サイバー戦争は始まっている スタックスネットの衝撃〈3〉

このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - サイバー戦争は始まっている スタックスネットの衝撃〈3〉
Share on Facebook

 イラン中部の町、ナタンズ。人々が暮らす地域から離れた山間部に低濃縮ウランを製造している核燃料施設がある。ISIS(科学国際安全保障研究所)がIAEA(国際原子力機関)のレポートとして明らかにしたところによると、同施設では2009年末から2010年にかけて約1000基の遠心分離機が取り換えられたり、撤去されたという。ISISはスタックスネットによる攻撃が原因との見方を示している。

イラン中部にあるナタンズ=globalsecurity.orgより

 ISISによれば2010年11月中旬には一時的にナタンズのすべての遠心分離機の稼働が停止した。ISISはこの稼働停止の原因についても、スタックスネットの攻撃によるものか、スタックスネットを駆除するためとの見方を示している。スタックスネットはイラン国内のパソコンから発見された。インターネットセキュリティー企業のシマンテックが2010年7月に発表したレポートによれば、スタックスネットはマレーシアにホストを置くコマンド&コントローラー(C&C)サーバーに接続を試みる。72時間にわたってC&Cサーバーを監視したところ、スタックスネットに感染したコンピューターから接続を試みる14000近くのIPアドレスを確認した。そのIPアドレスを国ごとに分けてみるとイランが58.58%と断トツに多く、次いでインドネシアの18.22%、さらにインドの8.31%だった。つまりスタックスネットに感染したコンピューターの多くはイランにあることを裏付けたのだ。シーメンス社のWinCCを使い高速に動作する特定の企業の周波数変換ドライプを備えたイラン国内の産業用制御システムと言えば原子力発電施設に他ならない。

スタックスネットによるサイバー攻撃を報じたイランの通信社ニュースサイト

 「電子戦争がイランに仕向けられている」―サイバー攻撃を受けていることをイラン鉱工業省の情報技術部幹部が認める発言をしたことをイランの通信社が報じたのは2010年9月下旬だった。記事では3万台の産業用コンピューターがマルウェアに感染したことも明らかにした。10月2日にはヘイダル・モスレヒ情報相が声明を発表、「ウィルスのネットワークを完全に把握しており、妨害活動は阻止されるだろう」などと述べ、核開発をめぐり複数のスパイを逮捕していることも明らかにした。一方、Jamejam紙によれば、イランはスタックスネットを拡散させた人物も特定しているという。同紙の報道によれば「一部は産業施設を行き来していた外国人専門家」だという。また、この問題に対応する作業グループが設置され必要な対策が講じられているという。イランはスタックスネットによるサイバー攻撃があったことを認める一方で、スタックスネットがイランの原発に技術的に大きな問題を引き起こしてはいないと強調している。

 イランでは2010年8月21日にイラン初の原子力発電所となるブシェール原発の燃料装着が開始された。ナタンズの核燃料施設で製造された低濃縮ウランを燃料にブシェール原発で原子力発電を行うのだ。iran japanese Radioによれば、燃料装着は2010年12月に終了、1000メガワットの発電量に向けて6カ月から9カ月間は発電量40%で稼働し、その後次第に発電量を75%から100%まで増加していくという。ブシェール原発は1974年にイラン原子力庁が設置されてドイツと建設契約が結ばれて着工したが、イスラム革命、イラン・イラク戦争で計画は大きく後退。1995年にロシアの協力で建設が再開され、その後もプロジェクトの遅延が繰り返されたものの2009年に試運転を実施し、いよいよ稼働の段階に入りつつある。イランが自国の技術の優位性を強調するのはブシェール原発に国家の威信がかかっているからだろう。ところが建設に協力してきたロシア専門家の見解は違っていた。「スタックスネットによってブシェール原発のコンピューターシステムに広範囲な被害が出ている」―原発を稼働させることへの懸念が表明されたのだ。(続く)

■サイバー戦争は始まっている? スタックスネットの衝撃〈2〉
■サイバー戦争は始まっている? スタックスネットの衝撃〈1〉

カテゴリー: インターネット, エネルギー, サイバー戦争は始まっている, ハイテク犯罪, ユビキタス社会, 原子力発電, 外交・国際, 特集   タグ:   この投稿のパーマリンク

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">