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4・ストーカー?幼女がやるから法的にも犯罪じゃないんです
 零一はありすとメールアドレスの交換をした瞬間、獣のような速さで逃げだした。
 追いつかれないよういくつもの路地を駆け、潜り抜け、そこでようやく足を止め一息。
 そのまま駅に向かい、不必要なまでに電車を乗り換え自宅近くの最寄り駅に到着。
 全ては昂谷ありすの追尾を逃れるためだ。怖いので携帯電話の着信などは確認していない。

 苦労の果てに零一が自宅の前にたどり着いた時には、既に日が暮れていた。
 木造平屋。築二十年の一戸建て。生まれた時から住んでいる家。一人で暮らすには広すぎる空間。だが、五年も一人で使っていれば慣れてもくる。
 玄関のカギをかけ、真っすぐ自室へ向かう。
 今日は疲れ果てた。もう何も考えたくない。

「何だったんだよ。さっきのガキは。何年か経てばとんでもない美少女になるだろうが、小学生は無いな」
 小学生以前に人間かどうかすら怪しい。
 人の魂を啜り、肉を食らって生きていると言われても信じてしまいそうだ。
 魔法を操り、傍若無人。育てた親の顔が見てみたい。

「今日はもう疲れた。寝よう」
 着替えもせずに、そのままベッドに潜り込もうと布団をめくる。

「添い寝なら任せろ!」


 なんかいた。


 無言でめくった布団を元に戻す。何も見なかった事にしたい。
 見なかった事にすれば無かった事に出来るに違いない。

「疲れてるんだな。疲れてるから幻覚を見るんだ」

 もう一度、布団をめくる。

「疲れているのなら、やはり添い寝だな。いい夢が見れるぞ。ついでに淫行もしよう」


 やっぱり何かいた。
 

 全てを諦めて、【何か】を【昂谷ありす(全裸)】と認識する。そう。
 
 あ り す は 全 裸 だ っ た。

 慌てて目を逸らし、零一が叫ぶ。
「どうやって入って来たんだよ!」
 メールアドレスしか教えていないはずだ。尾行も撒いたはずだ。鍵もかかっていたはずだ。
 なのに、何故彼女はここに居る。

「金と、こねと、メアドと、名前があれば、住所をさぐることなど、ぞうさもない」
「何でそんな自慢気なんだよ。全てにおいてお前の実力と関係無ぇだろうが!」
「そんな事はどうでもいい。今、ここは二人の愛の巣。とろけるほど愛しあおう。さぁ」
 のそのそと布団からはい出てくる。飛び出してこないのは寒いからだ。間違いなく。

「や、やめろ。近づくな」
「断る」
 零一の拒絶をありすは許さない。小さく、華奢な体からは想像できないほどの凄まじい腕力で布団に引きずり込まれる。
「こ、声を出すぞ」
 腕を零一の首に絡め、唇を奪おうとしてくるありすに警告する。顔が近い。近すぎる。
 あと数センチ近づくだけで唇は触れあうだろう。
「出してもかまわない。だが、たいほされるのはれーいちだ」
 零一の家に全裸の小学生がいる。警察が見たらどう思うだろう。想像したくもない。
 そんな想像よりどうやったらこの状況を切り抜けられるかを必死に考えるべきだ。相手は子供、変人、全裸。

――全裸。そうだ。全裸だ。
 零一は、キスをしようと力を緩めたありすを振り払い、窓に向かう。そのまま窓を一気に全開へ。吹きこむのは二月の冷たい風。
「ひぁっ」
 その寒さにたまらず布団の中で丸まるありす。勝った。心の中でガッツポーズ。

「話し合おう。まずはそこからだ」
 力ずくでの《説得》は無理。能力では勝ち目が無い。話術だ。
 交渉で落とし所を見つけて、今日は帰す。
 その後の事は明日起きてから考えればいい。今を乗り切る事が最も大事だ。

「そんなにあせって。わたしのみせいじゅくなカラダにこうふんしたのか?」
 布団から頭だけを出してありすが言う。まずい、話がかみ合っていない。日本語が通じていない。通じる気がしない。
 交渉になるかどうかすら怪しい。だが、零一は折れそうになる心を必至で奮い立たせ言い返す。
「違ぇよ。塀の向こうに行きたくないだけだよ!分かれよ。分かってくれよ」
 この齢で前科を負いたくない。必死の願い。もしかしたら涙を流していたかもしれない。人間は自分の限界を超えると悲しくも無いのに涙が出るのだな、と場違いな事を考える。

「とにかく、今後の事を話し合おう。まずは服を着るんだ」
「今後の、事?」
 何を想像したのか、ありすは満面の笑みを浮かべ、再び布団にもぐりこむ。三十秒ほどごそごそとした後、
「着たぞ。まずは結納の話からだな」
 と言いながら布団から姿を現す。先程のジャージ姿だ。
 これで交渉が再開できる。零一はそう思っていた。思っていた、のだが。

――体が勝手に動いた。勢いをつけ、零一はありすの手を取る。

「何をする。そんな強引な。はずかしいぞ」
 顔を赤くするありすの腕を掴み、抱え、そのまま全開の窓から投げ捨てる。
「な…きさま。はかったな…はかったなぁぁぁぁぁ!」

 ドップラー効果を残しながら夜空の彼方へ消えていくありす。彼女の事なので死にはしないだろう。
 星になったのを確認した後、窓を閉め、施錠する。
 当初の予定通りとはいかなかったが、危機は去った。
 逆上したありすが零一の家に放火することも考えられたが、その時はその時。

 潔く死のう。

 ロリコンのレッテルを張られ社会的に抹殺されるよりは、実際に死んだ方が多少はマシだ。

 そう、零一は勝ったのだ!解放されたのだ!
良い子のみんな。0・1・ありすは《全年齢向け》だよ!
来いやアグネス!やっぱり来ないで!

あと、メインで書いてる《記憶探偵》もどうぞよろしく。
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