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3・幼女だってメアド交換がしたい!
 歩きながら追い払おうともしたが、零一の言葉を聞いているのかいないのか、ありすは延々と彼に付きまとってきた。
 相手をすることに疲れ果てた彼は手近なカフェに入る。
 大人の多い場所には入り辛い、と言う子供の気持ちを逆手にとった方法だ。

「カフェだ、カフェだ。恋人と言えばやっぱりこういうところだと思うんだ」
 堂 々 と 入 っ て き た 。

「お前小学生だろ。学校はいいのかよ」
今日は平日。その上昼下がり。学生は学校に行っている時間だ。もちろん警察官や補導員に見つかればただでは済まないだろう。

「だいじょうぶだ」
ありすは、はっきりきっぱりと言い切った。どうしてこの少女は常に楽しそうなのだ。
「わたしは、とくべつだからな!」
「特別?漫画やドラマで見かける【飛び級で大学まで既に卒業している天才少女】とかか」
ならば納得だ。警官に何か言われても逃れられるだろう。

「わたしはこの世でゆいいつの、自分で学校を休んでもいいと決める事の出来る小学生なのだ」
「ただのサボりじゃねぇかっ。とっとと学校に行けよ!」
 席に座りながら堂々とサボタージュ宣言をするありすに向かい怒鳴る。余りの大声に、店内は一瞬の静寂に包まれ、
「申し訳ございません。他のお客様のご迷惑になりますので、少し小さい声でお願いします」
 従業員に文句を言われる。
 そこはかとなく理不尽なものを感じつつ零一はアールグレイを注文。ありすはクリームソーダを頼んだ。従業員が去った後、ありすが問う。
「おまえだって、こんな平日の昼間からふらふらしてるじゃないか」
もっともだ。普通は平日に休みでもない人間はろくな奴ではない。
「お前、じゃない。神名だ。神名零一。俺は今日が休みなんだよ」
 名乗って、後悔する。零一はありすと仲良くなりたい訳ではない。追い払いたいのだ。
 名乗ると言う行為は二人の仲が進展した事と勘違いさせてしまうのではないか。

「そうか。れーいちか。だがだいじょうぶだ。れーいちが無職のかいしょうなしの童貞でも、わたしはかまわないぞ。わたしはれーいちのおくさんだからな」
「人の話を聞けよ!後、童貞は関係ないだろ!?」
 勘違い以前に既に嫁気取りだった。しかも名前で呼んできた。さらにありすは続ける。
「だいじょうぶだ。わたしがやしなうし、童貞ももらう」
「どこも大丈夫じゃねぇっ。どうやって小学生が働くんだよ!」
 行為も言動も全てが規格外すぎるありすに、常識的な疑問をぶつける。
 どんな非常識な回答が来ようとも毅然と跳ね除ける覚悟を決める零一。
 だが――

「こんなに誰かの事が気になったのは初めてなんだ。愛していると言ってもいい。好きな人のためには、どんなことでも、何でもしてあげたい。それは当たり前の感情だろう?」
 絶句。年端もいかない少女が無償の愛を語った事に。
 愛と言う神名零一からもっとも遠い言葉を耳にした事に。常識的な言葉を余りにも非常識な人間が口にした事に。
 零一が言葉を失っている間に、注文した飲み物が到着。気持ちを落ち着かせるために、煎れたてのアールグレイを口にする。店員は諦めたのか、大声で騒ぐ二人には何も言わなかった。

 たっぷりと間を開け、零一が言い放つ。冷たく、無機質に。
「俺はこんなに人の話を聞かない奴は初めてだ。帰れ」
 完全な拒否。全てを拒絶する壁を零一は言葉と態度で作り出した。
 その壁に気づき、ありすは少し悲しそうな瞳で、言う。
「れーいちは、迷惑か?」
「俺じゃ無くても、迷惑だ」

 壁は作った。後は、ありすの言葉に耳を傾けず全て無視するだけでいい。
 彼女が何を言おうと関係ない。零一が作りだした心の壁は、何者にも破壊されたことがない。
 彼はそうやって生きてきた。何者にも心を開かず、何者にも興味を示さず。

 しばしの沈黙の後、ありすが口を開く。零一が想像もしない言葉と共に。

「そうだな。とつぜんわたしのような美少女に言い寄られて困らない人間などいまい」
「そうじゃないからな!?論点が次元を超えたレベルでズレてるんだよ!」
 全てを拒絶する壁は、あっさりと次元ごと崩壊した。

「確かに、わたしも突然すぎると思うんだ」
「ようやく常識に目覚めたか。諦めろ」
 零一は十八歳。ありすは九歳。家族でもない二人が一緒に居て良い理由が無い。
「仕方がない。今日はメアドと、ケータイ番号と、住所と、婚姻届だけでがまんしてやろう」
「何でそうなるんだよっ。何様だよ、お前!」
絶対に連絡先は言わない。とも付け加える。

「ならば、大声でけいさつをよぶぞ」
「アレだけやりたい放題しておいて最後は警察頼みで脅迫だよ!面倒臭ぇ。マジで面倒臭ぇっ」
 灼けるように熱いアールグレイをやけくそ気味に一気にあおる。この少女に言葉は通じない。そう結論付け、無視して帰ろうとした零一にありすは告げる。
「わたしだけが、ようきゅうするのもおかしいと思う。れーいちは、何か希望は無いのか」
「俺の希望は一つ。【放っておいてほしい。】ただそれだけだ」
そう答え、立ち上がる。話は終わりだ。

「わたしと結ばれれば、れーいちにも良い事があるぞ」
「良い事?どうせロクでもない事だろうが、最後に聞くだけ聞いてやるよ」
「わたしのはんりょとなれば、淫行し放題!わたしもれーいちを手に入れられて、みんなしあわせ!」
「俺は淫行とか要らねぇよ!その時点で間違ってるからな!?」
 夢見る少女の瞳。しかし発せられた言葉は淫行。想像以上にロクでも無かった。

「じゃあ、どうすればいいのだ」
「どうもこうも無い。帰れ。帰ってくれ。頼むから」
 もはや涙目で立ち去ろうとする零一。そして彼を引き留めようと声をかけるありす。
「どうしても、だめなのか?」
「どうしても駄目だ。俺は警察に捕まりたくなんか無い」
 そう伝え、零一は伝票を摘み、レジへと歩き出す。
「仕方がない。さいごのしゅだんだ」
「…最後の、手段、だと」
 嫌な予感がする。違う、嫌な予感しかしない。

「たいへんだ。たいへんなロリコ――むぐっ」
 危険な発言をする前にアリスの口を手でふさぐ。
 二人の距離は数メートル程離れていたはずだったが、零一がありすに近づいた姿を視認出来たものは皆無だった。まさに神速、まさに神業。
「わかった!メアドだけなら交換してやる。だから黙れ、黙れ。な?」
もしかしたら俺はこの少女から逃げられないのかもしれない。と、本気で不安になる零一。

もちろん、彼の不安は的中する。

それも、常識を超えた形で。
真面目に幼女萌えを目指しています。


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