づけを兼ねて食堂で小さなパーティーをする事を言った。
「あら、いいじゃない。それじゃ、明日の学園祭の成功を祈って騒ぐとしますか。パーッとやりましょ、パーッと!」
「ふふ、あまり羽目を外して明日に差し障りがないようにな。」
はしゃいでいるジルにコリンズは苦笑しながら言った。
「はい。」
「それじゃ、ジル。食堂に行こっか。」
「ヨシュアさんやハンスさんも待っていますよ。」
「うん、行きましょ。」
そしてエステル達は食堂に向かい、にぎやかな一時を過ごし……最後に、劇の成功を祈ってソフトドリンクで乾杯した。その後寮に戻ってから、明日のために早めに眠りについた。


~メンフィル大使館・執務室・夜~

「今日の分はこんなものか………」
ゼムリア大陸にあるメンフィル領の政務書類をある程度終わらせたリウイは一息ついた。そこにドアをノックする音が聞こえた。

コンコン

「誰だ?」
「私です、リウイ様。入ってもよろしいでしょうか?」
「ペテレーネか。入って来て構わん。」
「失礼します……」
静かに入って来たペテレーネは淹れ立ての紅茶が入ったカップをリウイの机に置いた。
「お疲れ様です。リウイ様。よろしければ、どうぞ。」
「すまないな。………ふう。」
「今日も一日、お疲れ様です。リウイ様。」
「お前もな。まあ、皇帝をやっていた頃に比べれば仕事の量は少ないがな……」
「フフ……シルヴァン陛下は今の倍以上の書類を捌いているそうですね。さすがリウイ様とシルフィア様のご子息様です。」
「シルヴァンには俺の後を継げるよう、俺自ら教育したからな……あれぐらい一人でこなしてもらわなければレスぺレントの覇権を握る皇帝にはほど遠い。」
リウイの言葉にペテレーネは微笑みながら答えた。そしてある事を思い出し、懐から手紙を出しそれをリウイに渡した。
「そういえば……このような招待状が来ていましたが。」
「見せてみろ。…………………ああ、いつもの招待状か。もうそんな時期になったのだな……」
「確か毎年来ていますよね……?ジェニス王立学園祭の招待状。」
「ああ。こちらを拠点にしてから色々あって、忙しかったからな。今までは断っていたが、今回はどうするか……」
リウイが考えていた時、執務室に備え付けてある通信機が鳴った。

ジリン、ジリン!ジリン、ジリン!

「ん?こんな時間に誰だ?」
鳴り続ける通信機に首を傾げたリウイは受話器をとった。
「……こちらメンフィル大使館、執務室。」
「久しぶりだな、リウイ!」
「………リフィアか。どこからここにかけた?」
「ん?今はルーアンのギルドの通信機でそちらにかけているが何かあるか?」
「いや、今はどこにいるか気になっただけだ。……それにしてももう、ルーアンか。件の少女の修行の旅は順調のようだな。それで俺に何の用だ?」
「うむ!実はな……」
リフィアは興奮した様子でプリネがエステル達といっしょに学園祭の劇に参加することを説明した。
「ほう、プリネが学園生活に参加した上、劇の役に……」
「うむ!一度だけ学園にプリネに会いに行ったが、学園生活を楽しそうに話してくれたぞ。」
「フッ、そうか。後で学園長に礼の手紙を書かねばな………」
リフィアの報告を聞いたリウイは口元に笑みを浮かべた。

「そんな事をするより、直接こちらに来て礼を言ったらどうだ?ちょうど明日はエステル達が受けた依頼内容を実行する学園祭だ。学園祭は観光の一つで学園関係者以外の民達も客として来るそうだからな。ペテレーネを連れてこちらに来たらどうだ?ティア殿も帰省のためにルーアンに来ているし、ティア殿を迎えに行くためにもどうだ?」
「ほう……ティアもルーアンにいるのか……考えておこう。」
「うむ!」
そしてリウイは受話器を置いた。
「あの、リウイ様。相手の方はリフィア様のようでしたが……」
「ああ。プリネがこの招待状に書かれてある学園祭で出す劇に役者として参加するそうだ。」
「え!?どうしてそんな事に……?」
リウイの説明に驚いたペテレーネは聞き返した。そしてリウイはプリネが学園祭に参加する経緯や学園で短期間学園で生活していた事をペテレーネに伝えた。
「そうだったのですか……あの子もいい経験ができてるようで、何よりです。」
「そうだな。…………ペテレーネ、急ぎの政務はあるか?」
「いえ。今のところは特にないです。」
「そうか………ふむ。毎年招待状を貰っていることだし、今年は行ってみるか?例の学園祭に。」
「え!?私も共にしてよろしいのですか!?」
リウイの提案にペテレーネは驚いて声を出した。

「あたりまえだ。お前の娘でもあるプリネが参加しているのだしな。それにプリネが学園祭に参加することを言ってから、招待状に何度も目が行ってるぞ。」
「あう……すみません………」
リウイに指摘されたペテレーネは顔を赤くして縮こまった。
「気にするな。俺もプリネが劇に参加する事に少し興味が惹かれていたしな。息抜き代わりに行ってみるか。」
「はい!早速定期船のチケットの手配をしてきます!」
「おい、こっちの通信機を使えば………言っても無駄か。フッ…………」
リウイの言葉を聞いたペテレーネは自分の部屋に備え付けてある通信機を使って定期船のチケットを予約するために、急いで部屋を出た。その様子をリウイはいつものペテレーネらしくない行動に苦笑した。

そして学園祭当日…………!



後書き という事で予告していた旧幻燐キャラはみなさんご期待のリウイです!リウイの出番はあまりありませんが、それでも要所要所で活躍するので期待していて下さい♪……感想お待ちしております。



[25124] 第75話
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/09 13:57
まちに待った学園祭の開始時間になると、劇が始まる時間になるまでプリネはリフィアやエヴリーヌと共に学園を廻って楽しみ、エステルはヨシュアとクロ―ゼと共に学園を廻って今までの旅で出会った人――ナイアル、メイベルとリラ、警備に来ている遊撃士のカルナに挨拶し、
フィリップと護衛の数名の私服を着ている親衛隊員を連れたデュナン公爵がいるのを見て苦笑した後、たまたま出会ったアルバ教授を社会科教室に案内した後、マーシア孤児院の子供達と出会った。

~ジェニス王立学園・正面玄関~

「あっ、姉ちゃんたち!」
クラムの声に気付いたエステル達は孤児院の子供達に近づいた。
「みんな……。来てくれたのね!」
クラム達を見てクロ―ゼは嬉しそうに答えた。
「ママ!」
「おっと。相変わらず甘えん坊ね、ミントちゃん。」
エステルの姿を見て抱きついたミントを受け止めたエステルはミントの頭を撫でながら言った。
「えへへ……だってミント、ママに早く会いたかったもん。」
頭を撫でられて嬉しいミントは可愛らしい笑顔で答えた。
「あの………ご主人様は……?」
そこにエステル達の中にプリネの姿が確認できなかったツーヤが尋ねた。
「プリネは今、他の人達と廻っているわ。プリネに何か用?」
「はい。………その”パートナー”の件がどうなったか気になって……」
「あ、そのことね。………ミントちゃん、ツーヤちゃん。」
「はい。」
「ママ?」
真剣な表情になったエステルにツーヤは緊張し背筋を伸ばし、ミントは首を傾げた。
「”パートナー”の件だけど……プリネ共々喜んで引き受けるわ。」
「本当!?わーい!」
「あの、本当にご主人様は私の”パートナー”になってくれるって言ったんでしょうか?」
エステルの了承の言葉にミントは喜び、ツーヤは期待する目で確認した。
「うん。プリネも『私なんかでよければ、喜んでなります。』だって。」
「そうですか………よかった………」

「ふふ……。テレサ先生と一緒に来たの?」
一方ヨシュアといっしょにクラム達の相手をしていたクロ―ゼは微笑みながら尋ねた。
「うん、そこで他の人と話をしてたけど……。あ、来た来た♪」
クラムは笑顔で後ろに向いた。そしてテレサがエステル達のところに近付いた。
「ふふ、こんにちは。」
「あ、テレサ先生!」
「先生……こんにちは。」
「今日は招待してくれて本当にありがとうね。子供たちと一緒に楽しませてもらってますよ。」
テレサは笑顔でエステル達に学園祭に招待してもらったお礼を言った。そこにクラムとマリィが期待した目でクロ―ゼに尋ねた。
「なあ、クローゼ姉ちゃん。姉ちゃんが出る劇っていつぐらいに始まるのさ?」
「あたしたち、すっごく楽しみにしてるんだから♪」
「そうね……。まだ、ちょっとかかるかな。ちなみに、私だけじゃなくてエステルさんたちも出演するのよ?」
「ほんと?わあ、すっごく楽しみ~!」
「ヨシュアちゃん、どんな役で出るのー?」
「えっと……何て言ったらいいのか……」
ポーリィの質問にヨシュアは言葉を濁した。

「あはは……。見てのお楽しみってね♪それより院長先生。まだ、マノリアにいるの?」
「はい、宿の方のご好意で格安で泊めて頂いています。ですが……」
「???」
閉口するテレサにエステルは首を傾げた。
「………………………………ねえ、みんな。劇の衣装、見たくない?綺麗なドレスとか騎士装束がいっぱいあるよ。」
「綺麗なドレス!?」
「騎士しょーぞく!?」
事情を大体察したヨシュアは子供達に提案し、クラムやマリィが誰よりも早く期待した目で反応した。
「ふふ……。興味があるみたいだね。それじゃあ特別に劇の前に見せてあげるよ。」
「やったぁ!」
「ポーリィもいくー。」
「ママ、ミントも行っていい?」
「うん。行っておいで。」
「わーい!ツーヤちゃんも行こう!」
「うん、ミントちゃん。」
(舞台の控え室にいるからあとからゆっくり来てよ。)
エステル達に小声で耳打ちしたヨシュアは子供達を講堂に連れて行った。

「ふふ、ヨシュアさんは本当に気が利く子ですね。ちょっと、子供たちの前では言いづらいことだったので……」
「それじゃ、ひょっとして……」
テレサが閉口していた意味がようやくわかったエステルは尋ねた。
「ええ、秘書の方が提案されたイーリュンの信徒の方々が経営する孤児院にお世話になる事に決心がつきました。これ以上、マノリアの方々に迷惑をかけられませんから。今日の学園祭が終わったらあの子たちにも打ち明けます。」
「そう……ですか……。寂しくなるけど……仕方ありませんよね……」
テレサの決心にクロ―ゼは暗い顔をして俯いた。
「ふふ、そんな顔をしないで。ロレントとはいっても飛行船を使えばすぐの距離です。それに私、ロレントに行ったら子供達の事はイーリュンの信徒の方々に任せて、仕事を捜そうと思っています。ミラを貯めて、いつかきっと孤児院を再建できるように……」
「院長先生……」
「………………………………」
寂しそうな笑顔で話すテレサにエステルとクロ―ゼはかける言葉がなく、黙っていた。
「そういえば、エステルさん。あなたとプリネさん、ミントとツーヤの事……決心してくれたようですね。」
「は、はい!あたしなんかがミントちゃんのママになれるか正直不安ですけど……頑張ってあの子を育てます!それとプリネはメンフィル帝国の大貴族の人ですから、プリネの傍にいるツーヤちゃんは輝かしい未来があると思いますから、安心して下さい!」
「そうですか……ありがとう、エステルさん。プリネさんにも後で改めてお願いしに行くと伝えておいて下さい。さてと……。あの子たちの後を追いますか。ヨシュアさん1人に任せておくわけにはいきませんからね。」
そしてエステル達は講堂の楽屋に向かったが、子供達だけがいてヨシュアはポーリィの銀髪の青年を見たという発言を聞くと、目を丸くした後出て行った事を聞き、心配になったエステルは子供達の事はテレサに任せ、クロ―ゼと共にヨシュアを探した。

~ジェニス王立学園・旧校舎~

「おかしいな……。確かに気配があったはずなのに……。……でも、まさか……」
旧校舎の屋上でヨシュアは立ち尽くし、独り言を呟いていた。
「ヨシュア~っ!」
そこにヨシュアを見つけたエステルとクロ―ゼが走って近付いた。
「エステル、クローゼ……」
「もう、あんまり心配かけないでよね!銀髪男を追いかけたっていうからビックリしちゃったじゃない。」
「あれ……。何で知ってるんだい?」
「ポーリィちゃんが教えてくれたんです。あの子も見ていたらしく……」
首を傾げているヨシュアにクロ―ゼが理由を答えた。
「そうか、鋭い子だな……。それらしい後姿を見かけてここまで追ってきたんだけど……。どうやら撒かれたみたいだ。」
「まあ……」
「ヨシュアを撒くなんて、そいつ、タダ者じゃないわね。いったい何者なんだろ?」
「……わからない。ただ、孤児院放火の犯人じゃなさそうな気がする。あくまで、僕のカンだけどね。」
「そっか……。それにしても……どうして1人で行動するかな?」
「本当にそうですよ。私たちに伝言するなりしてくれればいいのに……」
「ごめん。心配かけたみたいだね。」
2人に軽く責められたヨシュアは謝罪した。
「べ、別に心配してないってば。あくまでチームワークの大切さを指摘しているだけであって……」
素直に謝罪したヨシュアにエステルは照れながら答えた。
「うふふ、ウソばっかり。さっきは、あんなに慌てていたじゃないですか?」
「そ、そんな事ないってば。そういうクローゼだって真剣な顔してたクセにさ~。」
「そ、それは……」
「はは……。2人ともありがとう。」
2人の会話を聞き、ヨシュアは苦笑してお礼を言った。その時、校内アナウンスが流れた。

「……連絡します。劇の出演者とスタッフは講堂で準備を始めてください。繰り返します。劇の出演者とスタッフは講堂で準備を始めてください。」

「そっか……。もうそんな時間なんだ。」
「はい、衣装の準備をしたらすぐに開演になると思います。」
「よーし、それじゃあいよいよ出陣ってわけね!あ、銀髪男の方はどうしよう?」
「そうだね……。カルナさんに伝えて注意してもらうしかなさそうだ」
その後エステル達はカルナに銀髪の青年の情報を伝えた後、講堂に向かった……


後書き もったいぶるようですみませんが、次回はリフィアサイドの話です。ですから、みなさんお待ちかねのあのイベントは2日後に更新しますのでご了承下さい。……感想お待ちしております。



[25124] 第76話
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/11 00:28
~ジェニス王立学園・中庭~

「……連絡します。劇の出演者とスタッフは講堂で準備を始めてください。繰り返します。劇の出演者とスタッフは講堂で準備を始めてください。」

「………どうやら、時間のようです。お姉様方。」
一方中庭でリフィアやエヴリーヌといっしょに軽くお茶をしながらおしゃべりしていたプリネは放送を聞き、緊張した。
「うむ!悔いのないよう、精一杯頑張ってくるがよい!」
「頑張ってね、プリネ。応援してるよ。」
「フフ、2人ともありがとうございます。では……行ってきます!」
リフィアの応援の言葉に微笑んだプリネは講堂に向かった。
「………お兄ちゃん達、来なかったね。」
「うむ。………仕方ないと言えば仕方ないが、リウイやペテレーネにはぜひ観て貰いたかったのだがな……」
プリネの走って行く後ろ姿を見送り呟いたエヴリーヌの言葉にリフィアは残念そうな表情で溜息を吐き頷いた。

「………誰が来ないと言った。」
「あ………」
「その声は……!」
大好きな人物の声が自分達の背後から聞こえ、期待した目をしたエヴリーヌとリフィアが振り向くとリウイとティア、髪を下し眼鏡をかけたペテレーネがいた。
「久しいな。2人とも。」
「お2人ともお元気そうで何よりです。」
「フフ、プリネさんが出てる劇には私も興味があったのでこちらに来させていただきました。まさか、お父様とペテレーネ様もいらっしゃるとは思いませんでしたが……」
リウイとペテレーネは相変わらずの2人に口元に笑みを浮かべ、ティアはなぜリウイ達といっしょにいるかの理由を説明した。
「お兄ちゃん!」
「おお、リウイ!それにティア殿も!………ん?ペテレーネ、お前目が悪かったか?髪型もいつもと違うようだが……」
リウイ達の登場に喜びの声を上げたリフィアはいつもと違う姿のペテレーネに気付き首を傾げて尋ねた。
「あ、これは……その……変装です。」
「変装?なぜ、そんな事をする。」
「………無暗な混乱を起こさせないために一応念のためにさせた。………ペテレーネは日曜学校や新聞等で顔が割れているからな。」
「む?それを言ったら、リウイ。お前やティア殿もそうではないのか?」
リウイの説明にリフィアは不思議に思い、尋ねた。
「俺やティアは騒がれても対処できるが、ペテレーネには難しいだろうからな……」
「あう……すみません、リウイ様……」
「………別にいい。お前はこちらの世界に来るまで、公の場で皇族として出た事がなかったのだから仕方ない。ゆっくりでいいから慣れていけ。」
「リウイ様……」
自分を気遣うリウイの優しさにペテレーネは顔を赤くした。
「フフ、お2人とも相変わらず仲がよくていいですね。それよりお父様。そろそろ向かいませんか?劇ももうすぐ開演するようですし。」
「そうだな。……一番後ろから観るぞ。その方が騒がれる可能性も少ないしな。」
ティアの言葉に頷いたリウイはペテレーネやリフィア達を連れて講堂に向かった。

~ジェニス王立学園・講堂~

衣装に着替えたエステルは舞台脇からそっと観客達の様子を見た。
「うっわ~……。めちゃめちゃ人がいる~。あう~、何だか緊張してきた。」
「大丈夫ですよ、エステルさん。あれだけ練習したんですから。」
「ええ、いつも通りやれば失敗はありません。」
用意されてある椅子が観客達によってほぼ全て埋まっているのを確認し、緊張しているエステルに同じように衣装に着替えたクロ―ゼやプリネが元気づけた。
「2人の言う通りだよ。それに劇が始まったら他のことは気にならなくなるさ。君って、1つの事にしか集中できないタイプだからね。」
「むっ、言ってくれるじゃない。でもまあ、そのカッコじゃ何言われても腹は立たないけど♪」
「う………」
エステルはセシリア姫の衣装を着ているヨシュアを見て笑って答えた。まだ割りきれていないヨシュアはエステルのからかう言葉に珍しく反撃できなかった。
「はいはい。痴話ゲンカはそのくらいで。……今年の学園祭は大盛況よ。公爵だの市長だのお偉いさんがいるみたいだけど私たちが臆することはないわ。練習通りにやればいいとのこと。」
「俺たち自身の手でここまで盛り上げてきた学園祭だ……。最後まで、根性入れて花を咲かせてやるとしようぜ!」
「「「「「「「「「「お~!!!!!!」」」」」」」」」」
ジルとハンスの言葉にエステル達は手を天井に上げて乗った。そしていよいよ劇『白き花のマドリガル』が開演した………!



後書き 次回よりみなさんお待ちかねの『白き花のマドリガル』です。最後は驚く展開があるので楽しみに待っていて下さい。……感想お待ちしております。



[25124] ~白き花のマドリガル~前篇
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/11 06:52
~ジェニス王立学園・講堂~

ビ――――――!

劇が始まる音がなると講堂内は暗くなり、アナウンスが入った。

「……大変お待たせしました。ただ今より、生徒会が主催する史劇、『白き花のマドリガル』を上演します。皆様、最後までごゆっくりお楽しみください……」

「……ちょうどいい時に入って来れたようだな……」
そこにちょうどリウイ達が講堂に入って来た。
「……椅子はもう埋まっちゃっているよ、お兄ちゃん。」
「ふむ、ならば適当な場所で立って観るか。……2階に上がれるようだな。あそこなら観客達に気付かれにくいし、ちょうどいいな。」
そしてリウイ達は2階に移動して静かに劇が始まるのを待った。

しばらくすると語り手役のジルが出て来て劇のあらすじを語り始めた。

「時は七耀暦1100年代……。100年前のリベールではいまだ貴族制が残っていました。一方、商人たちを中心とした平民勢力の台頭も著しく……貴族勢力と平民勢力の対立は日増しに激化していったのです。王家と協会による仲裁も功を奏しませんでした……。そんな時代……。時の国王が病で崩御されて一年が過ぎたくらいの頃……。早春の晩、グランセル城の屋上にある空中庭園からこの物語が始まります……」
語り終わったジルは舞台脇に引き上げ、照明が舞台を照らした。そこにはヨシュア――セシリア姫が舞台の真中に立っていた。

「街の光は、人々の輝き……。あの1つ1つにそれぞれの幸せがあるのですね。ああ、それなのにわたくしは……」
「姫様……。こんな所にいらっしゃいましたか。」
「そろそろお休みくださいませ。あまり夜更かしをされてはお身体に障りますわ。」
憂いの表情をしているセシリアに侍女たちが近付いて来て気遣った。
「いいのです。わたくしなど病にかかれば……。そうすれば、このリベールの火種とならずに済むのですから。」
「まあ、どうかそんな事を仰らないでくださいまし!」
「姫様はリベールの至宝……。よき旦那様と結ばれて王国を統べる方なのですから。」
「わたくし、結婚などしません。亡きお父様の遺言とはいえこればかりはどうしても……」
「どうしてでございますか?あのように立派な求婚者が2人もいらっしゃるのに……」
「1人は公爵家の嫡男にして近衛騎士副団長のユリウス様……」
「もう1人は、平民出身ながら帝国との紛争で功績を挙げられた猛将オスカー様……」
「「はあ~、どちらも素敵ですわ♪」」
侍女たちは声を揃えて憧れの声を出した。
「…………………………………………。彼らが素晴らしい人物であるのはわたくしが一番良く知っています。」
セリフを言いながらセシリアは数歩前に出て、祈りの仕草をしてセリフを言った。
「ああ、オスカー、ユリウス……。わたくしは……どちらを選べばいいのでしょう?」

(まあ、あのお姫様は……ヨシュアさんではありませんか。ふふ、男女の配役が逆とは……。ジルもなかなか考えましたわね。)
(はい、お嬢様。ただヨシュア様はともかく他のメイドの方はちょっと……)
劇の配役の一部を見たメイベルは微笑み、リラは侍女役の男性達に眉をしかめた。そして舞台の人物が代わり、今度はエステル――紅騎士ユリウスとクロ―ゼ――蒼騎士オスカーが出て来た。

「覚えているか、オスカー?幼き日、棒切れを手にしてこの路地裏を駆け回った日々のことを。」
「ユリウス……。忘れることができようか。君と、セシリア様と無邪気に過ごしたあの日々……。かけがえのない自分の宝だ。」
「ふふ、あの時は驚いたものだ。お忍びで遊びに来ていたのが私だけではなかったとはな……」
「舞い散る桜のごとき可憐さと清水のごとき潔さを備えた少女……。セシリア様はまさに自分たちにとっての太陽だった。」
「だが、その輝きは日増しに翳りを帯びてきている。貴族勢力と平民勢力……。両者の対立は避けられぬ所まで来ている。姫の嘆きも無理はない……」
「そして……。ああ、何という事だろう。その嘆きを深くしているのが他ならぬ我々の存在だとは……」
「2人ともこんな所にいたか。」
「「団長!!」」
語り合っているユリウスとオスカーの所にプリネ――騎士団長ザムザが近付いて来た。
「ユリウス、公爵がお前を探していたぞ。」
「はっ……団長の手を煩わせてしまい……申し訳ありません!」
「オスカー、お前も議長がお呼びだったぞ。」
「……申し訳ございません。すぐに参ります。」
ザムザの言葉にユリウスとオスカーは敬礼して答えた。
「………今、国は2つに分かれている。お前達がこうして顔を合わせ密談しているのはお前達にとってあまりいいことではないぞ。」
ザムザは厳かな口調で2人に忠告した。
「………お言葉ですが、団長。私とオスカーは団長の元で共に剣を学んだ身……同門仲間と会話してはいけないのでしょうか?」
「……………………」
ユリウスの言葉にザムザは目を閉じて何も語らず去って行った。

(きゃあきゃあ!お姉ちゃんたちステキ!)
(く、悔しいけど……男よりも格好いいかも……)
(ママ、カッコイイ!)
(ご主人様、凛々しいです……)
(ふふ……。静かに見ましょうね)
エステル達の登場に小声で騒いでいる子供達にテレサは優しく諭した。

(あ……プリネです!リウイ様!)
(うむ!騎士団長役とは、さすが余の妹だな!)
(ん。エヴリーヌも鼻が高いよ。)
(わかっている、そうはしゃぐな。………それにしても騎士団長役か………中々役作りはできているようだな。役といい、あの衣装服を見てるとシルフィアを思い出すな……)
(フフ……シルフィア様を思い出させるほどの演技と言われれば、最高の褒め言葉ですよ、お父様。)
(…………………)
一方プリネの登場に小声ではしゃいでいたペテレーネ達を諭したリウイだったが、ティアの言葉に居心地が悪くなり押し黙った。そしてまた舞台は変わり、貴族勢力筆頭の公爵とユリウスの会話の場面になった。

「ユリウスよ、判っておろうな。これ以上、平民どもの増長を許すわけにはいかんのだ。ましてや、我らが主と仰ぐ者が平民出身となった日には……。伝統あるリベールの権威は地に落ちるであろう。」
「お言葉ですが、父上……。東に共和国が建国されてから10年ほどの年月が流れました。最早、平民勢力の台頭も時代の流れなのではないかと。」
厳かな口調で話す公爵にユリウスは歩み寄って答えた。
「おぞましいことを言うな!」
ユリウスの言葉に公爵は席を立って怒鳴った。
「何が自由か!何が平等か!高貴も下賤もひとまとめにして伝統を捨てるそのあさましさ。帝国の軍門に下った方がはるかにマシと言うものよ!」
公爵はユリウスに詰め寄って怒鳴り続けた。
「父上!」
公爵の言葉にユリウスは信じられない表情で叫んだ。

「ヒック……。公爵の言う事ももっともだ。平民どもに付け上がらせたら伝統は失われるばかりだからな。」
(閣下……。もう少し声を抑えめに……)
(…………………)
酔っているデュナンは劇の公爵の言葉に同意し、フィリップは慌てて諌めた。また、デュナンの言葉が聞こえたリウイは眉をひそめていた。そして舞台はオスカーと平民派代表の議長との会話の場面になった。

「オスカー君。君には期待しているよ王家さえ味方に付けられれば貴族派を抑えることができる。そうすれば、我々平民派が名実ともに主導権を握れるのだ。」
議長は不敵な笑いをしながら言った。
「しかし議長……。自分は納得できません。このような政治の駆け引きにセシリア様を利用するなど……」
「フフ、なんとも無欲な事だな。いくら名目上の地位とはいえ王となるチャンスだというのに。君が拒否するというのであれば流血の革命が起きるというだけ……。貴族はもちろん、王族の方々にも歴史の闇に消えて頂くだけのことだ。」
「議長!」
議長の言葉にオスカーは叫んだ。

(フム、大したものだ。時代考証もしっかりしている。最初、男女の役が逆と聞いていかがなものかと思いましたがな。)
(ふふ、生徒たち全員の努力のたまものでしょうな。それと協力をしてくれた若き遊撃士たちの……)
ダルモアの評価する言葉にコリンズは微笑みながら頷いた。そして舞台はオスカー一人の場面になった。

「流血の革命だけは起こさせるわけにはいかない……。ユリウスもセシリア様も死なせるわけにはいかない……。自分は……いったいどうしたらいいんだ。」
悩むオスカーのところに酔っ払いが現れた。
「ういっく……。ううう……だめだ……気持ち悪い……」
「おっと、大丈夫か?あまり飲み過ぎるものではないな。いくら春とはいえこんな所で寝たら風邪を引くぞ。」
「うう……親切な騎士様……どうもありがとうごぜえますだ。」
「騎士様はやめてくれ……。自分は大した人物ではない。何をすべきかも判らずに道に迷うだけの未熟者だ……」
酔っ払いの感謝の言葉にオスカーは暗い表情で答えた。
「まったくその通りだな。」
「なに?」
その時、酔っ払いがオスカーの腕をナイフで切った。
「くっ、利き腕が……」
オスカーは切られた腕を抑えて一歩下がった。
「けけけ……。こいつには痺れ薬が塗ってある。大人しく観念してもらおうか。」
「貴様……。何者かに雇われた刺客か!?」
「あんたが目障りというさる高貴な方のご命令でなぁ。前払いも気前が良かったし、てめぇには死んでもらうぜっ!」

(なーるほど……。なかなか見せてくれるじゃねえの。となるとこの次の展開は……。……いかんいかん。危うく仕事を忘れるとこだったぜ。)
劇を見ていたナイアルは生徒達の演技や話の作りの上手さに感心した後、ある人物の監視を続けた。さらに舞台は変わりユリウスのセシリアへの求婚の場面に写った。

「久しぶりですね、姫。」
「ユリウス……。本当に久しぶりです……。今日は……オスカーと一緒ではないのですね。お父様がご存命だったころ……宮廷であなた達が談笑するさまは侍女たちの憧れの的でしたのに。」
「……姫もご存じのように王国は存亡の危機を迎えています。私と彼が親しくすることは最早、かなわぬものかと……」
「…………………………………………」
ユリウスの言葉にセシリアは目を伏せた。
「今日は姫に、あることをお願いしたく参上しました。」
「お願い……ですか?」
「私とオスカー……。近衛騎士団長と若き猛将との決闘を許していただきたいのです。そして勝者には……姫の夫たる幸運をお与えください。」
「!!!」
ユリウスの求婚にセシリアは目を見開いた。
「………失礼します。」
そしてユリウスは一礼し、去った。
「………ああ。……とうとうこの日が来てしまったのね……どうすれば………」
一人になったセシリアは悲哀の表情になった。そこに妖精役のパズモとマーリオンが舞台脇から現れた。
「まあ、あなた達はもしかして妖精さん!?」
パズモ達の登場にセシリアは驚いた。
(さて……と。私も演技をしますか。)
パズモはセシリアの周囲を飛び回り、セシリアの肩に止まった。
「セシリア様……私達妖精は……あなた達がまだ子供の頃から……ずっと見てました。あなたの笑顔は……私達妖精も……何度元気づけられ事か。……今度は私達が……恩を返す番です。……どうかセシリア様が……今したい行動を……おっしゃって下さい。」
「………………ありがとう。じゃあ、一つお願いしていいかしら?」
マーリオンの言葉にセシリアは微笑みながら答えた。

(あれは一体………)
(わぁ……妖精さんだ!)
(学園長……あの生物達は一体……)
(………わかりませぬ。お伽噺等で出てくる妖精のようにも見えますが……そう言えばジル君が今回の劇は驚くところがあるから当日まで秘密と言っていたが、まさか妖精達を劇に出すとは……一体どうやったんだ?)
パズモとマーリオンの登場に講堂内は静かに騒ぎ出し、ダルモアの質問にコリンズは困惑しながら答えた。
(フッ………まさか、マーリオンまで参加しているとは思わなかったな………)
小声で囁き合う観客達の声を気にせず、リウイは口元に笑みを浮かべた。

そしていよいよ劇『白き花のマドリガル』は終盤に差し掛かった………



後書き 感想お待ちしております。



[25124] ~白き花のマドリガル~中篇(前半)
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/12 11:12
~ジェニス王立学園・講堂~

舞台の照明がいったん消えて、語り手のジルを照らした。
「貴族勢力と平民勢力の争いに巻き込まれるようにして……親友同士だった2人の騎士はついに決闘することになりました。彼らの決意を悟った姫はもはや何も言えませんでした。そして決闘の日……。王都の王立競技場に2人の騎士の姿がありました。貴族、平民、中立勢力など大勢の人々が見届ける中……。セシリア姫の姿だけがそこには見られませんでした。」
語り終わったジルはまた舞台脇に引き上げ、照明が舞台を照らした。そこにはたくさんの人物達がユリウスとオスカー、そして審判役のザムザを見ていた。

「わが友よ。こうなれば是非もない……。我々は、いつか雌雄を決する運命にあったのだ。抜け!互いの背負うもののために!何よりも愛しき姫のために!」
紅騎士ユリウスはレイピアを抜いてセリフを言った。
「運命とは自らの手で切り拓くもの……。背負うべき立場も姫の微笑みも、今は遠い……」
蒼騎士オスカーは辛そうな表情でセリフを言って剣も抜かず立ち尽くした。
「臆したか、オスカー!」
「だが、この身に駆け抜ける狂おしいまでの情熱は何だ?自分もまた、本気になった君と戦いたくて仕方ないらしい……」
自分を叱るユリウスに答えるかのようにオスカーはレイピアを抜いて構えた。
「革命という名の猛き嵐が全てを呑み込むその前に……。剣をもって運命を決するべし!」
オスカーがレイピア構えるのを見て、ユリウスも構えた。
「おお、彼らの誇り高き二人の魂、女神達もご照覧あれ!!女神達よ……誇り高い2人の剣士達にどうか祝福を!………2人とも、用意はいいな!?」
騎士団長ザムザがセリフを言いながら片手を天井に向けて上げ、ユリウスとオスカーの顔を順番に見た。
「はっ!」
「応!」
「それでは………始めっ!」
ザムザの声と動作を合図にユリウスとオスカーは剣を交えた。

キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!

2人は攻撃しては防御し、お互いの隙を狙って攻撃したがどちらの攻撃もレイピアで防御され一撃が入らなかった。

(……ほう。かの『剣聖』の娘だけあって中々筋がいいな。得意な武器でないにも関わらずあそこまで動けるとは……。それにあの蒼騎士役をしている少女、あの者は確か………まあいい、今は一人の客として観させてもらおうか。)
リウイはエステルの剣技に感心した後、クロ―ゼの顔をよく見て、クロ―ゼの正体がわかったリウイはなぜクロ―ゼが学園にいるのか首を傾げたが劇を観る事を優先し、気にしなかった。

「やるな、ユリウス……」
「それはこちらの台詞だ。だが、どうやら……いまだ迷いがあるようだな!」
2人は剣を交えながら語った。そしてユリウスが連続で攻撃を仕掛け、オスカーは攻撃を防ぐのに精一杯で反撃ができなかった。
「くっ……。おおおおおおおおおっ!」
オスカーは雄叫びを上げて何度も攻撃したが回避されたり、レイピアで防がれた。
「さすがだユリウス……。なんと華麗な剣捌きな事か。く……」
「オスカー、お前……。腕にケガをしているのか!?」
利き腕を抑えたオスカーにユリウスは不審に思った後、ある事に気付き叫んだ。
「問題ない……カスリ傷だ。」
「いまだ我々の剣は互いを傷つけていない筈……。ま、まさか決闘の前に……」
強がるオスカーにユリウスは信じられない表情をした。その時控えていた議長が公爵に抗議した。
「卑怯だぞ、公爵!貴公のはかりごとか!?」
「ふふふ……言いがかりは止めてもらおうか。私の差し金という証拠はあるのか?」
議長の抗議の言葉に公爵は余裕の笑みを浮かべて答えた。
「父上……何ということを……!」
「いいのだ、ユリウス。これも自分の未熟さが招いた事。それにこの程度のケガ、戦場では当たり前のことだろう?」
「………………………………」
怒りを抑えているユリウスにオスカーは微笑みながら諭した。オスカーの微笑みを見たユリウスはかける言葉がなかった。

「次の一撃で全てを決しよう。自分は……君を殺すつもりで行く。」
「オスカー、お前……。わかった……。私も次の一撃に全てを賭ける。」
オスカーの決意にユリウスは静かに答えた。そして2人は同時に後ろに飛び退いてレイピアを試合前の構えにした。
「更なる生と、姫君の笑顔。そして王国の未来さえも……。生き残った者が全ての責任を背負うのだ。」
「そして敗れた者は魂となって見守っていく……。それもまた騎士の誇りだろう。」
ユリウスの言葉にオスカーは頷いた。
「ふふ、違いない。………………………………」
「………………………………」
そして2人は互いに目を閉じた後同時に目を見開いて力を溜めた。
「はあああああー!」
「おおおおおおー!」
「「ハァッ!!」」
力を溜めた2人は両者同時に仕掛けた。その時

「だめ――――――――――――っ!!」
セシリアが間に入った。
「あ……」
「…………姫…………?」
「セ…………シリア……?」
2人の最後の一撃を受けてしまったセシリアは体をくずした。セシリアに気付いた2人は信じられない表情をした後、セシリアに駆け寄った。
「ひ、姫――――――ッ!」
「セシリア、どうして……。君は欠席していたはずでは……それにこの決闘場には私達以外入らない用、兵達が封鎖していたのに……」
セシリアの体を支えながら語りかけるオスカーにセシリアは優しく笑って答えた。
「よ、よかった……。オスカー、ユリウス……。あなたたちの決闘なんて見たくありませんでしたが……。どうしても心配で……戦うのを止めて欲しくて……。ああ、間に合ってよかった……妖精……さん……私の……願い……聞いてくれて……ありがとう……」
「セシリア……様……」
(ヨシュアったら、演技が本当に上手いわね……)
セシリアのために兵達を気絶させた妖精達が悲しそうな表情でセシリアを見た。
「セシリア……」
「ひ、姫……」
ユリウスとオスカーはセシリアにかける言葉がなかった。そしてセシリアは傷ついた体でその場にいる全員に語った。
「皆も……聞いてください……。わたくしに免じて……どうか争いは止めてください……。皆……リベールの地を愛する大切な……仲間ではありませんか……。ただ……少しばかり……愛し方が違っただけのこと……。手を取り合えば……必ず分かり合えるはずです……」
「お、王女殿下……」
「もう……それ以上は仰いますな……」
セシリアの言葉に公爵と議長は膝を折った。

「ああ……目がかすんで……。ねえ……2人とも……そこに……いますか……?」
「はい……」
「君の側にいる……」
ユリウスとオスカーはセシリアの手を握った。
「不思議……あの風景が浮かんできます……。幼い頃……お城を抜け出して遊びに行った……路地裏の……。オスカーも……ユリウスも……あんなに楽しそうに笑って……。わたくしは……2人の笑顔が……だいすき……。だ……から……どうか……。……いつも……笑って……いて……。………………………………」
そしてセシリアは幸せそうな表情で力尽きたようにセシリアの腕から力が抜けた。
「姫……?嘘でしょう、姫!頼むから嘘だと言ってくれええ!」
「セシリア……自分は……。………………………………」
ユリウスはセシリアの身体を何度も揺すって呼びかけ、オスカーはセシリアの身体を抱きしめた。
「姫様、おかわいそうに……」
「ああ、どうしてこんな事に……」
侍女たちは顔を伏せて悲しんだ。
「ク………私は結局何もできず、姫の命をお守りすることすらできなかった………自分が情けない……!騎士団長失格だ……!」
ザムザは無念そうな表情で悲しんだ。
「殿下は命を捨ててまで我々の争いをお止めになった……。その気高さと較べたら……貴族の誇りなど如何ほどの物か……。そもそも我々が争わなければこんな事にならなかったのに……」
「人は、いつも手遅れになってから己の過ちに気がつくもの……。これも魂と肉体に縛られた人の子としての宿命か……。エイドス、イーリュン、アーライナよ、大いなる女神達。お恨み申し上げますぞ……」
自分達の今までの行動でセシリアを苦しめた事を反省する公爵に同意した議長は空に向かって呟いた。

「まだ……判っていないようですね。」
その時、空が明るく照らし出され、3つの光が出た。
「……確かに私はあなたたちに器としての肉体を与えました。しかし、人の子の魂はもっと気高く自由であれるはず。それをおとしめているのは他ならぬ、あなたたち自身です。」
「ま、眩しい……」
「何て綺麗な声……」
「おお……なんたること!方々、畏れ多くも女神達が降臨なさいましたぞ!」
見守っている貴族の娘達は感動し、王都の司教が叫んだ。また、ユリウスとオスカーを除いたその場にいる全ての者達が空を見上げた。
「これが女神……」
「なんという神々しさだ……」
ユリウスとオスカーも空を見上げた。
「若き騎士たちよ。あなたたちの勝負、私も見させてもらいました。なかなかの勇壮さでしたが……肝心なものが欠けていましたね。」
「仰るとおりです……」
「全ては自分たちの未熟さが招いたこと……」
女神の言葉にユリウスとオスカーは無念そうに語った。

「議長よ……。あなたは、身分を憎むあまり貴族や王族が、同じ人である事を忘れてはいませんでしたか?」
「……面目次第もありません。」
「そして公爵よ……。あなたの罪は、あなた自身が一番良く判っているはずですね?」
「………………………………」
女神の一人、エイドスの言葉を受けた2人は自戒した。
「そして、今回の事態を傍観するだけだった者たち……。あなたたちもまた大切なものがかけていたはず。胸に手を当てて考えてごらんなさい。」
「「「「「「………………………………」」」」」
侍女や貴族、その場にいる全員が黙って考え込んだ。
「ふふ、それぞれの心に思い当たる所があるようですね。ならば、リベールにはまだ未来が残されているでしょう。今日という日のことを決して忘れる事がないように……イーリュン殿、アーライナ殿……今だけ力をお貸し下さい……」
「わかりました……」
「………仕方ない。今回だけ特別に我が”混沌”が起こす奇跡を使ってやろう……」
そして女神達の光は消えて行った。
「ああ……」
「消えてしまわれた……」
「…………ん……」
女神達がいなくなった事に肩を落とした侍女たちだったが、その時セシリアが声を出し起き上がった。

「あら……ここは…………」
「ひ、姫!?」
「セシリア!?」
「セシリア……様……!」
(さてと……長かった劇もこれで終りね。)
目覚めたセシリアにユリウスとオスカーは驚いた表情で呼びかけ、マーリオンはセシリアに駆け寄り、パズモはセシリアの肩に止まって心配げな表情でセシリアを見た。
「まあ……ユリウス、オスカー……それに妖精さん達も。まさか、あなたたちまで天国に来てしまったのですか?」
「「「「………………」」」」
セシリア以外は驚いて言葉が出なかった。
「こ、これは……。これは紛う方なき奇跡ですぞ!」
セシリアが生き返った事に司教は驚愕した。そして侍女たちがセシリアに駆け寄った。
「姫様~!」
「本当に、本当に良かった!!」
「きゃっ……。どうしたのです2人とも……。あら……公爵……議長までも……。わたくし……死んだはずでは……」

(まあ………エイドスだけでなく、我が主神イーリュンやアーライナまでお力に……フフ、お芝居とは言え違う考えを持つ女神達が力を合わせるなんて素敵ですね、ペテレーネ様。)
(ええ……幻燐戦争の時、ティナさんといっしょに傷ついた方達を癒すために戦場を駆け回ったあの頃を思い出します……)
ティアとペテレーネは劇の内容の奇跡に微笑みを浮かべた。

「おお、女神達よ!よくぞリベールの至宝を我らにお返しくださった!」
「大いなる慈悲に感謝しますぞ!」
公爵と議長は天を仰いだ。
「オスカー、ユリウス……。あの……どうなっているんでしょう?」
自分だけ事情がわかっていないセシリアは2人に尋ねた。
「セシリア様……。もう心配することはありません。永きに渡る対立は終わり……全てが良い方向に流れるでしょう。」
「甘いな、オスカー。我々の勝負の決着はまだ付いていないはずだろう?」
「ユリウス……」
「そんな……。まだ戦うというのですか?」
また決闘をしそうな言葉を聞いたセシリアは不安そうな表情をした。そしてユリウスは静かに首を横に振って語った。
「いえ……。今回の勝負はここまでです。何せ、そこにいる大馬鹿者が利き腕をケガしておりますゆえ。しかし、決闘騒ぎまで起こして勝者がいないのも恰好が付かない。ならば、ハンデを乗り越えて互角の勝負をした者に勝利を!」
「待て、ユリウス!」
「勘違いするな、オスカー。姫をあきらめたわけではないぞ。お前の傷が癒えたら、今度は木剣で決着をつけようではないか。幼き日のように、心ゆくまでな。」
「そうか……。ふふ……わかった、受けて立とう。」
ユリウスの言葉に驚いたオスカーだったが、不敵な笑みを浮かべて答えたユリウスに微笑んで頷いた。
「もう、2人とも……。わたくしの意見は無視ですか?」
「そ、そういうわけではありませんが……」
「ですが、姫……。今日の所は勝者へのキスを。皆がそれを期待しております。」
「……わかりました。」
そしてセシリアがオスカーに近付き、キスをした。
「きゃあきゃあ♪」
「お2人ともお似合いです♪」
侍女たちはセシリアのキスしているところをはやしたてた。
「女神達も照覧あれ!今日という良き日がいつまでも続きますように!」
「リベールに永遠の平和を!」
「リベールに永遠の栄光を!」
「リベールに永遠の誇りを!」
ユリウスが叫んだ後、公爵や議長、ザムザがそれぞれ叫んだ。その時………!



後書き 次回は驚く展開があるので楽しみにして下さい。……感想お待ちしております。



[25124] ~白き花のマドリガル~中篇(後半)
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/13 08:35
原作知っている人は前話で劇は終わっているはずなのに、まだ続きがある事に首を傾げていると思いますが今回の話を見ればわかります。



~ジェニス王立学園・講堂~

「ヒック……ふざけるな!」
「「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」」
一番前の席で見ていた酔っているデュナンが不愉快そうな表情で叫び、舞台に上がって来た。いきなり現れた乱入者に生徒や観客達は驚いた。
「何故平民ごときに勝利を譲らなければならない!王族であるこの私は貴様のその判断、認めんぞ!ヒック!」
「な、な…………」
酔ってエステルを指差して叫ぶデュナンにエステルはあまりにも驚いて声が出なかった。そこにフィリップが慌てた様子でその場で立ち上がってデュナンに叫んだ。
「か、閣下!これはお芝居です!これ以上ご自分の誇りを汚さないで下さい!」
「黙れ、フィリップ!!親衛隊よ、であえい!!」
フィリップの言葉を無視したデュナンは自分の護衛達を呼んだ。呼ばれた親衛隊達は困惑しながら舞台に上がって来た。
「ヒック……この愚か者や周りの者達に、この私に代わって正義の鉄槌を降せよ!」
「「「か、閣下!それはいくらなんでも!」」」
デュナンの言葉に親衛達達は信じられない表情で反論した。

「デュ、デュナン公爵!?」
「なんという事を……!」
デュナンの行動にダルモアは驚き、コリンズは信じられない表情をした。
(おいおいおい……!まさか学園祭でこんなスクープが出るとは思わなかったぜ……!カメラは……クソ!そういえば、講堂に入場した時に劇の間は撮影禁止だからって預けられたんだった!これじゃ、記事にできねえ……!)
(あの方は……!どこまで閣下を困らせるつもり……!)
一方ナイアルは驚いた後、記事の証拠にするためにカメラを探したが持って来てないことに気付き悔しがり、観客の一人として来ていたカノーネは表情を歪めた。

(なっ………!あの……放蕩者が……!プリネやエステルとヨシュア、そして生徒達がお互い協力しあい、成功したせっかくの劇を穢しおって………!)
(……………あいつ、殺していい?お兄ちゃん……!)
(………落ち着いて下さい、お二人とも!民衆や生徒達の目の前で血の雨を降らすつもりですか!?)
(しかし、ティア殿……!このまま指を加えて観ている訳には……!)
観客達がざわめいている中、デュナンの行動に驚き、怒りを抱いたリフィアとエヴリーヌはそれぞれの武器を出して、いつでもデュナン達を攻撃できる態勢に構えたがティアに諌められた。
(………………ペテレーネ、ティア。お前達はリフィア達を抑えていろ。)
(え!?)
(何をなさるつもりですか、お父様!?)
リウイの言葉にペテレーネとティアは驚き、リウイが何を考えているのか尋ねた。
(………目には目を、歯には歯を……だ。何、殺したりはしない。王として少し灸を据えてやるだけだ。)
(あ、リウイ様!)
ペテレーネの驚きの声を背中に受けた後リウイは2階から飛び降り、愛剣をいつでも抜けるような態勢で気配を消して舞台へ走った。

「さあ、まずはあのユリウスとやらを痛い目にあわすがよい!」
「し、しかし……!」
「つべこべ言わずに行け!王族の命令に逆らう気か!?」
「く………(すまない、生徒達!命令に逆らえない自分達を存分に呪ってくれ!……申し訳御座いません、ユリア隊長!)ハッ!」
デュナンの命令に逆らえない親衛隊の一人が悔しそうな表情で鞘からレイピアを抜き、エステルに襲いかかった。
「くっ!何がなんだかわかんないけど、やってやるわ!」
「エステル!」
「エステルさん!」
(エステルさんをやらせはしません!)
レイピアを構えて迎撃の態勢に移ったエステルにヨシュアやクロ―ゼは役を忘れて叫び、プリネは競技用のレイピアを構えてエステルに襲いかかった親衛隊員を攻撃しようとしたその時

キン!

舞台に乱入したリウイが愛剣で親衛隊の攻撃を防いだ。
「な!?」
「え……」
リウイの登場に攻撃を防がれた親衛隊員は驚き、エステルはレイピアを構えたまま呆けた。
「フッ!」
「うわ!?」
リウイと剣を交えた親衛隊員は鍔迫り合いに負けて吹き飛ばされた。
(お、お父様!どうしてここに……!?)
父の背中を見たプリネは、一目でリウイとわかり、驚いた。
「………プリネ。舞台にいる生徒達全員を下がらせろ。」
驚いているプリネにリウイは静かに言った。
「(お父様………。………せめて、滅茶苦茶になった劇の雰囲気を戻さないと!………確か『剣帝ザムザ』の主人公のライバル役がいましたね。……よし、そのライバル役の名前でこの場を誤魔化しましょう。……お父様やエステルさん達が私の意図に気付いてくれればいいのですが……)おお!貴公は誰にも仕えない自由騎士として名高い黒騎士ミリガン!まさか、このような窮地に助太刀してくれるとは……ありがたい!」
なんとか観客達に今の状況も演出であることに思わせるために、プリネは一瞬で考えてリウイの役者名とセリフを言った。そしてプリネの意図に気付いたクロ―ゼとヨシュアが即座に思い付いたセリフで劇の雰囲気を戻そうとした。
「なんと……!騎士団長以上の強さと言われるあの”黒騎士”!!」
「まあ……!どうしてリベールに……?」
セシリア姫の口調でヨシュアはリウイが自分達の意図に気付いてくれる事を祈ってリウイに問いかけた。
「(………フッ、なるほど。今の状況すら利用して劇を成功させるつもりか。……プリネも考えたな。………いいだろう、ここは父親として娘の願いを聞いてやるか……)…………長年追っていたさまざまな国で王家を語る偽物の集団の足取りがようやく掴めたから、今ここにいる……それだけだ。」
プリネ達の意図を理解したリウイは一瞬口元に笑みを浮かべた後、厳かな口調で言った。
「なっ!?この私が偽物だと!?」
リウイに偽物と言われたデュナンは顔を真っ赤にして怒った。

(な~んだ。芝居だったのか。ビックリしたぜ~。)
(………本当にお芝居かしら?)
(ママ……)
(ご主人様……)
プリネ達のフォローのお陰で孤児院の子供達はある程度信じたが、マリィは疑い、ミントとツーヤは心配した。
(あら?あの方は………!!)
(リ、リウイ皇帝陛下!?まさか、来ていらしていたとは……!)
(なんと………!)
(ん……?……!?おいおいおいおい!!なんであんな大物があそこにいるんだ!?)
リウイの乱入に驚いた後、リウイの姿を凝視したメイベルやコリンズにダルモア、ナイアルは驚愕した。

「(小父様………すみませんが、今回はあの子達のために心を鬼にさせてもらいます……!それにさすがに私自身も許せません……!)なんと!そのような輩がいたとは……!王国を守る騎士の一人として援護致します!」
「いや……オスカー、お前は利き腕を負傷している。ミリガン殿の足手まといになるからやめておけ。」
「例え利き腕を負傷していたとしても、自分は戦えます!」
親衛隊員達やデュナンをリウイと共に迎撃しようと思ったクロ―ゼはレイピアを抜いて言ったが、プリネの言葉に驚いた。
「オスカー、お前は騎士団長と共にこの場にいる全員を避難させろ。」
「ユリウス!?お前まで何を言う!」
ようやく事情がわかったエステルは自分なりに考えたセリフを言って、クロ―ゼを驚かせた。
「……賊は姫様や父上に議長、そして民達を狙っているのだ。この場で守れるのは自分とオスカー、そして騎士団長だけだ。騎士団長だけでは人手が足りない。だから、オスカー!お前は騎士団長と共に姫様や民達を護れ!ここは自分と黒騎士殿が抑える!」
「ユリウス……わかった!皆!自分と騎士団長に着いて来てくれ!命に代えても皆の命を自分が守る!」」
自分達を避難させようとしているエステルの意図を理解したクロ―ゼは迷ったが、エステル達に任せる事を決断して、生徒達やパズモ達に呼びかけた。
「ユリウス!……気をつけろよ!」
「オスカー、お前もな!……団長、お願いします!」
「わかった。……さあ、姫様。ここはユリウスに任せて非難を……」
プリネはヨシュアに舞台脇に引っ込むように促した。
「ユリウス!」
「……心配なさらないで下さい、姫。このユリウス、賊ごときでやられなどしません。必ず姫の元に参ります。」
「……約束……ですよ。」
そしてエステル、プリネ、リウイ以外は全員舞台脇に引っ込んだ。

「ミリガン殿!……こちらの剣を!」
プリネは自分が持っている競技用のレイピアを鞘に収めたままリウイに投げた。投げられた鞘をリウイは振り向いて取った。
「私は予備の剣があります!ですから私に代わり、賊達に裁きを!」
「(………フッ、なるほど。競技用で刃が落とされているから多少本気を出しても重傷を負わす心配はないな。観客達の事も考えての上とは、なんとしても劇を成功させたいようだな。)ありがたく、団長殿の剣を今だけは使わせていただく。だから、団長殿は姫や民達の守りに専念するがよい。」
「はい!」
そしてプリネも舞台脇に引っ込んだ。リウイは、愛剣を鞘に収め競技用のレイピアを鞘から抜いて構えた。エステルもリウイの横に並ぶような位置でレイピアを構えた。そしてエステルは小声でリウイに話しかけた。
(どこの誰だか知らないけど、あたしも戦わせてもらうわ!)
(……こんな雑魚共、俺一人で十分だ。なぜお前も戦う?)
(そんなの決まっているじゃない!今日までみんなが楽しみにしていたあたし達の劇を滅茶苦茶にしたあのオジサンが許せないに決まっているでしょ!一発ブッ飛ばさないと気がすまないわ!)
(………そうか。武器はそれで大丈夫か?)
(う……実はちょっと自信がなかったり……父さんやプリネに習ってある程度はできるけど、棒とは勝手が違うし……カーッとなってついこの場に留まっちゃったのよね………)
リウイの言葉にエステルは図星をさされたかのような表情で答えた。
(………仕方ない。俺が戦いながら指示する。お前はそれに従って戦え。)
(え!?あなたってそんな事できるの!?もしかして凄く強い??)
(………話は終わりだ。俺は2人を相手にしてやる。お前は残りの1人を相手しろ。)
(あ、ちょっと!あなたの名前は?)
(何?この場で答える必要はないだろう。)
エステルの言葉にリウイは疑問に思って聞き返した。

(いっしょに戦う仲間なんだから、仲間の名前を知ってて当然でしょ?あたしの名前はエステル!エステル・ブライトよ!あなたは?)
(…………………リウイ。そう呼んでもらって構わん。)
「(リウイね!(あれ?な~んか、どっかで聞いた事があるような……?まあいいわ!))さあ、賊共をリベールから追い出しましょう、黒騎士殿!!」
「ああ。………行くぞ!」
今ここに少女と闇の英雄王の運命が交わり、そして2人の共闘が始まった…………!




後書き という事でみなさんもいつかは期待していたであろう、リウイ、エステルの両雄共闘です!!いやぁ~自分で書いててワクワクしました!……感想お待ちしております。



[25124] ~白き花のマドリガル~後篇
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/14 09:12
今回のイベントバトルのBGMは”銀の意思”か"Formidable Enemy”、Inevitable Sturggle”が流れていると思って下さい。



 
王室親衛隊員達VSリウイとエステル。エステルにとっては慣れていない武器と初めて共に戦う仲間であり、どんな戦い方をするかわからないリウイがいる上、数も敵が上の状況で戦いは厳しいと思われた。しかし

~ジェニス王立学園・講堂~

「「喰らえ!」」
「甘い!」
「「うわ!?」」
2対1という普通なら不利な状況でリウイは余裕の表情で親衛隊員達の攻撃を捌き、吹っ飛ばした。さらに
「左を狙っての突きがくるぞ!身体を右に傾けろ!」
「なっ!?」
「了解!」
親衛隊員の攻撃を読みとり、エステルに回避の指示をした後、反撃の指示をした。
「その状態から斬り上げろ!」
「ヤァッ!」
「グ……!」
エステルの反撃に親衛隊員は驚き、後退した。
「すかさず突けっ!」
「はっ!」
「くっ………!」
崩れた態勢を直そうとした所にリウイの指示によってのエステルの攻撃に親衛隊員は驚いて、剣で防御した。

「くっ……挟み撃ちして交互に攻撃するぞ!」
「ああ!」
リウイの強さに2人の親衛隊員は素早くリウイを挟み撃ちした。そしてリウイの正面に移動した親衛隊員が攻撃を仕掛けた。
「セイッ!」
「フッ!」
「そこだっ!」
正面からの攻撃を防御しているリウイに背後から襲った。しかし
「狙いは悪くない。……しかし相手が悪かったな!そこだっ!」
「カハッ!?」
武器を持っていない手で競技用のレイピアを収めていた鞘で背後の敵の腹を相手の勢いを利用して突きさした。勢いよく襲いかかった背後の親衛隊員は自らの勢いのよさのせいで腹に強烈な一撃が入り、剣を落として蹲った。そしてリウイは落とした剣を足で舞台脇まで蹴り、目の前の敵を無力化するためにまず敵の武器の一点に集中攻撃した。
「行くぞ……!」
「うわわわ!(は、速すぎて攻撃が見えない……!)」
リウイの神速の連続突きに親衛隊員は慌てて防御したが、攻撃が見切れずリウイの攻撃によって自分に伝わる衝撃に手が踊らさられた。その隙を逃さずリウイは持っている武器に闘気を込めて技を放った!
「フェヒテンアルザ!!」
「なっ……!剣が……!」
リウイの一点集中攻撃に耐えられず、親衛隊員の持っていたレイピアが折れて武器として使い物にならなくなった。武器が壊れて驚いている親衛隊員にリウイはすかさず強烈一撃を放った!
「セアッ!」
「ガ………」
高威力を持つ突剣技――フェヒテンケニヒを正面から受けてしまった親衛隊員はその場でくずれ落ち、二度と立ち上がらなかった。そしてリウイは武器に魔力を纏わせて魔法剣を自分が相手した2人に放った!
「風よ!ウィンディング!!」
「「ぐわっ!?」」
風属性の魔法剣を受けた2人は悲鳴を上げて、デュナンの足元まで吹っ飛んだ。
「ひっ……!な、何をしているのだ!お前達は親衛隊員だろ!なんとかしろ!」
自分の足元まで吹っ飛ばされた2人にデュナンは悲鳴を上げて、残りの一人に文句を言った。
「か、閣下……!そんな無茶な……」
「隙あり!」
「うわ!?しまった!!」
エステルの攻撃をレイピアで防いでいた最後の一人はデュナンの言葉に顔だけデュナンに向けて答えた。そしてエステルは防御が疎かになった親衛隊員を逃さず、力を入れて親衛隊員をのけ反らせ、ある構えをした。
「確か、プリネがやっているクラフトってこんな構えだったわね。……リウイって人の技を見たお陰でちょっと思いついたわ……いっちょ、やってみますか!」
共に戦っているプリネのクラフトの構えを思い出し、リウイのクラフトを真近で見たエステルは試しに先ほどのリウイが放ったクラフト――フェヒテンアルザの攻撃前に似た構えをした。

(え!?あの構えは!)
舞台脇で生徒達といっしょにエステルとリウイの共闘を見守っていたプリネはエステルの構えを見て驚いた。
(おいおい……王国軍の中でも精鋭の強さと言われる親衛隊員があんなにあっさりやられるとか、エステルの横で戦っている人って何者だ!?)
一方ハンスはリウイの強さを目にして驚愕した。
(……………………まさか、あの方が学園祭に来てらしてたなんて………………この後、どうすれば……………)
リウイの正体がすぐにわかったクロ―ゼは驚いた後、今後の事を考え不安そうな表情をした。

「行くわよ……!フェヒテンイング!!」
「うわっ!?」
闘気を纏った連続攻撃のクラフトであり、メンフィル皇家に伝わる皇技――フェヒテンイングをエステルは最後の一人に向かって放った。親衛隊員はエステルの闘気の籠ったクラフトを受けて膝をついた。そこを逃さず、エステルはさらに弱めの威力に調節して、レイピアに暗黒魔術を纏わせた。
「吹っ飛べ!黒の衝撃!」
「ぐはっ!」
エステルがレイピアを一振りすると、レイピアに纏っていた暗黒魔術が親衛隊員を襲い、デュナンの足元まで吹っ飛ばした!
「ひ、ひいいい………!」
自分の護衛が全てやられた事を理解したデュナンは逃げようとしたが
「部下をほおって、どこに行く気だ?」
「ひ!い、いつの間に!?」
いつの間にかデュナンの背後にいたリウイにぶつかり、デュナンは腰を抜かしてうめいている親衛隊達のところまで情けない姿で後退した。

「さ~てと。邪魔者はそろそろ退散してもらうわよ……!行くわよ、リウイ!」
「………いいだろう!」
観客に聞こえないぐらいの声の大きさのエステルの呼びかけに頷いたリウイは、やや離れた場所で魔法剣を放った!
「舞い上がれ!!」
「「「うわぁっ!?」」」
「お、おわ~!?」
魔法剣によってできた風がデュナン達を襲い、デュナン達を空へ舞い上げた。
「せいっ!」
「「「「ガハッ!?」」」」
舞い上がり、落ちて来たデュナン達にエステルは飛び上がって、クラフト――捻糸棍を放つ用法で剣で闘気でできた衝撃波をデュナン達の頭上から放ち、デュナン達を叩き落とした!そして叩き落とされたデュナン達に向かって着地したエステルはリウイと共に挟み撃ちして闘気を込めたレイピアで息もつかぬ連撃を放った!
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「オォォォォォォォォッ!」
エステルとリウイは叫びながら何度もデュナン達を斬りまくった!2人の闘気の籠った斬撃は余波で衝撃波をうみ、その衝撃波がデュナン達を再び空中へと舞い上がらせた!
「「「ぐわぁぁぁ………!?」」」
「ぎゃぁぁぁっ………!!??」
エステルとリウイの猛烈な攻撃にデュナン達は悲鳴を上げた。
「はぁっ!」
「セアッ!」
2人の猛烈な攻撃はやがて終わり、最後の攻撃でデュナン達をまた空高くへと舞い上げた。そして2人は並び、同時に目を閉じた状態で突きの構えで魔力を剣に溜めた。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「オォォォォォォォォッ!」
同時に目を見開き、魔力によってエステルの剣には雷が、リウイの剣には暴風が宿り、2人は落ちてくるデュナン達に同時にそれぞれの渾身の一撃を放った時、それらは併せ技(コンビクラフト)となった!光に生き、誰からも愛された少女と、闇の中で生き、ほとんどの同族達からは半端者として忌み嫌われ、自分の事をひた向きに慕う少女の存在に気付かず孤独に育った王が放つ嵐のような激しさの連撃と威力。その技の名は……!

「「奥義!太極嵐双剣!!」」

リウイが放った暴風の魔法剣にエステルの放った雷の魔法剣が混ざり、デュナン達に襲った!
「「「「ぎゃぁぁぁ………!!」」」」
暴風に混ざった雷に感電したデュナン達は悲鳴をあげながら、暴風によって観客達の頭上を越えて入口まで吹っ飛ばされた!
「……!!」
「「「「うわぁぁぁっ………!ガ!?…………」
「か、閣下~………!!」
入口付近にいた銀髪の青年は吹っ飛ばされて来たデュナンに気付き、身体を少し横に向けて回避した。そして入口を越えたデュナン達は門がある壁まで吹っ飛び、気絶した。そしてデュナンを心配したフィリップは吹っ飛ばされたデュナンを追うかのように、講堂から去って行った。

(おお!さすがリウイ!見事な裁きじゃ!それにまさか、エステルとの共闘が見れるとは……!)
(さすがリウイお兄ちゃん!惚れ直しちゃいそう……キャハッ♪)
(もう!お父様ったらどこが『少し灸を据える』ですか!完全にやり過ぎではありませんか!……すみません、ペテレーネ様。私はちょっと失礼します!)
リウイとエステルの活躍にリフィアとエヴリーヌは喜び、ティアはやり過ぎた攻撃に怒って、その場から去ろうとしたところをペテレーネが呼び止めた。
(あ、ティアさん!どちらへ行かれるつもりですか?)
(決まっています!お父様達に追い出された方達の傷を癒します。競技用の剣でしたから、傷は酷くないと思うのですが一応念のために癒しておきたいのです。)
(あ、でしたら私も手伝います。リフィア様、エヴリーヌ様。もう、お二人の怒りは収まりましたよね?)
(うむ!ここは心配ないから、お前はティア殿といっしょに行ってくるがいい!)
(ありがとうございます。……ティアさん、行きましょう。)
(はい!)
そしてペテレーネとティアはその場を離れ、急いでデュナン達の元に向かった。

「………俺の役割はここまでだ。後は任せる…………」
剣を鞘に収めたリウイはエステルに剣を渡して言った。
「いつかまた、貴殿と会える日は来るだろうか……?」
エステルは自分の役割を思いだして、再び紅騎士ユリウスになりきり、本心も込めたセリフを言った。
「………縁があればまたいつか、会えるだろう。(リフィア達の面倒をもうしばらく頼む。………お前との共闘………短いながらも楽しませて貰えた。……いつか共に肩を並べて戦う日が来る事を楽しみにしているぞ。)」
(え?)
リウイが去り際に言った小声の言葉にエステルは呆けた。
「………さらばだ。」
リウイはエステルに背を向けると入口に向かって跳躍し、着地すると近くにいながら、気配を隠していた銀髪の青年に目をやった後、入口から去って行った。

「………………………」
「ユリウス!」
去って行ったリウイを見続けたエステル――ユリウスにクロ―ゼ――オスカーが役者全員を引き連れて声をかけた。
「クロ……おっと。オスカー!姫も!」
「心配しましたよ、ユリウス。」
セシリアが心配そうな表情で話しかけた。
「どうしてみながここに?」
「………ミリガン殿が去って行くのを見たからな、もう脅威は去ったと思ってお前を心配してこうして来たのだ。特にオスカーと姫が急かされて大変だったぞ……」
疑問を持ったユリウスにザムザが口元に笑みを浮かべて答えた。
「ザ、ザムザ!」
セシリアは恥ずかしそうな表情でザムザを咎めた。
「フフ……ありがとうございます、姫。此度のような試練がリベールに再び訪れても私達が斬り払う事をここに誓わせて下さい。」
「姫、私も誓わせて下さい。」
オスカーはユリウスと共に、セシリアの前で跪いて宣言した。セシリアは最初、2人の宣言に驚いたが、少しの間考えた後口を開いた。
「ユリウス、オスカー………わかりました。セシリア・フォン・アウスレーゼの名において、2人の誓いを認めます!」
セシリアは肩手を上げて、宣言した。そしてザムザはそれを見て、最後の幕引きの言葉をユリウスの代わりに叫び、公爵や議長がザムザの言葉を続けた。
「女神達よ、再び照覧あれ!今日という良き日がいつまでも続きますように!」
「リベールに永遠の平和を!」
「リベールに永遠の栄光を!」
そして舞台の幕は閉じた。

「フフ……どのような事が起きても、やはり最後は大団円か。だが……それでいい。(それにしても気配を最大限に消していた俺に気付くとは、さすがは”大陸最強”。あの時も思ったが、剣士として、いつか本気で手合わせを願いたいものだ……)」
講堂の扉の前にいた銀髪の青年がそう呟いて講堂を出て行った。

こうして『白き花のマドリガル』はトラブルもあったが、大好評のうちに幕を閉じた。

同時に、学園祭の終了を告げるアナウンスが鳴り響き……

来場客は、みな満足した表情で学園を後にするのだった………



後書き これにて「白き花のマドリガル」終了です!一番苦労したのはエステルとリウイのコンビクラフトの技の名が思い浮かべなかった事ですね。ちなみにこの話を見てこの技名よりいい名があればそちらを採用するので良ければ感想で書いて下さい。………感想お待ちしております。



[25124] 外伝~白き翼と闇王~前篇
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/15 21:38
タイトルでわかると思いますが、以外なキャラ同士が会話をするので次回を楽しみにして下さい♪


~ジェニス王立学園・講堂・控室~

学園祭終了後、片づけを終えた後プリネは用事があると言って、急いで講堂から出て、エステルとヨシュアは控室でクロ―ゼと共にジルやハンスに労われていた。
「いや~、ほんとお疲れ!監督の私が言うのも何だけど、最高の舞台だったわよっ!」
「最初、男女が逆ということで笑われてしまったけれど……。みんな、劇が進むに連れて真剣に見てくれて本当によかった。」
クロ―ゼは笑顔で観客達の様子を語った。
「うん、そうだね。あんな恰好した甲斐があったよ。もう2度としたくないけど……」
「はは、そんなこと言うなよ。写真部の連中が劇のシーンを何枚か撮っていたけど……。お前さんの写真がどれだけ売れるか楽しみだぜ。」
「ハア、勘弁してよ……」
女装から解放されて安堵の溜息を吐いたヨシュアだったが、ハンスの言葉に顔を顰めて疲れた溜息を吐いた。
「エステルたちの写真もすっごく売れると思うわよ。男子はもちろん下級生の女の子あたりにもね。『お姉さま』なーんて呼ばれちゃったりして♪」
「もう、ジルったら……………………………………」
からかうような口調で語るジルにエステルは苦笑した後、ある事を思い出し黙った。

「あれ……。どうしたの、エステル?」
エステルの様子に首を傾げたヨシュアは尋ねた。
「あ、うん。ほら、劇の最後で公爵さんが邪魔した事を思い出しちゃって……」
「あ………」
エステルの言葉にクロ―ゼは気不味そうな表情で声を上げた。
「あの時はビックリしたね。……本当にどうなるかと思ったよ。」
「私も劇が滅茶苦茶になって、本気で心配したけどエステルを助けた男性が間に入ってくれてから、プリネが真っ先にカバーしてくれて本当にあの時は助かったわ。」
エステルの言葉で思い出したヨシュアは頷き、ジルは劇の事を思い出し、安堵の溜息を吐いた。
「結局、誰だったんだろうな?エステルを助けた男性。……なんかどっかで見た事がある気がするんだよな……?」
「エステル、名前は聞いた?」
ハンスはリウイの事を思い出して首を傾げ、ヨシュアは尋ねた。
「うん。リウイって名乗っていたよ。」
「え………!?」
「嘘!?」
「マジかよ……!?」
「……………」
エステルの口からリウイの名を聞き、ただ一人リウイを知っていて、黙っていたクロ―ゼを除いてヨシュア達は驚いた。

「ど、どうしたの!?」
ヨシュア達の様子にエステルは慌てて聞き返した。
「エステル………エステルがいっしょに戦った男性だけど………学園祭に観に来ていたのが信じられない人でみんな驚いたんだ。エステルはその人の名を聞いて、何も思わなかったのかい?」
「う、うん。な~んか、どっかで聞いた事はある名前なのよね……」
ヨシュアの質問にエステルは首を傾げながら答えた。
「……その名を名乗る事を許されているのは世界で唯一人。………異世界の王にして、”闇夜の眷属”を束ねる王………前メンフィル皇帝、リウイ・マーシルン陛下唯一人です、エステルさん。」
「あ、あ、あんですって~!?」
クロ―ゼの説明にエステルは信じられない表情で叫んだ。
「道理でどっかで見た事あると思ったぜ……社会科を履修しているし、もちろんメンフィルの重要人物の事は全て覚えたのに、なんですぐにわからなかったんだ俺は……!」
「しょうがないんじゃない?だって、あんた教科書に載っていたリウイ皇帝陛下の顔に落書きしていたじゃない。」
「うぐ!それは……!」
ジルの言葉にハンスは後ずさった。そしてクローゼは驚いた表情でハンスに尋ねた。
「まあ………どうしてそのような事を?」
「いや、まあ………なんというか……ほら、メンフィル皇帝の周りって側室や大将軍、闇の聖女と女性だらけでしかも全員美人じゃねえか。しかも、高齢のアリシア女王より年上って言われているのに俺達のちょっと上程度にしか見えない上、イケメンだし。ある意味男の敵だろ?嫉妬心でついやっちまったんだよな……ヨシュアなら、俺の気持ち、わかってくれるよな!?」
「ごめん。全然わからない。」
ハンスに同意を求められたヨシュアは笑顔で否定した。
「この裏切り者め~………」
「はいはい。」
ヨシュアの答えを聞いたハンスは恨みごとを呟きながら、ヨシュアを睨んだ。睨まれたヨシュアは相手にしなかった。

「…………………」
「エステルさん、どうしたんですか?」
リウイの正体を知り呆けているエステルを不思議に思ったクロ―ゼが話しかけた。
「ふえっ!?な、何かな!?」
「エステルさん、リウイ皇帝陛下の事を知ってからずっと呆けていましたけど、どうかしたんですか?」
「う、うん。ちょっとね……(なんだろう?初対面だったはずなのに、どっかで見た事あるのよね……それにあの人といっしょに戦った時、黒髪の女の人と金髪の女の人があのリウイって人と肩を並べて戦っている後ろ姿が一瞬見えたのはなんだろう……?)」
「?」
言葉を濁すエステルにクロ―ゼは首を傾げた。そしてエステルは慌てて話題を変えた。
「そ、それにしても、さすがはメンフィル帝国の元、王様よね~。剣の腕も凄かったけど、こう……なんていうか、纏っている雰囲気が桁違いに凄かったわ……あの威張った公爵さんとは全然違うわ。……今考えるとまさに王様!って感じがしたもの。」
「2対1という普通なら不利な状況なのに、加えて相手が王室親衛隊員達だったのに余裕であしらっていたのを見て、あの時はマジで驚いたぜ……」
エステルとハンスはリウイの事に関してそれぞれ感想を言った。
「………リウイ皇帝陛下の武は”大陸最強”とまで称されるほどの強さだそうですから、いくら王室親衛隊といえども、敵わないでしょう。」
「た、大陸最強~!?それって誰も勝てないって事じゃない!あれ?(ねえねえ、ヨシュア。)」
リウイの評価にエステルは驚いた後、ヨシュアに小声で話しかけた。
(何?エステル。)
(さっきの男性がもしかしてプリネのお父さんだったのかな?)
(もしかしなくてもそうだよ。ついでに君が憧れている”闇の聖女”さんの夫でもあるよ。)
エステルの鈍感さにヨシュアは呆れた後、答えた。
(聖女様の………でも、凄く若く見えたわよね?あたし達のちょっと上程度にしか見えなかったし。それに確か、リフィアのお祖父ちゃんなのよね?全然、そうは見えなかったわ……)
(そうだね。あれほどの腕を持っている人が直に教えたら誰だって強くなるだろうね。プリネがいい例だよ。)
(そうね………)
エステルは年齢に合わない強さのプリネの事を思って、ヨシュアの言葉に頷いた。

「……それにしても、今回の件が問題にならないといいんだがな。」
「へ?それってどういう事??」
ハンスの言葉にエステルは首を傾げた。
「酔っていたとはいえ、リベールの王族が親衛隊に命じて、メンフィル皇帝に剣を向けさせた事って大問題だと思うんだが……」
「あ~……そっか。あの時、リウイ皇帝陛下が舞台に現れた時点で剣を引いて、観客達やリウイ皇帝陛下に謝れば大丈夫だったと思うんだけど、そのまま戦闘に突入しちゃったもんねぇ……」
「………………」
意味がわかっていないエステルにハンスは説明した。ハンスの説明にジルは横目で不安そうな表情をしているクローゼを一瞬見た後、気不味そうな表情で答えた。
「最悪の予想だけど………良くて、同盟が解消………悪くて、今回の件が原因でメンフィルと戦争になる可能性も出て来てるよね…………」
「そ、そんな!?」
ヨシュアの予想にエステルは悲痛な表情で声を上げた。
「あくまで予想だよ、エステル。リウイ皇帝陛下はアリシア女王陛下のような人格者であるらしいから、今回の件ぐらいでそこまで発展しないと思うよ?」
「で、でも…………」
ヨシュアに諭されたエステルだったが、まだ不安そうな表情をした。そしてずっと黙って聞いていたクロ―ゼが決意を持った表情で口を開いた。
「あの……私、少し席を外します。だから、ちょっとだけ待ってて下さい!」
「あ、クローゼ!」
呼び止めるエステルの声を背中に受け、クローゼは急いで講堂を出て、頼もしい友人を呼んだ。

「ジーク!」
「ピューイ!」
クローゼに呼ばれたジークは空から飛んできて、クローゼの肩に止まった。
「………プリネさんを探して貰えるかしら?校舎内のどこかにいると思うから。」
「ピュイ!」
クローゼの言葉を理解したジークは飛び立ち、クローゼ自身もプリネやリウイを走って探し始めた。そしてしばらく探すと、フィリップや親衛隊員達に何度も頭を下げられ、それを優しく諭しているペテレーネとティアを見つけた。
(あの方はもしや………ペテレーネ様!?それに横にいるのはティア様……!よかった、まだリウイ陛下は去っていないようですね……)
リウイの側室であるペテレーネを見つけ驚いたクロ―ゼだったが、常にリウイの傍にいるペテレーネを見て、リウイはまだ学園を去っていないと思い、安堵の溜息を吐いた。そしてフィリップと気絶したデュナンを背負った親衛隊員達がペテレーネとティアに何度も頭を下げた後、学園から去って行き、それを見送ったペテレーネとティアはどこかに向かって歩き出した。
(………もしかして、リウイ陛下の所かしら?あの方向は確か……旧校舎ですね……)
物陰に隠れてペテレーネとティアが歩いて行った方向を見送ったクローゼは2人の行き先を推測した。そこにジークが再びやって来てクローゼの肩に止まった。
「ピューイ!」
「ジーク!プリネさんを見つけたの?」
「ピュイ。」
クローゼの言葉に答えるようにジークは飛び上がり、案内をするようにゆっくり飛んで進み始めた。
「……どうやらプリネさんも旧校舎にいるようですね………………………(迷っていてはいけない……よし!)」
もしリウイがプリネといっしょにいた時、自分の正体がバレてしまう事を恐れて迷っていたクローゼだったが、迷いを振り切り、ジークを追いかけた………



後書き 感想お待ちしております。



[25124] 外伝~白き翼と闇王~後篇
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/16 12:40
~ジェニス王立学園・旧校舎内~

一方エステル達に用があると言って講堂を出て行ったプリネはリフィアやエヴリーヌと合流し、またテレサ達からツーヤを少しの間だけ借りて、人気のない旧校舎内でリウイと久しぶりの会話を楽しんでいた。
「それにしても、まさかお父様達までここに来るとは思いませんでした。リフィアお姉様、お父様達に知らせてくれてありがとうございます。」
「なに、余は姉としての義務を果たしたまでだ。」
「よかったね、プリネ。お兄ちゃん達に見て貰えて。」
自分も参加した劇を両親に見て貰えた事に嬉しさを感じているプリネにリフィアやエヴリーヌは微笑んだ。
「………どうやら予想以上にいい経験をしているようだな、プリネ。」
「はい!民の普段の生活や困っている事……そういった城や大使館では知りえない事がたくさんあって、本当に勉強になります!」
「そうか。それはよかったな……」
嬉しそうに旅の事を話すプリネにリウイは口元に笑みを浮かべた。そしてプリネが連れて来たツーヤの事が気になり、尋ねた。
「……さっきから気になったのだが、その少女は何者だ?……少なくとも人間ではないようだが。」
「………………」
リウイはツーヤの容姿を見て呟き、見られたツーヤはプリネの後ろに隠れて恐る恐るリウイを見て、プリネに尋ねた。
「あの……ご主人様。この方は一体どなたですか……?」
「この方は私のお父様です、ツーヤちゃ………いえ…………ツーヤ。」
これからずっと自分の傍にいるツーヤに親しみの意味を込めて、プリネはツーヤを呼び捨てにしてリウイの事を紹介した。そしてプリネに促されたツーヤはリウイの正面に立って、リウイを見上げた。

「……はじまして。ご主人様の”パートナー”のツーヤと申します。」
「リウイだ。………ん?プリネが主だと?プリネ、これは一体どういう事だ?」
プリネの事を主と言ったツーヤにリウイは首を傾げた後、プリネに説明を求めた。
「はい。実は…………」
そしてプリネはリウイにツーヤの事を説明した。
「ほう……まさかそのような”竜”がいるとはな……」
プリネの説明にリウイは驚き、ツーヤを見た。ツーヤは緊張しながらも意思が強い瞳で正面からリウイを見た。
「……いい眼だ。ツーヤといったか。プリネを頼むぞ。」
「はい。………今は力はありませんが、いつかご主人様を守れるぐらい強くなります。」
「………そうか。プリネと共に大使館に帰って来る時を楽しみにしているぞ。その時には俺やファーミシルス達が鍛えてやろう。」
「エヴリーヌも手伝ってあげる。」
「うむ!よかったな、ツーヤ。リウイ達ほどの達人が直々に教える事等滅多にないぞ。」
そこにデュナン達の治療を終えたペテレーネとティアがやって来た。

「お待ちして申し訳ありません、リウイ様。」
「あ、お母様。」
ペテレーネに気付いたプリネは嬉しそうにツーヤを連れて、ツーヤの事を紹介し、学園生活の事を報告していた。そしてその様子をティアは微笑ましそうに見た後、リウイを咎めた。
「お父様、どこが『少し灸を据える』ですか!さっきの方達……全身麻痺していた上、あちらこちらに傷がありましたよ!?」
「そう怒るな。……件の少女との共闘が予想以上に楽しめたのでな。それに最近は政務続きで身体がなまっていたからな。少し力加減を間違えた。」
「もう………イーリュンの信徒である私の目の前ではそういった人を傷つける行為はできればやめてほしいのですが…………ハァ。無理でしょうね。」
言っても無駄な事をつい口にしたティアは溜息をついた。
「フッ…………どんな相手でも心配するその心を見ていると、ティナを思い出してしまうな………あいつには色々と世話になった……久しぶりに会って言うのもなんだが、そろそろ伴侶をとったらどうだ?兄妹の中で結婚していないのは、お前とプリネだけだぞ?まだ18のプリネは別として、お前は伴侶をとってもおかしくなかろう。」
「お、お父様!今は関係ないことでしょう!?」
昔を思い出すかのようにティナの事を思っていたリウイは話を変えてティアに尋ねた。尋ねられたティアは顔を真っ赤にして答えた。
「だが、実際親としてはお前にも生涯共にする相手を見つけ、幸せになってほしいぞ?別に俺は相手がどんな男でないと認めないとか、そういった固い事は言う気はない。お互い愛し合っているのならそれでいい。」
「ですが、私はイーリュンに仕える身ですし……」
「それを言ったらお前の母であるティナはどうなんだ?ティナに聞いたが、イーリュンは結婚や恋愛を禁じている訳ではないのだろう?」
「それは………」
反論する言葉を封じられたティアは黙って俯いた。
「それとも、今までお前に求婚する男はいなかったのか?母譲りの容姿のお前なら、言い寄って来る男は山ほどいるだろうに。」
「………確かにそういった方達はいらっしゃいましたが、全てお断りさせていただきました。私にとって理想の男性ではありませんし。」
「ほう。お前にも理想とする男がいるのか。どんな男だ?」
「そ、それは秘密です!(もう………身近にこんな素敵な男性がいたら、なかなかほかの男性に心が動かない事をどうしてわかってくれないのでしょう………はぁ……側室とはいえお父様と出会い、結ばれたお母様が羨ましいです……)」
幼い頃から王としての父の背中を見続けたティアにとって、リウイは理想の男性であったので、ほかの男性に心が動かない事にティアは男として完璧すぎる父親を心の中で弱冠恨んだ。ティアの様子にリウイは不思議に思ったが、ある気配に気づきティアの様子を頭の片隅に追いやり、気配が感じられた方向に向かって静かに問いかけた。

「………そこで聞き耳を立てているのは誰だ?入口の前にいるのはわかっている。大人しく出てくるがいい。」
リウイの言葉に全員旧校舎の入り口に注目した。すると入口のドアはゆっくり開けられ、そこには緊張したように見える表情のクロ―ゼがいた。
「クロ―ゼさん……どうしてここに……」
クロ―ゼを見たプリネは驚いて、クロ―ゼに問いかけた。
「……リウイ陛下にお話があって、リウイ陛下のご息女であるプリネさんにリウイ陛下に御取次頂けるよう頼むために、探していたんですが……その必要はなかったようです。」
「……その言い方ですと最初に会った時から、私の本当の身分を知っていらっしゃったようですね……何者ですか、あなたは。」
クロ―ゼの言動から自分がメンフィル皇女である事を知っている風に聞こえたプリネは警戒した表情で尋ねた。
「……そう警戒してやるな、プリネ。相手はこの世界で唯一同盟を結んでいる国の姫だぞ。」
「え……!?」
リウイの言葉にプリネは驚いた表情をした。
「……同盟国の姫………思い出したぞ!お主、リベールの姫ーークローディア姫ではないか!」
一方リウイの言葉でクローゼの本当の正体を思い出したリフィアは声を上げた。
「アリシア女王陛下の孫娘、クローディア・フォン・アウスレーゼ王女……!まさか、クロ―ゼさんがそうだったなんて……」
「クロ―ゼさんがリベールの王女様……」
クロ―ゼの正式な名前を言いながら、プリネは驚き、ツーヤは呆然とした。

「ふう……リフィア、お前も皇族の一人なら同盟国の姫の顔ぐらい覚えておけ。」
「む……仕方なかろう。余とクローディア姫が会ったのは一回限りだし、あの時はクローディア姫は幼かったからな。……ふむ、それにしてはマノリアで会った時、なぜ名乗り出なかった?会った事もないプリネを知っていた所を見ると、余の事も当然覚えていそうなのにな。」
「あの時は名乗りでなくてすみません……今はクローゼ・リンツという一人の学生でありたかったので、王女である事は隠しておきたかったのです。」
リフィアに問いかけられたクロ―ゼは辛そうな表情で答えた。
「ふむ……その気持ちはわからなくはないな。かく言う余達も偽名を語っていた事だし、正体を隠していた件に関しては双方気にしないほうがいいだろう。それでリウイに何の用だ?」
「それは……」
クロ―ゼはツーヤを見て、言いづらそうな表情をした。
「ふむ。………リフィア、エヴリーヌ。お前達はティアを連れて先に宿に戻っててくれないか?すでに部屋は取ってある。」
「む?わかった。エヴリーヌ、頼んだぞ。」
「了解~。じゃあ、2人共、エヴリーヌの近くに来て。」
「……わかりました。お先に失礼させてもらいますね、クローディア姫。」
リウイに言われたリフィアは弱冠納得がいっていない様子だったが頷き、ティアは何も言わず頷き、クロ―ゼに会釈した。
「2人共、集まったね?それじゃ行くよ。」
そしてエヴリーヌは2人と共に、ルーアン市の入口付近まで転移した。
「プリネ、お前も行け。どうやらリベールの姫は俺に用があるようだからな。」
「……わかりました。ツーヤ、行きましょう。テレサさんや孤児院のみなさんにあなたが私と共に生きていく事をエステルさんやミントちゃんと一緒に知らせてあげましょう。」
「はい、ご主人様。」
「それでは……あ、そうだ……お母様、少しいいですか?」
「何?プリネ。」
ツーヤと共にその場を去ろうとしたプリネだったが、ある事を思い出して母の耳元に小声で囁いた。
(……よければエステルさんと会ってもらってもいいですか?エステルさん、ずっとお母様に会いたがっていましたし……)
(……わかったわ。ただ、私が会いに行ったらさすがにあなたの正体が生徒達にわかってしまうでしょうから、ここに連れて来て貰えるかしら?)
(はい。必ず連れて来ますから、絶対待ってて下さいね。)
(フフ……そんなに念を押さなくても大丈夫よ。)
プリネの念を押した言葉にペテレーネは微笑みながら答えた。それを見て安心したプリネはクロ―ゼを見た後ツーヤと共に旧校舎から出て行った。

「……さて………こうして面と向かい合って話すのは”百日戦役”後、アリシア女王と会談の後、女王がお前の事を紹介した時に会ったきりだから、9年ぶりといった所か。リベールの姫よ。」
「はい。……お二方はお若いままですね。……本日の学園祭にいらっしゃって下さって、ありがとうございます。」
「丁寧な挨拶、ありがとうございます、クローディア姫。こちらこそ、娘のプリネがお世話になりました。あの子に貴重な体験をさせてくれて、母としてお礼を言わせて下さい。……ありがとうございます。」
「いえ、私達もプリネさんにはたくさんお世話になりました。生徒を代表してお礼を言わせて下さい。……ありがとうございました。」
「……クローディア姫は大きくなられましたね……まだ幼かった姫が今は、立派な淑女に見違えました。」
「そんな……ペテレーネ様は相変わらず、以前会った時のような美しさを保たれていて女性として羨ましいです。……ペテレーネ様は年をとらない永遠の美女であるという噂が本当だという事が今ならよくわかります。」
「あう……私はただ単に神格者だから年をとらないだけなのですが……永遠の美女だなんて、私には恐れ多いですからその呼び名はお願いですから止めて下さい……」
クローゼの言葉にペテレーネは顔を赤くして慌てている様子で答えた。
「は、はい。……それにしても、このような所で陛下やペテレーネ様とお会いできるとは思いませんでした。」
「それはお互い様だ。まさか、この学園の生徒だったとは思わなかったぞ。なぜ、王族であるお前がここにいる?」
「…………それは…………」
リウイの問いかけにクローゼは答えるのを躊躇った。
「答えられないのか?………まあいい、アリシア女王の教育方針に他国の王である俺が口を挟む訳にもいかぬな。……それで何の用だ?俺の姿を見かけたからただ、会いに来たわけでもあるまい。」
「はい。……小父様のせいでお忙しい所、ロレントより足を運んで頂き、劇を観賞なさっていた陛下の御心を乱してしまった事……今この場にいない小父に代わって謝罪させて下さい。真に申し訳ありませんでした……」
申し訳なさそうな表情でクローゼはリウイに謝罪した。
「その件か。別にお前が謝罪する必要はないぞ。」
「ですが王族である小父様の責任は私の責任でもありますし……」
「ふう……わかったからそう、悲痛そうな表情をするな。今回の件がきっかけで同盟を破棄したり、敵対をするつもりは全くないから安心しろ。今日の俺はただの親として娘が出演した劇を観に来ただけだ。」
「……寛大なお心遣い、感謝いたします。」
最悪の事態が回避された事にクローゼは肩の力が抜け、安堵の溜息をついた。
「……リベールやアリシア女王には導力技術や他宗教を広める事の許可の件等、それなりに世話になっているからそうそう同盟を破る気はないが……あのデュナンとやらが何も変わらずアリシア女王の後を継ぐのなら、今後の付き合い方を考えさせてもらうぞ。」
「………………」
リウイの言葉をクローゼは辛そうな表情で聞いていた。

「……女王直系の孫であるお前は王にならないのか?リベール王家は男児でないと王になれないと言う訳でもあるまい。実際女王がいるのだしな。それに話によればアリシア女王はお前を次の国王に指名しようとしているらしいな?」
「……………情けない話になりますが、私自身まだ王位を継ぐ覚悟ができていないのです。……正直、皇帝になる事に何の恐れも抱かず、誇らしげに私にその事を話してくれたリフィア殿下の事が羨ましいとも思いました。」
「あいつは例外だ。……シルヴァンも一時期は迷っていた。王位を継ぐ者なら誰にでもある事だ。気にしなくていい。」
女王になる事に躊躇っているクローゼにリウイは励ましの言葉をかけた。
「……ありがとうございます。いつか必ず答えは出すつもりです。……できればそれまで、貴国とは今と変わらぬ関係であらせて下さい。」
決意を持った表情でクローゼはリウイを正面から見て言った。
「言われなくともそのつもりだ。お前の答えがどのような答えになるのか……楽しみに待たせてもらうぞ。」
「はい、陛下のご期待に添えれるかまだ確約できませんが、必ず答えは出します。……それでは失礼します。」
クローゼはリウイ達に会釈した後、旧校舎を去った。
「さて……俺達もそろそろ行くか。」
クローゼを見送ったリウイはペテレーネに言った。
「あ、リウイ様。少しだけ待ってもらってもよろしいでしょうか?」
「何故だ?」
「……プリネからエステルさんとぜひ会ってほしいと頼まれましたので……」
「……そういえば、件の少女はお前に憧れを持っているのだったな。」
「はい、リウイ様もご存じかと思われますが、以前ブライト家にお邪魔した時、エステルさんの母親であるレナさんからはそのように聞いております。プリネ達がお世話になっているお礼もかねて、エステルさんとは一度話してみたいのです。」
「……わかった。俺は学園長と話をしに行くから、用事が終わればそのままルーアンのホテルに戻っていてくれ。」
「かしこまりました。」
ペテレーネに指示をしたリウイは外套を翻し、旧校舎から去って行った…………


後書き 感想お待ちしております。



[25124] 外伝~太陽の娘と混沌の聖女の邂逅~前篇
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/17 08:37
~ジェニス王立学園・本校舎内~

コリンズにプリネを短期間、学園生活をさせてくれた事に礼を言うためにリウイは受付に聞いた。
「……失礼する。学園長に用があるのだが、学園長はどこにいる?」
「学園長ですか?恐らく学園長室にいると思われます。学園長室はあちら側の奥の部屋となっております。」
受付はリウイに学園長室の場所を片手で指し示した。
「そうか。感謝する。」
受付にそう言って、リウイが学園長室に向かうとちょうど、学園長室からコリンズとジルやハンスが出て来た。そしてコリンズはリウイに気付き、驚いた。
「おお……!まさか、このような所で貴方様のような方にお会いするとは夢にも思いませんでした。ジェニス王立学園の学園長を務めさせていただいているコリンズと申します。」
「………メンフィル大使、リウイだ。このような時間に挨拶をして申し訳ない。何分忙しい身でな。こちらに着いたのがちょうど劇が始まる頃だったので、劇が終わってから挨拶をさせてもらった。」
(すげぇ……!本物のメンフィル皇帝だぜ、ジル!)
(それぐらいわかっているわ。それより、せっかくリウイ陛下が目の前にいるんだから、協力をお願いしないと。)
(ああ)
リウイが目の前にいる事に小声で会話をしていたハンスとジルは礼儀正しい姿勢になり、リウイに話しかけた。
「初めまして、ジェニス王立学園生徒会長のジルと申します。」
「同じく副会長のハンスです。お忙しい所申し訳ないのですが、少しよろしいでしょうか?」
「学園の生徒か。何の用だ?」
「はい。実は……」
ジルとハンスはリウイに毎年学園祭と同時にやっている活動の事を説明した。

「ほう。この学園の生徒達は学生という身分ながら中々立派な事を考えるな、学園長。」
「イーリュンの孤児院の経営の援助をなさっている陛下にそう言って頂けるとは、恐悦至極でございます。」
ジル達から説明を聞いたリウイは感心し、コリンズは謙遜した。
「それで恐れ多いのですが、できたら陛下にもご協力をしていただきたいのですが……」
ジルは期待を込めた目でリウイを見た。
「ふむ。市長達やあの公爵も寄付をしているのだから、他国とはいえ王である俺が拒む訳にもいかぬな。……生憎持ち合わせはあまりないから、これで代用してくれ。」
リウイは懐から宝石をいくつか出し、ジルに手渡した。
「え……これって琥珀!?」
「しかも、一個一個サイズが普通の琥珀より大きいし、こんなに透き通って中まで見える琥珀、初めて見たぜ……」
ジルとハンスはリウイが手渡した宝石を見て、驚いた。
「俺達の世界ではそれなりの値段にしかならない物だが、こちらで鑑定してもらった所、一つにつき20万ミラは下らないそうだ。市内にある装飾店にでも持って行けば、かなりの金額で買い取って貰えるだろう。」
「一個で最低20万ミラ……!じゃあ、ここに渡されたのが5個あるから……」
「最低100万ミラかよ……!すっげ~……!今ある寄付金と同じ金額じゃないか……!」
宝石の値段を聞いたジルとハンスは驚いた。
「……よろしいのでしょうか?そのような高価な物を頂いても……」
コリンズは恐る恐るリウイに尋ねた。
「ああ。祖国に戻ればいくらでも手に入るしな。そんな物でよかったら民のために役立ててくれ。」
「「ありがとうございます!!」」
ジルとハンスは同時に頭を下げて、リウイに感謝した。

「さて……挨拶も済ませた事だし、今日の所はこれで失礼させてもらおう。」
「……申し訳ないのですが、少しだけお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
立ち去ろうとしたリウイにコリンズが呼び止めた。
「ん?まだ何か用があるようだな。」
「はい。……少しだけ席を外してある方に会いに行かなくてはならないので、どこかで休んでお待ち頂いてもよろしいでしょうか?すぐに、戻って来ますので。」
「それなら、ここで待たせてもらおう。」
そう言ってリウイは学園長室の入口の近くの壁にもたれかかり、懐から古文書を出して読み始めた。
「申し訳ございません。……すぐに戻りますので……行こうか、2人とも。」
「はい。」
「失礼します、陛下。」
コリンズに促されジルとハンスはリウイに会釈した後、急ぎ足で講堂に向かった。

~ジェニス王立学園・講堂・控室~

その頃エステル達は戻って来たプリネやクローゼと共にテレサ達の話相手をしていた。

「ママ、凄っごくカッコよかったよ!」
「ありがとう、ミントちゃん。」
「えへへ……」
エステルに頭を撫でられたミントは嬉しそうに撫でられていた。またほかの子供達もヨシュア達にそれぞれ劇の感想を嬉しそうに話した。クロ―ゼやプリネは笑顔で答えていたが、ヨシュアだけは引きつった笑顔で答えた。
「ふふ……みなさんには感謝しなくてはね。本当に、ルーアン地方でのいい思い出になりました。」
「先生……」
「この子たちにはまだ……?」
静かに語るテレサの言葉から推測したクロ―ゼとヨシュアは辛そうな表情で尋ねた。
「ええ……。マノリアに帰ってから話します。そして早ければ明日にでもミントとツーヤをエステルさんとプリネさんに託して発とうかと……」
「そ、そんな急に!?」
テレサの考えにエステルは声を上げた。
「ママ~。どうしたの?」
「なになに、何の話だよー?」
「失礼でしょ、クラム!大人の話にわりこんだりして。」
「ミントちゃんも。先生は今大事な話をしているみたいだから、後で聞こう?」
ミントとクラムは興味ありげな表情でエステル達に尋ねたが、クラムにはマリィが怒り、ミントにはツーヤが言い聞かせた。
「いいのよ、マリィ、ツーヤ。でもとりあえずは宿屋に帰るとしましょうか。夕食を食べて……話はそれからでいいですね?」
「う、うん……?」
「??」
「………」
テレサに諭され、クラムは戸惑った表情で答え、ミントは可愛らしく首を傾げ、もうすぐ自分達はテレサ達と離れる事をわかっているツーヤは孤児院の子供達をこの場で悲しませないために黙っていた。

「それではクローゼ……エステルさんにヨシュアさん、プリネさんも。私たち、そろそろ失礼しますね。今日は本当にありがとう。素晴らしいものを見せて頂いて。」
「あ、ちょっと待って。ジルたちが戻ってくるから……」
「……失礼するよ。」
立ち去ろうとしたテレサ達にエステルが呼び止めた所、ちょうどコリンズを連れたジルとハンスが戻って来た。
「まあ、コリンズ学園長……」
「久しぶりだのう、テレサ院長。せっかく来て頂いたのに挨拶が遅れて申しわけなかった。」
「とんでもありません……。本当に素晴らしいお祭りに招いていただいて感謝しますわ。」
「ふふ、生徒たちも頑張った甲斐があるというものだ。……事情はクローゼ君から聞いた。本当に大変なことになったものだ。そこで、わしらも微力ながら力になれればと思ってな……」
「え……」
コリンズの言葉の意味がわからず、テレサは呆けた声を出した。
「ジル君。」
「はい。」
コリンズに呼ばれたジルは王立学園の紋章が入った分厚い封筒をテレサに手渡した。
「どうぞ、お受け取りください。」
「これは……?」
封筒を渡されたテレサは訳がわからず、ジルに尋ねた。
「来場者から集まった寄付金でちょうど100万ミラと先ほどリウイ皇帝陛下が寄付して下さった宝石がいくつかあります。孤児院再建に役立ててください。」
「ひ、ひゃく万ミラ!!」
「すごい大金ですね……」
「リウイ皇帝陛下が……」
封筒の中身を知ったエステルとヨシュア、クロ―ゼは驚いた。また、同じように驚いているプリネはテレサに話しかけた。
「あの……テレサさん。封筒の中に入っている宝石を見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「は、はい。」
封筒から宝石を出したテレサは恐る恐るプリネに手渡した。
「…………これは……”琥珀の宝石”……!」
「プリネ、その宝石の価値がわかるの?」
宝石の価値を知っていそうな様子を見て、ヨシュアは尋ねた。

「はい。この宝石は祖国メンフィルの装飾店等でよく見かける宝石なのですが……こちらの世界では珍しいらしく、かなりの値段がつくと聞いた事があります。………確か1つ20万は下らないかと。」
「い、一個、20万!?」
「それが5個あるという事は最低でもその封筒に入っている金額と同額になるという事か……」
宝石の価値を知ったエステルやヨシュアは信じられない表情で驚いた。そしてプリネは見せて貰った宝石をテレサに返した。
「どうぞ。……市内にある装飾店などでしたら、信用がある所ですから、その宝石を安く買い取られる事はなく、その宝石に見合った価値で買い取ってくれるでしょう。」
「……………」
テレサは驚いた表情のまま、プリネから宝石を返してもらった後、尋ねた。
「ど、どうしてこんな……?」
「今回は、公爵やボース市長、果てはあのメンフィル皇帝など多くの名士が来場したからのう。例年よりも多く集まったのだよ。」
「学園長……」
コリンズの言葉を聞き、クロ―ゼはコリンズ達がテレサ達のために動いた事に感謝し、微笑んだ。
「そんな、いけません!こんなものは受け取れません!」
テレサは血相を変えて、受け取った封筒と宝石を返そうとした。
「遠慮する必要ありませんよ。毎年、学園祭で集まった寄付金は福祉活動に使われているんですから。」
「孤児院再建に使われるのなら寄付した方々も納得しますって。」
「でも……そんな……。ここまでして頂くわけには……」
ハンスとジルに説明されたが、テレサはまだ少し納得していなかった。
「先生……どうか受け取ってください。」
「クローゼ……ですが……。」
「先生が戸惑う気持ちも判ります。でも……どうか考えてみて欲しいのです。それだけのミラや宝石があったら孤児院を再建するのはもちろん、ロレントに行く必要もありません。あのハーブ畑だって放っておかなくてもいいんです」
「………………………………」
クロ―ゼの説明にテレサは黙った。
「クローゼ君の言う通りだ。亡きジョセフ君と何よりも子供たちのために……。あなたは拘りを捨ててそのミラと宝石を受け取るべきだろう。」
「……ああ……。もう……何とお礼を言っていいのか……。ありがとう……。本当にありがとうございます……」
コリンズにも諭され、ようやく受け取る事を決めたテレサは涙を流してコリンズ達に感謝した。

「グス……よかったぁ……」
「うん、これで一件落着だね。」
(お父様……ありがとうございます……)
エステルとヨシュアは孤児院の再建の目処が立った事に安心し、プリネはこの場にいない尊敬する父に心の中で感謝した。
「な、なあ……。ロレントに行くってなんだよ?何がどうなっちゃってるわけ?」
「いいのです……。もう心配しなくても……。あなたたちには……本当に苦労をかけましたね……」
話を聞き、訳がわからなくなったクラムはテレサに尋ねたが、テレサは涙を流しながら気にする必要が無い事を諭した。その様子を見てクラムは戸惑いながら納得し、テレサが涙を流している理由を尋ねた。
「べ、別に苦労なんてしたつもりはないけど……。それよりも先生……どうして泣いてるのさぁ?」
「バカねぇ、クラムったら。そんなの嬉しいからに決まってるじゃない♪」
「えへへ……よかったね!先生、みんな!(みんな……元気でね……)」
(よかったね……みんな……これであたしとミントちゃんは心置きなくご主人様達と……)
訳がわからない様子のクラムにマリィは笑って答え、ミントやツーヤは孤児院が再建される可能性が出て来た事に安心し、心置きなくエステル達についていける事に安堵した。
「……それでは失礼します。みんな、帰りますよ。」
「「「「はーい!」」」」
「ママ、待ってるよ!行こう、ツーヤちゃん。」
「うん。……それではご主人様。ミントちゃんといっしょにご主人様がエステルさんと共に迎えに来てくれる日を待っています。」
「ええ、近い内、必ず迎えに行くわ。」
そしてテレサや孤児院の子供達は帰って行った。

「さて……そろそろ後片付けをしましょうか。」
「うん、そうね。」
ジルの言葉に頷いたエステルは早速動こうとした所、プリネに呼び止められた。
「あの……エステルさん、少しいいですか?」
「?どうしたの、プリネ。」
「エステルさんにぜひ会って欲しい方がいるんですが、少しだけ時間を貰ってもいいでしょうか?」
「いいけど……片づけが終わってからじゃ、ダメなの?」
プリネの言葉に首を傾げたエステルは尋ねた。
「すみません……何分多忙な方でして、あまり遅くまではいられないんです。」
「う~ん……ねえ、みんな。あたしとプリネ、少しだけ片づけを抜けてもいいかな?」
「ええ、いいわよ。何たってあんた達のお陰で劇が成功したんだから。」
「ありがとう、ジル。じゃあ、ちょっと行って来るね!」
そしてエステルはプリネと共に一端、講堂を出た………



後書き 感想お待ちしております。



[25124] 外伝~太陽の娘と混沌の聖女の邂逅~後篇
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/18 09:14
気付けば1カ月連続更新……!どこまで続けられるかな……?



~ジェニス王立学園・講堂前~

「ねえ、プリネ。あたしに会わせたい人って誰?」
エステルはプリネが会わせたがっている人物が思い浮かばず、講堂を出た時に尋ねた。
「フフ……それは会うまでのお楽しみです。」
エステルの疑問にプリネは微笑みながら答えた。
「?それでどこに行けばいいの?」
「旧校舎です。あそこなら人気はありませんから。」
「へ?なんで人気のないところにいるの??」
プリネの言葉にエステルは首を傾げた。
「エステルさんに会わせたい方は世間では有名な方ですから、学園に混乱を起こさないためにも人気のない場所にいてもらっているんです。」
「ふ~ん、そうなんだ。とりあえず、行きましょう!」
「ええ。」
そしてエステルとプリネは旧校舎に向かった。

~ジェニス王立学園・旧校舎~

エステルとプリネが旧校舎に入ると、そこにはまだ変装を解いていないペテレーネがいた。
「………待たせてしまって、すみません。」
「これぐらいの時間、大丈夫よ。」
プリネは母を待たせてしまった事を謝ったが、ペテレーネは微笑みながら答えた。
「?その人があたしに会わせたい人?(あれ……どっかで聞き覚えのある声のような……?)」
エステルは変装しているペテレーネを見て、聞き覚えのある声に首を傾げながら尋ねた。
「ええ、そうですが………もしかして、エステルさん。この方が誰かわからないのですか?」
「う、うん。顔つきとかプリネに似ているけど、もしかしてプリネのお姉さん?」
「いいえ。……お母様。いい加減、その変装を解いたらどうですか。」
「フフ、そうね。すっかり忘れていたわ。」
プリネの言葉にペテレーネは微笑んだ後、下していた髪をいつものように左右に縛り、眼鏡を外した。
「え。」
変装を解いたペテレーネの姿を見て、エステルは呆けた声を出した。
「では、エステルさん。入口で待っていますから好きなだけ、話してもらって構いません。」
呆けた状態のエステルにプリネは囁いた後、旧校舎から出た。

「……あなたとこうして顔を合わせて話すのは10年ぶりになりますね、エステルさん。」
「………………」
「あの……エステルさん?」
話しかけたにも関わらず何も返事をせず、呆けた状態で自分を見るエステルを不思議に思い、ペテレーネは呼びかけた。
「ハッ………!せ、せ、聖女様!!ど、ど、どうしてここに!?」
ペテレーネに呼びかけられ、我に返ったエステルは驚いた。
「フフ………娘が出る劇を親が見に来てはいけませんか?」
「い、いえ!あ、あの、その……!あうあう………」
心の準備もできず、長年憧れていたペテレーネと出会い、話しかけられた事にエステルは目をキョロキョロさせて、慌てた。
「フフ……そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。一度、深呼吸をしてみて下さい。そうしたら、少しは落ち着きますから。」
「は、はい!…………スゥ…………ハァ………」
ペテレーネに言われて深呼吸をしたエステルはようやく落ち着き、まっすぐとペテレーネを見た。
「えっと……聖女様。今更聞くのもなんなのですが、あたしの事、覚えているんですか?」
「ええ。エステルさんの事はマーリオンさんやリスティさんからよく聞かされましたから。お二人の話からは人間の少女である事しかわかりませんでしたが、以前ブライト家にお邪魔して、レナさんを見た時にあの時の女の子である事がわかりましたから。……そのお守り、まだ持っててくれたんですね。」
ペテレーネはエステルの服の胸部分についているブローチに目を向けた。
「あ……はい!今でもこれはあたしにとって一番の宝物です!」
「フフ、そう言って貰えると嬉しいものですね。」
エステルの言葉にペテレーネは微笑みながら答えた。

「あの……聖女様……あたし、聖女様にいつか会えたら言おうと思っていた事があるんです。」
「ええ、私でよければ聞きます。」
ペテレーネの答えを聞き、エステルはもう一度深呼吸をした後、ずっと言いたかった事を言った。
「聖女様、あの時お母さんを助けてくれてありがとうございました!」
「ふふ、私は私の出来る事をしただけですよ。」
「あたし……あの時、聖女様がお母さんの命を救ったのを見て、自分の出来る事で聖女様みたいに誰かを助けれる人になるために、遊撃士になりました!」
「そうだったのですか。……私なんかを目標にしてくれてありがとう、エステルさん。」
「あ、あう……」
憧れの人物に笑顔を向けられたエステルは顔を赤くして俯いた。そしてある魔術を見てもらうために、エステルは顔を上げてペテレーネに尋ねた。

「あの、聖女様………見てほしい魔術があるのですけど、いいでしょうか?」
「構いませんが。その……さっきから気になっていたのですが、”聖女”という呼び名はなんとかあならないのでしょうか……?正直、その呼び名は恥ずかしいんです。」
「ふえ?でも、聖女様は聖女様だし………」
「もしよろしければ、名前で呼んでいただけますか?どうも、その呼び名は慣れていなくて……」
「う~ん……ごめんなさい。あたしにとって聖女様は今でも憧れの存在ですから、名前で呼ぶなんてできないです。」
「フゥ、わかりました。………プリネもお世話になっている事ですし、エステルさんの呼びたいように呼んで下さい。」
「えへへ……ありがとうございます。」
エステルの言葉に苦笑して溜息をついたペテレーネにエステルは恥ずかしそうに笑いながら答えた。
「それで、私に見てもらいたい魔術とはなんなのですか?」
「あ、はい。この魔術です……えい!」
エステルは未完成の魔術である”闇の息吹”をペテレーネに見せた。
「今のは”闇の息吹”ですね。……ただ少し不安定に見えましたが。」
「はい。この魔術は旅立つ前にようやく出来た魔術なんですが、どんなにがんばってもプリネ達みたいに安定した回復力がないんです……」
ペテレーネの言葉にエステルは肩を落とした。
「なるほど……わかりました。もし、よければ私が教えますが。」
「え!いいんですか!?」
ペテレーネ直々に教えて貰える事にエステルは驚いて尋ねた。

「ええ。といってもそんなに時間はかかりません。その魔術の基礎はすでにできかけているだけですから、後は正しい形に直すだけですからすぐに終わります。」
「本当ですか!?じゃあ、お願いします!」
「ええ。」
そしてエステルは長年憧れていたペテレーネから直々に今まで未完成であった回復魔術の事を教わり、ついに完成した。
「癒しの闇よ……闇の息吹!!……!やった!3回連続で安定した回復量になった!」
「フフ、おめでとう、エステルさん。」
魔術が完成した事に喜んでいるエステルをペテレーネは微笑ましそうにみて、祝福した。
「えへへ……ありがとうございます、聖女様。」
「フフ、私は少し助言しただけですよ。すぐに出来るようになったのはエステルさんの才能と努力の賜物です。……さて、私はそろそろ失礼しますね。」
「え……もう行っちゃうんですか……?」
もっとペテレーネと話したかったエステルは残念そうな表情で尋ねた。
「ええ。学園長にプリネがお世話になったお礼も言いに行かないといけませんし、それに私がこの学園にいる事がわかり、生徒達や教師の方々に無用な混乱を起こさせたくないんです。」
「そっか……いつか会いに行ってもいいですか?」
「ええ。気軽に来て貰って大丈夫です。………これからもプリネと仲良くして下さいね。」
「はい!」
「ありがとう。……エステルさんにアーライナのご加護を……」
エステルの身の安全をその場で祈ったペテレーネは旧校舎から去った。そしてエステルは旧校舎の入り口で待っているプリネの所に行った。

「おかえりなさい、エステルさん。お母様との会話はどうでしたか?」
「うん。言いたかった事も言えたし、満足よ!……それにしても酷いわね、プリネったら。あたしが聖女様に憧れているって知ってて、黙っているんだから。」
エステルは頬を膨らませて、プリネを咎めた。
「フフ、ごめんなさい。エステルさんをビックリさせたかったので。」
「もう……まあ、聖女様にも会えたし、いっか……さて、じゃあヨシュア達の所に行って、片づけを手伝うとしますか!」
「ええ。」
そして、エステルとプリネは講堂に戻って、後片付けに参加した。後片づけが終わった頃にはすっかり夕方になっていた。その後エステル達はジルとハンスに見送られ、テレサ達と話すためにマノリア村へ行くクロ―ゼと共に短いながらも楽しい生活を送った学園を去った……


後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第77話
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/19 11:12
お待たせしました!ついにルーアン編のラストに突入です!




~メーヴェ海道~

ルーアン市とマノリア村に行く分かれ道でエステル達とクロ―ゼはそれぞれの目的地に行くため、一端別れようとした。
「さてと、ここでお別れだね。」
「はい……。この数日間、本当にありがとうございました。」
ヨシュアの言葉に頷いたクロ―ゼはエステル達にお礼を言った。
「そんな……私も素晴らしい学園生活を送らせてもらって、本当にありがとうございました。」
「プリネの言う通り、あたしたちも楽しかったわ。それじゃあ……先生とあの子たちによろしくね。……ミントちゃん達を連れて行く時、必ず連絡するからね。」
「はい、お願いします。」
そしてエステル達とクロ―ゼが別れようとした時、孤児院の片づけをしていた男性の一人が慌てた様子でエステル達に走って近付いて来た。
「おお、あんたたちは!」
「あれ……」
「あなたは……確かマノリアに住んでいる……」
男性の顔を見て、エステルとヨシュアは不思議そうな表情をした。
「そういうあんたたちは確か遊撃士だったな!た、大変な事になったんだ!」
「大変なこと……?」
男性の言葉にプリネは首を傾げた。
「はあはあはあ……。ちょ、ちょっと待ってくれ。い、息が切れて……。ふーっ、ふーっ……。…………………………ふう……」
マノリアから全速力で走って来たため、息が切れていた男性は深呼吸をして落ち着いた後、話し始めた。

「……テレサ先生と子供たちがマノリアの近くで何者かに襲われた。」
「な……!?」
「あ、あんですってー!?」
「なんだって……!」
男性の説明にプリネは信じられない表情をし、エステルやヨシュアは驚いた。
「……………………あ…………」
クロ―ゼは男性の説明を聞くと、糸が切れたように膝をおった。
「だ、大丈夫!?」
「……しっかり。倒れている場合じゃないよ。」
「ヨシュアさんの言う通りです、クロ―ゼさん。詳しい話を聞かないと。」
膝をおったクロ―ゼをエステルが支え、ヨシュアとプリネが励ました。
「す、すみません……」
エステル達に励まされ、クロ―ゼは立って詳しい説明を男性の求めた。
「お願いします……。詳しいことを教えてください」
「あ、ああ……。学園祭から帰って来る途中で変な連中に襲われたみたいでな。子供たちにケガは無かったがテレサ先生と護衛の遊撃士の姉ちゃんが気絶させられたみたいで……」
「ええっ、カルナさんも!?」
「相当の手練みたいだね……」
「そうですね……まさか、正遊撃士の方まで気絶させられるなんて………」
「………………………………」
男性の詳しい説明を聞き、エステルやヨシュア、プリネは信じられない表情をし、クロ―ゼは悲痛そうな表情をした。

「それで、ギルドに連絡するはずが宿の通信器が壊れたみたいでな。仕方なく俺が大急ぎで走ってきたんだ。」
「そうですか……。協力、感謝します。ただ、できればこのままルーアンに行ってくれませんか?僕たちはこのままマノリアに急ぎますから。」
「ああ、わかった!」
そして男性はルーアンに向かって再び走り去った。
「さあ、僕たちも急ごう!」
「う、うん!」
「ええ!」
「………………はい!」
そしてエステル達は急いでマノリア村へ向かった。

~マノリア村宿酒場・白の木蓮亭の一室~

「あ……」
「ママ……」
「ご主人様……」
部屋に入って来たエステル達にクラムは気付き、クラムの声で気付きいたミントはエステルを見て涙目でエステルに抱きつき、ツーヤは悲痛そうな表情をしてプリネに近寄ってプリネの服を掴んだ。
「う……ひっく……先生が……」
「あたし……みんなのお姉さんなのに何もできなかった……」
ミントはエステルに抱きついてしゃっくりを上げて泣き、ツーヤは悔しそうな表情でプリネに言った。
「ミントちゃん……」
「ツーヤ……いいの。……その気持ちがあるだけでテレサさんは嬉しいと思うわ。」
泣いているミントにエステルは膝をついて抱きしめ、プリネはツーヤを優しく諭した。
「わあああん……」
「恐かったのー!」
ミントやツーヤがエステル達に抱きついたのと同時に、ポーリィやダニエルがクロ―ゼに近寄って泣いた。
「良かった……。みんなは無事みたいね。」
傷一つついていない子供達を見て、クロ―ゼは安堵の溜息をついた。そしてヨシュアはテレサとカルナを看護しているマノリア村の女性に容体を真剣な表情で尋ねた。

「すみません。先生たちの容体は?」
「安心しなさい。2人とも大した怪我じゃないわ。ただ、目を醒まさないからちょっと心配なんだけど……」
「……ちょっと失礼します。」
女性の答えを聞き、ヨシュアはテレサとカルナの様子を調べた。
「間違いない……。睡眠薬を嗅がされたみたいだ。」
「す、睡眠薬ぅ?」
確信を持ったヨシュアの答えにエステルは声を上げた。
「うん、かすかに刺激臭がする。副作用がないタイプだから安心してもいいと思うけど……」
「うーん……。ね、クラム。何があったのか教えてくれる?」
「………………………………」
エステルはミントを抱きしめて、泣いているミントを慰めるように優しく頭を撫でながらクラムに事情を尋ねたがクラムは黙って何も言わなかった。
「あたしが説明します……」
黙っているクラムに代わってマリィが話し始めた。

「あたしたち……遊撃士のお姉さんと一緒に海道を歩いていたんですけど……。いきなり、覆面をかぶった変な人たちが現れて……。遊撃士のお姉さんが追い払おうとしたけど……。覆面の人たちにすぐに囲まれちゃって……。先生もあたしたちを守ってあいつらに向かっていって……。……それで……ヒック……」
「マリィちゃん……」
気丈に話していたマリィだったが、最後には目に涙を溜めたのでクロ―ゼはマリィの頭を撫でて慰めた。
「……あいつら……先生からあの封筒を奪ったんだ……。オイラ……取り戻そうとしたけど思いっきり突き飛ばされて……。ヨシュア兄ちゃん……オイラ……守れなかったよ……」
クラムは悔しそうな表情で涙をポロポロと流し始めた。
「……そんなことないさ。君たちが無事でいるだけで先生はきっと嬉しいはずだから。だから……自分を責めちゃだめだ。」
「でも……オイラ……オイラ……」
「ヒック……ヒック……」
「許せない……!どこのどいつの仕業よ……」
泣いている子供達を見て、エステルは思わず叫んだ。
「………………………………。はっきりしているのは……犯人たちは相当の手練ということです。遊撃士の方がなす術もなく気絶させられたわけですから……」
「クローゼ……」
一番ショックが大きいクロ―ゼが冷静に推測している様子にエステルは驚いた。
「そしてもう1つ……。計画的な犯行だと思います。狙いはもちろん先生の持っていた寄付金と宝石……。孤児院を放火したのもおそらくその人たちでしょう。」
「うん、その可能性が高そうだ。」
「クローゼさん……。やっと落ち着いたみたいですね。」
冷静になったクロ―ゼを見て、プリネは安心して尋ねた。
「はい……。落ち込んでいても仕方ありませんから。今はとにかく、一刻も早く犯人の行方を突き止めないと……」
「……そいつは同感だな」
そこにアガットが部屋に入って来た。

「あら……」
「あーっ!」
「アガットさん……」
アガットの姿を見てプリネは目を丸くし、エステルは声を上げて驚き、ヨシュアも驚いた。
「話はギルドで聞いたぜ。ずいぶんと厄介な事になってるみたいじゃねえか。」
「ひ、他人事みたいに言わないでよ!カルナさんだってやられちゃってるんだから!」
「判ってる……。きゃんきゃん騒ぐな。確かにカルナは一流だ。相当、やばい連中らしいな。大ざっぱでいいから一通りの事情を話してもらおうか。」
「はい……」
そしてエステル達は一通りの事情をアガットに説明した。
「ふん、なるほどな……。妙な事になってきやがったぜ。」
「妙って、何がよ?」
アガットの意味深な言葉が気になり、エステルは尋ねた。
「ああ、実はな……。『レイヴン』の連中が港の倉庫から行方をくらました。」
「そ、それって……。やっぱりあいつらが院長先生を襲ったんじゃ!?」
「いや、それはどうかな。彼ら程度に、カルナさんが遅れを取るとも思えない。」
「ええ。あの人達は意気がってはいましたが、戦いに関しては素人に感じられましたし……いくら複数でかかっても、正遊撃士の方には敵わないと思います。」
アガットの答えを聞きロッコ達を疑ったエステルだったが、ヨシュアとプリネは冷静に否定した。

「そっか、確かに……。あの連中、口先だけでろくに鍛えてなかったもんね。」
「しばらく睨みを利かせて大人しくなったと思ったが……。今日になっていきなり姿をくらましやがって……。そこに今度の事件と来たもんだ。」
「犯人かどうかはともかく何か関係がありそうですね。」
「ああ、だが今はそれを詮索してる場合じゃない。新米ども、とっとと行くぞ。」
ヨシュアの答えに頷いたアガットはエステル達に自分について来るよう促した。
「なによ、いきなり……。いったい、どこに行くの?」
「わかんねえヤツだな。犯行現場の海道に決まってるだろ。あのバカどもがやったかどうかはともかく……。できるだけ手がかりを掴んで犯人どもの行方を突き止めるんだ!」
「あ……なるほど。」
「分かりました、お供します。」
アガットの言葉にエステルとヨシュアは納得し、頷いた。
「あ、みなさん。私は念のためにこちらで残っておきますね。」
「確かに先生達が完全に安全になったとは言いきれないからね……じゃあ、先生や子供達の事を頼むよ、プリネ。僕達より感覚が鋭い君なら大丈夫だと思うし。」
「はい。……そうだ!……ペルル!マーリオン!」
テレサ達を護るために残る事を提案し、任されたプリネは使い魔達を召喚した。

「はーい!」
「お呼びですか……プリネ様……」
「な、なんだぁ!?こいつらは……!?」
召喚された使い魔達を見てアガットは驚いた。
「あの2人はプリネの使い魔達です。……以前エステルがアガットさんの前にパズモを呼びましたよね?あの時と同じです。」
「こいつらがか……!?」
ヨシュアの説明にアガットは驚いた。
「私の代わりにエステルさん達を手伝ってあげて下さい。」
「うん!」
「了解……しました……」
主の言葉に使い魔達は頷いた。
「……という訳です。この2人も戦力として連れて行って下さい。」
「ありがとう、助かるわ!」
プリネにお礼を言った後、エステルは心配そうな表情で自分を見ているミントと顔を合わせた。
「ママ………」
「ミントちゃん……先生達を酷い目に合わせた悪い奴らを今からとっちめてくるから、いい子にして待っててね。」
「うん……ミント、いい子にして待っているから無事に帰って来てね、ママ。」
「モチのロンよ!」
心配そうな表情をしているミントを元気づけるようにエステルは明るい笑顔で答えた。

そしてエステル達はテレサ達を襲った襲撃者達を調べるために一端外に出た………




後書き 今回はしばらく出番がなかったプリネの使い魔達を活躍させるので原作のイベントバトルを楽しみにして下さい。……感想お待ちしております。



[25124] 第78話
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/20 19:32
~マノリア村宿酒場前・夜~

エステル達が宿を出ると、既に日が暮れていた。
「わっ、もうこんな時間!?」
「ち……マズイな。これだけ暗いとどこまで調べられるか……」
既に夜になっている事にエステルは驚き、アガットは舌打ちをした。その時、鳥の鳴き声がした。
「ピューイ!」
「なんだ、今の鳴き声は……」
鳥の鳴き声にアガットは首を傾げたその時、ジークが空からやって来てクロ―ゼの肩に止まった。
「まあ、ジーク……。どこに行ってたの?」
「な、なんだコイツは。」
「クローゼのお友達でシロハヤブサのジークよ。」
「はあ……お友達ねぇ……」
エステルの説明にアガットは半信半疑でジークを見た。
「ピューイ!ピュイ、ピュイ!」
「そう……わかったわ。ありがとうね、ジーク。」
「ピュイ♪」
「まったく呑気なもんだぜ。で、お嬢ちゃん。そのお友達はなんだって?」
ジークとクロ―ゼの様子にアガットは溜息をつき、尋ねた。

「先生たちを襲った犯人の行方を教えてくれるそうです。襲われた時にちょうど見ていたらしくて……」
「ははは!面白いジョークだぜ……」
「やった!さすがジーク!」
「うん、お手柄だね。」
「ピューイ♪」
クロ―ゼの言葉をアガットは笑い飛ばして否定したが、エステルやヨシュアは普通に信じたのを見て焦った。
「ちょ、ちょっと待て!お前ら、そんなヨタ話をしんじてるんじゃねえだろうな?」
「僕たちは何度かこの目で確かめていますし。」
「うん。ジーク……だっけ?その子がいっている事は本当だよ。」
「はぁ?なんで会った事もないお前が断言できるんだよ?」
アガットは自信を持って答えたペルルに尋ねた。
「ボクを見てわからない?ボクは鳥翼族。仲間である鳥の言葉は当然聞こえるよ!」
ペルルは両方の翼をアガットにわかるように広げて見せた。
「………………」
ペルルの答えにアガットは呆けて声が出なかった。
「信じないんだったら付いて来なけりゃいいのよ。クローゼ、ジーク、マーリオン、行きましょ!」
「はい!」
「ピューイ!」
「了解……しました……」
そしてジークが飛び立ち、ゆっくりと先導し、アガットを残してエステル達はジークの後を追った。
「…………えーと……………………。こ、こらガキども、待ちやがれ!」
しばらく呆けたアガットだったが、我に帰りエステル達の後を慌てて追った。

先導するジークの後を追ったエステル達はマノリア村の近くの灯台――バレンヌ灯台に辿りついた。

~バレンヌ灯台~

「あの建物って……」
「バレンヌ灯台……。ルーアン市が管理する建物だな。確か、灯台守のオッサンが1人で暮らしていたはずだが……」
灯台を見上げて呟いたエステルの言葉にアガットは灯台を睨みながら答えた。
「でも、間違いありません。先生たちを襲った人たちはあの建物の中にいると思います。」
「となると、犯人に灯台内を占領されている可能性が高そうだね。」
確信を持ったクロ―ゼの答えを聞き、ヨシュアは真剣な表情で灯台を見た。
「見たところ……入口はあそこだけみたい。とにかく入ってみるしかないか。」
「はい……」
エステルの言葉に頷いたクロ―ゼはエステル達と共に進もうとした時、アガットに呼び止められた。
「ちょっと待ちな。嬢ちゃん、あんたは……」
「この目で確かめてみたいんです。」
「なにぃ?」
クロ―ゼを村に帰そうと思ったアガットだったが、クロ―ゼの言葉に首を傾げた。
「誰がどうして、先生たちをあんな酷い目に遭わせたのか……。だから……どうかお願いします。」
「そ、そうは言ってもな……」
「あーもう。ケチなこと言うんじゃないわよ。この場所が判ったのはクローゼたちの手柄なんだから。」
「彼女の腕は保証しますよ。少なくとも、足手まといになる心配はないと思います。」
一般市民であるクロ―ゼがついて来る事に渋るアガットにエステルとヨシュアが援護した。

「エステルさん、ヨシュアさん……」
「ち……勝手にしろ。だがな、相手はカルナを戦闘不能に追いやった連中だ。くれぐれも注意しとけよ。」
押し問答している時間はないと思ったアガットは折れて、クロ―ゼに忠告した。
「はい、肝に銘じます。」
「……そこの2人も大丈夫だろうな?怪我しても知らねぇぞ?」
クロ―ゼの答えを聞いたアガットはペルルやマーリオンにも忠告した。
「大丈夫!こういう事には慣れているから!それにボクはこう見えても、結構戦えるよ?」
「私達の事は……心配……ありません……」
「チッ、どいつもこいつも好きにしやがれ。」
2人の答えにアガットは諦めて舌打ちをした。
「それじゃ、決まりね。」
「うん……。さっそく中に入ろう。」
そしてエステル達は灯台の中へ入った。

~バレンヌ灯台内・1階~

灯台に入るとそこには、レイヴンのメンバーがいた。
「こ、こいつら!?」
「あ、あの時の人たち……」
レイヴンのメンバーを見てエステルとクロ―ゼは驚いた。
「まさかとは思ったが……おい、てめえら……。こんな所で何やってやがる!」
アガットはレイヴンのメンバーに近付き、怒鳴った。
「「「………………」」」
レイヴンのメンバー達は虚ろな目でアガットを見た。
「お、おい……」
様子がおかしいレイヴン達にアガットは近付いた時、メンバーの一人であるディンがいきなりナイフを抜いてアガットに襲いかかった!
「アガットさん、危ない!」

キン!

ヨシュアが叫んだ時、アガットは反射的に重剣を抜いてディンの攻撃を受け止めた。
「こ、この力……!?」
ディンの攻撃を受け止めたアガットは驚愕の表情でディンを見た。
「ディン、てめえ……」
「………………………………」
アガットはディンを睨んだが、ディンは虚ろな目の状態で何も語らなかった。
そして残りの下っ端の2人もナイフを抜いた。
「はっ、上等だ……。なにをラリッてるのかは知らねえが……。キツイのをくれて目を醒まさせてやるぜ!」
そしてエステル達とディン達の戦いが始まった!

「はっ!」
「………」
「ふっ!」
「………」
エステルとヨシュアは同時に下っ端達に攻撃を仕掛けたが、2人の攻撃はナイフで受け止められた。
「嘘!?」
「信じられない力だ……!」
受け止めて押し返そうとしている下っ端達の力にエステルとヨシュアは驚いた。
「行っくよ!……それぇ!」
「「………」」
下っ端達を狙って体全体を回転させて突進したペルルの攻撃に気付いた下っ端達はエステル達に攻撃を押し返すのをやめて素早く後ろに回避した。
「嘘!?避けられちゃった!?」
自分の攻撃が回避された事にペルルは驚いた。
「水よ……アクアブリード!」
「これでどう……ですか……水弾……!」
後方のクロ―ゼとマーリオンはそれぞれアーツや魔術を下っ端達に向けて放った!
「「………!」」
アーツや魔術によってできた水に下っ端達はのけ反った。その隙を逃さず、ヨシュアはクラフトを放った!
「おぉぉぉ!」
「「……!?」」
クラフト――魔眼を受けた下っ端達の動きが鈍った。動きが鈍った下っ端達をエステルとペルルが止めのクラフトを放った!
「はぁぁ、せいっ!!」
「超・ねこ、パ~ンチ!!」
「「…………!………」」
エステルのクラフト――金剛撃とペルルのクラフトを受けた下っ端達は吹っ飛ばされて、壁にぶつかり気絶した。
「ふおらあぁぁぁ!」
一方ディンを相手にしていたアガットは速攻で決めるために豪快な一撃のクラフト――フレイムスマッシュを放った。
「……………」
しかしディンは虚ろな目でアガットのクラフトを後ろに跳んで回避した。それを見たアガットは不敵に笑った。
「へっ……馬鹿が……そこだぁ!ドラグナーエッジ!!」 
「………!?………」
後ろに着地したと同時にアガットの放った衝撃波に当たり、ディンは下っ端達と同じように壁に当たって気絶した。

「し、信じられない……。倉庫で戦った時とはケタ違いの強さじゃない!」
「様子も変でしたし……。どういう事なんでしょうか?」
戦闘が終わり、気絶したディン達に近寄り、エステルはディン達の強さに驚き、クロ―ゼは様子がおかしかったことに不安げな表情でディン達を見た。
「ふん……。どうやら何者かに操られていたみたいだな。」
「あ、操られていたって……」
気絶したディン達を睨みながら答えたアガットの言葉にエステルは驚いた。
「うん、間違いない……。薬品と暗示を併用した特殊な催眠誘導みたいだ。肉体的なポテンシャルも限界まで引き出されている。」
「そ、そんな事できるの!?」
ディン達を調べて言ったヨシュアの説明にエステルは驚いて尋ねた。
「もちろん、相当な技術が必要になるのは間違いねえ。こいつはひょっとしたら……」
「心当たりがおありなんですか?」
何かを知っていそうなアガットにクロ―ゼは尋ねた。
「ああ……ちょいとな。とにかく、上の階を目指すぞ。こいつらを操っている真犯人どもがいるはずだ。」
「うん、わかった!……っとそうだ!パズモ!」
アガットの言葉に頷いたエステルはパズモを召喚した。
(何、エステル?)
「お願い、力を貸して!多分上にもレイヴンの奴らがいると思うんだけど、多分こいつらみたいにケタ違いの強さだと思うから、援護してほしいの!」
(わかったわ。じゃあ行こう、エステル。)
エステルの頼みに頷いたパズモはエステルの肩に乗った。
「ん?そいつは以前の小さいのじゃねえか。……そんなんが役に立つのか?」
アガットはパズモを見て、胡散臭そうな表情でパズモを見た。
「ちょっと~!また、パズモをバカにしたわね~!見てなさい、パズモがいればあたし達は無敵なのを見せてあげるわ!頼んだわよ、パズモ!」
(ええ!)
そしてエステル達は途中にいるほかのレイヴンのメンバーをパズモやペルル、マーリオンの援護を受けて順調に倒し、最上階に向かった………


後書き この後のイベントバトル後、驚きの展開があるので楽しみに待ってて下さい♪……感想お待ちしております。



[25124] 第79話
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/21 16:14
普通でないレイヴンのメンバー達を倒しつつ、最上階に向かったエステル達は最上階へ続く階段の上から、人の話し声が聞こえたので階段で耳を澄ました。

~バレンヌ灯台・最上階~

「ふふふ……。君たち、良くやってくれた。これで連中に罪をかぶせれば全ては万事解決というわけだね。」
声の主はなんとダルモアの秘書のギルバートであり、黒装束の男達を黒い笑みでほめた。
「我らの仕事ぶり、満足していただけたかな?」
「ああ、素晴らしい手際だ。念のため確認しておくが……証拠が残る事はないだろうね?」
「ふふ、安心するがいい。たとえ正気を取り戻しても我々の事は一切覚えていない。」
「そこに寝ている灯台守も朝まで目を醒まさないはずだ。」
ギルバートの疑問に黒装束の男達は自信を持って答えた。
「それを聞いて安心したよ。これで、あの院長も孤児院再建を諦めるはず……。放火を含めた一連の事件もあのクズどもの仕業にできる。まさに一石二鳥……いや、院長共をイーリュンのお人好し共が引き取ってくれるからこっちの財産は一切減らない……一石三鳥だな。」
「喜んでもらって何よりだ。」
「しかし、あんな孤児院を潰して何の得があるのやら……。理解に苦しむところではあるな。」
男の一人はギルバートの狙いに首を傾げた。それを見て、気分が良かったギルバートはさらに黒い笑みで答えた。
「ふふ、まあいい。君たちには特別に教えてやろう。市長は、あの土地一帯を高級別荘地にするつもりなのさ。」
「ほう……?」
「風光明媚(ふうこうめいび)な海道沿いでルーアン市からも遠くない。別荘地としてはこれ以上はない立地条件だ。そこに豪勢な屋敷を建てて国内外の富豪に売りつける……。それが市長の計画というわけさ。」
「ほう、なかなか豪勢な話だ。しかしどうして孤児院を潰す必要があるのだ?」
ダルモアの考えに黒装束の男は頷いた後、ダルモアの考えを聞いても解けなかった事を尋ねた。男の疑問にギルバートは冷笑して答えた。
「はは、考えてもみたまえ。豪勢さが売りの別荘地の中にあんな薄汚れた建物があってみろ?おまけに、ガキどもの騒ぐ声が近くから聞こえてきた日には……」
「なるほどな……。別荘地としての価値半減か。しかし、危ない橋を渡るくらいなら買い上げた方がいいのではないか?」
ギルバートの答えに納得した男だったが、まだ疑問が残ったので尋ねた。その疑問にギルバートは鼻をならして答えた。
「はっ、あのガンコな女が夫の残した土地を売るものか。だが、連中が不在のスキに焼け落ちた建物を撤去して別荘を建ててしまえばこちらのものさ。フフ、再建費用もないとすれば泣き寝入りするしかないだろうよ……」

「それが理由ですか……」
その時静かな怒りの少女の声がした。
「「「!!」」」
その声に驚いたギルバート達が声のした方向に向くと、そこには武器を構え、怒りの表情のエステル達がいた。
「き、君たちは……!?」
エステル達を見てギルバートは慌てた。
「そんな……つまらない事のために……先生たちを傷つけて……思い出の場所を灰にして……。あの子たちの笑顔を奪って……」
クロ―ゼは顔を伏せ身体中を震わせながら言った。
「ど、どうしてここが判った!?それより……あのクズどもは何をしてたんだ!」
「残念でした~。みんなオネンネしてる最中よ。しっかし、まさか市長が一連の事件の黒幕だったとはね。しかも、どこかで見たような連中も絡んでいるみたいだし……」
焦って尋ねたギルバートの疑問にエステルはしたり顔で答え、黒装束の男達を見て言った。
「ほう……。娘、我々を知っているのか?」
「そこの赤毛の遊撃士とは少しばかり面識はあるが……」
「ハッ、何が面識だ。ちょろちょろ逃げ回った挙句、魔獣までけしかけて来やがって。だが、これでようやくてめえらの尻尾を掴めるぜ。」
黒装束達の言葉にアガットは鼻をならし、いつでも攻撃できる態勢になった。
「き、君たち!そいつらは全員皆殺しにしろ!か、顔を見られたからには生かしておくわけにはいかない!」
「先輩……本当に残念です……」
黒装束の男達に見苦しい態度で命令するギルバートの姿にクロ―ゼは呟いた。
「まあ、クライアントの要望とあらば仕方あるまい。」
「相手をしてもらおうか。」
ギルバートの命令に黒装束の男達は溜息をついた後、両手についている短剣らしき刃物が爪のようについている手甲を構えた。
「ふん、望むところだっての!」
「たとえ雇われてやったのでもあなた方の罪は消えません……」
「『重剣』の威力……たっぷりと味わいやがれ!」
「来ます……!」
「行っくよ~!」
(行くわよ!)
「参ります……!」
そしてエステル達と黒装束の男達の戦いが始まった!

黒装束達は強化されたレイヴン達と比べると身体能力は高くなかったが、そこそこの腕前のためエステル達は手間取った。
「はっ!」
「フッ……」
エステルの攻撃を黒装束の男は無駄のない動きで回避した。
「こちらの番だ……!」
「!」
黒装束の男が武器を構え襲ってくるのを見てエステルが防御の態勢に入った時
(光よ、かの者を守護する楯となれ!防護の光盾!)
すかさずパズモが魔術を使ってエステルに光の膜を覆わせた。光の膜は黒装束の男の攻撃を跳ね返した!
「何!?」
跳ね返った衝撃で両手をあげられた黒装束の男は驚いた。
「そこだ……朧!」
「ぐっ!?」
隙を逃さず狙ったヨシュアのクラフトに男は呻いた。そこをさらに次の魔術の詠唱を終えたパズモが魔術を放った!
(……光よ、集え!光霞!)
「ぐわぁっ!?」
パズモの魔術を喰らってしまった男は悲鳴をあげた。
「超・ねこ、パ~ンチ!」
「ぐはっ!?」
そこにペルルの攻撃が当たり、男はペルルの攻撃を受けて後退した。そこに詠唱を終えたエステルの魔術が男に襲いかかった!
「……大地の力よ、我が仇名す者の力を我の元に……!地脈の吸収!!」
エステルが放った地の魔術は男の足元から木の根が生えて、男の体中に巻き付いた。
「な、なんだこれは……!くそ、放せ……!」
巻きついた木の根に男は驚き木の根を振り払おうともがいたが、木の根はピクリとも動かずそして木の根全てが光った!
「ぐわああああ……!ち、力が……!」
木の根に男の力が吸い取られ、吸い取られた男はその場で膝をついて立ち上がらなくなり、役目を終えた木の根は光の玉となってエステルの身体に入り、今までの戦いで傷ついたエステルの傷を癒した。
「へ~……攻撃と同時に回復もできるなんて、これは使えるわね……!さて、あっちは終わったかな……?」
新しく使った魔術の効果にエステルは両方の拳を見た後、握りしめて勝利の喜びを噛みしめた後残りの一人と戦っているアガット、クロ―ゼ、マーリオンを見た。

「おらっ!」
「くっ……」
アガットの豪快でありながら狙いが正確な攻撃に黒装束の男は必死に避けていた。
「せいっ!」
「……っつ!?」
そこにクロ―ゼのレイピアによる突きの攻撃が男の脇腹を掠った。
「くっ……調子に乗るなっ!」
一端後ろに跳んで後退した男は武器を構え、突進して来た。
「させません……!水よ……行け……!」
「ぐわぁっ!?」
しかし、マーリオンが放った水の魔術――連続水弾をまともに受けてしまったため、のけ反ってしまい動きが止まった。
「……水流よ、吹きあがれ!……ブルーインパクト!」
「なぁっ!?」
そこにクロ―ゼのアーツが放たれ、アーツによって起こされた水流が男の足元から吹きあがって、男を宙に舞わせた。
「出でよ……荒ぶる水……!溺水……!」
「なっ……!ガハッ!?」
さらにマーリオンが放った魔術は宙に舞っている男の真上から滝のような大量の水が発生し、男を地面に叩きつけた!
「そこだぁ!ドラグナーエッジ!!」
「ぐはっ!?」
そして止めに放ったアガットのクラフトが男を吹き飛ばし、吹き飛ばされた男は立ち上がらなくなった……


後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第80話
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/22 12:25
今回は旧幻燐キャラが登場します!!




~バレンヌ灯台・最上階~

「そ、そんな馬鹿な……」
黒装束の男達がやられた事にギルバートは愕然とした。
「市長秘書ギルバード。及び、そこの黒坊主ども。遊撃士協会規約に基づき、てめえらを逮捕、拘束する。あきらめて投降しやがれ。」
「ううう……」
アガットの宣告にギルバートは呻きながら後ずさった。
「なかなかやるな……。真っ向からの勝負ではやはり遊撃士は手強い。まさか、”闇夜の眷属”をも仲間にしているとは……」
「ああ、隊長の忠告通り油断すべきではなかったか。」
エステル達に負けた黒装束の男達はなんとか立ち上がって、冷静に言った。
「隊長……。ひょっとして空賊と交渉していた赤い仮面をかぶった人ですか?」
「その事も知っているとは……」
「さすがギルドの犬ども。なかなか鼻が利くようだな……」
ヨシュアの言葉に男達は驚き、口元に笑みを浮かべた。
「負けたくせにな~に余裕かましてんのよ!いいから武器を置いてとっとと降伏しなさいよね!」
「フ、それはできんな。」
エステルの叫びに男は冷笑し、ギルバートに近付き、銃を構えた。
「なっ!?」
「な、なんのつもりよ!?」
男の行動にギルバートは信じられない表情をし、エステルは驚いて近付こうとしたが
「動くな。それ以上近寄ればこいつの頭が吹き飛ぶぞ。」
銃をギルバートの頭に突きつけながら脅迫した。
「き、君たち!?や、雇い主に向かってどういうつもりだ!?」
銃を頭に突きつけられたギルバートは焦って喚いた。

「勘違いするな、若造。我々の雇い主は市長であって貴様ではない。」
「市長にしたところで同じこと。利害が一致していたから協力していたに過ぎん……」
「お前がここで死のうが我々は痛くも痒くもない。」
「ひ、ひいいいい……。撃つな、撃たないでくれ!」
本気の様子の男達を見て、ギルバートは命乞いをした。
「コラ、いいかげんにしろや。そんな下手な芝居打って逃げられると思って……」

バン!

男達の行動をその場を逃れる芝居と思ったアガットは気にもせず近付こうとしたその時、男の銃が火を吹いてギルバートの片足を撃ちぬいた。
「ぎゃあああっ……。あ、足が……僕の足がああ!!」
片足を撃ち抜かれ、撃たれた所から血が流れ出たギルバートは撃たれた足を庇って悲鳴を上げた。
「せ、先輩!?」
「チッ……」
「どうやら本気みたいですね。」
男の行動にエステル達は驚いた。
「これでも納得しないなら……。こちらの灯台守の頭を撃ち抜いてもいいのだが?」
そしてもう一人の男が、眠っている灯台守の老人の頭に銃を突きつけた。
「や、やめなさいよ!その人は関係ないでしょ!」
男の行動にエステルは思わず、叫んだ。
「ならば、しばらくの間離れていてもらおうか……。そうだな……階段の近くまで下がれ。」
「フン、仕方ねえな……」
男達の要求にアガットは舌打ちをして、エステル達と共に階段の近くまで下がった。
「ふふ、いいだろう。」
「それでは、さらばだ。」
そして男達は灯台の修理用の出口から撤退した。
「待ちなさいってーの!」
「逃がすか、オラあッ!」
男達が出口から出ると当時にエステル達は男達が逃げた出口に向かって駆けて、出口を出た。しかし出口を出た時、男達の姿はなく、ワイヤ―ロープのフックが灯台の手すりに引っ掛かっていた。

「脱出用のワイヤーロープ!?」
「な、なんて用意周到なやつらなの!?」
手すりにフックが引っ掛かっているワイヤーロープを見て、ヨシュアとエステルは驚いた。
「………………………………。……秘書野郎とバカどもの面倒は任せたぞ。」
「えっ……?」
「俺はこのまま連中を追う!お前らは、今回の事件をジャンに報告して指示を仰げ!」
エステル達にそう言い残したアガットはワイヤーロープで降りて行った。
「ボクはルーアンに行ってリフィア達に伝えて先回りしてもらうから、プリネにすぐ戻って来る事を伝えておいてね!」
「あ、ペルル!」
ペルルは夜闇の空へ飛び上がり、エステル達に伝えた後ルーアンに向かって飛んで行った。

そしてエステル達は奪われた寄付金を取り戻した後、ギルバートやレイヴン達を拘束してマノリアの風車小屋に連れて行った。

~メ―ヴェ海道・夜~

黒装束達が逃亡して少しした頃、そこにはペテレーネを先にホテルに帰らせて、コリンズと色々な話をして帰りが遅くなったリウイがルーアンのホテルへの帰路についていた。
「予想以上に話が長引いてしまったな……しかし、”闇夜の眷属”の子供達の留学……か。種族間の壁を取り払う策の一つとしては使えるかもしれん。……プリネが世話になった礼もあるし、考えておくか。……ん?」
考え事をしながら独り言を呟いていたリウイだったが、空から自分に近づいて来る気配がしたので、空を見上げると、そこにはペルルがリウイに近付いて来た。
「あ――!見覚えのある後ろ姿だと思ったけど、プリネのお父さんだ!ルーアンのホテルに帰ったんじゃないの?」
「……プリネの使い魔か。学園長と少し話をしていてな。今帰るところだ。それで何の用だ。」
「うん、あのね……!」
そしてペルルは孤児院の放火事件や黒装束の男達について説明し、リフィア達に先回りしてもらうために逃亡している黒装束の男達を抜いて、ルーアンに知らせるために飛んでいたが、その途中で見覚えのある人影を見たので話しかけた事を言った。
「……なるほど。それでその黒装束とやらの特徴はどんなのものだ?」
「えっと……確か……」
ペルルはリウイに黒装束達の特徴を思い出しながら説明した。
「……………………」
「えっと、どうしたんですか?」
黒装束の特徴を聞き、考え込んでいるリウイを不思議に思ってペルルは尋ねた。
「少し気になる事ができた。報告御苦労。お前はプリネの元に戻れ。」
「え……でもリフィア達にまだ言ってないし……」
「あいつらの場合、やりすぎて殺してしまう可能性がある。そいつらには少々用があるしな……俺自らが追おう。だから安心しろ。」
「う、うん。じゃあ、お願いします!」
リウイの答えに戸惑いながら頷いたペルルは再び空へ飛び上がり、主であるプリネの元へ飛んで行った。ペルルが飛び上がるのを見送った後、リウイ懐からメンフィル帝国が開発した導力技術と魔術、魔導技術によってできた小型の通信機に魔力を流し込んだ後、ある人物と通信をした。

「俺だ。聞こえるか、ファーミシルス。」
「いかがなさいましたか、リウイ様。確か本日はペテレーネやティア様と共にルーアンに一泊するとの事でしたが……」
「ああ。リフィア達の報告にあった例の情報部とやらが動いた。」
「ああ……最近大使館の周りやロレント市民に我々の事をコソコソと嗅ぎまわっているネズミ共ですか。相手は一応同盟国のため様子見をしていましたが、一体どんな動きをしたのですか?」
通信機からは黒装束達を嘲笑するようなファーミシルスの声がした。
「実はな………」
そしてリウイはファーミシルスにペルルから聞いた事を説明した。
「……なるほど。今回の件を利用すればリベールのネズミ共の目的がわかりますね。」
「ああ。何の罪もない一般市民達が住む住居を放火したり、直接襲った者達だ。これなら向こうから何か言われても大義名分が立つ上、遠慮なく拷問して奴らの狙いがわかるかもしれん。俺は今から奴らを追う。今から来れるか?」
「はっ。こちらでリウイ様が持たれている通信機の現在地がわかりますので今から参ります。」
「ああ。」
そしてリウイは通信機を懐に仕舞った後、気配を感じたので近くの木の影に身を潜めた。少しすると逃げて行く黒装束の男達とそれを追うアガットが通り過ぎた。
「今の男の胸についていた紋章は遊撃士協会の………まあいい。気付かれない程度に追うか。」
姿を現したリウイはアガットの服についていた紋章を思い出し少しの間考えていたが、優先すべき事のために考えるのをやめ、気配を消してアガットの後を追った……



後書き という訳でリウイ、再び出番です!リウイがこの時の黒装束達を追う事によってどんな事が起きるかは……みなさんのご想像にお任せします♪……感想お待ちしております。



[25124] 外伝~重剣の追跡~
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/23 10:14
~アイナ街道・夜~

リベールの名所でもあるエア=レッテンに続く道に先ほどの黒装束の男達が息を切らせていた。
「はあはあ……」
「な、何てしつこいヤツだ!」
「おらおらおらッ!」
そこに勢いをもったアガットが追いついた。
「あんな大剣をかつぎながらどうして付いてこられるんだ!?」
黒装束の男達は逃げながらもアガットの身体能力に驚愕していた。
「ハッ、鍛え方が違うんだよ……らああああああっ!」

ズドン!!

アガットは近くにあった岩にジャンプし、さらに勢いを持って男達に攻撃を仕掛けた。
「クッ……これ以上は振り切れんか……」
「仕方ない、迎撃するぞ!」
男達は装備している武器を構えた。それを見てアガットは不敵に笑った。
「ようやくその気になってくれたみたいだな……てめぇらとの鬼ごっこもここまでで嬉しいぜ。」
「しつこく追って来なければ、死なずにすんだものを……」
「馬鹿な奴だ……、2対1で勝てると思うのか?」
「ハッ、勝てるに決まってるだろ。喧嘩は気合だ!!」
男達の言葉にアガットは不敵に笑って答えた。
「なに……!?」
「ケンカは気合だ。気迫で負けたら終わりなんだよ。尻尾巻いて逃げ出した時点でてめえらは負け犬決定ってわけさ。」
「ほ、ほざけ!ギルドの犬がッ!」
「2人がかりでなぶり殺しにしてやる!」
アガットの言葉に怒った男達は同時にアガットに襲いかかったが
「ふおらあぁぁぁ!フレイムスマッシュ!」
「「ぐあああああっ……!!」」
アガットの強烈なクラフトによって膝をついた。

「クッ……ここで捕まるわけには……」
「フン、とっとと降伏して洗いざらい白状して貰おうか。てめえらが何者で何を企んでるのかをな……」
アガットが男達に近づこうとした時、聞いた事もない青年の声が男達の背後から聞こえた。
「―――それは困るな」
「なッ!?」
男達の背後からは仮面を被った青年が現れた。
「い、いつのまに……」
仮面の青年の気配に気付けなかった事にアガットは驚いた。
「た、隊長!?」
「来て下さったんですか!」
青年の登場に男達は喜んだ。
「仕方のない連中だ。定時連絡に遅れた上こんなところで遊んでいるとは。」
「も、申し訳ありません。」
「いろいろと邪魔が入りまして……」
青年の嘆息に男達は焦って言い訳をした。

「なるほどな……。てめえが親玉ってわけか?」
男達の態度からアガットは仮面の青年の正体を推測して言った。
「フフ、自分はただの現場責任者にすぎない……。部下たちの非礼は詫びよう。ここは見逃してもらえないか?」
「はあ?今……なんて言った?」
青年の突拍子のない提案にアガットは一瞬呆けた。
「見逃して貰えないかと言った。こちらとしても遊撃士協会と事を構えたくないのでね。」
「アホか!んな都合のいい話があるか!」
繰り返すように言う青年の言葉をアガットは否定した。そしてアガットの答えに青年は溜息をついて、男達に指示をした。
「やれやれ……悪くない話だと思ったんだが……お前達、ここは自分が食い止める。早く合流地点に向かうがいい。」
「は、はい!」
「感謝いたします、隊長!」
そして男達は走り出した。
「逃がすか、おらあ!」
「…………」
アガットは追うように追撃をかけようとしたが仮面の青年が邪魔をした。

「てめえ……。フン、まあいい。だったら獲物を変えるまでだ。てめえが持ってる情報の方がはるかに重要そうだからな……」
「フフ……。そう簡単に狩れるかな?」
「上等ッ!」
そしてアガットは重剣を、青年は長剣を構えて戦い始めた!

キン!ガン!シャッ!ズドン!

アガットと仮面の青年はしばらく剣を交わしたりそれぞれの攻撃を回避した。
そしてお互い、ある程度の距離を持った。
「フン、やるじゃねぇか。」
「抑えきれない激情を持って鉄魂を振るうか……お前は自分と似たところがある。」
「………………なんだと?」
「己の無力さに打ちのめされた……そんな眼をしているぞ。」
「………クックックッ、いいねぇ。どこの誰かは知らねぇが気にいったぜ………」
アガットは何かを抑えるように笑った。
「自分もお前のような不器用な男は嫌いではない。お互い、このあたりで手打ちということでどうかな?」
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁっ!!黙って聞いてりゃあ知った風な事をほざきやがって!徹底的にぶちのめしてやらぁ!」
「フッ……」
そしてお互いが力を溜めた。
「おおおおおおっ!」
「はああああああっ!」
そして一瞬の刹那、両者が交錯し、仮面の青年が呻いて膝をついた。

「ぐっ……」
「へっ……。口ほどにもないヤツだぜ。ギルドに運んで徹底的に締め上げてやるとするか……」
アガットが青年に近付いたその時、青年の姿が揺らいだ。
「な、何だ?」
そして完全に青年の姿は消えた。その正体に感づいたアガットは信じられない表情で叫んだ。
「こ、これは……分け身のクラフト!?」
そして暗い木々の中から声が聞こえてきた。
「フフフ……悪くない一撃だったがまだ迷いがあるようだな。その迷いが太刀を狂わせる。」
「な、何!?」
「修羅と化するなら全てを捨てる覚悟が必要だ……人として生きたいなら……怒りと悲しみは忘れるがいい。
それではさらばだ……」
そして完全に気配がなくなった。
「……忘れろだと……そんな事、できる訳ねぇだろ……」
アガットは何かを堪えるように呻いた後叫んだ。
「うおおおおおおおっ!!!!!」
その後アガットは一端報告をするために悔しさの思いを忘れずルーアンのギルドに向かって夜闇の道を進んで行った……




後書き 次はみなさんお待ちかね、リウイの出番です!!……感想お待ちしております。



[25124] 外伝~激突!闇王と剣帝の邂逅~前篇
Name: sorano◆b5becff5 ID:6d6f33b4
Date: 2011/08/24 07:27
気付けば話の数が100話越え……!FCは何話で終わるかな??






~アイナ街道・夜~

「ハア、ハア、どうにか無事につきそうだな。」
「ああ、これも隊長のお陰だな。」
そのころ、仮面の男に助けられた男たちは安堵の息をはいていた。
「残念だったな。そうはさせん。」
「な、何!?」
突然自分達の背後から声が聞こえ、驚いた男達が振り向くとそこには鞘から愛剣を抜いて立っているリウイがいた。
「いつの間に……!」
「リベールの間諜達よ。一度だけ言う。自分達のやった罪を認め、武器を退き大人しく俺に降伏するがいい。命だけは保証してやろう。」
「なっ!?」
「なぜ、我々の正体を知っている……!」
リウイの宣言に黒装束の男達は驚いた。
「2度は言わぬ。是か否か。どちらだ。」
「何者かはわからぬが我等の正体を今の時点で知ってて貰っては困る……!」
「閣下の悲願のために死んでもらうぞ……!」
黒装束の男達――リベール軍大佐、リシャールが率いる情報部の兵、特務兵達は武器を構えてリウイに襲いかかった!しかし
「……雑魚共が。俺に戦いを挑んだ事、後悔するがいい。メーテアルザ!!」
「「ぎゃぁぁぁぁっ!?」」
無謀にもリウイに挑んだ特務兵達はリウイの魔法剣により、一撃で全身血達磨になり、悲鳴を上げて地面に倒れた。

「お前達には少々聞きたい事があるからな。急所は外してある。お前達の謀を聞かせてもらうと同時に罪なき者達を襲った報いも受けてもらうぞ……お前達がやった事、後悔するがいい。」
「く、くそ……」
「か、身体が動かない……!」
リウイの一撃で身体中の神経を傷つけられ、身体が動かない特務兵達は地面に伏せたまま呻いた。
「これは………」
そこに先ほどアガットと戦った仮面の男がやって来て、特務兵達の惨状を見て驚いた。
「た、隊長!」
「も、申し訳……ありま……せん……!どうか、撤退の援護を……!」
特務兵達は仮面の男に希望を持った顔を向けて助けを求めた。
「やれやれ……遊撃士協会の次はメンフィル帝国か。……今日は厄日だな。」
助けを求める特務兵達を一瞬だけ見た後、レイピアを構えているリウイから目を離さず溜息をついて呟いた後、リウイに交渉を持ちかけた。

「このような所で貴殿のような方に会えるとは夢にも思いませんでした。リウイ皇帝陛下。」
「なっ!?」
「た、隊長……!今、なんと……!?」
仮面の男の言葉に倒れている特務兵達は驚愕の表情で仮面の男とリウイを見た。
「フン。お前が特務兵を率いる将の一人、ロランス少尉か。」
「フフ……”大陸最強”と讃えられる陛下に自分のような未熟者の事を知っていただいているとは、恐悦至極でございます。」
「世辞はいい。何の用だ。」
「ハッ……ここはお互い見なかった事にしていただけないでしょうか?」
「ほう………ならば今ここで大使館の周りでコソコソと嗅ぎまわるネズミ共を退かせる事を誓え。こちらとしては鬱陶しいし、こちらに来てから結びつけた同盟を女王の目を盗み、謀を考えているお前達のせいで崩すのは心苦しい。」
仮面の男――ロランスの交渉にリウイは余裕の笑みで答えた。
「ハッ。明日には連絡をして退かせましょう。なのでここは見逃してはいただけないでしょうか?」
「さて……な。お前達がなぜ、俺達を嗅ぎまわるか教えるのならば別にいいぞ。」
「わかりました。………自分達は同盟国の事をより深く知りたかっただけです。」
「フン。要は俺達の弱みを探っていたようなものではないか。………それで俺達の弱みは握れたか?」
ロランスの言葉を嘲笑したリウイは表情を余裕の笑みに変えて尋ねた。

「フフ、まさか。わかった事は陛下は身分もない見知らぬ少女を重用している剛胆な方という事しかわかりませんでした。」
「……ほう………興味深い話だな。部下達にはみな平等に接しているつもりなのだがな。」
ロランスの言葉が遠回しにイリーナの事を示している事に気付いたリウイは目を細めて、先を促した。
「確かイリーナという少女でしたかな?大使館で使用人として働いているその少女だけ、こちらの出身である事がわかりました。……しかもその少女は陛下達のお世話をしているそうですな?」
「………………何が言いたい。」
顔には出さず、リウイはロランスを最大限に警戒した。
「フフ、少し気になっただけですよ。陛下はその少女を大事にしているのか、少女が大使館を外出した際、メンフィル兵らしき私服の者達が隠れて護衛をしている所を見ましたから、何かあると思っただけです。」
「…………………」
「ですから自分達は陛下に安心してもらうために、僭越ながら自分達がその少女を見守っていただけです。」
「余計なお世話だ。その者共も退かせろ。」
「フフ。今後自分達、情報部のする事にメンフィル帝国が関わらなければ貴殿等の事はもう調べない事を誓いましょう。」
「……いいだろう。同盟国とはいえそこまで関わるつもりはなかったしな。ただしあくまでメンフィル帝国が関わらないだけだ。個人が勝手に首を突っ込む事までは責任を持たんぞ。」
「フフ、それだけで十分です。では………」
リウイの言葉にロランスは口元に笑みを浮かべて、呻いている特務兵達に近寄ろうとしたがリウイに阻まれた。

「……どういうおつもりで?」
「そちらこそどういうつもりだ?そいつらは王である俺を襲ったのだぞ?拘束し、事情を聞くのは当然の事だろう?それにその者達は放火や一般市民の襲撃を行っている。王としてそいつらの事は見過ごせん。」
「…………陛下ともあろう御方が約定を反故されるつもりですか?」
「何を言っている。俺はあくまでお前がここに現れた事を見逃し、そちらの謀に関与しないとしか言っていない。誰がこいつらを見逃すと言った?」
「(クッ……やはり向こうの方が上手か。)………………仕方ありません。こう見えても部下思いなので、申し訳ありませんが力づくでもその者達を連れて行く事をお許し下さい……!」
騙された事に気付いたロランスは心の中で舌打ちをした後、長剣を構えた。
「フッ……よく言う。俺を見た時から、殺気を向けていた事に気付いていないと思ったのか?」
「…………………………」
「まあいい。俺に一太刀でも浴びせればそいつらを解放してやろう。ただし、逆にお前が戦闘不能まで陥れば、部下共々拘束させてもらい、貴様等の謀を全て話してもらうぞ。」
「……その言葉、偽りはないでしょうな?」
「誇り高き”闇夜の眷属”の王として、偽りはない事を誓おう。」
ロランスの確認の言葉にリウイはレイピアの切っ先をロランスに向けて宣言した。
「フッ……では……!」
そしてリウイとロランスの戦いが始まった………!



後書き という事でみなさんお待ちかねのリウイVSレーヴェです!!勝敗の行方ですが……劣勢とはいえ、セリカとガチでバトルできたリウイが神格者でもない人間ごときに負けるとでも?次回はリウイ無双になるので楽しみに待ってて下さい。レーヴェファンは……まあ、すみませんと先に謝っておきます。……感想お待ちしております。



[25124] 外伝~激突!闇王と剣帝の邂逅~後篇
Name: sorano◆b5becff5 ID:a0362af3
Date: 2011/08/25 06:55
今回は序盤に出てしばらく出てこなかった原作キャラの現在の強さがちょっとだけわかります。




~アイナ街道・夜~

正遊撃士の中でも実力が高いアガットを軽くあしらったロランスだったが、さすがに今回の相手は悪すぎた。
「フッ!」
「……!」
リウイの神速の突きの攻撃をロランスは必死で回避し続けた。
「ハッ!」
「クッ……!」
リウイの斬撃を正面から剣でロランスは受け止めた。
「普通の相手ならいい判断だ。だが半魔人の俺相手にそれは悪手だ……!」
「……!?」
攻撃が受け止められても余裕の笑みでリウイは剣に力を入れ、ロランスを武器ごと真っ二つにするかのように押した。押し返そうとしたロランスだったが、全く押し返せず徐々にリウイの剣が自分の顔に近付いて来る事に危機を感じ、一端剣を退き後ろに跳んで後退した。
「そんな……!?」
「隊長が苦戦するなんて……!」
頼みの綱のロランスが苦戦している事に特務兵達は信じられない表情で驚いた。
「どうした。その程度の腕か?」
リウイは疲弊した様子を見せずレイピアの切っ先をピタリとロランスに向けて挑発した。
「……………やはり強い。だが、一撃は入れて見せる……!今度はこちらの番だ……!」
ロランスは剣を握りしめ、アガットと戦った時とは明らかに違う動きでリウイに襲いかかった!
「はあっ!」
「………………」

キンキンキンキン!

本気になったロランスの攻撃は隙がなく目にも止まらない速さだったが、リウイは冷静に攻撃を次々と捌いていた。
「セアッ!」
「!!」
隙がないはずの連続攻撃の最中に放ったリウイの反撃にロランスは驚き、咄嗟に剣で防いだがリウイの放った攻撃――フェヒテンケニヒは勢いが凄過ぎたため、防御の体勢のままでロランスは吹っ飛ばされた!
「ふっ!」
吹っ飛ばされ岩に当たる寸前のロランスは受け身を取って岩に当たるのを回避した。しかしその隙を逃さずロランスが着地した瞬間を狙ってリウイはクラフトを放った!
「フェヒテンアルザ!」
「くっ!?」

キンキンキン!……ザシュ!

「っ!」
リウイの連続追撃を剣で捌いたり、回避していたロランスだったが連続攻撃の最後の攻撃が脇腹を掠り、斬られた痛みに顔を一瞬顰めた後また後ろに跳んで後退し、クラフトを放った!
「そこだっ!」
ロランスは剣から衝撃波でできた竜巻――零ストームをリウイに放った。
「ウィンディング!」
しかしリウイの風の魔法剣によって攻撃は相殺された。
「向かってくる者全てを滅する剣にして”人”を護る剣………まさか修羅と理の剣を同時に扱うとはさすがは剣の王と言われた『剣皇』ですね……」
「そういう貴様こそ中々の腕だ。貴様の剣は”人”を捨て、修羅となるがための破壊の剣……ただの猟兵ではないな?」
「フフ……そこまで調べ上げているとはさすがはゼムリアの覇者、メンフィルですね………」
リウイの言葉にロランスは口元に笑みを浮かべて答えた。
「フッ。お前の実力なら我が軍の将となれるだろう。どうだ?我等の軍門に降るのならかなりの待遇を約束してやろう。」
「フフ……魅力的な話ではあるが謹んで断らせていただこう。自分にはやらなければならない事があるのでね……!」
リウイの勧誘にロランスは口元に笑みを浮かべながら断った。
「そうか。……さて、そろそろ決めさせてもらうぞ……!」
「………………」
そしてリウイとロランスはお互いを睨み、力を溜めた。
「オオオオオォッ!」
「はああああああっ!」
そして2人はそれぞれSクラフトを放った!
「我が魔の力に呑まれよ!……魔血の目覚め!!」
リウイが内に秘めたる力を剣に込めて震った魔の力が籠った衝撃波はまるで津波のようになり、それがロランスを襲った!
「むんっ!受けて見ろ、荒ぶる炎の渦を………鬼炎斬!!」
対するロランスが放った強烈な斬撃は炎を纏ったような衝撃波となり、それがリウイの放った技とぶつかりあった!

ドン!バキバキバキ……!

ぶつかりあった衝撃波は周囲にも余波を生み、近くに生えていた木は音を立ててなぎ倒された。そしてぶつかりあった衝撃波の内、リウイが放った衝撃波がだんだんとロランスの放った衝撃波を押した後、ロランスの衝撃波をも呑みこみ、ロランスを襲った!
「ぐっ……おおおおっ!………ぐあっ!?」
リウイの衝撃波を受けてしまったロランスは苦悶の声をあげながら押し返そうとした。しかし耐えきれず後ろに吹っ飛ばされた。
「終わりだっ!」
吹っ飛ばされたロランスを追って、リウイはロランスに向けてレイピアを斬り上げた!
「ぐあああっ!?」
リウイのレイピアによって斬られたロランスは斬られた部分から血飛沫を上げて、近くの川に落ちた!

ドボーン!!

「た、隊長――!!」
「そ、そんな……隊長がやられるなんて……!」
倒れている特務兵達はロランスがやられた事に絶望した。
「………逃がしたか。」
いつまでもたっても川から浮かんでこないロランスを不審に思ったリウイは呟いた。
「フフ……よろしければこの私が追って、止めをさして来ても構いませんわよ、リウイ様。」
そこにファーミシルスが夜闇の空より不敵な笑みを浮かべて、リウイの元に降り立った。
「必要ない。奴から得られる必要な情報は得れた。約束通り、ここは見逃してやれ。……お前の事だ。俺がロランスと交渉を始めた時から、すでにいたのだろう?」
「フフ、リウイ様のご想像のままにと言っておきましょう……それで?そこに倒れている雑魚共が大使館の周りを嗅ぎまわっていたネズミ共ですか?」
リウイの言葉にファーミシルスは不敵に笑った後、倒れている特務兵達に顔を向けて尋ねた。
「ああ。一応こいつらの大元である者の企みを知っておく必要があるから、生かしておいた。」
「なっ!?誰が貴様等ごときに我等の計画を話すものか!」
「た、企みだと!?閣下の崇高な計画をなんと思って……」
「闇に落ちよ!……ティルワンの闇界!!」
「「ギャァァァッ!?」」
リウイに反論しようとした特務兵達はファーミシルスの魔術によって、悲鳴を上げて地面に伏せ、何も言わなくなった。
「………ファーミシルス。まだ、こいつらには聞きたい事が山ほどあるのだぞ?」
せっかく捕えた情報源を殺したと思ったリウイは溜息をついて、ファーミシルスを咎めた。
「ご安心を。死ぬ一歩手前に手加減してありますわ。このような者共がリウイ様に対して、無礼な口調をするものですからつい、手が出てしまいましたわ。」
咎められたファーミシルスは悪びれもせず、微笑しながら答えた。
「フゥ。……まあいい。では、そいつらの事は頼んだぞ。…………決してティアの目に触れない所で拷問をしろ。」
「………相変わらずティア様には甘いですわね。いくらイーリュンの信徒とはいえ、ティア様はメンフィル皇女であり、リウイ様のご息女。母親と違い、生まれた時から皇族として教育されていたのですから、国のために必要である事は理解していると思いますが。」
リウイの指示にファーミシルスは溜息を吐きながら答えた。
「……別に甘い訳ではない。母親であるティナの性格によく似たあいつの事だ。俺達の目を盗んでこいつらを逃がす可能性もある。そういった可能性もあるからティアにはこいつらと会わせてはいかん。……さすがに自分の娘を罰したくはないのでな。」
「……それが甘いというのですが………わかりました。こいつらは王城の牢屋に監禁して、拷問をいたします。あそこで行われている事はティア様も黙認していますから……それでは、失礼いたします。」
そしてファーミシルスは倒れている特務兵達を拘束した後、2人を両手を使ってそれぞれ抱え、夜闇の空へと舞い上がり、飛び去った。
「……………まさかイリーナに目をつけるとは思わなかったな………リベールで運びうる暗躍が落ち着くまでイリーナが外に出る時、レンを共につけるか。ティファーナの娘から母親直伝の技を受け継ぎ、人間でありながら全属性の魔術を習得したあいつならあの程度の者達ごとき、なんなく撃退できるだろうしな。………そろそろ行くか……」
ファーミシルスを見送り、ロランスが落ちた川を睨んだ後、リウイは外套を翻してルーアンのホテルに向かって行った。

~川下・岸~

そこにはリウイにやられた後、水中を泳いで撤退したロランスが岸に上がって呻いた。
「ぐっ……ここまでやられるとは……」
ロランスはリウイに斬られた部分を手で押さえ呻いた後、持っていたオーブメントで回復アーツを発動した。
「水の力よ……ティアラル!」
発動したアーツはロランスの傷を癒した。傷が治ったロランスは立ち上がった。
「………あいつらが捕えれたのは痛かったが、まあいいだろう……メンフィルは関与しないと言質を取ったから問題はあるまい。……懸念していた事の一つがなくなり、大佐も安心するだろう……」
独り言を呟いたロランスは川上を見つめた。
「今の剣技が剣を極めし皇、『剣皇』の技か……フッ、手も足も出なかった俺が『剣帝』を名乗る等、おこがまし過ぎるな……まだ修羅になりきれていない証拠か……」
そしてロランスは人間離れした動きでその場を去った。

その後ファーミシルスに拘束され、王城の牢屋でメンフィル兵達に拷問され、孤児院の放火やテレサ襲撃の報いを受けるかのように地獄を味わった特務兵達は拷問によって自分達の情報を吐かされた後、冥き途へと旅立った…………




後書き 最凶キャラと言われたレーヴェが一方的に蹂躙されちゃいました。実を言うと、レーヴェがボコボコにされる話はこれだけではありません。先に言っておきますが作者はアンチレーヴェとかではないですからね!?クロスオーバーキャラ達があまりにもチートすぎるからこうなってしまうんです。ちなみに話にもあったようにレンの戦い方は原作に加えて同じ鎌使いのあのキャラの技+魔術という凶悪の強さになっちゃいました♪その内出すのでレンファンは楽しみに待ってて下さい♪………感想お待ちしております。



[25124] 第81話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/08/26 11:24
今回の話の最後ではとんでもない人物の名前が出てきます♪



~メーヴェ海道~

ギルバートやレイヴン達をマノリア村の風車小屋に拘禁し、目覚めたカルナと念のためにプリネに見張りをお願いしたエステル達は今回の事件の詳細を報告するため、ルーアンのギルドへと急いでいた。
「しかし、ダルモア市長が事件の黒幕だったなんて……。親切そうに振る舞っていたのも全部お芝居だったわけね!」
「ええ……貴族として決して許せません……!」
孤児院放火事件やテレサを襲撃することを命じた黒幕がダルモアとわかったエステルは自分達を騙していた事に怒っていた。
「あの……。少し気になったんですけど……。今回の件で、ダルモア市長を逮捕できるんでしょうか?」
「……え?」
「そうだね……。難しいかもしれない。遊撃士協会は、国家の内政に不干渉という原則があるからね。ルーアン地方の責任者である現職市長を逮捕するのは難しそうだ。」
クロ―ゼの心配ごとにエステルは驚き、ヨシュアは暗い表情で答えた。
「ちょっと待ってよ!それっておかしくない!?」
ヨシュアの答えにエステルは顔色を変えてヨシュアに詰め寄った。
「おかしいけどそれが決まりだからね。この決まりがあるからこそギルドはエレボニア帝国やメンフィル帝国領にすら支部を持つことができたんだ。」
「そ、そうは言っても……」
「とにかくギルドに行ってジャンさんに相談してみよう。良い知恵を貸してくれると思う。」
「う、うん……」
「………………………………」
元気づけるヨシュアの言葉にエステルは腑に落ちない様子で納得し、クロ―ゼは俯いたまま聞いていた。
「大丈夫、心配することないって!院長先生たちを苦しめたツケはきっちり払ってもらわないとね!」
「はい……そうですね。」
俯いているクロ―ゼにエステルは元気づけた。しばらく歩いているとルーアン市とジェニス王立学園に行く分かれ道に出た。

「……あの…………」
「クローゼ、どうしたの?」
「あの、エステルさんたちはギルドに行かれるんですよね?私、やる事を思い出したので先に行っててもらえませんか?すぐに追いつきますから……」
「構わないけど……いったん学園に戻るのかい?」
「は、はい……。一応、学園長にも報告しておこうと思いまして。」
「そっか……。うん、わかったわ。ギルドで待ってるからね!」
そしてエステルとヨシュアはクロ―ゼをその場に残して、ルーアン市に向かった。
「ごめんなさい……。エステルさん、ヨシュアさん。」
エステル達を見送ったクロ―ゼは申し訳なさそうな表情で呟いた後、懐から手帳とペンを取り出して文字を書き連ねた。
「うん、これでいいわ。……ジーク!」
「ピューイ!」
クロ―ゼに呼ばれたジークは空中より飛んできて、クロ―ゼの肩に止まった。
「これをユリアさんに届けてくれるかしら?」
「ピュイ。」
クロ―ゼは先ほど書き連ねたページを破り、ジークの足に結び付けた。
「お願いね、ジーク。」
「ピューイ!」
クロ―ゼの言葉に頷いたジークはまた、空へと飛び立ちどこかへ去った。そしてジークを見送ったクロ―ゼは急いでルーアンのギルドに向かった。

~遊撃士協会・ルーアン支部~

「……話はわかった。まさか、ダルモア市長が一連の事件の黒幕だったとは。うーん、こいつは大事件だぞ……」
エステル達から報告を聞いたジャンは首をひねって、唸った。
「それで、ジャンさん。市長を捕まえる事はできるの?」
「うーん……。残念だが逮捕は難しそうだな。現行犯だったら、市長といえど問答無用で逮捕できるんだけどね。」
「やはりそうですか……」
「そ、そんな……。だったらこのまま悪徳市長をのさばらせてもいいてわけ!?」
無念そうな表情で答えたジャンの言葉にヨシュアは暗い顔で納得し、エステルは納得できず怒った。
「まあ、そう慌てなさんな。遊撃士協会が駄目でも……王国軍なら市長を逮捕できる。」
「あ……」
「エステル君、ヨシュア君。これから市長邸に向かって市長に事情聴取を行ってくれ。多少、怒らせてもいいからできるだけ時間を稼いで欲しい。」
「なるほど、その間に王国軍に連絡するんですね?」
ジャンの指示にヨシュアは確信を持った表情で尋ねた。
「うーん、軍に頼るのはシャクだけど仕方ないか……。そう言えばリフィア達は?」
軍に頼る事に弱冠抵抗があったエステルは気持ちを割り切った後、リフィア達がこの場にいない事に気付き、尋ねた。
「彼女達なら、今ちょうどロレントに戻る飛行船に乗るメンフィル大使達を見送るために空港に行っているよ。」
「そっか。ティアさんや聖女様に挨拶できないのは残念だけど仕方ないか……よし、クローゼが追いついたらさっそく市長邸に向かって……」
エステルがそう言ったその時、ドアが開いてそこには息を切らせたクロ―ゼがいた。

「はあはあ……。お、お待たせしました……」
「学園に寄った割にはずいぶんと早かったね?」
学園との距離を考え、不思議に思ったヨシュアはクロ―ゼに尋ねた。
「え、えっと……足には自信がありますから。それで……どういう事になりました?」
「ちょうど市長のところに乗り込むって話をしてたのよ。王国軍の連中が来るまで事情聴取して時間稼ぎをするの。」
「あ……そうですか……。……余計なことをしたかしら……」
エステルの言葉にクロ―ゼはエステル達には聞こえない声で独り言を呟いた。クロ―ゼの様子を不思議に思ったエステルは尋ねた。
「???えっと、クローゼも来るよね?」
「あ、はい。どうかご一緒させてください。」
「ジャンさん、連絡の方はどうかよろしくお願いします。」
「ああ、任せておいてくれ!」
ギルドを出たエステル達は市長邸に向かい、接客をしているという市長に会うためにヨシュアがメイドに自分達も会う予定があると誤魔化した。そしてエステル達は市長と、市長が接客しているデュナン公爵がいる部屋に堂々と入った。

~ルーアン発着場~

エステル達が市長がいる部屋に入った同じ頃、リフィア達はロレントに戻るリウイ達と出発前の会話を楽しんでいた。
「ほう……まさか神殺しの使い魔がそんな事になっていたとはな。」
リフィアからテトリの事を聞かされたリウイは弱冠驚きの声を出した。
「うむ。余も驚いたぞ。……それにしてもあの時のエステルの言葉が頭に離れられなくて思い出したら、笑いが止まらぬ……ぷっくくく……!」
「何を言ったんでしょうか?」
思い出し笑いをしているリフィアを不思議に思って、ティアは尋ねた。
「エステルが神殺しをいつか殴るんだって。」
「何?」
「え!」
「あの……どうしてそんな事をエステルさんが……?」
リフィアに代わって答えたエヴリーヌの言葉からありえない人物の事が出て、リウイは目を丸くし、ペテレーネは驚き、ティアはなぜそんな事になったかを尋ねた。
「ぷっくく……なんでもセリカが自分の使い魔の存在を忘れ、その事にテトリが傷ついた事を怒っていてな。だから今のテトリの契約主としてテトリを忘れた事が許せず、ブッ飛ばすそうだ……ぷっくく!」
ある事が気になったペテレーネはリフィアに尋ねた。リフィアは笑いを押し殺しながら答えた。
「あの……エステルさんはセリカ様の正体の事は?」
「当然知っている訳がなかろう。エステルはセリカの事を自分の使い魔の存在を忘れる酷い契約者としか捉えておらぬ。」
「なぜ、奴の正体を言わない?」
「言った所で信じないだろうし、どうせ会う事もないだろうから言わなかっただけだ。」
リウイの疑問にリフィアは悪びれもなく答えた。

「…………確かにな。」
リフィアの言葉にリウイは少しの間考えた後、納得した。
「ねえ、お兄ちゃん。」
「どうした、エヴリーヌ。」
「神殺しで思い出したんだけど、神殺しとフェミリンスの女の事はどうするの?エヴリーヌ達のお家で働いているイリーナっていう人間がお兄ちゃんの探していた人なんでしょ?」
「………………………………」
エヴリーヌの疑問にリウイはしばらくの間考えるかのように腕を組み、目を閉じて黙った。そしてリウイに代わってかリフィアが答えた。
「当然、放置だろう?イリーナ様の魂はあのイリーナという少女に受け継がれているのだから、セリカやエクリアを狙っても意味がないのだからな。」
「………………まあな。イリーナが転生した以上、神殺しの力は必要ない上、依り代であるエクリアを狙っても意味がないからな。」
「……よろしいのでしょうか?エクリア様はその……リウイ様にとって仇になりますが………」
リウイの答えを聞き、ペテレーネは恐る恐る尋ねた。
「……奴を許せると言えば嘘になるが、今更その事を蒸し返しても仕方あるまい。あの時の奴は姫神だったのだからな…………それに自分を殺したエクリアに恨みごとも言わず逝ったイリーナがそんな事を望むとはとても思わん……最も、イリーナの魂が目覚めて元のイリーナになった所で連絡するつもりはないが。」
「……それでもお父様はセリカ様やエクリア様を狙わないのでしょう?私はそれを聞いて安心しました。」
「ほう……なぜだ?」
ティアの言葉が気になり、リウイは尋ねた。
「だって、血のつながった家族同士が争うなんて私には耐えられませんから……」
「ふふ、本当に優しい方ですね、ティアさんは。ティアさんを見ていると、時折ティナさんの事を思い出してしまうほど成長されましたね。」
「ありがとうございます、ペテレーネ様。」
ペテレーネの言葉にティアは微笑んで答えた。
「……エクリアの件はわかるとして、神殺しを狙わない事に安心しているのはなぜだ?奴は現神にとって忌まわしき敵であろう。」
「お父様……わかってておっしゃっているのですか?イーリュンの愛は無限。……例えその相手が神殺しであろうと変わりはありません。私はただ純粋に人と人が争わない事に安心しているのです。」
「フッ……そうか……」
ティアの答えにリウイは口元に笑みを浮かべて答えた。その時定期船の離陸の放送が響いた。

ボース方面行き定期飛行船、まもなく離陸します。ご利用の方はお急ぎください。

「………そろそろ時間か。プリネにはいい劇を見せてもらったと伝えておいてくれ。」
「うむ!」
「うん。お兄ちゃんが褒めてくれたって知ったら、きっとプリネも喜ぶしね。」
リウイの言葉にリフィアは力強く頷き、エヴリーヌはプリネの喜ぶ顔を予想して微笑んだ。
「さて……2人とも行くぞ。」
「はい。」
「わかりました、お父様。それではリフィアさん、エヴリーヌさん。怪我や病気には気をつけて下さいね。」
「うむ!ティア殿も元気でな!」
「ばいば~い!」
そしてリフィア達の別れの挨拶と共にリウイとペテレーネ、ティアを乗せた定期船は飛び立っていった……




後書き これにてリウイ達の出番はしばらくお休みです……が、FC内の話で他の旧幻燐キャラをエステル達と接触させる話が浮かんでいるので楽しみに待ってて下さい♪……感想お待ちしております。



[25124] 第82話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/08/27 08:33
~ルーアン市長邸・2階大広間~

エステル達が踏み込む寸前、そこにはダルモア市長とフィリップを傍に控えさせたデュナン公爵が会談をしていた。
「ヒック……。ふむ、なかなかいい話だ。確かにこのルーアンは別荘を持つには絶好の場所だ。しばらく滞在してよく判った。」
ダルモアに勧められ、酒を呑んで酔っているデュナンは上機嫌に答えた。
「ふふ、そうでしょうとも。その高級別荘地の中でもとりわけ素晴らしい場所に閣下の別荘を用意いたします。また、まだ交渉段階にも入ってはいませんが、将来的には閣下の別荘のお近くにあのメンフィル大使の別荘も用意する予定でございます。今後のメンフィルとの関係を強化するためにも必ずや気に入って頂けるかと……」
「ふっふっふ……。おぬし、なかなか話が判るな。いいだろう、ミラに糸目はつけん。次期国王にふさわしく、ロレントという片田舎に居を構えているくせに”英雄王”等というふざけた異名を持つメンフィル大使より豪華絢爛(ごうかけんらん)な別荘を用意するがいい。……そうだな、最低でもこの屋敷くらいは欲しいところだ。」
ダルモアの言葉に乗せられたデュナンは上機嫌に注文をした。
「閣下、しばしお待ちを。女王陛下に相談もせずにそのような巨額の出費は……それに同盟国の皇族の方を下に見る言い方はどうかと……」
「黙れ、フィリップ!私は次期国王だぞ!このくらいの買い物は当然だ!それにメンフィル大使が住む土地はリベールより借り受けている土地!それ即ち次期国王である私の土地を借り受けているのだから、私のほうが当然上であろう!」
フィリップに咎められたデュナンだったが全く耳を貸さず。リウイがどういった経緯でロレントに居を構えたかも知らず、メンフィルの間者等に聞かれたら大事になる事を発言した。
「いやはや、公爵閣下ならば判っていただけると思いました。後で契約書を持ってこさせます。その前に、もう一献……」
「おっとっと………」
ダルモアがデュナンのグラスにワインを注いだ。そこにエステル達が現れた。

「こんにちは~。遊撃士協会の者で~す。」
会談中であるにも関わらず、エステルは堂々と名乗った。
「君たちは……」
「ヒック……。なんだお前たちは?どこかで見たような顔だが……」
「おお、いつぞやの……」
「こんにちは、執事さん。ちなみに、今日はそこの市長さんにお話があって来ただけだから。」
フィリップに挨拶したエステルは自分達を険しい表情で見ているダルモアを見た。
「困るな君たち……。ギルドの遊撃士ならば礼儀くらい弁えているだろう。大切な話をしているのだから出直してきてくれないかな?」
「なにぶん緊急の話なので失礼の段は、ご容赦ください。実は、放火事件の犯人がようやく明らかになったので……」
不機嫌な表情でエステル達を見ていたダルモアだったが、ヨシュアの答えに驚いた。
「!その件か……仕方あるまい。公爵閣下、しばし席を外してもよろしいでしょうか?」
「ヒック……。いや、ここで話すといい。どんな話なのか興味がある。」
「し、しかし……」
「いいじゃない♪公爵さんもああ言ってるし。聞かれて困る話でもないでしょ?」
「まあ、それはそうだが……。そういえば夕べは、またもやテレサ院長が襲われたそうだな。放火事件と同じ犯人だったのかね?」
デュナンも事件の詳細について聞く事にダルモアは戸惑ったが、エステルの言葉に納得して、尋ねた。

「その可能性が高そうです。残念ながら、実行犯の一部は逃亡している最中ですが……」
「そうか……。だが、犯人が判っただけでも良しとしなくてはならんな。ちなみに誰が犯人だったのかね?」
「うーん、それなんだけど。市長さんが考えている通りの人たちだと思うわよ。」
「そうか……残念だよ。いつか彼らを更正させる事ができると思っていたのだが……。単なる思い上がりに過ぎなかったようだな……」
「あれ、市長さん。誰のことを言ってるの?」
無念そうに語っているダルモアにエステルは不思議そうに尋ねた。
「誰って、君……。『レイヴン』の連中に決まっているだろうが。昨夜から、行方をくらませているとも聞いているしな……」
エステルの疑問にダルモアは確信を持った表情で答えた。
「残念ですが……彼らは犯人ではありません。むしろ今回に限っては被害者とも言えるでしょうね。」
「な、なに!?」
しかしヨシュアの答えに驚き、思わず声を上げた。
「今回の事件の犯人、それは……ダルモア市長、あんたよっ!」
「!!!」
ヨシュアに続くようにエステルは声を張り上げて、ダルモアを睨んだ。エステルの言葉にダルモアは厳しい表情のまま、固まった。
「秘書のギルバードさんはすでに現行犯で逮捕しました。あなたが実行犯を雇って孤児院放火と、寄付金強奪を指示したという証言も取れています。この証言に間違いはありませんか?」
「で、でたらめだ!そんな黒装束の連中など知るものか!」
「あれ~、おっかしいな。あたしたち、黒装束だなんて一言も言ってないんだけど~。」
「うぐっ……。知らん、私は知らんぞ!全ては秘書が勝手にやったことだ!」
「往生際の悪いオジサンねぇ。」
以前のような紳士的な態度をなくし、悪あがきをしているダルモアを見てエステルは溜息を吐いた。そしてヨシュアは退路を断つかのように、話を続けた。
「高級別荘地を作る計画のために孤児院が邪魔だったと聞いています。これでもまだ、容疑を否認しますか?」

「しつこいぞ、君たちっ!確かに、ずいぶんと前から別荘地の開発は計画されている!だが、それはルーアン地方の今後を考えた事業の一環にすぎん!どうして犯罪に手を染めてまで性急に事を運ぶ必要があるのだ!?」
「そ、それは……」
ダルモアの叫びに答えられなかったエステルが困ったその時
「……莫大な借金をかかえているからでしょう?」
いきなりナイアルが広間に入って来た。
「ナ、ナイアル!?」
「どうしてここに……」
ナイアルの姿を見て、エステルとヨシュアは驚いた。
「いやな、そこの市長さんを取材しようと屋敷まで来たらお前たちが入っていくじゃねえか。こりゃ何かあるなと思ってお邪魔してみたらこの有様だ。いや~。一部始終聞かせてもらったぜ♪」
ネタを見つけたかのようにナイアルは上機嫌で答えた。
「な、なんだね君は!?」
「あ、『リベール通信』の記者、ナイアル・バーンズといいます。実はですねぇ。最近のルーアン市の財政について調べさせてもらったんですが……。ダルモア市長、あなた……市の予算を使い込んでますなぁ?」
「……そ、それは……。別荘地造成の資金として……」
ナイアルの確認の言葉にダルモアは顔を青褪めさせた。
「そいつは通りませんぜ。まだ、工事は一切始まってない。ちょいと妙だと思ったんで飛行船公社まで足を伸ばしてあなたの動向を調べたんですよ。すると、あ~ら驚き。1年ほど前に、共和国方面に度々いらっしゃてますねぇ?」
「……た、ただの観光だ……」
どんどん追い詰められている事に気付いたダルモアは無意識に両手の拳を握り、誤魔化したがナイアルはすぐに否定した。
「というのは表向きの理由。本当の理由は……あちらの相場に手を出して大火傷を負ったからでしょう?」
「!!!」
「えっと……相場ってなに?」
言葉の意味がわからないエステルは周囲に尋ねた。

「市場の価格差を利用してミラを稼ぐ売買取引です。ある品が安い時に買いこんで高くなったら売るような……」
「あ、なーるほど。それで、この市長さんはどれだけ損しちゃったわけ?」
クローゼの説明で理解したエステルはナイアルに尋ねた。
「共和国にいる記者仲間に調べてもらった限りでは……。およそ1億ミラってとこらしい。」
「い、い、1億ミラぁ~!!」
「寄付金の100倍ですか……。確かに、犯罪に手を染めても不思議ではない金額ですね。」
ナイアルの答えにエステルは驚いて声を上げ、ヨシュアは驚いた後ダルモアが犯罪に手を染めた理由に納得した。
「ヒック、1億とはな……。私もミラ使いは荒い方だがさすがにおぬしには完敗だぞ。」
「くっ……」
逃げ場を完全に失ったダルモアは顔を歪めた。
「な~に競ってるんだか。」
エステルはデュナンの言葉に呆れて溜息を吐いた。
「まあ、そんなわけで……。莫大な借金を返すために市の予算に手を出したはいいが問題を先送りにしただけだ。どうするものかと思っていたらまさか放火や強盗までして別荘地を作ろうとするとはねえ。何と言いますか……行き当たりばったりですなあ。」
「………………………………。ふん、そんな証拠がどこにある。憶測だけで記事にしてみろ。名誉毀損で訴えてやるからな!」
「あらま、開き直った。」
強気になったダルモアを見てナイアルは目を丸くした。
「貴様らもそうだ!市長の私を逮捕する権利は遊撃士協会にはないはずだ!今すぐここから出て行くがいい!!」
「む、やっぱりそう来たか。」
「さすがに自分の権利はちゃんと判っているみたいだね。」
同じようにエステル達にダルモアは怒鳴った。怒鳴られたエステルとヨシュアは厳しい表情でダルモアを見た。

「………………………………。市長、1つだけ……お伺いしてもよろしいですか?」
「なんだ君は!?王立学園の生徒のくせにこのような輩と付き合って……。とっとと学園に戻りたまえ!」
「………………………………」
「うっ……」
静かに問いかけたクローゼを怒鳴ったダルモアだったが、クローゼの凛とした眼差しに見られて怯んだ。
「どうして、ご自分の財産で借金を返さなかったんですか?確かに1億ミラは大金ですが……。ダルモア家の資産があれば何とか返せる額だと思います。例えば、この屋敷などは1億ミラで売れそうですよね?」
「ば、馬鹿なことを……!この屋敷は、先祖代々から受け継いだダルモア家の誇りだ!どうして売り払う事ができよう!」
「あの孤児院だって同じことです。多くの想いが育まれてきた思い出深く愛おしい場所……。その想いを壊す権利なんて誰だって持っていないのに……。どうして貴方は……あんなことが出来たのですか?」
「あ、あのみすぼらしい建物とこの屋敷を一緒にするなああ!!」
クローゼの言葉にダルモアは怒り心頭で吠えた。
「あなたは結局自分自身が可愛いだけ……。ルーアン市長としての自分とダルモア家の当主としての自分を愛しているだけに過ぎません。可哀想な人……」
「………………………………。……ふふ……ふふふふふ………。よくぞ言った、小娘が……。……こうなったら後のことなど知ったことか!」
クローゼに哀れみと軽蔑が込めた視線で見られたダルモアは凶悪な顔で笑い、立ちあがって後ろの壁にあるスイッチを押した。すると壁の一部が動き、隠し部屋が出来た。
「ファンゴ、ブロンコ!エサの時間だ、出てこい!」
ダルモアが叫ぶと、隠し部屋から何かの足音が聞こえて来た。
「な、なんなの……」
「獣の匂い……!」
エステルとヨシュアは隠し部屋から歩いて来る何かを警戒した。そして隠し部屋から2体の4足巨大魔獣が現れた!

「「グルルルル………」」
「な、なんだああッ!?」
巨大魔獣を見てナイアルは驚き
「ま、魔獣ううううう!?うーん……ブクブクブク……」
「こ、公爵閣下!?」
魔獣を見て気絶したデュナンにフィリップが駆け寄った。
「信じられません……。魔獣を飼ってるなんて……」
クローゼはダルモアを険しい表情で見て言った。
「くくく……。お前たちを皆殺しにすれば事実を知るものはいなくなる……。こいつらが喰い残した分は川に流してやるから安心したまえ。ひゃ―――――――はっはっはっ!」
「く、狂ってやがる……」
狂ったように笑い叫ぶダルモアにナイアルは後ずさった。
「ぐるるるるるぅ……」
「……うるる……………」
2体の巨大魔獣は唸りながらエステル達に襲いかかる態勢になった。
「こ、こんな屋敷の中で魔獣と戦うことになるなんて……」
「でも、これで現行犯として市長を逮捕することができる。」
「あなたたちに恨みはないけれど……。人を傷付けるつもりならば容赦はしません!」
そしてエステル達と2体の巨大魔獣の戦いが始まった………!




後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第83話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/08/28 08:26
~ルーアン市長邸・2階大広間~

ダルモアが飼っていた巨大魔獣達は手強く、手配魔獣並の強さであり、さすがのエステル達も苦戦した。
「「ぐる!」」
「くっ!」
「っつ!」
突進しながらの角での攻撃にエステルとヨシュアはそれぞれの武器で防御したが、魔獣達の力が強く押されていた。
「やば……!」
どんどん押されて、角が自分に迫っている事に気付いたエステルは焦った。
「エステル!一端下がろう!力比べでは僕達が不利だ!」
「わかった!」
ヨシュアの指示に頷いたエステルは武器を退いて、一端下がったが
「「ガウッ!」」
「いたっ!?」
「くっ!?」
その隙を逃さず襲いかかった魔獣達の攻撃を受けてしまい、身体に傷が出来て苦悶の声を上げた。
「このっ!」
「せいっ!」
攻撃を受けた後、反撃をした2人だったが魔獣達は後ろに跳んで回避した。
「癒しの水よ……彼らの傷を癒したまえ………ラ・ティアラ!」
そこにクローゼの回復アーツが発動し、エステルとヨシュアの傷を治した。
「ありがとう、クローゼ。」
傷を治したクローゼにエステルはお礼を言った。
「いえ。……それにしても2体の巨大魔獣はやっかいですね………」
「そうだね……何か手は……そうだ!エステル、召喚をしてくれないかい!?」
「いいけど……誰を召喚するの?」
「……目には目を。獣には獣だよ、エステル。」
「!わかったわ!……サエラブ!」
(……我の出番か。)
ヨシュアの言葉を理解したエステルはサエラブを召喚した。

「一人で一体を任せてもいい!?あいつら結構手強いのよ!」
(フン。あのような人間に飼われた犬ごとき、我のみで十分だ!一体ごときすぐに葬るから、お前達も残りの一体をとっとと葬るがいい。)
「了解!」
そしてサエラブは魔獣の一匹に炎の玉をぶつけた!
(喰らえ!)
「ぐる!?」
炎の玉を受けた魔獣は悲鳴を上げてのけ反った。
「ガウッ!」
仲間が傷つけられた事に気付いたもう一体の魔獣がサエラブに襲いかかろうとしたが
「いっけ~!火弾!」
「ガウッ!?……うるる……!」
エステルが放った魔術を受けて、魔術を放ったエステルに標的を変えた。
「「時の刃よ、水よ!!ソウルブラー、アクアブリード!!」」
「ガァッ!?」
さらにそこにヨシュアとクローゼが発動させたアーツが当たった。
「あんたの相手はこっちよ!」
「うるるる……!」
エステルの挑発を受けて、もう一体の魔獣は標的をエステル達に変えて襲いかかった。

「……大地の力よ、我が仇名す者の力を我の元に……!地脈の吸収!!」
「うるっ!?」
さらにエステルの魔術によって、魔術によって発生した木の根が魔獣に絡み付き魔獣は身動きが出来なかった。
「はっ、朧!」
「えい、やあ、はあ!」
「うるっ!?」
そこにヨシュアとクローゼが挟み撃ちにするかのようにそれぞれクラフトを放って傷を増やした。さらにそのすぐ後絡み付いている木の根が光った。
「うるっ……!?ガァァっ!?」
魔術の木の根によって力を吸い取られた魔獣は叫び声を上げた。
「行くよ……!ふん!はっ……はっ………断骨剣!!」
「ガァッ!?」
そして追撃をするかのようにヨシュアのSクラフトが全て決まり、魔獣に致命傷を与えた。
「……水流よ、吹きあがれ!……ブルーインパクト!」
「うるっ!?」
さらにクローゼのアーツが発動し、アーツによってできた水流が魔獣を宙に浮き上がらせた後、水流がなくなると魔獣は地面に落ちて来た。さらに落ちて来た魔獣を狙って、エステルが棒に魔力によってできた雷を帯びさせてSクラフトを放った!
「これで決める………ハァァァァァァ!雷波!無双撃!」
「ガァァァァァッ………!」
クローゼのアーツによって全身濡れていた魔獣はエステルの放った雷を帯びた攻撃によって感電し、さらに技の威力も相まって断末魔を上げながら消滅した。

一方一人で魔獣を相手にしていたサエラブは自分が相手をしている魔獣の異変を感じ取った。
「ぐるっ!?ぐるるるるっ!」
(む?奴の気配が少し変わった………!)
魔獣から違和感を感じて、サエラブは警戒した。
「ぐるっ!」
(む!先ほどより動きがよくなっただと!?)
動きがさっきより素早くなった魔獣にサエラブは驚いたが、冷静に突進してくる魔獣を迎え撃った。
「ぐるっ!」
(むん!)
角による攻撃をサエラブは爪で受け止めた。サエラブの爪と魔獣の角はお互い押しあって、自分の敵を攻撃しようとしたが、勝負は拮抗していた。
(……なるほど。先ほどエステル達が葬った魔獣の咆哮によって仲間を強化させたか……ただでは死なぬという訳か………)
サエラブは敵が強くなった理由を冷静に推測した。そして勝負がつかないと思った魔獣は一端後ろに跳び、角をサエラブに向けて助走をして突進する態勢に入った。
(フン……一気に勝負をつける気か……ならば、その選択がどれほど愚かである事を思いしらせてやろう……!)
魔獣の態勢を見て、サエラブは鼻をならした後飛び掛かる態勢になり、自らの身体に炎を纏った!
「ぐるっ!」
(フン!)
助走した事によってさらに勢いをました魔獣の突進攻撃にサエラブは炎を纏った身体で飛び掛かって応戦した。
「ギャン!?ガァァァァァッ!?」
サエラブの炎を纏った突進クラフト――”炎狐強襲”の威力に負けた魔獣は壁まで吹っ飛ばされた後、体が燃えて悲鳴をあげた。
(終わりだっ!)
「ガッ………ガァァァァァッ………!」
サエラブに喉元を噛まれた魔獣はエステル達が倒した魔獣のように断末魔をあげながら消滅した。
(フン。………どうやら、終わりのようだな………)
魔獣の消滅を確認したサエラブはダルモアに武器を突きつけたエステル達を見た…………




後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第84話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/08/29 07:48
~ルーアン市長邸・2階大広間~

「ば、馬鹿な……。私の可愛い番犬たちが……。貴様ら、よくもやってくれたな!」
自分の飼っていた魔獣達がやられた事にダルモアは怒鳴った。
「はあはあ……。それはこっちの台詞だっての!」
「遊撃士協会規約に基づきあなたを現行犯で逮捕します。投降した方が身のためですよ。」
「ふふふふふ……。こうなっては仕方ない……奥の手を使わせてもらうぞ!」
エステル達に追い詰められたダルモアは懐から杖を出した。
「え!?」
「杖……?」
何かあると思ったエステル達は慌ててダルモアを取り押さえようとしたが
「時よ、凍えよ!」
ダルモアが杖を掲げて叫ぶと、杖の宝石部分が妖しく光り、エステル達の動きを止めた。
「か、身体が動かない……!」
(ぐっ……!体が……!)
「こ、これは……導力魔法なのか?」
「ち、違います……。これは恐らく『古代遺物(アーティファクト)』の力!」
「なんだあ、そりゃあ!?」
身動きが出来なくなったエステルやサエラブは驚いた後なんとか体を動かそうとしたが動かなかった。杖の光の正体をにヨシュアは信じられない顔で推測して言ったが、クローゼが確信を持った表情で答え、それを聞いたナイアルは驚いた。

「ほう、クローゼ君は博識だな。これぞ、わがダルモア家に伝わる家宝、アーティファクト『封じの宝杖』……。一定範囲内にいる者の動きを完全に停止する力があるのだよ。」
クローゼの説明にダルモアは凶悪な表情で感心した後、杖の正体を言った。
「な、なんてデタラメな力……」
「こんな強力なアーティファクトが教会に回収されずに残っていたのか……」
杖の力にエステルは驚き、ヨシュアはダルモアの予想外の切り札に無念を感じた。
「フフ、さすがは古代文明の叡智の結晶……。戦術オーブメントごときとは比較にならぬ力を備えている。もっとも、1つの機能しか持っていないのが難点だがね。」
杖を自慢したダルモアは懐から銃を出して、エステル達に近寄った。。
「仕方ないから、君たちの始末は私自らの手で行ってあげよう。ククク……光栄に思うのだな。まずはそうだな……生意気な小娘から始めて……」
ダルモアは凶悪な表情で銃をエステル突きつけて言った。
「むっ、何が生意気よ!」
(…………………)
銃を突きつけられてもエステルは強気な態度で言い返した。契約者の窮地を救うためにもサエラブは冷静になり、ダルモアの隙を窺った。
「最後に賢(さか)しらな小娘の息の根を止めるとしようか?」
「………………………………」
同じように銃を突きつけられたクローゼは動じず、ダルモアを厳しい表情で見た。

「ククク……さっきの威勢はどうした?命ごいでもすれば助けてやらんでもないぞ?」
「だ、誰があんたなんかに……」
「汚い手で……るな……」
「なに?」
(む………!この気配は……!)
エステルにゆっくりと近付いて行くダルモアに向かってヨシュアは途切れた声で呟いた。ヨシュアの言葉が気になったダルモアは聞き返し、サエラブはヨシュアからただならぬ気配を感じた。
「汚い手でエステルに触るな……。もしも……毛ほどでも傷付けてみろ……。ありとあらゆる方法を使ってあんたを八つ裂きにしてやる……」
ダルモアに向かってヨシュアは誰にも見せた事のないような冷酷な眼差しでダルモアを睨んだ。
「な……」
ヨシュアの睨みにダルモアは気圧されて後ずさった。
「ヨ、ヨシュア……」
「ヨシュアさん……」
(なんという強烈な負の気………!小僧……貴様、何者だ………!)
ヨシュアの言葉と表情にエステル達は驚き、サエラブはヨシュアの正体が何者か怪しく思った。

「ゆ、指一本も動かせぬくせに意気がりおってからに……。いいだろう!貴様の始末を先にしてやる!」
後ずさったダルモアは気を取り直して標的をヨシュアに変えた。
「や、止めなさいよっ!ヨシュアを傷付けたら絶対に許さないんだからねっ!」
「………………………………」
銃を突きつけられてもヨシュアは冷酷な表情でダルモアを睨み続けた。
「ヨシュアさん!」
ヨシュアの窮地にクローゼは叫んだ。
「死ね。」
ダルモアが銃の引き金に指をかけた時
「だめえええええええっ!!!!」
エステルが叫んだその時、エステルの胸元から黒い光が放たれた。
「な……!」
黒い光にダルモアは驚き、後退した。そして黒い光は部屋全体に広がり、エステル達の体が動くようになった。
「な、なぬううううううっ!?」
「身体の自由が……戻った?」
「エステル……今の黒い光は?」
「う、うん……。父さん宛に届いたあの黒いオーブメント……」
エステル達が動けるようになった事にダルモアは驚き、ヨシュアの疑問にエステルは懐からカシウスから預かった謎の黒いオーブメントを出した。
「これが光ったみたいだけど……」
「そ、そんな馬鹿な……。家宝のアーティファクトがこんなことで壊れるものかああ!」
(………そこだ!)
喚いているダルモアの隙を狙ってサエラブは杖を持つ手に向かって飛び掛かった!
「なっ………!」
ダルモアが気付くといつの間にか持っていた杖は強奪したサエラブが口に咥えて、エステル達のところにいた。
「ナイスよ、サエラブ!」
「これでもうあなたの切り札は使えません……現実を見た方がいいんじゃありませんか?」
「そうよ!」
武器を構えたヨシュアに同じるようにエステルは武器を構えた。

「よくも悪趣味なやり方でいたぶってくれたわね~っ!」
「最低です……」
武器を構えながらエステルは怒り、クローゼも武器を構えてダルモアは軽蔑した。
「ううううううううう……。誰が捕まるものかっ!」
武器を突きつけられたダルモアは唸った後、わき目も振らず隠し部屋に入って逃げた。
「ああっ!」
逃げたダルモアを見て、エステルは驚いた。
「追いかけるよ!」
「はい!」
「うん!サエラブ、ありがとう!戻って!」
(ああ。)
サエラブは口に銜えていた杖をその場に置いて、光の玉となってエステルの身体に戻った。そしてエステル達はダルモアを追った。
「ああっ、待ちやがれ!こ、こんなスクープ、逃してたまるかってんだ!」
一足遅れてナイアルがダルモアやエステル達を追って行った。
「うーん……魔獣が、魔獣がああ……」
「やれやれ……寿命が縮みましたぞ……。閣下、大丈夫ですか、閣下……」
部屋に残されたフィリップは安心した後、気絶しているデュナンを介抱した。

隠し部屋に会った梯子を下りて、外に出るとヨットに乗って逃走しているダルモアの姿があった。
「あ、あれは……」
「ダルモア市長のヨットです!」
「ま、待ちなさいっての!」
「このボートで追いかけよう!さあ、2人とも乗って!」
近くにあったボートを見つけたヨシュアはすぐに乗り込み、ボートのエンジンをかけてエステル達にボートに乗るよう促した。
「オッケー!」
「はい!」
「こらー!俺も乗せやがれってんだ!」
エステルとクローゼは素早くボートに乗り込み、遅れてきたため、ボートに乗れなかったナイアルの叫びを背に、たヨシュアはエンジンを全開にしてダルモアのヨットを追い掛けた。

~ルーアン市内~

エステル達を乗せたボートはどんどんダルモアのヨットとの距離に少しづつ縮まって行った
「よーし、近づいてきた!」
「こちらの方が小型な分、船体は軽いみたいですね。」
エステルやクローゼはダルモアに追いつけるかもしれない事に表情を明るくした。
「くっ……しつこいヤツらだ……。これでも喰らえっ!」
近付いて来るエステル達に焦ったダルモアはエステル達に向けて銃を何発も撃った。しかし
「とりゃあっ!」
エステルは棒を自分の目の前で回転させて、銃弾を弾いた。
「な、なにいい!?」
銃弾が全て防がれた事にダルモアは驚いた。
「ふふん、遊撃士を舐めんじゃないわよっ!ヨシュア、そのまま右側につけちゃって!」
「了解。……あれっ?」
ヨシュアがヨットの側面にボートをつけようとしたその時、ダルモアを乗せたヨットが加速した。
「い、いきなり速くなった!?」
「これは……沖合いを流れる風です!」
「まずいな、こうなったらヨットの方が断然有利だ……」
ヨットが速くなった事にエステルは驚き、原因がわかったクローゼが説明し、それを聞いたヨシュアが表情を険しくした。
「あ、あんですってー!?」
「わはは、女神(エイドス)は私の方に微笑みかけてくれたようだな!それではさらばだ、小娘ども!」
そしてダルモアは高笑いをしながらエステル達から逃げて行った。
「冗談じゃないわよ!あと一歩のところで~っ!」
「このままだと高飛びされかねない……。なにか手段は……」
ダルモアに追いつけなかった事にエステルは悔しがり、ヨシュアはダルモアに追いつく手段を考えたその時、上空からエンジン音が聞こえて来た。
「な、なに……?」
「……来た」
謎のエンジン音にエステルは不思議な顔をし、クローゼは静かに呟いた。するとエステル達のボートの上を大きな飛行船が飛んで行った。

「フン、逃げたはいいがこれからどうしたものか……。やはり、軍の手が回る前にエレボニアに高飛びするしかないか。なあに、しばらく我慢すれば『彼』が何とかしてくれる……」
一方逃亡が成功したと思ったダルモアは独り言を呟いた後、念の為に後ろを振り返ると大きな飛行船がダルモアのヨットに向かってきた。
「な、な、なああああああっ!?」
飛行船はダルモアのヨットの進路を塞ぐように着水した。飛行船が着水した衝撃でできた水飛沫により、ダルモアのヨットが停止した。
「な、な、な……。うわあああっ!な、なんだこの飛行船は!王国軍の……いや、この紋章は……」
「……王室親衛隊所属、高速巡洋艦『アルセイユ』。それがこの艦の名前だ。」
飛行船に彫ってある紋章を見て驚くダルモアに答えるように、飛行船から王室親衛隊員達を連れた女性士官が現れて答えた。
「やれやれ……何とか間に合ったみたいだな。」
「蒼と白の軍服……女王陛下の親衛隊だと!?」
女性士官の軍服を見たダルモアは驚いて叫んだ。
「その通り。自分は中隊長を務めるユリア・シュバルツという。ルーアン市長、モーリス・ダルモア殿。放火、傷害、強盗、横領など諸々の容疑で貴殿を逮捕する。」
「これは夢だ……夢に決まっている……。うーん、ブクブクブク……」
女性士官――ユリアの宣告にダルモアはショックを受けてヨットの上で気絶した。そのすぐあとにエステル達のボートが到着した。
「こ、これって……どうなっちゃってるの?」
「ジャンさんが連絡してくれた王国軍の応援だと思うけど……。それにしては来るのが早すぎるような……」
「……ふふ………」
状況を見てエステルとヨシュアは驚き、クローゼはその後ろで静かに笑っていた。
「やあ、遊撃士の諸君。諸君の協力を感謝する。後のことは我々に任せてほしい。」
こうしてマーシア孤児院放火事件とテレサ襲撃を命じた黒幕、ルーアン市長ダルモアは親衛隊員によって身柄を拘束された………


後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第85話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/08/30 10:01
~ルーアン発着場~

ダルモアの身柄が拘束された後に、エステル達はルーアン発着場に向かいユリアからその後の話を聞いた。
「先程、目を覚ました市長を問い詰めたのだが……。どうやら記憶が曖昧になっているようだな。放火や強盗の犯行についてもぼんやりとしか覚えてないらしい。」
「そ、そうなんだ……。なんか空賊の首領みたい……」
「あの黒装束たちといい何か関係があるかもしれないね。」
ユリアの説明にエステルとヨシュアは顔を見合わせ、驚いた。
「まあ、記憶が曖昧と言っても起こした罪は明白だからな……。秘書共々、厳重な取り調べが待っているのは言うまでもない。何か判明したら遊撃士協会にもお知らせしよう。」
「助かります。」
ユリアの言葉にヨシュアはお礼を言った。
「そうだ……君達には謝らないといけないことがあったな……」
「へ?」
思い出すように呟いたユリアの言葉にエステルは目を丸くした。
「……ジェニス王立学園祭の時、部下達が生徒達を含め無礼を働いてしまった事だ。」
「ああ、あの時の……」
「……部下達に代わって謝らせてもらう。……申し訳なかった。」
「ちょ、ちょっと!」
「頭をあげて下さい、中尉。」
頭を下げて謝罪するユリアを見てエステルは焦り、ヨシュアは諭した。
「あの時の親衛隊員達の方達は望んでやった事ではないと僕達も理解はしていますから。」
「そうよ!あれはあの酔っぱらった公爵さんが悪いんだから、ユリアさんが謝る事なんてないわよ!」
「しかし君達を含め、生徒達が苦労して成功した劇を滅茶苦茶にしてしまったのは事実だ。また、安易にデュナン公爵の命令に従った部下達にも責任はある。……今後二度とここのような事がないよう、みなに言い含めるから今回の件は目をつぶってほしい。」
「う、うん。」
ユリアの言葉にエステルは戸惑いながら頷いた。
「僕達はいいのですが、メンフィルに対してどう言い訳をするのですか?……デュナン公爵が親衛隊員達に命じた時、メンフィル大使が現れた事はご存じですか?」
「その件か。最初リウイ皇帝陛下に襲いかかった事を聞いてリベールの滅亡が思い浮かんだが話を聞く所、あの後その話を聞いたクローディア姫が直々にリウイ陛下に謝罪に行ったところ、陛下は気にしていないとおっしゃっていたそうで、今回の件が原因で同盟の破棄や戦争の勃発にはしないと断言なさったそうだ。だから、その件は安心してくれてかまわない。」
「よ、よかった~………それにしてもそのクローディア姫って人、凄い行動力をしているよね!あんな凄い雰囲気を出しているメンフィルの王様に一人で会いに行ったんだから。」
「……………」
ユリアの言葉にエステルは緊張がとれたように、肩の力が抜けて安心した。またクローゼはエステルの言葉に照れた表情をした。

「ところで中尉さん。1つお願いがあるんですがね。」
そこにちゃっかりエステル達に着いて来て、その場にいるナイアルがユリアに尋ねた。
「なにかな、記者殿?」
「できれば俺も、そちらの船に乗せてくれませんかねぇ?何と言っても、ツァイス中央工房が世に送り出す最新鋭の飛行船だ。ぜひとも取材させて欲しいんですよ。」
「申しわけないがお断りさせていただこう。この『アルセイユ』は先日、艤装(ぎそう)が終わったばかりで試験飛行を行っている段階なのだ。正式なお披露目が行われるまでどうか報道は控えていただきたい。」
「そ、そこを何とか!逮捕された市長や秘書からもコメントを貰いたいところだし……」
ユリアの断りの言葉にナイアルは食い下がった。
「心配せずとも、判明した事実は王都の通信社にもお伝えしよう。そのあたりで勘弁して欲しい。」
「はあ~、仕方ないか。よし、こうしちゃいられん!記事を書いたら大急ぎで王都に戻るしかっ!そんじゃあ、失礼するぜ!」
ユリアの答えを聞いたナイアルは諦めて溜息をついた後、その場を走り去った。

「相変わらず逞しいっていうかめげないっていうか……」
「はは……でもナイアルさんらしいね。」
ナイアルの行動にエステルとヨシュアは苦笑した。
「『リベール通信』の発行部数は最近うなぎ上りだと聞いている。彼には、プロパガンダに囚われない記事を書いて欲しいものだが……」
「政治的宣伝(プロパガンダ)……?」
「いや……」
首を傾げて気になった言葉を繰り返したヨシュアを見て、ユリアは顔を伏せた。そこにカノーネを連れたリシャールが現れた。
「お手柄だったようだね。シュバルツ中尉。」
「こ、これは大佐殿……!」
「ああっ!」
「リシャール大佐……」
「ほう、いつぞやの……。なるほど、ギルドの連絡にあった新人遊撃士とは君たちのことだったか。」
リシャールはエステル達を見て頷いた。
「え……。ジャンさんが連絡したのってリシャール大佐のことだったの?」
「ああ、王国軍の司令部があるレイストン要塞に連絡が入ってね。慌てて駆けつけてみればすでに事が終わっていたとはな。見事な手際だ、シュバルツ中尉。」
「は、恐縮です……」
「フフ、でも不思議ですこと。王都にいる親衛隊の方々がこんな所に来ているなんて……。どうやら、我々情報部も知らない独自のルートをお持ちのようね?」
「お、お戯れを……」
「………………………………」
カノーネの言葉にユリアは目をそらし、クローゼは目を閉じて何も言わなかった。

「はは、カノーネ大尉。あまり絡むものではないな。ただ、陛下をお守りする親衛隊が他の仕事をするのも感心はしない。後の調査は我々が引き継ぐからレイストン要塞に向かいたまえ。そこで、市長たちの身柄を預からせてもらうとしよう。」
「は……了解しました。」
「我々はこれで失礼するよ。親衛隊と遊撃士の諸君。それから制服のお嬢さん……」
「………………………………」
リシャールは一瞬クローゼに意味ありげな顔を向けて言った。顔を向けられたクローゼは何も言わず笑顔で会釈をした。
「……機会があったらまた会うこともあるだろう。それでは、さらばだ。」
「フフ、ごきげんよう。」
そしてリシャールはカノーネを連れて発着場から去った。
「気のせいかもしれないけど……。今、リシャール大佐、クローゼの方を見ていなかった?」
「そ、そうでしょうか?」
「………………………………。確かに、こういう場所に君みたいな学生がいるのはあまりないことだろうからね。不思議に思われたのも無理ないよ。」
「あ、あはは……本当にそうですよね。ちょっと反省です……」
「うーん、そんな雰囲気じゃなかったような……」
ヨシュアの言葉にクローゼは苦笑し、エステルは腑に落ちていない様子だった。

「……自分に言わせれば君たちだって充分驚きの対象だ。いくら遊撃士とはいえその若さでここまで活躍するとは……。できれば親衛隊にスカウトしたいくらいさ。」
「や、やだな~。そんなにおだてないで下さいよ。今度の事件だって色んな人に助けてもらったし。」
ユリアの賛辞にエステルは照れながら答えた。
「そう謙遜するものではない。まだ準遊撃士のようだが正遊撃士は目指さないのかな?」
「あ、今ちょうどそれを目指して修行中なんです。」
「女王生誕祭が始まるまで一通り国内を回ってみるつもりです。」
「そうか……自分も応援しているよ。」
その時、アルセイユから親衛隊員がユリアを呼んだ。
「ユリア隊長!出航の準備が整いました。」
「ああ、わかった。エステル君、ヨシュア君。……それとクローゼ君も。そろそろ我々は失礼する。機会があったらまた会おう。」
「あ、はい!」
「その時は宜しくお願いします。」
「……ありがとうございました。」
エステル達の別れの言葉を聞いたユリアは親衛隊員達が待つアルセイユのデッキに戻った。
「隊士一同、敬礼!」
ユリアがそう言うと、ファンファーレを鳴らしながら、親衛隊員達が敬礼をした。
「わわっ……」
「王室親衛隊所属艦、『アルセイユ』―――離陸(テイクオフ)!」

そしてアルセイユはエステル達に見送られ、飛び立って行った…………



後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第86話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/11/09 21:47
その後エステル達はダルモアの件を報告するためにギルドに戻った。

~遊撃士協会・ルーアン支部~

そこには事件解決の報を聞いて戻って来たプリネとリウイ達を見送りに行ったリフィア達も戻って来ていた。
「は~、まさか王都の親衛隊がやって来るとはね。しかも噂の最新鋭艦、『アルセイユ』のお出ましとは。僕も受付の仕事が無かったら見に行きたかったんだけどなあ。」
エステル達の報告を聞いてジャンは残念そうな表情で言った。
「ジャンさんって意外にミーハーだったのね。でも、ジャンさんが連絡したのはリシャール大佐だったんでしょ?」
「ああ、レイストン要塞に彼がいたもんだからね。どうして親衛隊が駆けつけたのかは判らないが……。まあ、軍の連絡系統にも色々あるってことなんだろうね。」
「通常の正規軍に加えて、国境師団、情報部、王室親衛隊……。確かに複雑そうですよね。」
「うむ。それはどの国に対しても変わらないな。」
ヨシュアの言葉にリフィアは頷きながら答えた。
「へ~……メンフィル軍もいろんな部隊があるの?」
リフィアの言葉が気になったエステルは尋ねた。
「ええ。正規軍はもちろんの事、ファーミシルス大将軍率いる親衛隊、シェラ軍団長率いる機工軍団。他には斥候部隊や魔道軍団があります。」
「魔道軍団?何ソレ??」
プリネの説明にエステルは疑問を抱き、尋ねた。
「魔道軍団とはその名の通り、”魔術”を使える者達で構成された軍団の事です。戦になればさまざまな魔術を使って敵を葬るメンフィルの主力軍団の一つです。」
「……魔術を軍団で撃てば威力はもちろんの事、相手に対してかなりの被害を出すだろうね……」
「ええ。他には竜騎士で結成されている竜騎士軍団、水竜騎士で結成されている水竜騎士軍団、また各地の王公領にもメンフィルが帝国化した際、それぞれの王公領の軍団が正規軍化し、そのままそれぞれの王公領を守っています。」
「ふえ~相変わらずメンフィルって凄いわね……そう言えば、エヴリーヌは客将って言ってたけど、エヴリーヌも軍人なの?」
メンフィルの凄さに改めて知ったエステルは驚いた後、モルガンとリフィア達の会話で思い出したエヴリーヌが名乗った時の身分を思い出してエヴリーヌに聞いた。
「ううん。エヴリーヌは基本お兄ちゃん達の傍で戦うだけ。一応”魔神部隊”っていう部隊に所属している事になっているけどね。」
「”魔神部隊”………その言い方だとエヴリーヌ以外にも”魔神”がいるのかい?」
エヴリーヌの言葉が気になったヨシュアは尋ねた。
「うん。ゼフィラとカファルーっていう2人だよ。」
「2人ともエヴリーヌみたいに強いの?」
「ん~……ゼフィラはイマイチかもしれないけど、カファルーは結構強いよ。」
エステルの疑問にエヴリーヌは首を傾げて答えた。

「でも、今回の事件は事後処理が大変そうですね……。今後、ルーアン地方の行政はどうなってしまうんでしょうか?」
「あ。そうか……。市長が逮捕されちゃったし。」
「とりあえずは王都から市長代理が派遣されると思う。市長の有罪が確定すればいずれ選挙が行われるだろうね。そうそう、孤児院については正式な補償が行われると思うよ。」
「そうですか……良かった。これもみんなエステルさんたちのおかげです。本当に……ありがとうございます。」
ジャンの説明にクローゼは胸をなでおろしてエステル達に感謝した。
「や、やだな。水くさいこと言わないでよ。」
「そうだね。当然のことをしただけさ。それに僕たちだけじゃなくてアガットさんやペルル達の協力も大きかったしね。」
「そ、そういえば!ね、ねえ、ジャンさん!アガットから何か連絡はあった!?」
ヨシュアからアガットの名前が出て、黒装束達を追って行ったアガットの事を思い出したエステルはジャンに尋ねた。
「ああ、それなんだが……。残念ながら、黒装束の連中は取り逃がしてしまったらしい。他にも仲間がいたみたいでね。待ち伏せの襲撃にあったそうだよ。」
「ええっ!?」
「大丈夫だったんですか?」
ジャンの報告にアガットの強さを知っているエステルやヨシュアは驚いた。
「ああ、何とか切り抜けたらしい。そのまま連中を追ってツァイス地方に向かうそうだ。今頃は、ルーアン地方から離れている頃じゃないかな」
「な、なんか……ハードなことやってるわね。……そういえばプリネ。」
「はい、何でしょうか?」
「あの後、ペルルがリフィア達に知らせて先回りしてもらうって言ってたけど、リフィア達は行かなかったの?」
「なぬ?初耳だぞ、それは。」
エステルの疑問にリフィアは首を傾げた。

「あ、はい。その事なんですが……話に聞くとお姉様達がいるルーアンに向かっている途中でリウイ陛下を見かけたそうで、事情を話したところ陛下自らがアガットさん達を追ったそうです。」
「リウイ皇帝陛下が……それで、どうなったんだい?」
プリネの説明にジャンは驚き、続きを促した。
「さあ……特に何も聞いておりません。お姉様方は陛下達がルーアンを去る際、何か言ってませんでしたか?」
「うん、プリネが参加してた劇が中々よかったぐらいしか言わなかったよ。」
「うむ。……それにしてもなぜリウイに報告した後、ペルルは余に報告しなかったのだ?」
「陛下が言うにはお姉様達だと、その……手加減を忘れて殺してしまうからと……だからお姉様達と賊達と会わせたくなかったそうなので、ペルルを私の所に戻るよう言ったそうです。」
「む、失礼な……いくら許せん相手とはいえ、加減を忘れることは余はないぞ。」
「あはは……でも何の連絡もないという事は、アガットみたいに取り逃がしたのかな?」
リフィアの発言に苦笑したエステルはリフィア達に尋ねた。
「リウイに限ってそれはないと思うぞ。……時間があれば後で大使館に問い合わせて聞いて、お前達にも情報をやろう。」
「期待して待っているよ。ちなみに、しばらく前からアガットはあの連中を追いかけているんだ。どうやら、君たちのお父さんに頼まれた仕事らしいけどね。」
「と、父さんが!?」
「どうしてそういう事に?」
ジャンの言葉にエステルとヨシュアは驚いて尋ねた。
「ふふ、『レイヴン』にいたアガットを更正させたのは他ならぬカシウスさんだからね。何だかんだ言ってあの人には頭が上がらないのさ。」
「ええっ、そうだったの!?」
アガットの過去にエステルは驚いた。

「なるほど……。僕たちに対する厳しい態度もそれが原因かもしれないですね。」
「すごくそれっぽいわね~。って、やっぱり父さんのとばっちりじゃなのよっ!」
「くすくす……。あ、エステルさんたちのお父様といえば確か……」
「え、どうしたの?」
クローゼの意味深な言葉にエステルは首を傾げた。
「あの、市長邸で黒い光が溢れた時に……」
「あ、それがあったか!」
クローゼの言葉で思い出したエステルは懐から黒いオーブメントを出した。
「色々ありすぎて、つい忘れちゃってたけど……。コレ、いったい何なのかしら……」
「それのおかげで助かったけど、少し不気味な感じはするね……」
(お姉様、先ほどエステルさん達がアーティファクトの効果がいつの間にか消えたと言っていましたけど……)
(……恐らくあの黒いオーブメントが原因だな。……しかし、アーティファクトの効果を打ち消すか……アーティファクトの力の源は導力。それを消すという事は……)
(導力を消滅させるオーブメントのような物という事ですね……そのような物、一体どこから手に入れたんでしょう……)
エステル達の話を聞いたリフィアやプリネは黒いオーブメントの出所を怪しがった。
「珍しい色のオーブメントだね。どういった由来の物なんだい?」
「それが……」
黒いオーブメントの出所を尋ねたジャンにエステルとヨシュアは手に入れた経緯を説明した。
「まあ……」
「ふーむ、R博士にKか……。ひょっとしたら……」
エステル達の説明にクローゼは驚き、ジャンは手を顎にあてて唸った。
「え、知ってるの!?」
「いや、心当たりというほどじゃないんだが……。それを調べたければツァイス地方に向かった方がいいかもしれない。」
「ツァイス地方?」
「知っての通り、ツァイス市はオーブメント生産で有名な場所だ。『工房都市』とも言われており、博士の肩書を持っている人も多い。」
「なるほど……。たとえ博士が見つからなくても、その黒いオーブメントの正体が判るかも知れませんね。」
「うーん、でもあたしたちここで修行する必要もあるし。」
ジャンの説明でヨシュアは納得し、黒いオーブメントの正体がわかるかもしれないとわかったエステルだったが、今の状況を思い出して肩を落とした。

「ふふ、こんな事もあろうかとちゃあんと用意しておいたのさ。」
エステルの様子を見た後、ジャンは正遊撃士資格の推薦状をエステルとヨシュアに渡した。
「ええっ……!」
「いいんですか?」
2人は驚きながら受け取った。
「はは、空賊事件の時と同じさ。これだけの大事件を解決されちゃ渡さないわけにはいかないからね。査定も報酬も用意してあるよ。」
「うわ~……学園祭の出演料まである……」
推薦状と同時に渡された報酬とその詳細を見たエステルは呟いた。
「何から何まで済みません。」
「なあに、正当な報酬さ。僕も、君たちには一刻も早く正遊撃士になってもらいたい。その方が、君たちの力をもっと活かせると思うからね。」
「えへへ……。ありがとう、ジャンさん。」
「期待に応えられるよう頑張ります。」
「おめでとうございます、2人とも。」
「おめでとう。」
「うむ!こんな短期間で半分以上の推薦状を貰うとはさすがはエステルとヨシュアだな!」
「えへへ、ありがとう。」
エステルとヨシュアが推薦状を貰った事にプリネ達はそれぞれ祝福して、それを聞いたエステルは照れた。
「良かったですね。エステルさん、ヨシュアさん。……ちょっと寂しくなってしまいますけど……」
「クローゼ……」
「……そうだね。僕たちも名残惜しいよ。」
同じようにエステル達を祝福したクローゼだったがもうすぐエステル達が旅立つ事に寂しそうな表情になった。それを見た2人も寂しそうな表情をした。
「あは……。わがまま言ってごめんなさい。出発の日が決まったら私にも教えて頂けませんか?エア=レッテンの関所まで見送らせていただきますから……」
クローゼは寂しそうに笑って答えた。

「………エステルさん。」
「何、プリネ?」
「ルーアンを出るというのでしたら、あの子達を連れて行かないと……」
「………そうね。」
「あ………」
プリネとエステルの会話から察したクロ―ゼは表情を暗くした。
「クラム達には悪いと思うけど………迎えに行こう。」
「ええ。」
そしてエステル達はミントとツーヤを迎えにマノリア村に向かった………




後書き カファルーに関してはVERITA後、どうなったかわからないキャラなので配下にしたという事にしました。それと今回の話でお気づきかと思いますが、次回、エステル達の旅の同行者が増えます♪……感想お待ちしております。



[25124] 外伝~もう一つの旅立ち~
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/09/01 07:54
~マノリア村宿酒場・白の木蓮亭の一室~

その後エステル達はテレサに事件の詳細を話した後、ミントとツーヤを迎えに来た事を説明した。
「そうですか………ついにルーアンを去られるのですね。」
「……はい。」
「フフ、そんな暗い顔をしないで下さい。そんな顔をしていたらミントが心配しますよ。」
申し訳なさそうな表情をしているエステルにテレサは微笑んで励ました。
「「「「「「先生、ただいま~!」」」」」」
そこに外で遊んでいた孤児院の子供達が帰って来た。
「あ、ママ!」
「ご主人様!」
エステルとプリネの姿を見たミントとツーヤはそれぞれ駆け寄った。
「お待たせ、ミントちゃん。迎えに来たよ。」
「本当!?じゃあ、これからはママといっしょにいられるんだ!」
エステルが迎えに来たと知ったミントは無邪気に喜んだ。
「……ツーヤ、一つだけ確認していいかしら?」
「なんでしょうか、ご主人様?」
一方プリネは真剣な表情でツーヤに尋ねた。
「今はこうしてエステルさんと旅をしているからミントちゃんといっしょですけど、旅が終わればミントちゃんとも別れる事になります。その覚悟はある?」
「………はい。それがあたしの進むべき道ですから。ミントちゃんもその事はわかっています。」
プリネに問いかけられたツーヤは凛とした表情で答えた。
「そう、わかったわ。」

「………みんな、ちょっといいかしら。」
「先生?」
手を叩いてテレサは子供達に自分を注目させた。
「今日はお知らせがあるの。」
「お知らせ……?」
テレサの言葉にマリィは首を傾げた。
「……ミント、ツーヤ。」
「……うん。」
「………はい。」
テレサに促されミントとツーヤは静かに子供達の前に出た。
「前にも言ったと思うけど今日からこの2人はエステルさん達に引き取られ、みんなとお別れする事になりました。」
「え………」
「………」
テレサの説明にクラムは驚き、マリィは辛そうな表情になったた。また、ポーリィやダニエルは今にも泣きそうな表情をした。
「うん、あのね……」
ミントとツーヤはクラム達に自分の正体、何故エステル達に引き取られるかを説明した。

「……という訳なんだ。だから、みんなとは別れなくちゃならないんだ……」
「嫌だ!」
「クラム?」
「なんで2人と別れなくちゃいけないの!?」
「クラム、それはさっきミントちゃんと説明したでしょ……」
我儘を言うクラムにツーヤは諭した。
「オイラ、まだ子供だからわかんないよ!なあ、みんなもお姉ちゃん達と別れるのは嫌だろ!?」
「「う、うん……!」」
クラムの呼びかけにダニエルとポーリィは頷いた。
「…………………」
「マリィ?なんで何も言わないんだよ?」
一人だけ賛成しないマリィを不思議に思ってクラムは尋ねた。
「クラム、私はあなたの考えに反対よ。」
「なんで!」
「お姉ちゃん達、言ってたじゃない。近い内、みんなとお別れするって。……ぐす。」
「マリィ………」
泣くのを堪えて目に涙を溜めているマリィを慰めるようにツーヤはマリィを抱きしめた。
「ごめんね、マリィ。……これからはあなたとクラムが一番上よ。だから、みんなの事お願いね……」
「ひっく、うん……」
マリィはしゃっくりをあげながら頷いた。

「どっかに行っちゃやだよ、ミント姉ちゃん!」
「クラム……」
涙目で詰め寄るクラムにミントは辛そうな表情をした。
「クラム……2人を困らせてはダメよ。」
そこにテレサがクラムを宥めた。
「2人は自分が望んだ人に引き取って貰うの。ずっとここにいるより、そのほうが幸せである事はわかるでしょう?」
「でも、でも……!」
「クラム!これで最後だって言う時に、何でお姉ちゃん達を困らせているの!ずっとお姉ちゃん達にお世話になったんだから、最後は笑顔でお別れをしないとダメじゃない!」
テレサの説得でも納得できなかったクラムに涙をぬぐったマリィが叱った。
「………クラム。あなた達もいつか私の元から巣立つ時が来ます。2人は今がその時なのです。」
「…………………」
テレサの言葉にクラムは顔を伏せた。
「クラム。」
「………何、ミント姉ちゃん。」
「ミント達はこれから旅に出るけど……みんなの事は忘れないよ!いつか必ずみんなに会いに来るよ!」
「本当?」
「うん。約束をするから指を出して。」
「う、うん……」
ミントに促されクラムは指を出した。クラムの指にミントは自分の指をからませた。
「約束だよ、クラム!今日からクラムがみんなのお兄ちゃんだから、みんなを護ってね!ミントとツーヤちゃんは旅をしている間でも、みんなの事を思っているよ!」
「……うん!」
ミントの笑顔にクラムは強く頷いて、笑顔で答えた。

「………ぐす、あたしこういうの弱いのよね……」
2人と子供達の別れを見ていたエステルは涙ぐんだ。
「エステル。テレサさん達が大事にしていたミントを預かるんだ。責任重大だよ。」
「……わかってる。あの子は絶対大事にして、いい子に育てるわ!」
ヨシュアの言葉にエステルは涙をぬぐって頷いた。
「………プリネ。お前もわかっているな?お前はこれからあのツーヤという一人の少女の一生を預かる身なのだ。余やエヴリーヌも気にかけておくが、大事にしてやるのだぞ。」
「……はい。特に私はエステルさんと違って気の遠くなるような寿命ですから……恐らく竜であるツーヤも私やお姉様並かそれ以上生きるのですから、生涯を共にする”パートナー”として信頼を深め、大事にするつもりです。」
「がんばってね、プリネ。何か相談したい事があったらエヴリーヌ達が相談にのるよ。」
「ふふ、ありがとうございます。エヴリーヌお姉様。」
一方リフィアやエヴリーヌもプリネを応援した。
「そうだ、最後にみんなに見て貰いたい事があるんだ!……ツーヤちゃん。」
「うん。みんな、あたしとミントちゃんについて来て。」
「う、うん……」
ミントとツーヤの言葉にクラムは戸惑いながら頷いた。そしてエステル達は2人の少女についていき、ある場所に向かった。

~マーシア孤児院跡~

「到着~!」
目的の場所に到着したミントは元気よく言った。
「ミント?一体ここで何をするの?」
なぜ、ミント達がここに向かったのが理解できなかったテレサは尋ねた。
「今それを見せます、先生。……ミントちゃん。」
「うん。ママ、ちょっとこっちに来て。」
「ご主人様もお願いします。」
「う、うん。」
「何をするの?」
ミントとツーヤに促され、エステルとプリネはそれぞれ2人の目の前に立った。エステルとプリネが自分の目の前にいる事を確認したミントとツーヤは頷き、それぞれ両手を上に伸ばした。すると2人の身体が青い光に包まれた。

「え?」
「これは………」
「うわぁ……」
「キレイ………」
エステルとプリネはミントとツーヤの足元に魔法陣のような形が浮かび上がったのを見て、驚いた。クラムやマリィを含む子供達は幻想的な風景に見惚れた。
「これはあたし達ドラゴンに伝わる”契りの儀式”……」
「”契りの儀式”?」
ツーヤの言葉にプリネは首を傾げた。
「ママとミントがお互いの事を本当の”パートナー”である事を誓う儀式なんだ!」
「ほえ~……それで、あたしは何をすればいいの?」
「えへへ、ちょっと待ってね。」
首を傾げるエステルにミントは可愛らしく微笑んで上げていた手を下げた。すると片手には何かの紋章が浮かび上がっていた。ミントと同じように両手を下げたツーヤは額にミントとは異なる紋章が浮かび上がっていた。
「……今浮かび上がっているあたし達の紋章に口づけをして下さい。そうすれば儀式は完了です。」
「く、口づけ!?そ、それって、キスじゃない!」
ツーヤの説明にエステルは顔を真っ赤にして答えた。その様子をプリネは苦笑して答えた。
「エステルさん……キスと言っても頬や口ではないんですよ?」
「で、でも……」
「フゥ……でしたら私が先にしますから、エステルさんはそれに続いて下さい。」
「う、うん。」

プリネはツーヤの足元の魔法陣の中に入った。するとツーヤの身体から発せられる光がいっそう強くなった。そしてプリネはその場でしゃがんでツーヤを見た。
「ツーヤ……これから共に生きるパートナーとしてよろしくね。」
「はい。誠心誠意お仕えさせて頂きます。」
「ありがとう。」
そしてプリネは紋章が浮かび上がっているツーヤの額に口づけをした。その瞬間、光は消え、ツーヤの紋章も消えた。
「(……暖かい。これがパートナーを得た証ですか……)エステルさん、次はあなたの番ですよ。」
「う、うん。……スゥ……ハァ………よし!」
プリネに続くようにエステルは緊張した心を鎮めるために深呼吸をした後、表情を凛とさせてミントの足元の魔法陣の中に入った。エステルが魔法陣の中に入るとツーヤの時と同じようにミントの身体から発せられる光がいっそう強くなった。そしてエステルはミントの前にしゃがんでミントと目を合わせた。
「まだ16歳のあたしがミントちゃんのママをやれるかわからないけど……精一杯がんばるわ!だから、いっしょに成長して行きましょう……ミントちゃ……いや……ミント!」
「うん!」
そしてエステルは紋章が浮かび上がっている手の甲に口づけをした。その瞬間、光は消え、ミントの紋章も消えた。紋章が消えた瞬間、ミントはエステルに抱きついた。
「……よっと。これからよろしくね、ミント。」
「えへへ……ずっといっしょだよ、ママ!」
エステルに抱きあげられたミントは可愛らしい笑顔で答えた。

「………エステルさん、プリネさん。」
「はい。」
「なんでしょう?」
テレサに呼ばれ、エステルはミントを降ろし、プリネと共に姿勢を正した。
「あなた達に渡すべき物があるので、少しだけ待ってて下さい。」
「渡すべき物?」
テレサの言葉にエステルは首を傾げた。そしてテレサは崩れ落ちた孤児院の床についてる取っ手の部分を使って、床の一部をあげ、その中にあった物を確認した。
「………どうやらこれらは無事だったようですね………」
そしてテレサは床の下に隠されたそれぞれ鞘に収められている2本の剣を持って来て、エステルとプリネに渡した。
「これは……剣!?でも、折れているわね……」
「……折れていてもかなりの業物のようだね……それに何か……神々しい雰囲気があるね……」
エステルは鞘から剣を抜いて折れた刀身に驚き、ヨシュアは折れた剣の刀身の輝きを見て評価をした。
「こちらは一体……?剣のように見えますが、少し刀身が違いますね……」
一方プリネは渡された鞘から剣を抜き、普通の剣より曲がっているように見える刀身を見つめた後首を傾げた。
「ほう……それは恐らく”刀”というものだな。」
「”刀”?確かディスナフロディ独特の武器と聞いた事がありますが、まさかこれが?」
「うむ。余やエヴリーヌも見た事がある。そうだろう、エヴリーヌ?」
「ん。ウィルフレドの仲間のユエラっていう人間が使っていた剣に結構似ているね。」
「あの……先生……どうして剣が孤児院に……?」
孤児院に何度も足を運んでいるクローゼは孤児院とは無縁の剣が隠されてあったのを見て、驚いて尋ねた。

「……ミント達を拾った時、この子達の傍に落ちていた物です。記憶のない2人の手掛かりかと思って拾い、ずっと保管していたのです。」
「ほえ~……でも。折れていたら使えないわよね?もったいないわね~……」
「そうですね……そちらの剣もそうですが、この刀も僅かな聖なる気配だけあって本来の力が出ていないように見えます。もし、本来の力が出せれば”聖剣”あるいは”神剣”の類だったでしょうに……」
剣の由来を聞いたエステルは呆けた後、折れた剣を見て残念がり、プリネは持っている刀の刀身と折れた剣が出す僅かな神気を感じ取り残念そうな表情をした。
「ふむ、武器の修復か……余に一人、それができる人物の心当たりがあるぞ。」
「本当かい?でもこんな業物を元通りにできるほどの人なんて、そうそういないと思うんだけど……」
ヨシュアはリフィアの言葉に驚いた後、考え直した。
「安心せよ。腕も確かだ。そ奴に依頼すれば、期待通り真の力を引き出してくれるだろう。」
「もしかして……」
「エヴリーヌお姉様にも心当たりがあるのですか?」
リフィアが答えた人物の事をわかっていそうなエヴリーヌにプリネが尋ねた。
「うん。前にも話したと思うけど、ユイドラのウィルフレドっていう工匠なら大丈夫だと思うよ?リフィアが頼んだ結構難しい杖の作成もなんなく作ったし。」
「へ~……じゃあその人に頼みたいけど、どこにいるのかな?」
リフィア達が高評価する人物の事を聞き、エステルは期待を持った目で尋ねた。
「前にも言ったと思うが、ウィルは祖国メンフィルのはるか南方の都市に住んでいる。会いに行くのは容易ではないぞ。」
「あ~……そっか。別世界にいるんじゃ、無理かな……」
リフィアの答えにエステルは肩を落として溜息をついた。
「ふむ。旅が終われば、余がウィルにその剣を元通りにするよう、手配しておいてもいいぞ?」
「いいの?じゃあ、その時はお願いするわ。」
「うむ。(さて……ウィルへの依頼が増えたな……まあ、あ奴なら見事、素晴らしい剣へと鍛え上げてくれるだろう。そういえば旅に出る前にウィルへ書状で2人の得物である棒と双剣の作成を頼んだが、書状がそろそろ届いている頃だな……)」
そしてエステルは折れた剣を鞘に入れた時、鞘に彫ってある文字に気付いた。
「あれ?なんか文字が彫ってあるわね?えっと……?エ…R……ュ…S…ン……?う~ん、いくつか削れてて読めないわ……」
「こちらの鞘にも文字が彫ってありますね……アルフ……?刀の名前でしょうか……?」
エステルとプリネは鞘に彫ってある文字を読んで、首を傾げた。

「エステル、プリネ。……名残惜しいとは思うけど、そろそろ行かないと。ツァイスへ行く準備や2人の装備を整えるためにルーアンである程度の時間が必要と思うし。」
「……そうね。じゃあ、ミント。行こうか。」
「うん。ツーヤちゃん。」
「うん。」
エステルに促されミントはツーヤといっしょにテレサと子供達の前に立ち、お辞儀をした。
「「今までお世話になりました、先生、みんな!10年間、私達を育ててくれてありがとうございました!!」」
「ミント……ツーヤ………」
ミントとツーヤの別れの挨拶にテレサは自分と死別した夫が建てた孤児院から子供達がとうとう巣立つ事を実感し、涙を流した後涙を拭った。
「フフ……お礼なんて私のほうが言いたいぐらいよ……ここはいつまでもあなた達の家です。だからいつでも帰って来たいと思った時に帰ってきなさい……その時はみんなといっしょに歓迎するわ。」
「「はい!」」
「元気でね、2人とも……」
テレサは最後にミントとツーヤを抱きしめた後、クラム達のところに戻った。そしてミントはエステルと、ツーヤはプリネと手を繋ぎ、テレサやクラム達に空いた片手を振って別れの言葉を言った。
「「みんな!元気でね!!」」
「ミント姉ちゃん、ツーヤ姉ちゃん!いつか、帰って来る時を待ってるから!それまでずっと先生達やここを守っているから!だから、絶対帰って来てよ!」
「いつまでも元気でいてね、お姉ちゃん達!!」
「「さようなら~!!」」
こうして2人の竜の少女は今までお世話になったテレサや子供達に見送られて孤児院跡を背にエステル達と共に旅立った………



後書き という訳で、ミント&ツーヤ、エステル達の仲間として加入です!エステル達が手に入れた折れた剣の名前でピンと来る方がいるかもしれません。刀のほうはオリジナル設定です。ツーヤのバトルスタイルは原作で技があるミントと違ってオリジナルにしています。……感想お待ちしております。



[25124] 第87話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/09/02 07:24
その後、学園に戻るクローゼにルーアンを出発する時間を伝えてルーアンでヨシュア達には足りない道具や携帯食料の調達を頼み、ミントとツーヤの旅支度等を武器屋で仕入れていたエステルとプリネだったが、2人からある事を頼まれて驚いた。

~ルーアン・ジョアン武器商会~

「剣が欲しいって……ミント、あなた戦う気なの!?」
「うん。」
驚くエステルにミントは頷いた。
「2人とも、戦闘経験はあるのですか?」
プリネは凛とした表情で自分を見つめるツーヤに静かに問いかけた。
「いいえ。でも、あたしとミントちゃんはいつか現れる”パートナー”の足手まといにならないよう、みんなに内緒で丈夫な木の枝を使って剣や素手での戦闘の特訓をしていました。だから、あたし達も戦わせて下さい。」
「う~ん……たったそれだけの訓練で実戦をさせるのは正直反対です。」
「あたしもプリネに賛成よ。第一、2人は剣を持てるの?剣って一般的な武器だけど、結構重いわよ?」
ツーヤの説明を聞いても、プリネとエステルは今まで戦闘とは無縁で平和に暮らしてきた2人を戦わす事に納得できなかった。
「大丈夫だよ!ミント達、結構力持ちだから!ねえ、お姉さん。この剣をちょっとだけ借りてもいい?」
「ええ、いいわよ。」
「……じゃあ、あたしも借りさせていただきます。」
店主から許可を得ると店に置いてある武器の中から、ミントは剣を、ツーヤはリベールの東方にある国、カルバード共和国独特の武器――刀を手に持って、離れた場所で持った武器を軽々と何度も振った。
「嘘!?」
「さすがは竜といったところですか……幼い身体でも力は私達と代わりないようですね……」
ミント達が苦もなく武器を素振りしているのを見てエステルとプリネは驚いた。
「ね!ミント達も戦えるから、剣を買って。ママ。」
「……どうしよう、プリネ。」
期待を込めた目で見られ、困ったエステルはプリネに相談した。

「そうですね……持たせてあげてはどうですか?」
「でも、こんな小さい子を戦わすなんて……」
「……エステルさん。あなたの職業はなんですか?」
「へ……?プリネったら何、変な事を言ってるの??遊撃士に決まっているじゃない。」
プリネの問いかけにエステルは首を傾げて答えた。
「では聞きますが、遊撃士の仕事とは?」
「そんなの決まっているじゃない。地域の平和と民間人の保護のために働く事よ。荷物の護衛や落とし物の捜索、他には手配魔獣の退……あ。」
プリネに問いかけられた事を答えたエステルだったが、ある事に気付き答えるのを止めた。
「気付いたようですね……遊撃士という仕事をやって行く上ではどうしても戦闘は避けられません。だから護身用に持たせるべきだと思うんです。」
「う~……それぐらい、あたし達が守ればいいんじゃないかな?」
「エステルさん……この子達、言ってましたよね?”パートナー”は契約した人と生涯を共にする相手だと。庇護するだけでは真の”パートナー”とは言えないと思うんです。」
「う”。確かにそうね……」
プリネの言葉にエステルは唸り、少しの間考えた後ミントに近付いてミントの目線に合わせるようにしゃがんでミントをみつめて言った。
「ミント……絶対無茶はしないって約束してくれる?」
「うん!約束する!」
エステルの言葉にミントは元気よく頷いた。
「ツーヤ、あなたもよ。少し戦えるからって決して調子にのらないこと。実戦は命に関わるのですから。」
「はい、わかりました。」
ツーヤもプリネの言葉に頷いた。

「約束したからね?……じゃあ、好きなのを選んじゃっていいわよ。ただし、自分が使い易いと思った剣よ?」
「うん!……じゃあ、これ!」
ミントは並んでいる剣の中から一本一本手にとった後、一本の剣を店主に渡した。
「”グラディウス”ね。3000ミラよ。」
「はい、3000ミラ。」
「まいどあり。」
「………あたしはこれをお願いします。」
「これは”虎徹”ね。5000ミラと結構値が張るけど、大丈夫?」
ツーヤが渡した刀の銘を見て、店主はプリネに確認した。
「大丈夫です。……これでいいですか?」
「4000……5000……うん、大丈夫ね。まいどあり。」
店主から購入した武器を渡されたエステルとプリネはそれぞれ、自分のパートナーとなった少女に渡した。
「はい。わかってるとは思うけど、普通の人に向けたらダメだからね?」
「普通の人?先生を襲った人みたいな悪い人だったらどうするの?」
エステルの言葉にミントは首を傾げて尋ねた。
「そういう時は遠慮なく抜いて戦っていいわ!」
「わかった!ありがとう、ママ!」
「エステルさんが言ってるように、魔獣や賊には抜いてもいいですが、決して民に剣を抜いて向けたりしてはいけませんよ?」
「はい、ご主人様。」

その後エステル達はヨシュア達と合流し、ホテルに戻って一夜を明かした………



後書き と言う訳でミントのバトルスタイルはほぼ原作通り、ツーヤはオリジナルバトルスタイルです。後2話でルーアン編は終了し、ツァイス編に移ります。ツァイス編はFC最後の新クロスオーバーキャラが出るので楽しみにしていて下さい。ちなみに神採りから出演します♪……感想お待ちしております。



[25124] 第88話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/09/03 08:09
翌日エステル達は待ち合わせの場所であるラングランド大橋でクロ―ゼを待っていた。

~ルーアン市内・ラングランド大橋~

「……やっぱりまだ来てないみたいね。早く来すぎちゃったかな?」
「そうだね、酒場で時間を潰そうか?」
「ううん、風も気持ちいいし、ここで待ってることにしましょ。川の流れを見ているだけでも、なんか飽きない気がするし。」
ヨシュアの提案をエステルは首を振って答えて、橋の手すりに手をかけて川の流れを見た。
「しっかし、ルーアンもようやく落ち着きを取り戻した感じよね。ダルモア市長が逮捕されて一時は大騒ぎになったけど……」
「現職の市長の逮捕なんて前代未聞の出来事だからね。ロレントでいえばクラウス市長が捕まったのと同じことなわけだし。」
「うわ、それは確かにショックすぎるかも……。でも、そう考えてみるとルーアン市の人は冷静よね。驚いてはいたみたいだけどショックは受けてないみたい。」
「まあ、ルーアン市は伝統的にダルモア家の当主が選ばれていたみたいだから。市長本人を慕っていたわけじゃなかったのかもしれないね。」
「……民の幸せを考えず何の努力もせず、血筋のみで権力者になる者等ろくな奴はおらんからな。」
ヨシュアの言葉に頷くようにリフィアは意見を言った。
「次期皇帝のリフィアが言うと重みがあるわね~……やっぱり、リフィアも皇帝になる努力とかしたの?」
リフィアの意見を聞いたエステルは感心した後尋ねた。
「当然だ。幼い頃より帝王学や護身術、他には戦術や兵達の指揮の仕方等を余は学び、それらを自分の知識とした。」
「凄いね……プリネもそうなのかい?」
幼少の頃から皇帝として努力しているリフィアに驚いたヨシュアはプリネに尋ねた。
「ええ。私もリフィアお姉様と同じように王が必要とする知識は一通り学んで、自分の知識としました。私だけに限らず他の腹違いのお兄様やお姉様達はみんな同じ教育を受けています。ただ、リフィアお姉様は他の方達と違って皇帝になりますから、私達以上の教育を受けたと聞いています。」
「ふえ~………あれ?ってことはティアさんもそうなの!?」
「そうですね。ティアお姉様も大体は学んでいますが、戦闘に関しての知識は一切学んでいません。」
「なんで?」
「ティアお姉様の生みの親であるティナ様の意向だそうです。イーリュンの信徒であったティナ様は自分の娘に人を傷つける術を知ってほしくなかったのでお父様に嘆願して、ティアお姉様には最低限の護身以外教えないようにしてもらっていたんです。」
「そうなんだ………ねえ、リフィア、プリネ。」
「ん?」
「どうかしましたか?」
エステルはダルモアが市民にあまり慕われていなかった事である事が気になり、リフィア達に尋ねた。

「プリネのお父さん……リウイって人はみんなに慕われていたの?」
「お父様ですか?ええ、とても慕われていたと聞きます。」
「慕われていた?まるで過去の言い方だけど今はどうなんだい?」
プリネの答えにヨシュアは首を傾げた尋ねた。そしてヨシュアの答えにリフィアが答えた。
「父――シルヴァンに帝位を譲った後リウイは表舞台から姿を消し、それ以降民は今の皇帝は父であると認識し、リウイの事は民の間では過去にいた伝説上の王となっているからだ。」
「伝説って……あのリウイって人、本当に凄い王様だったんだ……」
「ちなみにお父様と結ばれた側室の方々も後に伝説化し、メンフィル国内の歴史で語られている有名な方達ばかりですよ。……ティアお姉様は母親であるティナ様があまり有名ではないとおっしゃいますが、そんな事はありません。ティア様は『慈愛聖女』と称されるほど、民達からとても慕われていました。またティア様はそれとは別に違った意味で民達からとても慕われていました。」
「それは何なんだい?」
プリネの説明の先が気になったヨシュアは先を促した。
「それはティナ様が元々”平民”であった事です。他の側室の方々は王族、神格者等民からすれば遠い存在でしたがティナ様だけは生粋の平民です。ですから民も自分達と同じ立場であったティナ様の事を身近に感じ、とても慕っていたそうです。それにティナ様自身、王都内でイーリュンの信徒として民によく接し、民の悩み等を聞いていましたからその事もありましたね。」
「ふえ~……つくづくメンフィルの人達って凄いわね。」
「うむ!余はそんなリウイ達を尊敬しているのじゃ!」
「はは……さすがはリフィアだね。普通それだけ凄い人が家族にいたら重荷になると思うんだけど、2人とも全然そんな風に見えないね。」
自身満々にリウイ達の事を自慢するリフィアにヨシュアは苦笑して呟いた。

「リウイ達が重荷?余は一度もそんな事を思った事がないな。余にとってリウイは目指すべき”王”だ。」
「私にとってもそうです。私もいつかはお父様達のような人になりたいと思っていますから。」
「2人とも凄いわね~……それに比べてあたしの父さんときたら……はぁ、父さんもプリネ達のお父さん達を見習ってほしいものだわ。」
(そんな事を言えるのは父さんの事を知らない君だけだよ……まあ、エステルらしいといえばエステルらしいかな。そういう点で言えばエステルはリフィア達と似ているな……)
カシウスの功績も知らず溜息をついているエステルを見て、ヨシュアは苦笑した。
「ふわあ~……プリネさん達ってお姫様だったんだ!凄いね、ツーヤちゃん!」
「うん。あたしも最初、その事を聞いてとても驚いたよ。」
一方リフィア達の身分を知ったミントは驚き、プリネのパートナーとなったツーヤと話した。
(ねえ、リフィア。)
(ん?どうした、エヴリーヌ。)
(あのツーヤって竜、お兄ちゃん達の所に帰ったらどうするの?)
(ふむ、それはどういう意味だ?)
小声で話しかけられたエヴリーヌの疑問の意味がわからず、リフィアは首を傾げて尋ねた。
(立場。プリネの傍にいるのならそれなりの立場がいると思うけど。)
(ああ、その事か。まあしばらくは侍女見習い、淑女、他には戦い方を教育した後、周囲が認める強さを持ち、然るべき時がくればリウイの側室の名前で現在誰も襲名していない名をやり、プリネ専属の侍女か騎士にする事をリウイや父に提案するつもりだ。)
(ふ~ん。リフィアもあの竜の事、考えてあげているんだね。)
(当然だ!大事な妹を護る者になるのだから、姉としては重用してやらないとな。)
(それで?どんな名前にするの?)
(……現在誰も名乗っていない名は父が帝位を継いだ事によって誰も名乗らなくなったルーハンス。現ミレティア領主に嫁いだため誰も名乗らなくなったルクセンベール。どちらがいいかの……?)
その時、橋の上から聞き覚えのある鳥の声が聞こえた。

「ピューイ!」
「あ、ジーク!」
ジークは橋の上空から降りて来て橋の手すりに留まった。さらに続くようにクローゼがエステル達の元に走って来た。
「みなさん!」
さらに続くようにクローゼがエステル達の元に走って来た。
「はあはあ……。ごめんなさい、遅れてしまって。」
エステル達の元に来たクローゼは息を切らせていた。
「いや、僕たちもちょうど来たところだよ。」
「も、もしかしてわざわざ走って来たの?そんなに慌てることないのに。」
「いえ、お見送りをするのに遅れるわけにはいきませんから。教えてくれてどうもありがとうございました。」
「も~、クローゼってば。お礼を言うのはこっちだよ。ジークも……見送りに来てくれてありがと♪」
「ピューイ♪」
「はは、それじゃあ……さっそく出発するとしようか?」
「オッケー!」
「「「はい。」」」
「うむ!」
「ん。」
「はーい!」
そしてエステル達はクローゼと共にルーアン市を出発した………



後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第89話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/09/04 06:28
クローゼと共にルーアンとツァイスを結ぶ関所、『エア=レッテン』から始まる街道、『カルデア隧道』前まで来た。

~エア=レッテン~

「……あれがカルデア隧道の入口だね。」
ツァイスへと続くトンネル道――カルデア隧道の入口を見て、ヨシュアは呟いた。
「うん……。……そろそろお別れね。」
エステルは名残惜しそうな表情でクローゼを見た。
「はい……。あのエステルさんたちはこのまま王国を一周するんですよね?ひょっとしたら王都でまたお会いできるかもしれません。」
「え、そうなの!?」
「本当!?」
クローゼの言葉にエステルとミントは名残惜しそうだった表情を輝かせた。
「私、女王生誕祭の頃には王都に戻るつもりなんです。親戚の集まりのようなものに出席しなくてはならないので……」
「女王生誕祭というとたしか一ヶ月くらい先だね。確かに、その頃には王都に行ってるかもしれないな。」
クローゼの答えにヨシュアは少しの間、考えた後頷いて言った。
「あ、じゃあさ……。親戚の用事が終わったら王都のギルドに連絡してよ?そうすれば会えると思うから。」
「はい、必ず連絡しますね。エステルさん、ヨシュアさん、プリネさん、リフィアさん、エヴリーヌさん。本当に、ありがとうございました。みなさんがしてくださったこと、私、絶対に忘れませんから……」
「や、やだな~。水くさいってば~!」
「こちらこそ、貴重な経験をさせていただいて本当にありがとうございました。」
「うむ。お主のおかげで妹の晴れ舞台を見れたしな。なあ、エヴリーヌ。」
「ん。エヴリーヌもお礼を言っておくね。……プリネの夢を適えさせてくれて、ありがとう。」
「僕たちも君には色々と世話になったしね。おあいこって事にしようよ。」
クローゼの感謝の言葉にエステルは照れ、プリネやリフィア、エヴリーヌは逆に感謝をし、ヨシュアはプリネの言葉に続くように頷いた。
「とんでもありません……。………………………………。あの時……市長と対決した時……。私は偉そうなことを言いました。『立場に囚われている』、『自分の身が可愛いだけ』って。でも……それは私も同じだったんです。」
「えっ……?」
エステル達の感謝に謙遜しながら言ったクローゼの言葉にエステルは呆けた。

「私は逆に、自分の立場から逃げようとばかりしていました。孤児院にしても学園にしてもどこか逃げ場にしていたんです。でも……そんな私にエステルさんたちは教えてくれました。どんな時でも前向きに進んでいく決意を……。大切なものを守る強さを……。ありがとう、おかげで私も少しだけ勇気が出せそうです。」
「よ、よく判んないけど……。お役に立てたんだったらあたしとしても嬉しいかな。」
クローゼの答えにエステルは首を傾げながら答えた後、クローゼの手を握った。
「あ……」
「えへへ……元気でね、クローゼ。今度は王都で会いましょ!」
「はい……必ず。……ミントちゃん、ツーヤちゃん。元気でね。」
「はい。クローゼ……さんもお元気で。」
「うん!クローゼさんとまた会えるのか……ミント、王都に行く日が楽しみ!」
「ピュイピュイ。」
「あは、ジークも一緒に王都で会えるといいわね?」
「ピュイ♪」
エステルの言葉に応えるようにジークは鳴いた。
「……って、あんた。本当に王都に来るつもり?このあたりに住んでるんじゃないの?」
「ピューイ?」
エステルの疑問にジークは首を傾げた。
「ふふ、ジークは特別ですから。きっと会えると思いますよ。」
「うーん……。冗談で言ったんだけど。」
「はは、ジークには最後まで驚かされっぱなしだね。それじゃあ……そろそろ行くとしようか?」
ヨシュアは苦笑しながら、エステル達を促した。
「ん……そうね。」
「エステルさん、ヨシュアさん。修行の旅、頑張ってください。それから、お父様の行方が判ることをお祈りしています。」
「ピューイ♪」
「うん……ありがと!」
「君たちも元気で!」
「リフィアさん、プリネさん、エヴリーヌさん………本当にお世話になりました。いつか、本当の姿で会いましょう。」
「うむ。クローゼも息災でな。」
「また会う日を楽しみにしています。」
「ばいばい。」
「「さようなら、クローゼさん!」」
そしてエステル達はクローゼに見送られてルーアン地方から去った。

「………………………………」
クローゼは去って行くエステル達の背中を見えなくなるまで、名残惜しそうな表情で見送った。
「ピュイ。」
「うん、そうね……。また会えるよね。」
ジークの鳴声にクローゼは頷いた。その時クローゼの背後から女性の声がクローゼを呼んだ。
「―――クローゼ。お待たせしました。」
「……ユリアさん。レイストン要塞から戻ったのですね?」
「ええ、予想以上に時間を取られてしまいました。失礼ながら、その件に関してご報告をしようと参上した次第です。」
「ありがとう、ご苦労様でした。」
「ピューイ♪」
声の主――ユリアを見るとジークは嬉しそうにユリアの周りを飛んだ。
「こ、こら、ジーク。じゃれつくんじゃない。お前、護衛の使命はちゃんと果たしているのだろうな?」
ある程度飛んで満足したジークは戸惑った顔をしているユリアの肩に止まった。
「ピュイピュイ。」
「うふふ、ジークにはいつも世話になっています。ね、ジーク?」
「ピューイ♪」
「まったく調子のいいヤツだ。」
ジークの様子に溜息をついたユリアは姿勢を正し、クローゼに向き直った。
「……街道外れに『アルセイユ』を停めています。報告の方はそちらで……」
「わかりました。……学園生活もしばらくお休みですね。王都に戻る前に先生たちに挨拶しなくては……」
ユリアの言葉にクローゼは顔を暗くして元気なく答えた。そしてエステル達が去ったカルデア隧道を見た。
「(エステルさん、ヨシュアさん。おふたりに負けないよう……私、精一杯頑張りますね。)」
暗かった表情を決意の表情に変えたクローゼはユリアとジークと共にその場を去った………



後書き これにてルーアン編終了です!明日はエステル、ミント、ツーヤのステータスを出します。……感想お待ちしております。



[25124] 設定4
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/09/05 05:44
<闇王の戦友> エステル・ブライト

レベル、パラメーター、オーブメントは原作通り。ただし、CPは470、ATS、ADFは原作の2倍

クラフト(原作以外)

パズモ召喚 30 自分 サポートキャラ、パズモ(HPは主の半分)を戦闘に参加させる(防護の光盾(味方単体DEF&ADF20%上昇)or戦意の祝福(味方全体SPD15%上昇)or光霞(敵全体空属性130%攻撃)、たまに贖罪の光霞(400%攻撃))ただし召喚した主は召喚している間、最大HP5%、CPが10下がる、任意でパズモを自分の元に戻せる。
黒の衝撃 50 中型直線 貫通する暗黒魔術、80%時属性攻撃&後退効果(威力はATSに反映)
旋刃 40 小円・地点指定 風の魔術 70%風属性攻撃(威力はATSに反映)
闇の息吹Ⅰ  40 単体 ペテレーネの指導の元、安定した回復力を持つようになった魔術。味方一人のHPを15%回復する。
サエラブ召喚 40 自分 サポートキャラ、サエラブ(HPは主の9割)を戦闘に参加させる。(物理単体攻撃or連続火弾(火属性2回魔術攻撃&火傷10%)or炎狐強襲(火属性物理全体攻撃120%&火傷20%)or拡散咆哮(敵全体200%攻撃&遅延、後退効果)、1回の出番で2回連続で行動する。ただし召喚した主は召喚している間、最大HP15%、CPが30下がる、任意でサエラブを自分の元に戻せる。
火弾 20 単体 火の魔術、90%火属性攻撃&火傷10%(威力はATSに反映)
テトリ召喚 35 パーティーキャラ、テトリを召喚する。ただし召喚した主は召喚している間、最大HP、CPが10%下がる、任意でテトリを自分の元に戻せる。
地脈の吸収 50 単体 地の魔術、70%地属性攻撃&与えたダメージの30%吸収(威力はATSに反映)

Sクラフト

雷波無双撃 単体 自ら編み出した魔棒技、威力はATK、ATS両方を合わせ、さらに烈波無双撃の1.5倍、封技50%。ただし、CPが200からでないと使えない。MAX威力になるCPは400、任意で烈波無双撃か選べる。

コンビクラフト

太極嵐双剣 200 中円 リウイと共に猛烈な連撃を敵に叩きこむ。威力は原作、『零の軌跡』のコンビクラフト、太極無双撃の3倍&封技100%。使用条件、リウイがバトルメンバーにいるかつ双方のCPが200あること。また、棒装備時は技の名は”太極嵐双撃”になる。


<幼竜> ミント(属性・幼竜……物理を除いた全属性の攻撃を5%軽減する。)

LV15
HP650
CP250
ATK130
DEF80
ATS100
ADF60
SPD14
MOV4

装備

武器 グラディウス
防具 マジッククロース
靴 ダブルスパイク
アクセサリー フェザーブローチ(気絶無効)
       リリーネックレス(混乱無効)

オーブメント(無属性)並びはエステル、ロイドです。

バトルメンバーにエステルがいるとミント、エステルのATK&SPD5%上昇

クラフト 

応援 10 単体 しばらくの間、自分以外の味方単体のATKを15%上昇&CP20回復。ATK上昇は2回まで重ねられる。
ピアスドライブ  20 単体 真っ直ぐ行く突進攻撃。駆動&アーツ妨害
ファイアシュート  40 単体 拳ぐらいの大きさの炎が山なりに目標に向かって飛んで行く火属性の竜魔法。60%火属性攻撃&火傷10%(威力はATSに反映)
アッパーファング 30 単体 目標を一度攻撃した後さらに斬り上げる2回攻撃。
アイスニードル 40 単体 敵の足元から氷を出す水属性の竜魔法。60%水属性攻撃&凍結10%(威力はATSに反映)
ストーンフォール 50 小円 敵の頭上に複数の岩を落として、ダメージを与える土属性の竜魔法。(威力はATSに反映)
バーストショット 25 単体 魔力が籠った蹴りで敵を蹴り飛ばす。後退&気絶10%攻撃。
サンダーボルト 40 直線 範囲内の敵の頭上に雷を落とす風属性の竜魔法。60%風属性攻撃&麻痺10%(威力はATSに反映)

Sクラフト

ソードファング 単体 目標を何度も斬りつける攻撃。威力は300%。


<幼水竜> ツーヤ(属性・幼水竜……水属性の攻撃を30%軽減する。)

LV15
HP600
CP300
ATK100
DEF70
ATS120
ADF90
SPD13
MOV4

装備

武器 脇差‐虎徹(クリティカル10%)&鱗の籠手
防具 マジッククロース
靴  ダブルスパイク
アクセサリー パールイヤリング(封技無効)
       ブラックバングル(睡眠無効)

オーブメント(水属性)並びはリースです。

バトルメンバーにプリネがいると、プリネ、ツーヤのATK&ATS5%上昇

クラフト

溜め突き 20 単体 力を溜めて突きで攻撃する。駆動&アーツ妨害攻撃
Sアイスニードル 30 単体 敵の足元から氷を出す水属性の水竜魔法。80%水属性攻撃&凍結15%(威力はATSに反映)
飛翔剣舞 30 単体 踊るように攻撃する。2回攻撃。
ヒールウォーター 50 単体 水の力で味方の傷を回復させる水竜魔法。HP25%回復。
キュアウォーター 40 単体 水の力で味方の状態異常の一部を回復させる水竜魔法。毒、麻痺、混乱回復。
延髄砕き 30 単体 敵の弱点を見極め攻撃する竜技。80%攻撃&封技15%
円舞 50 特殊 自らを中心とした小円攻撃の剣技。
ラファガブリザード  60 特殊 自らを中心とした中円攻撃の竜魔法。120%水属性攻撃&凍結20%(威力はATSに反映)
十六夜”斬”? 40 特殊 未完成の剣技、目標と隣り合っている敵がいた場合、それらにもダメージを与える真横に斬る剣技。威力130%

Sクラフト

ダイヤモンドバーグ 単体 目標を氷の中に閉じ込めて滅多斬りにする技。威力は300% 



後書き ツーヤのクラフトに関してですが、なんでそんなガキがあの3人の技が使えんだっ!?という文句はできればやめて下さい……ただ単に使わせたかったのです。ミントにもいくらかオリジナル技を持たせました。ミントのSクラフトは原作でもあるんですがシリーズ違いの技にしました。幼少から原作の最強系を使わす訳にもいきませんし……感想お待ちしております。



[25124] 第90話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/09/06 12:28
いよいよツァイス編開始&原作のあのキャラが登場します!





ツァイスへと続くトンネル道、カルデア隧道は暗さのせいもあり、オーブメントの魔獣避けの灯で道を照らされていても道にはそこそこの数の魔獣がいて、エステル達を見つけると襲って来た。これまでの旅で強くなったエステルとヨシュア、歴戦の強さのリフィア達、見た目が幼いながらも竜のミントやツーヤにとって苦戦する敵ではなかった。

~カルデア隧道~

「はっ!」
「せいっ!」
魔獣の攻撃範囲外からエステルが棒で攻撃するとタイミングよくヨシュアが一瞬で魔獣に近付き、追撃をかけて次々と魔獣を倒し
「……ゆけい!」
「キャハッ♪」
リフィアとエヴリーヌは戦っている場所がトンネル道であるため、辺りに衝撃を与えかねない強力な魔術を抑えて、下級魔術――追尾弾や弓技――精密射撃で一撃で魔獣を次々と葬り
「ふっ、はっ、セイ!……ハァッ!」
プリネは魔獣達を皇技――フェヒテンイングやフェヒテンバルで次々と華麗に倒していった。一方心配であったミントとツーヤは予想以上に戦えてた。
「たぁっ!」
「ハァッ!」
ミントが魔獣に剣で斬りつけ、ツーヤが刀で魔獣の手足の一部を斬った所を
「やぁっ!」
ミントが突きで突進するクラフト――ピアスドライブで止めをさした。攻撃した後硬直していたミントに近くにいたを魔獣が襲ったが
「貫け!……アイスニードル!」
ツーヤが放った魔法によってミントを襲おうとした魔獣は足元から突然出て来た氷によって貫かれ、致命傷を負ったところをミントがクラフトを使った。
「あっち行けぇっ~!」
身体を回転させた勢いの片足に魔力を纏わせて目標に傷を負わせると同時に吹っ飛ばすクラフト――バーストショットによって蹴り飛ばされた魔獣は壁に当たった所を
「そこっ!」
ツーヤは突きの構えで力を溜めて放ったクラフト――溜め突きで魔獣に止めを刺した。
「フゥ。油断は禁物だよ、ミントちゃん。」
「えへへ……ありがとう、ツーヤちゃん!」
辺りの魔獣を倒し終えて安堵の溜息をついているツーヤにミントは笑顔でお礼を言った。

「ふえ~。2人とも初めての戦いの割には結構戦えるわね……魔術まで使うとは思わなかったわ……」
「そうだね。息もピッタリだったし。」
戦闘が終わりミント達の戦いを横目で見ていたエステルは驚き、ヨシュアは2人のコンビネーションに感心していた。
「えへへ、だってミントとツーヤちゃんは会ってからずっといっしょにいる友達だもん!だからパパとママみたいに仲良く戦えるんだ!」
「え。」
「へ!?ちょっと待って……ママはあたしの事だからいいとして、パパってもしかして……ヨシュア?」
ミントの言葉にヨシュアは驚き、エステルは驚いた後尋ねた。
「違うの?パパの名前、ママと同じだからパパだと思ったんだけど……」
エステルの様子が不思議に思い、ミントは首を傾げながら答えた。
「ち・が・う・わ・よ!ヨシュアはあたしの弟!第一、あたしはまだ結婚なんてしていないわ!」
「そうなの?」
「ハハ……エステルの言う通りだよ、ミント。」
「第一その……弟と結婚なんてできる訳ないでしょ。」
「何を言っておる。兄妹同士でも結婚できるぞ?」
「へ?」
リフィアの言葉にエステルは目を丸くした。
「忘れたのか?余の両親は元々腹違いの兄妹の関係だったのだぞ。」
「加えてエステルさんとヨシュアさんは血が繋がった姉弟ではないんですよね?でしたら普通に結婚できると思いますが……」
「…………………」
「エステル?どうしたんだい、顔を俯かせて。」
「ママ、風邪をひいたの?顔が真っ赤だよ?」
リフィアやプリネに正論を言われ、ヨシュアと結婚した風景をつい思い浮かべてしまったエステルは顔を真っ赤にさせて俯き、ヨシュアはその様子を不思議に思い声をかけ、ミントはエステルに近寄って顔が真っ赤になっているエステルの顔を見て首を傾げた。
「な、なんでもないわよ!それよりこの話はお終い!ヨシュアはあたしのそのこ、恋人とかじゃなくて弟だからね!だからミント、パパとかいっちゃダメよ!みんなに勘違いされるんだから!」
「?うん。」
無理やり話を終わらせたエステルにミントは首を傾げながら頷いた。

「……………」
(ヨシュアさん、何だか辛そうにしていませんか、ご主人様。)
(そうね……………まさか。)
エステルの言葉を聞いて、どこか哀愁が漂っているようにみえるヨシュアを見てツーヤはプリネに囁き、囁かれたプリネはヨシュアの様子を見て感づいた。
(どうしてヨシュアさんが辛そうにしているかわかったんですか、ご主人様。)
(ええ。……フフ、でも今のあなたにはまだちょっと早いかもしれないわね。)
(?よくわからないのですが……)
(その内あなたにもわかる時が来るわ……だから今はそっとしておきましょ。)
(?はい。)
微笑みながら答えたプリネの言葉にツーヤは首を傾げながら頷いた。
(フム……あの2人の結婚式に参加した際の祝いの言葉を今から考える必要があるな……)
(うわー……リフィアの頭の中ではエステルとヨシュアが一緒になる事が決定してる……エヴリーヌ、知~らないっと。)
一方早とちりしたリフィアは2人が未来には夫婦になると思い、小声で独り言を呟き、それが聞こえたエヴリーヌは面倒事を避けるために知らないフリをした。
「(ハァ……全部、聞こえてるよ……)それよりそろそろ行こうか。昼ごろにはツァイスに着きたいし。」
プリネ達の小声の会話や独り言が聞こえていたヨシュアは心の中で溜息をつき、気を取り直してエステル達に言った。
「そうね。じゃあ、行きましょうか。」
そしてエステル達はツァイスに向かって足を進めた。しばらく歩くとツァイス方面から走って来る足音と声がした。

「はぁはぁ……。い、急がなくっちゃ……」
「あれ……?」
「……誰か来るみたいだね」
聞き覚えのない声が道の先から聞こえたエステル達は足を止めた。すると赤を基調とした作業着を着たミントやツーヤぐらいの体が小さい少女が走って現れた。
「あ……」
少女はエステル達を見ると、立ち止まった。
「やあ、こんにちは」
「どうしたの、そんなに急いで?」
「あ、はい、こんにちは。あの、お姉さんたち、この道を通ってきたんですか?」
ヨシュアやエステルに話しかけられた少女は礼儀正しく答えた後、尋ねた。
「うん、そうだけど?」
「あのあの、だったら途中に消えた照明を見ませんでした?トンネルの壁についている照明のことなんですけど……」
「む~……ごめん。ちょっと気付かなかったか。」
少女に尋ねられたエステルはすまなさそうな表情で答えた。
「消えた照明はなかったけど、川を2つ越えたところで調子が悪そうなのは見かけたよ。」
「それですっ!や、やっぱり思ったとおりだよ~……。すみませんっ。わたし急がなくっちゃ!」
ヨシュアの答えを聞いた少女は慌ただしくルーアン方面に向かって走って行った。
「ツァイスの女の子かな。変わった格好をしてたね。ずいぶん慌てていたけど……」
「うーん。なんか気になるわね~。ね、ヨシュア。ちょっと追いかけてみない?」
「そう言うと思ったよ。たしかに女の子を1人で行かせるのは危険そうだからね。付いていった方が良さそうだ。」
「そうね……ミントやツーヤは事情が特殊だし、実際戦えるからいいとして……あの子、どう見ても普通の女の子に見えたし心配だわ。」
「決まりですね。では、急ぎましょう。子供の足とは言え、油断はできません。」
「うむ!」
「ん。」
「はーい!」
「わかりました。」
そしてエステル達は来た道を引き返して急いで女の子の後を追った…………


後書き みなさんお分かりであろう、原作の幼女登場です。後、ちょっと残念なお知らせです。今月発売のテイルズ、碧をプレイするのでそれらを終えるまでは更新はほとんどないです。現在、エルモ村のあたりまでは書けてますから、温泉のシーンと新クロスオーバーキャラが出る話は出せます。多分、来週あたりで更新はストップします………感想お待ちしております。



[25124] 第91話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/09/07 08:32
女の子を追って急いで道を引き返したエステル達はしばらく戻ると女の子を発見した。

~カルデア隧道~

「はうぅ~っ……」
そこには女の子に気付かず消えかかっている照明に魔獣が群がっていた。女の子はその様子を見て、思わず声をあげた。
「も、もうこんなに集まって来ちゃうなんて~……。このままじゃ壊されちゃう……。こ、こうなったら……」
女の子はどこからともなく、ややサイズが小さい導力砲を取り出して魔獣に向けた。
「方向ヨシ、仰角20度……。導力充填率30%……。……いっけええっ!」
魔獣の群れは野生の危機感で女の子が撃った導力砲の砲弾を避けた。
「そ、それ以上近づいたら今度は当てちゃうんだから!ほ、本当に、本気なんだからっ!」
女の子は導力砲を魔獣に向けて精一杯強がったが、魔獣達は獲物を女の子に変えてじりじりと詰め寄って来た。
「あう……。ぎゃ、逆効果だったかも……」
詰め寄って来る魔獣の群れを見て女の子は後ずさった。そして群れの中の一匹の魔獣が女の子に襲いかかろうとした時
「てりゃあああっ!」
エステルが飛び込んで棒で女の子に襲いかかった魔獣を吹っ飛ばした。そして続くようにヨシュアやプリネ達が女の子を守るような位置で武器を構えた。
「え……。あ、さっきの……!」
女の子はエステル達を見て驚いた。
「話はあとあと!いいから下がってて!」
「とりあえずこいつらを追っ払うからね!」
「余に任せるがよい!」
そしてエステル達は魔獣の群れと戦闘を開始した!

「ハァァァ……!旋風輪!!」
「そこだ……!絶影!!」
エステルが棒で魔獣の群れを一気にダメージを与えるとヨシュアがすかさず止めを刺し
「とうっ!」
「出でよ、ソロモンの魔槍!……死愛の魔槍!!」
「暗黒の槍よ!……狂気の槍!!」
「落っちろ~!……サンダーボルト!!」
「貫け!……アイスニードル!!」
エヴリーヌは弓矢で、リフィアやプリネは暗黒魔術の槍で、ミントやツーヤは自分達しかできない独特の魔法でエステルやヨシュアの攻撃を受けてない魔獣達を仕留めたり、重傷を負わせた所を
「風よ、切り裂け……旋刃!!」
エステルの風の魔術によって残った敵を殲滅した。

「こ、こわかった~っ……。あのあの……ありがとうございますっ。おかげで助かりました。」
魔獣達が倒されて安心した女の子はエステル達にお礼を言った。
「あはは。無事で何よりだったわね。でも……ちょっと感心しないわよ?魔獣を挑発するなんて危ないことしちゃダメじゃない。」
「あ、でもでも……。放っておいたら照明が壊されちゃうと思って……」
エステルのちょっとした注意に女の子は申し訳なさそうな表情で答えた。
「そういえば……。どうして、あの魔獣たち、消えた照明に群がっていたのかな?」
「前に街道灯を交換した時にも同じことがあっただろう?オーブメントの中にある七耀石の回路は魔獣の好物だからね。だから街道灯には、魔獣よけの機能が付いているんだけど……。その機能が切れたら逆に狙われやすいってわけさ。」
女の子の言葉からある事が気になったエステルにヨシュアが説明した。
「あ、なーるほど。でも、それにしたって無茶するにも程があるわよ。大ケガしたら危ないでしょ?」
「エステルの言う通りだ。無茶はほどほどにするのが一番だが、やりすぎてしまうと自らの身を滅ぼしてしまうぞ?」
「あぅ……ご、ごめんなさぁい。」
ヨシュアの説明に納得したエステルだったが、女の子を再度リフィアと共に注意した。注意された女の子はしゅんとした。
「リフィアが無茶するなって言っても説得できないと思う。いっつも、お兄ちゃん達やエヴリーヌを巻き込んで無茶をしているのに。」
「……聞こえておるぞ、エヴリーヌ。余を鉄砲玉扱いするでない!」
「あ、あはは…………」
エヴリーヌの呟きが聞こえたリフィアは怒り、プリネは何も言わず苦笑した。
「まあまあ、そのくらいで。第一、無茶するなとか君が言っても説得力ないしね。」
「そこっ、水をささないのっ!まあいいや……。あたし、エステルっていうの。」
「僕はヨシュア。2人とも、ギルドに所属している遊撃士なんだ。」
「わあ、それであんなに強かったんだ……。それでそこの方達はどなたなんでしょうか?」
エステルとヨシュアが遊撃士と知った女の子はミントに負けない可愛らしい笑顔で納得した後、リフィア達を見た。
「余の名はリフィア!しかと覚えておくといい!」
「……わたし、エヴリーヌ。よろしくね。」
「プリネと申します。私達は事情があってエステルさん達の仕事のお手伝いをさせて頂いているんです。」
「そうなんですか……遊撃士や軍人でもないのに強いんですね。」
「そりゃあそうよ。プリネ達はなんたって”闇夜の眷属”なんだから!」
「なんで、そこで君が得意げになるんだか………」
「わあ……凄い!話には聞いていたけど”闇夜の眷属”に会ったのは初めてです!えっと……そちらの2人もそうなんですか?」
プリネ達が異世界の人種と知ると女の子はキラキラした顔でプリネ達を見た後、ミントやツーヤを見た。
「えっと、まあそんなもんよ!ミント。」
ミント達の正体をはぐらかしたエステルはミントに自己紹介するよう促した。
「はーい!ミントだよ!よろしくね!」
「……あたしの名前はツーヤ。プリネ様にお仕えしています。」
ミントは元気よく名乗り、ツーヤは静かに名乗り出た。
「あのあの、申し遅れました。わたし、ティータっていいます。ツァイスの中央工房で見習いをさせてもらってます。」
(ん?聞き覚えのある名前だな……)
(お姉様もですか?実は私もそうなんです。)
そして最後に女の子――ティータは自己紹介をした。ティータの名前を聞き、リフィアとプリネは聞き覚えのある名前に首を傾げた。

「へー、それでそんな格好をしてるんだ。それじゃあ、ティータちゃん。ツァイスに戻るんだったらあたしたちと一緒に行かない?」
「そうだね。また魔獣が出たら大変だし。」
「ほ、ほんとですか?ありがとーございますっ。えっと、ちょっとだけ待ってもらってもいいですか?あの照明を修理しちゃいますから。」
エステルとヨシュアの申し出にお礼を言ったティータは消えかかっている照明を見て頼んだ。
「あ、たしかにこのまま放っておくのは危なそうだもんね。でも、どうしてここの照明が切れそうなんて分かったの?」
「あ、端末のデータベースを調べていたら偶然見つけて……。手違いで、整備不良だったものがそのまま設置されたみたいなんです。」
「なるほど……。早く見つかって良かったね。」
「(端末?でーたべーす?)」
「「??」」
ティータの説明を聞き、興味がなく聞き流しているエヴリーヌ以外、ヨシュア達は理解をしている様子だったがエステルやミント、ツーヤは何の事かわからず首を傾げていた。そしてティータは照明に近付いて作業をした。
「……んしょっと。」
作業が終わり消えかかっていた照明がハッキリと点灯した。
「はい、これでいーです。お待たせしちゃいました。」
「わあ……ティータちゃんって凄いんだ!」
「へえ~、凄い。ずいぶん手際良いのねぇ。」
「うむ。見事な手際だな。」
「さすが、あの中央工房で見習いをしてるだけはあるね。」
「えへへ……。大したことはしてないです。クオーツの接続不良を直して導力圧を調整しただけですから。」
エステル達に褒められたティータは照れながら説明した。
「???なんか充分、大した事のように聞こえちゃうんですけど……」
ティータの説明にエステルは不思議そうな顔で尋ねた。

「そんなことないですよー。えとですね。わかりやすく説明すると……オーブメントの内部にはクオーツって言う結晶回路がはまっているんですけど、それがきちんとユニット部に接続されていないと、生成された導力が行き場を失ってしまって、結果的に想定された当初の機能が発揮できなくなってしまうんです。それが街道灯の場合は光と魔獣除けの………………」
「ス、ストップ!」
詳細な説明をどんどん語るティータの説明に耐えきれず、エステルはティータを制した。
「せ、説明はまたにしてそろそろ出発したいかな~。うんうん。こんな所で立ち話もなんだし。」
「あ、それもそーですね。ちょっと残念ですけど……」
「(ホッ………)」
説明を一端止めたティータを見てエステルは安堵の息を吐いた。
「はは、それじゃあ改めてツァイスに向かうとしようか。」
エステルの様子を見て、ヨシュアは苦笑しながら全員に先に進むよう促した。
「オッケー!」
「はいっ!」
「ええ。」
「うむ。」
「ん。」
「はーい!」
「はい。」
そしてエステル達はティータを護衛しながらツァイスに向かった………



後書き 明日はいよいよテイルズ発売ですね♪……感想お待ちしております。



[25124] 第92話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/09/08 10:29
ツァイスに到着後、エステル達は初めて見るツァイスの変わった風景や設備を珍しがったり戸惑ったが一端ギルドに行くため、ティータと別れてギルドに向かった。

~遊撃士協会・ツァイス支部~

「「こんにちは~!」」
「「「失礼します。」」」
「失礼するぞ。」
「こんにちは。」
ギルドに入るとエステルとミントは本当の親娘のように2人揃って元気よく挨拶をし、ヨシュアやプリネ、ツーヤは静かに挨拶をし、リフィアは興味深そうにギルド内を見ながら挨拶をし、エヴリーヌは普通に挨拶をした。ギルドの受付には東方風の衣装を着た女性が瞑想をしていた。
「………………………………」
「あの~、あたしたち、」
瞑想している女性にエステル達は近付いて、エステルが声をかけると女性は目を開き、口を開いた。
「……ようやくのご到着ね。エステル、ヨシュア、リフィア姫殿下、プリネ姫、エヴリーヌ。ツァイス支部へようこそ。」
「へっ……」
「僕たちをご存知なんですか?」
エステル達の事をすでにわかっている風に語った女性にエステルは驚き、ヨシュアは尋ねた。
「ルーアン支部のジャンからすでに連絡は受けていたから。栗色のツインテールに黒髪と琥珀の瞳、2つの房が着いている変わった帽子と紅い瞳に腰までとどいている赤髪と紅い瞳、銀色のツインテールに薄緑の瞳……。まさにあなたたちのことね。」
「な、なるほど……」
次々とエステル達の特徴を言った女性にエステルは圧倒されたかのように呆けた。
「私の名前は、キリカ。ツァイス支部を任されている。以後、お見知りおきを。」
「あ、はい、こちらこそ。」
「「よろしくお願いします。」」
「うむ、よろしくな。」
「よろしく。」
「さっそくだけど、所属変更の手続をしてもらうわ。こちらの書類にサインして。」
受付の女性――キリカはエステルとヨシュアに転属手続きの書類を渡した。
「うん、わかったわ。」

「……いいわ。これであなたたちもツァイス支部所属になったけど……。今のところ、すぐにやって欲しい急ぎの仕事は入ってないの。掲示板をチェックしながら自分たちのペースで働くことね。後、一つ聞きたいのだけどいいかしら?」
エステルとヨシュアのサインを確認したキリカはエステル達に尋ねた。
「うん、何かな?」
「そちらの金髪の女の子と黒髪の女の子はどういった経緯であなた達といっしょにいるの?武装している所を見るとただの市民ではないようだけど……それにその子達、恐らく人間ではないわね?」
キリカはミントとツーヤの容姿や2人が装備している剣や刀を見て、エステル達に尋ねた。
「あ、そうね。実は………」
エステル達はキリカにミント達の事情を話した。
「………そう。それでその子達も戦力として常に連れて歩くつもりかしら?」
「う~ん……本当はこんな小さい時からあんまり危ない事はしてほしくないんだけど、ギルドの人達にミント達の面倒を見て貰う訳にもいかないし、かと言って行く先々の街でいきなりこの子を預けられるような信用のある人はいる訳がないし、何よりこの子の親として寂しい思いはさせたくないのが一番の理由なんだけど……やっぱダメかな?」
「ママ……」
「フフ、エステルさんったらもうすっかり、ミントちゃんの本当のお母さんみたいになっていますよ?」
気不味そうな表情でキリカに説明したエステルにミントは感動し、プリネは微笑んだ。
「うっ……いいじゃない!ミントにとってあたしが母親である事は間違いないんだから。……それでどうかな、キリカさん?」
「一つだけ確認していいかしら。もうその子達は戦わせた事はあるの?」
「うん。カルデア隧道の魔獣達を何体か倒していたけど。」
「少なくとも自分の身は守れる腕でした。無茶はしないと約束させましたから大丈夫だと思います。」
キリカの疑問にエステルは答え、ヨシュアが補足した。
「そう、ならいいわ。その2人はリフィア姫殿下達と同じように協力員として登録しておくわね。」
「いいんですか?」
ミント達がエステル達の仕事を手伝う事を反対もせずあっさり許可したキリカにプリネは驚いて尋ねた。
「協力員は年齢制限がある訳ではないし、本人が希望するのなら拒む訳にもいかないから。戦闘能力もカルデア隧道の魔獣を倒せるぐらいあれば十分よ。」
「そっか。よかったね、ミント。」
「うん!」
「いっしょにがんばりましょうね、ツーヤ。」
「はい、ご主人様。」
「後でその2人の戦術オーブメントも用意しておくわ。ジャンからその2人の事の連絡はなかった所から考えると、まだ持っていないわね?」
「はい。……でもいいんですか?戦術オーブメントまで用意するなんて。」
戦術オーブメントまで用意してくれる事にヨシュアは驚いて、キリカに尋ねた。

「ええ。協力員はある程度遊撃士と同じ待遇になるから。それにいくら魔術が使えるといっても、戦術オーブメントがないと戦闘は厳しいでしょう?」
「そうですね……戦術オーブメントには身体能力を高める機能もありますから、あった方がいいですね。」
キリカの説明にヨシュアは頷いて納得した。
「これって、そんな効果があったんだ。……そう言えばこれを持ってからいつもより力が出たり、体が軽くなったの事が不思議に思ったんだけど……」、
エヴリーヌは腰のベルトにつけていたオーブメントを手にとって不思議そうな顔で呟いた。その様子を見たリフィアは溜息をついた後、尋ねた。
「やれやれ……リウイがお主にそれを渡した時、説明しなかったか?」
「エヴリーヌ、難しいお話は嫌いだから聞き流していたもん。」
「お、お姉様……せめて自分が身につけている物の効果ぐらいはわかっておいて下さい……」
「あはは……そうだキリカさん、聞きたいことがあるんだけど……」
リフィア達の会話に苦笑したエステルはキリカに尋ねたが
「カシウスさんのことね。」
「ひえっ!?」
「それもジャンさんからお聞きになったんですか?」
エステルの疑問を先読みしたかのように答えたキリカにエステルやヨシュアは驚いた。
「一通りのことはね。残念だけど、カシウスさんはツァイス地方には居ないわね。少なくとも、ここ数ヶ月はこの支部を訪れていない。」
「は~っ、そっかあ……」
「残りは王都か、それとも……」
カシウスの手掛かりが相変わらず掴めない事にエステルとヨシュアは溜息をついた。

「ねえねえ、ママ。」
「どうしたの、ミント?」
「ママのパパとママってどんな人?」
「へ?父さんとお母さん?………ん~とね。お母さんは美人で凄っごく優しい人なんだけど、父さんはどこをほっつき歩いているかわからない不良中年よ!全くあの不良中年は今頃、何をしているんだか。」
ミントに両親の事を聞かれたエステルは心配する家族に何も連絡してこないカシウスに弱冠怒りを感じつつ説明した。
「ミントちゃん、どうしてエステルさんのお母さん達が気になったの?」
ツーヤはミントが何故エステルの両親の事を聞いたかわからず、尋ねた。
「だって、ミントにとってはお祖父ちゃんとお祖母ちゃんだもん。どんな人達が凄く気になるもん。」
「父さんとお母さんがと、年寄り扱い………もしお母さん達が聞いたらどういう反応をするんだろう……?」
「ハハ……父さんは案外喜ぶかもしれないよ。母さんは……ちょっとわからないや。まあ、可愛がるとは思うけど孫娘として扱うか、娘として扱うかはわからないな……」
「うう……ミントとお母さんを会わした時、何を言われるか聞くのがなんだか怖くなって来たわ……」
ミントの発言にエステルは驚いた後、レナがどういう反応をするかわからず怖くなり、ヨシュアは苦笑した。

「それとあなた達に渡す物があるわ。これを持っていきなさい。」
エステル達の会話が終わるのを見計らったキリカが手紙を渡した。
「え、これって……」
「中央工房の責任者であるマードック工房長への紹介状。このツァイス地方では市長と同じ立場にいる人ね。」
「ひょっとして……黒いオーブメントの件ですか?」
キリカが工房長への紹介状をエステル達に渡した理由を察したヨシュアがキリカに尋ねた。
「市長邸での話を聞く限り、かなり謎めいた代物のようね。まずは工房長に会って相談してみるといいでしょう。」
「な、なんかメチャメチャ用意いいわね~。キリカさん、超能力者とか?」
「あなた達遊撃士のサポートが私の仕事だから。届けられた情報を判断してしかるべき用意をしただけよ。」
「お、恐れ入りました。」
「助かります、本当に。」
(……プリネ、エヴリーヌ。気付いておるか?)
(ん。ただの人間じゃないね。)
(ええ、あの方……恐らく達人クラスの強さを持っていますね。)
キリカの用意の速さにエステルとヨシュアは驚いた後感謝し、リフィア達はキリカがただ者ではない事を悟った。

そしてエステル達は黒いオーブメントを調べてもらうために中央工房へ向かった…………



後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第93話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/09/09 07:09
その後中央工房に向かったエステル達は受付嬢に紹介状を見せた後、工房長がいる部屋に向かった。

~ツァイス市内・中央工房・工房長室~

「やあ、待っていたよ。エステル君にヨシュア君だね。」
「あ、はい。初めまして、工房長さん。」
「お忙しいところを失礼します。」
工房長――マードックにエステルとヨシュアは会釈をした。
「いやいや。気にしないでくれたまえ。遊撃士協会には……特にカシウスさんにはお世話になっているからね。そのお子さんたちとなれば歓迎しないわけにはいかないさ。」
「えっ!?工房長さんって父さんの知り合いなの!?」
「知り合いというかカシウスさんは大の恩人だよ。この中央工房は、大陸で最もオーブメント技術が進んでいる場所と言っても過言じゃない。当然、その技術をめぐって色々とトラブルが絶えなくってね。どうしても対応に困った時にはロレント支部に連絡して彼に来ていただいていたんだ。」
「そ、そうだったんだ……」
「はは、道理でいつも出張が多かったわけだね。」
カシウスとマードックが知り合いである事にエステルは驚き、マードックの説明を聞いて2人は納得した。
「その恩人のお子さんたちが、わざわざ訪ねてきてくれたんだ。喜んで相談に乗らせてもらうよ」
「えへへ……。ありがと、工房長さん。」
「少し話は長くなりますが……」
協力的なマードックにエステル達は黒いオーブメントを手に入れた経緯を説明した。

「なるほど……。そんなことがあったのか……。そのオーブメントを拝見しても構わないかね?」
「うん、もちろんよ。」
エステルは荷物の中から黒いオーブメントを出してマードックに渡した。マードックはそのオーブメントをしばらく隅々と調べた。
「ううむ……確かに得体の知れない代物だ……。明らかに最近造られた物だが、どこにもキャリバーが刻まれていない……」
「キャリバー??」
「オーブメントのフレームに刻まれている形式番号ですか?」
「うん、その通りだ。オーブメントには、ほぼ例外なくいつどこで造られたのかを表す形式番号が刻まれている。これは、リベールだけでなく他の大陸諸国でも事情は同じでね。50年前に、オーブメントが発明された時からの伝統なのだよ。」
「へ~、そうだったんだ。」
マードックの説明を聞いたエステルは懐から戦術オーブメントを取り出して、フレームを調べた。
「……あ、ほんとだ。確かに番号が刻まれてるわ。」
「はあ……。今まで気付かなかったのかい?」
「う、うっさいわね~。でも、形式番号(キャリバー)が無いのってそんなに不思議な事なんだ?」
呆れているヨシュアに言い返したエステルは首を傾げてマードックに尋ねた。
「導力技術者にとってナンバリングをすることは常識とも言えることだからねぇ。試作品だとしてもそれは同じ……。となると、なにか後ろ暗い目的で造られた可能性が高いかもしれない。」
「後ろ暗い目的……」
「少なくとも真っ当な目的ではないでしょうね。」
マードックの言葉にエステルは真剣な表情をし、プリネも頷いた。
「まあ、はっきりとしたことは内部を調べないと判らないが……」
マードックは黒いオーブメントの中身を見ようとフタを探したが、手が止まった。

「まいったな……。調整用のフタが見当たらない。よく見たら継ぎ目もないし……どうやって組み立てたんだろう?うーん、このままだと中を調べるのすら難しそうだな。」
「え~、そんなぁ……。あ、だったら外側のフレームを切断すればいいんじゃない?」
マードックの言葉に肩を落としたエステルはオーブメントの中身を見るための提案した。
「まあ、確かにそうするのが手っ取り早いかもしれないが……。でも、カシウスさんあてに届いたものを勝手に傷つけるのはちょっと気が引けるなあ。」
「そ、そっか……」
「………………………………。例の博士だったら任せられると思うんだけど……」
「あ……同封されていたメモの……。確かに、その博士だったら任せちゃっていいかもね。」
「???」
エステルとヨシュアの会話が理解できなかったマードックは首を傾げた。事情がわかっていないマードックにエステルはオーブメントといっしょに入っていた手紙を見せた。
「実は、そのオーブメントと一緒にこんなメモが入ってたんだけど……」
「『R博士に調査を依頼……』」
「そのR博士という方に心当たりはありませんか?」
ヨシュアは手紙に書かれてある人物を知っているか尋ねた。
「心当たりがあるもなにも……。頭文字がRで、カシウスさんの知り合いといったら『ラッセル博士』に間違いないだろう。」
「やっぱりそうですか……」
「ラッセル博士?ていうか……ヨシュアの知り合いなの?」
「いや、面識はないけどね。オーブメント技術をリベールにもたらした人物として有名なんだ。」
「私も存じています。確かメンフィルへの導力技術提供チームの代表であった方ですよね?」
「うむ。」
ラッセル博士の事がわからないエステルにヨシュアが説明し、プリネはリフィアに確認した。

「ほう、よく知ってるね。オーブメントを発明したのはエプスタイン博士という人だが……。ラッセル博士はそのエプスタイン博士の直弟子の1人にあたるんだ。40年前、彼が持ち帰ったオーブメント技術のおかげでリベールは技術先進国となった。いわば、リベールにおける導力革命の父といえるだろう。」
「ほええ……。そんなすごい人がいるんだ。父さんってば、つくづく意外な人脈を持ってるわねぇ。」
ラッセル博士の事を知ったエステルはカシウスの人脈に驚いた。
「しかし、そのオーブメントを博士に任せるのは心配だな。どんな事になってしまうのやら……」
「へ?」
「なんと言うか……良くも悪くも天才肌の人でね。一度、研究心に火がつくと色々なことを起こしてくれるんだ。そうだ……初めて導力飛行船を開発したときも……。…………ふう…………」
ラッセル博士の事を説明し終えたマードックは思い出したくもない事を思い出し、遠い目をした。
(な、なんか遠い目をしてる……)
(色々とあったみたいだね……)
(嫌な予感……リフィアみたいな人じゃないといいけど。)
(エヴリーヌ、それはどういう意味だ?)
(お、お姉様。抑えて下さい。)
マードックの様子を見てエステルやヨシュアは苦笑し、エヴリーヌの呟きが聞こえたリフィアはエヴリーヌを睨んでいる所をプリネが諌めた。
「……コホン、これは失礼。まあ、確かに博士ならそのオーブメントの正体を必ずや突き止めてくれるだろう。紹介するから相談してみるといい」
「ありがと、工房長さん!」
「どちらに行けば博士にお会いできますか?」
「そうだな……。ちょっと待ってくれたまえ。」
椅子に座っていたマードックは立ち上がり、部屋に備え付けてある通信機を操作した。
「もしもし……。おお、ちょうど良かった。実は君のことを捜していてね。すまないが、こちらに来てもらえないかな?うん、うん、待っているよ。」
誰かを呼んだ風に聞こえたエステルはマードックに呼んだ人物の事を尋ねた。
「ひょっとして、そのラッセル博士を呼んだの?」
「いやいや、とんでもない。実はラッセル博士は町に個人工房を持っていてね。最新式の設備が揃っているから普段はそちらで研究してるんだ。」
「へ~。さすが天才博士って感じね。……あれ、それじゃあ今、呼んだのは?」
「うん、そのラッセル博士のお孫さんがここで働いているんだ。その子に君たちのことを案内してもらおうと思ってね。」
「その”子”?」
マードックの言葉にエステルが首を傾げた時、見覚えのある作業着を着た女の子が部屋に入って来た。

「えっと、失礼します。」
「あっ?」
「君は……」
「ティータちゃん!」
「どうしてここに?」
女の子――ティータが入って来た事にエステルやヨシュアは驚き、ミントは笑顔になり、ツーヤはなぜここに来たのかを尋ねた。
「……思い出した。ティータ・ラッセル。ラッセル博士の孫娘だ。」
「どこかで聞いた名前かと思いましたが、まさかラッセル博士の孫娘だったとは……幼いながら一人でオーブメントを修理した技術を考えれば納得ですね。」
リフィアはティータの事を完全に思い出し、プリネはティータが幼いながらオーブメントの修理を一人で行った事を思い出した後納得した。
「あれれ……みなさん?」
「なんだなんだ。ひょっとして顔見知りかね?」
お互いが知っているように見えたマードックは驚いた後、尋ねた。
「うん。知り合ったばかりだけどね。」
「それじゃあ彼女が博士のお孫さんなんですね。」
「うん、その通りだ。ティータ君。こちらのエステル君たちが博士に相談があるそうなんだ。家まで案内してもらえるかね。」
「おじいちゃんに……。あ、はい、わかりましたっ!」
マードックの頼みにティータは礼儀正しく答えた。
「また会えたね、ティータちゃん。」
「よろしくね。」
「えへへ……うん!」
同年代に見えるミントとツーヤはティータとすぐに仲良くなった。
「よろしく頼んだよ。そうそう、何か判ったら私にも教えてくれると嬉しいな。技術者のはしくれとして、非常に興味をそそられるからね。」
「あはは、うん、わかったわ。」
「それでは失礼します。」
そしてエステル達はティータと共に部屋を出た後、ティータの案内でラッセル家に向かった…………



後書き エクシリア面白すぎです……!OPが入るタイミングか凄くよかったし、戦闘やシステムも全作品と比べるとかなり面白い!!さすが15周年記念で作り込んでいるだけはありますね!ただ、ちょっと気になるのは術覚えているミラが術を使わず魔技ばっか使って戦っている事なんですよね……感想お待ちしております。



[25124] 第94話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/09/10 08:05
エステル達はティータに案内され、ある家に着いて中に入って行った。

~ツァイス市内・ラッセル家~

「えへへ……。これがわたしの家です。」
「ほう。ここがラッセル博士の住居か……」
「へ~、いいお家じゃない。」
「わあ……これがティータちゃんの家なんだ!」
リフィアは興味深そうに家の中を見渡し、エステルやミントも同じように見渡した。
「ラッセル博士はどこにいらっしゃるのかな?」
「おじいちゃんなら工房の方にいると思います。その扉の向こう側です。」
ヨシュアの疑問にティータは玄関とは別に着いている扉を指し示した。
「それじゃあ早速、挨拶させてもらいますか。」
扉の中に入って行き、ティータの案内で扉の先の部屋にある階段をエステル達は上って行った。
「おじいちゃん、ただいまぁ。」
「……むむむ………。ここをこうして、こうすれば……。くぬぬぬぬっ……!……ぬおおおっ…………」
そこにはティータの呼びかけにも答えず、椅子に座って一心不乱に机の上にある導力器らしき物を熱心に作業している老人――ラッセル博士がいた。
「……あ。」
「あ、その人ね。」
博士の様子にティータは気不味そうな表情をした。ティータの様子に気付かず、エステルは博士に挨拶に向かった。
「あの~、初めまして。あたし、遊撃士協会のエステル・ブライトっていいます。実は、博士に相談したいことが……」
「………………………………………………………………」
「……あり?」
エステルの挨拶に何も答えず、ただ作業している博士にエステルは首を傾げた。その時博士が立ち上がって大声を出した。
「で、できたあああっ!」
「ひえっ!?」
「ひゃっ!?」
「ッ!?」
博士の大声にエステルやミント、ツーヤは驚いた後一歩後退した。
「わはは、やったわい!ついに完成したぞおおおっ!さすがワシ!すごいぞワシ!うむ、こいつは早速、テストせねばなるまいてっ!」
博士はエステル達には一切気付かず、1階に降りて行った。

「わぁっ!な、なんなのよ~!?」
「ご、ごめんなさい、エステルさん。おじいちゃん、発明に夢中になるとまわりが目に入らなくなって……。数日前から造っていた装置がようやく完成したみたいなんです。」
「なるほど……。さすが天才って感じだね。」
「そ、そういう問題じゃないと思うんですけど……」
感心しているヨシュアにエステルは呆れて溜息を吐いた。
「め、面目ないですぅ……」
エステルの言葉を聞いたティータは気不味そうな表情になった。
「うわ~……それってリフィアとそっくりていう意味じゃない……嫌な予感。」
「エヴリーヌ、それはどういう意味だ?」
「お、お姉様。抑えて下さい。それより、ラッセル博士とは昔からああいう方だったんですか?」
博士の事を知り、思わず呟いたエヴリーヌを睨んでいるリフィアを宥めたプリネは話を変えるために博士の事を尋ねた。
「ああ。魔導技術の事を知った時、周りの技術者達に抑えられながらもリウイに魔導技術の詳細を迫っていたほどだ。興味がある事があれば周囲の目は一切入らないのは以前と全く変わっていないな。」
「なるほど。(確かにリフィアお姉様とよく似た方ですね………)」
そしてエステル達は博士を追い、1階に降りた。1階に降りると博士が何かの設計図らしき紙を見ていた。

「おじいちゃん、あのね。このお姉ちゃんたちが相談したいことがあって……」
「ん……?おお、ティータ!いいところに戻ってきたのう!今からテストをするからデータ収集を手伝ってくれ。」
「え、でも、あのね……」
「今度の発明は、生体感知器を無効にするオーブメントじゃ。特殊な導力場を発生して走査(スキャン)をごまかすわけじゃな。」
「ほ、ほんとー?」
エステル達のために博士の作業を止めようと声をかけたティータだったが、博士の言葉に作業を止めさせる事を忘れてティータは興味深そうな表情をした。
「ホントもホント。掛け値なしの新発明じゃ!ほれほれ、いいから、起動テストの手伝いをせい!」
「うんっ!」
そしてティータは博士と共に部屋に備え付けてある複雑そうな装置を動かし始めた。
「……あの~。」
「うーん。しばらくかかりそうだね。」
博士達の様子を見てエステルはジト目で声をかけたが答えは帰って来ず、ヨシュアは苦笑した。その時博士は手を止め、振り向いて次々とエステル達に指示をした。

「ほれ、そこの黒髪の!」
「え、僕のことですか?」
「他に誰がおる?2階の本棚から『導力場における斥力値』というノートを持ってくるんじゃ!ほれほれ、とっとと急がんか!」
「は、はい、わかりました。」
博士の勢いに押されたヨシュアは2階に走って行った。
「ちょ、ちょっとヨシュア……」
「ほれ、そこの触角みたいな髪したの!」
「しょ、触角……。あ、あんですって~!?」
博士に言われた自分の特徴にエステルは怒ったが
「ぼけーっとしとらんでコーヒーでも淹れてこんか!」
「な、なんであたしがっ!?」
「ちなみにワシはブラックじゃ。泥のように濃いヤツを頼むぞ。」
「聞いてないし……。はあ、もう、わかったわよ。」
「あ、ママ。ミントも手伝うね。」
話を聞かず一方的に指示をする博士と言い合いをしても無駄とわかり、溜息をついてミントと共に部屋を出た。
「ほれ、そこの赤髪!」
「なんでしょうか?」
「コーヒーと共に摘まめる菓子を作って来てくれい!とびっきり甘いやつを頼むぞ。」
「は、はあ………」
「ご主人様、お手伝いします。」
プリネは戸惑いながらツーヤと共に部屋を出た。
「後、そこの変な帽子のと銀髪!」
「………嫌な予感。」
「へ、変な帽子じゃと!?これは余が気にいっている帽子なのじゃぞ!?」
「ごちゃごちゃ言わずにここに書いた物を道具屋から調達してこんか!他の者達は動き回っているのにお前達だけサボるつもりか?」
怒っているリフィアを気にせず、博士はメモをリフィアに渡した。
「ぐぬ……妹が働いて、妹の手本となる余達が高みの見物する訳にもいかぬか……全く何故余が人の使い等を……ブツブツ。」
「はあ………こんな事ならギルドでお留守番しとけばよかった………」
痛い所を突かれたリフィアとエヴリーヌは文句を言いながら部屋を出た。そしてティータが作業を終えた。

「……うん、ばっちり♪おじいちゃん。こっちの設定は終わったよ。」
「おお、さすが早いな」
「あれ……。そういえば……エステルさん達は?」
「誰じゃ、それ?………………………………」
ティータの言葉に博士は首を傾げた。
「そういえば、見覚えのない若い助手どもがいたが……。はて、マードックのやつがよこした新人かのう?」
「お、おじいちゃあん……」
無関係のエステル達を手伝わせている事にティータは溜息をついた。

こうして、エステル達は成り行きで実験を手伝うことになり、実験が終わった頃にはすっかり夕方になっていた……


後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第95話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/09/11 08:08
~ラッセル家・夕方~

そして実験が終わり全員がリビングの椅子に座り改めての紹介をした。
「わはは、すまんすまん。すっかりお前さんたちを中央工房の新人かと思ってな。ついコキ使ってしまった。」
ラッセル博士は人違いをしたことを豪快に笑っていた。
「ったく、笑いごとじゃないわよ。コーヒーだけじゃなくさんざん手伝いをさせてさ~。それにリフィア達まで手伝わせるなんて思わなかったわよ……」
「全くだ。世界広しと言えど、余達をこき使ったのは博士だけじゃぞ?」
呆れているエステルの言葉に頷くようにリフィアは呆れて言った。
「まあまあ、貴重な体験をさせてもらったと思えばいいじゃない。新型オーブメントの起動実験なんて滅多にあるもんじゃないんだし。」
「そうですよ、お姉様。新たな技術の実験に立ち会える事なんてあまりない事ですから、貴重な経験と思えばいいじゃないですか。」
「ほう、お前さん達。なかなか判っておるようじゃの。どうじゃ、遊撃士や皇女なんぞやめて導力学者への道を進んでみんか?」
エステルやリフィアを宥めているヨシュアやプリネに博士は冗談か本気かわからない提案をした。
「もう、おじいちゃんたら!ごめんなさい、みなさん。なんだか、わたしも実験に夢中になっちゃって……」
「あ、ティータちゃんは謝る必要はないんだからね?」
「うん。ママといっしょにお手伝い出来て楽しかったよ!」
「あたしもご主人様のお役に立てる機会を作ってくれて感謝しています。」
謝るティータにエステルは苦笑し、ミントやツーヤはエステルやプリネといっしょに働けた事に嬉しさを感じてお礼を言った。
「はあ、『導力革命の父』というからどんなスゴイ人かと思ったけど……。ここまでお調子者の爺さんとは思わなかったわ……」
「わはは、そう誉めるでない。しかし、まさかカシウスの子供達やメンフィルの姫殿下達が訪ねてくるとはのう。わしの方もビックリじゃよ。」
「あ、やっぱり博士って父さんの知り合いだったんだ?」
「うむ、けっこう前からのな。あやつが軍にいた頃からじゃから20年以上の付き合いになるか。」
「わたしも、カシウスさんと会ったことがありますよ。おヒゲの立派なおじさんですよね?」
「うーん、立派というか胡散臭いというか……。そう言えば博士はリフィアの事を知っているんだ?」
ティータから見たカシウスの印象をどう修正すべきか悩んだ後、博士が最初からリフィアを知っている風に話していたのが気になり尋ねた。

「うむ、”百日戦役”後同盟条件の一つ、”導力技術の提供”を果たすためにわしが代表として何人かの技術者たちを連れて大使館に行った際、会ったきりだからリフィア姫殿下とは9年ぶりといったところかの?」
「そうだな。まさか再会していいきなり手伝わされるとは余も驚いたがな。」
「わはは、それはすまなかったです。ふむ、それにしても9年も経っているのに殿下は特に成長しているように見えませんが、闇夜の眷属とは成長の仕方も我々人間とは違うのですかな?」
博士は以前見た事があるリフィアが全く成長していない様子に首を傾げた。
「ふえっ!?リフィアさんってわたしやミントちゃん、ツーヤちゃんよりちょっと上くらいかなと思いました!」
「成長の事を申すでない!余も一応気にしているのだからな!それとティータといったな?余はこれでも30代だ!だから余は断じて子供ではないぞ!」
「ふ、ふええええっ!?」
リフィアの注意にティータは驚いた後、プリネやエヴリーヌを見た。
「あのあの、もしかしてそちらのお二人は見た目以上にもっと年をとっているんですか?」
「あはは……私は見た目通り18歳ですよ。」
「エヴリーヌは数えた事ないからわかんない。」
ティータの疑問にプリネは苦笑しながら答え、エヴリーヌは興味なさげに答えた。
「えっと、ティータちゃん。」
「ふえっ?どうしたの、ミントちゃん。」
言いずらそうにしているミントにティータは首を傾げた。
「えっとね、ミントやツーヤちゃんも実はティータちゃんよりお姉さんなんだ。」
「あたしやミントちゃんはこう見えてもエステルさんやヨシュアさんと同い年なの。」
「ふえっ!?そうなんだ……あの、じゃあ年上扱いしなくちゃダメなんだよね……2人とは友達になれると思ったんだけどな……」
ティータはミントやツーヤが同い年ではないと知るとガッカリした。
「ううん!それは大丈夫だよ!ミントやツーヤちゃんはティータちゃんの事、友達だと思っているし。」
「だからあたし達とは気軽に接してくれていいよ。」
「えへへ……うん!」
「うんうん、ミント達に早速友達ができてあたしも嬉しいわ。……でもリフィアや父さんの知り合いならアレを預けてもよさそうね。」
ミントとツーヤ、ティータの掛け合いに和んだ後、エステルはヨシュアに確認した。
「そうだね、問題ないと思うよ。」
「???」
「なんじゃ、何かあるのか?そういえば、お前さんたち、わしに相談があるそうじゃな?」
エステルとヨシュアの会話の意味がわからなかったティータは首を傾げ、2人の会話の内容が気になった博士はエステル達が自分を尋ねてきた理由を聞いた。
「うん、実はね……」
そしてエステル達はこれまでの経緯を説明した後、黒いオーブメントを取り出して机の上に置いた。

「……ほう」
「わあ……真っ黒いオーブメント……」
博士とティータは見た事もないオーブメントを見て声を上げた。
「ふむ、これは興味深いのう。形式番号(キャリバー)がないのもそうだが、継ぎ目のたぐいが見当たらん。しかもこのフレームは……」
オーブメントを手に取ってすみずみまで見た後、博士は腰のベルトから工作用のカッターを取り出した。そしてそのままオーブメントの表面にカッターの刃を強く押し当てた。
「な、なにをしてんの?」
「特殊合金製のカッター……」
博士がした事がわからないエステルは首を傾げ、博士の持っている物に気付いたヨシュアは博士が持っている物の正体を呟いた。
「………………………………。……やはりか…………。ほれ、見てみるがいい。」
博士に促されたエステル達は黒いオーブメントを見た。
「あれっ?」
「キズ1つ付いてない。」
「普通の金属でしたら刃物を当てれば、傷がつくのですが………」
「………………………………どうやら、このフレームはわしが知っているどんな金属よりも硬い素材でできているようじゃ。リフィア姫殿下。そちらの世界で思い当たる金属はありますか?」
エステルやヨシュア、プリネはオーブメントにキズが付いていない事に首を傾げ、博士は異世界出身のリフィア達なら心当たりがあるかと思って尋ねた。
「確かにこちらの世界にはない頑丈な金属はある。コルシノ、パール、アルプネア、セトン、ミスリル、レイシアパール、ラミアス石、リエン石、金剛石……だが、このオーブメントに使われている金属はどの金属にも値しないな。」
「ふむ、そうですか………切断して中を調べるのはかなり難しいかもしれんな。」
「そ、そんなにとんでもない代物なんだ……」
「切断するのが難しいとなると困ったことになりましたね……」
博士の答えにエステルは驚き、ヨシュアはどうすればいいか考え込んだ。
「ま、フレームの切断は時間をかければ出来るじゃろ。しかしその前に、測定装置にかけてみるべきかもしれんな。」
「ソクテイ装置?」
「「???」」
エステルは言われた言葉が理解できずポカンとし、ミントやツーヤも全くわからない様子で首を傾げた。それを見てティータが説明した。
「さっきの実験で使用したあの大きな装置の事です。導力波の動きをリアルタイムに測定するための装置なんですよ。」
「よ、よくわかんないんだけど、その装置を使えばこれの正体がわかるのよね?」
言われたことを全く理解できないエステルは考え、答えを聞いた。
「まあ、重要な手掛かりは得られる可能性があるな。」
「エステル、博士達に任せてみよう。何かわかるかもしれないし。」
「そうね、ヨシュア。じゃあ博士、お願いします。」
「うむ、それじゃあ早速……」
博士は意気揚々と工房に行こうと立ちあがりかけたが、ティータに呼び止められた。

「でも、おじいちゃん。そろそろゴハンの時間だよ?」
「えー。」
博士は調べる時間が延びたことに思わず文句の声を出した。
「えーじゃないよおじいちゃん。あ、エステルさん達もよかったら、食べていって下さい。あんまり自信はないんですけど……」
「あ、それじゃあ遠慮なく♪」
「よかったら僕達も手伝うよ。」
「人数も多いでしょうから大変でしょうし、私達も手伝います。」
「ミントも手伝うよ!」
「あたしもいっしょに手伝うよ、ティータちゃん。」
「ふむ。皆が手伝って余達だけ何も手伝わないという訳にもいかぬな。余やエヴリーヌも手伝おう。いいな、エヴリーヌ?」
「仕方ないね……プリネのお姉ちゃんとして見本を見せて上げる。」
「ありがとうございます、みなさん。」
ティータに晩御飯を進められエステル達は快く受け、手伝いを申し出た。
「よし、それじゃあこうしよう。食事の支度が済むまでわしの方はちょっとだけ……」
「だ、だめー。わたしだって見たいもん。抜け駆けはなしなんだから。」
「ケチ。」
博士はそう言ってこっそり工房に行こうとしたがティータに見咎められた。それを見てエステル達は囁き合った。
(なんていうか、この2人……)
(血は争えないってやつだね。)
(やれやれ……この祖父にしてこの孫ありといったところか……)
(……プリネがペテレーネ似でよかった。リフィアや博士みたいな人になったら手がつけられないもの。)
(あ、あはは……)
(わあ……ティータちゃん、お祖父ちゃんとそっくりで羨ましいな!ミントはママとそっくりなところがあるかな?)
(それは大丈夫だと思うよ。ミントちゃんもエステルさんも明るい性格だもの。)
(えへへ……ありがとう、ツーヤちゃん!)

そして夕食が済みついに実験の時が来た………


後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第96話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/09/12 08:38
~ラッセル家・夜~

「コホン……腹も膨れたことじゃし早速始めるとしよう。エステル、例のオーブメントを台の上へ。」
「う、うん……」
博士の言葉でエステルは緊張した顔で黒いオーブメントを測定器の台の上に置いた。
「これでいいの?」
「うむ。ティータや。そちらの用意はどうじゃ?」
博士はオーブメントを確認しティータに用意の状態を聞いた。
「うん、バッチリだよ。」
「よろしい。それでは『黒の導力器』の導力測定波実験を始める。」
「『黒の導力器(オーブメント)』?」
「なんか、まんまなネーミングねぇ。」
「全くだ。もう少しいい名はなかったのか?」
博士が勝手につけた名前にエステルやリフィアは呆れた。
「シンプル・イズ・ベストじゃ。とりあえず名前がないのは不便じゃからの。」
「ドキドキ、ワクワク……」
ティータは期待の目で実験を待っていた。
「あーティータったら凄いやる気の目ね。」
「ティータちゃん、凄く輝いているよ。」
「うん。ティータちゃん、凄い楽しそう。」
「あ……てへへ。」
エステルやミント、ツーヤに言われたティータは恥ずかしがった。
「よし、それでは始めるぞ。ティータ。装置の起動を頼む。」
「うんっ!」
ティータが装置の起動を始め、博士も操作をし始めた。

「出力を45%に固定……。各種測定器のスタンバイ開始。」
「了解……………………………………。うんっ。各種測定器、準備完了だよ。」
「さーて、ここからが本番じゃ。入出力が見当たらない以上、中の結晶回路に導力波をぶつけて反応を探るしかないわけじゃが……。そこで、この測定装置の真価が発揮されるというわけじゃ!」
博士は楽しそうに言った。
「ノ、ノリノリねぇ……」
「ええ、ああいう所を見ると興味がある時のリフィアお姉様そっくりですね。」
「おー、さすがプリネ。わかっているね。」
「むう……」
博士の様子にエステルは苦笑し、プリネやエヴリーヌの言葉に心当たりのあるリフィアは言い返せず唸った。そして実験が始まり順調に進み始めた。
「よしよし、順調じゃ。ティータや、測定器の反応はどうじゃ?」
順調に進んでいると感じた博士はティータに測定器の様子を聞いた。だが、ティータは表情の曇った顔で答えた。
「う、うん……なんだかヘンかも……」
「なぬ?」
「メーターの針がぶるぶる震えちゃって……あっ、ぐるぐる回り始めたよ!」
ティータは慌てた様子で伝えた。
「なんじゃと!?」博士は予想外の答えに声を上げた。
そしてその時オーブメントが黒く光り始めた。
「な、なんじゃ!?」
「きゃあ!」
黒い光に博士やティータは驚いた。
「ヨシュア、これ……!?」
「あの時の黒い光……!」
見覚えのある光にエステルはヨシュアに確認した。
「ほう、これが例の黒い光か……」
「魔力じゃないなにか変な力が感じるね。」
リフィアは初めて見る黒い光を珍しがり、エヴリーヌは光から感じられる力の正体に首を傾げた。
「ご主人様……」
「ママ……」
「大丈夫よ、ツーヤ。」
「そうよ、ミント。一度この光が出たけど特にあたし達を傷つけたりしなかったわ。」
謎の光にツーヤはミントは不安がってプリネやエステルの背中に隠れたが、プリネやエステルは優しく諭した。

そして黒い光はどんどん広がった。
「なんじゃと!?」
そして外の照明や家の光等導力器が次々と導力をなくし始め、市内は真っ暗になった。その様子に気付いたエステル達は実験をしている博士やティータをその場に残して市内を手分けして街中を見たがなんと街全体の導力器が止まり、街中がパニックになっていた。
「お、おじいちゃん、これ以上はダメだよぉ!測定装置を止めなくっちゃ!」
「ええい、止めてくれるな!あと少しで何かが掴めそう……」
あたりの様子に気付いて測定を止めようとしているティータを振り切って博士が測定を続けようとしたところ、エステルとミントが戻って来た。
「ちょっとちょっと!町中の照明が消えてるわよ?」
「みんな、灯りが消えて凄く騒いでいたよ!?」
「ふえっ!?」
「なんと……。ええい、仕方ない!これにて実験終了じゃああっ!」
エステルとミントの言葉にティータは驚き、博士は悔しそうな表情で測定装置を止めた。すると消えていた照明がついた。
「あ……。も、元に戻った……」
「よかった~……」
「はうううう~……」
「計器の方は……。ダメじゃ、何も記録しておらん。ということは、生きていたのは『黒の導力器』が乗った本体のみ。あとは根こそぎということか……」
照明がついたのを見て、エステル達は安堵の溜息をつき、博士は測定装置の結果を見て唸った。
「よかった……。実験を中止したみたいだね。」
「あ、ヨシュア!外の様子はどうなの?」
「うん……。照明は元通りになったみたいだ。まだ騒ぎは収まっていないけどね。今、リフィア達に手分けして騒ぎを収めてもらっているところだよ。」
「そっか……。すぐにあたし達も行かなきゃね。でも、一体全体、何が起こっちゃったってわけ?」
エステルは『黒の導力器』が起こした出来事に首を傾げた。エステルの疑問に博士は少しの間考えた後、答えを言った。

「そうじゃな……。あえて表現するなら『導力停止現象』と言うべきか。」
「『導力停止現象』……」
「オーブメント内を走る導力が働かなくなったということですね。」
「え!それってオーブメントが使えないって事だよね?それは大変だよ!みんな、生活ができなくなっちゃうよ!」
「そうね、やっぱり、その『黒の導力器』が原因なのかな……?」
博士の説明を理解したヨシュアは確認し、ミントは驚き、エステルは頷いた後導力が停止した原因の『黒の導力器』を見た。
「うむ、間違いあるまい。しかし、これほど広範囲のオーブメントを停止させるとは。むむむむむむむむむ……こいつは予想以上の代物じゃぞ。面白い、すこぶる面白いわい!」
「お、面白がってる場合じゃないと思うんですけど~……」
『黒の導力器』の効果範囲を知って、目を輝かせている博士にエステルは白い目で見た。その時、誰かが部屋に入って来た。
「ハ~カ~セ~ッ!!」
怒りを隠し切れていない声を出しながら、部屋に入って来た人物――マードックは博士に近付いた。
「おお、マードック。いいところに来たじゃないか。」
「いいところ、じゃありません!毎回毎回、新発明のたびにとんでもない騒ぎを起こして!町中の照明を消すなんて今度は何をやったんですかッ!?」
「失敬な。今回はわしは無関係じゃぞ。そこに置いてある『黒の導力器』の仕業じゃ。」
怒り心頭に見えるマードックの言葉に博士は心外そうな表情で答えた後、『黒の導力器』を指し示した。
「そ、それは例の……。なるほど、それが原因ならこの異常事態もうなずける……………だ、だからといってアンタが無関係ということがあるかあっ!」
「ちっ、バレたか……」
博士の説明に誤魔化されそうになったマードックは少しの間考えた後、結局博士が関与している事に気付いて叫び、博士は誤魔化せなかった事に舌打ちをした。
「な、なんかやたらと息が合ってるわね~。」
「喧嘩しているように見えるけど、仲良くしているようにも見えるよね?」
「いつもこんな感じなんだ?」
博士とマードックの掛け合いにエステル達は苦笑した後ティータに確認した。
「あう、恥ずかしながら……」
ティータは照れながら答えた。

その後エステル達は騒動を収めているリフィア達の所に戻ってそれぞれ手分けして騒動を収め、全て鎮まった時には夜の遅い時間になりエステル達はラッセル家に泊めてもらうことになった………



後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第97話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/09/13 10:47
碧の軌跡のロングプレイムービーはついに解禁されましたね!それを見て、思いましたが……BGMが前作よりさらにカッコよくなりましたね!まさか、通常戦闘であんな曲とは……アリオスは零でもあったあの技が使えて最高です♪それにさすがはS級に届くともい言われるブレイサー……クラフトの性能も凄いですし、何よりSクラフトがカッコよすぎです!!








ツァイス市中の導力停止現象から一夜明け、博士は改めて黒のオーブメントを調べていたが温泉で有名なエルモ旅館から温泉を汲み上げる導力ポンプが故障し、女将が博士に直しに来てほしいと依頼したのだがオーブメントを調べている博士は忙しく、代わりにティータが行くことになりその護衛にエステル達がつくことになり8人はエルモ村へ足を向けた。
その後旅館である紅葉亭に向かったエステル達はポンプ小屋の鍵をもらい、行ったのだが現場を見て動き出したティータを見て自分達はいても邪魔だと思いその場をティータに任せて一端紅葉亭に戻ったのだが、観光客が一人で街道に出たという知らせを聞き、そんなに人数はいらないので今まで仕事を手伝ってくれているリフィア達には観光を楽しんでもらい、エステル、ヨシュア、ミントの3人は急いで観光客の保護に向かっていた。

~トラッド平原~

「まさか護衛もつけずに街道に出る人がいるとはね……会ったら注意してやるわ!」
「ママの言う通りだよ!ミントだって先生から『決して一人で街道を歩いてはダメよ」って言われてちゃんと守っているのに、ミントより大人な人がどうしてそんな事をするのかな?」
「まあまあ、エステル、ミント。そういう人も中にはいるよ。」
憤っているエステルとミントをヨシュアが宥めていた。
「ふえ~ん、やだやだ、助けて~」
街道の外れを探していたエステル達は助けを求める声を聞いた。
「今のは……」
「うん、近いね。」
「どうやらまだ魔獣んい襲われていないようだね、ママ。」
声に気付いた3人は声の発生源に近づこうとした時同じ声がまた聞こえてきた。
「エイドス様~!お父さん、お母さん~!ナイアルせんぱ~い、助けて下さいよ~!」
「こ、これって……」
「想像通りだと思けど……とにかく、急ごう!」
「??(ママとヨシュアさんが知っている人なのかな?)」
声に聞き覚えがあったエステルとヨシュアは苦い顔をし、唯一わからないミントはエステル達の様子に首を傾げながら求めている声の元に向かった。

そこには関所を襲った狼の魔獣に囲まれた女性――ドロシーがいた。
「ワ、ワンちゃんたち……。とりあえず話し合いましょ~?わたしなんか食べたって美味しくないと思うのですよ~。毎日12時間以上寝てお野菜もしっかり食べてるからお肌もツルツルだしぃ……。……って、なにげにヘルシーで美味しそう!?」
「「「「グルルルル……」」」」
ドロシーの意味不明な命乞いと自爆を理解しない魔獣達はドロシーに近寄った。
「ひぃ~ん、こんな事なら給料前借して、おいしい物いっぱい食べておくんだった~」
「オン!」
「きゃあ!」
ドロシーの後悔も聞かず魔獣達の一匹が襲いかかった。
「せいっ!」
「ハッ!」
「燃えちゃえ~っ!ファイアシュート!」
その時エステル達が飛び込んで襲いかかろうとした魔獣の一匹にエステルやヨシュアが致命傷を与えて、ミントは魔術で止めを刺した。
「ハッ……あ、あなたたちは~!」
ドロシーはエステル達を見て驚いた。
「ふう……やっぱり思った通りね。」
「ドロシーさん、もう心配ありませんよ。」
「眼鏡のお姉さん、下がってて!ミント達が魔獣をやっつけるから!」
エステル達はドロシーを庇うように、ドロシーの前に出たが
「………どちらさま、でしたっけ?」
「ガクッ……」
「ほえっ?」
「遊撃士協会のエステルとヨシュアです。」
ドロシーの言葉にエステルとヨシュアは脱力し、ミントは首を傾げた。
「うふふ、冗談だってばぁ。エステルちゃん、ヨシュア君。こんな所で会うなんて奇遇ねぇ。そっちの女の子とは初めてだよね?リベール通信のドロシーだよ~。よろしくね~。」
「え、えっと……ミントだよ。よろしく………でいいのかな?」
緊急事態にも関わらず自己紹介をするドロシーにミントは戸惑いながら答えた。
「は、激しくやる気が……ミントもわざわざ、ドロシーに合わせて答えなくていいから。」
「エステル、ミント、来るよ!」
ヨシュアの警告の声と同時に魔獣が飛び掛ってきたのを見て、エステルとミントは気を引き締めて魔獣達と戦い始めた!

「行くよ……せいっ!はっ!」
「ギャン!?」
戦闘開始早々、身のこなしが速いヨシュアは先制攻撃代わりにクラフト――双連撃で一匹の魔獣にダメージを与えてのけ反らせたところを
「やぁっ!えいっ!」
ミントがすかさずクラフト――アッパーファングで止めを刺した。
「オン!」
クラフトによって自分も飛び上がったため着地した瞬間隙があり、その隙を魔獣がミントの背中を狙って襲ったが
「とりゃっ!」
「ギャン!?」
ミントを守るかのようにエステルがミントの背中を守り、棒で襲って来た魔獣を吹き飛ばした。
「貫いちゃえ!……アイスニードル!」
「はっ、せいっ!」
吹き飛ばした魔獣にミントが目標の足元から氷を出す魔術で串刺しにしたところをヨシュアが急所をつくクラフト――朧で魔獣の息の根を止めた。
「大丈夫!?ミント!」
「うん!ありがとう、ママ!」
「2人とも油断はしないで!……出でよ、竜巻!エアリアル!!」
戦闘中お互いの無事を確認し合っているエステルとミントに警告したヨシュアはアーツを発動させて、残りの魔獣達を一気に攻撃した。
「降り注げ、炎の槍!………スパイラルフレア!!」
「当ったれ~……!ストーンフォール!」
さらにエステルがアーツを、ミントが魔術を使って、ヨシュアのアーツによって傷ついた魔獣達に止めを刺した。そして、残りは唯一アーツの攻撃範囲外にいて無事だった魔獣が唸りながらエステル達を警戒した。
「グルルルル……」
「せいっ!」
「そこだっ……絶影!」
「ギャン!?」
警戒している残りの魔獣にエステルが衝撃波を放つクラフト――捻糸棍でダメージを与え、ヨシュアが一瞬で魔獣の横を駆け抜けて致命傷を与えた。そしてミントが止めにSクラフトを放った!
「ミントのとっておき、見せて上げる!ソードファング!!」
ミントは何度も駆け抜けて魔獣を攻撃し、駆け抜けるスピードはじょじょに速まり、スピードが上がると同時に攻撃の勢いも増して威力が高くなった。そしてミントのSクラフトが終わった時、魔獣は消滅した。
「わーい、勝った!」
最後の魔獣に止めを刺したミントは勝利のセリフを言った。

「はあ……。なんとか追っ払えたわね。」
「うん。みんな怪我がなくてよかったね。」
戦闘が終わり、エステルやミントは安堵の溜息をついた。そこにヨシュアがエステルに話しかけた。
「エステル……気付いたかい?」
「うん……。峠の関所を襲った魔獣ね。どうしてこんな所まで……」
「ねえ、ママ。何のお話?」
「ちょっとね……前にもこの魔獣と会った事があるのよ。」
「ふーん、そうなんだ?」
「わ~、スゴイスゴイ。さっすが遊撃士だねぇ。しばらくぶりねぇ。エステルちゃん、ヨシュア君。まさか、こんなところで会えるとは思わなかったよ~。はっ、これってもしかして運命の出会いっていうやつ!?」
倒した魔獣について話し合っているエステル達のところに後ろで戦いを見ていたドロシーがエステル達に近付いた。
「なんの運命よ、なんの……」
ドロシーの言葉にエステルは脱力した。
「それにしても、エステルちゃんとヨシュア君ったらいつの間にこんな大きな子供が出来たの?」
「なっ……!違うわよ!」
脱力していたエステルだったがドロシーのとんでもない言葉に驚いて、強く否定した。
「どうして?ミントちゃんったら、エステルちゃんの事、”ママ”って言ってるじゃない。」
「ミントはえ~と……そう!養子みたいなものよ!だからそんなとんでもない勘違いはやめてよね!?」
「ふ~ん、そうなんだ?」
エステルの言葉にドロシーはまだ納得がいかない表情で頷いた。

「ハハ……ところで、ドロシーさん。エルモの旅館に泊まっているお客さんって、あなたですか?」
エステルとドロシーの会話に苦笑したヨシュアはドロシーに確認した。
「そうだけど……。あれ~、なんで知ってるの?」
首を傾げているドロシーにエステル達はエルモの旅館の女将に宿泊客の保護を依頼されたことを説明した。
「あ、そうなんだ~。それは大変だったねぇ。」
「な~に他人事みたいに言ってんのよ。で、こんな街道の外れでいったい何をしていたわけ?」
呑気に答えるドロシーに呆れたエステルは何故一人で街道の外れにいたかを尋ねた。
「ちっちっち……。そんなことも分からないの~?くすくす、エステルちゃんもまだまだ洞察力が足りないなぁ。」
「あ、あんですって~!?」
ドロシーにからかわれたエステルは怒って声を上げた。
「正解は、今度の特集に使えそうな写真のネタを捜してた、でした~。あ、ちなみにナイアル先輩にやれって言われた宿題なんだけどね。」
「なるほど、仕事だったんですか。」
「だからって、こんな場所でネタ探しをしなくても……。ああもう、なんか戦い以外で激しく疲れたような気がする……」
ドロシーの答えにヨシュアは納得し、エステルは脱力した。
「大丈夫~、エステルちゃん?痛いの痛いの、とんでけー。」
「疲れさせた張本人がなにを抜かしとるかああっ!」
(エステルにここまで突っ込まれる人も珍しいな……)
「ママ、怖い……」
脱力させた張本人であるドロシーの言葉にエステルは怒り、その様子を見たミントは怖がった。
「あ!ごめんね、ミント。怖がらせちゃって……」
ミントの様子に気付いたエステルは慌てて、怖がっているミントをあやすようにミントを抱き上げて笑顔で頭を撫でた。
「えへへ………大好きだよ、ママ!」
エステルに抱きあげられ、撫でられて機嫌がよくなったミントは笑顔で言った。
「あ~もう!本当にミントったら、可愛いくて癒されるわ~!」
「えへへ、くすぐったいよ~ママ。」
ミントの笑顔に癒されたエステルはミントの頬と自分の頬をスリスリした。
「ねえ、エステル。とりあえずエルモに戻らない?そろそろポンプ修理も終わっているかもしれないし。」
一通りの出来事を見守ったヨシュアが声をかけた。
「そうね。そういうわけで……ドロシーも一緒に戻るわよ。」
ヨシュアの言葉に頷いたエステルはミントを降ろして、ドロシーに言った。
「え~、まだ写真撮りたいのに~。」
「戻・る・わ・よ。」
「エステルちゃん、コワイ……」
エステルの言葉に渋ったドロシーだったが、迫力のあるエステルの笑顔に気圧されて頷いた。そしてエステル達はドロシーを連れてエルモ村に戻った……



後書き みなさんお待ちかね?のお風呂シーンはもう少しだけ、お預けです。次回はプリネ側の話になります。……感想お待ちしております。



[25124] 第98話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/09/14 09:50
一方エルモ村を観光をしていたプリネは誰かに呼ばれるような声を感じ、村を一緒に廻っていたツーヤと共に気配を追って街道に出た。

~トラッド平原~

「ご主人様、本当にこちらでいいんですか?」
「ええ。急ぎましょう。なんとなくなんだけど、声の主は切羽詰まっているようだったから。」
2人がしばらく歩くとそこには魔獣の群れが何かを囲んでいた。
「ご主人様、あそこ……!」
「ええ、もしかしたらあそこに助けを求める声の主がいるかもしれません。まず、魔獣を退治しますよ!」
「はい!」
プリネとツーヤはそれぞれ武器を手に魔獣の群れに奇襲をした!

プリネ達が来る前、街道の外れでパズモとは違った妖精が窮地に陥っていた。
「くっ……精霊王女であるこの私(わたくし)が……!」
その妖精はパズモと違い、身体の大きさはミントやツーヤの半分くらいはあるが小さな身体に反して胸は大きく、どこか高貴な雰囲気を纏わせて両手に自分の身体並に大きい槍を支えに跪いて、自分を囲む魔獣を睨んでいた。その妖精はパズモと違って豊富な魔力を持っていたので異世界でも平気に活動していたのだが、魔力の供給が出来なくついにその時が来て弱っているところを魔獣が見つけてしまったのだ。妖精は最初は抵抗して難なく倒していたが、弱っている身体は長持ちしなかったので、ついに戦闘が出来なくなり無意識に念話で助けを呼んだのだ。
「メェ~!」
「くっ、魔獣ごときが汚い手でこの私に触れるな!粒子弾!!」
「メェ!?」
襲って来た魔獣に精霊は片手から雷が籠った魔力弾を放ち、消滅させた。
「くっ、力が……!ウィル、私の初めてをあげたのですから助けに来なさい!(フフ、そんな事を言っても無駄なのに……お願い……!誰でもいいから私を助けなさい!)」
その妖精は妖精の中でも王族に値する種族でプライドが高く人間には興味はなかったが、自分の領域に入って来て自分を負かし、人間に興味がなかった妖精自身が唯一興味を持ち、身体を許したある人物の名前をつい口に出し、異世界にいる人物がこんな所に来るはずがないとすぐに気付き、諦めた後念話で助けを求めた後弱っていた体に鞭をうつかのように飛び上がり、襲ってくる魔獣を槍で撃破していた。
「貫け!」
妖精が槍を震うと襲って来た魔獣がまた一匹消滅した。妖精の強さに魔獣達は本能ですぐに襲いかかる訳にはいかぬと警戒し、その場は硬直していた。その時、警戒していた魔獣の群れが乱れた。
「そこっ!」
「たぁっ!」
「!?」
魔獣の群れにレイピアと刀で奇襲して倒したプリネとツーヤは妖精を見つけて、妖精を守るように自分の背後に妖精を庇った。妖精は突如現れた救援者に驚いた。
「あなたが助けを求めた声の主ですか?」
「え、ええ……貴女達は?」
プリネに尋ねられた妖精は戸惑いながら頷いて、プリネ達の正体を尋ねた。
「それは後で話します!貴女は自分の身を守る事だけに専念して下さい!」
「……わかりましたわ。」
「来ます……!」
ツーヤの警告の言葉と同時に魔獣達はプリネ達に襲いかかった!

「はぁぁぁぁ………ラファガブリザード!!」
襲いかかって来た魔獣達はツーヤを中心とした吹雪によって吹き飛ばされ、吹雪によって氷漬けになる魔獣もいた。
「闇よ!我が仇名す者達に絶望を!……黒の闇界!!」
そこにプリネの魔術が命中し、魔獣達は全滅した。しかしそこに一際大きなミミズのような魔獣が現れた。
「これは……!」
「この魔獣はギルドの掲示板にあった手配魔獣……!」
「(手配魔獣……魔獣の中でも手強く遊撃士の人も手こずる魔獣……)ご主人様、あたしに任せてもらえませんか?」
「ツーヤ!?何を言っているの!手配魔獣は普通の魔獣と違うのですよ!?」
ツーヤの言葉にプリネは驚いて声を出した。
「はい、わかっています。」
「だったらなぜ、そんな事を言うの!?貴女一人で倒すのはかなり難しいわよ!」
「自分一人の力を試してみたいんです。……ご主人様は大陸最強と言われるメンフィルの皇女様です。あたしはそんな凄いご主人様と肩を並べて戦いたいんです!護られてばかりは嫌なんです!」
「ツーヤ………わかったわ。でも、不味いと思ったら手は出させてもらうからね?」
「はい。」
ツーヤの決意にプリネは驚いた後、ツーヤの意思を尊重し、一端弱っている妖精と共に後方に下がった。

「……!」
襲って来た手配魔獣を見て、ツーヤは顔を引き締めて刀で防御した後、クラフトを放った。
「たぁっ!やぁっ!」
クラフト――飛翔剣舞によって2回斬られた魔獣はのけ反った後、自分の身体を揺らして小規模な地震を起こした。
「キャッ!?」
地震によって足元から土が盛り上がり、それによって傷ついたツーヤは悲鳴をあげた。
「ツーヤ!」
「大丈夫です!水よ、癒しの力を……ヒールウォーター!!」
プリネの心配する声に自分は無事である事を答えたツーヤは魔術で自分の傷を治した。
(傷つければ地震を起こして、反撃をする……か。だったら一気に決める!)
魔獣の攻撃を分析したツーヤは刀を構えながらジリジリと魔獣の周りを歩いて、睨みあっていた。そして睨みあいに耐えきれなかった魔獣は尻尾らしき所から稲妻のような光を放った。
「(……今!)ハァッ!」
素早く魔獣の懐に入って魔獣の攻撃を回避したツーヤは刀を片手に持ち、もう一方の籠手のしている手で魔獣の腹の部分らしき場所を攻撃した。
「!?」
クラフト――延髄砕きを受けた魔獣は腹に入った一撃のせいで身体が痺れた。さらにツーヤは片手に持っていた刀を両手に持ち、闘気を込めたクラフトを放った。
「斬!」
闘気が籠った斬撃のクラフト――十六夜”斬”を受けた魔獣は尻尾の部分と身体が分かれた。さらにツーヤは一気に勝負を決めるために一端後退して片手を空へ掲げて叫んだ。
「決めます……!凍れ!」
ツーヤが片手を空へ掲げると、魔獣の周りに吹雪が吹き荒れ、吹雪によってできた氷が魔獣を氷の中に閉じ込めた。そしてツーヤは刀で氷の中に閉じ込めている魔獣を氷ごと砕くように激しい攻撃を行った!
「ハァァァァァァッ……!ダイヤモンド……バーグ!!」
氷の中に閉じ込められていた魔獣はツーヤの滅多斬りによって消滅した。
「勝てました……!」
魔獣の消滅を見て、ツーヤは刀を鞘に収めて自分一人で勝てた嬉しさをかみしめた。

「終わったようね。」
「ご主人様。」
戦闘が終わり、近付いて来たプリネにツーヤは嬉しそうな顔で駆け寄った。
「もう……無茶はしないといったのに、いきなりこんな事をするなんて……」
「ごめんなさい……でも、あたし……」
呆れているように聞こえたプリネの声にツーヤは気不味そうな表情で口ごもった。
「フゥ……まあいいわ。私にもあなたの気持がわかるし、今回は多めに見てあげましょう。」
「ありがとうございます。」
「でも、もうさっきみたいな無茶は許しませんからね?」
「はい。」
プリネに許してもらえたツーヤはホッとした後、プリネの注意に頷いた。
「ハァ……ハァ……私を狙う無礼者達を成敗した事は感謝します、闇夜の眷属達よ。」
そこに息絶え絶えな妖精がフラフラと飛んできて、プリネ達の前に来た。
「あの……顔色が悪いようですが、やはり魔力が?」
「……ええ。今は……こうやって飛んでいるだけが……精一杯なのですわ……!」
プリネの言葉に妖精は顔色を悪くしながら悔しそうな表情で答えた。
「待ってて下さい。今、魔力を分けます。」
そしてプリネは自分の魔力を妖精に分け与えた。魔力が回復した妖精は顔色がよくなり、プリネにお礼を言った。
「………まさかこの私が闇夜の眷属から施しを受けるとは思わなかったわ……礼を言っておきますわ。私はフィニリィ。精霊の中でも王族に値するこの私が感謝しているのです。光栄に思いなさい。」
魔力が回復して元気が戻った妖精――フィニリィは高貴な雰囲気を纏わせて、プリネ達にお礼を言った。
「私はプリネ。プリネ・マーシルンと申します。この子はツーヤ。竜の子供です。」
「……初めまして。」
ツーヤは妖精であるフィニリィを興味深そうな目で見つつ、お辞儀をした。
「……マーシルンですって?どうして闇夜の眷属の皇族がこんなところにいるのよ?」
プリネのフルネームを聞いたフィニリィは驚いた後、尋ねた。

「実は………」
そしてプリネはフィニリィに事情を説明した。
「フーン……ウィルみたいな奇特な人間がこっちの世界にもいるのですね……」
「あの……今、ウィルとおっしゃいましたが、もしかしてウィルフレド・ディオンという方の事ですか?」
「ええ。あら、貴女もウィルと知り合いなの?」
「いえ、姉が以前ユイドラに滞在した事があって、その時お世話になったのがウィルフレド様だったので、その時の事を話してくれたんです。貴女はウィルフレド様の仲間なのですか?」
「……まあそんなところですわ。」
「それにしてもわざわざユイドラからどうしてここに?」
プリネはユイドラに住んでるであろうフィニリィがどうして異世界にいるかわからず、尋ねた。
「……最近ユイドラのユマ湖という場所に変なひずみを感じたましたの。精霊王女である私がそれを見に行ったのですが、そのひずみは異界に繋がっている事がわかりました。それで私はユイドラに住む人間や生物達がそれに入らないように、ひずみに入ってそのひずみが出ている元であるこの世界から封印しましたの。それとユマ湖に住む水精や土精達から湖を守っていた幻獣がひずみが出来た際、その中に入ってしまったと聞きましてね……探す義理はないのですが、元の世界に帰るついでにその幻獣を探して世界中を廻っていたのですわ。」
「なるほど……それで探し人は見つかったのですか?」
「いいえ。ま、精霊である私と違って異世界でも平気でいられる幻獣ですから、どこかで無事でいるでしょう。それに巨大な体をしていますからこちらで誰かに見つかれば噂になりますわ。その内見つかるでしょう。」
「そうですか……それで貴女はこれからどうするのですか?よければ、私が元の世界に帰れるよう手配をしますが。」
「そうですわね……」
プリネの提案にフィニリィはその場で考えた後、以外な事を申し出た。
「貴女、私と契約をする気はない?」
「え……それはありがたいのですが、いいのですか?」
フィニリィの申し出に驚いたプリネは再度確認した。
「ええ。助けて貰った恩を返さずに去るのは精霊の中でも王族種であるこの私の誇りが許しませんわ。それにユイドラに戻った所でする事もなく、無駄な時間を過ごしているだけですわ。それに貴女は皇女ですから、精霊王女であるこの私と釣り合ってちょうどいいでしょう。……というかこれは命令です。私と契約をしなさい。」
「は、はぁ……では……」
強引に契約を迫るフィニリィにプリネは戸惑いながら頷いた後、両手を出した。そしてフィニリィは槍を虚空に仕舞った後、小さな手でプリネの両手を握った後プリネの魔力に溶け込むようにその場から消えた。
「あの、ご主人様。さっきの妖精の方はどちらに?」
一連の流れを見たツーヤは消えたフィニリィの事を聞いた。
「フフ、今呼びますね……フィニリィ!」
プリネが呼ぶと、プリネの身体から光の玉が出て来て、やがてその中からフィニリィが現れた。
「これからよろしくお願いしますね、フィニリィ。」
「フフ、この私が力を貸す事、光栄に思いなさい。」
フィニリィは小さな身体ながらも豊かな胸を張って答えた。

こうしてプリネは新たな仲間、精霊王女フィニリィと契約した。そしてツーヤと共にエルモ村に戻った………




後書き と言う訳で最後の新クロスオーバーキャラは神採りの2週目で登場するキャラです!実はユイチリの双子にしようかなと思いましたが、テトリと被るし、いっきに2人も増えたら大変ですからフィニリィにしました。後、お気づきかと思いますがもう一人の新クロスオーバーキャラの存在を匂わせています。ちなみにエステルの残りの召喚キャラですが一人は決定してますが、もう一人増やそうかなと悩んでいます。ちなみにそのキャラは今後出てくるであろうエステルの新召喚キャラといちおう相容れない存在です。まあ、残りの属性や種族考えたらなんとなくわかると思いますが……感想お待ちしております。



[25124] 第99話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/09/15 08:48
無事ドロシーを紅葉亭に送り届けたエステル達は修理を終えたティータと合流し、時間も遅くなったので女将から泊まっていくことを提案されありがたく旅館に泊まることにした。女将に勧められ旅館に泊まることになったエステル達は部屋に荷物を置いた後、旅館名物の温泉に入っていた。

~エルモ村・紅葉亭・夜~

「はぁ~気持ちいい。温泉って初めてだけど予想以上ね。こりゃ、病みつきになっても仕方がないわ~。」
「えへへ……ミント、こんなに広いお風呂初めて!気持ちいいね、ティータちゃん!」
「えへへ、わたしもかなり病みつきなんです。小さな頃から、おじいちゃんに連れてきてもらってましたから。」
エステルの呟きやミントの喜びににティータは頷いた。そこにリフィア達が入って来た。
「わあ………」
「ほう、ウィルが作った温泉と比べれば狭いがこれはこれでいいな!」
「ねぇ、プリネ。なんでタオルを体に巻いてなきゃダメなの?邪魔なんだけど。」
「お姉様、基本的に女性は例え同性と入る時でも体を洗う時以外はあまり肌を晒してはいけないんですよ?……それにここには男女混浴の温泉もありますから……」
「……別にそんなの気にしないんだけど。ウィルと入った時も裸だったし。」
「え……ま、まさか、リフィアお姉様も……?」
ツーヤやリフィアは温泉の風景に目を輝かせ、タオルを邪魔そうにしているエヴリーヌにプリネが説明したが、エヴリーヌの言葉に固まった。
「ん。難しい杖を作ってくれたお礼にエヴリーヌといっしょにウィルの背中を流してあげたよ。なんか、ウィルは遠慮してたけど強引にやったよ?」
「………(お、お姉様達らしいといえばらしいですが……)……とにかく、エステルさんやティータちゃんを見ればわかると思いますが、温泉に入る時は必ず体にタオルを巻くものだと理解していて下さい。」
「ウィルから教えて貰った”かけ湯”みたいな決まり事みたいなものだね。わかった。」
そしてリフィア達は桶を使って湯を身体にかけた後、温泉につかった。
「気持ちいいです……」
「ええ……湯加減もちょうどいいし、本当に気持ちいいわね……」
温泉に入って気持ちよさそうにしているツーヤの呟きに頷くように、プリネも気持ちよさそうな表情で同意した。
「う”……(わかってはいたけど、プリネって腰が細い上、胸が大きいわね……下手したらシェラ姉以上かも……うう、たった2歳年上なだけなのにどうしてこんなに違うのかな?)」
「わあ……プリネさんって、スタイルがいいですね。」
プリネが温泉に入った時、湯につかった為タオルが体に張り付きよく見えるようになったプリネの体つきを見て、エステルは内心羨ましがり、ティータは感嘆の声をあげた。
「あ、あの……できれば、そんなによく見ないで欲しいのですが……」
エステルやティータに見られたプリネは恥ずかしそうな表情で両手で胸を隠した。
「そんな事言ったって、実際プリネって女性として完璧なスタイルだもん。同じ女性として普通、一体何をしたらそうなるか気になるわよ……」
「それは余も思ったな。余と同じ食事をしているのにどうしてそんなに魅力的な体に成長したのだ?」
「リフィアお姉様まで……私は特に何もしておりません。恐らくお母様の遺伝かと思います。それにリフィアお姉様も十分魅力的な体だと思うのですが……」
「そうか?余としてはもう少し背と胸があってほしいのだがな……」
プリネの答えにリフィアはあまり成長しない自分の体を見て、唸った。

「遺伝かあ……じゃああたしは、将来はお母さんみたいなスタイルかな?」
エステルは自分の将来の姿をレナと重ねて思い浮かべた。
「ねえねえ、ママ。」
「ん?どうしたの、ミント。」
「ミントもプリネさんみたいに胸が大きくなれるかな?」
「あはは……それは成長してからのお楽しみね。まあ、食事は好き嫌いなく食べて、規則正しい生活をしていたら大丈夫だと思うわ。」
「えへへ、そっか。ツーヤちゃんも大きくなれるといいね!」
「うん。あたしもご主人様みたいな女性を目指そうと思っているもの。」
「フフ……ありがとう、ツーヤ。」
自分が見本にされた事に照れながらプリネはツーヤにお礼を言った。
「そういえば、エステルさん。わたし、エステルさんに聞きたいことがあるんですけど。」
「聞きたいこと?なになに?何でも聞いていいわよ?」
ティータの疑問にエステルは答える姿勢に入った。
「えと、あの、その……。エステルさんとヨシュアさんって結婚して何年なのかなぁって。」
「…………………………………………」
しかし、ティータの疑問に驚き、笑顔の状態で固まった。
「ドキドキ……」
「ワクワク……」
「ジー………」
エステルが答えるのをティータやミントは目を輝かせて待ち、ツーヤは興味深そうな表情で待っていた。
「えっと、ゴメン。聞き間違っちゃったみたい。あたしとヨシュアが何だって?」
「あう、ですからぁ。結婚して何年になるのかな~って。」
「な、な、な……。なんでそうなるワケ!?」
固まっていたエステルだったが、ティータの疑問は何かの間違いだと思い、を聞き返すために尋ねたが返って来た答えに絶叫した。

「だ、だって名字が同じだし……。兄妹にしては似ていないからてっきりそうなのかな~って……それにミントちゃんがエステルさんの事、”ママ”って言ってますし。」
「に、似てないのは血がつながっていないからっ!みょ、名字が同じなのはヨシュアが父さんの養子だから!それにミントはあたしの養女みたいな感じだから、そう言ってるだけ!」
ヨシュアと結婚していると思った理由にエステルは即座にヨシュアと夫婦でない理由を答えた。
「あ、そーなんですか……。えへへ、ごめんなさい。ちょっと勘違いしちゃいました。」
「と、とんだ勘違いだわ……。そもそも、あたしもヨシュアもまだ16歳なんだから。結婚なんて全然先の話だし、ミントみたいな大きな子供がいる訳ないでしょ?」
ティータの勘違いにエステルは呆れながら答えた。
「そ、そーですよね。いくらお互いが好きでもそんなに早く結婚しませんよね。」
「エステル、ヨシュアとの結婚式を行う際は必ず余達を呼ぶのだぞ?その際は、余が最高の祝いの言葉を贈ろう。」
「ねえ、ママ。ヨシュアさんはいつ、ミントのパパになるの?」
「ガクッ……。だ、だからぁ!あたしとヨシュアは恋人でも何でもないの!ただの家族よ、家族!」
ティータやリフィア、ミントの言葉を聞いたエステルは再び絶叫した。
「そ、そーなんですか!?」
「そーなんですかって……。………………………………。ねえ、3人共。あたしとヨシュアってそーいう雰囲気に見える?」
「そーいう雰囲気って?」
エステルの疑問にティータは首を傾げて尋ねた。
「だ、だから……。こ、恋人同士みたいな雰囲気よ。らぶらぶとかあつあつとかいちゃいちゃとか、そういうの。」
ティータの疑問にエステルは照れながら答えた後、顔を背けた。
「あう……そーいう感じはしませんけど。でもでも、いつも一緒で自然な感じだし、お互いのことを分かり合ってるような感じだし……」
「ティータちゃんのいう通りだよ、ママ。ミント、ママとヨシュアさんはいっしょにいて当然みたいな雰囲気を感じたもの。」
「うむ。ずっと旅をして思っていたが、エステルの伴侶はヨシュアしかいないと余は思っているぞ?」
「いや、それはまあ、少しはそうかもしれないけど……。それって、家族とか親友でもありそうな雰囲気じゃない?だいたい、あたしとヨシュアってそんな雰囲気になったことすら……(な、何思い出してんのよ~!っていうか、あたし今まであんな恥ずかしいことを平気で……)」
3人が言った理由をエステルは誤魔化して否定しようとしたが、旅に出る前にしたロレントの時計台での約束やマノリア村で昼食をとっていた時の出来事等思い出した後、顔を真っ赤にして黙った。
(ご主人様、どうしてエステルさんの顔が急に赤くなったのでしょう?)
(フフ、どうしてでしょうね?(エステルさん、とうとうヨシュアさんの事を意識し始めましたね……))
エステルの様子を不思議に思い、ツーヤはプリネに尋ねたがプリネは顔を真っ赤にして俯いているエステルを微笑ましそうに見ながら誤魔化した。
「???エステルさん?お顔、まっかですけど……」
「あわわ……何でもない、何でもないから!いや~、それにしても温泉ってホントーに効くよね!?血の巡りが良くなりすぎて頭がクラクラするっていうかっ!」
「は、はあ……」
勝手に慌てているエステルの様子にティータは首を傾げながら頷いた。
「そ、そういえば露天風呂があったんだっけ?のぼせてきちゃったし、あたしちょっと行ってくるね!」
「あ、ママ!ミントもいっしょに行く!」
「あ、はい……あ、そーいえば。エステルさん、露天風呂って……。……混浴なんですけど。」
慌てているエステルは温泉から立ち上がり、ティータの言葉を最後まで聞かずに逃げるように露天風呂に行った。そしてミントもエステルを追うように露天風呂に行った。
(どうせエステルの事だからなんか騒ぎを起こしそう……エヴリーヌは知~らない。……気持ちいい……後で露天風呂にも行こう……どんな温泉かな?ウィルが作った温泉みたいなのがいいな……)

(は~、あせった……。心臓がバクバクいってる……。あたし……この前からどうしちゃったんだろ……。今まで、ヨシュアをそういう風に意識したことなんてなかったのに……。………………………………。ええい、悩むのやめっ!あたしのキャラじゃないしっ!)
露天風呂がある場所に出たエステルは先ほどのティータ達との会話を思い出して顔を真っ赤にした後、首を何度も横に振って忘れた後表情を元に戻した。
「うわあ~……すっごく広いね、ママ!」
「そうね。じゃあ、いっしょに浸かろうか。」
「うん!」
露天風呂の大きさに喜んでいるミントにエステルは微笑ましそうな表情で見た後、ミントといっしょに温泉に浸かった。
「は~っ、いい気持ち~!中のお風呂もよかったけど外のはまたカクベツよねぇ。うーん、広くてのびのびできるし……」
「ねえ、ママ!こんなに広いんだから、いっしょに泳ごうよ!」
「そうね……誰もいないみたいだからここは……」
ミントの提案にエステルが頷こうとした時、湯気の向こうから声が聞こえて来た。
「……言っておくけど、泳いだりしたらダメだからね。」
「ギクッ……な、何を言ってるのかしら!?そ、そんなことしないわよ!いい、ミント?いくら広いと言ってもここはお風呂なんだから、そんな事はしたら駄目よ?」
「はーい。」
湯気の向こうから聞こえて来た注意の声にエステルは図星をさされたかのような表情をした後、ミントを諭した。
「あれ、ちょっと待って………今の声って………………………。」
ミントを諭した後、エステルは湯気の向こう方聞こえた声の主を思い出した後、目をこらして湯気の向こうを見た。すると湯気は晴れ、そこにはヨシュアが温泉に浸かっていた。
「……………え。………………………………………………………………………………………」
「あ、ヨシュアさん。」
「やあ、エステル、ミント。お先に入らせてもらってるよ。はは……この格好だとさすがにちょっと照れるね。」
ヨシュアを見て、エステルは口を開けたまま放心した。
「露天風呂って広くてお星様が見えて素敵だね、ヨシュアさん!」
「ハハ、そうだね。」
「………………………………………………」
ミントとヨシュアが和やかに会話をしている中、エステルは放心の状態から戻らなかった。
「ママ?どうしたの??」
「えっと、その……。こういう状況で黙られると落ち着かないんですけど……」
エステルの様子にミントは首を傾げ、ヨシュアはエステルの様子を見て居辛そうに言った。
「え、う、あ……。きゃあああああああああああ!」
ようやく我に返ったエステルは旅館全体に響き渡るほどの声を上げ、旅館の女将から注意をされた……



後書き みなさんが気になっているプリネのスタイルですが、上から88、56、85です。……感想お待ちしております。



[25124] 第100話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/09/16 10:31
今回の話でみなさん、ヨシュアに殺意が沸くかもしれませんね。




その後、騒ぎを聞きつけたリフィア達も露天風呂に目を輝かせた後、エステル達といっしょに露天風呂に浸かった。

~エルモ村・紅葉亭・夜~

「は~……なんか思いっきり疲れた……。う~っ、それもこれも全部、ヨシュアのせいなんだからっ!」
女将から注意された事や女将の「女の肌ってのは見られてキレイになるもんだからね。」という冗談を信じたティータやミント、ツーヤに冗談である事を指摘したエステルは溜息をついて、ヨシュアを睨んだ。
「なんで僕が……。結局、エステルが1人で大騒ぎしてただけじゃないか。脱衣場の張り紙も見てないし、日頃の注意力が足りない証拠だね。」
エステルの八つ当たりにヨシュアは呆れて答えた後、注意が足りない事を指摘した。
「よ、よけーなお世話!ほんとにもう、可愛くないんだからっ!」
「あー、そうですか。いいよ、別に。君に可愛いと思われたって嬉しくともなんともないからね。」
「あ、あんですって~!?」
「大体、なんだよ。人を見るなり悲鳴を上げて……。そんな反応されるなんて……夢にも思わなかったよ。」
「あ、あれはその……あまりにもタイミングが……。別にヨシュアと一緒がイヤってわけじゃないからね?」
「いいよ、無理しないで。僕はもう上がるからみんなでゆっくり入っていきなよ。」
「無理してるなんて一言も言ってないでしょっ!ヨシュアのバカっ!」
「む……バカはどっちさ。」
「プックククク………」
「「フフ……」」
「「クスクス……」」
「キャハハハ………」
エステルとヨシュアの言い合いにリフィア達は笑いを抑えきれずそれぞれ笑い声をあげた。リフィア達の笑い声が聞こえたエステルとヨシュアは言い合いをやめて、固まった。

「ほ、ほら!リフィア達どころかティータちゃんにも笑われちゃったじゃない!」
「だからなんで僕が……。ご、ごめんね。みっともないところ見せて。」
「あ、ううん。笑ったりしてごめんなさい。ただ……うらやましいなって思って。」
エステルの八つ当たりに呆れたヨシュアはティータに謝罪したが、ティータは逆に笑った事を謝罪した後エステルとヨシュアを眩しいものを見るかのような目で見た。
「う、うらやましい?」
「えっと……どうして?」
ティータの言葉にエステルは驚き、ヨシュアは尋ねた。
「わたし、兄弟がいないからケンカとかしたことがないんです。おじいちゃんは優しいからあんまり叱られたことないし……。お父さんとお母さんはあんまり一緒にいられないから……」
「え……」
「あの、ティータちゃんのお父さんとお母さんって……?」
寂しそうな表情で家族の事を語ったティータにエステルは驚き、ヨシュアは尋ねた。
「博士のご息女……確か、エリカ・ラッセルだったか。夫のダン・ラッセル共々導力技術者で他国でオーブメントの普及していない村や町で技術指導をしていると博士から聞いた事があるが、今でもそうなのか?」
「あ、はい。だから、もう何年もツァイスに戻って来てないんです……」
ラッセル博士から家族の事を聞き、ティータの両親の事を覚えていたリフィアはティータに確認し、それに頷いたティータは寂びそうな表情で頷いた。
「そうだったんだ……」
「それは……寂しいね。」
「ティータちゃん………」
「ティータちゃん、寂しくないの?」
あまり両親といっしょにいた事がない事を知ったエステルやヨシュア、ツーヤは気不味そうな表情で見て、ミントは尋ねた。
「そんなこと、ないよ。おじいちゃんがいてくれるから。中央工房の人たちもみんな親切でいい人ばかりだし。でも……エステルさん達を見ているとちょっとうらやましいなぁって……。えへへ、こういうのって無いものねだりって言うんですよね。」
「エヴリーヌはなんとなくティータの気持ち、わかるよ。リウイお兄ちゃんがエヴリーヌを引き取ってくれるまで、ほとんど一人ぼっちで凄く寂しかったから……」
「エヴリーヌお姉様……」
ティータの気持ちに同意したエヴリーヌをプリネは何故血も繋がっていない自分を妹として可愛がってくれるエヴリーヌの気持ちがなんとなくわかり、見つめていた。

「ティータちゃん……」
笑顔の中に隠されている悲しみに気付いたヨシュアは何も言えなかった。
「……………………………………。いいこと思い付いちゃった。」
一方黙って考えていたエステルは口を開いた。
「え……」
「エステル?」
「あたしが、ティータちゃんのお姉さんになってあげるわ!ちなみにヨシュアはお兄さん。」
「ふえっ!?」
「わあ……!」
「はあ……また突拍子もないことを……」
エステルの提案にティータは驚き、ミントは顔を輝かせ、ヨシュアは呆れて溜息をついた。
「なによう、文句でもあるの?」
「いや……エステルらしいと思ってね。僕も異存はないよ。ティータちゃんさえよければね。」
自分の提案に反論がありそうな事に気付いたエステルの睨みにヨシュアは微笑ましそうな表情で首を横に振ってティータに確認した。
「……あ………。あ、ありがとう……エステルさん、ヨシュアさん。わたし、わたし……なんだかすっごく嬉しいですっ!」
「よかったね、ティータちゃん。」
尋ねられたティータは顔を輝かせ、最高の笑顔でお礼を言った。ツーヤはティータの喜びを自分のように感じて祝福した。
「それじゃあ、決定っ!あ、そうそう。もう『さん』付けはナシね?代わりにあたしたちも呼び捨てにさせてもらうから。」
「そうだね。あと、博士と話す時みたいに気軽に喋ってくれると嬉しいな。」
「あ、あう……。さん付けはやめて気軽に……。……………………………………」
エステルとヨシュアの言葉に頷いたティータはしばらくの間考えて、エステル達の新しい呼び方を言った。
「エステルお姉ちゃん。それと、ヨシュアお兄ちゃん。……こ、これでいいのかなぁ?」
「うん、バッチリ!」
「あらためて、よろしくね。」
新しい呼び方に頷いたエステルに同意するようにヨシュアも頷いた。
「ねえねえ、ママ。」
「ん?どうしたの、ミント。」
「ママとヨシュアさんがティータちゃんのお姉さんだったら、ミントはどうなるの?」
「え?え~と……」
ミントの疑問にエステルは唸りながら考えた。

「ふむ。エステルが姉でティータが妹だとすると、エステルの娘であるミントにとってティータは叔母になるぞ。」
「え”。」
「ふ、ふえええっ!?」
唸っているエステルに代わって答えたリフィアの言葉にエステルやティータは驚いた。
「ねえ、ママ。ミント、ティータちゃんの事を叔母さんって言わなくちゃダメなの?」
「絶対駄目よ!だから、今まで通りの呼び方で呼んであげなさい。」
ミントに尋ねられたエステルは驚きから立ち直った後、強く言った。
「うん。ごめんね、ティータちゃん。」
「あはは……あまり気にしていないから大丈夫だよ、ミントちゃん。」
申し訳なさそうに謝るミントにティータは苦笑しながら答えた。
「そうだ!妹になった記念にティータに素敵な子と会わせてあげるわ!」
「ふえ?エステルさん達以外にもいるんですか?」
エステルの言葉にティータは首を傾げた。
「うん。……パズモ!」
呼ばれたパズモはエステルの肩に止まった。
「あ!お芝居の時にいた妖精さんだ!そうだよね、ツーヤちゃん。」
「うん。エステルさんの妖精さんだったんだ……」
パズモの姿を見て、学園祭の劇で見た事のあるパズモを見てミントは目を輝かせていっしょに劇を見たツーヤに確認した。
「わあ……その子って妖精さんですか!?」
「ええ、パズモって名前よ。小さいけど凄く頼りになるあたしにとって親友の一人よ!」
(よろしくね。)
パズモはティータの目の前に飛んで来て、笑顔を向けた。
「ねえねえ、ママ!」
「ん?今度は何?」
パズモを見て興奮が収まっていない様子のミントに尋ねられたエステルは聞き返した。
「ママ、他の妖精さんともお友達なの?」
「ええ。……そうだわ!こんなに広いんだし、他のみんなにもここの温泉に浸かってもらったほうがいいわね!ティータにも紹介したいし、プリネもそうしなよ!」
「そうですね。では……」
エステルの提案にプリネは頷いた。そして2人はそれぞれ現在契約している者達を呼んだ。
「サエラブ!テトリ!」
「ペルル!マーリオン!フィニリィ!」
2人に呼ばれた精霊や幻獣達は姿を現した。
「「わあ……!」」
「こんなにいるんだ……!」
エステルやプリネが契約している精霊や幻獣達を見てティータやミントは目を輝かせ、ツーヤは数の多さに驚いた。

「あれ?一人、見た事がない子がいるようだけど……」
フィニリィを見てエステルは首を傾げた。
「ああ、その子はフィニリィと言って、今日契約した子なんです。」
「へぇ~………」
プリネの説明を聞いたエステルはパズモやテトリとは異なる妖精であるフィニリィを興味深そうな目で見ていた。
「あら、何故あなたがこんなところにいるんですの?」
(我は仙狐様の命によってこの世界の探索を任され、世界を廻る上で我の存在に理解あるエステルと契約していれば効率的に世界を廻れるから今、ここにいるだけど。そういうお前こそ何故こんなところにいる。)
「ま、私にも色々と事情がありますのよ。」
フィニリィはサエラブに気付き尋ね、尋ねられたサエラブは答えた後、逆に聞き返し、フィニリィは高貴な雰囲気を纏って答えた。
「え、サエラブってそこの妖精と知り合いなの?」
(……まあな。)
お互い知り合いのように話すサエラブとフィニリィを見て、エステルは尋ねた。
「ちょっとそこの人間!私をただの精霊と思わないでよね!私は精霊の中でも王族種の”精霊王女”よ!」
「せ、精霊王女……プリネもなんか凄いのと契約したわね~………」
「フフ……ああいう風に高慢に見えますが、以外と優しいところはありますよ。」
エステルの感心した言葉にプリネは微笑みながら答えた。
「みなさんも温泉に入ったらどうですか?気持ちいいですよ。」
「サエラブやテトリも入ったら?」
(フン……)
「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えさせていただきますね。」
「フフ、私の魅力的な体を見て、驚くがいいわ。」
「うん!」
「プリネ様……水精の私は湯の影響を……受けてしまいますので……戻らせていただきます……」
「そうね、わかったわ。」
マーリオンだけは戻り、プリネやエステルの申し出に頷いたサエラブはそのまま温泉の中に浸かり、テトリ達は来ている服を脱ぎだした。テトリ達の行動に気付いたヨシュアは慌ててテトリ達に背を向けた。
「う”……(なんでプリネが契約している子達ってあんなにプロポーションがいいの!?フィニリィなんか、あんな小さい身体をしているのに胸はプリネやペルル並とか、どういう風に育ったのよ!?)」
エステルは服を脱いで露わになったペルルやフィニリィの体を見て女性として、スタイルが圧倒的に違う事に唸った。
「エステルさん?どうしたんですか?」
「な、何でもないわよ!(う……よく見たらテトリも結構胸があるわよね……エヴリーヌもわりとあるし……この中で胸が小さいのってあたしとリフィアぐらいじゃない……)」
「どうしたんですか、エステルさん?私の体をそんなにじっと見て。」
テトリは自分の体を見て溜め息をついた、エステルを見て尋ねた。
「な、なんでもないわ!それより、テトリ達もタオルを付けないと!ここにはヨシュアもいるんだから……今、とって来るわ!」
「あ、はい。ありがとうございます。」
そしてエステルはテトリ達の分のタオルを持って来て、体に付けさせた。また、パズモはエステルが桶に湯を組んで、それにパズモは服ごと浸かった。そしてエステル達は談笑し始めた。ヨシュアはその中に入るのは居心地が悪いと感じ、少し離れた所で湯に浸かっていた。そこにサエラブが静かに近付いて来た。

「やあ、サエラブ。君はあの中に入らないのかい?」
(……お前に少し聞きたいことがある。)
「僕に?一体何を聞きだいのかな?」
(小僧……貴様、何者だ。欲に溺れた市長がエステルに銃口を向けた時、出した殺気……あれは人を殺した者しか出せない強力な負の気が混じった殺気だった。少なくともエステルのような、光の下で育った人間ではないな?)
「………………何が言いたいんだい?」
サエラブの念話にヨシュアは目を閉じて黙った後、静かに言った。
(別にお前が何者だろうと我には関係ないことだが、これだけは言っておく。もし、貴様がエステルを害するような事があれば、我は全力を持って貴様を排除する。………例え、エステルがそれを望まなくてもな…………)
「………そんな事は絶対しないよ……だって、僕はエステルの事を……………………」
サエラブの警告にヨシュアは首を横に振って否定し、何かを言いかけたが辛そうな表情で言うのをやめた。
(小僧、もしやお前………………フン、そういう事か。まあいい、今の我の言葉……心に刻んでおけ。)
「…………………」
サエラブの念話にヨシュアは目を閉じて、黙っていた。
「おーい、サエラブ!こっちに来てよ!ティータ達、あなたと話をしたいんですって!」
(フッ……相変わらず、騒がしい娘だ………だが………悪くない気分だ………)
そしてサエラブはヨシュアから離れて、エステル達のところに行った。
「………僕が何者……か。………そんなの、僕が知りたいよ………」
ヨシュアは夜空を見上げて、寂しそうに呟いた…………



後書き と言う訳でヨシュア、腹の立つ事にエステルやプリネ達だけでなく、テトリ達ともいっしょに温泉に入りました。後、今回の話でストックが切れたので更新はしばらくストップです。更新再開はまあ、テイルズと碧が終わるまでないと思います……感想お待ちしております。



[25124] 第101話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/10/19 22:57
お久しぶりです!テイルズ1週目終わり、碧も今日クリアしました!なので連載再開です!!まあ、以前のような連日連載はできませんが、週1~2ペースで安定した出し方をしばらく続けて行くので楽しみにしていて下さい!ちなみに現在ツァイス編を終えて、グランセル編を書き始めているところです!





~ツァイス市・中央工房~

翌日、ツァイスに戻るドロシーを連れてエステル達はツァイス市に戻り、騒ぎが起こっているに気付き駆けつけて事情を聞けば、謎のガスが突如発生しまたラッセル博士の姿が見えないことに気付き、博士の捜索とガスの発生原因を探すためにティータを連れ、またリフィア達には非難した作業員達から詳しい情報収集を頼み、煙が充満している工房の中に入った。

「うわっ……これは確かに煙っぽいわね。……でも、そんなに息苦しくないのはなぜかしら?」
「前があんまり見えないよ……ママ……」
「大丈夫よ、ミント。あたしが絶対守ってあげるから離れないよう、あたしの手を握っていなさい!」
「うん!」
煙によって前が見えにくい事を怖がっていたミントだったが、エステルの言葉を聞いて立ち直り、エステルの手を握った。
「このモヤは……多分、撹乱用の煙だと思う。フロアのどこかに発煙筒が落ちていると思う……」
「へっ?」
「ほえ?」
「ど、どうしてそんなものが……?」
ヨシュアの推理に3人は疑問を持った。
「今は博士の無事を確認しよう。」
「……そうね。博士はやっぱり3階の工房室にいるのかしら?」
「う、うん……たぶんそうだと思うけど……」
エステルに尋ねられたティータは不安そうな表情で頷いた。
「ママ、急ごう!ティータちゃんのお祖父ちゃんが心配だよ!」
「ええ、そうね!」
そして4人は3階の工房室に入ったがそこにはだれもいなく、機械だけが空しく動いていた。
「誰もいない……ていうか、どうして機械だけが動いているわけ?」
「と、とりあえず機械を止めなくっちゃ。」
ティータは急いで機械を止めた。
「ふう……おじいちゃん……どこいっちゃたのかな?」
ヨシュアはあたりを見回しあることに気付いた。
「博士もそうだけど……『黒の導力器』も見当たらない。これはひょっとすると……」
状況を見てヨシュアがある事を言おうとした時、ある人物が部屋に入って来た。

「フン、ここにいやがったか。」
「ア、アガット!?」
「どうしてこんな所に……?」
部屋に入って来た人物――アガットにエステルとヨシュアは驚いた。
「そいつはこっちのセリフだぜ。騒ぎを聞いて来てみりゃまた、お前らに先を越されるとはな。ったく半人前のくせにあちこち首突っ込みすぎなんだよ。」
「こ、こんの~……あいかわらずハラが立つわねぇ!」
アガットの言葉にエステルは腹が立った。
「あの……お姉ちゃん達の知り合い?」
「アガットさんって言ってね。ギルドの先輩ブレイサーなんだ。」
「ふえ~そうなんだ。」
「じゃあ、もしかしてママのお仕事のお仲間さん?」
「あ~……まあ、そうなるわね……」
ヨシュアとティータ、エステルとミントの会話でティータとミントの存在に気付いたアガットは顔色を変えた。
「おい、ちょっと待て。どうしてガキどもがこんなところにいやがる?」
そう言ってアガットはティータとミントを睨みつけた。
「……ひっ……」
「怖いよ、ママ……」
睨みつけられたティータは脅え、ミントはエステルの後ろに隠れた。
「ちょ、ちょっと!なに女の子を脅かしてんの!?」
「………………………………。チッ……。言いたいことは山ほどあるが後回しにしといてやる。それで、一体どうなってるんだ?」
エステルの怒りを舌打ちをして流したアガットは状況を尋ねた。
「はい、実は……」
ヨシュアはラッセル博士の姿が見当たらないことや発煙筒が置いてあった事等を説明した。
「フン、発煙筒といい、ヤバい匂いがプンプンするぜ。時間が惜しい……。とっととその博士を捜し出すぞ!」
「「うん!」」
「了解です。」
「……おじいちゃん……」
アガットの言葉に頷いたエステル達はそれぞれ返事し博士を探した。

そしてある階層に入った時声が聞こえてきた。
「……待たせたな。最後の目標を確保した。」
「よし……それでは脱出するぞ。」
「用意はできてるだろうな?」
その声にエステル達は気付いた。
「今の声は……!」
「急ぐぞ、エレベーターの方だ!」
そしてアガットは剣を抜きエステル達と共にエレベータがある方に向かった。

そこにはラッセル博士を拘束したルーアンの灯台で対峙した黒装束の男達と同じ姿をした男達がエレベーターに乗ろうとした。
「いた……!」
「てめえらは……!」
「お、おじいちゃん!?」
「ティータちゃんのお祖父ちゃんをどうするの!?」
一瞬で状況を理解したエステル達は武器を構え警告した。

「むっ……アガット・クロスナー!?」
「面倒な……ここはやり過ごすぞ!」
そして男達は博士を連れてエレベーターの中に入った。
「ま、待ちなさいよ!」
「逃がすか、オラァ!」
しかし一歩遅くエレベーターの扉は閉まった。
「クソ……間に合わなかったか!」
「も、もう一歩だったのに……」
「そ、そんな……どうしておじいちゃんを……」
「ティータちゃん……」
「とにかく非常階段で下に降りましょう。このまま中央工房から脱出するつもりみたいです。」
「ああ、逃げるとしたら、町かトンネル道のどちらかだ。急ぐぞ、ガキども!」
ヨシュアの推理に頷いたアガットはエステル達を促した。
「言われなくても!」
そしてエステル達はリフィア達に事情を話した後、手分けして地下道、街中を探したが黒装束の男達は親衛隊の軍服に着替え逃げたことしかわからず博士は見つからなかった……


後書き 前書きにも書きましたがテイルズ、碧共に全然やりこんでないので更新のスピードは相変わらず遅いのは勘弁して下さい。テイルズはミラ編クリアしていないし、碧は取り逃したレコード(特に????撃破とか(強すぎて勝てないです(泣))とってエクストラ解放したいですから!ちなみに私は一週で2100ポイント溜めました♪なのでステータスや武器の類がほとんど引き継げる………よかった………後、まさかの神採りアペンド3の登場…………どれをやれと!?余談ですがエウシェリーの過去作品を買いあさってやってみたのですが、とりあえず冥色の~は投げました。(オイ!)戦女神や幻燐とやり方が全然違うし、難し過ぎです!!姫狩りやりたいが全然そんな時間がない………



[25124] 第102話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/10/24 10:37
今更思ったのですが、碧でガイ殺害の犯人がわかった上エオリアやリンのクラフトが判明してしまった………焔の方をかなり書きなおさなければならない事にかなり憂鬱です……………どうしよう………





~遊撃士協会・ツァイス支部~

結局博士は見つからず通報を受けた王国軍と中央工房にそのことを伝えた後、エステル達はギルドに報告するため一端ギルドに戻った。そこにキリカと遺跡を研究している教授、アルバ教授がいた。

「いい所に戻ってきたわね。」
「あれっ……」
「あなたは……」
「「「……………………」」」
(ご主人様、どうしたんでしょう……?いつも優しい雰囲気を出しているのに、今はなんだか怖い雰囲気を出しています……)
エステルとヨシュアはギルドに予想外の人物――考古学者のアルバ教授がいたのを見て驚き。プリネ達は顔には出さず警戒し、ツーヤはプリネが出している雰囲気に首を傾げた。
「おや……エステルさん、ヨシュアさん。それにあなた達は琥珀の塔の時のお嬢さん達……お久しぶりです、お元気でしたか?」
「……ええ。」
「……うむ。」
「…………」
「アルバ教授じゃない。ツァイスに来てたんだ。なに、護衛を頼みに来たの?」
気軽に挨拶したアルバ教授にプリネ達は警戒しながら、最低限に挨拶を返し、エステルはプリネ達の雰囲気に気付かず呑気に話しかけた。
「それどころじゃない。犯人たちの行方が判ったわ。この人はその目撃者。」
「へ……!?」
「なんだと!?」
教授が協会に来た理由を説明したキリカの言葉にエステルやアガットは驚いた。

「うーん、やっぱりただ事じゃなかったんですね。いやはや、通報に来てよかった。実は私、ついさっきまで塔の調査をしてたんですよ。」
「塔というと……。例の『四輪の塔』の1つですね。以前のように調査を?」
「この辺りだと平原道の北にある『紅蓮の塔』だな……」
プリネが尋ね、アガットはツァイス周辺の地理を思い出して、対象になる塔を声に出した。
「ええ、そしたら軍人が数名、中に入ってくるじゃないですか。最初は王国軍の調査でもあるのかと思ったんですが……。陰から様子をうかがっていると誘拐だの、逃走ルートだの、不穏な言葉が出てきましてねぇ。気になってしまったので、こちらに通報に来たわけなんです。」
「その軍人たち……どんな軍服を着ていましたか?」
教授の説明を聞いて、ヨシュアは気になっている事を尋ねた。
「ええと、蒼と白を基調にした華麗な軍服を着ていましたが……。さすがは女王陛下の国。軍人までも洒落ていますねぇ。」
「決まりだな……。『紅蓮の塔』に急ぐぞ!」
「うん!」
「わかりました!」
アガットの言葉にエステルとヨシュアは頷いた。そこにティータが遠慮気味に話しかけた。
「あ、あの……お姉ちゃんたち、お願い……わ、わたしも連れていって……!」
「ティータ……」
「それは……」
ティータの懇願にエステル達は悩んだがアガットはすでに返事を決めていたようで言った。
「こら、チビスケ。」
「ふえっ?」
「あのな……連れていけるわけねえだろが。常識で考えろよ、常識で。」
「で、でもでも……!おじいちゃんが攫われたのにわたし……わたし……!」」
アガットの反対にティータは食い下がろうとした。
「時間がねえからハッキリ言っておくぞ……足手まといだ、付いてくんな。」
「……っ!」
アガットの言葉にティータは泣きそうな顔をした。
「ちょ、ちょっと!少しは言い方ってもんが……」
「黙ってろ。てめえだって判ってるはずだ。シロウトの、しかもガキの面倒見てる余裕なんざねえんだよ。」
「そ、それは……」
ティータの様子を見兼ねたエステルがアガットを咎めたが、アガットの言葉に反論が見つからず黙り、ヨシュアに助けを求めた。
「ねえ、ヨシュア、何か言ってよ!」
「残念だけど……僕も反対だ。あの抜け目のない連中が追撃を予想してないわけがない。そんな危険な場所にティータを連れて行くわけにはいかないよ。」
「ヨ、ヨシュアお兄ちゃん……」
「う~っ……」
ヨシュアの答えにティータは泣きそうな表情をし、エステルは唸った。そして申し訳なさそうな表情でティータに謝った。
「……ごめん、ティータ。やっぱ連れていけないみたい……」
「エ、エステルお姉ちゃん……。……ひどい……ひどいよぉっ……」
最後の頼みの綱であるエステルからも断られティータは泣きながらギルドを出て行った。
「ティータちゃん!」
「あ、ミント!」
ティータを追いかけるミントを追いかけようとしたエステルだったが、ヨシュアに止められた。
「……待った、エステル。今はミントに任せておこう。一刻も早く博士を助けて彼女を安心させてあげるんだ。それにどの道ミントとツーヤはティータと同じ理由で連れて行けないよ。彼女達はそれなりに実力はあると思うけど、あの連中相手にはキツイと思うし。」
「……わかった……。確かにそれしかないかも。」
ヨシュアの説明にエステルは頷いた。
「ご主人様……」
ツーヤは懇願するような目でプリネを見上げた。
「わかっているわ。2人を追いかけて。ティータちゃんが落ち着いたら、ギルドで待ってて。」
「……はい!」
プリネの答えに頷いたツーヤは急いでミントとティータを追いかけた。

「プリネ、余達も行くぞ!」
「はい!」
「ん。」
「待って。貴女達にはほかにやってもらうべき事があるから。」
リフィアの言葉にプリネとエヴリーヌは頷いたが、キリカの言葉で留まった。
「む?一体、それはなんだ?」
キリカの言葉にリフィアは首を傾げて尋ねた。
「ここからエルモ村まで護衛の依頼が来ているの。それもできれば、今すぐがいいそうよ。今、空いている遊撃士がいないから貴女達にやってほしいの。」
「むう……民の声を無視する訳にはいかぬな……すまぬが、エステル。そう言う訳だから、お主達と共に博士を攫った賊共は追えん。」
「大丈夫よ!本来だったら、あたし達が受ける仕事をリフィア達が代わりにしてくれる事だけでも凄くありがたいのだから!そっちもがんばって!」
「うむ!」
「はい!」
「……はい。これは遊撃士協会が貴女達を信用して、遊撃士の代わりに派遣してあることが書かれてある書状。依頼者に何か言われたらこれを見せて。」
キリカは書状を一枚プリネに渡した。
「ありがとうございます。」
「ったく……。余計な時間を取らせやがって。キリカ!軍への連絡は任せたぞ!」
「ええ、そちらも武運を。」
「どうやら大変なことが起こっているようですね……。くれぐれもお気を付けて。」
キリカとアルバの応援の言葉を背に受けたエステル達はギルドを出て、依頼者の元に行くリフィア達といったん別れて、紅蓮の塔へ急いだ。

~ラッセル家~

エステル達が紅蓮の塔へ、リフィア達が依頼者の元へ向かっている一方、ティータを追いかけたミントとツーヤはラッセル家のリビングで涙を流して泣いているティータを見つけた。
「……ううっ………ひっく……みんなひどいよぉ………」
「「ティータちゃん………」」
泣いているティータを見て、ミントやツーヤはかける言葉がなく、その場にずっと立っていた。そしてティータはミントとツーヤに気付いて、泣きはらした顔でミント達に尋ねた。
「ひっく……ミントちゃん達も来るなって言いに来たの……?」
「違うよ!ミントはただ、ティータちゃんが心配になって追い掛けただけだよ!」
「あたしもミントちゃんと同じ理由。友達が泣いているのを知らないフリ、できないもの。」
「ミントちゃん、ツーヤちゃん………」
ミントとツーヤの言葉を聞いたティータは少しの間、2人をジッと見た後、涙を拭って尋ねた。
「もし、エステルお姉ちゃんやプリネさんがお祖父ちゃんみたいな事になったら、どうするの?」
「そんなのもちろん、助けに行くに決まっているよ!」
「……例え止められてもあたしはご主人様を助けに行く。あたしやミントちゃんによって”パートナー”はあたし達の半身のような存在だから。」
「そう……なんだ。そうだよね………!」
2人の答えを聞いたティータは決意を持った表情で座っている椅子から離れ、立ち上がって2人を見た。
「2人ともお願い!お祖父ちゃんを助けに行かせて!私にとってお祖父ちゃんはとっても大切な存在だから、待っていられない!」
「ティータちゃん……うん、わかった!」
「ミントちゃん!?」
ティータの頼みをあっさり頷いたミントの言葉を聞いて、ツーヤは驚いた。
「その代わり、ミント達もいっしょに着いて行くね。ティータちゃん一人だけで行かせるのはとっても危ないもの。」
「うん、わかった!」
ミントの答えにティータは表情を明るくして答えた。
「ミントちゃん……本当にいいの?後でエステルさん達に怒られるかもしれないよ?」
「……うん、わかっている。でも、ティータちゃんの事も放っておけないよ。この事はミントの我儘だからツーヤちゃんは無理して着いて来なくてもミントはツーヤちゃんの事、嫌いにならないよ。怒られるのはミントだけでいいし。」
「もう……あたしはそんな薄情じゃないよ。もちろん、あたしも着いて行くよ。」
ツーヤは溜息をついて答えた。
「ありがとう、ツーヤちゃん!じゃあ、ティータちゃん。紅蓮の塔への道のりを頼むね!」
「戦闘になったらあたしとミントちゃんがティータちゃんの事、守るからティータちゃんは後ろから援護をお願い。」
「うん、わかった!じゃあ、行こう!」
そしてミント達はエステル達を追うように紅蓮の塔に向かった………




後書き 次回はプリネ側の話です。ちなみに次回の話では以外なキャラが登場します。…………感想お待ちしております。



[25124] 第103話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/10/26 00:44
今、エステルの新Sクラフトを思案中なのですがひょっとしたら、零か碧の誰かのSクラフトをFCで出すかもしれません………!





~ツァイス市内~

一方プリネ達はエルモ村までの護衛を依頼した依頼者と待ち合わせをしている場所に向かった。そこには誰かを待っているように、時計を何度も見ている男性がいた。その男性が依頼者だと思い、プリネ達は男性に話しかけた。
「すみません、遊撃士協会の者ですが貴方が依頼者という事でよろしいでしょうか?」
「はい!すみません、急な依頼を出してしまって……」
男性は帯剣をしているプリネを見て、遊撃士と思い、表情を明るくした。
(…………ん?……この顔………どこかで見た事があるぞ……?)
リフィアは男性の顔を見て首を傾げた。
「いいえ、気にしないで下さい。それでエルモ村までの護衛を依頼したとの事ですが……」
「はい。私はクロスベルで商業を営んでいる者なのですが今、リベールには家族旅行を来ていまして、ツァイス市の観光名所の一つとしてエルモ村の温泉に行きたくて……こちらはクロスベルのようにバスがありませんでしたから、
どうやって街道を越えてエルモ村に行こうか悩んで遊撃士協会に相談したら、受付の方が村までの護衛も仕事の一つとして請け負って下さるという事で依頼を出させていただきました。」
「そうなのですか……家族を大切になされて、家族の方達も幸せですね。」
「ハハ……ただ………私にはそんな事を言われる資格なんてないのです。」
プリネに褒められた男性は苦笑した後、一瞬表情を暗くした。
「え?」
男性の言葉にプリネは首を傾げた。
「おっと!今のは独り言ですから気にしないで下さい。」
「はぁ………」
慌てて言い訳をする男性の事をプリネは不思議に思った。
「それで?家族の人達はどこにいるの?」
「はい。今は別の所で待ってもらっていますので連れてきます。それで申し訳ないのですが、エルモ村方面に向かう出口で待っててもらっていいでしょうか?」
エヴリーヌの疑問に男性は申し訳なさそうな表情で尋ね返した。
「わかりました。そう言えば自己紹介がまだでしたね。プリネと申します。よろしくお願いします。」
「余はプリネの姉のリフィアだ。」
「……私、エヴリーヌ。」
「これはご丁寧に。私はハロルド・ヘイワースという者です。それでは家族を連れてまいりますので、出口で待ってて下さい。」
「はい、わかりました。(ヘイワース?聞き覚えのある名前ですね?……どこで聞いたのでしょう?」
「!!」
男性――ハロルドが名乗るとプリネは聞き覚えのある名前に心の中で首を傾げ、リフィアは声に出さず、驚いた。そしてハロルドはプリネ達の元から一端去った。

「リフィア、どうしたの?出口の方に行くよ?」
驚いている風に見えるリフィアに首を傾げつつ、エヴリーヌはリフィアを促した。
「あ、ああ。」
エヴリーヌに言われて、我に返ったリフィアは気を取り直してプリネ達と共に街の出口まで行き、ハロルド達を待っていた。そしてしばらくすると、妻らしき女性と息子らしき男の子を連れたハロルドがプリネ達の所に来た。
「お待たせしました。こちらが妻のソフィアと息子のコリンです。」
「ソフィアと申します。本日はよろしくお願いします。」
「こんにちは~、お姉ちゃん達。」
女性――ソフィアは軽く会釈をし、男の子――コリンは無邪気な笑顔で挨拶をした。
「よろしくお願いします。じゃあ、早速ですが行きましょうか。」
「はい、よろしくお願いします。」
そしてプリネが歩き出すとハロルド達はプリネについて行った。その様子をリフィアは後ろから複雑そうな表情で見ていた。
(…………まさかこんな所で会う事になるとはな…………)
「リフィア、どうしたの?さっきから考え事ばかりで今日のリフィア、変だよ?」
「少し……な。あの者達と別れてから理由を話す。行くぞ、エヴリーヌ。」
「ん。」
リフィアとエヴリーヌは急いでプリネ達の所に走って行った。

~トラッド平原~

ツァイス市とリベールの名所の一つであるエルモ温泉とカルバード共和国を結ぶ関所、ヴォルフ砦へ行く道がある平原をヘイワーズ親子を連れたプリネ達は歩きながら自分達の仮の事情を説明した。
「将来の仕事のために遊撃士のお仕事を……お若いながら、立派ですね。」
「ええ、それにみなさん女性なのに戦えるなんて、同じ女性として尊敬しますわ。」
プリネ達が遊撃士の仕事を手伝っている仮の理由を知ったハロルド達は感心していた。
「フフ、ありがとうございます。でも、最近は女性が戦えても不思議ではない時代だと思いますよ?例えばリベールの王室親衛隊長で名高いユリア中尉も女性ですし、”大陸最強”を誇るメンフィル帝国の大将軍も女性ですから。」
「ハハ……確かに最近の女性は勇ましい方が多いですね。」
プリネの言葉にハロルドは苦笑いしながら答えた。そしてしばらく歩くと魔獣が現れた。魔獣を見てハロルド達は表情が強張った。
「!ハロルドさん達は下がって下さい。」
「はい、お願いします。」
「みなさん、お気をつけて……さあ、コリン。あなたもこっちにいらっしゃい。」
「うん~。」
プリネの言葉に頷き、ハロルド達はプリネ達のやや後方に下がった。
「2人とも、行きますよ!」
「ああ。」
「ん。」
プリネは鞘からレイピアを抜いてリフィア達に声をかけた。そしてプリネ達は魔獣に戦闘を仕掛けた!

「闇に呑まれよ!……ティルワンの闇界!!鋼輝の陣……イオ=ルーン!」
次々と放つリフィアの魔術は一撃で魔獣達を纏めて次々と葬り
「遊んであげる!はい、どかーん。」
エヴリーヌは神速の速さで弓技――精密射撃や三連射撃で正確に魔獣を射抜いた後、強力な風の魔術――審判の轟雷でリフィアと同じように魔獣達を纏めて葬り
「ハァッ!……まだまだ!フッ、ハッ、終わりです!」
プリネはリウイ直伝の剣技――フェヒテンバルやフェヒテンイングでリフィア達が撃ち漏らした魔獣達を葬った。そして戦闘は終わった。
「よし、終わりですね。ハロルドさん、もう大丈夫ですよ。」
あたりを見回して、魔獣達の全滅を確認したプリネはハロルド達を呼んだ。
「……驚きました。あれだけいた魔獣をこんなに早く撃退できるなんて。」
「お姉ちゃん達、凄く強いね~。」
ハロルドは驚きの表情をしながらソフィアやコリンを連れてプリネ達に近付いた。また、コリンは無邪気に言った。
「フフ、まだまだ修行中の身ですよ。」
「うむ。世界は広いからな。余が知っている強者等、世界を相手に戦えるとも言われておるからな。」
「ハハ……途方もない話ですね。………でも、私達に貴女達の100分の1の強さでもいいから、あの時あればあの子はあんな事には………いや………そんな事は関係ありませんね………」
「………………」
プリネとリフィアの言葉にハロルドは苦笑いした後、小さい声で呟き、その呟きが聞こえたソフィアも暗い表情をした。
(あの子?ハロルドさん達の子供は目の前にいるのに……どういう意味でしょう?)
魔神の力を受け継いだ影響で人間より耳がいいため、本来聞こえないはずのハロルドの呟きが聞こえたプリネは首を傾げた。
(…………ふむ。今の言葉からするとどうやらレンの事はまだ忘れてないようだな……リウイの話では新たに生まれた子供をきっかけにレンの事を忘れようとしていたとの事だが………)
一方同じようにハロルドの呟きが聞こえ、ハロルドやソフィアの表情を見たリフィアは考え込んでいた。そしてプリネ達はハロルド達をエルモ村まで無事護衛した。

~エルモ村・入口~

「着きました。ここがエルモ村です。」
「おお、ここが……どことなくアルモリカ村の雰囲気に似ていますね。」
ハロルドはのどかな風景のエルモ村を見て、呟いた。
「アルモリカ村?聞いた事がない村ですが、クロスベルの村ですか?」
「ええ。養蜜を主としたのどかな村でいつも御贔屓にしてもらっている村です。もしクロスベルに来る事があれば、お土産の一つとして蜂蜜がいいですよ。アルモリカ村の蜂蜜は絶品ですから。」
「へ~……蜂蜜か。あれも甘くて大好きなんだよね。クロスベルってところだね。覚えておくよ。」
「貴方、そろそろ……」
「おっと、そうだな。それではみなさん、本日はどうもありがとうございました。」
「ありがとうございました。ほら、コリンも。」
「うん~。ありがとう~、お姉ちゃん達。」
ソフィアに促されたハロルドは礼儀正しくプリネ達に頭を下げ、ソフィアもコリンにお礼を言うよう促した後頭を下げた。
「どういたしまして。ちなみに帰りの護衛は大丈夫ですか?」
「はい。道は覚えましたので大丈夫です。それにイーリュン教で販売している魔獣避けの聖水もこちらに来る前に買いましたので大丈夫です。」
「そうですか。それではお気をつけて。」
「はい、それでは失礼します。」

「リフィア、ツァイスを出る前に考えていた事を教えてもらっていい?なんか今日のリフィア、変だよ?あの人達に会ってからずっと考え込んでいる様子だったし。」
ハロルド達の見送ったエヴリーヌはリフィアに尋ねた。
「まあな。2人とも。先ほど護衛した家族、ヘイワースの名前に聞き覚えはないか?」
「エヴリーヌはわかんない。」
「……実は私も少しだけハロルドさん達の名前が気になったのです。聞き覚えはあるのですが………リフィアお姉様はわかるのですか?」
リフィアに尋ねられたエヴリーヌは首を横に振って答え、プリネは考え込んでいる様子で答えた後、リフィアに尋ね返した。
「ああ。………………それでヘイワースという名前だが………ヘイワースはレンの過去の名前だ。」
「え………という事は今の方達がレンの実の両親ですか!?」
「へ~。今の人間達が……」
リフィアの答えを聞き、エヴリーヌはあまり興味なさげだったが、プリネは驚いた。
「ああ、間違いない。どこかで見覚えのある顔だと思ったが、報告にあったレンの両親だ。」
「そうだったのですか……道理で聞き覚えのある名前だと思ったのですが……あら?それではハロルドさんが呟いた”あの子”というのは……!」
「十中八九レンの事だろう。リウイの話では新たに生まれた子供をきっかけにレンの事を忘れようとしていたと聞いていたが、あの様子では今でもレンの事を後悔しているんだろうな。」
「……………レンの事を教えなくてよかったのですか?」
プリネはハロルド達がレンの実の両親と気付いていて、何も言わなかったリフィアに尋ねた。
「忘れたか?リウイから自分から両親を知りたいと言うまでレンには決して教えるなと言われているだろう?」
「………そう言えば、そうでしたね。……………それにしてもまさか、この旅で会う事になるとは思いませんでした。」
リフィアに言われたプリネは複雑そうな表情をした。
「ん。じゃ、依頼も終わったしギルドに戻ろっか?エステル達が戻って来てるかもしれないし。」
「そうだな。そろそろ日も暮れる。急いで戻るぞ。」
「はい。」
そしてリフィア達はエルモ村を去った…………



後書き と言う訳で一回限りの登場でしたが特別ゲストとしてSC以降(正確には3rdですが)必ず出ているあの一家が登場しました!次回はミント、エステルsideの話になります。………感想お待ちしております。



[25124] 第104話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/10/28 00:26
一方ミント達はティータを守りながら、エステル達が向かった紅蓮の塔についた。

~紅蓮の塔~

「2人とも、ここが『紅蓮の塔』だよ。」
「あれ?ミント、この建物に似たような形をしている建物を見た事があるよ?」
「2人は確かルーアンに住んでいたんだよね?多分『紺碧の塔』だと思うよ。グランセル以外のリベールの都市の周辺でこの『紅蓮の塔』みたいな建物があるから。」
「ふわぁ~……こんな大きな建物がルーアンやツァイス以外でもあるんだ……」
ティータの説明を聞きながら、ミントは『紅蓮の塔』を見上げて呟いた。
「!2人とも気を付けて!何か来るよ!」
「!!」
「ふ、ふええ~!?」
敵の気配を感じて鞘から刀を抜いて警告したツーヤの言葉にミントは剣を構えて、いつでも戦闘に入れるようにし、ティータは慌てながらも導力砲を構えた。そして森の奥からトラッド平原でドロシーを襲おうとした狼型の魔獣が唸りをあげながら現れた。
「「「グルルル…………」」」
「あ!この魔獣達、ドロシーさんを襲った魔獣だよ!?」
「ミントちゃんも戦った事があるんだ……あたしもフィニリィさんを助けるために戦ったよ。」
見覚えのある魔獣を見て、ミントは声をあげ、それを聞いたツーヤも頷いた。
「お祖父ちゃんを助けるのを邪魔しないで!……ええい!」
「「「ギャン!?」」」
ティータは導力砲から強力な煙幕弾で攻撃するクラフト――スモークカノンを放った。クラフトによって魔獣達は傷を負うと同時に視界が見えなくなり、うろたえた。
「ツーヤちゃん!」
「うん!」
隙だらけの魔獣達を一気に倒すためにミントはツーヤに声をかけ、ツーヤと同時に攻撃を仕掛けた!
「やぁっ!」
「はっ!そこっ!」
「貫いちゃえ!……アイスニードル!」
「ガッ!?」
ミントが剣で斬りつけた後、ツーヤが刀で素早く2回斬りるクラフト――飛翔剣舞を放った後、ミントは足元から氷を出して敵を貫通させる水の魔術――アイスニードルで一匹に止めを刺した。
「えいっ!」
「「オン!?」」
そしてティータは導力砲で残った2匹を同時に攻撃した。
「当ったれ~……!ストーンフォール!」
そこにすかさず、ミントは魔術で攻撃し
「行きます……ハァァァッ!」
「「ギャン!?」」
ツーヤは魔獣達の中心に飛び込み、刀で回転斬りをして攻撃するクラフト――円舞で止めを刺した。

「ふええ~……ド、ドキドキしちゃった~……」
戦闘が終わり、ティータは安堵の溜息を吐いた。
「………………」
「ツーヤちゃん、どうしたの?」
考え込んでいるツーヤにミントは首を傾げて、尋ねた。
「うん。以前ご主人様が言ってたんだけどこの魔獣、クローネ峠にも出たんだって。ルーアンの魔獣がどうしてツァイスにいるのかなって思ったの。」
「そうなんだ。でもとりあえず、考えるのは後にして今は博士を助けるのを優先しよ!」
「……そうだね。じゃあ、行こうか。」
ミントの言葉にツーヤは考えるのをやめて、塔の中に入った。そして3人は襲いかかって来る魔獣を協力して倒し、塔の頂上へ続く階段に着き、頂上が見えそうになるとツーヤが進むのを止め3人は少しだけ顔を出し頂上の様子を窺った。そこにはエステル達と飛行船を塔の頂上につけ、博士に銃をつけエステル達が邪魔をしないように牽制しているテレサ達を襲った強盗に似た姿をした誘拐犯達がいた。
(!……あの人達は先生達を襲った人達……!)
ミントは見覚えのある黒装束の男達を見て、剣を握る手を思わず強く握った。
(落ち着いて、ミントちゃん!エステルさん達が動かない所を見ると、多分チャンスを狙っているんだと思う。だからエステルさん達が動くと同時にあたし達も攻撃を仕掛けよう!)
(うん、わかった!ティータちゃんもい……い?)
ツーヤの提案に頷いたミントはティータにも言おうとしたが、ティータが居ない事に気付いた。
「あれ!?ティータちゃん、どこに行ったの!?」
「とにかく探そう、ミントちゃん!」
ティータがいないことに気付いたミントとツーヤはは慌てて階段から降り、周りを見回したがいなかった。
「もしかして……!ミントちゃん、頂上に行くよ!」
「う、うん!」
嫌な予感がしたツーヤはミントと共に急いで階段を上り、頂上に上がった。そこには飛行船を導力砲で攻撃しているティータに銃を向け、それに気付いたティータが砲撃を止め硬直している状態だった。そして一人の黒装束の男がティータに向けて銃弾を放った。

「ティータ!」
「「ティータちゃん!」」
「……チィィィィッ!」
咄嗟の判断でアガットはティータをその場からどけ、自ら銃弾を受けた。
「アガット!?」
「アガットさん!?」
「ツーヤちゃん!とりあえずアガットさんの傷の手当てを!」
「うん!」
それを見てエステルとヨシュアは慌てて、駆け寄った。また、ミントやツーヤもアガットに駆け寄り、ツーヤは回復魔術をアガットにかけ始めた。
「ミント!?それにツーヤも!貴方達も来ていたの!」
「ごめんなさい、ママ……」
ミントとツーヤに気付いたエステルは驚いた声を出し、ミントはシュンとした表情で謝った。
「お、おい!子供を撃とうとするヤツがいるか!」
「しかもそいつはテスト用の……!」
「す、すまん……。船が落とされると思って……」
一方男達は銃を撃った仲間を非難し、非難された男はバツが悪そうに言った。
「まあいい、このまま撤収するぞ!」
気を取り直した黒装束の男の内の一人の声で男たちがラッセル博士を抱え込んで、飛行艇に乗った。
「させないんだから!落っちろ~……!ムグ!」
男達に向かって魔術を放とうとしたミントだったが、回復魔術をアガットにかけていたツーヤに口を抑えられた。
「待って、ミントちゃん!博士にも当たっちゃうよ!」
「あ………」
ツーヤの言葉にミントは魔術を放つのをやめた。
「では、我々はこれで失礼する。」
「あっ……!ま、待ちなさいよ!」
去ろうとする男達にエステルは声を荒げたが、意味がなく飛行艇は去って行った。
「お、おじいちゃああああん!」
そして飛行船はその場からいなくなり、ティータの叫びは空しく塔に響いた…………



後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第105話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/10/29 21:42
~紅蓮の塔・屋上~

その後ティータはずっと泣き続けていた。
「うっ、うううう……お祖父ちゃん………」
「ティータ……」
「「ティータちゃん………」」
それを見てエステルとミント、ツーヤは悲しそうな顔をした。
「とりあえず……いったんツァイスに戻ろう。あの飛行艇のことをギルドに報告しなくちゃ……」
ヨシュアはつらそうな顔をしながらもこれからの方針を決めるための提案をした。
「ティータ……つらいとは思うけど……」
見かねたエステルがティータに話しかけた。
「………どうして、おじいちゃんが……ひどい……ひどいよぉ……」
エステルに話しかけられても泣き続けているティータにアガットは静かな声で話しかけた。
「おい、チビ。」
「……?」

パン!

意外な人物に話しかけられ呆けるティータにアガットは近づいてティータの顔に平手打ちをした。
「……あ……」
「ちょ、ちょっと!」
アガットの行動にエステルは驚愕の顔で見た。だがアガットは周りを気にせず話しだした。
「言ったはずだぜ……足手まといは付いてくんなって。お前が邪魔したおかげで爺さんを助けるタイミングを逃しちまった……この責任……どう取るつもりだ?」
「あ……わたし……そ、そんなつもりじゃ……」
アガットの静かな怒りを持った言葉にティータは青褪めた。アガットは追い打ちをかけるように言葉をさらに重ねた。
「おまけに下手な脅しかまして命を危険にさらしやがって……俺はな、お前みたいに力も無いくせに出しゃばるガキがこの世で一番ムカつくんだよ。」
「ご……ごめ……ごめ……ん……なさ……ふえ……うえええん……」
さらに泣きだしたティータを見てエステルやミントはアガットに詰め寄った。
「ちょ、ちょっと!どうしてそんな酷いこと言うの!」
「そうだよ!ティータちゃん、家族が攫われて凄く悲しんでいるのに今の言葉は酷いよ!」
2人に詰め寄られたアガットは冷静に答えた。
「だから言ってるんだ。おい……チビ。泣いたままでいいから聞け。」
「うぐ……ひっく……?」
「お前、このままでいいのか?爺さんのことを助けないで諦めちまうのか?」
「うううううっ……」
アガットの言葉を否定するようにティータは泣きながら首を横に振った。
「だったら腑抜けてないでシャキッとしろ。泣いてもいい。喚いてもいい。まずは自分の足で立ち上がれ。てめえの面倒も見られねえヤツが人助けなんざできるわけねえだろ?」
「……あ……」
アガットの言葉にティータは泣き止んだ。
「それが出来ねえなら二度と俺達の邪魔をせず、ガキらしく家に帰ってメソメソするんだな。……フン、俺はその方が楽なんだがな……」
「ティータ……」
「「ティータちゃん……」」
「…………大丈夫だよ……お姉ちゃん、ミントちゃん、ツーヤちゃん……わたし、ひとりで立てるから……」
ティータは完全に泣き止み自分で立った。それを見てアガットは笑みを浮かべた。

「へっ……やれば出来るじゃねえか。」
「本当に……ごめんなさい。わ、わたしのせいであの人達に逃げられちゃって……ミントちゃんツーヤちゃんも私の我儘につきあわせて、ごめんなさい……」
ティータはその場にいる全員に謝った。
「バカ……謝ることなんてないわよ。」
「うん。ティータが無事でよかった。」
「ミントとツーヤちゃんはお友達のお願いを聞いただけだよ。だから謝らないで。」
「うん。それよりアガットさんに叩かれた頬は痛くない?痛いのなら治癒魔術をかけるけど。」
「大丈夫だよ、ツーヤちゃん……それよりありがとう……お姉ちゃん、お兄ちゃん、ミントちゃん、ツーヤちゃん。」
4人の言葉にティータは笑顔になった。そしてアガットにおどおどしながらも話した。
「あ、あの……アガットさん……」
「なんだ?文句なら受つけねえぞ?」
「えと……あ、ありがとーございます。危ない所を助けてくれて……」
ティータはアガットにお辞儀をした。
「それから……励ましてくれてありがとう……」
「は、励ましたわけじゃねえ!メソメソしてるガキに活を入れてやっただけだ!」
アガットはティータの言葉に焦った。それを見てティータは笑顔を見せた。
「ふふ……そーですね。」
「だ~から、泣いてたくせになんでそこで笑うんだよ!?ちょ、調子の狂うガキだな……」
それを見てエステルは溜息をついた。
「あんたねぇ、お礼くらい素直に受け取りなさいよ。」
「いや、アガットさん、単に照れてるだけじゃないかな。」
「なるほど……確かにそれは可愛いわね♪」
「そういえばアガットさんの顔、なんとなく緩んでいるね♪」
「クスクス……ミントちゃん、そういう事は本人の目の前で言ったら駄目だよ♪」
「そこ、うるせえぞ!」
4人からからかわれたアガットは照れ隠しに怒った。

そして6人はギルドへ報告し、これからの方針を決めるためにツァイスへの帰り道を戻っていった……




後書き 現在、着々と話が出来てます♪ちなみに現在は武術大会編の予選終了後までかけてます♪後、エウシュリーキャラファンの方々にとって嬉しいお知らせです♪グランセル編ではエステル、プリネの使い魔達を総動員して活躍させる話と旧幻燐キャラを活躍させる話を考えているので楽しみにして下さい♪…………感想お待ちしております。



[25124] 第106話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/10/31 09:42
紅蓮の塔を出たエステル達は帰り道に急にアガットが倒れたところに、エルモ村までの護衛を終えたリフィア達とカルバード共和国の遊撃士、ジンがたまたまその場に居合わせ、ジンにアガットを中央工房の医務室まで運んでもらい、アガットが倒れた原因は黒装束の男が撃った銃弾が原因とわかり、それを治癒するの薬を七曜教会に求めたが、生憎材料を切らしていて、その材料を手に入れるためにたまたまツァイスに泊まる予定だったジンやリフィアとエヴリーヌを加えたエステル達7人は材料があると言われるカルデア隧道の鍾乳洞内の奥に向かって行った。また、アガットの体を蝕む毒を少しでも遅らせるために状態異常回復の魔術が使えるツーヤとツーヤに魔力が供給できるプリネはアガットの看病に残した。

~カルデア隧道・鍾乳洞内~

「ここがカルデア鍾乳洞か……神秘的な光景ね。」
エステルは鍾乳洞に入って見た光景に思わず呆けた。
「だが、奥の方から魔獣の気配がプンプンするぞ。なかなか歯ごたえがありそうだな。」
「ん。街道とかにいた雑魚より結構強い気配がするね。少しは楽しめそうかな、キャハッ♪」
ジンとエヴリーヌは魔獣の気配と強さを感じ、警戒心を強めたり強敵の存在に笑みを浮かべた。
「ふ、ふえええ……」
2人の言葉を真に受けたティータは思わずよわよわしい声を出した。
「ティータ、恐かったら戻ってもいいんだからね?あんまり無理しちゃダメよ。ミントもよ?紅蓮の塔の時みたいに無茶したら、今度はさすがに怒るからね?」
「だ、大丈夫だよ……恐いけど無理はしてないから。今は急いで薬の材料をとりに行こう?」
「うん!ミント、アガットさんが元気になるためにがんばる!」
「もし怪我を負ったら、余が傷跡もなく治してやろう!余がいるのだから、安心するがいい!」
「そうね……行くとしますか。」
ティータの様子を見て大丈夫と判断したエステル達は鍾乳洞の奥へ進んで行った。

そして鍾乳洞内を歩きしばらくすると魔獣が現れた。
「みんな行くわよ!」
エステルの掛け声で7人は魔獣に挑んだ。鍾乳洞内の魔獣は手ごわかったがエステルは棒や魔術で万能な戦い方で、ヨシュアは素早い動きで魔獣を翻弄しつつ、着実に敵の急所を狙って対処し、ティータは無理せず後ろからアーツや導力砲で援護し、ジンは体術で一撃で魔獣を沈め、ミントは前衛のエステル達が取り逃がして後衛に襲いかかろうとした魔獣を斬り伏せ、魔術でエステル達を援護した。またエヴリーヌやリフィアは弓技や強力な魔術で援護した。
「闇よ、我が仇なす者を吹き飛ばせ!……黒の衝撃!!」
「行っけ~!……サンダーボルト!」
「出でよ、烈輝の陣!レイ=ルーン!!」
「消えちゃえ!……贖罪の雷!!」
エステル達が放った魔術で道を塞いでいた魔獣達が消滅し、セピスを落とした。
「相変わらず、凄い威力だな……」
「ふ、ふえええ~……お姉ちゃん達、凄いな。アーツじゃ、こんな威力は出せないんじゃないかな?」
「………………」
エステル達の魔術の威力にヨシュアは感心し、ティータは魔術の威力に呆け、ジンは驚きの表情で見ていた。
「よ~し、終わりっ!あれ?どうしたの、みんな?」
戦闘が終了し、武器を仕舞ったエステルはヨシュア達を見て尋ねた。
「いや……魔術の威力にみんな驚いているんだよ。」
「うん。魔術は初めて見たけど、凄いね!オーブメントを使わず、どんな原理であんな事ができるのか、凄く気になっちゃうよ。」
「あはは……ティータらしいわね……」
「ティータちゃん、目が凄く輝いているね。」
興味津々ティータの言葉にエステルは苦笑し、ミントはティータの今の表情を言った。
「えへへ、つい気になっちゃって……」
エステルとミントの言葉にティータは恥ずかしそうに笑った。
「ん?確かジンと言ったな?余やエヴリーヌを見てたようだが、何か用か?」
「いや、少し気になったのだが魔術とアーツは属性に関しては同じかどうか、気になってな。」
「確かにそうですね……リフィア、そっちの世界の魔術は何種類あるんだい?」
「ん?属性の種類か。一般的な攻撃魔術の属性はアーツの属性で例えるなら火は火炎、水は冷却、風は電撃、地は地脈、時は暗黒、空は神聖だ。これに加えて余が使っている無属性の純粋、他には身体能力の強化等をする戦意や強化、そしてイーリュン教の信者達が得意とする再生や治癒だ。他にもあるが……まあ、それは知らなくていいだろう。」
ヨシュアに尋ねられたリフィアは次々とディル・リフィーナにある属性魔術の事を説明したが、ある属性の魔術も思い出し、その属性を言うのをためらって誤魔化した。
「へえ~……そんなにあるんだ。それだと、今あたしが使えるのは火炎、電撃、地脈、暗黒か……あと2つで全属性の攻撃魔術ができるんだけど、どうやったら使えるようになるのかな?」
「エステル……それだけ使えて、まだ属性を増やしたいのかい?」
「いいじゃない!強くなりたいんだから!それでどうなの?」
「ふむ、エステルのオーブメントや精霊や幻獣達と契約した際の影響の事を考えると、お前はどの属性にも属さない無属性だから、その属性に遭った精霊や幻獣達と契約すれば使えるようになると思うぞ?」
期待した表情で自分を見ているエステルにリフィアは少しの間、考えて言った。

「やっぱり契約か……冷却属性はマーリオンみたいな子と契約すればいいってわかるけど、神聖属性はどんな子と契約すればいいの?」
「む、神聖属性か…………………神聖属性は恐らく天使とでも契約すれば使えるとは思うが………」
期待した表情をしているエステルにリフィアは難しい表情をしながら答えた。
「天使!?そんなのもいるんだ!」
「ふええ~!?異世界には天使さんまでいるんですね!」
「ママ!ミント、天使さんともお話したい!絶対友達になってね!」
天使の存在を知ったエステルやティータ、ミントは驚いた。
「「………………」」
「2人ともそんなに難しい表情をして、どうしたんだい?」
一方ヨシュアはリフィアやエヴリーヌが難しい表情をしているのに気付き、尋ねた。
「ん?ああ……今から言う事はエステル達には決して言うでないぞ?」
「?うん。」
念を押すようなリフィアの言葉にヨシュアは戸惑いながら頷いた。

「天使達のような光側の者達にとって余達闇側の者達――”闇夜の眷属”は決して相容れない存在なのだ。また、その逆もしかりだ。余は気にしないがたいがいの眷属達は天使を嫌っている。もちろんメンフィルは光と闇の共存を謳っているが、それでもメンフィル建国以来、天使がメンフィルの客として訪れた事はない。」
「そんなに根深い問題なんだ……もしかして、エヴリーヌも天使を嫌っているのかい?」
「…………正直、あんまり好きじゃない。でも昔と比べれば少しはマシになったよ?昔は目にしただけで殺してやりたいぐらい、嫌いだったもん。」
「フム……種族の違いによって争いが起きる点は共和国と変わらないな。共和国は昔から移民を受け入れている分、争いが絶えないからな。」
エヴリーヌの言葉にジンは重々しく頷いた。
「そうなんだ………じゃあ、リフィア達と仲良くしているエステルに天使が契約してくれるなんて事は……」
「恐らくないな。よほり変わり種の天使だったら契約してくれるかもしれんが、そもそも天使がメンフィルを訪れる事など今までなかったのだから、ほぼないと思っていいだろう。」
「そっか………でもなんとなくなんだけど、あの様子のエステルだったら天使と出会った時、契約を頼んで天使が嫌がっても『そんなのお互いの事を知らないからそうなのよ!』って言って、何度でも契約を迫って最後には天使も諦めて契約しそうだけどね。」
「……確かにな。」
「あー、なんとなくそんな光景が思い浮かぶよ。」
ヨシュアの言葉にリフィアは口元に笑みを浮かべ、エヴリーヌは天使に契約を迫るエステルの光景が思い浮かんだ。
「ハハ……さて、おしゃべりはここまでにして先に進むぞ。」
カシウスからエステルの事を聞いていたジンはリフィア達の会話を聞いてカシウスから伝え聞いた通りの娘である事に思わず笑った後、先に進むよう促した。そしてエステル達は奥に向かって進み始めた…………




後書き すでにお気づきの方もいると思いますが、次のエステルが契約する種族は幻燐、戦女神では基本的に敵勢力のあの種族です!ちなみにSCのヨシュア合流までには予定している全ての召喚キャラと契約する予定です!後、エステルの召喚キャラは以前より増やして、全部で6体にする予定です!残りの召喚キャラの種族は2体とも違う種族であると言っておきます……感想お待ちしております。



[25124] 外伝~異世界に降り立つ天使~
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/11/03 05:49
リフィア達が天使について話していたその頃、一人の天使がある場所でくしゃみをした。

~メンフィル大使館・執務室~

「ハックション!う~ん?誰かニルの噂でもしているのかな?霊気で構造されている天使のニルが風邪なんて引くわけないのに。」
その天使はラウマカールで3対の翼のファーミシルスとは違い、一対の翼を持ち全身の到る所にに光の輪を纏い、濃い撫子色の髪を腰まで伸ばしていた。また、容姿も街を歩けば十人中十人が振り向くような整った容姿をしており、女性としての体型も一般の女性より優れた体型をしていた。
「………さて、そろそろいいか?」
独り言をつぶやいている上級天使――能天使ニル・デュナミスにリウイは話しかけた。
「はい。なんでも聞いていいですよ。」
「………シルヴァンから天使が俺に面会と異世界に出る許可を求めたと聞いて、一瞬耳を疑ったがまさか神殺しの使い魔を務めていた変わり種の天使であるお前が尋ねてくるとは思わなかったぞ。それでわざわざ、異世界に何の用だ?」
「そろそろ新しい主を探そうと思って噂になっていた異世界に来るために貴方に面会と異世界に出る許可を求めました。」
「新しい主だと?お前は神殺しの使い魔だったはずだろう?」
ニルの答えにリウイは首を傾げながら尋ねた。
「知っているとは思いますけど、セリカは邪竜との戦いで力を失ったからニルを含めて、今まで契約していた子達と解除しましたの。あの戦いの後、ニルはしばらく世界中を廻って旅していたけど噂でメンフィルは魔導技術とは異なった技術を手に入れたって聞きまして、気になってメンフィルの王都のミルスに近付きましたら、ブレア―ド迷宮?でしたね。そこからディル・リフィーナとは異なる空気が感じられたから、それが気になって貴方に会えるように、もし異世界と繋がっているのならそこに行けるように今のメンフィル皇帝に頼んだんです。それにしても王城に行った時、門番の兵や周りの人達はどうしてニルを驚いた表情で見ていたんでしょう?」

ニルは王城でシルヴァンに会う事を望んだ時、門番の兵達やシルヴァンの臣下達が驚きの表情で自分を見ていた事を思い出し、リウイに言った。
「………俺達を忌み嫌っている光側の存在である天使が堂々と正面から会話を望む等、メンフィルでは前代未聞だからな。驚かれて当然だ。」
「あ、そうでしたね。セリカの使い魔をしていたから、そういう事は気にしなくなったんですよね~。」
「…………まあいい。メンフィルは光にも闇にも属さず中立を貫いている。断る理由もないし、異世界での活動を許可する。……ちなみにこれは邪竜を倒した仲間としての餞別だ。この土地の持ち主――リベール王国の地図だ。持って行くがいい。」
ニルの答えに半分呆れていたリウイだったが、気を取り直して答えた後リベールの各都市が書かれてある地図をニルに渡した。
「ありがとうございます♪ところでさっきの話の続きになりますけど、魔力があって強い人間の女性とか知りませんか?ニル、今度の契約者は女性にしようと思っていますから。」
「………お前が認めるほどの強さかどうかわからんが、一人だけ心当たりがある。」
「え!本当ですか!?どんな人ですか!?」
「リウイ?」
リウイの答えにニルは驚き、天使であるニルがリウイとの会見を望んだ事に興味があってその場に同席したカーリアンも目を丸くして驚いた。

「……その者は風の守護精霊、炎狐、そしてかつて神殺しが使い魔にしていたユイチリと契約している。また、竜の幼子がその者の事を”母”と慕い、竜の幼子がいた孤児院から引き取ってその幼子を育てているらしい。ユイチリに関しては恐らくお前も知っているのはないか?」
「セリカが使い魔にしていたユイチリって……もしかしてテトリ!どうしてこちらに……まあいいですわ!竜の幼子に慕われ、誇り高い性格をしている炎狐まで契約している人間……フフ、興味が沸いて来ましたわ!名前はなんという方ですか?」
「エステル・ブライト。異世界の者でありながら俺達”闇夜の眷属”を”友”と呼ぶ変わった娘だ。今は恐らくツァイスにいるだろうが……かの者の修行の終点であるグランセルに先回りした方がいいかもしれんな。ちなみにこれがエステル・ブライトだ。」
リウイは机の中から報告書に貼ってあるエステルの写真をニルに見せた。
「この子が………ありがとうございます!それでは、失礼します!」
そしてニルはリウイ達にお辞儀をした後、部屋の窓から飛び去った。

「リウイ?なんであの天使にエステルって娘の事を教えたの?」
「ルーアンで楽しませてもらった礼だ。遊撃士をやっていく上で万能な戦いができる天使の力があれば、さらに戦力は充実するだろうしな。まあ、あの変わり者の天使に認められるかどうかはあの者次第だ。奴はあれでも上級天使だ………それより、また武術大会に出るのか?」
リウイは呆れた表情でカーリアンに尋ねた。
「当ったり前じゃない!ここ最近、戦がないんだから凄っごく暇だもん!別に殺しはしていなんだから、いいでしょう?」
呆れた表情になっているリウイにカーリアンは悪びれもなく答えた後、ある事に気付いた。
「そういえばエステル、だっけ?その娘も闘技大会に出るのかな?」
「……さあな。ただ過去の参加者を見る限り、遊撃士達も腕試しとして参加しているから、かの娘も参加する可能性はあるかもしれんが。………まさか。」
カーリアンの疑問に答えた後、リウイはある事に気付き、カーリアンを見た。
「そのまさかよ♪あの娘の父親も結構楽しませてもらえたから、期待できるしね♪じゃあ明日、グランセルに行くわね♪飛行船のチケットの手配、よろしく♪」
「おい、カーリアン。今のリベールの状況がわかってて………まあ、あのじゃじゃ馬娘に言った所で無駄か。」
リウイの制止の声を無視してカーリアンは部屋を出て行き、リウイは溜息をついた後、ペテレーネを呼んで一人分の飛行船のチケットの手配を頼み、政務に戻った………



後書き という事でまたまたセリカの元・使い魔、登場です!メロディアーナやエリザスレイン、モナルカを出すにはさすがに無理がありますから、VERITAの天使に登場してもらいました!そして気付いているとは思いますが、グランセル編で出る旧幻燐キャラは幻燐シリーズでは準ヒロイン、VERITAではメインヒロインを務めたカーリアンです!カーリアンの出番はあの大会だけではないので、終章を楽しみにして下さい!………感想お待ちしております。



[25124] 第107話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/11/04 10:29
その後エステル達は材料を手に入れ、七曜教会の司祭にその材料を使って薬を調合してもらった後、それをアガットに呑ませ、薬を呑ませたアガットを今まで看病していたプリネやツーヤを休ませた後全員が交代で看病し、翌日にはグランセルへ行くジンを見送り、アガットの看病を続けるティータと分かれて一端ギルドに報告など行ったエステル達に信じられない情報が入った。それはたまたまツァイスの軍事施設、レイストン要塞にラッセル博士誘拐時に撮った写真を返してもらいに行ったドロシーが写真の元となる感光クオーツを返してもらえず、代わりに兵士に黙って要塞を撮った時に写った写真の中に博士をさらった男達が乗って行った飛行艇が要塞の中に入る場面を撮っていたのだ。そして事情を聴くためにレイストン要塞へ行った時、守備隊長シード少佐がエステル達に対応したがのらりくらりとかわされ、最後に立ち去る時に導力で動いている開閉装置が止まるという決定的な瞬間を見て、攫われたラッセル博士は要塞の中にいると確信しエステル達はそれを報告するためにギルドへ戻って行った。

~遊撃士協会・ツァイス支部~

「ま、まさか王国軍が博士を攫うとは……中央工房は王国軍と長年協力関係を築いてきた。なぜこんなことを……」
中央工房の責任者のマードック工房長はエステル達から信じられないような顔で聞いた。
「王国軍とは言っても一枚岩ではありません。博士をさらった時、親衛隊の服を着てたのもそれが原因かもしれませんね。」
「ええ、ヨシュアさんの言う事にも一理あります。」
ヨシュアの話に同意するようにプリネが頷いた。
「じゃあまさか、親衛隊が嵌められたってこと!?」
「その可能性はありそうだな。何か事を起こそうとした時、真っ先に標的になるのが王家に絶対的な忠誠を誓い、選りすぐりの戦士達で結成されている王室親衛隊が一番最初に排除しておくべき存在だからな。」
親衛達が嵌められた事にエステルは憤慨し、リフィアは嵌められた理由を説明した。
「ううむ、なんたることだ……しかし、どうして博士がそのような陰謀に巻き込まれたのか……」
エステル達の会話を聞いてマードックは唸った。

「……どうやら犯人どもの手がかりを掴んだみてえだな。」
そこにティータを連れたアガットが入って来た。
「え……アガット!?」
「もう意識を取り戻したんですね。」
「へ~。体力だけは結構あるようだね。」
アガットを見てエステルは驚き、ヨシュアとエヴリーヌは感心した。
「ああ、ついさっきな。起きたら知らない場所で寝てたからビビったぜ。」
「起きたばっかりなのにもう動いて大丈夫ですか?」
ヨシュアは念のためにアガットに体調を聞いた。
「ああ、寝すぎたせいか、身体がなまってしかたねえ。とにかく思いっきり身体を動かしたい気分だぜ。
「で、でも無理しちゃダメですよぉ……毒が抜けたばかりだからしばらく安静にって先生が……」
「だ~から、大丈夫だって何べんも言ってるだろうが。鍛え方が違うんだよ、鍛え方が。」
「う~………」
ティータの心配をアガットは一蹴したがそれを聞いたティータは泣きそうになり、それを見たアガットは慌てた。
「う……わかった、わかったっての!本調子に戻るまでは無茶しなきゃいいんだろ?」
「えへへ……はいっ。」
アガットの言葉にティータは笑顔になった。
「ったく……これだからガキってのは……」
「あはは、さすがのアンタもティータには形なしみたいね。」
「アガットさんからなんとなく優しい雰囲気が漂っているよ。アガットさんをこんな風にするなんて、ティ―タちゃん、凄いね!」
「ずっと付きっきりで看病してもらった身としてはしばらく頭が上がりませんね。」
「「クスクス……」」
「プックククク………」
「キャハハハ………」
2人の様子を見て、エステルやヨシュアはからかい、ミントはアガットの雰囲気が変わった理由にティータが関係していると思いティータを尊敬するような眼差しで見、プリネやツーヤ、リフィアとエヴリーヌはティータに弱くなったアガットを見て思わず笑った。

「あ~もう、うるせえなっ。それより俺がくたばってた時に色々と動きがあったみたいだな。聞かせてもらおうじゃねえか。」
そしてエステル達は博士がレイストン要塞にとらわれていることを2人に言った。
「お、おじいちゃんがそんな所にいるなんて……」
「しかも、あの黒装束どもが軍関係者だったとはな……フン、正体が判ってすっきりしたぜ。キッチリ落とし前を付けさせてもらうことにするか。」
「落とし前っていうと?」
アガットの言葉にエステルが反応して聞いた。
「決まってるだろう。レイストン要塞に忍び込む。博士を解放して奴らに一泡吹かせてやるのさ。」
「あ、な~るほど。それが一番手っ取り早そうね。」
アガットの提案にエステルは納得した。
「そう簡単にはいかないわ。」
エステル達の会話を聞いてキリカが割り込んだ。

「へっ?」
「ギルドの決まりとして各国の軍隊には不干渉の原則があるわ。協会規約第3項。『国家権力に対する不干渉』……『遊撃士協会は、国家主権及びそれが認めた公的機関に対して捜査権・逮捕権を公使できない。』……つまり、軍がシラを切る陰り、こちらに手を出す権利はないの。」
「チッ、そいつがあったか……」
「そ、そんな……そんなのっておかしいわよ!目の前で起きている悪事をそのまま見過ごせっていうわけ!?」
「そうだよ!先生を傷つけたり、ティータちゃんのお祖父ちゃんを攫った悪い人を見逃すなんて、ミント、我慢できないよ!」
「あたしもあの人達の事は許せません………!」
「ツーヤ……」
キリカに規約の事を言われ、アガットは舌打ちをして苦い顔をし、エステルやミントは憤慨した。また、静かな怒りを抱いているツーヤを見て、プリネは複雑そうな表情でツーヤを見ていた。
「エステル、確かにそうだが、どんな決まり事にも抜け道はある。例えそれが法律であろうとな。キリカとやら、恐らくギルドの規約にもあるのだろう?」
皇位継承者のため、法律についてより詳しい事を知っているリフィアは落ち着いた声で話し、キリカに確認をした。
「ええ。協会規約第2項。『民間人に対する保護義務』……『遊撃士は、民間人の生命・権利が不当に脅かされようとしていた場合、これを保護する義務と責任を持つ。』……これが何を意味するかわかる?」
「なるほど……博士は役人でも軍人でもない。保護されるべき民間人ですね。」
キリカの話にヨシュアは確認するように聞いた。
「そ、それじゃあ……」
そして会話を聞いていたエステルは期待を持った。

「あとは……工房長さん、あなた次第ね。この件に関して王国軍と対立することになってもラッセル博士を救出するつもりは?」
「……考えるまでもない。博士は中央工房の……いや、リベールにとっても欠かすことのできない人材だ。救出を依頼する。」
キリカに聞かれ、マードックは迷いなく答えた。
「工房長さん……!あ、ありがとーございます!」
「礼を言う事はないさ。博士は私にとっても恩人だしね。」
それを聞いたティータが笑顔でお礼を言った。
「これで大義名分は出来たわ。……遊撃士アガット。それからエステルにヨシュア。レイストン要塞内に捕まっていると推測される
ラッセル博士の救出を要請するわ。非公式ではあるけど遊撃士協会からの正式な要請よ。」
「了解しました。」
「そう来なくっちゃ!」
「フン、上等だ。そうと決まれば潜入方法を練る必要があるな。何しろ、レイストン要塞といえば難攻不落で有名な場所だ。」
キリカの要請に力強く頷いたアガットはレイストン要塞の攻略方法をどうするか考えた。
「そうですね。実際、かなりの警戒体制でした。侵入できそうなルートがどこかにあるといいんですけど。」
「残念だけど……。あそこの警備は完璧に近いわ。導力センサーが周囲に張り巡らされているから湖からの侵入も難しそうね。」
「フン……。そんな事だろうと思ったぜ。」
「フム……さすがは導力技術を誇るリベールの要塞といったところか……」
「正攻法では難しそうですね。」
キリカの答えにアガットは顔をしかめ、リフィアは納得し、ヨシュアは厳しい表情で答えた。
「ねえ、エヴリーヌ。」
「ん。どうしたの?」
ある事を思い付いたエステルはエヴリーヌに話しかけた。
「エヴリーヌが前やった転移魔術?だっけ。それであたし達をレイストン要塞の中へ転移とかできないの?」
「それは無理。」
「なんで??」
あっさり無理と言ったエヴリーヌにエステルは首を傾げた。
「転移魔術は一度行った事がある場所でないと、転移する場所も思い浮かべれないから無理なんだ。」
「そっか………そういえば、工房長さん。あのオレンジ色の飛行船ってレイストン要塞によく行くのよね?」
エヴリーヌの説明を聞いたエステルは残念そうな表情をしたが、また提案が思い付いてマードックに尋ねた。

「ああ……。工房船の『ライプニッツ号』だね。資材の搬入や設備の点検で定期的に要塞に行っているが……」
「だったら、それに隠れて要塞に潜入するってのはダメ?」
「いや、基地に降りたクルーは全員チェックを受けるんだ。勝手に抜け出して行動するのは不可能に近いだろう……」
「ということは、積荷にまぎれて忍び込むのも無理か?」
念の為に別方向での潜入の仕方をアガットは尋ねた。
「ああ、生体感知器によって1個1個のコンテナが調べられる。この感知器というのがラッセル博士の開発したものでね。ネズミ1匹たりとも見逃さない優れ物なんだ。」
「う~ん、やっぱりダメかあ……」
「……あ…………!」
マードックの答えを聞いたエステルは残念そうな表情をしたが、ティータはある事を思い付き、表情を明るくした。
「お姉ちゃん、覚えてない!?お姉ちゃんたちを案内した時、おじいちゃんが作ってた発明品!」
「あたしたちを案内した時……。……ああっ!」
「そうか……。僕たちも実験を手伝ったあの新型オーブメントだね。」
「うん、それだよっ!あの装置、生体感知器の走査を妨害する導力場(フィールド)を発生するの!起動テストもしてあるから大丈夫……ちゃんと動かせるよ!」
「まあ……さすがはラッセル博士といったところですか。」
「なに……本当か!?」
ティータの説明にプリネは感心し、アガットは驚いた。
「まったく博士ときたらいつのまにそんなものを……。その装置はどこにあるのかね?」
ティータの説明を聞いたマードックは呆れた後、尋ねた。
「えと、たぶん研究室のどこかに置きっぱなしになってると思います。」
「なら、あなたたちは急いでその装置を取ってきて。その間に、レイストン要塞の詳細なデータを用意しておくわ。」
「わかった、頼むぜ。」
「工房長さんは、工房船の手配をよろしくお願いするわ。」
「りょ、了解した。グスタフ整備長に相談しよう。準備が済んだら飛行場まで来てくれたまえ!」
そしてそれぞれ、博士救出のために動き出した…………!



後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第108話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/11/08 10:26
その後装置を見つけたエステル達はギルドに戻って来た。

~遊撃士協会・ツァイス支部~

「キリカさん。装置、取ってきたよ!」
「こちらも準備はできている。ちなみに、これから見せる物は他言無用にお願いするわ。」
キリカはエステル達に何かの地図を渡した。
「ヘッ、なかなか良いものを持っているじゃねーか。」
アガットはその図面に書いてある場所の名前――レイストン要塞の図面である事をを見て、笑みを浮かべた。
「これは……レイストン要塞の概略図ですか。」
「うわぁ……。すごく広いんですね。このどこかにおじいちゃんが……」
レイストン要塞の図面がある事にヨシュアは驚き、ティータは真剣な表情で図面を見た。
「でも、こういうのって軍事機密なんじゃないの。どうしてギルドにあるわけ?」
エステルはレイストン要塞を怪しいものを見るような目で見て、尋ねた。
「蛇の道は蛇ってね。とあるルートから入手したの。遊撃士協会(わたしたち)には、こういう面もあることを覚えておきなさい。」
「う、うん……」
キリカの答えにエステルは戸惑いながら頷いた。
「言うまでもないけど今回のケースはかなり特殊よ。本来、王国軍とギルドの関係は他国のそれと比べても友好的なの。遺恨を残さないためにも兵士との交戦は極力避けること。特にアガット……いいわね?」
「フン、仕方ねえな。だが、あの黒装束の連中は立ち塞がったら容赦しねえぞ。軍人だろうがなんだろうが犯罪者には違いないんだからな。」
キリカに念を押されたアガットは鼻をならして、答えた。
「好きにしなさい。ただし死なない程度でね。……後、できればリフィア達は今回の潜入に参加してほしくないのだけど……」
「フム、仕方ないか。」
「え、なんで??エヴリーヌの転移魔術を使ったらここにいる全員を連れていけるのに。」
キリカの言葉にリフィアは納得し、エステルは首を傾げた。
「万が一王国軍に私達の姿を見られて、私達の正体がバレてしまえば国際問題に発展してしまう事をキリカさんは恐れているんです。私やエヴリーヌお姉様の顔はほとんど知られていませんが、リフィアお姉様はお父様に着いて行ってリベールとメンフィルのいろんな会談に参加しましたからリフィアお姉様の顔は軍の上層部の方達はほとんど知っていると思いますから。」
「そうだね。後、今回は潜入作戦だからあまり人は連れていけないよ。」
「ん。じゃあ、今回はエヴリーヌ達はお留守番していたほうがいいね。」
プリネの説明にヨシュアは頷きながら言った言葉にエヴリーヌは頷いた。
「ねえ、ママ。ミントやツーヤちゃんもついて行ったら駄目?」
ミントは懇願するような表情でエステルを見て、尋ねた。

「う~ん……ヨシュアも言ったけど、今回は軍の人達にあたし達が潜入している事がばれないためにもあまり人は連れて行けないから、悪いけどミント達は連れていけないわ。」
「そっか………」
「ミントちゃん……」
エステルの答えを聞いたミントは残念そうな表情で顔を下に向け、その様子を見たツーヤは同じ”パートナー”を持つ竜としてミントの気持ちが痛いほどわかった。
「ミント…………………」
俯いているミントを見てエステルは少しの間考えた後、しゃがんでミントを抱きしめた。
「マ、ママ?嬉しいけど、どうしたの?」
抱きしめられたミントは戸惑いながら尋ねた。
「いいから聞いて。あたしはミントが子供だからって理由もあるけど……一番の理由はあなたの事が大事だから連れて行かないの。今回相手する人達は平気で人を殺そうとしたりする危険な人達なの。そんな所に大事なミントを連れていけないわ………」
「ママ…………うん、わかった!でも、絶対無事に戻って来てね!約束だよ!」
「ええ!」
「エステルさん、ミントちゃんの事、凄く大切にしていますね。エステルさんがミントちゃんの”パートナー”になって、本当によかったです。」
「あら、もしかして羨ましいの?よければ、抱きしめたり撫でてあげてもいいけど。」
「い、いえ……そ、その………」
笑顔に戻ったミントにエステルは頭を撫でた。その様子を見てツーヤは思わずプリネに言い、プリネの言葉にツーヤは顔を真っ赤にして、照れながら言い淀んだ。そしてミントの頭を撫でた後、エステルは立ってキリカからの言葉を待った。

「エステル、ヨシュア。本来ならば準遊撃士のあなたたちにこんな仕事は任せたくないけど……」
「ちょ、ちょっと!そんなのってないわよ!」
「乗りかかった船です。どうかやらせてください。」
キリカの言葉にエステルは反論し、ヨシュアも真剣な表情で懇願した。
「……というと思ったから反対するのは止めにするわ。ちなみに、あなたたちはツァイス支部の監督下にある。万が一のことがあってもわたしが責任を取るから安心なさい。」
「キ、キリカさん……」
「すみません……。ご迷惑をおかけします。」
「それから……ティータ。遊撃士でないあなたにこう聞くのもなんだけど……。決心は変わらないのね?」
「あ……。……はい!」
キリカに話を振られたティータは一瞬何の事かわからなかったが、すぐにわかって力強く頷いた。
「え、え?それってどういうこと?」
「もしかして……」
キリカとティータの会話の意味がわからなかったエステルは首を傾げたが、ヨシュアは察しがついた。そしてティータはエステル達に振り向いて説明した。

「あ、あのね……。この装置を動かせるのはたぶんわたしだけだと思うの。だから……わたしもお姉ちゃんたちと一緒に行くよ。」
「ええっ!?」
「たしかに、複雑そうなオーブメントだったけど……」
ティータが同行する事にエステルは驚き、ヨシュアは複雑そうな表情をした。
「ごめんなさい……。わたし、迷惑にならないようちゃんと付いていくから……」
エステル達の様子を見てティータは申し訳なさそうな表情で謝り、答えた。
「……ふざけんな。こら、チビスケ……。そんな話は聞いてねえぞ……。こんなヤバイ仕事にガキを連れて行けるわけねえだろうが!」
しかしアガットは納得できず、真っ先に反対した。
「で、でもでも……。わたしがやらなかったら装置が動かせないですし……」
「だったらそんな方法はハナッから却下だ、却下!別の潜入方法を見つけるぞ!」
「………………………………。あんたねぇ。いいかげんにしなさいよ。なに、意地を張ってるわけ?」
何が何でもティータの同行を認めようとしないアガットにエステルは溜息を吐いた後、尋ねた。
「なにぃ……?」
「ティータも覚悟して協力するって言ってるでしょ。それに協力してくれたらあたしたちも潜入しやすくなる。それって、博士を助け出す可能性も上がるってことよね?この期に及んで反対する余地がどこにあるってゆーのよ?」
「てめえ……。民間人を、しかもガキを危険にさらせると思ってんのか?」
エステルに尋ねられたアガットは威圧感を持って、エステルを睨んだ。
「そうならないようにあたしたちが守ればいいじゃない。それが遊撃士(あたしたち)の仕事でしょ?」
「クッ……。たかが新米ごときが偉そうなことを抜かしやがって……」
「……新米、ベテランはこの際、関係ないと思います。大切なものを守りたいという気持ちも遊撃士だけのものじゃありません。むしろ、そういう気持ちを支えるのが僕たちの仕事じゃないんですか?」
「………………………………」
エステルとヨシュアの言葉にアガットはエステル達を睨んだ。
「私からも言わせてもらいますが、ティータさんは連れて行くべきです。」
「ご主人様……?」
「ああん?なんで遊撃士でもないテメェがそんな事を言える?」
エステル達の意見を賛成するプリネの意見にツーヤは首を傾げ、アガットはプリネを睨んだ。
「その前に一つお聞きしたいのですが………今回博士を助けた後、博士達の今後はどうなさるおつもりですか?」
「それは……………………チッ、わかったよ。」
「へ……?プリネ、今の言葉ってどういう意味??」
プリネの言葉にあっさり折れたアガットにエステルは首を傾げた後、尋ねた。
「プリネが言いたいのは恐らく、リベール軍内で暗躍している者達が捕まらない限り博士は狙われ続けるという事だ。それで博士の孫であるティータは隠れている博士をあぶり出すために、人質として誘拐される可能性も高いから博士を助けた出したと同時にティータも保護するべきと言いたいのだ。………そうだろう、プリネ?」
「はい。」
「あ、そっか。」
「なるほど……助け出す事ばかりに目が行って、その後の事を考えていなかったな……」
プリネの代わりに説明したリフィアの言葉にプリネは頷き、エステルやヨシュアは納得した。

「お姉ちゃん、お兄ちゃん……。あ、あの、アガットさん。ごめんなさい、困らせちゃって……。でも、わたし、おじいちゃんが大切だから……。ぜったいに助かってほしいから……。だから、自分ができることがあればできる限りのことがしたいんです。」
「………………………………」
自分の存在がアガットを困らせている事に気付いたティータは申し訳なさそうな表情で答え、アガットは黙って聞いていた。
「それに、アガットさんがわたしを助けてくれたように……。わたしも、お姉ちゃんや、お兄ちゃんや、アガットさんの力になりたいんです……。ぜったいに無理はしません……。ちゃんという事も聞きますから……。だから……どうかお願いしますっ!」
「ティータ……」
「そうか……。そこまで考えてくれたんだね。」
弱々しくも決意の表情で嘆願するティータの言葉にエステルやヨシュアは感心した。

「………………………………。フン、判っちゃいねえな。力になる以上に足手まといになりそうだから付いてくるなと言ってるんだ。」
「あうっ……」
「だがまあ、他に潜入方法がなさそうな上今後の事も考えたら確かだからな……。気は進まねえが……。本当に気は進まねえが、今回だけは特別に認めてやるよ。」
「あ……。ありがとう、アガットさん!」
「礼を言われる筋合いはねえ。足手まといになったりしたら容赦なく見捨ててやるからな。覚悟しとけよ。」
「は、はいっ!」
アガットに認められ、ティータは笑顔で答えた。笑顔でお礼を言われたアガットはぶっきらぼうに答えた。
「ティータちゃん、よかったね!」
「がんばって、ティータちゃん。あたし達はついていけないけど、博士を無事助け出せるよう、祈っているよ。」
「えへへ……ありがとう、ミントちゃん、ツーヤちゃん!」
「まったくもう……いちいち偉そうな男ねぇ。素直に認めてあげなさいよね。」
「まあまあ、エステル。アガットさん、照れ隠しに憎まれ口を言ってるだけだから。」
「プックククク………つっぱている割には中々可愛いところがあるではないか。」
「う、うるせえぞ、てめえら!」
エステルやヨシュア、リフィアにからかわれたアガットは声を上げた。
「クスクス……そうだ!………フィニリィ!」
「私(わたくし)に何の用かしら?」
エステル達とアガットの様子にプリネは笑った後、フィニリィを召喚した。
「私に代わって、エステルさん達に助力してあげて下さい。」
「しょうがありませんわね………ま、この私が助力するのですから、大船に乗った気持ちでいなさい。」
プリネに頼まれたフィニリィは溜息を吐いた後胸を張って、答えた。

「と言う訳で、フィニリィも連れて行って下さい。フィニリィは体も小さいですから、コンテナの中に入る時もそんなに邪魔にならないと思いますし。」
「ありがとう、プリネ!」
「助かるよ。ありがとう、プリネ。」
戦力の補充をしてくれたプリネにエステルやヨシュアはお礼を言った。
「フフ……。話がまとまって何より。そろそろ工房船の準備が済んでいる頃でしょう。準備が済み次第、飛行場に向かうといいわ。」
「うん、わかった!」
「じゃあな、キリカ。軍への対応は任せたぜ。」
「ええ、問い合わせが来ても適当にあしらっておく。女神達の加護を。くれぐれも気を付けて。」
アガットの言葉にキリカは頷いた後、作戦の成功を祈った。
「ミントちゃん、ツーヤちゃん………」
「?どうしたの、ティータちゃん??」
「あたし達に何か言いたい事があるの?」
ティータの言葉にミントやツーヤは首を傾げた。
「あのあの……多分しばらくミントちゃん達には会えないと思うけど……その………それでも、友達でいてくれる?」
「あったり前だよ!ミント達はいつまでも友達だよ!」
「うん、いつかまた会える日を楽しみにしているから、がんばって!」
「えへへ……ありがとう、2人とも!」
ミントとツーヤの応援の言葉にティータは笑顔で答えた。
「よし……話も纏まった事だし、みんな、行くわよ!」
「了解!」
「おう!」
「はいっ!」
「フフ、精霊王女であるこの私の力を存分に見せて差し上げますわ!」
「みなさん、がんばって下さい!」
「必ず博士の奪還を成功して、博士を攫った不届き者達に一泡吹かせてやれ!」
「ん。まあ、エステル達ならやれると思うけどね。」
「みんな、がんばってね!」
「みなさんの無事をご主人様といっしょに祈っています!」
エステルの言葉にヨシュア達は力強く頷いた後、プリネ達の応援の言葉を背中に受けて、潜入するための工房船が停まっている飛行場へ向かった…………



後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第109話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/11/10 06:34
その後、エステル達は工房船に乗り、整備長の協力のお陰で無事、レイストン要塞に潜入し、図面を見て博士がいそうな施設――研究棟に急いで向かった。

~レイストン要塞・研究棟前~

「あ……!」
「あいつらは……」
研究棟の入口で見張っている黒装束の男達を見て、ヨシュアとエステルは小さな声を上げた。また、近くには黒装束の男達が使っていた飛行艇が停まっていた。
「へっ……。やっぱりいやがったか。」
「あら?あの魔獣は私(わたくし)を襲った………!どうやらあの人間達には飼い主としてこの私を襲った罪を償わせる必要があるようですわね……!」
黒装束の男達を見て、アガットは口元に笑みを浮かべた。また、フィニリィは黒装束の男達に控える狼系の魔獣を見て、男達を睨んだ。
「塔に現れた飛行艇……」
「やっぱりあいつら軍の関係者だったのね……。普通の兵士とはずいぶん違うみたいだけど……」
一方ヨシュアは飛行艇に気付き、エステルは以前戦った時の事を思い出した。
「たぶん、破壊工作の訓練を受けた特殊部隊だろう。どうりで手強いわけだよ。」
エステルの疑問にヨシュアは推測した答えを言った。
「お、おじいちゃん、あそこに捕まっているの?」
ティータは不安そうな表情で研究棟を見て、言った。
「ああ、いよいよその可能性が高くなってきた。だが……ここでやり合うのはマズイな。」
「そうですね……。下手に騒ぎを起こしたら要塞中の兵士が駆けつけてくると思います。」
「何とか見つからずに建物の中に入れないかな?」
エステル達は研究棟の周囲を探り出した。そして探った結果、鉄格子がはまっている窓をエステルが見つけた。
「ねえねえ。ここから中に入れないかな?」
「いや……窓に鉄格子がはまっている。音を立てずに侵入するのはちょっと難しそうだな……」
「そうですわね……私の魔術や槍技で鉄格子を壊すのは簡単ですが、どうしても音を立ててしまいますわ。」
エステルの提案にヨシュアやフィニリィは難しそうな表情で答えた。
「………………あっ!」
「こいつは大当たりだぜ……」
「え……」
何かに気付いたアガットとティータの言葉にエステルは驚き、窓の傍に行って聞き耳をたてた。

「ラッセル博士。本当にありがとうございました。よくぞ、この『ゴスペル』の制御方法を突き止めてくださった。情報部を代表して感謝しますよ。」
研究棟の中にいたのはエステル達も出会った事のある人物――リシャール大佐だった。また他にはカノーネ大尉やシード少佐がいた。
「ふん……。やはり貴様が黒幕じゃったか。情報部指令、リシャール大佐……。たしか貴様もカシウスの元部下だったか?」
博士は憎々しげな表情でリシャールを見て、言った。
「おお、そういえば博士は彼と交友があったのでしたね。カシウス・ブライトの行方は我々も捜しているのですがいまだ突き止められなくてね。心当たりがあるのなら教えて頂きたいものですが……」
「知らん。知ったところで教えるものか。」
リシャールに尋ねられた博士は鼻をならして、答えた。
「フフ……まあいいでしょう。もし、この『ゴスペル』が彼の元に届けられていれば困ったことになっただろうが……。今さら彼が現れたとしてもこの流れを止めることはできない。」
「『黒の導力器』……いや、『ゴスペル』とか言ったか……。貴様ら、それを使って何をしでかすつもりじゃ?いや、そもそも……そんな得体のしれない代物をいったいどこから手に入れた?」
「ある筋からと申し上げておこう。我々の目的は……まあ、すぐに明らかになりますよ。それが分かった頃には博士を解放して差し上げますからそれまでゆっくりなさってください。」
「貴様らの悪事を知る者を平気で解放しようとするとは……。よっぽど大それたマネをしでかすつもりらしいな?」
「ハハ、想像にお任せしよう。しかし事が成ったあかつきには個人的に、博士の研究を援助させていただくつもりです。新たな発明で、このリベールをより豊かにして頂くために、そしてゆくゆくはあのメンフィルを越えるためにも………」
博士に尋ねられたリシャールは勝ち誇った笑みを浮かべて答えた後、博士に今後の協力を求めた。
「けっ、お断りじゃい。貴様らのような存在なんぞ、メンフィルやあの”覇王”からしてみれば目にもとまらん存在だ。無謀に挑んで、とっとと敗北と後悔を味わうがいい。」
博士はリシャールの要請を鼻を鳴らして否定して、悪態をついた。
「博士。あまり聞き分けのないことをおっしゃらないでくださいな。博士のお孫さんに万が一のことがあった時に助けてあげられませんわよ?」
博士の悪態の言葉を聞き、カノーネは不敵な笑みで答えた後、尋ねた。
「こ、小娘が……。またそれでわしを脅すか……!」
カノーネの脅しの言葉に博士はカノーネを睨んだ。

「やれやれ、カノーネ君。君の交渉のやり方は、いささか優雅さに欠けるのではないかね?」
「うふふ……失礼しました。」
「彼女は、どうも特殊なユーモアセンスの持ち主でね。誤解して欲しくないのですが我々はみな、国を憂える一介の軍人に過ぎないのです。民間人を巻き込むつもりは一切ないと誓っておきましょう。」
「憂国の士気取りか……。そして、あらゆる導力現象を停止させる漆黒のオーブメント……。なるほど、貴様らの目的、何となくじゃが見えてきたわい。」
「ほう……」
博士の言葉にリシャールは驚いて目を見開いた。そこにロランス少尉が部屋に入って来た。
「……失礼する。」
「あら少尉。大佐は博士とご歓談中なの。邪魔するものではなくってよ。」
「いや、構わんよ。ロランス君、報告したまえ。」
「王都(グランセル)で動きがありました。大佐の読み通り、白き翼が網にかかった模様です。」
「それはそれは……」
「フフ……。これでチェックメイトだな。それでは博士。我々はこれで失礼します。シード少佐。博士が不自由のないように気を配ってくれたまえ。」
「は……了解しました。」
ロランスの報告にカノーネは不敵な笑みを浮かべた。カノーネと同じように不敵な笑みを浮かべたリシャールはシードに指示した後、カノーネやロランスと共に部屋を出て行った。

「ラッセル博士……何か入用のものはありますか。大抵のものなら揃えさせますが。」
「ふん、結構じゃ。お前さんは、連中と違って骨のある男と思っておったが……。どうやらわしの買いかぶりだったようじゃの。」
シードに尋ねられた博士は鼻をならして、皮肉を言った。
「……恐縮です。博士は、ある反逆者によって誘拐されたことになっています。それを踏まえて頂ければお孫さんへの手紙など届けさせていただきますが……」
「早くわしの前から消えろ!」
皮肉を言われても気にせず、淡々と言うシードの言葉に頭が来た博士は怒鳴った。
「……失礼します。」
そしてシードも研究棟から出て行った。
「リシャール大佐……あの人が黒幕だったんだ。しかも父さんのことを捜しているみたいだけど……」
「ああ……どういうことなんだろう。それに、あの仮面の男……」
全ての黒幕がリシャールだった事にエステルは驚き、ヨシュアはロランス少尉を凝視していた。
「あの野郎……やっぱり出やがったか。むっ、行くみたいだな……」
ロランスが現れた事にアガットは表情を険しくした後、ロランス達が飛行艇に乗る事に気付いた。

「フッ……うまく切り抜けられるかな。」
ロランスは独り言を呟いた後飛行艇に乗り込んだ。そしてリシャール達を乗せた飛行艇は飛び去った。

「よし……一気に人気(ひとけ)がなくなったな。ヤツとは決着を付けたかったが、まあいい、仕事の方が優先だ。」
飛び去った飛行艇を見送ったアガットはエステル達に博士の奪還を開始する事を言った。
「窓から入れない以上、見張りを倒すしかないわね。速攻でケリをつけましょ!」
「う、うんっ!」
「フフ、この私がいるのですから、すぐに終わらせてあげますわ!」
「………………………………」
アガットの言葉にエステルやティータは力強く頷き、フィニリィは勝ち誇った笑みで胸をはっていたがヨシュアは飛行艇が飛び立っていった方向をずっと見つめていた。
「ヨシュア?ちょっと、聞いてるの?」
「あ……エステル?」
ヨシュアの様子に首を傾げたエステルは声をかけ、エステルの声でヨシュアは我に返った。
「だ、大丈夫?ヨシュアお兄ちゃん……」
「おいおい、勘弁しろよ。クールなお前らしくもねえ。」
「ちょっと、何を放心しているんですの?ここは敵地という事がわかっているのですか?」
いつもと違う様子のヨシュアにティータは心配し、アガットは首を傾げ、フィニリィは痛烈な言葉で注意をした。
「す、すみません。少しボーッとしてて……」
「ヨシュア……どこか調子でも悪いの?」
「大丈夫、問題ないよ。入口を守っている見張りを倒すんですよね?」
心配するようなエステルの言葉にヨシュアは首を横に振って答えた後、アガットに確認した。
「ああ……とっとと始めるぞ。」
そしてエステル達は黒装束の男達――リシャールの部下である情報部の兵達や魔獣が守っている入口に向かって行った………



後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第110話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/11/12 08:46
~レイストン要塞・研究棟前~

「はあ、せっかく王都で大きな作戦があるのに……。こんなところで爺さんの見張りなんてな。」
「ぼやくな、ぼやくな。王国のため、そして理想のため大佐の手足となって働くこと……。それが情報部の隠密隊員、『特務兵』の使命なんだからな。」
入口を守っている黒装束の男達――特務兵の一人が博士の見張りをしている事に溜息をついている所をもう一人の特務兵が慰めていた。
「フン。てめえらそんな大層な肩書だったのかよ。」
そこに聞き覚えのある声が聞こえたため、特務兵達は声がした方向を振り向いた。
「なに……?」
振り向くとそこには武器を構えたエステル達がいた。
「ば、馬鹿な……!」
「アガット・クロスナー!?」
目の前にいる人物に特務兵達は信じられない表情をした。
「遅ええっ!」
そして驚いている特務兵達の隙を狙って、アガット達は先制攻撃を仕掛けた!

「か、覚悟して下さい!ええいっ!」
「「ぐわっ!?前が……!」」
「「ギャン!?」」
ティータの導力砲で煙幕弾を放つクラフト――スモークカノンによって特務兵や特務兵達が調教した狼の魔獣は視界が真っ暗になり、うろたえた所を
「行きますわよ!雷よ、走れッ!…………ハァッ!」
「「「「ギャァァァッ!?」」」」
フィニリィは槍の切っ先に溜めた雷を震う魔術――大放電を特務兵達に放った!フィニリィの魔術によって特務兵達は叫び声をあげたところを
「はぁぁ、せいっ!」
「くらいやがれっ!」
「「ぐはっ!?………」
エステルとアガットはそれぞれクラフト――金剛撃とスパイラルエッジを放って、特務兵達を気絶させた。
「やあっ!」
「せいっ、はっ!」
「はっ!そこっ!」
「「ギャッ………」」
残りの狼の魔獣にティータが導力砲で攻撃し、そこにヨシュアは一体に近付き、クラフト――双連撃で一体を葬り、フィニリィは槍に雷を宿らせて素早く2回攻撃するクラフト――電磁連槍撃で残りの一体を葬った。
「ケッ……ざまあ見やがれ。散々コケにしてくれた借りは返してやったからな。」
「フフ、力を取り戻しさえすればこのような者共、私の敵にはなりませんわ!」
電光石火で特務兵達を倒したアガットは気絶している特務兵達を見て、弱冠気分が晴れた。また、フィニリィもプリネと契約したお陰で力を取り戻したので気分がよかった。
「個人的な恨みが入りまくってるわね~。」
エステルは苦笑しながらアガットを見た。
「ここからは時間との勝負だ。一刻も早く博士を連れて脱出しよう。」
「はいっ!」
そしてエステル達は研究棟の中に入った。

~研究棟内~

「また来おったか……。いい加減にせい!何もいらんと言うたじゃろ……」
ドアが開き、誰かが入って来た事に気付いた博士はまた軍関係者と思い、振り返りながら怒鳴った時、そこにはエステル達がいた。
「お、おじいちゃん……」
「ティ、ティータ!?はて……わしは夢でも見ておるのか?」
博士は今にも泣きそうな表情をしているティータを見て、驚いた。
「おじいちゃああん!よ、よかったぁ……。無事でいてくれてぇ……。……うううう……。うわぁああああああん!」
博士が無事である事に安心したティータはついに泣きだして、博士に抱きついた。
「こりゃ、どうやら夢じゃないようじゃな。それにお前さんたちは……」
「やっほー、博士。わりと元気そうじゃない?」
「マードック工房長の依頼で博士の救出に来ました。」
「なんと……。ここに潜入したのか。さすがカシウスの子供たち……。常識外れなことをするのう。」
博士はレイストン要塞に潜入したエステル達を見て、感心した。
「よお、爺さん。悪いがとっとと脱出の準備をしてくれや。あんまり時間がないんでね。」
「なんじゃ、お前さんは?ガラの悪そうな若造じゃの。ニワトリみたいな顔をしおって。」
「ニ、ニワ……。あんだと、このジジイ!?」
博士の言葉に一瞬呆けたアガットだったが、我に返った後博士を怒った。
「クスクス、言い得て妙ですわね。」
「あはは、博士ってばうまいことを言うわね~!」
「お、おじいちゃん。失礼なこと言っちゃダメだよ。この人はアガットさん。ギルドの遊撃士さんでお姉ちゃんたちの先輩なの。」
アガットに対する博士の言葉にフィニリィやエステルは笑い、ティータは慌ててアガットの事を説明した。
「ほう、お前さんも遊撃士じゃったか。そういや前に、カシウスから聞いたことがあるのう。いつも拗(す)ねてばかりいる不良あがりの若手がおると。」
「あ、あんのヒゲオヤジ……!」
「まあまあ、アガットさん。博士も、詳しい話は後にして急いで脱出の準備をしてください。何か持っていくものはありますか?」
カシウスに対して怒りを抱いているアガットを宥めたヨシュアは博士に尋ねた。

「そうか……。ならば、『カペル』の中枢ユニットを運んで行ってくれんか?下手に置いていったらまた連中に悪用されそうじゃ。」
「わかりました。」
ヨシュアは機械についている装置を外して、博士に渡した。
「わしはそいつを使って『黒の導力器』の制御方法を研究させられていたんじゃ。構造そのものは解析できなかったが、データと制御方法は弾き出してしまった。これで連中は、いつでも好きな時に例の現象を起こすことができるじゃろう。」
「そっか……」
特務兵達が導力停止現象をいつでも起こせる事を知ったエステルは複雑そうな表情をした。
「すまん、エステル、ヨシュア。せっかくお前さんたちが届けてくれた品物じゃったのに……」
「どうか気にしないでください。ティータの身の安全を盾にされたら従うしかないのは当然でしょう。」
「むしろ、あたしたちの方が博士たちを巻き込んじゃったみたい。」
頭を下げて謝る博士にヨシュアとエステルは慰めた。
「だーっ!ウダウダ言ってるヒマはねぇ!準備もできたし脱出するぞ!爺さんは、ギックリ腰にならない程度に急ぎやがれ!」
「フン、言いおったな……。まだまだ若いモンに負けん所を見せてくれるわ!」
「も、もう、2人とも……」
ティータはまた言い合いを始めた博士とアガットを見て、ティータは苦笑した。
「全くもう、揃いもそろって……ここが敵地である事が理解していますの?脱出するなら急いだほうがいいですわよ!」
博士やアガットの言い合いを呆れた表情で見ていたフィニリィは脱出を促した。そしてエステル達は脱出するための小型の船を確保するために波止場へと向かった………



後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第111話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/11/13 07:52
その後中庭に出て、波止場から脱出しようとしたエステル達だったが、気絶しきっていない特務兵の最後のあがきで警報が鳴らされ、
兵士達が厳戒態勢に見回りを始めたので、波止場に行くのを諦めて兵士達に見つからないように移動して、司令部に逃げ込んだ後地下に脱出路がないか探すために、地下へ続く階段に降りた。

~レイストン要塞・司令部・地下一階~

そこは牢屋となっており、またボースを騒がせた空賊――カプア一家が牢屋の中にいた。
「ね、ねえ……。なんだか外、騒がしくない?」
「あー、なんでも侵入者があったらしいな。」
ジョゼットは外の様子に不安そうな表情をした。不安そうな表情をしているジョゼットにキールは他人事のように説明した。
「なにィ、侵入者だと……。こうしちゃいられねえ!このスキに何とか脱出して……」
「兄貴、カンベンしてくれよ。そんな簡単に脱獄できるわけ……」
現在の状況に目が光ったドルンにキールは溜息をついた。その時牢獄にエステル達が姿を現した。
「ここは……。どうやら地下牢みたいだね。」
「へえ、ハーケン門の地下牢と比べると規模が大きいわね……」
地下に降りて、地下牢である事を理解したヨシュアやエステルは牢獄の広さに驚いた。そしてエステルがさらに歩みを進めると牢屋の中に入っているジョゼットと対面した。
「あれ……」
「あ。」
「「ああああああっ!?」」
エステルとジョゼットは同時に声を上げて、驚いた。
「お、お前たちは!?」
「あの時のガキどもか!?」
エステル達に気付いたキールとドルンは驚いた表情になった。
「なんというか……。お久しぶりですね。」
ドルン達にヨシュアは苦笑しながら、久しぶりの再会の言葉を言った。
「そっか、あんたたち、ここに捕まっていたんだ。………………………………。えっと、その、元気してる?」
エステルは哀れみの目でジョゼット達を見て、尋ねた。
「こ、こらあ!哀れみの目でボクを見るな!棒振り回すことしか能がないノーテンキ女のくせにっ!」
「ゴメン……。何言われても平気かも。それで気が済むんなら好きなだけ罵(ののし)っていーわよ。」
「む、むっか~!なに余裕かましてんだよっ!」
「おいおい、この連中、お前たちの知り合いかよ?」
ジョゼットは罵られても怒らないエステルに声を荒げて言った。アガットはジョゼット達と知り合いのように会話しているエステル達に驚いた後、ヨシュアに尋ねた。

「カプア空賊団……。定期船を奪った犯人です。」
「ほう、噂の連中か。かなり高性能な飛行艇を使っていたそうじゃの?帝国製と聞いていたがどのくらいのスペックかね?」
博士はジョゼット達の正体を知った後、研究者らしい質問をした。
「あ、ああ、最高時速は2300セルジュで……。って、どうしてそんな事を答えなくちゃならないんだ!」
博士の質問に律儀に答えようとしたキールだったが、途中で話すのをやめた。
「なんじゃ、ケチじゃのー」
「お、おじいちゃん。そんなこと聞いてる場合じゃないと思うんだけど……」
「ちょ、ちょっと待ちやがれ!そもそも遊撃士がなんでこんな所にいやがる?もしかして、さっきから鳴っているこのサイレンは……」
「………………………………」
「………………………………」
「……………………ふむ……」
「…………あう………………」
「……さてと、邪魔したな。」
「………ええ、さっさと行きますわよ。」
ドルンの言葉に今の状況に気付いたエステル達は少しの間黙った後、その場を後にした。
「ああっ、ごまかしたぁ!」
「侵入者ってのはお前らかよ!」
「こら~!俺たちもついでに解放しやがれ~!」
ジョゼット達は去って行くエステル達に牢屋から解放するよう喚いたが、エステル達は無視して地上に上がって行った。

~レイストン要塞・司令部・1階~

「はあ……。ビックリしちゃった。そういえば、あいつらって黒装束の連中と関係があったよね。なのに、リシャール大佐に逮捕されたってことは……」
「大佐の手柄になるように利用されたかもしれないね。ひょっとしたらルーアンのダルモア市長も……」
「ケッ、だからといって同情する必要はねえだろうが。余計な時間を食っちまった。他の脱出ルートを見つけるぞ。」
エステル達が司令部から出ようとした時、外から兵士の声が聞こえて来た。
「おい、見つけたか!?」
「いや、兵舎の方は一通り調べ終えたぞ!」
「監視塔も異常なしだ!」
「……となると、残るはこの司令部だけのようだ。少佐に報告するついでにしらみ潰しに捜すとするか。」
「まずっ!こっちに来るみたい!」
「クソッ……このままじゃ袋小路だぜ。」
「どうしますの?応戦するのなら、いつでもいいですわよ。」
「………………………………」
外から聞こえて来た声にエステルやアガットは焦り、フィニリィはいつでも兵士達と応戦できるよう槍を虚空から出した。ヨシュアはどうするべきか考え込んだ。その時、司令部の奥から声がした。
「来い!こっちだ!」
「今、なんか聞こえた?」
「う、うん……こっち来てって言ってたような。」
エステルやヨシュアは自分達を呼ぶ声に首を傾げた。そしてまたエステル達を呼ぶ声が奥からした。
「……時間がない!捕まりたくないんだろう!?」
「空耳ではなさそうじゃの。」
「こうなりゃ仕方ねえ!ダメもとで行ってみるぞ!」
そしてエステル達は奥から聞こえてくる声に誘導されて、ある部屋に入った………




後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第112話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/11/14 08:54
後数話でツァイス編が終わるので一気に連日更新します♪




声に導かれて入った部屋はなんと司令官室だった。

~レイストン要塞・司令官室~

「間一髪だったな。」
部屋の中に入ったエステル達を見たのはなんと、以前エステル達の追及を誤魔化したシード少佐だった。
「やっぱり……!」
エステルはシードの顔を見て、自分達を導いた聞き覚えのある声に納得した。
「さあ、念のため鍵を。」
「わかりました」
シードに促されたヨシュアは入って来たドアの鍵をかけた。
「フン、何のつもりじゃ?レイストン要塞の守備隊長。リシャール大佐に、わしの監禁を命じられていたのではないのか?」
シードを見た博士は鼻をならして、シードを睨みながら言った。
「……その節は失礼しました。すでに王国軍は、大佐の率いる情報部によって掌握されています。主だった将官は、懐柔されるか、さもなくば自由を奪われる始末……。モルガン将軍も、ハーケン門に監禁されている状態なのです。」
「えええっ!?あのガンコ爺さんが!?」
「大変なことになっていますね……」
「おいおい、一体どうしてそんな事になっちまったんだ?王国軍ってのはそこまでモロい組織なのかよ。」
「全く………なさけないですわね。それで軍として成り立っている事に呆れますわ。」
シードから王国軍の現状を知らされたエステルやヨシュアは驚き、アガットやフィニリィは王国軍が組織としてあまりにも脆すぎている事に呆れた。
「残念ながら……。帝国との戦いが終わってから軍の規律は少しずつ乱れていった。特に将官クラスの者たちの間で横領・着服・収賄が絶えなかった。そこをリシャール大佐に付け込まれてしまったのだ。」
シードは今の現状を暗い表情で語った。
「なるほどのう……。持ち前の情報力を駆使して弱みを握ったというわけか。」
シードの説明を聞いた博士は納得するように頷いた。
「その通りです。モルガン将軍が監禁された今、リシャール大佐は王国軍の実質的なトップとなりました。」
「と、とんでもないわね……」
「アリシア女王はどうだ?王国軍の指揮権は、最終的に女王に帰属するんじゃねえのか?」
リシャールが軍を牛耳っている事を知ったエステルは驚き、アガットはある事に気付いて尋ねた。
「不可解なことだが……女王陛下は沈黙を保ったままだ。陛下の直属である王室親衛隊も反逆罪の疑いで追われている……」
「は、反逆罪!?あのユリア中尉たちが!?」
「中央工房の襲撃事件を親衛隊の仕業に偽装したらしい。ご丁寧にも証拠写真まで用意したようだ。」
「ドロシーさんの写真か……」
シードの説明を聞いて、親衛隊が嵌められた写真の出所に心当たりがあったヨシュアは思わず呟いた。

「そ、そんなのおかしーですっ!中央工房をめちゃくちゃにしておじいちゃんを掠って……。アガットさんを撃って死にそうな目に遭わせたのに……。それを人のせいにするなんて!」
「ああ……返す言葉もない。上官の命令は絶対だが……黙認した私にも責任がある。だから……せめてもの罪滅ぼしをさせて欲しかった。」
珍しく怒りを表したティータにシードは申し訳なさそうな表情で言った。
「難儀な人だな、あんた。」
アガットは何も出来ないシードに同情した。
「フン、そういう事であれば無礼の数々は水に流してやろう。その石頭を、スパナで叩くくらいで勘弁してやるわい。」
「きょ、恐縮です。」
「お、おじいちゃんってばぁ。」
「冗談じゃ。」
「ねえ……メンフィルは今回の件はどうするの?リベールの同盟国なんでしょう?」
エステルはある事に気付いて、シードに尋ねた。
「申し訳ないがそれはわからない。………ただ、もしメンフィルが今回の件に介入してしまったら、恐らく周辺国からはリベールはメンフィルの支配国と見られてしまうだろう。
………正直、メンフィルには今回の件に介入してほしくないんだ……」
「そっか…………話はわかったけど……。これからどうするつもりなの?ほとぼりが冷めるまであたしたちを匿(かくま)ってくれるの?」
自分にとって恩人であり、友人もいるメンフィルに介入されたくない事が言われている事に複雑な気持ちを抱いたエステルだったが、気を取り直して尋ねた。
「いや、それよりもはるかに安全な方法がある。君たちには、この部屋から要塞を脱出してもらいたい。」
「この部屋って……」
シードの言葉が理解できず、エステルは周囲を見た。
「なるほど……。脱出口があるんですね?」
「ふふ、なかなか鋭いな。」
ヨシュアの言葉に笑みを浮かべたシードは部屋の壁を押した。すると隠し扉が現れた。

「わわっ……」
「さすが軍の司令室。なかなか凝ってるじゃねえか。」
「この緊急退避口を使えば要塞の裏にある水路に出られる。ボートが用意されているからそれを使って脱出できるはずだ。本来なら、部外者に明かしたら禁固10年は確実なのだが……。まあ、軍規は許してくれなくとも女神達は許してくれるだろうよ。」
「少佐さん……」
軍規を破ってまで自分達を助力してくれるシードをティータは心配そうな表情で見た。
「遠慮なく使わせてもらうぜ。最初に俺が降りる。次に、爺さんとティータが来い。エステル、ヨシュア。しんがりはお前らに任せたぞ。後、そこの小さいのは適当についてこい。」
「わかったわ!」
「了解です。」
「ちょっと!精霊王女であるこの私になんて口を聞いているのですか!?こら!待ちなさい!」
アガットはエステル達に指示した後、フィニリィの講義の言葉を無視して隠し扉の先に行った。
「少佐、さらばじゃ。」
「えっと、あの……。ありがとーございました!」
「まったくもう………まあいいですわ。…………ごきげんよう。」
そしてアガットに続き、博士やティータ、フィニリィが続いて行った。
「さてと……。残りはあたしたちだけね。少佐、色々とありがとう。」
「お世話になりました。」
「いや、礼はよしてくれ。実のところ……君たちと最初に会った時にこうなることは予想していた。」
「最初に会った時……?」
「ゲートでお会いした時ですね?」
シードの言葉にエステルは首を傾げたが、ヨシュアは心当たりがあり、確認した。ヨシュアの言葉を肯定するようにシードは頷いた。
「ああ……。名字を聞いたときにね。君たちは、カシウス大佐のお子さんたちなのだろう?」
「カシウス大佐って……。ええっ、父さんってそんなに偉い階級だったの!?」
父の過去の階級を知ったエステルは信じられない表情で驚いた。

「私も、あのリシャール大佐も彼直属の部下だったのだよ。10年前の侵略戦争でメンフィルに頼らず帝国軍を撃退した陰の英雄……。その子供たちならば必ずや、真実を突き止めて博士を助けに来ると思ってね。」
「そ、そうだったんだ……。でも、父さんが帝国軍を撃退した英雄って……」
父が英雄である事が気になったエステルはシードに尋ねようとしたが、その時入口の扉が叩かれた。
「少佐、よろしいですか!どうやら侵入者が地下牢に来ていた模様です!まだ司令部に潜伏している可能性が高そうですが、いかがしますか!?」
「や、やば……」
兵士が戻って来た事を理解したエステルは焦った。
「わかった!すぐ行くからその場で待機!」
シードは部下が来ないよう指示した後、外の兵士には聞こえない声でエステル達に脱出するよう促した。
「さあ、早く行きたまえ。」
「う、うん……!」
「それでは失礼します。」
そしてエステル達は隠し扉の先に行き、その先にあったボートの前で待っているアガット達と合流した後、ボートでレイストン要塞を脱出した………





後書き 現在FCのイベントの中でも”白き花のマドリガル”と並ぶ面白さのイベント、みなさんお待ちかねのあの大会の2日目ですがそれまでの話の数が15話を越えてしまいました……!多分グランセル編はかなりの長丁場になりそうです!………感想お待ちしております。



[25124] 第113話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/11/15 10:01
~レイストン要塞・ゲート前~

「ふう……。何とか脱出できたわね。まだ、こっちの方まではパトロールに来てないみたい。」
見回りの兵士がいない事にエステルは安堵の溜息を吐いた。
「シード少佐が引き留めているのかもね。でも、グズグズしていたら追跡部隊が編成されると思う。ギルドでプリネも言ってたけど、どこか安全な場所に博士たちを逃がさないと……」
「…………ふむ…………」
「お姉ちゃん、お兄ちゃん……」
ヨシュアの言葉に博士は考え込み、ティータは心配そうな表情でエステル達を見た。
「あ、心配することないからね。ティータと博士のことは絶対に守ってあげるんだから。」
「フフ……この私がいれば、人間2人の護衛ぐらい余裕ですわ!」
心配そうにしているティータを安心させるようにエステルは言い、フィニリィは胸を張って答えた。
「……いや。お前らはここで手を引け」
「え……!?」
「どういうことですか?」
しかしアガットの言葉に驚き、エステル達は反論しようとした。
「今回の一件で、俺は完全に情報部の連中にマークされた。そして、爺さんとティータも同じように追われ続けるはずだ。逃げるついでに、あのメンフィルの小娘が言ってたように2人まとめて安全な場所まで逃がしてやるよ。」
「アガットさん……」
「なるほど、そう来たか。そうじゃな。わしらに巻き込まれる人間は少なければ少ない方がいい。本当なら、ティータも巻き込みたくはなかったが……。人質に取られることを考えると一緒に逃げた方がいいじゃろう。」
「おじいちゃん……」
「ちょ、ちょっと待ってよ!あたしたちだけ安全だなんてそんなの絶対に納得いかない!ヨシュアもそう思うでしょ?」
アガットの説明に博士やティータは納得したが、エステルは納得できず反論して、ヨシュアやフィニリィに同意を求めた。
「いや……。ここはアガットさんが正しい。」
「ええ、確かに理に適っていますわ。」
しかしヨシュアやフィニリィは納得した表情で答えた。

「へっ……」
「逃亡・潜伏のセオリーだと一緒に行動する人間が多くなると、それだけ逃げ隠れがしにくくなる。その意味では、アガットさんだけで博士を逃がした方がいいんだ。君の気持ちは分かるけど……ここはアガットさんに従おう。それにフィニリィはプリネが契約している精霊だよ?」
「ええ、私はこれでもプリネと契約している身ですから、契約者と長時間離れていたら、魔力の供給もできませんから、どの道私はついていけませんわ。」
「そ、そんな……」
「さすがだな、ヨシュア。よく分かってるじゃないか。エステル、ここは素直に引いてもらうぜ。」
「で、でも……。理屈では分かるんだけど……」
ヨシュアに説明されたエステルだったが、それでも納得できない様子だった。
「エステルお姉ちゃん……」
「ふむ、あくまで納得できない顔をしとるのう。ならば、わしの代わりにある仕事を引き受けてくれんか?」
エステルの様子を見てティータは何も言えなかったが、見兼ねた博士がエステル達に提案をした。
「え……」
「まず、王都に向かってほしい。そして、グランセル城にいるアリシア女王陛下と面会してくれんか。」
「じょ、女王様に面会~!?」
「どういう事でしょうか?」
博士の提案にエステルとヨシュアは驚いて、尋ねた。
「例の『黒の導力器』じゃが……。あれは元々、リシャール大佐がどこからか入手した物らしい。彼は『黒の導力器』のことを『ゴスペル』と呼んでおったよ。」
「福音(ゴスペル)……ですか。」
「ケッ……。ご大層な名前じゃねえか。」
「あら、名前をつけるセンスはそこそこあるようですわね。」
黒の導力器の名前――ゴスペルを知ったヨシュアは考え込み、アガットは鼻をならし、フィニリィは以外そうな表情をした。

「どうやら、『ゴスペル』は何者かによって情報部から持ち出されたらしい。恐らく、その持ち出した人間が小包でカシウス宛に送ったのじゃろう。じゃが、あの導力停止現象で所在が情報部に知られてしまった。あの黒装束―――特務兵どもが中央工房を襲撃した真の理由はわしでも演算オーブメントでもない。あれを回収するためだったのじゃ。」
「そ、そうだったんだ……」
「なるほど……。それで色々納得できました。」
中央工房襲撃と博士誘拐の真実を知ったエステルとヨシュアは真剣な表情になった。
「リシャール大佐は、あれを使って王都で何かをしようとしておる。わしのカンが正しければ……非常にマズイことが起きるはずじゃ。その事を陛下に伝えて欲しくてな。」
「非常にマズイこと……。あの導力停止現象ってやつ?」
「いや……。おそらくそれを利用した……。……すまん、これ以上はわしの口から言うわけにはいかん。とにかく、あの『ゴスペル』について陛下に直接伝えて欲しいのじゃ。逃亡するわしの代理としてな。」
「はあ……まったくもう。そんな風に言われたら断るに断れないじゃない。」
「僕たちでよければ引き受けさせてもらいます。」
博士の説明を聞き、エステルとヨシュアは表情を和らげて答えた。
「すまんな、よろしく頼んだぞ。」
「あ、あの……。エステルお姉ちゃん。……ヨシュアお兄ちゃん……」
一方ティータは寂しそうな表情でエステルとヨシュアを見た。
「ティータ……。しばらくのお別れだね。」
「ごめんね……。付いててあげられなくて。」
エステルとヨシュアは名残惜しそうな表情で答えた。
「そ、そんなぁ。あやまる事なんてないよう。わたし、お姉ちゃんたちに助けられてばっかりいて……。すごく仲良くしてくれて、妹みたいに扱ってくれて……ミントちゃんやツーヤちゃんとも友達になれて。……うう……えうっ……」

「ティータ……」
別れに耐えられず泣きだしたティータをエステルは痛ましそうな表情で見た。
「お、おじいちゃんのこと助けてくれてありがとう……。うくっ、それから……仲良くしてくれてありがとう……。……2人とも……大好きだよ……ミントちゃんやツーヤちゃんにも2人の事は離れていても大好きだって、伝えてね………」
ティータは思わずエステルに抱きついた。
「君と一緒にいられて僕たちも嬉しかった……。こちらこそありがとう。」
「うん……絶対伝えておくね……」
「…………あなたの願い、承りましたわ。あの黒髪の幼子にあなたの思い、必ず伝えておきますわ。」
ティータの言葉にヨシュアは笑顔で答え、抱きついたティータの頭をエステルは優しく撫でて答え、フィニリィは静かに答えた。

「………………………………。名残惜しいだろうが、そのくらいにしておきな。涙なんざ、また会えた時に取っておきゃいいだろう?」
「グス……もう……デリカシーがないんだから……。」
アガットの言葉に呆れたエステルはティータと離れた後、アガットを見た。
「でも……あんたともしばらくお別れね。色々あったけど、一緒に仕事してすっごく良い経験になったわ。ありがとね、アガット先輩。」
「ぞわわ……。気色悪い呼び方すんじゃねえ!」
エステルからありえない呼ばれ方をしたアガットは鳥肌が立った。
「あはは、照れてやんの♪」
自分をからかったエステルにアガットは溜息をついた後、ヨシュアに言った。
「ったく……。さすがはオッサンの娘だぜ。ヨシュア、その跳ねっ返りが暴走しないように気をつけとけよ。武術や魔術だけは一人前だが、それ以外はどうも不安だからな。」
「フンだ、よけーなお世話。」
「ええ、任せてください。アガットさんも気をつけて。博士とティータのこと、どうかよろしくお願いします」
「おお、任せておきな。それじゃあ……俺たちは先に行くぜ!」
「さらばじゃ!カシウスの子供たちよ。」
「げ、元気でねっ!お姉ちゃん、お兄ちゃん!」
「うん!ティータたちも!」
「女神達の加護を!くれぐれも気を付けて!」
「この私が手を貸したのですから、必ず逃げ切るのですよ!」
エステル達の応援の言葉を受けて、博士とティータを連れたアガットはその場から去った。こうして中央工房襲撃とラッセル博士誘拐事件は幕を閉じた…………





後書き 次はエステル達やリフィア達でない別視点の話です。………感想お待ちしております。



[25124] 外伝~囚われる白き翼~
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/11/16 07:55
エステル達がレイストン要塞から博士奪還を成功させた翌日、王都から離宮へと続く街道――エルベ周遊道を学生服を着た少女――クロ―ゼが親衛隊隊長――ユリア中尉に誘導されていた。

~エルベ周遊道・入口~

「こちらです、クローゼ!」
「はあはあ……。何とか周遊道を抜けましたね。どうしましょうか、これから?」
ずっと走り続けたクロ―ゼは息を切らせながら、ユリアに尋ねた。
「このままキルシェ通りに出て王都(グランセル)にお向かいください。部下たちの陽動によって警備は手薄になっているはずです。そのお姿なら、気付かれずに遊撃士協会まで行けるでしょう。」
「分かりました……あ。それではユリアさんは……!?」
「ここで敵を食い止めます。少しの間ですが時間稼ぎにはなるでしょう。」
「そんな……そんなのダメです!私一人が逃げるなんて……。私もユリアさんと共に戦います!」
ユリア一人を残して逃げる事に納得できないクロ―ゼは顔色を変えて答えた。
「……人はそれぞれ守るべきものがあります。私がここに留まるのはおのれの信念と責務のため。ですが、貴女の場合は、失礼ながらただの感傷に過ぎぬかと存じます。御身が御身なだけのものでないこと、どうかお忘れなきよう……」
「………………………………。わかりました、ユリアさん。でも、約束してください。絶対に無茶なことはしないと……。それと、無事再会できたらお祖母さまが淹れた紅茶を一緒にご馳走になりましょう。私、新作のお菓子を焼きますから。」
決意のユリアを見て、説得できない事を理解したクロ―ゼはユリアを激励した。
「それは楽しみです。さあ、お急ぎください。……ジーク!しっかりお守りするのだぞ!」
ユリアの言葉に頷いたクロ―ゼはいつの間にか空よりやってきた白ハヤブサ――ジークと共に王都を目指して、走り出した。
「さてと……。そろそろ追いついてきたか……」
クロ―ゼを見送ったユリアは自分達を追ってくる人物達に気付いて、振り向いた。そこには特務兵達と特務兵が訓練した魔獣が戦闘態勢に入っていた。
「3人……それに犬どもが5匹か。フ、甘く見られたものだ。あの方より教わりし剣……。存分に震う時が来たようだ。」
ユリアは敵の少なさを見て、口元に笑みを浮かべた後、得物である細剣(レイピア)を構えた。
「王室親衛隊、中隊長……。ユリア・シュバルツ―――参るッ!」

~キルシェ通り・グランセル前~

「はあはあ……。……ジーク、来て!」
「ピュイ?」
一方王都が見えて安心したクロ―ゼはジークを呼んだ。
「私はもう大丈夫だからユリアさんのところに行ってあげて。このままだとユリアさんが……」
「ピューイ!」
「ありがとう、お願いね。」
ジークを見送ったクロ―ゼは王都を見た。
「ユリアさんの言った通り、こちらの警備は手薄みたい……。急いで遊撃士協会に行かないと……」
クロ―ゼが独り言を呟いたその時、雨が降り出した。
「雨……。………………………………。そういえば、エステルさんたちもそろそろ王都に来る頃かしら……」
クロ―ゼがエステル達の事を思い出したその時、上空から飛行艇のエンジンの音が聞こえて来た。
「……まさか!?」
エンジン音を聞いてクロ―ゼは表情を青褪めた。そして降りて来た飛行艇は紅蓮の塔やレイストン要塞に現れた特務兵の警備艇だった。
「情報部の特務艇……!まさか、昼間のうちから王都の前に現れるなんて……」
飛行艇から降りて来た特務兵達を見たクロ―ゼは逃げようとしたが
「あっ……」
「………………………………」
ロランスが目の前に立ちふさがった。
「やあ、珍しい所で会うものだな。」
そこに飛行艇からリシャールが降りて来た。
「ジェニス王立学園、社会科在籍。クローゼ・リンツ君……。少々、話を聞かせてもらえるかね?」
そしてクロ―ゼは特務兵達に拘束されて、どこかに連れて行かれた。

~王都グランセル・エレボニア帝国大使館内~

「麗しの王都に暗雲立ちこめ、昏(くら)き情熱の序曲が鳴り響く……。フフ……面白くなってきたじゃないか。」
クロ―ゼが特務兵達に拘束された同じ頃、大使館の部屋の窓から外を見て、オリビエは独り言を呟いていた。
「……相変わらずのお調子者だな。」
そこにエレボニア将校の服を着た男性が入って来た。
「おお……。ボクは夢でも見ているのか?ミュラー、親愛なる友よ!多忙な君が、わざわざ帝都から訪ねて来てくれるとは。一体どういう風の吹き回しだい?」
「何をぬけぬけと……。貴様が連絡の一つもよこさずにほっつき歩いているからだろうが。余計な手間を取らせるんじゃない。」
エレボニア将校――ミュラーは芝居がかかったように話すオリビエを睨んだ。
「フッ、照れることはない。口ではそう言いながらもボクの事が心配でしようがなくて飛んできてしまったのだろう?恋は盲目とはよく言ったものだ。」
「………………………………」
「さあ、遠慮することはない。ボクの胸に飛び込んできたまえ!」
いつまでもふざけているオリビエを見て、ミュラーは静かに言った。
「頼まれた情報をわざわざ持ってきたんだが……。どうやら知りたくないようだな。」
「ああん、つれないことを言わないでくれたまえ。わかった。つまり誠意を見せろと?」
「それが常識だと思うが。」
常識外の事ばかり行っているオリビエに言っても無駄と思いつつ、ミュラーは指摘した。
「そういう事ならお任せあれ。コホン……」
オリビエはわざとらしく咳払いをすると
「お願いします、ご主人様っ♪どうか教えてくださいませっ♪」
ポーズを決めて、猫撫で声でミュラーに情報を話すよう求めた。頼まれたミュラーは固まった。
「あれ、外したかな?それじゃあ、お次はこれだ。」
ミュラーの様子を見たオリビエはその場で跪いた。
「アニキー!一生のお願いじゃあああっ!どうか教えてくれぇぇい!」
「もういい……。頭が悪くなりそうだ……。話してやるから黙ってろ。」
オリビエの態度に呆れ果て、とうとう折れたミュラーは言った。
「ワァイ。」
ミュラーの言葉を聞き、オリビエはすぐに立ちあがった。
「例の『彼』だが……。ようやく足取りが見つかった。どうやら一月前までエレボニアの遊撃士協会にいたらしい。」
「へえ……?」
ミュラーの情報にオリビエは首を傾げた。

「ここ数ヶ月の間、エレボニア各地の協会支部が立て続けに襲撃された。その事件を調査していたらしい。」
「襲撃ねぇ……。まさかとは思うけどどこかの部隊の仕業だったりする?」
「さすがに……。10年前とは事情が違うさ。俺の知る限り、どの部隊にも出動命令は下されていない。何者かに雇われた猟兵団(イェーガー)の仕業だった可能性が高そうだ。いずれにせよ、事件解決と同時に彼の足取りは途切れてしまった。」
ミュラーは真剣な表情で語った。
「ふーむ……参ったな。せっかくリベールに来たのに完全に入れ違いだったわけか。」
「まあ、そういうことだ。目当ての人物がいない以上、この地に留まる必要はあるまい?もう一人のほうも、身分を隠してそう簡単に会える人物でない事はわかっているだろう?どうやら予想以上に激しい嵐が近づいているようだ。巻き込まれる前に帝都に戻るぞ。」
溜息を吐いているオリビエにミュラーは淡々と言った。
「はっはっは、ご冗談を。せっかく始まる極上のオペラに参加しないという手はあるまい?」
「……なに?おい、まさかお前……」
嫌な予感がしたミュラーはオリビエを睨んで尋ねた。
「役者もそろいつつあるようだ。あいにく、主役は不在だが代役には心当たりがあってね。あの5人なら、必ずや自力で舞台に上がってきてくれるだろう。」
ミュラーの睨みを無視して、オリビエは静かに語った。ついにリベールに渦巻く陰謀の歯車が着々と回り出した…………



後書き これにてツァイス編、終了です!次回からはFC編終章のグランセル編です!!グランセル編は今までの話と違って、クロスオーバーキャラ達が所々で活躍があるので楽しみにしていて下さい!!………感想お待ちしております。



[25124] 第114話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/11/17 08:13
お待たせしました!いよいよ終章、『王都繚乱』開幕です!!




博士を奪還した翌日、エステル達はギルドにマードックやリフィア達、キリカに報告していた。

~遊撃士協会・ツァイス支部~

「そうか……。博士を無事救出してくれたか。演算器も取り戻してくれたし、何とお礼を言ったらいいのか……。ありがとう。エステル君、ヨシュア君。」
「うーん、あたしたちは大したことしてないんだけど。どちらかというと、アガットの手伝いをしただけだし。」
「お礼なら、博士たちを守っているアガットさんに言ってあげて下さい。」
「もちろん、彼にも感謝してるさ。無事、軍の捜索から逃げ切れるといいんだが……」
マードックは特務兵達の捜索から隠れ続けているアガット達を心配した。
「今はアガットを信じるしかないでしょう。しかし、どうやらリシャール大佐は王都で何かをするつもりのようね。『ゴスペル』と呼ばれる漆黒のオーブメントを使って。」
「「………………」」
(まあ、お兄ちゃんからあんな事を聞かされたら2人があんな表情をしても仕方ないか……。)
キリカの推測の答えをある程度知っているリフィア達は真剣な表情で黙っていた。同じように事情を知っているエヴリーヌはその様子を見て、納得した。
「うん、どういう用途で使うのかは分からないけど……。その事を女王様に伝えるように博士から頼まれちゃったのよね。」
「ううむ、まさかそこで陛下の名前が出てくるとは……。確かに博士は、女王陛下と個人的な親交があったはずだ。王国の機密に関することを知っていてもおかしくはない。」
エステルの説明を聞いたマードックは唸りながら、答えた。
「そういう事情で、博士から正式に依頼を受けたんですが……。キリカさん、現状で僕たちが王都に行っても大丈夫ですか?」
「要塞に潜入したのがあなたたちである証拠はないから、今のところ問題はないでしょう。むしろ、追及される前に王都に向かった方がいいわね。少なくとも、中央工房に査察が入る可能性はありそうだわ。」
「確かに……。今のうちに対策を立てなくては。エステル君、ヨシュア君。どうか気を付けて出発してくれ。博士の依頼、よろしくお願いする。」
「うん、任せておいて!必ず女王様に伝えるから。」
「工房長も、どうかお気をつけて。」
「ああ、みすみす軍の連中に尻尾をつかませるヘマはせんさ。それでは失礼するよ。」
そしてマードックは今後の対策を立てるために、エステル達にお礼を言った後中央工房に向かった。
「さてと…………昨日、受付(ここ)の通信を使って大使館と通信したようだけど………その内容を私達にも教えてくれないかしら?多分、リシャール大佐達が何をしようとするのかメンフィル大使から何か聞いているんじゃないかしら?」
「へっ……?」
キリカの言葉に驚いたエステル達はリフィア達を見た。
「ほう、何故わかる?」
リフィアは察しがいいキリカを感心した後、尋ねた。

「タイミングを考えればそれほど難しい事ではないわ。エステル達が潜入している間に通信をした事、先ほど私がリシャール大佐が何かをしようとしている事を話した時、表情がいつもと違ったわよ。
それを考えれば察しがつくわ。」
「なるほど。…………話してもいいが………エヴリーヌ。」
キリカの答えに頷いたリフィアはエヴリーヌに目配せをした。
「はいはい。……ミントにツーヤ、エヴリーヌとちょっと外に出るよ。お菓子をご馳走してあげる。」
「本当!?ママ、ちょっとだけエヴリーヌさんとお出かけしていい?」
「う、うん。でもすぐに帰って来るのよ?急いでツァイスを出発するから。」
「はーい。」
「ツーヤ、あなたもいってらっしゃい。」
「あ、はい。」
そしてミントとツーヤはエヴリーヌに連れられてギルドを出た。
「………あの2人を外に行かせたって言う事は、リフィア達が手に入れた情報っていうのは子供達に聞かせるのはよっぽどまずい話なのかい?」
エヴリーヌ達が出て行った扉を見た後、ヨシュアはリフィア達に尋ねた。
「………ええ。ルーアンの孤児院放火事件やテレサさんを襲撃した犯人の件も関係していますから……」
「そうなんだ………それで、プリネ達は何を知っているの?」
プリネ達がリウイから聞いた情報が気になったエステルは真剣な表情で尋ねた。
「エステルさん、ルーアンを去る時ギルドでお話しましたよね?お姉様達に代わってお父様が特務兵を追った事を。」
「う、うん。」
「その様子だと、特務兵達を捕まえたのかい?」
プリネの説明にエステルは頷き、ヨシュアは先を促した。
「うむ。特務兵達を拘束して、奴らが何を計画しているのかある程度は聞けたそうだ。まず先に言っておくが、この情報を手に入れた方法はお前達ギルドが許容できないやり方で手に入れた。それでもいいのか?」
「ギルドは基本的に軍人の身の安全に関して何も言わないわ。私達はあくまで民間人を守る事を理念としているから。それで情報部は何をたくらんでいるの?」
リフィアの確認するような言葉に頷いたキリカは先を促した。
「……情報部が計画している事………それは今のリベールの王――アリシア女王を退位させ、代わりにデュナン公爵を国王にし、国王となったデュナン公爵を傀儡とし、真のリベールの指導者となる。……それが彼ら――情報部が目指している事です。」
「ええっ!?」
「それって………」
「………クーデターね。」
プリネが話した情報にエステルは驚き、ヨシュアとキリカは真剣そうな表情で答えた。
「ああ。奴らは最終的にこの平和なリベールを強大な軍事国家にする事を目標としているそうだ。」
「なるほど………それを聞いたらようやく事件の全貌が見えて来たね。」
リフィアの説明にヨシュアは頷いた。
「強大な軍事国家にする……。それって具体的にはどうするの?」
軍事国家になる事がどうなる事かあまり理解できていないエステルは首を傾げて尋ねた。そして政治に詳しいリフィアやプリネが静かに語った。
「……大体予想できる。税率を上げて軍事費を拡大したり、大規模な徴兵制を採用する。……他にはリベールは導力技術が盛んだから大量破壊を目的とした導力兵器を開発するというのもあるな。」
「後は大量の傭兵達との契約を合法化する……ですね。確かリベールでは傭兵集団――猟兵団(イェーガー)との契約を認めていないんですよね?」
「そ、そんな……」
「確かに全て考えられそうな事ね……」
リフィアとプリネの説明を聞き、エステルは信じられない表情になり、キリカは考え込んだ。

「リフィア。気になったんだけど、それほどの情報をどうやって彼らの口を割らせたんだい?今までの彼らの行動や言動を考えると尋問程度で話さないと思うんだけど……」
ヨシュアはリフィア達が情報部にとって機密情報ともなる情報を手に入れた方法が気になり、尋ねた。
「聞いたら後悔するかもしれないぞ?それでもいいのか?」
「うん、大丈夫。」
「あたしだって大丈夫よ!」
リフィアに尋ねられ、ヨシュアやエステルは力強く頷いた。
「奴らから情報を手に入れた方法だが………………拷問だ。」
「ご、拷問…………」
「………………それもただの拷問ではありません。四肢を潰し、眠る事を許さず、死ぬ事も許さない………まさに地獄に堕ちた者達が辿るような拷問です。」
リフィアの答えを聞いてエステルは信じられない表情で驚き、プリネはエステルの表情を見て辛そうな表情をした後、続きを言った。
「………それでルーアンの特務兵達はどうなったんだい?」
なんとなく答えがわかっているヨシュアはルーアンと対峙した特務兵達の末路を尋ねた。
「………奴らは情報を吐いた後、処刑したそうだ。放火や強盗に加えて一般市民への襲撃………余達、皇族にとっても見過ごせない事ばかりだったからな。」
「そう………なんだ。………あれだけの犯罪を犯したんだから、罪は償うべきだとは思ったけど………」
「エステル…………」
複雑そうな表情になったエステルを見て、ヨシュアは掛ける言葉がなかった。
「………もしかしてミントやツーヤに聞かせたくないから、エヴリーヌがあんな事を言ったのは2人のためを思って……?」
「ああ、まだ幼い子供達には聞かせるべき事ではないからな。もしお前達にこの情報を話す時になったら、2人をこの場から離れさせるよう、余があらかじめエヴリーヌに伝えておいた。」
エステルに尋ねられたリフィアは頷いた。
「そっか………ありがとう、2人とも。そんな大事な情報を話してくれて。」
「あ、ああ。」
「え、ええ。……その、エステルさんは何も思わないんですか?」
気を取り直して、お礼を言ったエステルを見て、リフィアは戸惑い、プリネは戸惑った後尋ねた。

「それってどういう意味??」
「その………私達メンフィルが拷問や処刑を行っている事です。それを知ってエステルさんは私達メンフィルや闇夜の眷属が怖いとか、酷いとか…………」
「そんな事、絶対ないわ!そりゃ処刑や拷問が賛成って言う訳には行かないけど、少なくともプリネ達はそんな事を望んで命令している人達じゃないってわかるもの!皇族でないあたしなんかじゃ背負えない事をプリネ達は背負っているんでしょ?それがわからないでプリネ達を怖がったりする事なんてできないわ!あたし達人間にだって悪い人や良い人がいる………それと同じようにメンフィル帝国にはそんな暗い部分があったり、闇夜の眷属の人達にも良い人や悪い人がいるんでしょ?だからプリネ達がそんな心配をする必要なんてないわ!」
「エステルさん………」
「フフ……今の言葉………リウイが聞いたらどんな顔をするだろうな?」
エステルの答えを聞いたプリネは驚いた後エステルを微笑ましい表情でみて、リフィアはエステルの今の言葉をリウイが聞いたらどんな表情をし、何を言うか気になった。
「ハハ、相変わらず君はたまに凄い事を言うな……」
「ちょっと……たまにって何よ!?たまにって。」
ヨシュアの言葉に反応したエステルはヨシュアを睨んだ。
「まあまあ。………それでみなさん、今の情報を聞いてどうしますか?」
エステルを宥めたプリネはエステル達に尋ねた。
「そうね。キリカさん、あたし達はどうすればいい?」
プリネに宥められたエステルはこれからの方針をどうすればいいかをキリカに尋ねた。
「………わかっているとは思うけど遊撃士は国家権力に対しては不干渉よ。ただ、何があってもいいようにグランセルの受付に今回の情報を伝えておくわ。貴方達は博士の依頼通り女王陛下に今回の件とリフィア姫殿下達が提供してくれた情報を伝えて。女王陛下がその情報を知って依頼を出してくれたらこちらも動けるわ。」
「了解しました。」
「よーし、そうとなれば早速出発ね!エヴリーヌ達と合流して急いで王都に行って、女王様に会わなくちゃ!」
「でしたら定期船を使ったほうがいいかもしれませんね。王都まで歩いたら半日くらいかかるそうですが、飛行船なら1時間足らずで着くと聞いています。」
「そっか、確かに……。せっかく徒歩で王国一周しようと思ったけど仕方ないか。」
プリネの提案を聞いたエステルは少しだけ残念そうな表情をした。
「だったら、少し待ちなさい。」
エステル達の様子を見て、キリカは通信器でどこかにかけて話始めた。

「こちら遊撃士協会……。こんにちは。いつもお世話になってるわね。……ええ……お願いするわ。王都行きを7枚……。ええ……請求はいつものように。それではよろしく頼むわね。」
「???どうしたの、キリカさん?」
「ひょっとして発着場の受付ですか?」
キリカの行動にエステルは首を傾げ、ヨシュアは会話相手を確認した。
「ええ、王都行きの定期船のチケットを確保したわ。代金はツァイス支部が持つから受付で搭乗手続きだけすればいいわ。それと、これを持っていきなさい。」
ヨシュアの疑問に頷いたキリカは正遊撃士資格の推薦状をエステルとヨシュアに渡した。
「えええ~っ!?」
「ず、ずいぶんと用意がいいんですね……」
推薦状を渡されたエステルとヨシュアは驚いた。
「定期船のチケットは博士の依頼に関する必要経費。推薦状は、博士救出という大仕事を達成したことへの評価。報酬といっしょに、胸を張って受け取りなさい。」
「あ……うん!ありがとう、キリカさん!」
「本当に……何から何まですみません。」
「短い間でしたが、お世話になりました。」
「うむ、世話になった。この場にいないエヴリーヌもお主に感謝しているだろう。」
「フフ、前にも言ったけどそれが私たち受付の仕事だから。さて……。王都行きの船は11時出発よ。早めに発着場に行って搭乗手続きをした方がいいわね。女神達の加護を。みんな、気を付けて行きなさい。」
「はい!」
「お世話になりました。」
そしてエステル達はエヴリーヌ達と合流して、ツァイスの空港に向かった…………


後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第115話
Name: sorano◆b5becff5 ID:c56dbbb4
Date: 2011/11/19 22:05
その後エステル達は空港に向かったが軍による検問がしかれた影響で定期船が遅れている事を知り、軍に見つからない安全路で行くため、エステル達は街道を使って王都に向かい王都とツァイスの国境――セントハイム門に到着した。

~セントハイム門・入口~

「ようやく到着か。ミント、疲れていない?」
「うん。大丈夫だよ、ママ!」
セントハイム門に到着して一息ついたエステルはミントに疲れていないか尋ねたが、ミントは疲れを知らないかのように元気良く答えた。
「疲れたら必ず言うのよ?その時はおんぶしてあげるわ。」
「えへへ…………ありがとう、ママ!でもミント、こうやってママやツーヤちゃん達といっしょに歩くだけで楽しいよ!」
「あ~ん、もう!本当にミントは可愛くて良い子で癒されるわ~。」
「くすぐったいよ~、ママ。」
可愛らしいミントの笑顔を見て、エステルはミントを抱きしめて頬をスリスリした。ミントはくすぐったそうにしながらも気持ちよさそうな表情をした。
「ハハ、あいかわらずエステルはミントに甘いなぁ。」
「ふふ、そうですね。………ツーヤは大丈夫?」
ミントを抱きしめているエステルを微笑ましそうに見ているヨシュアの言葉に同意したプリネはツーヤに尋ねた。
「はい、お気づかいありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。あたしとミントちゃんはルーアンにいた頃はいつも走りまわって遊んでいましたから、これくらいの距離を歩く事は大丈夫ですよ。」
「へ~。そこのところはプリネと似ていないね。プリネが小さい頃はこっちが誘わないと城の外に出なかったもんね。」
「ふむ、そうだな。外に出て民の生活を見るのもまた皇族の務めだぞ?」
「お姉様達がおっしゃっている事は最もだと思いますが、自分の立場を考えたら小さい頃から城の外には一人で出れないですよ。幼かった頃、お母様からも一人で外に出るときは必ず兵士の方達に護衛してもらうよう、言いつけられてますし。」
エヴリーヌとリフィアの言葉を聞いたプリネは苦笑しながら答えた。
「ペテレーネはお兄ちゃんとできた子供であるプリネを凄く甘やかしていたからね~。魔術の勉強や料理の作り方とか自分で教えていたもんね。」
「まあ、あ奴がリウイを慕う気持ちの強さはリウイの愛妻であったイリーナ様やリウイが”テネイラ事件”の犯人ではないと最初から信じていたセルノ王女ラピスと並ぶほどと言われておるからな。念願のリウイとの子供を授かったと知った時、嬉しさのあまり泣いていたからな。」
「………あたしもご主人様のお母様と少し話して思いましたけど、優しい人で凄くご主人様の事を大事にしているっていう思いが伝わってきました。それにあたしみたいな見ず知らずな子供がご主人様に仕えたいって伝えた時も凄く喜んでくれました。」
「あはは………でも、そのお陰で今の私がいます。お父様、お母様にたくさんの尊敬できるお兄様、お姉様達に囲まれて、私は幸せ者です。」
エヴリーヌやリフィア、ツーヤのペテレーネに対する評価や思いを知ったプリネは恥ずかしそうにしながら答えた。
「ハハ、本当にプリネ達は姉妹仲がいいね。…………さて、そろそろ行こうか。」
ヨシュアに促され、エステル達は門の受付に行った。

~セントハイム門・受付~

「やあ。セントハイム門にようこそ。王都に行きたいんだったら通行手続をしてもらえるかな?」
受付の兵士はエステル達を見て、尋ねた。
「うん。通行手続をしてもらえる?」
「よし来た。この用紙にサインしてくれ。」
そしてエステル達は用紙に必要事項を書いた。
「しかしなんだ。最近の女の子は進んでいるっていうか度胸があるっていうか……。わざわざ街道を通ってハイキングかい?特に唯一男の子の君は肩身が狭くないかい?」
「ハハ、大丈夫ですよ。」
「いえ、修行の一環として王都まで歩いているんです。」
兵士の疑問にヨシュアは苦笑し、プリネは答えた。
「へ~。だとすると、武術大会にも出るのかい?」
「え、武術大会……?」
兵士の言葉を聞いて、エステルは首を傾げた。
「なんだ、知らないのかい。武術大会ってのは王都の『王立競技場(グランアリーナ)』で毎年開かれているイベントでね。王国軍の精鋭を始め、腕に覚えのある人間が集まって武術の腕を競い合う大会なんだ。たしか、今日の午後に予選が行われるはずだよ。」
「へえ~、なんだか面白そう!」
「はは、エステルが好きそうなイベントだね。」
「ふむ………………」
(うわぁ~…………あの表情はなんか、嫌な予感…………絶対めんどくさい事を考えているよ………)
兵士の答えを聞いたエステルは意気込み、その様子を見たヨシュアは苦笑し、リフィアは何かを思い付いたような表情で考え込み、リフィアの表情を見たエヴリーヌは溜息を吐いた。
「女王陛下のはからいで入場料は割引されるし……。ああ、僕も勤めがなかったら見物に行ったんだけどねぇ。」
兵士は武術大会が見れない事に溜息を吐いた。
「あはは、ご愁傷様。でも、どうせだったら見物より参加がしたかったな。今までの修行の成果も確かめられそうだし。」
「確かに……。でも、予選をしているなら参加するのは無理そうだな。依頼も受けているし見物だけでガマンしようよ。」
「ちぇ、残念。」
「………………………………」
兵士はエステルとヨシュアのやり取りをジッと見ていた。その様子に気付いたエステルは兵士に尋ねた。

「ん、兵士さん?どうしたの。マジマジと見つめちゃって。」
「その胸のエンブレム……。若いから気付かなかったけど君たち、ひょっとして遊撃士?」
「うん、そうだけど?」
「何か問題でもありますか?」
「いや、その……。問題というか何というか……。参ったな。さすがにありえないと思うけど……」
「……こら。勤務中の無駄口は感心せんな。」
エステル達に尋ねられ、兵士が口を濁していたその時、控室から隊長らしき人物が現れた。
「あ、隊長……」
「なんだ、問題でもあったか?」
「そ、それがですね……。彼らが、その……遊撃士らしいので……」
「なに……」
隊長は兵士からエステル達が遊撃士である事を知ると、目を細めた。
「???」
(どうしたんでしょう?今までの関所の受付の態度を考えるとおかしいですよね?)
(………恐らく博士奪還が関係しているんだろうな。………どうやら余達が口を挟む必要が出て来たようだな。)
隊長の表情を見て、エステルは何の事からわからず首を傾げ、プリネとリフィアは小声で推測をしていた。
「あー、君たち。申しわけないが、少々時間をもらえるかな?」
「え、でもあたしたち、早く王都に行きたいんだけど。」
隊長の言葉にエステルは驚いた後、軽い反論をした。
「ほう、王都に、ねえ。参考までに聞くが、何をしに行くつもりなのかね?」
「え、え?その、頼まれた仕事で……」
「仕事の内容は?」
「えっと、博士の……。……じゃなくて!う~、何て言えばいいのか」
「申しわけありませんが、ギルドの規約があるのです。依頼人のプライベートにも関わるので内容を明かすのは勘弁してもらえませんか?」
仕事内容が軍に知られる訳にはいかない事に気付き、仕事内容が言えないエステルは唸り、ヨシュアが手助けをした。

「ふん……怪しいな。どうやら、色々と話を聞かせてもらう必要がありそうだ。」
「どうしてミント達が調べられなくちゃならないの?ねえ、どうして??」
「お願いします、教えて下さい。」
「うっ……………。その、実は……。軍本部からの通達があってね。あの王室親衛隊が、陛下に反逆して各地でテロ事件を起こしたらしいんだ。しかもどうやら遊撃士を装って活動している連中もいるらしくてね……。念のため、遊撃士を名乗った人間は取り調べの対象にしているのさ。」
子供であるミントやツーヤに嘆願され、兵士は純粋なミント達の眼差しに負けて理由を話した。
「あ、あんですってー!?」
兵士の言葉を聞いたエステルは驚いて、声を上げた。
「こら、余計なことを言うな。申しわけないがこれも上からの命令でね。身元が証明されるまでここに留まってもらおうか。」
「じょ、冗談じゃないわよ。なんであたしたちが……」
隊長の言葉に反論をしようとしたその時、リフィアが口を挟んだ。
「ほう、余達を疑うか。お前達、どうなっても知らないぞ?」
「何?それはどういう意味だ。」
リフィアの言葉に隊長はリフィアを睨んで、尋ねた。
「…………お姉様の言葉通りの意味です。エステルさん達はメンフィル大使の依頼を受けて、私達を王都まで護衛しているんです。」
「メンフィル大使…………メンフィル皇帝の!?バカな、そんな事がある訳が………確かに君達は闇夜の眷属のようだが………」
リフィアに続いたプリネの言葉に驚いた隊長は、信じられない様子でいた。
「事実だ。余やプリネ、エヴリーヌ。後、そこにいる2人の子供はメンフィル貴族の子供でな。リベール全都市の観光と修行をしたい余達の願いを
寛大な陛下が聞いてくれてな。年も近いエステル達なら馴染みやすいと思って、陛下がエステル達に依頼したのだ。そうだな?」
「はい。」
「ん。」
「ほえ?ちが………ムグ。」
(ミントちゃん、今は何も言わないでリフィアさん達の言う通りに頷いておこう。)
(う、うん。)
リフィアの嘘も混じえた説明に話を合わせるようにプリネやエヴリーヌは頷いたが、ミントは首を傾げて声を出そうとしたがツーヤに口を抑えられ、ツーヤに小声で頷いたミントは疑問を口に出すのをやめた。

「確かに話の筋は通っているが…………証拠か何かはないのか?」
「証拠か。証拠なら余の名が証拠だ!」
「おい、この子の名前はどれだ。」
「あ、はい。この名前です。」
隊長に尋ねられ、兵士はリフィアが書いた通行手続き書を見せた。
「リフィア・ルーハンス……………この名前が何か?」
「ルーハンスとはリウイ陛下に嫁いだ側室の名前の一つだ。」
「なっ!?」
「では、王家に連なる貴族の方ですか!?」
リフィアの説明に隊長や兵士は驚いた後、信じられない表情でリフィアを見た。
「まだ疑うのなら大使館に問い合わせてもよいぞ?まあ、その時は覚悟してもらうからな。王家に連なる余達を疑った事、リウイ陛下に手間をかけさせた事。これらを後に大使館を通してリベール王家に抗議させてもらう。その原因となった
のがお前達とわかれば、どうなるかは自分達自身がよくわかっているだろう?」
リフィアは不敵な笑みを浮かべて、隊長や兵士に答えた。
「…………っつ!た、隊長!どうしましょう……!?」
「う、うろたえるな!いいだろう!そこまで言うなら大使館に問い合わせて、確かめてみようじゃないか!」
リフィアの言葉に兵士は顔を青褪めさせ、うろたえて隊長に尋ねたが、隊長は震えそうになる体を必死に抑えて、うろたえている兵士を叱った後、強がりで答えた。
「しかし隊長、もしそちらの方がおっしゃっている事が本当だったら、我々は……!」
「だが、我々誇り高き王国軍が脅しに屈する訳にもいかん……!」
「あの………そんな事をしなくても遊撃士協会に確かめてみたらどうですか?」
言い争っている兵士と隊長を見兼ねたプリネは提案をした。
「え?」
「何?」
プリネの提案に隊長達は言い争うのをやめて、プリネを見た。
「先ほど説明したようにリウイ陛下は遊撃士協会に私達の護衛の件等を依頼として出していますから、ギルドに確かめてもらえばすぐにわかると思います。」
「!おい、すぐにツァイスのギルドに確認しろっ!」
「ハッ!」
プリネの言葉に逸早く反応した隊長は兵士に命令した。そして兵士は受付に備え付けてある通信器を手にとって、ツァイスのギルドと通信をした。

「…………はい、そうです。特徴は………………それで、そのリフィアという方が王家に連なる貴族だと…………え!?そ、それは本当なのですか!?………はい、お手数をお掛けして申し訳ありません………では………」
兵士は通信器でキリカに尋ねた後、絶望したかのように顔を青褪めさせた状態で通信器を切った。
「おい、どうだったんだ?」
「………はい。…………………」
隊長にせかされた兵士は青褪めた表情で隊長にエステル達には聞こえない小声で説明した。
「…………なっ!?げ、現メンフィル皇帝の一人娘にして、リウイ皇帝陛下の孫娘………!?」
兵士の説明を聞いた隊長は思わず声を出し、兵士と同じように顔を青褪めさせてリフィアを見た。
「ほう、ツァイスの受付は相変わらず話が速くて助かるな。説明をする手間が省けた。」
隊長の言動や表情を見て、リフィアはキリカが状況を理解して、あっさり自分の正体を説明した事に感心した。
「さて…………これで余が何者かやエステル達が依頼人の正体や仕事内容を言う事に口を閉ざした理由がわかっただろう?」
「「も、申し訳ございません!!」」
勝ち誇った笑みで尋ねたリフィアに隊長と兵士は揃って、頭を深く下げて謝罪した。
「わかったのなら、さっさと余やエステル達を通すがよい。そうすれば、今回の事は不問としよう。」
「はっ!寛大なお心、ありがとうございます!………君達、本当に申し訳なかった。完全に自分の誤解だったようだ。」
リフィアに感謝した隊長はエステル達に頭を下げて、謝罪した。
「うんうん、分かればいーのよ。」
「そちらも職務でしょうから、どうか気になさらないでください。」
そしてエステル達は無事、セントハイム門を抜けた。

~キルシェ通り~

「………はぁ~。それにしてもさっきはリフィア達のお陰で助かっちゃったわ。」
セントハイム門を出て、兵士達が見えないところまで歩いたエステルは立ち止まって安堵の溜息を吐いてリフィア達を見た。
「けど、リフィアさん達って本当に凄いね、ツーヤちゃん!リフィアさんが皇女様ってわかるとミント達を足止めしようとしていた兵士さん達、みんな態度を変えちゃったね。」
「うん。そんな凄いご主人様達のお傍にいられるよう、がんばらないと。」
ミントはリフィアの凄さを改めて知って、はしゃぎ、ツーヤは同じメンフィル皇女であるプリネの傍にいて当然の存在になるよう、改めて誓った。
「そうだね。キリカさんも状況を理解してリフィアの本当の正体を話してくれたのも助かったけど……本当によかったのかい?」
「む?何の事だ?」
エステルの言葉に頷いたヨシュアに尋ねられたリフィアは何の事か理解できず、尋ねた。
「ヨシュアさんが言いたいのは王国軍にリフィアお姉様が王都に行く事がバレてしまった事です。恐らく情報部の耳にも入るでしょうし……」
「何だ、そんな事か。そんな事、今更であろう?すでにボースで余とリシャールは出会っている上、モルガンとも対峙した。余達が王都に行く事等、とっくに予測済みであろう。」
「確かにそうよね。………でも、大佐達が何かしてこないといいんだけど。」
「それってどういう意味?」
エステルの疑問にエヴリーヌは尋ねた。
「レイストン要塞でシード少佐が言ってたんだけど………大佐達は軍の上層部の人達の弱みを握ったり、家族を人質にとったりして自分に逆らえないようにしたんだ。
だから、特務兵達がリフィア達を襲撃とか誘拐みたいな真似をしなくちゃいいんだけど………」
「確かにそれは考えられるね。リフィア達の存在は大佐達にとってもある意味、最もやっかいで動きを封じ込めたい存在になると思うし。」
「……ご主人様は絶対、あたしが守ります。」
エステルとヨシュアの言葉を聞いたツーヤは両方の拳を握って、決意の瞳で答えた。
「フフ………ありがとう、ツーヤ。でも大丈夫よ。私はこう見えてもお父様達に鍛えられているから、特務兵にも遅れをとらないわ。それにリフィアお姉様やエヴリーヌお姉様もいますから、大丈夫です。」
「うむ!裏でコソコソ動き回るような輩に負ける余ではない!」
「ん。お兄ちゃん達からプリネ達の事を守るよう頼まれているからね。プリネ達を狙ってきたら容赦なくやっつけちゃうつもりだよ。」
プリネの言葉にリフィアは力強く頷き、エヴリーヌは物騒な言葉を言いながらも力強い言葉を言った。
「あはは………よく考えたら特務兵の実力じゃあ、リフィア達には勝てないわね。……さて、急いで王都に行きましょう!」
「了解。」
「はーい!」
「うむ!」
「「はい。」」
そしてエステル達は陰謀という闇が静かに迫っている王都――グランセルに向かった…………



後書き リフィア達がいるお陰でどこかの誰かさんの再登場フラグも折っちゃいました♪次回から舞台がいよいよグランセルに移ります!楽しみに待ってて下さい!………感想お待ちしております。



[25124] 第116話
Name: sorano◆b5becff5 ID:44750cd5
Date: 2011/11/20 08:29
その後グランセルに到着したエステル達はギルドに向かった。エステル達がギルドに入ると、そこには今までの旅で出会った正遊撃士を含めた4人の正遊撃士達がグランセルの受付――エルナンから応援の言葉をもらっていた。

~遊撃士協会・グランセル支部~

「それでは武運を。まあ、皆さんだったら余裕で通過できると思いますが。」
「へへっ、分かってんじゃねえか。」
「出場するからには全力でいかせてもらうよ。」
「そうですよね!軍の連中には負けられません。」
グラッツやカルナの言葉にアネラスは力強く頷いた。
「さてと……。そろそろ出かけるとしようか。……ん?」
3人を促した正遊撃士――リベールNo2と言われ、数少ないA級正遊撃士クルツはエステル達に気付いた。
「えっと……」
「どうも、お邪魔します。」
エステルとヨシュアはクルツ達に挨拶をした。
「あんたたちは……エステルとヨシュアじゃないか。それにメンフィルのお嬢ちゃん達も。それに確かあんた達は孤児院の………なんでここに?」
エステル達に気付いたカルナはミントやツーヤにも気付いて、首を傾げた。
「あ……ルーアンのカルナさん!」
「こんにちは!」
「お久しぶりです。少し事情があって、エステルさん達といっしょに旅をしているんです。」
カルナがいる事に気付いたエステルは驚き、ミントやツーヤはペコリとお辞儀をした。
「そういや、空賊騒ぎの時に一度会ったことがあったっけな。たしか、シェラザードと一緒にいた新人たちだよな?それになんでメンフィルのお前さん達までいるんだ?」
グラッツはエステル達の顔を見て、思い出した後、リフィア達にも気付いて首を傾げた。
「それについては私から説明させていただきます。皆さんは、早く行かないと間に合わなくなると思いますよ。」
「おっと、それもそうだね……。悪いね、2人とも。積もる話はまた後にしよう。」
「それじゃあ、俺たちはこれで失礼するぜ。」
「またね、新人君たちにエヴリーヌちゃん!」
「……失礼する。」
エルナンに促されたクルツ達はエステル達に声をかけた後、ギルドを出て行った。

「は~、あれだけ遊撃士が揃うとなんだか壮観って感じよね。」
「ええ。それにしても遊撃士があれだけ揃うなんて滅多にないのではないですか?」
エステルは去って行ったクルツ達を見て言った事にプリネは同意した。
「うむ。しかも全員正遊撃士の紋章を付けていた。それに一人一人、中々の強さを感じられたな。」
「………そういえばエステル達がつけている紋章と形がちょっと違ったね。あれがエステル達が目指している正遊撃士ってやつなの?」
リフィアは去って行ったクルツ達を評価し、エヴリーヌはクルツ達がつけていた遊撃士の紋章がエステルとヨシュアがつけている紋章と形が異なる事に気付いて、尋ねた。
「そうだよ……。それにしてもみんな凄腕みたいだね。出場するとか言ってたからひょっとして……」
エヴリーヌの疑問に頷いたヨシュアが言いかけた所をエルナンが続けた。
「ええ、お察しの通りですよ。彼らはこれから武術大会の予選に出るんです」
「へ~っ……って。す、すみません!あたし、ツァイス支部から来たエステル・ブライトっていいます。」
「同じく、ヨシュア・ブライトです。」
「ミントです!よろしくお願いします!」
「あたしはツーヤと申します。精一杯がんばるのでよろしくお願いします。」
「余の名はリフィア!余が来たからには大船に乗った気分でいるがいい!」
「私………エヴリーヌ。よろしく。」
「プリネと申します。お姉様共々よろしくお願いします。」
エルナンにエステル達はそれぞれ自己紹介をした。
「私はエルナン。グランセル支部を任されています。キリカさんから連絡を頂いたのであなたたちの来訪は知っていました。早速ですが、転属手続をしていただけますか?」
「はい、わかりました。」
そしてエステル達は転属手続きの書類にサインをした。

「はい、結構です。遊撃士協会、グランセル支部にようこそ。個人的に、あなた達が来るのをとても楽しみにしていたんですよ。たしか、カシウスさんのお子さんたちなんですよね?」
「あ、うん、そうだけど……。やっぱりエルナンさんも父さんの知り合いなのよね?」
「ええ、カシウスさんにはいつもお世話になっています。聞いた話ですと、旅に出たきりお戻りになっていないそうですが?」
エステルの疑問に頷いたエルナンは逆に尋ねた。
「うん……。しばらく留守にするって手紙はあったんだけど……」
「具体的に、どこに行くかは書かれていなかったんです。ロレントからツァイスまで一通り回ってみたんですけど父の消息は分かりませんでした」
「ふむ、そうなると国内にはいない可能性が高そうですね。しかし、参ったな……。現在、軍のテロ対策で王都で遊撃士のメンバーが活動しにくくなっているんです。キリカさんから聞いた件に対策するためにもできればカシウスさんと連絡が取りたかったんですが………そういえばリフィアさん。貴女達にも尋ねたい事があるのですがよろしいでしょうか?」
カシウスと連絡が取れない事に溜息を吐いた後、リフィア達を見た。
「ふむ。何を聞きたいのだ?」
エルナンの言葉にリフィアは首を傾げて、尋ねた。
「…………皇女である貴女達なら詳しいと思うのですが。………率直に聞きます。今回の件――リシャール大佐達のクーデターに対して、メンフィル帝国はどのように動くのですか?」
エルナンは真剣な表情でリフィア達に尋ねた。
「その件か。リウイも言っていたが特に動く事はせず、今回の件は静観するそうだ。」
「え………なんで!?メンフィルってリベールの同盟国なんでしょう!?助けてくれないの!?」
リフィアの答えにエステルは驚いて、リフィア達に尋ねた。
「エステルさん。………申し上げにくいのですが今回の件はあくまでリベール国内の問題です。他国が侵攻して来た等でしたら援護する必要は出てきますが、国自身の問題はあくまで国自身が解決するべき事が通例なんです。ですからメンフィル軍を派遣して、情報部の者達を拘束………と言った事は現状不可能です。」
「そうなんだ………」
申し訳なさそうな表情で語るプリネを見て、エステルは何も言えず、黙った。
「…………やはりそうですか。貴重な情報をありがとうございます。」
「それで、エルナンさん。僕達はどうすればいいですか?」
ヨシュアはこれからの方針をエルナンに尋ねた。

「遊撃士協会の性格上、軍への介入はできませんが……傍観できる状況でもなさそうです。とりあえず、あなたたちはラッセル博士の依頼を遂行していただけますか?」
「もちろん、そのつもりよ。ただ問題なのは、どうやったら、女王様に会えるかなんだけど……」
エステルはどうやって、リベールの国王――アリシア女王に会うかを悩んだ。
「そうですね……。普段なら、協会の紹介状があれば取り次いでもらえるはずなんですが……」
「え、そうなの!?なーんだ♪心配して損しちゃった。」
口を濁しながら言うエルナンの言葉にエステルは反応して、明るい顔をしたがヨシュアは首を横に振って答えた。
「エステル……。そう簡単にはいかないと思う。何といっても、城を守る親衛隊がテロリスト扱いされているんだ。それが何を意味するか分かるかい?」
「え、それってつまり……紹介状を握りつぶされちゃう?」
「うん、その可能性が高そうだ。レイストン要塞と同じくグランセル城もリシャール大佐に掌握されている可能性が高いと思う。」
「うう、やっぱりそっか~……。そうなると、簡単には女王様に会えそうもないわね。………そうだわ!ここにはリフィア達がいるじゃない!リフィア達が女王様に会いたいって言えば正面から堂々と入れてくれるんじゃない!?」
ヨシュアに言われたエステルは唸った後、名案を思いつたかのようにリフィア達を見て、言った。
「エステル、それはやめたほうがいいよ。」
「なんで?」
「確かにリフィア達が名乗れば城には入れてくれるかもしれないけど………下手をしたら、色々理由をつけられて女王様にも会わせてくれない上、城から出られない状況になってしまうよ。」
「あ、そっか。みすみす大佐達の手の平に乗るようなものね………」
理由がわかったエステルは残念そうな表情をした。
「まあ、わざと敵地に入って目的は果たして、暴れながら脱出というのもいいのだがな。」
「キャハッ♪それ、賛成~。」
「あ、あの………さすがにそれはちょっと………………」
プリネはリフィアとエヴリーヌの物騒な提案に冷や汗をかいた。
「うーん……。ここで考えてても仕方ないから、とりあえずお城に行ってみない?うまくすれば、門番あたりから情報が聞き出せるかもしれないし。」
「それは構わないけど……、一つ注意しておくことがある。僕たちが女王陛下に面会しようとしていることは隠しておいた方がいいと思うんだ。リシャール大佐の耳に入ったら妨害される可能性が高いからね。」
「あ、なるほど……」
「確かに、当面は他の遊撃士にも伏せておいた方がよさそうですね。くれぐれも慎重に情報収集を行ってください。」
「わかったわ、エルナンさん。」
「何か分かったら報告します。」
そしてエステル達がギルドを出ようとした時、リフィアが呼びとめた。

「エステル。余達は少しやる事ができた。悪いがお前達だけで行ってくれないか?」
「お姉様?」
「ハァ…………嫌な予感。」
リフィアの提案にプリネは首を傾げ、エヴリーヌは溜息を吐いた。
「え?う、うん。わかったわ。行くわよ、ミント。」
「はーい!どんなお城かな?ミント、とっても楽しみ!」
「ツーヤ、あなたも行ってらっしゃい。せっかく王都に来たのですから、一度は城を見た方がいいですよ。」
「わかりました、ご主人様。」
そしてエステル達はギルドを出た。エステル達が出たのを見送ったリフィアはエルナンにある事を言った。
「さて………エルナンとやら。余達の用事の件だが…………」
「……………え!?…………いいんですか?そんな事をして。」
エルナンはリフィア達の用事を聞いて、驚いて尋ねた。
「うむ!カーリアンも毎年出場している事だし、余達が出場してもおかしくなかろう!まあ、さすがにマーシルンの名は出さないから安心せよ!」
「ハァ~………やっぱり、めんどくさい事になったよ。………でも、遊べるからいっか。キャハッ♪」
「お、お姉様。私も出場するのですか………?」
「当り前であろう。何をおかしな事を言ってる。」
「フゥ……わかりました。気は進みませんがやるからには全力でやらせていただきます。」
リフィアに何を言っても無駄とわかっているプリネは諦めて溜息を吐いた後、気を取り直した。
「うむ。それでこそ、余の妹だ!では、行くぞ!」
「はいはい。」
「はい。」
そしてリフィア達もギルドを出て、ある場所に向かった。
「………やれやれ………どうやら今年の大会は相当荒れそうですね………」
リフィア達を見送ったエルナンはクルツ達も参加しているある大会がどうなるかわからず、溜息を吐いた…………




後書き もうみなさんお分かりと思いますがリフィア達は例の大会に出場します!!後、少し先の話を話しておきますと……決勝の組み合わせは原作通りにはなりません!と言っておきましょう………感想お待ちしております。



[25124] ~武術大会・予選~前篇
Name: sorano◆b5becff5 ID:44750cd5
Date: 2011/11/22 10:26
その後エステル達は城まで見に行き、遊撃士の紋章を隠して旅行者を装って城門を守っている兵士達から色々な情報を手に入れて話合っているところフィリップを連れたデュナン公爵が城から出て来て、武術大会を行っている王立競技場(グランアリーナ)に観戦に行った。兵士達からデュナンが女王代理を務めている事を
知っていたエステル達はデュナンの動向を調べるため、グランアリーナに向かった。

~グランアリーナ・観客席~

「うわぁ……。いっぱい入っているわね~!」
「うん……。すごい熱気だね。予選からこの数っていうことはかなり大きなイベントみたいだ。」
「人が一杯いて、凄いね!ツーヤちゃん!」
「うん。本当に人がたくさんいるね………」
チケットを買ってグランアリーナに入ったエステル達は観客席に行って、ほぼ満席になっている観客席を見て驚いた。
「予選試合、どこまで進んでいるのかな。」
エステルがそう呟いた時司会の声が聞こえて来た。
「お待たせしました。これより第~試合を始めます。」
「あ……始まったみたい。」
「それじゃあ、どこか空いている所に座ろうか。」
「わかった。ほら、ミント、ツーヤ。はぐれないためにもいっしょに手を繋ぎましょう。」
「うん!」
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて……」
そしてエステル達は空いている観客席を探して、座った。

「南、蒼の組。国境警備隊、第~部隊所属。~以下4名のチーム!」
片方の門から兵士達が現れた。
「あれっ……。試合って1対1じゃないんだ?」
「うん、団体戦だったみたいだね。僕の記憶だと確か個人戦だったはずだけど……」
団体戦である事にエステルは驚き、ヨシュアは首を傾げた。
「北、紅の組。遊撃士協会、グランセル支部。クルツ選手以下4名のチーム!」
そしてもう片方の門からクルツ達が現れた。
「あっ、カルナさんたちだわ!」
「危うく見逃すところだったね。」
「カルナさんって、どれだけ強いんだろうね、ツーヤちゃん!」
「正遊撃士だから少なくとも兵隊さんには負けないとあたしは思うな。」
クルツ達の登場にエステル達は興味津々でクルツ達を見た。
「これより武術大会、予選第4試合を行います。両チーム、開始位置についてください。」
審判の言葉に頷いた両チームは開始位置についた。
「双方、構え!」
両チームはそれぞれ武器を構えた。
「勝負始め!」
そして兵士達とクルツ達は試合を始めた!試合は終始クルツ達の有利で運び、結果はクルツ達の勝利となった。

「勝負あり!紅の組、クルツチームの勝ち!」
「やったあああーーっ!すごいわ、カルナさんたち!」
「凄っごいいーーっ!カルナさん達って、凄く強いね、ツーヤちゃん!」
「うん。それにほかの遊撃士の人達も凄く強いね。遊撃士の人達の動きはとても参考になるよ。」
「うん、いい勝負だったね。軍人たちもいい動きだったけど連携攻撃と役割分担の上手さで遊撃士チームには及ばなかったな。」
試合がクルツ達の勝利で終わった事にエステル達が興奮しているところ、また司会の声が聞こえて来た。
「……続きまして、これより第5試合を始めます。南、蒼の組。チーム『レイヴン』所属。ベルフ選手以下4名のチーム!」
片方の門からかつてルーアンで操られていた不良集団――レイヴンの下っ端達が現れた。
「あ、あの連中!?」
「ルーアンの倉庫街にいた不良グループのメンバーだね。なるほど、普通の民間人にも開かれている大会なのか……」
「はあ、場違いもいいとこだわ……。戦闘や武術のプロが集まっているのにあんな連中が敵うわけないじゃない」
「なんか複雑な気持ちだね、ミントちゃん………ルーアンに住んでいた人達が出場したのは嬉しいけど、よりにもよってあの人達だなんて………」
「うん………確かクラムに酷い事をしようとしていた人達なんだよね?ミント、そんな人達は応援できないよ……」
レイヴンの登場にエステルは溜息を吐き、ヨシュアは驚き、ツーヤやミントは複雑そうな表情をした。
「北、紅の組。隣国、カルバード共和国出身。武術家ジン選手以下1名のチーム!」
「ジ、ジンさん!?」
「また知り合いか……。世間は狭いって感じだね。でも、1人で出場なんてさすがに不利だと思うけど……」
「確かに……。いくら相手がチンピラでも囲まれちゃったらマズイかも。」
アガットを助けるための薬の原料をとりに行く時、手伝ってくれた遊撃士――ジンの登場にエステル達は驚き、また1人で出場している事に驚いた。その時、司会の説明が聞こえて来た。
「ジン選手は今回の予選でメンバーが揃わなかったため1名のみでの出場となります。著しく不利な条件ではありますが本人の強い希望もあったため今回の試合が成立した次第です。みなさま、どうかご了承ください。」
「これより武術大会、予選第5試合を行います。両チーム、開始位置についてください。」
審判の言葉に頷いた両チームは開始位置についた。
「双方、構え!」
両チームはそれぞれ武器を構えた。
「勝負始め!」
そしてジンとレイヴンの下っ端達は試合を始めた!

「「「「オラァッ!!」」」」
レイヴン達は同時に襲ってきたが、ジンは余裕の笑みを浮かべた後、何かを溜める動作をした。
「こおぉぉぉぉ、奥義………………」
するとジンの両手から大きな闘気でできた弾ができた。
「破っ!雷神掌!!」
ジンの両手から放たれた闘気の弾はレイヴン達に命中して、爆発した!
「「「「グワァァァァ!?」」」」
まともにジンの技を受けてしまったレイヴン達は悲鳴を上げた後、その場に倒れて立ちあがらなくなった。
「ワァァァァァァ!!!」
観客達はたった一人で圧倒的にレイヴン達に勝利したジンに歓声をより大きくあげた。
「勝負あり!紅の組、ジン選手の勝ち!」
「ひゃっほーーっ!さすがジンさん、圧倒的!」
「余計な心配だったみたいだね。あの巨体で、動きも速いし、技のキレも凄まじいものがある。ただ、さすがに本戦になったら1対4は厳しいとは思うけど……」
「うーん、確かに……」
その時、また次の試合の組み合わせのアナウンスが入った。

「……続きまして、これより第6試合を始めます。南、蒼の組。王国正規軍所属、第~部隊所属。~以下4名のチーム!」
片方の門より、また王国軍の兵士達が現れた。
「北、紅の組。異世界の国、メンフィル帝国出身。冒険家リフィア選手以下2名のチーム!」
もう片方の門からは何と、リフィアとエヴリーヌが現れた。
「リフィア選手はジン選手と同じように今回の予選でメンバーが揃わなかったため2名のみでの出場となります。著しく不利な条件ではありますが本人の強い希望もあったため今回の試合が成立した次第です。みなさま、どうかご了承ください。」
少女2人だけの出場にざわめいている観客達に司会は説明をした。
「リ、リフィア!?い、いつのまに出場手続きをしちゃったんだろう……」
「彼女達の用事ってこの事だったんだ……」
リフィアとエヴリーヌの登場にエステルとヨシュアは驚いた。
「あれ?ご主人様はいませんね。リフィアさん達が出場するならいっしょに出場するかと思ったのですが……」
「あ、ツーヤちゃん。試合が始まるみたいだよ!」
プリネを探していたツーヤだったが、ミントに言われてプリネを探すのをやめた後、すでに所定の位置についているリフィア達を見た。
「双方、構え!勝負始め!」
そしてリフィア達と兵士達は試合を始めた!

「例え相手が女子供であろうと大会に出ている上、相手は”大陸最強”を誇るメンフィル帝国の出身だ!油断や手加減はするな!行くぞ、お前達!」
「「「イエス、サー!!」」」
隊長らしき人物の声に部下達は頷いて、リフィア達に攻撃をしようとしたが
「フフ、その心意気は評価しよう!だが!相手が余達だったのが残念だったな!エヴリーヌ!」
「オッケー!久しぶりにやっちゃおうか、キャハッ♪」
リフィアの言葉に頷いたエヴリーヌは弓を虚空にしまい両手を掲げ詠唱を開始した。またリフィアもエヴリーヌと同じように詠唱を始めた。
「「……我等に眠る”魔”の力よ、我等に逆らう者達に滅びを!………血の粛清!!」」
「「「「グワァァァァ!?」」」」
リフィアとエヴリーヌが協力して放った魔術は兵士達の上空から魔力でできた槍が雨のように降り注ぎ、それに命中した兵士達は断末魔を上げた後、倒れた。
「死なぬよう、手加減はしてある。安心せよ!」
「エステル達との旅のお陰で昔と比べてかなり手加減できるようになったから、リウイお兄ちゃんに『成長したな』って褒めてもらえるかな?キャハッ♪」
倒れて、ピクリともしない兵士達にリフィアやエヴリーヌはそれぞれ勝ち誇った笑みで言った。
「しょ、勝負あり!紅の組、リフィアペアの勝ち!救急部隊!今すぐ来てくれ!」
「オオオオォォォォォォォォ!!!」
観客達は見た目とは裏腹に圧倒的な強さを見せたリフィア達に驚愕した。ピクリともしない兵士達を見て審判は驚いた後、リフィアの勝ちを宣言した後、ピクリともしない兵士達をすぐに治療しないとまずいと思い、救急部隊を呼んだ。
そして救急部隊がやって来て、担架に一人一人乗せて、医務室に運んで行った。
「す、凄っ………!」
「リフィア達の魔術は手加減してもすさまじい威力とはわかっていたけど、今のは今まで見た魔術でも最高の威力だな………」
「ふえ~………ミント達もがんばらないとね、ツーヤちゃん!」
「うん。(あれがあたしが目指すべき領域………ご主人様のお傍にいるためにも今まで以上にがんばらないと!)」
リフィア達が見せた魔術にエステルやヨシュアは驚き、ミントははしゃぎ、ツーヤは決意の表情でリフィア達を見ていた。

そして次の試合の組み合わせのアナウンスが入った……………




後書き ついにエウシュリーの新作が発表されましたね!!……ただ、今回はディル・リフィーナの話でない事にがっかりです……エウが作るソフトは間違いなく面白いのはわかっているんですけどね……次の次の新作こそは戦姫シリーズが来てほしいものです。……感想お待ちしております。



[25124] ~武術大会・予選~後篇
Name: sorano◆b5becff5 ID:8906f534
Date: 2011/11/23 08:21
空の軌跡のOVAが発売されるまで後数日……それまでカウントダウンの意味で連日更新します!……発売まで後2日!!




~グランアリーナ・観客席~

「……続きまして、これより第7試合を始めます。南、蒼の組。王国軍正規軍所属、第~部隊所属。~以下4名のチーム!」
今までのように片方の門より、また王国軍の兵士達が現れた。
「北、紅の組。異世界の国、メンフィル帝国出身。旅人プリネ選手以下4名のチーム!」
もう片方の門からはなんと、マーリオン、ペルル、フィニリィと共にプリネが現れた。
「あ!プリネさんだ!」
「ご、ご主人様!?」
プリネの登場にミントは声を上げ、ツーヤは驚いた。
「嘘!?プリネまで出場していたの!?」
「ハハ……顔見知りばかりの大会になってしまいそうだね………」
争いごとがあまり好きそうでないプリネまで出場している事にエステルは驚き、ヨシュアは自分達の知り合いばかりが出ている大会になる事に苦笑した。
「これより武術大会、予選第7試合を行います。両チーム、開始位置についてください。」
審判の言葉に頷いた両チームは今までと同じように開始位置についた。
「双方、構え!」
両チームはそれぞれ武器を構えた。
「勝負始め!」
そしてプリネ達と兵士達は試合を始めた!

「先の試合でやられた仲間達の思いを組むためにも、メンフィル帝国に我等王国正規軍魂を見せてやれ!突撃!」
「「「イエス、サー!!」」」
隊長の言葉に力強く返事した兵士達は武器を構えて、プリネ達に突撃して来た。
「もう………お姉様達ったら、やりすぎですよ………」
隊長の言葉を聞いたプリネは溜息を吐いた後、気を取り直して迎撃の構えをした。
「全員、迎撃態勢!各個撃破で勝負を決めますよ!」
「了解……しました……!」
「うん!」
「フフ……私(わたくし)の魔術に翻弄されるがいいわ!」
プリネの号令にマーリオン達は頷いた後、それぞれ突撃してくる兵士達に向かって行った。
「喰らえっ!」
兵士の一人はマーリオンに向かって銃剣を突きだしたが
「……無駄です。」
「なっ!?」
マーリオンが自分の目の前に出した水の結界に阻まれて攻撃できなかった。
「水よ………」
そこにマーリオンは魔術――連続水弾を兵士に向けて放った!
「ゲフ!?グハァ!?」
マーリオンの魔術をまともに喰らった兵士は自分達がいた開始位置のところまで吹き飛ばされた。
「終わりです………溺水……!」
「グッ!?…………」
そしてマーリオンが止めに放った魔術を受けて、兵士は上から滝のように落ちて来た水に叩きつけられた後、立ち上がらなくなった。
「敵、撃破……です。」

「「そこだっ!」」
「おっと!」
「無駄ですわ!」
2人の兵士はそれぞれペルルとフィニリィを攻撃したが、ペルルには回避され、フィニリィには槍で防がれた。
「今度はこっちの番だよ!超・ねこパ~ンチ!」
「グギャッ!?……ガッ!?………」
ペルルが放ったクラフトを受けた兵士はペルルのクラフトの威力のせいか、壁まで吹き飛ばされて、壁に当たってずるずるとその場に蹲って立ち上がらなくなった。
「あっちゃ~……最高の威力が出ちゃったみたいだね……ごめんね!」
ペルルは威力がバラバラなクラフトがたまたま最高の威力を出してしまった事に気付いて、蹲っている兵士に頭を軽く下げて謝罪した。
「ウフフフフ…………どれが本物かわかります?」
「な、なっ!?これは一体!?」
一方フィニリィは得意としている幻術を自分が相手している兵士に放った。フィニリィの幻術にはまってしまった兵士は自分の周りをたくさんのフィニリィがいる事に錯覚して、うろたえた。
「フフ……魔術に対抗策も持っていない人間ごときにこんな初歩的な魔術を破る事なんてできないでしょう?」
「ク、クソ!王国正規軍魂をなめるなぁっ!」
たくさんのフィニリィに笑われた兵士は頭に来て、近くにいたフィニリィに攻撃したが、フィニリィは消えた。
「なっ!?」
「フフ……残念。それは偽物ですわ。まっ、遊びはここまでにして決めさせてもらいますわ!」
そしてたくさんにフィニリィは持っている槍に雷を溜め始めた。
「ヒ、ヒィィィィ!?」
本能的に危険と感じた兵士は持っている銃剣を振り回してフィニリィに攻撃したが、幻影のフィニリィが消えるだけで意味はなく、また幻影が消えてもまた新たな幻影が現れた。
「我が魔術にひれ伏しなさい!……大放電!!」
「ギャァァァァァ!?」
幻影も含めたフィニリィが放った魔術を受けてしまった兵士は叫び声を上げながら崩れ落ちた。
「まっ、大衆に私の力を見せるのも悪くはありませんわね。」

「ハァッ!」
「甘いですッ!」
一方隊長はプリネに向かって行ったが、プリネはレイピアで防いだ。
「クッ……このっ!」
「………………」
攻撃を防がれた隊長は次々と激しい連続攻撃を行ったが、プリネはレイピアで冷静にさばいていた。
「この………これならどうだ!?」
何度攻撃をしてもらちがあかないと感じた隊長は勢いに任せて、プリネのレイピアを弾き飛ばすために大ぶりな攻撃をしようとしたところ
「――そこです。フェヒテンバル!!」
「ガッ!?………………」
プリネは大ぶりでできた隙を逃さずクラフトを放ち、プリネのクラフトをまともに受けてしまった隊長はその場に蹲って立ち上がらなくなった。
「終わりのようですね………みなさん、お疲れさまです。」

「勝負あり!紅の組、プリネチームの勝ち!」
「ふわぁ~……プリネさん達、勝っちゃったね、ツーヤちゃん!」
「うん……!ご主人様達、凄いです!」
ミントとツーヤがプリネの勝利にはしゃいでいる所、ツーヤは退場していくプリネと目があった。
(フフ………応援してくれたのね。ありがとう、ツーヤ。)
ツーヤに気付いたプリネはツーヤに向かって軽く手を振って、門へと消えて行った。
「あ!今、ツーヤちゃんに向かって手を振ってくれたよね!?」
「うん!ご主人様、あたしに気付いてくれたんだ……!」
ミントの言葉にツーヤは嬉しそうに答えた。
「ふええ~……!さすがプリネね!余裕勝ちじゃない!動きも洗練されていて、全く隙がなかったし!」
「うん。さすが”大陸最強”と名高いメンフィルの武官や父親に鍛えられているだけはあるね。彼女達の使い魔達もかなり強いし、親衛隊クラスでないと相手にならないんじゃないかな。」
エステルはプリネの強さを改めて見て興奮し、ヨシュアは使い魔を含め、評価をしていた。
そしてまた次の試合の組み合わせのアナウンスが入った。
「……続きまして、これより第8試合を始めます。なお、この試合をもちまして予選試合は終了となります。南、蒼の組。王国軍情報部、特務部隊所属。~以下4名のチーム!」
片方の門からはなんとルーアン、ツァイスで対峙した特務兵達が現れた。
「あいつら……!」
「どうやら正体を隠すのはやめたようだね………」
「あの人達は……!」
「……………!」
特務兵の登場にエステル達は驚いた。
「北、紅の組。異世界の国、メンフィル帝国出身。メンフィル帝国軍所属。闇剣士カーリアン選手以下1名のチーム!」
もう片方の門からはその場にいる男性達を魅了するような体つきと服装をした女性――リウイの側室の一人であり、幻燐戦争の英雄の一人、そしてリフィアの祖母であるカーリアンが現れた。

「凄いカッコ………ほとんど下着しか着てないようなものじゃない!……あれ?今思ったらさっきの人の名前に聞き覚えがあるんだけど………(それにあの人、どっかで見た事があるような……?)」
エステルはカーリアンの服装に驚いた後、聞き覚えのある名前や見覚えのある顔に首を傾げた。
「聞き覚えがあって当然だよ、エステル。あの女性はリフィアにとって祖母にあたる人だよ。」
「あ、そうか。…………って祖母!?どっからどう見てもそんな風には見えないわよ!?」
ヨシュアから言われたエステルは驚いた後、カーリアンの姿を信じられない表情で見ていた。
「ハハ………エステル、忘れたのかい?闇夜の眷属の人達は寿命も僕達より遥かに長寿だし、しかも若い姿のままを保っていられる事を。」
「あ、そう言えばそうね。あのリウイって人もリフィアのお祖父ちゃんだったものね。それを考えたら不思議でもないか………」
苦笑しながら言ったヨシュアの言葉にエステルは納得して、カーリアンを見た。
(ん~?今誰か、私にとって腹立つ事を言った気がするわね………リフィアかしら?)
一方カーリアンは何かに感づいて、周囲を見回した。その時、アナウンスが入った。
「カーリアン選手はジン選手やリフィア選手と同じように今回の予選でメンバーが揃わなかったため1名のみでの出場となります。著しく不利な条件ではありますが本人の強い希望もあったため今回の試合が成立した次第です。みなさま、どうかご了承ください。」
「”大陸最強”を誇るメンフィルの中でも1,2を争う実力を持つ人か…………多分特務兵達じゃあ、数がいても敵わないね。」
「そうね。確かプリネを鍛えた人の一人なのよね?どんな強さか気になるわ~。」
「お姉さん~、がんばって~!そんな人達、あっという間にやっつけっちゃって~!」
「ミ、ミントちゃん。いくら許せない相手だからって大声でそんな事を言ったら、さすがに少し不味いと思うよ。」
これから見せるであろうカーリアンの実力にヨシュアやエステルは見逃すまいと試合に注目し、ツーヤはミントの応援に冷や汗をかいて、ミントを宥めていた。
「これより武術大会、予選第8試合を行います。両チーム、開始位置についてください。」
審判の言葉に頷いた両チームは今までと同じように開始位置についた。
「双方、構え!」
両チームはそれぞれ武器を構えた。
「勝負始め!」
そしてカーリアンと特務兵達が試合を始めた!

「相手は1人とはいえ、油断するな!メンフィルに我等誇り高き特務部隊が最強の部隊である事を証明するぞ!」
「「「イエス、サー!」」」
黒を基調とした服装をした隊長の言葉に特務兵は力強く頷いた。
「ふ~ん………あれがクーデターをたくらんでいる特務兵か………お手並み拝見といきますか!……それぇっ!」
カーリアンは双剣を振って、衝撃波を起こして特務兵達に向けて放った!
「!全員、散開!」
「「「ハッ!」」」
自分達に襲いかかって来る強力な剣風に気付いた隊長は特務兵達に命令した後、特務兵達と同じようにその場を横に跳んで回避した。
「敵を囲めっ!相手は1人だ!」
「「「ハッ!」」」
隊長の言葉に頷いた特務兵達は素早くカーリアンの攻撃範囲外らしき場所から3人で囲んだ。
「ふ~ん。そこそこ鍛錬はされているようね。」
カーリアンは特務兵達の動きを見て、自分なりの評価をした。
「突撃!同時攻撃で一瞬で決めろっ!」
「「「ハッ!」」」
特務兵達は3人同時にカーリアンに襲いかかったが
「フフ………耐えられるかしら?激しいの、行くわよ♪………白露の桜吹雪!!」
「「「ギャァァァッ!?……………」」」
カーリアンの周囲を殲滅する衝撃波を出す強力なクラフト――白露の桜吹雪を受けて、断末魔をあげて、吹っ飛ばされた!吹っ飛ばされた特務兵達は壁に当たった後、重傷を負った状態で気絶した。
「え。」
一瞬の出来事に隊長は呆けた。
「フフ……戦場で余所見は厳禁よ♪」
そこにカーリアンが一瞬で隊長の目の前に現れた。
「なっ!?」
「喰らっときなさいよ!冥府斬り!!」
「ガアッ!?……………」
カーリアンのクラフトを受けた隊長は部下達と同じように一瞬で全身傷だらけになった上、体中の神経もいくつか斬られて動かなくなり、その場に崩れ落ちて二度と立ち上がらなくなった。
「フフ、ちょっとだけ楽しめたわ。ありがと♪」
そしてカーリアンは倒れている特務兵達に投げキッスを送って勝利のセリフを言った。

「しょ、勝負あり!紅の組、カーリアン選手の勝ち!救急部隊!今すぐ来てくれ!」
「オオオオォォォォォォォォ!!!」
観客達は圧倒的な強さを見せたカーリアンに驚愕した。重傷を負って呻いている隊長や特務兵達を見て審判は驚いた後、カーリアンの勝ちを宣言した後、痛みで呻いている特務兵達をすぐに治療しないとまずいと思い、救急部隊を呼んだ。
そして救急部隊がやって来て、担架に一人一人乗せて、医務室に運んで行った。
「な、何あれ………あたし達と次元が違うじゃない!?あいつらそこそこ強いのにあの人、苦もなく一瞬でやっつけたじゃない!」
「今までの参加者の中でも圧倒的な強さだね………あれなら例え相手が4人いても関係ないね………多分、彼女が優勝候補の一人に上がっているだろうね………」
「すっ………ごーーーーいーーーー!あの女の人、凄く強いね、ツーヤちゃん!」
「うん。上には上がいるって聞くけど、あの人に勝てる人っているのかな?」
カーリアンの圧倒的な強さにエステルやヨシュアは驚き、ミントは興奮し、ツーヤはカーリアンに勝てる人物がいるのか疑問に思った。その時、試合終了のアナウンスが聞こえて来た。
「ただ今の試合をもちまして予選試合は全て終了となりました。本戦出場チームは9組。明日から3日間にわたって開かれる、トーナメント戦で優勝チームを決します。なお、先ほど行った抽選によってプリネチームはシード権取得となり、
プリネチームは2回戦からとなっております。それでは最後に、大会主催者であるデュナン公爵閣下から挨拶があります。」
そして特別席にいたデュナンが椅子から立ち上がって、喋り始めた。

「ウオッホン!あー、親愛なる市民諸君よ、本日はわざわざの観戦ご苦労だった。私は残念ながら、政務で忙しかったため一部の試合を見逃してしまったが……。私が見た試合はどれもレベルが高く非常に楽しませてもらい、また興奮した!最近、テロ事件に陛下の健康不調と深刻なニュースばかり続いているが……。だが、どうか安心して欲しい!陛下から政務を託された者としてこのデュナン・フォン・アウスレーゼ、身を粉にして諸君らの期待に応えよう!そして、この武術大会の活気が諸君らの気持ちを明るくするのに役立ってくれればと思う次第である!明日からの本戦を、どうか楽しみにしていて欲しい!」
デュナンの演説が終わると観客席から大きな拍手が起こった。
「あ、あの公爵さんにしては言ってることがマトモすぎる……」
「多分、情報部のスタッフが文面を考えているんだろうね。」
デュナンのまともな演説にエステルは驚き、ヨシュアは大体の事情を察した。
「はっはっは……。おお、そうだな。大会の優勝者には、賞金とは別に私からのプレゼントを用意しよう!」
一方デュナンは自分に向けられている拍手に気分をよくして、ある提案をした。
(か、閣下……。勝手によろしいのですか?)
そこにフィリップが後ろからささやいた。
(うるさい、黙っておれ。私の気前の良さを見せる良い機会だ。)
フィリップを黙らせたデュナンは向き直って、ある事を宣言した。
「そのプレゼントとは……。3日後にグランセル城で行われる宮中晩餐会への招待状である!陛下は残念ながら出席されないが各界の名士が集う、最高の晩餐会だ。王侯貴族のみに許された、最高の料理ともてなしを約束しよう。今日勝ち残った出場者は、どうか励みにして頑張ってほしい!」
デュナンの突然の提案に観客達は驚いた後、大きな拍手と歓声をデュナンに送った。こうして武術大会予選試合は締めくくられた……………





後書き ついに幻燐1からいるキャラの一人、カーリアン登場です!!カーリアンはリウイ達と違って、FCでもかなり活躍させるつもりなので幻燐ファンは楽しみにして下さい!!……感想お待ちしております。



[25124] 第117話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8906f534
Date: 2011/11/24 21:37
前話でどっかの誰かさんがいきなり負けたと勘違いされている方もいらっしゃったので、一応言っておきますと、カーリアンに負けた特務兵の隊長はただのモブキャラの隊長です!この小説では特務兵達は2チーム出た事になっているので、もう1チームは残っているのでご安心を……発売まで後、1日!!





~グランアリーナ・観客席~

「ねえねえ、ママ!プリネさん達に『おめでとう』を言いに行こう~!」
「あの……あたしもミントちゃんといっしょですぐにご主人様にお祝いの言葉を言いたいです。……ダメ……ですか?」
ミントとツーヤの言葉にエステルとヨシュアはお互いの顔を見て、相談した。
「ねえ、ヨシュア……。リフィア達に頼んどいた方がよくない?」
「うん、僕もそう思う。彼女達なら事情も知っているし、もし優勝できたら皇族と名乗らなくても正々堂々とグランセル城に入ることができる。例の事を、女王陛下に伝えるチャンスだってあるかもしれない。そういうことだね?」
「うん……。博士の依頼を他人任せにするのはイヤだけど……。それにリフィアと女王様は顔見知りらしいし、ひょっとしたら会えるかもしれないし。こだわっている場合じゃなさそう。」
「僕は異存はないよ。まだギルドに戻っていないかもしれないし、選手室の控室に行ってみようか?」
「うん、そうね。じゃあ念のためにカルナさん達にも挨拶もして、今の件をお願いしましょう。」
「そうだね。」
エステルとヨシュアはそれぞれ頷いた後、ミント達に向き直った。
「じゃあ、リフィア達に勝利のお祝いを言いに行きましょうか!」
「うん!」
「はい!」
そして4人はリフィア達がいる控室に向かった。

~グランアリーナ・控室~

そこにはリフィア達やクルツ達、そしてカーリアンがいた。
「みんな!予選突破、おめでと~!」
「あっ、新人君たちだ!」
「おや、あんたたちか。」
「よお、ひょっとして試合を見に来てくれたのか?」
エステル達に気付いたアネラス、カルナ、グラッツはエステル達に話しかけた。
「はい、ちょうど先輩方の試合を見ることができました。すごく良い試合でしたね。」
「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ。今回はいきなり団体戦に変更されたから戸惑ったがね。」
ヨシュアのお祝いの言葉にクルツは苦笑しながら答えた。
「それにしてもリフィア達ったら、酷いわね~。あたし達に秘密で武術大会に参加しちゃって!今までそんなそぶりを見せた事なかったから驚いたわよ!」
「フッフッフ………本来余が驚かせる側なのにお主にはいつも驚かされてばかりだからな。ようやく、お主を驚かせたぞ!」
「それ、自慢になっていないよ。」
「あはは………」
エステルはジト目でリフィア達を見たが、リフィアは悪びれも無く胸を張って答え、リフィアの言葉を聞いたエヴリーヌは思わず突っ込み、プリネは苦笑した。
「ご主人様……あの……予選突破、おめでとうございます。」
「おめでとー!リフィアさん達、凄くカッコよかったよ!」
「フフ……2人とも、ありがとう。」
「うむ!余達にとって予選突破は当然だが、お前達の祝福はありがたく受け取っておこう!」
ツーヤとミントのお祝いの言葉を聞き、プリネは微笑み、リフィアは胸を張って答えた。
「………………」
「ん?アネラス、その子達をじっと見ているようだけど……どうしたんだい?」
カルナはアネラスがミントとツーヤを凝視している事に気付いた。
「可愛い!」
「ほえっ!?」
「えっと……?」
そしていきなりミントとツーヤを抱きしめた。
「ハァ……また悪い癖が出たか………」
「ハハ……まあ、これがアネラスだぜ?」
事情がわかっているクルツは溜息を吐き、クルツの言葉にグラッツは苦笑しながら答えた。

「人形みたいな可愛さに対照的な髪の色や瞳の色………あ~ん、セットでエヴリーヌちゃんといっしょにお持ち帰りしたいわ~!新人君達!この子達、持って帰っていいかな!?」
「ダ、ダメよ~!」
「嫌。」
「あの………これは一体……?」
アネラスの言葉に逸早く反応したエステルは反対し、エヴリーヌははっきり断り、ヨシュアはクルツ達に尋ねた。
「アネラスは可愛いものに弱くてな……普段人形とか買いあさってるんだが、年下の女の子を見ると、たまにあんな事になるんだ。」
ヨシュアの疑問にグラッツは苦笑した後、事情を話した。
「そうだよ!可愛いことは正義だもん!可愛く着飾った年下の女の子に勝るものなし!」
そしてアネラスはミント達を抱きしめるのをやめた後、その場から立って強く主張した。
「あ、あはは……」
アネラスの主張を聞いたエステルは苦笑した。
「そう言えば……先ほど団体戦になって戸惑ったとおっしゃっていましたが、元々団体戦ではなかったのですか?」
プリネはクルツの言葉を思い出して、尋ねた。
「ああ。例年の武術大会は元々1対1の個人戦なんだ。………そちらの方は毎年出場しているから、今回の大会は異例であると気付いていると思うよ。」
プリネの疑問にクルツは答えた後、カーリアンを見た。
「ええ。私はこっちの世界に来てから毎年この大会に参加しているからわかるわ。今までの大会は個人戦だったしね。まあ、相手が何人増えても私の敵じゃないんだけどね~♪むしろ、面白くなって来るから私にとっては今回の大会は楽しませて貰えそうで何よりよ♪」
そう言ったカーリアンは一瞬エステルを見た後、クルツ達を好戦的な目で見て言った。
「ハハ……お互い当たった時はお手柔らかにお願いします。」
カーリアンの言葉を聞いて、クルツは苦笑した。

「それにしてもいきなりルールが変更されて、本当に焦りましたよね。」
「あたしたちはまだいいさ。何とかメンバーも揃ったんだ。ジンの旦那なんか正直、困ってるんじゃないかねぇ。」
アネラスの言葉に頷くようにカルナがジンの現状を言った。
「あ、カルナさんたちもジンさんの知り合いなんだ?」
「ま、知り合って間もないけど名前だけは知っていたからねぇ。『不動のジン』って言って共和国じゃ有名な遊撃士なのさ。」
「どうやら、武術大会に出るためにリベールにやって来たらしいが……。さっきも言ったように大会が個人戦から団体戦にいきなり変更されてしまったんだ。」
「これが、例の公爵閣下の思い付きだったらしくてな。で、ジンの旦那は仕方なく1人で登録する羽目になったわけさ。」
エステルの疑問にカルナは頷き、クルツはルールが変わった理由を答え、グラッツはなぜジンが一人で参加しているかを答えた。
「そうだったんだ……。まったく、あの公爵ってのはロクでもないことばかりするわね。」
「はは、違いない。しかし、このまま彼の実力が発揮されないのは惜しすぎる。」
呆れて言うエステルの言葉にクルツは苦笑しながら、頷いた。
「だな。無名でもいいからある程度戦えるヤツがいれば……。……おっ!?」
同じように頷いていたグラッツはある事に気付いて、エステル達を見た。
「……おや…………」
「…………ふむ」
「……いいかも…………」
カルナやクルツ、アネラスも同じようにエステル達を見た。
「???な、なんなの?マジマジと見ちゃって……」
クルツ達に見られたエステルは戸惑いながら尋ねた。

「いや、ものは相談だが……。君たち、ジンさんに協力して本戦から出場してみないか?」
「え……。ええええええ~っ!?」
「本戦からの参加って……。そんなの大丈夫なんですか?」
クルツの提案にエステルは驚き、ヨシュアも同じように驚いた後尋ねた。
「それは大丈夫だろう!実際、そこの戦闘狂や余とエヴリーヌだけの参加も認められていたしな!」
「ちょっと……それ、誰の事を言っているの!?」
リフィアの言葉に反応したカーリアンはリフィアを睨んだ。カーリアンに睨まれたリフィアはカーリアンの睨みを無視して、エステル達に言った。
「あのジンとやらはかなりの実力を持っているようだが、さすがに一人で正遊撃士4人は厳しいだろう。だからエステル!お前達があの者に助力してやれ!」
「ジンの旦那も遊撃士の助っ人が他にいないかエルナンに頼んだみたいでな。ただ、シェラザードは忙しいらしいし、アガットのヤツとは連絡がとれない。他の連中も似たようなもんらしいぜ。」
「カシウスさんに至っては国内にいないみたいですからねぇ。ま、あの人とジンさんが組んだら反則っていう気もしますけど……というか、”大陸最強”と名高いメンフィル帝国でも1,2の実力を争う貴女の参加自体、反則なんですけどねぇ……」
リフィアとグラッツの言葉に頷いたアネラスはカシウスとジンがいっしょに戦った時の事を思い浮かべて、絶対に勝てない事に苦笑した後、カーリアンを見た。
「あら♪中々わかっているじゃない♪」
アネラスの言葉にカーリアンは機嫌を直して言った。
「はは、我々程度では万が一にも勝ち目はないだろうな。……そういうわけだから前向きに考えてみたらどうかな。今日中にジンさんと決めれば明日の選手登録に間に合うはずだ。」
「う、うん……」
クルツに言われたエステルは放心した状態で頷いた。
「おっと……長話しすぎちまったようだね。それぞれの依頼も抱えているし、あたしたちはこれで失礼するよ。」
「ばいばーい、新人君たち!」
「へへ、試合場で手合せできるのを楽しみにしてるぜ。」
そして仕事の時間が来た事に気付いたクルツ達はその場を去った…………



後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第118話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8906f534
Date: 2011/11/25 17:06
ついに空の軌跡のOVA、発売!!



~グランアリーナ・選手控室~

「……どうしよう、エステル?仕事の相談をするつもりが変な話になっちゃったけど……」
クルツ達が去った後、ヨシュアは放心しているエステルに尋ねた。
「……えへへ…………。……むふふ…………」
しかしエステルは顔を下に向けて、ぶつぶつと何かを呟いていた。
「ママ?」
「エステル、だ、大丈夫?」
エステルの様子がおかしいことに気付いたミントやヨシュアが尋ねた時
「来た、来た……。キタ――― ―――!!!」
「ぬおっ!?」
「「キャッ!?」」
「いきなり声を上げて、うるさい………」
エステルは顔を上げて、絶叫した。エステルの奇声にリフィアやプリネ、ツーヤは驚き、エヴリーヌは顔をしかめた。
「そうよ、そうなのよ!やっぱりそーこなくっちゃ!ああん、女神(エイドス)様に聖女様!大いなる加護を感謝いたします~!」
「…………………………。エ、エステルが壊れた……」
「マ、ママ………?何か変なものでも食べたの……?」
「へ~……話には聞いていたけど、本当にペテレーネの事を慕っているのね。」
エステルの様子をヨシュアは哀れなものを見るような目で見て、ミントは戸惑い、カーリアンはエステルを珍しいものを見るかのような目で見ていた。

「考えてもみなさいよ。武術大会に出られるのよ!?困ってるジンさんに協力できる……。あたしたちは城に堂々と入れる……。ついでに白熱したバトルもできる……これぞまさに一石三鳥!」
「そ、そんなに出たかったのか……。まあ、優勝できると決まったわけじゃないけど……。僕達の手で、依頼を達成できる可能性が出てきたのは嬉しいな。」
「依頼というと、女王陛下に会う事ですか?」
エステルとヨシュアの言葉から察したプリネは尋ねた。
「うん!女王様に博士から頼ま……モガ。」
プリネに尋ねられたエステルにヨシュアは両手でエステルの口を塞いだ。
(ちょっと、何するのよ~!)
口を抑えられたエステルは抗議するように、ヨシュアを睨んだ。
(エステル、ここにいるのは僕達だけじゃないよ。)
(あ!)
ヨシュアに言われたエステルはカーリアンを見て、ヨシュアを睨むのをやめた。
「わざわざ私に秘密にしなくても大丈夫よ。大体の事情はプリネ達から聞いたし、リウイから今のリベールの状況も聞いていて、知っているから。」
「あ、そうなんだ。」
「相談もなく事情を説明してしまって、すみません……せっかくカーリアン様がいらっしゃるのですから、今の状況が何とかならないかと思ったんです。」
プリネは申し訳なさそうな表情でエステルに謝った。
「大丈夫、問題ないわ!……そう言えば自己紹介がまだで……えっと……いいんですよね?」
エステルはカーリアンの身分を思い出して、言い直した。
「別に私の事も呼び捨てで呼んで貰って構わないわよ?第一あなた確か、リウイの事も呼び捨てにしているんでしょ?だから私の事も気軽に呼んでくれていいわ♪」
「あ、そうなの?あたし、エステル・ブライト!」
「ヨシュア・ブライトです。よろしくお願いします。」
「ミントだよ!」
「……プリネ様に仕えているツーヤと申します。」
カーリアンに言われ、エステルはすぐに気楽な態度で接し、ヨシュア達も自己紹介をした。
「カーリアンよ♪それで貴女がペテレーネが嬉しそうに話していたツーヤね。」
「え……あたしの事、ご存じなのですか?」
カーリアンの言葉に驚いたツーヤは尋ねた。

「ええ。学園祭に行った時の土産話に貴女の事をペテレーネが嬉しそうに話していたわ。プリネを慕う娘がいるって。それにしてもリウイったら酷いのよ!?プリネが参加している劇なんて面白い出来事を、この私に何も言わずに行ったんだから!もし、知っていたらついて行ったのに!」
「カーリアンを連れて行ったら、やっかいな事を仕出かすと思って、リウイは言わなかっただけだと余は思うぞ?」
「なんですって~!?いっつも私達に迷惑かけているアンタにだけは言われたくないわ!」
カーリアンはリフィアに近付いて、リフィアの頭をグリグリした。
「い、痛い、痛い!痛いのじゃ~!」
「自業自得。」
カーリアンの行動にリフィアは呻いて、じたばたした。その様子をエヴリーヌは素知らぬ顔で呟いた。
「まあまあ、カーリアン様。エステルさんもいるんですから、そのくらいで……」
「全くしょうがないわね~。」
プリネに宥められたカーリアンは溜息を吐いた後、リフィアから離れた。
「リ、リフィアが一方的にやられている所なんて初めて見たわ~。」
「ハハ……さすがの彼女も肉親には弱いんだろうね。」
カーリアンとリフィアの様子を見たエステルは驚き、ヨシュアは苦笑した。
「それでエステルさん。先ほど仕事の相談とおっしゃいましたが………」
「あ、うん。その事なんだけど………」
そしてエステル達はリフィア達の所に来た理由を説明した。
「なるほどな………しかし、エステル。それなら先ほどの遊撃士達が言っていたように、お前達があのジンとやらに助力して、優勝すればいいのではないか?」
「ええ、そうよ!だから、この話はお終い!」
「ハハ……エステル、もう優勝した気分でいるんだ。」
「何よ~?今からそんな弱気になって、どうするのよ!」
苦笑しているヨシュアをエステルは睨んで言った。
「フフ……今回の大会は今までの中でもかなり楽しい大会になりそうね♪あなた達と対戦する時を期待して、待っているわ♪」
「ふふ~んだ!相手が誰であろうと、絶対勝って見せるわ!」
カーリアンは挑戦的な目でエステルを見て言い、見られたエステルは胸を張って答えた。
「余達も忘れてもらっては困るぞ?カーリアン、今度こそお主に敗北を味あわせてやろう!」
「まっ、ほどほどに楽しませてもらうね。」
「な~に、生意気言ってるんだか。ま、いいわ。じゃあね♪手合わせを楽しみにしておいてあげるわ♪」
リフィアとエヴリーヌの言葉を聞いて溜息を吐いたカーリアンは気を取り直して、エステル達に軽く片手を振った後、控室を出て行った。

その後エステル達は大会に向けて、街道で魔獣達と戦闘して自分達の状態を調整するリフィア達とプリネについて行ったツーヤと別れて、ジンを探し始めた………


後書き OVAを見て、とりあえず思った事……アースウォール、効果範囲が広ッ!!そしてヨシュア、強すぎです!!ガチであのキャラと戦って、重傷を負わすなんて……後、ヨシュアと戦ったあのキャラ、以外と弱く感じました。ヨシュアに滅多斬りにされるのはまだ納得できるんですが、ティータの攻撃に気付かない上喰らったら、大ダメージって(笑)。それにしても後1話でどうやって、終わらせるんでしょう?レーヴェとの対決があったのを見る所、ラストまでは行くと思うんですが……そういえば、教授どころかケビンすら登場してねぇ……果たしてケビンは登場するのでしょうか(笑)…………感想お待ちしております。



[25124] 第119話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8906f534
Date: 2011/11/27 06:12
今回の話は空の軌跡のムードメーカー&変態(笑)が再登場です!



リフィア達と別れたエステル達はエルナンからジンの滞在場所を聞き、ジンの滞在場所である共和国大使館に行く途中、エステル達が通り過ぎようとした店からピアノが聞こえて来た。

~~~~~~~~♪

「ほえ?」
「あ……。これって……ピアノ?」
「うん、レコードじゃないね。中で誰かが引いているみたいだ弾いているみたいだ。このメロディー、どこかで聞いた覚えがあるんだけど……」
ミントとエステルは急に聞こえてきたピアノの音に首を傾げ、ヨシュアも頷いた後、聞き覚えのあるメロディーに首を傾げた。
「凄く綺麗な音だね、ママ!」
「そ、そうね。でもな~んかイヤな予感が……」
嫌な予感がしつつも気になったエステル達はピアノが聞こえてきた居酒屋に入った。

~グランセル市内・居酒屋サニーベル・イン~

そこにはボースで別れたエレボニアの演奏家、オリビエがピアノを弾いていた。

~~~~~~~~♪

(……やっぱりお調子者(オリビエ)か。でも、演奏家なんてただの自称かと思ってたけど……)
(かなりの腕前みたいだね。プロの演奏家を名乗るだけはあるんじゃないかな。)
(うん……。ちょっとじーんと来ちゃうかも。)
エステルとヨシュアはオリビエの演奏に以外そうな表情をしながらも聞き入っていた。
(あれ?あの人、ママの知り合いなの?)
(あ~、まあね。正直、ミントの教育には悪いから会わせたくなかったんだけどな……)
ミントに尋ねられたエステルは溜息を吐いた。そしてピアノの演奏が終わった。

パチパチパチパチパチ…………!!

演奏が終わると拍手が起こった。
「……今のは『琥珀の愛』といってね。本来は、オペラに使われる間奏曲でしかないのだけど……。そこはそれ、愛と真心でカバー。尽きせぬ愛とともに君たちに贈らせてもらうよ。」
拍手が終わった後、オリビエは静かに曲名を説明した。
「相変わらずのマイペースっぷりねえ……。はあ……感動して損した気分だわ。」
「お久しぶりです、オリビエさん。王都に来ていたんですね。」
「お兄さん。演奏、凄く上手だね!」
そこにエステル達がオリビエに近付いて来て、エステルは溜息を吐き、ヨシュアは挨拶をし、ミントはキラキラした表情でオリビエを見た。
「それはもちろん、大河に零(こぼ)れた人魚の涙が海に辿りつくように……。こうしてボクは、黒髪の王子様と感動の再会を果たしたわけさ。」
オリビエは片手で髪をかき上げて、エステル達を見た。
「……本当に相変わらずですね。」
「あー、はいはい。タワゴトはそのくらいにしてあたしたちを席に案内しなさいよ。気障なカッコしてるクセに気が利かないったらありゃしない。」
オリビエのセリフと様子を見たヨシュアは呆れた後溜息を吐き、エステルはオリビエの言葉を流して、毒舌と共にオリビエに命令した。
「エステル君……なんだか手強くなってない?」
そしてエステル達とオリビエは席に着いた。

「たしかオリビエ、シェラ姉と一緒にロレントの方に行ってたわよね?いつから王都に来てるの?」
「うーん、一月前くらいかな?君たちと別れてからロレントの街で、シェラ君と共にしばらく甘い一時を過ごしたのさ。だが、所詮ボクは漂泊の詩人にして演奏家……。シェラ君が涙ながら引き留めるのを振り切って麗しの王都に流れてきたわけだよ。」
「何と言うか……。信憑性ゼロの話ですね。」
「おおかた、シェラ姉の酒に毎晩付き合わされた挙句、たまらず逃げ出したんでしょ?」
オリビエの説明をヨシュアはさらっと流し、エステルは得意げな表情で真実を言い当てた。
「ギクッ……」
エステルの言葉を聞いたオリビエは表情を強張らせた。
「あと、アイナさんにまで酒を付き合わされちゃったとか?」
エステルからアイナの名前が出てくると、オリビエは表情を静止させ、何も喋らなくなった。
「あれ、オリビエってばアイナさんのこと知らないの?シェラ姉の親友で、ロレント支部に受付やってる人なんだけど。ウワバミ度で言えばシェラ姉を上回るという……」
オリビエの様子に首を傾げたエステルは尋ねたが
「……ハハハ。やだナア えすてるクン?ソンナ名前ノ 人ナンカ ミタコトモ キイタコトモ ナイヨ?」
なぜかオリビエは裏返った声で片言で答えた。
「……声が完全に裏返ってるんですけど……」
「お兄さん~。どうしたの?」
「エステル、ミント……そのくらいにしといてあげなよ。つらい……とてもつらい事があったんだと思う。」
オリビエの答えにエステルは突っ込み、ミントは尋ね、事情を察したヨシュアは哀れなものを見るような目でオリビエを見た。

「ブツブツ、まさかシェラ君以上に底ナシだったなんて……。……あああ…………。穏やかに微笑みながら注ぎ込むのはやーめーてー!」
エステル達の声が聞こえていないオリビエはロレントで植えつけられたトラウマを思い出して、叫んだ。
「ほえっ!?」
「フ、フラッシュバック!?」
「アイナさん最強伝説が着実に出来上がりつつあるね……」
突然叫んだオリビエにミントやエステルは驚き、ヨシュアはアイナの恐ろしさに体が震えた。
「はあはあはあ……。まあ、それはともかく……。キミたちは他の地方を回りながら王都まで来たんだろう?何か面白いことはあった……ようだね。そろそろこのボクにもそこの可愛いリトルレディを紹介してくれないかな?」
我に返って、気を取り直したオリビエはミントを見て、エステル達に尋ねた。
「ハァ……あんたにだけは会わせたくなかったんだけどな。…………まあ、いいわ。ミント。」
「はーい!こんにちは、お兄さん!ママの子供のミントだよ~!よろしくね!」
エステルに促されたミントは元気良く、自己紹介をした。
「フッ……漂泊の詩人にして愛の伝道者、オリビエ・レンハイムだ。ボクの事は『オリビエお兄さん』と呼んでね♪」
オリビエは髪をかき上げて、ミントに流し眼を送って言った。
「やめんかー!……全く、これだから純真で可愛いミントにコイツみたいな変態と会わせたくなかったのよね!」
「ハハ……相変わらず、エステルはミントに過保護だなぁ。」
オリビエの言葉に反応して叫んだエステルの独り言が聞こえたヨシュアは苦笑した。
「当り前よ!こんな奴、ミントに悪影響を与えるだけの!存在だからね!」
「ハッハッハ!そう褒めないでくれよ。照れるじゃないか♪」
「褒めてないっつーの!………つ、疲れる………」
「ママ~、大丈夫?」
エステルの毒舌をオリビエは笑って流し、エステルはすかさず突っ込んだ後、疲れて机にうつぶせた。ミントはうつぶせているエステルの体を揺すって尋ねた。

「ほう♪エステル君とヨシュア君……いつの間にこんな大きな子供を作ったのかな♪」
ミントのエステルに対する呼び方に反応したオリビエはからかう表情でエステル達を見た。
「それ、絶対言われると思ったわ………ミントはあたしの養子みたいなもの。だから、ミントはあたしの事『ママ』って言っている訳。だから断じてヨシュアと結婚している訳でもないからね!?わかった!?」
エステルは溜息を吐いた後、事情を説明した。
「ほう…………………フム。」
エステルの説明に頷いたオリビエはミントを凝視した。
「ほえ?ミントの顔に何かついているの?」
「…………イヤな予感しかしないわ……」
「ハハ……奇遇だね。僕もそう思うよ。」
オリビエに見られたミントは首を傾げ、エステルはジト目でオリビエを見て、ヨシュアは苦笑しながら答えた。
「フム………今でこれだけ可愛いとするとエステル君達並に育てば………フフ、今から楽しみだよ♪」
「予想通りの答えだね………」
「この………変態が~!あたしの目が黒い内は絶対、アンタみたいな変態をミントに近付かせないからね!……もし、ミントに手を出したらただじゃすまないからね!」
オリビエの予想通りの答えにヨシュアは呆れ、エステルはミントを抱きしめてオリビエを睨んだ。
「ハッハッハ!それで今日はこのボクに会いに来てくれたのかな?」
「なんでアンタみたいな奴にわざわざ会いに行かなくちゃならないのよ……人探しの途中でよっただけよ。」
オリビエの言葉にエステルは溜息を吐いて否定した後、答えた。
「へえ……。いったい誰を捜してるんだい?」
「ジンさんといって、カルバード共和国から来た武術家の遊撃士です。よく酒場に来ているらしいのですけど、オリビエさん、ご存じありませんか?」
「ああ!あの熊のように大きな御仁か。何度かお目にかかった事はあるけど今日はまだ見かけてないねえ。」
ヨシュアに尋ねられたオリビエはジンの特徴を言いながら、答えた。
「そっか……。今日は酒場に来ないのかな?」
「カルバード共和国の大使館にいる可能性が高そうだね。」
「それじゃあ、出発だね!」
「フッ……。早速、行ってみるとしようか。」
そしてエステル達が居酒屋を出るとどさくさに紛れてオリビエがエステル達について行こうとしていた。

「だ~か~ら、なに自然な流れで付いてこようとしてんのよっ!?」
外に出た時、オリビエがまだ自分達に付いて来ている事に気付いたエステルはオリビエを睨んだ。
「ハッハッハッ。つれない事を言うもんじゃないよ。旅は道連れともいうし、ボクも人捜しを手伝おうと思ってね。それとも……。邪魔されたくないのかな?」
「な……!」
オリビエの言葉にエステルは驚いて、オリビエを見た。
「いやはや。初々しいったらありゃしない。蕾であることを自覚したばかりで咲くのを恐れためらう乙女……。……フフ、いい感じで色気が出てきたみたいだねぇ。」
オリビエは目を妖しく輝かせて、エステルを見た。
「…………~~っ………………」
オリビエの言葉を聞いたエステルは顔を真っ赤に染まらせて、オリビエから視線を外した。
「???何を言ってるんですか?」
「ねえねえ、オリビエさん。どうしてママはお顔を真っ赤にしているの??」
「フフフ、それはねえ……」
首を傾げているヨシュアとミントにオリビエはもったいぶるような口調で説明しようとしたところ
「せいやっ!」
「あ~れ~っ!」
エステルが素早く棒を出して、オリビエを店の中へ吹っ飛ばした。
「うわああ、なんだ~っ!?」
「お、お客さん、しっかり!」
「だめじゃ……。白目をむいているわい……」
店の中は吹っ飛ばされたオリビエのせいで慌ただしくなった。

「エステル……。何を怒っているのかしらないけど、ちょっとやりすぎなんじゃ……」
「うん。………オリビエさん、大丈夫かな?」
エステルの行動にヨシュアは呆れながらエステルを責め、ミントはオリビエが吹っ飛ばされた方向をチラチラ見て、尋ねた。
「……インパクトをずらして派手に吹き飛ばしただけだもん。大したダメージじゃないわよ。」
「フフフ……。エステル君の……照れ屋さん……」
エステルの言葉に答えるかのように、オリビエの声が店の中から聞こえて来た。
「……確かに大丈夫そうだね。」
「オリビエさんって、凄く頑丈なんだね~。」
オリビエの言葉を聞いたヨシュアは脱力し、ミントは珍しいものを見るかのような目でオリビエが吹っ飛ばされた方向を見て、言った。
「ほらほら、人捜し再開。グズグズしてないでとっとと大使館に行くわよ。あ、ミントははぐれないためにあたしと手を繋ぎましょうね。」
「はーい!」
(……なんで僕だけ怒られるんだろう?)
エステルの理不尽さにヨシュアは訳がわからず、首を傾げた。そしてエステル達はジンを探して、共和国大使館に向かった…………



後書き 感想お待ちしております。



[25124] 第120話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8906f534
Date: 2011/11/29 10:28
その後エステル達は大使館の情報でエルベ周遊道まで探しに行き、魔獣に襲われかけたシスターを助けた後、また魔獣が現れたがそこにジンが加勢して事なきを得た。その時、見回りの特務兵と出会ったがなんとかトラブルを避けた後、エステル達はジンを探していた理由を話した。そして落ち着いた場所で話し合うためにエステル達は先ほどの居酒屋に向かって、テーブルに座って話し始めた。

~グランセル市内・居酒屋サニーベル・イン~

「……なるほど、そういう事かい。ひとつ聞いておくが、なんで武術大会に出たいんだ?」
ジンはエステル達に武術大会に出たい理由を尋ねた。
「えっと……。予選を見てたら身体がウズウズしてきちゃって。手強い相手と、思いっきり戦いたくなっちゃったのよね~。」
「僕たちは、正遊撃士を目指して王国各地を旅してきました。今までの修行の成果を試してみたくなったんです。……それに今ま僕達の旅を助けてくれたリフィア達や”大陸最強”と名高いメンフィルでも1,2の実力を争う将――カーリアンさんとも一度、手合わせをしたかったんです。」
「ふーむ……。いいぜ。一緒に組むとしようや。明日、大会が始まる前に選手登録をすりゃあ大丈夫だ。」
エステル達の理由を聞いたジンは頷いて答えた。
「やったあ♪……て、即答しちゃってもいいわけ?」
「お前さんたちの腕前は前に見させてもらってるからな。助っ人としては十分すぎるぜ。」
「えへへ……。ありがと、ジンさん!あたし、精一杯がんばるから!」
「よろしくお願いします。」
ジンの了承の言葉を聞いたエステルは喜び、ヨシュアは軽くお辞儀をした。
「ママ!ミント、応援するからね!」
「ありがと。ミントの応援の言葉を聞いたらパワー全開よ~!」
ミントの応援の言葉を聞いたエステルは元気良く答えた。

「こちらこそよろしくな。しかし、1人でどこまで通用するか挑戦してみるつもりだったが……。助っ人が加わったからには優勝を目指さないと話にならんな。」
「モチのロンよ!出場するなら優勝あるのみ!」
「でも、そうなって来ると1人足りないのは苦しいですね。団体戦の定員は4人ですから。」
ヨシュアは現状を考えて、難しそうな表情で答えた。
「ねえ、ママ。だったらミントも出たらダメ?」
エステル達のためにミントは自分も何か力になろうと思って、エステルを見て提案した。
「アハハ……さすがにミントにはまだ早いわ。心配してくれてありがとう。でも、大丈夫よ!いざとなったらあたしが契約している子達の誰かを参加させればいいし!実際プリネもそれをして、数合わせをしていたから大丈夫でしょ。」
ミントの提案をエステルは苦笑しながら必要ない事を言った後、名案を思い付いたかのように言った。
「そうか……それがあったな。…………僕達のバトルスタイルを考えればテトリあたりが妥当かな?」
エステルの提案にヨシュアはハッとした後、呼びだす必要のある人物を言った。
「さっきから気になっていたんだが、契約している子がどうとか言っているがどういう事なんだ?」
一方事情がわからないジンはエステル達の会話に首を傾げて尋ねた。
「あ、ジンさんは知らなかったわね。実は…………」
事情がわからないジンにエステル達はエステルが契約している精霊や幻獣の事を説明した。
「ほ~………カシウスの旦那から話には聞いていたけど、魔術が使えるだけでなく、そんな事もできたのか。………それでそのテトリとやらはどんな戦い方をするんだ?」
「うん。テトリの戦い方は後方支援よ。弓矢での攻撃に加えて地属性の攻撃魔術、それと治癒魔術も使えるわ!」
ジンに尋ねられたエステルは胸を張って答えた。
「フム……確かに現時点での俺達のメンバーを考えれば、ピッタリの人物なんだが………気になったのだが、その召喚とやらをして、お前さんに負担がかからないのか?」
「ん~……まあ、召喚している間はちょっとだけど魔力とか落ちるわ。でも、大丈夫よ!今まで問題なかったし!」
ジンの疑問にエステルは今までの戦闘を思い出しながら答えた。
「いや、上を目指すんだったら準備は万全にしておくべきだぜ。戦いってのは拳(コブシ)を交える前からすでに始まっているもんだ。」
「そうだよ、エステル。相手はクルツさん達だけでなく、リフィア達や”大陸最強”と名高いあのメンフィルの中でも指折りの実力を持つカーリアンさんが相手なんだよ。自分自身の力を弱めるような事をしないほうがいいと思うよ。」
「う……確かにそうかも。こういう時に、シェラ姉がいてくれたら心強いんだけど……。ね、エルナンさんに頼んでロレントに連絡してもらわない?」
ジンやヨシュアの言葉にたじろいだエステルは提案した。
「うーん、でもシェラさんもかなり忙しいと思うよ。父さんも、僕たちもいないからロレント支部は手薄だと思うし……」
「そ、そうだった……。あーもう、誰でもいいから協力してくれる人いないかしら!」
エステルが絶叫したその時

~~~♪

「フッ……。その言葉を待っていたよ。」
階段からリュート鳴らして降りて来たオリビエが現れた。
「あ、オリビエさんだ!」
ミントはオリビエを見て、声を上げた。
「出たわね~。このスチャラカ演奏家。まさか2階に潜んでいたとは。」
「ひょっとして……。今の話、聞いていたんですか?」
呆れた表情でエステルはオリビエを睨み、ヨシュアは尋ねた。
「フフフ……。余すことなく聞かせてもらったよ。これはボクの出番だと思ってね。……あ、ミント君。すまないがエステル君の膝の上に移動してくれないかい?」
「はーい!」
オリビエは髪をかきあげながら降りて来た後、椅子に座っているミントを移動させて、ミントが座っていた椅子に座った。
「あ、ちょっと……。なに勝手にミントを椅子からどかしているのよ?」
「ミント、ママの膝の上でも大丈夫だよ?それとも、ミントがママの膝の上に乗るの、ダメ?」
ミントはお願いする時の表情でエステルを見上げた。
「う………(そんな目で見られたら、断れないわよ~!全く、このスチャラカ演奏家め!純真で可愛いミントを利用して!後でシメてやる!)そんな事ないわよ!ミントを肌で感じられるからあたしは嬉しいわよ?」
「ホント!?えへへ…………」
オリビエに対する怒りを秘めたエステルに気付かず、ミントは笑顔になった。

「たしか、ピアノを弾いてる演奏家の兄ちゃんだったな。お前さんたちの知り合いか?」
オリビエと知り合いのように話すエステル達にジンは尋ねた。
「知り合いっていうか、早くも腐れ縁というか……」
「……まだ知り合ってそんなに経っていないのにね。」
ジンの疑問にエステルはオリビエの出会いや共にした時、見せた行動を思い出して呆れながら答え、ヨシュアも苦笑しながらエステルの言葉に頷いた。
「ボクはオリビエ・レンハイム。エレボニア出身の旅の演奏家さ。エステル君とヨシュア君とは前にある事件で知り合ってね。それ以来、タダならぬ関係なのさ。」
「誤解を招く言い方はやめい!」
オリビエの紹介の仕方にすかさずエステルが突っ込んだ。
「ふーん、よく判らんが俺の方も名乗っておこうか。ジン・ヴァセック。カルバード出身の遊撃士で武術の道を志している。あんたのピアノにはいつも楽しませてもらってるよ。」
「フフ……。お誉めにあずかり光栄至極。ボクの方も、大会予選でのあなたの武勇は耳にしている。毎年優勝している美しく、扇情的なあの”戦妃”が予選で見せたように4人を相手にしてたった1人で圧勝したそうだね?」
「特務兵相手に圧倒勝ちした”戦妃”ほどじゃないさ。素人相手で運が良かっただけだ。で、その演奏家さんが俺たちに何の用だい?」
ジンが尋ねようとしたその時
「ちょっと待ったあああ!」
エステルが声を上げて話をさえぎった。
「オリビエさん……。ひとつ確認しておきますが……。ひょっとして最近、かなりヒマだったりしますか?」
エステルと同じように次の展開が予想できたヨシュアはオリビエに尋ねた。
「さすがヨシュア君。鋭い質問じゃあないか。王都に来てから1月あまり……。一通り観光をしてしまって残るはグランセル城くらいだが無粋な兵士が入れてくれない……。他の地方にも行ってみたいが生誕祭が迫っているから今、王都から離れるのも忍びない……」
「よーするに、かなりヒマだと。」
芝居をしているかのように話すオリビエの言葉をエステルは省略した。
「そこに降って湧いたような定員が1人足りないという話……。さらにトドメに、優勝者には豪華な晩餐会へのご招待……。まさに女神の天啓といえようっ!」
「はあ……」
「そんな事だろうと思いました。」
案の定予想していた展開になり、エステルとヨシュアは溜息を吐いた。

「というわけで、ボクも武術大会の仲間に入れてくれないかな~って。」
「いいんじゃねえのか?」
「わあ………それだったら、4人揃うね!よかったね、ママ!」
オリビエの頼みにジンは頷き、ミントは喜びの表情でエステルを見上げた。
「ちょ、ちょっとジンさん。そんな簡単に……。オリビエがどんな戦い方をするのかも知らないんでしょう?」
オリビエが最後のメンバーに入る事をあっさり了承したジンに驚いたエステルは尋ねた。
「得物(えもの)は導力銃だろ?戦術の幅も広がるし、いいチームになると思うがね。」
「ええ~っ!」
武器も出していないオリビエの得物まで言いあてたジンにエステルは驚いて声をあげた。
「これは……驚いたな。やはり脇の下のふくらみと歩き方で判ってしまうものかな?」
同じようにオリビエも驚いた後尋ねた。
「それと視線の動かし方だな。武術家だろうが剣士だろうが動く対象のとらえ方は線だが……。あんたは、相手の動きをポイントごとにとらえている。銃使いに特有の視線の動きさ。」
「ひょええええ、プロだわ……」
「なるほど……。確かに理屈ではそうなりますね。」
「ふえ~………凄いね、ジンさん!」
言いあてた理由を話すジンにエステルは驚き、ヨシュアは納得した表情になり、ミントは尊敬の眼差しでジンを見た。
「フム……。今後、気を付けておくとしよう。で、その達人の目から見てボクは合格という事でいいのかな?」
「ああ、よろしく頼むぜ。」
「うーん。一抹(いちまつ)の不安は残るけど……」
「オリビエさん。よろしくお願いします。」
その後、エステルたちは明日からの大会に向けて、夕食を堪能した。そして翌日、エステル達は武術大会に参加するためにグランアリーナに向かった……



後書き 次回からいよいよ武術大会が本格的に始まります!楽しみにしていて下さい!!ちなみに今、決勝前まで書き終えるところですが、話の数が20を超えてしまっています………まだグランセル編の序盤なのに……何話で終われるだろう?………感想お待ちしております。



[25124] 第121話
Name: sorano◆b5becff5 ID:8906f534
Date: 2011/11/30 10:04
翌日、グランアリーナの受付でジンのチームに入る事を登録したエステル達は観客席に行くミントと別れて、選手控室に向かった。

~グランアリーナ・選手控室~

エステル達が控室に入るとそこには、クルツチーム、リフィアペアがいた。
「あ、クルツさん達にリフィア達だ!やっほ~。」
エステルは知り合いを見つけて、声をかけた。
「おお、エステル!どうやら出場はできたようだな!」
リフィアはエステル達に気付き、声をかけた。
「うん。今回は当たらないようだけど、次に当たったら絶対勝って見せるわよ~!」
「フッフッフ……望む所だ!」
「ま、その時はエヴリーヌ達の強さを見せて上げる。」
エステルの言葉にリフィアは不敵な笑みを浮かべ、エヴリーヌも同じように不敵な笑みを浮かべて答えた。
「あ、新人君達だ!」
「どうやら無事、登録ができたようだね。」
同じようにアネラスやカルナがエステル達に話しかけた。
「お前達の腕前……見せてもらうぜ。」
「ジンさん、お互い当たったその時はよろしくお願いします。」
グラッツはエステル達の実力を見るのが楽しみのような目で見て、クルツはジンを見て軽く会釈して言った。
「ああ。その時はお互い全力をつくすぞ。」
「ええ。」
その時、試合開始のアナウンスが聞こえて来た。

「皆様……大変長らくお待たせしました。これより武術大会、本戦を始めます!」

「ワァァァァァァ………!!」
試合を待ちかねたように、アナウンスが入ると観客達は歓声を上げた。
「それでは早速、栄えある第一試合のカードを発表することにしましょう。南、蒼の組―――遊撃士協会、グランセル支部。クルツ選手以下4名のチーム!北、紅の組―――王国軍、突撃騎兵隊所属。ジェイド中尉以下4名のチーム!」
「よし……出番だな。みな、準備はいいか?」
「ああ!突撃騎兵隊といやあ、かなりの猛者揃いのはずだぜ。相手が”戦妃”じゃないのは残念だったが、相手にとって不足はねぇ。」
自分達の出番にクルツはメンバーに準備を確認し、グラッツは相手チームを聞いて不敵な笑みを浮かべた。
「いつでも行けるよ!」
「バッチリです!」
カルナやアネラスもそれぞれ武器を持って、力強く頷いた。
「カルナさんたち、頑張ってね!」
「先陣の名誉を受けたのだ!必ず勝利するのだぞ!」
「ああ、任せておきな。」
「それじゃあ、行ってくるね!」
エステルとリフィアの応援の言葉を受け、クルツ達は試合会場に向かった。
「これより武術大会、本戦第一試合を行います。両チーム、開始位置についてください。」
予選試合と同じようにクルツ達と王国軍の兵士達は配置に着いた。
「双方、構え!」
両チームはそれぞれ武器を構えた。
「勝負始め!」
そしてついに武術大会本戦が始まった!

試合は予選のようにグラッツ、アネラスが前衛として王国軍の兵士達と武器を交え、クルツは中衛の位置で自身が会得している東方の技の一つ――”方術”で兵士達の戦闘で傷ついたグラッツ達の傷を癒したり、援護攻撃をし、カルナは強力なアーツで兵士達を纏めて攻撃したり、銃で正確な射撃で攻撃した。そして試合は終了し、クルツ達の勝利となった。

「勝負あり!蒼の組、クルツチームの勝ち!」
「やった!カルナさんたちの勝ちだわ!」
控室から試合を見て、結果がわかったエステルは喜んだ。
「さすがはリベールの遊撃士ってとこか。揃いも揃って大した腕前だぜ。」
「たしかに人数こそ少ないがそれぞれが一騎当千のようだね。」
「もし試合で当たったらかなり苦戦させられそうですね。」
ジン達はクルツ達の実力に感心していた。
「ふむ。……シェラザード以外の正遊撃士の実力は初めて見たが……なかなかやるではないか。あの実力ならファーミシルス自ら鍛えている親衛隊の者達と並ぶかもしれんな。」
「ん。あれなら多少手加減しても楽しめそうだね。」
クルツ達の実力を高評価しているリフィアの言葉を肯定するようにエヴリーヌは頷いた。そしてクルツ達が戻って来た。
「先輩たち、ナイスファイト!」
「よう、いい勝負だったぜ。」
「はは、『不動のジン』にそう言ってもらえるとは光栄だ。」
「さすがに予選と違ってほとんど余裕はなかったけどな。」
エステルやジンに勝利を祝われたクルツ達は余力を残しているかの表情で答えた。そして次の試合開始のアナウンスが入った。

「続きまして、第二試合のカードを発表させていただきます。南、蒼の組―――カルバード共和国出身。武術家ジン以下4名のチーム!北、紅の組―――チーム『レイヴン』所属。ディン選手以下4名のチーム!」

「あたし達の番だわ!」
「しかも相手はあの人たちか……」
「フフ、優雅さに欠ける相手だがなかなか面白い試合になりそうだ。」
「よーし、アリーナに出るぞ!」
ジンの言葉に頷いたエステル達はアリーナに出た…………




後書き いきなりですが、戦女神シリーズを知っている方に質問です。アビル―スって戦女神1で本当に死んでいるんですか?……あるキャラの登場を考え始めているので、アビル―スが生きていたら登場はさせられないと思うので、知っている方がいればよければ感想にて答えをお願いします。………感想お待ちしております。


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